説明

赤外線カメラ

【課題】 従来のカメラは検出器の感度補正データをROMに書き込んで出荷していた。鏡筒や光学系からの輻射熱がデータ取得時と異なる環境で撮像を行った場合、取得したデータから誤差が発生する。この誤差より本来求めていた画像補正の効果が低くなる。また、出荷の後に撮像素子特性に経年変化が発生した場合も同様に画像補正の効果が低くなる。
このようなカメラの置かれる環境や撮像素子特性の経年変化に左右されず固定パターンの少ない画像を得ることが課題である
【解決手段】 撮像素子に均一温度(シャッタ)を撮像させる。撮像素子の電荷蓄積時間(露光時間)を変化させ、電荷蓄積時間Aの時に画像データAを記憶する。電荷蓄積時間Bの時に画像データBを記憶する。画像データAと画像データBの差が感度データとなる。その感度データ作成及び感度データを用いた画像補正演算を行い、最大の画像補正効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、赤外線カメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の赤外線カメラはその感度補正データが素子温度により一定であるため、素子温度が変わると感度特性が変り、補正ずれが生じて画像に固定パターン雑音が目立っていた。この対策として、予め取得した感度補正データをメモリに格納しておき、そのデータをもとに画像補正を行い固定パターン雑音の低減を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−236550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然るに、鏡筒や光学系からの輻射熱が感度補正データ取得時の輻射熱と異なる環境で撮像を行った場合、取得した感度補正データから誤差が発生することで本来求めていた画像補正の効果が低くなるという課題があった。
また、撮像素子特性に経年変化が発生した場合、感度補正データでは十分に補正ができずに画像補正の効果が低くなるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、カメラの置かれる環境や撮像素子特性の経年変化に左右されず、固定パターン雑音の少ない赤外線カメラを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の赤外線カメラは、赤外光学系と、上記赤外光学系の結像面に位置する撮像素子と、閉じると前記撮像素子の視野を覆うことの出来る位置に設置した面内が均一温度であるシャッターと、上記撮像素子を駆動するドライバ回路と、上記撮像素子に接続した信号処理表示手段と、を備え、上記信号処理表示手段は、上記シャッターを閉じた状態で上記撮像素子が異なる2以上の蓄積時間で撮像した出力結果の差分をとることにより感度補正データを取得し、上記感度補正データを用いて上記撮像素子の出力の感度補正を行うようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の赤外線カメラによれば、撮像時の環境や撮像素子の感度の経年変化に影響されず、簡単な構成で、固定パターン雑音の少ない画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
【0009】
まず最初、従来の赤外線カメラの課題を説明する。
一般に、赤外線カメラではその画素毎に感度の値が微妙に異なるため、異なる温度の物体などを撮像した場合、感度のむらが画像に現れる。このため、カメラ製造時の調整段階で全画素の感度データを取得し、この感度データより感度補正データを作成しカメラ内部の画像メモリに記憶させていた。
感度補正データG(n、T)は
G(n、T)=Rave / R(n、T) (数式1)
で表される。ここに、Raveは全画素の感度の平均値であり、R(n、T)は画素番号nにおける温度Tの時の感度である。
赤外線カメラの演算回路は、感度補正データG(n、T)と画素番号nにおける温度Tの時の素子出力Vsig(n、T)から例えば数式2に従い感度補正後の画像出力Voutを計算する。
Vout = Vsig(n、T)・G(n、T) (数式2)
しかしながら、従来の赤外線カメラでは、感度補正データは撮像素子の素子温度により一定であることを前提としていたが、実際には素子温度が変わったときに素子の感度特性が変わるために同一の感度補正データでは補正ずれが生じ、画像に固定パターン雑音が目立つという問題があった。
【0010】
ここでは、簡易な構成により、上記のような画像に生ずる固定パターン雑音の少ない赤外線カメラを得る。
【0011】
次に、本実施の形態に係る赤外線カメラについて説明する。
図1は、実施の形態1に係る赤外線カメラのブロック図である。
図中、1は赤外光学系、2は赤外光学系1の結像面に位置した撮像素子、3は撮像素子2からの出力を増幅するなどアナログ処理を行うアナログ信号処理回路、4はアナログ信号処理回路の出力を量子化するA/D変換回路、5は感度補正データを用いて画像補正を行う画像データ演算回路、6は画像データ演算回路5の出力をビデオ出力に変換し出力するD/A変換回路、7は撮像素子ドライバ回路8から撮像素子2に印加する素子駆動クロックを生成するタイミング発生回路、9は閉じると撮像素子2の視野を覆うことの出来る位置に設置され面内が均一温度であるシャッター、10は撮像素子2を収納する素子パッケージ、11は素子パッケージの一部をなすもので、赤外線を透過する赤外窓である。なお、素子パッケージ10の内部は真空に保持されている。12は感度補正データを記憶した感度補正データRAMである。
【0012】
51は撮像素子の各画素が対象物からの赤外線を電荷蓄積する蓄積時間がtA(time)であるときの画像データを格納する画像データRAM−A、52は同様に、撮像素子の各画素がtB(time)であるときの画像データを格納する画像データRAM−B、53はA/D変換回路4から出力された画像データを画像データRAM−A51あるいは画像データRAM−B52のどちらに格納するかを選択する書込選択回路、54は画像データRAM−A51と画像データRAM−B52を用いて感度補正データを演算しその結果を感度補正データRAM12に出力する感度補正データ演算回路である。なお、撮像素子の出力を受けて画像を出力するまでの回路を信号処理表示手段と称する。
【0013】
次に、この発明による赤外線カメラの感度補正データの取得動作について説明する。
図2は、感度補正データの取得動作の概要を示した図である。
感度補正データの取得にあたりまず赤外線カメラのシャッターを閉じ(S01)、撮像素子が電荷を蓄積する異なる蓄積時間tA、tBを設定する(S02)。次に、撮像素子は蓄積時間tAでの撮像(S03)、蓄積時間tBでの撮像(S04)を行い、感度補正データを演算する(S05)。感度補正データが得られると、取得動作を完了してシャッターを開けて(S06)、通常の撮像モードに移行する。
【0014】
次に感度補正データの取得動作の詳細について以下で説明する。なお、その動作全体は制御部60により制御される。
まず、赤外線カメラの電源(図示せず)を投入し所定の時間が経過して撮像可能となった時点で、制御部60はシャッター9を閉じ、撮像素子への入射光量を0とした状態で、撮像素子2は均一な温度の面であるシャッター9を撮像する。
このようにしてシャッター9を撮像することで撮影画像の感度を補正する感度補正データの取得を行う。
なお、この感度補正データの取得は電源投入後撮像可能となった時点で自動で行うようにしてもよいし、また、電源オンの状態にあって実際に撮像素子により撮像を開始する直前など、感度補正が必要となった時点で、外部からの指令により行うようにすることもできる。また、所定の時間間隔で、感度補正を行うようにしてもよい。
【0015】
図3、図4は、本実施の形態1に係る感度補正データの算出方法を説明する図である。
電源投入した後撮像可能となり、感度補正データを取得する時点、あるいは、感度補正データの取得の指令があった時点で、赤外線カメラの制御部60はシャッター9は閉じる指示を出力する。
シャッター9が閉じた後、制御部60はタイミング発生回路7に対して、感度補正データの取得を開始する信号、感度補正データ取得のための蓄積時間として異なる2つの蓄積時間tA、tBを設定する信号を出力する。
タイミング発生回路7はシャッター9からの赤外線を電荷蓄積する蓄積時間がtA(time)となるようにタイミング設定して素子駆動クロックを撮像素子ドライバ回路8に出力する。撮像素子ドライバ回路8は撮像素子2に対して各画素を駆動する素子駆動クロックを印加する。撮像素子2は、蓄積時間がtA(time)における画像信号Vsig(n、tA)をアナログ信号処理回路3を通じてA/D変換回路4に出力する。ここで、Vsig(n、tA)は、感度補正データ取得時における画素番号n、蓄積時間がtA(time)での出力電圧を表す。
制御部60はA/D変換回路4に対して、アナログ信号処理回路3を通じて入力した撮像素子2の出力Vsig(n、tA)を書込選択回路53に出力させる制御を行う。
一方、タイミング発生回路7は感度補正データの取得を開始する信号を受けて、書込選択回路53に対し、A/D変換回路4で先のVsig(n、tA)をA/D変換したデータVsig_ad(n、tA)を、画像データRAMの1つである画像データRAM−A51に格納させる信号を出力する。
指令を受けた書込選択回路53は、A/D変換後のデータVsig_ad(n、tA)を画像データRAM−A51に格納する。
【0016】
次に、シャッター9が閉じたままの状態で、タイミング発生回路7はシャッター9からの赤外線を電荷蓄積する蓄積時間がtB(time)となるようにタイミング設定して、素子駆動クロックを撮像素子ドライバ回路8に出力する。撮像素子ドライバ回路8は撮像素子2に対して各画素を駆動する素子駆動クロックを印加する。撮像素子ドライバ回路8は撮像素子2に対して各画素を駆動する素子駆動クロックを印加する。撮像素子2は、蓄積時間がtB(time)の画像信号Vsig(n、tB)をアナログ信号処理回路3を通じてA/D変換回路4に出力する。ここで、Vsig(n、tB)は、感度補正データ取得時における画素番号n、蓄積時間がtB(time)での出力電圧を表す。
制御部60はA/D変換回路に対して、アナログ信号処理回路3を通じて入力した撮像素子2の出力Vsig(n、tB)を書込選択回路53に出力させる制御を行う。
一方、タイミング発生回路7は書込選択回路53に対し、A/D変換回路4で先のVsig(n、tB)をA/D変換したデータVsig_ad(n、tB)を、画像データRAMの1つである画像データRAM−B52に格納させる信号を出力する。
指令を受けた書込選択回路53は、A/D変換後のデータVsig_ad(n、tB)を画像データRAM−B52に格納する。
【0017】
なお、この蓄積時間tA、tBは例えば数十m秒のオーダーであるが、補正に要する精度や補正に要する時間等、撮像環境の制限によりマイクロ秒のオーダーとしてもよいし、数秒の時間をかけてもよい。
【0018】
Vsig_ad(n、tB)が画像データRAM−B52に格納されると、次に制御部60は感度補正データ演算回路54に演算実施の制御信号を出力し、この制御信号を受けた感度補正データ演算回路54は、画像データRAM−A51に格納されたデータVsig_ad(n、tA)と画像データRAM−B52に格納されたデータVsig_ad(n、tB)の差分を演算する。すなわち、校正前感度補正データGS(n)は
GS(n)=Vsig_ad(n、tB)−Vsig_ad(n、tA) (数式3)
で表される。ここで、G(n)は画素番号nにおける感度を表す。
このようにして本発明の赤外線カメラは、撮像素子の各画素について校正前感度補正データGS(n)を取得する。
【0019】
撮像素子の各画素において、蓄積時間を同一とした時の各画素の出力の差は各画素の感度に対応すると考えられる。一方、撮像素子の特性として入射光量が0であったときであってもオフセット出力を有することが挙げられる。
そこで、本実施の形態では、異なる蓄積時間の各出力の差分を求め、この差分の比を算出することで、各画素の感度補正データとして使用するようにした。
【0020】
次に、感度補正データ演算回路54が、この校正前感度補正データGS(n)に基き感度補正データG(n)を演算する方法について説明する。
感度補正データ演算回路54は、校正前感度補正データGS(n)を用いて、対象物の画像の感度補正に使用する感度補正データG(n)を演算する。ここではその一例について図4を用いて説明する。
図4は、本実施の形態に係る感度補正データの算出方法を説明する図である。図中、2次元の撮像素子2の中心位置にある画素の画素番号をCとする。
各画素の感度補正データG(n)を、以下の数式4により算出する。
G(n) = GS(n)/GS(C) (数式4)
このように、2次元撮像素子の中心位置の画素における校正前の感度補正データGS(C)、すなわち、蓄積時間がtA(time)の画像信号Vsig(C、tA)と蓄積時間がtB(time)の画像信号Vsig(C、tB)の差分の値を基準にして、2次元に配置されている各画素(画素番号n)の校正前感度補正データGS(n)の比率を算出し、この算出結果を感度補正データG(n)とする。
【0021】
このようにして感度補正データ演算回路54が各画素の感度補正データG(n)を算出すると、その結果G(n)を感度補正データRAM12に格納する。
【0022】
このようにして感度補正データG(n)が感度補正データRAM12に格納されると、制御部60は感度補正データ取得のステップは完了したとしてタイミング発生回路7に対して感度補正データの取得が終了した信号を出力し、また、シャッター9を開き、赤外線カメラを通常の撮像可能状態に設定する。
すなわち、シャッター9を開いて撮像素子2に対象物からの赤外光を入射し、タイミング発生回路7が発生するタイミングに合わせて撮像素子ドライバ回路8が撮像素子2に素子駆動クロックを印加して、撮像素子2が対象物を撮像する。アナログ信号処理回路3は、撮像素子2の各画素の画像信号をA/D変換回路4に出力する。A/D変換回路4はA/D変換後のデータを画像データ演算回路5に出力する。
画像データ演算回路5は、感度補正データRAM12に格納された感度補正データG(n)を用いて各画素について感度補正を行い、その結果をD/A変換回路6に出力する。D/A変換回路6はビデオ出力として出力する。
【0023】
このように、本実施の形態では、蓄積時間を制御して複数種類の感度補正用データを取るようにすることで、被写体であるシャッターは、温度が均一であるという条件のみでよく、従来のように温度を変化させる必要がない。このため、シャッターは簡易な構造のものでよい。
【0024】
本実施の形態によれば、撮像環境において、その撮像直前に、異なる蓄積時間における画素出力の結果に基き感度補正データを取得するようにしたため、感度補正データが撮像素子の素子温度により変化した場合、あるいは撮像素子特性に経年変化が発生した場合であっても、撮像時の素子温度における感度補正データを得ることができ、結果として、固定パターン雑音の少ない画像を得ることができる。
【0025】
先に数式4で説明した感度補正データG(n)の算出の例(図4参照)では、2次元撮像素子の中心位置の画素を基準にして各画素の比率を算出し感度補正データとしたが、例えば、2次元撮像素子を複数のブロックに分け、各々のブロックにおいて、感度補正データを算出するようにしてもよい。
図5は感度補正データの別の算出方法を説明する図である。図5のように、撮像素子2を複数のブロック(1〜n)に分割し、各ブロックにおいて図4で説明した方法と同様にして感度補正データを算出するようにしてもよい。
【0026】
また、図4で説明した感度補正データの算出方法では、2次元撮像素子の中心位置の画素を基準にして各画素の比率を算出したが、例えば、中心位置の画素と角位置の画素などの複数の画素の出力の平均を算出し、この平均値を基準にして各画素出力の比率を算出して感度補正データとするようにしてもよい。
【0027】
また、図3で説明した例では、異なる2つの蓄積時間から感度補正データを算出するようにしたが、感度補正データの精度を上げるために、異なる3以上の蓄積時間(tA、tB、tC、・・・)における各画素の出力結果を得て、その結果を画像データRAMに格納するようにしてもよい。そして、この異なる3以上の蓄積時間の結果に基き直線近似、あるいは曲線近似をして感度補正データを算出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1に係る赤外線カメラのブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る感度補正データの取得動作の概要を示した図である。
【図3】実施の形態1に係る感度補正データの算出方法を説明する図である。
【図4】実施の形態1に係る感度補正データの算出方法を説明する図である。
【図5】実施の形態1に係る感度補正データの別の算出方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
1 赤外光学系、2 撮像素子、3 アナログ信号処理回路、4 A/D変換回路、5 画像データ演算回路、6 D/A変換回路、7 タイミング発生回路、8 撮像素子ドライバ回路、9 シャッター、10 温度安定容器、11 赤外線透過窓、12 感度補正データRAM、51 画像データRAM−A、52 画像データRAM−B、53 書込選択回路、54 感度補正データ演算回路、60 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光学系と、上記赤外光学系の結像面に位置する撮像素子と、閉じると前記撮像素子の視野を覆う位置に設置した面内が均一温度であるシャッターと、上記撮像素子を駆動するドライバ回路と、上記撮像素子と上記ドライバ回路に接続した信号処理表示手段と、を備え、
上記信号処理表示手段は、上記シャッターを閉じた状態で上記撮像素子が異なる2以上の蓄積時間で撮像した各出力の差分をとり、上記差分の比率に基き感度補正データを取得し、上記感度補正データを用いて上記撮像素子の出力の感度補正を行うことを特徴とする赤外線カメラ。
【請求項2】
上記信号処理表示手段は、上記シャッターを閉じた状態で上記撮像素子が
異なる2以上の蓄積時間で上記シャッターを撮像した各々の出力結果を記憶するメモリと、上記出力結果の差分に基いて感度補正データを算出する感度補正データ演算手段と、上記感度補正データを用いて蒸気撮像素子の出力の感度補正を行う画像データ演算手段と、を備えることを特徴とする請求項1記載の赤外線カメラ。
【請求項3】
上記信号処理手段は、上記撮像素子を構成する画素の中心位置にある画素を基準にして上記差分の比率を算出することを特徴とする請求項1、2いずれか記載の赤外線カメラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−89138(P2009−89138A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257521(P2007−257521)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】