説明

赤色蛍光体、赤色蛍光体の製造方法、白色光源、照明装置、および液晶表示装置

【課題】シリコン、アルミニウム、ストロンチウム、ユーロピウム、窒素および酸素を有する化合物を用いることで、発光強度が強く、輝度が高い赤色蛍光体を得ることを可能にし、その赤色蛍光体を用いることで白色LEDの色域を広くすることを可能にする。
【解決手段】元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の原子数比で含有する赤色蛍光体。ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、
組成式(2)中のm、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【化6】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色蛍光体とその製造方法、さらには赤色蛍光体を用いた白色光源、照明装置、および液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明装置や液晶表示装置のバックライトには、発光ダイオードで構成された白色光源が用いられている。このような白色光源としては、青色発光ダイオード(以下青色LEDと記す)の発光面側に、セリウムを含むイットリウムアルミニウムガーネット(以下YAG:Ceと記す)蛍光体を配置したものが知られている。
【0003】
またこの他にも、青色LEDの発光面側に緑色と赤色の硫化物蛍光体を配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。さらに、青紫色または青色で発光するLEDの発光面側に、CaAlSiN3結晶中にMn、Eu等を固溶してなる蛍光物質を、他の蛍光物質と所定割合で組み合わせて配置する構成も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−60747公報
【特許文献2】特許第3931239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、青色LEDの発光面側にYAG:Ce蛍光体を配置した白色光源では、YAG:Ce蛍光体の発光スペクトルに赤色成分が無いため、青みがかった白色光となり色域が狭い。このため、この白色光源を用いて構成された照明装置では純白色の照明を行うことが困難である。またこの白色光源をバックライトに用いた液晶表示装置では、色再現性の良好な表示を行うことが困難である。
【0006】
また青色LEDの発光面側に緑色と赤色の硫化物蛍光体を配置した白色光源では、硫化物赤色蛍光体の加水分解があるため、輝度が経時的に劣化する。このため、この白色光源を用いて構成された照明装置および液晶表示装置では、輝度の劣化が防止された品質の高い照明や表示を行うことが困難である。
【0007】
さらにCaAlSiN3結晶中にMn、Eu等を固溶してなる蛍光物質を用いた白色光源では、2種類の蛍光物質を混合して用いる手間があった。
【0008】
そこで本発明は、発光強度が強く輝度が高い赤色蛍光体およびその製造方法を提供すること、この赤色蛍光体を用いることで純白な照明が可能な白色光源および照明装置を提供すること、さらには色再現性の良好な液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するための参考例に係る赤色蛍光体は、元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(1)の割合で含有する。ただし、組成式(1)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つである。また、この組成式(1)中、m、x、y、nは、3<m<5、0<x<1、0<y<2、0<n<10なる関係を満たす。
【0010】
【化11】

【0011】
以上のような組成式(1)の赤色蛍光体では、ユーロピウムを有することにより、赤色の発光が可能となり、また上記組成とすることで、発光強度が強く、輝度が高いものとなる。この赤色蛍光体は、例えば662nmの発光ピーク波長で、YAG:Ce蛍光体のおよそ1.5倍の発光強度が得られることが確認された。
【0012】
また参考例は、以上のような組成式(1)の赤色蛍光体の製造方法でもある。元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、およびアルミニウム(Al)が、組成式(1)の割合となるように、元素Aの炭酸化合物、窒化ユーロピウム、窒化シリコン、および窒化アルミニウムを用意する。そしてこれらと共にさらにメラミンを混合して混合物を生成し、混合物の焼成と、当該焼成によって得られた焼成物の粉砕とを行う。これにより、組成式(1)の赤色蛍光体を得ることができる。
【0013】
また本発明の赤色蛍光体は、元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の割合で含有する。ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つである。また、この組成式(2)中、m、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【0014】
【化12】

【0015】
以上のような組成式(2)の赤色蛍光体では、ユーロピウムを有することにより、赤色の発光が可能となる。また、ユーロピウム(Eu)の含有量によらず、炭素(C)の含有量によって発光波長が制御できることが確認された。このため、ユーロピウムの含有量を落とさずに発光強度を維持しつつ、発光波長を制御可能になる。
【0016】
さらに本発明は、以上のような組成式(2)の赤色蛍光体の製造方法でもある。元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、および炭素(C)が、組成式(2)の割合となるように、元素Aの炭酸化合物、窒化ユーロピウム、窒化シリコン、およびメラミンを用意し、これらを混合して混合物を生成し、混合物の焼成と、当該焼成によって得られた焼成物の粉砕とを行う。これにより、組成式(2)の赤色蛍光体を得ることができる。
【0017】
また本発明は、上記組成式(1)または組成式(2)の赤色蛍光体と共に緑色蛍光体を透明樹脂に混練した混練物を青色発光ダイオード上に配置した白色光源、この白色光源を基板上に複数配置した照明装置、さらには液晶表示パネルのバックライトとしてこの白色光源を用いた液晶表示装置でもある。
【0018】
本発明の白色光源では、本発明の赤色蛍光体を用いているため、赤色波長帯(例えば、640nm〜770nmの波長帯)でピーク発光波長が得られ、発光強度が強く、輝度が高い。そのため、青色発光ダイオードの青色光、緑色蛍光体による緑色光、そして赤色蛍光体による赤色光からなる光の3原色による明るい白色光を得ることができる。そして、このような白色光源を用いた照明装置およびバックライトでは、明るい白発光での照明および表示が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の赤色蛍光体は、赤色の波長帯に発光ピーク波長を有することから、赤色の発光が可能であり、従来の蛍光体よりも発光強度が強く、輝度が高いという利点がある。
【0020】
本発明の白色光源は、赤色の波長帯に発光ピーク波長を有し、従来の赤色系の蛍光体よりも発光強度が強く、輝度が高い本発明の赤色蛍光体を用いているため、色域が広い明るい白色光を得ることができるという利点がある。
【0021】
本発明の照明装置は、本発明の白色光源を用いているため、色域が広い明るい白色光を得ることができるため、輝度の高い純白色の照明を行うことが可能になる。
【0022】
本発明の液晶表示装置は、液晶表示パネルを照明するバックライトに本発明の白色光源を用いているため、色域が広い明るい白色光で液晶表示パネルを照明することができる。よって、液晶表示パネルの表示画面において輝度の高い純白色を得ることができ、色再現性に優れた画質の高い表示を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】組成式(1)の赤色蛍光体の発光スペクトルの一例を示した図である。
【図2】組成式(1)の赤色蛍光体における発光特性のEu濃度依存を示す図である。
【図3】組成式(1)の赤色蛍光体における色度(X,Y)のEu濃度依存を説明する図である。
【図4】組成式(1)の各赤色蛍光体の発光スペクトルを、最大ピーク=1cps/nmとして規格化した図(その1)である。
【図5】組成式(1)の各赤色蛍光体の発光スペクトルを、最大ピーク=1cps/nmとして規格化した図(その2)である。
【図6】組成式(1)において、アルミニウム(Al)の原子数比yを変化させた各赤色蛍光体の発光スペクトルである。
【図7】図6に基づいてシリコン(Si)およびアルミニウム(Al)の合計の組成比に対するアルミニウムの組成比[y/(9+y)]を変化させた場合の各光学特性値を示す図である。
【図8】組成式(1)の赤色蛍光体中のカルシウム含有量と発光強度の関係を示した図である。
【図9】実施例で作製した組成式(1)の赤色蛍光体の温度特性を示す図である。
【図10】組成式(2)の各赤色蛍光体の発光スペクトルとピーク波長とを示した図(その1)である。
【図11】組成式(2)の各赤色蛍光体の発光スペクトルとピーク波長とを示した図(その2)である。
【図12】組成式(2)の各赤色蛍光体のピーク波長と輝度とを示した図である。
【図13】組成式(2)の各赤色蛍光体の波長450nmに対する吸収率と量子効率とを示した図である。
【図14】赤色蛍光体の製造方法に係る一実施の形態を示したフローチャートである。
【図15】白色光源に係る一実施の形態を示した概略断面図である。
【図16】白色光源の一例の発光スペクトルを示した図である。
【図17】照明装置に係る一実施の形態を示した概略平面図である。
【図18】液晶表示装置に係る一実施の形態を示した概略構成図である。
【図19】実施例2で作製した組成式(1)の赤色蛍光体のHAADF−STEM像である。
【図20】実施例2で作製した組成式(1)の赤色蛍光体の各ポイントにおけるTEM−EDX分析のスペクトルである。
【図21】実施例2で作製した組成式(1)の赤色蛍光体の各ポイントにおけるTEM−EDX分析のスペクトルである。
【図22】図19のHAADF−STEM像の拡大図である。
【図23】実施例3で作製した組成式(1)の各赤色蛍光体のXDR分析のスペクトルである。
【図24】実施例4に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときのメラミン添加量と発光強度比の関係図である。
【図25】実施例5に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときの第1熱処理工程における加熱温度と発光強度比との関係図である。
【図26】実施例6に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときのメラミンの添加量とピーク発光強度比の関係図である。
【図27】実施例6に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときのメラミンの添加量と相対輝度比の関係図である。
【図28】実施例6に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときのメラミンの添加量と赤色蛍光体中に残る酸素量の関係図である。
【図29】実施例6に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときのメラミンの添加量と赤色蛍光体中に残る炭素量の関係図である。
【図30】実施例6に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときのメラミンの添加量と赤色蛍光体の平均粒径の関係図である。
【図31】組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときの窒化ユーロピウムの添加量に対する赤色蛍光体のピーク発光強度比の関係図である。
【図32】実施例6に基づく組成式(1)の赤色蛍光体を作製するときの窒化ユーロピウムの添加量に対する赤色蛍光体の相対輝度比の関係図である。
【図33】実施例6に基づく組成式(1)のメラミンおよび窒化アルミニウムの成分比を固定して、炭酸ストロンチウム、窒化ユーロピウムおよび窒化シリコンの各成分比を変化させた場合の比を示した図である。
【図34】実施例6に基づく製造方法で作製された組成式(1)の一赤色蛍光体のX線回折パターンを示した図である。
【図35】実施例8に基づく組成式(2)の赤色蛍光体を作製するときのメラミン添加量と得られた赤色蛍光体の炭素(C)含有量との関係図である。
【図36】実施例8で作製した組成式(2)の各赤色蛍光体のXDR分析のスペクトル(その1)である。
【図37】実施例8で作製した組成式(2)の各赤色蛍光体のXDR分析のスペクトル(その2)である。
【図38】実施例8で作製した組成式(2)の各赤色蛍光体の励起波長に対する発光ピークの図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施の形態を図面に基づいて、次に示す順に実施の形態を説明する。
1.第1実施形態(第1の赤色蛍光体の構成)
2.第2実施形態(第2の赤色蛍光体の構成)
3.第3実施形態(赤色蛍光体の製造方法)
4.第4実施形態(白色光源の構成例)
5.第5実施形態(照明装置の構成例)
6.第6実施形態(液晶表示装置の構成例)
【0025】
≪1.第1実施形態(第1の赤色蛍光体の構成)≫
第1の赤色蛍光体は、元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(1)の割合で含有する化合物である。尚、この組成式(1)は、シリコンの原子数比を9に固定して示したものである。
【0026】
【化13】

【0027】
ただし、組成式(1)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、複数種類であってもよい。この元素Aにはストロンチウム(Sr)が好ましく用いられる。また、元素Aとしてカルシウム(Ca)を含むことにより、後で説明するようにカルシウム(Ca)の含有量によって組成式(1)の赤色蛍光体の発光ピーク波長の制御が可能である。
【0028】
また組成式(1)中、m、x、y、nは、3<m<5、0<x<1、0<y<2、0<n<10なる関係を満たす。
【0029】
尚、組成式(1)中の窒素(N)の原子数比[12+y−2(n−m)/3]は、組成式(1)内における各元素の原子数比の和が中性になるように計算されている。つまり、組成式(1)における窒素(N)の原子数比をαとし、組成式(1)を構成する各元素の電荷が補償されるとした場合、2(m−x)+2x+4×9+3y−2n−3α=0となる。これにより、窒素(N)の原子数比α=12+y−2(n−m)/3と算出される。
【0030】
以上のような組成式(1)の赤色蛍光体は、斜方晶系空間点群Pmn21に属する結晶構造で構成された化合物となっている。このような結晶構造において、一部のシリコン(Si)がアルミニウム(Al)に置き換わった構成である。
【0031】
以上のような構成の組成式(1)の赤色蛍光体の特性を説明する。
【0032】
<光学特性>
図1には、元素Aにストロンチウム(Sr)を用いた組成式(1)の各赤色蛍光体(1)〜(7)の発光スペクトルを示す。また比較として、従来のYAG:Ce蛍光体の発光スペクトルを示す。また下記表1には、図1の発光スペクトルから読み取られた組成式(1)の各赤色蛍光体(1)〜(7)の光学特性値を示す。尚、測定は、SPEX社製FLUOROLOG3で、450nmの励起光を照射した際の測定値である。
【0033】
【表1】

【0034】
この図1および表1に示されるように、組成式(1)の範囲の赤色蛍光体(1)〜(7)は、従来のYAG:Ce蛍光体と比較してピーク波長においての発光強度が1.5倍程度高い。またピーク波長も620nm〜670nmであって、従来のYAG:Ce蛍光体の黄色と比較して良好な赤色発光が得られていることが分かる。
【0035】
また特に、組成式(1)において0.5<x<1の赤色蛍光体(1)〜(3)では、発光スペクトルのピーク波長660nm付近の特に良好な赤色発光が得られる。
【0036】
一方、組成式(1)において、0<x<0.5の赤色蛍光体(4)〜(7)であれば、発光スペクトルにおけるピーク波長の発光強度が高い発光を得ることができる。
【0037】
<発光特性のEu濃度依存について>
図2(1)には、組成式(1)におけるm,xの比x/mに対する、組成式(1)の範囲の赤色蛍光体の発光強度比を、従来のYAG:Ce蛍光体に対する比として示す。図2(1)から、組成式(1)の赤色蛍光体は、x/m=3.75%付近に発光強度のピークがあり、ユーロピウム(Eu)の濃度によって発光強度が変化することが分かる。そして、組成式(1)の赤色蛍光体は、x/m≦11%であれば従来のYAG:Ce蛍光体に対して1.5倍の発光強度が得られるため好ましく、x/m=3.75%付近で最も高い発光強度を得ることが可能であることが分かる。
【0038】
尚、図2(2)には、組成式(1)におけるm,xの比x/mに対する、組成式(1)の範囲の赤色蛍光体の相対輝度を従来のYAG:Ce蛍光体に対する比として示した。この図2(2)から、組成式(1)の赤色蛍光体は、ユーロピウム(Eu)の濃度が高い方が、発光波長のピークが高い方にシフトするために相対輝度が低くなることが分かる。
【0039】
<色度のEu濃度依存について>
図3には、組成式(1)の各赤色蛍光体の色度(X,Y)を示す。各赤色蛍光体は、組成式(1)の範囲でm,xの比x/mの値をそれぞれに設定してユーロピウム(Eu)の濃度を変化させたものである。図3から元素A[ストロンチウム(Sr)]に対するユーロピウム(Eu)の相対濃度が高いほど、色度(X,Y)が(+X,−Y)側にシフトすることが分かる。このことから、組成式(1)の各赤色蛍光体は、元素A[ストロンチウム(Sr)]に対するユーロピウム(Eu)の濃度によって色度の制御が可能であることが分かる。
【0040】
<ピーク波長のAl濃度依存について>
図4、図5には、組成式(1)の各赤色蛍光体の発光スペクトルを、最大ピーク=1cps/nmとして規格化したデータを示す。図4、図5のデータは、それぞれ組成式(1)の範囲において、アルミニウム(Al)の原子数比yを変化させた各赤色蛍光体の発光スペクトルを示している。尚、これらのデータの一部には、比較としてアルミニウム(Al)の原子数比yが、組成式(1)の範囲である0<y<2には含まれない化合物の発光スペクトルも示した。
【0041】
これらのデータから、組成式(1)の赤色蛍光体は、アルミニウム(Al)の濃度が高いほど、発光強度のピークが長波長側にシフトする傾向が見られる。
【0042】
図6には、組成式(1)の組成において、アルミニウム(Al)の原子数比yを変化させた各赤色蛍光体の発光スペクトルを示す。尚、これらのデータの一部には、比較としてアルミニウム(Al)の原子数比yが、組成式(1)の範囲である0<y<2には含まれない化合物の発光スペクトルも示した。また図7には、図6に基づいてシリコン(Si)およびアルミニウム(Al)の合計の組成比に対するアルミニウムの組成比[y/(9+y)]を変化させた場合の各光学特性値を示す。
【0043】
図7(1)のピーク波長に示すように、組成式(1)の材料は、アルミニウム(Al)の組成比[y/(9+y)]が高いほど、つまりアルミニウムの濃度が高いほど発光強度のピークが長波長側にシフトする傾向が見られる。
【0044】
また図7(2)のピーク強度に示すように、組成式(1)の範囲であるアルミニウムの原子数比0<y<2に対応する0<[y/(9+y)]<18.2では、ピーク強度が高く保たれていることが分かる。つまり、組成式(1)の範囲であるy<2において、ピーク強度が高く保たれているのである。尚、ピークが低いサンプルは、半値幅が大きく積分値による確認において[y/(9+y)]<18.2では、ピーク強度が高く保たれていることが確認される。
【0045】
さらに図7(3)の半値幅に示すように、組成式(1)の材料は、アルミニウム(Al)の組成比[y/(9+y)]が高いほど、つまりアルミニウムの濃度が高いほど発光スペクトルの半値幅が広くなることが分かる。
【0046】
<ピーク波長の元素A依存について>
図8には、組成式(1)における元素Aをストロンチウム(Sr)およびカルシウム(Ca)とし、その割合を変化させた各赤色蛍光体においての発光スペクトルを示す。この図8に示すように、Ca/Sr=0、すなわちカルシウム(Ca)が含まれない場合の発光ピーク波長は、664nmであった。それが、Ca/Sr=0.27、すなわちストロンチウムが1に対してカルシウムが0.27含まれる場合の発光ピーク波長は、678nmであった。また、Ca/Sr=0.41、すなわちストロンチウムが1に対してカルシウムが0.41含まれる場合の発光ピーク波長は、679nmであった。Ca/Sr=0.55、すなわちストロンチウムが1に対してカルシウムが0.55含まれる場合の発光ピーク波長は、684nmであった。
【0047】
このように、組成式(1)における元素Aとして、カルシウム(Ca)が含まれている場合であれば、カルシウム(Ca)の含有量を増加させることで、上記組成式(1)で表される赤色蛍光体の発光ピーク波長を長波長側に移行させることができる
【0048】
<温度特性>
図9には、組成式(1)の赤色蛍光体(9)の温度特性を示す。また比較として、アルミニウムを含まず組成式(1)からは外れるy=0の蛍光体(9’)の温度特性と、従来のYAG:Ce蛍光体の温度特性も示した。
【0049】
この図9に示されるように、組成式(1)の赤色蛍光体は、アルミニウムを含まない蛍光体(9’)および従来のYAG:Ce蛍光体よりも、加熱条件下での発光強度維持率が高く、良好な温度特性を有していることが分かる。
【0050】
これは、従来の硫化物赤色蛍光体のように加水分解が起こらないだけではなく、アルミニウム(Al)を結晶構造中に含むことによる効果と考えられる。つまり、組成式(1)で示される斜方晶系空間点群Pmn21に属する結晶構造において、シリコン(Si)にAlが置換された構成となることでc軸が伸び、ユーロピウム(Eu)間の距離が離れたことに関連していると思われる。
【0051】
<その他>
尚、このような組成式(1)で示される赤色蛍光体には、炭素(C)が含有されていても良い。この炭素(C)は、赤色蛍光体の製造プロセスにおける原材料に由来する元素であり、合成の過程で除去されずにそのまま赤色蛍光体を構成する合成材料中に残されても良い。炭素(C)が含まれることによって、生成過程での余剰な酸素(O)を取り除き、酸素量を調整する機能を果たす。
【0052】
<赤色蛍光体の変形例1>
また、赤色蛍光体は、組成式(1)におけるユーロピウム(Eu)に換えて、セレン(Ce)を用いてもよい。この場合、赤色蛍光体中には、セレン(Ce)と共に、その電荷補償原子としてリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)が含有されることとする。
【0053】
<赤色蛍光体の変形例2>
以上の第1実施形態においては、赤色蛍光体としてアルミニウムを含有する組成式(1)の化合物を説明した。しかしながら、赤色蛍光体の変形例としては、アルミニウムを含有しない、元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)酸素(O)、および窒素(N)からなる化合物も例示される。この化合物は、下記組成式(1)-aで表される。ただし、組成式(1)-a中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、複数種類であってもよい。この元素Aにはストロンチウム(Sr)が好ましく用いられる。
【0054】
【化14】

【0055】
ただし組成式(1)-a中、式中、m、x、nは、3<m<5、0<x<1、0<n<10なる関係を満たす。
【0056】
尚、組成式(1)-a中の窒素(N)の原子数比[12+y−2(n−m)/3]も、組成式(1)-a内における各元素の原子数比の和が中性になるように計算されている。
【0057】
上記組成式(1)-aで表される赤色蛍光体にカルシウム(Ca)が含まれていてもよい。ストロンチウムに対するカルシウムの含有量を増加させることで、上記組成式(1)-aで表される赤色蛍光体の発光ピーク波長を長波長側に移行させることができる。
【0058】
上記組成式(1)-aで表される赤色蛍光体は、上記組成式(1)で表される赤色蛍光体と同様な効果が得られる。それとともに、構成元素が少ないため取り扱いが容易になる。また結晶構造が単純になるため、欠陥が少なくなるという利点がある。ただし、先に図9を用いて説明したように、組成式(1)のアルミニウムを含有する赤色蛍光体(9)の方が、組成式(1)-aのアルミニウムを含有しない赤色蛍光体(9)’よりも耐熱性に優れている。
【0059】
≪2.第2実施形態(第2の赤色蛍光体の構成)≫
第2の赤色蛍光体は、元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の割合で含有する化合物である。尚、この組成式(1)は、シリコンと炭素の合計の原子数比を9に固定して示したものである。
【0060】
【化15】

【0061】
ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、複数種類であってもよい。この元素Aにはストロンチウム(Sr)が好ましく用いられる。
【0062】
また組成式(2)中、m、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【0063】
尚、組成式(2)中の窒素(N)の原子数比[12−2(n−m)/3]は、組成式(2)内における各元素の原子数比の和が中性になるように計算されている。つまり、組成式(2)における窒素(N)の原子数比をαとし、組成式(2)を構成する各元素の電荷が補償されるとした場合、2(m−x)+2x+4×9−2n−3α=0となる。これにより、窒素(N)の原子数比α=12−2(n−m)/3と算出される。
【0064】
以上のような組成式(2)の赤色蛍光体は、斜方晶系空間点群Pmn21に属する結晶構造で構成された化合物となっている。このような結晶構造において、一部のシリコン(Si)が炭素(C)に置き換わった構成である。また組成式(2)の赤色蛍光体は、上記組成式(1)-aで表される赤色蛍光体に炭素(C)を含有させた構成でもある。炭素が含まれることによって、生成過程での余剰な酸素(O)を取り除き、酸素量を調整する機能を果たす。
【0065】
以上のような構成の組成式(2)の赤色蛍光体の特性を説明する。
【0066】
<光学特性>
図10および図11には、組成式(2)の各赤色蛍光体について測定した発光スペクトル(a)と、発光スペクトルから読み取られた組成式(2)の各赤色蛍光体のピーク波長(b)を示す。ここで測定した組成式(2)の各赤色蛍光体は、元素Aにストロンチウム(Sr)を用い、ストロンチウム(Sr)を用い、およびユーロピウム(Eu)の含有量を各値に固定して、さらに炭素(C)の含有量を各値としたものである。測定は、SPEX社製FLUOROLOG3で、450nmの励起光を照射した際の測定値である。
【0067】
これらの図10、図11に示されるように、組成式(2)の範囲の各赤色蛍光体は、発光強度に係わるユーロピウム(Eu)の含有量を固定した状態であっても、炭素(C)の含有量によって、発光スペクトルが変化することが分かる。その変化は、おおよそ炭素(C)の含有量が増加するほどピーク波長が短波長化する傾向にある。これにより炭素(C)の含有量によって発光波長が制御できることが確認された。したがって、組成式(2)の各赤色蛍光体は、ユーロピウムの含有量を落とさずに発光強度を維持しつつ、発光波長を制御可能になる。
【0068】
さらに図12には、組成式(2)の各赤色蛍光体について測定した発光スペクトルのピーク波長(a)と、その発光スペクトルのピーク強度から算出した輝度(b)を示す。ここで測定した組成式(2)の各赤色蛍光体は、元素Aにストロンチウム(Sr)を用い、ストロンチウム(Sr)を用い、およびユーロピウム(Eu)の含有量を各値に固定して、さらに炭素(C)の含有量を各値としたものである。測定は、SPEX社製FLUOROLOG3で、450nmの励起光を照射した際の測定値である。
【0069】
図12のグラフから、組成式(2)の範囲[m=4,x=0.15]の各赤色蛍光体であれば、炭素(C)の原子数比zが0.073<z<0.088の範囲において、YAGに対する相対的な輝度を0.57程度に保つことが可能であることが分かる。
【0070】
図13(a)には、組成式(2)において元素Aにストロンチウム(Sr)を用いた各赤色蛍光体の、波長450nmの青色励起光に対する吸収率と内部量子効率および外部量子効率とを示す。
【0071】
図13のグラフから、組成式(2)の範囲の各赤色蛍光体は、青色励起光の吸収率が同程度の組成範囲であっても、炭素(C)の含有量によって量子効率が変化することが分かる。その変化は、ピーク値を境に炭素(C)の含有量が増加するほど内部量子効率および外部量子効率が低下する蛍光にある。例えば、図13に示した組成式(2)の範囲[m=4,x=0.15]の各赤色蛍光体であれば、炭素(C)の原子数比zが0.065<z<0.09の範囲で、内部量子効率55%以上、外部量子効率60%以上の発光を得ることができる。
【0072】
≪3.第3実施形態(赤色蛍光体の製造方法)≫
次に、上記組成式(1)の赤色蛍光体の製造方法に係る一実施の形態を、図14のフローチャートによって以下に説明する。
【0073】
図14に示すように、最初に「原料混合工程」S1を行う。この原料混合工程では、まず、組成式(1)を構成する元素を含む原料化合物ととともに、メラミン(C366)を原料として用いて混合するところが特徴的である。
【0074】
組成式(1)を構成する元素を含む原料化合物としては、元素Aの炭酸化合物[例えば炭酸ストロンチウム(SrCO3)]、窒化ユーロピウム(EuN)、窒化シリコン(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)を用意する。そして、用意した各原料化合物に含まれる組成式(1)の元素が、組成式(1)の原子数比となるように、各化合物を所定のモル比に秤量する。秤量した各化合物を混合して混合物を生成する。
【0075】
またメラミンは、フラックスとして、炭酸ストロンチウム、窒化ユーロピウム、窒化シリコンおよび窒化アルミニウム(AlN)の全モル数の合計に対して所定割合で添加する。
【0076】
混合物の生成は、例えば、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢内で混合する。
【0077】
次に、「第1熱処理工程」S2を行う。この第1熱処理工程では、上記混合物を焼成して、赤色蛍光体の前駆体となる第1焼成物を生成する。例えば、窒化ホウ素製坩堝内に上記混合物を入れて、水素(H2)雰囲気中で熱処理を行う。この第1熱処理工程では、例えば、熱処理温度を1400℃に設定し、2時間の熱処理を行う。この熱処理温度、熱処理時間は、上記混合物を焼成できる範囲で、適宜変更することができる。
【0078】
上記第1熱処理工程では、融点が250℃以下であるメラミンが熱分解される。この熱分解された炭素(C)、水素(H)が炭酸ストロンチウムに含まれる一部の酸素(O)と結合して、炭酸ガス(COもしくはCO2)やH2Oとなり、その炭酸ガスやH2Oは気化されるので、上記第1焼成物から取り除かれる。また、分解されたメラミンに含まれる窒素(N)によって、還元と窒化とが促される。
【0079】
次に、「第1粉砕工程」S3を行う。この第1粉砕工程では、上記第1焼成物を粉砕して第1粉末を生成する。例えば、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢を用いて、上記第1焼成物を粉砕し、その後、例えば#100メッシュ(目開きが約200μm)に通して、平均粒径が3μmもしくはそれ以下の粒径の上記第1焼成物を得る。これにより、次の工程の第2熱処理で生成される第2焼成物に成分むらを生じにくくさせる。
【0080】
次に、「第2熱処理工程」S4を行う。この第2熱処理工程では、上記第1粉末を熱処理して第2焼成物を生成する。例えば、窒化ホウ素製坩堝内に上記第1粉末を入れて、窒素(N2)雰囲気中で熱処理を行う。この第2熱処理工程では、例えば、上記窒素雰囲気を例えば0.85MPaに加圧し、熱処理温度を1800℃に設定し、2時間の熱処理を行った。この熱処理温度、熱処理時間は、上記第1粉末を焼成できる範囲で、適宜変更することができる。
【0081】
このような第2熱処理工程を行うことによって、前記組成式(1)で表される赤色蛍光体が得られる。この第2熱処理工程によって得られた第2焼成物(赤色蛍光体)は、組成式(1)で表される均質なものが得られる。
【0082】
次に、「第2粉砕工程」S5を行う。この第2粉砕工程では、上記第2焼成物を粉砕して第2粉末を生成する。例えば、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、例えば#420メッシュ(目開きが約26μm)を用いて、上記第2焼成物を、例えば平均粒径が3.5μm程度になるまで粉砕する。
【0083】
上記赤色蛍光体の製造方法により、微粉末(例えば平均粒径が3.5μm程度)の赤色蛍光体が得られる。このように赤色蛍光体の粉末化することにより、例えば緑色蛍光体の粉末とともに透明樹脂に混練したときに、均一に混練されるようになる。
【0084】
以上により、「原料混合工程」S1において混合した原子数比で各元素を含有する組成式(1)の赤色蛍光体を得ることができる。
【0085】
<赤色蛍光体の製造方法の変形例>
赤色蛍光体としてアルミニウム(Al)を含有をしない上記組成式(1)-aまたは組成式(2)の化合物の製造方法にも、図14のフローチャートによって説明した製造方法を適用することができる。
【0086】
この製造方法(第2製造方法)では、最初の「原料混合工程」S1において元素Aの炭酸化合物[例えば炭酸ストロンチウム(SrCO3)]、窒化シリコンと、窒化ユーロピウムと、メラミンを混合して混合物を生成する。次の「第1熱処理工程」S2において、混合物を焼成することで赤色蛍光体の前駆体を生成する。このとき、メラミンが分解され、メラミンに含まれる炭素、水素が炭酸ストロンチウム中の酸素と結合して、例えば炭酸ガスやH2Oとなり、炭酸ストロンチウム中より一部の酸素が取り除かれる。
【0087】
その後「第1粉砕工程」S3において第1焼成物を粉砕して第1粉末を生成することから、次の工程の第2熱処理工程で生成される第2焼成物に成分むらを生じにくくさせる。
【0088】
次に「第2熱処理工程」S4を行うことで、第1粉末を熱処理して第2焼成物を生成することから、第2熱処理工程によって得られた第2焼成物(赤色蛍光体)は、組成式(1)-aまたは組成式(2)で表される均質なものが得られる。
【0089】
さらに、「第2粉砕工程」S5を行うことで、この第2焼成物を粉砕して第2粉末を生成する。このように赤色蛍光体を粉末化することにより、例えば緑色蛍光体の粉末とともに透明樹脂に混練したときに、均一に混練されるようになる。
【0090】
上記工程を経て得られた赤色蛍光体は、以降の実施例で示すように、赤色波長帯(例えば、640nm〜770nmの波長帯)にピーク発光波長がある。また組成式(2)の赤色蛍光体を得るためには、炭素(C)を含有する原料として用いるメラミンの添加量を調整することにより、組成式(2)における炭素(C)の原子数比zを制御することができる。またこのように、原料に窒化アルミニウムを含まないと、構成元素が少ないため、取り扱いが容易になる。また結晶構造が単純になるため、欠陥が少なくなるという利点がある。
【0091】
≪4.第4実施形態(白色光源の構成例)≫
次に、白色光源に係る一実施の形態を、図15の概略断面図によって説明する。
【0092】
図15に示すように、白色光源1は、素子基板11上に形成されたパッド部12上に青色発光ダイオード21を有している。上記素子基板11には上記青色発光ダイオード21を駆動するための電力を供給する電極13、14が絶縁性を保って形成され、それぞれの電極13、14は、例えばリード線15、16によって、上記青色発光ダイオード21に接続されている。
【0093】
また、上記青色発光ダイオード21の周囲は、例えば樹脂層31が設けられ、その樹脂層31には上記青色発光ダイオード21上を開口する開口部32が形成されている。この開口部32は、上記青色発光ダイオード21の発光方向に開口面積が広くなる傾斜面に形成されていて、その傾斜面には反射膜33が形成されている。つまり、すり鉢状の開口部32を有する樹脂層31において、開口部32の壁面が反射膜33でおおわれ、園開口部32の底面に発光ダイオード21が配置された状態となっている。そして、上記開口部32内に、赤色蛍光体と緑色蛍光体とを透明樹脂に混練した混練物43が、青色発光ダイオード21を覆おう状態で埋め込まれて白色光源1が構成されている。
【0094】
上記赤色蛍光体には、上述した組成式(1)の赤色蛍光体または組成式(2)の赤色蛍光体を用いるところが特徴的である。
【0095】
このような赤色蛍光体の一例として、組成式(1)中の元素Aをストロンチウム(Sr)とし、m=4.1、x=0.7、y=0.7、n=0.7そした、組成式(Sr3.4Eu0.7)Si9Al0.70.715で表される化合物を用いた。
【0096】
上記緑色蛍光体には、一例として、組成式(Sr,Ba)2SiO4:Euで表される化合物を用いた。
【0097】
そして、0.015gの上記赤色蛍光体と0.45gの上記緑色蛍光体をシリコーン樹脂に混練して、上記混練物43を作製した。上記シリコーン樹脂には、一例として、信越化学製のシリコーンKJR637(商品名)(屈折率1.51)を用いた。上記のようにして作製した白色光源1の特性は、以下のようになった。
【0098】
青色発光ダイオード21に3.235Vを印加し、そのときの電流値は40mAであり、電流密度は327mA/mm2であった。その光学特性は、以下のようになった。放射束(Radiant Flux)が31.1mW、WPEが0.240、Lmsが6.8、lm/Wが52.7、色度(x)が0.2639、色度(y)が0.2639であった。上記WPEはエネルギー効率、Lmsはルーメンス:光束、lm/Wは発光効率である。
【0099】
また発光スペクトルは、図16に示すように、青色(450nm)、緑色(534nm)、赤色(662nm)に波長のピークを有することがわかった。
【0100】
また前記説明したように、赤色蛍光体は、赤色波長帯(例えば、640nm〜770nmの波長帯)でピーク発光波長が得られ、発光強度が強く、輝度が高い。そのため、青色LEDの青色光、緑色蛍光体による緑色光、そして赤色蛍光体による赤色光からなる光の3原色による明るい白色光を得ることができる。
【0101】
よって、上記白色光源1は、色域が広い明るい白色光を得ることができるという利点がある。
【0102】
≪5.第5実施形態(照明装置の構成例)≫
次に、照明装置に係る一実施の形態を、図17の概略平面図によって説明する。
【0103】
図17に示すように、照明装置5は、照明基板51上に前記図15を用いて説明した白色光源1が複数配置されている。その配置例は、例えば、(1)図に示すように、正方格子配列としてもよく、または(2)図に示すように、1行おきに例えば1/2ピッチずつずらした配列としてもよい。また、ずらすピッチは、1/2に限らず、1/3ピッチ、1/4ピッチであってもよい。さらには、1行ごとに、もしくは複数行(例えば2行)ごとにずらしてもよい。
【0104】
もしくは、図示はしていないが、1列おきに例えば1/2ピッチずつずらした配列としてもよい。また、ずらすピッチは、1/2に限らず、1/3ピッチ、1/4ピッチであってもよい。さらには、1行ごとに、もしくは複数行(例えば2行)ごとにずらしてもよい。
【0105】
すなわち、上記白色光源1のずらし方は、限定されない。
【0106】
上記白色光源1は、前記図15を参照して説明したのと同様な構成を有するものである。すなわち、上記白色光源1は、青色発光ダイオード21上に、赤色蛍光体と緑色蛍光体を透明樹脂に混練した混練物43を有するものである。
【0107】
上記赤色蛍光体には、上述した組成式(1)または組成式(2)の赤色蛍光体の赤色蛍光体を用いるところが特徴的である。
【0108】
また、上記照明装置5は、点発光とほぼ同等の白色光源1が照明基板51上に、縦横に複数配置されていることから、面発光と同等になるので、例えば液晶表示装置のバックライトとして用いることができる。また、通常の照明装置、撮影用の照明装置、工事現場用の照明装置等、種々の用途の照明装置に用いることができる。
【0109】
上記照明装置5は、白色光源1を用いているため、色域が広い明るい白色光を得ることができる。例えば、液晶表示装置のバックライトに用いた場合に、表示画面において輝度の高い純白色を得ることができ、表示画面の品質の向上が図れるという利点がある。
【0110】
≪6.第6実施形態(液晶表示装置の構成例)≫
次に、液晶表示装置に係る一実施の形態を、図18の概略構成図によって説明する。
【0111】
図18に示すように、液晶表示装置100は、透過表示部を有する液晶表示パネル110と、その液晶表示パネル110を裏面(表示面とは反対側に面)側に備えたバックライト120とを有する。このバックライト120には、前記図17を参照して説明した照明装置5を用いる。
【0112】
上記液晶表示装置100では、バックライト120に照明装置5を用いるため、光の3原色による色域が広い明るい白色光で、液晶表示パネル110を照明することができる。よって、液晶表示パネル110の表示画面において輝度の高い純白色を得ることができ、色再現性が良好で表示画面の品質の向上が図れるという利点がある。
【実施例】
【0113】
<実施例1>
次に、実施例1として上記組成式(1)の赤色蛍光体と、比較例として上記組成式(1)からは外れる化合物(蛍光体)とを、図14のフローチャートを用いて説明した手順に従って以下のように合成した。
【0114】
先ず、「原料混合工程」S1を行った。ここでは、炭酸ストロンチウム(SrCO3)窒化ユーロピウム(EuN)、窒化シリコン(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、およびメラミン(C366)を用意した。用意した各原料化合物を、下記表2に示すモル比に秤量し、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢内で混合した。尚、メラミンのモル比は、他の化合物の全モル数の合計に対しての割合である。
【0115】
【表2】

【0116】
次に、「第1熱処理工程」S2を行った。ここでは、窒化ホウ素製坩堝内に上記混合物を入れて、水素(H2)雰囲気中で1400℃、2時間の熱処理を行った。
【0117】
次に、「第1粉砕工程」S3を行った。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢を用いて、上記第1焼成物を粉砕し、その後、#100メッシュ(目開きが約200μm)に通して、平均粒径が3μm以下の粒径の第1焼成物を得た。
【0118】
次に、「第2熱処理工程」S4を行った。ここでは、第1焼成物の粉末を窒化ホウ素製坩堝内に入れて、0.85MPaの窒素(N2)雰囲気中で1800℃、2時間の熱処理を行った。これにより、第2焼成物を得た。
【0119】
次に、「第2粉砕工程」S5を行う。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内において、メノウ乳鉢を用いて上記第2焼成物を粉砕した。#420メッシュ(目開きが約26μm)を用いて、平均粒径が3.5μm程度になるまで粉砕した。
【0120】
上記赤色蛍光体の製造方法により、微粉末(例えば平均粒径が3.5μm程度)の赤色蛍光体を得た。
【0121】
以上のようにして作製した赤色蛍光体をICPにて分析した。この結果、原材化合物中に含まれる組成式(1)を構成する元素は、ほぼそのままのモル比(原子週比)で赤色蛍光体中に含有されることが確認された。そして上記表2に合わせて示したように、組成式(1)の赤色蛍光体が得られたことが確認された。尚、実施例1で作製したサンプルNo(1)〜(7)の赤色蛍光体は、表1および図1に示した赤色蛍光体(1)〜(7)である。これら組成式(1)の範囲の赤色蛍光体(1)〜(7)が、従来のYAG:Ce蛍光体と比較してピーク波長においての発光強度が1.5倍程度高く、良好な赤色発光が得られていることは、図1を用いて説明した前述の通りである。
【0122】
<実施例2>
実施例1で説明したと同様の手順で、組成式(1)の一例であるSr3.4Eu0.7Si9Al0.70.710(m=4.1,x=0.7,y=0.7,n=0.7)の赤色蛍光体を作製した。尚、実施例2における窒素の組成比10は、組成式(1)[12+y−2(n−m)/3]に当てはまらないが、これはICP分析が酸素濃度および窒素濃度の測定値の信頼性が低いことに起因している。一方、ICP分析はSr,Eu,Si,Alの測定信頼性は非常に高く、またSr,Eu,Si,Alの値に基づいた電荷補償から考えると組成式(1)の組成になることことに疑問はない。
【0123】
作製した赤色蛍光体について、TEM−EDX分析を行った。図19には赤色蛍光体の粒子内における分析ポイントを示すHAADF−STEM像を示す。この図19に示すように、同一粒子内においてポイント1〜4、別の粒子内でポイント5,6の6ヶ所のTEM−EDX分析を行った。図20および図21には、この結果を示す。
【0124】
図19のHAADF−STEM像のコントラストが一様なこと、図20に示すように同一粒子内のポイント1〜4でEDXプロファイルに大きな違いが見られないことから、粒子ないにアルにニウム(Al)などの元素組成の偏りはなく、ほぼ一様であることが確認された。また図21に示すように、別の粒子でもEDXプロファイルに大きな違いがなく、ほぼ同様の組成比の粒子ができていることが確認された。尚、銅(Cu)の検出は、TEM試料台によるものである。
【0125】
また図22には、図19のHAADF−STEM像における拡大部Aの拡大図と、さらには拡大部A内における拡大部Bの拡大図を示す。これらの図から、粒子内においては規則正しい格子模様が観察され、上記製造方法によって単結晶構造の赤色蛍光体が得られていることが確認された。また、作製した赤色蛍光体は、リートベルト解析でたてた斜方晶系空間点群Pmn21のモデルと良好な一致を示した。
【0126】
<実施例3>
実施例1で説明したと同様の手順で、組成式(1)の範囲でアルミニウム(Al)の含有量(原子数比y)を変化させた各赤色蛍光体を作製した。アルミニウム(Al)以外の元素の原子数比は、(y+9)/m=2.425、x/m=3.75%とした。尚、比較としてアルミニウム(Al)を含有しない赤色蛍光体(原子数比y=0)も作製した。
【0127】
作製した各赤色蛍光体をXDR分析した結果を図23に示す。図23に示すように、アルミニウム(Al)の含有量(原子数比y)をy=0から増加させていくに従い、各回折角(2θ)に現れるピーク位置が、各ピーク位置毎に一方向にシフトすることが分かる。例えば、回折角2θ=30.5付近のピークはアルミニウム(Al)の含有量(原子数比y)が増加するほど回折角(2θ)が大きくなる方向にシフトしている。これに対して回折角2θ=35.5付近のピークはアルミニウム(Al)の含有量(原子数比y)が増加するほど回折角(2θ)が小さくなる方向にシフトしている。つまり、ルミニウム(Al)の含有量(原子数比y)が増加するほど、斜方晶系空間点群Pmn21におけるa軸およびc軸は伸び、b軸が縮むことが分かる。なお、この傾向は、組成式(1)の範囲で、m,x,nの原子数比を変えた場合でも同様に確認された。
【0128】
これにより、赤色蛍光体内に存在するアルミニウム(Al)が、上述した単結晶内の一部を構成するようにシリコン(Si)と置き換わったため、単結晶における格子間隔が変化していることが分かる。つまり、上述した単結晶からなる赤色蛍光体内には、単結晶の一部を構成するようにアルミニウム(Al)が存在していることが確認された。また、作製した赤色蛍光体は、リートベルト解析でたてた斜方晶系空間点群Pmn21のモデルと良好な一致を示した。
【0129】
<実施例4>
実施例1で説明したと同様の手順において、メラミンの添加量を変化させて組成式(1)各赤色蛍光体を作製した。
【0130】
作製した各赤色蛍光体のメラミン添加量に対する発光強度を、YAG:Ce蛍光体に対する発光強度比として図24に示す。図24から明らかなように赤色蛍光体の作製時に用いるメラミンの添加量によって、得られた赤色蛍光体の発光強度が変化する。そして、発光強度が最も高くなるようなメラミン添加量の最適値は、メラミン以外の原料割合に応じた値となるため、この原料割合、すなわち合成したい赤色蛍光体の組成比(1)毎に最適値を選択することが重要である。
【0131】
<実施例5>
実施例1で説明した手順における第1熱処理工程における加熱温度を変化させたこと以外は、実施例1と同様の手順で組成式(1)の範囲の赤色蛍光体を作製した。図25には、作製した赤色蛍光体の発光強度を、YAG:Ce蛍光体の発光強度の比として示す。
【0132】
図25から、赤色蛍光体の発光強度は、第1熱処理工程の加熱温度によって変化することが分かる。このため、組成式(1)の赤色蛍光体の作製においては、第1熱処理工程の加熱温度を最適化することが好ましく、およそ1300℃程度が良好と確認された。
【0133】
<実施例6>
実施例1で説明した手順において、原料化合物の混合モル比を下記表3のようにした以外は、実施例1と同様にして赤色蛍光体を作製した。これらのサンプルのうち、Si9−10以外では、組成式(1)の範囲の赤色蛍光体を得ることができた。Si9−10は、組成式(1)のy=0であってアルミニウム(Al)を含有しない赤色蛍光体が得られた。
【0134】
【表3】

【0135】
以上のようにして得られた各赤色蛍光体について、発光スペクトルを測定した。測定は、分光光度計を用い、450nmの波長で励起し、波長460nm〜780nmまで行った。その結果を下記表4に示す。
【0136】
【表4】

【0137】
尚下記表5には、比較する標準蛍光体として、YAG:Ce蛍光体およびCaS:Eu赤色硫化物蛍光体の測定結果を示す。
【0138】
【表5】

【0139】
上記表3および表4に示すように、赤色蛍光体のピーク発光強度比が1.0以上となるのは、サンプルSi9−01〜Si9−06、Si9−10〜Si9−12およびSi9−14〜Si9−18、ならびにSi9−44〜Si9−47である。
【0140】
また、CaS:Eu赤色硫化物蛍光体の輝度を基準とした相対輝度比(以下、相対輝度比という)が1.0以上となるのは、サンプルSi9−02〜Si9−06、Si9−Si9−11およびSi9−15〜Si9−18、ならびにSi9−Si9−46、Si9−Si9−47である。
【0141】
したがって、上記赤色蛍光体のピーク発光強度比が1.0以上、かつ相対輝度比が1.0以上となる赤色蛍光体を生成するには、各原料を以下のような成分比にする必要がある。
【0142】
例えば、上記炭酸ストロンチウム42.8mol%以上46.4mol%以下とする。
上記窒化ユーロピウムは7.5mol%以上10.8mol%以下とする。
上記窒化シリコンは36.0mol%以上37.8mol%以下とする。
上記窒化アルミニウムは8.7mol%以上10.0mol%以下とする。
かつ上記炭酸ストロンチウム、窒化シリコン、窒化ユーロピウム、窒化アルミニウムおよびメラミンを合わせた全mol数に対して、上記メラミンの添加量は60mol%以上65mol%以下とする。
【0143】
特に、上記製造方法では、メラミンの成分比が重要となってくる。前述したように、融点が250℃以下であるメラミンは、上記第1熱処理工程で熱分解される。メラミンが熱分解されて生成された炭素(C)、水素(H)が炭酸ストロンチウムに含まれる酸素(O)と結合して、炭酸ガス(COもしくはCO2)やH2O、となる。そして、その炭酸ガスやH2Oは気化されて、上記第1焼成物から取り除かれる。したがって、メラミンは少なすぎても、多すぎてもよくない。
【0144】
例えば、上記表3、表4に示したSi−43〜Si−48の結果を、図26、図27に示した。図27は、メラミンの添加量に対するピーク発光強度を示したもので、図27は、メラミンの添加量に対する輝度を示したものである。
【0145】
図27から明らかなように、ピーク発光強度比が1.0以上となるのは、メラミンの添加量が45mol%以上67mol%以下のときである。
【0146】
また、図27から明らかなように、相対輝度比が1.0以上となるのは、メラミンの添加量が56mol%以上68mol%以下のときである。
【0147】
したがって、Si−43〜Si−48に示した原料割合においては、メラミンの添加量は56mol%以上68mol%以下とすることが好ましい。尚、図26、図27から、メラミンの添加量を推察すると、上記範囲より少ない方向および多い方向に±3mol%程度拡大することも可能であると考えられる。
【0148】
次に、メラミンの添加量と赤色蛍光体中に残る酸素量の関係を図28に、またメラミンの添加量と赤色蛍光体中に残る炭素量の関係を図29に示した。
【0149】
図28に示すように、メラミンの添加量を変化させることによって、赤色蛍光体中の酸素の含有量も変化する。
【0150】
特に、メラミンを55mol%以上添加していくと、赤色蛍光体中の酸素が低減される。これは、メラミンが熱分解してできた炭素や水素と、炭酸ストロンチウム中の酸素とが結合して、炭酸ガス(CO、CO2等)、H2O等になって、取り除かれるためである。
【0151】
しかしながら、メラミンを70mol%というような高い成分比にすると、第1熱処理工程でメラミンが熱分解された炭素が残留しすぎて、炭素量が多くなりすぎる。例えば、赤色蛍光体中に残留する炭素量が0.1wt%であると、ピーク発光強度比は、0.35となり、相対輝度比が0.39となる。このように、残留炭素は、発光強度、輝度を大幅に低下させる一因になっていると考えられる。
【0152】
したがって、上記説明したように、メラミンの添加量は、より好ましくは60mol%以上65mol%以下とすることである。
【0153】
また、赤色蛍光体の粒径は、メラミンの添加量に依存する。図30に示すように、メラミンの添加量を増大させていくと、赤色蛍光体の粒径が小さくなる方向に変化する。例えばメラミンを45mol%添加した場合は、赤色蛍光体の平均粒径がおよそ5μmであり、メラミンを60mol%添加した場合は、赤色蛍光体の平均粒径がおよそ3.7μmとなった。また、メラミンを65mol%添加した場合には、赤色蛍光体の平均粒径がおよそ3.5μmとなった。
【0154】
このように微粉末の赤色蛍光体を得やすく製造するうえでも、メラミンの添加量は重要となっている。
【0155】
次に、窒化ユーロピウムの添加量について調べた。上記表3、表4に基づいて、窒化ユーロピウムの添加量に対する赤色蛍光体のピーク発光強度の関係を図31に、窒化ユーロピウムの添加量に対する赤色蛍光体の輝度の関係を図32に示した。
【0156】
図31から明らかなように、ピーク発光強度比が1.0以上となるのは、窒化ユーロピウムの添加量がおよそ7.0mol%以上12.0mol%以下のときには、ピーク発光強度比が1.0以上となることが確認された。
【0157】
また、図32から明らかなように、相対輝度比が1.0以上となるのは、窒化ユーロピウムの添加量が7.0mol%以上11.0mol%以下のときである。
【0158】
しかしながら、表3、表4からわかるように、サンプルSi9−13のように窒化ユーロピウムの添加量が10.0mol%であってもピーク発光強度比が0.85となることがある。これは、炭酸ストロンチウムの添加量が少ないためと考えられる。このように、他の原料の添加量によっても、窒化ユーロピウムの添加量は左右されることがある。この点を考慮すると、窒化ユーロピウムの添加量は、7.0mol%以上12.5mol%以下とすることがより好ましい。
【0159】
次に、表3、表4中において、メラミンの成分比を60mol%、窒化アルミニウムの成分比を10.0mol%に固定して、炭酸ストロンチウムの成分比、窒化ユーロピウムの成分比、および窒化シリコンの成分比を変化させた場合のピーク発光強度分布を、図33に示す。尚、図中にはサンプルNo.とピーク発光強度値を示した。
【0160】
図33に示すように、サンプルSi9−01〜Si9−06、サンプルSi9−15〜Si9−18は、ピーク発光強度比が1.2以上となっており、特に、サンプルSi9−03〜Si9−05およびサンプルSi9−15〜Si9−17はピーク発光強度比が1.3以上と、極めて優れた値となっていることがわかった。
【0161】
ここで、発光ピーク波長が662nmのサンプルSi9−47の赤色蛍光体について、(株)リガク製粉末X線回折計を用いて、Cu−Kα線のX線回析パターンを調べた。その結果を図34に示す。すなわち、蛍光体の結晶構造を示す。このエックス線解析パターンからも、上記製造方法で得られた赤色蛍光体が、斜方晶系空間点群Pmn21であることが確認された。
【0162】
<実施例7>
次に、実施例1で説明した手順において、原料化合物として、さらに窒化カルシウム(Ca32)を用い、原料化合物の混合モル比を下記表6のようにした以外は、実施例1と同様にして赤色蛍光体を作製した。
【0163】
【表6】

【0164】
以上のようにして得られた各赤色蛍光体について、発光スペクトルを測定した。測定は、分光光度計を用い、450nmの波長で励起し、波長460nm〜780nmまで行った。その結果を下記表7に示す。
【0165】
【表7】

【0166】
上記表6および表7に示すように、窒化カルシウムの添加量を多くしていくと、ピーク発光波長が長波長側に移行することが確認された。例えば、窒化カルシウムを添加しない場合には、ピーク発光波長は664nmであった。そして、窒化カルシウムを4.5mol%添加するとピーク発光波長が678nmとなり、窒化カルシウムを7.0mol%添加するとピーク発光波長が679nmとなり、窒化カルシウムを9.8mol%添加するとピーク発光波長が684nmとなった。
【0167】
しかしながら、窒化カルシウムの添加量を増大していくにつれて、輝度の低下が顕著になる傾向が見られた。したがって、窒化カルシウムの添加によって、ピーク発光波長の移行は可能であるが、輝度の低下を十分考慮する必要がある。
【0168】
なお、窒化カルシウムの添加量が9.8mol%以下もしくは添加しないのであれば、ピーク発光強度比が1.0以上の発光強度を得ることができた。また、窒化合物カルシウムの添加量が9.8mol%であっても、ピーク発光強度比で1.18の発光強度を得ることができた。
【0169】
したがって、窒化カルシウムの添加量は、上記範囲であれば発光強度に大きな影響を及ぼさないといえる。
【0170】
なお、上記赤色蛍光体の製造方法における上記炭酸ストロンチウム(SrCO3)、窒化ユーロピウム(EuN)、窒化シリコン(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)およびメラミン(C366)の成分比は、各原料化合物の成分比を調整することで、最大、以下の範囲に設定することができる。
【0171】
すなわち、上記炭酸ストロンチウムは23.5mol%以上47.0mol%以下とする。
上記窒化シリコンは33.0mol%以上41.0mol%以下とする。
上記窒化ユーロピウムは7.0mol%以上12.5mol%以下とする。
上記窒化アルミニウムは少なくとも含み12.0mol%以下とする。
かつ上記炭酸ストロンチウム、窒化シリコン、窒化ユーロピウムおよび窒化アルミニウムを合わせた全mol数に対して、上記メラミンの添加量は60mol%以上65mol%以下とする。
【0172】
また、上記赤色蛍光体の製造方法では、炭素の供給源としてメラミンを用いたが、例えば、上記メラミンの代わりに炭素と水素と窒素からなる有機物を用いることが可能である。なお、酸素を含む有機物は好ましくない。また、上記メラミンの代わりに炭素粉末を用いることも可能である。
【0173】
<実施例8>
次に、実施例8として、上記組成式(2)の赤色蛍光体を図14のフローチャートを用いて説明した手順に従って以下のように合成した。
【0174】
先ず、「原料混合工程」S1を行った。ここでは、炭酸ストロンチウム(SrCO3)窒化ユーロピウム(EuN)、窒化シリコン(Si34)、およびメラミン(C366)を用意した。用意した各原料化合物を秤量し、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢内で混合した。
【0175】
次に、「第1熱処理工程」S2を行った。ここでは、窒化ホウ素製坩堝内に上記混合物を入れて、水素(H2)雰囲気中で1400℃、2時間の熱処理を行った。
【0176】
次に、「第1粉砕工程」S3を行った。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢を用いて、上記第1焼成物を粉砕し、その後、#100メッシュ(目開きが約200μm)に通して、平均粒径が3μm以下の粒径の第1焼成物を得た。
【0177】
次に、「第2熱処理工程」S4を行った。ここでは、第1焼成物の粉末を窒化ホウ素製坩堝内に入れて、0.85MPaの窒素(N2)雰囲気中で1800℃、2時間の熱処理を行った。これにより、第2焼成物を得た。
【0178】
次に、「第2粉砕工程」S5を行う。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内において、メノウ乳鉢を用いて上記第2焼成物を粉砕した。#420メッシュ(目開きが約26μm)を用いて、平均粒径が3.5μm程度になるまで粉砕した。
【0179】
上記赤色蛍光体の製造方法により、微粉末(例えば平均粒径が3.5μm程度)の赤色蛍光体を得た。
【0180】
図35には、以上のようにして作製した赤色蛍光体について、炭素(C)含有量(原子数比z)をICPにて分析した結果を、作製時のメラミンの添加量Rに対する値として示す。図35には、測定値と共に測定値から得られた回帰直線を示す。この図から、メラミンの添加量Rに対して組成式(2)の赤色蛍光体における炭素(C)の原子数比zが、ほぼ正比例することが分かる。尚、ICP分析は、炭素濃度の測定値の信頼性が十分に高いとは言えない。このため、図10〜図13に示した各図においても炭素(C)の[原子数比z]は、各赤色蛍光体の作製時における作製時のメラミンの添加量Rを、図35の回帰直線に当てはめて求めた値である。
【0181】
図36および図37には、作製した組成式(2)の各赤色蛍光体をXDR分析した結果を示す。これらの図に示すように炭素(C)の含有量(原子数比z)によって、各回折角(2θ)に現れるピーク位置がシフトすることが分かる。例えば、回折角2θ=35.3付近のピークは、炭素(C)の含有量(原子数比z)の増加にともなって、回折角(2θ)が小さくなる方向にシフトした後、回折角(2θ)が大きくなる方向にシフトする。
【0182】
図36,37の結果から、組成式(2)の各赤色蛍光体は、斜方晶系空間点群Pmn21におけるa軸およびc軸が炭素(C)の含有量(原子数比z)によって伸び縮みし、これにより格子体積が膨張及び収縮することが確認された。なお、b軸はほとんど変化しない。
【0183】
これにより、赤色蛍光体内に存在する炭素(C)が、上述した単結晶内の一部を構成するようにシリコン(Si)と置き換わったため、単結晶における格子間隔が変化していることが分かる。つまり、上述した単結晶からなる赤色蛍光体内には、単結晶の一部を構成するように炭素(C)が存在していることが確認された。また、作製した赤色蛍光体は、リートベルト解析でたてた斜方晶系空間点群Pmn21のモデルと良好な一致を示した。
【0184】
図38には、組成式(2)の各赤色蛍光体の励起波長に対する発光ピークを、各赤色蛍光体においての最高ピーク値を1とした相対値で示す。この図からわかるように、炭素(C)の含有量を変化させることで、励起波長に対する発光ピークが変化していることが確認される。このような発光特性の変化により、赤色蛍光体内に存在する炭素(C)が、上述した単結晶内の一部を構成するようにシリコン(Si)と置き換わり、単結晶における格子間隔が変化していることが確認された。
【符号の説明】
【0185】
1…白色光源、5…照明装置、21…青色発光ダイオード、43…混練物、100…液晶表示装置、110…液晶表示パネル、120…バックライト(照明装置5)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の原子数比で含有する
赤色蛍光体。
【化6】

ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、
組成式(2)中のm、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【請求項2】
前記組成式(2)で示される化合物が、斜方晶系空間点群Pmn21に属する結晶構造で構成された
請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項3】
前記元素Aは、ストロンチウム(Sr)である
請求項1または2に記載の赤色蛍光体。
【請求項4】
元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、および炭素(C)が、下記組成式(2)の原子数比となるように、元素Aの炭酸化合物、窒化ユーロピウム、窒化シリコン、およびメラミンを混合して混合物を生成し、
前記混合物の焼成と、当該焼成によって得られた焼成物の粉砕とを行う
赤色蛍光体の製造方法。
【化7】

ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、
組成式(2)中のm、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【請求項5】
前記混合物の焼成と、当該焼成によって得られた焼成物の粉砕とを、繰り返し行う
請求項4に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項6】
素子基板上に形成された青色発光ダイオードと、
前記青色発光ダイオード上に配置されていて赤色蛍光体と緑色蛍光体とを透明樹脂に混練した混練物とを有し、
前記赤色蛍光体は、
元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の原子数比で含有する
白色光源。
【化8】

ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、
組成式(2)中のm、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【請求項7】
照明基板上に複数の白色光源が配置され、
前記白色光源は、
素子基板上に形成された青色発光ダイオードと、
前記青色発光ダイオード上に配置されていて赤色蛍光体と緑色蛍光体を透明樹脂に混練した混練物を有し、
前記赤色蛍光体は、
元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の原子数比で含有する
照明装置。
【化9】

ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、
組成式(2)中のm、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。
【請求項8】
液晶表示パネルと、
前記液晶表示パネルを照明する複数の白色光源を用いたバックライトとを有し、
前記白色光源は、
素子基板上に形成された青色発光ダイオードと、
前記青色発光ダイオード上に配置されていて赤色蛍光体と緑色蛍光体を透明樹脂に混練した混練物を有し、
前記赤色蛍光体は、
元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(2)の原子数比で含有する
液晶表示装置。
【化10】

ただし、組成式(2)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つであり、
組成式(2)中のm、x、z、nは、3<m<5、0<x<1、0<z<9、0<n<10なる関係を満たす。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2011−137178(P2011−137178A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73722(P2011−73722)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【分割の表示】特願2009−156688(P2009−156688)の分割
【原出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】