説明

貴金属コロイド内包ラメラ構造体、その分散液及びこれを含む化粧料並びにその分散液の製造方法

【課題】優れた保湿作用を有し、かつ、内包する貴金属コロイドの持つ生理作用、趣向性が付加され、安定な貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の提供。
【解決手段】脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体中に貴金属コロイドが包含されている貴金属コロイド内包ラメラ構造体、並びに(A)脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液を調製し、(B)該分散液に貴金属塩水溶液及び還元剤を添加し、(C)次いで、室温又は加温下で攪拌することを特徴とする貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属コロイドを内包したラメラ構造体、その分散液及びこれを含む化粧料並びにその分散液の製造方法に関し、具体的には、貴金属コロイドが内包された脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体、その分散液及びこれを含む化粧料並びにその分散液の製造方法に関する。更に、本発明は、貴金属コロイドを用いた脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧品分野においては、紫外線や加齢に伴うシワやくすみ等の皮膚の老化を改善する目的で、保湿作用を有する物質、例えば、多価アルコールや糖質、有機酸、アミノ酸、高分子物質等を配合することが一般的に行われている(非特許文献1参照)が、これら既存の保湿作用を有する物質については、その効果が十分に得られない場合や一定量以上配合すると商品価値を損なう場合があることが指摘されていることから、この代替物として、角質細胞間脂質やその類似物を使用する方法が報告されている(例えば特許文献1参照)。
この角質細胞間脂質は、生体皮膚内において、ラメラ構造を構成することによりバリヤー機能に寄与していると考えられていることから、リン脂質等を用いて人工的にラメラ構造体(「リポソーム」ともいう)を調製して、これを各種化粧品に利用する方法が提案されており、本発明者等もこれまでに、脂肪酸モノグリセリドを主構成分とするラメラ構造体を含む分散液に優れた保湿作用を有することを見出し、これを利用する技術について報告している(特許文献2)。
【0003】
また、本発明者等は、自らが報告している脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体と、肌荒れやシワの形成抑制作用に優れたビタミンAとを併用して、既存の保湿作用に新たな機能性を付加し、化粧品開発に利用できることを報告した(特許文献3)。
しかしながら、この脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体は、一般的なリン脂質等で構成されるラメラ構造体に比べ、分散液としての品質や保存安定性が極めて低いという特性を有していることから、これを改善する方法が求められており、これに関する技術についても本発明者等は報告している(特許文献4)。
【0004】
一方で、貴金属コロイドは、様々な分野でその利用が可能であり、中でも特に、金コロイドは、粒子の大きさによって赤紫色等、特異的に着色することが古くから知られ、ガラスや陶磁器の着色等に利用されてきた。また、金コロイドは、一般的に着色に用いられる色素等に比べて、安全性等に優れているとの報告があり、化粧品分野においても、商品の識別特性や趣向性を高めることを目的として、これを利用して着色する技術が多く報告されている。
このような技術としては、例えば、担体表面に金をコーティングした紫色顔料を配合した化粧料(特許文献5)、金超微粒子固定化酸化物を配合した化粧料(特許文献6)、界面活性剤又は水溶性高分子を吸着せしめた金コロイド水溶液を含有する化粧料(特許文献7)等を挙げることができる。
また、貴金属コロイドについては、その生理学的研究も進められ、動脈硬化、炎症、老化、発癌などの疾患と密接に関連していると考えられている活性酸素の消去する作用があること(特許文献8)が報告される等、着色作用のみならず、その機能性に着目して、化粧品分野への新たな利用が期待されており、リン脂質を主構成成分とするラメラ構造体に貴金属コロイドを内包させる技術についても報告されている(非特許文献2)。
【特許文献1】特開昭63−192704号公報
【特許文献2】特許第2606761号
【特許文献3】特許第3641152号
【特許文献4】特開平8−59449号公報
【特許文献5】特開平1−215865号公報
【特許文献6】特開平2−104512号公報
【特許文献7】特許第2758497号
【特許文献8】特開2004−285166号公報
【非特許文献1】関根茂等著、化粧品ハンドブック、日本ケミカルズ(株)他、P445-448、1996
【非特許文献2】Oren Regev, Renal Bakov, Chrystel Faure, Chem. Mater.,2004,16,5280-5285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ラメラ構造体は、その構成成分の種類によって、性質や物性が大きく異なるため、貴金属コロイドを内包させることは必ずしも容易ではなく、特に、分散液としての品質や保存安定性が極めて低い脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体においては、貴金属コロイドを内包することは困難であった。
従って、本発明の目的は、貴金属コロイドを内包し、化粧品分野において利用することが可能であって、優れた保湿作用に加え、新たな機能性を有し、且つ、極めて品質や保存安定性に優れた脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液の工業的有利な製造方法と、これにより得られるラメラ構造体分散液の化粧品分野での利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる実情に鑑み、本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に貴金属塩水溶液及び還元剤を添加し、室温又は加温下で攪拌することで、貴金属コロイドを内包させることができ、このものは保湿作用に加えて、新たな機能性を有し、かつ保存し、かつ、品質安定性が極めて良好であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(A)脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液を調製し、
(B)該分散液に貴金属塩水溶液及び還元剤を添加し、
(C)次いで、室温又は加温下で攪拌することを特徴とする貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体中に貴金属コロイドが包含されている貴金属コロイド内包ラメラ構造体及びその分散液を提供するものである。
更に、本発明は、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体中に貴金属コロイドが包含されている貴金属コロイド内包ラメラ構造体を含有する化粧料を提供するものである。
更にまた、本発明は、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属コロイドを配合することを特徴とする脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液の安定化方法を提供するものである。
【0009】
なお、本発明の貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液とは、貴金属コロイドが内部に取り込まれている状態のラメラ構造体が水溶液中に分散している液体をいう。ここで、貴金属コロイドは、ラメラ構造体の内部に取り込まれていればよく、その存在位置等は特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の貴金属コロイド内包ラメラ構造体は、優れた保湿作用を有し、かつ、内包する貴金属コロイドの持つ生理作用が付加された新たな機能性素材と成りうる。また、このラメラ構造体分散液は、内包させる貴金属コロイドの種類等により有色化するため、機能性の付加のみならず、従前どおり、商品の識別特性や趣向性を高めることを目的として利用することも可能である。さらに、貴金属コロイドを内包させることにより、品質や保存安定性が向上された脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液が容易に得られるので、その利用も容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法について説明する。
本発明の方法においては、まず、(A)工程として、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液を調製する。ここで主構成成分とは、脂肪酸モノグリセリドでラメラ構造体の水相成分を除く構成成分中の30重量%以上を占めることをいい、特に50重量%を占めるものが好ましい。ここで、ラメラ構造体の主構成成分となる脂肪酸モノグリセリドとしては、炭素数8〜18の飽和又は不飽和脂肪酸のモノグリセリドを挙げることができ、例えば、カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ミリスチン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリドを挙げることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。中でも、脂肪酸モノグリセリドとしてパルミチン酸モノグリセリドとステアリン酸モノグリセリドとを4:6〜2:8の比率で使用すると、水溶液中でラメラ構造体を形成しやすく、また、貴金属コロイドも内包しやすい傾向があるので、好ましい。
【0012】
また、本発明のラメラ構造体は、前記の通り、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするものであるが、構造や品質(機能性を含む)の安定性を損なわない範囲で、他の成分が混在した油相混合物を構成成分として利用することも可能である。このような成分としては、コレステロール、モノステアリルグリセリルエーテル、ジグリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができるが、中でも特に、コレステロールは、ラメラ構造体の安定性を構造させる作用を有するので、これを配合することが好ましい。これらの成分の配合量は、適宜好ましい範囲を設定すればよいが、主構成成分となる脂肪酸モノグリセリド1重量部に対し、およそ0.05〜5重量部、好ましくは、0.1〜3重量部の範囲とすることが好ましい。
【0013】
本発明の(A)工程となるラメラ構造体分散液の調製は、次に挙げる2つのうち、いずれかの方法により行うことができる。以下、調製方法を例示する。
まず、第1法としては、脂肪酸モノグリセリド又はこれを含有する油相混合物を加熱して溶融混合した後、同程度の温度に保持された水相を添加し、物理的に攪拌して油相を水相に分散することにより調製する方法を挙げることができる。ここで、溶融混合及び水相添加時の加熱温度は、45℃〜100℃が好ましく、特に好ましくは45℃〜80℃、更に好ましくは50℃〜80℃である。また、物理的攪拌には、既存の機器を用いればよく、例えば、超音波乳化装置、高圧均一分散装置、ナノマイザー、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、高速攪拌機等の微粒化装置を使用すればよい。なお、物理的攪拌の条件等は、特に限定されるものではなく、常法に従って行えばよい。
【0014】
また、第2法としては、脂肪酸モノグリセリド又はこれを含有する油相混合物を有機溶媒に溶解し、次いで溶媒を蒸留して脂質層を沈積させ、これに水相を添加混合して加熱し、超音波を照射して調製する方法を挙げることができる。ここで用いる有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、メタノール等を例示することができるが、中でも作業性や安全性等を考慮して、アセトンを使用することが好ましい。
【0015】
上記いずれの方法であってもラメラ構造体分散液を調製することは可能であるが、工業的な規模で効率よく調製を行うためには、前記第1法の手段が好ましい。
なお、本発明のラメラ構造体分散液は、主構成成分である脂肪酸モノグリセリドの特性上、リポソームと同様な形態、すなわち、油相と水相とからなるラメラ相が板状ではなく、閉じた状態、具体的には、複数の油相と水相とからなるマルチ型の円形や多角形を形成した構造体が水溶液中で分散して存在している状態となる。
【0016】
次に、(B)工程として、前記のようにして得られた脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属塩水溶液と還元剤を配合する。ここで配合する貴金属塩水溶液としては、金、白金、パラジウム等の貴金属の塩を挙げることができ、これらのうち1種或いは2種以上を併用することも可能である。また、これら貴金属の塩を具体的に例示すると、テトラクロロ金(III)酸、テトラクロロ金(III)酸カリウム、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム、テトラクロロ金(III)アンモニウム、テトラクロロ白金(II)酸、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム、塩化パラジウム(II)ナトリウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム等を挙げることができる。中でも、金又は白金からなる塩、具体的には、テトラクロロ金(III)酸、ヘキサクロロ白金(IV)酸が好ましい。また、貴金属塩水溶液の配合量は、最終的に得られる貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液中の貴金属塩濃度が、0.01mM〜0.7mMになる量が好ましく、特に0.1mM〜0.6mMとなる量が好ましい。
【0017】
一方、貴金属塩水溶液と併せて配合する還元剤としては、一般的に用いられる既存の還元剤であれば特に制限されることなく、使用することができる。例えば、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、アスコルビン酸等を挙げることができ、特に、クエン酸三ナトリウムが好ましい。なお、還元剤の配合量は、特に限定されるものではないが、配合する貴金属塩水溶液の比率(モル比、貴金属塩:還元剤)で、2:1〜1:10、好ましくは1:1〜1:5となるように配合することが好ましい。また、還元剤の添加時期は、特に限定されるものではなく、貴金属塩水溶液と同時或いは脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に貴金属塩水溶液を配合して混合した後でもよい。
【0018】
また、本発明の方法においては、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属塩水溶液と還元剤とを配合する際、同時にpH調整剤を配合することが好ましい。ここで配合することができるpH調整剤としては、炭酸カリウム(K2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、リンゴ酸、クエン酸、各種緩衝液等を挙げることができ、その配合量は、添加後の液濃度が0.01mM〜1.0mMになる量が好ましく、特に、0.05mM〜0.5mMとなる量が好ましい。
【0019】
上記のように、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属塩水溶液と還元剤を配合した後、(C)工程として、室温又は加温下で攪拌することにより、貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液を調製することができる。温度条件としては、ラメラ構造体に貴金属コロイドを効率よく内包させる点から、25℃〜70℃が好ましく、特に25℃〜60℃とすることが好ましい。なお、攪拌は、既存の方法で行えばよく、特に限定されることはない。
【0020】
さらに、本発明の方法においては、貴金属コロイドを、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体に内包させた後、(D)工程として、水溶性高分子物質を配合して攪拌することが好ましい。これにより、得られる脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とする貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の品質や保存安定性をさらに向上させることができる。ここで用いる水溶性高分子物質としては、例えば、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ヒアルロン酸および/またはその塩、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グァーガム、カラギーナン等を挙げることができ、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。また、これら水溶性高分子物質の配合量は、最終的なラメラ構造体分散液中0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%となる量とすればよい。なお、攪拌条件等は特に限定されない。
【0021】
かくして得られる貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液は、従来の脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に比べ、品質や保存安定性に優れており、また、優れた保湿性に加え、貴金属コロイドの持つ抗酸化活性等の生理活性を有することから、化粧料等に利用することが可能である。また、本発明の方法により得られる前記ラメラ構造体分散液は、配合する貴金属コロイドの特徴により紫色等を呈した有色成分となる場合があり、化粧料において、商品の識別特性や趣向性を高めることを目的としても利用することが可能である。
【0022】
本発明の方法により得られる貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液を配合することができる化粧料としては、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ヘアミルク等の頭髪用製品、入浴剤や石鹸等の浴用化粧品、ファンデーション、口紅、マスカラ、アイシャドウ等のメーキャップ化粧品、日焼け止め等の特殊化粧品等を挙げることができる。
なお、これらの化粧料には、一般的に化粧料に配合される各種副素材を配合することができる。このような副素材としては、界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、粉体、ビタミン類、アミノ酸類、水溶性高分子、発泡剤、顔料、植物抽出物、動物由来成分、海藻抽出物、各種薬剤、添加剤、水等を挙げることができる。
【0023】
また、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属コロイドを配合すれば、該分散液を安定化することができるので、上記本発明方法は、該分散液の安定化方法としても有用である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら制限されるものではない。
【0025】
実施例1
<貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の調製1−ラメラ構造体の形成確認−>
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100;理研ビタミン社製)200mg、バチルアルコール60mgおよびコレステロール84mgをアセトン20mlに溶解し、得られた溶液10mlを容器に添加した後、アセトンを蒸留して脂質を沈積させた。この脂質を沈積させた容器に精製水9.37mlを添加し、80℃に過熱後、超音波(Branson社製SONIFIER)を照射してラメラ構造体分散液を調製した。この分散液に最終濃度で、0.64mMのクエン酸三ナトリウム二水塩、0.16mMの炭酸カルシウムおよび0.2mMテトラクロロ金(III)酸四水和物となる水溶液を0.63ml添加し、60℃で4時間加熱しながら攪拌し、紫色の分散液を得た。
得られた分散液中にラメラ構造体が形成されているかを確認するため、暗十字の有無を指標として、偏光顕微鏡により観察した。その結果を図1に示す。
【0026】
図1から、得られた紫色の分散液中に、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体が存在していることが確認された。
試験例1
<貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の調製2−貴金属コロイドの内包の有無確認−>
次に、前記実施例1で調製した紫色の分散液中に存在する脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体の内部に、貴金属コロイドが内包されているかを、以下の方法により確認した。
実施例1で調製した紫色の分散液を、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロシ゛ー製、H-7650)にて、加速電圧120kV、エミッション電流3.0μA、−173℃Low dose condition modeの条件で観察を行った。その結果を図2に示す。
【0027】
図2により、実施例1で調製した紫色の分散液には、貴金属コロイドが内包された脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体が存在していることが確認された。
【0028】
実施例2
<貴金属塩水溶液の添加量検証>
テトラクロロ金(III)酸四水和物の配合濃度を0.1〜0.8mMとなるようにした以外は実施例1と同様の方法で、貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液を調製した。得られた分散液を以下の通り目視で確認し、評価した。その結果を表1に示す。
【0029】
なお、以下の表の目視評価基準は次の通りである。
○:貴金属コロイド内包ラメラ構造体が良好に分散している状態
×:貴金属コロイド内包ラメラ構造体が沈殿および/または凝集している状態
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から、貴金属塩水溶液の添加量が、分散液全量に対して0.8mMを超えると貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液が良好な状態で維持されないことが明らかとなった。
【0032】
実施例3
<貴金属コロイド内包時の条件検討>
脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、クエン酸三ナトリウム二水塩、炭酸カルシウムおよびテトラクロロ金(III)酸四水和物を含む水溶液を添加した後、該溶液の温度を25℃〜80℃となるようそれぞれ調整し、攪拌した以外は実施例1の製造方法と同様にして貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液を得た。得られた分散液を実施例2と同様の指標で目視確認した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から、脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属コロイドを内包させる場合には、該ラメラ構造体分散液と貴金属塩水溶液との混合条件を室温または加温下で行うことができることが確認されたが、加温温度が80℃になると得られる貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の状態が劣化することが認められた。
【0035】
実施例4
<貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の安定性評価>
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100;理研ビタミン社製)200mg、バチルアルコール60mgおよびコレステロール84mgをアセトン20mlに溶解し、得られた溶液10mlを容器に添加した後、アセトンを蒸留して脂質を沈積させた。この脂質を沈積させた容器に精製水10.00mlを添加し、80℃に加熱後、超音波(Branson社製SONIFIER)を照射して、さらにポリビニルピロリドン(10%水溶液)1gを添加しラメラ構造体分散液を調製した(比較品1)。また、上記製造方法で精製水9.36mlにて調製した分散液に、最終濃度で0.64mMのクエン酸三ナトリウム二水塩、0.16mMの炭酸カルシウムおよび0.2mMテトラクロロ金(III)酸四水和物となる水溶液を0.63ml添加し、60℃で4時間加熱しながら攪拌し、さらにポリビニルピロリドン(10%水溶液)1gを添加し紫色のラメラ構造体分散液を得た(本発明品1)。
得られたラメラ構造体分散液(比較品1及び本発明品1)中にラメラ構造体が形成されているかを確認するため、暗十字の有無を指標として、偏光顕微鏡により観察した。また、この分散液を室温の条件で14日間保存し、保存後の分散液の状態を偏光顕微鏡により確認した。その結果を図3〜6に示す。
【0036】
図3〜6の結果から、貴金属コロイドが内包された脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体(図5)は、保存した場合(図6)であっても、貴金属コロイドが内包されていない脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体(図3、4)に比べて安定性に優れていることが確認された。
【0037】
実施例5
<貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の調製3>
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100;理研ビタミン社製)200mg、バチルアルコール60mgおよびコレステロール84mgをアセトン20mlに溶解し、得られた溶液10mlを容器に添加した後、アセトンを蒸留して脂質を沈積させた。この脂質を沈積させた容器に精製水9.37mlを添加し、80℃に過熱後、超音波(Branson社製SONIFIER)を照射してラメラ構造体分散液を調製した。この分散液に最終濃度で、0.64mMのクエン酸三ナトリウム二水塩、0.16mMの炭酸カルシウムおよび0.2mMテトラクロロ金(III)酸四水和物となる水溶液を0.63ml添加し、60℃で4時間加熱しながら攪拌した。さらに、この分散液に、ポリビニルピロリドン(10%水溶液)を1g添加してさらに攪拌し、紫色のラメラ構造体分散液を得た。
【0038】
実施例6
<化粧水の製造>
実施例5で調製したラメラ構造体分散液を用い、下表3に示す処方に従って、次に示すとおり化粧水を製造した。まず、表中成分1加熱溶解し、これを成分2、3及び4と混合して成分5に添加する。得られた組成物に、成分6〜16を逐次添加、混合溶解した後、成分17を添加してpH6.0の化粧水を得た。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例7
<乳液の製造>
実施例5で調製したラメラ構造体分散液を用い、下表4に示す処方に従って、次に示すとおり乳液を製造した。まず、表中油相成分である1〜8を加熱溶解する。同様に、表中水相成分である9〜17を加熱溶解し、得られた油相成分と水相成分を合わせてホモジナイザーで攪拌した後、成分18を添加して冷却し、冷却途中でさらに成分19及び20を添加・混合し乳液を得た。
【0041】
【表4】

【0042】
実施例8
<クリームの製造>
実施例5で調製したラメラ構造体分散液を用い、下表5に示す処方に従って、次に示すとおりクリームを製造した。まず、表中油相成分である1〜9を加熱溶解する。同様に、表中水相成分である10〜18を加熱溶解し、得られた油相成分と水相成分を合わせてホモジナイザーで攪拌した後、成分19を添加して冷却し、冷却途中でさらに成分20〜22を添加・混合しクリームを得た。
【0043】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により得られる脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液は、それ自身が持つ、優れた保湿作用に加え、内包する貴金属コロイドの持つ生理作用が付加された新たな機能性素材として、化粧品の開発への利用が可能となる。また、このラメラ構造体分散液は、内包させる貴金属コロイドの種類等により有色化するため、機能性の付加のみならず、従前どおり、商品の識別特性や趣向性を高めることを目的として利用することも可能である。さらに、貴金属コロイドを内包させることにより、品質や保存安定性が向上された脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液が容易に得られるので、その利用も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ラメラ構造体分散液の偏光顕微鏡写真である。
【図2】ラメラ構造体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】製造直後の比較品1の偏光顕微鏡写真である。
【図4】保存後の比較品1の偏光顕微鏡写真である。
【図5】製造直後の本発明品1の偏光顕微鏡写真である。
【図6】保存後の本発明品1の偏光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液を調製し、
(B)該分散液に貴金属塩水溶液及び還元剤を添加し、
(C)次いで、室温又は加温下で攪拌することを特徴とする貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法。
【請求項2】
脂肪酸モノグリセリドが、炭素数8〜18の飽和又は不飽和脂肪酸からなるものである請求項1項記載の貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法。
【請求項3】
貴金属塩水溶液を、最終的に得られる貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液中の貴金属塩濃度が0.1mM〜0.6mMとなるように添加する請求項1又は2記載の貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法。
【請求項4】
(C)室温又は加温が25℃〜70℃の範囲である請求項1、2又は3に記載の貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法。
【請求項5】
更に、(D) 水溶性高分子を添加して攪拌する工程を含む請求項1〜4の何れか1項記載の貴金属コロイド内包ラメラ構造体分散液の製造方法。
【請求項6】
脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体中に貴金属コロイドが包含されている貴金属コロイド内包ラメラ構造体。
【請求項7】
脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体中に貴金属コロイドが包含されている貴金属コロイド内包ラメラ構造体の分散液。
【請求項8】
脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体中に貴金属コロイドが包含されている貴金属コロイド内包ラメラ構造体を含有する化粧料。
【請求項9】
脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液に、貴金属コロイドを配合することを特徴とする脂肪酸モノグリセリドを主構成成分とするラメラ構造体分散液の安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254353(P2007−254353A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80734(P2006−80734)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】