説明

質量分析装置

【課題】従来の質量分析装置では、測定対象物表面に垂直に一次ビームを入射させることができないため、その表面に凹凸がある場合は、一次ビームに対して影になる部分を生じた。その結果、試料から発生するイオンの分布と測定対象表面の物質分布に乖離が生じる問題があった。
【解決手段】一次イオン生成部、一次イオンを測定対象物に照射するための一次イオン光学系、二次イオンを検出するための検出器、および測定対象物から検出器までイオンを導く二次イオン光学系を有する質量分析装置において、
当該一次イオン生成部は当該二次イオン光学系のイオン光軸の外に設置し、偏向部を当該測定対象物と当該検出器との間に有することを特徴とする飛行時間型質量分析装置

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定対象物の少なくとも一部をイオン化し、当該イオンを測定することにより質量分析を行う質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特に病理研究や創薬など分野において測定対象物表面の物質分布を検出する手法として、近年、「イメージング質量分析」が注目を集めている。イメージング質量分析とは、測定対象物の表面を二次元的に質量分析して、それぞれの質量電荷比に対応する物質の二次元的な検出強度の分布を得ることにより、測定対象物の表面における各物質の分布情報を得る方法をいう。イメージング質量分析によれば、タンパク質などの生体分子や薬剤分子などの同定が可能なうえ、その空間的分布を高い空間分解能で測定することができる。
【0003】
一般に質量分析とは、レーザー光、やイオン、電子等を照射することによってイオン化した試料を質量電荷比によって分離し、質量電荷比とその検出強度とからなるスペクトルを得る方法である。
【0004】
測定対象物からイオンを生成する手段としてはレーザーまたはイオン等の荷電粒子ビームが用いられるが、それらを一次ビームと総称する。また一次ビームをイオンビームとした場合は、発生したイオンは二次イオンと呼ばれる。一次ビームとしてレーザーを用いる例としては、マトリックスに混ぜて結晶化した試料にパルス化され微細に収束されたレーザー光を照射してイオン化するマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)や、一次イオンビームを照射して試料をイオン化する二次イオン質量分析法(SIMS)が知られている。
【0005】
イオン化した試料を質量電荷比によって分離して検出する方法としては、タンパク質等の質量の大きい分子の検出に適した飛行時間型がイメージング質量分析では採用される場合が多い。飛行時間型質量分析装置では、測定対象物の表面でパルス的にイオンを生成し、当該イオンを真空中で電場により加速する。質量電荷比によってイオンの飛行速度は異なるため、測定対象物からイオンが放出されてから検出装置まで一定距離を飛行するのに要する時間を計測することで、当該イオンの質量電荷比を測定することができる。
【0006】
またイメージング質量分析には走査型と投影型の2つの手法がある。
【0007】
走査型は、測定対象物上の微小領域(一次ビームのビーム径に依存する)を順次質量分析していき、質量分析の結果と当該微小領域の位置情報から物質の分布を再構成する方法である。
【0008】
一方、投影型では、測定対象物の全面に対して比較的広い照射領域を有する一次ビームを照射して広い領域の測定対象物をイオン化し、生成したイオンが当該検出装置に到達した時間と、検出装置の検出面におけるイオンの到達位置とを、位置・時間敏感型の検出器によって検出する。この構成により、検出されたイオンの質量および測定対象物の表面における当該イオンの位置を同時に検出し、測定対象物に含まれる物質の空間分布を測定することができる。
【0009】
代表的な質量分析装置として、一次ビームとしてレーザー光を用いるもの(特許文献1)や、イオンビームを用いるもの(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−141016号公報
【特許文献2】特開2001−141673号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“Secondary Ion Mass Spectrometry”, A. Benninghoven, et.al, (Wiley, 1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の質量分析装置では、走査型と投影型ともに、一次ビームを測定対象物の表面に対して斜めに入射する配置をとる場合が多い。これは、イオンの捕集効率を向上させるためにはイオンを検出する系を測定対象物の表面に対して垂直に設置する必要があるためである。ゆえに、一次ビームを垂直に照射しようとすると、一次ビーム照射系が測定対象物から放出されたイオンを検出する系と干渉してしまうため、この構成では一次ビームを垂直に照射することが難しい。
【0013】
一次ビームを測定対象物の表面に対して斜めに入射させると、測定対象物表面に凹凸がある場合は、一次ビームに対して影になる部分が測定対象物の表面に生じる。この影になる部分には一次ビームが照射されず、二次イオンが発生しないため、試料から発生するイオンの分布と測定対象物表面の物質分布に乖離が生じるという問題があった。
【0014】
特許文献1に記載された質量分析装置では、イオン検出系を構成する電極に光学ミラーを設置し、イオン検出系の外側から入射したレーザーをイオン検出系の内側に反射して測定対象物に入射している。しかし、この構成は一次ビームにイオンビームを用いる場合には適用できない。
【0015】
また、特許文献1の構成では一次ビームのイオン光軸とイオン検出系のイオン光軸がずれているため、一次ビームを測定対象物表面に垂直に照射すると、イオン検出系を表面に対して斜めに設置することになり、イオンの検出効率が下がることが懸念される。
【0016】
また、特許文献2に記載された質量分析装置では、イオン検出器に一次ビームの透過孔を設置して、一次ビームのイオン光軸とイオン検出系のイオン光軸が同軸となる配置を可能にしている。しかし、透過孔がイオン検出器の検収効率を下げてしまう点と、イオン光軸方向に放出されるイオンを検出する際には透過孔が死角となることから投影式の二次イオン光学系には適用できない点が問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明の質量分析装置は、測定対象物を載置する載置部、一次イオンを生成して飛行させる一次イオン生成部、一次イオンを測定対象物に導いて測定対象物に照射するための一次イオン光学系、該測定対象物から放出された二次イオンを検出する検出部、および測定対象物から該検出部まで該二次イオンを導く二次イオン光学系、を有する質量分析装置であって、該一次イオン光学系は、一次イオンの軌道を、飛行の途中で、該二次イオンの飛行空間と交わるように偏向する偏向部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の飛行時間型質量分析装置によれば、測定対象物表面の凹凸の影響を低減した状態で表面分析が可能となる。特に測定対象物表面に対して検出器まで垂直な経路を有する構成において垂直入射が可能となり、精度良く測定対象物の表面状態を検出することができる。
【0019】
また、一次イオンを測定対象物に照射するための一次イオン光学系、および測定対象物から前記検出器までイオンを導く二次イオン光学系を有しており、一次イオン生成部を該二次イオン光学系のイオン光軸の外に設置し、一次イオンの軌道を偏向させる偏向部を該測定対象物と該検出器との間に有する飛行時間型質量分析装置とすることで、一次イオン光学系と二次イオン光学系とが干渉せずに同軸に配置でき、かつ一次イオンを測定対象物表面に垂直に入射させることができる。その結果、測定対象物表面に凹凸がある場合でも表面全体に一次イオンを照射することが可能となり、試料から発生するイオンの分布と測定対象物表面の物質分布との乖離が改善し、測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)本発明による飛行時間型質量分析装置。(b)実施例1における一次イオン軌道計算結果。(c)実施例1における二次イオン軌道計算結果。(d)実施例1における測定対象物2近傍の二次イオン軌道の拡大図。(e)走査型の実施形態における二次イオン軌道の模式図。
【図2】(a)実施例2における飛行時間型質量分析装置。(b)実施例2における一次イオン軌道計算結果。(c)実施例2における二次イオン軌道計算結果。
【図3】(a)実施例1および2における偏向部。(b)開口部付き基準電極を有する偏向部。(c)磁場式の偏向部。(d)四重極電場式の偏向部。
【図4】(a)投影型イメージング質量分析のフロー図。(b)走査型質量分析のフロー図。
【図5】投影型のイメージング質量分析の模式図。
【図6】(a)実施例3における偏向部。(b)実施例3における一次イオン軌道計算結果。(c)実施例3における二次イオン軌道計算結果。(d)偏向部を45°型にした一次イオン軌道計算結果。(e)開口部をスリットに変更した偏向部。(f)メッシュを用いた偏向部。
【図7】(a)実施例4における偏向部。(b)実施例4における一次イオン軌道計算結果。(c)実施例4における二次イオン軌道計算結果。
【図8】(a)実施例5における偏向部。(b)実施例5における一次イオン軌道計算結果。(c)実施例5における二次イオン軌道計算結果。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一次イオンを測定対象物に照射して二次イオンを放出し、二次イオンを検出する質量分析装置に係るものである。
【0022】
本発明に係る飛行時間型質量分析装置の一形態を図1(a)に示す。なお、ここでは飛行時間型の質量分析装置を例示的に示すが、本発明は飛行時間型に限定されるものではなく、イオントラップ型、四重極型等の他の質量分析装置に応用することも可能である。
【0023】
飛行時間型質量分析装置は、一次イオン生成部である一次イオン源1、測定対象物を載置する載置部2、一次イオンを測定対象物に導いて測定対象物に照射する一次イオン光学系12、二次イオンを検出器に導くための収束手段としての二次イオン光学系4、二次イオンを検出する検出部である検出器5、ならびに図示されない真空排気系およびデータ処理系を有する。一次イオン光学系12は、一次イオンを、飛行の途中で、二次イオンの飛行空間を通過するように偏向する偏向部7を有する。二次イオン光学系4は、測定対象物から放出された二次イオンを飛行させ検出部へ誘導する誘導部である引き出し投影電極3を有する。この構成によれば、偏向部7と測定対象物2の間は、一次イオンと二次イオン双方に対するイオン光学系となる。
【0024】
誘導部である引き出し投影電極3は二次イオンの飛行空間を囲むように配置されていると良く、一次イオンは偏向部により飛行空間外から飛行空間内に偏向して飛行する構成が良い。二次イオンの飛行空間とは、測定対象物と検出部との間の、二次イオンが飛行することが可能な空間を意味する。
【0025】
一次イオン源1は電子衝突型、表面電離型、または液体金属型イオン源のいずれであっても良いが、パルス幅が数ns程度の高速パルス駆動が可能であることが望ましい。
【0026】
一次イオン源1から放出された一次イオンは、二次イオン光学系8のイオン光軸に沿って配置された偏向部7により軌道を偏向される(図1(b))。偏向部7は測定対象物2と検出器5の間に設置されるが、図1(a)のように引き出し投影電極3と検出器5の間に設置しても良いし、図2(a)のように二次イオンを収束させる電極群の中に設置してもよい。
【0027】
偏向部7は二次イオンの経路と空間的に重なるが、少なくとも一次イオンが偏向部7を通過していない時は二次イオンを有限の確率で透過する(即ちビームを切り替える)構造を有する(図1(c))。
【0028】
偏向部7には、二以上の電極を二次イオン光学系をはさむように設置し、二次イオン光学系をはさんで対向する少なくとも一組の電極間に生じる電場により一次イオンの軌道を静電的に偏向させる方式がある(図3(a)、図3(b)および図3(d))。図3(c)のように磁場を印加し、ローレンツ力で一次イオン軌道を偏向させる方式をとっても良いが、前記の静電的な切り替え手段は動作速度が速く、二次イオンの質量分析を行う上で有利である。
【0029】
一方、二次イオンを通過する単数または複数の開口部またはメッシュを有する電極を用いれば、二次イオン光軸を挟まない貫通型の偏向部(図6(a)、図6(d)から図6(f)、図7(a)および図8(a))を設置しても良い。
【0030】
上記の構造により、偏向部7に所定の電圧を印加することで稼働させたときに一次イオンが測定対象物に入射する。一方、一次イオン入射後は、偏向部7を稼働時とは異なる電位に変更し、非稼働状態にすることで、偏向部7に遮られることなく二次イオンを二次イオン光学系4を通じて検出器5で検出できる。尚、ここで稼働時とは異なる電位に変更するとは、偏向部7に印加する電圧をゼロにすることも含む。
【0031】
一次イオンの照射は、パルス状の一次イオン群、すなわちパルスイオンビームとして照射することが好ましく、10μm以上100mm以下の直径のビームを測定対象物の放出面にあてるものであると良い。
【0032】
但し、偏向部7に印加する電圧を変更しなくても二次イオンを二次イオン検収器5まで導くことができる場合は、偏向部7を非稼働にしなくとも本発明による飛行時間型質量分析装置を実現できる。
【0033】
一次イオンのイオン光軸6と二次イオンのイオン光軸8は、一次イオンが測定対象物2に入射する際に、同軸に配置(図1(a))することができるが、必ずしも厳密に同軸に配置する必要はなく、測定の目的や状況によっては軸をずらして配置することも可能である。
【0034】
特に同軸に配置すると、一次イオンを測定対象物2の表面に垂直に入射させることが容易になり、測定対象物2の表面に存在する凹凸がある場合でも表面全体に一次イオンを照射することができる。それと同時に二次イオン光学系4のイオン光軸も測定対象物2の表面に垂直になるため、測定対象物2の表面の法線方向に効率良く二次イオンを引き出すことができる。
【0035】
その結果、測定対象物2から発生するイオンの分布と測定対象表面の物質分布との乖離が改善し、測定精度が向上する。
【0036】
尚、一次イオンのイオン光軸6と二次イオン光軸8が完全には一致しなくとも、一次イオンを測定対象物2表面に垂直に入射させることができ、凹凸がある測定対象物2の表面全体に一次イオンを照射することは可能である。
【0037】
測定対象物2から放出された二次イオンは、二次イオン光学系4の一部である引き出し投影電極3で加速され、必要に応じて再加速電極11でさらに加速された後、検出器5に到達し、そこで検出される。二次イオンが二次イオン光学系4を通過する時間(飛行時間)は二次イオンの発生時間と検出時間の差として測定できるため、二次イオンの速度から二次イオンの質量(m/z)を測定することができる。
【0038】
検出部5は二次イオンを検出するエリアセンサを有することで容易に二次イオン質量画像を取得することができ、好ましい。
【0039】
二次イオン光学系4が測定対象物2上の一定の範囲を持つ面で発生した二次イオンの分布イメージを検出器5上で結像させる性質を有するときは(いわゆる投影型)、一次イオンが照射された領域の物質分布を一度に測定することができる点で有利である。
【0040】
さらに、二次イオン光学系4は、コンピュータのような制御手段としてエリアセンサが取得した質量情報に基づき二次元画像を形成する画像形成部、および液晶表示ディスプレイのような二次元画像を表示する表示部、を有するシステムとして構成すると良い。
【0041】
また制御手段であるコンピュータは、二次元画像を、光学的に撮影されている別の二次元画像に重ねる画像重畳部を構成してもよい。
【0042】
また、本発明の質量分析方法は、一次イオンを飛行させて測定対象物を照射し、測定対象物から放出された二次イオンを検出部で検出する質量分析方法であって、前記一次イオンを飛行の途中で、前記測定対象物と前記検出部の間を通過するように偏向する工程と、前記二次イオンを前記検出部へ誘導する工程と、を有する。
【0043】
図5において、投影型の二次イオン光学系4により測定対象物2から二次イオンをイメージとして引き出し、二次イオンの飛行時間(t1〜t3)に応じてイメージング質量分析を行う方法を模式的に示す。
【0044】
一方、二次イオン光学系4が投影型でなくとも(図1(e))、一次イオンビームが照射された微小領域の質量分析を行いつつ、微小領域を走査することで、微小領域の位置情報と質量分析の結果から測定対象物2の物質分布を測定することもできる(走査型)。
【実施例1】
【0045】
実施例1の飛行時間型質量分析装置(図1)による質量分析方法を図4(a)に基づき説明する。
【0046】
測定が開始されると(A1)、平行平板型の偏向部7aに電圧が印加されるとともに(A2)、一次イオン源1からパルス的に一次イオンが放出される。一次イオンは、偏向部7aで軌道が偏向された後(入射方向が変えられた後)、測定対象物2に入射する(A3)。
【0047】
尚、本実施例では図1(a)の偏向部7は図3(a)の偏向部7aの構造を有する。
【0048】
イオン光学シミュレーションに基づく一次イオン軌道9を図1(b)に示す。一次イオンは加速エネルギー10keVの正イオンであり、偏向部7aの平行平板電極間に生じた電場によって一次イオンビームが偏向される。
【0049】
本実施例の偏向部7aは三以上の電極からなり、主切り替え電極70、と、主切り替え電極70と二次イオン光学系をはさんで対向する基準電極71、補助電極72から構成されている。基準電極71と補助電極72と構成する少なくとも一組の電極は、一次イオン光学系をはさんで対向している(図3(a))。図1(b)では主切り替え電極70に10kV、基準電極71に0V、補助電極72には500Vを印加している。
【0050】
偏向部7aの代わりに、一次イオンが通過する開口部付き基準電極73を有する偏向部7b(図3(b))を用いることもできる。偏向部7bは構造が簡単なため、製造の容易さやコストにおいて優れている。しかし、偏向部7aは、補助電極72に印加する電圧を調整すれば、一次イオンが測定対象物2に入射する位置、角度をより容易に調整できるため、本実施例では偏向部7aを採用している。
【0051】
さらには、偏向部7aの代わりに四重極電場式の偏向部7i(図3(d))を用いることもできる。偏向部7iは、異なる電圧Vq1及びVq2を印加することで、二次イオン光軸8に対して直交する方向から飛行してきた一次イオンを、二次イオンの飛行空間を通過するように偏向できる点で好ましい。
【0052】
前記のような電場を用いた偏向部に代えて、磁場式の偏向部7cを用いてもよい。
【0053】
尚、一次イオンの入射位置を調整するために、図1(b)の紙面に垂直方向に一次イオンの軌道を偏向するための電極または磁場印加手段を設置しても良い。
【0054】
一次イオン光軸6は偏向部7aと一次イオン源1の間では、二次イオン光軸8と平行ではないが、少なくとも測定対象物2と引き出し投影電極3の間では一次イオン光軸6と二次イオン光軸8は同軸となっている(図1(b)、図1(c))。
【0055】
さらに一次イオンが測定対象物2に入射する際の一次イオン光軸6は測定対象物2の表面に対して垂直、またはそれに近い角度となっているため、測定対象物2表面の凹凸部分の双方に対して一次イオンを照射することが可能になった。
【0056】
一次イオン照射(A3)が完了すると、偏向部7aは非稼働状態となり(A4)、二次イオン光学系に電圧が印加される(A5)。その際、例えば偏向部7aを出射側引き出し投影電極33と同電位にすれば、二次イオンの軌道に対して影響を与えず、二次イオンは偏向部7aを通過する際に等速運動を行うことになる。
【0057】
尚、二次イオン光学系に電圧を印加しても一次イオンを測定対象物2に照射可能であれば、常時二次イオン光学系に電圧を印加することでA5のステップを省略しても良い。
測定対象物から放出された二次イオンは引き出し投影電極3によって加速され、二次イオン光学系4を通じて検出器5に到達する。本実施例において、検出器5はエリアセンサであり、二次イオンが検出器5上に到達した位置と検出時間を検出する(A6)。尚、本実施例では再加速電極11は省略されている。
【0058】
本実施例では、二次イオン軌道10は測定対象物2上で二次イオンが放出された位置と、検出器5に二次イオンが到達する位置が対応するよう(つまり投影されている)、引き出し投影電極3を構成する各電極に印加する電圧が設定されている。
【0059】
図1(c)には、主引き出し投影電極31に-5kV、収束引き出し投影電極32に-0.7kV、出射側引き出し投影電極33に-2.5kV、および検出器5に-2.5kVを印加した場合の正の二次イオン軌道の計算結果を示している。当該3個の電極はいずれも同軸の円形開口部を有するアパーチャー型の静電レンズである。
【0060】
引き出し投影電極3によって二次イオンが収束され、測定対象物2から放出された二次イオンイメージが検出器5に結像していていることが判る(図1(c)、図1(d))。
【0061】
引き出し投影電極3は2個の電極で構成されたアパーチャー型の静電レンズにすることも可能であるが、上記のように3個以上の電極で構成されることが好ましい。
【0062】
本実施例において図1(d)に示すように二次イオン光学系の主平面20は収束引き出し投影電極32と出射側引き出し投影電極33の間に形成されているが、主平面20の位置は主引き出し投影電極31、収束引き出し投影電極32、出射側引き出し投影電極33等の印加電圧を変えることでも調整可能である。
【0063】
本実施例では偏向部7aが主平面と検出器5の間に位置するため、二次イオンが等速運動を行う飛行距離が長くなるという特徴を有する。出射側引き出し投影電極33と検出器5の電位は等しく、引き出し投影電極3を通過した二次イオンは加減速されないからである。また飛行距離が長くなると飛行時間tも長くなるため質量分解能が向上する。
【0064】
さらに式(1)に示すように主平面20から検出器5までの距離L2を主平面20から測定対象物2までの距離L1よりも長くすることで拡大倍率Mが大きくできる点でも有利である。
【数1】

【0065】
図1(c)は図示を容易にするためにL1が30mm、L2が300mmになる条件で二次イオン軌道が計算されており、測定対象物2の二次イオンイメージ(図1(d))が検出器5上に拡大倍率10倍で投影されている。
拡大倍率Mを増大させることで、さらに測定対象物の微細な構造を観測することができる。
【0066】
例えば、L1を10mm、L2を1000〜3000mmになるよう電極を配置すれば拡大倍率を100〜300倍にすることができる。検出器5の位置検出分解能が10μmとすれば、0.03〜0.1μmの空間分解能を有するイメージング質量分析が可能である。
【0067】
本実施例は、測定対象物に最も近接した主引き出し投影電極(第一の電極)31に隣接する収束引き出し投影電極32(第二の電極)に対して、主引き出し投影電極31より小さい加速電圧を印加し、かつ収束引き出し投影電極32に隣接する出射側引き出し投影電極33(第三の電極)に対して収束引き出し投影電極32よりも大きな加速電圧を印加している。
【0068】
その結果、測定対象物2の付近に強い引き出し電場を生じさせるため、二次イオンの検出効率を向上させることができる。また投影引き出し電極3の焦点距離が長くできるため、拡大倍率の増大や質量分解能の向上という特徴も有する。
【0069】
尚、負電荷を有する二次イオンに対しては二次イオン光学系4に印加する電位の極性を反転することで質量分析が可能である。
【0070】
一次イオンが測定対象物2に入射した時間(A3)を基準として、二次イオンが検出器5に到達した時間を計測すれば、二次イオンの飛行時間tを測定できる。
本実施例では、出射側引き出し電極33の印加電圧が検出器5入射時の二次イオンの加速電圧Vextとほぼ等しいため、飛行時間t、および二次イオンの飛行距離Lから、近似的な式(2)により二次イオンの質量分析を行うことができる(A7)。尚、式(2)においてeは電気素量である。
【数2】

【0071】
検出器5上の座標と質量分析結果を関連付けることで、二次イオンの質量(m/z)ごとの質量分析イメージ(図5)が得られる(A8)。
【0072】
また、図4(b)のように一次イオン照射位置を決定する工程(A10)を加え、A10からA7の工程を繰り返すことで、走査型の質量分析装置としても本発明による質量分析装置は利用可能である。
【実施例2】
【0073】
実施例2の飛行時間型質量分析装置(図2)による質量分析方法を図4(a)に基づき説明する。
【0074】
測定が開始されると(A1)、一次イオンは偏向部7aによって軌道が偏向されて(入射方向が変えられて)から測定対象物2に入射する(A3)ところまでは実施例1と同様である。
尚、本実施例では図1の偏向部7は図3(a)の偏向部7aの構造を有する。
【0075】
図2(b)は一次イオン軌道9のイオン光学シミュレーション結果を示す。
一次イオン光軸6と二次イオン光軸8は、少なくとも測定対象物2と引き出し電極35の間では同軸となっている点(図2(a))、および一次イオンが測定対象物2に入射する際の一次イオン光軸6が測定対象物2の表面に対して垂直、またはそれに近い角度となっている点も実施例1と同様である。
【0076】
本実施例では、偏向部7aが引き出し電極35と収束電極37の間に設置されているため、実施例1よりも偏向部7aを測定対象物2により近接して配置可能となる。その結果、一次イオン源1の測定対象物2に対するワーキングディスタンスを短縮することができる。
【0077】
当該ワーキングディスタンスの短縮化は一次イオンビームのサイズを制御する際に有利となる。
【0078】
一次イオン照射(A3)が完了すると、偏向部7aの電位が中間電極36と同電位となり、非稼働状態になる(A4)。二次イオン光学系4へ電圧を印加するタイミングは実施例1と同様である。
【0079】
測定対象物2から放出された二次イオンは引き出し電極35および中間電極36を経て加速され、収束電極37で収束された後、検出器5に到達する。
検出器5はエリアセンサの検出器であり、二次イオンが検出器5上に到達した位置と検出時間を検出するため(A6)、実施例1と同様に投影型の飛行時間型質量分析装置として機能する。
【0080】
図2(c)は、引き出し電極35に-150V、中間電極36に-3.5kV、収束電極37に-9.5kV、および検出器5に-9.5kVを印加した場合の本実施例における正の二次イオン軌道の計算結果を示している。当該3個の電極はいずれも同軸円筒型の静電レンズである。実施例1とは軌道が異なるものの、収束電極37によって二次イオンが収束され、測定対象物2から放出された二次イオンイメージが検出器5に結像することが判る。
【0081】
引き出し電極35と中間電極36により第一の主平面21が形成されるとともに、中間電極36と収束電極37から第二の主平面22が形成される(図2(c))。偏向部7aと検出器5の間に第二の主平面が位置するため、双方の主平面の位置を移動させることが容易になり、拡大倍率の調整も容易になる。尚、電極を追加することで主平面を追加して二以上の主平面を有する構成にすることも可能であり、各主平面の位置は上記電極の位置と印加電圧により決定される。
【0082】
図2(c)の条件では、再加速電極を使用しなくても二次イオンを効率良く検出できる。検出器5に-9.5kVを印加しているため、検出器5に入射時の二次イオンの加速エネルギーが高くなっているからである。
【0083】
実施例1と同様に一次イオンが測定対象物2に入射した時間(A3)を基準として、二次イオンの飛行時間tを測定できるため、二次イオンの運動エネルギーと二次イオンの飛行距離Lから、二次イオンの質量分析を行うことができる。
【0084】
本実施例のように、測定対象物に最も近接した引き出し電極35に隣接する中間電極36に対して、引き出し電極35より大きな加速電圧が印加すると、主平面21を通過した二次イオンは平行ビームに近づくため、第一の主平面21と第二の主平面22との距離を柔軟に設定できる特徴を有する。特に第一の主平面21と第二の主平面22との距離L3を、第一の主平面21と測定対象物2との距離L4、ならびに第二の主平面22と検出器5との距離L5よりも充分大きくすることで、L3を式(2)のLに代入することで近似的に質量分析を行うことができる(A7)。
【0085】
一方、収束電極37の入り口から検出器5までの距離が、測定対象物2から収束電極37に至る距離よりも充分長くなれば、Vextに収束電極37の電位を代入することよっても近似的に式(2)により二次イオンの質量分析を行うことができる(A7)。
【0086】
逆に、収束電極37から検出器5までの距離が、測定対象物2から収束電極37に至る距離よりも充分短くなれば、この場合、Vextには引き出し電極36の電位を代入しても良い。
【0087】
また検出器5上の座標と質量分析結果から質量分析イメージ(図5)が得られる(A8)点も実施例1と同様である。
【実施例3】
【0088】
実施例3の飛行時間型質量分析装置(図6)による質量分析方法を説明する。
【0089】
本実施例では、実施例1の偏向部7aに換えて図6(a)の貫通型偏向部7dを有するが、その他は実施例1と同様である。
【0090】
図6(b)は一次イオン軌道9のイオン光学シミュレーション結果を示す。
本実施例でも一次イオン光軸6と二次イオン光軸8は、少なくとも測定対象物2と引き出し電極3の間では同軸となっている(図6(b))点、および一次イオンが測定対象物2に入射する際の一次イオン光軸6が測定対象物2の表面に対して垂直、またはそれに近い角度となっている点,も実施例1と同様である。
【0091】
図6(b)では、一次イオン/二次イオン通過用開口部付き電極74および二次イオン通過用開口部付き電極75が互いに略平行であり、二次イオン光軸8に対する傾斜の角度θは30度になっている。一次イオンが照射されるときには、前者は0V、後者には3.9kVの電圧が印加されており、双方の電極間の距離は9mmである。尚、角度θは必ずしも30度でなくとも良い。しかしイオン源1と貫通型偏向部7dの間の一次イオン軌道9が二次イオン光学系4の外側に位置するに足る角度θとすることが好ましい。
【0092】
しかし本実施例のように角度θを30度に設定すれば、図6(b)に示すように一次イオン軌道9に角度方向の広がりがあっても、一次イオンを絞って測定対象物2に照射できる特長を有する。かかる特長により一次イオン電流密度が高くなることで測定精度が向上する。また走査型の質量分析装置に適用すれば空間分解能も向上する。
【0093】
また、図6(d)のように角度θを45度にしても良く、かかる場合は、一次イオン/二次イオン通過用開口部付き電極74の開口部の近くで一次イオン軌道9が絞られ、該開口部に一次イオンが衝突することが少なくなるため、ノイズ低減の効果が期待できる。尚、一次イオン/二次イオン通過用開口部付き電極74には0V、二次イオン通過用開口部付き電極75には10.1kV印加されており、双方の電極間の距離は10mmである。
【0094】
尚、角度θに対する一次イオン軌道9の収束性は連続的に変化するため、角度θを30度から45度にかけて変化させれば、一次イオン軌道9は図6(b)の場合から図6(d)にかけて緩やかに変化することになる。前記の二つの角度θの差が3割程度の範囲であることから、一次イオン軌道の収束性の緩やかな変動を許容すれば、角度θを20度から60度の範囲でも貫通型偏向部7dを利用可能である。
【0095】
前記開口部は、図6(a)の貫通型偏向部7dのような形状を有する開口部でなくともよく,図6(e)の貫通型偏向部7eのようにイオンが通過するスリットを有するものであっても良い。
【0096】
さらに、偏向部7は図6(f)のように2枚のメッシュ状の電極を用いたメッシュ型偏向部7fであっても良い。メッシュにより、開口部を設けなくとも一次イオンと二次イオンが前記偏向部7fを透過できるため、開口部が偏向電場を乱すことが少なく、フリンジング効果が小さい点で有利である。
【0097】
一次イオン照射が完了すると、偏向部7全体の電位を出射側引き出し投影電極33と同電位に変更するとともに、二次イオン光学系4へ電圧を印加する。
【0098】
測定対象物2から放出された二次イオンは引き出し投影電極3で収束された後、エリアセンサである検出器5に到達し、実施例1と同様に投影型の飛行時間型質量分析装置として機能し、質量分析イメージ(図5)が得ることができる。
【0099】
図6(c)には、主引き出し投影電極31に-5kV、収束引き出し投影電極32に-0.7kV、出射側引き出し投影電極33に-2.5kV、および検出器5に-2.5kVを印加した場合の正の二次イオン軌道の計算結果を示している。
【0100】
尚、実施例1と同様に走査型の質量分析装置としても本発明による質量分析装置は利用可能である。また実施例2と同様にアパーチャー型静電レンズに換わり同軸円筒型静電レンズによりイオン光学系を構成しても良い。
【実施例4】
【0101】
実施例4の飛行時間型質量分析装置(図7)による質量分析方法を説明する。
【0102】
本実施例では、貫通型偏向部7dに換えて図7(a)の貫通型偏向部7gを有することを除き、実施例3と同様である。
【0103】
図7(b)は本実施例の一次イオン軌道9のイオン光学シミュレーション結果を示す。
一次イオン光軸6と二次イオン光軸8および測定対象物2の位置関係は、少なくとも測定対象物2と引き出し電極3の間では実施例3と同様である。
【0104】
図7(b)では、円筒型電極76と二次イオン通過用開口部付き円筒電極77は円筒の軸が同軸になっており、当該2個の電極間で扇型電場を形成する。扇型電場の中心角は90度であり、前者は0V、後者には8.1kVの電圧が印加されている。前者の半径は14mm、後者の半径は23mmで、双方の電極間の距離は9mmである。尚、中心角は必ずしも90度でなくとも良い。しかしイオン源1と貫通型偏向部7gの間の一次イオン軌道9が、二次イオン光学系4の外側に位置するに足る中心角とすることが好ましい。
【0105】
図7(b)のように90度にすると一次イオン軌道9に空間的に広がりがあっても、一次イオンを絞って測定対象物2に照射できる点で有利である。また前記中心角を127度としても一次イオンを収束させる上で有利である。また、実施例3と同様の理由により前記中心角は60度乃至180度でも良い。
【0106】
さらに、前記の2個の円筒電極に換えて、一対の同心球面型の電極を用いても良い。
【0107】
一次イオン照射が完了すると、貫通型偏向部7g全体の電位を出射側引き出し投影電極33と同電位に変更し、二次イオン光学系4へ電圧を印加することにより、実施例1と同様に投影型の飛行時間型質量分析装置として機能する。
【0108】
図7(c)には、主引き出し投影電極31に-5kV、収束引き出し投影電極32に-0.7kV、出射側引き出し投影電極33に-2.5kV、および検出器5に-2.5kVを印加した場合の正の二次イオン軌道の計算結果を示している。
【0109】
尚、実施例1と同様に走査型の質量分析装置としても本発明による質量分析装置は利用可能である。実施例3のように、円筒型電極76と二次イオン通過用開口部付き円筒電極77をメッシュで製作しても良い。また実施例2と同様にアパーチャー型静電レンズに換わり同軸円筒型静電レンズによりイオン光学系を構成しても良い。
【実施例5】
【0110】
実施例5の飛行時間型質量分析装置(図8)による質量分析方法を説明する。
【0111】
本実施例では、偏向部7dに換えて図8(a)の偏向部7hを有することを除き、実施例3と同様である。
【0112】
図8(b)は本実施例の一次イオン軌道9のイオン光学シミュレーション結果を示す。
一次イオン光軸6と二次イオン光軸8および測定対象物2の位置関係は、少なくとも測定対象物2と引き出し電極3の間では実施例3と同様である。
【0113】
貫通型偏向部7hは、一対の互いに略平行な開口部付き電極78と二次イオン通過用開口部付き電極75とからなり、二次イオン光軸8に対する角度θは45度になっている。一次イオンが照射されるときには、前者は0V、後者には6.2kVの電圧が印加されており、双方の電極間の距離は10mmである。尚、傾きθは45度でなくとも良い。本実施例では一次イオンが通過する開口部が一箇所だけであり、構造が単純であるとともに一次イオンが貫通型偏向部7hへ入射する方向の自由度が高い点で有利である。
【0114】
一次イオン照射が完了すると、偏向部7全体の電位を出射側引き出し投影電極33と同電位に変更し、二次イオン光学系4へ電圧を印加することにより、実施例1と同様に投影型の飛行時間型質量分析装置として機能する。
【0115】
図8(c)には、主引き出し投影電極31に-5kV、収束引き出し投影電極32に-0.7kV、出射側引き出し投影電極33に-2.5kV、および検出器5に-2.5kVを印加した場合の正の二次イオン軌道の計算結果を示している。
【0116】
尚、実施例1と同様に走査型の質量分析装置としても本発明による質量分析装置は利用可能である。実施例3のように、開口部付き電極78をメッシュで製作しても良い。また実施例2と同様にアパーチャー型静電レンズに換わり同軸円筒型静電レンズによりイオン光学系を構成しても良い。
【符号の説明】
【0117】
1、一次イオン源
2、測定対象物
3、引き出し投影電極
4、二次イオン光学系
5、検出器
6、一次イオン光学軸
7、ビーム偏向部
8、二次イオン光学軸
9、一次イオン軌道
10、二次イオン軌道
11、再加速電極
12、一次イオン光学系
20、主平面
21、第一主平面
22、第二主平面
31、主引き出し投影電極
32、収束引き出し投影電極
33、出射側引き出し投影電極
35、引き出し電極
36、中間電極
37、収束電極
7a、実施例1および実施例2における偏向部
7b、開口部付き基準電極を有する偏向部
7c、磁場式の偏向部
70、主切り替え電極
71、基準電極
72、補助電極
73、開口部付き基準電極
74、一次イオン/二次イオン通過用開口部付きの電極
75、二次イオン通過用開口部付き電極
76、円筒型電極
77、二次イオン通過用開口部付き円筒型電極
78、実施例5の開口部付き電極
79、メッシュ電極
80、スリット電極
7d、実施例3における貫通型偏向部
7e、スリットを有する貫通型偏向部
7f、メッシュ型偏向部
7g、同軸円筒型の貫通型偏向部
7h、実施例5における貫通型偏向部
7i、四重極電場式の偏向部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を載置する載置部、一次イオンを生成して飛行させる一次イオン生成部、一次イオンを測定対象物に導いて測定対象物に照射するための一次イオン光学系、該測定対象物から放出された二次イオンを検出する検出部、および測定対象物から該検出部まで該二次イオンを導く二次イオン光学系、を有する質量分析装置であって、
該一次イオン光学系は、一次イオンの軌道を、飛行の途中で、該二次イオンの飛行空間と交わるように偏向する偏向部を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
該一次イオンは、該偏向部により該二次イオンの飛行空間外から該飛行空間内に偏向して飛行することを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記一次イオン光学系のイオン光軸は、少なくとも一次イオンが測定対象物に入射する際に、前記二次イオン光学系のイオン光軸と同軸になることを特徴とする請求項1または2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記偏向部は、電場により一次イオンの軌道を偏向させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記偏向部は、二以上の電極を有する、請求項4に記載の質量分析装置。
【請求項6】
少なくとも一組の電極は二次イオン光学系のイオン光軸をはさんで対向し、該二次イオン光学系のイオン光軸をはさんで対向する電極には異なる電位が印加されていることを特徴とする請求項5に記載の質量分析装置。
【請求項7】
少なくとも一組の電極は一次イオンの軌道をはさんで対向し、該一次イオンの軌道をはさんで対向する電極には異なる電位が印加されていることを特徴とする請求項5または6に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記対向する一組の電極は、一次イオンおよび二次イオンの少なくともいずれかを通過させる開口部を有する第一の電極と、第二の電極とを有する請求項5乃至7のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記第一の電極の開口部は、一次イオンのみを通過させる請求項8に記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記第一の電極および前記第二の電極は、二次イオン光学系のイオン光軸に対して傾斜しており、前記対向する一組の電極は、一次イオンおよび二次イオンの少なくともいずれかを通過させる開口部を有する第一の電極と、二次イオンを通過させる開口部を有する第二の電極とを有することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項11】
前記第一の電極は複数の開口部を有しており、一次イオンは第一の電極の二以上の開口部を通過することを特徴とする請求項10に記載の質量分析装置。
【請求項12】
前記第一の電極と前記第二の電極は扇型電場を形成することを特徴とする請求項8に記載の質量分析装置。
【請求項13】
前記扇型電場の中心角は90乃至127度であることを特徴とする請求項12に記載の質量分析装置。
【請求項14】
前記第一の電極と前記第二の電極のうち少なくとも一方はメッシュ状の電極であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項15】
前記第一の電極または前記第二の電極の開口部のいずれかが、イオンを通過させるスリットであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項16】
前記第一の電極と前記第二の電極の少なくともいずれかは、二次イオン光学系のイオン光軸に対して30乃至45度傾斜していることを特徴とする請求項10、11、14および15のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項17】
前記偏向部は、磁場により一次イオンの軌道を偏向させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項18】
前記質量分析装置は飛行時間型の質量分析装置である、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項19】
前記一次イオン生成部は該二次イオン光学系のイオン光軸の外に設置され、前記偏向部は前記測定対象物と前記検出部との間に設置されることを特徴とする、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項20】
前記偏向部は、二次イオン光学系の主平面と前記検出部との間に設置されることを特徴とする請求項19に記載の質量分析装置。
【請求項21】
前記二次イオン光学系は二以上の主平面を有し、少なくとも一つの主平面と測定対象物の間に前記偏向部が位置することを特徴とする請求項19に記載の質量分析装置。
【請求項22】
前記二次イオン光学系は、放出された前記二次イオンを前記検出部へ誘導する誘導部を有し、該誘導部は前記二次イオンの飛行空間を囲むように配置されていることを特徴とする請求項1乃至21のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項23】
前記誘導部は二以上の電極から構成され、第一の電極からみて前記測定対象物とは異なる側に位置する第二の電極に対して、該第一の電極より大きな加速電圧が印加されることを特徴とする請求項22に記載の質量分析装置。
【請求項24】
前記誘導部は三以上の電極から構成され、第一の電極からみて前記測定対象物とは異なる側に位置する第二の電極に対して、該第一の電極より小さな加速電圧が印加され、該第二の電極からみて該第一の電極とは異なる側に位置する第三の電極に対して、該第二の電極よりも大きな加速電圧が印加されることを特徴とする請求項22に記載の質量分析装置。
【請求項25】
前記一次イオン生成部は10μm以上100mm以下の直径のビームを測定対象物の放出面に照射することを特徴とする請求項1乃至24のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項26】
前記二次イオン光学系は、投影型であることを特徴とする請求項1乃至25のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項27】
前記検出部は前記二次イオンを検出するエリアセンサを有することを特徴とする請求項26に記載の質量分析装置。
【請求項28】
前記エリアセンサが取得した質量情報に基づき二次元画像を形成する画像形成部を有することを特徴とする請求項27に記載の質量分析装置。
【請求項29】
前記二次元画像を表示する表示部を更に有すること特徴とする請求項28に記載の質量分析装置。
【請求項30】
前記二次元画像を、光学的に撮影されている別の二次元画像に重ねる画像重畳部を有することを特徴とする請求項29に記載の質量分析装置。
【請求項31】
一次イオンを飛行させて測定対象物に照射し、測定対象物から放出された二次イオンを検出部で検出する質量分析方法であって、前記一次イオンを飛行の途中で、前記測定対象物と前記検出部の間を通過するように偏向する工程と、前記二次イオンを前記検出部へ誘導する工程と、を有することを特徴とする質量分析方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−101918(P2013−101918A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223084(P2012−223084)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】