説明

貯水池における漏出箇所特定方法

【課題】優先的に止水体策を行う部分の特定に当たり、調査ボーリング孔によらず、貯水池からの漏出箇所を広範囲にかつ簡単に調査できるようにする。
【解決手段】貯水池からの漏出箇所の特定は、細粒材4を貯水池1に投入する第1ステップと、貯水池1内の水を撹拌処理することにより投入した細粒材4を拡散させる第2ステップと、拡散した細粒材4を自然沈降させて堆積層6を形成し、貯水池1の水及び細粒材4が漏出箇所に吸い込まれることにより前記堆積層6に形成されるクレーター状の窪み7の位置を調査する第3ステップとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム湖や調整池等の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためにグラウチングを行うに当たって、事前に貯水池の水が浸透流出する箇所を特定するための漏出箇所特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダム湖や調整池等の貯水池から水が地盤中に漏出するのを防止するために、地山の開口割目にグラウト材を注入するグラウチング工法が知られている。このグラウチング工法は、地盤に複数のボーリング孔を配置し、このボーリング孔から地山にセメント系グラウト材、ケミカル系グラウト材などのグラウト材を注入して遮水層を形成するものである。
【0003】
上記グラウチングに当たっては、大きな浸透経路となる地山の開口割目は局所的に散在していることが多いため、グラウチングを貯水池全体に亘って網羅的に行うのは膨大な時間と工費を要し効率が悪かった。
【0004】
そこで事前に、貯水池から漏出する箇所を特定する調査が行われている。漏出箇所の特定調査は、例えば調査ボーリングを貯水池の汀線に沿って所定間隔で形成し、ボーリングコアを目視で確認したり、これらの調査孔内でルジオンテストを実施し、漏出箇所の特定を行ったり、前記ボーリング孔を利用した地下水検層などが多く行われている。前記地下水検層は、孔内探査法の1つで、よく洗浄したボーリング孔に電解質を投入し攪拌するか、孔内水を電解質溶液(食塩水等)で置き換え、地下水が孔内に流入し流出することによって、投入した電解質溶液が希釈されると濃度が小さくなるため、電気抵抗が大きくなる性質を利用し、各深度で電気抵抗を継続的に測定して希釈の状態を検知し漏出箇所の特定を行うものである。
【0005】
近年では、下記特許文献1に記載されるように、所定の距離をおいた位置において地盤表面から内部に向かって第1及び第2のボーリング孔を設け、注水された前記第1のボーリング孔に挿入配置した通電用の第1の電極と前記第2のボーリング孔に挿入配置した通電用の第2の電極との間に交流電源を接続し、前記第1の電極にはその上下両側の位置に電位差測定用の第3及び第4の電極を組み合わせると共に、前記第1の電極と前記第3の電極との間及び前記第1の電極と前記第4の電極との間にはそれぞれ、電気分解によりイオンが発生しやすい金属を用いた第5及び第6の電極を組み合わせ、はじめに前記交流電源による前記第1及び前記第2の電極への通電のみを行って、前記第3及び前記第4の電極の間に生ずる電位バランスの測定により漏水箇所と思われる位置の特定作業を行い、漏水箇所と思われる位置が特定されると、今度は前記第5及び前記第6の電極の間に別の交流電源により通電を行ってボーリング孔内にイオンを発生させ、その結果前記第3及び前記第4の電極の間に生ずる電位バランスの測定により漏水箇所であるかどうかの判定を行うボーリング孔漏水位置測定方法なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−222377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ボーリング調査孔内でルジオンテストを行う方法の場合や地下水検層の場合は、多数のボーリング調査孔を必要とするためのボーリング工事に多大な費用を要するととともに、各調査孔毎に試験を行う必要があるため、多くの人手と時間を要するなどの問題があった。また、上記特許文献1に係る漏水位置測定方法も同様の問題があった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、優先的に止水対策を行う部分の特定に当たり、調査ボーリング孔によらず、貯水池からの漏出箇所を広範囲にかつ簡単に調査できるようにした貯水池における漏出箇所特定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、貯水池の水が地盤の開口割目から浸透流出する箇所を特定するための漏出箇所特定方法であって、
貯水池からの漏出箇所の特定は、細粒材を貯水池に投入する第1ステップと、貯水池内の水を撹拌処理することにより投入した細粒材を拡散させる第2ステップと、拡散した細粒材を自然沈降させて堆積層を形成し、貯水池の水及び細粒材が漏出箇所に吸い込まれることにより前記堆積層に形成されるクレーター状の窪みの位置を調査する第3ステップとからなることを特徴とする貯水池における漏出箇所特定方法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明は、局所的に散在する開口割目の位置を特定する手段として、調査孔を形成し地山内での浸透水の状態に着目するのではなく、貯水池の底に存在する開口割目から貯水池の水が吸い込まれることに着目したものである。
【0011】
具体的な漏出箇所の特定手順は、細粒材を貯水池に投入する第1ステップと、貯水池内の水を撹拌処理することにより投入した細粒材を拡散させる第2ステップと、拡散した細粒材を自然沈降させて堆積層を形成し、貯水池の水及び細粒材が漏出箇所に吸い込まれることにより前記堆積層に形成されるクレーター状の窪みの位置を例えば潜水士が調査する第3ステップとからなる。この調査方法によれば、調査ボーリングを行うことなく、貯水池を広範囲にかつ簡単に調査できるようになる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記細粒材は、ベントナイト、鹿沼土又は赤土のいずれかである請求項1記載の貯水池における漏出箇所特定方法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明では、前記細粒材として、ベントナイト、鹿沼土又は赤土のいずれかを用いることにより、クレーター状の窪みを形成し易くし、目視などによる観察が容易になる。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記撹拌処理はエアレーションにより行う請求項1〜2いずれかに記載の貯水池における漏出箇所特定方法が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明では、貯水池内に投入した細粒材の撹拌処理をコンプレッサで圧縮空気を送給するエアレーションで行うことにより、細粒材を空気の上昇流に乗せてより広範囲に均等に拡散することができるようになる。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記堆積層は5〜40cmの厚さで形成する請求項1〜3いずれかに記載の貯水池における漏出箇所特定方法が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、前記細粒材を自然沈降させた堆積層を5〜40cmの厚さで形成することにより、貯水池の底を十分均等に敷き均すことができ、前記クレーター状の窪みの特定が容易となる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、優先的に止水対策を行う部分の特定に当たり、調査ボーリング孔によらず、貯水池からの漏出箇所を広範囲にかつ簡単に調査できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】吸い込み箇所2の特定手順を示す工程図である。
【図2】粒径加積曲線の例(ベントナイト、鹿沼土)である。
【図3】エアレーションの実施要領を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。なお、本実施形態では、貯水池の止水対策として代表的にグラウチングを例にとり説明する。
【0021】
本発明に係る貯水池における漏出箇所特定方法は、図1(A)に示されるように、ダム湖や調整池等の貯水池1の水が地山の開口割目2を通じて浸透流出するのを防止するためにグラウチングによる止水を行うに当たり、事前に貯水池1の水が地山の開口割目2に吸い込まれる吸い込み箇所3を特定し、この吸い込み箇所3が形成された範囲のグラウチングを他の範囲のグラウチングに優先して行うことによって、効率的に貯水池1からの漏出を抑制するようにしたものである。
【0022】
本発明では、貯水池1の周囲に局所的に散在している地山の開口割目2の位置(吸い込み箇所3)を特定するための手段として、人為的に堆積層6を形成すると、堆積層6の細粒材4が地山の開口割目2から吸い込まれ、クレーター状の窪み7が形成されることに着目したものである。
【0023】
以下、具体的に前記漏出箇所の特定手順について、図1に基づいて説明する。
【0024】
先ず、第1ステップとして、図1(B)に示されるように、所定の粒度分布を有する所定の細粒材4を、ヘリコプターなどにより上空から又は船上から貯水池1に投入する。
【0025】
前記細粒材4は、後段で詳述するクレーター状の窪み7を形成し易くして目視などによる特定を容易にするため、ベントナイト、鹿沼土又は赤土のいずれかであることが好ましいが、この他に前記吸い込み箇所3に吸い込まれる程度の細粒分を含む材料であれば適用可能である。ただし、粒径が細かすぎると撹拌処理後の沈降に長時間を要する場合がある。また、潜水士が潜った際の水流の影響などにより細粒材が流動し、水がにごって窪みを発見しにくくなる場合がある。
【0026】
また、前記細粒材4は、粒度構成を定量的に示すと、次式(1)で表される均等係数Ucが2〜15である粒度分布を有するものを使用することができる。この範囲の粒度分布を有する細粒材4を使用することにより、後段で詳述する細粒材4の堆積層6に対し明瞭なクレーター状の窪み7が形成され、吸い込み箇所3の特定(目視確認)が容易となる。
【0027】
=D60/D10 ・・・・・(1)
ここで、D10:粒径加積曲線上において加積通過率10%に相当する粒径
60:粒径加積曲線上において加積通過率60%に相当する粒径
なお、前記均等係数Uは、粒度分布の良い土(大きい粒径と小さい粒径との差が大きいもの)ほど値が大きくなり、粒度分布の悪い土(大きい粒径と小さい粒径との差が小さいもの)ほど値が小さくなる。また、粒径加積曲線とは、例えば図2に示されるように、横軸に粒径をとり、縦軸にある粒径より小さい粒子の重量百分率(加積通過率)をとってプロットした曲線であり、図中にはベントナイトと鹿沼土との数例を示してある。
【0028】
前記細粒材4は、貯水池1を複数のエリアに区分したときに、各エリア毎にそのエリアの面積に応じた必要な所要量を投入することが好ましい。前記細粒材4の投入量は、後段で詳述するように細粒材4を拡散後沈降堆積させた堆積層6の厚さT(図1(E)参照)が5〜40cmとなるような量とすることが好ましい。これにより、この堆積層6によって池底の凹凸が均され、後述の堆積層6に形成される窪み7が識別し易くなる。
【0029】
次に、第2ステップとして、図1(C)及び(D)に示されるように、投入された細粒材4はその場所にそのまま沈降堆積するため、この沈降堆積した細粒材4を拡散させることを目的として、撹拌処理装置5により貯水池1内を撹拌処理する。
【0030】
前記撹拌処理としては、図3に示されるように、貯水池1内に圧縮空気を送給するエアレーションにより行うことが好ましい。このエアレーションによる撹拌処理装置5としては、作業船8にコンプレッサ9とこの圧縮空気を水中に送給するエアーホース10と前記エアーホース10を巻き上げるためのウインチ11とを備え、前記エアーホース10の先端部にアンカー12が取り付けられたものを使用することができる。この装置による撹拌処理手順としては、細粒材4の投入地点に作業船8を移動させるとともに、この投入地点に沈降堆積した細粒材4の内部又はその近傍に前記エアーホース10の先端部を配置し、前記アンカー12によって池底近傍に固定した状態で、コンプレッサ9から圧縮空気を送給する。この圧縮空気によって貯水池1内の水が撹拌され、沈降堆積した細粒材4が拡散されるようになる。ここで、圧縮空気を送給することにより、細粒材4が空気の上昇流に乗って上昇しやすくなるため、より広い範囲に均等に拡散するようになる。
【0031】
なお、前記撹拌処理装置5としては、ポンプにより圧縮水を送水するものや、回転翼などを備えた攪拌機を投入するものなど、公知の撹拌手段を採用することもできる。
【0032】
その後、第3ステップとして、図1(E)に示されるように、拡散させた前記細粒材4を自然沈降させ、貯水池1の底に細粒材4の堆積層6を形成する。このとき堆積層6には、吸い込み箇所3に対して、細粒材4が貯水池1の水とともに吸い込み箇所3に吸い込まれることによりクレーター状の窪み7が形成される。ここで、細粒材4として均等係数Uが2〜15である粒度分布のものを使用するとともに、この細粒材4を投入後拡散させる撹拌処理を行っているため、堆積層6の表面がほぼ均等に敷き均されるようになる。このように敷き均された堆積層6において、前記窪み7は、潜水士による水中からの目視観察や船上からの観察などでも広範囲を簡単に特定可能となる。水深が浅い場合や水の透明度が高い場合には、陸上からの観察でも特定可能となる場合がある。この結果、この吸い込み箇所3が形成された範囲のグラウチングを優先的に行うことができるようになる。
【0033】
ところで、前記グラウチング工法としては、前述したように、地盤に複数のボーリング孔を配置し、このボーリング孔から地山にセメント系グラウト材、ケミカル系グラウト材などのグラウト材を注入して遮水層を形成する公知の工法を採用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…貯水池、2…地山の開口割目、3…吸い込み箇所、4…細粒材、5…撹拌処理装置、6…堆積層、7…窪み、8…作業船、9…コンプレッサ、10…エアーホース、11…ウインチ、12…アンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水池の水が地盤の開口割目から浸透流出する箇所を特定するための漏出箇所特定方法であって、
貯水池からの漏出箇所の特定は、細粒材を貯水池に投入する第1ステップと、貯水池内の水を撹拌処理することにより投入した細粒材を拡散させる第2ステップと、拡散した細粒材を自然沈降させて堆積層を形成し、貯水池の水及び細粒材が漏出箇所に吸い込まれることにより前記堆積層に形成されるクレーター状の窪みの位置を調査する第3ステップとからなることを特徴とする貯水池における漏出箇所特定方法。
【請求項2】
前記細粒材は、ベントナイト、鹿沼土又は赤土のいずれかである請求項1記載の貯水池における漏出箇所特定方法。
【請求項3】
前記撹拌処理はエアレーションにより行う請求項1〜2いずれかに記載の貯水池における漏出箇所特定方法。
【請求項4】
前記堆積層は5〜40cmの厚さで形成する請求項1〜3いずれかに記載の貯水池における漏出箇所特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−37297(P2012−37297A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175896(P2010−175896)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】