説明

赤外線センサ

【課題】光を最大に効率良く利用し、高いS/N比を有した超小型で、中赤外線領域の赤外線を電気信号に変換するのに適した光センサを提供すること。
【解決手段】光センサは、半導体基板の表面に設けられた少なくとも第1のn型半導体層2と、第1の半導体層2上に設けられた光吸収層となる第3のi型半導体層4と、この第3の半導体層4上に設けられた第2のp型半導体層3と、第2のp型半導体層3と第3のi型半導体層4との間の、複数の第4の半導体層5と、第5の半導体層6とから構成されている。第4の半導体層5のバンドギャップは第2、第3の半導体層のバンドギャップより大きく、複数の第4の半導体層5と第5の半導体層6は交互に積層され、超格子構造を形成しており、赤外線によって第3の半導体層で生じた拡散電流およびリーク電流を抑制することによって、入射光量に対する電気出力が増加し、S/N比の向上を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に積層されたPINフォトダイオードに入射された光を電気信号に変換する光センサに関し、より詳細には、中赤外線領域の赤外線を電気信号に変換するのに適した赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心が高まり、エネルギー化・環境センサの観点から、人体検知やガス検知可能な赤外線センサが注目されている。例えば、人体が発する赤外線を検知する人感センサは、照明やエアコンなどに搭載されることによって人がいない間はスイッチを切るなどし、省エネルギー化に貢献している。さらに、中赤外線領域には、二酸化炭素、一酸化炭素、窒化酸素、ホルムアルデヒドなどの強い吸収があるため、赤外線領域に感度波長をもつ赤外線センサは、ガスセンサなど環境センサとしても大きく期待されている。
【0003】
赤外線センサは動作原理から、熱型センサと量子型センサに分類される。熱型センサは一般に広く用いられているが、周波数応答性が低く、静態検知が出来ないなどの課題がある。一方、量子型センサは、周波数応答性が高く静態検知も可能であるといった特長があり、人感センサやガスセンサ用途として有望である。
【0004】
量子型センサとしては、半導体材料を用いたPN又はPIN接合構造の赤外線センサが挙げられる。これらの赤外線センサでは、被検出光の束密度に応じて電子とホールが生成されて電気信号となるが、信号強度は微弱な場合が多い。そのため、高感度化によって信号強度を高めることはもとより、発生する微弱な信号を確実に増幅して使用するために、S/N比を高めることが重要である。
【0005】
赤外線センサのS/N比を高めるためには、入射した光利用効率の向上や発生した電子を効率よく取り出すためにリーク電流を抑制することが有効である。
【0006】
このような課題に対し、特許文献1では、光の利用効率を向上させるために、光入射窓となる基板の裏面を粗面とし、光の前方散乱により光利用効率の向上を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−066584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光の前方散乱を利用して、光の利用効率は向上したが、ナローバンドギャップ材料を用いる赤外線センサでは、依然としてリーク電流が大きく、S/N比が低いという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、フォトダイオードを構成する薄膜構造を改良することで、リーク電流を抑制し、高S/N比を実現し、高S/N比の特徴を活かした超小型の赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、半導体基板と、該半導体基板の表面に第1のn型半導体層、第2のp型半導体層及びこれらの間に光吸収層となる第3のi型半導体層を有するPINフォトダイオードを含む赤外線センサであって、第2のp型半導体層と、第3の半導体層との間に、第2のp型半導体層および第3のi型半導体層のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第4の半導体層と、第4の半導体層と交互に積層された第5の半導体層とを備え、第4の半導体層を複数有し、第4の半導体層および第5の半導体層が超格子構造を形成していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第5の半導体層とp型の半導体層の材料が同一であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記半導体基板の半導体層を有していない裏面から光を入射し、その光量に応じた信号を電圧又は電流で出力する光センサであって、前記裏面が粗面であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記半導体基板の半導体層を有していない裏面から光を入射し、その光量に応じた信号を電圧又は電流で出力する光センサであって、裏面に保護膜を有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1又は4に記載の発明において、前記保護膜が、酸化チタン、酸化シリコン、窒化シリコンのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、第3のi型半導体層を含むPINフォトダイオードの第2のp型半導体層と第3のi型半導体層の間に、超格子構造を形成する、第2のp型半導体層および第3のi型半導体層よりもバンドギャップの大きい第4の半導体層と、第5の半導体層を設けることにより、リーク電流を抑制し、高S/N比の赤外線センサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る赤外線センサの実施形態1を説明するための構成断面図である。
【図2】本発明の実施形態1における赤外線センサのエネルギーバンドと各半導体層との関係を示す図である。
【図3】本発明に係る赤外線センサの実施形態2を説明するための構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態は、光を吸収して電気信号に変換する赤外線センサであり、多層の半導体層からなるPIN接合からなるフォトダイオードを利用する。
【0019】
図1は、実施形態1に係る赤外線センサを説明するための構成断面図である。
【0020】
本実施形態に係る赤外線センサは、半導体基板1と半導体基板1上に積層されたn型半導体層2(第1の半導体層)、i型半導体層4(第3の半導体層)、p型半導体層3(第2の半導体層)からなるPIN構造を基本とする。i型半導体層4(第3の半導体層)とp型半導体層3(第2の半導体層)との間に、半導体層5(第4の半導体層)及びp型半導体層6(第5の半導体層)とが交互に複数積層された超格子構造を有する。半導体層5(第4の半導体層)はi型半導体層4(第3の半導体層)、p型半導体層3(第2の半導体層)に比べて大きなバンドギャップを有する材料から構成される。またp型半導体層3(第2の半導体層)とp型半導体層6(第5の半導体層)とは同一の材料から構成される。
【0021】
図1には半導体基板上にn→i→pの順に積層した層構造を示したが、p→i→nの順に積層した構造でも構わない。
【0022】
また、半導体基板1とn型半導体層2の間に格子不整合を緩和させるバッファ層を用いてもよい。
【0023】
本発明の一実施形態において、「超格子構造」とは、2つの異なる半導体薄膜が格子緩和されない膜厚で交互に積層された構造であり、複数の種類の結晶格子の重ね合わせにより、その周期構造が基本単位格子より長くなった結晶格子を有する構造である。
【0024】
以下に、i型半導体層4(第3の半導体層)とp型半導体層3(第2の半導体層)との間に挿入された半導体層5(第4の半導体層)及びp型半導体層6(第5の半導体層)からなる超格子構造の効果を説明する。
【0025】
赤外線センサに入射した光は、光吸収層であるi型半導体層4(第3の半導体層)で吸収され、電子とホールを生成し、ビルトインポテンシャルによって電荷分離され、赤外線センサから電気信号として出力される。電子はホールに比べて有効質量が小さいため、発生した電子がp型半導体層3(第2の半導体層)に拡散すると拡散した電子量に応じて光電流量が減少し、出力される電気信号が減少し、その結果S/N比は低くなる。
【0026】
また、赤外線センサでは、光吸収層であるi型半導体層4(第3の半導体層)としてナローバンドギャップ材料を用いるため、熱励起された電子がp型半導体層3(第2の半導体層)に拡散するとリーク電流となり赤外線センサのS/N比は低くなる。
【0027】
このような場合、p型半導体層3(第2の半導体層)よりもバンドギャップの大きい半導体層5(第4の半導体層)を挿入し、光吸収層であるi型半導体層4(第3の半導体層)からp型半導体層3(第2の半導体層)への「光励起された電子の拡散」及び「光未照射時の熱励起電子の拡散」を防ぐことは有効である。
【0028】
しかしながら、この半導体層5(第4の半導体層)によるエネルギー障壁が存在した場合でも、トンネル効果などにより、電子はある確率で半導体層5を透過し、i型半導体層4(第3の半導体層)からp型半導体層3(第2の半導体層)へと電子が拡散する。この際、電子の存在確率は、シュレディンガー方程式から求めることができる。
【0029】
例えば、井戸型ポテンシャルを考えた場合、シュレディンガー方程式は式(1)で表さ
れる。
【0030】
【数1】

【0031】

【0032】
式(1)を解くことで、E<Vの場合、半導体層6に存在する電子が半導体層5を透過して、p型半導体層3(第2の半導体層)に存在する確率Tは式(2)、(3)および(4)で表される。
【0033】
【数2】

【0034】
【数3】

【0035】
【数4】

【0036】
式(2)、(3)および(4)からわかるように、障壁の高さVが大きく、障壁の長さaが大きいほど、リーク電流を低減できる。
【0037】
したがって、電子の拡散を低減させるためには、i型半導体層4(第3の半導体層)と半導体層5(第4の半導体層)の電子エネルギー差を大きくすることが有効である。その場合、i型半導体層4(第3の半導体層)と半導体層5(第4の半導体層)の格子不整合は大きくなり、界面での転位欠陥の発生が増加する。これを防ぐためには、半導体層5(第4の半導体層)膜厚を小さくする必要がある。その結果、障壁の高さVを大きくした場合は、障壁の長さaが小さくなり、電子の拡散を防ぐには十分ではない。
【0038】
これに対し、本発明のように、エネルギー障壁となる超格子構造を挿入することは有効である。図2に示すように十分なエネルギー障壁Vと欠陥転位が発生しない膜厚aの半導体層5(第4の半導体層)を複数回設けることができる。半導体層5(第4の半導体層)を設けた回数をn回とすると、p型半導体層に拡散する電子の存在確率はTのn乗に比例して低減する。この結果、リーク電流を大きく低減することができるため、電子信号の出力が増加し、ダイオード抵抗が増加することによって、S/N比が向上する。
【0039】
本発明において、超格子構造を形成する半導体層5(第4の半導体層)およびp型半導体層6(第5の半導体層)の膜厚は臨界膜厚よりも小さいことが好ましい。臨界膜厚を越えると、格子緩和による欠陥転位が発生し、リーク電流の原因となる。
【0040】
臨界膜厚はMatthewsand Blakeslee モデルなど一般に使用されている計算で見積もることが出来る。例えば、半導体層5(第4の半導体層)をインジウムアルミアンチモン層(アルミ組成20%)、p型半導体層6(第5の半導体層)をp型インジウムアンチモンとした場合、臨界膜厚は約10nmとなる。
【0041】
また、図1には半導体層5(第4の半導体層)を2層有する層構造を示したが、赤外線センサは、半導体層5(第4の半導体層)を複数有していればよく、半導体層5(第4の半導体層)の数は、全体の膜厚などを考慮して適宜選択される。
【0042】
本発明における第4の半導体層は、第5の半導体層よりもバンドギャップが大きく、かつ格子定数の差が少ないほうが好ましい。実施形態1においては、例えば、半導体層6(第5の半導体層)の材料がインジウムアンチモンであった場合、半導体層5(第4の半導体層)の材料としては、インジウムアルミアンチモン、インジウムガリウムアンチモンなどがあげられる。以上のものを例としてあげたが、この組み合わせに制限されることなく、用途により適宜、選択される。また、半導体層5はp型にドープされているほうが好ましい。
【0043】
本発明の赤外線センサは、半導体基板の半導体層を有している面から光を入射する場合、金属電極により光が反射され、光の利用効率が低下する。したがって、半導体層を有していない面より光を入射することが好ましい。さらに、半導体基板の半導体層を有していない面をラッピング加工などにより粗面として、前方散乱により光の利用効率を向上する形態が好ましい。本発明の半導体基板としては、赤外線のエネルギーよりバンドギャップが大きいことが好ましく、1eV以上が好ましい。このような半導体基板としては、ガリウム砒素(GaAs)基板、シリコン(Si)基板、インジウムリン(InP)基板、セレン化亜鉛(ZnSe)基板などが挙げられる。
【0044】
図3は、本発明のより好ましい実施形態2に係る光センサを説明するための構成断面図である。図3に示すように、半導体基板1の半導体層2が積層されていない面には、保護層7が設けられている。
【0045】
以下に、この保護層7の効果について説明する。光が空気中から光センサに入射する際、空気と半導体基板の屈折率との違いの影響で光が反射され、光の利用効率は低下する。一方、保護層を半導体基板の裏面に設けた場合、空気中から裏面側より光センサに入射する際、空気と保護層との界面での光の損失と、保護層内での光吸収が光損失となる。この保護層に、入射光の波長域において小さな吸収係数を持ち、且つ、空気と保護層との界面での光の損失を低減する屈折率を持つ材料を選択することで、光の利用効率は、保護層を設けない場合よりも向上する。
【0046】
また、半導体基板の裏面から被検出光を入射する場合、温度や湿度などの使用環境により、半導体基板の変色が問題となる。例えば、ガリウム砒素(GaAs)を半導体基板として用いた場合、高温や高湿の条件では半導体基板の裏面が変色する。この場合、光の入射光量が変化し、センサの出力低下の要因となる。一方、半導体基板の裏面に保護層が設置されている場合、高温や高湿などの使用環境による基板の変色が生じず、センサの出力の安定性は向上する。
【0047】
保護層の材料としては、入射光の波長域での吸収係数が小さく、半導体基板よりも屈折率の低い材料が好ましい。このような保護層の材料としては、酸化チタン(TiO2)、酸化窒化チタン(TiOxy)、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Sixy)などがあげられる。酸化チタン(TiO2)や、酸化窒化チタン(TiOxy)は、結晶構造や組成比によって屈折率が変化するが、好ましい屈折率は1.1以上3.3以下、より好ましくは1.5以上3.0以下である。保護層としてはこれらの材料に制限されること無く、使用する半導体基板の屈折率に合わせて適宜、選択される。また、このような保護層は電子線蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学気相成長法など一般によく用いられる方法で作製できる。
【0048】
本発明における赤外線センサの第3の半導体層は、入射光の波長域に感度を有する材料が好ましい。赤外域に感度を有する光吸収層の材料としては、以下のようなものがあげられる。例えば、3〜7μmの赤外光を検出する際は、インジウムアンチモン(InSb)、インジウムガリウムアンチモン(InGaSb)、インジウムアルミアンチモン(InAlSb)が好適である。またガスセンサ用途として特に波長4−5μmに最高感度波長を合致させたい時には、インジウムガリウムアンチモン(InGaSb)、インジウムアルミアンチモン(InAlSb)などが好ましい。10μm以上の赤外光を検出する際には、インジウム砒素アンチモン(InAsSb)が好ましい。光吸収材料としてはこれらの材料に制限されることなく、使用する赤外線波長に合わせて適宜、選択される。
【0049】
また、これらによって構成される半導体に適宜n型ドーパント、あるいはp型ドーパントをドーピングすることによって第1のn型及び第2のp型の半導体層を形成する。n型ドーパントとしては、Sn、Si、Seなどが挙げられる。またp型ドーパントとしては、Ge、Zn、Be,Ca、Mgなどが挙げられる。
【0050】
本発明における赤外線センサを構成する薄膜は、分子線エピタキシャル成長(MBE)法、ガスソースMBE法、有機金属気相成長(MO−CVD)法、有機金属MBE(MO−MBE)法などを用いて作成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体基板
2 n型半導体層
3 p型半導体層
4 i型半導体層
5 半導体層
6 p型半導体層
7 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、該半導体基板の表面に第1のn型半導体層、第2のp型半導体層及びこれらの間に光吸収層となる第3のi型半導体層を有するPINフォトダイオードを含む赤外線センサであって、
前記第2のp型半導体層と、第3のi型半導体層との間に、
前記第2のp型半導体層および前記第3のi型半導体層のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第4の半導体層と、第5の半導体層とが交互に積層され、
前記第4の半導体層および前記第5の半導体層が超格子構造を形成していることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
前記第5の半導体層が、前記p型の半導体層と同一の材料であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサ。
【請求項3】
前記半導体基板の半導体層を有していない裏面から光を入射し、その光量に応じた信号を電圧又は電流で出力する光センサであって、前記半導体層を有していない裏面が粗面であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサ。
【請求項4】
前記半導体基板の半導体層を有していない裏面から光を入射し、その光量に応じた信号を電圧又は電流で出力するが、前記半導体層を有していない裏面に保護膜を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサ。
【請求項5】
前記保護膜が、酸化チタン、酸化シリコン、窒化シリコンのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−204779(P2011−204779A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68524(P2010−68524)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】