説明

質量分析システムおよび分析方法

マイクロチップ(353)に形成された流路において予め試料を複数の成分に分離した後、分離方向に沿って流路にレーザー発信器(361)からレーザー光を照射し、流路で分離された各画分を順次イオン化する。イオン化されたフラグメントを質量分析部(363)にて検出し、分析結果解析部(371)にて解析する。解析結果は、駆動機構制御部(367)における位置情報、レーザー制御部(373)におけるレーザー光照射条件の情報と関連づけられて記憶部(369)に保存され、イメージ化部(375)にてイメージ化される。イメージ化された解析結果は、ディスプレイ(377)に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、質量分析システムおよび分析方法に関する。
【背景技術】
細胞等の生体試料やタンパク質、核酸など生体物質の分析では、分析に先立ち試料をあらかじめ分離精製する操作や、試料をサイズや電荷に応じて分離する操作が行われる。たとえば、プロテオミクス解析において、分離された成分の解析には、通常、質量分析が用いられている。質量分析に供する試料に含まれる成分がタンパク質、核酸、多糖等の生体成分である場合、従来は生体試料から目的成分をあらかじめ単離する必要があった。たとえば、複数の成分が含まれる試料の解析を行う場合、試料を精製し、二次元電気泳動法などによって成分毎に分離を行い、分離された各スポットから各成分を回収し、回収した成分を用いて質量分析用の試料を作製していた。このため、分離過程と試料作製過程とを別々に行う必要があり、操作が煩雑であった。
こうした操作の煩雑さを解消することを目的として試料中の成分の分離と質量分析を効率よく行う方法が検討されている(特許文献1、2)。特許文献1および2には、電気泳動を行う電気泳動管(キャピラリーチューブ)と質量分析を行うためのイオン化部とを一体化し、電気泳動と質量分析を連続的に行うようにした質量分析装置が記載されている。しかしながらこの種の装置では、電気泳動管から回収された成分について逐一質量分析をすることが必要となるため、分析効率の点で改善の余地を有していた。また、装置構成が大がかりなものになり、省スペース化の観点からも改善の余地を有していた。
一方、近年、生体由来物質の分離または分析機能をチップ上に具備するマイクロチップの研究開発が活発に行われている。特許文献3には、マイクロチップを用いた質量分析方法が記載されている。この方法は、基板の底面に吸着剤を結合させたプローブを設けておき、基板とサンプルを接触させることによりサンプル中の特定の成分を吸着剤に吸着させて成分の分離を行った後、プローブごとに質量分析を行う方法である。
ところが、特許文献3に記載の方法では、試料中のそれぞれの成分について対応する吸着剤を選定し、選定した吸着剤を固定化したプローブ基板を作製する必要があった。また、プローブ上に試料をスポットした後、不要な成分を洗浄除去する必要があった。また、その後、吸着した成分のイオン化をプローブごとに順次行い、質量分析を行っていた。このため、試料の分離と分析とが連続的でなく、操作も比較的煩雑であった。
【特許文献1】 特開平5−164741号公報
【特許文献2】 特許第2572397号明細書
【特許文献3】 特開2001−281222号公報
【発明の開示】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、試料の分離および質量分析を効率的に精度よく行う技術を提供することにある。
本発明によれば、試料の通る流路および該流路に設けられた試料分離領域を有するマイクロチップと、前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射する光照射手段と、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得る解析手段と、を備えることを特徴とする質量分析システムが提供される。
本発明の質量分析システムは、試料分離領域に分離された試料を直接イオン化し、そのフラグメントを分析するように構成されている。このため、本発明の質量分析システムによれば、マイクロチップ上の位置Aと分子量Bの2つのパラメータによる2次元プロファイルを得ることができる。図82(a)、図82(b)は、こうした2次元プロファイルの例である。この例では、後述するように、試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射して質量分析を行い、マイクロチップ上の位置Aおよび分子量Bに基づく2次元プロファイルを得ている。
このようなプロファイルを利用すれば、質量分析によって成分の同定を行うことなく様々な情報を得ることが可能となる。たとえば、被験者の血液を分析し、ある病気のスクリーニングを行うにあたって、健康な人のプロファイルおよび罹患した人のプロファイルを参照データとし、被験者の血液から得られた2次元プロファイルを対照することにより、成分分析をすることなくスクリーニングを行うことが可能である。
また、本発明の質量分析システムにおいては、試料が、試料分離領域において、その特性にしたがって分離される。そして、試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながら分離された試料にレーザー光を照射し、質量分析を行うことができる。このため、分離された試料を分離された位置から移動させることなくイオン化し、質量分析を行うことができる。よって、分離された試料を分離された位置から抽出する過程が不要となるため試料の損失が生じず、試料が少量である場合にも、確実に分離を行い、高い精度で質量分析を行うことができる。なお、本発明において、「試料分離領域に沿って光照射位置を移動させる」とは、試料分離領域に対するレーザーの相対的位置を移動させることをいい、レーザー光の照射方向または照射角度を変更することも含む。
このように、本発明に係る質量分析システムによれば、試料分離領域に沿って直接レーザー光を照射して試料をイオン化し、質量分析を行うことができるため、試料分離領域に分離された各成分の質量分析スペクトルを効率よく取得することができる。
また、本発明の質量分析システムにおいて、前記解析手段は、前記光照射位置と該光照射位置に対応する前記質量分析データとを関連づけて記憶するデータ記憶部を備えていてもよい。
こうすることにより、各成分の分離位置と、その成分の質量分析スペクトルとを組み合わせて効率よく解析を行い、成分ごとのスペクトル特性を網羅的に取得することができる。よって、取得された情報に基づき、試料中の成分の同定等を精度よく迅速に行うことができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域は、前記試料の分子量、等電位点または表面の疎水性に応じて前記試料を分離し、前記光照射手段は、前記試料分離領域中に分離された前記試料に沿って前記光照射位置を移動させながら前記レーザー光を照射するように構成されてもよい。こうすることにより、複数の成分を含む試料を成分の特性に従って確実に分離し、質量分析を行うことができる。また、成分の特性と各成分の質量分析スペクトルとを組み合わせて効率よく解析することができるため、成分の同定等を迅速に行うことができる。
以上述べた質量分析システムにおいて、試料が試料分離領域において質量分析に適した形態で分離されるように構成することが重要な技術的課題となる。たとえば、試料分離領域にレーザー光を照射した際、試料分離領域の構成部材がイオン化されないようにすることが望ましい。また、レーザー光を照射した際、試料が速やかにイオン化され、フラグメントが質量分析装置内部に円滑に移動するような装置構成となっていることが望ましい。こうした観点からは、従来用いられている流路中にポリマーゲルを充填した試料分離領域は、ポリマーゲルの一部がレーザー照射によりイオン化すること、また試料由来のフラグメントが効率よく放出されないこと等の問題があり、本発明の試料分離領域として用いるには、必ずしも適しているとはいえない。すなわち、本発明においては、従来の分離装置に用いられている構成とは異なる観点から試料分離領域の設計を行うことが重要となる。こうした試料分離領域を採用することにより、試料分離に係るマイクロチップ上の位置Aと質量分析に係る分子量Bの2つのパラメータを含む多角的なデータが精度良く得られ、従来にない新規な分析を実現することができる。以下、本発明の原理による質量分析に適した構成の試料分離領域の構成について説明する。
本発明の質量分析システムにおいて、前記流路が基板の表面に設けられており、前記試料分離領域は複数の柱状体を有することができる。こうすると、隣接する柱状体間の間隙が篩としての役割を果たす。本発明においてはこのような方式により試料分離が行われるので、たとえば核酸やタンパク質等、従来では分離困難であったさまざまな微小サイズの物質を分離、分別することができる。なお本発明において、複数の柱状体とは、分離機能を発揮することが可能である程度の数の柱状体のことをいう。
また、試料分離領域を柱状体とすることにより、分離された試料にレーザー光を照射して、効率よくイオン化することができる。このとき、電気泳動等、ゲルやビーズ等の充填剤を用いる従来の分離方法に比べ、分離時には液体試料が分離用流路内に保持されて乾燥が抑制されるとともに、レーザー光照射時の気化がスムーズに行われる。また、充填剤を用いた場合、充填剤がイオン化することにより測定精度が顕著に低下する場合がある。本発明に係る柱状体を用いる構成によれば、こうした問題を解消することができ、精度の高い分析が可能となる。また、試料由来のフラグメントが試料分離領域から効率よく放出され、この点からも分析の高精度化が図られる。さらに、この構成によれば、柱状体の間隔や配置を適宜に設計することにより、たとえばタンパク質等のうち、比較的サイズの大きい分子も測定可能となる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域は、複数の前記柱状体が配設された柱状体配設部を複数含み、隣接する前記柱状体配設部間に前記試料が通過するパスが設けられた構成とすることができる。こうすることにより、被分離対象となる物質の大きさが小さいほど、試料分離領域中で柱状体にトラップされ、長い経路を通ることになる。すなわち、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。よって、核酸やタンパク質等の分離に好適に適用できる。このため、これらを含む試料の質量分析をさらに確実に行うことができる。このような構成を採用した場合、サイズの大きい成分とサイズの小さい成分が混在した試料を測定対象とした場合でも、試料中の各成分が試料分離領域で好適に分離される。この結果、一度の分析で効率良く分析データを得ることができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記パスの幅は、前記柱状体配設部中の前記柱状体間の平均間隔よりも大きくすることができる。このようにすると、大きいサイズの物質は試料分離領域中のパスの部分を円滑に通過するとともに、小さいサイズの物質は柱状体配設部を通り、そのサイズに応じて長い経路を経た末に試料分離領域を通過する。
本発明の質量分析システムにおいて、平面配置が略菱形になるように複数の前記柱状体配設部が組み合わせて配置され、それぞれの前記柱状体配設部の平面配置が略菱形となるように、前記柱状体が配置されていてもよい。こうすることにより、さらに分離能を向上させることができる。
また、本発明の質量分析システムにおいて、複数の前記柱状体の密度が、前記流路中の前記試料の進行方向に向かって次第に高くなっていてもよい。このようにすることにより、柱状体配設部に捕捉された分子の柱状体配設部における滞在時間が長くなるため、柱状体配設部に捕捉されない分子との保持時間の差が顕著となる。そのため、分離能の向上を図ることが可能となる。
また逆に、本発明の質量分析システムにおいて、複数の前記柱状体の密度が、前記流路中の前記試料の進行方向に向かって次第に低くなっていてもよい。この場合、柱状体配設部における目詰まりが抑制されるため、スループットの向上を図ることができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域と、前記試料分離領域よりも前記柱状体が疎に形成された調整領域とが、前記流路中の前記試料の進行方向に対して交互に形成された構成とすることができる。このような構成とすれば、分離された各バンドの形状をより一層直線的にすることができる。よって、バンドの濃縮が可能となり、各バンドの質量分析を行った際に、精度よく検出することができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記柱状体の表面に金属層が設けられていてもよい。また、本発明の質量分析システムにおいて、前記柱状体は金属により構成されてもよい。柱状体の少なくとも表面を金属とすることにより、柱状体の表面に表面プラズモン波が発生するため、試料のイオン化効率が向上する。また、柱状体の表面に強電界を発生させることができる。このため、イオン化した試料の引き出し効率を向上させることができる。なお、この場合において、柱状体の断面形状が、頂部よりも底部において幅広となっていることが好ましい。こうすれば、柱状体の頂部に電界を集中させ、イオン化した試料の引き出し効率をより一層向上させることができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記レーザー光は、赤外光レーザーまたは紫外光レーザーであってもよい。こうすることにより、比較的分子サイズの大きいタンパク質や核酸等の生体高分子をより一層確実にイオン化することができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域は複数の凹部を有する構成とすることができる。このような構成とすると、被分離対象となる物質のサイズが小さいほど、試料分離領域中で凹部にトラップされ、長い経路を通ることになる。すなわち、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過するので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。特に核酸やタンパク質等の分離においては、分子の慣性半径もきわめて広い範囲に及ぶため、巨大サイズの物質が目詰まりしやすく、また、いったん、こうした物質が目詰まりすると、洗浄しても脱離させることが困難となる。本発明によれば、このような問題が解決されるため、核酸やタンパク質等の分離に好適に適用できる。
また、本発明において、複数の凹部とは、分離機能を担保しうる程度の数の凹部のことをいう。本発明においては、この凹部の開口部最大径をきわめて狭く設定することもできる。この場合、従来では予想すらできなかったさまざまな物質を分離、分別することができる。たとえば核酸やタンパク質の分離に際しては、上記凹部が数百ナノメートルオーダー以下の微小な開口部を有することが望まれる。
開口部の形状は、例えば円形、楕円形、多角形などいずれでもよく、特に制限されない。本発明において凹部の開口部最大径とは、開口部の一点と他の一点とを結んでできる任意の直線のうち最も長い直線の長さをいう。また、本発明において凹部の深さ方向は必ずしも重力と同じ方向である必要はない。たとえば流路壁面に水平方向に凹部が設けられていてもよい。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域中に、複数の前記凹部が設けられた突起部を具備する構成とすることができる。こうすることにより、凹部を有する表面の面積を増大させることができるため、分離能が向上する。
本発明の質量分析システムにおいて、陽極酸化法により前記凹部が形成された構成とすることができる。陽極酸化法によれば、所望のサイズの凹部および凹部の間隔を有する試料分離領域が少ない工程で実現できる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の内壁の表面が親水化された構成とすることができる。また、本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の内壁の表面が撥水化された構成とすることができる。こうすることにより、試料成分の流路内壁への非特異的な吸着を抑制することができる。このため、試料の損失や分離精度の低下を抑制し、良好な分離能を発揮することができる。また、試料の損失が抑制されるため、質量分析の精度を向上させることができる。
たとえば、本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の内壁の表面に親水性物質を付着させることにより、前記流路の内壁が親水化されていてもよい。
また、本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の表面にシリコン熱酸化膜を形成することにより、前記流路の内壁が親水化されていてもよい。熱酸化膜を形成することにより、試料の流路壁への非特異的な吸着が抑制される。また、レーザー光を照射した際の、試料分離流路表面に付着した親水性物質のイオン化が抑制される。このため、質量分析のバックグラウンドを減少させ、測定精度をさらに向上させることができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域の表面は、離間して配置された複数の第一の領域と、該第一の領域を除く前記試料分離領域の表面を占める第二の領域と、を有し、前記第一の領域および前記第二の領域のうち、一方が疎水性領域であり、他方が親水性領域であってもよい。具体的には、
(i)第一の領域を疎水性領域とし、第二の領域を親水性領域とする構成
(ii)第一の領域を親水性領域とし、第二の領域を疎水性領域とする構成
のいずれかを採用することができる。なお、本発明における親水性領域とは、疎水性領域よりも親水性が高い領域のことをいう。親水性の程度はたとえば水接触角の測定により把握することができる。
以下、本発明における試料の分離の原理について、上記(i)の場合を例に挙げて説明する。この場合、分離対象となる試料を、比較的親水性の高い溶媒中に溶解または分散させた状態として流路内に導入する。このような溶媒は、試料分離領域において、疎水性領域(第一の領域)の表面を避け親水性領域(第二の領域)にのみ分布する。したがって、疎水性領域の間隙部が分離対象となる試料の通過する経路となり、この結果、疎水性領域間の間隔と試料のサイズとの関係によって試料分離領域の通過に要する時間が決定されることとなる。これにより、サイズに応じて試料の分離がなされる。
また、本発明においては、サイズに応じた分離のほか試料の極性に応じた分離もなされる。すなわち、親水性/疎水性の程度の異なる複数種類の試料を分離することができる。上記(i)の例では、疎水性の高い試料は疎水性領域に捕捉されやすく流出時間が比較的長くなる一方、親水性の高い試料は疎水性領域に捕捉されにくく、流出時間が比較的短くなる。このように本発明は、試料のサイズだけでなく極性をも含めた分離がなされ、従来では分離困難であった多成分系の分離を実現することができる。
本発明の場合、障害物となる構造体により分離を行う方式とは異なり、流路表面に設けられた試料分離領域を分離手段とする。たとえば従来用いられている膜分離の場合は膜中の細孔の大きさを精度良く制御することが必要となるが、所望のサイズ、形状の細孔を有する膜を安定的に製造することは必ずしも容易ではない。これに対し本発明は、流路の表面処理により試料分離領域を形成することができ、第一の領域の間隔を制御することによって所望の分離性能が得られるため、分離目的に応じた適切な構成を比較的容易に実現することができる。
たとえば、本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の表面の少なくとも一部に、開口部を有するマスクを設けた後、該開口部から前記流路表面に親水基を有する化合物を堆積し、次いで該マスクを除去することにより、前記親水性領域が配置された前記試料分離領域が形成されてもよい。この場合、マスク開口幅を調整することで容易に疎水領域間の間隔を調整できる。すなわち、分離目的に応じて疎水領域間の間隔を適宜に調整し、分離目的に応じた試料分離領域の構成とすることができる。特に、タンパク質やDNAの分離においては、巨大サイズの物質の分離からナノオーダーの物質の分離まで、様々なサイズの物質の分離が求められる。このうちナノオーダーの物質を高い分離能で短時間のうちに分離を行うことは、従来技術ではきわめて困難であった。本発明においては、第一の領域間の間隔を狭くすることで分離サイズを狭くすることができる。第一の領域間の間隔は、微細加工技術を利用することにより容易に実現できることから、ナノオーダーサイズの物質の分離を好適に実現することができる。また、本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の表面の少なくとも一部に、開口部を有するマスクを設けた後、該開口部から前記流路表面に疎水基を有する化合物を堆積し、次いで該マスクを除去することにより、前記疎水性領域が配置された前記試料分離領域が形成されてもよい。
またこの構成とすれば、少量の試料で短時間に分離を行うことができる。本発明による分離は、試料分離領域の表面特性によって分離を行うものであるので、精密な分離を実現できる上、試料のロスが少ないので、少量の試料でも充分に高い分解能を実現でき、また、優れた分解能を実現することができる。さらに本発明においては、試料を通過する流路の表面特性によって分離が行われるため、目詰まり等の問題が少ない。また、使用後、試料分離領域の表面に洗浄液を流す等の方法によってきわめて容易に洗浄することができる。
本発明においては、隣接する第一の領域間の距離と、液体に含まれる分離対象の試料サイズとの関係により、様々な機能の分離を実現することができる。試料サイズが上記距離よりも大きい場合、試料分離領域は試料濃縮装置としての機能を果たす。試料分離領域はフィルタとして作用し、試料分離領域上流側で当該試料が堰き止められる。この結果、試料分離領域の上流側において試料が高濃度に濃縮される。一方、試料サイズが上記距離よりも小さい場合、試料分離領域は試料分別機能を果たし、試料分離領域中において、サイズや親水性の程度等に応じて試料が分別される。この結果、試料分離領域下流側に、分別された試料が流出することとなる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域を複数備えた構成とすることができる。こうすれば、試料分離領域の設計の自由度がさらに広がり、試料に最適な試料分離領域の形状を選定することができる。このため、分離能をより一層向上させることができる。たとえば、本発明の質量分析システムにおいて、前記複数の試料分離領域がストライプ状に配置されていてもよい。
本発明の質量分析システムにおいて、前記疎水性領域は、疎水基を有する化合物を含む膜により構成されてもよい。また、前記疎水基を有する化合物は、疎水基を有するシランカップリング剤であってもよい。また、シリコーン化合物であってもよい。
本発明の質量分析システムにおいて、ポリジメチルシロキサンブロックを親水性の前記流路の表面に接触させることにより、前記疎水性領域が形成された構成とすることができる。ポリジメチルシロキサンのブロックを流路の表面に接触させると、被接触部を選択的に疎水化することができる。このため、疎水性領域を確実かつ簡便に形成することができる。
また、本発明の質量分析システムにおいて、液状シリコーン化合物を親水性の前記流路の表面に印刷することにより、前記疎水性領域が形成された構成とすることができる。ここで、液状シリコーン化合物として、たとえばシリコーンオイルを用いることができる。この方法によれば、簡便な工程で、疎水表面および親水表面の混在したパターンを形成することができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記親水性領域は、親水基を有する化合物を含む膜により構成されてもよい。また、前記親水基を有する化合物は、親水基を有するシランカップリング剤であってもよい。
本発明の質量分析システムにおいて、前記流路が複数設けられ、これらの前記流路と交差する液体試料導入用流路が設けられた構成とすることができる。このような構成とすれば、1箇所に試料を導入することにより上記複数の流路に試料を導入することが可能であるため、分析の効率を大幅に向上させることができる。ここで、流路および液体試料導入用流路が交差する箇所と試料分離領域との間に、複数の柱状体が配設されている構成としてもよい。この場合、試料中の分子は、複数の柱状体が配設されている領域を経由して分離領域に至る。このため、流路に流れ込む分子のサイズを制限することが可能になる。よって、所望のサイズの分子についての質量分析を迅速かつ正確に実現することができる。
本発明の質量分析システムにおいて、柱状体が一列に配設された堰止部をさらに有することができる。こうすることにより、拡散した試料を当該堰止部に隣接する一定の領域に集積することが可能である。分離に先立ち、試料を一定の領域に集積し、試料のバンドを細くすることができるので、分離能の向上が可能である。
本発明の質量分析システムにおいて、前記堰止部が前記試料分離領域に隣接して配設されていてもよい。こうすれば、試料が試料分離領域を通過する前に、試料のバンド幅を細くすることができるため、分離能が向上する。そのため高精度の分離を実現することが可能である。また、分離した試料のバンド幅も細くなるため、分離された試料を濃縮することができる。このため、質量分析測定をより一層確実に行うことができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域が、スリットを介して複数に分割された構成とすることができる。スリットは単一または複数のいずれでもよい。このような構成とすることにより、検出部でのバンドの形状が直線的となり、検出領域を広げることが可能となり検出感度を向上することができる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料に外力を付与して前記試料を前記流路中で移動させる外力付与手段をさらに備えた構成とすることができる。このようにすれば、外力を負荷する程度に応じて分離精度および分離に要する時間を目的に応じて適切に設定することができる。ここで、外力としては、圧力や電気力を用いることが便利である。大がかりな外力付与部材が不要だからである。
また、毛細管現象を利用して試料を移動させることもできる。こうすれば、外力付与手段を設ける必要がなくなるため、システムの構成を簡素化することができるとともに、分離操作を簡便に行うことができる。このため、分離操作およびこれに引き続いて行われる質量分析操作をさらに効率よく行うことができる。たとえば質量分析を行うチャンバ内で容易に分離操作を行うことができる。また、本発明の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域に微細流路を形成し、前記流路から前記微細流路を経由して前記試料分離領域に、前記試料が毛細管現象により導入されるように構成してもよい。
本発明の質量分析システムにおいて、前記流路の上部が、質量分析用マトリックスを含む薄膜によって被覆されていてもよい。こうすることにより、分離時に流路中の試料が乾燥することを好適に抑制することができる。また、分離後は被覆を除去せずにレーザー光を照射すればよく、試料に予めマトリックスを混合したり、試料の分離後、試料分離領域にマトリックスを添加したりする操作が不要となる。
本発明によれば、基板と、該基板上に試料吸着用粒子を付着させ、試料を特定の性状にしたがって展開するようにした試料分離領域と、前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射する光照射手段と、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得る解析手段と、を備えることを特徴とする質量分析システムが提供される。本発明において、展開とは、試料の性状にしたがって、試料分離領域に試料を分布させることをいい、分離は展開の一態様である。
基板に試料吸着用粒子を付着させた試料分離領域は、流路中に微細加工を施す場合よりも簡便な方法で容易に形成することができる。そして、たとえば試料を展開するための展開液と試料との親和性に応じて試料を展開することができる。また、試料を極性に応じて展開することも可能となる。このため、試料を確実に分離することができる。また、本発明によれば、試料をある程度乾燥させた状態で分離を開始することができる。このため、試料のバンド幅を細くすることが可能となる。
本発明の質量分析システムにおいて、前記試料吸着用粒子がシリカゲルであってもよい。こうすることにより、試料を吸着用粒子に確実に吸着させながら、展開液の性状に応じて確実に展開することができる。
本発明によれば、試料分離領域を有するマイクロチップを用いて質量分析を行う分析方法であって、試料の特定の性状にしたがって前記試料分離領域に前記試料を分離するステップと、前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射するステップと、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得るステップと、を含むことを特徴とする分析方法が提供される。
また、本発明によれば、試料分離領域を有する基板を用いて質量分析を行う分析方法であって、試料の特定の性状にしたがって前記試料分離領域に前記試料を展開するステップと、前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射するステップと、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得るステップと、を含むことを特徴とする分析方法が提供される。
本発明に係る分析方法においては、分離または展開された試料中の各成分の位置と、その成分の質量分析スペクトルとを組み合わせて解析を行うことができる。このため、成分ごとのスペクトル特性を効率よく網羅的に取得することができる。よって、取得された情報に基づき、試料中の成分の同定等を精度よく迅速に行うことができる。
本発明の分析方法において、試料を分離する前記ステップの後、前記試料を低分子化するステップを含み、第一の質量分析データを得るステップと、試料を分離する前記ステップの後、低分子化する前記ステップを行うことなくレーザー光を照射する前記ステップを行い、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、第二の質量分析データを得るステップと、前記第一の質量分析データおよび前記第二の質量分析データに基づいて前記試料の同定を行うステップと、を含んでもよい。
また、本発明の分析方法において、試料を展開する前記ステップの後、前記試料を低分子化するステップを含み、第一の質量分析データを得るステップと、試料を展開する前記ステップの後、低分子化する前記ステップを行うことなくレーザー光を照射する前記ステップを行い、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、第二の質量分析データを得るステップと、前記第一の質量分析データおよび前記第二の質量分析データに基づいて前記試料の同定を行うステップと、を含んでもよい。
分析に供する試料を分離または展開する前に低分子化する場合、試料中の成分が混合された状態で低分子化されるため、分離または展開された断片が試料中のどの成分由来であるかを判断することが困難であった。これに対し、本発明においては、試料は予め分離または展開された後、試料分離領域中から移動させることなく低分子化されるため、試料中に含まれる成分ごとに、低分子化された断片についての質量分析データを得ることができる。このため、より一層詳細な解析が可能となる。また、分離または展開された試料中の各成分を低分子化することにより得られる第一の質量分析データと、低分子化せずに得られる第二の質量分析データとを組み合わせて試料の同定がなされる。このため、試料中の各成分について、より精度が高く詳細な情報を得ることができる。
本発明の分析方法において、試料を分離する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、分離された前記試料を前記試料分離領域に固定化するステップを含んでもよい。また、本発明の分析方法において、試料を展開する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、展開された前記試料を前記試料分離領域に固定化するステップを含んでもよい。
こうすることにより、分離または展開された位置に試料を固定化した状態でレーザー光を照射することができる。このため、分離または展開された試料の試料分離領域中での拡散が抑制され、分離または展開された位置情報に関する精度を向上させることができる。また、試料を低分子化する際にも、低分子化する前に試料分離領域に固定化しておくことにより、低分子化した試料の拡散が抑制され、より精度の高い情報を取得することが可能となる。
本発明の分析方法において、試料を分離する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、前記試料分離領域に質量分析用マトリックスを噴霧するステップを含んでもよい。また、本発明の分析方法において、試料を展開する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、前記試料分離領域に質量分析用マトリックスを噴霧するステップを含んでもよい。こうすることにより、分離または展開された試料に簡便に質量分析用マトリックスを添加することができる。よって、マトリックス支援型の質量分析を効率よく行うことができる。
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
以上説明したように本発明によれば、試料の分離および質量分析を簡便に精度よく行う技術が実現される。具体的には、成分の同定を行うことなく分析対象についての詳細情報を得ることのできる新規な質量分析方法およびこれを実現するシステムが実現される。
【図面の簡単な説明】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
図1は、本実施形態に係る質量分析システムの構成を示す図である。
図2は、図1の質量分析システムを用いた質量分析方法を示す図である。
図3は、図1の質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図4は、図3のマイクロチップの液溜めの構造を説明するための図である。
図5は、図4のA−A’断面図である。
図6は、図3中の分離用流路の構造を詳細に示した図である。
図7は、図6の分離用流路の断面図である。
図8は、試料の分離方式を説明するための図である。
図9は、マイクロチップに緩衝液を導入する方法を説明する図である。
図10は、マイクロチップに形成されるナノ構造体の断面図である。
図11は、図10に示したナノ構造体の形成方法を説明するための図である。
図12は、図10に示したナノ構造体の形成方法を説明するための図である。
図13は、図10に示したナノ構造体の形成方法を説明するための図である。
図14は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図15は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図16は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図17は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図18は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図19は、マイクロチップの分離用流路の製造方法を説明するための図である。
図20は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図21は、図1の質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図22は、電気浸透流を調節するための補正電圧の印加方法を示す図である。
図23は、図1の質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図24は、マイクロチップに用いるジョイントの具体的な構造を示す図である。
図25は、試料の分離方式を説明するための図である。
図26は、マイクロチップの分離用流路の製造方法を説明するための図である。
図27は、マイクロチップの分離用流路の製造方法を説明するための図である。
図28は、柱状体の配列方法の一例を示した図である。
図29は、柱状体の配列方法の一例を示した図である。
図30は、ピラーパッチの配置を示す平面図である。
図31は、ピラーパッチの配置を示す平面図である。
図32は、柱状体の配列方法の一例を示した図である。
図33は、柱状体の配列方法の一例を示した図である。
図34は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図35は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図36は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図37は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図38は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図39は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図40は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図41は、流路構造の一例を示す図である。
図42は、流路構造の一例を示す図である。
図43は、図3中の分離用流路の構造を詳細に示した図である。
図44は、図3中の分離用流路の構造を詳細に示した図である。
図45は、試料の分離方法を説明するための図である。
図46は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図47は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図48は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図49は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図50は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図51は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図52は、試料分離領域中の凹部の配置を示す図である。
図53は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの凹部の形状を説明するための図である。
図54は、マイクロチップの分離用流路の構成の一例を示す図である。
図55は、マイクロチップの分離用流路の構成の一例を示す図である。
図56は、マイクロチップの分離用流路の構成の一例を示す図である。
図57は、基板への凹部の作製工程を説明するための図である。
図58は、ポーラスアルミナを説明するための図である。
図59は、アルミニウム層の周辺部が絶縁膜で覆われた状態を示す図である。
図60は、本実施形態に係るマイクロチップ中の分離用流路の構造を詳細に示した図である。
図61は、本実施形態に係るマイクロチップ中の分離用流路の構造を詳細に示した図である。
図62は、試料の分離方法を説明するための図である。
図63は、試料の分離方法を説明するための図である。
図64は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図65は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図66は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図67は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図68は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図69は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図70は、マイクロチップの製造方法を説明するための図である。
図71は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの概略構造を示す断面図である。
図72は、マイクロチップの流路の構成の一例を示す図である。
図73は、マイクロチップの流路の構成の一例を示す図である。
図74は、マイクロチップの流路の構成の一例を示す図である。
図75は、ピラーメッシュの機能を説明するための図である。
図76は、本実施形態に係る質量分析システムに用いるマイクロチップの構成を示す図である。
図77は、本実施形態に係る質量分析システムの構成を示す図である。
図78は、図77の質量分析システムの制御方法を説明する図である。
図79は、本実施形態に係る質量分析方法を説明する図である。
図80は、本実施形態に係る質量分析方法を説明する図である。
図81は、本実施形態に係る質量分析により得られたフラグメントパターンの解析方法を説明する図である。
図82は、本実施形態に係る質量分析システムにより得られるフラグメントパターンを示す図である。
図83は、本実施形態に係る質量分析システムの構成を示す図である。
図84は、マトリックス溶液を流路にスプレーする方法を示す図である。
図85は、試料の前処理方法を説明するための図である。
図86は、柱状体の構成の一例を示す図である。
図87は、アルミニウム層の周辺部が導電体層で覆われた状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態において、マイクロチップの全体構成は、図3、図21、図22、図23、図35、図37または図76等の図に示された構成のいずれを採用してもよい。また、本明細書における実施形態中、「ピラー」は柱状体の一形態として示したものであり、円柱ないし楕円柱の形状を有する微小な柱状体をいう。また、「ピラーパッチ」および「パッチ領域」は、柱状体配設部の一形態として示したものであり、多数のピラーが群をなして形成された領域をいう。
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態に係る質量分析システムの構成を示す図である。図1の質量分析システム351では、試料ステージ355上のマイクロチップ353に形成された流路(不図示)にレーザー発信器361からレーザー光が照射され、流路中に分離された試料がイオン化される。このとき、レーザー発信器361から発振されたレーザー光は、レーザー集光機構359によって集光され、マイクロチップ353上の流路に沿って照射される。このため、マイクロチップ353上の流路において予め試料を複数の成分に分離した後、分離方向に沿って流路にレーザー光を照射することにより、分離された各画分を順次イオン化することができる。イオン化されたフラグメントはイオン引出し電極381を通って質量分析部363にて検出される。
流路に沿ってレーザー光を照射する際には、マイクロチップ353を載置する試料ステージ355の位置を調節する駆動機構357によってマイクロチップ353上の流路の位置を移動させる。駆動機構357の動作は駆動機構制御部367によって制御される。駆動機構制御部367は、キーボード379から駆動方法を入力させてもよい。また、レーザー発信器361からのレーザー光照射はレーザー制御部373によって制御される。また、質量分析部363にて検出された信号は、分析結果解析部371にて解析される。
分析結果解析部371における解析結果は、駆動機構制御部367における位置情報、レーザー制御部373におけるレーザー光照射条件の情報と関連づけられて記憶部369に保存され、イメージ化部375にてイメージ化される。イメージ化された解析結果は、ディスプレイ377に表示される。
なお、駆動機構制御部367、分析結果解析部371、レーザー制御部373、記憶部369、およびイメージ化部375は質量分析システムを制御する制御部365に含まれる。
次に、質量分析システム351を用いた質量分析システムの手順について図2を用いて説明する。図2は、図1の質量分析システムを用いた質量分析方法を示す図である。まず、マイクロチップ353上の流路(不図示)で試料を画分に分離した後、試料ステージ355上の試料ホルダ(不図示)にマイクロチップ353をとりつけ(S11)、試料チャンバ(不図示)内を減圧し、真空にする(S12)。
駆動機構357により試料ステージ355の試料ホルダの位置を初期状態とし(S13)、マイクロチップ353上の流路(不図示)上にレーザー光が照射されるように位置決めをする(S14)。そして、レーザー発信器361のレーザー発振を開始し(S15)、マイクロチップ353のZ(高さ)方向の位置調整を行う(S16)。
次いで、マイクロチップ353上の流路(不図示)にレーザー光を照射し(S17)、質量分析を行い(S18)、分析結果解析部371で得られたスペクトルを記憶部369に記憶させる(S19)。そして、試料ステージ355をX方向およびY方向に順次微少量移動させ(S21、S22)、S17〜S19の各ステップを終点まで繰り返す(S20のNO)。
レーザー照射を終点まで行ったら(S20のYES)、レーザー発信器361を停止し(S23)、得られた質量スペクトルをイメージ化部375にてイメージ化する(S24)。そして、各成分についてのイメージに基づき、タンパク質の同定等を行う(S25)。
なお、ステップ18の質量分析において、イオン化の方式はレーザー照射により行う方式であれば、LD(レーザー脱離イオン化)であっても、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)であってもよい。また、イオン化した試料の分離方式に特に制限はなく、TOF(飛行時間型)、その他所定の方法で分離することができる。さらに、ステップ18において、質量分析(MS)にかえて、MS/MSとしてもよい。MS/MSとすれば、より詳細な情報を得ることができる。
マトリックスとしては、シナピン酸、α−CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)、2,5−DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、2,5−DHBおよびDHBs(5−メトキシサリチル酸)の混合物、HABA(2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸)、3−HPA(3−ヒドロキシピコリン酸)、ジスラノール、THAP(2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン)、IAA(トランス−3−インドールアクリル酸)、ピコリン酸、ニコチン酸等を用いることができる。このうち、たとえば試料が未変性タンパク質である場合、マトリックスとして2−DHBを用い、赤外光レーザーを照射してイオン化することが好ましい。こうすれば、試料を確実にイオン化することが可能となり、測定精度が向上する。
マトリックスを用いる場合には、マトリックスとして用いる物質をたとえば所定のタイミングで流路に導入してもよいし、緩衝液等の移動相中に予め添加しておいてもよい。また、試料を分離した後に流路にマトリックス溶液をスプレー等により塗布してもよい。
図84(a)〜図84(c)は、マトリックス溶液を流路にスプレーする方法を示す図である。図84(a)では、金属板383上にマイクロチップ353を設置し、噴霧器385からエレクトロスプレー法によりマトリックス溶液387を噴霧する。エレクトロスプレー法は、細い金属の管に高電圧をかけると、管中の液体が非常に細かい微粒子となって噴霧される現象を利用したスプレー方法である。
噴霧器385と金属板383との間に、たとえば500V〜5kVの電圧を印加し、マイクロチップ353上の流路(図84(a)では不図示)から5mm〜10cm程度離れた位置から噴霧を行うことにより、流路にマトリックス溶液387を噴霧することが可能となる。このときの噴霧量は、たとえば数μL/min程度とすることができる。
図84(b)は、ネブライザーガスの圧力により噴霧器389からマトリックス溶液387を噴霧する方法である。ネブライザーガスとしては、たとえばNやAr等の不活性ガスを用いることができる。
図84(c)は、エレクトロスプレー法とネブライザーガスの圧力とを組み合わせて用いることができる噴霧器399を示す図である。図84(a)の場合と同様にして噴霧器399と金属板383との間に電圧を印加すればエレクトロスプレー法とすることができ、また、電圧を印加せずに、図84(b)の場合と同様にネブライザーガスの圧力によってマトリックス溶液387を噴霧することもできるよう構成されている。さらに、電圧とガスの圧力とを同時に付与して噴霧することもできる。
また、マトリックスをシート状に成形し、流路を被覆してもよい。こうすれば、分離時の試料の乾燥が抑制される。かつ、分離後、流路上部のシートを除去する必要がない。さらに、シートを設けた状態でレーザー光を照射すれば試料とマトリックスとが混合されるため、分離後の試料にマトリックスを添加する操作が不要となる。
以下、図1の質量分析システム351に用いるマイクロチップ353の構成について説明する。質量分析システム351に用いるマイクロチップ353では、流路や試料分離領域をシリコン基板や石英等のガラス基板あるいはシリコン樹脂等の樹脂基板の表面に形成することができる。たとえば、基板の表面に溝部を設け、これを表面部材によって封止し、これらによって囲まれた空間内に流路や試料分離領域を形成することができる。
分離領域には、複数の柱状体が設けられる。柱状体は、たとえば、基板を所定のパターン形状にエッチングすることにより形成することができるが、その作製方法は特に制限はない。
柱状体の形状は、円柱、楕円柱等、擬円柱形状;円錐、楕円錐、三角錐等の錐体;三角柱、四角柱等の角柱のほか、ストライプ状の突起等、様々な形状を含む。柱状体のサイズは、幅はたとえば10nm〜1mm程度、高さはたとえば10nm〜1mm程度とすることができる。
隣接する柱状体の間隔は、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮、
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮、
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮、
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とすることができる。
また、試料分離領域中に一または二以上の柱状体配設部を設けることができる。柱状体配設部は柱状体群を含む。各柱状体配設部中の柱状体群は、互いに異なるサイズ、間隔で任意の配置とすることができる。また、柱状体を同一サイズとしてほぼ等間隔に規則正しく形成してもよい。
隣接する柱状体配設部間の間隔には、試料の通過し得るパスが形成される。ここで、柱状体配設部間の間隔を柱状体間の間隔よりも大きくすると、巨大サイズの分子等を円滑に移動させることができるので、分離効率を一層向上させることができる。
図3は、質量分析装置351の試料ステージ355にマイクロチップ353として設置されるマイクロチップ307の構成を示す図である。基板110上に分離用流路112が形成され、それぞれその両端に液溜め101aおよび液溜め101bが形成されている。分離用流路112には、複数の柱状体(不図示)が配設されており、試料が分離されるようになっている。液溜め101aおよび液溜め101bには電極(不図示)が設けられており、これを用いて分離用流路112の両端に電圧を印加することができる。マイクロチップ307の外形寸法は用途に応じて任意の値が選択されるが、たとえば、図示したように、縦5mm〜5cm、横3mm〜3cmの値とする。
ここで、電極が設けられた液溜めの構造について、液溜め101aを例に図4および図5を参照して説明する。図4は、図3における液溜め101a付近の拡大図である。また図5は、図4におけるA−A’方向の断面図である。図4および図5に示したように、分離用流路112および液溜め101aが設けられた基板110上には、緩衝液を注入できるようにするための開口部802が設けられた被覆801が配設される。被覆801は、液溜め101a、液溜め101bおよび分離用流路112を被覆しておらず、これらの上部は開放されている。また被覆801の上には、外部電源に接続することができるように伝導路803が設けられる。さらに、電極板804を、液溜め101aの壁面と伝導路803とに沿うように配設させる。電極板804と伝導路803とは圧着され、電気的に接続される。液溜め101bについても同様の構造とすることができる。
図3に戻り、マイクロチップ307を用いて試料の分離を行う方法について説明する。まず、緩衝液等の液体を液溜め101aから分離用流路112に導入しておく。そして、試料を液溜め101aに注入する。そして、液溜め101aと液溜め101bの間に、試料が液溜め101bの方向へ流れるように電圧を印加する。これにより試料は分離用流路112を通過することになり、この間に、分子の大きさと荷電の強さ、および柱状体間の隙間のサイズに応じた速度で、分離用流路112を進んでゆく。その結果、試料中の異なる分子群は、それぞれ異なる速度で移動するバンドに分離される。
次に、マイクロチップ307中の分離用流路112の構造について説明する。図6は、図3中の分離用流路112の構造を詳細に示したものである。なお、図6に示した構造は、図6以降の図においても適用することが可能である。図6中、基板110に幅W、深さDの溝部が形成され、この中に、直径φ、高さdの円柱形状のピラー125が等間隔で規則正しく形成されている。ピラー125間の間隙を試料が透過する。隣接するピラー125間の平均間隔はpである。各寸法は、たとえば図6中に示された範囲とすることができる。
図7は、図6の分離用流路112の断面図である。基板110に形成された溝部によって形成される空間内に多数のピラー125が形成されている。ピラー125の間隙は、分離用流路112となる。
多数のピラー125が密集して形成された構造を試料分離手段として用いる場合、主として2つの分離方式が考えられる。一つは、図8に示す分離方式である。もう一つについては、第四の実施形態において図25を参照して説明する。図8の方式では、分子サイズが大きい程、ピラー125が障害となり、図中の分離領域の通過時間が長くなる。分子サイズの小さいものは、ピラー125間の間隙を比較的スムーズに通過し、分子サイズが大きいものに比べて短時間で分離領域を通過する。
ピラー125を用いることにより、試料中の複数の成分を確実に分離することができる。このため、マイクロチップ307を図1におけるマイクロチップ353として用いて試料を分離後、図1の質量分析システム351の試料ステージ355に設置し、分離用流路112に沿ってレーザー発信器361からレーザー光を照射することにより、分離されたそれぞれのバンドがイオン化される。また、分離操作を試料ステージ355上で行い、分離操作に連続して質量分析を行ってもよい。
以上のように、本実施形態では、目的とする成分の抽出、乾燥、および構造解析を一枚のマイクロチップ307上で行うことが可能となる。このようなマイクロチップ307および質量分析システム351は、たとえばプロテオーム解析等にも有用である。
なお、分離を行う際には分離用流路112上部に被覆(不図示)を設けてもよい。被覆を設けることにより、分離中の試料の乾燥を抑制することができる。被覆として用いる材料は、たとえばPDMS(ポリジメチルシロキサン)のフィルムとすることができる。PDMSフィルムは着脱が容易で密封性に優れるため、これを用いることにより、分離中の試料の乾燥を好適に抑制することができる。また、分離終了後に基板110から容易に剥がすことが可能となり、分離終了後速やかに試料を乾燥させ、質量分析を行うことができる。また、前述のようにマトリックスをシート状に成形し、被覆としてもよい。
また、以上においては柱状体を一定間隔で配設した例を示したが、柱状体配設部内において柱状体を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで、大、中、小等の複数の大きさの分子またはイオンをさらに効率的に分離することができる。また、柱状体の配置に関し、試料の進行方向に対して互い違いに柱状体を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、目詰まりを効果的に防止しつつ目的の成分を効率的に分離することができる。
さらに、分離用流路112の壁面にDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングすることが好ましい。こうすれば、マイクロチップ307が良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、たとえば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質等が挙げられる。このような物質としてはリピジュア(登録商標、日本油脂社製)などが例示される。リピジュア(登録商標)を用いる場合は、0.5wt%となるようにTBE(トリスボレイト+EDTA)バッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を分離用流路112内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂、あるいは牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。
マイクロチップ307は、内部に緩衝液を導入した状態で使用されることが好ましい。ここで、分離用流路112の壁面や被覆部などの流路表面がプラスチックなどの疎水性材料で構成されている場合、緩衝液を導入することは通常、容易ではない。緩衝液を円滑に導入する方法としては、たとえば図9に示す方法を採用することができる。図示した方法では、遠心管151のホルダ153中にチップ150を固定した状態で遠心分離を行うことにより緩衝液がチップ150に導入される。チップ150として、マイクロチップ307を適用することにより、マイクロチップ307の流路内に緩衝液を確実に導入することができる。
緩衝液をより一層確実に流路に導入する方法として、分離用流路112の表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成することが有効である。親水性膜の形成により、特に外力を付与しなくとも緩衝液が円滑に導入される。この点については図17を用いて後述する(図17(d)の工程で形成されるシリコン熱酸化膜209)。
また、上述のように流路壁がコーティングされたマイクロチップ307を用いて質量分析を行う場合、コーティング物質がバックグラウンドとして検出されることがあるが、シリコン熱酸化膜を形成して流路表面を親水化すると、後述のように質量分析時のバックグラウンドを低下させることができ、より一層測定精度を向上させることが可能となる。
マイクロチップ307において、分離用流路112に設けられる柱状体は、その頂部の直径が底部の直径よりも小さい形状を有することが好ましい。すなわち、柱状体が錐体ないし擬錐体形状を有し、断面が末広がりになっていることが好ましい。特に柱状体表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成する場合、このような形状とすることによる効果が顕著となる。たとえば、柱状体を熱酸化してその表面に熱酸化膜を設けようとすると、柱状体の底部近傍で酸化が進み、柱状体の高さが減少してアスペクト比が低下することがある。柱状体の形状を上記のようにすると、このような酸化によるアスペクト比の低下を効果的に防止することができる。
また、柱状体の形状として上述の形状を採用した上で、試料分離領域に設けられた柱状体を、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成することが望ましい。こうすることによって、酸化によるアスペクト比の低下を一層効果的に防止することができる。図10は、このような構造を採用した柱状体の一例である。図10では、基板110表面に円錐状の柱状体が設けられ、その表面がシリコン酸化膜104により覆われている。柱状体は、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成されている。
このような配置とすることにより、基板110を熱酸化して表面をシリコン酸化膜で覆った場合、柱状体底部のシリコン酸化膜104の膜厚が薄くなり、柱状体のアスペクト比を良好に維持できる。この理由は必ずしも明らかではないが、円錐状の柱状体の側面が互いに接した構造となっているため、柱状体の底部近傍で酸化が進行した際、圧縮応力が発生し、それ以上の酸化が進みにくくなることによるものと推察される。
以上、マイクロチップ307の分離用流路112に柱状体が形成された構成について説明したが、柱状体を有する分離用流路112にレーザー光を照射して試料をイオン化する場合、レーザー光として、たとえば200〜400nm程度の波長を有する紫外光レーザーまたは800〜11000nmの波長を有する赤外光レーザーを用いることが好ましい。これらのレーザー光を用いることにより、試料が300kDa〜400kDaの巨大分子である場合にも、確実にイオン化することが可能となる。このときの照射条件は、たとえば、0.1〜500μJ/パルスの強度でパルス幅は1〜500nsとすることができる。また、スポット径は、紫外光レーザーの場合はたとえば50μm以下とし、赤外光レーザーの場合は500μm以下とすることができる。
次に、図10に示したナノ構造体の形成方法について図11および図12を参照して説明する。まず図11(a)のように、基板110上にシリコン酸化膜105、レジスト膜107をこの順で成膜する。次いで電子線露光等によりレジスト膜107をパターニングして所定の開口部を有するパターンを形成する(図11(b))。
次いでこのレジスト膜107を用いてシリコン酸化膜105をドライエッチング等することにより、シリコン酸化膜105からなるハードマスクが形成される(図11(c))。レジスト膜107を除去した後(図11(d))、基板110をドライエッチングすることにより(図12(e))、アスペクト比の高い柱状体が得られる。シリコン酸化膜105を除去後(図12(f))、たとえば850℃以上の高温で表面を酸化し、シリコン酸化膜104を形成する(図12(g))。以上の工程により、図10に示すナノ構造体が得られる。このナノ構造体をマイクロチップ307の分離用流路112に形成し、試料の分離に用いることができる。
図11、図12においては、レジストマスクを用いて形成したハードマスクにより基板110をエッチングしたが、レジストマスクを用いて直接基板110をエッチングすることもできる。図13はこの方法を示す図である。図13に示したプロセスでは、基板110上にレジスト900を形成した後(図13(a))、パターニングし(図13(b))、これをマスクとして基板110をエッチングして柱状体を形成している(図13(c))。
次に、柱状体を有する流路を形成する別の方法について図14〜図18を用いて説明する。図14〜図18において、右側の図は上面図であり、左側の図は断面図である。まず、図14(a)に示すように、シリコン基板201上にシリコン酸化膜202、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト203をこの順で形成する。シリコン酸化膜202、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト203の膜厚は、それぞれ35nm、55nmとする。次に、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となるアレー領域を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図14(b)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
なお、下記に示す構造を有するカリックスアレーン電子ビームネガレジスト203は、電子線露光用のレジストとして用いられ、ナノ加工用のレジストとして好適に利用することができる。

つづいて全面にポジフォトレジスト205を塗布する(図14(c))。膜厚は1.8μmとする。その後、アレー領域が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図14(d))。
次に、シリコン酸化膜202をCF、CHFの混合ガスを用いてRIEエッチングする。エッチング後の膜厚を35nmとする(図15(a))。レジスト204をアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理をする(図15(b))。つづいて、シリコン基板201をHBrガスを用いてECRエッチングする。エッチング後のシリコン基板201の膜厚を400nmとする(図15(c))。つづいてBHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜202を除去する(図15(d))。
次に、シリコン基板201上にCVDシリコン酸化膜206を堆積する(図16(a))。膜厚は100nmとする。つづいて全面にポジフォトレジスト207を塗布する(図16(b))。膜厚は1.8μmとする。つづいて図16(c)のように、流路領域をマスク露光し(アレー領域を保護)、現像する。その後、CVDシリコン酸化膜206をバッファードフッ酸でウェットエッチングする(図16(d))。その後、有機洗浄によりポジフォトレジスト207を除去し(図17(a))、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド)を用いてシリコン基板201をウェットエッチングする(図17(b))。つづいてCVDシリコン酸化膜206をバッファードフッ酸でウェットエッチングして除去する(図17(c))。
そして、この状態のシリコン基板201を炉に入れてシリコン熱酸化膜209を形成する(図17(d))。このとき、シリコン熱酸化膜209の膜厚がたとえば20nmとなるように熱処理条件を選択する。このような膜を形成することにより、流路の表面を親水化し、流路内に緩衝液を導入する際の困難を解消することができる。その後、流路上に被覆210を設けてもよい(図18)。
以上により、柱状体を有する流路が得られる。基板110をシリコン基板201としてこの方法を用いることにより、微細な柱状体配列構造を精度よく確実に形成することが可能である。
さらに、柱状体を有する流路の別の作製方法として、金型を用いてマスクのパターニングを行う方法について説明する。図19は、分離用流路112の製造方法を示す工程断面図である。まず図19(a)に示すように、表面に樹脂膜160が形成されたシリコンからなる基板110と、成型面を所定の凹凸形状に加工した金型106とを用意する。樹脂膜160の材質はポリメチルメタクリレート系材料とし、その厚みは200nm程度とする。金型106の材質は特に制限がないが、Si、SiO、SiC等を用いることができる。
次いで図19(b)に示すように、金型106の成型面を樹脂膜160表面に当接させた状態で加熱しながら加圧する。圧力は600〜1900psi程度とし、温度は140〜180℃程度とする。その後、基板110を脱型し、酸素プラズマアッシングを行い、樹脂膜160をパターニングする(図19(c))。
つづいて樹脂膜160をマスクとして基板110をドライエッチングする(図19(d))。エッチングガスは、たとえばハロゲン系ガスを用いる。エッチング深さは約0.4μmであり、エッチングにより形成される柱状体の間隔は約100nmである。エッチングのアスペクト比(縦横比)は4:1程度である。このとき、エッチングによって生じた凹部の底近傍では、マイクロローディング効果によりエッチングの進行が鈍化し、凹部の先端が狭まり、曲面となる。この結果、柱状体は末広がりになり、その断面形状は、頂部よりも底部において幅広となる。また、柱状体間の距離が狭いため、各柱状体は、隣接する柱状体の側面が、該柱状体の底部において互いに接する程度に近接して形成されることとなる。
図19(d)の後、800〜900℃の炉アニールにより熱酸化を行い、柱状体の側壁にシリコン熱酸化膜(図19では不図示)を形成する。このとき、柱状体および凹部の形状が上述した末広がりの形状となっているため、図10を用いて前述したように、柱状体底部の酸化膜厚が薄くなり、柱状体のアスペクト比を良好に維持できる。
以上の工程により、基板110上に柱状体群が形成される。このようにすれば、電子線露光によるマスク開口部の形成工程が不要となるため、生産性が顕著に向上する。
図19においては、マスクとなる樹脂膜160のパターニングを行う際に金型を用いたが、この金型を用いて直接柱状体を形成することもできる。具体的には、所定のプラスチック材料を基板上にコートした後、上記と同様の工程により加工成型することができる。基板上にコートするプラスチック材料は、成型性が良好で、かつ、適度な親水性を有するものが好ましく用いられる。たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン−ビニルアルコール樹脂(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート等が好ましく用いられる。疎水性樹脂であっても、成型後、上記コーティングを行えば流路表面を親水性とすることができるので利用可能である。
なお、以上の流路形成方法において、シリコン熱酸化膜を形成する際に、酸化条件によっては膜が充分に形成されないこともあり得る。このような場合、電流が基板へ漏れてしまうことから、試料の分離を電気泳動により行う際には必要な電界が得られないことになる。これを回避するために、図20に示すようにして基板に分離用流路および液溜めを設けることができる。
まず、図20(a)に示すようにシリコン基板201を熱酸化することによりシリコン酸化膜202を形成する。その後、シリコン酸化膜202上に多結晶シリコンを堆積させ、多結晶シリコン膜707を形成する。つづいて多結晶シリコン膜707を熱酸化することにより酸化膜708を形成する。
次に、酸化膜708上にカリックスアレーン電子ビームネガレジストを形成し、電子ビーム(EB)を用い、液溜めおよび試料の流路となる領域をパターン露光することによりレジストをパターニングする。その後、酸化膜708をRIEエッチングし、レジストを除去して図20(b)に示された状態とする。つづいて、エッチングされた酸化膜708を保護膜として多結晶シリコン膜707をECRエッチングする。その後、酸化膜708を除去し、図20(c)に示された状態とする。その後、エッチングされた多結晶シリコン膜707を熱酸化し、シリコン酸化膜202と一体化させることにより図20(d)に示された状態とする。
以上のようにして加工された分離用流路は、シリコン基板201とは完全に絶縁されている。このため、基板110をシリコン基板201とすれば、電界を付与して試料を分離する際に、その電界を確実に確保することが可能である。また、シリコン基板201およびシリコン酸化膜202を石英基板で代替してもよい。また、シリコン基板201、シリコン酸化膜202および多結晶シリコン膜707の代わりにSOI(Silicon On Insulator)基板を利用することもできる。
さらに、図86は、柱状体の別の構成を示す図である。図86(a)では、基板110および柱状体が金属で構成されている。また、図86(b)では、柱状体の表面に金属膜397が形成されている。このように、少なくとも柱状体の表面が金属により構成されていれば、柱状体の表面に表面プラズモン波が発生し、分離された試料のイオン化を促進することができる。また、柱状体先端の突部に電界が集中し、イオン化した試料の引き出し効率が向上する。
図86(a)に示した構成は、たとえば金属製の基板110をエッチングすることによって形成することができる。また、図86(b)に示した構成は、たとえばシリコンの基板110について、図11および図12を用いて前述した方法により図12(f)までの工程を行い、形成された柱状体の表面にたとえば銀等の金属を蒸着することにより形成することができる。
なお、本実施形態の質量分析システムについて、図3に示した構成の試料分離部112を有するマイクロチップを用いて試料としてヒトの血清を用いてこれを分離し、質量分析を行ったところ、質量分析結果より、試料中にアルブミンが存在することが確かめられた。
(第二の実施形態)
図1の質量分析システムにおいて、マイクロチップ353は、交差する複数の流路を有する構成としてもよい。図21は、質量分析システム351に適用可能なマイクロチップ307の構成を示す図である。
図21でも、図3のマイクロチップ307と同様、基板110上に分離用流路112が形成されている。そして、これと交差するように投入用流路111が形成されている。投入用流路111および分離用流路112には、それぞれその両端に液溜め101aおよび液溜め101b、液溜め102aおよび液溜め102bが形成されている。各々の液溜めには電極(不図示)が設けられており、第一の実施形態に記載の方法と同様にして、たとえば分離用流路112の両端に電圧を印加することができる。マイクロチップ307の外形寸法は用途に応じて適宜な値が選択されるが、通常は、図示したように、縦5mm〜5cm、横3mm〜3cmの値とする。
図21のマイクロチップ307を用いて分離を行う場合、試料を液溜め102aもしくは液溜め102bに注入する。液溜め102aに注入した場合は、液溜め102bの方向へ試料が流れるように電圧を印加し、液溜め102bに注入した場合は、液溜め102aの方向へ試料が流れるように電圧を印加する。これにより、試料は投入用流路111へと流入し、結果的に投入用流路111の全体を満たす。この時、分離用流路112上では、試料は投入用流路111との交点にのみ存在し、投入用流路111の幅程度の狭いバンドを形成している。
次に、液溜め102a、液溜め102bの間への電圧印加を中止し、液溜め101aと液溜め101bの間に、試料が液溜め101bの方向へ流れるように電圧を印加する。これにより試料は分離用流路112を通過することになり、この間に、分子の大きさと荷電の強さ、および柱状体間の隙間のサイズに応じた速度で、分離用流路112を進んでゆく。このように、図21のマイクロチップ307においても、図3のマイクロチップ307と同様、分離用流路112の両端に電圧が印加され、これにより試料が分離用流路112中を移動する。
その結果、試料中の異なる分子群は、それぞれ異なる速度で移動するバンドに分離される。ここで、試料に外力を与えるための電圧以外に、電気浸透流を抑制するための電圧を印加してもよい。図22ではこの目的のため、基板にゼータ補正電圧を印加している。このようにすれば電気浸透流が抑制され、測定ピークのブロードニングを有効に防止することができる。
なお、図21において、分離用流路112と投入用流路111とは直交しているが、これに限られない。たとえば分離用流路112と投入用流路111とが45度の角度で交わる構成を採用しても上記と同様の効果が得られる。
図21のマイクロチップ307を用いて試料を分離後、第一の実施形態と同様にして分離用流路112の延在方向に沿ってレーザー光を照射することにより、分離されたそれぞれのバンドがイオン化される。
(第三の実施形態)
第一の実施形態および第二の実施形態に記載のマイクロチップ307では、電圧を印加することによって試料を移動させる方式を採用しているが、電圧に代え、圧力を加える方式を採用することもできる。図23はこのようなマイクロチップの一例である。図23において、分離用チップの投入用流路19と分離用流路20の端にある液溜め部分には、ジョイントメスが固着してある。それぞれのジョイントメスには、中空のチューブ13、チューブ14、チューブ15、チューブ16がつながれた、ジョイントオスを接続する。このようなジョイント17を用いる理由は、液漏れを防ぐためである。ジョイント17の具体的な構造は、たとえば図24のようにする。
ジョイントオスにつながれた各チューブは、それぞれ電磁弁10、電磁弁4、電磁弁5、電磁弁11に接合されている。電磁弁10には、分離用ポンプ8、定速注入装置9を介して、液溜め7から緩衝液が供給される。また、電磁弁11には、分離用流路20を介して送られてきた試料が供給され、廃液溜め12へと導かれる。電磁弁4には、投入用ポンプ2、定速注入装置3を介して、サンプル溜め1から試料が供給される。電磁弁5には、投入用流路19を介して送られてきた試料が供給され、廃液溜め6へと導かれる。
制御ユニット21は、電磁弁4、電磁弁5、電磁弁10、電磁弁11、および分離用ポンプ8、投入用ポンプ2、定速注入装置9、定速注入装置3、の稼動時点を制御する。
この装置を用いた分離手順は以下のとおりである。まず、電磁弁10および電磁弁11を閉じる。これにより投入用流路19から試料が分離用流路20に流入することを防止できる。ついで電磁弁4、電磁弁5を開く。そして、サンプル溜め1に試料を投入する。
次に投入用ポンプ2で試料を加圧し、試料を、定速注入装置3、電磁弁4、チューブ14を介して、投入用流路19へ導く。投入用流路19を介して漏出した試料は、チューブ15、電磁弁5を通って、廃液溜め6に導かれる。
投入用流路19に試料が満たされた後、電磁弁4、電磁弁5を閉じ、電磁弁10および電磁弁11を開く。つづいて、分離用ポンプ8で緩衝液を加圧し、定速注入装置9、電磁弁10、チューブ13を介して試料を分離用流路20へ導く。こうして分離操作が行われる。この構成では、試料を移動させるための外力として圧力を利用しているため、比較的簡素な外力付与装置を設ければ済むので、製造コストの低減、装置の小型化に有利である。
本実施形態のマイクロチップも、マイクロチップ353として図1に示した質量分析システム351に好適に適用することができる。
(第四の実施形態)
本実施形態は、図1の質量分析システム351に用いるマイクロチップ353の別の構成に関する。マイクロチップ353において、分離用流路112を図8のように構成した場合、試料中に巨大なサイズの物質を含む際に目詰まりを起こすことがある。いったん発生した目詰まりを解消することは一般に困難である。
目詰まりの問題は、分子サイズの小さい物質を多種類含む試料を高い分離能で分離しようとしたとき、より顕著となる。分子サイズの小さい物質を多種類含む試料を高い分離能で分離するためには、ピラー125間の間隙をある程度小さく設定することが必要となる。ところが、そのようにすると、大きいサイズの分子にとっては、より目詰まりしやすい形態となる。
この点、図25に示す分離方式とすると、このような問題が解消される。図25中、分離用流路112には、複数の柱状体配設部(ピラーパッチ121)が離間して形成されている。各柱状体配設部には、それぞれ、同一サイズのピラー125が等間隔に配置されている。この分離用流路112では、大きな分子が小さな分子よりも先に通過していく。分子サイズが小さいほど、分離領域中でトラップされて長い経路を通ることになる一方、大きいサイズの物質は、隣接するピラーパッチ121間のパスを円滑に通過するからである。
この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。こうした効果をより顕著にするためには、隣接するピラーパッチ121間のパスの幅を、ピラーパッチ121中のピラー125間の間隙よりも大きくするのが良い。パスの幅は、ピラー125間の間隙の好ましくは2〜20倍程度、より好ましくは5〜10倍程度とする。
複数の柱状体配設部を有する分離用流路112は、たとえば以下のようにして作製することができる。図26および図27は、本実施形態に係るマイクロチップの流路の作製工程を示す図である。基板110にこれらの図におけるシリコン基板201を適用する。
まず、図26(a)に示したように、シリコン基板201上に膜厚35nmのシリコン酸化膜202を形成する。次に、膜厚55nmのカリックスアレーン電子ビームネガレジストを形成し、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となるアレー領域を露光する。現像はキシレンを用いて行うことができる。また、リンスはイソプロピルアルコールにより行うことができる。この工程により、図26(b)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
次に、シリコン酸化膜202をCF、CHFの混合ガスを用いてRIEエッチングする(図26(c))。そして、レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理し、シリコン基板201をHBrガスおよび酸素ガスを用いてECRエッチングする(図27(d))。その後、BHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜202を除去する。こうして得られた基板を炉に入れてシリコン熱酸化膜209を形成する(図27(e))。以上により、複数の柱状体配設部を有する流路が得られる。
なお、本実施形態においても、第一の実施形態と同様、柱状体配設部内において柱状体を異なる間隔で配設することもできる。
たとえば、図28(a)のように、流れの向きにしたがってピラーの間隔を小さくした柱状体配設部を採用することができる。この場合、流路の下流側で柱状体の集積密度が高くなり、柱状体配設部に進入した分子は移動するほど移動速度が低下するため、柱状体配設部に進入することができない大きめの分子との保持時間差が顕著となる。その結果、分離能の向上が実現される。一方、図28(b)のように、流れの向きにしたがってピラーの間隔を大きくした柱状体配設部を採用することもできる。このようにすることにより、流路の下流側で柱状体の集積密度を低下させて柱状体配設部における目詰まりを抑制することができるため、スループットの向上を図ることが可能となる。なお、流れの向きにしたがってピラーの間隔を小さくしたり、大きくしたりする形態は、柱状体配設部を有しない分離領域にも適用することができる。
さらに、複数の柱状体配設部をまとめてさらに大きな柱状体配設部とし、その大きな柱状体配設部同士の間隔を、もとの柱状体配設部同士の間隔よりも広くするような階層的な配置も可能である。その一例を図29に示す。小さなピラーパッチ712が七つ集合することにより中程度のピラーパッチ713を形成し、さらに中程度のピラーパッチ713が七つ集合することにより大きなピラーパッチ714を形成している。このように、柱状体配設部を階層的に構成することにより、幅広いサイズレンジの分子を同時にかつ大きい順に分離することが可能になる。すなわち、より大きな分子はより大きな柱状体配設部の間を通過するのに対して、中等度のサイズの分子は中等度のサイズの柱状体配設部の内部に捕捉されて分離される。さらに小さな分子は、さらに小さな柱状体配設部の内部に捕捉されて分離される。このため、小さな分子ほど流出に時間がかかり、大きさが異なる複数の分子を、大きい順に分離することが可能になる。
図25に示した分離方式を実現する試料分離領域の構造について、図30を参照して説明する。図30に示したように、この試料分離領域は、流路の壁129によって囲まれた空間内にピラーパッチ121が等間隔で配置された構造となっている。ピラーパッチ121は、それぞれ多数のピラーにより構成されている。ここでは、ピラーパッチ121の幅Rは、10μm以下とする。一方、ピラーパッチ121間の間隔Qは20μm以下とする。
図25においては、ピラーが密集してなるピラーパッチ121は、上面からみて円形の領域として形成されているが、円形に限らず他の形状であってもよい。図31の例では上面からみてストライプ状の領域にパッチ領域130が形成されている。この形態においては、パッチ領域130の幅Rは10μm以下、パッチ領域130間の間隔Qは10〜100μmとする。
また、図32は菱形のピラーパッチ121を採用し、さらに複数のピラーパッチ121を菱形状になるように配置させた例である。この場合、パスと流れの向きとが一定の角度をなしており、分子とピラーパッチ121との接触頻度が上昇するため、ピラーパッチ121を構成するピラーの間隔よりも小さい分子がピラーパッチ121に捕捉される確率は上昇する。そのため、ピラーパッチ121に捕捉された分子と捕捉されない大きめの分子との保持時間差が顕著となるため、分離能の向上を図ることができる。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、ピラーパッチ121同士の間隔h、ピラーパッチ121の対角線Dおよびd、ピラーパッチを構成するピラーの間隔pについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより、目的とする分子を精度良く分離することができる。
h:R≦h<10R
p:0.5R≦p<2R
D:5h≦D<20h
d:5h≦d<20h
また、パッチ領域を構成するものはピラーに限られない。たとえば、板状体が一定の間隔で配置されてなるパッチ領域とすることもできる。図33に一例を示す。図33(a)は上面図であり、図中のA−A’断面図を図33(b)に示す。このパッチ領域を図33(c)に示すように配置する。一旦パッチ領域130に捕捉された分子は分離用流路112に脱出するまでパッチ領域130に留まることとなる。したがって、パッチ領域に捕捉された分子と捕捉されない分子との保持時間の差が顕著となるため分離能が向上する。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、パッチ領域130同士の間隔Λ、パッチ領域130を構成する板状体同士の間隔λについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより、目的とする分子を精度良く分離することができる。
Λ:R≦Λ<10R
λ:0.5R≦λ<2R
また、上記の柱状体または板状体の頂部と流路の上面とは接していてもよいし、離間していてもよい。離間している場合は、柱状体あるいは板状体と流路上面との間に間隙が存在するため、大きな分子の通過機会が増加する。このため、さらなる目詰まりの解消を図ることができる。また、小さな分子についても、この間隙を経由して上方からパッチ領域へ入り込む機会が増加することから、分離効果がさらに向上する。このような形態は、流路の上面となる部材(カバーガラスなど)にあらかじめ溝部を設けておくこと、または柱状体や板状体の高さを流路の深さよりも低く作製することによって容易に実現することが可能である。
また、柱状体配設部間のパスの幅及び、柱状体配設部内の柱状体の間隔は、分離しようとする成分、たとえば核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などの有機分子やキレートした金属イオンなどの分子またはイオンのサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば柱状体の間隔は、分離したい分子群のサイズの中央値に相当する慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、上記中央値に相当する慣性半径と、柱状体の間隔との差異を、100nm以内、より好ましくは10nm以内、最も好ましくは1nm以内とする。柱状体の間隔を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
隣接する柱状体配設部間の間隔(パスの幅)は、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と柱状体配設部間の間隔との差異を、当該分子の慣性半径の10%以内、より好ましくは5%以内、最も好ましくは1%以内とする。柱状体配設部間の間隔が広すぎると、サイズの小さい分子の分離が充分に行われなくなることがあり、柱状体配設部間の間隔が狭すぎると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
(第五の実施形態)
図1のマイクロチップ353として用いるマイクロチップ、たとえば、図21に示したマイクロチップ307において、分離用流路112に設けられた分離領域の上流すなわち試料が導入された側に、一列または複数列の柱状体を配設してもよい。この一例を図34に示す。図34(a)に示されるように、流路上に設けられた分離領域711の直前に一列のピラー列710が配設されている。このピラー列710における各々のピラーの間隔は、分離対象の分子群709に含まれる最小サイズの分子と同程度とすることが好ましい。このような構成を採用することにより、以下に説明する効果が得られる。なお、分離領域711は、上述したようなパッチ領域あるいは柱状体配設部を設けたものであってもよいし、柱状体が満遍なく配設されてなる分離領域であってもよい。
図34(a)において、弱い駆動力(たとえば微弱な電界)を分離対象の分子群709に付与すると、広範囲に拡散している分離対象の分子群709は流路を移動するが、ピラー列710に到達すると堰き止められるため、ピラー列710に隣接した帯状の狭い領域において細いバンドを形成する(図34(b))。
次に、一時的に強い駆動力(たとえば強い電界)を分離対象の分子群に与えることによって、当該分子群は細いバンド状態を保ちつつピラー列を通過する(図34(c))。これは、特にDNAやタンパク質のような高分子の場合、分子サイズがピラー同士の間隔よりも大きい場合であっても、ピラー列が一列ないし数列程度であれば当該分子は伸長することによりピラー間をすり抜けることができることによる(レプテーション効果)。
分離対象の分子群がピラー列を通過した後は、分離に適した駆動力を当該分子群に与えることにより効果的に分離することができる(図34(d))。上記したように当該分子群は細いバンド状態を保っているため、分離後のピークの重なりが少なくなることから高精度の分離が実現するためである。
また、柱状体列を第四の実施形態の記載の構成に適用する場合、たとえば、図28(a)に示される柱状体配設部を有する分離領域の直前に、図34に示されるピラー列710を設ける構成とすることもできる。
(第六の実施形態)
本実施形態は、図1の質量分析システム351に適用できるマイクロチップの別の構成に関する。本実施形態では、毛細管現象を利用して試料の分離を行う。図35は、本実施形態に係るマイクロチップの構成を示す図である。基板550に形成された分離用流路540には、分離用ピラー(不図示)が配置されている。基板550の材料および分離用ピラーの構成は、たとえば第一〜第五の実施形態と同様にすることができる。分離用流路540の一端には空気穴560が設けられ、他端には分離時に緩衝液を注入するためのバッファー注入口510が設けられている。分離用流路540は、バッファー注入口510、空気穴560以外の部分では密閉されている。分離用流路540の起始部には、サンプル定量管530がつながっており、サンプル定量管530の他方の端は、サンプル注入口520が設けられている。
サンプル定量管530には、定量用ピラー(不図示)が配置されている。定量用ピラーは、分離用ピラーよりも疎に配置されており、そこでサンプルの分離が起こることはない。サンプル定量管530のサンプル注入口520以外の部分は密閉されている。
図36は、図35に示したサンプル定量管530の近傍を拡大して示したものである。サンプル定量管530の内部の定量用ピラーとサンプル保持部503の間は、一時停止スリット502によって隔てられている。サンプル保持部503には、バッファー導入部504、分離部506に設置されたピラーよりも、緻密なピラー(不図示)が設置されている。バッファー導入部504には、分離用ピラーと同程度に集積したのピラー(不図示)が設置されている。サンプル保持部503、バッファー導入部504および分離部506は、一時停止スリット505、および一時停止スリット507で隔てられている。サンプル保持部503の空隙体積は、サンプル定量管530の空隙体積と一時停止スリット502の体積の和にほぼ等しい。一時停止スリット505の幅は、一時停止スリット502の幅よりも狭い。
次に、図35の装置を用いた分離操作の手順について説明する。まず、サンプル注入口520にサンプルを徐々に注入しサンプル定量管530を満たす。この時、水面が盛り上がらないようにする。このサンプル注入操作において、サンプルは、図36に示されるサンプル定量管530に設置されたサンプル定量用ピラー間に保持される。サンプル定量管530がサンプルで満たされた後、サンプルは一時停止スリット502に徐々にしみ出してゆく。一時停止スリット502にしみだしたサンプルが、サンプル保持部503の表面に到達すると、一時停止スリット502およびサンプル定量管530の内部のサンプルは、さらに毛細管効果の大きい、サンプル保持部503へとすべて吸い取られる。サンプル定量管530よりもサンプル保持部503の方がより大きい毛細管効果を有する理由は、サンプル保持部503の方が、ピラーが密に形成され、表面積が大きいことによる。サンプル保持部503へのサンプル充填の間は、一時停止スリット505、507が存在するため、サンプルがバッファー導入部504あるいは分離部506に流れ込むことは無い。
サンプル保持部503にサンプルが導入された後、バッファー注入口510に分離用の緩衝液を注入する。注入された緩衝液は、バッファー導入部504に一時的に充填されて、サンプル保持部503との界面が直線状になる。さらに緩衝液が充填されると、一時停止スリット505にしみだして、サンプル保持部503に流入し、さらに、サンプルをひきずりながら、一時停止スリット507を超えて、分離部506へと進行する。この際、一時停止スリット502の幅が、一時停止スリット505、507の幅よりも大きいため、一時停止スリット502へ緩衝液が逆流しても、サンプルは既に、サンプル保持部503より先に進行しているため、サンプルの逆流はほとんどない。
分離用の緩衝液は毛細管現象で、分離部506を空気穴560へ向けてさらに進行し、この過程で、サンプルが分離される。
また、毛細管現象を用いたサンプルの定量注入の原理を利用した試料注入の他の例について図37および図38を参照して説明する。この装置では、図36におけるサンプル定量管530に代えて、サンプル投入管570が設けられている。サンプル投入管570の両端には、サンプル注入口520と、排出口580が設けられている。サンプル投入管570の内部には、ピラーは設置されていない。サンプル投入管570は、投入穴509を介して、サンプル保持部503に開口している。
この装置を用いた分離手順について説明する。まず、サンプルを、サンプル注入口520に投入し、排出口580まで満たす。この間に、サンプルは、投入穴509を介してサンプル保持部503に吸収される。
そして、サンプル注入口520に空気を圧入して、サンプルを排出口580から排出することによりサンプル投入管570の内部のサンプルを払拭、乾燥する。毛細管現象による分離の場合は、上述のようにして分離用の緩衝液を注入する。電気泳動による分離の場合は、サンプルの投入以前に、バッファー注入口510に相当する液溜め、空気穴560に相当する液溜めから泳動用の緩衝液を導入しておく。広く作られた一時停止スリット505、507が存在するため、サンプル保持部503には、緩衝液が流入しない。
サンプル保持部503へのサンプルの保持が終わった段階で、さらに微量の泳動用の緩衝液を分離用流路の一端の液溜めに加えるか、サンプル保持部503の周辺に軽く振動を与えることで、泳動用の緩衝液を連続させ、電圧を印加して分離する。
以上のように、本実施形態のマイクロチップにおいては、毛細管現象によって試料を分離することが可能となる。このため、基板に電極を形成する必要がなく、装置構成をより単純にすることができる。
(第七の実施形態)
本実施形態は、図1の質量分析システム351に適用できるマイクロチップの別の構成に関する。本実施形態では、スリットを介して複数に分割された分離領域を流路に設けたマイクロチップを用いて分離を行う。図39は、本実施形態に係るマイクロチップの流路の構成を示す図である。図39においては、流路中に、試料分離領域601が流路を塞ぐように形成されている。この試料分離領域601は、スリット602を介して複数に分割されている。壁603と試料分離領域601の間には間隙は存在しない。このような構成を採用した場合、分離された試料のバンドの形状が好適になり、分離能が向上する。この点について図40を参照して説明する。
スリットがなく単一の試料分離領域601を設けた場合は、図40の左図中、上部から下部に流動する試料の液面は、曲面となる。これは、壁に沿った部分では毛細管現象により試料の移動が促進される一方、流路断面中央部では毛細管現象の効果が少ないことによる。壁近傍では試料の流動が速められる結果、図示したようなバンドが形状される。これに対して、試料分離領域601を、スリット602を介して複数に分割した場合、スリットの存在により、分離中の液はいったんスリット上部の試料分離領域に保持されることとなる。スリット中には空気が存在しているため、スリット上部の試料分離領域に存在する試料の圧力がスリット中の空気に由来する圧力を超えたとき、はじめて試料分離領域からスリットへの液の移動が開始する。
このように、試料を含む液がいったん試料分離領域に保持されるため、壁部および中央部で移動距離の差が生じても、保持される時間中にその差が解消されることとなる。この結果、スリットを抜けた段階では、液面は分離方向にほぼ垂直な平面となる(図40の右図)。これにより、分離方向に垂直なバンドが形成され、分離能が向上する。なお、試料分離領域601は、第一の実施形態〜第四の実施形態に記載の任意の構成を採用することができる。たとえば上述したようなパッチ領域あるいは柱状体配設部を設けたものであってもよいし、柱状体が満遍なく配設されてなる試料分離領域であってもよい。
図41および図42は、上記した毛細管現象による試料のバンド形状の相違を示す図である。図41のように、試料分離領域として従来用いられていた単一人工ゲルを設けた場合はバンド形状が試料進行方向に対して曲がった形状となる。これに対して、図42では、ピラーが疎に形成された領域と密に形成された領域を交互に形成した構成を採用している。ピラーが疎に形成された領域は、図39および図40におけるスリットと同様の役割を果たす。すなわち、ピラーが疎に形成された領域の手前で試料を含む液がいったん停止し、この間にピラーが密に形成された領域において生じた液の移動距離の差が解消され、この結果、試料進行方向に対してほぼ平面のバンド形状が得られる。
以上、毛細管現象を利用して試料を導入する場合におけるスリットおよびピラーが疎に形成された領域についての効果を説明したが、試料の移動に電界を利用した場合も、スリット等を配設することにより上記と同様の効果を得ることができる。電気泳動などによる分離の場合でも、泳動するに従ってバンドは曲がった形状となることが知られているが、このバンドの形状をスリット等によって整えることができる。なおこの場合、スリットが緩衝液で満たされていても、バンド形状を整える効果を得ることができる。
(第八の実施形態)
以上の実施形態においては、底面から流路中に突出する突起が形成された分離用流路112を用いて試料の分離を行う態様について説明したが、突起に代わり流路に凹部が形成された分離用流路112を用いても、試料の分離が可能である。
以下、凹部が形成された分離用流路112を有するマイクロチップについて説明する。凹部が形成された分離用流路112を有するマイクロチップも、図1の質量分析システム351に適用することができる。マイクロチップの基本的な構成は上述の実施形態と同様にすることができるため、以下、構成が異なる点を中心に説明をする。
凹部は、円柱、楕円柱、円錐、楕円錐のものが好適に用いられるが、直方体、三角錐等、さまざまな形状を採用することができる。また、凹部のサイズは、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とすることができる。
凹部の深さについても用途に応じて適宜設定することができるが、たとえば5〜2000nmとすることができる。また、隣接する凹部の平均間隔は、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは70nmとする。下限については特にないが、たとえば5nm以上とすることができる。なお、凹部の間隔とは、凹部の中心点間距離をいう。
図43は、本実施形態に係るマイクロチップの分離用流路112の構造を詳細に示したものである。図43中、基板110に幅W、深さDの溝部が形成され、この溝の底部に、直径φ、深さdの円柱形状の穴が等間隔pで規則正しく形成されている。なお、流路の幅W、流路の深さD、穴の直径φ、穴の深さd、穴の間隔pについては、たとえば図示されたサイズとすることができる。また、後述の図46、図47、図48、図49、および図52に示される形態においても、W、D、φ、d、pについて同様のサイズとすることができる。
この流路は、分離の際には図44に示したように被覆部により覆われていてもよい。このとき、基板に形成された流路が被覆部によって封止されて空間を形成しており、この空間内を試料が移動する。この被覆部は、試料に含まれる水分の蒸発を防止する役割を有する。また、図56を用いて後述する一実施形態においては、電極を流路上方に配設させることが必要であるため、試料の分離時に構成要素の一部として透明電極を有する被覆部が必須となる。
次に、多数の穴が設けられた構造が試料分離手段として機能する理由について、図45を参照して説明する。図45中、試料分離領域には、複数の穴部が所定の間隔で形成されている。この領域を通過する際、穴の径よりも大きなサイズの分子は、穴にトラップされることなく流路を素通りするため、短い時間でこの領域を通過する。一方小さいサイズの分子は、基板に設けられた穴にトラップされて長い経路を通ることになる。この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で試料が分離される。
このように、分離用流路112に凹部が形成された構成では、目詰まりの原因となりやすいサイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、目詰まりの問題が低減され、スループットが顕著に改善される。
図45に示した分離方式を実現する試料分離領域の構造の例について、図46を参照して説明する。図46に示したように、この試料分離領域は、開口部最大径φの凹部が間隔pにて規則的に形成されている。
図47は他の試料分離領域の例である。この例では凹部が列をなして整然と配列されている。
図48は他の試料分離領域の例である。この例では流路を進むにしたがってサイズの大きな凹部が配列された構成となっている。
図49は他の試料分離領域の例である。この例では開口径の異なる凹部がランダムに配列された構成となっている。
図50は他の試料分離領域の例である。この例では凹部がストライプ状に形成されている。すなわち、凹部はホールではなく、溝となっている。この場合、φ、pはそれぞれ溝の幅、溝と溝との間隔を表している。
図51は他の試料分離領域の例である。この例では、流路を進むにしたがって幅が広くなる溝が流路中に設けられた構成となっている。
図52は他の試料分離領域の例である。図50と同様、凹部がストライプ状に形成されているが、試料の流れ方向に対するストライプの方向が、図50では平行であったのに対し、図52では垂直の関係となっている。この場合においても、φ、pはそれぞれ溝の幅、溝と溝との間隔を表している。
試料分離領域を、図48、図49、図51に示すような構成とすることにより下記のような効果が得られる。
穴や溝のサイズよりも大きな分子には、穴による分離効果が得られ難い。従って、穴や溝のサイズを一定にすると、その穴や溝のサイズよりも大きなサイズの分子に対する分解能は小さい分子に比べて低下してしまう。また、穴や溝のサイズを一定にすると、大きな分離効果が得られる分子サイズのレンジが狭くなってしまう。そのため、流路を図48、図49、図51に示すような構造とすることにより、大きなサイズの分子に対する分解能を高くすることができるとともに、充分な分離効果が得られる分子サイズのレンジを広くすることができる。
凹部の開口部の最大径は、分離しようとする成分のサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば、分離したい分子群のサイズの中央値に相当する慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとしてもよい。具体的には、上記中央値に相当する慣性半径と、凹部の開口部の最大径との差異を、100nm以内、より好ましくは10nm以内、最も好ましくは1nm以内とする。凹部の開口部の最大径を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
また、以上の構成では、凹部を一定間隔で配設した例を示したが、試料分離領域内において凹部を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで大・中・小等の複数の大きさの分子・イオンを効率的に分離することができる。また、凹部の配置に関し、図46に示されるように、試料の進行方向に対して互い違いに凹部を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、凹部と分子との遭遇機会が増すため、目詰まりを効果的に防止しつつ目的の成分を効率的に分離することができる。
また、以上の構成では、凹部が円柱状である例を示したが、凹部の形状はこれに限られない。たとえば、凹部の内径が底面に近づくに従って小さくなっているテーパー状の形態を採用することもできる。具体的には、たとえば図53(a)に示されるように、凹部の内径が段階的に小さくなっている形態や、図53(b)または(c)に示されるような、凹部の内径が連続的に小さくなっている形態が挙げられる。これらの場合、小さい分子ほど凹部の奥深くまで移動可能であるため、当該凹部に滞在する時間が長くなる。その結果、分離能がさらに向上する。
このようなテーパー状の凹部は種々の手法により設けることができる。例えば上記した陽極酸化法により凹部を設ける際に、電圧を徐々に降下させることにより、テーパー状の凹部を設けることができる。
また、エッチングによりテーパー状の凹部を設けることも可能である。例えば基板としてシリコンを用いる場合、まず、設けようとする凹部の底面の内径と同程度の内径を有する縦穴をドライエッチングにより設ける。次に、この縦穴に対して等方性のエッチング液を用いたウェットエッチングを行う。このとき、縦穴におけるエッチング液の交換速度は、縦穴の底面において最も小さく、縦穴の底面から開口部へ向かうにつれて大きくなる。このため、縦穴の底面付近ではサイドエッチングがほとんど生じず、内径はほとんど広がらない。その一方で、底面から開口部へ近づくにつれてサイドエッチングの程度が大きくなることから、それに伴って内径も広がることになる。こうしてテーパー状の凹部を設けることもできる。
さらに、以上の構成においては、凹部を平面上に配置させた例を示したが、凹部を立体的に配置させることも可能である。例えば、流路に分離板を設けることにより流路を二層に分割し、分離板および流路壁に凹部を設けることができる。
本実施形態の構成では、小さい分子ほど流出が遅くなるという特性を有している。大きな分子と同様の迅速さで小さい分子を分取するために、上記の分離板に目的の分子のサイズと同程度の口径の貫通孔を設けることができる。このようにすれば、目的とする小さい分子は、凹部の設けられた流路を迂回することができる。そのため、大きな分子と同様の迅速さで小さな分子を分取することができるとともに、それ以外の分子の分離を実現することが可能となる。
図54は流路を二層に分割した形態の一例を示す図である。図54(a)は、流れ方向に対する垂直断面図である。シリコン基板417に設けられた流路409が分離板419により二層に分割されている。図54(b)は、図54(a)中のA−A’面における断面図である。分離板419には部分的に貫通孔420および凹部421が設けられており、貫通孔420を通過可能な分子は図中の下方の流路409に移動する。このような構造を採用することにより、流路が一層である構造では流出時間が遅い、小さな分子を迅速に分取することが可能となる。さらに分離板419に、凹部421よりも小さな凹部422を設けることもできる(図54(c))。このようにすることにより、下方の流路409において小さな分子の精密な分離を実現できる。
また、図55(a)または図55(b)のように、流路にピラーや突起を設け、そのピラーまたは突起および流路壁に凹部を設けることもできる。このようにすることにより、凹部を備えた分離領域の面積を増大させることができるため、分離能の向上を図ることができる。
なお、本実施形態においても、第一の実施形態と同様、図9を用いて説明した方法で流路の内部に確実に緩衝液を導入することができる。また、試料を移動させる際に、図22を用いて説明した方法で電圧を印加してもよい。また、試料に外力を付与する手段は電圧に限られない。たとえば、流路に緩衝液を導入しない状態で、分離対象試料を含んだ緩衝液を導入する場合、この緩衝液が毛細管現象により自動的に流路に流入する。この過程で分離を実現することも可能である。
また、試料を分離するのみならず分取を実現する場合には、比較的多くの量の試料を導入する必要があるため、流路の深さを深く設定する。このような場合、分離対象の分子と凹部との接触する頻度が小さいため、充分な分離効果が期待できないことがある。そこで、こうした場合には流路の上面と底面との間に電圧を印加することにより分子を積極的に凹部へ導くことが好ましい。
図56はこのような実施形態の一例である。ガラス基板436上に金電極437が配され、さらに金電極437上にポーラスアルミナ層438が設けられている。一方、流路442の上方に設けられた被覆部441はカバーガラス440とその下に配された透明電極439とから構成されている。ここで、金電極437を正極、透明電極439を負極として電圧を印加すると、分離対象分子は、透明電極439から金電極437へ向かう方向の外力を受けつつ流路を移動することになる。これにより、当該分子と凹部との接触頻度を上昇させることができるため、分離能の向上が実現する。電圧については、上記では直流電圧を用いた例を示したが、直流電圧および交流電圧ともに適用可能である。
直流電圧を採用する場合には、一般にDNAやタンパク質などの生体分子はマイナスに帯電しているため、凹部が備えられている側を正極に設定して電圧を印加する。また、過大な電圧を印加すると、分離対象の分子が凹部から脱出しづらくなるため流出が極めて遅くなってしまう。このため、印加する電界強度を50V/cm以下とすることが好ましい。
次に、基板への凹部の形成方法について説明する。凹部は、基板にエッチングを施すことによって作製することができる。図57は、基板への凹部の作製工程を説明するための図である。
まず、図57(a)に示すように、シリコン基板201を用意し、その上にカリックスアレーン電子ビームネガレジスト203を塗布する(図57(b))。次に、電子ビーム(EB)を用い、試料の流路となる部分を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図57(c)に示すように、パターニングされたレジスト204が得られる。
つづいて、これをマスクとして、シリコン基板201をエッチングする(図57(d))。レジストを除去した後(図57(e))、再度全面にポジ型フォトレジスト205を塗布する(図57(f))。その後、流路部分が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図57(g))。ポジ型フォトレジスト205は、シリコン基板201に所望の凹部(穴部)が形成されるようにパターニングされている。
次に、シリコン基板201をCF、CHFの混合ガスを用いてRIEエッチングする(図57(h))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後(図57(i))、必要に応じて被覆210を設け、凹部を完成する(図57(j))。
また、凹部は陽極酸化法によっても形成することができる。陽極酸化法とは、電解液中で酸化させたい金属(例えばアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルなど)を陽極として通電し、酸化させる処理のことをいう。この処理法においては、酸性電解液を用い、通電による水の電気分解により、陰極では水素が生成するが、陽極では酸素が生成せず、金属表面に酸化被膜層が形成される。アルミニウムの場合、この酸化被膜層はポーラスアルミナと呼ばれ、図58に示されるように、ポーラスアルミナ層416は各セル431の中央に細孔430を持った周期的構造を有する。これらの構造は自己組織的に形成されるため、パターニングを必要とせず、容易にナノ構造を得ることができる。セルの間隔は酸化電圧に比例(2.5nm/V)し、アルミニウムの場合では酸化電圧に応じて硫酸(〜30V)、シュウ酸(〜50V)、リン酸(〜200V)が酸性電解液として使用される。
一方、細孔のサイズは酸化条件および酸化後の表面処理に依存する。酸化電圧の上昇に従って細孔の直径は拡大する。例えば、酸化電圧を5V、25V、80V、120Vとしたとき、それぞれ10nm、20nm、100nm、150nm程度の最大径を有する、開口部が円形ないし楕円形の細孔ができる。また、ポーラスアルミナを形成後、例えば3wt%のリン酸によりその表面をエッチングする表面処理が行われるが、この表面処理の時間が長いほど、細孔の直径は拡大することになる。
以上のように、酸化電圧や表面処理の時間を適宜選択することにより、規則正しく整列し、かつ所望の間隔および直径を有する凹部を設けることが可能となる。
なお、ポーラスアルミナをより均質に設けるためには、図59または図87に示したように、陽極酸化する対象のアルミニウム層の周辺部を絶縁膜で覆いつつ、上記の陽極酸化を実施することが好ましい。たとえば図59は、絶縁性基板の上に形成されたアルミニウム層402の周辺部が絶縁膜411で覆われた状態を示す上面図である。絶縁膜411としては、たとえば感光性ポリイミドなどの絶縁性の樹脂を用いることができる。このようにすることにより、電極取付部412の周辺でのみ陽極酸化反応が速く進み、陽極から遠い部分では酸化されない領域ができる現象を抑制することができるため、アルミニウム層402全体にポーラスアルミナを均質に設けることが可能となる。
また、阿相らの方法(J.Vac.Sci.Technol.,B,19(2),569(2001))により、ポーラスアルミナを設けたい箇所に、モールドを用いて予め窪みを設けてから陽極酸化を実施することにより、ポーラスアルミナを所望の配置に設けることもできる。この場合も上記同様、電圧を制御することにより凹部の最大径を望みのものとすることができる。
また、図87は、アルミニウム層402の周辺部が導電体層413で覆われた状態を示す図である。図87(a)が上面図、図87(b)が断面図である。図87(a)、図87(b)に示したように、陽極酸化されない導電体(金など)をスライドガラス401上に設けられたアルミニウム層402に蒸着させることにより導電体層413を形成後、陽極酸化を実施することによってもアルミニウム層402全体にポーラスアルミナを均質に設けることが可能となる。なお、陽極酸化実施後、導電体層413は導電体が金の場合、金エッチャントにより取り除かれる。金エッチャントはヨウ化カリウムとヨウ素の水溶液を混合することによって得られる。混合比はヨウ化カリウム:ヨウ素:水=1:1:3(重量比)とする。
さらに、本実施形態の構成においても、流路壁に対してDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングするなど、親水化処理をすることが好ましい。この結果、良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、例えば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質が挙げられる。このような物質としてはリピジュア(登録商標、日本油脂社製)などが例示される。リピジュア(登録商標)を用いる場合は、0.5wt%となるようにTBEバッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を流路内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂または牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。
(第九の実施形態)
図1の質量分析システム351に用いるマイクロチップは、流路の表面に親水性と疎水性領域が形成されていてもよい。たとえば、図3、図21、図22、図23、図35、または図37等の構成のマイクロチップに設けられた分離用流路112または分離用流路540中に、親水性と疎水性領域が形成された試料分離領域を設けてもよい。この試料分離領域の表面は、2次元的に略等間隔で配置された複数の疎水性領域と、疎水性領域を除く試料分離部表面を占める親水性領域とからなっている。図60は、図3、図21、図22、図35、または図37中の分離用流路112または分離用流路540の構造を詳細に示したものである。図60中、基板701に深さDの溝部が形成され、この溝部に、直径φの疎水性領域705が等間隔で規則正しく形成されている。本実施形態において疎水性領域705は、疎水基を有するカップリング剤を基板701表面に付着ないし結合することにより形成している。図60には示していないが、分離の際には流路の上部には被覆を設けてもよい。これにより溶媒の蒸発が抑えられる。また、圧力により流路中の試料を移動させることが可能となる。ただし、被覆を設けない構造とすることも可能である。被覆を設けない構造とすれば、質量分析を行う前に被覆を除去する操作が必要なくなり、操作性が向上する。
図60中、各部の寸法は、たとえば以下のようにする。
W:10〜20μm
D:50nm〜10μm
Φ:10〜1000nm
p:50nm〜10μm
各部のサイズは、分離目的に応じて適宜設定される。たとえば、pについては、
(i)細胞とその他の成分の分離、濃縮
(ii)細胞を破壊して得られる成分のうち、固形物(細胞膜の断片、ミトコンドリア、小胞体)と液状分画(細胞質)の分離、濃縮
(iii)液状分画の成分のうち、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)と低分子量成分(ステロイド、ブドウ糖等)の分離、濃縮
といった処理において、
(i)の場合、1μm〜1mm、
(ii)の場合、100nm〜10μm、
(iii)の場合、1nm〜1μm、
とする。
また、深さDの大きさは、分離性能を支配する重要な因子であり、分離対象となる試料の慣性半径の1〜10倍程度とすることが好ましく、1〜5倍程度とすることがより好ましい。
図61は、図60の構造の上面図(図61(a))および側面図(図61(b))である。疎水性領域705は、通常、0.1〜100nm程度の膜厚となる。疎水性領域705以外の部分は基板701の表面が露出した状態となっている。基板701としてガラス基板のように親水性材料を選択することにより、図60の構造において、親水性表面上に疎水性表面が所定のパターンをもって形成された構成となり、試料分離機能が発現する。すなわち、キャリア溶媒として親水性の緩衝液等を用いると、試料は親水性表面上のみを通過し、疎水性表面上は通過しない。このため、疎水性領域705が試料通過の障害物として機能し、試料分離機能が発現するのである。
次に疎水性領域705のパターン形成による分離方式について、分子サイズに着目して説明する。分離方式として主として2つの方式が考えられる。一つは、図62に示す分離方式である。この方式では、図8に示した場合と同様に、分子サイズが大きい程、疎水性領域705が障害となり、図示した分離部を通過するのに要する時間が長くなる。分子サイズの小さいものは、疎水性領域705間の間隙を比較的スムーズに通過し、分子サイズが大きいものに比べて短時間で分離部を通過する。
図63は、図62とは逆に大きな分子が早く、小さな分子が遅く流出する方式となっている。図62の方式では、図25に示した場合と同様に、試料中に巨大なサイズの物質を含む場合、このような物質が疎水性領域705の間隔を塞いでしまい、分離効率が低下する場合がある。図63に示す分離方式では、このような問題が解消される。図63中、分離用流路112中に複数の試料分離部706が離間して形成されている。各試料分離部706内には、それぞれ、略同一サイズの疎水性領域705が等間隔に配置されている。
試料分離部706間には、大きな分子が通り抜けられるような広幅のパスが設けられているため、図62とは逆に大きな分子が早く、小さな分子が遅く流出するようになる。分子サイズが小さいほど、分離領域中でトラップされて長い経路を通ることになる一方、大きいサイズの物質は、隣接試料分離部706間のパスを円滑に通過するからである。この結果、小さいサイズの物質は、大きいサイズの物質よりも後から排出される形で分離がなされる。サイズの大きい物質は比較的スムーズに分離領域を通過する方式となるので、前述した疎水性領域705間に大きな分子がトラップされて分離効率が低下するといった問題が低減され、分離効率が顕著に改善される。こうした効果をより顕著にするためには、隣接試料分離部706間のパスの幅を、試料分離部706中の疎水性領域705間の間隙よりも大きくするのが良い。パスの幅は、疎水性領域705間の間隙の好ましくは2〜200倍程度、より好ましくは5〜100倍程度とする。
なお、図63の例では、各試料分離部に同じサイズ、間隔の疎水性領域705を形成しているが、それぞれの試料分離部で、異なるそれぞれサイズ、間隔の疎水性領域705を形成してもよい。
分子サイズの物質を分離する場合、試料分離部間のパスの幅及び、試料分離部内の疎水性領域705の間隔は、分離しようとする成分(核酸、アミノ酸、ペプチド・タンパク質などの有機分子、キレートした金属イオンなどの分子・イオン)のサイズに合わせて適宜に選択される。たとえば疎水性領域705の間隔は、試料中に含まれる最小サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最小サイズの分子の慣性半径と、疎水性領域705の間隔との差異を、100nm以内、より好ましくは50nm以内、最も好ましくは10nm以内とする。第一の領域の間隔を適切に設定することにより、分離能が一層向上する。
隣接する試料分離部706間の間隔(パスの幅)は、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と同程度か、それよりもわずかに小さめあるいは大きめとするのが好ましい。具体的には、試料中に含まれる最大サイズの分子の慣性半径と試料分離部間の間隔との差異を、当該分子の慣性半径の10%以内、より好ましくは5%以内、最も好ましくは1%以内とする。試料分離部706間の間隔が広すぎると、サイズの小さい分子の分離が充分に行われなくなることがあり、試料分離部706間の間隔が狭すぎると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。
また、上記実施形態では疎水性領域を一定間隔で配設した例を示したが、試料分離部706内において疎水性領域を異なる間隔で配設することもできる。こうすることで大・中・小等の複数の大きさの分子またはイオンを効率的に分離することができる。また、疎水性領域の配置に関し、試料の進行方向に対して互い違いに疎水性領域を配置する方法を採用することも有効である。こうすることにより、目的の成分を効率的に分離することができる。
また、本実施形態においても、以上で述べた他の実施形態と同様、図22に示すように、分離用流路112の両端に電圧が印加され、これにより試料が分離用流路112中を移動する。ここで、試料に外力を与えるための電圧以外に、電気浸透流を抑制するための電圧を印加してもよい。図22の構成では、この目的のため、基板にゼータ補正電圧を印加している。このようにすれば電気浸透流が抑制され、測定ピークのブロードニングを有効に防止することができる。
次に、本実施形態のマイクロチップの製造方法について、図21のマイクロチップ307の流路形状を例に、図64〜図69を用いて説明する。
図21の流路形状は、まず、図64(a)に示すように、基板701表面に溝部730を設け、次いで図64(b)のように、溝部730中の所定箇所に試料分離領域731を形成することにより得られる。以下、図64(a)の基板701上に溝部730を形成する工程について図65を参照して説明する。なお、本実施例では基板701としてガラス基板を用いた例について説明する。
初めに、基板701上にハードマスク770、レジストマスク771を順次形成する(図65(a))。次いで、レジストマスク771に所定の開口部を設ける(図65(b))。続いて、開口部を設けたレジストマスク771をマスクとしてドライエッチングを行い、図65(c)の状態とする。エッチングガスとしては、SFなどを用いる。続いて、バッファードフッ酸などのエッチング液を用いて、基板701をウェットエッチングする。通常、エッチング深さを1μm程度とする。図65(d)は、このエッチングが終了した状態を示す。最後にハードマスク770及びレジストマスク771を除去する(図65(e))。以上の工程により図64(a)に示すような溝部730が形成される。
図64(a)における溝部730の形成工程において、溝部730の表面を親水性とし、それ以外の基板701表面を疎水表面とすることもできる。以下、このような構造の形成工程について図66を参照して説明する。まず、図65(e)で得られた構造に対して、全面に疎水性表面処理膜720を形成する(図66(a))。疎水性表面処理膜720を構成する材料としては、たとえば、3−チオールプロピルトリエトキシシランが例示される。
続いて基板表面にレジスト721をスピンコート法により塗布・乾燥する(図66(b))。次いで溝部に対応してレジスト721に開口部を設ける(図66(c))。次に、開口部を設けたレジスト721をマスクとして、ドライエッチングを行う(図66(d))。その後、レジスト721をアッシング及び剥離液処理により除去する。以上の工程を実施することにより図66(e)の状態となる。すなわち、試料流路溝の内壁は、ガラス材料からなる基板701の親水性表面が露出する一方、それ以外の部分は疎水性表面処理膜720により覆われた構造となる。このため、キャリア溶媒として親水性溶媒を用いれば、試料が溝の外部に流出することがない。
続いて、図64(b)における試料分離領域731の形成工程について図67を参照して説明する。初めに、図67(a)のように、基板701上に電子ビーム露光用レジスト702を形成する。続いて、電子ビームを用い、電子ビーム露光用レジスト702を所定の形状にパターン露光する(図67(b))。露光部分を溶解除去すると、図67(c)のように所定の形状にパターニングされた開口部が形成される。その後、図67(d)のように酸素プラズマアッシングを行う。なお、酸素プラズマアッシングは、サブミクロンオーダーのパターンを形成する際には必要となる。酸素プラズマアッシングを行えばカップリング剤の付着する下地が活性化し、精密なパターン形成に適した表面が得られるからである。一方、ミクロンオーダー以上の大きなパターンを形成する場合においては必要性が少ない。
アッシング終了後、図68(a)の状態となる。図中、親水性領域703はレジスト残さおよび汚染物が堆積して形成されたものである。この状態で、疎水性領域705を形成する(図68(b))。疎水性領域705を構成する膜の成膜法としては、たとえば気相法を用いることができる。この場合、密閉容器中に基板701と疎水基を有するカップリング剤を含む液とを配置し、所定時間放置することにより膜を形成する。この方法によれば、基板701の表面に溶剤等が付着しないため、所望どおりの精密なパターンの処理膜を得ることができる。他の成膜法としてスピンコート法を用いることもできる。この場合、疎水基を有するカップリング剤溶液を塗布して表面処理を行い、疎水性領域705を形成する。疎水基を有するカップリング剤としては、3−チオールプロピルトリエトキシシランを用いることができる。成膜方法として、ほかにディップ法等を用いることもできる。疎水性領域705は、親水性領域703の上部には堆積せず、基板701の露出部のみに堆積するため、図61に示すように、多数の疎水性領域705が離間して形成された表面構造が得られる。
以上述べたプロセスの他、以下のような方法により上記と同様の表面構造を得ることもできる。この方法では、図67(c)のようにパターニングされた未露光部702aを形成した後、酸素プラズマアッシングを行わずに図69(a)のようにレジスト開口部に3−チオールプロピルトリエトキシシランを堆積して疎水性領域705を形成する。その後、未露光部702aを選択的に除去できる溶媒を用い、ウェットエッチングを行って、図69(b)の構造を得る。この際、溶媒としては、疎水性領域705を構成する膜に損傷を与えないものを選択することが重要である。このような溶媒として、たとえばアセトン等を例示することができる。
上記実施の形態では、流路溝部に疎水性領域を形成したが、これ以外に以下のような方法を採用することもできる。まず図70(a)、(b)のように二種類の基板を用意する。図70(a)の基板は、ガラス基板901上に3−チオールプロピルトリエトキシシラン等の疎水基を有する化合物からなる疎水性膜903が形成された構成となっている。疎水性膜903は、所定のパターニング形状にて形成される。この疎水性膜903の設けられた箇所が試料分離部となる。一方、図70(b)の基板は、ガラス基板902表面にストライプ状の溝が設けられた構成となっている。この溝の部分が試料流路となる。疎水性膜903の形成方法は、上述のとおりである。ガラス基板902表面にストライプの溝も上述のように、マスクを用いたウェットエッチングにより容易に作製することができる。これらを図71のように張り合わせることによって、本実施形態の構成を得ることができる。2枚の基板によって形成される空間904が試料流路となる。この方法によれば、平坦な表面に疎水性膜903を形成することとなるので、製造が容易であり、製造安定性が良好である。
カップリング剤膜の作製方法としては、たとえばLB膜引き上げ法により基板全面にシランカップリング剤からなる膜を形成し、親水性/疎水性のマイクロパターンを形成する方法を用いることができる。
さらに、本実施形態において、試料分離領域には一つの疎水性領域のみを設けることもできる。この場合、たとえば、親水性表面を有する分離用流路内に、試料の流れ方向に延在する一つの疎水性領域を形成することもできる。このようにしても、試料が分離用流路を通過する際に、試料分離領域の表面特性によって試料を分離することができる。
さらに、上述した疎水性処理および親水性処理により流路自体を形成することもできる。
疎水性処理により流路を形成する場合、ガラス基板など親水性の基板を用いて、流路の壁に相当する部分を疎水性領域で形成する。親水性である緩衝液は、疎水性領域を避けて進入するため、壁部分の間に流路が形成される。流路には被覆を被せても被せなくてもよいが、被覆を被せる場合は基板から数μmの隙間をあけるのが好ましい。隙間は被覆の断端付近をのりしろとして、PDMSやPMMAなどの粘稠性の樹脂をのりとして基板に接着することで実現できる。断端付近だけの接着でも、緩衝液を導入すると疎水性領域が水をはじくため、流路が形成される。
一方、親水性処理により流路を形成する場合、疎水性の基板、もしくはシラザン処理等で疎水性とした基板表面に親水性の流路を形成する。この場合も、親水性領域にのみ緩衝液が進入するので親水性領域を流路とすることができる。
さらに、この疎水性処理、あるいは親水性処理はスタンプやインクジェットプリントなどの印刷技術を用いて行うこともできる。スタンプによる方法では、PDMS樹脂を用いる。PDMS樹脂はシリコーンオイルを重合して樹脂化するが、樹脂化した後も分子間隙にシリコーンオイルが充填された状態となっている。そのため、PDMS樹脂を親水性の表面、例えば、ガラス表面に接触させると、接触した部分が強い疎水性となり水をはじく。これを利用して、流路部分に対応する位置に凹部を形成したPDMSブロックをスタンプとして、親水性の基板に接触させることにより、前記の疎水性処理による流路が簡単に製造できる。
インクジェットプリントによる方法では、粘稠性が低いタイプのシリコーンオイルをインクジェットプリントのインクとして用い、印刷紙として親水性の樹脂薄膜、例えばポリエチレン、PET、酢酸セルロース、セルロース薄膜(セロハン)などを用いる。流路壁部分にシリコーンオイルが付着するようなパターンに印刷することによっても同じ効果が得られる。
さらに、疎水性処理および親水性処理により、所定形状の疎水性パッチまたは親水性パッチを形成し、特定のサイズ未満の物質を通過させ、特定のサイズ以上の物質を通過させないようなフィルタを流路中に形成することもできる。
例えば疎水性パッチによりフィルタを構成する場合、パッチを一定の間隔をあけて直線的に繰り返し配置することにより、破線状のフィルタパターンを得ることができる。疎水性パッチどうしの間隔は、通過させたい物質のサイズよりも大きく、通過させたくない物質のサイズよりも小さくする。例えば100μm以上の物質を除去したい場合、疎水性パッチどうしの間隔は、100μmより狭く、例えば50μmに設定する。
フィルタは、流路を形成するための疎水性領域パターンと、前記、破線状に形成された疎水性パッチのパターンを一体に形成することで実現できる。形成方法としては、前述のフォトリソグラフィーとSAM膜形成による方法、スタンプによる方法、インクジェットによる方法等を適宜用いることができる。
なお、流路中にフィルタを構成する場合、流れ方向に対して垂直にフィルタ面を設けてもよく、流れ方向に平行にフィルタ面を設けてもよい。フィルタ面を流れ方向に平行に設ける場合は、垂直に設ける場合と比べて、物質が詰まりにくく、フィルタの面積を広く取れるという長所がある。この場合、流路部分の幅を広めに、たとえば1000μmとし、その中央部分に50μm×50μmの正方形の疎水性パッチを、互いに50μmの隙間を有するように流路の流れの方向に形成することで、流路を流れ方向に並行に2分割することができる。分割された流路の一方の側から、分離したい物質を含む液体を導入すると、その液体に含まれる50μmよりも大きな物質が除かれた濾液が、他方の流路に流出する。これにより、流路の一方の側で物質を濃縮することができる。
(第十の実施形態)
質量分析システム351に用いるマイクロチップとして、分離領域を備えた流路が複数設けられ、その流路と交差し、かつ当該分離領域に試料を導入する目的の試料導入用流路が設けられた形態を採用することもできる。図72に示される流路構成はその一例である。この流路構成には、柱状体、凹部、または親疎水性領域を備えた分離領域423を有する流路409が複数設けられている。分離対象試料は、試料導入口424から導入され、リザーバー425へ向かって拡散する。試料導入口424とリザーバー425との間の流路426は分離能を賦与されておらず、分離能を有する複数の流路409へ試料を運ぶためのものである。試料が流路426に満たされた後、リザーバー427からリザーバー428方向へ試料を泳動させることにより、同時に分離を実行することができるため、分離効率が向上する。また各流路409に、異なる特性をもつ分離領域423を備えることにより、試料を種々の特性に応じて同時に分離することが可能となる。さらに図73のようにリザーバー427を一つとした形態を採用することもできる。この例の場合、リザーバー427から全ての流路409に緩衝液を注入することができるため、効率的である。
図72または図73の構成は、試料分離部の形態が上述の第一〜第九の実施形態のいずれの態様である場合にも採用することができる。さらに、図72または図73に示される形態においては、分離領域が設けられた流路と試料導入用流路とが交差する箇所に第五の実施形態に記載したようにピラーメッシュを配設することもできる。図74はその一例を示す図である。流路409と流路426との交差点において、ピラーメッシュ429には複数の微少なピラーが配設されている。このピラーメッシュ429は濾過機能を有しており、ピラーのピッチを制御することにより、所望する範囲の大きさの分子のみを分離領域423へと通過させることができるため、所望の分析を迅速かつ正確に実施することができる。なお、図74においては、分離領域が設けられた流路と試料導入用流路とが直交している例を示したが、これに限られず、任意の角度で交わった構成としても上記の効果を得ることができる。
また、ピラーメッシュ429を備えた場合、弱い駆動力(たとえば微弱な電界)を分離対象の分子群に与えることによって、泳動を開始する前においては図75(a)に示されるように広がっていた試料は、ピラーメッシュ429によって堰き止められる。このため、図75(b)のように当該分子群は濃縮され、細いバンドを形成する。次に、一時的に強い駆動力(たとえば強い電界)を分離対象の分子群に与えると、当該分子群は濃縮された状態を保ちつつピラー列を通過する。これは、特にDNAやタンパク質のような高分子の場合、分子サイズがピラー同士の間隔よりも大きい場合であっても、ピラー列が一列ないし数列程度であれば当該分子は伸長することによりピラー間をすり抜けることができることによる(レプテーション効果)。当該分子群は、ピラーメッシュ429を通過後も細いバンド状態を保っているため、分離後のピークの重なりが少なくなることから高精度の分離が実現する。なお、流路409のリザーバー427に試料を直接投入しても図75(b)のように、充分細いバンドが得られるため、投入用流路が不要であるという特長もある。
なお、図74および図75においては、分離領域が設けられた流路と試料導入用流路とが直交している例を示したが、これに限られず、任意の角度で交わった構成としても上記の効果を得ることができる。
(第十一の実施形態)
図1の質量分析システム351に適用するマイクロチップにおいて、基板に試料を吸着させるための微粒子を付着させて、試料分離部を構成してもよい。図76(a)は、本実施形態に係るマイクロチップの上面図であり、図76(b)は図76(a)の試料分離部347のE−E’方向の断面の様子を説明する図である。図76(a)において、基板110に分離用流路112が設けられており、その両端に液溜め101aおよび101bが形成されている。分離用流路112には、微粒子が充填された試料分離部347が設けられている。試料分離部347に充填する微粒子としては、TLC(薄層クロマトグラフィー)において吸着剤として用いる材料等を用いることができる。具体的には、たとえば、シリカゲル、アルミナ、セルロース等を用い、粒径はたとえば5〜40nmとすることができる。
たとえば微粒子としてシリカゲルを用いる場合、試料分離部347へのシリカゲル粉体の充填は、分離用流路112の下流側に堰き止め部材を設けた上で、シリカゲル粉体、バインダ、および水の混合体を流路に流し込み、その後、この混合体を乾燥、固化させることにより、行うことができる。
このような試料分離部347を有するマイクロチップを用いた分離は次のようにして行う。まず、マイクロチップが乾燥した状態で、試料を試料分離部347の液溜め101a側の端部に上面からスポットする。試料のスポット量は、たとえば1μL〜10μL程度とする。こうすれば、質量分析を行うのに充分な試料量が確保される。また、スポット幅を好適な細さとすれば、好適な分離能が発揮される。そして、試料がある程度乾燥した段階で、液溜め101aに所定量の展開液を導入する。すると、導入された展開液は、毛細管現象により分離用流路112に導入される。さらに、分離用流路112から毛細管現象により試料分離部347の微粒子の間隙に浸透する。
このとき、試料分離部347中を下流すなわち液溜め101b側に向かって浸透していく展開液の流れによって、試料分離部347にスポットされた試料が移動する。このとき、試料中の成分のうち、展開液との親和性が高い成分ほど速やかに移動し、親和性に応じて展開される。こうして試料中の成分を分離後、第一の実施形態と同様にして試料分離部347に沿ってレーザー光を照射すれば、試料の各成分について質量分析を行うことができる。本発明の方法では、展開後、試料分離部347が速やかに乾燥するため、より一層効率よく質量分析のステップに移行することが可能である。
なお、図76(a)においては、分離用流路112に微粒子を充填したが、基板の表面に吸着剤を付着させた構成でもよく、特に流路を設ける構成には限定されない。
(第十二の実施形態)
本実施形態は、質量分析システムの別の構成に関する。本実施形態の質量分析システムには、第一〜第十一の実施形態で説明したマイクロチップのうち、任意の構成のものを適用することができる。以下、図21のマイクロチップ307の流路構成で、分離用流路112に図6に示したピラー125が配設されたマイクロチップを用いる場合を例に説明する。なお、必要に応じて第四の実施形態で前述したピラーパッチを形成した分離用流路112としてもよい。
図77は、本実施形態に係る質量分析システムの構成を示す概略図である。図77の質量分析システム319は、質量分析装置301、マイクロチップ307、および変換部321、演算処理部333、そしてこれらを管理し、制御するシステム制御部309を含む。質量分析装置301は、レーザー光源305、光源支持部315、載置台325、カバー341、パッキン345、ギア343および検出部327を備える。マイクロチップ307は、載置台325上に設置される。
質量分析システム319を用いた質量分析は以下のようにして行う。まず、マイクロチップ307を用いた後述の方法により、試料をマイクロチップの流路(図77では不図示)上で分離する。
そして、マイクロチップ307を載置台325にセットし、ギア343を調節し、載置台325を質量分析装置301のチャンバ内に挿入する。このとき、カバー341がチャンバの壁部に設けられたパッキン345に密着することにより、分析時にはチャンバ内の真空を好適に確保することができる。そして、載置台325または光源支持部315を調節し、マイクロチップ307またはレーザー光源305の位置調整を行う。
試料の分離されている流路に沿って真空下でレーザー光源305からレーザー光をスキャンし、分離された試料中の各成分について質量分析を行う。マイクロチップ307の流路中で分離された試料の各成分が気化する。載置台325は電極となっており、ここに電圧を印加することにより、気化した試料は真空中を飛行し、検出部327にて検出される。検出値は変換部321にてAD変換された後、演算処理部333にて所定の分析、解析が行われる。なお、マイクロチップの底面に金属膜を形成し、外部電源に接続可能な構成としてもよい。こうすれば、マイクロチップに電圧を印加することが可能となる。
質量分析システム319では、このようにマイクロチップ307上の流路で分離された試料が、流路上で連続して分析される。このため、複数の成分を含む試料を分離した後、各成分について効率よく質量分析を行うことができる。
次に、質量分析装置301およびマイクロチップ307を備える質量分析システムの構成と、このシステムを用いた分析、解析の流れについてさらに詳細に説明する。まず、図78は、質量分析システムの制御方法を説明するための図である。図78において、測定条件制御部311および解析条件設定部331はシステム制御部309によって管理される。
測定条件制御部311は、質量分析測定の各種条件を制御し、たとえばレーザー光源制御部313、マイクロチップ制御部317、検出部327および変換部321を制御する。レーザー光源制御部313は、レーザー光の照射角度および照射強度を制御する。ここでは、レーザー光源305からの出射光強度およびレーザー光源305を支持する光源支持部315の角度または位置を調節する。
マイクロチップ制御部317は、マイクロチップ307を設置する載置台325の位置を調節する。こうすることにより、マイクロチップ307の分離用流路112に確実にレーザー光源305からレーザー光を照射することができる。なお、光照射の位置合わせの精度を高めるため、マイクロチップ307の所定の位置に位置合わせ用マーク(図77および図21では不図示)を設けておくことが好ましい。
検出部327は、レーザー光の照射によりイオン化した成分のフラグメントを検出する。このとき、たとえばレーザー光照射開始時点を時間の原点として、検出を開始する。こうすることにより、分離用流路112に沿ったレーザー光のスキャンと、スキャン位置に対応したイオン検出信号とが取得される。検出部327で検出されたイオン検出信号は変換部321にてAD(アナログ−デジタル)変換される。変換部321にて変換されたデータは演算処理部333に送出され、データ解析が行われる。また、データは測定データ記憶部329に保存される。
演算処理部333は、解析条件設定部331によって制御され、所定の解析を行う。このとき、比較データ等が記憶された参照データ記憶部339の情報を参照してもよい。解析結果は、測定データ記憶部329に記憶される。また、解析結果は出力部335から出力することもできるし、表示部337に表示させることもできる。
次に、図79は質量分析システムを用いた分析の流れを説明するための図である。図79に示したように、まず、試料中の夾雑物をある程度除去する粗精製(S101)、を行う。そして、必要に応じて後述する前処理(S102)を行った後、試料の分離を行う(S103)、そして、分離用流路112に沿ってレーザー光を照射してレーザーの照射位置(バンド)の成分をイオン化し、質量分析を行う(S104)。質量分析後、各成分について得られたフラグメントからフラグメントパターンを分析し(S105)、得られたデータの解析を行う(S106)。ステップ106のデータ解析の際には、参照データ記憶部339に格納されたデータベースを参照する。
ステップ102における前処理としては以下の処理があげられる。たとえば分子内ジスルフィド結合を有する成分の質量分析を行う場合に、DTT(ジチオスレイトール)等の還元試薬を含むアセトニトリル等の溶媒中で還元反応を行ってもよい。なお、還元後、チオール基をアルキル化等により保護し、再び酸化するのを抑制することが好ましい。
また、質量分析装置301の分析方式に適した分子量よりも試料中の成分が高分子量である場合には、トリプシン等のタンパク質加水分解酵素を用いて還元処理されたタンパク質分子の低分子化処理を行ってもよい。低分子化は燐酸バッファー等の緩衝液中で行われるため、反応後、脱塩および高分子画分すなわちトリプシンの除去を行ってもよい。また低分子化を施す場合にも、あらかじめ還元処理を行うことが好ましい。こうすれば、より一層精度よい測定が可能となる。
また、トリプシン処理は、試料を分離した後に行ってもよい。試料を分離した後にトリプシン処理を行う場合、試料を分離された位置に固定化してもよい。固定化することにより、分離された試料の拡散が効果的に抑制されるため、低分子化の際にもバンド幅の拡大等を好適に抑制することができる。図85は、トリプシン処理の方法の一例を示す図である。図85(a)に示したように、基板110上に形成されたピラー125の表面に、固定化層391を形成しておく。ピラー125の材料としては、第一の実施形態で記載した材料を用いることができるが、たとえばシリコンまたは金属とする。固定化層391は、たとえばエポキシ基を有するシランカップリング剤を塗布することにより形成される。固定化層391を有するピラー125を用いて試料451を分離し、分離用流路112を乾燥させると、試料451は固定化層391のエポキシ基により固定化される。
そして、図85(b)に示したように、分離された試料451が分離用流路112に固定化された状態で、保温バス393中の酵素溶液395に浸漬し、所定の温度で酵素処理を行うと、試料451は分離された位置において低分子化される。このため、分離された成分ごとに断片の質量分析結果を得ることができる。
同一の試料451について、同一構成の二つの分離用流路112を用いて分離を行い、一方の分離用流路112で分離された試料451には図85を用いて上述した方法で低分子化処理を施した後にレーザー光を照射し、他方の分離用流路112で分離された試料451は低分子化を施さずにレーザー光を照射すれば、試料451中の成分そのもののフラグメントパターンと、低分子化された断片のフラグメントパターンの2種類の情報が成分ごとに得られる。二つの分離用流路112の同位置に検出されたバンドは同一の成分であると考えられるから、これらの2種類の情報を組み合わせて解析を行うことにより、さらに確実に成分の同定を行うことが可能となる。なお、二つの分離用流路112は、同一のマイクロチップ上に形成されていてもよいし、異なるマイクロチップ上に形成されていてもよい。
ステップ103における分離は、上述の方法により行う。なお、ステップ102、ステップ103は、質量分析装置301の質量分析チャンバ内で行ってもよいし、質量分析装置301外部または前室にて行ってもよい。適宜質量分析装置301の外部で行ってもよい。
ステップ104における質量分析の手順を図78〜図80を参照して説明する。ステップ103(図79)までのステップを、質量分析装置301の質量分析チャンバの外部で行った場合には、マイクロチップ307をセットした載置台325を質量分析チャンバに移動させ、質量分析チャンバ内に設置する(図80のS201)。
次に、マイクロチップ307の分離用流路112に沿って、レーザー光源305からレーザー光を照射する(図80のS202)。このとき、載置台325は電界形成用の基板として用いられる。イオン化した試料成分の比電荷(m/z)を検出部327にて検出する(S203)。
検出部327において検出されたデータは、変換部321にてAD変換等所定の変換を施される(S204)。そして、変換されたデータは測定データ記憶部329に保存される(S205)。
以上の質量分析(図79のS104)において、マイクロチップ307の分離用流路112には、ピラー125が形成されているため、マトリックスを用いることなく高効率で試料をイオン化させることも可能となる。タンパク質溶液をマトリックス溶液と混合する必要がなく、分離用流路112にレーザー光を照射して、イオン化することができる。
図79のステップ102(前処理)〜ステップ104(質量分析)の各ステップは、マイクロチップ307上で連続して行うことができる。そして、分離用流路112に沿って直接レーザー光を照射するため、試料を分離用流路112中で分離することにより得られた各バンド中の成分を分離用流路112から移動させることなく、質量分析を行うことができる。このため、試料が少量であっても、分離から質量分析までの各ステップを効率よく高い精度で行うことが可能である。
また、分離用流路112では、ピラー125を用いて試料を分離するため、従来電気泳動に用いるゲルやビーズ等の充填剤を用いる必要がない。このため、分離時には液体試料が分離用流路112内に保持されて乾燥が抑制されるとともに、レーザー光照射時には気化がスムーズに行われる。また、充填剤を用いた場合、充填剤がイオン化することにより測定時にバックグラウンドが上昇する可能性があるが、ピラー125を用いた分離用流路112においては、バックグラウンドの上昇が抑制される。なお、レーザー光照射時に分離用流路112由来成分がイオン化することを抑制するため、第一の実施形態で前述したように、分離用流路112表面の親水化にはシリコン熱酸化膜を用いることが好ましい。
また、質量分析は、マトリックスを用いる方式で行ってもよい。マトリックスは、測定対象物質に応じて適宜選択されるが、たとえば第一の実施形態に記載の物質を用いることができる。
図79のステップ106におけるフラグメントパターンの解析は、図78における演算処理部333にて行われる、ステップ106におけるフラグメントパターンの解析方法の一例について図81および図82を用いて説明する。図81は、分離用流路112において分離された成分ごとに得られる質量分析のフラグメントパターンを示す図である。また、図82(a)と図82(b)とは、それぞれ異なる検体から抽出した試料について得られたフラグメントパターンである。
図81において、試料が分子量に基づいて分離されている場合、試料中の各成分について、分離用流路112上の位置と分子量について二次元マップを作成し、解析を行うことができる。すなわち、図82(a)、図82(b)では、チップ上の位置を横軸とし、分子量を縦軸として2次元的に示したマップが示されている。縦軸については、各成分のフラグメントパターンのうち、検出強度が最大(ピーク)のm/zを黒塗りで示している。このようにすれば、図82(a)と図82(b)とのフラグメントパターンの相違を利用して、検体間で異なる成分及び異なる部位を容易に特定することが可能である。たとえば、所定のタンパク質、DNA等に変位が生じる場合、その成分を質量分析した際のフラグメントパターンでピークとなるフラグメントが変化するからである。また、フラグメントパターンを解析することにより、変異が生じた成分およびその部位の同定も可能となる。このような解析結果は、たとえば診断などの有用な指針として提供することができる。また、有用物質のスクリーニング等にも応用することができる。
以上のように、質量分析システム319によって、試料の分離から各成分の同定までのステップが精度よく迅速に実現される。試料が微量であっても、各成分を高感度で検出可能である。また、各成分のフラグメントパターンの取得および結果の解析を効率よく行うことが可能であり、幅広い情報を得ることができる。
なお、質量分析システム319では、分離は質量分析装置301外部で行い、質量分析装置301の質量分析チャンバにセットしたが、質量分析装置301に前室が設けられた構成としてもよい。
図83は、質量分析システムの別の構成を示す図である。図83では、質量分析チャンバに隣接する前室が設けられており、マイクロチップによる試料の分離は装置外部または前室内で行う。このため、質量分析チャンバ内を予め減圧しておくことができる。
分離後、マイクロチップのセットされた載置台を有する前室を減圧する。前室は質量分析チャンバより小型であるため、速やかに所定の真空度に到達する。そして、移動機構により前室から質量分析チャンバへ載置台を移動し、所定の位置にセットする。
流路中の成分のイオン化は、質量分析システム319(図77)と同様に、レーザー光源からレーザー光を流路(不図示)に沿って照射してなされる。載置台を基板として所定の電圧を付与することによってイオン化したフラグメントが検出部に到達し、検出される。検出値は解析部にて解析される。載置台、光源支持部、レーザー光源、検出部、解析部は、制御部にて制御されている。
このように、図83の質量分析システムは、前室を備えているため、分離と質量分析を効率よく連続して行うことができる。
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、以上の実施形態においては分離用流路112において、成分の分子量に従って試料を分離する態様について説明したが、分子量に代わり、試料の等電点を用いて分離することもできる。
等電点を用いて分離を行う場合、試料は、あらかじめ所定のバッファーと混合しておく。ここでいうバッファーとは、電界をかけるとpH勾配を形成する溶液であり、たとえばアマーシャルバイオサイエンス社のAmpholineやPharmalyte等を含む溶液が例示される。たとえば図21のマイクロチップ307を用いて分離を行う場合、この溶液が液溜め101aまたは液溜め101bに導入され、分離用流路112に導かれる。
なお、試料は、分離用流路112に形成される電界の方向に対して側方から試料が導入されてもよい。すなわち、液溜め102aまたは液溜め102bから等電点電解質を含む試料を導入することもできる。試料には、等電点電解質が含まれているため、電界の影響を受けて分離用流路112内にpH勾配が形成される。このため、導入された試料は、分離用流路112において、各成分の等電点に応じてバンドに収束する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】

【図31】

【図32】

【図33】

【図34】

【図35】

【図36】

【図37】

【図38】

【図39】

【図40】

【図41】

【図42】

【図43】

【図44】

【図45】

【図46】

【図47】

【図48】

【図49】

【図50】

【図51】

【図52】

【図53】

【図54】

【図55】

【図56】

【図57】

【図58】

【図59】

【図60】

【図61】

【図62】

【図63】

【図64】

【図65】

【図66】

【図67】

【図68】

【図69】

【図70】

【図71】

【図72】

【図73】

【図74】

【図75】

【図76】

【図77】

【図78】

【図79】

【図80】

【図81】

【図82】

【図83】

【図84】

【図85】

【図86】

【図87】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の通る流路および該流路に設けられた試料分離領域を有するマイクロチップと、
前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射する光照射手段と、
光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得る解析手段と、
を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載の質量分析システムにおいて、
前記解析手段は、前記光照射位置と前記光照射位置に対応する前記質量分析データとを関連づけて記憶するデータ記憶部を含むことを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載の質量分析システムにおいて、
前記試料分離領域は、前記試料の分子量、等電位点または表面の疎水性に応じて前記試料を分離し、
前記光照射手段は、前記試料分離領域中に分離された前記試料に沿って前記光照射位置を移動させながら前記レーザー光を照射するように構成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路が基板の表面に設けられており、前記試料分離領域は複数の柱状体を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項5】
請求の範囲第4項に記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域は、複数の前記柱状体が配設された柱状体配設部を複数含み、隣接する前記柱状体配設部間に前記試料が通過するパスが設けられたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項6】
請求の範囲第5項に記載の質量分析システムにおいて、前記パスの幅は、前記柱状体配設部中の前記柱状体間の平均間隔よりも大きいことを特徴とする質量分析システム。
【請求項7】
請求の範囲第5項または第6項に記載の質量分析システムにおいて、平面配置が略菱形になるように複数の前記柱状体配設部が組み合わせて配置され、それぞれの前記柱状体配設部の平面配置が略菱形となるように、前記柱状体が配置されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項8】
請求の範囲第4項に記載の質量分析システムにおいて、複数の前記柱状体の密度が、前記流路中の前記試料の進行方向に向かって次第に低くなっていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項9】
請求の範囲第4項に記載の質量分析システムにおいて、複数の前記柱状体の密度が、前記流路中の前記試料の進行方向に向かって次第に高くなっていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項10】
請求の範囲第4項乃至第9項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域と、前記試料分離領域よりも前記柱状体が疎に形成された調整領域とが、前記流路中の前記試料の進行方向に対して交互に形成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項11】
請求の範囲第4項乃至第10項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記柱状体の表面に金属層が設けられていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項12】
請求の範囲第4項乃至第10項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記柱状体は金属により構成されることを特徴とする質量分析システム。
【請求項13】
請求の範囲第1項乃至第12項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記レーザー光は、赤外光レーザーまたは紫外光レーザーであることを特徴とする質量分析システム。
【請求項14】
請求の範囲第1項乃至3項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域は複数の凹部を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項15】
請求の範囲第14項に記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域中に、複数の前記凹部が設けられた突起部を具備することを特徴とする質量分析システム。
【請求項16】
請求の範囲第14項または15項に記載の質量分析システムにおいて、陽極酸化法により前記凹部が形成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項17】
請求の範囲第1乃至第16項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路の内壁の表面が親水化されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項18】
請求の範囲第17項に記載の質量分析システムにおいて、前記流路の内壁の表面に親水性物質を付着させることにより、前記流路の内壁が親水化されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項19】
請求の範囲第17項に記載の質量分析システムにおいて、前記流路の表面にシリコン熱酸化膜を形成することにより、前記流路の内壁が親水化されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項20】
請求の範囲第1項乃至第16項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路の内壁の表面が撥水化されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項21】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域の表面は、離間して配置された複数の第一の領域と、該第一の領域を除く前記試料分離領域の表面を占める第二の領域と、を有し、前記第一の領域および前記第二の領域のうち、一方が疎水性領域であり、他方が親水性領域であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項22】
請求の範囲第21項に記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域を複数備えたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項23】
請求の範囲第22項に記載の質量分析システムにおいて、複数の前記試料分離領域がストライプ状に配置されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項24】
請求の範囲第21項乃至第23項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記疎水性領域は、疎水基を有する化合物を含む膜により構成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項25】
請求の範囲第24項に記載の質量分析システムにおいて、前記疎水基を有する化合物は、疎水基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項26】
請求の範囲第24項に記載の質量分析システムにおいて、前記疎水基を有する化合物は、シリコーン化合物であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項27】
請求の範囲第21項乃至第24項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、ポリジメチルシロキサンブロックを親水性の前記流路の表面に接触させることにより、前記疎水性領域が形成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項28】
請求の範囲第21項乃至第24項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、液状シリコーン化合物を親水性の前記流路の表面に印刷することにより、前記疎水性領域が形成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項29】
請求の範囲第21項乃至第28項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路の表面の少なくとも一部に、開口部を有するマスクを設けた後、該開口部から前記流路表面に疎水基を有する化合物を堆積し、次いで該マスクを除去することにより、前記疎水性領域が配置された前記試料分離領域が形成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項30】
請求の範囲第21項乃至第29項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記親水性領域は、親水基を有する化合物を含む膜により構成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項31】
請求の範囲第30項に記載の質量分析システムにおいて、前記親水基を有する化合物は、親水基を有するシランカップリング剤であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項32】
請求の範囲第21項乃至第31項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路の表面の少なくとも一部に、開口部を有するマスクを設けた後、該開口部から前記流路表面に親水基を有する化合物を堆積し、次いで該マスクを除去することにより、前記親水性領域が配置された前記試料分離領域が形成されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項33】
請求の範囲第1項乃至第32項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路が複数設けられ、これらの前記流路と交差する液体試料導入用流路が設けられたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項34】
請求の範囲第33項に記載の質量分析システムにおいて、前記流路および前記液体試料導入用流路が交差する箇所と前記試料分離領域との間に、複数の柱状体が配設されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項35】
請求の範囲第1項乃至第34項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、柱状体が一列に配設された堰止部をさらに有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項36】
請求の範囲第35項に記載の質量分析システムにおいて、前記堰止部が前記試料分離領域に隣接して配設されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項37】
請求の範囲第1項乃至第36項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域が、スリットを介して複数に分割されたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項38】
請求の範囲第1項乃至第37項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記試料に外力を付与して前記試料を前記流路中で移動させる外力付与手段をさらに備えたことを特徴とする質量分析システム。
【請求項39】
請求の範囲第38項に記載の質量分析システムにおいて、前記外力が電気力であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項40】
請求の範囲第38項に記載の質量分析システムにおいて、前記外力が圧力であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項41】
請求の範囲第1項乃至第37項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記試料分離領域に微細流路を形成し、前記流路から前記微細流路を経由して前記試料分離領域に、前記試料が毛細管現象により導入されるように構成したことを特徴とする質量分析システム。
【請求項42】
請求の範囲第1項乃至第41項いずれかに記載の質量分析システムにおいて、前記流路の上部が、質量分析用マトリックスを含む薄膜によって被覆されていることを特徴とする質量分析システム。
【請求項43】
基板と、
該基板上に試料吸着用粒子を付着させ、試料を特定の性状にしたがって展開するようにした試料分離領域と、
前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射する光照射手段と、
光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得る解析手段と、
を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項44】
請求の範囲第43項に記載の質量分析システムにおいて、前記試料吸着用粒子がシリカゲルであることを特徴とする質量分析システム。
【請求項45】
請求の範囲第43項または第44項に記載の質量分析システムにおいて、前記解析手段は、前記光照射位置と前記光照射位置に対応する前記質量分析データとを関連づけて記憶するデータ記憶部を含むことを特徴とする質量分析システム。
【請求項46】
試料分離領域を有するマイクロチップを用いて質量分析を行う分析方法であって、
試料の特定の性状にしたがって前記試料分離領域に前記試料を分離するステップと、
前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射するステップと、
光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得るステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項47】
請求の範囲第46項に記載の分析方法において、試料を分離する前記ステップの後、前記試料を低分子化するステップを含み、第一の質量分析データを得るステップと、
試料を分離する前記ステップの後、低分子化する前記ステップを行うことなくレーザー光を照射する前記ステップを行い、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、第二の質量分析データを得るステップと、
前記第一の質量分析データおよび前記第二の質量分析データに基づいて前記試料の同定を行うステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項48】
請求の範囲第46項または第47項に記載の分析方法において、試料を分離する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、分離された前記試料を前記試料分離領域に固定化するステップを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項49】
請求の範囲第46項乃至第48項いずれかに記載の分析方法において、試料を分離する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、前記試料分離領域に質量分析用マトリックスを噴霧するステップを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項50】
試料分離領域を有する基板を用いて質量分析を行う分析方法であって、
試料の特定の性状にしたがって前記試料分離領域に前記試料を展開するステップと、
前記試料分離領域に沿って光照射位置を移動させながらレーザー光を照射するステップと、
光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、質量分析データを得るステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項51】
請求の範囲第50項に記載の分析方法において、試料を展開する前記ステップの後、前記試料を低分子化するステップを含み、第一の質量分析データを得るステップと、
試料を展開する前記ステップの後、低分子化する前記ステップを行うことなくレーザー光を照射する前記ステップを行い、光照射により生じた前記試料のフラグメントを解析し、第二の質量分析データを得るステップと、
前記第一の質量分析データおよび前記第二の質量分析データに基づいて前記試料の同定を行うステップと、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項52】
請求の範囲第50項または第51項に記載の分析方法において、試料を展開する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、展開された前記試料を前記試料分離領域に固定化するステップを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項53】
請求の範囲第50項乃至第52項いずれかに記載の分析方法において、試料を展開する前記ステップの後、レーザー光を照射する前記ステップの前に、前記試料分離領域に質量分析用マトリックスを噴霧するステップを含むことを特徴とする分析方法。

【国際公開番号】WO2004/081555
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503622(P2005−503622)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003427
【国際出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】