説明

赤外線検出装置

【課題】時間変化、環境温度変化によって赤外線検出素子及び信号処理で発生するドリフトを除去し、安定したデジタルデータを出力し、特殊なノウハウを必要とせず、簡単に使用できる赤外線撮像装置を提供する。
【解決手段】並列で処理を行う信号処理系の温度ドリフトにより発生するノイズを内臓CPU101が感度を持たない素子102,104からの出力を読み込み、演算処理、補正データを求め、赤外線検出素子からの出力に対し補正を行うことでノイズを除去したデジタル出力を出すことができ、特別なノウハウを必要とせず簡単に使用できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2次元に配置されたアレイ状の赤外線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の2次元に配置されたアレイ状の赤外線検出装置では特開2005−214639の公報の実施例に見られるように、S/N改善のため、赤外線検出素子に最も近い同一半導体チップ内で列ごとに差動積分回路を持ち、感度を持たない参照画素の出力と、感度を持つ検知素子からの出力との差信号を積分し、入力信号に含まれる温度ドリフトとオフセット分布を抑制し、水平走査回路で切り替えて出力をしている。また、実施例では1列に対し1つの積分回路を持っているが、複数列に対し1つの積分回路を持つ場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−214639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法ではセンサ素子からの出力に含まれる温度ドリフトとオフセット分布は取り除くことができるが、差動積分用積分コンデンサ、各差動積分回路用半導体素子の温度ドリフトによって各列に発生する出力信号のドリフトは防ぐことができず、機器に組み込んだ後定期的にシャッタ等で同一の熱源を見せ、後処理の演算で補正をかけ、各列に発生するオフセットノイズを補正する必要があった。また、補正をかけても時間の経過、環境温度変動とともに温度ドリフトによる列ごとの信号差が縦縞状にノイズとなって現れてくる問題があり、このような問題を回避するために補正間隔を長く取ることができない等、使用に際し特殊なノウハウを必要とし、あらゆる機器に簡単に組み込んで使用するには困難な状態であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために本発明の赤外線検出装置は、2次元に配列された赤外線検出素子の出力を処理する処理回路で発生するドリフトノイズを補正するためのデータを記憶する不揮発性のメモリを持ち、2次元に配列された赤外線検出素子を選択して信号処理回路へ入力する切り替え回路へのコントロール信号を出し、信号処理回路からの出力をサンプルホールド、A/D変換を行い、得られたデータを不揮発性メモリに演算記憶した補正データ、及び、各信号処理系に対し複数配置した感度を持たない参照画素から得られるデータで求めた補正値で信号処理系の温度変化によるドリフト補正を行い、補正したデジタルデータを出力するCPUを、赤外線検出素子を構築した同一シリコンチップ内に内蔵する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、時間変化、環境温度変化によって赤外線検出素子及び信号処理で発生するドリフトを除去し安定したデジタルデータを出力し、特殊なノウハウを必要とせず、簡単に使用できる赤外線撮像装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1に係る赤外線撮像装置の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
2次元に配列された赤外線検出素子として抵抗変化型のボロメータを使用した赤外線撮像装置の実施例で説明を簡単にするため4×4画素の赤外線検出素子を2系列の信号処理回路で処理した場合を想定する。
【0009】
図1では2次元に配列された赤外線検出センサ列103の4列、4行の内、出力B及び出力C、出力D及び出力E、各2列の出力を切り替え1つの信号処理系で信号処理を行うように接続されている。また、各信号処理系108,109に対し感度を持たない参照画素列102からの出力A、参照画素列104からの出力Fが接続されている。
【0010】
工場出荷前に一定常温環境下で、モード切り替え入力信号115を初期設定モードにして赤外線撮像装置に通電を行うと内蔵CPU101は初期設定モードであると判断し、初期設定モードに入る。初期設定モードではCPU101は垂直切り替え回路105に対し垂直方向切り替え信号を、水平切り替え信号108,109に対し水平方向切り替え信号を順次出力し、各画素からの出力を信号処理回路108,109に導き、信号処理、サンプルホールド110でサンプルホールド、A/D変換器112でA/D変換を行い、各画素からの出力変換データをCPU101内蔵の揮発性メモリ114に記憶していく。すべての画素からの信号を変換記憶が終了すると、同様の処理を繰り返し、各画素の変換データと前回記憶した変換データとの差分を取りながら、全画素の差分が設定値以下になるまで同じ処理を繰り返す。各画素の差分がすべて設定値以下になるとCPU101は赤外線撮像装置が熱的に安定な状態になったと判断し、参照画素列102に含まれる4素子の変換データの平均を求め信号処理回路108及び、信号処理回路108で処理される赤外線検出センサ列103の補正データとして不揮発性メモリ114に記憶する。次に、参照画素列104に含まれる4素子の変換データの平均を求め信号処理回路109及び、信号処理回路109で処理される赤外線検出センサ列103の補正データとして不揮発性メモリ114に記憶する。
【0011】
工場出荷後赤外線検出装置を機器に組み込んだ場合、モード切り替え信号115は計測モードに固定され、機器に電源が投入されると内臓CPU101は計測モードに入る。計測モードではCPU101は初期設定モードと同様に垂直方向切り替え回路105に対し垂直方向切り替え信号を、水平方向切り替え回路106,107に対し水平方向切り替え信号を順次出力、各画素からの出力を信号処理回路108,109に導き、信号処理回路108,109で信号処理、サンプルホールド回路110、111でサンプルホールド、A/D変換器112でA/D変換を行い、変換データをCPU101内蔵の揮発性メモリに記憶していく。しかし、この時はまだデジタルデータとしては出力しない。この変換データは温度変化によるセンサ素子のドリフト出力と、処理回路108、109による温度ドリフトを含んだ値となっている。そのドリフト値を減算処理するため、すべての画素からの信号の変換記憶が終了するとCPU101は揮発性メモリに記憶したデータの中から参照画素列102に含まれる4画素の変換データの平均を求め、工場出荷前初期設定モードで不揮発性メモリ114に記憶した参照画素列102の平均データとの差分を求める。この差分データはセンサ出力と信号処理回路108の初期設定モード時の温度からの温度差による温度ドリフトの値となっている。その差分を赤外線センサ列103の出力B、出力Cで出力され信号処理回路108で処理記憶した各画素の変換データから減算し補正後のデジタルデータとして出力する。
同様に、CPU101は揮発性メモリに記憶したデータの中から参照画素列104に含まれる4画素の変換データの平均を求め、工場出荷前初期設定モードで不揮発性メモリ114に記憶した参照画素列104の平均データとの差分を求める。この差分データはセンサ出力と信号処理回路109の初期設定モード時の温度からの温度差による温度ドリフトの値となっている。その差分を赤外線センサ列103の出力D、出力Eで出力され信号処理回路109で処理記憶した各画素の変換データから減算し補正後のデジタルデータとして出力する 。
【0012】
以上の処理を繰り返すことにより環境温度変化によるセンサ素子出力の温度ドリフト、各信号処理回路の温度ドリフトを補正し、赤外線検出信号を安定したデジタルデータに変換し出力する。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明の赤外線検出装置が出力するデジタルデータは環境温度変化によるドリフトを補正したデジタルデータとなるため、機器に組み込んで使用する場合、特別な補正ノウハウを必要とせず使用することができ、あらゆる分野で簡単に使用できる赤外線検出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0014】
101 補正演算処理用CPU+揮発性メモリ
102 参照画素列
103 赤外線検出センサ列
104 参照画素列
105 垂直方向切り替え回路
106 水平方向切り替え回路
107 水平方向切り替え回路
108 信号処理回路
109 信号処理回路
110 サンプルホールド回路
111 サンプルホールド回路
112 A/D変換器
113 バイアス回路
114 不揮発性メモリ
115 モード切り替え回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元に配置されたアレイ状の赤外線検出素子からの出力を並列に配置された複数の信号処理系で処理する場合、その信号処理系の温度ドリフト等で発生するノイズを演算補正除去するためのCPU、各画素から読み込んだデータを格納するための揮発性メモリと、あらかじめ計測した補正データを記憶しておく不揮発性メモリを、赤外線検出素子を構築した同一シリコンチップ内に内蔵することを特徴とする赤外線検出装置。
【請求項2】
数列のセンサ列を切り替え1つの信号処理系で信号処理を行い、その信号処理系を複数持つ場合、それらの信号処理系に対し、信号処理系の温度ドリフトで等で発生するノイズを補正するため、赤外線検出素子とは独立した感度を持たない参照素子を持つことを特徴とする赤外線検出装置。
【請求項3】
内蔵したCPUは2次元配置されたアレイ状の赤外線検出素子からの信号を選択し、並列に配置された信号処理系に出力するコントロール信号を出力することを特徴とする請求項1項に記載の赤外線検出装置。
【請求項4】
内蔵したCPUは動作モードに初期設定モードと計測モードを持つことを特徴とする請求項1項記載の赤外線検出装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−83534(P2013−83534A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223176(P2011−223176)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000229081)日本セラミック株式会社 (129)
【Fターム(参考)】