説明

貯炭サイロにおける自然発火防止方法

【課題】貯炭サイロにおいて、設備コストを過度に上昇させることなく、過度の加湿による石炭の発熱量や石炭のハンドリング性の低下を防止しつつ、確実に自然発火を防止しうる自然発火防止方法を提供する。
【解決手段】石炭運搬船1の複数の船倉6からアンローダ2で石炭を荷揚げし、ベルトコンベア3上でこの石炭に必要に応じて散水装置4により加湿した後、直ちに貯炭サイロ5に装入して貯蔵するに際し、航海(輸送)中における最高メタン濃度が所定濃度(例えば30%LEL)を超えた船倉6A,6C,6E内の石炭につき、その荷揚げ速度の低下および加湿量の増加のいずれかまたは双方の対策を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所、石炭ガス化プラント、微粉炭吹込み高炉など大量の石炭を使用する設備に併設された貯炭サイロにおける自然発火防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭を貯炭サイロ(以下、単に「サイロ」ともいう。)内に貯蔵していると石炭がサイロ内への侵入空気により酸化して発熱し、自然発火を起こすおそれがある。このような自然発火が発生すると大きな火災事故につながる場合があり、また被害が軽微な場合でも石炭が変質して使用できなくなることが多い。そこで、自然発火を防止するため、従来技術として以下のような方法が提案ないし実施されている。
【0003】
(1)サイロ上部空間内に設置した湿度計で湿度を測定し、この湿度を所定値に保持する ように、サイロ内へ散水、水噴霧、蒸気吹込みなどを行う方法(特許文献1,2参 照)。
(2)サイロ上部空間内にそれぞれ複数の検温センサーと散水ノズルとを格子状に設置し 、異常昇温を検知した部位に集中的に散水を行う方法(特許文献3参照)。
(3)サイロに、電磁波を用いた水分検出器と複数個の散水口とを設け、水分検出器で石 炭の水分分布状態を常時測定し、乾燥部分が検出されたとき、その乾燥部分の上方 の散水口から集中的に散水を行う方法(特許文献4参照)。
(4)サイロ内に異常昇温を検出したとき、石炭をいったんサイロ外に払い出して冷却し たのち、再度サイロに装入する方法。
(5)サイロへの装入前に、あらかじめ石炭に散水しておく方法。
【0004】
しかしながら、上記(1)の方法は、石炭層が局部的に乾燥した場合であっても、石炭層全体に一律に散水等を行うので、必要以上の水を使うことになり、石炭の発熱量が低下したり、石炭の切出し等が困難になったりする問題がある。
【0005】
また、上記(2)および(3)の方法は、乾燥部分に集中的に散水を行うので、上記(1)の方法の問題点は解消されうるが、現象がある程度進んでから対処する方法であり、大型サイロのように応答性に劣る設備には不適当である。さらに、サイロ内に多くの計測器を設ける必要があり、設備コストが上昇する問題がある。
【0006】
また、上記(4)の方法は、既存の設備で行えるので設備コストを節約できる利点があるが、サイロからの払い出しおよび再度の装入の間は下流の設備に石炭を供給できず、稼働率が低下する問題がある。
【0007】
また、上記(5)の方法は、石炭をサイロへ装入した後は、計測や加湿等を不要とするので、設備コストを節約できる利点があるが、緊急時以外は基本的にサイロ内で加湿を行わないため、サイロ内の石炭層に乾燥部分が生じないよう、安全をみて多めに散水してから石炭をサイロに装入する必要がある。このため、上記(1)と同様に必要以上の水を使うことになり、石炭の発熱量が低下したり、石炭の切出し不良等ハンドリング性が悪化したりする問題がある。
【特許文献1】特開昭59−142981号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献2】特開昭58−188237号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献3】特開平7−61546号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献4】特公平2−58165号公報(特許請求の範囲など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、貯炭サイロにおいて、設備コストを上昇させることなく、過度の加湿による石炭の発熱量や石炭のハンドリング性の低下を防止しつつ、確実に自然発火を防止しうる自然発火防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術(4)および(5)の方法で用いている、サイロ外での石炭の冷却および石炭への加湿という手段は簡便で設備コストを節約できる利点を有することから、これらの手段をうまく取り入れた新たな方法を開発することにより上記課題を解決できると考え、以下のような検討を行った。
【0010】
石炭運搬船は通常、複数の区分された船倉を有しており、これら船倉内で石炭が自然発火するのを防止するため、積み地で積み込み前に該石炭に散水して湿潤状態にしておくことが行われている。しかしながら、石炭は輸送中船倉内で時間の経過とともに、その粒度分布や空気流路等の局所的特性に応じて酸化発熱反応が進行して乾燥部分が発生し自然発火に至ることがある。このため、石炭の乾燥状態を検知する一手段として各船倉内のメタン濃度を監視し、メタン濃度が許容値を超えたときは、当該船倉内に不活性ガスを導入したり、散水を行ったりして自然発火を防止している。
【0011】
ところで、上記従来技術(5)の方法では、輸送中における船倉ごとのメタン濃度の高低に関わらず、全船倉から荷揚げされた石炭に対し区別することなく一律に加湿を行い、貯炭サイロに装入していた。
【0012】
このように、輸送中における船倉ごとのメタン濃度に関わらず、全船倉から荷揚げされた石炭に対して一律に加湿を行うと、どうしても安全をみて多めに加湿を行うことになり、石炭の発熱量の低下やハンドリング性の悪化を招くことになってしまう。かといって、石炭の発熱量やハンドリング性を維持しようとして加湿量を節約すると、高いメタン濃度が検知された船倉から荷揚げされた石炭は、加湿が不十分となり、所要の貯蔵日数経過前にサイロ内で乾燥部分が発生してしまい、ひどい場合には自然発火に至ってしまうと考えられる。
【0013】
そこで、まず本発明者らは、輸送中における船倉内のメタン濃度とサイロ内における石炭の乾燥進行度合いとの関係を明らかにするため、以下の実験を実施した。すなわち、事前に、輸送中における船倉ごとの最高メタン濃度の情報を入手し、荷揚げ時に、最高メタン濃度が20%LEL(爆発下限界)を超えた船倉から荷揚げされた石炭を一つのサイロに、同濃度が20%LEL以下であった船倉から荷揚げされた石炭を別のサイロに分けて、別々に貯蔵し、それぞれのサイロ内の石炭層の温度変化を調査した。なお、いずれの石炭に対しても荷揚げ後サイロへの装入前に加湿を行わなかった。図4に示す測定結果の比較から明らかなように、高いメタン濃度が検知された船倉から荷揚げされた石炭は、低いメタン濃度が検知された船倉から荷揚げされた石炭に比べ、サイロ内の石炭層の温度は、サイロへの装入時点においてすでに高く、かつ、昇温速度も著しく大きい。したがって、高いメタン濃度が検知された船倉に保持されていた石炭は、荷揚げ時にすでに乾燥が相当程度進行しており、サイロ内において短期間で自然発火に至る可能性が高いことが判明した。
【0014】
なお、荷揚げ時における各船倉内の石炭の乾燥状態は、各船倉から荷揚げする際ごとにサンプルを採取して水分分析を行うことによって把握することも理論上は可能である。しかしながら、現状、全船倉から荷揚げした石炭全体を一括して平均値として水分分析を行っているのに対し、各船倉から荷揚げした石炭ごとに水分分析するとなると、サンプル数が一挙に数倍に増加し、縮分操作や分析の手間が過大となるうえ、分析結果が得られるまでにこれまで以上に長期間を要することになるため、その分析結果に基づいてサイロへの装入前に対策を行うことは、実際上不可能である。
【0015】
そこで、本発明者らは、上記知見等に基づき、事前に入手した航海時(輸送時)における各船倉内のメタン濃度の情報に基づいて荷揚げ時における各船倉内の石炭の乾燥状態を把握し、乾燥が相当程度進行している石炭にのみ貯炭サイロへの装入前に所要の対策を施すことが最も有効かつ現実的と判断し、本発明を完成するに至った。
【0016】
請求項1に記載の発明は、石炭運搬船の複数の船倉から石炭を荷揚げし、この石炭に必要に応じて加湿した後、直ちに貯炭サイロに装入して貯蔵するに際し、輸送中における各船倉内の最高メタン濃度に応じて、各船倉内の石炭ごとに、その荷揚げ速度および加湿量のいずれかまたは双方を調整することを特徴とする貯炭サイロにおける自然発火防止方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、石炭運搬船の複数の船倉から石炭を荷揚げし、この石炭に必要に応じて加湿した後、直ちに貯炭サイロに装入して貯蔵するに際し、輸送中における最高メタン濃度が所定濃度を超えた船倉内の石炭につき、その荷揚げ速度の低下および加湿量の増加のいずれかまたは双方の対策を行うことを特徴とする貯炭サイロにおける自然発火防止方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、石炭運搬船から荷揚げされ、必要に応じて加湿された後、直ちに貯炭サイロに貯蔵される石炭の自然発火を防止する装置であって、以下の(a)および/または(b)の装置を備えたことを特徴とする貯炭サイロにおける自然発火防止装置である。
(a)輸送中における石炭運搬船の各船倉内の最高メタン濃度に基づいて前記石炭の荷揚げ速度を演算する荷揚げ速度演算手段と、前記荷揚げ速度で前記石炭を前記貯炭サイロへ搬送する搬送手段とを備えた石炭搬送装置
(b)輸送中における石炭運搬船の各船倉内の最高メタン濃度に基づいて前記石炭の加湿量を演算する加湿量演算手段と、前記加湿量の水分を供給する水分供給手段とを備えた石炭加湿装置
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、石炭の荷揚げ速度およびサイロ外での加湿量のいずれかまたは双方を調整するだけでよいので、既存の設備のみで対処可能であり、設備コストを上昇させることがない。さらに、石炭への加湿が必要な場合でも、船倉ごとの最高メタン濃度の情報に応じて、必要な石炭にのみ加湿を行うので、過度の加湿を防止でき、石炭の発熱量や石炭のハンドリング性を維持しつつ、確実に自然発火を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
〔実施形態〕
実施形態の一例を図1に示す。同図(a)に示すように、海外等の積み地から石炭運搬船1で海上輸送されてきた石炭は、揚げ地でアンローダ2により荷揚げされ、必要に応じてベルトコンベア(搬送手段)3上で散水装置(水分供給手段)4にて加湿されたのち、直ちに貯炭サイロ5に装入され貯蔵される。
【0022】
図1(b)に示すように、石炭運搬船1は複数に区分された船倉(「ホールド」ともいう。)6を有しており(本例では6A〜6Fの6ホールド)、ホールド6ごとにメタン濃度を測定するガス検知器(図示せず)が備えられている。そして、航海中(輸送中)、各ホールド6内のメタン濃度が定期的に測定され、各ホールド6内における最高メタン濃度の値が揚げ地に報告される。
【0023】
航海中における各ホールド6内の最高メタン濃度の値の報告を受けた揚げ地では、最高メタン濃度が所定濃度(例えば30%LEL(爆発下限界))を超えたホールド6(図1では6A、6C、6E)内に保持されていた石炭(以下、「高メタン濃度石炭」という。)に対して、最高メタン濃度が所定濃度(30%LEL)以下のホールド6(図1では6B、6D、6F)内に保持されていた石炭(以下、「低メタン濃度石炭」という。)より、荷揚げ速度を下げて荷揚げするとともに、散水量(加湿量)を増やして散水する。なお、上記高メタン濃度石炭に対する加湿量の増加には、低メタン濃度石炭には加湿を行わずに、高メタン濃度石炭にのみ加湿を行うことも含まれる。そして、上記対策を施した高メタン濃度石炭は、低メタン濃度石炭と同じサイロ5に装入する。
【0024】
ここで、上記所定濃度としては、船倉内におけるメタン濃度の警報上限値である30%LEL(爆発下限界)を例示したが、サイロ5内に通常より長期に貯蔵する必要がある場合等さらに自然発火が生じやすい場合は、上記所定濃度を20%LEL、さらには10%LELのように、より低い値に設定してもよい。
【0025】
また、高メタン濃度石炭に対する荷揚げ速度の低下の度合いおよび散水量(加湿量)の増加の度合いは、例えば以下のようにして決定することができる。
【0026】
すなわち、荷揚げ速度の低下の度合いについては、事前に、高メタン濃度石炭に対して荷揚げ速度を種々変更してサイロ5に装入し、サイロ5内における石炭層の初期温度および昇温速度を測定する実験を行う。そして、この初期温度および昇温速度が、低メタン濃度石炭を通常の荷揚げ速度で荷揚げしてサイロ5に装入して形成される石炭層の初期温度および昇温速度と同程度となるような荷揚げ速度を求め、これより荷揚げ速度の低下の度合いを決定することができる。
【0027】
散水量(加湿量)の低下の度合いについても、上記荷揚げ速度と同様に、事前に、高メタン濃度石炭に対して散水量(加湿量)を種々変更してサイロ5に装入し、サイロ5内の石炭層の初期温度および昇温速度の変化を測定する実験を行う。そして、この初期温度および昇温速度が、低メタン濃度石炭を通常の散水量(加湿量)で加湿してからサイロ5に装入して形成される石炭層の昇温速度と同程度となるような散水量(加湿量)を求め、これより散水量(加湿量)の増加の度合いを決定することができる。
【0028】
荷揚げ速度の調整は、荷揚げ速度演算手段(図示せず)と搬送手段(ベルトコンベア3)とを備えた石炭搬送装置で行えばよい。荷揚げ速度演算手段は、各船倉内の最高メタン濃度が入力されると上記実験で求めた関係式に基づいて荷揚げ速度を演算するように構成する。そして、搬送手段(ベルトコンベア3)は、荷揚げ速度演算手段で演算された荷揚げ速度に相当する搬送速度となるように変速機にて調整するように構成すればよい。
【0029】
また、散水量(加湿量)の調整は、加湿量演算手段(図示せず)と水分供給手段(散水装置4)とを備えた石炭加湿装置で行えばよい。加湿量演算手段は、各船倉内の最高メタン濃度が入力されると上記実験で求めた関係式に基づいて加湿量を演算するように構成する。そして、水分供給手段(散水装置4)は、加湿量演算手段で演算された加湿量に相当する水分量を、流量調節弁にて調節し供給するように構成すればよい。なお、上記荷揚げ速度演算手段および加湿量演算手段は、既存のプロセスコンピュータなどを用いて容易に構成することができる。
【0030】
上記のように、石炭の荷揚げ速度およびベルトコンベア3上での加湿量を調整するだけでよいので、アンローダ2や散水装置4、プロセスコンピュータなど既存の設備のみで対処可能であり、新たな装置を必要としないので、設備コストを上昇させることがない。さらに、石炭への加湿が必要な場合でも、ホールド(船倉)ごとの最高メタン濃度の情報に応じて、真に必要な石炭にのみ加湿を行うので、必要最小限の加湿量で確実に乾燥を防止できる。この結果、石炭の発熱量が過度に低下したり、切出し等のハンドリングが困難になったりすることなく、確実に自然発火を防止できる。
【0031】
(変形例)
上記実施形態では、高メタン濃度石炭と低メタン濃度石炭とを区別せずに同じサイロに貯蔵する例を示したが、高メタン濃度石炭と低メタン濃度石炭とを別々のサイロに分けて貯蔵するようにしてもよい。この場合、高メタン濃度石炭を貯蔵したサイロから先に使用するようにすれば、高メタン濃度石炭の荷揚げ速度の低下幅や加湿量の増加幅を少なくしても自然発火を防止でき、荷揚げ時間の短縮やさらなる加質量の低減効果が得られるので、より好ましい。
【0032】
また、上記実施形態では、高メタン濃度石炭に対し、荷揚げ速度の低下と加湿量の増加の双方の対策を同時に実施する例を示したが、いずれか一方の対策のみ実施してもよい。特に、上記のように、高メタン濃度石炭と低メタン濃度石炭とを別のサイロに分けて貯蔵する場合は、高メタン濃度石炭を優先的に使用できるので、必ずしも双方の対策を同時に取る必要はない。
【0033】
また、上記実施形態では、高メタン濃度石炭に対する対策実施の閾値である所定濃度として、1つの値(本例では30%LEL)のみを用いる例を示したが、複数の値を用いてもよい。所定濃度として例えば20%LELと30%LELの2つの値を用い、20%LEL超え30%LEL以下のサイロ内の石炭と、30%LEL超えのサイロ内の石炭とに対しては、異なる荷揚げ速度および/または異なる加湿量を適用するようにしてもよい。あるいは、前者の石炭に対しては、荷揚げ速度の低下と加湿量の増加のいずれか一方の対策のみを行い、後者の石炭に対しては、双方の対策を同時に行うようにしてもよい。
【実施例1】
【0034】
本発明方法適用の効果を把握するため、石炭火力発電所に併設された12基の貯炭サイロ(1基当りの貯蔵容量3万トン)に、石炭運搬船(輸送能力6〜8.8万トン、船倉数6〜7)から荷揚げした石炭(KP炭)を貯蔵する場合において、以下のような実験を実施した。
【0035】
まず、本実施例では、高メタン濃度石炭に対し、加湿量の増加のみの対策を実施した場合についての効果の確認を行った。
【0036】
すなわち、荷揚げ速度は、各船倉内のメタン濃度の高低に関わらず、通常の荷揚げ速度である3000t/h一定とした。そして、最高メタン濃度が30%LEL以下の船倉の石炭(低メタン濃度石炭)と、30%LELを超えた船倉の石炭(高メタン濃度石炭)とに分け、低濃度メタン石炭に対しては加湿を行わずに、そのまま第1のサイロに貯蔵した。高メタン濃度石炭は、さらに2つに分け、その一方の石炭に対しては加湿を行わずに、そのまま第2のサイロに貯蔵し、他方の石炭に対しては、ベルトコンベア上で石炭水分量0.4質量%相当の散水を行って加湿した後、第3のサイロに貯蔵した。なお、第1〜第3の各サイロ内の石炭の貯蔵量は同じとした。そして、第1〜第3の各サイロ内の石炭層の温度変化を測定した。
【0037】
図2に各サイロ内の石炭層の温度変化を比較して示す。同図に示すように、高濃度石炭を、低メタン濃度石炭と同一の荷揚げ速度で、かつ低メタン濃度石炭と同じく加湿も行わないでサイロに貯蔵すると、石炭層の温度上昇速度が明らかに大きくなっている。これに対し、低メタン濃度石炭と同一の荷揚げ速度であっても、高メタン濃度石炭に加湿を行ってサイロに貯蔵すると、石炭層の温度上昇速度は、加湿を行わない低メタン濃度石炭とほぼ同程度に抑制されることがわかる。
【実施例2】
【0038】
つぎに、上記実施例1と異なり、本実施例では、高メタン濃度石炭に対し、荷揚げ速度の低下のみの対策を実施した場合についての効果の確認を行った。なお、本実施例では、石炭銘柄は実施例1と同じKP炭を用いたが、実施例1と入港時期が異なる石炭運搬船から荷揚げした石炭を用いた。
【0039】
すなわち、各船倉内のメタン濃度の高低に関わらず、いずれの船倉の石炭に対しても荷揚げ後サイロ装入前には加湿を行わなかった。そして、上記実施例1と同様に、最高メタン濃度が30%LEL以下の船倉の石炭(低メタン濃度石炭)と、30%LELを超えた船倉の石炭(高メタン濃度石炭)とに分け、低濃度メタン石炭は、通常の荷揚げ速度3000t/hで荷揚げして第1のサイロに貯蔵した。高メタン濃度石炭は、さらに2つに分け、その一方の石炭は、低濃度メタン石炭と同じ通常の荷揚げ速度3000t/hで荷揚げして第2のサイロに貯蔵し、他方の石炭は、荷揚げ速度を1500t/hに半減させて荷揚げし、第3のサイロに貯蔵した。なお、第1〜第3の各サイロ内の石炭の貯蔵量は実施例1と同様、同じとした。そして、第1〜第3の各サイロ内の石炭層の温度変化を測定した。
【0040】
図3に各サイロ内の石炭層の温度変化を比較して示す。同図に示すように、高濃度石炭を、低メタン濃度石炭と同じく加湿を行わず、かつ低メタン濃度石炭と同一の荷揚げ速度で荷揚げしてサイロに貯蔵すると、石炭層の温度上昇速度が明らかに大きくなっている。これに対し、低メタン濃度石炭と同じく加湿を行わない場合であっても、高メタン濃度石炭の荷揚げ速度を通常より低下させてサイロに貯蔵すると、石炭層の温度上昇速度は、通常の荷揚げ速度で荷揚げされた低メタン濃度石炭とほぼ同程度に抑制されることがわかる。
【実施例3】
【0041】
上記実施例1および2の実験結果より本発明方法の効果が確認できたので、実操業において上記貯炭サイロに対し本発明方法の適用を行った。
【0042】
すなわち、高メタン濃度石炭に対して対策を実施する閾値である上記所定濃度としては30%LELを採用し、高メタン濃度石炭に対する対策としては、石炭銘柄や荷役スケジュール等を総合的に勘案しつつ、荷揚げ速度の低下および加湿量の増加のいずれかまたは双方の対策を適宜選択するようにした。
【0043】
このようにして、石炭への加湿を必要とする場合でも、石炭運搬船の船倉ごとにきめ細かく分けて、真に対策の必要な石炭にのみ加湿量を増加するようにしたことにより、本サイロにおける平均の加湿量は、本発明適用前に比べ0.78質量%削減された。この結果、石炭中水分の蒸発に使用されていた熱量ロス分が有効に使用できるようになり、石炭の発熱量は平均で約4.5kcal/kg上昇した。
【0044】
また、過剰の加湿水分がカットされたことにより、後続の粉砕設備への搬送途中でのシュート詰りやホッパ内棚吊りなど石炭のハンドリング性悪化に起因する設備トラブルの発生頻度も、本発明適用前を100%とすると24%へと大幅に減少した。
【0045】
さらに、本発明適用後1年以上経過しているが、上記のように加湿量を削減しても、まったくサイロ内に乾燥状態を発生させることがなく、確実に自然発火を防止できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は本発明の実施に係る貯炭サイロにおける自然発火防止方法を説明するためのフロー図であり、(b)は石炭運搬船の複数の船倉内における最高メタン濃度の分布を模式的に示す縦断面図である。
【図2】実施例1における、貯炭サイロ内での貯蔵日数と石炭層の温度との関係を示すグラフ図である。
【図3】実施例2における、貯炭サイロ内での貯蔵日数と石炭層の温度との関係を示すグラフ図である。
【図4】高メタン濃度石炭と低メタン濃度石炭とを比較して、貯炭サイロ内での貯蔵日数と石炭層の温度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0047】
1…石炭運搬船
2…アンローダ
3…搬送手段(ベルトコンベア)
4…水分供給手段(散水装置)
5…貯炭サイロ
6…船倉(ホールド)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭運搬船の複数の船倉から石炭を荷揚げし、この石炭に必要に応じて加湿した後、直ちに貯炭サイロに装入して貯蔵するに際し、
輸送中における各船倉内の最高メタン濃度に応じて、各船倉内の石炭ごとに、その荷揚げ速度および加湿量のいずれかまたは双方を調整することを特徴とする貯炭サイロにおける自然発火防止方法。
【請求項2】
石炭運搬船の複数の船倉から石炭を荷揚げし、この石炭に必要に応じて加湿した後、直ちに貯炭サイロに装入して貯蔵するに際し、
輸送中における最高メタン濃度が所定濃度を超えた船倉内の石炭につき、その荷揚げ速度の低下および加湿量の増加のいずれかまたは双方の対策を行うことを特徴とする貯炭サイロにおける自然発火防止方法。
【請求項3】
石炭運搬船から荷揚げされ、必要に応じて加湿された後、直ちに貯炭サイロに貯蔵される石炭の自然発火を防止する装置であって、以下の(a)および/または(b)の装置を備えたことを特徴とする貯炭サイロにおける自然発火防止装置。
(a)輸送中における石炭運搬船の各船倉内の最高メタン濃度に基づいて前記石炭の荷揚げ速度を演算する荷揚げ速度演算手段と、前記荷揚げ速度で前記石炭を前記貯炭サイロへ搬送する搬送手段とを備えた石炭搬送装置
(b)輸送中における石炭運搬船の各船倉内の最高メタン濃度に基づいて前記石炭の加湿量を演算する加湿量演算手段と、前記加湿量の水分を供給する水分供給手段とを備えた石炭加湿装置




【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−321646(P2006−321646A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148518(P2005−148518)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(500156117)神鋼物流株式会社 (6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】