説明

赤外分光光度計、及び付属装置

【課題】 赤外分光光度計により測定されるデータに、水蒸気による悪影響が出ることを防ぐ。
【解決手段】
筒35,36などを設けることにより付属装置の光学系を収容している空間を密閉して、測定光が通る空間と、外の雰囲気とを遮蔽し、測定光が通る空間内に除湿機38を設ける。除湿機を狭い空間に配置することで、光の通る空間を効率よく、短時間で除湿し、内部の湿度を下げることができるので、光路上で受けてしまう水蒸気の吸収を減らすことができる。水分による測定データへの悪影響を防ぐことができ、除湿のための待ち時間を短くすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の赤外光吸収スペクトルを測定することにより物質の定性および定量分析を行う赤外分光光度計、及びそれで用いる付属品に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外分光光度計は、試料に赤外光を照射し、被測定試料中を透過した光のスペクトルを測定し、試料に吸収された光の波長または透過した光の波長を調べることにより試料成分を分析する。
【0003】
フーリエ変換型の赤外分光光度計(以下FTIRともいう)には、赤外干渉光を作るために干渉計が備えられているが、そこでは、ビームスプリッタなどの光学素子として臭化カリウム(KBr)など、潮解性(空気中の水分を吸収して溶解する性質)を有する材料のものが用いられている。光学素子が潮解してしまうと、満足な測定を行うことができなくなるため、素子の潮解を防ぐために、素子を収容する空間を、低湿度に保ったり、真空にするなど、雰囲気中の水蒸気を出来る限り少なくするように外気と遮断し低湿度にした気密空間内や、真空に維持した空間に収容したりしている。(特許文献1,2)
【0004】
また、水蒸気は赤外分光測定での測定対象波長領域に吸収ピークを有するので、光路に水蒸気が存在すると、測定データに水蒸気の吸収が現れるなどの悪影響を与えてしまう。したがって、必要に応じて、干渉計以外の試料室などの光路についても、別途外部から乾燥空気や乾燥窒素により装置内部の空気を置換する(エアパージを行う)などの方法により、水蒸気を除去することがある。
【0005】
赤外分光光度計によれば、気体、液体、固体の多種多様な試料の赤外光吸収スペクトルを測定することができる。試料の種類や測定の目的などによって、適切な測定方法によって測定する。 赤外分光法の測定方法としては例えば,透過法,反射法,ATR法など,様々な測定法がある。
【0006】
例えば金属板のように赤外光を透過しない材質へ吸着,あるいは塗布された物質の測定には,反射法を利用することができる。反射測定では,物質の反射率を調べるために,垂直に近い角度で赤外光を入射させる方法(正反射法、あるいは鏡面反射法)と,水平に近い角度で赤外光を入射させ,金属などの基板上の薄い試料層(薄膜)を測定する方法(高感度反射法,あるいは,反射吸収法Reflection Absorption Spectrometry=RAS法と呼ぶ)がある。
【0007】
また、滑らかな平面を持った固体試料表面や、粉末、液体試料などの吸収スペクトルを得るには、ATR法を利用することができる。ATRとは,Attenuated Total Reflection(全反射測定法)の略で,試料表面で全反射する光を測定することによって,試料表面の吸収スペクトルを得ることができる。
【0008】
赤外分光測定においては、正反射用付属装置、ATR用付属装置、などというように、様々な測定方法に応じた光学系構成部材を備えた付属装置が準備されており、測定者が測定したい方法に応じて付属装置を交換することで、各測定方法に対応する光学系を構成し、測定することがしばしば行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004―108970号公報
【特許文献2】実用新案登録第3116465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
干渉計の内部は、主に光学素子への影響から湿度を低く保つように除湿されている。しかしながら、水蒸気がデータへ与える影響についてはあまり考慮されておらず、特に、試料室の開閉を行う際や、試料室内の付属品の交換の際などに、試料室や試料室前室、検出器室など、干渉計以外の領域は、開放されるので、雰囲気の大気が入り込み、光路中に大気中の水蒸気が入る。
【0011】
水分(水蒸気)は、光学素子を痛めるというだけではなく、赤外スペクトルのデータにも悪影響を与えている。水蒸気は主に中赤外領域の4000〜3400cm-1,2000〜1300cm-1、400cm-1付近の広範囲にわたって吸収をもつので、測定データに水蒸気による影響が現れてしまい、水蒸気の吸収波長領域には、ノイズが出やすくなったり、測定対象試料のピークではないピークが見られることがある。
雰囲気中に含まれる水蒸気の量が多いときは、水蒸気の吸収波長領域のエネルギーが小さくなるために特に影響を受けやすく、ノイズが出やすくなる。
【0012】
測定試料を交換する際には試料室を開閉する必要があり、また測定試料によっては、付属品を交換することがあるので、試料室内部や試料室に配置される付属品のさらされる雰囲気の空気が入れ替わり、水蒸気が光路中に入り込んでしまう。
【0013】
そこで本発明は、上記の課題を解決し、水蒸気の影響を受けにくいFTIR装置及び付属装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のフーリエ変換赤外分光光度計は、分光光度計全体の光学系を構成する部材の少なくとも一部を、ケーシング内に配置した付属装置を備えており、前記ケーシングの内部に除湿ユニットを備えたことを特徴とする。
【0015】
付属装置の光路が通る空間を、ケーシングによりそれ以外の空間の雰囲気と混ざらないように遮断し、ケーシング内部の光路が通る空間の水分を除湿機により除湿する。またその空間は狭い空間であることから、除湿機による除湿効率がよく、より早く、より少ない水分の雰囲気にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
したがって、本発明によれば、測定データへの水蒸気の吸収による影響を減らすことができる。付属装置の内部空間を直接除湿することができるので、より早くより少ない水分の雰囲気にすることができる。また、付属装置の内部空間を密閉にし、除湿されていない雰囲気の空気が混ざらないようになっているので、より確実に雰囲気中の水分を低く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例によるFTIRの概略構成図。
【図2】本発明の一実施例によるATR付属装置の概略構成図。
【図3】本発明の一実施例による高感度反射付属装置の概略構成図。
【図4】従来の構成での水蒸気の影響(パワースペクトル)。
【図5】本発明の構成での水蒸気の影響(パワースペクトル)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例であるフーリエ変換分光光度計の概略構成図を示す。
【0019】
図1において、干渉計1は、赤外光源11、集光鏡12、コリメータ鏡13、ビームスプリッタ14、固定鏡15、移動鏡16等から構成され、スペクトル測定を行うための干渉赤外光を生成する。すなわち、赤外光源11から出射された赤外光は、集光鏡12、コリメータ鏡13を介してビームスプリッタ14に照射され、ここで固定鏡15及び移動鏡16の二方向に分割される。固定鏡15及び移動鏡16にてそれぞれ反射した光はビームスプリッタ14によって再び合わせられ、試料室2へ向かう光路に送られる。このとき、移動鏡16は前後(図1中の矢印Mの方向)に往復移動しているため、合わせられた光は時間的に振幅が変動する干渉光(インターフェログラム)となる。窓板22を通って干渉計1から出てきた干渉光は、試料室前室5にある集光鏡23にて試料室2へ向けて集光され、試料室2に配置された試料を通過し、検出器室6の赤外光検出器25へ集光される。赤外光検出器25で得られた受光信号はデータ処理され、スペクトルを作成する。
【0020】
上記干渉計を構成する光源11やビームスプリッタ14は密閉された干渉計1内に配置されており、外気と遮断されている。ビームスプリッタ14は、たいていは潮解性を有する材料(KBrなど)で構成されているため、干渉計1を構成する壁面の一部には、除湿素子10が設けられている。
【0021】
測定を行う際には、試料室2に測定対象に応じた付属品を設置する。この付属品は、赤外分光測定で利用される測定方法に対応した付属品を適宜選択して使用することができ、例えば、ATR(attenuated total reflection)測定装置、反射測定用付属品(正反射用、高感度反射用等)などがある。
【0022】
図2に、本願発明を採用したATR付属装置3を試料室2内に設置したところを示す。付属装置は、ミラー32,33などの光学系構成部材を備えており、これら光学系構成部材は、分光光度計全体の測定光の光学系の一部を構成している。ATR付属装置の上面には、プリズム31を備えており、測定試料をプリズムに対して密着させることで、密着している面の赤外吸収スペクトルが測定できる。干渉計からの赤外光は、プリズムの下部に備えられたミラー32に入射され、プリズムの断面部分に導かれる。その後、プリズムの内部で赤外光が全反射を繰り返しながら、試料の赤外吸収の影響を受けて、プリズムの反対側の断面から出射した光を再びミラー33を介して検出器へと導き、検出している。
【0023】
試料室前室5と試料室2の間、試料室2と検出器室6との間には、測定用の赤外光が通る開口部のある壁が設けられて、空間が仕切られている。ATR付属装置の内部で光が通る領域は、プリズム31や、筒35,36などのケーシングにより囲まれており、試料室内部のその他空間と、光路が通る空間とをさえぎっている。筒35,36は内筒と外筒の二重で構成されており、外筒が壁に向かって延び、密着されていることにより、試料前室5、付属装置のケーシング内部空間、検出器室6の各空間は一連の密閉空間となっている。ケーシング内のプリズムの下部には除湿機38が設けられているので、密閉空間の内部は常に除湿されている。
【0024】
上記の例ではATR付属装置の例を示したが、本願発明によれば、正反射用付属装置や高感度反射用付属装置など他の付属装置に適用してもATR付属装置の場合と同様の効果を得ることができる。例えば、図3に示すように、高感度反射測定装置4においては、光路が密閉空間内を通るように筒45,46やケース47を設けて、そのケーシング底部に除湿機48を設けるとよい。反射法(正反射法、高感度反射法)の付属装置の場合は、試料配置位置が開口部43になっており、測定試料を測定位置に設置することで開口部が塞がれて、ケーシングが密閉されて密閉空間を構成することができる。反射法の付属装置の場合は、試料の交換のたびに密封が破られるが、本願発明により、試料を交換してから除湿の効果が表れて測定可能になるまでの時間を短くすることができ、多数の試料を測定する場合の待機時間を減らし、分析に要する時間が短くなる。
【0025】
また、高感度反射測定を行う際には、通常、非常に小さピーク(吸光度で数mAbs)を観測する必要があり、水蒸気による影響によって、測定したいピークが見えなくなることがあった。従来は水蒸気が吸収を持つ領域に極わずかな吸収を持つような料に対しては十分な測定を行うことができなかったが、本願発明によれば、測定が行えるようになる。
【0026】
除湿機38、48としては、例えばシリカゲル、CaOやモレキュラーシーブなどの除湿剤を用いてもよく、ペルチェ方式や電気分解式素子など、電気式の乾燥機を用いても良い。電子式の乾燥機は、電源を必要とするが高速で高い除湿能力を得られることから、より低い湿度の雰囲気で測定を行うことができ、また、試料室を開放するなど雰囲気の空気が入れ替わった後、短時間で湿度の低い状況に戻すことができるので、試料の測定間隔を短くすることができる。
【0027】
除湿機として電気式の乾燥機を用いる場合は、分光光度計の試料室2に電力供給用のコネクタを設け、分光光度計本体から除湿機へ電力を供給できるようにすれば、付属装置を試料室内に設置すると同時に除湿器へも電力が供給できるので、電源の心配をする必要が無い。
【0028】
ペルチェ方式の乾燥ユニットは、ペルチェ素子の冷却側が密閉室内に配置されており、冷却部から外部に連通する水分の吸着材が設けられている。ペルチェ素子により冷却された水蒸気が結露して水となり、水が吸着材を通り外部へ運ばれ、密閉室外で再び気化し外部へ放出するものである。
【0029】
電気分解式除湿素子は、プロトン導電性固体電解質とそれを挟む多孔性電極により構成されており、多孔性電極に通電することによって密閉室内部の水分は、プロトンとして素子を通過し、密閉室外部へ移動している。このとき、電気分解式素子によって、密閉室の内外は分離されているので、密閉室内を密閉に保ったまま、水分を外部に放出することができる。
【0030】
図4に、従来の構成の赤外分光光度計で得られたパワースペクトル、図5に本願発明の赤外分光光度計で得られたパワースペクトルをしめす。図4では、4000〜3400cm-1,2000〜1300cm-1付近に、水蒸気によるシャープな吸収が大きく現れており、水蒸気の吸収がある波数領域のエネルギーは、元々の光源からのエネルギーに対し、半分程度の強度になっている。これに対し、本願発明により付属品の光路を除湿した図5では、水蒸気による吸収が大幅に小さくなっており、測定されるスペクトルに現れる悪影響も大幅に小さくなる。
【0031】
本願発明の構成によれば、除湿機が付属装置の光路が通る内部空間に備えられているので、試料室内に設けられる場合よりも水分の影響の出る空間が狭いため、効率よく、より短時間で、除湿を行なうことができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ・・・干渉計
2 ・・・試料測定室
3 ・・・ATR付属装置
4 ・・・反射付属装置
5 ・・・前室
6 ・・・検出器室
10・・・除湿素子
11・・・光源
12・・・集光鏡
13・・・コリメータ鏡
14・・・ビームスプリッタ
15・・・固定鏡
16・・・移動鏡
22・・・窓板
23・・・集光鏡
25・・・赤外光検出器
31・・・プリズム
32、33・・・ミラー
35、36・・・筒
38・・・除湿機
43・・・開口部
45、46・・・筒
47・・・ケース
48・・・除湿機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分析装置本体に対して着脱自在であり、該分析装置の光学系構成部材の少なくとも一部が設けられた付属装置において、
その付属装置の光学系構成部材はケーシング内に配置され、前記ケーシングの内部に除湿ユニットを備えたことを特徴とする付属装置。
【請求項2】
請求項1に記載の付属装置であって、
前記除湿ユニットは電気式の除湿ユニットであることを特徴とする付属装置。
【請求項3】
赤外分光光度計の光学系構成部材の少なくとも一部が設けられる付属装置を備えた赤外分光光度計であって、前記付属装置の光学系構成部材はケーシング内に配置され、前記ケーシングの内部に除湿ユニットを備えたことを特徴とする赤外分光光度計。
【請求項4】
請求項3に記載の赤外分光光度計であって、
さらに、前記除湿ユニットは電気式の除湿ユニットであり、赤外分光光度計の試料室に前記電気式除湿ユニットに電力を供給するためのコネクタを備えたことを特徴とする赤外分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−230370(P2010−230370A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76168(P2009−76168)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】