説明

赤外線遮蔽膜形成用分散液と赤外線遮蔽膜形成用塗布液、赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材、および、プラズマディスプレイパネル用多層フィルターとプラズマディスプレイパネル

【課題】高い可視光透過率と近赤外線吸収性を維持したまま低いヘイズを有するプラズマディスプレイパネル用多層フィルターの赤外線遮蔽膜とその製造に用いられる赤外線遮蔽膜形成用塗布液等を提供する。
【解決手段】赤外線遮蔽膜形成用塗布液は、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子、炭酸亜鉛等の典型金属化合物および未硬化で水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂が溶媒中に含まれることを特徴とし、上記赤外線遮蔽膜は、赤外線遮蔽膜形成用塗布液により形成された塗布膜をエージング処理して得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材に係り、特に、皮膜形成用材料としてリワーク性に優れる水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)が適用された赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材、並びに、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略すことがある)用多層フィルターとプラズマディスプレイパネル等の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶テレビ等の薄型テレビの需要が高まっている。そして、ディスプレイの大型化・薄型化に伴い、液晶テレビと比較して大型化が容易でかつ動画再生に優れるPDPが注目されている。このPDPの一般的構成について図面を参照しながら説明する。図1は、交流型(AC型)のPDP発光部の概略を示す拡大断面図である。図1において、符号11は、前面ガラス基板(フロントカバープレート)であり、この前面ガラス基板11上に表示電極12が形成されている。更に、この表示電極12が形成されている前面ガラス基板11は、誘電体ガラス層13および酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層14により覆われている。また、符号15は、背面ガラス基板(バックプレート)であり、この背面ガラス基板15上には、アドレス電極16および隔壁17、蛍光体層18が設けられており、符号19は放電ガスを封入する放電空間となっている。
【0003】
そして、PDPの発光原理は、表示電極12とアドレス電極16との間に電圧を印加することにより放電空間19にて放電させ、当該放電空間に導入してあるキセノンとネオンとの混合ガスを励起して真空紫外線を放射させ、当該真空紫外線により、それぞれ、赤、緑、青の蛍光を発する蛍光体層18を発光させてカラー表示を可能にさせている。
【0004】
ところが、キセノンガスからは上記真空紫外線以外に近赤外線も発生し、当該近赤外線の一部はPDP前方に放射される。特に800nm〜1100nmの波長域を有する近赤外線は、コードレスフォンや家電機器のリモコンに誤動作を引き起こし、伝送系光通信に悪影響を及ぼし、電磁波による人体への悪影響等の問題が生じている。このため、上記誤動作等を防止する目的で、PDPの前面には赤外線遮蔽膜や電磁波遮断膜等を積層させて構成した多層フィルター(以下、積層体と表現する場合もある)が設けられている。
【0005】
上記多層フィルターにおける赤外線遮蔽膜は、近赤外線吸収材料を含有する皮膜(多層フィルターを構成する上記赤外線遮蔽膜や電磁波遮断膜等の各皮膜については一般に「基材」と呼ばれている)により構成されるが、当該近赤外線吸収材料には、PDPの輝度に悪影響を及ぼさないよう可視光線領域(波長域、約380nm〜780nm)の光は十分透過し、波長域800nm〜1100nmの近赤外線は遮蔽すると共に、この近赤外線吸収材料を含有する皮膜の混濁(以後、ヘイズと呼ぶことがある)が少ない特性が要求され、この種の近赤外線吸収材料として、従来は、有機染料等の有機化合物や金属錯体が用いられていた。
【0006】
そして、有機化合物や金属錯体等の近赤外線吸収材料を含有する赤外線遮蔽膜を形成する場合、有機化合物や金属錯体をそれぞれ溶媒に溶解させたものをPDP面上に直接コーティングする方法が一般的に行われている。ここで、有機化合物や金属錯体等の近赤外線吸収材料としては、ジイモニウム系化合物、アミニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、有機金属錯体、シアニン系化合物、アゾ化合物、ポリメチン系化合物、キノン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、トリフェニルメタン系化合物等が挙げられるが、これ等は、熱や光に対して耐性が低く、経時的に劣化し易いため、これ等有機化合物や金属錯体を単独で使用した場合、性能を長期保持するのが困難であるという問題があった。また、熱や光に対して耐性が低い有機化合物や金属錯体等を用いて赤外線遮蔽膜を設ける場合、外環境の影響を受けやすいPDPの視認面側表面近傍に赤外線遮蔽膜を設けることができないため、PDPの視認面側またはPDP貼合側に独立した別の層を設けて赤外線遮蔽膜の耐久性能を補完する必要があった。このため、多層フィルター(積層体)としての構造に制約があり、積層数の増加から生産性の低下やコストの上昇を引き起こしていた。
【0007】
このような技術的背景の下、特許文献1では、熱や光に対し耐性の低い有機化合物や金属錯体に代えて、上記近赤外線吸収材料(赤外線遮蔽材料)が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子で構成され、かつ、当該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体、および、この赤外線遮蔽材料微粒子分散体の光学特性や導電性、製造方法等について開示され、また、特許文献2では、上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子が用いられた赤外線遮蔽膜を有するPDP用多層フィルター(積層体)が提案されている。
【0008】
また、特許文献3には、基材フィルムの一方の面に、硬化樹脂と酸化タングステン系化合物等の赤外線遮蔽材料を含むハードコート層および硬化樹脂を含む低屈折率層を順次積層して構成された反射防止フィルムが開示され、かつ、この反射防止フィルムをPDPの前面板に貼り付けて成るPDP用多層フィルター(積層体)が提案されている。
【0009】
更に、特許文献4には、PDP等の透明基板上に接着剤層が積層され、この接着剤層に幾何学図形の導電層が埋設されて成る電磁波シールド性接着フィルムが開示され、かつ、この電磁波シールド性接着フィルムをPDP等のディスプレイ表面に貼り合わせた電磁波シールド性ディスプレイが提案されている。
【0010】
また、ディスプレイの大型化に伴って、PDPのいっそうの軽量化・薄型化が求められると共に、パネルの耐衝撃性の向上も重要な課題となったため、上述した赤外線遮蔽膜や電磁波遮蔽(電磁波シールド)層等に加えて、特許文献5では、視野面側からの衝撃に対して緩和するような衝撃緩和性に優れた粘着剤層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO2005/037932号公報
【特許文献2】特開2006−154516号公報
【特許文献3】特開2006−201463号公報
【特許文献4】特開2000−323891号公報
【特許文献5】特開2005−023133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記有機化合物や金属錯体等と較べて熱や光に対し耐性を有するタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子(赤外線遮蔽材料微粒子)が用いられたPDP用多層フィルター(積層体)の上記赤外線遮蔽膜において、皮膜形成用の材料成分として低粘着性でリワーク性に優れる水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)を適用した場合、赤外線遮蔽膜の混濁が多くなってしまう(すなわち、ヘイズが悪化してしまう)問題が確認され、この問題を改善する必要が存在した。
【0013】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、皮膜形成用の材料成分として低粘着性でリワーク性に優れる水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)が適用された場合でも、ヘイズを悪化させない赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材を提供し、かつ、これ等赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材を有するプラズマディスプレイパネル用多層フィルターとプラズマディスプレイパネルを提供すると共に、上記赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材を形成する赤外線遮蔽膜形成用分散液と赤外線遮蔽膜形成用塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、皮膜形成用の材料成分として低粘着性でリワーク性に優れる水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)を適用した場合、得られる赤外線遮蔽膜のヘイズが悪化してしまう原因について本発明者等が鋭意研究を行なったところ、水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)とタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子との相溶性に難があり、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)とを混合させた際に微粒子の凝集が起こって、粘着樹脂中にタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散させることが困難なためであることが確認された。そして、更に研究した結果、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と典型金属化合物とを混在させた場合、上記ヘイズの悪化が改善されることを発見するに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されている。
【0015】
すなわち、請求項1に係る発明は、
赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に分散された分散液により構成され、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂が使用時に添加される赤外線遮蔽形成用分散液において、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により上記赤外線遮蔽材料微粒子が構成されると共に、典型金属化合物が上記溶媒に含まれていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液において、
上記典型金属化合物が、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pd、Sb、Bi、Poから選択された典型金属を含む、酸化物、炭酸塩、塩化物、水酸化物であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液において、
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液において、
一般式MxWyOzで表記される上記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶若しくは立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項4に記載の発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液において、
上記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内の1種類以上を含み、かつ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とする。
【0017】
次に、請求項6に係る発明は、
赤外線遮蔽膜形成用塗布液において、
請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液に、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂と、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤が添加されて成ることを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項6に記載の発明に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液において、
上記アクリル系粘着樹脂が、アクリル酸エステル骨格を備え、かつ、水酸基を主な架橋基に持つことを特徴とする。
【0018】
また、請求項8に係る発明は、
赤外線遮蔽膜において、
プラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に請求項6または7に記載の赤外線遮蔽膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜をエージング処理して得られた粘着性を具備することを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
赤外線遮蔽光学部材において、
上記第一基材と、この第一基材面上に形成された請求項8に記載の赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
プラズマディスプレイパネル用多層フィルターにおいて、
粘着性を具備する請求項8に記載の赤外線遮蔽膜を多層フィルターの第二基材面上に貼付することを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
請求項10に記載の発明に係るプラズマディスプレイパネル用多層フィルターにおいて、
上記赤外線遮蔽膜内に、電磁波遮蔽機能を有するメッシュまたは/および繊維状の金属層若しくは金属含有層が埋め込まれていることを特徴とし、
また、請求項12に係る発明は、
プラズマディスプレイパネルにおいて、
請求項11に記載のプラズマディスプレイパネル用多層フィルターが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に分散された分散液により構成され、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂が使用時に添加される本請求項1に係る赤外線遮蔽形成用分散液は、上記赤外線遮蔽材料微粒子が一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成され、かつ、溶媒中に典型金属化合物が含まれていることを特徴としている。
【0020】
そして、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液に、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂、および、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤が添加されて成る本請求項6に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液を用いて形成された本発明の赤外線遮蔽膜によれば、
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と典型金属化合物が混在することで、これ等酸化物微粒子が水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂中に均一に分散されるため、高い可視光透過率と近赤外線吸収性を維持したままヘイズの悪化を防止することが可能となる。
【0021】
また、上記赤外線遮蔽膜およびこの赤外線遮蔽膜を具備する本発明の赤外線遮蔽光学部材が適用された本発明に係るプラズマディスプレイパネル用多層フィルター並びにプラズマディスプレイパネルにおいても、同様に、高い可視光透過率と近赤外線吸収性を維持したままヘイズの悪化を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】プラズマディスプレイパネルの概略構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
まず、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂が使用時に添加される本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液は、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子と典型金属化合物が溶媒中に含まれていることを特徴とし、また、本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液は、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液に、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂と、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤が添加されて成ることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る赤外線遮蔽膜は、上記赤外線遮蔽膜形成用塗布液をプラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜をエージング処理して得られた粘着性を具備することを特徴とし、本発明に係る赤外線遮蔽光学部材は、上記第一基材とこの第一基材面上に形成された上記赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とする。
【0026】
次に、本発明に係るプラズマディスプレイパネル用多層フィルターは、粘着性を具備する上記赤外線遮蔽膜を多層フィルターの第二基材面上に貼付して組み込んだことを特徴とし、本発明に係るプラズマディスプレイパネルは、プラズマディスプレイパネル用多層フィルターが設けられていることを特徴とするものである。
【0027】
以下、順次説明する。
【0028】
1.赤外線遮蔽膜形成用分散液
未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂が使用時に添加される本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液は、4〜89重量部の溶媒中に、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子から選択される1種以上の赤外線遮蔽材料微粒子を10〜80重量部含み、かつ、上記赤外線遮蔽材料微粒子に対して1〜50重量の典型金属化合物、同じく上記赤外線遮蔽材料微粒子に対して1〜40重量部のアクリル系高分子分散剤が添加された分散液である。また、上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の平均分散粒径は800nm以下であることが望ましく、より好ましくは平均分散粒径が100nm以下がよい。
【0029】
(a)溶媒
赤外線遮蔽膜形成用分散液に用いる上記溶媒は、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂の架橋反応を阻害しないことが求められる。アクリル酸エステル骨格を備えかつ水酸基を主な架橋基に持つ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂は、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤によって、アクリル系の高分子同士が架橋して硬化する。
【0030】
そして、溶媒には、上記硬化剤と律速的に反応し、アクリル系高分子と硬化剤との架橋反応を阻害するカルボキシル基(COOH基)や水酸基(OH基)を含有しない、ケトン類、エステル類、炭化水素類、エーテル類から選ばれた1種類以上であることが好ましい。代表例として、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン等の炭化水素類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。中でも、ケトン類、エステル類は危険性や毒性が低く、しかも取り扱いが容易な溶媒であることからより好ましい。
【0031】
尚、イソシアネート系架橋剤を用いる場合、アルコール類と副反応して不活化することのないブロックイソシアネートを用いることができる。ブロックイソシアネートを用いる場合は、溶媒としてアルコール類を用いることも問題にならない。アルコール類の代表例として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール等が挙げられる。
【0032】
また、イソシアネート系架橋剤の他に、上述したエポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤を用いることができる。
【0033】
(b)タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子
本発明において適用される赤外線遮蔽材料微粒子は、上述したように一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される。
【0034】
一般式WyOz(2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子として、例えば、W1849、W2058、W11等を挙げることができる。z/yの値が2.2以上であれば、赤外線遮蔽材料中に目的外であるWOの結晶相が現れるのを完全に回避することができると共に、材料の化学的安定性を得ることができる。一方、z/yの値が2.999以下であれば、十分な量の自由電子が生成され効率よい赤外線遮蔽材料となる。そして、z/yの範囲が2.45≦z/y≦2.999であるようなWyOz化合物は、いわゆるマグネリ相と呼ばれる化合物で耐久性に優れている。
【0035】
また、一般式MxWyOz(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子としては、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を有することが好ましい。例えば、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子の場合であれば、好ましいM元素として、Cs、Rb、K、Ti、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素から選択された1種類以上の元素を含む複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。このとき添加されるM元素の添加量xは、x/yにおいて0.001以上1以下が好ましく、より好ましくは0.33付近がよい。これは、六方晶の結晶構造から理論的に算出されるx/yの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるためである。一方、酸素の存在量zは、z/yで2.2以上、3.0以下が好ましい。典型的な例としてはCs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WO等を挙げることができるが、x、y、zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な近赤外線吸収、赤外線遮蔽特性を得ることができる。
【0036】
これ等タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子は、各々単独で使用してもよいし、混合して使用することも望ましい。
【0037】
上記該タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子から選ばれた少なくとも1種類以上を赤外線遮蔽膜形成用分散液に用いる場合、平均分散粒径は800nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下がよい。タングステン酸化物や複合タングステン酸化物の平均分散粒径が800nmを超えた場合、幾何学散乱またはミー散乱によって、波長380nm〜780nmの可視光線領域の光を散乱してしまうことから、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液を用いて作製したPDP用多層フィルターにおける赤外線遮蔽膜の外観は曇りガラスのようになり、鮮明な画面表示が得られず好ましくない。平均分散粒径が200nm以下になると、幾何学散乱またはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域において、散乱光は平均分散粒径の6乗に反比例して低減するため、可視光線の散乱が低減して鮮明な画面表示が可能となる。更に、平均分散粒径が100nm以下になると散乱光は非常に少なくなることから好ましい。また、平均分散粒径が800nm以下では、平均分散粒径の減少に伴いヘイズも減少していく。
【0038】
(c)典型金属化合物
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、上述した水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)と相溶性が悪く、これ等酸化物微粒子と粘着樹脂を混合した際に酸化物微粒子の凝集が起こり、酸化物微粒子を粘着樹脂中に均一分散させることが困難となる。しかし、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と典型金属化合物を混在させた場合、これ等酸化物微粒子を水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂中へ均一に分散させることが可能となる。上記典型金属化合物が、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と上記粘着樹脂との相溶性を向上させる働きがあるためと考えられる。
【0039】
好ましい典型金属化合物として、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pd、Sb、Bi、Poから選択された典型金属を含む、酸化物、炭酸塩、塩化物、水酸化物が挙げられる。
【0040】
(d)高分子分散剤
本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液には高分子分散剤が含まれることが好ましい。上記分散液に高分子分散剤が添加されることにより、赤外線遮蔽膜用分散液の経時変化による分散安定性を向上させることが可能となる。そして、高分子分散剤の中でも、上述したアクリル系高分子分散剤は、水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂と相溶性がよく、赤外線遮蔽膜としたとき光学特性(ヘイズ)に悪影響を及ぼさない特徴がある。上記アクリル系高分子分散剤としては、酸価0〜23mgKPH/g、アミン価30〜50mgKPH/gのアクリル系高分子分散剤が好ましい。一般的なアクリル系高分子分散剤は、アミン価が上記数値量のものが多く、酸価をもたせたものは少ない。
【0041】
また、分散剤には、ミセルまたは逆ミセルを形成させることで表面電荷による反発力を増加させ、微粒子を分散安定化させる界面活性剤があるが、粘度の高い未硬化のアクリル系粘着樹脂溶液中で微粒子の分散を保持するには、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子表面に吸着し、立体障害により分散性を発現する高分子分散剤が好ましい。
【0042】
また、分散方法としては湿式法が有効である。平均分散粒径が800nm以下の微粒子を得るためには、せん断応力による粉砕が有効であり、溶媒、タングステン酸化物または/および複合タングステン酸化物、典型金属化合物、上記分散剤を装置内に入れ、せん断応力により粉砕分散することが好ましい。代表的な装置例としては、ボールミル、サンドミル、媒体攪拌ミル、超音波照射等が挙げられる。
【0043】
また、上記典型金属化合物を赤外遮蔽膜形成用分散液に添加させる方法としては、典型金属化合物、分散剤、溶媒からなる典型金属化合物の分散液を調製し、赤外線遮蔽形成用分散液中へ典型金属化合物の分散液を添加する方法でもよいし、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物と典型金属酸化物をアクリル系高分子分散剤を含む溶媒中で直接分散させる方法でもよく任意である。
【0044】
2.赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材
本発明に係る赤外線遮蔽膜は、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂と、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤を上述した赤外線遮蔽膜形成分散液に添加して赤外線遮蔽膜形成塗布液を構成し、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液をプラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に塗布して塗布膜を形成しかつこの塗布膜をエージング処理して得られる。尚、赤外線遮蔽膜において粘着性を有する赤外線遮蔽膜を赤外線遮蔽粘着膜と言うことがある。以下、具体的に説明する。
【0045】
(a)水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂
水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂は、アクリル酸エステル骨格を備えかつ水酸基を主な架橋基に有している。具体的には、アクリル酸アルキルエステルまたは/およびメタクリル酸アルキルエステル(a−1)が挙げられ、この(a−1)と共重合可能な水酸基を有するモノマー(a−2)を重合して成るポリマーでもよく、上記(a−1)または/および(a−2)と共重合可能なその他のモノマー(a−3)を含有していてもよい。

(a−1):アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステル
上記アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸のC1〜15の直鎖、分岐鎖または環状アルキルエステルが挙げられる。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸-t-ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸-sec-ブチル、アクリル酸-t-ブチル、アクリル酸-n-ペンチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-ヘプチル、アクリル酸-n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0046】
また、上記メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸のC1〜15の直鎖、分岐または環状アルキルエステルが挙げられ、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸-sec-ブチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸-n-ペンチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボニル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0047】
中でも、アルキル基の炭素(C)数が4〜8のアクリル酸アルキルエステルを使用すると、得られる粘着剤の粘着力、柔軟性が良好になるため好ましく、特に、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシルが好ましい。

(a−2):(a−1)と共重合可能な水酸基を有するモノマー
上記(a−1)と共重合可能な水酸基を有するモノマーとしては、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸-3-ヒドロキシブチル、メタクリル酸-3-ヒドロキシブチル、アクリル酸-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル、アクリル酸-2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル等の水酸基含有モノマーが例示される。

(a−3):(a−1)または/および(a−2)と共重合可能なその他のモノマー
上記(a−1)または/および(a−2)と共重合可能なその他のモノマーとしては、粘着性を向上させるため少量の付加が行われることもあり、例えば、1以上のカルボキシル基を分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル-β-カルボキシエチル、メタクリル酸-β-カルボキシエチル、アクリル酸-5-カルボキシペンチル、メタクリル酸-5-カルボキシペンチル、コハク酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマーが挙げられる。
【0048】
また、1以上のアクリル酸アルコキシエステル基を分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、アクリル酸-2-メトキシエチル、アクリル酸-2-エトキシエチル、アクリル酸-2-メトキシプロピル、アクリル酸-3-メトキシプロピル、アクリル酸-2-メトキシブチル、アクリル酸-4-メトキシブチル等のアクリル酸アルコキシエステルが挙げられる。
【0049】
また、1以上のメタクリル酸アルコキシエステルを分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、メタクリル酸-2-メトキシエチル、メタクリル酸-2-エトキシエチル、メタクリル酸-2-メトキシプロピル、メタクリル酸-3-メトキシプルピル、メタクリル酸-2-メトキシブチル、メタクリル酸-4-メトキシブチル等のメタクリル酸アルコキシエステルが挙げられる。
【0050】
また、1以上のアクリル酸アルキレングリコールを分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、アクリル酸エチレングリコール、アクリル酸ポリエチレングリコール、アクリル酸プロピレングリコール、アクリル酸ポリプロピレングリコール等のアクリル酸アルキレングリコールが挙げられる。
【0051】
また、1以上のメタクリル酸アルキレングリコールを分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、メタクリル酸エチレングリコール、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸プロピレングリコール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール等のメタクリル酸アルキレングリコールが挙げられる。
【0052】
また、1以上のアクリル酸アリールを分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸アリールが挙げられる。
【0053】
また、1以上のメタクリル酸アリールを分子内に有する不飽和結合を有する化合物が挙げられる。例えば、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸アリールが挙げられる。
【0054】
その他、酢酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸アリル等が挙げられる。
【0055】
(b)硬化剤
上記硬化剤としては、例えば、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された硬化剤が挙げられる。
【0056】
中でも、イソシアネート系架橋剤が好ましく、特に、イソシアネート系架橋剤と金属キレート架橋剤を併用することが好ましい。
【0057】
上記イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサヘチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメリルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物;それらをトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと付加させた化合物、これらポリイソシアネート化合物のビュレット型化合物やイソシアヌレート化合物;これらポリイソシアネート化合物と公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等と付加反応させたウレタンプレポリマー型の分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。
【0058】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N, N, N’, N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N, N’-ジアミングリシジルアミノメチル)シクトヘキサン等の分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0059】
また、上記金属キレート架橋剤としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属にアセチレン、アセト酢酸エチルが配位した化合物が挙げられる。
【0060】
そして、上述した赤外線遮蔽膜形成用分散液に、未硬化で水酸基タイプのアクリル系PSAと上記硬化剤が添加されて成る赤外線遮蔽膜形成用塗布液を、プラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜をエージング処理することにより塗布膜内の溶媒が除去されると共にアクリル系樹脂の架橋反応が起こって上記赤外線遮蔽膜が形成される。尚、上記エージング処理の一例として架橋反応が進行する温度をかける処理が挙げられる。
【0061】
上記赤外線遮蔽膜形成用塗布液は、上述したようにプラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に塗布される。尚、プラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材とは、多層フィルターを構成しかつ赤外線遮蔽膜以外の電磁波遮断膜や後述する外力吸収層等任意の皮膜本体、あるいは、赤外線遮蔽膜本体が形成される被成膜体(この場合、赤外線遮蔽膜本体と被成膜体とで多層フィルターにおける赤外線遮蔽膜を構成する。同様に、上記電磁波遮断膜等も被成膜体を具備する場合、これ等被成膜体も各皮膜の構成要素となる)等が該当する。また、上記第一基材は、プラズマディスプレイパネル面上に直接設けられた多層フィルターの任意基材(表面に露出する基材が該当)であってもよいし、プラズマディスプレイパネル面上へ貼付される前の多層フィルターの任意基材でもよい。
【0062】
そして、赤外線遮蔽膜形成用塗布液が塗布される被成膜体は、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明の被成膜体基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)等のポリエチレン類、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ふっ素樹脂等が各種目的に応じて樹脂として使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0063】
また、赤外線遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法としては、プラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に塗布膜を均一に形成できればよく、特に限定されないが、ドクターブレード法、バーコート法、グラビヤコート法、ディップコート法、スリットコート法等が例示される。
【0064】
そして、前記赤外線遮蔽膜に含まれる上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子は可視光領域での吸収が少ない材料であるため、PDPパネル内に設置しても意匠性を損なうことなく用いることができる。尚、微粒子の平均分散粒径が小さくなるに従ってレイリー散乱が減衰し、ヘイズ値が減少する特徴を有する。
【0065】
本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液の塗布膜をエージング処理して得られた粘着性を有する上記アクリル系樹脂は、上述した硬化剤の作用によりアクリル酸エステル骨格を備えかつ水酸基を主な架橋基に有する共重合体の架橋反応により生成した高重合体のため機械強度が向上する。更に、アクリル系樹脂中に含まれるエラストマーによるびす効果、赤外線遮蔽膜(粘着層)とガラス基板若しくはポリマー樹脂基板界面に生じるファンデルワールス力、シラン化合物(イソシアネート基、エポキシ基、メルカプト基等の有機反応基とアルコシキ基の両者をもつシランカップリング剤、有機反応基を2つ以上有するシラン化合物等)を橋渡しとした化学結合が粘着性能に寄与する。
【0066】
そして、本発明において水酸基タイプのアクリル系PSA(粘着樹脂)が適用される理由は、PDPパネル内においてガラス基板、ポリエステル(PET)基板等の異なる材質同士を接着する際に、上記水酸基タイプのアクリル系PSAは粘着特性に優れかつヘイズ値が低く透明性に優れるからである。更に、カルボキシル基を主な架橋基に持つアクリル系PSA(酸基タイプのアクリル系PSAと呼ぶことがある)を適用した場合と比較し、水酸基タイプのアクリル系PSAを用いた赤外線遮蔽膜は、リワーク性に富むこと、メッシュ状、金属微粒子状の電磁波遮断層を腐食させ難い等の特徴を有するからである。
【0067】
次に、本発明に係る赤外線遮蔽光学部材は、赤外線遮蔽膜形成用塗布液が塗布される第一基材とこの第一基材面上に形成された赤外線遮蔽膜とで構成され、赤外線遮蔽膜についてはこれを上述した赤外線遮蔽粘着膜で構成してもよい。そして、赤外線遮蔽膜が赤外線遮蔽粘着膜により構成される場合、この赤外線遮蔽光学部材を多層フィルターの第二基材面上に直接貼付することが可能になるため、粘着膜が赤外線遮蔽機能を兼ね備える分、製造コストの低減が図れる効果がある。尚、多層フィルターの第二基材とは、多層フィルターを構成しかつ赤外線遮蔽膜以外の電磁波遮断膜や外力吸収層等任意の皮膜が該当する。また、上記赤外線遮蔽粘着膜には、ネオンカット色素、色調補正色素が含有されていてもよい。
【0068】
3.プラズマディスプレイパネル用多層フィルターとプラズマディスプレイパネル
本発明に係るプラズマディスプレイパネル用多層フィルターは、プラズマディスプレイパネルに適用されると共に、本発明に係る赤外線遮蔽光学部材が組み込まれた多層フィルターである。また、多層フィルターとは、赤外線遮蔽膜、電磁波遮断膜、外力吸収層等複数の基材(上述した第一基材、第二基材等を含む)を積層して構成されるもので、上記赤外線遮蔽膜、電磁波遮断膜、外力吸収層等が被成膜体を具備する場合には、赤外線遮蔽膜本体と被成膜体から成る赤外線遮蔽膜、電磁波遮断膜本体と被成膜体から成る電磁波遮断膜、外力吸収層本体と被成膜体から成る外力吸収層等により構成される。そして、複数の基材で構成される多層フィルター(積層体)は、各基材の構成材料を含んだ塗布液等をプラズマディスプレイパネル面上に直接塗布する等して多層フィルター(積層体)を形成する場合、複数の基材で構成される別体の多層フィルター(積層体)を予め作製し、この多層フィルター(積層体)をプラズマディスプレイパネル面上に貼付する等して多層フィルター(積層体)を形成する場合、あるいは、これ等方法を適宜組み合わせて多層フィルター(積層体)を形成する場合等がある。
【0069】
他方、本発明に係るプラズマディスプレイパネルは、本発明に係る上記プラズマディスプレイ用多層フィルターが組み込まれたプラズマディスプレイパネルである。
【0070】
尚、上記赤外線遮蔽膜については、赤外線遮蔽膜内に電磁波遮蔽機能を有するメッシュ状または/および繊維状の金属層若しくは金属含有層が組み込まれた構造にすることにより、電磁波遮蔽機能を合わせて持たせることができ、赤外線遮蔽機能、電磁波機能、接着機能の3種類の機能を1つの層で達成できるため好ましい。
【0071】
上記メッシュ状の電磁波遮蔽層については、電磁波遮蔽能を有するものであればその種類等は特に限定されるものではない。代表例としては、Cu、Fe、Ni、Cr、Al、Au、Ag、W、Ti、あるいは、これら合金から成る金属箔をメッシュ状に加工したもの、カーボンブラック、Cu、Ni等の導電性微粒子をバインダー樹脂に分散させたインクをメッシュ状にパターン印刷したもの等が挙げられる。
【0072】
更に、上記赤外線遮蔽膜について衝撃緩和性に優れた赤外線遮蔽粘着膜で構成した場合、外力吸収機能が付加されて、パネルに加えられた衝撃を緩和し、PDPの破損を防ぐことができる。そして、これまで別々に設けてきた外力吸収層と赤外線遮蔽膜と粘着層を1つの層で達成することができ、更に、上記メッシュ状の電磁波遮蔽層等を埋め込むことにより電磁波遮蔽能をも合わせることができるため好ましい。
【0073】
このように本発明に係る赤外線遮蔽膜においては、赤外線遮蔽材料微粒子が一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成されるため、有機材料の赤外線遮蔽材料が適用された場合と比較して高い近赤外線吸収特性を長期に亘り維持することができ、更に、赤外線遮蔽膜内には典型金属化合物が含まれていることから上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子が水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂中に均一に分散されるため、高い可視光透過率と近赤外線吸収性を維持したままヘイズの悪化を防止することが可能となる。
【0074】
従って、上記赤外線遮蔽膜を有する多層フィルターが組み込まれたプラズマディスプレイパネルにおいては、ヘイズが低くかつ優れた可視光透過性と赤外線遮断効果を長期に亘って持続させることができるため工業的に極めて有用である。
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれ等の実施例に限定されるものではない。
【0076】
尚、実施例等における光の透過率、ヘイズの測定は、ヘイズ・透過率計(村上色彩技術研究所製:HM−150W)を使用し、JIS A 7105に準ずる方法で測定した。
【0077】
また、近赤外線遮蔽機能を持つ粘着体(赤外線遮蔽粘着膜)の乾燥膜厚は25μmとした。
【実施例1】
【0078】
赤外線遮蔽材料微粒子としてCs0.33WO粉末(住友金属鉱山社製)を20.0重量部、メチルイソブチルケトン(関東化学社製)を64.0重量部、アクリル系高分子分散剤A(アミン価42mgKPH/g、固形分40%)を16.0重量部混合し、かつ、メディアミルにて粉砕分散処理して平均粒径80nmの赤外線遮蔽材料微粒子が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Aを得た。
【0079】
また、典型金属化合物として炭酸亜鉛を10.0重量部、上記メチルイソブチルケトンを80.0重量部、上記アクリル系高分子分散剤Aを10.0重量部混合し、かつ、ペンイトシェーカーにて粉砕分散処理して典型金属化合物分散液Aを得た。
【0080】
そして、赤外線遮蔽材料微粒子であるCs0.33WO重量に対して、3%以上の炭酸亜鉛(典型金属化合物)が含有されるように、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Aと典型金属化合物分散液Aとを混合して赤外線遮蔽膜形成用分散液Bを調製した。
【0081】
次に、水酸基タイプのアクリル系PSA(総研化学社製 SKダイン−2300:固形分18.2%)を、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Bに、PSA/Cs0.33WO=100/10(固−固比)で添加し、かつ、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(総研化学社製 L−45)を上記PSA/硬化剤=100/0.16(液−液比)で混合して実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Aを得た。
【0082】
実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Aは、目視評価で白濁もなく透明性に優れ、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOも均一分散されていることが確認された。
【0083】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Aを、100μm厚用ドクターブレードを用いてPET樹脂フィルム(東亜合成社製:HPE−50)上に成膜し、かつ、90℃で3分の熱処理を行なって実施例1に係る赤外線遮蔽膜Aを作製し、3mm厚のガラス基板上に上記赤外線遮蔽膜Aを貼り付けて実施例1に係る赤外線遮蔽層Aを得た。
【0084】
この赤外線遮蔽層Aの光学特性を測定したところ、可視光透過率は75.0%、ヘイズは1.0%であり、可視光を十分に透過して高い透明性を保っていることが確認された。
【実施例2】
【0085】
上記Cs0.33WO粉末(住友金属鉱山製)を20.0重量部、典型金属化合物として酸化亜鉛(堺化学社製)を0.6重量部、メチルイソブチルケトン(関東化学社製)を64.4重量部、および、アクリル系高分子分散剤B(アミン価56mgKPH/g、固形分80%)を15.0重量部混合し、かつ、メディアミルにて粉砕分散処理して平均粒径80nmの赤外線遮蔽材料微粒子と典型金属化合物が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Cを得た。
【0086】
次に、水酸基タイプのアクリル系PSA(総研化学社製 SKダイン−2300:固形分18.2%)を、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Cに、PSA/Cs0.33WO=100/10(固−固比)で添加し、かつ、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(総研化学社製 L−45)を上記PSA/硬化剤=100/0.16(液−液比)で混合して実施例2に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Bを得た。
【0087】
実施例2に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Bは、目視評価で白濁もなく透明性に優れ、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOも均一分散されていることが確認された。
【0088】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Bを、100μm厚用ドクターブレードを用いてPET樹脂フィルム(東亜合成社製:HPE−50)上に成膜し、かつ、90℃で3分の熱処理を行なって実施例2に係る赤外線遮蔽膜Bを作製し、3mm厚のガラス基板上に上記赤外線遮蔽膜Bを貼り付けて実施例2に係る赤外線遮蔽層Bを得た。
【0089】
この赤外線遮蔽層Bの光学特性を測定したところ、可視光透過率は75.0%、ヘイズは1.0%であり、可視光を十分に透過して高い透明性を保っていることが確認された。
【実施例3】
【0090】
上記Cs0.33WO粉末(住友金属鉱山製)を10.0重量部、典型金属化合物として酸化マグネシウム(関東化学社製)を1重量部、トルエン(関東化学社製)を79.0重量部、および、アクリル系高分子分散剤A(アミン価42mgKPH/g、固形分40%)を10.0重量部混合し、かつ、ペイントシェーカーにて粉砕分散処理して平均粒径120nmの赤外線遮蔽材料微粒子と典型金属化合物が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Dを得た。
【0091】
次に、水酸基タイプのアクリル系PSA(総研化学社製 SKダイン−2300:固形分18.2%)を、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Dに、PSA/Cs0.33WO=100/20(固−固比)で添加し、かつ、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(総研化学社製 L−45)を上記PSA/硬化剤=100/0.16(液−液比)で混合して実施例3に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Cを得た。
【0092】
実施例3に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Cは、目視評価で白濁もなく透明性に優れ、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOも均一分散されていることが確認された。
【0093】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Cを、100μm厚用ドクターブレードを用いてPET樹脂フィルム(東亜合成社製:HPE−50)上に成膜し、かつ、90℃で3分の熱処理を行なって実施例3に係る赤外線遮蔽膜Cを作製し、3mm厚のガラス基板上に上記赤外線遮蔽膜Cを貼り付けて実施例3に係る赤外線遮蔽層Cを得た。
【0094】
この赤外線遮蔽層Cの光学特性を測定したところ、可視光透過率は62.9%、ヘイズは4.5%であり、可視光を十分に透過して高い透明性を保っていることが確認された。
【0095】
[比較例1]
上記Cs0.33WO粉末(住友金属鉱山社製)を20.0重量部、メチルイソブチルケトン(関東化学社製)を64.0重量部、アクリル系高分子分散剤A(アミン価42mgKPH/g、固形分40%)を16.0重量部混合し、かつ、メディアミルにて粉砕分散処理して平均粒径80nmの赤外線遮蔽材料微粒子(Cs0.33WO粉末)が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Aを得た。
【0096】
次に、水酸基タイプのアクリル系PSA(総研化学社製 SKダイン−2300:固形分18.2%)を、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Aに、PSA/Cs0.33WO=100/10(固−固比)で添加し、かつ、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(総研化学社製 L−45)を上記PSA/硬化剤=100/0.16(液−液比)で混合して比較例1に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Dを得た。
【0097】
比較例1に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Dは、目視評価で白濁し、透明性が劣り、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOが凝集するものとなった。
【0098】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Dを、100μm厚用ドクターブレードを用いてPET樹脂フィルム(東亜合成社製:HPE−50)上に成膜し、かつ、90℃で3分の熱処理を行なって比較例1に係る赤外線遮蔽膜Dを作製し、3mm厚のガラス基板上に上記赤外線遮蔽膜Dを貼り付けて比較例1に係る赤外線遮蔽層Dを得た。
【0099】
この赤外線遮蔽層Dの光学特性を測定したところ、可視光透過率は68.5%、ヘイズは30.4%となった。
【0100】
[比較例2]
上記Cs0.33WO粉末(住友金属鉱山製)を10.0重量部、遷移金属化合物である水酸化ニッケル(関東化学社製)を1重量部、トルエン(関東化学社製)を79.0重量部、および、アクリル系高分子分散剤A(アミン価42mgKPH/g、固形分40%)を10.0重量部混合し、かつ、ペイントシェーカーにて粉砕分散処理して平均粒径120nmの赤外線遮蔽材料微粒子(Cs0.33WO粉末)が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Eを得た。
【0101】
次に、水酸基タイプのアクリル系PSA(総研化学社製 SKダイン−2300:固形分18.2%)を、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Eに、PSA/Cs0.33WO=100/10(固−固比)で添加し、かつ、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(総研化学社製 L−45)を上記PSA/硬化剤=100/0.16(液−液比)で混合して比較例2に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Eを得た。
【0102】
比較例2に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Eは、目視評価で白濁し、透明性が劣り、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOが凝集するものとなった。
【0103】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Eを、100μm厚用ドクターブレードを用いてPET樹脂フィルム(東亜合成社製:HPE−50)上に成膜し、かつ、90℃で3分の熱処理を行なって比較例2に係る赤外線遮蔽膜Eを作製し、3mm厚のガラス基板上に上記赤外線遮蔽膜Eを貼り付けて比較例2に係る赤外線遮蔽層Eを得た。
【0104】
この赤外線遮蔽層Eの光学特性を測定したところ、可視光透過率は65.0%、ヘイズは13.4%となった。
【0105】
[比較例3]
上記Cs0.33WO粉末(住友金属鉱山製)を10.0重量部、遷移金属化合物である酸化コバルト(関東化学社製)を1重量部、トルエン(関東化学社製)を79.0重量部、および、アクリル系高分子分散剤A(アミン価42mgKPH/g、固形分40%)を10.0重量部混合し、かつ、ペイントシェーカーにて粉砕分散処理して平均粒径120nmの赤外線遮蔽材料微粒子(Cs0.33WO粉末)が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Fを得た。
【0106】
次に、水酸基タイプのアクリル系PSA(総研化学社製 SKダイン−2300:固形分18.2%)を、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Fに、PSA/Cs0.33WO=100/10(固−固比)で添加し、かつ、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(総研化学社製 L−45)を上記PSA/硬化剤=100/0.16(液−液比)で混合して比較例3に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Fを得た。
【0107】
比較例3に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Fは、目視評価で白濁し、透明性が劣り、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOが凝集するものとなった。
【0108】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Fを、100μm厚用ドクターブレードを用いてPET樹脂フィルム(東亜合成社製:HPE−50)上に成膜し、かつ、90℃で3分の熱処理を行なって比較例3に係る赤外線遮蔽膜Fを作製し、3mm厚のガラス基板上に上記赤外線遮蔽膜Fを貼り付けて比較例3に係る赤外線遮蔽層Fを得た。
【0109】
この赤外線遮蔽層Fの光学特性を測定したところ、可視光透過率は62.2%、ヘイズは23.2%となった。
【0110】
「評 価」
(1)実施例1においては、アクリル系高分子分散剤Aを用いてCs0.33WO粉末が分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液Aに、別途調製した典型金属化合物としての炭酸亜鉛が分散された典型金属化合物分散液Aを加えて赤外線遮蔽膜形成用分散液Bを調製し、かつ、この赤外線遮蔽膜形成用分散液Bに未硬化で水酸基タイプのアクリル系PSA等を添加して実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液Aを調製している。
【0111】
そして、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Aは、目視評価で白濁もなく透明性に優れかつ赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOも均一分散されているため、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Aを用いて形成された赤外線遮蔽層Aはヘイズが低くかつ優れた可視光透過性を具備している。
【0112】
他方、比較例1においては、上記赤外線遮蔽膜形成用分散液Aを適用しているが典型金属化合物分散液Aを加えずに赤外線遮蔽膜形成用塗布液Dを調製している。
【0113】
従って、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Dは、目視評価で白濁し、透明性が劣り、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOが凝集しているため、この赤外線遮蔽膜形成用塗布液Dを用いて形成された赤外線遮蔽層Dはヘイズが高く(30.4%)、光学特性に劣っていることが確認された。
(2)また、Cs0.33WO粉末と典型金属化合物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム)が共に分散された赤外線遮蔽膜形成用分散液C、Dに、未硬化で水酸基タイプのアクリル系PSA等を添加して調製された実施例2、3に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液C、Dも、目視評価で白濁もなく透明性に優れかつ赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOも均一分散されている。従って、これ等の赤外線遮蔽膜形成用塗布液C、Dを用いて形成された赤外線遮蔽層C、Dはヘイズが低くかつ優れた可視光透過性を具備している。
【0114】
他方、典型金属化合物に代えて遷移金属化合物(水酸化ニッケル、酸化コバルト)が添加された赤外線遮蔽膜形成用分散液E、Fに、未硬化で水酸基タイプのアクリル系PSA等を添加して調製された比較例2、3に係る赤外線遮蔽膜形成用塗布液E、Fは、目視評価で白濁し、透明性が劣り、赤外線遮蔽材料微粒子のCs0.33WOが凝集しているため、これ等の赤外線遮蔽膜形成用塗布液E、Fを用いて形成された赤外線遮蔽層E、Fはヘイズが高く(13.4%、23.2%)、光学特性に劣っていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係るプラズマディスプレイパネル用多層フィルターの赤外線遮蔽膜によれば、高い可視光透過率と近赤外線吸収性を維持したままヘイズが低くなっているため、プラズマディスプレイパネルに組み込んで適用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0116】
11 前面ガラス基板(フロントカバープレート)
12 表示電極
13 誘電体ガラス層
14 酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層
15 背面ガラス基板(バックプレート)
16 アドレス電極
17 隔壁
18 蛍光体層
19 放電ガスを封入する放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に分散された分散液により構成され、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂が使用時に添加される赤外線遮蔽形成用分散液において、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により上記赤外線遮蔽材料微粒子が構成されると共に、典型金属化合物が上記溶媒に含まれていることを特徴とする赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項2】
上記典型金属化合物が、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pd、Sb、Bi、Poから選択された典型金属を含む、酸化物、炭酸塩、塩化物、水酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項3】
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項4】
一般式MxWyOzで表記される上記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶若しくは立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項5】
上記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内の1種類以上を含み、かつ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とする請求項4に記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液に、未硬化でかつ水酸基タイプのアクリル系粘着樹脂と、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、イソシアネート系架橋剤から選択された1種以上の硬化剤が添加されて成ることを特徴とする赤外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項7】
上記アクリル系粘着樹脂が、アクリル酸エステル骨格を備え、かつ、水酸基を主な架橋基に持つことを特徴とする請求項6に記載の赤外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項8】
プラズマディスプレイパネル用多層フィルターの第一基材面上またはプラズマディスプレイパネル面上に請求項6または7に記載の赤外線遮蔽膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜をエージング処理して得られた粘着性を具備することを特徴とする赤外線遮蔽膜。
【請求項9】
上記第一基材と、この第一基材面上に形成された請求項8に記載の赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とする赤外線遮蔽光学部材。
【請求項10】
粘着性を具備する請求項8に記載の赤外線遮蔽膜を多層フィルターの第二基材面上に貼付することを特徴とするプラズマディスプレイパネル用多層フィルター。
【請求項11】
上記赤外線遮蔽膜内に、電磁波遮蔽機能を有するメッシュまたは/および繊維状の金属層若しくは金属含有層が埋め込まれていることを特徴とする請求項10に記載のプラズマディスプレイパネル用多層フィルター。
【請求項12】
請求項11に記載のプラズマディスプレイパネル用多層フィルターが設けられていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163574(P2010−163574A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8673(P2009−8673)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】