説明

走査型プローブ顕微鏡

【課題】 漏れ光の影響を受けることなく、試料の電気的物性を高精度に測定すること。
【解決手段】 先端に探針2を有するカンチレバー3と、該カンチレバー3を支持する支持部4と、カンチレバー3の変位量に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗素子5とを有する自己検知型プローブ6と、ピエゾ抵抗素子5を流れる電流値を検出してカンチレバー3の変位量を検出する検出手段と、試料を載置する試料台と探針2とを、XY方向及びZ方向に相対移動させる移動手段と、探針2と試料表面との距離が一定になるように移動手段を制御すると共に試料Sの表面形状を測定する制御手段と、探針2と試料表面との間に所定の電圧を印加する印加手段と、印加された電圧に起因する電気物性情報を測定する測定手段とを備え、探針2が、カンチレバー3の基端側まで延びると共に測定手段に電気的接続可能な導電膜28に電気的に接続されている走査型プローブ顕微鏡を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ抵抗素子を備えた自己検知型プローブを有する走査型プローブ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)の1つである原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)は、試料の表面形状測定以外に、電流測定、誘電率測定やKFM(表面電位顕微鏡:Kelvin Prove Force Microscope)等による電位測定等の各種の電気的物性測定に用いられ、導電性を有する探針を先端に備えたカンチレバーを利用して測定を行っている。
この測定の際、カンチレバーの撓み(反り)を光てこ方式と呼ばれる方式で測定し、この測定結果に基づいて、探針と試料表面との距離が常に一定の距離になるように制御を行っている。
【0003】
この光てこ方式とは、光源からカンチレバーの裏面に形成された反射面に向けてレーザ光を照射し、反射面で反射したレーザ光を2分割又は4分割された光検出器で検出することで、カンチレバーの撓みを測定する方式である。つまり、試料表面の凹凸に応じてカンチレバーが撓むと、該撓みに応じてレーザ光の反射位置が異なるので、光検出器に入射するレーザ光の入射位置が異なる。よって、このレーザ光の入射位置を検出することで、カンチレバーの撓みの測定を行うことができる。
【0004】
また、光てこ方式で検出したカンチレバーの撓みに基づいて、試料を載置する試料台を試料表面に垂直な方向にフィードバック制御することで、上述したように探針と試料表面との距離を常に一定に制御しながら試料上を走査することが可能である。
また、この際に、カンチレバーに所定の電圧や電流を印加しながら走査を行うことで、試料の電気的測定を測定することができる。
【特許文献1】特開平2004−294218号公報
【非特許文献1】Alexander Olbrich著、他2名、APPLIED PHYSICS LETTERS、VOLUME 73 NUMBER 21(米国)、「Conducting atomic force microscopy for nanoscale electrical characterization of thin SiO2」、23 NOVEMBER 1998、P.3114-3116
【非特許文献2】Yasuo Cho著、他2名、APPLIED PHYSICS LETTERS、VOLUME 75 NUMBER 18(米国)、「Scanning nonlinear dielectric microscopy with nanometer resolution」、1 NOVEMBER 1999、P.2833-2835
【非特許文献3】Joseph J.Kopanski著、他2名、Materials Science and Engineering B44、「Scanning capacitance microscopy applied to two-dimensional dopant profiling of semiconductors」、1997、P.46-51
【非特許文献4】R.Shikler著、他3名、APPLIED PHYSICS LETTERS、VOLUME 74 NUMBER 20(米国)、「Potential imaging of operating light-emitting devices using Keivin force microscopy」、17 MAY 1999、P.2972-2974
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の光てこ方式による電気的物性の測定方法では、以下の課題が残されていた。
即ち、光てこ方式により、光源からカンチレバーにレーザ光を照射した際に、レーザ光の一部が測定対象となる試料表面にも、漏れ光として照射されてしまう不都合があった。従って、測定された電気的物性は、光てこ方式の漏れ光が照射された試料の物性となってしまう。つまり、試料は、ノイズの原因となる漏れ光により光励起された状態となってしまうので、該試料の真の電気的物性を測定することができなかった。
【0006】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、漏れ光の影響を受けることなく、試料の電気的物性を高精度に測定することができる走査型プローブ顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の走査型プローブ顕微鏡は、導電性を有する探針を試料表面に接触又は近接させた状態で、試料の電気物性情報を測定する走査型プローブ顕微鏡であって、前記探針が先端に設けられたカンチレバーと、該カンチレバーの基端側を片持ち状態に支持する支持部と、カンチレバーに設けられ、該カンチレバーの変位量に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗素子とを有する自己検知型プローブと、前記ピエゾ抵抗素子に所定の電圧を印加すると共に、ピエゾ抵抗素子を流れる電流値を検出して前記カンチレバーの変位量を検出する検出手段と、前記探針に対して対向配置された前記試料を載置する試料台と、該試料台と前記探針とを、前記試料表面に平行なXY方向及び試料表面に垂直なZ方向に相対移動させる移動手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記探針と前記試料表面との距離が一定になるように前記移動手段を制御すると共に前記試料の表面形状を測定する制御手段と、前記探針と前記試料表面との間に所定の電圧を印加する印加手段と、該印加手段により印加された電圧に起因する前記電気物性情報を測定する測定手段とを備え、前記探針が、前記カンチレバーの基端側まで延びると共に前記測定手段に電気的接続可能な導電膜に電気的に接続されていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡においては、まず、探針を試料表面に接触又は近接させた状態で、移動手段により試料台と探針とを試料表面に平行なXY方向に移動させて走査を行う。この際、検出手段により、ピエゾ抵抗素子に所定の電圧が印加されていると共に、ピエゾ抵抗素子を流れる電流値が検出されている。そして、探針は、試料との間に働く原子間力による相互作用が働くので、走査を行っている際に試料表面の凹凸に応じてカンチレバーが変位する(撓む)。カンチレバーが変位すると、これに応じてピエゾ抵抗素子も変位し、抵抗値が変化する。よって、検出手段は、検出していた電流値に基づいてカンチレバーの変位量を検出することができる。
制御手段は、この検出結果、即ち、カンチレバーの変位量に基づいて試料台をZ方向に移動させるよう移動手段を制御し、探針と試料表面との距離を常に一定にさせる。また、制御手段は、この制御と同時に、カンチレバーのZ方向の変位量とXY方向への走査量とを対応させることで、試料の表面形状(凹凸形状)を測定する。
【0009】
また、走査を行っている際に、印加手段により、試料表面と探針との間に所定の電圧(直流電圧や交流電圧等)を印加する。そして、測定手段により、導電膜及び導電性を有する探針を介して、印加された電圧に起因する各種の電気物性情報(例えば、試料の表面電位分布等)を測定する。
このように、導電性の探針を有しているので、試料の表面形状の測定と同時に、試料の電気的物性の測定を行うことができる。
【0010】
特に、ピエゾ抵抗素子を有する自己検知型プローブを備えているので、カンチレバーの変位(撓み)を測定する際に、従来の光てこ方式のように、カンチレバーの反射面にレーザ光を照射する必要がない。よって、従来のように、レーザ光が試料側に漏れてしまうことがなく、試料が漏れ光により光励起されることはない。従って、ノイズの原因となる漏れ光の影響を受けることなく、電気的物性を高精度に測定することができ、試料の真の電気的物性を調べることができる。
【0011】
また、半発明の走査型プローブ顕微鏡は、上記本発明の走査型プローブ顕微鏡において、前記探針と前記試料表面とが、接触するよう配されており、前記測定手段が、前記探針と前記試料表面との間を流れる電流を測定する電流測定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡においては、探針と試料表面とが接触状態(コンタクトモード)とされており、この状態でXY方向に走査を行う。そして、走査を行っている際に、電流測定手段は、印加手段により印加された電圧により、探針と試料表面との間を流れる電流の測定を行う。従って、漏れ光の影響を受けることなく、試料の表面形状測定と試料表面の電流分布測定とを同時に高精度に行うことができる。
【0013】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、上記本発明の走査型プローブ顕微鏡において、前記探針と前記試料表面とが、接触するよう配されており、前記測定手段が、前記探針と前記試料表面との間の静電容量を測定する静電容量測定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0014】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡においては、探針と試料表面とが接触状態(コンタクトモード)とされており、この状態でXY方向に走査を行う。そして、走査を行っている際に、静電容量測定手段の一例は、探針と試料表面との間の電圧によって試料に発生した空乏層の厚みの変化による静電容量の測定を行う。従って、漏れ光の影響を受けることなく、試料の表面形状測定と試料表面の誘電率分布測定とを同時に高精度に行うことができる。
【0015】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、上記本発明の走査型プローブ顕微鏡において、前記カンチレバーを所定の共振周波数で振動させる加振手段を備え、前記探針と前記試料表面とが、近接するよう配されており、前記印加手段が、前記所定の電圧として交流電圧及び直流電圧を印加し、前記測定手段が、前記交流電圧及び直流電圧の印加による合成電界で発生した静電気力に対する前記カンチレバーの変位量に基づいて、試料表面の電位を測定する電位測定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡においては、探針が試料表面に近接した状態で、加振手段により所定の共振周波数で振動している。この状態において、印加手段により探針と試料表面との間に、交流電圧及び直流電圧を印加して、合成電界を生じさせる。そして、電位測定手段により、合成電界で発生した静電気力に対するカンチレバーの変位量を測定することで、試料表面の電位を測定できる。従って、漏れ光の影響を受けることなく、試料の表面形状測定と試料表面の電位分布とを同時に高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、ピエゾ抵抗素子を有する自己検知型プローブを備えているので、従来の光てこ方式のようにカンチレバーの反射面にレーザ光を照射する必要がない。よって、従来のように、レーザ光が試料側に漏れてしまうことがなく、試料が漏れ光により光励起されることはない。従って、ノイズの原因となる漏れ光の影響を受けることなく、電気的物性を高精度に測定することができ、試料の真の電気的物性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。なお、本実施形態では、電気物性情報として、試料表面の電流分布を測定する場合を例にして説明する。
本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、導電性を有する探針2を試料表面S1に接触又は近接させた状態で、試料Sの電気物性情報を測定するものであって、探針2が先端に設けられたカンチレバー3と、該カンチレバー3の基端側を片持ち状態に支持する支持部4と、カンチレバー3に設けられ、該カンチレバー3の変位量に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗素子5とを有する自己検知型プローブ6と、ピエゾ抵抗素子5に所定の電圧を印加すると共にピエゾ抵抗素子5に流れる電流値を検出してカンチレバー3の変位量を検出する検出手段7と、探針2に対して対向配置された試料Sを載置する試料台8と、該試料台8と探針2とを、試料表面S1に平行なXY方向及び試料表面S1に垂直なZ方向に相対移動させる3次元駆動機構(移動手段)9と、検出手段7の検出結果に基づいて、探針2と試料表面S1との距離が一定になるように3次元駆動機構9を制御すると共に試料Sの表面形状を測定する制御部(制御手段)10と、探針2と試料表面S1との間に所定の電圧を印加するバイアス電圧供給部(印加手段)11と、該バイアス電圧供給部11により印加された電圧に起因する電気物性情報を測定する測定手段12とを備えている。
【0019】
本実施形態の上記自己検知型プローブ6は、図2及び図3に示すように、シリコン支持層20上に酸化層(シリコン酸化膜)21を形成し、さらに該酸化層21上にシリコン活性層22を熱的に貼り合わせたSOI(Silicon on Insulater)基板23を利用して製造されている。
そして、カンチレバー3及び探針2は、シリコン活性層22から形成されており、支持部4は、シリコン支持層20、酸化層21及びシリコン活性層22の3層から形成されている。なお、探針2は、金属膜24により被膜されており、導電性を有するようになっている。
また、カンチレバー3と支持部4との接合部であるカンチレバー3の基端側には、2つの開口25が形成されており、カンチレバー3が基端側でより屈曲して撓み易くなっている。なお、この開口25の数は、2つに限定されるものではなく、自由に設けて形成して構わないし、形成しなくても構わない。
【0020】
上記ピエゾ抵抗素子5は、支持部4及びカンチレバー3の基端側に亘って、U字状に形成されており、支持部4に位置する両端には外部と電気的に接続可能な外部接続端子26が設けられている。つまり、ピエゾ抵抗素子5は、一方の外部接続端子26から一方の開口25の外側を通ってカンチレバー3の基端側に入り、他方の開口25の外側を通って再度支持部4に戻って他方の外部接続端子26に電気的接続するようになっている。また、このピエゾ抵抗素子5は、シリコン活性層22上にイオン注入法や拡散法等により不純物を注入されて形成されたものである。
また、図3に示すように、支持部4及びカンチレバー3の基端側に亘ってピエゾ抵抗素子5を覆うように、絶縁膜27が成膜されている。これにより、ピエゾ抵抗素子5は、外部と電気的に接触しないようになっている。
【0021】
また、上記探針2は、図2及び図3に示すように、カンチレバー3の基端側まで延びると共に外部に電気的接続可能な導電膜28に電気的接続されている。この導電膜28は、2つの開口25の間を通るようにカンチレバー3の中心に沿って形成され、一端側が探針2に被膜されている金属膜24に電気的接続されていると共に、他端側が測定手段12に電気的接続可能な外部接続端子29に電気的に接続されている。また、この導電膜28は絶縁膜27上に形成されており、ピエゾ抵抗素子5とは電気的に独立している。
【0022】
また、本実施形態の自己検知型プローブ6は、カンチレバー3に隣接して、参照用のレファレンスレバー30が支持部4に片持ち状態に支持されている。このレファレンスレバー30は、カンチレバー3より若干長さが短く形成され、上記カンチレバー3と同様に基端側に2つの開口25が形成されていると共にピエゾ抵抗素子5が設けられている。このレファレンスレバー30は、ピエゾ抵抗素子5の温度補償の為に使用される。
なお、このレファレンスレバー30を自己検知型プローブ6に必ず設けなくても構わない。
【0023】
上記試料台8は、図1に示すように、3次元駆動機構9上に載置されており、XY方向及びZ方向に微小移動するようになっている。これにより、試料台8と探針2とが、XY方向及びZ方向の3方向に向けて相対移動するようになっている。また、この3次元駆動機構9は、例えば、3方向に移動可能な圧電素子であり、印加された電圧に応じてそれぞれ3方向に移動するようになっている。
また、試料台8には、上記バイアス電圧供給部11が接続されており、試料台8を介して試料表面S1と探針2との間に電圧を印加できるようになっている。
【0024】
上記ピエゾ抵抗素子5の外部接続端子26には、測定部31が電気的に接続されている。この測定部31は、ピエゾ抵抗素子5に所定の電圧を印加して電流を流すと共に、該電流値の検出を行っている。そして、測定部31は、検出した電流値に応じた出力信号を増幅した後、差分測定部32に出力するようになっている。
また、この差分測定部32には、例えば、カンチレバー3の撓み量(変位量)が“0”のときに、該差分測定部32の出力を“0”とする基準信号が基準発生部33から入力されている。そして、差分測定部32は、この基準信号と電流測定部31から送られてくる出力信号とを比較して、その差である誤差信号を上記制御部10に出力するようになっている。即ち、この誤差信号は、カンチレバー3の変位量に対応するものである。これら測定部31、差分測定部32及び基準発生部33は、上記検出手段7を構成している。
【0025】
また、制御部10は、送られてきた誤差信号が“0”に近づくように、上記3次元駆動機構9に電圧を印加して試料台8をZ方向に微小移動させている。これにより、探針2と試料表面S1との距離が常に一定になるように制御される。また、制御部10は、この3次元駆動機構9の制御と同時に、誤差信号(Z方向への移動量)とXY方向への走査量とを対応させて試料Sの表面形状(凹凸形状)を測定し、表示部34に表面形状画像(2次元画像情報)を表示するようになっている。なお、制御部10は、上記各構成品を総合的に制御している。
【0026】
また、上記測定手段12は、探針2と試料表面S1との間を流れる電流を測定する電流測定部35(電流測定手段)を備えている。この電流測定部35は、探針2に電気的に接続された上記導電膜28に外部接続端子29を介して電気的に接続されており、導電膜28及び探針2を通して、バイアス電圧供給部11によって探針2と試料表面S1との間に流れる電流を測定している。そして、電流測定部35は、測定した電流値の変化を制御部10に出力している。また、制御部10は、送られてきた電流値の変化とXY方向への変位量とを対応させて試料表面S1の電流分布を測定し、その結果を表示部34に表示するようになっている。即ち、電流測定部35及び制御部10は、上記測定手段12を構成している。
【0027】
次に、このように構成された走査型プローブ顕微鏡1により、試料Sの表面形状及び試料Sの表面電流分布を測定する場合について以下に説明する。
まず、探針2と試料表面S1とを接触させる初期設定を行う。即ち、試料台8上に試料Sを載置した後、3次元駆動機構9をゆっくりZ方向に移動させる。また、この際、測定部31からピエゾ抵抗素子5に所定の電圧を印加させて、ピエゾ抵抗素子5に流れる電流を検出しておく。この状態で試料台8の移動により、試料表面S1と探針2とが接触すると、試料Sに探針2が押されてカンチレバー3が若干撓んで変位する。これに応じて、ピエゾ抵抗素子5も同様に変位するので、抵抗値が変化して測定部31で測定される電流値が変化する。従って、試料表面S1と探針2とが接触したことを確実に判断することができる。
【0028】
制御部10は、測定部31で測定される電流値が所定の値に達するまで、試料台8を移動させ、所定の値に達した時点で試料台8を停止させる。これにより、試料表面S1と探針2との接触をより確実なものにすることができる。なお、この状態が、カンチレバー3が撓んでいない初期状態であり、この状態を基準として基準発生部33は基準信号を発生させる。
【0029】
上記初期設定が終了した後、3次元駆動機構9により試料台8をXY方向に移動させて走査を行い、測定を開始する。この際、測定部31により、ピエゾ抵抗素子5に所定の電圧が印加されていると共に、該ピエゾ抵抗素子5に流れる電流値が検出されている。そして、探針2は、試料Sとの間に働く原子間力によって引っ張られているので、走査を行っている際に試料表面S1の凹凸に応じてカンチレバー3が撓んで変位する。カンチレバー3が変位すると、これに応じてピエゾ抵抗素子5も変化して抵抗値が変化するので、測定部31で検出していた電流値が変化する。そして、測定部31は、この電流変化に応じた出力信号を差分測定部32に出力する。
【0030】
差分測定部32は、送られてきた出力信号と基準発生部33から送られてきた基準信号とを比較して、カンチレバー3の変位量に応じた誤差信号を算出すると共に、該誤差信号を制御部10に出力する。
これにより、制御部10は、送られてきた誤差信号に基づいてカンチレバー3の変位量を検出することができる。そして、制御部10は、この誤差信号に基づいて試料台8をZ方向に移動させるように3次元駆動機構9を制御し、探針2と試料表面S1との距離を一定にさせる。つまり、誤差信号を“0”に近づけるように、試料台8を制御する。これにより、探針2と試料表面S1との接触圧力は、常に一定の状態となる。
また、制御部10は、この制御と同時に、カンチレバー3のZ方向の変位量とXY方向への走査量とを対応させて、試料Sの表面形状(凹凸形状)を測定し、該表面形状画像を表示部34に表示する。これにより、試料Sの表面形状の観察を行うことができる。
【0031】
また、走査を行っている際に、バイアス電圧供給部11により、試料表面S1と探針2との間に所定の電圧を印加する。そして、この電圧印加により探針2と試料表面S1との間に流れる電流を電流測定部35で測定する。つまり、電流測定部35は、導電膜28を介して導電性を有する探針2と電気的に接触しているので、電圧印加により流れる電流を確実に測定することができる。この電流測定の際、走査に応じて探針2と試料表面S1との接触箇所が変化すると、表面状態が変化するので、これに応じて測定する電流値が異なる。そして、制御部10は、測定された電流値の値と、XY方向への変位量とを対応させることで、試料表面S1の電流分布を測定することができ、該結果を表示部34に表示する。
このように、導電性の探針2を備えているので、試料Sの表面形状と試料Sの電気物性情報、即ち、試料表面S1の電位分布とを同時に測定することができる。
【0032】
特に、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、ピエゾ抵抗素子5を有する自己検知型プローブ6を備えているので、カンチレバー3の変位(撓み)を測定する際に、従来の光てこ方式のように、カンチレバー3の反射面にレーザ光を照射する必要がない。よって、従来のように、レーザ光が試料S側に漏れてしまうことがなく、試料Sが漏れ光によって光励起されることはない。従って、ノイズの原因となる漏れ光の影響を受けることなく、電気的物性を高精度に測定することができ、試料Sの真の電気的物性を調べることができる。
【0033】
また、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡1は、レファレンスレバー30を備えているので、ピエゾ抵抗素子5の温度影響をなくすことができる。即ち、ピエゾ抵抗素子5の抵抗値は、温度条件等の撓み以外の条件によっても変動してしまう。そこで、レファレンスレバー30を参照することで、これら不要な変動情報を取り除くことができ、上述したように温度による影響をなくすことができる。その結果、測定結果の信頼性をより向上することができる。
【0034】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0035】
例えば、上記実施形態では、電気物性情報として、試料表面S1の電位分布を測定したが、この場合に限らず、試料表面S1の静電容量を測定して、試料表面S1の誘電率分布を測定しても構わない。この場合には、測定手段12が、探針2と試料表面S1との間の静電容量を測定する静電容量測定手段40を備えていれば良い。
【0036】
即ち、図4に示すように、静電容量測定手段40は、試料Sと試料台8に接続され、試料Sに交流電圧を印加する発振器41と、カンチレバー3の導電膜28に電気的に接続されたキャパシタンスセンサ42、該キャパシタンスセンサ42から出力された出力信号が入力するロックインアンプ43とを備えている。
上記キャパシタンスセンサ42は、試料Sの静電容量の変化を発振周波数に変換する準マイクロ波発振器44と、該準マイクロ発振器41で変換された発振周波数を直流の電圧値に変換して出力信号として出力するFM復調器45とを備えている。また、ロックインアンプ43には、発振器41から参照信号が入力されるようになっている。
【0037】
このように構成された静電容量測定手段40により、試料表面S1の静電容量変化を測定する場合について説明する。
走査を行っている際に、ロックインアンプ43には、発振器41からの参照信号が入力される。一方、キャパシタンスセンサ42は、探針2と試料表面S1との静電容量変化を検出する。即ち、準マイクロ波発振器44は、試料Sの静電容量の変化を発振周波数に変換し、FM復調器45がこれを直流の電圧値に変換し、出力信号としてロックインアンプ43に出力する。該ロックインアンプ43は、FM復調器45から送られてきた出力信号のうち、参照信号を参照して試料Sに印加した発振周波数と同じ周波数の信号(同期信号)を検出する。これにより、試料Sに形成された空乏層の厚みの変化による探針2と試料Sとの間の静電容量の変化を検出することができる。
【0038】
このように静電容量測定手段40を有する走査型プローブ顕微鏡によれば、漏れ光の影響を受けることなく、試料Sの表面形状測定と、試料表面S1の誘電率分布測定とを同時に高精度に行うことができる。
【0039】
また、電気物性情報として、試料表面S1の電位分布を測定しても構わない。この場合には、カンチレバー3を所定の共振周波数で振動させる加振手段を備え、探針2と試料表面S1とを近接させた状態で、印加手段により、探針2と試料表面S1との間に交流電圧及び直流電圧を印加させる。そして、測定手段12が、交流電圧及び直流電圧の印加による合成電界で発生した静電気力に対するカンチレバー3の変位量に基づいて、試料表面S1の電位を測定する電位測定手段を備えれば良い。
このように構成することで、漏れ光の影響を受けることなく、試料Sの表面形状測定と、試料表面S1の電位分布測定とを同時に高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明にかかる走査型プローブ顕微鏡の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す走査型プローブ顕微鏡の自己検知型プローブを示す斜視図である。
【図3】図2に示す自己検知型プローブの断面矢視A−A図である。
【図4】図1に示す走査型プローブ顕微鏡の他の形態を示す図であって、静電容量測定手段の一例を示した構成図である。
【符号の説明】
【0041】
S 試料
S1 試料表面
1 走査型プローブ顕微鏡
2 探針
3 カンチレバー
4 支持部
5 ピエゾ抵抗素子
6 自己検知型プローブ
7 検出手段
8 試料台
9 3次元駆動機構(移動手段)
10 制御部(制御手段)
11 バイアス電圧供給部(印加手段)
12 測定手段
28 導電膜
35 電流測定部(電流測定手段)
40 静電容量測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する探針を試料表面に接触又は近接させた状態で、試料の電気物性情報を測定する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記探針が先端に設けられたカンチレバーと、該カンチレバーの基端側を片持ち状態に支持する支持部と、カンチレバーに設けられ、該カンチレバーの変位量に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗素子とを有する自己検知型プローブと、
前記ピエゾ抵抗素子に所定の電圧を印加すると共に、ピエゾ抵抗素子を流れる電流値を検出して前記カンチレバーの変位量を検出する検出手段と、
前記探針に対して対向配置された前記試料を載置する試料台と、
該試料台と前記探針とを、前記試料表面に平行なXY方向及び試料表面に垂直なZ方向に相対移動させる移動手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記探針と前記試料表面との距離が一定になるように前記移動手段を制御すると共に前記試料の表面形状を測定する制御手段と、
前記探針と前記試料表面との間に所定の電圧を印加する印加手段と、
該印加手段により印加された電圧に起因する前記電気物性情報を測定する測定手段とを備え、
前記探針は、前記カンチレバーの基端側まで延びると共に前記測定手段に電気的接続可能な導電膜に電気的に接続されていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針と前記試料表面とが、接触するよう配されており、
前記測定手段が、前記探針と前記試料表面との間を流れる電流を測定する電流測定手段を備えていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針と前記試料表面とが、接触するよう配されており、
前記測定手段が、前記探針と前記試料表面との間の静電容量を測定する静電容量測定手段を備えていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡において、
前記カンチレバーを所定の共振周波数で振動させる加振手段を備え、
前記探針と前記試料表面とが、近接するよう配されており、
前記印加手段が、前記所定の電圧として交流電圧及び直流電圧を印加し、
前記測定手段が、前記交流電圧及び直流電圧の印加による合成電界で発生した静電気力に対する前記カンチレバーの変位量に基づいて、試料表面の電位を測定する電位測定手段を備えていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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