説明

貴金属物品及びその製造方法

【課題】耐硫化性に優れ、貴金属の持つ光沢を維持することができる貴金属物品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】銀又は銀合金からなる銀粘土焼結体2の表面の少なくとも一部に金銀合金被覆層3が形成された貴金属物品1であって、金銀合金層3は、最表面の組成が銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物であり、最表面から深くなるにしたがって銀の比率が高くなっており、その製造方法は、銀粘土焼結体の表面に目付け0.2〜1.2mg/cmの金被覆を施す被覆工程と、被覆工程の後、金被覆を施した銀粘土焼結体を加熱保持して金銀合金被覆層を形成する加熱工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粘土焼結体の表面の少なくとも一部に金銀合金被覆層を形成した貴金属物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀粘土は、銀粉末に有機バインダー類を調合して可塑性を付与し、手作りで銀製の造形物品を製作できるようにしたホビー用素材、ジュエリー用素材として知られている(特許文献1参照)。
銀粘土には、粘土状のもの、ペースト状のもの、シート状のものなどの水分を含んだ状態のもの、彫刻板用に成形して乾燥したブロック状や板状の形態の焼結前のもの、あらかじめ指輪型、星型、ハート型、十字型、文字型などに造形して乾燥した焼結前の成形中間体の形態のものなどがある。銀粘土は大気中で加熱すると、有機バインダーが燃焼気化してなくなり、銀粉末が焼結して、銀製の貴金属物品になる。
さらに、銀粘土は、焼結時の収縮を利用してルビーやエメラルドなどの耐熱性がある宝石を嵌合したり、焼結後において七宝焼きで色ガラスを焼き付けたり、いぶし液に漬けて表面を硫化させて黒く着色したり、室温焼結型金コロイド液を塗布して金色に着色するなどの細工を施すことなどにより、作品の幅を広げることができる。
【0003】
しかし、銀粘土で製作した貴金属物品は、焼結体であるため通常は多孔質であり、いぶし液などによって意図的な処理をしなくても、硫化されやすく、意図に反して黒くなりやすい。その対策として、例えば透明シリカコート剤や透明樹脂をコーティングする方法などがあるが、それらの非金属物質をコーティングすると、貴金属の美しい光沢を損なうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−241802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐硫化性に優れ、貴金属の持つ光沢を維持することができる貴金属物品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の貴金属物品は、銀又は銀合金からなる銀粘土焼結体の表面の少なくとも一部に金銀合金被覆層が形成された貴金属物品であって、前記金銀合金層は、最表面の組成が銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物であり、前記最表面から深くなるにしたがって銀の比率が高くなることを特徴とする。
【0007】
金銀合金は耐硫化性に優れており、金の配合量が多いほど耐久性がある。また、金に20重量%以上の銀を含有した金銀合金は、自然光の下で銀色に見える金合金であって、例えば25重量%の銀を含有した金銀合金はホワイトゴールドとも呼ばれることもある。すなわち、最表面を金リッチの金銀合金としたことにより、宝飾品として十分な銀色に輝く光沢をもつとともに耐硫化性に優れた貴金属物品となっている。
また、前記金銀合金被覆層は金と銀の組成が傾斜していることから、密着性がよく、そのため耐久性に優れている。
尚、金銀合金組成は、オージェ分光分析法で測定することができる。
【0008】
本発明の貴金属物品の製造方法は、銀粘土焼結体からなる銀粘土焼結体の表面の少なくとも一部に金銀合金被覆層が形成された貴金属物品を製造する方法であって、前記銀粘土焼結体の表面に目付け0.2〜1.2mg/cmの金被覆を施す被覆工程と、前記被覆工程の後、金被覆を施した前記銀粘土焼結体を加熱保持して前記金銀合金被覆層を形成する加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の貴金属物品は、表面の金銀合金被覆層を、金を被覆してから熱処理を施すことによって形成される金銀合金としたことにより、金と銀の組成が傾斜した状態を形成することができ、最表面は金リッチの金銀合金になっている。
さらに、表面の金銀合金層の部位は固溶体強化されることにより、銀焼結体の部位よりも硬さが硬くなり、傷つきにくくなるという効果もある。
金銀合金被覆層を形成するための金被覆は、目付け0.2〜1.2mg/cmであることが好ましく、0.2mg/cm未満であると、貴金属物品の耐硫化性を十分に向上できない場合があり、1.2mg/cmを超えると、表面金被覆層との密着性を十分に向上できない場合がある。
本発明において、被覆工程は、例えば、上述の金コロイド溶液を塗布したり、簡易めっき用具で電気めっきを施したりすることにより実施することができる。また、加熱工程は、例えば、家庭用のトースタで実施することができる。尚、家庭用トースタは通常300℃前後で停止するようサーモスタットが具備されているので、容易に所望の範囲の温度まで加熱することができる。
【0010】
本発明の製造方法において、前記加熱工程は、温度200℃〜480℃に1秒間から60分間加熱保持するとよい。
金銀合金被覆層を形成するための金塗布後の熱処理温度を200℃以上とすることにより金と銀とを相互拡散によって十分に合金化することができ、480℃以下とすることにより、合金化の進行速度を適切にして所望の金銀合金被覆層を得ることができる。
【0011】
また、本発明の製造方法において、前記加熱工程の後、前記銀粘土焼結体を研磨する研磨工程を備えるとよい。
金銀合金被覆層を形成する際に、金の被覆厚さと熱処理温度および保持時間によって色合いが変わり、熱処理後に金色を呈していたり、金と銀がまだらに見えたりする場合がある。その場合には、例えば、シルバーポリッシュクロス(銀製品磨き布)で磨くなどして研摩工程を実施すると貴金属物品が銀色に輝くようになる。金銀合金被覆層は、金と銀の組成が傾斜しているので、最表面の組成が自然光の下で銀色に見える合金組成の部位まで磨き落とすことにより、銀光沢を呈する金リッチの金銀合金被覆層を形成することができる。
この場合、最表面の組成が、銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物の範囲であると、銀光沢を示し、かつ、耐硫化性に優れる被覆層となる。
本発明の条件範囲で被覆した金銀合金被覆層をシルバーポリッシュクロスで磨いたり、バフ研磨したりして、自然光の下で目視したときに銀色に見えるように研磨することにより、金銀合金被覆層全体を磨き落としてしまうことなく、最表面の金銀組成を前述の組成範囲にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐硫化性に優れ、貴金属の持つ光沢を維持することができる貴金属物品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の製造方法により製造された貴金属物品の表面付近の層構造を示すもので、(a)が断面図、(b)が金濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る貴金属物品及びその製造方法の一実施形態を説明する。
本実施形態の貴金属物品1は、銀粘土によって製作した銀粘土焼結体2の表面の一部に、金銀合金被覆層3が形成されている。この銀粘土は、銀又は銀合金からなる銀粉末に、有機系バインダー等を添加して作製される。
【0015】
銀粉末は、例えば、平均粒径:2μm以下のAg微細粉末(好ましくは平均粒径:0.5〜1.5μmのAg微細粉末):15〜50質量%に、平均粒径:2μmを越え100μm以下のAg粉末(好ましくは平均粒径:3〜20μmのAg粉末):50%越え〜85質量%未満を混合して得られる。
有機系バインダーは、セルロース系バインダー、ポリビニール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、樹脂系バインダー、澱粉、ゼラチン、小麦粉などいかなるバインダーを使用してもよいが、セルロース系バインダー、特に水溶性セルロースが最も好ましい。この有機系バインダーは、銀粘土中に、銀粉末が50〜95質量%(好ましくは70〜95質量%)に対して、0.8〜8質量%(好ましくは0.8〜5質量%)含まれる。
その他、必要に応じて油脂、界面活性剤などを含有し、残りは水が含まれる。
このようにして作製される銀粘土を造形し、550〜900℃の温度で、造形物の大きさにもよるが5〜70分間加熱することにより、銀粘土焼結体が形成される。
【0016】
本実施形態の貴金属物品1は、銀粘土によって製作した銀粘土焼結体2の表面の一部に、金銀合金被覆層3が形成されたものであり、金銀合金被覆層3は、最表面の組成が銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物であり、最表面から深くなるにしたがって銀の比率が高くなるように組成が傾斜している。金濃度は、最表面から内部に向かうにしたがって減少している。
この金銀合金被覆層3は、銀粘土焼結体2に金被覆を施した後に加熱して合金化することにより形成されたものである。
この金銀合金被覆層3を形成するための金被覆手段はとくに限定しないが、ここでは金コロイド液による金被覆について説明する。
【0017】
金コロイド液は、金コロイド粒子を水系又は非水系の分散媒、あるいはこれらを混合した分散媒に所定の割合で分散させたものである。金コロイド粒子は、金粒子と、その金粒子の表面に配位修飾した保護剤とにより構成される。
保護剤としては、分子中に窒素を含む炭素骨格を有し、かつ窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金粒子表面に配位修飾した構造を有し、アルコキシシリル基、シラノール基及びハイドロキシアルキル基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基を分子構造に含む構成とされる。
【0018】
金コロイド粒子の具体的な製法の一例としては、非水系において、チオール基を含むアルコキシシランと金化合物とを混合し、還元剤の存在下で金化合物を還元することによって、チオール基を含むアルコキシシランをアンカーとして上記アルコキシシランからなる保護剤が金粒子表面に結合した金コロイド粒子を得ることができる。チオール基を含むアルコキシシランの存在下で非水系の還元反応によって金コロイド粒子を生成させる。非水系とは金化合物の水溶液中で金属還元を行わずに、チオール基含有アルコキシシランやアルコールなどの有機溶液中で金化合物の金属還元を行うことを云う。
【0019】
βジケトンなどのキレート剤を用い、アルコキシシリル基又はハイドロキシアルキル基のいずれか一方又はその双方がキレート剤によってキレート配位させた金コロイド粒子は加水分解反応を遅延させる効果があり、更に安定性が増す。
【0020】
アルコキシシランは、1個又は2個のアミノ基を含有し、かつnが1以上〜3以下の有機鎖(−CH2−)nを有するものが好ましい。具体的には、アミノ基を有するアルコキシシランとしては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの保護剤(アミノ基含有アルコキシシラン)の量は金属量に対してモル比で2倍から40倍であればよい。
【0021】
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ターシャリーブチルアミンボラン、2級アミン、3級アミン次亜リン酸塩、グリセリン、アルコール、過酸化水素、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド水溶液、酒石酸塩、ブドウ糖、N-N-ジエチルグリシンナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ガス、硫酸第1鉄などを用いることができる。
【0022】
金粒子を生成させる金化合物としては、塩化金酸、シアン化金カリウムなどを用いることができる。金粒子の平均粒子径は1〜100nmの範囲内、好ましくは1〜60nmの範囲内である。また、この金粒子の表面に保護剤を配位修飾した金コロイド粒子の形状は球状、多角状又はアメーバ状を有する粒状粒子である。
【0023】
前述したように、この金コロイド粒子を水系又は非水系のいずれか一方の分散媒又はその双方を混合した分散媒に所定の割合で分散させて金コロイド液を作製する。この金コロイド液は、金コロイド粒子を形成する保護剤が窒素原子又は原子団をアンカーとして金粒子表面に強固に結合しているので、コロイド溶液が極めて安定であり、高濃度の金コロイドとすることができる。しかも、このような高濃度の金コロイドにおいてもコロイド液が安定であり、粘度変化が小さい。更に膜強度の大きな薄膜を形成することができる。
【0024】
このように製作した金コロイド液を銀粘土焼結体に塗布した後、乾燥させ、所定の温度に加熱、保持すると、銀粘土焼結体の表面に金銀合金被覆層を形成することができる。
その塗布方法としては、刷毛塗り、吹き付け、印刷、ノズルからの吐出、転写等の方法を採用することができる。
金銀合金被覆層を形成するための金被覆は、目付け0.2〜1.2mg/cmであることが好ましい。0.2mg/cm未満であると、貴金属物品の耐硫化性を十分に向上できない場合があり、1.2mg/cmを超えると、金銀合金被覆層が熱処理時に剥離する場合があり、剥離しない場合においても表面の金色が強くなり過ぎて、後述する研磨程度では、最表面を銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物の組成とした銀光沢を得ることが難しい。
この熱処理温度としては200〜480℃が好適である。200℃未満では金と銀との相互拡散による合金化が不十分であり、480℃を超えると合金化が早く進みすぎるため所望の金銀合金層が得にくくなる。熱処理温度は、240℃〜320℃がより好ましい。最高温度での保持時間としては1秒間〜60分間で良い。
【0025】
前記熱処理後に金銀合金被覆層をバフ研磨したりシルバーポリッシュクロスで擦ったりして磨いても良い。金の被覆厚さと熱処理温度および保持時間によって色合いが変わり、熱処理後に金色を呈していたり、金と銀がまだらに見えたりする場合がある。その場合には、表面を研磨すると銀色に輝くようになる。前記金銀合金被覆層は金と銀の組成が傾斜しているので、最表面の組成が自然光の下で銀色に見える合金組成の部位まで磨き落とすことにより、銀光沢を呈する金リッチの金銀合金被覆層を形成することができる。
【0026】
このようにして銀粘土焼結体の表面に金銀合金被覆層を形成してなる貴金属物品は、最表面を金リッチ(銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物)の金銀合金としたことにより、宝飾品として十分な銀色に輝く光沢をもつとともに耐硫化性に優れており、また、前記金銀合金被覆層は金と銀の組成が傾斜していることから密着性がよく、そのため耐久性に優れている。併せて、表面に金銀合金層の部位は固溶体強化されることにより、銀焼結体の部位よりも硬さが硬くなり、傷つきにくくなるという効果もある。
【実施例】
【0027】
金コロイド液を次の(1)〜(4)の手順によって作製した。
(1)金濃度が100g/l(リットル)の塩化金酸水溶液:40g、アミノプロパノール:30g、ジメチルアミン錯体:0.01gを色が茶褐色になるまで攪拌混合する。
(2)得られた金コロイド分散液を遠心分離機にかけて沈降させ、上澄み液を捨てる。そして、蒸留水を加えて振とうした後、遠心分離機にかけて沈降させる、という操作を3度繰り返して洗浄する。
(3)洗浄後の金コロイド分散液0.1mlをとって、その乾燥重量から金含有濃度を算出する。
(4)金濃度が0.1g/ml、分散媒として水:エチルアルコールが1:3の重量比率になるようにエチルアルコール及び水を加える。
【0028】
次に、市販の指輪形状の銀粘土成形体(三菱マテリアル株式会社製PMCデザインリング平打ちM2)を、市販の専用焼成用ポット(三菱マテリアル株式会社製シルバーポット)を用いて専用のアルコール固形燃料を熱源として焼結し、次いで、前記銀粘土焼結体の表面を1500番の研磨紙を用いて研磨し、円筒型フェルトバフを取り付けたリューターを用いて研磨し、さらにシルバークロスで磨いていくことにより、表面を鏡面研磨したリングサイズ約14号の平打ち指輪形状の銀粘土焼結体を8個用意した。
尚、焼成用ポット、シルバークロスは、三菱マテリアル株式会社製PMCスターターキットの内容物を使用した。
【0029】
これらの銀粘土焼結体に対して、表1に示したように電気めっきもしくは前記金コロイド液を塗布して乾燥する方法のいずれかの方法で金を塗布し、同じく表1に示した条件で熱処理して、金銀合金層を形成した。尚、電気めっきは市販の簡易めっき用具;マルイ鍍金工業株式会社製商品名「めっき工房」を用いて行った。
そして、表面が金色を呈していたものについては、銀色になるまでシルバーポリッシュクロスで磨いた。次いで、耐硫化性試験として、純水200mlにいぶし液(日陶科学株式会社製、目薬タイプの容器入り)を2滴滴下したいぶし液水溶液を準備し、剥離の無かったものについて、前記いぶし液水溶液に5秒間浸漬し、取り出して黒色化するか否かを目視観察し、その結果を表1に示した。
金塗布前の銀粘土焼結体の重量と、金被覆して熱処理した後の貴金属物品の重量との差の重量増加分を金塗布重量とし、指輪形状の銀粘土焼結体の外径寸法、内径寸法、幅寸法から銀粘土焼結体の表面積を算出し、前記金塗布重量を前記表面積で除した値を金塗布目付け重量として算出し、その値を表1に示した。
比較例として、金銀合金被覆層を形成しない銀粘土焼結体のままのものを用いた。
【0030】
次いで、得られた指輪形状の銀粘土焼結体を半円状に2つに切断し、一方の試料の金銀合金層について、オージェ分光分析法で表面の金濃度、および深さ方向の金分布を測定した。表面の金濃度は10点測定して、その平均値を表1に示した。深さ方向の金分布の測定は、試料表面をアルゴンエッチングしつつ金濃度を測定することにより行い、そのときのアルゴンエッチングは、純度99.9%以上の石英を標準試料としたときにその石英の減肉速度が5nm/minになる条件で行った。得られた深さ方向の金分布の測定結果から、金濃度が表面の金濃度の20%になるアルゴンエッチング時間を求め、そのアルゴンエッチング時間に前記石英の減肉速度を乗じた値を石英換算厚さとして算出し、その値を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、前記切断した銀粘土焼結体のうち分析に使用しなかった残りの半円状の試料について、耐硫化性試験として、純水200mlにいぶし液(日陶科学株式会社製、目薬タイプの容器入り)を5滴滴下したいぶし液水溶液を準備し、剥離の無かったものについて、前記いぶし液水溶液に30秒間浸漬し、黒シミの発生の有無を目視観察し、その結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
この表2の結果から明らかなように、比較例1,2のものはいずれも黒色化しているのに対して、本発明のものはいずれもいぶし液に対して黒色が進行していない。このことから、本発明の貴金属物品は、耐硫化性に優れていることが明らかであり、長期間に亘って、光沢のある銀色を維持する。
【符号の説明】
【0035】
1 貴金属物品
2 銀粘土焼結体
3 金銀合金被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀又は銀合金からなる銀粘土焼結体の表面の少なくとも一部に金銀合金被覆層が形成された貴金属物品であって、前記金銀合金層は、最表面の組成が銀:20重量%〜50重量%、残:金および不可避不純物であり、前記最表面から深くなるにしたがって銀の比率が高くなることを特徴とする貴金属物品。
【請求項2】
銀又は銀合金からなる銀粘土焼結体の表面の少なくとも一部に金銀合金被覆層が形成された貴金属物品を製造する方法であって、前記銀粘土焼結体の表面に目付け0.2〜1.2mg/cmの金被覆を施す被覆工程と、前記被覆工程の後、金被覆を施した前記銀粘土焼結体を加熱保持して前記金銀合金被覆層を形成する加熱工程と、を備えることを特徴とする貴金属物品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、温度200℃〜480℃に1秒間から60分間加熱保持することを特徴とする請求項2記載の貴金属物品の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程の後、前記銀粘土焼結体を研磨する研磨工程を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の貴金属物品の製造方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された貴金属物品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−179082(P2011−179082A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45357(P2010−45357)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】