説明

赤外線センサモジュール

【課題】熱ノイズを低減し、高精度で信頼性の高い赤外線検出を行うことが可能な赤外線センサモジュールを提供する。
【解決手段】本発明の赤外線センサモジュールは、基板10上に配置され、赤外線信号を受信する赤外線センサ素子30と、前記赤外線センサ素子30の出力を処理する信号処理回路素子40と、前記赤外線センサ素子30から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線信号を前記赤外線センサ素子30に結像するための光学系(レンズ22)を備えた入射窓を有し、前記赤外線センサ素子30および前記信号処理回路素子40と、前記基板10とを収容する金属製のケース20とを具備し、前記ケース20は、内壁面に沿って反射防止部材としての内装ケース60を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサモジュールに係り、特に、その熱ノイズ低減のための実装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、赤外線センサ素子は、非接触で温度検出を図ることができることから、人の存在を検出し、人の動きに追随して、点灯制御を行うようにした自動点灯システムや、電子レンジの庫内温度の検出、被調理物の温度分布の検出などに、広く用いられている。赤外線センサ素子は、内蔵のセンサチップに受光した赤外線量に応じた電圧を出力するデバイスである。
【0003】
この赤外線センサ素子の検知視野角は仕様で定められているが、実際は図6に示すように視野角領域R外からの不要な赤外線も光学系122を介してデバイス内に入光し、その赤外線がパッケージ120内部での反射内よりセンサチップ130に入射した場合は、熱ノイズとなり、検知精度の劣化を招いてしまうという問題があった。140は信号処理回路素子、110は実装基板である。
【0004】
このような赤外線センサ素子の一例としては、例えば、多数個の抵抗(単素子)をマトリクス状に平面配置し赤外線が投射されたときに生じる温度上昇に伴う抵抗値の変化を信号として取り出し、この信号に基づいて画像信号を作成し出力するものがある。このような赤外線センサ素子では、抵抗変化を信号として取り出すために所定バイアス電流を供給する必要があり、このバイアス電流によるジュール熱によって赤外線センサ素子の温度上昇が発生することがある。このため、このジュール熱による温度上昇によって赤外線センサ素子から新たな信号が発生され、この信号が赤外線センサ素子における雑音として出力されることになる。
【0005】
このようなバイアス電流による雑音を防止するために、サーモパイルセンサの缶の内壁に、ポリカーボネート製の筒を圧入し、二次ふく射熱を抑制する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、特許文献2においても、複眼式サーモパイル赤外線センサにおいて赤外線入光を遮蔽する機構を備えたものも提案されている。
【0007】
さらにまた、アパーチャの開口部周辺に黒色ニッケルめっきを形成し、開口部内壁における迷光を抑制した赤外線検知器も提案されている(特許文献3)。しかしながら、アパーチャの開口部内壁にのみ黒色めっき層が設けられているだけであり、アパーチャの赤外線センサに対向する面がすべて黒色めっき層で覆われているわけではない。
【0008】
ところで、近年、信号の増幅処理のためにASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのICチップを内蔵した実装構造が提案されている。この構成によれば、配線の引き回しを低減することができ、理論的には、検出精度のさらなる向上をはかることができる。しかしながら、このようにICチップをハウジング内に内蔵する場合は、電気ノイズ対策として金属ハウジングを用いる必要がある。この場合は特に、金属の光反射率が高いために内部反射が起こりやすくなり、熱ノイズがさらに発生しやすい構造となっている。また、信号の増幅処理のためのICチップへの熱ノイズの影響も無視できない大きさとなることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−058228号公報
【特許文献2】特開2006−337345号公報
【特許文献3】特開平06−026926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように信号処理回路素子を内蔵した赤外線センサモジュールにおいては、電気ノイズ対策として金属ハウジングを用いる必要があり、この場合は特に、金属の光反射率が高いために内部反射が起こりやすくなるという問題があった。さらに、信号処理回路素子の発熱による熱ノイズの問題もあり、熱ノイズがさらに発生しやすい構造となっている。
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、熱ノイズを低減し、高精度で信頼性の高い赤外線検出を行うことが可能な赤外線センサモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明の赤外線センサモジュールは、基板上に配置され、赤外線信号を受信する赤外線センサ素子と、前記赤外線センサ素子の出力を処理する信号処理回路素子と、前記赤外線センサ素子から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線信号を前記赤外線センサ素子に結像するための光学系を備えた入射窓を有し、前記赤外線センサ素子および前記信号処理回路素子と、前記基板とを収容する金属製のケースとを具備し、前記ケースは、内壁面に沿って反射防止部材を具備したことを特徴とする。
この構成によれば、金属製のケースの内壁面に沿って反射防止部材を設けるようにしているため、ケースに入射したノイズとなる赤外線信号が確実に除去され、対象物だけの赤外線信号を検知することができるので、測定精度が向上する。
【0012】
そこで本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記反射防止部材は、樹脂ケースであることを特徴とする。
この構成によれば、装着が容易である。
【0013】
そこで本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記反射防止部材は、前記金属製のケースの内側に設けられた黒色の金属めっき層であることを特徴とする。
この構成によれば、反射防止部材が黒色の金属メッキ層で構成されているため、電気的シールドを確実に発揮しつつ、赤外線ノイズを低減することができる。
【0014】
そこで本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記赤外線センサ素子が面実装によって前記基板に搭載されたことを特徴とする。
この構成によれば、特に赤外線センサ素子自体の熱変化も信号処理回路素子に大きな影響を与えることになるため、信号処理回路素子への赤外線センサ素子からの輻射による熱ノイズを防ぐことができる。
【0015】
また本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記ケースは前記基板表面で外側に折り曲げられ前記基板に当接する鍔部を形成したことを特徴とする。
この構成によれば、シール性を高めるとともに、電気的なシールド性を高めることが可能となる。
【0016】
また本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記赤外線センサ素子と前記信号処理回路素子との間の接続は、前記基板に形成された内部配線を介して実現されたことを特徴とする。
【0017】
また本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記赤外線センサ素子と前記ケースとの間の、前記基板上に熱遮断部を形成したことを特徴とする。
【0018】
また本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記熱遮断部は、リング状の溝部であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、上記赤外線センサモジュールにおいて、前記基板は、前記信号処理回路素子の搭載領域で、肉薄領域を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る赤外線センサモジュールによれば、ケースの内壁面に沿って設けられた反射防止部材によって、ケースで反射されて入射する、視野角外からの赤外線ノイズを防止するとともに、ケースの加熱による輻射熱発生による赤外線ノイズの影響を低減し、検出精度の向上をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールを示す図であり、(a)は断面図、(b)はケースと内装ケースを外した状態を示す上面図、(c)は側断面図
【図2】同赤外線センサモジュールを示す分解斜視図
【図3】本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールの要部断面図
【図4】本発明の実施の形態2の赤外線センサモジュールを示す図であり、(a)は断面図、(b)はケースと内装ケースを外した状態を示す上面図、(c)は側断面図
【図5】本発明の実施の形態3の赤外線センサモジュールを示す図であり,(a)は断面図、(b)はケースを外した状態を示す上面図、(c)は側断面図
【図6】従来例の赤外線センサモジュールを示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態の赤外線センサモジュールについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールを示す図であり,(a)は断面図、(b)はケースと内装ケースを外した状態を示す上面図、(c)は側断面図である。また図2はこの赤外線センサモジュールを示す分解斜視図、図3は断面図である。
本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールは、電気ノイズ対策として設けられている金属製のケース20の内壁に黒色のエポキシ樹脂製の内装ケース60を配設し、このケースによる内部反射に起因した熱ノイズを防止するようにしたことを特徴とするものである。
【0024】
他部については通例のものと同様に形成されており、基板10上に配置され、赤外線信号を受信する赤外線センサ素子30と、前記赤外線センサ素子30の出力を処理する信号処理回路素子40と、前記赤外線センサ素子30から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線信号を前記赤外線センサ素子30に結像するための光学系としてのレンズ22を備えた入射窓を有し、前記赤外線センサ素子30および前記信号処理回路素子40を収容する金属製のケース20と、を具備したことを特徴とする。基板10は表面に図示しない配線パターンを有する
【0025】
なおここで用いられる赤外線センサ素子は、面実装によって基板10に搭載されたサーモパイル型センサである。そしてワイヤボンディングによって基板10に電気的に接続されている。32はボンディングワイヤである。サーモパイル型センサは、ここでは図示しないが、ポリシリコンのマイクロマシニングによって形成した熱電対において、赤外線による熱によりこれら接合点間に温度差を生じさせ、この温度差により接点間に電位差を発生させる熱起電力効果(ゼーベック効果)を利用して、赤外線を電圧として検知するように構成したものである。このサーモパイル型赤外線センサは、受光した赤外線を赤外線吸収膜で熱に変換し、この熱を、直列に多数個接続された熱電対に加え、発生した温接点部の温度変化を、熱電対により電圧として出力する。このサーモパイルにおいて、赤外線を吸収する赤外線吸収膜の材料としては、赤外線吸収率の高い金黒膜やカーボン膜などが用いられている。
【0026】
そして内装ケース60は、ケース20内に圧入されており、センサ周囲で熱が部分的にこもることがないようにすることができる。
【0027】
また、基板10の赤外線センサ素子搭載領域Rtおよび信号処理回路素子搭載領域Rsを囲む領域に帯状の金属リング13が載置され、この金属リング13はケース20の基板側端部に設けられた鍔部23と当接し、シール部24を構成している。
【0028】
ここで11は基板表面に形成された配線導体層であり、ボンディングワイヤ32を介して赤外線センサ素子30と電気的に接続されている。また赤外線センサ素子30と信号処理回路素子40との間の電気的接続もボンディングワイヤ32を介してなされている。
【0029】
また、ケース20の開口に光学系としてのレンズ22が装着されている。
【0030】
この構成によれば、赤外線センサ素子30が、金属製のケース20の内壁に沿って圧入された内装ケース60によって保護されており、赤外線センサ素子だけでなく、信号処理回路素子への輻射による熱ノイズを防ぐことができ、非対象物体からの赤外線信号IR0が金属ケースを経て入射する輻射線IR2、金属ケースからの反射による輻射線IR3による赤外線信号がこの内装ケース60によって除去され、対象物だけの赤外線信号IR1を検知することができるので、測定精度が向上する。
【0031】
なお、前記実施の形態では、内装ケースは黒色のエポキシ樹脂で構成したが、このほかポリイミド樹脂など耐熱性の高い樹脂を用いるようにしてもよい。また、内装ケースを黒色のニッケルめっき層で構成するなど、導電性材料で基板に接続することにより、シールド面と電気的に接続することができ、電磁シールド性を高めることができる。
【0032】
また基板の赤外線センサ素子搭載領域を囲む領域に形成された帯状の金属リングがケースの基板側端部に設けられた鍔部と当接し、シール部を構成しているため、気密シール性を高めるとともに、電気的なシールド性を高めることが可能となる。また、この帯状の金属リングは熱遮断部としての役割も有する。また熱遮断部としては、リング状の溝部を構成してもよい。
【0033】
さらに、基板として窒化アルミニウムなどの放熱性の高いセラミック基板を用いるとともに、センサカバーの当接する領域に配線導体層が形成されるようにすることで、より放熱性を高めることができる。
【0034】
なお、前記実施の形態では、赤外線センサ素子30と信号処理回路素子40とをボンディングワイヤ32を介して電気的に接続したが、基板として多層配線基板を用いることで、内層でスルーホールを介して電気的に接続することができる。
【0035】
(実施の形態2)
次に本発明の実施の形態2について説明する。
【0036】
図4は本発明の実施の形態2の赤外線センサモジュールを示す図であり,(a)は断面図、(b)はケースと内装ケースを外した状態を示す上面図、(c)は側断面図である。前記実施の形態1では、赤外線センサ素子30はワイヤボンディングにより基板10に接続したが、本実施の形態では、図4に示すように、赤外線センサ素子30と信号処理回路素子40とをバンプ31を介して直接基板に接続したことを特徴とするものである。ここでも、内装ケース60は、ケース20の内壁に圧入され、赤外線センサ素子30の周囲を、確実に囲むように配置されている。また、赤外線センサ素子30と信号処理回路素子40との接続は、基板10上に形成された配線導体層によって接続される。他の部分については前記実施の形態1と同様に形成されているため、ここでは説明を省略する。
従って、この場合も、赤外線センサ素子30はより効率的に熱シールドおよび電気的シールドがなされているため、輻射熱発生による熱ノイズの発生も抑制することができる。
なお、この場合も、実施の形態1と同様、基板として多層配線基板を用いるようにすれば、内層でスルーホールを介して赤外線センサ素子30と信号処理回路素子40とを、電気的に接続することができる。
【0037】
(実施の形態3)
次に本発明の実施の形態3について説明する。
図5は本発明の実施の形態3の赤外線センサモジュールを示す図であり,(a)は断面図、(b)はケースを外した状態を示す上面図、(c)は側断面図である。
本発明の実施の形態3の赤外線センサモジュールは、前記実施の形態1の赤外線センサモジュールの内装ケース60に代えて、ケース20の内壁に黒色ニッケルめっき層26を形成したことを特徴とするものである。このとき、黒色ニッケルめっき層26はシール部にも形成されている。他は前記実施の形態1で示した赤外線センサモジュールと同様に形成されている。ここでは同一部位には同一符号を付し、説明を省略する。
この構成により、前記実施の形態1の効果に加え、さらなる熱ノイズの抑制を達成することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10 基板
11 配線導体層
13 金属リング
20 ケース
22 レンズ
23 鍔部
24 シール部
26 黒色ニッケルめっき層
30 赤外線センサ素子
31 バンプ
32 ボンディングワイヤ
40 信号処理回路素子
60 内装ケース
IR0 非対象物からの赤外線信号
IR1 対象物からの赤外線信号
IR2 非対象物からの輻射線
IR3 非対象物からの輻射線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置され、赤外線信号を受信する赤外線センサ素子と、
前記赤外線センサ素子の出力を処理する信号処理回路素子と、
前記赤外線センサ素子から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線信号を前記赤外線センサ素子に結像するための光学系を備えた入射窓を有し、前記赤外線センサ素子および前記信号処理回路素子と、前記基板とを収容する金属製のケースとを具備し、
前記ケースは、その内壁面に沿って反射防止部材を具備した赤外線センサモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記反射防止部材は、樹脂製の内装ケースである赤外線センサモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記反射防止部材は、前記金属製のケースの内側に設けられた黒色の金属めっき層である赤外線センサモジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の赤外線センサモジュールであって、
前記赤外線センサ素子は面実装によって前記基板に搭載された赤外線センサモジュール。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記ケースは前記基板表面で外側に折り曲げられ前記基板に当接する鍔部を形成した赤外線センサモジュール。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の赤外線センサモジュールであって、
前記赤外線センサ素子と前記信号処理回路素子との間の接続は、前記基板に形成された内部配線を介して実現された赤外線センサモジュール。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の赤外線センサモジュールであって、
前記赤外線センサ素子と前記ケースとの間の、前記基板上に熱遮断部を形成した赤外線センサモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記熱遮断部は、リング状の溝部である赤外線センサモジュール。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の赤外線センサモジュールであって、
前記基板は、前記信号処理回路素子の搭載領域で、肉薄領域を構成した赤外線センサモジュール。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の赤外線センサモジュールであって、
前記基板はセラミック基板であり、前記ケースの当接する領域に配線導体層が形成された赤外線センサモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−128066(P2011−128066A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288031(P2009−288031)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】