赤外線センサ
【課題】 赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で高い温度差分が得られると共に小型化が可能で、安価な構造を有している赤外線センサを提供すること。
【解決手段】 絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に形成され第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが別々に接着された一対の接着電極4と、第1の感熱素子3Aに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線吸収膜5と、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備え、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極4に接着される一対の電極層と、を有する。
【解決手段】 絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に形成され第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが別々に接着された一対の接着電極4と、第1の感熱素子3Aに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線吸収膜5と、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備え、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極4に接着される一対の電極層と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物からの赤外線を検知して該測定対象物の温度等を測定する赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物から輻射により放射される赤外線を非接触で検知して測定対象物の温度を測定する温度センサとして、赤外線センサが使用されている。
例えば、特許文献1には、保持体に設置した樹脂フィルムと、該樹脂フィルムに設けられ保持体の導光部を介して赤外線を検知する赤外線検知用感熱素子と、樹脂フィルムに遮光状態に設けられ保持体の温度を検知する温度補償用感熱素子と、を備えた赤外線センサが提案されている。この赤外線センサでは、導光部の内側面に赤外線吸収膜を形成すると共に、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めている。また、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子には、薄膜サーミスタが用いられている。
【0003】
また、特許文献2には、赤外線検知用感熱素子と、温度補償用感熱素子と、これらを密着固定する樹脂フィルムと、赤外線の入射窓側に赤外線検知用感熱素子を配置すると共に赤外線を遮蔽する遮蔽部側に温度補償用感熱素子を配置した枠体を有するケースと、を備えた赤外線検出器が提案されている。この赤外線検出器では、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めていると共に、赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との熱勾配を無くすために熱伝導の良い材料で枠体を形成している。また、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子には、リード線がサーミスタに接続された松葉型のサーミスタが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−156284号公報(段落番号0026、図2)
【特許文献2】特開平7−260579号公報(特許請求の範囲、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1及び2の赤外線センサでは、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させると共に一方の感熱素子側を温度補償用に遮光する構造が採用されているが、赤外線吸収材料を含有した樹脂フィルムの熱伝導が高く、赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で温度差分が生じ難いという不都合があった。また、これら感熱素子間で温度差分を大きくするためには、感熱素子間の距離を大きくする必要があり、全体形状が大きくなってしまい、小型化が困難になる問題がある。さらに、温度補償用の感熱素子を遮光する構造をケース自体に設ける必要があるため、高価になってしまう。
また、特許文献2では、熱伝導の良い枠体を採用しているため、赤外線吸収膜からの熱も放熱されてしまい感度が劣化する不都合がある。また、リード線が接続された松葉型のため、サーミスタとリード線との間で熱の空間伝導が生じてしまう。さらに、松葉型やチップ型のサーミスタの場合、スポット計測となってしまい、樹脂フィルムに温度の面内分布が生じた場合に測定誤差が生じてしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で高い温度差分が得られると共に小型化が可能で、安価な構造を有している赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の赤外線センサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が別々に接着された一対の接着電極と、前記第1の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備え、前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が前記接着電極に接着される一対の電極層と、を有することを特徴とする。
【0008】
この赤外線センサでは、第1の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備えているので、赤外線吸収膜による部分的な赤外線吸収と赤外線反射膜による部分的な赤外線反射とにより、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム上で第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができる。
すなわち、フィルムに赤外線吸収材料等を含有させていない低熱伝導性の絶縁性フィルムでも、赤外線吸収膜によって絶縁性フィルムの第1の感熱素子の直上部分のみに赤外線吸収による熱を伝導させることができる。特に、薄い絶縁性フィルムを挟んで赤外線吸収膜の熱が伝導されるため、感度の劣化がなく、高い応答性を有している。また、赤外線吸収膜の面積を任意に設定可能であるため、測定対象物との距離に合わせた赤外線検出の視野角を面積で設定でき、高い受光効率を得ることができる。
また、赤外線反射膜によって絶縁性フィルムの第2の感熱素子の直上部分における赤外線を反射してその吸収を阻止することができる。
なお、絶縁性フィルム上に赤外線吸収膜と赤外線反射膜とを形成しているので、赤外線吸収膜と赤外線反射膜との間の熱を伝導する媒体が、空気以外にこれら膜が対向した間の絶縁性フィルムのみとなり、伝導する断面積が小さくなる。したがって、相互の感熱素子への熱が伝わり難くなり、干渉が少なくなって検出感度が向上する。
このように、低熱伝導性の絶縁性フィルム上で互いに熱の影響が抑制された第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、それぞれ赤外線吸収膜の直下と赤外線反射膜の直下との絶縁性フィルムの部分的な温度を測定する構造を有している。したがって、赤外線検知用とされる第1の感熱素子と温度補償用とされる第2の感熱素子との良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができる。
【0009】
また、第1の感熱素子と第2の感熱素子との熱結合が低いので、互いに近づけて配置することも可能になり、全体の小型化を図ることができる。さらに、枠体やケースによる遮光構造ではなく、赤外線反射膜によって赤外線の吸収を防いでいるので、安価に作製することができる。
また、赤外線吸収膜及び赤外線反射膜が導電性材料で構成されていても、絶縁性フィルムを挟んで設置された第1の感熱素子及び第2の感熱素子との絶縁が確保されているので、膜の絶縁性を問わずに効率の良い材料の選択が可能になる。
【0010】
また、第1の感熱素子及び第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極に接着される一対の電極層と、を有するので、赤外線の進行方向(厚み方向)の熱容量が小さいと共に広い接着電極及び電極層に熱を伝えてからサーミスタ素体に熱伝導させることで、熱応答性及び検出感度を改善することができる。すなわち、サーミスタ素体が板状であると共に広い接着電極に電極層で接着されるいわゆるフレーク形サーミスタのため、チップサーミスタのように厚いチップ状のサーミスタ素体を有して端部に電極を有するサーミスタより、優れた熱伝導性で高い熱応答性及び検出感度を得ることができる。さらに、フレーク形サーミスタの場合、通常同じ平板素体からサーミスタ素体を選別できるため、2つの感熱素子の抵抗値及びB定数をほぼ同じに設定することが容易である。
また、松葉型やチップ型のサーミスタに比べて検出面積を広くできると共に、赤外線吸収膜及び赤外線反射膜に対応した面積とすることが容易で、面内分布による測定誤差が生じ難い。
【0011】
また、本発明の赤外線センサは、前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子の外形状が、接着される前記接着電極よりも平面視で小さく設定されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、第1の感熱素子及び第2の感熱素子の外形状が、接着される接着電極よりも平面視で小さく設定されているので、小型化により熱容量がより小さくなって、さらに優れた熱応答性が得られる。
【0012】
また、本発明の赤外線センサは、前記絶縁性フィルムの一方の面に、前記接着電極に細線状の接着側パターン配線で接続された接着側端子電極と、ワイヤボンディング用電極と、前記ワイヤボンディング用電極に細線状のワイヤ側パターン配線で接続されたワイヤ側端子電極と、がそれぞれ一対形成され、接着されていない前記電極層と対応する前記ワイヤボンディング用電極とが、ワイヤボンディングによる金属細線で電気的に接続されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、細線状の接着側パターン配線及びワイヤ側パターン配線と、ワイヤボンディングによる金属細線と、を電極の接続に採用しているので、第1の感熱素子及び第2の感熱素子の熱が配線から接着側端子電極及びワイヤ側端子電極に伝導し難く、熱の逃げを抑制してより高い検出感度を得ることができる。したがって、従来のようにリード線とサーミスタとの間の空間伝導による他の箇所との熱結合を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明の赤外線センサは、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであるので、対となる第1の感熱素子と第2の感熱素子とでB定数の相対誤差が小さくなり、同時に温度を検出する両者の温度差分を高精度に検出することができる。また、第1の感熱素子と第2の感熱素子とについて、B定数の選別作業や抵抗値の調整工程が不要になると共に組み合わせの履歴管理なども不要になり、生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る赤外線センサによれば、第1の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備えているので、第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができ、高感度化を図ることができると共に、小型かつ安価に作製可能である。さらに、第1の感熱素子及び第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極に接着される一対の電極層と、を有するので、赤外線の進行方向(厚み方向)の熱容量が小さいと共に広い接着電極及び電極層に熱を伝えてからサーミスタ素体に熱伝導させることで、熱応答性及び検出感度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る赤外線センサの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態において、赤外線センサを示す正面図である。
【図3】第1実施形態において、第1の感熱素子及び第2の感熱素子を示す断面図である。
【図4】第1実施形態において、赤外線センサの製造方法を工程順に示す底面図である。
【図5】本発明に係る赤外線センサの第2実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5のA−A線断面図である。
【図7】B定数と抵抗値とにおいて補償温度と最大検出誤差温度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る赤外線センサの第3実施形態を示す斜視図である。
【図9】第3実施形態の赤外線センサを表面実装したリード型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【図10】第3実施形態の赤外線センサを表面実装したブリッジ回路型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【図11】第3実施形態の赤外線センサを表面実装した検出回路内蔵型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る赤外線センサの第4実施形態を示す斜視図である。
【図13】第4実施形態の他の例として、赤外線センサを表面実装したブリッジ回路型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る赤外線センサの第1実施形態を、図1から図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の赤外線センサ1は、図1及び図2に示すように、絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面(下面)に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に銅箔等でパターン形成され第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが別々に接着された一対の接着電極4と、第1の感熱素子3Aに対向して絶縁性フィルム2の他方の面(上面)に設けられた赤外線吸収膜5と、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備えている。
【0018】
すなわち、上記赤外線吸収膜5は、第1の感熱素子3Aの直上に配されていると共に、上記赤外線反射膜6は、第2の感熱素子3Bの直上に配されている。
上記絶縁性フィルム2は、赤外線透過性フィルムで形成されている。なお、本実施形態では、絶縁性フィルム2がポリイミド樹脂シートで形成されている。
【0019】
上記第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bは、図3に示すように、板状のサーミスタ素体3aと、該サーミスタ素体3aの表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極4に接着される一対の電極層3bと、を有したいわゆるフレーク形サーミスタである。
このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bとして、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料でサーミスタ素体3aが形成されている。
【0020】
上記フレーク形サーミスタの第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを作製するには、例えば上記サーミスタ材料のセラミックス焼結体からなる四角平板状の平板素体のウエハにおける上下面に、それぞれガラスペーストをスクリーン印刷等で塗布して焼き付けることによりガラス層3cを形成する。次に、この平板素体を短冊状にダイシングして複数の角柱素体とし、これらを互いにガラス層3cを並べた状態でガラス層3cの形成されていない両側面にもガラス層3cを形成して角柱状体とする。
【0021】
次に、全側面にガラス層3cが形成された角柱状体を、中心軸の直交方向に切断して複数の板状体であるサーミスタ素体3aとする。
さらに、上面にサーミスタ素体3aに合わせて形成された複数の凹部を有する治具を用意し、凹部内にサーミスタ素体3aを配する。この状態で凹部内にAuやAgペースト等の導電性ペーストをスクリーン印刷等で塗布して焼き付けし、サーミスタ素体3aの表面に電極層3bを形成する。また、同様に、サーミスタ素体3aの裏面にも電極層3bを形成する。このようにしてフレーク形のサーミスタ素子である第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが作製される。
【0022】
なお、通常、複数の感熱素子で同時に物体の熱を比較する場合、互いに同一の特性を持つことが検出精度を向上させるために重要であるが、異なる生産工程で作製されたサーミスタ素子の場合、互いにB定数や抵抗値等の特性がばらついてしまう不都合がある。特に、絶対温度の1/100程度の温度差を検出する場合、B定数の相対誤差の影響が大きくなる。
【0023】
例えば、抵抗値(R値)が−0.10%、B定数が−0.10%の誤差がある場合、抵抗値が−0.05%、B定数が−0.10%の誤差がある場合、また抵抗値が−0.10%、B定数が−0.05%の誤差がある場合のそれぞれについて、補償温度と最大検出誤差温度との関係を図7に示す。
このため、高精度な検出を得るためには、B定数の選別工程を設けたり、抵抗値の調整工程が必要となる。例えば、調整用の電極部を設けて該電極部を部分的に切断して抵抗値を調整する等の調整工程が必要である。
【0024】
しかしながら、これらの工程を導入することで、工程が複雑化し、高コスト化を招いてしまう。また、抵抗値の調整では、B定数誤差を広範囲に補正することが難しい。
これらの対策として、本実施形態の第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとは、上記のようなセラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものである。
【0025】
例えば、上述したように同一のウエハから作製した複数のフレーク形のサーミスタ素子について、それぞれ抵抗値を測定し、所定の許容誤差内のものを一対選別して、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bとする。例えば、本実施形態では、±0.05%の許容誤差で抵抗値を選別している。
【0026】
このように第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであるので、対となる第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3BとでB定数の相対誤差が小さくなり、同時に温度を検出する両者の温度差分を高精度に検出することができる。また、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとについて、B定数の選別作業や抵抗値の調整工程が不要になると共に組み合わせの履歴管理なども不要になり、生産性を向上させることができる。
【0027】
また、絶縁性フィルム2の一方の面(裏面)には、図4の(a)に示すように、接着電極4に細線状の接着側パターン配線7aで接続された接着側端子電極7と、ワイヤボンディング用電極8と、ワイヤボンディング用電極8に細線状のワイヤ側パターン配線9aで接続されたワイヤ側端子電極9と、がそれぞれ一対形成されている。
さらに、接着されていない電極層3bと対応するワイヤボンディング用電極8とが、ワイヤボンディングによる金線等の金属細線Yで電気的に接続されている。
なお、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの外形状が、接着される接着電極4よりも平面視で小さく設定されている。すなわち、サーミスタ素体3aの表面及び裏面が、接着される接着電極4よりも小さい面積とされている。
【0028】
上記赤外線吸収膜5は、絶縁性フィルム2よりも高い赤外線吸収率を有する材料で形成され、例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収材料を含むフィルムや赤外線吸収性ガラス膜(二酸化珪素を71%含有するホーケー酸ガラス膜など)で形成されている。すなわち、この赤外線吸収膜5によって測定対象物からの輻射による赤外線を吸収する。そして、赤外線を吸収し発熱した赤外線吸収膜5から絶縁性フィルム2を介した熱伝導によって、直下の第1の感熱素子3Aの温度が変化するようになっている。この赤外線吸収膜5は、第1の感熱素子3A及び接着電極4よりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0029】
上記赤外線反射膜6は、絶縁性フィルム2よりも高い赤外線放射率を有する材料で形成され、例えば、鏡面のアルミニウム蒸着膜やアルミニウム箔等で形成されている。この赤外線反射膜6は、第2の感熱素子3B及び接着電極4よりも大きなサイズでこれらを覆うように形成されている。
【0030】
本実施形態の赤外線センサ1を作製するには、まず、図4の(a)に示すように、絶縁性フィルム2の一方の面(裏面)に接着電極4、接着側パターン配線7a、接着側端子電極7、ワイヤボンディング用電極8及びワイヤ側端子電極9を、それぞれパターン形成する。次に、図4の(b)に示すように、絶縁性フィルム2の他方の面(表面)に、赤外線吸収膜5及び赤外線反射膜6を、それぞれ対応する接着電極4に対向させてパターン形成する。次に、図4の(c)に示すように、対応する接着電極4上に、半田又は導電性接着剤により第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを別々に接着する。さらに、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの接着されていない電極層3bとワイヤボンディング用電極8とをワイヤボンディングによる金属細線Yで接続する。このようにして赤外線センサ1が作製される。
【0031】
このように本実施形態の赤外線センサ1は、第1の感熱素子3Aに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線吸収膜5と、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備えているので、赤外線吸収膜5による部分的な赤外線吸収と赤外線反射膜6による部分的な赤外線反射とにより、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム2上で第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの良好な温度差分を得ることができる。
【0032】
すなわち、フィルムに赤外線吸収材料等を含有させていない低熱伝導性の絶縁性フィルム2でも、図2に示すように、赤外線吸収膜5によって絶縁性フィルム2の第1の感熱素子3Aの直上部分のみに赤外線吸収による熱を伝導させることができる。特に、薄い絶縁性フィルム2を挟んで赤外線吸収膜5の熱が伝導されるため、感度の劣化がなく、高い応答性を有している。また、赤外線吸収膜5の面積を任意に設定可能であるため、測定対象物との距離に合わせた赤外線検出の視野角を面積で設定でき、高い受光効率を得ることができる。
【0033】
また、赤外線反射膜6によって絶縁性フィルム2の第2の感熱素子3Bの直上部分における赤外線を反射してその吸収を阻止することができる。
なお、絶縁性フィルム2上に赤外線吸収膜5と赤外線反射膜6とを形成しているので、赤外線吸収膜5と赤外線反射膜6との間の熱を伝導する媒体が、空気以外にこれら膜が対向した間の絶縁性フィルム2のみとなり、伝導する断面積が小さくなる。したがって、相互の感熱素子への熱が伝わり難くなり、干渉が少なくなって検出感度が向上する。
【0034】
このように、低熱伝導性の絶縁性フィルム2上で互いに熱の影響が抑制された第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとが、それぞれ赤外線吸収膜5の直下と赤外線反射膜6の直下との絶縁性フィルム2の部分的な温度を測定する構造を有している。したがって、赤外線検知用とされる第1の感熱素子3Aと温度補償用とされる第2の感熱素子3Bとの良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができる。
【0035】
また、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの熱結合が低いので、互いに近づけて配置することも可能になり、全体の小型化を図ることができる。さらに、枠体やケースによる遮光構造ではなく、赤外線反射膜6によって赤外線の吸収を防いでいるので、安価に作製することができる。
【0036】
また、赤外線吸収膜5及び赤外線反射膜6が導電性材料で構成されていても、絶縁性フィルム2を挟んで設置された第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bとの絶縁が確保されているので、膜の絶縁性を問わずに効率の良い材料の選択が可能になる。
また、絶縁性フィルム2が、赤外線透過性フィルムで形成されているので、赤外線吸収膜5及び赤外線反射膜6の周囲の絶縁性フィルム2自体による赤外線吸収を極力抑制して、周囲からの熱伝導による第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bへの影響を低減することができる。
【0037】
また、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが、板状のサーミスタ素体3aと、該サーミスタ素体3aの表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極4に接着される一対の電極層3bと、を有するので、赤外線の進行方向(厚み方向)の熱容量が小さいと共に広い接着電極4及び電極層3bに熱を伝えてからサーミスタ素体3aに熱伝導させることで、熱応答性及び検出感度を改善することができる。
【0038】
すなわち、サーミスタ素体3aが板状であると共に広い接着電極4に電極層3bで接着されるいわゆるフレーク形サーミスタのため、チップサーミスタのように厚いチップ状のサーミスタ素体を有して端部に電極を有するサーミスタより、優れた熱伝導性で高い熱応答性及び検出感度を得ることができる。さらに、フレーク形サーミスタの場合、通常同じ平板素体からサーミスタ素体3aを選別できるため、2つの感熱素子3A,3Bの抵抗値及びB定数をほぼ同じに設定することが容易である。
【0039】
また、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの外形状が、接着される接着電極4よりも平面視で小さく設定されているので、小型化により熱容量がより小さくなって、さらに優れた熱応答性が得られる。
さらに、細線状の接着側パターン配線7a及びワイヤ側パターン配線9aと、ワイヤボンディングによる金属細線Yと、を電極の接続に採用しているので、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの熱が配線から接着側端子電極7及びワイヤ側端子電極9に伝導し難く、熱の逃げを抑制してより高い検出感度を得ることができる。したがって、従来のようにリード線とサーミスタとの間の空間伝導による他の箇所との熱結合を防ぐことができる。
【0040】
次に、本発明に係る赤外線センサの第2実施形態について、図4及び図5を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0041】
第2実施形態の赤外線センサ21では、絶縁性フィルム2の一方の面に固定されて該絶縁性フィルム2を支持する筐体27を備え、該筐体27に、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bをそれぞれ個別に収納すると共に絶縁性フィルム2よりも熱伝導率の低い空気で覆う第1の収納部27a及び第2の収納部27bが設けられている点で、第1実施形態と異なっている。
【0042】
また、第2実施形態の第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bの外形状は、第1実施形態と比べて、接着される接着電極4よりも平面視でさらに小さく設定されている。
【0043】
上記筐体27は、例えば樹脂製であり、絶縁性フィルム2の熱を必要以上に放熱しないように絶縁性フィルム2よりも熱伝導性の低い材料であることが好ましい。
また、上記第1の収納部27a及び第2の収納部27bは、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bの位置にそれぞれ対応して形成された断面矩形状の孔部であり、内部に空気を密封した状態で開口部が絶縁性フィルム2で閉塞されている。
【0044】
このように第2実施形態の赤外線センサ21では、第1の収納部27a及び第2の収納部27bによって、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bをそれぞれ個別に収納すると共に絶縁性フィルム2よりも熱伝導率の低い空気でこれらを覆うので、第1の感熱素子23Aと第2の感熱素子23Bとの間の熱伝導をさらに抑制することができる。
また、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bの外形状が、第1実施形態と比べて、接着される接着電極4よりも平面視でさらに小さく設定されているので、より高い熱応答性が得られる。
【0045】
次に、本発明に係る赤外線センサの第3実施形態および第4実施形態について、図8から図13を参照して以下に説明する。
【0046】
第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、外部の回路と接続するための各配線膜4の端部が側面に露出しているのに対し、第3実施形態の赤外線センサ41は、図8に示すように、筐体27の側面に設けられ配線膜4に上端が接続されていると共に筐体27の底部まで延在された複数の側面電極部44aと、筐体27の側面下部において側面電極部44aの下端に接続されて設けられ外部の回路基板上に接続させる複数の実装用外部端子44bと、を備えている表面実装型である点である。
【0047】
例えば、図9に示すように、この赤外線センサ41を、複数の配線パターン45が形成された実装基板43A上に載せ、実装用外部端子44bを配線パターン45の所定位置に半田等で接合することで、表面実装することができる。この実装基板43Aは、各配線パターン45に一端が接続された複数のリード線46と、これらリード線46の他端に接続されたコネクタ47と、を備えている。このように実装基板43A上に赤外線センサ41を表面実装することで、リード型の赤外線センサ装置48Aが得られる。この赤外線センサ装置48Aによれば、リード線46を備えた実装基板43Aに赤外線センサ41が実装されているので、リード線46およびコネクタ47によって取り付けおよび接続が容易になる。
【0048】
また、別の表面実装例としては、図10に示すように、赤外線センサ41を、ブリッジ回路を有する実装基板43Bに表面実装したブリッジ回路型の赤外線センサ装置48Bとしてもよい。この赤外線センサ装置48Bでは、2つの抵抗Rが実装され赤外線センサ41の第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの間でブリッジ回路を構成した実装基板43Bを備えている。この赤外線センサ装置48Bでは、ブリッジ回路を構成しているので、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの抵抗値を高精度に検出することができる。
【0049】
さらに、別の表面実装例として、図11に示すように、赤外線センサ41を、検出回路を内蔵した実装基板43Cに表面実装した検出回路内蔵型の赤外線センサ装置48Cとしてもよい。この赤外線センサ装置48Cでは、6つの抵抗Rと、1つのコンデンサCと、差分増幅回路を構成するOPアンプ49と、が実装されてこれらで検出回路を構成している実装基板43Cを備えたモジュールタイプである。
【0050】
したがって、この赤外線センサ装置48Cでは、赤外線センサ41が差分増幅回路を内蔵する実装基板43Cに実装されているので、差分バランスの調整部分が1枚の実装基板43C内で閉じており、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの温度差分を電圧出力として検出することができる。
これらの赤外線センサ装置48A〜48Cは、例えばバッテリーユニット、複写機、IHクッキングヒータ等における温度センサ等に採用される。
なお、実装基板43B,43Cでは、配線パターンの図示を省略している。
【0051】
次に、第4実施形態と第3実施形態との異なる点は、第3実施形態では、赤外線吸収膜5および赤外線反射膜6がそのまま上面に露出しているが、第4実施形態の赤外線センサ51では、図12に示すように、筐体27の周囲を囲むように設けられたケース57を備えている点である。なお、各実装用外部端子44bは、表面実装のためケース57から外部に突出している。
【0052】
このケース57は、空気対流の影響を防ぐ風防ケースや、外部からの光干渉を防ぐ光学ケースとして機能する。なお、空気対流の影響を防ぐ風防ケースとしてのみ採用する場合は、上方を開口させたケースでも構わない。また、ケース57は、例えば樹脂やガラス材等のうち赤外線を透過し易い材料で形成されている。なお、光学ケースとして採用する場合は、受光部にシリコンなどの赤外線の波長について選択性のある材料を使用することが好ましい。
【0053】
また、他の例として、図13に示すように、ブリッジ型の赤外線センサ装置48Bにおいて、表面実装された赤外線センサ51と共に実装基板43全体を樹脂製のモールドケース67で覆っても構わない。この場合、ブリッジ回路全体をモールドケース67で保護するため、信頼性を向上させることができる。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1,21,41,51…赤外線センサ、2…絶縁性フィルム、3A,23A…第1の感熱素子、3B,23B…第2の感熱素子、3a…サーミスタ素体、3b…電極層、4…接着電極、5…赤外線吸収膜、6…赤外線反射膜、7…接着側端子電極、7a…接着側パターン配線、8…ワイヤボンディング用電極、9…ワイヤ側端子電極、9a…ワイヤ側パターン配線、27…筐体、27a…第1の収納部、27b…第2の収納部、48A〜48C…赤外線センサ装置、Y…金属細線
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物からの赤外線を検知して該測定対象物の温度等を測定する赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物から輻射により放射される赤外線を非接触で検知して測定対象物の温度を測定する温度センサとして、赤外線センサが使用されている。
例えば、特許文献1には、保持体に設置した樹脂フィルムと、該樹脂フィルムに設けられ保持体の導光部を介して赤外線を検知する赤外線検知用感熱素子と、樹脂フィルムに遮光状態に設けられ保持体の温度を検知する温度補償用感熱素子と、を備えた赤外線センサが提案されている。この赤外線センサでは、導光部の内側面に赤外線吸収膜を形成すると共に、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めている。また、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子には、薄膜サーミスタが用いられている。
【0003】
また、特許文献2には、赤外線検知用感熱素子と、温度補償用感熱素子と、これらを密着固定する樹脂フィルムと、赤外線の入射窓側に赤外線検知用感熱素子を配置すると共に赤外線を遮蔽する遮蔽部側に温度補償用感熱素子を配置した枠体を有するケースと、を備えた赤外線検出器が提案されている。この赤外線検出器では、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めていると共に、赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との熱勾配を無くすために熱伝導の良い材料で枠体を形成している。また、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子には、リード線がサーミスタに接続された松葉型のサーミスタが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−156284号公報(段落番号0026、図2)
【特許文献2】特開平7−260579号公報(特許請求の範囲、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1及び2の赤外線センサでは、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させると共に一方の感熱素子側を温度補償用に遮光する構造が採用されているが、赤外線吸収材料を含有した樹脂フィルムの熱伝導が高く、赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で温度差分が生じ難いという不都合があった。また、これら感熱素子間で温度差分を大きくするためには、感熱素子間の距離を大きくする必要があり、全体形状が大きくなってしまい、小型化が困難になる問題がある。さらに、温度補償用の感熱素子を遮光する構造をケース自体に設ける必要があるため、高価になってしまう。
また、特許文献2では、熱伝導の良い枠体を採用しているため、赤外線吸収膜からの熱も放熱されてしまい感度が劣化する不都合がある。また、リード線が接続された松葉型のため、サーミスタとリード線との間で熱の空間伝導が生じてしまう。さらに、松葉型やチップ型のサーミスタの場合、スポット計測となってしまい、樹脂フィルムに温度の面内分布が生じた場合に測定誤差が生じてしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で高い温度差分が得られると共に小型化が可能で、安価な構造を有している赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の赤外線センサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が別々に接着された一対の接着電極と、前記第1の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備え、前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が前記接着電極に接着される一対の電極層と、を有することを特徴とする。
【0008】
この赤外線センサでは、第1の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備えているので、赤外線吸収膜による部分的な赤外線吸収と赤外線反射膜による部分的な赤外線反射とにより、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム上で第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができる。
すなわち、フィルムに赤外線吸収材料等を含有させていない低熱伝導性の絶縁性フィルムでも、赤外線吸収膜によって絶縁性フィルムの第1の感熱素子の直上部分のみに赤外線吸収による熱を伝導させることができる。特に、薄い絶縁性フィルムを挟んで赤外線吸収膜の熱が伝導されるため、感度の劣化がなく、高い応答性を有している。また、赤外線吸収膜の面積を任意に設定可能であるため、測定対象物との距離に合わせた赤外線検出の視野角を面積で設定でき、高い受光効率を得ることができる。
また、赤外線反射膜によって絶縁性フィルムの第2の感熱素子の直上部分における赤外線を反射してその吸収を阻止することができる。
なお、絶縁性フィルム上に赤外線吸収膜と赤外線反射膜とを形成しているので、赤外線吸収膜と赤外線反射膜との間の熱を伝導する媒体が、空気以外にこれら膜が対向した間の絶縁性フィルムのみとなり、伝導する断面積が小さくなる。したがって、相互の感熱素子への熱が伝わり難くなり、干渉が少なくなって検出感度が向上する。
このように、低熱伝導性の絶縁性フィルム上で互いに熱の影響が抑制された第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、それぞれ赤外線吸収膜の直下と赤外線反射膜の直下との絶縁性フィルムの部分的な温度を測定する構造を有している。したがって、赤外線検知用とされる第1の感熱素子と温度補償用とされる第2の感熱素子との良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができる。
【0009】
また、第1の感熱素子と第2の感熱素子との熱結合が低いので、互いに近づけて配置することも可能になり、全体の小型化を図ることができる。さらに、枠体やケースによる遮光構造ではなく、赤外線反射膜によって赤外線の吸収を防いでいるので、安価に作製することができる。
また、赤外線吸収膜及び赤外線反射膜が導電性材料で構成されていても、絶縁性フィルムを挟んで設置された第1の感熱素子及び第2の感熱素子との絶縁が確保されているので、膜の絶縁性を問わずに効率の良い材料の選択が可能になる。
【0010】
また、第1の感熱素子及び第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極に接着される一対の電極層と、を有するので、赤外線の進行方向(厚み方向)の熱容量が小さいと共に広い接着電極及び電極層に熱を伝えてからサーミスタ素体に熱伝導させることで、熱応答性及び検出感度を改善することができる。すなわち、サーミスタ素体が板状であると共に広い接着電極に電極層で接着されるいわゆるフレーク形サーミスタのため、チップサーミスタのように厚いチップ状のサーミスタ素体を有して端部に電極を有するサーミスタより、優れた熱伝導性で高い熱応答性及び検出感度を得ることができる。さらに、フレーク形サーミスタの場合、通常同じ平板素体からサーミスタ素体を選別できるため、2つの感熱素子の抵抗値及びB定数をほぼ同じに設定することが容易である。
また、松葉型やチップ型のサーミスタに比べて検出面積を広くできると共に、赤外線吸収膜及び赤外線反射膜に対応した面積とすることが容易で、面内分布による測定誤差が生じ難い。
【0011】
また、本発明の赤外線センサは、前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子の外形状が、接着される前記接着電極よりも平面視で小さく設定されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、第1の感熱素子及び第2の感熱素子の外形状が、接着される接着電極よりも平面視で小さく設定されているので、小型化により熱容量がより小さくなって、さらに優れた熱応答性が得られる。
【0012】
また、本発明の赤外線センサは、前記絶縁性フィルムの一方の面に、前記接着電極に細線状の接着側パターン配線で接続された接着側端子電極と、ワイヤボンディング用電極と、前記ワイヤボンディング用電極に細線状のワイヤ側パターン配線で接続されたワイヤ側端子電極と、がそれぞれ一対形成され、接着されていない前記電極層と対応する前記ワイヤボンディング用電極とが、ワイヤボンディングによる金属細線で電気的に接続されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、細線状の接着側パターン配線及びワイヤ側パターン配線と、ワイヤボンディングによる金属細線と、を電極の接続に採用しているので、第1の感熱素子及び第2の感熱素子の熱が配線から接着側端子電極及びワイヤ側端子電極に伝導し難く、熱の逃げを抑制してより高い検出感度を得ることができる。したがって、従来のようにリード線とサーミスタとの間の空間伝導による他の箇所との熱結合を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明の赤外線センサは、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであるので、対となる第1の感熱素子と第2の感熱素子とでB定数の相対誤差が小さくなり、同時に温度を検出する両者の温度差分を高精度に検出することができる。また、第1の感熱素子と第2の感熱素子とについて、B定数の選別作業や抵抗値の調整工程が不要になると共に組み合わせの履歴管理なども不要になり、生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る赤外線センサによれば、第1の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備えているので、第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができ、高感度化を図ることができると共に、小型かつ安価に作製可能である。さらに、第1の感熱素子及び第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極に接着される一対の電極層と、を有するので、赤外線の進行方向(厚み方向)の熱容量が小さいと共に広い接着電極及び電極層に熱を伝えてからサーミスタ素体に熱伝導させることで、熱応答性及び検出感度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る赤外線センサの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態において、赤外線センサを示す正面図である。
【図3】第1実施形態において、第1の感熱素子及び第2の感熱素子を示す断面図である。
【図4】第1実施形態において、赤外線センサの製造方法を工程順に示す底面図である。
【図5】本発明に係る赤外線センサの第2実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5のA−A線断面図である。
【図7】B定数と抵抗値とにおいて補償温度と最大検出誤差温度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る赤外線センサの第3実施形態を示す斜視図である。
【図9】第3実施形態の赤外線センサを表面実装したリード型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【図10】第3実施形態の赤外線センサを表面実装したブリッジ回路型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【図11】第3実施形態の赤外線センサを表面実装した検出回路内蔵型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る赤外線センサの第4実施形態を示す斜視図である。
【図13】第4実施形態の他の例として、赤外線センサを表面実装したブリッジ回路型の赤外線センサ装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る赤外線センサの第1実施形態を、図1から図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の赤外線センサ1は、図1及び図2に示すように、絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面(下面)に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に銅箔等でパターン形成され第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが別々に接着された一対の接着電極4と、第1の感熱素子3Aに対向して絶縁性フィルム2の他方の面(上面)に設けられた赤外線吸収膜5と、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備えている。
【0018】
すなわち、上記赤外線吸収膜5は、第1の感熱素子3Aの直上に配されていると共に、上記赤外線反射膜6は、第2の感熱素子3Bの直上に配されている。
上記絶縁性フィルム2は、赤外線透過性フィルムで形成されている。なお、本実施形態では、絶縁性フィルム2がポリイミド樹脂シートで形成されている。
【0019】
上記第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bは、図3に示すように、板状のサーミスタ素体3aと、該サーミスタ素体3aの表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極4に接着される一対の電極層3bと、を有したいわゆるフレーク形サーミスタである。
このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bとして、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料でサーミスタ素体3aが形成されている。
【0020】
上記フレーク形サーミスタの第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを作製するには、例えば上記サーミスタ材料のセラミックス焼結体からなる四角平板状の平板素体のウエハにおける上下面に、それぞれガラスペーストをスクリーン印刷等で塗布して焼き付けることによりガラス層3cを形成する。次に、この平板素体を短冊状にダイシングして複数の角柱素体とし、これらを互いにガラス層3cを並べた状態でガラス層3cの形成されていない両側面にもガラス層3cを形成して角柱状体とする。
【0021】
次に、全側面にガラス層3cが形成された角柱状体を、中心軸の直交方向に切断して複数の板状体であるサーミスタ素体3aとする。
さらに、上面にサーミスタ素体3aに合わせて形成された複数の凹部を有する治具を用意し、凹部内にサーミスタ素体3aを配する。この状態で凹部内にAuやAgペースト等の導電性ペーストをスクリーン印刷等で塗布して焼き付けし、サーミスタ素体3aの表面に電極層3bを形成する。また、同様に、サーミスタ素体3aの裏面にも電極層3bを形成する。このようにしてフレーク形のサーミスタ素子である第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが作製される。
【0022】
なお、通常、複数の感熱素子で同時に物体の熱を比較する場合、互いに同一の特性を持つことが検出精度を向上させるために重要であるが、異なる生産工程で作製されたサーミスタ素子の場合、互いにB定数や抵抗値等の特性がばらついてしまう不都合がある。特に、絶対温度の1/100程度の温度差を検出する場合、B定数の相対誤差の影響が大きくなる。
【0023】
例えば、抵抗値(R値)が−0.10%、B定数が−0.10%の誤差がある場合、抵抗値が−0.05%、B定数が−0.10%の誤差がある場合、また抵抗値が−0.10%、B定数が−0.05%の誤差がある場合のそれぞれについて、補償温度と最大検出誤差温度との関係を図7に示す。
このため、高精度な検出を得るためには、B定数の選別工程を設けたり、抵抗値の調整工程が必要となる。例えば、調整用の電極部を設けて該電極部を部分的に切断して抵抗値を調整する等の調整工程が必要である。
【0024】
しかしながら、これらの工程を導入することで、工程が複雑化し、高コスト化を招いてしまう。また、抵抗値の調整では、B定数誤差を広範囲に補正することが難しい。
これらの対策として、本実施形態の第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとは、上記のようなセラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものである。
【0025】
例えば、上述したように同一のウエハから作製した複数のフレーク形のサーミスタ素子について、それぞれ抵抗値を測定し、所定の許容誤差内のものを一対選別して、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bとする。例えば、本実施形態では、±0.05%の許容誤差で抵抗値を選別している。
【0026】
このように第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであるので、対となる第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3BとでB定数の相対誤差が小さくなり、同時に温度を検出する両者の温度差分を高精度に検出することができる。また、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとについて、B定数の選別作業や抵抗値の調整工程が不要になると共に組み合わせの履歴管理なども不要になり、生産性を向上させることができる。
【0027】
また、絶縁性フィルム2の一方の面(裏面)には、図4の(a)に示すように、接着電極4に細線状の接着側パターン配線7aで接続された接着側端子電極7と、ワイヤボンディング用電極8と、ワイヤボンディング用電極8に細線状のワイヤ側パターン配線9aで接続されたワイヤ側端子電極9と、がそれぞれ一対形成されている。
さらに、接着されていない電極層3bと対応するワイヤボンディング用電極8とが、ワイヤボンディングによる金線等の金属細線Yで電気的に接続されている。
なお、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの外形状が、接着される接着電極4よりも平面視で小さく設定されている。すなわち、サーミスタ素体3aの表面及び裏面が、接着される接着電極4よりも小さい面積とされている。
【0028】
上記赤外線吸収膜5は、絶縁性フィルム2よりも高い赤外線吸収率を有する材料で形成され、例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収材料を含むフィルムや赤外線吸収性ガラス膜(二酸化珪素を71%含有するホーケー酸ガラス膜など)で形成されている。すなわち、この赤外線吸収膜5によって測定対象物からの輻射による赤外線を吸収する。そして、赤外線を吸収し発熱した赤外線吸収膜5から絶縁性フィルム2を介した熱伝導によって、直下の第1の感熱素子3Aの温度が変化するようになっている。この赤外線吸収膜5は、第1の感熱素子3A及び接着電極4よりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0029】
上記赤外線反射膜6は、絶縁性フィルム2よりも高い赤外線放射率を有する材料で形成され、例えば、鏡面のアルミニウム蒸着膜やアルミニウム箔等で形成されている。この赤外線反射膜6は、第2の感熱素子3B及び接着電極4よりも大きなサイズでこれらを覆うように形成されている。
【0030】
本実施形態の赤外線センサ1を作製するには、まず、図4の(a)に示すように、絶縁性フィルム2の一方の面(裏面)に接着電極4、接着側パターン配線7a、接着側端子電極7、ワイヤボンディング用電極8及びワイヤ側端子電極9を、それぞれパターン形成する。次に、図4の(b)に示すように、絶縁性フィルム2の他方の面(表面)に、赤外線吸収膜5及び赤外線反射膜6を、それぞれ対応する接着電極4に対向させてパターン形成する。次に、図4の(c)に示すように、対応する接着電極4上に、半田又は導電性接着剤により第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを別々に接着する。さらに、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの接着されていない電極層3bとワイヤボンディング用電極8とをワイヤボンディングによる金属細線Yで接続する。このようにして赤外線センサ1が作製される。
【0031】
このように本実施形態の赤外線センサ1は、第1の感熱素子3Aに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線吸収膜5と、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備えているので、赤外線吸収膜5による部分的な赤外線吸収と赤外線反射膜6による部分的な赤外線反射とにより、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム2上で第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの良好な温度差分を得ることができる。
【0032】
すなわち、フィルムに赤外線吸収材料等を含有させていない低熱伝導性の絶縁性フィルム2でも、図2に示すように、赤外線吸収膜5によって絶縁性フィルム2の第1の感熱素子3Aの直上部分のみに赤外線吸収による熱を伝導させることができる。特に、薄い絶縁性フィルム2を挟んで赤外線吸収膜5の熱が伝導されるため、感度の劣化がなく、高い応答性を有している。また、赤外線吸収膜5の面積を任意に設定可能であるため、測定対象物との距離に合わせた赤外線検出の視野角を面積で設定でき、高い受光効率を得ることができる。
【0033】
また、赤外線反射膜6によって絶縁性フィルム2の第2の感熱素子3Bの直上部分における赤外線を反射してその吸収を阻止することができる。
なお、絶縁性フィルム2上に赤外線吸収膜5と赤外線反射膜6とを形成しているので、赤外線吸収膜5と赤外線反射膜6との間の熱を伝導する媒体が、空気以外にこれら膜が対向した間の絶縁性フィルム2のみとなり、伝導する断面積が小さくなる。したがって、相互の感熱素子への熱が伝わり難くなり、干渉が少なくなって検出感度が向上する。
【0034】
このように、低熱伝導性の絶縁性フィルム2上で互いに熱の影響が抑制された第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとが、それぞれ赤外線吸収膜5の直下と赤外線反射膜6の直下との絶縁性フィルム2の部分的な温度を測定する構造を有している。したがって、赤外線検知用とされる第1の感熱素子3Aと温度補償用とされる第2の感熱素子3Bとの良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができる。
【0035】
また、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの熱結合が低いので、互いに近づけて配置することも可能になり、全体の小型化を図ることができる。さらに、枠体やケースによる遮光構造ではなく、赤外線反射膜6によって赤外線の吸収を防いでいるので、安価に作製することができる。
【0036】
また、赤外線吸収膜5及び赤外線反射膜6が導電性材料で構成されていても、絶縁性フィルム2を挟んで設置された第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bとの絶縁が確保されているので、膜の絶縁性を問わずに効率の良い材料の選択が可能になる。
また、絶縁性フィルム2が、赤外線透過性フィルムで形成されているので、赤外線吸収膜5及び赤外線反射膜6の周囲の絶縁性フィルム2自体による赤外線吸収を極力抑制して、周囲からの熱伝導による第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bへの影響を低減することができる。
【0037】
また、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bが、板状のサーミスタ素体3aと、該サーミスタ素体3aの表裏面にそれぞれ形成され一方が接着電極4に接着される一対の電極層3bと、を有するので、赤外線の進行方向(厚み方向)の熱容量が小さいと共に広い接着電極4及び電極層3bに熱を伝えてからサーミスタ素体3aに熱伝導させることで、熱応答性及び検出感度を改善することができる。
【0038】
すなわち、サーミスタ素体3aが板状であると共に広い接着電極4に電極層3bで接着されるいわゆるフレーク形サーミスタのため、チップサーミスタのように厚いチップ状のサーミスタ素体を有して端部に電極を有するサーミスタより、優れた熱伝導性で高い熱応答性及び検出感度を得ることができる。さらに、フレーク形サーミスタの場合、通常同じ平板素体からサーミスタ素体3aを選別できるため、2つの感熱素子3A,3Bの抵抗値及びB定数をほぼ同じに設定することが容易である。
【0039】
また、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの外形状が、接着される接着電極4よりも平面視で小さく設定されているので、小型化により熱容量がより小さくなって、さらに優れた熱応答性が得られる。
さらに、細線状の接着側パターン配線7a及びワイヤ側パターン配線9aと、ワイヤボンディングによる金属細線Yと、を電極の接続に採用しているので、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの熱が配線から接着側端子電極7及びワイヤ側端子電極9に伝導し難く、熱の逃げを抑制してより高い検出感度を得ることができる。したがって、従来のようにリード線とサーミスタとの間の空間伝導による他の箇所との熱結合を防ぐことができる。
【0040】
次に、本発明に係る赤外線センサの第2実施形態について、図4及び図5を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0041】
第2実施形態の赤外線センサ21では、絶縁性フィルム2の一方の面に固定されて該絶縁性フィルム2を支持する筐体27を備え、該筐体27に、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bをそれぞれ個別に収納すると共に絶縁性フィルム2よりも熱伝導率の低い空気で覆う第1の収納部27a及び第2の収納部27bが設けられている点で、第1実施形態と異なっている。
【0042】
また、第2実施形態の第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bの外形状は、第1実施形態と比べて、接着される接着電極4よりも平面視でさらに小さく設定されている。
【0043】
上記筐体27は、例えば樹脂製であり、絶縁性フィルム2の熱を必要以上に放熱しないように絶縁性フィルム2よりも熱伝導性の低い材料であることが好ましい。
また、上記第1の収納部27a及び第2の収納部27bは、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bの位置にそれぞれ対応して形成された断面矩形状の孔部であり、内部に空気を密封した状態で開口部が絶縁性フィルム2で閉塞されている。
【0044】
このように第2実施形態の赤外線センサ21では、第1の収納部27a及び第2の収納部27bによって、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bをそれぞれ個別に収納すると共に絶縁性フィルム2よりも熱伝導率の低い空気でこれらを覆うので、第1の感熱素子23Aと第2の感熱素子23Bとの間の熱伝導をさらに抑制することができる。
また、第1の感熱素子23A及び第2の感熱素子23Bの外形状が、第1実施形態と比べて、接着される接着電極4よりも平面視でさらに小さく設定されているので、より高い熱応答性が得られる。
【0045】
次に、本発明に係る赤外線センサの第3実施形態および第4実施形態について、図8から図13を参照して以下に説明する。
【0046】
第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、外部の回路と接続するための各配線膜4の端部が側面に露出しているのに対し、第3実施形態の赤外線センサ41は、図8に示すように、筐体27の側面に設けられ配線膜4に上端が接続されていると共に筐体27の底部まで延在された複数の側面電極部44aと、筐体27の側面下部において側面電極部44aの下端に接続されて設けられ外部の回路基板上に接続させる複数の実装用外部端子44bと、を備えている表面実装型である点である。
【0047】
例えば、図9に示すように、この赤外線センサ41を、複数の配線パターン45が形成された実装基板43A上に載せ、実装用外部端子44bを配線パターン45の所定位置に半田等で接合することで、表面実装することができる。この実装基板43Aは、各配線パターン45に一端が接続された複数のリード線46と、これらリード線46の他端に接続されたコネクタ47と、を備えている。このように実装基板43A上に赤外線センサ41を表面実装することで、リード型の赤外線センサ装置48Aが得られる。この赤外線センサ装置48Aによれば、リード線46を備えた実装基板43Aに赤外線センサ41が実装されているので、リード線46およびコネクタ47によって取り付けおよび接続が容易になる。
【0048】
また、別の表面実装例としては、図10に示すように、赤外線センサ41を、ブリッジ回路を有する実装基板43Bに表面実装したブリッジ回路型の赤外線センサ装置48Bとしてもよい。この赤外線センサ装置48Bでは、2つの抵抗Rが実装され赤外線センサ41の第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの間でブリッジ回路を構成した実装基板43Bを備えている。この赤外線センサ装置48Bでは、ブリッジ回路を構成しているので、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの抵抗値を高精度に検出することができる。
【0049】
さらに、別の表面実装例として、図11に示すように、赤外線センサ41を、検出回路を内蔵した実装基板43Cに表面実装した検出回路内蔵型の赤外線センサ装置48Cとしてもよい。この赤外線センサ装置48Cでは、6つの抵抗Rと、1つのコンデンサCと、差分増幅回路を構成するOPアンプ49と、が実装されてこれらで検出回路を構成している実装基板43Cを備えたモジュールタイプである。
【0050】
したがって、この赤外線センサ装置48Cでは、赤外線センサ41が差分増幅回路を内蔵する実装基板43Cに実装されているので、差分バランスの調整部分が1枚の実装基板43C内で閉じており、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの温度差分を電圧出力として検出することができる。
これらの赤外線センサ装置48A〜48Cは、例えばバッテリーユニット、複写機、IHクッキングヒータ等における温度センサ等に採用される。
なお、実装基板43B,43Cでは、配線パターンの図示を省略している。
【0051】
次に、第4実施形態と第3実施形態との異なる点は、第3実施形態では、赤外線吸収膜5および赤外線反射膜6がそのまま上面に露出しているが、第4実施形態の赤外線センサ51では、図12に示すように、筐体27の周囲を囲むように設けられたケース57を備えている点である。なお、各実装用外部端子44bは、表面実装のためケース57から外部に突出している。
【0052】
このケース57は、空気対流の影響を防ぐ風防ケースや、外部からの光干渉を防ぐ光学ケースとして機能する。なお、空気対流の影響を防ぐ風防ケースとしてのみ採用する場合は、上方を開口させたケースでも構わない。また、ケース57は、例えば樹脂やガラス材等のうち赤外線を透過し易い材料で形成されている。なお、光学ケースとして採用する場合は、受光部にシリコンなどの赤外線の波長について選択性のある材料を使用することが好ましい。
【0053】
また、他の例として、図13に示すように、ブリッジ型の赤外線センサ装置48Bにおいて、表面実装された赤外線センサ51と共に実装基板43全体を樹脂製のモールドケース67で覆っても構わない。この場合、ブリッジ回路全体をモールドケース67で保護するため、信頼性を向上させることができる。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1,21,41,51…赤外線センサ、2…絶縁性フィルム、3A,23A…第1の感熱素子、3B,23B…第2の感熱素子、3a…サーミスタ素体、3b…電極層、4…接着電極、5…赤外線吸収膜、6…赤外線反射膜、7…接着側端子電極、7a…接着側パターン配線、8…ワイヤボンディング用電極、9…ワイヤ側端子電極、9a…ワイヤ側パターン配線、27…筐体、27a…第1の収納部、27b…第2の収納部、48A〜48C…赤外線センサ装置、Y…金属細線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が別々に接着された一対の接着電極と、
前記第1の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、
前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備え、
前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が前記接着電極に接着される一対の電極層と、を有することを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサにおいて、
前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子の外形状が、接着される前記接着電極よりも平面視で小さく設定されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の赤外線センサにおいて、
前記絶縁性フィルムの一方の面に、前記接着電極に細線状の接着側パターン配線で接続された接着側端子電極と、ワイヤボンディング用電極と、前記ワイヤボンディング用電極に細線状のワイヤ側パターン配線で接続されたワイヤ側端子電極と、がそれぞれ一対形成され、
接着されていない前記電極層と対応する前記ワイヤボンディング用電極とが、ワイヤボンディングによる金属細線で電気的に接続されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサにおいて、
前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項1】
絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が別々に接着された一対の接着電極と、
前記第1の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、
前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備え、
前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子が、板状のサーミスタ素体と、該サーミスタ素体の表裏面にそれぞれ形成され一方が前記接着電極に接着される一対の電極層と、を有することを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサにおいて、
前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子の外形状が、接着される前記接着電極よりも平面視で小さく設定されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の赤外線センサにおいて、
前記絶縁性フィルムの一方の面に、前記接着電極に細線状の接着側パターン配線で接続された接着側端子電極と、ワイヤボンディング用電極と、前記ワイヤボンディング用電極に細線状のワイヤ側パターン配線で接続されたワイヤ側端子電極と、がそれぞれ一対形成され、
接着されていない前記電極層と対応する前記ワイヤボンディング用電極とが、ワイヤボンディングによる金属細線で電気的に接続されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサにおいて、
前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とが、セラミックス焼結体で形成された同一のウエハから得たサーミスタ素子の中から所定の許容誤差内の抵抗値で選別したものであることを特徴とする赤外線センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【公開番号】特開2011−149920(P2011−149920A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170876(P2010−170876)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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