説明

貴金属含有触媒、およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造するための貴金属含有触媒、およびα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造する方法を提供すること。
【解決手段】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための貴金属含有触媒であって、X線吸収微細構造(XAFS)解析法で得られるXANESスペクトルにおける前記貴金属L吸収端のスペクトルピークが、実質的に電子状態が0価の貴金属のスペクトルピークと比較して、0.1〜1.3eVシフトしている貴金属含有触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための貴金属含有触媒、およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための貴金属含有触媒として、特許文献1にはパラジウムを含有した触媒、特許文献2には金を含有した触媒が提案されている。
【特許文献1】特開昭56−59722号公報
【特許文献2】特開2001−172222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の触媒を使用した液相酸化においては、反応成績、特に目的生成物の選択率および生産性が十分とは言えず、更なる触媒性能の向上が望まれていた。
【0004】
したがって本発明の目的は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造するための貴金属含有触媒、およびα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための貴金属含有触媒であって、X線吸収微細構造(XAFS)解析法で得られるXANESスペクトルにおける貴金属L吸収端のスペクトルピークが、実質的に電子状態が0価の前記貴金属のスペクトルピークと比較して、0.1〜1.3eVシフトしている貴金属含有触媒である。
【0006】
さらに本発明は、上記貴金属含有触媒の存在下で、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素によって液相中で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造することができる貴金属含有触媒、およびそれを用いることでα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の貴金属含有触媒は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択率かつ高生産性で製造するための触媒であって、XAFS解析法で得られるXANESスペクトルにおける前記貴金属のスペクトルピークが、実質的に電子状態が0価の貴金属のスペクトルピークと比較して、0.1〜1.3eVシフトしている貴金属含有触媒(以下、単に「触媒」と称することもある)である。
【0009】
本発明におけるXANESスペクトルとは、貴金属の原子結合状態の評価として、貴金属L吸収端のX線吸収微細構造(XAFS:X−ray Absorption Fine Structure)の測定を行い、このうちのX線吸収端近傍構造(XANES:X−ray Absorption Near Edge Structure)部分を解析することにより、貴金属の原子結合状態の評価を行うことができるものである。具体的には、貴金属原子がX線の吸収によって生じた電子・正孔対が緩和される際に放出される蛍光X線を測定する。このような蛍光XAFSの測定方法は、「X線吸収微細構造−XAFSの測定と解析−、日本分光学会、測定法シリーズ26、138−141頁」などに記載されている。
【0010】
具体的な測定方法としては、次のように測定する。粉末試料を導電性カーボンテープ上に塗布し、これをHe雰囲気下に設置する。この試料に測定する貴金属が吸収する範囲のX線を照射し、放出される蛍光X線の電子収量を測定する。ここで得られたスペクトルは、基準スペクトルと比較して高エネルギー側にピークシフトすると、酸化的状態にあることを示す。ここで「基準スペクトル」とは、「実質的に電子状態が0価と判っている市販の貴金属試料のスペクトル」のことを指す。さらに、「実質的に電子状態が0価と判っている市販の貴金属試料」は貴金属板のことを指す。
【0011】
本発明の貴金属含有触媒が含有する貴金属のスペクトルピークのシフト量は0.1〜1.3eVである。スペクトルピークのシフト量が0.1eV未満、あるいは1.3eVを超える貴金属含有触媒の触媒性能(α,β−不飽和カルボン酸の選択率および生産性)が低いものとなる。貴金属のスペクトルピークのシフト量は0.2eV以上が好ましく、0.4eV以上がより好ましい。また、1.2eV以下が好ましく、1.1eV以下がより好ましい。
【0012】
このようなスペクトルピークのシフトは、担体または共存する貴金属若しくは金属との電子の授受で発現する。通常、スペクトルピークは、高エネルギー側にシフトする。スペクトルピークが高エネルギー側にシフトするとは、貴金属がδ+の電荷を有した酸化状態にあることを意味する。オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造する過程において、触媒である貴金属が上記シフト量の範囲の適度な酸化状態にあることが求電子反応を促進するのに適していると推定される。
【0013】
本発明の貴金属含有触媒の貴金属としては、パラジウム(基準スペクトルピーク:3180eV)、白金(基準スペクトルピーク:11549eV)、ロジウム(基準スペクトルピーク:2994eV)、ルテニウム(基準スペクトルピーク:2838eV)、イリジウム(基準スペクトルピーク:11205eV)、金(基準スペクトルピーク:11913eV)、銀(基準スペクトルピーク:3374eV)、オスミウム(基準スペクトルピーク:10858eV)を挙げることができるが、中でもパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金が好ましく、特にパラジウムが好ましい。貴金属は1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。2種以上を併用する場合は、その少なくとも1種の貴金属について、上記のピークシフトの条件を満たしていれば良い。上記のピークシフトの条件を満たす貴金属が貴金属全体の25質量%以上であることが好ましい。
【0014】
なお、本発明の貴金属含有触媒は、貴金属以外の金属成分を含むことが好ましい。貴金属以外の金属成分としては、例えば、アンチモン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス等が挙げられる。貴金属以外の金属成分は、2種以上含むこともできる。高い触媒活性を発現させる観点から、貴金属含有触媒に含まれる金属成分のうち、50質量%以上が貴金属であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の貴金属含有触媒は、非担持でも良いが、貴金属が担体に担持されている担持型とすることが好ましい。担体としては、無機酸化物が好適に用いられ、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等を挙げることができる。なかでも、シリカ、チタニア、ジルコニアを用いることが好ましい。担体は、1種を用いることもでき、2種以上を併用することもできる。担体の好ましい比表面積は、担体の種類等により異なるので一概に言えないが、シリカの場合、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、1500m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましい。なお、担体の比表面積は、上記範囲で小さいほど有用成分がより表面に担持された触媒となり、上記範囲で大きいほど有用成分が多く担持された触媒となる。
【0016】
担体に対する貴金属の担持率は、担持前の担体質量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
本発明の貴金属含有触媒は、貴金属化合物を溶媒に溶解し、還元剤を用いて還元することで調製することができる。この還元により目的とする貴金属含有触媒が析出する。還元は気相で行うこともできるが、上記のように液相で行うことが好ましい。以下、液相中で貴金属化合物を還元する液相還元法について説明する。
【0018】
使用する貴金属化合物は特に限定されないが、例えば、貴金属の、塩化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、テトラアンミン錯体およびアセチルアセトナト錯体等が好ましく、貴金属の、酢酸塩、硝酸塩、テトラアンミン錯体およびアセチルアセトナト錯体がより好ましい。
【0019】
液相中での還元の際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独又は複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0020】
還元時に用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。水素、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。これらを2種以上併用することもできる。
【0021】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を挙げる為にオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。その圧力は0.1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)以上とすることが好ましく、また1.0MPa以下とすることが好ましい。
【0022】
また、還元剤が液体の場合、貴金属化合物の還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、貴金属化合物1モルに対して1モル以上とすることが好ましく、また100モル以下とすることが好ましい。
【0023】
還元温度および還元時間は、用いる貴金属化合物や還元剤等により異なるが、還元温度は−5℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。また、150℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。還元時間は0.1時間以上が好ましく、0.25時間以上がより好ましく、0.5時間以上がさらに好ましい。また、4時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、2時間以下がさらに好ましい。
【0024】
担持型の貴金属含有触媒を製造する場合、貴金属化合物を担体に担持させる方法としては、貴金属化合物の溶解液に担体を浸漬した後に溶媒を蒸発させる方法、または、担体の細孔容積分の貴金属化合物の溶解液を担体に吸収させた後に溶媒を蒸発させる、いわゆるポアフィリング法による方法が好ましい。貴金属化合物を溶解させる溶媒としては、貴金属化合物を溶解するものであれば特に限定されない。また、加熱処理の温度は、用いる貴金属化合物の分解温度以上の温度とすることが好ましい。加熱処理の時間は、貴金属化合物が貴金属酸化物となる時間であれば特に限定されないが、1時間以上が好ましく、また12時間以下が好ましい。
【0025】
貴金属以外の金属成分を含む貴金属含有触媒は、対応する金属の塩や酸化物等の金属化合物が貴金属化合物と共存する状態で前記の還元を行うことで得ることができる。その際の金属化合物の担持方法としては特に限定されないが、貴金属化合物を担持する方法と同様に行うことができる。また、貴金属以外の金属の金属化合物は、貴金属化合物を担持する前に担持することもでき、貴金属化合物を担持した担持後に担持することもでき、貴金属化合物と同時に担持することもできる。
【0026】
スペクトルピークのシフトは、例えば、担体への担持方法、共存させる貴金属または金属の種類、担体の種類等を適宜変えることにより発現させることができる。シフト量は、例えば、共存させる貴金属または金属の量等により適宜調整することができる。
【0027】
得られた貴金属含有触媒は、水、有機溶媒等で洗浄することが好ましい。水、有機溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の貴金属化合物由来の不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によってはオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの液相酸化反応を阻害する恐れがあるため、不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。
【0028】
また、回収された貴金属含有触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥機を用いて空気中または不活性ガスで乾燥することが好ましい。乾燥された触媒は、必要に応じて反応に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法には特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば、貴金属表面の酸化被膜と洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。
【0029】
得られた貴金属含有触媒の物性は、BET比表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM観察等により確認できる。
【0030】
次に、本発明の貴金属含有触媒を用いてα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。α,β−不飽和カルボン酸の製造方法としては、液相中で、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化して、α,β−不飽和カルボン酸とする反応を、本発明の貴金属含有触媒の存在下で行う方法が好ましい。このような方法によれば、高選択率かつ高生産性でα,β−不飽和カルボン酸が製造可能となる。
【0031】
オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられる。また、α,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。原料のオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドには、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等が少々含まれていてもよい。
【0032】
製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、原料がオレフィンの場合、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸であり、原料がα,β−不飽和アルデヒドの場合、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基となったα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がプロピレンまたはアクロレインの場合はアクリル酸が得られ、原料がイソブチレンまたはメタクロレインの場合はメタクリル酸が得られる。
【0033】
本発明の貴金属含有触媒は、プロピレンまたはアクロレインからアクリル酸、イソブチレンまたはメタクロレインからメタクリル酸を製造する液相酸化で特に好適である。
【0034】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源には、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。この空気等のガスは、通常オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給される。
【0035】
液相酸化反応に用いる溶媒は特に限定されないが、例えば、水、アルコール類、ケトン類、有機酸類、有機酸エステル類、炭化水素類等が使用できる。アルコール類としては、例えば、ターシャリーブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等が挙げられる。有機酸エステル類としては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等が挙げられる。中でも炭素数2〜6の有機酸類、炭素数3〜6のケトン類、ターシャリーブタノールが好ましい。溶媒は1種でも、2種以上の混合溶媒でもよい。また、アルコール類、ケトン類、有機酸類および有機酸エステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用する場合は、水との混合溶媒とすることが好ましい。その際の水の量は特に限定されないが、混合溶媒の質量に対して、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。混合溶媒は均一であることが望ましいが、不均一な状態で用いても差し支えない。
【0036】
液相酸化反応は連続式、バッチ式の何れの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0037】
液相酸化反応の原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの使用量は、溶媒100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0038】
分子状酸素の使用量は、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.3モル以上がより好ましく、0.5モル以上が特に好ましい。また、30モル以下が好ましく、25モル以下がより好ましく、20モル以下が特に好ましい。
【0039】
通常、触媒は液相酸化を行う反応液に懸濁させた状態で使用されるが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液100質量部に対して、反応器内に存在する触媒として0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が特に好ましい。また、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が特に好ましい。
【0040】
液相酸化を行う温度および圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応圧力は0MPa以上が好ましく、2MPa以上がより好ましい。また、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0042】
(触媒の組成)
調製後の触媒に含まれる金属成分の質量及び原子量から算出した。なお、触媒中の金属成分の質量は、以下の方法で測定した。
【0043】
処理液の調製:触媒1部、62質量%硝酸水溶液50部及び48質量%弗化水素酸水溶液50部をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、MARS5(商品名))で溶解処理を行った。
【0044】
得られた均一溶液に含まれる金属成分の質量を、ICP発光分析装置(サーモエレメンタル製、IRIS−Advantage(商品名))で定量し、触媒中の金属成分の質量とした。
【0045】
(XANESスペクトルにおける貴金属のスペクトルピークのシフト量の算出)
粉末試料(調製した触媒)を導電性カーボンテープ上に塗布し、これをHe雰囲気下に設置した。この試料に測定する貴金属が吸収する範囲のX線を照射し、放出される蛍光X線の電子収量を測定した。ここで得られたスペクトルを、実質的に電子状態が0価と判っている市販の貴金属試料について測定したスペクトルのピークと比較することにより、ピークシフト量を算出した。ここでの「実質的に電子状態が0価と判っている市販の貴金属試料」とは、貴金属板を指している。また、シフト量はL吸収端のピークトップの変位量である。
【0046】
(原料および生成物の分析)
α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料および生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、オレフィンの反応率、生成するα,β−不飽和アルデヒド及びα,β−不飽和カルボン酸の選択率、並びにα,β−不飽和カルボン酸の生産性は以下のように定義される。
オレフィンの反応率(%) =(B/A)×100
α,β−不飽和アルデヒドの選択率(%) =(C/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の選択率(%) =(D/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/g−Me/h)=(E/F/G)×100
ここで、Aは供給したオレフィンのモル数、Bは反応したオレフィンのモル数、Cは生成したα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成したα,β−不飽和カルボン酸のモル数、Eは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(単位:g)、Fは用いた触媒中の貴金属の質量(単位:g)、Gは反応時間(h)である。
【0047】
[実施例1]
(触媒調製)
テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩(N.E.ケムキャット製)1.4部を純水に溶解した水溶液に、テルル酸(和光純薬工業製)0.13部を純水にて希釈した水溶液を添加してパラジウム−テルル水溶液を調製した。このパラジウム−テルル水溶液をシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g)10.0部に少量ずつ添加し、振とうすることを繰り返した。その後、大気流通下450℃3時間で焼成した。
【0048】
得られた焼成物を37質量%ホルムアルデヒド水溶液1.9部に加え、70℃2時間還元処理を行った。その後純水で洗浄濾過し、さらに窒素流通下100℃で2時間乾燥してシリカ担持パラジウム/テルル共含浸触媒を得た。
【0049】
この触媒中のテルルとパラジウムのモル比(Te/Pd)は0.15であった。このとき、XANESスペクトルから見積もられたパラジウムスペクトルピークのシフトは高エネルギー側に0.8eVであった。
【0050】
(反応評価)
オートクレーブに上記の方法で得たシリカ担持パラジウム/テルル共含浸触媒10.5部と反応溶媒として75質量%t−ブタノール水溶液75部を入れ、オートクレーブを密閉した。次いで、イソブチレンを2.0部導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、90℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入した。反応は60分で終了させた。
【0051】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を氷冷した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液だけを回収した。回収した反応液と捕集したガスはガスクロマトグラフィーにより分析した。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
(触媒調製)
テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩1.4部を硝酸パラジウム(N.E.ケムキャット製)2.2部に変更した以外は、実施例1と同様の方法でシリカ担持パラジウム/テルル共含浸触媒を得た。この触媒中のTe/Pdは0.15であった。このとき、XANESスペクトルから見積もられたパラジウムスペクトルピークのシフトは高エネルギー側に1.0eVであった。
【0053】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
(触媒調製)
テルル酸0.13部を純水に溶解した水溶液をシリカ担体(比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g)10.0部に少量ずつ添加し、振とうすることを繰り返した。その後、大気中100℃で3時間焼成し、次いで大気中450℃3時間焼成した。
【0055】
テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩(N.E.ケムキャット製)1.4部を純水にて希釈した水溶液を上記で得られた焼成物に少量ずつ添加し、振とうすることを繰り返した。その後、大気流通下450℃3時間で焼成した。
【0056】
得られた焼成物(2回目の焼成後のもの)を37質量%ホルムアルデヒド水溶液1.9部に加え、70℃2時間還元処理を行った。その後純水で洗浄濾過し、さらに窒素流通下100℃で2時間乾燥してシリカ担持パラジウム/テルル含浸触媒を得た。
【0057】
この触媒中のTe/Pdは0.15であった。このとき、XANESスペクトルから見積もられたパラジウムスペクトルピークのシフトは0eVであった。
【0058】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
(触媒調製)
テルル酸の使用量を0.26部に変更した以外は、実施例1と同様の方法でシリカ担持パラジウム/テルル共含浸触媒を得た。この触媒中のTe/Pdは0.3であった。このとき、XANESスペクトルから見積もられたパラジウムスペクトルピークのシフトは高エネルギー側に1.4eVであった。
【0060】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例3]
(触媒調製)
パラジウム−テルル水溶液を、テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩(N.E.ケムキャット製)1.4部を純水にて希釈した水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法でシリカ担持パラジウム含浸触媒を得た。
【0062】
この触媒について、XANESスペクトルから見積もられたパラジウムスペクトルピークのシフトは0eVであった。
【0063】
(反応評価)
実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0064】
以上の結果を表1に示す。本発明の貴金属含有触媒を用いることでメタクリル酸が高選択率で製造可能であり、メタクリル酸の生産性が高いことが分かった。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための貴金属含有触媒であって、X線吸収微細構造(XAFS)解析法で得られるXANESスペクトルにおける前記貴金属L吸収端のスペクトルピークが、実質的に電子状態が0価の貴金属のスペクトルピークと比較して、0.1〜1.3eVシフトしている貴金属含有触媒。
【請求項2】
請求項1記載の貴金属含有触媒の存在下で、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素によって液相中で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−224022(P2006−224022A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42439(P2005−42439)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】