説明

赤色発光電界発光りん光体物質としてのユウロピウムドープガリウム−インジウム酸化物

【課題】赤色発光電界発光りん光体物質としてのユウロピウムドープガリウム−インジウム酸化物
【解決手段】 電界発光物質のためのガリウム−インジウム酸化物ベースの新規酸化物りん光体。明るい赤色発光がGa2-x-yInxEuy3(xは0.1乃至0.4におよび、並びにyはりん光体に可溶な範囲内におよぶ)の使用より得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物をベースにした電界発光を示す新規りん光体物質、及び、それらの製造に関する。より詳細には、本発明はユウロピウムドープガリウム−インジウム酸化物りん光体、及び、それらの電界発光物質としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光(EL)は、りん光体の全域で発達した十分に高い電場に応じて、りん光体からの光の発光によって起こる。りん光体は、その物質の全体の領域への場の印加に応じて光を放射する物質を指す。薄膜電界発光素子は、二つの電極の間に挟まれたりん光体フィルム又はりん光体層からなる基本構造を有する。
【0003】
典型的なEL素子20(図1に示す)は、ガラス基板22、ガラス基板の上に蒸着されたインジウムスズ酸化物(ITO)などの透明導電電極からなる第1電極24、そして次にITOの上に蒸着された第1絶縁誘電層26からなる。りん光体層28は、それから、第1絶縁誘電層26の上に蒸着され、そして次に第2絶縁誘電層30がりん光体層の上に蒸着され、続いて第2絶縁誘電層30の上にアルミニウムなどの金属の第2電極32が蒸着される。
【0004】
二つの電極24、32間の有効電圧の印加は、りん光体28において電界発光を誘発するのに必要な電場強度を生む。誘電層26、30の役割は、りん光体の絶縁破壊を回避すること、そしてりん光体層の両側に適切なインターフェースを形成することである。場合によっては、本発明において提示されたの結果を含め、誘電層の一つが除去され得、それでもなお、EL発光が生じる。
【0005】
可視ディスプレイ用途又は、特にカラーフラットパネルディスプレイを製造するために、電界発光りん光体において広いスペクトル域を達成することに、強い商業的関心が存在する。硫化物りん光体ZnS:Mnは、T.イノグチ、M.タケダ、Y.カキハラ、Y.ナカタ、M.ヨシダ、SID’74 ダイジェスト、84−85頁、1974年に論じられたように、電界発光において周知の高効率の発光体である。このりん光体の重大な欠点は、感湿性であり、そして特に電気的に作動したときに酸素と反応する傾向にあることである。研究されている既知の電界発光物質はSrS:RE(W.A.バロー、R.E.コーバート、C.N.キング、ダイジェスト 1984 SID 国際シンポジウム、ロサンゼルス、249頁参照)、SrGa24:RE、及び、CaGa24:RE(W.A.バロー、R.C.コーバート、E.ディッケイ、C.N.キング、C.ラークソ、S.S.サン、R.T.トゥエンゲ、R.ウェントロス、ダイジェスト 1993 SID 国際シンポジウム、シアトル、761頁、及び、G.ミューラー(編者)、電界発光II.V65、半導体及び半金属、アカデミックプレス、サンディエゴ、2000年、143−145頁に開示)などの物質がある。これらの物質は赤色、緑色及び青色発光を達成するとはいえ、ガリウムベースの硫化物は低輝度、製造の困難さ、そして安定性の問題を欠点に持つ。
【0006】
ガラートベースの物質群において、ZnGa24:Mnは明るく安定な電界発光を達成できることが近年明らかになった(T.ミナミ、S.タカタ、Y.クロイ、T.マエノ、ダイジェスト 1995 SID 国際シンポジウム、オーランド、724頁、及び、T.ミナミ、Y.クロイ、S.タカタ、ディプレイりん光体会議、サンディエゴ、11月13−16日、1995年、91頁参照)。彼らは優れた緑色発光(60Hz、最大0.9l
m/Wで200cd/m2)を得たが、駆動周波数1000Hzでは0.5cd/m2の青色、11.0cd/m2の赤色しか得られず、これらはMnをそれぞれCeとEuで置き
かえることによる、ディスプレイとしては実用的な輝度値ではなかった。彼らはアルゴン中1020℃にてこれらりん光体物質をアニールした。
【0007】
より近年になって、ミナミらは、ZnGa24にクロミウムをドープしてより優れた赤色りん光体を作成し、1000Hzにおいて120cd/m2であると主張している(T.
ミナミ、Y.クロイ、S.タカタ、T.ミヤタ、アジアディスプレイ95’における発表、10月16−18日、浜松、に開示)。しかしながら、Zn又はGaと希土類イオンとのサイズのミスマッチのために、希土類はこのホスト格子と混合可能ではないため、ZnGa24においてフルカラーを達成することは実現可能ではない。
【0008】
近年、Zn2SiO4:Mnが電界発光を達成できることが明らかになった(T.ミヤタ、T.ミナミ、Y.ホンダ及びS.タカタ、SID’91 ダイジェスト、286−289頁、1991年参照)。薄膜を、T.ミナミ、T.ミヤタ、S.タカタ、I.フクダ、SID’92 ダイジェスト、162頁に開示された方法を用いて、磨きあげたBaTiO3基板の上にRFマグネトロンで蒸着した。200cd/m2という優れた輝度が60Hz、発光効率0.8lm/Wにて得られた。これらの膜の欠点は、これらが数時間1000℃でアニールされなければならず、このことは実用的なディスプレイ基板へのこれらの適用を大幅に限定するものである。
【0009】
このグループにおいて、ガリウム酸化物ドープアルカリ土類ガラート及び亜鉛ゲルマナートをベースとする新たな酸化物りん光体は優れた電界発光を示すことがわかっている。Eu及びTbをドープ或いは共ドープしたアルカリ土類ガラート類は、輝度及び発光効率が有望である青みがかった緑色及び白色電界発光を示す(1998年の米国特許第5,897,812号明細書及び米国特許第5,788,882号明細書、並びに、A.H.キタイ、T.シャオ、G.リュウ、H.リ、SID’97 ダイジェスト、1997年、419−422頁、並びに、T.シャオ、A.H.キタイ、SID’97 ダイジェスト、1997年、310−313頁参照)。明るい緑色発光はMnをドープしたZn2Si0.5Ge0.54より得られている。60Hz駆動における最大輝度及び発光効率は、それぞれ、377cd/m2及び0.9lm/Wである(米国特許第5,897,812号明細書)

【0010】
近年の研究では、60Hzで駆動したとき、赤色ELりん光体Ga23:Euは550cd/m2の最大輝度及び0.38lm/Wの発光効率をそれぞれ有することが示されてい
る。それは、セラミック基板上で、370V及び670Hzで、2500時間以上、840cd/m2の輝度にての長期安定性も示す(D.ストディルカ、A.H.キタイ、Z.
ファン、K.クック、SID’00 ダイジェスト、2000年、11−13頁参照)。
【0011】
このりん光体はまたガラス基板を用いたEL素子に組み入れられ、駆動電圧330V、60Hzにて最大輝度290cd/m2を達成した。最大発光効率は0.38lm/Wであ
る(A.H.キタイ、X.デン、D.V.ステファノビック、Z.ジャン、S.リ、N.ペン、B.F.コリアー、SID’02 ダイジェスト、2002年、380−383頁参照)。
【0012】
近年MgGa24:Euを使用して変性された赤色りん光体が報告されており、駆動電圧300V、120Hzにて450cd/m2を超える輝度を達成している。最大発光効率
は0.924lm/Wである(Y.ヤノ、T.オイケ、K.ナガノ、2002年、発光型ディスプレイ及び照明科学技術国際会議、会議録、9月23−26日、2002年、ヘント、ベルギー、225−230頁参照)。
【0013】
上述のように、既知の電界発光物質の主要な欠点は、電界発光挙動を生むために膜の高温アニーリング(1000℃付近において)が製造後に要求されることである。高温処理の必要性は、基板の選択を厳しく制限することにつながり、これらの条件下ではごく少数のものしか利用できない。高温アニーリングは、また、急速且つ大規模でのELフィルム製造の難しさを増大させる。多くの電界発光物質におけるその他の制限は、可視スペクトルの赤色、緑色及び青色部分の発光が要求されるカラーディスプレイにとっては理想的ではない、例えば黄色ZnS:Mn又は青緑色SrS:Ceといった、特定波長又は比較的狭い範囲の波長内の発光に制限されることである。硫化物をベースとした電界発光物質は、本質的に、時間の経過と共に物質の電気特性を変える酸化物形成(酸化物は一般に硫化物よりも熱力学的に安定であるので)などの化学的な安定性の問題の欠点を有する。
【0014】
昔ながらのELりん光体、ZnS:Mnは黄色であり、580nmのピーク波長を有する。しかしながら、赤色及び緑色フィルターがかけ得る一方、たった10%の光しか赤色及び緑色のフィルターを通過しないために、ほとんどの光が失われる。同様に、緑青色であるSrS:Ceの欠点は、たった10%の光しか青色フィルターを通過しないことである。
【0015】
赤色発光Ga23:Euりん光体は、他のELりん光体と比して高い駆動電圧を必要とする。D.ストディルカ、A.H.キタイ、Z.ファン及びK.クック、SID’00 ダイジェスト、2000年、11−13頁において示された、370Vの作動電圧は、好ましいとされるものよりも大幅に高い。300Vを大きく下回る電圧であることが好ましい。しかしながら、その赤色発光及び優れた発光効率のために、Ga23:Euは魅力的なりん光体であり、また、たった600℃のアニーリング温度しか必要としないという利点をも有する。
【0016】
それゆえに、Ga23:Euよりも低い駆動電圧を示しながらも、なおも優れた発光効率を有する赤色発光を提供し、そして600℃又はより低い温度での加工ができる、新たな電界発光物質の提供はとても有益である。
【0017】
また、化学的に安定であり、水及び酸素に対して認め得るほど反応しない、新たなEL物質の製造方法の提供もまた、有益である。SrS:Ce又は他の硫化物などの既知の有色りん光体が、上記の点に関して安定ではない。
【非特許文献1】T.イノグチ、M.タケダ、Y.カキハラ、Y.ナカタ、M.ヨシダ、SID’74 ダイジェスト、84−85頁、1974年
【非特許文献2】W.A.バロー、R.E.コーバート、C.N.キング、ダイジェスト 1984 SID 国際シンポジウム、ロサンゼルス、249頁
【非特許文献3】W.A.バロー、R.C.コーバート、E.ディッケイ、C.N.キング、C.ラークソ、S.S.サン、R.T.トゥエンゲ、R.ウェントロス、ダイジェスト 1993 SID 国際シンポジウム、シアトル、761頁
【非特許文献4】G.ミューラー(編者)、電界発光II.V65、半導体及び半金属、アカデミックプレス、サンディエゴ、2000年、143−145頁
【非特許文献5】T.ミナミ、S.タカタ、Y.クロイ、T.マエノ、ダイジェスト 1995 SID 国際シンポジウム、オーランド、724頁
【非特許文献6】T.ミナミ、Y.クロイ、S.タカタ、ディプレイりん光体会議、サンディエゴ、11月13−16日、1995年、91頁
【非特許文献7】T.ミナミ、Y.クロイ、S.タカタ、T.ミヤタ、アジアディスプレイ95’における発表、10月16−18日、浜松
【非特許文献8】T.ミヤタ、T.ミナミ、Y.ホンダ及びS.タカタ、SID’91 ダイジェスト、286−289頁、1991年
【非特許文献9】T.ミナミ、T.ミヤタ、S.タカタ、I.フクダ、SID’92 ダイジェスト、162頁
【非特許文献10】A.H.キタイ、T.シャオ、G.リュウ、H.リ、SID’97 ダイジェスト、1997年、419−422頁
【非特許文献11】T.シャオ、A.H.キタイ、SID’97 ダイジェスト、1997年、310−313頁
【非特許文献12】D.ストディルカ、A.H.キタイ、Z.ファン、K.クック、SID’00 ダイジェスト、2000年、11−13頁
【非特許文献13】A.H.キタイ、X.デン、D.V.ステファノビック、Z.ジャン、S.リ、N.ペン、B.F.コリアー、SID’02 ダイジェスト、2002年、380−383頁
【非特許文献14】Y.ヤノ、T.オイケ、K.ナガノ、2002年、発光型ディスプレイ及び照明科学技術国際会議、会議録、9月23−26日、2002年、ヘント、ベルギー、225−230頁
【特許文献1】米国特許第5,897,812号明細書
【特許文献2】米国特許第5,788,882号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、たとえばフラットパネルディスプレイなどの有色電界発光に有用な電磁スペクトルの赤色部分に対して電界発光挙動を示す電界発光物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明はユウロピウムドープガリウム−インジウム酸化物物質をベースとする、電界発光を示す新規りん光体物質を提供する。
【0020】
好ましい実施態様において、本発明は、化学式Ga2-x-yInxEuy3(式中、xは0.01乃至0.4の範囲におよび、yはりん光体に可溶である範囲におよぶ)を有する混合金属酸化物を提供する。
【0021】
本発明の別の局面において、これら電界発光りん光体のいずれも、以下を有する電界発光表示素子20の提供に使用し得る:
a)正面、背面及びその背面上の導電電極32を有する誘電層30、
b)前記正面上の、任意の上記りん光体物質の電界発光りん光体フィルム28、そして
c)前記電界発光りん光体28に近接して形成される実質的に透明な電極24。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ほんの一例として、図面を参照して、本発明の好ましい実施態様をここに説明する。
図1はガラス基板を用いた電界発光素子の構造の断面概略図である。
図2はGa2-x-yInxEuy3りん光体群の電界発光スペクトルを示す、発光強度対波長の典型的な図である。
図3は、450℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.83Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
図4は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.83Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
図5は、450℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.73In0.1Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
図6は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.73In0.1Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
図7は、540℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.73In0.1Eu0.173
60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
図8は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.63In0.2Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
図9は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.43In0.4Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【0023】
本明細書において、りん光体(類)という用語は混合金属酸化物であって、適切な電場が該物質の全域にかけられるときに電界発光(EL)を示す酸化物を表す。本明細書に開示されたELを示す新規酸化物ベースの物質の製造に使用された様々な金属元素は、ガリウム(Ga)、ユウロピウム(Eu)及びインジウム(In)などである。
【実施例】
【0024】
図1に一般的に示される種類の多くの実験的な電界発光(EL)素子が、第一絶縁誘電層26が除外された本発明にしたがって構成された。参照を容易にするために、構成されたEL素子の各層は図1で用いられた参照数字によって識別される。
【0025】
本発明を示すために用いられたりん光体層28を、市販の高純度Ga23(99.99921%)(イーグルピッチャー社製)、Eu23(99.99%)及びIn23(99.995%)(アルファ−アイサール社製)の粉末を適当な比率にて混合し、次に混合物を6−10時間空気中で1100℃にて焼成することによって調製した。りん光体粉末を次に粉砕し、2インチのターゲットに押圧した。2インチのRFマグネトロンガンを基板上に薄膜りん光体層28をスパッタするために用いた。この発明で用いられた基板22は、0.3ミクロンの透明なインジウム−スズ酸化物コーティングを含む第一電極24を有する、厚さ1.1mmのガラス(コーニングタイプ1737)であり、該コーティング上に薄膜りん光体28がスパッタされた。
【0026】
インジウム−スズ酸化物でコートされた基板22をガンの上方に配置された回転ホルダーの上に取りつけ、基板ヒーターにて450−540℃に加熱した。スパッタリング工程を、アルゴン中30%乃至45%の酸素からなる、20mTorrの圧力下にて行った。蒸着フィルム28の厚さは、2000から5000Åの範囲であった。フィルム28を空気中600℃で1時間アニールした。2ミクロンの厚さのストロンチウムチタネート誘電層30をりん光体層28の上に蒸着した。成膜を3段階にて行った。第一に0.9ミクロンをRFスパッタリングによってスパッタした。第二に0.2ミクロンをゾル−ゲルによって成膜した。最後に0.9ミクロンを再度RFスパッタリングによってスパッタした。
【0027】
最後に、アルミニウム(Al)を上部電極32として約1000Åの厚さにて蒸着した。
【0028】
EL発光スペクトルを、オーシャンオプティクスS−2000スペクトロメーターを用いて測定し、色座標をOOIカラーエクセルテンプレート(オーシャンオプテクス社)を用いて得た。EL素子の輝度をミノルタルミナンスメーターLS−100にて測定した。発光効率をソーヤー−タワー法によって得た。
【0029】
[結果]
本明細書にて検討されたりん光体28は赤色の明るい電界発光(EL)を示した。図2に示したスペクトルは、りん光体システムGa2-x-yInxEuy3のすべてのEL結果を表したものであり、x値にほとんど依存しないことが観察された。赤色発光の典型的なCIE色座標はa=0.64、b=0.36として測定された。
【0030】
図3はGa1.83Eu0.173のりん光体組成物を有する基準素子の、測定された輝度及び
発光効率対電圧を示す。りん光体層の成長温度は450℃であり、アニール温度は600
℃であった。最大発光効率は、駆動電圧260Vにて0.38lm/Wであった。りん光体の厚さは約0.27μmである。
【0031】
図4はGa1.83Eu0.173、成長温度500℃及びアニール温度600℃のりん光体組
成物を有する別の基準素子について、最大発光効率は、駆動電圧210Vにて0.28lm/Wであったことを示す。りん光体の厚さは約0.23μmである。
【0032】
かなり高い駆動電圧を要求されたものが図3及び図4に示されている。図4で用いたより薄いりん光体層はたった0.23μmであったにもかかわらず、210Vの駆動電圧が最大発光効率を得るために要求されている。
【0033】
図5はGa1.73In0.1Eu0.173、成長温度450℃及びアニール温度600℃のりん光体組成物を有する素子について、最大発光効率は駆動電圧230Vにて0.36lm/Wであったことを示す。りん光体の厚さは約0.315μmである。
【0034】
図6はGa1.73In0.1Eu0.173、成長温度500℃及びアニール温度600℃のりん光体組成物を有する素子について、最大発光効率は駆動電圧250Vにて0.32lm/Wであったことを示す。りん光体の厚さは0.42μmであった。
【0035】
図7はGa1.73In0.1Eu0.173、成長温度540℃及びアニール温度600℃のりん光体組成物を有する素子について、最大発光効率は駆動電圧195Vにて0.32lm/Wであったことを示す。りん光体の厚さは約0.255μmであった。
【0036】
図8はGa1.63In0.2Eu0.173、成長温度500℃及びアニール温度600℃のりん光体組成物を有する素子について、最大発光効率は駆動電圧200Vにて0.31lm/Wであったことを示す。りん光体の厚さは0.37μmであった。
【0037】
最後に、図9はGa1.43In0.4Eu0.173、成長温度500℃及びアニール温度600℃のりん光体組成物を有する素子について、最大発光効率は駆動電圧180Vにて0.175lm/Wであったことを示す。りん光体の厚さは約0.32μmであった。
【0038】
図3、4、5、6、7、8及び9を検討すると、低い作動電圧に向う傾向があることは明らかである。しかしながら、作動電圧はまたりん光体の厚さにも依存するので、全ての素子を同じりん光体の厚さを用いて成長させたら明らかになったであろう程、その傾向は明らかでない。これは、おおよその厚さコントロールしか提供できない我々の実験手法の限界のために実現不可能であった。
【0039】
この問題は、其々の素子における発光を実現するのに必要とされる、りん光体層の閾電場を算定することによって克服できる。電場の算定はりん光体層の厚さを補正する。図3及び4では閾電場は約4.27×108V/mである。図5、6及び7では閾電場は約3.
97×108V/mである。図8では閾電場は3.4×108V/mである。図9では閾電場は3.26×108V/mである。
【0040】
今や、傾向がより明らかである。類似する条件下で成長させた多くの試料から得られた結果は、電場の減少を裏付けるものであり、Ga1.83Eu0.173組成物の試料と比較して
Ga1.43In0.4Eu0.173組成物の試料における電場は〜25%の減少を示している。
【産業上の利用可能性】
【0041】
より低い電場の利点としては、より低い駆動電圧と、EL素子の絶縁層上のより低い電気的ストレス等がある。絶縁層は、りん光体に印加された電場に依存する電場にさらされる
ことはEL素子に精通している者なら既知のことである。絶縁層の電場が減少すると、よりよい駆動の信頼性が得られる。
【0042】
加えて、EL素子は静電容量を示す。りん光体中のEL作動に必要な電場が減少すると、りん光体層の厚さが増加し得、また、EL素子の静電容量が減少することとなる。ELディスプレイ素子において電流と電力損失を減少させる、できるだけ小さい素子容量を有することが一般に望まれる。
【0043】
ここに開示された新規電界発光りん光体の製造法はフィルム製造方法としてスパッタリングを用いることが記載されているが、当業者に既知の他の方法が用いられ得ることが認識されるであろう。その他の方法としては、一例を挙げると、電子線蒸着、レーザー切断、化学的蒸着、真空蒸着、分子線エピタキシー、ゾルゲル蒸着、及びプラズマ強化真空蒸着がある。
【0044】
電界発光用途に使用される様々な薄膜誘電体26、30としては、SiO2、SiON、
Al23、BaTiO3、BaTa26、SrTiO3、PbTiO3、PbNb26、S
23、Ta25−TiO2、Y23、Si34、SiAlON等がある。本発明におい
て絶縁体として使用され得る誘電体は、一例を挙げると、上記リストから選択され、ガラス、シリコン又は石英の基板22の上に蒸着され得る。
【0045】
ここに開示された結果は薄膜誘電体26、30を用いて得られたものであるが、セラミック又はガラス基板22上の厚膜もまた用いられ得る。セラミック基板22はアルミナ(Al23)であり得るか、又は、厚膜自身と同じセラミックから作られ得る。一例を挙げるとBaTiO3、SrTiO3、PbZrO3、PbTiO3の厚い誘電体フィルムが使用され得る。
【0046】
ELラミネート素子20形態の変形は当業者に容易に明らかである。このような変形は一つにはEL素子の商業使用目的に依存する。EL素子がフラットパネルディスプレイの場合、基板22はガラスで作られ、連結する電極層24は透明又はほぼ透明でなくてはならない。電極層24を非常に薄く製造することによって、上記記載の実施例のインジウム−スズ酸化物ITOなどの物質を使用して、ほぼ透明なものが達成される。透明電極物質として使用される代替物質は、ZnO:Al(アルミニウムドープ亜鉛酸化物)の薄層である。あるいは、アルミナ基板22が用いられ得、その上に下部導電電極が蒸着され、高い誘電率物質26、りん光体28、及び次に外部透明電極32が続く。あるいは、ガラス又は石英基板22の上に導電電極接点24が蒸着され得、誘電層26、りん光体28、別の誘電層30、及び第二電極32が続く。
【0047】
りん光体のEL特性は、ホスト格子中のドーパント(類)の溶解度範囲内で変化し得る。ドーパントイオン間の電気的相互作用は、最大輝度と発光効率のためのドーパントイオンの好ましい濃度を決定に一役を果し得る。濃度消光として知られるこの現象は、最適なEL特性を与える好ましいドーパント濃度になるように、溶解度限度内のあるポイントをこえたドーピング濃度についての、輝度と発光効率の減少を生ずる。ドーパント含有量はこのためホスト格子の溶解度範囲内で変化し得る。
【0048】
新規りん光体物質を識別するためにここに用いられた用語又は表記法は限定するものとして解釈されるものではないことが理解されるべきである。例えば、ガレートのホスト格子中のGaや、又はガリウム−インジウム酸化物中のGa及びInとEu希土類ドーパントが置き換わるとは必ずしも限らない。ここに開示された異なる新規りん光体物質におけるドーパント濃度の許容範囲は、一つには酸化物中のドーパントの溶解度限度によって決まるということもまた、当業者によって認識されるであろう。
【0049】
りん光体中のカチオン濃度の偏差がスパッタリング工程によって起こり得るということもまた理解されるべきである。化学量論におけるこれらの偏差は、得られたEL挙動への影響を有し得るが、しかしながら、ここに提示された結果の正当性をこれら偏差によって損なうものではない。
【0050】
上述の本発明の好ましい実施態様の説明は、本発明の原則を説明するために提示されたものであり、説明された特定の実施態様に本発明が限定されるものではない。本発明の範囲は当業者に明らかである全ての実施態様によって定義されることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1はガラス基板を用いた電界発光素子の構造の断面概略図である。
【図2】図2はGa2-x-yInxEuy3りん光体群の電界発光スペクトルを示す、発光強度対波長の典型的な図である。
【図3】図3は、450℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.83Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【図4】図4は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.83Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【図5】図5は、450℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.73In0.1Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【図6】図6は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.73In0.1Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【図7】図7は、540℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.73In0.1Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【図8】図8は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.63In0.2Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【図9】図9は、500℃で成長させ、600℃でアニールさせたGa1.43In0.4Eu0.173の60Hzにおける輝度(左の縦軸)及び発光効率(右の縦軸)対電圧の図である。
【符号の説明】
【0052】
20・・・EL素子
22・・・ガラス基板
24・・・第1電極
26・・・誘電層
28・・・りん光体層
30・・・第2誘電層
32・・・第2電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Ga2-x-yInxEuy3(式中、xは約0.01乃至約0.4の範囲におよび、yは0より大きく且つGa2-x-yInxEuy3に可溶な範囲におよぶ)を有する電界発光赤色発光りん光体化合物。
【請求項2】
yは約0.05乃至約0.3の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の赤色発光りん光体化合物。
【請求項3】
yは0.17であることを特徴とする、請求項1に記載の赤色発光りん光体化合物。
【請求項4】
前記りん光体は、Ga23、Eu23、及びIn23からなる群から選択されるたソースからスパッタされることを特徴とする、請求項1に記載の赤色発光りん光体化合物。
【請求項5】
a)正面、背面及びその背面上の導電電極(32)を有する誘電層(30)、
b)化学式Ga2-x-yInxEuy3(式中、xは0.01乃至0.4の範囲にあり、yは0より大きく且つGa2-x-yInxEuy3に可溶な範囲におよぶ)を有し、前記誘電層(30)の正面上に配置された、電界発光赤色発光りん光体フィルム(28)、そして
c)前記りん光体フィルムの外面上に配置された実質的に透明な電極(24)、
を有する電界発光表示素子20。
【請求項6】
前記りん光体フィルムの前記化学式は、約0.05乃至約0.3の範囲のyを含むことを特徴とする、請求項5に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項7】
前記りん光体フィルムの前記化学式は0.17に等しいyを含むことを特徴とする、請求項5に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項8】
前記りん光体フィルム(28)はスパッタリングによってソース物質から蒸着されることを特徴とする、請求項5に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項9】
前記ソース物質は、Ga23、Eu23、及びIn23からなる群から選択される化学式を有することを特徴とする、請求項8に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項10】
前記りん光体フィルム(28)は、450−540℃の温度に加熱した基板にスパッタされることを特徴とする、請求項8に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項11】
前記りん光体フィルム(28)は、空気中、約600℃又はそれ未満で約1時間アニールされることを特徴とする、請求項8に記載の電界発光表示素子。
【請求項12】
Ga2-x-yInxEuy3化合物(式中、xは0.01乃至0.4の範囲であり、yは0より大きく且つGa2-x-yInxEuy3に可溶な範囲に及ぶ)から作られたりん光体層(28)、
前記りん光体層(28)に近接配置された少なくとも一種の誘電絶縁層(30、26)、そして
前記りん光体層(28)の反対側に配置された第一および第二電極(24、32)であって、それらの間に前記少なくとも一方の誘電絶縁層(30、26)が配置され、少なくとも一方の前記電極(24)は実質的に透明であるところの電極、
を有する電界発光表示素子(20)。
【請求項13】
前記第一及び第二電極(24)の一方が実質的に透明な基板の上に形成されていることを
特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項14】
前記りん光体層(28)の反対側に形成された二種の誘電絶縁層(26、30)を有する請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項15】
前記第一及び第二電極(24、32)の間に電圧を印加する手段を有する請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項16】
第一及び第二電極(24,30)の少なくとも一方が、インジウム−スズ酸化物及びアルミニウムドープ酸化亜鉛からなる群から選択される物質から作られたことを特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項17】
前記少なくとも一方の誘電絶縁層(26、30)が実質的に透明であることを特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項18】
前記少なくとも一方の誘電絶縁層(26、30)がストロンチウムチタネートであることを特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項19】
前記少なくとも一方の誘電絶縁層(26、30)が、SiO2、SiON、Al23、B
aTiO3、BaTa26、SrTiO3、PbTiO3、PbNb26、Sm23、Ta25−TiO2、Y23、Si34、及びSiAlONからなる群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項20】
前記実質的に透明な基板(22)はガラス、シリコン及び石英からなる群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項21】
前記少なくとも一方の誘電絶縁層(26、30)はBaTiO3、SrTiO3、PbZrO3、及び、PbTiO3からなる群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項22】
前記第一及び第二電極(24,32)の一方が基板(22)の上に形成されることを特徴とする、請求項12に記載の電界発光表示素子(20)。
【請求項23】
前記基板(22)はAl23、BaTiO3、SrTiO3、PbZrO3、及び、PbT
iO3からなる群から選択されることを特徴とする、請求項22に記載の電界発光表示素
子(20)。
【請求項24】
Ga2-x-yInxEuy3化合物(式中、xは0.01乃至0.4の範囲であり、yは0より大きく且つGa2-x-yInxEuy3に可溶な範囲に及ぶ)から作られた電界発光りん光体(28)を準備すること、そして前記電界発光りん光体を横切って有効電圧を印加して電場を作ることからなる、電界発光を生じさせる方法。
【請求項25】
yが0.05乃至0.3の範囲であることを特徴とする、請求項24に記載の電界発光を生じさせる方法。
【請求項26】
yが0.17と等しいことを特徴とする、請求項24に記載の電界発光を生じさせる方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−524271(P2006−524271A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504101(P2006−504101)
【出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000527
【国際公開番号】WO2004/090068
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505375322)マクマスター ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】