赤外蛍光粒子を用いた定量方法
【課題】 実質的に高い感度で定量分析できる方法を提供すること。
【解決手段】 赤外領域にて被検物質の定量分析を行う方法であって、(i)被検物質に結合することが可能な官能基が固定化された赤外蛍光粒子aを得る工程、(ii)被検物質が結合することが可能な官能基が固定化された担体bを得る工程、(iii)担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’を含む混合物Mを得る工程、(iv)赤外蛍光粒子a’を含む混合物M1と赤外蛍光粒子a’’を含む混合物M2とを得る工程、(v)混合物M1について蛍光強度I1を得る工程、(vi)モデル実験で得た相関関係Aに基づいて蛍光強度I1から被検物質の量Q1を求める工程を含んで成る方法。
【解決手段】 赤外領域にて被検物質の定量分析を行う方法であって、(i)被検物質に結合することが可能な官能基が固定化された赤外蛍光粒子aを得る工程、(ii)被検物質が結合することが可能な官能基が固定化された担体bを得る工程、(iii)担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’を含む混合物Mを得る工程、(iv)赤外蛍光粒子a’を含む混合物M1と赤外蛍光粒子a’’を含む混合物M2とを得る工程、(v)混合物M1について蛍光強度I1を得る工程、(vi)モデル実験で得た相関関係Aに基づいて蛍光強度I1から被検物質の量Q1を求める工程を含んで成る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオおよび生化学の分野における定量分析に関する。より詳細には、本発明は、赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子を用いた定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に微量な蛍光物質であっても、蛍光物質から発せられる光は検出できる場合が多いため、種々の目的に蛍光物質が用いられている。通常、紫外線領域から可視領域の励起光および蛍光が利用される。しかしながら、紫外線領域から可視領域の光では、生体物質等の種々の物質による発光や吸収あるいは散乱の影響が大きく、また室内であっても蛍光灯等による外乱光の影響が大きいため、紫外線領域から可視領域の光を利用した被検物質の定量分析等では、そのような影響を完全に無視できない。従って、被検物質の定量分析に際しては、被検物質の周囲に存在する物質を洗浄等によって除去する必要があり、その分だけ手間やコストを要していた。また、そのような影響を十分に抑えることができず実質的な感度を高くできなかったり、かかる影響を抑えることに起因して分析機器が大型化してしまう等の問題もあった。
【0003】
その一方、かかる定量分析に用いられる蛍光物質自体の問題も残されている。例えば、有機蛍光体では蛍光の安定性が低い。また、代表的な無機蛍光体である量子ドットは高い毒性を一般に有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の問題を解決するために為されたものである。本発明の課題は、被検物質の周囲に存在する物質の影響を抑えて被検物質を定量分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明は、
赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子を用いて、被検物質の定量分析を行う方法であって、
(i)該被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を該赤外蛍光粒子に固定化することによって赤外蛍光粒子aを得る工程、
(ii)該被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を担体に固定化することによって担体bを得る工程、
(iii)該被検物質を含んで成る試料と、該赤外蛍光粒子aおよび該担体bとを接触させ、該担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、該複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物Mを得る工程、
(iv)該赤外蛍光粒子a’と、該赤外蛍光粒子a’’とを分離して、該赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と該赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得る工程、
(v)該混合物M1に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、該混合物M1から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I1を得る工程、ならびに
(vi)該赤外蛍光粒子、該担体および該被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と該試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(検量線)に基づいて、工程(v)で得られた蛍光強度I1から該試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程
を含んで成る方法を提供する。
【0006】
本発明の方法では、モデル実験により、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(Q=fnA(IM1))を予め得ておく。従って、かかる相関関係Aに関する検量線を得ることができるため、工程(v)で得られた混合物M1についての蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1を求めることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法で混合物M1および混合物M2に照射される励起光および生じる蛍光は、赤外領域の波長を有するために種々の物質などに対して高い透過性を有している。従って、赤外蛍光粒子および被検物質の周囲に存在する種々の物質(例えば生体物質)による発光、吸収もしくは散乱の影響を抑えることができる。従って、そのような赤外蛍光粒子および被検物質の周囲に存在する物質を洗浄等で除去しなくても、バックグランドを低く抑えて実質的に高い感度で定量分析を行うことができる。また、金属酸化物から形成される赤外蛍光粒子を用いると、光照射によっても蛍光強度が実質的に低下せず安定した蛍光強度を得ることができるだけでなく、赤外蛍光粒子自体の毒性も低いので、生体等に安全な条件で安定した定量分析を実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
(本明細書で用いる用語の説明)
本明細書で用いる「赤外蛍光粒子」とは、赤外領域の波長を有する励起光を照射すると、赤外領域の波長を有する光のエネルギーを放射する蛍光粒子を意味している。従って、励起光の照射に際して、非常に短い時間で光のエネルギーが放射される場合は「蛍光」として光を発するが、長い時間にわたって光のエネルギーが放射される場合は「燐光」として光を発することになり、本発明の方法で用いられる「赤外蛍光粒子」は、「蛍光」または「燐光」を放射する蛍光体を実質的に意味している。
【0010】
本明細書において「被検物質」とは、一般的な定量分析で対象となる物質を意味しており、例えば、バイオおよび生化学の分野で測定対象となる物質を意味している。かかる「被検物質」は、モデル実験で相関関係Aまたは相関関係B(以下で説明する)を予め得ることができるものであれば、いずれの種類の物質であってもかまわない。好ましくは、被検物質は、抗原、タンパク質、核酸、糖鎖、脂質、細胞、微生物、毒素、アレルゲン、環境ホルモンおよび重金属から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質である。ここで、工程(iii)の「被検物質を含んで成る試料」とは、上記で例示したような被検物質が、例えば、水、バッファー、体液等に溶解または分散している液体、あるいは溶解または分散させた液体のことを一般に指しており、例えば、血液、尿、唾液、汗などの体液、生体組織、培養細胞、微生物等を破砕させて溶解または分散させた溶液や抽出した溶液、細胞、微生物等を含む溶液、食品、または環境調査対象の土壌や水等が挙げられる。
【0011】
本明細書で用いる「非被検物質」とは、被検物質および/または赤外蛍光粒子の周囲に存在する物質を意味しており、例えば、定量分析の感度を低下させると従来考えられていた物質(特に、紫外線領域から可視領域の励起光および蛍光を利用した定量分析に際して洗浄除去されていた物質)である。非被検物質としては、例えば、水、溶剤、塩、生体組織、体液、細胞、生体物質、試薬、樹脂、添加剤、微粒子、色素および可視蛍光色素等が挙げられる。
【0012】
また、本明細書において「モデル混合物M1」または「モデル混合物M2」とは、少なくとも赤外蛍光粒子および被検物質を含み(モデル混合物を数点用いる場合、被検物質の量=0の混合物を一部含んでも構わない)、かつそれらの比率が明らかな混合物、またはそれらから一部を取り出した混合物であって、工程(v)の混合物M1または工程(v’)の混合物M2の全ての成分をほぼ同量含むことが望ましいが、主な成分のみを含むものであってもかまわない。ただし、赤外領域に吸収・発光・散乱等のある成分は得られる蛍光強度に影響を及ぼすため、(v)の混合物M1または(v’)の混合物M2の成分を同量または近い量含むことが望ましい。また、混合物を得る過程が蛍光強度に影響を与える場合には同様の過程を経てモデル混合物M1またはモデル混合物M2を得ることが望ましい。
【0013】
ここでいう「モデル実験」とは、例えば相関関係A(「相関関係B」については後ほど説明する)を求める場合、被検物質の量Qの量を変えた「モデル混合物」を数点用意して各々の蛍光強度Iを測定し、検量線や相関式を作成する等により相関関係Aを求める実験である。被検物質の量Qを変えた数点の試料に対して、モデル混合物M1の蛍光強度IM1を測定すれば、蛍光強度IM1と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係Aを得ることができる。なお、後ほど詳細に説明するが、混合物M2に関しても、その混合物M2から得られる蛍光強度IM2と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(Q=fnB(IM2))が存在し、同様のモデル実験でモデル混合物M2の蛍光強度IM2を測定することによって相関関係Bを得ることができる。
【0014】
(本発明の方法の各工程の説明)
以下において、本発明の方法を各工程に分けて説明するが、本発明の概念の理解および説明の簡略化の観点から、(イ)赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、(ロ)担体にも「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様を主として説明する。図1に、かかる態様の工程をフローチャートで示す。
【0015】
まず、工程(i)では、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」を赤外蛍光粒子に固定化させることによって赤外蛍光粒子aを形成する。赤外蛍光粒子は、粉末形態で用いられることが一般に多いが、工程(iii)の被検物質を含んだ試料に均一に溶解または分散できるものが好ましく、従って、赤外蛍光粒子の直径の上限は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは100nm以下である。その一方、赤外蛍光粒子の直径の下限は、製造が可能か否か及び検出できる蛍光強度が得られるか否かによって決まるものであり、一般には2nm以上が好ましい。以上を踏まえると、赤外蛍光粒子は、2nm〜5μmの粒径を有していることが好ましい。ここでいう「粒径」は、例えば、電子顕微鏡や光学顕微鏡等で拡大した画像から100個の粒子を無作為に選択し、それぞれの粒子について直径を読み取り、これらを平均することによって求めた場合の粒径をいう。ただし、直径が均一でない場合には、最大径と最小径を求めて平均したものを、各粒子の直径とする。なお、かかる赤外蛍光粒子の好ましい粒径は、被検物質または赤外蛍光粒子の形状および種類などに応じて変わり得ることを理解されよう。
【0016】
また、本発明の方法に用いられる赤外蛍光粒子は、無機材料、有機材料、複合材料または錯体等のいずれの材料から形成されていてもよい。とりわけ、無機材料から形成された赤外蛍光粒子は、励起光の照射等による蛍光強度の低下が小さく、安定性に優れているため、本発明の赤外蛍光粒子として好ましい。
【0017】
また、本発明の方法に用いられる赤外蛍光粒子は、安全面または環境面の点でも優れているものが好ましい。例えば、金属酸化物系の赤外蛍光粒子は一般に安定性が高く、毒性も低いので本発明の赤外蛍光粒子に好適に使用される。金属酸化物から成る赤外蛍光粒子としては、例えば、遷移金属元素、リン元素および酸素元素を含んで成る化合物が挙げられる。その代表的な化合物としては、Y・Nd・Yb・PO4、Lu・Nd・Yb・PO4およびLa・Nd・Yb・PO4(式中、Y:イットリウム元素、Nd:ネオジム元素、Yb:イッテルビウム元素、Lu:ルテチウム元素、La:ランタン元素、P:リン元素、O:酸素元素)等の化合物が挙げられる。
【0018】
金属酸化物から成る赤外蛍光粒子の中でも特に、一般式A1−x−y Ndx Yby PO4(式中、AはY,LuおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である)で表される化合物が好ましい。更に、上記一般式A1−x−y Ndx Yby PO4で表される化合物の中でも、100μs以上の残光持続時間を有する化合物が好ましい。ここでいう「残光持続時間」は、励起光照射停止後の蛍光強度が1/10にまで低下するまでの時間を計測することによって得られる時間をいう。
【0019】
なお、工程(i)にいう「固定化」とは、一般的に、赤外蛍光粒子の表面付近に「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」を存在させる態様を意味しており、必ずしも「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」を赤外蛍光粒子の表面に直接取り付ける態様のみを意味するものではない。
【0020】
「被検物質に結合することができる官能基または物質」の赤外蛍光粒子への固定化には、相互に特異的に吸着または結合する物質の組合せを用いることができる。例えば、組合せの一方の物質が被検物質として使用される場合、もう一方の物質を赤外蛍光粒子に固定化すればよい。このような組合せの例としては、例えば、リガンド・レセプターと呼ばれる組合せが挙げられる。また、同様に、シリカ、ヒドロキシアパタイト等はそれぞれ核酸、タンパク質と吸着するために、これらの組合せも用いることができる。
【0021】
好ましくは、「被検物質に結合することが可能な官能基」は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、ニトロ基、スクシンイミド基、マレイミド基、ホルミル基、ヒドラジン基およびトシル基から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基である。この場合、これらの官能基と反応性または親和性を有する官能基等を含む被検物質に、赤外蛍光粒子が結合または吸着することになる。なお、上記で例示した「被検物質に結合することが可能な官能基」を活性化したものでもよく、例えば、各種触媒や脱水化剤等を添加することによって活性化が可能であり、代表的なものとしては、カルボキシル基に対するカルボジイミド添加やカルボキシル基の酸無水物化、エポキシ基に対する3級アミンやアルコール添加等が挙げられる。
【0022】
また、好ましくは、「被検物質と結合することが可能な物質」は、例えば、シリカ、ヒドロキシアパタイト、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、プロテインA、プロテインG、核酸および糖鎖から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質である。この場合も、このような「被検物質に結合することが可能な物質」を介して、被検物質に赤外蛍光粒子が結合または吸着することになる。
【0023】
赤外蛍光粒子に「被検物質と結合可能な官能基」を固体化させる手法としては、いかなる方法を用いてもよい。一例としてシランカップリング剤を赤外蛍光粒子表面に反応させる手法がある。この手法では、赤外蛍光粒子表面に官能基を直接的に反応させて導入することができ、また、予めシリカ等を固定した赤外蛍光粒子表面に官能基を反応させて導入することができる。なお、シランカップリング剤で取り付けることができる官能基の種類は限定されているので、更に別の物質をシランカップリング剤により導入された官能基に反応させて、それら官能基をより活性の高い状態にしたり、または、別の官能基を赤外蛍光粒子に導入してもよい。ちなみに、シランカップリング剤の代わりにチタンカップリング剤やシラザンを用いることもできる。
【0024】
同様に、赤外蛍光粒子に「被検物質と結合可能な物質」を固定化させる手法としては、いかなる方法を用いてもよい。例えば、シリカを固定化するには、ゾルゲル法を利用することができる。また、特開2004−031792号に記載されているような被着法も好適に利用することができる。具体的には、例えば、赤外蛍光粒子を分散させた水懸濁液中に好ましい量の珪酸ナトリウムを加えて溶解させた後、酸を加えて中和することによって、赤外蛍光粒子の表面近傍に特定量のシリカを被着形成できる。更に、例えばヒドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系化合物を固定化するには、別の被着法を利用することもできる。具体的には、例えば、赤外蛍光粒子を水中に分散させ、これにカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を加え、pHを調整して、赤外蛍光粒子の表面近傍にリン酸カルシウム系化合物を析出させた後、水熱処理を施す操作によって、リン酸カルシウム系化合物を赤外蛍光粒子の表面近傍に被着形成できる。
【0025】
次に工程(ii)について説明する。工程(ii)では、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」を担体に固定化することによって担体bを得る。工程(ii)における「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」は、工程(i)で説明したような官能基または物質であり、工程(i)で用いる「官能基または物質」と同一種類であっても、異なる種類であってもよい。また、工程(ii)における「固定化」も工程(i)における「固定化」と実質的に同一の意味であり、固定化手法も工程(i)と実質的に同一の手法を用いることができる。
【0026】
工程(ii)に用いる担体は、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」を固定化できる材料または部材から成るものであれば、いずれの種類の担体を用いてもよい。好ましくは、工程(ii)の担体は、ビーズ、平板状部材、容器壁(もしくは容器底)またはフィルター等である。ビーズは、直径が約2nm〜500μm程度の球形に近い形状であることが好ましく、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」の固定化に不向きなものでない限り、いずれの材料から成るものでもよい。好ましくは、ビーズは、磁性体から成るか磁性体を含む磁気ビーズである。なお、磁気ビーズは、鉄、コバルト、ニッケル等の金属、合金、および、それらの酸化物等から成る群から選択される磁性体から形成されていることが好ましい。平板状部材とは、例えば、スライドグラス(またはスライドガラス)等であり、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」の固定化に不向きなものでない限り、いずれの種類の材料から成るものでもよい。また、容器は、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」の固定化に不向きなものでない限り、いずれの容器でもよく、例えば、ビーカー、試験管、サンプルチューブ、キュベット、ウェルプレートまたはサンプル瓶等であり、場合によっては、工程(iii)の「被検物質を含んで成る試料」を入れておくための容器でもよい。フィルターは、例えば、セルロースまたは樹脂等の材質から成るフィルターである。なお、これらの素材として、励起光および蛍光の赤外波長域で発光するものは(担体を通して蛍光を観察する場合には赤外波長域に強い吸収を持つものも)、蛍光強度の測定範囲を狭めたり誤差を生じやすくなったりするため好ましくはない。
【0027】
次に工程(iii)について説明する。工程(iii)では、工程(i)で得られた赤外蛍光粒子aおよび工程(ii)で得られた担体bと、「被検物質を含んで成る試料」とを相互に接触させることによって、担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、そのような複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物Mを形成する。なお被検物質は、赤外蛍光粒子aに固定化した「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」の種類、または担体bに固定化した「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」の種類や、混合方法等によって、担体bとの複合体形成に関与して赤外蛍光粒子a’に結合したり、担体bとの複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’に結合したり、これらに分配されたり、あるいは一部がいずれにも結合しなかったりする。このように担体bとの複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、該複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’の生成に関与し、相関関係AまたはBが得られることになる。
【0028】
工程(iii)に関して、例えば、担体bがビーズである場合には、容器内等で「被検物質を含んで成る試料」とビーズと赤外蛍光粒子aとが混ぜられて混合物Mが形成される。この場合、「被検物質を含んで成る試料」が収められている容器内にビーズおよび赤外蛍光粒子aを加えて混合物Mを形成することもできる。また、担体bが、例えばウェルプレート(特にウェル部に「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」が固定化されているウェルプレート)または試験管等の場合では、ウェルプレートのウェルまたは試験管内に、赤外蛍光粒子aおよび「被検物質を含んで成る試料」を加えることによって混合物Mを形成することができる。更に、例えば、担体bが、フラットな表面を有するスライドグラス等の平板状部材である場合には、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」が固定化されている平板状部材の表面に、スポイト等を用いて「被検物質を含んで成る試料」を供し、その試料が供された部分に赤外蛍光粒子aを加えることによって混合物Mを形成してもよい。
【0029】
工程(iv)では、赤外蛍光粒子a’(即ち、担体bと共に複合体を形成している赤外蛍光粒子a)と、赤外蛍光粒子a’’(即ち、複合体を形成していない赤外蛍光粒子a)とを分離して、赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを形成する。ここでいう「分離」とは、工程(v)の励起光の照射に際して赤外蛍光粒子a’に基づく蛍光のみを得るため(即ち、赤外蛍光粒子a’’に起因した蛍光を含まない蛍光を得るため)に行われる操作であり、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とを物理的(または距離的)に相互に分けることを意味している。従って、混合物M1と混合物M2とは、それぞれが必ずしも別個の混合物として存在する必要がなく、1つの混合物Mの中で、それぞれが相互に隣接して存在する態様であってもかまわない。
【0030】
例えば、工程(ii)で用いられる担体がビーズである場合、工程(iii)で得られる混合物Mを遠心分離に付すことによって、赤外蛍光粒子a’を含む複合体と、赤外蛍光粒子a’’との比重の違いで、赤外蛍光粒子a’を含む混合物M1と、赤外蛍光粒子a’’を含む混合物M2とに分けることができる。更に、ビーズが磁気ビーズである場合には、遠心分離とは別に又は遠心分離に加えて、磁気分離操作を行うことができる。この磁気分離操作とは、外部から磁石または電磁石の磁力を磁気ビーズに作用させることによって、磁気ビーズを移動させる操作である。つまり、磁気ビーズは赤外蛍光粒子a’と共に複合体を形成しているので、磁力で磁気ビーズを移動させることによって、赤外蛍光粒子a’を間接的に移動させることができる。磁気分離では、外部に設けられた磁石または電磁石の近傍に赤外蛍光粒子a’が寄せ集められ、結果的に、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とが相互に分けられることになる。なお、磁石または電磁石は固定式である必要はなく、可動式であってもよく、磁力を作用させた状態で磁石または電磁石を移動させることによって磁気ビーズ(つまり、間接的には赤外蛍光粒子a’)を移動させてもよい。
【0031】
また、工程(ii)で用いられる担体が、ウェルプレートまたは試験管等の容器である場合には、ウェルまたは試験管内に形成された混合物Mの上澄み部分を静置後にピペットやスポイト等で吸引除去することによって、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とを分離することもできる。あるいは、そのようなウェルプレートまたは試験管等を傾けて、上澄み部を流出させて、赤外蛍光粒子aと赤外蛍光粒子aとを分離してもよい。なお、必要に応じて、水、バッファー溶剤、および/または、これらに界面活性剤等の添加剤を加えたもの等を用いて、平板状部材または容器を洗浄してもよい。更に、担体が例えばスライドグラス等のフラットな平板状部材であって、そのような平板状部材が、赤外蛍光粒子aおよび被検物質が収められている容器内に入れられている態様では、かかる平板状部材を容器から単に取り出すことによって、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とを簡単に分離することもできる。
【0032】
次に、工程(v)を説明する。工程(v)では、工程(iv)で得られた混合物M1に対して、赤外領域の波長の励起光が照射して混合物M1から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I1を得る。
【0033】
混合物に照射する励起光および生じる蛍光は、被検物質およびその周囲に存在する物質に対する透過性が高く、それらの物質による発光、吸収または散乱が少ない赤外領域の波長を有するものである。好ましくは、励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルのピーク波長は、700〜3000nmの近赤外領域の範囲にある。かかる波長よりも短い波長域の光では、被検物質およびその周囲に存在する物質による可視領域の光の吸収や発光がより多いだけでなく、散乱もより多くなり、その一方、かかる波長よりも長い波長域の光では、試料による赤外吸収がより多くなるからである。特に、生体物質を含む試料中の被検物質の定量分析を行う場合、試料には水分が含まれていることが多いので、励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルのピーク波長は、水による光の吸収が少ない700〜1300nmの近赤外領域の範囲にあることがより好ましい。更に、励起光の波長と蛍光の波長との差が大きい方が、赤外蛍光粒子を用いた蛍光強度測定に際して励起光の影響をカットしやすくなることをも考慮すると、励起光スペクトルのピーク波長が700〜1100nmの近赤外領域の範囲にあり、蛍光のスペクトルのピーク波長が850〜1200nmの近赤外領域の範囲にあることが更に好ましい。
【0034】
なお、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が20nm以下では、分光フィルタ等により、励起光と蛍光とを分離するのが難しく、仮に分離できたとしても各々の光が重なっている部分はカットせざるを得ず、光量ロスが大きくなるので、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が20nm以上であることが好ましい。より好ましくは、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が、50nm以上であり、更に好ましくは100nm以上である。
【0035】
なお、本発明の方法に用いられる「赤外領域の波長を有する励起光」は、レーザー、ハロゲンランプ等の光源から発せられた光を必要に応じて適当な分光フィルタに通すことによって得ることができる。また、機器分析の分野で一般的に使用されている蛍光光度計や分光器、あるいはフォトダイオード、CCD等の受光素子等を用いることによって、工程(v)で放射される蛍光から蛍光強度を得ることができる。更に、蛍光の検出は、励起光が入射してくる方向、その方向と180°反対方向、あるいは、その方向に対して斜めや垂直の方向のいずれの方向で行ってもよい。
【0036】
工程(vi)では、工程(v)で得られた蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1が求められる。
【0037】
蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1を求めるためには、赤外蛍光粒子、担体および被検物質を用いたモデル実験により、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(検量線:Q=fnA(IM1))を予め得ておくことが必要である。つまり、この相関関係Aの検量線に基づいて、蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1が求められる。
【0038】
本来、「蛍光強度」は、他の条件が一定ならば、測定に供せられる混合物中に含まれる赤外蛍光粒子の濃度あるいは赤外蛍光粒子の絶対量に一般に比例するものであるため(図2参照)、混合物M1についての蛍光強度IM1と、混合物M1に含まれる赤外蛍光粒子の量Pとの間には相関関係C(P=fnC(IM1))が一般に存在する。そして、蛍光強度による被検物質の定量に際して相関関係Aが存在する場合には、混合物M1中の赤外蛍光粒子の量Pと被検物質の量Qとの間に相関関係D(Q=fnD(P))が存在する。したがって、相関関係Cおよび相関関係Dを「モデル実験」および理論的に計算等で求めれば、工程(v)で得られる蛍光強度I1から被検物質の量Q1が求められる。しかしながら、相関関係Bまたは相関関係Cのいずれかまたは両方が求められない場合や、混合物の成分による吸収、発光、散乱等によって単純に相関関係Cおよび相関関係Dから相関関係Aが求められない場合が多いため、一般的には、混合物M1の蛍光強度IM1と被検物質の量Qとの間の相関関係Aを直接求める必要がある。通常相関関係Aは、理論的に計算等で直接求めることは困難なため、「モデル混合物M1」を用いた「モデル実験」により求められる。例えば、被検物質の量Qの量を変えた「モデル混合物M1」を数点用意して各々の蛍光強度IM1を測定し、検量線を作成する等により相関関係Aを求めることができる。
【0039】
ここでいう「モデル混合物M1」とは、少なくとも赤外蛍光粒子および担体および被検物質を予め設定した比率で用いて(モデル混合物を数点用いる場合、該被検物質量=0の混合物を一部含んでも構わない)、工程(i)〜(iv)を経て得られた混合物M1である。なお、モデル混合物M1は、実際の測定試料の調製工程(i)〜(iv)(本発明の工程(i)〜(iv)に相当する)において使用される全ての成分をほぼ同量用いて形成されることが望ましいが、主な成分のみを用いて形成してもかまわない。ただし、ある成分は、赤外領域に吸収・発光・散乱等に起因して、得られる蛍光強度に影響を及ぼすため、測定試料の調製工程(i)〜(iv)の実施に際して用いられる成分を同量または近い量含むことが望ましい。
【0040】
以上のように、本発明の方法を用いれば、試料中の被検物質の濃度、被検物質とそれ以外の物質との存在比率等も結果的に得ることができる。
【0041】
このように本発明の方法では、赤外領域の励起光・蛍光が用いられており、種々の物質に対する透過性が高いため、赤外蛍光粒子および被検物質の周囲に他の物質が存在していても、そのような物質を洗浄等により除去する必要がない点で利点を有する。このため、本発明の方法では、従来の定量分析(即ち、紫外線領域から可視領域の励起光および蛍光を利用した定量分析)等で洗浄除去しなければならなかった物質を除去せずに定量分析できる。その結果、洗浄工程を省くこと又は減らすことができ、定量分析に要する時間および手間を減らすことができる。また、必要な容器等も減らすこともでき、場合によっては1つの容器で済ませることが可能となる。更には、被検物質が含まれる試料容器に蓋を設けたり、パラフィンまたはポリオレフィン製等のフィルム等でシールすることが可能となるだけでなく、かかる試料が血液のように色の濃い試料であったり、微粒子、可視蛍光または吸収色素等の添加物を加えたり、試料を透明性の低いアガロースや樹脂等で固めたりすること等も本発明の方法に与える影響が少ないために行うことができる。
【0042】
なお、上記で説明した態様では、赤外蛍光粒子a’(即ち、担体bと共に複合体を形成している赤外蛍光粒子a)を含む混合物M1についての蛍光強度IM1に基づいて、被検物質の量Q1を得ているが、そのような態様に限らず、赤外蛍光粒子a’’(即ち、複合体を形成していない赤外蛍光粒子a)を含む混合物M2についての蛍光強度IM2からも被検物質の量Q1を得ることができる。この場合には、上記で説明した工程(v)および(vi)に代えて、以下の工程(v’)および(vi’)が実施される:
(v’)赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I2を得る工程、
(vi’)赤外蛍光粒子、担体および被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M2についての蛍光強度IM2と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(検量線)に基づいて、工程(v’)で得られた蛍光強度I2から試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程。
【0043】
混合物M2の方に励起光を照射する態様では、蛍光強度I2から試料に含まれる被検物質の量Q1を求めるために、赤外蛍光粒子、担体および被検物質を用いたモデル実験により、モデル混合物M2についての蛍光強度IM2と該試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(検量線:Q=fnB(IM2))を予め得ておくことが必要である。つまり、この相関関係Bの検量線に基づいて、蛍光強度I2から試料に含まれる被検物質の量Q1が求められる。
【0044】
この場合にも先の場合と同様に、混合物M2についての蛍光強度IM2と、混合物M2に含まれる赤外蛍光粒子の量Pとの間には相関関係E(P=fnE(IM2))が一般に存在し、混合物M2中の赤外蛍光粒子の量Pと被検物質の量Qとの間に相関関係F(Q=fnF(P))が存在するが、通常は蛍光強度IM2と被検物質の量Qとの間の相関関係Bを「モデル混合物」を用いた「モデル実験」で直接求めることが必要となる。例えば、被検物質の量Qの量を変えることによって「モデル混合物M2」を数点用意して各々の蛍光強度IM2を測定し、検量線を作成する等により相関関係Bを求めることができる。
【0045】
ここでいう「モデル混合物M2」とは、少なくとも赤外蛍光粒子および担体および被検物質を予め設定した比率で用いて(モデル混合物を数点用いる場合、該被検物質の量=0の混合物を一部含んでも構わない)、工程(i)〜(iv)を経て得られた混合物M2である。モデル混合物M2は実際の測定試料の調製工程(i)〜(iv)(本発明の工程(i)〜(iv)に相当する)において使用される全ての成分をほぼ同量用いることが望ましいが、主な成分のみを用いるのであってもかまわない。ただし、ある成分は、赤外領域に吸収・発光・散乱等に起因して、得られる蛍光強度に影響を及ぼすため、測定試料の調製工程(i)〜(iv)の実施に際して用いられる成分を同量または近い量含むことが望ましい。
【0046】
(本発明の種々の実施態様の説明)
次に、本発明の方法をモデル的に示す図面を参照して、本発明を更に詳細に説明する。図面は、あくまでも説明のために模式的にモデル化したものであるため、被検物質、赤外蛍光粒子および担体等のそれぞれのサイズ、ならびに、被検物質と赤外蛍光粒子および/または担体との結合態様などは実際の態様と相違し得る。
【0047】
《実施態様A》
実施態様Aは、抗体Bを平板状部材または容器底に固定化し、抗体B’を赤外蛍光粒子に固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bまたは抗体B’とは特異的に相互に結合する。言い換えれば、実施態様Aは、赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、担体にも「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0048】
(A−1)
図3に、実施態様(A−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗体B’を固定化すると共に、平板状部材または容器底に抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」を、上記(a)で得られた平板状部材の抗体Bが固定化されている面に供給するか、または、「抗原Aを含んで成る試料」を、上記(a)の容器底を有する容器内に供給し、次いで、抗体B’が固定化された赤外蛍光粒子aを加える。試料には、抗体Bおよび抗体B’と特異的に結合する抗原Aが含まれているので、平板状部材または容器底−抗体B−抗原A−抗体B’−赤外蛍光粒子のサンドイッチ構造の複合体が得られる。
(c)洗浄等で洗い流すことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)サンドイッチ構造が存在する箇所に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0049】
(A−2)
図4に、実施態様(A−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(A−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0050】
(A−3)
図5に、実施態様(A−3)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(A−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)抗体B’と結合する物質(図示する例では、抗原Aまたは二次抗体等が固定化された磁気ビーズ)を加えて、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’と結合させる。次いで、外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所に赤外蛍光粒子a’’を集める。
(d)サンドイッチ構造が存在する箇所(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0051】
《実施態様B》
実施態様Bは、抗原Aを赤外蛍光粒子に固定化し、抗体Bを平板状部材または容器底に固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bとは相互に特異的に結合する関係にある。言い換えれば、実施態様Bは、赤外蛍光粒子に被検物質を固定化し、担体に「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0052】
(B−1)
図6に、実施態様(B−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗原Aを固定化すると共に、平板状部材または容器底に抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、抗原Aが固定された赤外蛍光粒子a(=赤外蛍光粒子+抗原A=一定量)を混合した後に、この混合物を、上記(a)で得られた平板状部材の抗体Bが固定化されている面に供給するか、または、この混合物を、上記(a)の容器底を有する容器内に供給する。これにより、試料中の抗原Aと、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aとを、平板状部材または容器底に固定化されている抗体Bに対して競合吸着させる。ここでいう「競合吸着」とは、試料中の抗原A、および、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aの存在比に対応して、これらのいずれか一方が他方よりも多く/少なく前記抗体Bに対して結合する態様を実質的に意味しており、例えば、試料中の抗原Aが少ない場合には、赤外蛍光粒子aの方がより多く前記抗体Bに結合する一方(図6の(b)の右下図を参照)、試料中の抗原Aが多い場合には、試料中の抗原Aの方がより多く前記抗体Bに結合することになる(図6の(b)の左下図を参照)。
(c)洗浄等で洗い流すことによって、平板状部材または容器底の抗体Bに結合しなかった抗原Aおよび赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)平板状部材または容器底の抗体Bが固定化されている箇所に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0053】
(B−2)
図7に、実施態様(B−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(B−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)平板状部材または容器底の抗体Bに結合しなかった抗原Aおよび赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、抗体Bに結合しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0054】
《実施態様C》
実施態様Cは、抗体Bを非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化し、抗体B’を赤外蛍光粒子に固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bまたは抗体B’とは特異的に相互に結合する。言い換えれば、実施態様Cは、赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、担体にも「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0055】
(C−1)
図8に、実施態様(C−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗体B’を固定化すると共に、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、上記(a)で得られた非磁性ビーズまたは磁気ビーズとを混合した後に、抗体B’が固定された赤外蛍光粒子aを加える。試料には、抗体Bおよび抗体B’と特異的に結合する抗原Aが含まれているので、非磁性ビーズまたは磁気ビーズ−抗体B−抗原A−抗体B’−赤外蛍光粒子のサンドイッチ構造の複合体が得られる。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、あるいは、磁気ビーズの場合では磁石もしくは電磁石を用いた磁気分離に付した後、上澄み部分を除くことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)サンドイッチ構造の複合体が含まれる混合物(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0056】
(C−2)
図9に、実施態様(C−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(C−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、あるいは、磁気ビーズの場合では磁石もしくは電磁石を用いた磁気分離に付した後、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0057】
(C−3)
図10に、実施態様(C−3)の工程(a)〜(d)を示す。
磁気ビーズが用いられる場合では、実施態様(C−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所にサンドイッチ構造の複合体を集める。
(d)サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が存在する箇所(即ち、混合物M2)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0058】
《実施態様D》
実施態様Dは、抗原Aを赤外蛍光粒子に固定化し、抗体Bを非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bとは相互に特異的に結合する関係にある。言い換えれば、実施態様Dは、赤外蛍光粒子に被検物質を固定化し、担体に「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0059】
(D−1)
図11に、実施態様(D−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗原Aを固定化すると共に、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、抗原Aが固定された赤外蛍光粒子a(=赤外蛍光粒子+抗原A=一定量)とを混合した後に、上記(a)で得られた非磁性ビーズまたは磁気ビーズを加える。これにより、試料中の抗原Aと、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aとを、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化されている抗体Bに対して競合吸着させる。ここでいう「競合吸着」とは、試料中の抗原A、および、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aの存在比に対応して、これらのいずれか一方が他方よりも多く/少なく前記抗体Bに対して結合する態様を実質的に意味しており、例えば、試料中の抗原Aが少ない場合には、赤外蛍光粒子aの方がより多く前記抗体Bに結合する一方(図11の(b)の右下図を参照)、試料中の抗原Aが多い場合には、試料中の抗原Aの方がより多く前記抗体Bに結合することになる(図11の(b)の左下図を参照)。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、あるいは、磁気ビーズの場合では磁石もしくは電磁石を用いた磁気分離に付した後、上澄み部分を除くことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)サンドイッチ構造の複合体が含まれる混合物(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0060】
(D−2)
図12に、実施態様(D−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(D−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0061】
(D−3)
図13に、実施態様(D−3)の工程(a)〜(d)を示す。
磁気ビーズが用いられる場合では、実施態様(D−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所にサンドイッチ構造の複合体を集める。
(d)サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が存在する箇所(即ち、混合物M2)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0062】
《実施態様E》
実施態様Eは、抗体Bを赤外蛍光粒子に固定化し、抗原Aを非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bとは相互に特異的に結合する関係にある。言い換えれば、実施態様Eは、赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、担体に被検物質を固定化する態様である。
【0063】
(E−1)
図14に、実施態様(E−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗体Bを固定化すると共に、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに抗原Aを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、抗体Bが固定化された赤外蛍光粒子aとを混合することによって、抗体Bを介して試料中の抗原Aと赤外蛍光粒子aとを結合させる。次いで、赤外蛍光粒子aの抗体Bの中で抗原Aが結合していない抗体Bと、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化された抗原Aとを結合させることによって、赤外蛍光粒子aと非磁性ビーズまたは磁気ビーズとが相互に結合した複合体を得る。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、または、磁気ビーズの場合では磁石または電磁石を用いた磁気分離に付した後、上澄み部分を除くことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)複合体が含まれる混合物(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0064】
(E−2)
図15に、実施態様(E−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(E−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、または、磁気ビーズの場合では磁石または電磁石を用いた磁気分離に付した後、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0065】
(E−3)
図16に、実施態様(E−3)の工程(a)〜(d)を示す。
磁気ビーズが用いられる場合では、実施態様(E−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所に複合体を集める。
(d)複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が存在する箇所(即ち、混合物M2)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0066】
以上、実施態様A〜Eについて説明したが、抗原/抗体への固定化は逆に用いてもよく、また、それ以外のリガンド/レセプターを用いてもよいことは理解されよう。なお、上述のように上澄み部分の蛍光強度を測定する代わりに、ビーズ自体の蛍光強度を測定することも可能である。
【0067】
(本発明の方法の実施に好適な装置の説明)
次に、本発明の方法に好適な装置について説明する。かかる装置は、
赤外領域の波長を含む励起光を発する光源、
混合物M1または混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光を検知する受光センサー、ならびに
光源と受光センサーとの間の光路に、混合物M1または混合物M2を保持または通過させる手段
を有して成り、
得られる蛍光強度I1またはI2に基づいて被検物質の定量を行うことができる装置である。
【0068】
上述したように、本発明の実施に際しては、レーザーとフォトダイオードの組み合わせ等、小さなパーツの組み合わせでよく、また、外乱光の影響が小さいため厳密な遮光が必要ないため、装置の小型化を図ることができる。
【0069】
本発明の方法に好適な装置に用いられる「光源」は、赤外領域の波長を含む励起光を発するものであれば、いずれの種類の光源を用いてもよい。例えば、一般的な分析機器に使用されている光源(例えば、レーザーまたはハロゲンランプ等)を用いることができる。光源から発せられる光から赤外領域の波長の励起光を取り出すことができる分光フィルタを備えていることが好ましい。
【0070】
本発明の方法に好適な装置の「受光センサー」は、励起光の照射によって混合物M1または混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光を検知できるものであれば、いずれの種類のセンサーであってもよい。例えば、一般的な分析機器に使用されているフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード、CCD等の受光センサーを用いることができる。
【0071】
本発明の方法に好適な装置の「混合物M1または混合物M2を保持または通過させる手段」は、光源と受光センサーとの間の光路に混合物M1または混合物M2を供することができるものであれば、いずれの種類の手段であってもかまわない。つまり、赤外領域の波長の励起光が照射される位置に混合物M1または混合物M2をサポートする又は通過させるものであればよい。例えば、一般的な分析機器で測定試料を保持または移動するのに使用されている手段を用いることができる。
【0072】
なお、混合物M1または混合物M2と光源との間、かかる混合物M1または混合物M2と受光センサーの間、またはその双方に適当なフィルタを挿入し、光源で生じる励起光が受光センサーに届かないようにすることが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【0074】
実施例では、赤外蛍光粒子を用いることによって上述の実施態様A〜Eに対応する試験を行った。また、比較例では、可視蛍光有機色素(染料)を用いることによって上述の実施態様Aに対応する試験を行った。
【0075】
《実施例で用いる赤外蛍光粒子の調製》
(赤外蛍光粒子の合成)
特許公報3336572号の実施例1に従って、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が固定化されていない赤外蛍光粒子(以下、「赤外蛍光粒子Z」ともいう)を合成した。具体的には、Nd2O3:3.5g,Yb2O3:4.0g,Y2O3:18.0gおよびH3PO4:60.0gから成る原料を十分に混合し、アルミナ製の蓋付きルツボに充填した後、電気炉に入れ、室温から700℃位まで、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、その後、700℃で6時間焼成した。焼成終了後、直ちに電気炉から取り出し、空気中で放冷した。次いで、ルツボに100℃の熱湯を入れ、煮沸した。その結果得られた蛍光粒子をルツボから取り出し、1規定の硝酸で洗浄し、水洗し、乾燥を行った。以上の操作により、一般式Nd0.1Yb0.1Y0.8PO4で表される赤外蛍光粒子Zを得た。この赤外蛍光粒子Zは、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が固定化されていない。赤外蛍光粒子Zでは、励起光スペクトルのピーク波長が約810nmの励起光を照射すると980nmの蛍光スペクトルのピーク波長が得られた。
【0076】
(赤外蛍光粒子の表面処理)
得られた赤外蛍光粒子Zの5重量部を水/エチルアルコール(体積比1/1)に分散させ、エポキシ基を有するシランカップリング剤を1重量部混合して1時間撹拌した後、遠心分離に付して上澄みを除去し、次いで、120℃で乾燥させることによって、赤外蛍光粒子表面にエポキシ基を固定化させた。得られたエポキシ基が固定化された赤外蛍光粒子1重量部を5重量%エタノールアミン水溶液20重量部に分散させ、一晩撹拌した後、水、アセトンによる洗浄を繰り返し、赤外蛍光粒子表面に水酸基を導入した。次いで、得られた赤外蛍光粒子1重量部をピリジン20重量部に分散させた後、トシルクロライド0.2重量部を加え一晩撹拌した。トルエンによる洗浄を4回繰り返し、赤外蛍光粒子表面にトシル基を固定した。更に、それによって得られた赤外蛍光粒子の1重量部をPBS100重量部に分散させ、ストレプトアビジン0.01重量部を加えて一晩撹拌を行った。PBSによる洗浄を3回繰り返し、ストレプトアビジンを固定化した機能性赤外蛍光粒子を得た。
【0077】
<用いた抗原および抗体>
抗原AとしてC反応性蛋白質(hCRP)を用い、抗体B,B’としてCRP抗体2種類(抗体B:Anti−hCRP/クローン番号6404、抗体B’:Anti−hCRP/クローン番号6405(いずれもMedix Biochemica社製))を用いた。
【0078】
<蛍光強度の測定機器>
各種レーザー光源、試料容器、シリコン受光素子およびフィルタを並べて測定を行った。実施例の試料を用いた測定では、光源側には810nmのレーザーを使用して810nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入し、受光素子側には980nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入した。また、比較例の試料を用いた測定では、光源側には365nmのレーザーを使用して365nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入し、受光素子側には590nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入した。
【0079】
(被検物質を含む試料となる検体の調製)
抗原A(hCRP)が種々の濃度のPBSバッファー溶液を調製し、100mg/mlの比率でヘモグロビンを混合させた。
【0080】
(蛍光強度測定試験)
〈実施例〉
上記のように準備された赤外蛍光粒子および測定機器等を用いて、種々の抗原濃度の検体に対して蛍光強度を測定した。
【0081】
〈比較例〉
赤外蛍光粒子の代わりに可視発光有機蛍光色素(染料)を用いたこと以外は、実施例と同様に蛍光強度を測定した。
【0082】
(結果)
蛍光強度測定試験の結果を表1に示す。表中の「定量性」については、濃度を横軸、蛍光強度を縦軸として測定結果をプロットしたときに、各プロットが直線上または曲線上にほぼ乗り、検量線を用いれば未知のサンプルに含まれる被検物質の定量が可能である場合を「○」とし、そのような定量が困難である場合は「×」としている。また、表中の「パラフィルム」とは、容器開口部を半透明のパラフィンフィルムでシールし、そのようなフィルムを介して蛍光を測定したときの「定量性」を評価したもので、「○」、「×」は先の記述と同様であり、検量線を用いて未知のサンプルに含まれる被検物質の定量が可能である場合を「○」とし、そのような定量が困難である場合は「×」としている。
【0083】
【表1】
【0084】
赤外領域の蛍光を発する本発明の実施例1〜12の結果は、可視領域の蛍光を発する比較例1〜3に比べて、定量性が良く、本発明の方法で被検物質の定量分析が可能であることが分かった。また、「パラフィルム」の結果に基づくと、非被検物質または容器等の介在に起因して蛍光強度測定の被測定物の透明性が低い場合であっても、本発明の実施例1〜12の定量性が良く、本発明の方法で実質的に高い感度で定量分析が可能であることが分かった。更に、特にヘモグロビン存在下でも定量分析が可能であることが実施例で示唆されており、本発明の方法が生体物質等を含んだ検体に対して好適に用いられる定量分析法であることが理解されよう。
【0085】
なお、比較例で用いた可視発光有機蛍光色素に励起光を5分間照射した場合では、可視蛍光強度が約1/3に低下したのに対し、実施例で用いた赤外蛍光粒子に励起光を5分間照射した場合では、赤外蛍光強度の低下が殆ど見られなかったため、本発明の方法で用いられる赤外蛍光粒子が光照射に対して高い安定性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法は、主として生体物質を定量することができるため、バイオ、生化学、環境または食品等の分野の被検物質の定量分析または検出に好適に利用できる。例えば、バイオまたは生化学分野では、例えば核酸、タンパク質、抗原、抗体、微生物または細胞等の定量/検出等を行うことができ、環境分野では、例えば毒性物質、環境ホルモンまたは重金属等の定量/検出等を行うことができる。また、食品分野では、例えばアレルゲン、食中毒原因物質または毒性物質等の定量/検出等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の方法で用いる相関関係を模式的に示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の方法の実施態様(A−1)の工程を表す模式図である。
【図4】図4は、本発明の方法の実施態様(A−2)の工程を表す模式図である。
【図5】図5は、本発明の方法の実施態様(A−3)の工程を表す模式図である。
【図6】図6は、本発明の方法の実施態様(B−1)の工程を表す模式図である。
【図7】図7は、本発明の方法の実施態様(B−2)の工程を表す模式図である。
【図8】図8は、本発明の方法の実施態様(C−1)の工程を表す模式図である。
【図9】図9は、本発明の方法の実施態様(C−2)の工程を表す模式図である。
【図10】図10は、本発明の方法の実施態様(C−3)の工程を表す模式図である。
【図11】図11は、本発明の方法の実施態様(D−1)の工程を表す模式図である。
【図12】図12は、本発明の方法の実施態様(D−2)の工程を表す模式図である。
【図13】図13は、本発明の方法の実施態様(D−3)の工程を表す模式図である。
【図14】図14は、本発明の方法の実施態様(E−1)の工程を表す模式図である。
【図15】図15は、本発明の方法の実施態様(E−2)の工程を表す模式図である。
【図16】図16は、本発明の方法の実施態様(E−3)の工程を表す模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオおよび生化学の分野における定量分析に関する。より詳細には、本発明は、赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子を用いた定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に微量な蛍光物質であっても、蛍光物質から発せられる光は検出できる場合が多いため、種々の目的に蛍光物質が用いられている。通常、紫外線領域から可視領域の励起光および蛍光が利用される。しかしながら、紫外線領域から可視領域の光では、生体物質等の種々の物質による発光や吸収あるいは散乱の影響が大きく、また室内であっても蛍光灯等による外乱光の影響が大きいため、紫外線領域から可視領域の光を利用した被検物質の定量分析等では、そのような影響を完全に無視できない。従って、被検物質の定量分析に際しては、被検物質の周囲に存在する物質を洗浄等によって除去する必要があり、その分だけ手間やコストを要していた。また、そのような影響を十分に抑えることができず実質的な感度を高くできなかったり、かかる影響を抑えることに起因して分析機器が大型化してしまう等の問題もあった。
【0003】
その一方、かかる定量分析に用いられる蛍光物質自体の問題も残されている。例えば、有機蛍光体では蛍光の安定性が低い。また、代表的な無機蛍光体である量子ドットは高い毒性を一般に有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の問題を解決するために為されたものである。本発明の課題は、被検物質の周囲に存在する物質の影響を抑えて被検物質を定量分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明は、
赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子を用いて、被検物質の定量分析を行う方法であって、
(i)該被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を該赤外蛍光粒子に固定化することによって赤外蛍光粒子aを得る工程、
(ii)該被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を担体に固定化することによって担体bを得る工程、
(iii)該被検物質を含んで成る試料と、該赤外蛍光粒子aおよび該担体bとを接触させ、該担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、該複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物Mを得る工程、
(iv)該赤外蛍光粒子a’と、該赤外蛍光粒子a’’とを分離して、該赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と該赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得る工程、
(v)該混合物M1に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、該混合物M1から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I1を得る工程、ならびに
(vi)該赤外蛍光粒子、該担体および該被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と該試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(検量線)に基づいて、工程(v)で得られた蛍光強度I1から該試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程
を含んで成る方法を提供する。
【0006】
本発明の方法では、モデル実験により、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(Q=fnA(IM1))を予め得ておく。従って、かかる相関関係Aに関する検量線を得ることができるため、工程(v)で得られた混合物M1についての蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1を求めることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法で混合物M1および混合物M2に照射される励起光および生じる蛍光は、赤外領域の波長を有するために種々の物質などに対して高い透過性を有している。従って、赤外蛍光粒子および被検物質の周囲に存在する種々の物質(例えば生体物質)による発光、吸収もしくは散乱の影響を抑えることができる。従って、そのような赤外蛍光粒子および被検物質の周囲に存在する物質を洗浄等で除去しなくても、バックグランドを低く抑えて実質的に高い感度で定量分析を行うことができる。また、金属酸化物から形成される赤外蛍光粒子を用いると、光照射によっても蛍光強度が実質的に低下せず安定した蛍光強度を得ることができるだけでなく、赤外蛍光粒子自体の毒性も低いので、生体等に安全な条件で安定した定量分析を実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
(本明細書で用いる用語の説明)
本明細書で用いる「赤外蛍光粒子」とは、赤外領域の波長を有する励起光を照射すると、赤外領域の波長を有する光のエネルギーを放射する蛍光粒子を意味している。従って、励起光の照射に際して、非常に短い時間で光のエネルギーが放射される場合は「蛍光」として光を発するが、長い時間にわたって光のエネルギーが放射される場合は「燐光」として光を発することになり、本発明の方法で用いられる「赤外蛍光粒子」は、「蛍光」または「燐光」を放射する蛍光体を実質的に意味している。
【0010】
本明細書において「被検物質」とは、一般的な定量分析で対象となる物質を意味しており、例えば、バイオおよび生化学の分野で測定対象となる物質を意味している。かかる「被検物質」は、モデル実験で相関関係Aまたは相関関係B(以下で説明する)を予め得ることができるものであれば、いずれの種類の物質であってもかまわない。好ましくは、被検物質は、抗原、タンパク質、核酸、糖鎖、脂質、細胞、微生物、毒素、アレルゲン、環境ホルモンおよび重金属から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質である。ここで、工程(iii)の「被検物質を含んで成る試料」とは、上記で例示したような被検物質が、例えば、水、バッファー、体液等に溶解または分散している液体、あるいは溶解または分散させた液体のことを一般に指しており、例えば、血液、尿、唾液、汗などの体液、生体組織、培養細胞、微生物等を破砕させて溶解または分散させた溶液や抽出した溶液、細胞、微生物等を含む溶液、食品、または環境調査対象の土壌や水等が挙げられる。
【0011】
本明細書で用いる「非被検物質」とは、被検物質および/または赤外蛍光粒子の周囲に存在する物質を意味しており、例えば、定量分析の感度を低下させると従来考えられていた物質(特に、紫外線領域から可視領域の励起光および蛍光を利用した定量分析に際して洗浄除去されていた物質)である。非被検物質としては、例えば、水、溶剤、塩、生体組織、体液、細胞、生体物質、試薬、樹脂、添加剤、微粒子、色素および可視蛍光色素等が挙げられる。
【0012】
また、本明細書において「モデル混合物M1」または「モデル混合物M2」とは、少なくとも赤外蛍光粒子および被検物質を含み(モデル混合物を数点用いる場合、被検物質の量=0の混合物を一部含んでも構わない)、かつそれらの比率が明らかな混合物、またはそれらから一部を取り出した混合物であって、工程(v)の混合物M1または工程(v’)の混合物M2の全ての成分をほぼ同量含むことが望ましいが、主な成分のみを含むものであってもかまわない。ただし、赤外領域に吸収・発光・散乱等のある成分は得られる蛍光強度に影響を及ぼすため、(v)の混合物M1または(v’)の混合物M2の成分を同量または近い量含むことが望ましい。また、混合物を得る過程が蛍光強度に影響を与える場合には同様の過程を経てモデル混合物M1またはモデル混合物M2を得ることが望ましい。
【0013】
ここでいう「モデル実験」とは、例えば相関関係A(「相関関係B」については後ほど説明する)を求める場合、被検物質の量Qの量を変えた「モデル混合物」を数点用意して各々の蛍光強度Iを測定し、検量線や相関式を作成する等により相関関係Aを求める実験である。被検物質の量Qを変えた数点の試料に対して、モデル混合物M1の蛍光強度IM1を測定すれば、蛍光強度IM1と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係Aを得ることができる。なお、後ほど詳細に説明するが、混合物M2に関しても、その混合物M2から得られる蛍光強度IM2と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(Q=fnB(IM2))が存在し、同様のモデル実験でモデル混合物M2の蛍光強度IM2を測定することによって相関関係Bを得ることができる。
【0014】
(本発明の方法の各工程の説明)
以下において、本発明の方法を各工程に分けて説明するが、本発明の概念の理解および説明の簡略化の観点から、(イ)赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、(ロ)担体にも「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様を主として説明する。図1に、かかる態様の工程をフローチャートで示す。
【0015】
まず、工程(i)では、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」を赤外蛍光粒子に固定化させることによって赤外蛍光粒子aを形成する。赤外蛍光粒子は、粉末形態で用いられることが一般に多いが、工程(iii)の被検物質を含んだ試料に均一に溶解または分散できるものが好ましく、従って、赤外蛍光粒子の直径の上限は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは100nm以下である。その一方、赤外蛍光粒子の直径の下限は、製造が可能か否か及び検出できる蛍光強度が得られるか否かによって決まるものであり、一般には2nm以上が好ましい。以上を踏まえると、赤外蛍光粒子は、2nm〜5μmの粒径を有していることが好ましい。ここでいう「粒径」は、例えば、電子顕微鏡や光学顕微鏡等で拡大した画像から100個の粒子を無作為に選択し、それぞれの粒子について直径を読み取り、これらを平均することによって求めた場合の粒径をいう。ただし、直径が均一でない場合には、最大径と最小径を求めて平均したものを、各粒子の直径とする。なお、かかる赤外蛍光粒子の好ましい粒径は、被検物質または赤外蛍光粒子の形状および種類などに応じて変わり得ることを理解されよう。
【0016】
また、本発明の方法に用いられる赤外蛍光粒子は、無機材料、有機材料、複合材料または錯体等のいずれの材料から形成されていてもよい。とりわけ、無機材料から形成された赤外蛍光粒子は、励起光の照射等による蛍光強度の低下が小さく、安定性に優れているため、本発明の赤外蛍光粒子として好ましい。
【0017】
また、本発明の方法に用いられる赤外蛍光粒子は、安全面または環境面の点でも優れているものが好ましい。例えば、金属酸化物系の赤外蛍光粒子は一般に安定性が高く、毒性も低いので本発明の赤外蛍光粒子に好適に使用される。金属酸化物から成る赤外蛍光粒子としては、例えば、遷移金属元素、リン元素および酸素元素を含んで成る化合物が挙げられる。その代表的な化合物としては、Y・Nd・Yb・PO4、Lu・Nd・Yb・PO4およびLa・Nd・Yb・PO4(式中、Y:イットリウム元素、Nd:ネオジム元素、Yb:イッテルビウム元素、Lu:ルテチウム元素、La:ランタン元素、P:リン元素、O:酸素元素)等の化合物が挙げられる。
【0018】
金属酸化物から成る赤外蛍光粒子の中でも特に、一般式A1−x−y Ndx Yby PO4(式中、AはY,LuおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である)で表される化合物が好ましい。更に、上記一般式A1−x−y Ndx Yby PO4で表される化合物の中でも、100μs以上の残光持続時間を有する化合物が好ましい。ここでいう「残光持続時間」は、励起光照射停止後の蛍光強度が1/10にまで低下するまでの時間を計測することによって得られる時間をいう。
【0019】
なお、工程(i)にいう「固定化」とは、一般的に、赤外蛍光粒子の表面付近に「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」を存在させる態様を意味しており、必ずしも「被検物質に結合することが可能な官能基や物質」を赤外蛍光粒子の表面に直接取り付ける態様のみを意味するものではない。
【0020】
「被検物質に結合することができる官能基または物質」の赤外蛍光粒子への固定化には、相互に特異的に吸着または結合する物質の組合せを用いることができる。例えば、組合せの一方の物質が被検物質として使用される場合、もう一方の物質を赤外蛍光粒子に固定化すればよい。このような組合せの例としては、例えば、リガンド・レセプターと呼ばれる組合せが挙げられる。また、同様に、シリカ、ヒドロキシアパタイト等はそれぞれ核酸、タンパク質と吸着するために、これらの組合せも用いることができる。
【0021】
好ましくは、「被検物質に結合することが可能な官能基」は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、ニトロ基、スクシンイミド基、マレイミド基、ホルミル基、ヒドラジン基およびトシル基から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基である。この場合、これらの官能基と反応性または親和性を有する官能基等を含む被検物質に、赤外蛍光粒子が結合または吸着することになる。なお、上記で例示した「被検物質に結合することが可能な官能基」を活性化したものでもよく、例えば、各種触媒や脱水化剤等を添加することによって活性化が可能であり、代表的なものとしては、カルボキシル基に対するカルボジイミド添加やカルボキシル基の酸無水物化、エポキシ基に対する3級アミンやアルコール添加等が挙げられる。
【0022】
また、好ましくは、「被検物質と結合することが可能な物質」は、例えば、シリカ、ヒドロキシアパタイト、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、プロテインA、プロテインG、核酸および糖鎖から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質である。この場合も、このような「被検物質に結合することが可能な物質」を介して、被検物質に赤外蛍光粒子が結合または吸着することになる。
【0023】
赤外蛍光粒子に「被検物質と結合可能な官能基」を固体化させる手法としては、いかなる方法を用いてもよい。一例としてシランカップリング剤を赤外蛍光粒子表面に反応させる手法がある。この手法では、赤外蛍光粒子表面に官能基を直接的に反応させて導入することができ、また、予めシリカ等を固定した赤外蛍光粒子表面に官能基を反応させて導入することができる。なお、シランカップリング剤で取り付けることができる官能基の種類は限定されているので、更に別の物質をシランカップリング剤により導入された官能基に反応させて、それら官能基をより活性の高い状態にしたり、または、別の官能基を赤外蛍光粒子に導入してもよい。ちなみに、シランカップリング剤の代わりにチタンカップリング剤やシラザンを用いることもできる。
【0024】
同様に、赤外蛍光粒子に「被検物質と結合可能な物質」を固定化させる手法としては、いかなる方法を用いてもよい。例えば、シリカを固定化するには、ゾルゲル法を利用することができる。また、特開2004−031792号に記載されているような被着法も好適に利用することができる。具体的には、例えば、赤外蛍光粒子を分散させた水懸濁液中に好ましい量の珪酸ナトリウムを加えて溶解させた後、酸を加えて中和することによって、赤外蛍光粒子の表面近傍に特定量のシリカを被着形成できる。更に、例えばヒドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系化合物を固定化するには、別の被着法を利用することもできる。具体的には、例えば、赤外蛍光粒子を水中に分散させ、これにカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を加え、pHを調整して、赤外蛍光粒子の表面近傍にリン酸カルシウム系化合物を析出させた後、水熱処理を施す操作によって、リン酸カルシウム系化合物を赤外蛍光粒子の表面近傍に被着形成できる。
【0025】
次に工程(ii)について説明する。工程(ii)では、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」を担体に固定化することによって担体bを得る。工程(ii)における「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」は、工程(i)で説明したような官能基または物質であり、工程(i)で用いる「官能基または物質」と同一種類であっても、異なる種類であってもよい。また、工程(ii)における「固定化」も工程(i)における「固定化」と実質的に同一の意味であり、固定化手法も工程(i)と実質的に同一の手法を用いることができる。
【0026】
工程(ii)に用いる担体は、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」を固定化できる材料または部材から成るものであれば、いずれの種類の担体を用いてもよい。好ましくは、工程(ii)の担体は、ビーズ、平板状部材、容器壁(もしくは容器底)またはフィルター等である。ビーズは、直径が約2nm〜500μm程度の球形に近い形状であることが好ましく、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」の固定化に不向きなものでない限り、いずれの材料から成るものでもよい。好ましくは、ビーズは、磁性体から成るか磁性体を含む磁気ビーズである。なお、磁気ビーズは、鉄、コバルト、ニッケル等の金属、合金、および、それらの酸化物等から成る群から選択される磁性体から形成されていることが好ましい。平板状部材とは、例えば、スライドグラス(またはスライドガラス)等であり、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」の固定化に不向きなものでない限り、いずれの種類の材料から成るものでもよい。また、容器は、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」の固定化に不向きなものでない限り、いずれの容器でもよく、例えば、ビーカー、試験管、サンプルチューブ、キュベット、ウェルプレートまたはサンプル瓶等であり、場合によっては、工程(iii)の「被検物質を含んで成る試料」を入れておくための容器でもよい。フィルターは、例えば、セルロースまたは樹脂等の材質から成るフィルターである。なお、これらの素材として、励起光および蛍光の赤外波長域で発光するものは(担体を通して蛍光を観察する場合には赤外波長域に強い吸収を持つものも)、蛍光強度の測定範囲を狭めたり誤差を生じやすくなったりするため好ましくはない。
【0027】
次に工程(iii)について説明する。工程(iii)では、工程(i)で得られた赤外蛍光粒子aおよび工程(ii)で得られた担体bと、「被検物質を含んで成る試料」とを相互に接触させることによって、担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、そのような複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物Mを形成する。なお被検物質は、赤外蛍光粒子aに固定化した「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」の種類、または担体bに固定化した「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」の種類や、混合方法等によって、担体bとの複合体形成に関与して赤外蛍光粒子a’に結合したり、担体bとの複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’に結合したり、これらに分配されたり、あるいは一部がいずれにも結合しなかったりする。このように担体bとの複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、該複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’の生成に関与し、相関関係AまたはBが得られることになる。
【0028】
工程(iii)に関して、例えば、担体bがビーズである場合には、容器内等で「被検物質を含んで成る試料」とビーズと赤外蛍光粒子aとが混ぜられて混合物Mが形成される。この場合、「被検物質を含んで成る試料」が収められている容器内にビーズおよび赤外蛍光粒子aを加えて混合物Mを形成することもできる。また、担体bが、例えばウェルプレート(特にウェル部に「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」が固定化されているウェルプレート)または試験管等の場合では、ウェルプレートのウェルまたは試験管内に、赤外蛍光粒子aおよび「被検物質を含んで成る試料」を加えることによって混合物Mを形成することができる。更に、例えば、担体bが、フラットな表面を有するスライドグラス等の平板状部材である場合には、「被検物質が結合することが可能な官能基または物質」が固定化されている平板状部材の表面に、スポイト等を用いて「被検物質を含んで成る試料」を供し、その試料が供された部分に赤外蛍光粒子aを加えることによって混合物Mを形成してもよい。
【0029】
工程(iv)では、赤外蛍光粒子a’(即ち、担体bと共に複合体を形成している赤外蛍光粒子a)と、赤外蛍光粒子a’’(即ち、複合体を形成していない赤外蛍光粒子a)とを分離して、赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを形成する。ここでいう「分離」とは、工程(v)の励起光の照射に際して赤外蛍光粒子a’に基づく蛍光のみを得るため(即ち、赤外蛍光粒子a’’に起因した蛍光を含まない蛍光を得るため)に行われる操作であり、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とを物理的(または距離的)に相互に分けることを意味している。従って、混合物M1と混合物M2とは、それぞれが必ずしも別個の混合物として存在する必要がなく、1つの混合物Mの中で、それぞれが相互に隣接して存在する態様であってもかまわない。
【0030】
例えば、工程(ii)で用いられる担体がビーズである場合、工程(iii)で得られる混合物Mを遠心分離に付すことによって、赤外蛍光粒子a’を含む複合体と、赤外蛍光粒子a’’との比重の違いで、赤外蛍光粒子a’を含む混合物M1と、赤外蛍光粒子a’’を含む混合物M2とに分けることができる。更に、ビーズが磁気ビーズである場合には、遠心分離とは別に又は遠心分離に加えて、磁気分離操作を行うことができる。この磁気分離操作とは、外部から磁石または電磁石の磁力を磁気ビーズに作用させることによって、磁気ビーズを移動させる操作である。つまり、磁気ビーズは赤外蛍光粒子a’と共に複合体を形成しているので、磁力で磁気ビーズを移動させることによって、赤外蛍光粒子a’を間接的に移動させることができる。磁気分離では、外部に設けられた磁石または電磁石の近傍に赤外蛍光粒子a’が寄せ集められ、結果的に、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とが相互に分けられることになる。なお、磁石または電磁石は固定式である必要はなく、可動式であってもよく、磁力を作用させた状態で磁石または電磁石を移動させることによって磁気ビーズ(つまり、間接的には赤外蛍光粒子a’)を移動させてもよい。
【0031】
また、工程(ii)で用いられる担体が、ウェルプレートまたは試験管等の容器である場合には、ウェルまたは試験管内に形成された混合物Mの上澄み部分を静置後にピペットやスポイト等で吸引除去することによって、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とを分離することもできる。あるいは、そのようなウェルプレートまたは試験管等を傾けて、上澄み部を流出させて、赤外蛍光粒子aと赤外蛍光粒子aとを分離してもよい。なお、必要に応じて、水、バッファー溶剤、および/または、これらに界面活性剤等の添加剤を加えたもの等を用いて、平板状部材または容器を洗浄してもよい。更に、担体が例えばスライドグラス等のフラットな平板状部材であって、そのような平板状部材が、赤外蛍光粒子aおよび被検物質が収められている容器内に入れられている態様では、かかる平板状部材を容器から単に取り出すことによって、赤外蛍光粒子a’と赤外蛍光粒子a’’とを簡単に分離することもできる。
【0032】
次に、工程(v)を説明する。工程(v)では、工程(iv)で得られた混合物M1に対して、赤外領域の波長の励起光が照射して混合物M1から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I1を得る。
【0033】
混合物に照射する励起光および生じる蛍光は、被検物質およびその周囲に存在する物質に対する透過性が高く、それらの物質による発光、吸収または散乱が少ない赤外領域の波長を有するものである。好ましくは、励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルのピーク波長は、700〜3000nmの近赤外領域の範囲にある。かかる波長よりも短い波長域の光では、被検物質およびその周囲に存在する物質による可視領域の光の吸収や発光がより多いだけでなく、散乱もより多くなり、その一方、かかる波長よりも長い波長域の光では、試料による赤外吸収がより多くなるからである。特に、生体物質を含む試料中の被検物質の定量分析を行う場合、試料には水分が含まれていることが多いので、励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルのピーク波長は、水による光の吸収が少ない700〜1300nmの近赤外領域の範囲にあることがより好ましい。更に、励起光の波長と蛍光の波長との差が大きい方が、赤外蛍光粒子を用いた蛍光強度測定に際して励起光の影響をカットしやすくなることをも考慮すると、励起光スペクトルのピーク波長が700〜1100nmの近赤外領域の範囲にあり、蛍光のスペクトルのピーク波長が850〜1200nmの近赤外領域の範囲にあることが更に好ましい。
【0034】
なお、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が20nm以下では、分光フィルタ等により、励起光と蛍光とを分離するのが難しく、仮に分離できたとしても各々の光が重なっている部分はカットせざるを得ず、光量ロスが大きくなるので、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が20nm以上であることが好ましい。より好ましくは、励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が、50nm以上であり、更に好ましくは100nm以上である。
【0035】
なお、本発明の方法に用いられる「赤外領域の波長を有する励起光」は、レーザー、ハロゲンランプ等の光源から発せられた光を必要に応じて適当な分光フィルタに通すことによって得ることができる。また、機器分析の分野で一般的に使用されている蛍光光度計や分光器、あるいはフォトダイオード、CCD等の受光素子等を用いることによって、工程(v)で放射される蛍光から蛍光強度を得ることができる。更に、蛍光の検出は、励起光が入射してくる方向、その方向と180°反対方向、あるいは、その方向に対して斜めや垂直の方向のいずれの方向で行ってもよい。
【0036】
工程(vi)では、工程(v)で得られた蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1が求められる。
【0037】
蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1を求めるためには、赤外蛍光粒子、担体および被検物質を用いたモデル実験により、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(検量線:Q=fnA(IM1))を予め得ておくことが必要である。つまり、この相関関係Aの検量線に基づいて、蛍光強度I1から試料に含まれる被検物質の量Q1が求められる。
【0038】
本来、「蛍光強度」は、他の条件が一定ならば、測定に供せられる混合物中に含まれる赤外蛍光粒子の濃度あるいは赤外蛍光粒子の絶対量に一般に比例するものであるため(図2参照)、混合物M1についての蛍光強度IM1と、混合物M1に含まれる赤外蛍光粒子の量Pとの間には相関関係C(P=fnC(IM1))が一般に存在する。そして、蛍光強度による被検物質の定量に際して相関関係Aが存在する場合には、混合物M1中の赤外蛍光粒子の量Pと被検物質の量Qとの間に相関関係D(Q=fnD(P))が存在する。したがって、相関関係Cおよび相関関係Dを「モデル実験」および理論的に計算等で求めれば、工程(v)で得られる蛍光強度I1から被検物質の量Q1が求められる。しかしながら、相関関係Bまたは相関関係Cのいずれかまたは両方が求められない場合や、混合物の成分による吸収、発光、散乱等によって単純に相関関係Cおよび相関関係Dから相関関係Aが求められない場合が多いため、一般的には、混合物M1の蛍光強度IM1と被検物質の量Qとの間の相関関係Aを直接求める必要がある。通常相関関係Aは、理論的に計算等で直接求めることは困難なため、「モデル混合物M1」を用いた「モデル実験」により求められる。例えば、被検物質の量Qの量を変えた「モデル混合物M1」を数点用意して各々の蛍光強度IM1を測定し、検量線を作成する等により相関関係Aを求めることができる。
【0039】
ここでいう「モデル混合物M1」とは、少なくとも赤外蛍光粒子および担体および被検物質を予め設定した比率で用いて(モデル混合物を数点用いる場合、該被検物質量=0の混合物を一部含んでも構わない)、工程(i)〜(iv)を経て得られた混合物M1である。なお、モデル混合物M1は、実際の測定試料の調製工程(i)〜(iv)(本発明の工程(i)〜(iv)に相当する)において使用される全ての成分をほぼ同量用いて形成されることが望ましいが、主な成分のみを用いて形成してもかまわない。ただし、ある成分は、赤外領域に吸収・発光・散乱等に起因して、得られる蛍光強度に影響を及ぼすため、測定試料の調製工程(i)〜(iv)の実施に際して用いられる成分を同量または近い量含むことが望ましい。
【0040】
以上のように、本発明の方法を用いれば、試料中の被検物質の濃度、被検物質とそれ以外の物質との存在比率等も結果的に得ることができる。
【0041】
このように本発明の方法では、赤外領域の励起光・蛍光が用いられており、種々の物質に対する透過性が高いため、赤外蛍光粒子および被検物質の周囲に他の物質が存在していても、そのような物質を洗浄等により除去する必要がない点で利点を有する。このため、本発明の方法では、従来の定量分析(即ち、紫外線領域から可視領域の励起光および蛍光を利用した定量分析)等で洗浄除去しなければならなかった物質を除去せずに定量分析できる。その結果、洗浄工程を省くこと又は減らすことができ、定量分析に要する時間および手間を減らすことができる。また、必要な容器等も減らすこともでき、場合によっては1つの容器で済ませることが可能となる。更には、被検物質が含まれる試料容器に蓋を設けたり、パラフィンまたはポリオレフィン製等のフィルム等でシールすることが可能となるだけでなく、かかる試料が血液のように色の濃い試料であったり、微粒子、可視蛍光または吸収色素等の添加物を加えたり、試料を透明性の低いアガロースや樹脂等で固めたりすること等も本発明の方法に与える影響が少ないために行うことができる。
【0042】
なお、上記で説明した態様では、赤外蛍光粒子a’(即ち、担体bと共に複合体を形成している赤外蛍光粒子a)を含む混合物M1についての蛍光強度IM1に基づいて、被検物質の量Q1を得ているが、そのような態様に限らず、赤外蛍光粒子a’’(即ち、複合体を形成していない赤外蛍光粒子a)を含む混合物M2についての蛍光強度IM2からも被検物質の量Q1を得ることができる。この場合には、上記で説明した工程(v)および(vi)に代えて、以下の工程(v’)および(vi’)が実施される:
(v’)赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I2を得る工程、
(vi’)赤外蛍光粒子、担体および被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M2についての蛍光強度IM2と試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(検量線)に基づいて、工程(v’)で得られた蛍光強度I2から試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程。
【0043】
混合物M2の方に励起光を照射する態様では、蛍光強度I2から試料に含まれる被検物質の量Q1を求めるために、赤外蛍光粒子、担体および被検物質を用いたモデル実験により、モデル混合物M2についての蛍光強度IM2と該試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(検量線:Q=fnB(IM2))を予め得ておくことが必要である。つまり、この相関関係Bの検量線に基づいて、蛍光強度I2から試料に含まれる被検物質の量Q1が求められる。
【0044】
この場合にも先の場合と同様に、混合物M2についての蛍光強度IM2と、混合物M2に含まれる赤外蛍光粒子の量Pとの間には相関関係E(P=fnE(IM2))が一般に存在し、混合物M2中の赤外蛍光粒子の量Pと被検物質の量Qとの間に相関関係F(Q=fnF(P))が存在するが、通常は蛍光強度IM2と被検物質の量Qとの間の相関関係Bを「モデル混合物」を用いた「モデル実験」で直接求めることが必要となる。例えば、被検物質の量Qの量を変えることによって「モデル混合物M2」を数点用意して各々の蛍光強度IM2を測定し、検量線を作成する等により相関関係Bを求めることができる。
【0045】
ここでいう「モデル混合物M2」とは、少なくとも赤外蛍光粒子および担体および被検物質を予め設定した比率で用いて(モデル混合物を数点用いる場合、該被検物質の量=0の混合物を一部含んでも構わない)、工程(i)〜(iv)を経て得られた混合物M2である。モデル混合物M2は実際の測定試料の調製工程(i)〜(iv)(本発明の工程(i)〜(iv)に相当する)において使用される全ての成分をほぼ同量用いることが望ましいが、主な成分のみを用いるのであってもかまわない。ただし、ある成分は、赤外領域に吸収・発光・散乱等に起因して、得られる蛍光強度に影響を及ぼすため、測定試料の調製工程(i)〜(iv)の実施に際して用いられる成分を同量または近い量含むことが望ましい。
【0046】
(本発明の種々の実施態様の説明)
次に、本発明の方法をモデル的に示す図面を参照して、本発明を更に詳細に説明する。図面は、あくまでも説明のために模式的にモデル化したものであるため、被検物質、赤外蛍光粒子および担体等のそれぞれのサイズ、ならびに、被検物質と赤外蛍光粒子および/または担体との結合態様などは実際の態様と相違し得る。
【0047】
《実施態様A》
実施態様Aは、抗体Bを平板状部材または容器底に固定化し、抗体B’を赤外蛍光粒子に固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bまたは抗体B’とは特異的に相互に結合する。言い換えれば、実施態様Aは、赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、担体にも「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0048】
(A−1)
図3に、実施態様(A−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗体B’を固定化すると共に、平板状部材または容器底に抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」を、上記(a)で得られた平板状部材の抗体Bが固定化されている面に供給するか、または、「抗原Aを含んで成る試料」を、上記(a)の容器底を有する容器内に供給し、次いで、抗体B’が固定化された赤外蛍光粒子aを加える。試料には、抗体Bおよび抗体B’と特異的に結合する抗原Aが含まれているので、平板状部材または容器底−抗体B−抗原A−抗体B’−赤外蛍光粒子のサンドイッチ構造の複合体が得られる。
(c)洗浄等で洗い流すことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)サンドイッチ構造が存在する箇所に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0049】
(A−2)
図4に、実施態様(A−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(A−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0050】
(A−3)
図5に、実施態様(A−3)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(A−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)抗体B’と結合する物質(図示する例では、抗原Aまたは二次抗体等が固定化された磁気ビーズ)を加えて、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’と結合させる。次いで、外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所に赤外蛍光粒子a’’を集める。
(d)サンドイッチ構造が存在する箇所(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0051】
《実施態様B》
実施態様Bは、抗原Aを赤外蛍光粒子に固定化し、抗体Bを平板状部材または容器底に固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bとは相互に特異的に結合する関係にある。言い換えれば、実施態様Bは、赤外蛍光粒子に被検物質を固定化し、担体に「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0052】
(B−1)
図6に、実施態様(B−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗原Aを固定化すると共に、平板状部材または容器底に抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、抗原Aが固定された赤外蛍光粒子a(=赤外蛍光粒子+抗原A=一定量)を混合した後に、この混合物を、上記(a)で得られた平板状部材の抗体Bが固定化されている面に供給するか、または、この混合物を、上記(a)の容器底を有する容器内に供給する。これにより、試料中の抗原Aと、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aとを、平板状部材または容器底に固定化されている抗体Bに対して競合吸着させる。ここでいう「競合吸着」とは、試料中の抗原A、および、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aの存在比に対応して、これらのいずれか一方が他方よりも多く/少なく前記抗体Bに対して結合する態様を実質的に意味しており、例えば、試料中の抗原Aが少ない場合には、赤外蛍光粒子aの方がより多く前記抗体Bに結合する一方(図6の(b)の右下図を参照)、試料中の抗原Aが多い場合には、試料中の抗原Aの方がより多く前記抗体Bに結合することになる(図6の(b)の左下図を参照)。
(c)洗浄等で洗い流すことによって、平板状部材または容器底の抗体Bに結合しなかった抗原Aおよび赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)平板状部材または容器底の抗体Bが固定化されている箇所に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0053】
(B−2)
図7に、実施態様(B−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(B−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)平板状部材または容器底の抗体Bに結合しなかった抗原Aおよび赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、抗体Bに結合しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0054】
《実施態様C》
実施態様Cは、抗体Bを非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化し、抗体B’を赤外蛍光粒子に固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bまたは抗体B’とは特異的に相互に結合する。言い換えれば、実施態様Cは、赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、担体にも「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0055】
(C−1)
図8に、実施態様(C−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗体B’を固定化すると共に、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、上記(a)で得られた非磁性ビーズまたは磁気ビーズとを混合した後に、抗体B’が固定された赤外蛍光粒子aを加える。試料には、抗体Bおよび抗体B’と特異的に結合する抗原Aが含まれているので、非磁性ビーズまたは磁気ビーズ−抗体B−抗原A−抗体B’−赤外蛍光粒子のサンドイッチ構造の複合体が得られる。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、あるいは、磁気ビーズの場合では磁石もしくは電磁石を用いた磁気分離に付した後、上澄み部分を除くことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)サンドイッチ構造の複合体が含まれる混合物(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0056】
(C−2)
図9に、実施態様(C−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(C−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、あるいは、磁気ビーズの場合では磁石もしくは電磁石を用いた磁気分離に付した後、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0057】
(C−3)
図10に、実施態様(C−3)の工程(a)〜(d)を示す。
磁気ビーズが用いられる場合では、実施態様(C−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所にサンドイッチ構造の複合体を集める。
(d)サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が存在する箇所(即ち、混合物M2)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0058】
《実施態様D》
実施態様Dは、抗原Aを赤外蛍光粒子に固定化し、抗体Bを非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bとは相互に特異的に結合する関係にある。言い換えれば、実施態様Dは、赤外蛍光粒子に被検物質を固定化し、担体に「被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化する態様である。
【0059】
(D−1)
図11に、実施態様(D−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗原Aを固定化すると共に、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに抗体Bを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、抗原Aが固定された赤外蛍光粒子a(=赤外蛍光粒子+抗原A=一定量)とを混合した後に、上記(a)で得られた非磁性ビーズまたは磁気ビーズを加える。これにより、試料中の抗原Aと、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aとを、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化されている抗体Bに対して競合吸着させる。ここでいう「競合吸着」とは、試料中の抗原A、および、抗原Aが固定化された赤外蛍光粒子aの存在比に対応して、これらのいずれか一方が他方よりも多く/少なく前記抗体Bに対して結合する態様を実質的に意味しており、例えば、試料中の抗原Aが少ない場合には、赤外蛍光粒子aの方がより多く前記抗体Bに結合する一方(図11の(b)の右下図を参照)、試料中の抗原Aが多い場合には、試料中の抗原Aの方がより多く前記抗体Bに結合することになる(図11の(b)の左下図を参照)。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、あるいは、磁気ビーズの場合では磁石もしくは電磁石を用いた磁気分離に付した後、上澄み部分を除くことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)サンドイッチ構造の複合体が含まれる混合物(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0060】
(D−2)
図12に、実施態様(D−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(D−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0061】
(D−3)
図13に、実施態様(D−3)の工程(a)〜(d)を示す。
磁気ビーズが用いられる場合では、実施態様(D−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所にサンドイッチ構造の複合体を集める。
(d)サンドイッチ構造を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が存在する箇所(即ち、混合物M2)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0062】
《実施態様E》
実施態様Eは、抗体Bを赤外蛍光粒子に固定化し、抗原Aを非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化する態様である。被検物質は抗原Aである。抗原Aと抗体Bとは相互に特異的に結合する関係にある。言い換えれば、実施態様Eは、赤外蛍光粒子に「被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質」を固定化し、担体に被検物質を固定化する態様である。
【0063】
(E−1)
図14に、実施態様(E−1)の工程(a)〜(d)を示す。
(a)赤外蛍光粒子に抗体Bを固定化すると共に、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに抗原Aを固定化する。
(b)「抗原Aを含んで成る試料」と、抗体Bが固定化された赤外蛍光粒子aとを混合することによって、抗体Bを介して試料中の抗原Aと赤外蛍光粒子aとを結合させる。次いで、赤外蛍光粒子aの抗体Bの中で抗原Aが結合していない抗体Bと、非磁性ビーズまたは磁気ビーズに固定化された抗原Aとを結合させることによって、赤外蛍光粒子aと非磁性ビーズまたは磁気ビーズとが相互に結合した複合体を得る。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、または、磁気ビーズの場合では磁石または電磁石を用いた磁気分離に付した後、上澄み部分を除くことによって、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を除去する。
(d)複合体が含まれる混合物(即ち、混合物M1)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より小さい値を示すことになる。
【0064】
(E−2)
図15に、実施態様(E−2)の工程(a)〜(d)を示す。
実施態様(E−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)非磁性ビーズの場合では遠心分離に付した後、または、磁気ビーズの場合では磁石または電磁石を用いた磁気分離に付した後、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’を含む上澄み部分を採取して、別の容器に移し入れる。つまり、複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が含まれる混合物M2を得る。
(d)上記(c)で得られた混合物M2に対して、赤外領域の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0065】
(E−3)
図16に、実施態様(E−3)の工程(a)〜(d)を示す。
磁気ビーズが用いられる場合では、実施態様(E−1)の工程(a)および(b)に引き続いて、以下の工程(c)および(d)が実施される。
(c)外部に設けられた磁石または電磁石の磁力で磁気ビーズを移動させることによって、次の工程(d)の蛍光強度測定に悪影響を及ぼさない場所に複合体を集める。
(d)複合体を形成しなかった赤外蛍光粒子a’’が存在する箇所(即ち、混合物M2)に赤外領域の波長の励起光を照射して、放射される蛍光の蛍光強度を測定する。得られる蛍光強度は、試料に含まれる抗原Aの量が多いほど、より大きい値を示すことになる。
【0066】
以上、実施態様A〜Eについて説明したが、抗原/抗体への固定化は逆に用いてもよく、また、それ以外のリガンド/レセプターを用いてもよいことは理解されよう。なお、上述のように上澄み部分の蛍光強度を測定する代わりに、ビーズ自体の蛍光強度を測定することも可能である。
【0067】
(本発明の方法の実施に好適な装置の説明)
次に、本発明の方法に好適な装置について説明する。かかる装置は、
赤外領域の波長を含む励起光を発する光源、
混合物M1または混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光を検知する受光センサー、ならびに
光源と受光センサーとの間の光路に、混合物M1または混合物M2を保持または通過させる手段
を有して成り、
得られる蛍光強度I1またはI2に基づいて被検物質の定量を行うことができる装置である。
【0068】
上述したように、本発明の実施に際しては、レーザーとフォトダイオードの組み合わせ等、小さなパーツの組み合わせでよく、また、外乱光の影響が小さいため厳密な遮光が必要ないため、装置の小型化を図ることができる。
【0069】
本発明の方法に好適な装置に用いられる「光源」は、赤外領域の波長を含む励起光を発するものであれば、いずれの種類の光源を用いてもよい。例えば、一般的な分析機器に使用されている光源(例えば、レーザーまたはハロゲンランプ等)を用いることができる。光源から発せられる光から赤外領域の波長の励起光を取り出すことができる分光フィルタを備えていることが好ましい。
【0070】
本発明の方法に好適な装置の「受光センサー」は、励起光の照射によって混合物M1または混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光を検知できるものであれば、いずれの種類のセンサーであってもよい。例えば、一般的な分析機器に使用されているフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード、CCD等の受光センサーを用いることができる。
【0071】
本発明の方法に好適な装置の「混合物M1または混合物M2を保持または通過させる手段」は、光源と受光センサーとの間の光路に混合物M1または混合物M2を供することができるものであれば、いずれの種類の手段であってもかまわない。つまり、赤外領域の波長の励起光が照射される位置に混合物M1または混合物M2をサポートする又は通過させるものであればよい。例えば、一般的な分析機器で測定試料を保持または移動するのに使用されている手段を用いることができる。
【0072】
なお、混合物M1または混合物M2と光源との間、かかる混合物M1または混合物M2と受光センサーの間、またはその双方に適当なフィルタを挿入し、光源で生じる励起光が受光センサーに届かないようにすることが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【0074】
実施例では、赤外蛍光粒子を用いることによって上述の実施態様A〜Eに対応する試験を行った。また、比較例では、可視蛍光有機色素(染料)を用いることによって上述の実施態様Aに対応する試験を行った。
【0075】
《実施例で用いる赤外蛍光粒子の調製》
(赤外蛍光粒子の合成)
特許公報3336572号の実施例1に従って、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が固定化されていない赤外蛍光粒子(以下、「赤外蛍光粒子Z」ともいう)を合成した。具体的には、Nd2O3:3.5g,Yb2O3:4.0g,Y2O3:18.0gおよびH3PO4:60.0gから成る原料を十分に混合し、アルミナ製の蓋付きルツボに充填した後、電気炉に入れ、室温から700℃位まで、一定昇温速度で2時間かけて昇温し、その後、700℃で6時間焼成した。焼成終了後、直ちに電気炉から取り出し、空気中で放冷した。次いで、ルツボに100℃の熱湯を入れ、煮沸した。その結果得られた蛍光粒子をルツボから取り出し、1規定の硝酸で洗浄し、水洗し、乾燥を行った。以上の操作により、一般式Nd0.1Yb0.1Y0.8PO4で表される赤外蛍光粒子Zを得た。この赤外蛍光粒子Zは、「被検物質に結合することが可能な官能基または物質」が固定化されていない。赤外蛍光粒子Zでは、励起光スペクトルのピーク波長が約810nmの励起光を照射すると980nmの蛍光スペクトルのピーク波長が得られた。
【0076】
(赤外蛍光粒子の表面処理)
得られた赤外蛍光粒子Zの5重量部を水/エチルアルコール(体積比1/1)に分散させ、エポキシ基を有するシランカップリング剤を1重量部混合して1時間撹拌した後、遠心分離に付して上澄みを除去し、次いで、120℃で乾燥させることによって、赤外蛍光粒子表面にエポキシ基を固定化させた。得られたエポキシ基が固定化された赤外蛍光粒子1重量部を5重量%エタノールアミン水溶液20重量部に分散させ、一晩撹拌した後、水、アセトンによる洗浄を繰り返し、赤外蛍光粒子表面に水酸基を導入した。次いで、得られた赤外蛍光粒子1重量部をピリジン20重量部に分散させた後、トシルクロライド0.2重量部を加え一晩撹拌した。トルエンによる洗浄を4回繰り返し、赤外蛍光粒子表面にトシル基を固定した。更に、それによって得られた赤外蛍光粒子の1重量部をPBS100重量部に分散させ、ストレプトアビジン0.01重量部を加えて一晩撹拌を行った。PBSによる洗浄を3回繰り返し、ストレプトアビジンを固定化した機能性赤外蛍光粒子を得た。
【0077】
<用いた抗原および抗体>
抗原AとしてC反応性蛋白質(hCRP)を用い、抗体B,B’としてCRP抗体2種類(抗体B:Anti−hCRP/クローン番号6404、抗体B’:Anti−hCRP/クローン番号6405(いずれもMedix Biochemica社製))を用いた。
【0078】
<蛍光強度の測定機器>
各種レーザー光源、試料容器、シリコン受光素子およびフィルタを並べて測定を行った。実施例の試料を用いた測定では、光源側には810nmのレーザーを使用して810nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入し、受光素子側には980nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入した。また、比較例の試料を用いた測定では、光源側には365nmのレーザーを使用して365nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入し、受光素子側には590nmを中心とした波長を取り出せるバンドパスフィルタを挿入した。
【0079】
(被検物質を含む試料となる検体の調製)
抗原A(hCRP)が種々の濃度のPBSバッファー溶液を調製し、100mg/mlの比率でヘモグロビンを混合させた。
【0080】
(蛍光強度測定試験)
〈実施例〉
上記のように準備された赤外蛍光粒子および測定機器等を用いて、種々の抗原濃度の検体に対して蛍光強度を測定した。
【0081】
〈比較例〉
赤外蛍光粒子の代わりに可視発光有機蛍光色素(染料)を用いたこと以外は、実施例と同様に蛍光強度を測定した。
【0082】
(結果)
蛍光強度測定試験の結果を表1に示す。表中の「定量性」については、濃度を横軸、蛍光強度を縦軸として測定結果をプロットしたときに、各プロットが直線上または曲線上にほぼ乗り、検量線を用いれば未知のサンプルに含まれる被検物質の定量が可能である場合を「○」とし、そのような定量が困難である場合は「×」としている。また、表中の「パラフィルム」とは、容器開口部を半透明のパラフィンフィルムでシールし、そのようなフィルムを介して蛍光を測定したときの「定量性」を評価したもので、「○」、「×」は先の記述と同様であり、検量線を用いて未知のサンプルに含まれる被検物質の定量が可能である場合を「○」とし、そのような定量が困難である場合は「×」としている。
【0083】
【表1】
【0084】
赤外領域の蛍光を発する本発明の実施例1〜12の結果は、可視領域の蛍光を発する比較例1〜3に比べて、定量性が良く、本発明の方法で被検物質の定量分析が可能であることが分かった。また、「パラフィルム」の結果に基づくと、非被検物質または容器等の介在に起因して蛍光強度測定の被測定物の透明性が低い場合であっても、本発明の実施例1〜12の定量性が良く、本発明の方法で実質的に高い感度で定量分析が可能であることが分かった。更に、特にヘモグロビン存在下でも定量分析が可能であることが実施例で示唆されており、本発明の方法が生体物質等を含んだ検体に対して好適に用いられる定量分析法であることが理解されよう。
【0085】
なお、比較例で用いた可視発光有機蛍光色素に励起光を5分間照射した場合では、可視蛍光強度が約1/3に低下したのに対し、実施例で用いた赤外蛍光粒子に励起光を5分間照射した場合では、赤外蛍光強度の低下が殆ど見られなかったため、本発明の方法で用いられる赤外蛍光粒子が光照射に対して高い安定性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法は、主として生体物質を定量することができるため、バイオ、生化学、環境または食品等の分野の被検物質の定量分析または検出に好適に利用できる。例えば、バイオまたは生化学分野では、例えば核酸、タンパク質、抗原、抗体、微生物または細胞等の定量/検出等を行うことができ、環境分野では、例えば毒性物質、環境ホルモンまたは重金属等の定量/検出等を行うことができる。また、食品分野では、例えばアレルゲン、食中毒原因物質または毒性物質等の定量/検出等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の方法で用いる相関関係を模式的に示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の方法の実施態様(A−1)の工程を表す模式図である。
【図4】図4は、本発明の方法の実施態様(A−2)の工程を表す模式図である。
【図5】図5は、本発明の方法の実施態様(A−3)の工程を表す模式図である。
【図6】図6は、本発明の方法の実施態様(B−1)の工程を表す模式図である。
【図7】図7は、本発明の方法の実施態様(B−2)の工程を表す模式図である。
【図8】図8は、本発明の方法の実施態様(C−1)の工程を表す模式図である。
【図9】図9は、本発明の方法の実施態様(C−2)の工程を表す模式図である。
【図10】図10は、本発明の方法の実施態様(C−3)の工程を表す模式図である。
【図11】図11は、本発明の方法の実施態様(D−1)の工程を表す模式図である。
【図12】図12は、本発明の方法の実施態様(D−2)の工程を表す模式図である。
【図13】図13は、本発明の方法の実施態様(D−3)の工程を表す模式図である。
【図14】図14は、本発明の方法の実施態様(E−1)の工程を表す模式図である。
【図15】図15は、本発明の方法の実施態様(E−2)の工程を表す模式図である。
【図16】図16は、本発明の方法の実施態様(E−3)の工程を表す模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子を用いて、被検物質の定量分析を行う方法であって、
(i)該被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を該赤外蛍光粒子に固定化することによって赤外蛍光粒子aを得る工程、
(ii)該被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を担体に固定化することによって担体bを得る工程、
(iii)該被検物質を含んで成る試料と、該赤外蛍光粒子aおよび該担体bとを接触させ、該担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、該複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物Mを得る工程、
(iv)該赤外蛍光粒子a’と、該赤外蛍光粒子a’’とを分離して、該赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と該赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得る工程、
(v)該混合物M1に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、該混合物M1から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I1を得る工程、ならびに
(vi)該赤外蛍光粒子、該担体および該被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と該試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(検量線)に基づいて、工程(v)で得られた蛍光強度I1から該試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程
を含んで成る方法。
【請求項2】
前記工程(v)および(vi)に代えて、
(v’)前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る前記混合物M2に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、該混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I2を得る工程、
(vi’)前記赤外蛍光粒子、前記担体および前記被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M2についての蛍光強度IM2と前記試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(検量線)に基づいて、工程(v’)で得られた蛍光強度I2から該試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程
を含んで成ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記担体がビーズであり、前記工程(iv)では、前記混合物Mを遠心分離に付すことによって、前記赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と、前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得ることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビーズが磁性を有しており、前記工程(iv)では、磁石の磁力で該ビーズを移動させることによって、前記赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と、前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記担体が平板状部材または容器壁もしくは容器底であり、前記混合物Mの上澄み部分を取り除くことによって、前記赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と、前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得ることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(v)または(v’)において、励起光スペクトルのピーク波長が近赤外領域の範囲にある励起光を照射することによって、蛍光スペクトルのピーク波長が近赤外領域の範囲にある蛍光を得ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(v)または(v’)において、励起光スペクトルのピーク波長が700〜1100nmの範囲の励起光を照射することによって、蛍光スペクトルのピーク波長が850〜1200nmの範囲の蛍光を得ることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が、50nm以上であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記赤外蛍光粒子a’、前記赤外蛍光粒子a’’および/または前記被検物質の周囲に非被検物質が存在していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記非被検物質が、水、溶剤、塩、生体組織、体液、細胞、生体物質、試薬、樹脂、添加剤、微粒子、色素および可視蛍光色素から成る群から選択される少なくとも1種以上の非被検物質であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(i)で用いられる赤外蛍光粒子が、2nm〜5μmの粒径を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記工程(i)で用いられる赤外蛍光粒子が、金属酸化物から形成されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記金属酸化物が、遷移金属元素、リン元素および酸素元素から成ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(i)で用いられる赤外蛍光粒子が、一般式A1−x−y Ndx Yby PO4(式中、AはY,LuおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である)で表される金属酸化物から形成されていることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記官能基が、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、ニトロ基、スクシンイミド基、マレイミド基、ホルミル基、ヒドラジン基およびトシル基から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記被検物質に結合することが可能な物質が、シリカ、ヒドロキシアパタイト、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、プロテインA、プロテインG、核酸および糖鎖から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
赤外領域の波長の励起光を照射すると赤外領域の波長の蛍光を放射する赤外蛍光粒子を用いて、被検物質の定量分析を行う方法であって、
(i)該被検物質に結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を該赤外蛍光粒子に固定化することによって赤外蛍光粒子aを得る工程、
(ii)該被検物質が結合することが可能な官能基もしくは物質、または、該被検物質を担体に固定化することによって担体bを得る工程、
(iii)該被検物質を含んで成る試料と、該赤外蛍光粒子aおよび該担体bとを接触させ、該担体bと共に複合体を形成する赤外蛍光粒子a’、および、該複合体を形成していない赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物Mを得る工程、
(iv)該赤外蛍光粒子a’と、該赤外蛍光粒子a’’とを分離して、該赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と該赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得る工程、
(v)該混合物M1に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、該混合物M1から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I1を得る工程、ならびに
(vi)該赤外蛍光粒子、該担体および該被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M1についての蛍光強度IM1と該試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係A(検量線)に基づいて、工程(v)で得られた蛍光強度I1から該試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程
を含んで成る方法。
【請求項2】
前記工程(v)および(vi)に代えて、
(v’)前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る前記混合物M2に対して、赤外領域の波長の励起光を照射して、該混合物M2から放射される赤外領域の波長の蛍光について蛍光強度I2を得る工程、
(vi’)前記赤外蛍光粒子、前記担体および前記被検物質を用いたモデル実験により予め得ておいた、モデル混合物M2についての蛍光強度IM2と前記試料に含まれる被検物質の量Qとの相関関係B(検量線)に基づいて、工程(v’)で得られた蛍光強度I2から該試料に含まれる被検物質の量Q1を求める工程
を含んで成ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記担体がビーズであり、前記工程(iv)では、前記混合物Mを遠心分離に付すことによって、前記赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と、前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得ることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビーズが磁性を有しており、前記工程(iv)では、磁石の磁力で該ビーズを移動させることによって、前記赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と、前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記担体が平板状部材または容器壁もしくは容器底であり、前記混合物Mの上澄み部分を取り除くことによって、前記赤外蛍光粒子a’を含んで成る混合物M1と、前記赤外蛍光粒子a’’を含んで成る混合物M2とを得ることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(v)または(v’)において、励起光スペクトルのピーク波長が近赤外領域の範囲にある励起光を照射することによって、蛍光スペクトルのピーク波長が近赤外領域の範囲にある蛍光を得ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(v)または(v’)において、励起光スペクトルのピーク波長が700〜1100nmの範囲の励起光を照射することによって、蛍光スペクトルのピーク波長が850〜1200nmの範囲の蛍光を得ることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
励起光スペクトルのピーク波長と蛍光スペクトルのピーク波長との差が、50nm以上であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記赤外蛍光粒子a’、前記赤外蛍光粒子a’’および/または前記被検物質の周囲に非被検物質が存在していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記非被検物質が、水、溶剤、塩、生体組織、体液、細胞、生体物質、試薬、樹脂、添加剤、微粒子、色素および可視蛍光色素から成る群から選択される少なくとも1種以上の非被検物質であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(i)で用いられる赤外蛍光粒子が、2nm〜5μmの粒径を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記工程(i)で用いられる赤外蛍光粒子が、金属酸化物から形成されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記金属酸化物が、遷移金属元素、リン元素および酸素元素から成ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(i)で用いられる赤外蛍光粒子が、一般式A1−x−y Ndx Yby PO4(式中、AはY,LuおよびLaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり;0<x≦0.5;0<y≦0.5および0<x+y<1である)で表される金属酸化物から形成されていることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記官能基が、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、ニトロ基、スクシンイミド基、マレイミド基、ホルミル基、ヒドラジン基およびトシル基から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記被検物質に結合することが可能な物質が、シリカ、ヒドロキシアパタイト、抗原、抗体、ビオチン、アビジン、プロテインA、プロテインG、核酸および糖鎖から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−155549(P2007−155549A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352412(P2005−352412)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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