説明

赤外線検出装置

【課題】目標のロケットプルームからの赤外線放射と背景からの赤外線放射との弁別を容易にして目標の検出精度の向上を図る赤外線検出装置を得る。
【解決手段】目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光赤外線放射特性に合致した透過特性を有する狭帯域赤外線透過フィルタ11bと、ロケットプルームの高温ガスの赤外線放射を透過する広帯域赤外線透過フィルタ11aとを有し、目標のロケットプルームから放射される赤外線に基づいて、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過した後の狭帯域通過電気信号と、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した後の広帯域通過電気信号とを分離生成する検出信号生成回路10と、検出信号生成回路10で分離生成された狭帯域通過電気信号と広帯域通過電気信号との差信号または積信号から目標抽出画像を生成する目標抽出演算回路20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
目標のロケットプルームから放射される赤外線を、背景となる地上の地物や雲からの赤外線放射光あるいは反射光から弁別することにより、目標を検出する赤外線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標のロケットプルームが放射する赤外線分光強度を分析することにより、目標の空力加熱、排気口、排気ガスの分光特性がどの程度含まれているかを調べ、そのアスペクト角を判定する赤外線捜索追尾装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−162942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
対象となる広域波長帯での積分的強度による従来の検出方法では、目標のロケットプルームが放射する赤外線は、背景となる地上の地物や雲からの赤外線放射光または反射光の積分的強度との差異、あるいは赤外線像の形状での差異が小さい。従って、発射直後の地上や背景からの赤外線放射光と、本来検出すべき目標のロケットプルームが放射する赤外線との弁別が困難であった。
【0005】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、目標のロケットプルームからの赤外線放射と背景からの赤外線放射との弁別を容易にして目標の検出精度の向上を図る赤外線検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る赤外線検出装置は、目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光赤外線放射特性に合致した透過特性を有する狭帯域赤外線透過フィルタと、ロケットプルームの高温ガスの赤外線放射を透過する広帯域赤外線透過フィルタとを有し、目標のロケットプルームから放射される赤外線に基づいて、狭帯域赤外線透過フィルタを通過した後の狭帯域通過電気信号と、広帯域赤外線透過フィルタを通過した後の広帯域通過電気信号とを分離生成する検出信号生成回路と、検出信号生成回路で分離生成された狭帯域通過電気信号と広帯域通過電気信号との差信号または積信号から目標抽出画像を生成する目標抽出演算回路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光赤外線放射特性を、狭帯域赤外線透過フィルタを利用して抽出することにより、目標のロケットプルームからの赤外線放射と背景からの赤外線放射との弁別を容易にして目標の検出精度の向上を図る赤外線検出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における赤外線検出装置の構成図である。この赤外線検出装置は、検出信号生成回路10および目標抽出演算回路20で構成される。さらに、検出信号生成回路10は、広帯域赤外線透過フィルタ11aと狭帯域赤外線透過フィルタ11bとを装着したフィルタ板11と、光学系12と、赤外線検知器13と、信号分離回路14とで構成される。
【0009】
このような構成を有する赤外線検出装置の具体的な動作について、次に説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における赤外線検出装置に取り込まれる撮像画像31を示した図である。図2に示した撮像画像31には、目標であるロケットが含まれている。さらに、この図2では、ロケットプルーム32が燃焼中の状態を示している。
【0010】
図3は、本発明の実施の形態1における図2の撮像画像31に対応する分光放射特性33を示した図である。そして、この分光放射特性33には、上空の太陽光を反射した背景から放射される赤外線の分光放射特性33a、および目標のロケットプルーム32から放射される赤外線の分光放射特性33bが含まれている。
【0011】
図4は、本発明の実施の形態1における2つの分光放射特性33a、33bを個別に示したものである。目標のロケットプルーム32から放射される赤外線の分光放射特性33bには、4.0〜4.5μmの波長帯での高温の二酸化炭素あるいは窒素酸化物の放射が含まれている。
【0012】
従って、分光放射特性33の中から、目標のロケットプルーム32から放射される赤外線の分光放射特性33bを抽出し、その後の電気信号を利用して撮像画像を生成すれば、目標のロケットプルーム32を弁別した所望の画像を得ることができることになる。本発明では、このような所望の画像を得るために、2種類の分光透過特性を有するフィルタを活用しており、その詳細について、次に説明する。
【0013】
図5は、本発明の実施の形態1における広帯域赤外線透過フィルタ11aおよび狭帯域赤外線透過フィルタ11bの分光透過特性を示した図である。図5(a)は、広帯域赤外線透過フィルタ11aの分光透過特性を示しており、3〜5μmの波長域の赤外線を透過する。
【0014】
このような広帯域赤外線透過フィルタ11aとしては、例えば、SiあるいはGeのような1〜2μmより長く6〜7μmより短い波長域で透過特性を持つ基板材料に、誘電体薄膜加工を施すことにより、3〜5μmの波長域の透過率を向上させたフィルタを適用することができる。
【0015】
一方、図5(b)は、狭帯域赤外線透過フィルタ11bの分光透過特性を示しており、4〜4.5μmの波長域の赤外線を選択的に透過する。このような狭帯域赤外線透過フィルタ11bとしては、例えば、同じくSiあるいはGeのような1〜2μmより長く6〜7μmより短い波長域で透過特性を持つ基板材料の表面に、高屈折率誘電体材料薄膜と低屈折率誘電体材料薄膜とを交互に多層成膜させることにより、4〜4.5μmの波長域のみ高い透過率で透過させるようにしたフィルタを適用することができる。
【0016】
図6は、本発明の実施の形態1における広帯域赤外線透過フィルタ11aおよび狭帯域赤外線透過フィルタ11bのそれぞれを通過した赤外線分光特性を示した図である。図6(a)は、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した目標および背景からの赤外線分光特性を示している。
【0017】
3〜5μmの波長域の透過率を向上させた広帯域赤外線透過フィルタ11aは、ロケットプルーム32の高温ガスの赤外線放射を透過することができ、目標および背景からの赤外線分光特性を得ることができる。しかしながら、目標からの赤外線放射は、背景からの放射に埋もれ、目標からの赤外線放射との弁別を困難にしている。
【0018】
一方、図6(b)は、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過した目標および背景からの赤外線分光特性を示している。4〜4.5μmの波長域のみ高い透過率で透過させる狭帯域赤外線透過フィルタ11bは、目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光放射特性に合致した透過特性を有している。
【0019】
具体的には、この狭帯域赤外線透過フィルタ11bは、先の図4(b)に示したように、目標のロケットプルームからの赤外線放射の特徴である4.0〜4.5μmの波長帯での高温の二酸化炭素あるいは窒素酸化物の放射のみを通過させる。この結果、背景からの赤外線放射を抑圧し、背景からの目標のロケットプルームの弁別を容易にしている。
【0020】
先の図1に示したように、このような広帯域赤外線透過フィルタ11aおよび狭帯域赤外線透過フィルタ11bは、フィルタ板11に装着されている。そして、赤外線検出装置内で、このフィルタ板11を定速回転させることにより、光学系12は、広帯域赤外線透過フィルタ11aおよび狭帯域赤外線透過フィルタ11bを透過する赤外線を、赤外線検知器13上に交互に集光結合することができる。そして、赤外線検知器13は、入力した赤外線信号を光電変換して出力する。
【0021】
さらに、信号分離回路14は、フィルタ板11の回転同期信号を元に、赤外線検知器13からの出力信号を、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過する広帯域通過赤外線信号と、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過する狭帯域通過赤外線信号に分離する信号分離回路である。
【0022】
このような一連の動作により、検出信号生成回路10は、最終的に、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した後の広帯域通過電気信号と、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過した後の狭帯域通過電気信号とを分離生成することができる。
【0023】
次に、目標抽出演算回路20は、検出信号生成回路10で分離生成された狭帯域通過電気信号と広帯域通過電気信号との差信号または積信号から目標抽出画像を生成する。図7は、本発明の実施の形態1における目標抽出演算回路20により処理される画像を示した図である。
【0024】
より具体的には、図7(a)は、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した後の広帯域通過電気信号による撮像画像である。また、図7(b)は、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過した後の狭帯域通過電気信号による撮像画像である。さらに、図7(c)は、図7(a)の画像に対応する広帯域通過電気信号と、図7(b)の画像に対応する狭帯域通過電気信号との差信号または積信号により生成された目標抽出画像である。
【0025】
このようにして、目標抽出演算回路20で生成された目標抽出画像は、図7(a)では背景データの中に埋もれて弁別が困難であったロケットプルームを弁別表示することが可能となり、目標のロケットプルームが燃焼中である場合を早期に探知することができる。
【0026】
さらに、目標のロケットプルームの燃焼が終了した後は、高温ガスによる赤外線放射特性は消失し、図7(d)に示すとおり、狭帯域通過電気信号による撮像画像から目標像は消失し、目標のロケットプルームを検出できない。しかしながら、この段階では、目標は、高高度に達しており、背景が低温度の天空となるため、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した信号は、低温背景に対して際立った信号強度を有する状態になるため、図7(e)に示すとおり、目標抽出画像から目標のロケットを弁別維持することができる。
【0027】
以上のように、実施の形態1によれば、目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光赤外線放射特性を抽出可能な狭帯域赤外線透過フィルタを使用することにより、目標のロケットプルームの燃焼中において、背景からの赤外線放射との弁別を可能とし、目標を早期に探知できる赤外線検出装置を得ることができる。
【0028】
実施の形態2.
本実施の形態2においては、検出信号生成回路10の構成が先の実施の形態1とは異なる赤外線検出装置について説明する。図8は、本発明の実施の形態2における赤外線検出装置の構成図である。この赤外線検出装置は、検出信号生成回路10および目標抽出演算回路20で構成される。
【0029】
さらに、検出信号生成回路10は、光学系12と、光路分離器15と、広帯域赤外線透過フィルタ11aと、狭帯域赤外線透過フィルタ11bと、広帯域用赤外線検知器13aと、狭帯域用赤外線検知器13bとで構成される。
【0030】
先の実施の形態1では、フィルタ板11の定速回転と同期した信号分離回路14の働きにより広帯域通過電気信号と狭帯域通過電気信号とを分離生成していた。これに対して、本実施の形態2では、光路分離器15を用いて広帯域通過電気信号と狭帯域通過電気信号とを分離生成している。
【0031】
本実施の形態2における光学系12は、目標から放射される赤外線を光路分離器15上に集光結像する。そして、光路分離器15は、光学系12により集光結像された赤外線を2系統の光路(すなわち、広帯域処理用の光路および狭帯域処理用の光路)に分割する。
【0032】
広帯域処理用の光路には、広帯域赤外線透過フィルタ11aおよび広帯域用赤外線検知器13aが設けられている。先の実施の形態1で説明したように、3〜5μmの波長域の透過率を向上させた広帯域赤外線透過フィルタ11aは、ロケットプルーム32の高温ガスの赤外線放射を透過することができ、目標および背景からの赤外線分光特性を得ることができる。
【0033】
さらに、広帯域用赤外線検知器13aは、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した赤外線放射を検知して光電変換することにより広帯域通過電気信号を生成する。
【0034】
一方、狭帯域処理用の光路には、狭帯域赤外線透過フィルタ11bおよび狭帯域用赤外線検知器13bが設けられている。先の実施の形態1で説明したように、4〜4.5μmの波長域のみ高い透過率で透過させる狭帯域赤外線透過フィルタ11bは、目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光放射特性に合致した透過特性を有している。
【0035】
具体的には、この狭帯域赤外線透過フィルタ11bは、先の図4(b)に示したように、目標のロケットプルームからの赤外線放射の特徴である4.0〜4.5μmの波長帯での高温の二酸化炭素あるいは窒素酸化物の放射のみを通過させる。この結果、背景からの赤外線放射を抑圧し、背景からの目標のロケットプルームの弁別を容易にしている。
【0036】
さらに、狭帯域用赤外線検知器13bは、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過した赤外線放射を検知して光電変換することにより狭帯域通過電気信号を生成する。
【0037】
このような一連の動作により、検出信号生成回路10は、最終的に、広帯域赤外線透過フィルタ11aを通過した後の広帯域通過電気信号と、狭帯域赤外線透過フィルタ11bを通過した後の狭帯域通過電気信号とを分離生成することができる。
【0038】
検出信号生成回路10の後段である目標抽出演算回路20の動作は、先の実施の形態1と同様である。
【0039】
以上のように、実施の形態2によれば、先の実施の形態1と異なる構成の検出信号生成回路によっても、目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光赤外線放射特性を抽出可能な狭帯域赤外線透過フィルタを使用することにより、目標のロケットプルームの燃焼中において、背景からの赤外線放射との弁別を可能とし、目標を早期に探知できる赤外線検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1における赤外線検出装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における赤外線検出装置に取り込まれる撮像画像を示した図である。
【図3】本発明の実施の形態1における図2の撮像画像に対応する分光放射特性を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1における2つの分光放射特性を個別に示したものである。
【図5】本発明の実施の形態1における広帯域赤外線透過フィルタおよび狭帯域赤外線透過フィルタの分光透過特性を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態1における広帯域赤外線透過フィルタおよび狭帯域赤外線透過フィルタのそれぞれを通過した赤外線分光特性を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態1における目標抽出演算回路により処理される画像を示した図である。
【図8】本発明の実施の形態2における赤外線検出装置の構成図である。
【符号の説明】
【0041】
10 検出信号生成回路、11 フィルタ板、11a 広帯域赤外線透過フィルタ、11b 狭帯域赤外線透過フィルタ、12 光学系、13 赤外線検知器、13a 広帯域用赤外線検知器、13b 狭帯域用赤外線検知器、14 信号分離回路、15 光路分離器、20 目標抽出演算回路、31 撮像画像、32 ロケットプルーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標のロケットプルームが放射する特徴的な分光赤外線放射特性に合致した透過特性を有する狭帯域赤外線透過フィルタと、前記ロケットプルームの高温ガスの赤外線放射を透過する広帯域赤外線透過フィルタとを有し、前記目標のロケットプルームから放射される赤外線に基づいて、前記狭帯域赤外線透過フィルタを通過した後の狭帯域通過電気信号と、前記広帯域赤外線透過フィルタを通過した後の広帯域通過電気信号とを分離生成する検出信号生成回路と、
前記検出信号生成回路で分離生成された前記狭帯域通過電気信号と前記広帯域通過電気信号との差信号または積信号から目標抽出画像を生成する目標抽出演算回路と
を備えたことを特徴とする赤外線検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線検出装置において、
前記検出信号生成回路は、
前記狭帯域赤外線透過フィルタと前記広帯域赤外線透過フィルタとを装着したフィルタ板と、
前記フィルタ板を介して得られる前記目標からの赤外線放射を集光結像する光学系と、
前記光学系を通過した赤外線放射を検知して光電変換後の電気信号を出力する赤外線検知器と、
前記狭帯域赤外線透過フィルタおよび前記光学系を介して前記赤外線検知器で光電変換された狭帯域通過電気信号と、前記広帯域赤外線透過フィルタおよび前記光学系を介して前記赤外線検知器で光電変換された広帯域通過電気信号とを分離生成する信号分離回路と
を備えたことを特徴とする赤外線検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の赤外線検出装置において、
前記検出信号生成回路は、
前記目標のロケットプルームから放射される赤外線を集光結像する光学系と、
前記光学系により集光結像された赤外線を2系統の光路に分割する光路分離器と、
前記光路分離器で分割された一方の光路から、前記狭帯域赤外線透過フィルタを通過した赤外線放射を検知して光電変換することにより前記狭帯域通過電気信号を生成する狭帯域用赤外線検知器と、
前記光路分離器で分割された他方の光路から、前記広帯域赤外線透過フィルタを通過した赤外線放射を検知して光電変換することにより前記広帯域通過電気信号を生成する広帯域用赤外線検知器と
を備えたことを特徴とする赤外線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−164242(P2008−164242A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355609(P2006−355609)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】