説明

赤外線反射性フィルム

【課題】本発明は、高い赤外線反射性及び高い可視光線透過性をもち、且つ耐熱性に優れる赤外線反射性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、高屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する高屈折率層と、低屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する低屈折率層とが基体上に積層された赤外線反射性フィルムにおいて、高屈折率層と低屈折率層の両方の層あるいは一方の層にキセロゲル化合物を含有することを特徴とする赤外線反射性フィルムによって上記目的を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線を反射する赤外線反射性フィルムは、例えば、建物や乗り物の壁や窓などに貼り付けることで、建物内や乗り物内に入射する赤外線を遮蔽することができるので、建物内や乗り物内の温度上昇を防ぎ、夏場の冷房に費やすエネルギーを削減することが可能になる。特に、窓などの透明な箇所に用いるときは、赤外線は反射するが可視光線は透過する波長選択性を備えた赤外線反射性フィルムが望まれる。
【0003】
これまでに、高屈折率の無機化合物と低屈折率の無機化合物を交互に蒸着した蒸着法による赤外線反射性フィルムの製造方法が知られている(特許文献1)。また、酸化チタンの粒子を分散したスラリーを塗布した後に乾燥して高屈折率層を形成し、その高屈折率層上にシリカゾルスラリーを塗布した後に乾燥して低屈折率層を形成する逐次の塗布法による赤外線反射性フィルムの製造方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐65232号公報
【特許文献2】特開2003‐266578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の蒸着法による赤外線反射性フィルムの製造方法は、連続的に複数回蒸着をしようとすると大規模な真空装置が必要であり初期コストが高い。
バッチ処理で蒸着を交互に繰返す方法は層の数が増えれば増えるほどより工程数が増えてコストアップになる。
特許文献2には、酸化チタンやシリカゾルのスラリーを利用し、塗布工程と乾燥工程を逐次繰り返すことが記載されているが、コストがかかりすぎて量産に適した方法ではない。
【0006】
さらに、特許文献1や特許文献2の赤外線反射性フィルムの高屈折率層および低屈折率層は、無機化合物や金属酸化物だけを用いて形成されている。そのため柔軟性のある基体に形成されると結着物質がないためフィルムを屈曲させると、無機化合物や金属酸化物が剥離しやすい。
しかしながら高分子化合物の結着剤を用いると無機化合物や金属酸化物が剥離しにくくなるが、長期の使用中に変色したりして耐熱性が低下する恐れがある。
本発明は、高分子化合物の結着剤を用いて加熱しても変色の少ない赤外線反射性フィルムを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、高屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する高屈折率層と、低屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する低屈折率層とが基体上に積層された赤外線反射性フィルムにおいて、高屈折率層と低屈折率層の両方の層あるいは一方の層にキセロゲル化合物を含有することを特徴とする赤外線反射性フィルムである。
【0008】
第2の発明は、キセロゲル化合物が、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムの中から選択される少なくとも1種のキセロゲル化合物であることを特徴とする第1の発明に記載の赤外線反射性フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の赤外線反射性フィルムは、加熱しても変色が少なく耐熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】同時多層塗布方法の一例を示す模式図
【図2】実施例1の赤外線反射性フィルムの断面模式図
【図3】実施例1および実施例2で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトルおよび太陽光の照射スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の態様は、高屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する高屈折率層と、低屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する低屈折率層とが基体上に積層された赤外線反射性フィルムにおいて、高屈折率層と低屈折率層の両方の層あるいは一方の層にキセロゲル化合物を含有することを特徴とする赤外線反射性フィルムである。
【0012】
本発明の第2の態様は、キセロゲル化合物が、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムの中から選択される少なくとも1種のキセロゲル化合物であることを特徴とする第1の態様に記載の赤外線反射性フィルムである。
【0013】
赤外線反射性フィルムは、光透過性基材上に、屈折率が異なる層を2層以上積層した赤外線反射性フィルムであって、隣接する層の屈折率差はいずれも0.1〜0.4の範囲であることが好ましい。
なお、3層以上積層した赤外線反射性フィルムの場合、隣り合った層の屈折率の差が前記範囲内であればよく、隣接する全ての層における屈折率の差が同じである必要はない。
【0014】
赤外線反射性フィルムの入射光側は高屈折率層である。高屈折率層と低屈折率層の厚みは反射する赤外線の波長λの1/4程度であることが好ましい。波長が1200nm近傍の赤外線を反射するためには高屈折率層と低屈折率層の厚みは約300nm前後の厚みが好ましい。
【0015】
また、高屈折率層と低屈折率層の境目の屈折率の変化は明確でないと、赤外線反射性能は低下する。高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキとを逐次に塗布する方法では、逐次に重ねて塗布するうちに下の層を上の層の塗布時に溶解してしまうため、高屈折率層と低屈折率層の境目で高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキが混合してしまい、広い面積で良好な赤外線反射性能を得ることは難しい。
【0016】
高屈折率層と低屈折率層を薄膜で相互の混合がないように、複数の層を形成するためには両インキ組成の選択と塗布方法が重要となる。同時多層塗布方法は複数の層を一度の塗布工程で塗布する方法であるが、高屈折率顔料と低屈折率顔料にあわせて高分子化合物などの添加成分が必要である。
【0017】
高屈折率顔料や低屈折率顔料は無機化合物であるので、加熱しても変色することはないが高分子化合物や添加成分が有機化合物の場合、加熱することにより着色して可視光線の透過率を低下させることになる。そのため、インキの組成は製造された赤外線反射性フィルムの耐熱性を損なわないように選択されなければならない。本発明者は赤外線反射性フィルムの高屈折率層や低屈折率層中にキセロゲルを含有させることにより、赤外線反射性フィルムを加熱しても変色が少ないことを見出し、本発明に到達したものである。
【0018】
複数の層を形成する方法として、高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキを準備して、高屈折率層形成用インキから高屈折率層形成用インキ液層を形成し、低屈折率層形成用インキから低屈折率層形成用インキ液層を形成し、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層と高屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた積層構造を形成して、該積層構造を維持したまま基体に同時に塗布する同時多層塗布方法がある。しかしながら、単にインキ液層を重ね合わせるだけでは、重ね合わせられたインキ液層は互いに混合してしまい高屈折率層と低屈折率層の境目の屈折率の変化が明確な赤外線反射性フィルムは得られない。インキが混合するという問題を解決するにはインキの組成が重要である。
【0019】
上記積層構造を形成する時にインキ液層間の混合を防ぐ一つの方法は、高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキの両方あるいはいずれか一方のインキにゲル化剤を含有させ、前記積層構造を維持したまま基体に同時に塗布した直後に該積層構造を冷却してゲル化剤を含有するインキ液層の流動性を低下させることにより、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層が混合することを防止する方法である。
【0020】
上記積層構造を形成する時にインキ液層間の混合を防ぐ他の方法は、反応性の高分子化合物を高屈折率層形成用インキに含有させ、かつ架橋性化合物を低屈折率層形成用インキに含有させ、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層を重ね合わせた時に、反応性の高分子化合物と架橋性化合物が反応して難溶性の物質を高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層の間に生成させて、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層の混合を妨げる方法である。該難溶性の物質とは反応性の高分子化合物と架橋性化合物の反応生成物の少なくとも一部が不溶性となりインキ液層の液の流動を妨げるものをいう。
【0021】
なお、反応性の高分子化合物を低屈折率層形成用インキに含有させ、かつ架橋性化合物を高屈折率層形成用インキに含有させてもよい。
【0022】
また、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層が混合することを防止する方法として、上記インキ中にゲル化剤を添加する方法と反応により難溶性の物質を生成させる方法を組み合せてもよい。
【0023】
≪塗布方法≫
図1は、同時多層塗布方法の一例を示す、模式図である。
11はダイコーティングユニットで、インキを押し出すスリット1,2,3を有している。スリットの数は3に限定されることなく任意の数が可能である。
【0024】
それぞれのインキはタンク1t、タンク2t、タンク3tに貯蔵され、インキ供給ポンプ1p、インキ供給ポンプ2p、インキ供給ポンプ3pで押し出されて各スリットから流れ出るインキはダイコーティングユニットのスライド斜面上にインキ液層として展開され、上層のインキ液層が下層のインキ液層の上に乗り上げるようにして、ダイコーティングユニット11のスライド斜面上でインキ液層が積み重ねられる。
【0025】
インキ液層を積み重ねる方法は、スリットノズルを複数個スライド斜面上方に並べ、上からカーテン状に溶液を流してスライド斜面上で積み重ねる方法もあり、図1の塗布方法だけに限定されない。
【0026】
1s、2s、3sは各インキでできたインキ液層で、1sと2sと3sのインキ液層がスライド斜面上で積み重ねられたとき、隣り合うインキ液層が接触した時に各インキ液層が混じり合うのを妨げる方法は前に記載したとおりである。装置等は図示していないが、同様に4s、5s、6s、7s・・・とインキ液層を重ねることができる。
【0027】
コーティングロール4に巻かれた基体5は、回転するコーティングロールに導かれ、ダイコーティングユニットの端から流れ落ちようとする積み重ねられたインキ液層をすくい取って、基体上に積み重ねられたインキ液層が塗布された後に乾燥ゾーン7でインキを乾燥して積層体を製造する。ゲル化剤を利用する方法では乾燥ゾーンの前に冷却ゾーン6を設けてインキ液層を冷却する。
【0028】
≪高屈折率顔料、低屈折率顔料≫
無機化合物粒子は、高屈折率層および低屈折率層の屈折率の調整に用いるもので、無機化合物粒子の屈折率は、特に限定されないが、1.3〜7.0の範囲であることが好ましい。無機化合物の種類は、金属や半金属の酸化物、リン酸化物、窒化物、炭化物、ハロゲン化物などを挙げることができる。
【0029】
高屈折率層の無機化合物粒子に用いる高屈折率顔料として、例えば、酸化チタン、酸化鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、これらの複合化合物、これらに他の元素がドープされた化合物が挙げられ、酸化チタンや酸化スズが特に好ましい。
【0030】
低屈折率層の無機化合物粒子に用いる低屈折率顔料として、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、これらの複合化合物、これらに他の元素がドープされた化合物が挙げられ、酸化ケイ素や酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0031】
無機化合物粒子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。また、無機化合物粒子の形状に特に制限は無いが、粒径は赤外線反射性及び透明性の観点から0.1nm〜400nmであることが好ましく、0.5nm〜50nmであることがより好ましい。
【0032】
上記無機化合物粒子はすでに微細な粒子として分散させた液が市販されており、これらの市販品を用いるのが簡便であり好ましい。該市販品としては、例えば「AERODISP(登録商標)−W740」(日本アエロジル株式会社製、水分散液)等のAERODISPシリーズ、「サンコロイド(登録商標)HX−M5」(日産化学工業株式会社製)等のサンコロイドシリーズ、「オプトレイク(登録商標)1120Z 8RU−25」(日揮触媒化成株式会社製)等のオプトレイクシリーズまたは、「ルドックス(登録商標)HS−40」(デュポン社製)等のルドックスシリーズなどが挙げられる。
【0033】
≪水系溶剤≫
本発明では水系インキを用いて赤外線反射性フィルムを製造する。水系インキには溶剤として水以外に水に親和性を持つ有機溶剤と水の混合溶液が使用される。水と該有機溶剤との混合溶液を水系溶剤と呼ぶ。
水に親和性を持つ有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジメチルホルムアミドなどがある。
【0034】
≪結着用高分子化合物≫
高屈折率顔料や低屈折率顔料を結着させる高分子化合物は水系インキ中に含有されて使用される。該高分子化合物は水系溶剤に溶解ないし分散し得るものであり、且つ乾燥時に皮膜を形成するものであれば特に制限はない。
【0035】
前記水系溶剤に対して一般的に溶解性が高い有機合成高分子化合物としては、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、けん化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体、スルホン化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のポリスチレンスルホン酸、けん化度50モル%以上(好ましくは70モル%以上)のエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸及びその塩、水性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩類や、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂、水性ポリオレフィン樹脂、水性フェノール樹脂、ポリパラビニルフェノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 なお、「水性」とは水溶性であることを示し、その製造方法に特に制限はないが、いずれも市販品を用いるのが簡便である。
【0036】
水性アクリル樹脂としては、アクリル酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルやその他の重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。その他の重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルアルコール、エチレン等が挙げられる。また、例えばDIC株式会社製の「ウォーターゾール(登録商標)」シリーズ等の市販品を用いることもできる。
なお本発明において、(メタ)アクリル酸・・・とは、メタアクリル酸・・・とアクリル酸・・・の両方を意味するものである。
【0037】
水性ポリエステル樹脂は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の多塩基酸とを脱水縮合させた後、アンモニアや有機アミン等で中和し、水分散化させることにより得ることができる。また、例えば東洋紡績株式会社製の「バイロナール(登録商標)」シリーズ等の市販品を用いることもできる。
【0038】
ポリパラビニルフェノールは、パラビニルフェノールのホモポリマーであり、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば丸善石油化学株式会社製の「マルカリンカー(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
ポリビニルアルコールの誘導体の具体例としては、カルボキシル化ポリビニルアルコール、スルホン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物等が挙げられる。
シリコーンのアクリル変性樹脂のエマルジョンとして、日信化学工業株式会社製のシリコーンアクリル水分散液のシャリーヌE(登録商標)シリーズがある。
【0039】
結着用高分子化合物は、無機化合物で変性された高分子化合物であることが好ましい。高分子化合物が無機化合物で変性された部位を有することで、無機化合物粒子と高分子化合物の親和性が向上して、無機化合物粒子どうしを良好に結合させることができるからである。無機化合物の変性の例としては、シリコーン変性などのケイ素化合物変性、スズ化合物変性、チタン化合物変性、アルミニウム化合物変性などが挙げられる。無機化合物で変性された高分子化合物は、無機化合物と高分子化合物とのグラフト重合体でもよいし、無機化合物と高分子化合物との共重合体でもよい。特にシリコーンアクリル共重合体が無機化合物との親和性と透明性の観点から好ましく用いられる。
【0040】
結着用高分子化合物は、下記で述べるゲル化剤から得られるキセロゲル化合物であってもよい。
【0041】
なお、有機合成高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは5千〜100万、より好ましくは1万〜10万、さらに好ましくは1万〜5万である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、いずれもゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の値である。
【0042】
≪ゲル化剤≫
冷却されたときにインキ液層の流動性を低下させる成分としては、その機能を発現するものであれば、特段の制限はない。製造上の取り扱いが容易であるので、ゲル化剤を好適に用いることができる。ゲル化剤は、冷却することで、流動性の高いゾル状態から流動性の低いゲル状態に転移する材料である。ゲル化剤としては、水系溶剤への溶解性ないし分散性が良好であり、水素結合により水分を補足し、少量でも水系インキの粘度を増加させる効果があるので、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムが特に好ましい。ゼラチンはゲル化温度が約15〜20℃であり製造上の取り扱いが容易なので、最も好ましくはゼラチンが用いられるが、他のゲル化剤でもそれぞれのゲル化温度を考慮にいれて製造すれば特に問題を生ずることはない。
なお、ゲル化剤は塗布し乾燥することによりキセロゲル化合物となり、加熱による赤外線反射性フィルムの変色を少なくする効果を示す。
【0043】
≪難溶性物質を形成する化合物≫
反応性の高分子化合物としては、特に制限されるものではないが、水酸基やカルボキシル基等を有する高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。架橋性の高分子化合物は、溶剤への溶解性の観点から、重量平均分子量が5千〜30万のものが好ましく、3万〜20万のものがより好ましく、5万〜15万のものがさらに好ましい。
【0044】
架橋性化合物としては、例えば、ホウ酸、水酸化チタン、有機チタン化合物等の架橋性チタン化合物が使用でき架橋により高分子化合物を難溶化あるいは不溶化することができる。高分子化合物が配位子を持っている場合はキレート化による架橋が可能であり、例えば硫酸アルミニウム、硫酸コバルト、酢酸コバルト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等により、高分子化合物をキレート架橋により難溶化あるいは不溶化することができる。
【0045】
≪基体≫
本発明の高屈折率層と低屈折率層を塗布する基体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセ
ルロースブチレートフィルム等のセルロース系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等の塩化ビニル系フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム等のビニル系共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム等のポリエーテル系フィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等が挙げられる。これらの中でも、透明性及び製造コストの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムやトリアセチルセルロースフィルムが好ましい。
光透過性基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、好ましくは10〜300μm、より好ましくは30〜200μmの範囲、さらに好ましくは50〜125μmである。
【0046】
また、この基体は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、必要に応じて片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は光透過性基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性等の面から、好ましく用いられる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各例では、基体として以下の光透過性基材を使用した。更に、各例において得られた赤外線反射性フィルムの可視光線透過率、赤外線透過率について、以下の通りに測定した。
【0048】
(光透過性基材)
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム「コスモシャインA4100」(東洋紡績株式会社製)を光透過性基材として使用した。
(可視光線透過率の測定方法)
JIS R3106(1998年)に準拠して可視光線透過率を測定した。なお、可視光線は、赤外線反射性フィルムの光透過性基材とは反対側から照射した。
(赤外線反射率の測定方法)
JIS R3106(1998年)に準拠して赤外線反射率を測定した。なお、赤外線は、赤外線反射性フィルムの光透過性基材とは反対側から照射した。
(耐熱性の測定方法)
加熱前のサンプルと温度100℃のオーブンで12時間加熱したサンプルの色を、JIS K7105、JIS Z8722に準拠した日本電色工業株式会社製の測色色差計ZE−2000で測定して、その色差を比較した。色差が小さいほど色変化の程度が小さく耐熱性に優れる。
【0049】
(実施例1)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキAを得た。なお、実施例の全ての組成物は、40℃の恒温水槽中メカニカルスターラーにて加温攪拌し、温度を下げないよう注意しながら、5μmメッシュのフィルター「ミニザルト 17594K」(株式会社ハイテック製)に通して異物を除去した。

酸化チタン水分散液 :60重量部
「AERODISP(登録商標)−W740」
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
シリコーンアクリル水分散液 :120重量部
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ゼラチン :12重量部
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」
(新田ゼラチン株式会社、固形分100%)
有機チタン化合物 :3重量部
「オルガチックス(登録商標)ТC−310」
(マツモトファインケミカル株式会社製、固形分42%)
イオン交換水 :485重量部
【0050】
なお、屈折率の測定のため、上記高屈折率層形成用インキAを厚さ100μmのポリエステルフィルムにワイヤーバーを用いて塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて厚さ3μmの層を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計「DVA−36L型」(株式会社溝尻光学工業所製)を用いて測定したところ、屈折率は1.60であった。
【0051】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキBを得た。

酸化ケイ素水分散液 :60重量部
「ルドックス(登録商標)HS―40」
(デュポン社製、固形分40%)
シリコーンアクリル水分散液 :120重量部
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ゼラチン :12重量部
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」
(新田ゼラチン株式会社、固形分100%)
ポリビニルアルコール :12重量部
「ゴーセノール(登録商標)KL−03」
(日本合成化学工業株式会社製、固形分100%)
イオン交換水 :596重量部
【0052】
なお、屈折率の測定のため、上記低屈折率層形成用インキBを厚さ100μmのポリエステルフィルムにワイヤーバーを用いて塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて厚さ3μmの層を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計「DVA−36L型」(株式会社溝尻光学工業所製)を用いて測定したところ、屈折率は1.40(高屈折率層形成用インキAを用いた場合との屈折率差:0.20)であった。
【0053】
図1の塗布装置(ただし、タンク4t、インキ供給ポンプ4p、スリット4以降は図示されていない。)を用いて、40℃に加温した高屈折率層形成用インキAをタンク1t、3t、5t、7tに充填し、40℃に加温した低屈折率層形成用インキBをタンク2t、4t、6tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜7pを稼動してコーティングダイユニット11のスリット1〜7から各インキを押し出した。
40℃に加温したコーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜7sを、コーティングロール4で搬送される基体5の易接着処理面に塗布して、5℃の冷却ゾーン6で冷却した後、80℃の乾燥ゾーン7で乾燥させた。これによって、PETフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の7層が形成された実施例1の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた7層の厚みは、約2.1μmだった。
【0054】
実施例1では、高屈折率層形成用インキAに含有させた有機チタン化合物と低屈折率層形成用インキBに含有させたポリビニルアルコールとが架橋反応して、ポリビニルアルコール−チタン架橋体が形成する。なお、低屈折率層形成用インキBに含有させたポリビニルアルコールは、酸化ケイ素粒子どうしを結合させる機能も備えている。また、ゼラチンが乾燥されたキセロゲルとして高屈折率層と低屈折率層に含有されている。
得られた赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、層の構造が識別できることを確認し、各高屈折率層の厚さは約0.3μm、各低屈折率層の厚さは約0.3μmであった。高屈折率層と低屈折率層の間のポリビニルアルコール−チタン架橋体の存在は、電子顕微鏡では確認できなかった。
【0055】
図3において、31は実施例1で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトル、32は下記の実施例2で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトル、33は太陽光の照射スペクトルを示す。図3より、実施例1および実施例2で得られた赤外線反射性フィルムは、赤外線反射率が高くて可視光線の透過率が高いので、赤外線反射性および可視光線透過性が良好であることがわかる。
実施例1で得られた赤外線反射性フィルムは、波長1000nmの赤外線反射率が55%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が19%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が87%であった。
【0056】
(実施例2)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキCを得た。

酸化チタン水分散液 :60重量部
「AERODISP(登録商標)−W740」
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
ゼラチン :20重量部
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」
(新田ゼラチン株式会社、固形分100%)
イオン交換水 :560重量部
【0057】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキDを得た。

酸化ケイ素水分散液 :60重量部
「ルドックス(登録商標)HS―40」
(デュポン社製、固形分40%)
ゼラチン :20重量部
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」
(新田ゼラチン株式会社、固形分100%)
イオン交換水 :560重量部
【0058】
図1の塗布装置を用いて、約40℃に加温した高屈折率層形成用インキCをタンク1t、3tに充填し、約40℃に加温した低屈折率層形成用インキDをタンク2tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜3pを稼動して約40℃に加温したコーティングダイユニ
ット11のスリット1〜3から各インキを押し出した。
コーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜3sを、コーティングロール4で搬送される基体5の易接着処理面上に塗布した後、5℃の冷却ゾーン6で冷却し、さらに80℃の乾燥ゾーン7で乾燥させた。これによって、PETフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の3層の構造が形成された実施例2の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた3層の厚みは、約0.9μmだった。
【0059】
実施例2では、高屈折率層形成用インキCおよび低屈折率層形成用インキDに含有させたゼラチンが塗布後に冷却されたことによりインキ液層の流動性を低下させる。なお、乾燥後のゼラチンはキセロゲルとして、無機化合物粒子どうしを結合させる機能も備えている。得られた赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、層の構造が識別できることを確認し、各高屈折率層の厚さは約0.3μm、低屈折率層の厚さは約0.3μmであった。
【0060】
実施例2で得られた赤外線反射性フィルムは、図3に示すように波長1000nmの赤外線反射率が49%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が16%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が89%であった。
【0061】
(比較例1)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキFを得た。

酸化チタン水分散液 :60重量部
「AERODISP(登録商標)−W740」
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
シリコーンアクリル水分散液 :240重量部
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
有機チタン化合物 :3重量部
「オルガチックス(登録商標)ТC−310」
(マツモトファインケミカル株式会社製、固形分42%)
イオン交換水 :370重量部
【0062】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキGを得た。

酸化ケイ素水分散液 :60重量部
「ルドックス(登録商標)HS―40」
(デュポン社製、固形分40%)
シリコーンアクリル水分散液 :240重量部
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ポリビニルアルコール :12重量部
「ゴーセノール(登録商標)KL−03」
(日本合成化学工業株式会社製、固形分100%)
イオン交換水 :470重量部
【0063】
図1の塗布装置を用いて、高屈折率層形成用インキFをタンク1t、3tに充填し、低屈折率層形成用インキGをタンク2tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜3pを稼動してコーティングダイユニット11のスリット1〜3から各インキを押し出した。
コーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜3sを、コーティングロール4で搬送される基体5の易接着処理面上に塗布した後、80℃の乾燥ゾーン7で乾燥させた。これによって、PETフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の3層の構造が形成された比較例1の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた3層の厚みは、約0.9μmだった。
【0064】
比較例1では高屈折率層形成用インキFに含有させた有機チタン化合物と低屈折率層形成用インキGに含有させたポリビニルアルコールとが架橋反応して、ポリビニルアルコール−チタン架橋体が形成する。得られた赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、層の構造が識別できることを確認し、各高屈折率層の厚さは約0.3μm、各低屈折率層の厚さは約0.3μmであった。
【0065】
≪耐熱性測定結果≫
実施例1、実施例2、比較例1で得た各赤外線反射性フィルムの加熱前と加速試験後に測定した色差を表1に示す。5点測定した最小値と最大値を示す。
これによりキセロゲルを含む赤外線反射性フィルムの耐熱性が優れていることがわかる。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の赤外線反射性フィルムは、例えば建物や乗り物(自動車、電車、バス、航空機、船舶等)の窓ガラスに貼着して建物内や乗り物内の温度上昇を防ぐことに利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1t:タンク
2t:タンク
3t:タンク
1p:インキ供給ポンプ
2p:インキ供給ポンプ
3p:インキ供給ポンプ
1:スリット
2:スリット
3:スリット
1s:インキ液層
2s:インキ液層
3s:インキ液層
4:コーティングロール
5:基体
6:冷却ゾーン
7:乾燥ゾーン
11:コーティングダイユニット
22:高屈折率層
23:低屈折率層
31:実施例1の赤外線反射性フィルムの反射スペクトル
32:実施例2の赤外線反射性フィルムの反射スペクトル
33:太陽光の照射スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する高屈折率層と、低屈折率顔料と結着用高分子化合物を含有する低屈折率層とが基体上に積層された赤外線反射性フィルムにおいて、
高屈折率層と低屈折率層の両方の層あるいは一方の層にキセロゲル化合物を含有することを特徴とする赤外線反射性フィルム。
【請求項2】
キセロゲル化合物が、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムの中から選択される少なくとも1種のキセロゲル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−68922(P2013−68922A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−287179(P2011−287179)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2011−204258(P2011−204258)の分割
【原出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】