説明

貼り替え防止シール

【課題】有機溶剤を用いてシールを剥がそうとしてもその痕跡が残り、且つ、その痕跡を除去することを不可能とすることにより、上記のような再利用を完全に防止できる貼り替え防止シールを提供することが課題である。
【解決手段】高分子樹脂材料からなる支持体上に、少なくともOVD層と粘着剤層とがその順に形成されており、一旦物品に接着させた後に、無理に剥がすと破壊する貼り替え防止シールにおいて、該OVD層と該粘着剤層の間に有機溶剤によって溶解する染料あるいは分散する顔料を含有してなる溶剤溶解層を有することを特徴とする貼り替え防止シールにより課題を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り替え防止シールに係り、とくに近年、ブランドプロテクション等の認証に用いられているホログラムをはじめとするOVD(光の方向により色彩や画像が変化する光学的なデバイス)を利用した貼り替え防止シールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光の干渉を用いて立体画像や特殊な装飾画像を表現し得るホログラムや光学特性の異なる薄膜を重ねることにより、見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じる多層干渉膜や回折格子などを使用したOVD(Optically Variable Device)の開発が進められている。これらOVDは立体画像やカラーシフトといった独特な印象を与えるため、優れた装飾効果を有しており,各種包装材や絵本、カタログ等の一般的な印刷物に利用されてきた。
また、OVDの製造には高度な製造技術を要することから、有効な偽造防止手段としてクレジットカード、有価証券、証明書類等の一部、あるいは全面に形成され使用されてきた。最近では、有価証券以外にもスポーツ用品やコンピュータ部品などの電気製品、各種のソフトウェアが記録されたCDやDVDなどに貼り付けられ、その製品の真正さを証明する認証シールや、それら商品のパッケージに貼りつけられる封印シールとしても広く使われるようになってきた。
【0003】
これら認証シールや封印シールは、一度剥がしてから、偽物の商品に貼り替える不正な再使用がなされるため、剥がすと破壊する貼り替え防止シールが提案されてきた。
例えば、シールの層間に脆質な層を設け、剥がすとその部分から破壊する構成(特許文献1)や、層間に接着力の弱い部分、強い部分を設け、剥がすと弱い部分が剥がれて壊れる構成(特許文献2)などが提案されている。しかしながらこれらの構成であっても有機溶剤を粘着剤層に含浸させながら剥がす手法を防止することは不可能であった。この手法を防止するため、シール表面に有機溶剤で発色する層を設ける提案がなされている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平05−31671号公報
【特許文献2】特開平08―152842号公報
【特許文献3】特開平10−268772号公報
【0005】
特許文献3に記載されている構成は、有機溶剤で剥がそうとすると、表面が発色してしまい、シールが剥がれたとしても、そのまま再使用は不可能である。しかしながら、シールを剥がした後、表面の発色層を溶剤で完全に落とし、元のシールと同色の印刷を施せば、再使用可能となってしまうという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、有機溶剤を用いてシールを剥がそうとしてもその痕跡が残り、且つ、その痕跡を除去することを不可能とすることにより、上記のような再使用を完全に防止できる貼り替え防止シールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、高分子樹脂材料からなる支持体上に、少なくともOVD層と
粘着剤層とがその順に形成された貼り替え防止シールにおいて、該OVD層と該粘着剤層の間に有機溶剤によって溶解する染料あるいは分散する顔料を含有してなる溶剤溶解層を有することを特徴とする貼り替え防止シールである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記OVD層の一部あるいは全部に光透過性部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の貼り替え防止シールである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記支持体と前記OVD層とを貫通し、前記溶剤溶解層に達する切込みを設けたことを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の貼り替え防止シールである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記支持体と前記OVD層間の一部あるいは全部に支持体から剥がれやすい高分子樹脂材料からなる剥離層を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の貼り替え防止シールである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記OVD層と前記溶剤溶解層の層間の一部にOVD層と剥がれやすい高分子樹脂材料からなる第二の剥離層を設けたことを特徴とする請求項4に記載の貼り替え防止シールである。
【0012】
請求項6に記載の発明は、前記溶剤溶解層に含まれる染料あるいは顔料が有機溶剤に溶解可能あるいは分散可能な紫外線励起可視光発光材料あるいは赤外線励起可視光発光材料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の貼り替え防止シールである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、溶剤を使用して認証シールなどを剥し、不正な再使用をすることは不可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の構成を示す断面図
【図2】図1に示した本発明のシールを有機溶剤で剥がした際に、溶剤溶解層が着色する状況の概念を示す断面図
【図3】貼り替え防止シールの構成例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
請求項1に記載の発明により、有機溶剤で溶解する染料あるいは顔料を含有する層が粘着剤層とOVD層の間に設けられているため、有機溶剤を粘着剤に染み込ませて剥がそうとすると、溶剤溶解層の染料あるいは顔料が溶解あるいは分散し、OVD層に染料あるいは顔料により着色するため、溶剤剥しを試みた痕跡がのこる。剥がした後に、その部分を除去しようと有機溶剤で拭いても、OVD層も溶けてしまい、その痕跡だけを除去することは不可能である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、OVD層の一部に光透過部分を設けることで、上記の染料、顔料の溶解あるいは分散した痕跡を確認し易くしたものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、切込みを入れることで溶解した染料、分散した顔料が切込み部分から各層に浸透しやすくなり、より確認し易くし、浸透した部分を取り除くことを困難とする構成である。
【0018】
請求項4、5に記載の発明は、特定の層間が剥がれ易く、壊れ易いため、有機溶剤で剥
がそうとした場合に、十分に有機溶剤を粘着剤層に染み込ませる必要がある。それゆえ染料、顔料が溶解あるいは分散しやすくなり、その痕跡が大きくなるため、確認し易くなる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、紫外線あるいは赤外線を照射し、そのときの発光で溶剤剥がしの痕跡を確認できる構成である。有機溶剤剥しを試みた不正使用者には悟られず、その不正利用されたシールを検知することができる。
以下、図を用いて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
図1に示した貼り替え防止シールは、支持体1、OVD形成層3aとOVD効果層3bからなるOVD層3、溶剤溶解層5、 粘着剤層6を順次積層してなっている。 図2にはこのシールが物品(被着体)に貼られた後に、剥がそうとして有機溶剤をシールに染み込ませたときの痕跡を示した図で、溶剤溶解層5に含まれる染料あるいは顔料が溶解あるいは分散し、OVD層に染み込んだ状態を示している。
【0021】
支持体1はシール加工時における熱圧着で軟化変形しない耐熱性と強度を有する透明なフィルムであれば良く、その材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の合成樹脂や天然樹脂などが挙げられ、その厚みは、操作性、加工性を考慮し16〜100μm程度のものが好ましい。
【0022】
次にOVD層3に関して説明する。OVDとは光の干渉や回折を利用した光学的素子であり、立体画像の表現や見る角度により色が変化するカラーシフトを生じる機能を備えている。その中でもレリーフ型ホログラム(回折格子)や多層干渉膜で作製したものが一般に広く利用されている。
【0023】
まず、レリーフ型ホログラム(回折格子)であるが、ホログラムの凹凸パターンをOVD形成層3aに型を熱圧着して成型することによって得られるため、熱成型性が必要であり、熱成型可能な高分子樹脂材料が使用される。
【0024】
OVD効果層3bはOVDの回折効率を高めるためレリーフ面を構成する高分子材料と屈折率の異なる材料からなる。用いる材料としては、屈折率の異なるTiO、Si、SiO、Fe、ZnS、などの高屈折率材料や、より反射効果の高いAl、Sn、Cr、Ni、Cu、Au等の金属材料が挙げられ、これら材料を単独あるいは積層して使用できる。これらの材料は真空蒸着法、スパッタリング等の公知の薄膜形成技術にて形成され、その膜厚は用途によって異なるが、50〜10000Å程度で形成される。またこれら以外の手法として、金属の鱗片を分散した塗料をコーティングして設ける手法も挙げられる。
【0025】
上記において高屈折材料を用いた場合は光透過性反射膜となるため、溶剤溶解層5の変化を観察し易いが、上記金属材料を用いた場合には、光を透過しないため、OVD効果層3bを部分的に設け、一部分に光透過部分を作り、溶剤で溶解あるいは分散した染料あるいは顔料を確認し易くすることが好ましい。(図1参照)
【0026】
一方、多層薄膜方式のOVDは、異なる光学特性を有する多層薄膜層からなり、金属薄膜、セラミックス薄膜またはそれらを併設してなる複合薄膜として積層形成される。例えば屈折率の異なる薄膜を積層する場合、高屈折率の薄膜と低屈折率の薄膜を組み合わせても良く、また特定の組み合わせを交互に積層するようにしてもよい。これらは、屈折率、反射率、透過率等の光学特性や耐候性、層間密着性などに基づき適宜選択され、薄膜とし
て積層され多層干渉膜を形成する。形成方法としては、膜厚、成膜速度、積層数、あるいは光学膜厚(=n・d、n:屈折率、d:膜厚)などの制御が可能な、通常の真空蒸着法、スパッタリング法にて形成される。
【0027】
溶剤溶解層5は各種有機溶剤に可溶で、水に溶解あるいは分散しない染料あるいは顔料を、水で溶解した高分子樹脂、あるいは水分散型高分子樹脂(エマルジョンインキ)に分散し用いられる。この場合、粘着剤層と同じ溶解性あるいは分散性をもつ染料あるいは顔料が適宜選択され、その添加量は、染料あるいは顔料の溶解性あるいは分散性によって異なるが、樹脂に対し1〜50%程度添加することが好ましい。このインキを用いて種々のコーティング法、印刷法にて1〜20μm程度形成される。また、染料あるいは顔料を複数種添加することや、分散した状態での色を隠すため白色顔料を添加することも可能である。
【0028】
粘着剤層6は、OVDシールを被着体に貼りつけ、固定するための層であり、圧力により接着させる感圧タイプの粘着剤が使用される。例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、等ゴム系接着剤、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が挙げられる。水系のインキであれば直接コーティング可能であるが、溶剤系のインキの場合であれば、予め離型紙(セパレーター)に10〜50μm塗布し、十分に乾燥して溶剤成分を除去してから貼りあわせる。
【0029】
次に図3に示した請求項5に記載の本発明のシールの構成に関して説明する。
本発明のシールの構成は各層間に剥がれやすい部分を設け、無理に剥がそうとすると破壊する構成となっており、粘着剤層に十分に有機溶剤を染み込ませないと剥がすことができないように設計されている。
それゆえ、溶剤剥がしの痕跡が大きくなり、確認し易い構成である。
【0030】
この構成の特徴は層間で剥がれやすい剥離層2および第二剥離層4を設けたことにある。
この構成においては層間接着強度(剥離強度)のバランスが重要であり、以下の条件を満たすことが必要である。各層間の接着強度(剥離強度)を以下のように定義すると、接着強度(剥離強度)のバランスは、B)<A)<C)となる必要がある。
A)支持体1と剥離層2間の剥離強度
B)OVD効果層3bと第二剥離層4間の剥離強度
C)粘着剤層6と貼り付けられる物品間の接着強度
【0031】
これら剥離層は高分子樹脂材料が用いられ、各種コーティング法、印刷法によって0.1〜10μm程度設けられる。
【実施例1】
【0032】
本発明を、具体的な実施例をあげて詳細に説明する。
まず、厚み38μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る支持体1に以下の工程にて、各層を設けた。
1)OVD形成層をグラビア法にて2μm塗布。
2)ロールエンボス法によりOVDレリーフパターンを形成。
3)真空蒸着法にて0.05μmの酸化チタンの蒸着薄膜層(OVD効果層)を形成。
4)溶剤溶解層をグラビア法にて5μm塗布。
5)粘着剤層を20μm塗布した離型紙(セパレーター)を貼り合わせ。
以上の工程にて本発明の貼り替え防止シールを作製した。
[OVD形成層塗料]
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 …15部
ウレタン樹脂 …10部
メチルエチルケトン …50部
トルエン …25部
[溶剤溶解層塗料]
アクリル系エマルジョンインキ …70部
赤色染料 …3部
染料をインキ中に十分分散し用いた。
[粘着剤層塗料]
アクリル系粘着剤 …40部
イソシアネート硬化剤 …5部
酢酸エチル …45部
トルエン …10部
【実施例2】
【0033】
厚み38μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る支持体に以下の工程にて、各層を設けた。(図3参照)
1)剥離層をグラビア法にて2μm塗布
2)OVD形成層をグラビア法にて2μm塗布
3)ロールエンボス法によりOVDレリーフパターンを形成
4)真空蒸着法にて0.05μmの酸化チタンの蒸着薄膜層(OVD効果層)を形成
5)第二剥離層をグラビア印刷法にて部分的に1μm設けた。
6)溶剤溶解層をグラビア法にて5μm塗布
7)粘着剤層を20μm塗布した離型紙(セパレーター)を貼り合わせ
以上の工程にて本発明の図3に示した貼り替え防止シールを作製した。
尚、[OVD形成層塗料]、[溶剤溶解層塗料]、 [粘着剤層塗料]は実施例1と同じものを用いた。
[剥離層および第二剥離層塗料]
アクリル系樹脂 …10部
酢酸エチル …60部
トルエン …30部
【0034】
<比較例>
比較例として<実施例1>の材料を用いて、溶剤溶解層を除いたシールを作製した。
以上得られたシールをアクリル板に貼り付け常温にて24時間放置後、有機溶剤(アセトン)を用いてシール剥がしを試みた。
表1にその結果を示す。
【表1】

【0035】
このように本発明のシールに有機溶剤を染み込ませて剥がそうとしても、染料あるいは顔料が溶解あるいは分散してしまい、不可逆的な変化を起こし、再使用不可能となる。特に実施例2の構成においては十分に有機溶剤を染み込ませないと壊れてしまうため染料の発色が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の貼り替え防止シールは、スポーツ用品やコンピュータ部品等の電気製品、ソフトウエアー等の封印シール、承認シールとしてブランドプロテクション用途に利用ができる。また、本実施例のように酸化チタンのような光透過性反射層を用いた構成では、シールの下の絵柄が確認できるため、パスポートやIDカードの情報書き換えを防止するシールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 支持体
2 剥離層
3 OVD層
3a OVD形成層
3b OVD効果層
4 第二剥離層
5 溶剤溶解層
6 粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂材料からなる支持体上に、少なくともOVD層と粘着剤層とがその順に形成された貼り替え防止シールにおいて、該OVD層と該粘着剤層の間に有機溶剤によって溶解する染料あるいは分散する顔料を含有してなる溶剤溶解層を有することを特徴とする貼り替え防止シール。
【請求項2】
前記OVD層の一部あるいは全部に光透過性部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の貼り替え防止シール。
【請求項3】
前記支持体と前記OVD層とを貫通し、前記溶剤溶解層に達する切込みを設けたことを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の貼り替え防止シール。
【請求項4】
前記支持体と前記OVD層間の一部あるいは全部に支持体から剥がれやすい高分子樹脂材料からなる剥離層を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の貼り替え防止シール。
【請求項5】
前記OVD層と前記溶剤溶解層の層間の一部にOVD層と剥がれやすい高分子樹脂材料からなる第二の剥離層を設けたことを特徴とする請求項4に記載の貼り替え防止シール。
【請求項6】
前記溶剤溶解層に含まれる染料あるいは顔料が有機溶剤に溶解可能あるいは分散可能な紫外線励起可視光発光材料あるいは赤外線励起可視光発光材料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の貼り替え防止シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22236(P2011−22236A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165367(P2009−165367)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】