説明

走行台車

【課題】操舵時の位置ズレを防止または抑制しつつ走行および操舵することが可能であり、比較的安価でかつノイズが発生する懸念のない走行台車を提供する。
【解決手段】この走行台車は、ベース10に回動自在に支持される操舵軸6と、その操舵軸6の下部に設けられた操舵ブロック3と、その操舵ブロック3に進退方向に沿って並設された一対の車輪1,2と、一対の車輪1,2を別個に正逆回転させる駆動機構26と、一対の車輪1,2の回転で操舵軸6が回動されることで操舵ブロック3とともに一対の車輪1,2の向きを同時に変える操舵機構25と、を有する移動装置24を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビカメラを載置する台車として好適な走行台車に係り、特にこの種の走行台車の駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の走行台車の駆動機構としては、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。同文献に記載の駆動機構は、例えば図5に示すように、操舵軸106と、その操舵軸106に直交する車輪軸115とを有している。そして、車輪101の幅中心は、操舵軸の延長線CL上に位置しており、走行車輪側には、車輪軸115と同軸に車輪101を回転させるためのモータ121が配置され、操舵軸106には操舵用のモータ若しくはモータに動力を伝達するための伝達機構130を備えている。そして、同文献に記載の技術では、車輪101を回転させるモータの電源線やエンコーダの信号線は、操舵軸106に備えられたスリップリング140を介して本体の任意の場所に設置された不図示のモータドライバに接続されている。
【0003】
また、走行台車の他の駆動機構としては、例えば特許文献2に記載の技術がある。同文献に記載の駆動機構は、例えば図6に示すように、操舵軸206と、これに同軸に設けられて車輪201を回転させるための走行駆動軸204と、この走行駆動軸204の下端に設けられた傘歯車256とを有し、この傘歯車256によって、操舵軸206の中心から一定距離オフセットした位置でかつ、回転中心が操舵軸心CLと直交する車輪201に動力を伝達するようになっている。そして、走行駆動軸204の上端は車輪201を回転させる走行用のモータ240に連結されており、一方、操舵軸206は、操舵用のモータ230によって駆動可能としている。この駆動機構は、車輪201を回転させる走行用のモータ240を止めて、操舵用のモータ230を回転させた場合に、走行駆動軸204下端の傘歯車256上を転がる車輪軸側傘歯車215の回転数と、操舵軸206を中心とした円弧上を車輪201が転がるのに必要な車輪201の回転数とが、一致するように車輪径及びオフセット長が設定されている。
【特許文献1】特開2004−142494号公報
【特許文献2】特開昭49−116743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、スリップリングが高価である上、スリップリングは電気接点を摺動させる機構なので、ノイズの原因になったり、挨による接触不良を起こす原因となるという問題点がある。また、この駆動機構で操舵をする際には、車輪接地面を滑らせつつ据え切り操舵を行うことになる。そのため、操舵の度に位置ズレが生じて位置精度が低下する原因にもなる。
【0005】
また、特許文献2に記載の技術では、スリップリングは不要でありその分安価ではあるものの、車輪は、ゴムタイヤ等、台車の荷重によってたわみが生じるのが一般的であり、この際の車輪回転数と走行距離とは、車輪に生じるたわみの大きさによって相関関係が変わってしまう。そのため、台車を止めた状態で操舵軸のみを回転させる様な車輪径とオフセット長とを設定することが困難であり、据え切り操舵時においては、走行台車が小さな円を描く様に動いてしまうという位置ズレの問題点がある。
【0006】
特に、テレビカメラで撮影を行う場合には、走行方向に操舵をしてから走行を開始する。そのため、走行方向を決める際に走行台車が小さく動いてしまうと、画像の揺れの原因になる。したがって、特許文献1に記載の技術と同様に、操舵の際の走行台車本体の動きが位置精度を低下させる原因になっていた。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、操舵時の位置ズレを防止または抑制しつつ走行および操舵することが可能であり、比較的安価でかつノイズが発生する懸念のない走行台車を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る走行台車は、ベースに回動自在に支持される操舵軸と、その操舵軸の下部に設けられた操舵ブロックと、その操舵ブロックに進退方向に沿って並設された一対の車輪と、その一対の車輪を別個に正逆回転させる駆動機構と、前記一対の車輪の回転で前記操舵軸が回動されることで前記操舵ブロックとともに前記一対の車輪の向きを同時に変える操舵機構と、を有する移動装置を備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る走行台車によれば、移動装置が、駆動機構および操舵機構を有するので、走行および操舵が可能である。そして、一つの操舵軸に対して一対の車輪が配置され、駆動機構は、一対の車輪を別個に正逆回転させることができるので、一対の車輪のうちの第一の車輪と第二の車輪とを個別に駆動し、走行台車を止めた位置で操舵を行う場合であっても、第一の車輪及び第二の車輪をそれぞれ適宜に正転ないし逆転させることができる。そして、操舵機構は、一対の車輪の回転で前記操舵軸が回動されることで前記操舵ブロックとともに前記一対の車輪の向きを同時に変えるので、操舵の際にも車輪が転がりつつ方向を変えることができるため、床面に対する滑りが抑えられる。また、操舵に際する微妙な回転中心のズレは、駆動機構での第一の車輪または第二の車輪の速度調整により補正することができる。これにより、本発明に係る走行台車によれば、操舵時の位置ズレが発生しにくいため、位置精度の低下を防止または抑制可能であり、また、スリップリングを用いなくとも構成することができるため、比較的安価に構成可能であり、また、ノイズが発生する懸念をなくすことができる。
【0009】
ここで、本発明に係る走行台車において、前記駆動機構は、前記操舵軸にこれと同軸に内嵌する筒状の第一の駆動軸と、その第一の駆動軸を駆動プーリおよび駆動ベルトを介して正逆回転させる第一のモータと、前記第一の駆動軸にこれと同軸に内嵌する第二の駆動軸と、その第二の駆動軸を駆動プーリおよび駆動ベルトを介して正逆回転させる第二のモータと、前記操舵ブロック内に設けられて鉛直方向にのみ摺動可能なギアブロックとを有し、前記一対の車輪のうちの第一の車輪は、前記第一の駆動軸に、その下部に歯を下向きに固定される軸側第一ベベルギア、およびその軸側第一ベベルギアと噛合されて前記操舵ブロックで回転自在に支持された車輪側第一ベベルギアを介して、その車輪側第一ベベルギアに連結されるとともに前記操舵ブロックで回転自在に支持されており、前記一対の車輪のうちの第二の車輪は、前記第二の駆動軸に、その下部に歯を上向きに固定される軸側第二ベベルギア、およびその軸側第二ベベルギアと噛合されて前記ギアブロックで回転自在に支持された車輪側第二ベベルギアを介して、その車輪側第二ベベルギアに連結されるとともに前記ギアブロックで回転自在に支持されていることは好ましい。
【0010】
このような構成であれば、駆動機構を構成する二つの駆動軸と、操舵機構を構成する操舵軸とが、同軸上に配置された三重軸構造となっているので、一対の車輪の向きを同時に変える操舵機構、および一対の車輪を個別に駆動する駆動機構を同軸上に配置する上で好適であり、コンパクトな構成とすることができる。
また、本発明に係る走行台車において、前記一対の車輪相互の高さを変えて車輪の接地状態を安定させる接地状態安定機構を更に備え、当該接地状態安定機構は、前記軸側第一ベベルギアと前記軸側第二ベベルギアとの間に、前記第二の駆動軸に外嵌するとともに第一および第二の駆動軸相互を軸方向にスライド移動させるように配置された円筒コイルばねを有し、当該円筒コイルばねと前記ギアブロックとの協働によって前記第二の車輪の高さを前記第一の車輪に対して変えて相互の車輪の接地状態を安定させることは好ましい。
【0011】
このような構成であれば、第二の車輪が、第一の車輪に対してギアブロックとともに鉛直方向に摺動し且つ円筒コイルばねにより床面に押付けられるため、床面の凹凸に対する追従性を良好とする上でより好適である。つまり、上述した特許文献1ないし2に記載の技術では、操舵軸1つに対して車輪は1個であるが、本発明に係る走行台車では、操舵軸1つに対して車輪が2つになる。そのため、仮に床面に凹凸がある場合、第一の車輪と第二の車輪のどちらかが浮いてしまう可能性があるが、このような構成とすれば、第一の車輪に対して第二の車輪の高さが可変なため、床面の凹凸に対しても良好に追従することができる。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明によれば、操舵時の位置ズレを防止または抑制しつつ走行および操舵することが可能であり、比較的安価でかつノイズが発生する懸念のない走行台車を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る走行台車の移動装置の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。ここで、この走行台車は、一つのベースに対して3つの移動装置を有する例であるが、この走行台車の3つの移動装置の構成はいずれも同様なので、以下、一箇所の移動装置について説明し、他の移動装置の図示およびその説明については省略する。
【0014】
図1は、その移動装置の一実施形態の説明図であり、同図では、走行台車の3つの移動装置のうちの一つの移動装置を、軸線を含む断面図にて示している。
図1に示すように、この走行台車の移動装置24は、ベース10に回動自在に支持される略筒状をなす操舵軸6を有し、この操舵軸6の下部には、略箱形の操舵ブロック3が設けられている。そして、この略箱形の操舵ブロック3の両側には、進退方向に沿って一対の車輪1,2が並設されており、これら一対の車輪1,2は、駆動機構26で一対の車輪1,2を別個に正逆回転可能であり、さらに、一対の車輪1,2の回転で操舵軸6が回動されることで一対の車輪1,2の向きを同時に変える操舵機構25を有して構成されている。
【0015】
より詳しくは、上記操舵機構25は、エンコーダ23と、上述した操舵軸6の上部に且つベース10よりも上方の位置に固定された操舵スプロケット7と、その操舵スプロケット7およびエンコーダ23を掛け回す操舵連動チェーン12とを有して構成されており、駆動機構26で一対の車輪1,2の回転がなされると、これに応じて操舵軸6が回動することで操舵ブロック3とともに一対の車輪1,2の向きを同時に変えることができるようになっている。なお、本実施形態の例では、3つの移動装置相互の3つの操舵軸6の各操舵スプロケット7に対して一本の操舵連動チェーン12が掛け回されており、3つの移動装置が連動して同時に同じ進行方向に向けて回動される。そして、操舵スプロケット7の回動に応じて操舵連動チェーン12がエンコーダ23を回動させることで舵角を検出できるようになっている。
【0016】
また、上記駆動機構26は、第一の駆動軸4、第二の駆動軸5、第一のモータ21および第二のモータ22を備えている。
第一の駆動軸4は、略筒状をなす軸部材であり、その軸線を上下にして、上記操舵軸6にこれと同軸に内嵌している。また、第二の駆動軸5は中実の軸部材であり、第一の駆動軸4にこれと同軸に内嵌しており、これら操舵軸6、第一の駆動軸4および第二の駆動軸5によって、三重軸構造が構成されている。
【0017】
また、この駆動機構26は、ベース10と並行に且つその上方に離間した位置に、モータ取付フレーム11を有し、このモータ取付フレーム11は、第二の駆動軸5の上部を回転自在に支持している。そして、このモータ取付フレーム11には、第一のモータ21および第二のモータ22が取り付けられている。そして、第一の駆動軸4は、その上端部のモータ取付フレーム11よりも下方の位置に第一の駆動プーリ8が固定され、この第一の駆動プーリ8および第一の駆動ベルト13を介して第一のモータ21に連結されている。一方、第二の駆動軸5は、その上端部のモータ取付フレーム11よりも上方の位置に第二の駆動プーリ9が固定され、この第二の駆動プーリ9および第二の駆動ベルト14を介して第二のモータ22に連結されている。
【0018】
そして、上記略箱形の操舵ブロック3内には、ギアブロック19が配置されている。このギアブロック19は、横断面が略「L」字状をなすブロック部材であり、操舵ブロック3内で鉛直方向にのみ摺動できるように支持されている。そして、第一の駆動軸4には、その操舵ブロック3内に位置する下部に、歯を下向きに軸側第一ベベルギア16が固定されている。さらに、この軸側第一ベベルギア16には、操舵ブロック3で回転自在に支持された車輪側第一ベベルギア15が噛合されている。そして、一対の車輪1,2のうちの第一の車輪1は、車輪側第一ベベルギア15に連結されるとともに操舵ブロック3で回転自在に支持されている。
【0019】
これにより、第一のモータ21を適宜に正逆転駆動することによって、第一の駆動軸4が正逆回転され、これに応じて第一の車輪1が正逆回転するようになっている。例えば、第一のモータ21を図1の上から見て時計周りに回転させると、第一の駆動ベルト13により第一の駆動プーリ8が図1の上から見て時計周りに回転する。そして、その回転は、第一の駆動軸4により、軸側第一ベベルギア16、車輪側第一ベベルギア15を介して第一の車輪1に伝達され、第一の車輪1は図1の右方向から見て反時計周りに回転させることができる。
【0020】
一方、第二の駆動軸5は、第一の駆動軸4の下部よりも更に下方に張出しており、その操舵ブロック3内に位置する下部には、歯を上向きに軸側第二ベベルギア17が固定されている。さらに、この軸側第一ベベルギア16には、ギアブロック19で回転自在に支持された車輪側第二ベベルギア18が噛合されている。そして、一対の車輪1,2のうちの第二の車輪2は、車輪側第二ベベルギア18に連結されるとともにギアブロック19で回転自在に支持されている。
【0021】
これにより、第二のモータ22を適宜に正逆転駆動することによって、第二の駆動軸5が正逆回転され、これに応じて第二の車輪2が正逆回転するようになっている。例えば第二のモータ22を図1の上から見て時計周りに回転させると、第二の駆動ベルト14により第二の駆動プーリ9が図1の上から見て時計周りに回転する。そして、その回転は、第二の駆動軸5により、軸側第二ベベルギア17、車輪側第二ベベルギア18を介して第二の車輪2に伝達され、第二の車輪2は図1の左方向から見て時計周りに回転させることができる。
【0022】
また、第一のモータ21及び第二のモータ22を図1の上から見て時計周りに、同速度で回転させた場合、第一の車輪1、第二の車輪2は、ともに同速度で図1での手前側に直進走行し、第一のモータ21及び第二のモータ22を図1の上から見て反時計周りに、同速度で回転させた場合、第一の車輪1、第二の車輪2はともに同速度で図1での奥側に直進走行するように駆動することができる。なお、本実施形態において、軸側第一ベベルギア16と車輪側第一ベベルギア15及び軸側第二ベベルギア17及び車輪側第二ベベルギア18は、それぞれギア比が1:1である。
さらに、この走行台車の移動装置24は、一対の車輪1,2相互の高さを変えて車輪1,2の接地状態を安定させる接地状態安定機構を備えている。
【0023】
次に、この走行台車の移動装置24の作用・効果について説明する。
この走行台車は3つの移動装置24を備えており、各移動装置24が、駆動機構26および操舵機構25を有するので、走行および操舵が可能である。そして、各移動装置24には、上述のように、一つの操舵軸6に対して一対の車輪1,2が配置されており、これら一対の車輪1,2は、駆動機構26で一対の車輪1,2を別個に正逆回転可能であり、操舵機構25は、一対の車輪1,2の回転で操舵軸6が回動されることで3つの移動装置24の一対の車輪1,2の向きを同時に変えるので、操舵の際にも車輪1,2が転がり、床面に対する滑りを抑えることができる。
【0024】
すなわち、図2に示すように、この走行台車の移動装置24で、図2(b)に示すように上から見て反時計回り(正転とする)に操舵角θの操舵をする場合に、今、第一の車輪1、第二の車輪2間の対向距離をA、車輪径をd、第一の車輪1の転がり角をθa′(図2(a)で右側面から見て時計周りが正転)、第二の車輪2の転がり角をθb′(図2(a)で左側面から見て反時計周りが正転)、第一の駆動プーリ8の回転角をθa(図2(b)での反時計周りが正転)、第二の駆動プーリ9の回転角をθb(図2(b)での反時計周りが正転)とすると、ベベルギアのギア比が1:1なので、θa及びθbの回転角を、操舵ブロック3を基準として見たときの角度がθa′及びθb′と同じになる。つまり、
θa−θ=θa′ (式1)
θb−θ=θb′ (式2)
が成り立つ。
【0025】
次に、操舵角θだけ回転させた場合の車輪1,2の軌跡が、車輪1,2の回転角θa′及びθb′から求まる車輪の走行距離と一致し、且つ上述した構造上、操舵角θが正転するときθa,θa′は正転し、θb,θb′は逆転となることから、
(θ/2π)×πA=(θa′/2π)×πd(rad)
∴ θa′=Aθ/d(rad) (式3)
同じく
(θ/2π)×πA=(θb′/2π)×πd(rad)
∴ θb′=Aθ/d(rad) (式4)
(式3)、(式4)を(式1)、(式2)に代入すると、
θa=Aθ/d+θ=(A/d+1)θ (式5)
θb=−Aθ/d+θ=−(A/d−1)θ (式6)となる。
つまり、この走行台車の移動装置24は、第一のモータ21で第一の駆動プーリ8をθa回転させ、第二のモータ22で第二の駆動プーリ9をθb回転させると操舵角θの操舵をすることができる。
【0026】
次に、速度Vで走行中に操舵軸6を角速度ωで操舵する場合の、第一の駆動プーリ8の角速度をωa1、単に操舵軸6を操舵角速度ωで駆動する場合の第一の駆動プーリ8の角速度をωaとし、同じく速度Vで走行中に操舵軸6を角速度ωで操舵した場合の、第二の駆動プーリ9の角速度をωb1、単に操舵軸6を操舵角速度ωで駆動する場合の第二の駆動プーリ9の角速度をωbとする。また、速度Vを第一の車輪1、第二の車輪2の角速度ωvに換算すると、ωv×(d/2)=Vであるから、
ωa1=ωv+ωa (式7)
ωb1=ωv+ωb (式8)
(式5)、(式6)より、
ωa=(A/d+1)ω (式9)
ωb=−(A/d−1)ω (式10)
これを(式7)、(式8)に代入すると、
ωa1=2V/d+(A/d+1)ω (式11)
ωb1=2V/d−(A/d−1)ω (式12)となる。
つまり、この走行台車の移動装置24は、第一のモータ21で第一の駆動プーリ8をωa1の角速度で回転させ、第二のモータ22で第二の駆動プーリ9をωb1の角速度で回転させると走行速度Vで角速度ωの操舵を切ることができる。
【0027】
上記の方法で操舵を切ると、3つの操舵軸6がベース10に対して一つの操舵連動チェーン12で操舵スプロケット7を介して掛け回されているため同時に回転し、また、操舵連動チェーン12によりエンコーダ23が回転するが、このとき、例えば走行中に操舵角θまで角速度ωでの操舵を切りたい場合には、第一のモータ21、第二のモータ22を上記の角速度ωa1、ωb1でそれぞれ回転させて、エンコーダ23の回転角が操舵角θまで回転した後はモータ角速度をどちらもωvにすれば良い。また、A/d=kとして(式9)、(式10)の角速度の式を書き換えると、
ωa=(k+1)ω (式13)
ωb=−(k−1)ω (式14)
となるので、車輪1,2間の対向距離A、及び車輪径dの値に誤差が生じて、据え切り操舵時に走行台車が動いてしまう場合は、このkを調整することで、操舵時に、走行台車を静止状態に保つことができるようになるのである。
【0028】
したがって、この走行台車によれば、第一のモータ21で一対の車輪1,2のうちの第一の車輪1を駆動し、また、第二のモータ22で一対の車輪1,2のうちの第二の車輪2を駆動するようにしているので、走行台車を止めた状態で操舵を行う場合であっても、第一のモータ21と第二のモータ22により、第一の車輪1及び第二の車輪2をそれぞれ適宜駆動して、微妙な回転中心のズレを補正することができる。
【0029】
また、車輪1,2は各操舵軸6に対して一対配置されており、3つの移動装置24は、操舵の際にも一対の車輪1,2がそれぞれ転がるため、床面に対する滑りが発生せず、位置精度も低下しない。さらに、この駆動機構26は、上述のようにスリップリングを用いなくとも構成することができるので、比較的安価に構成可能であり、また、ノイズが発生する懸念をなくすことができる。
そして、この走行台車の移動装置24は、駆動機構26を構成する二つの駆動軸4,5と、操舵機構25を構成する操舵軸6とが、同軸上に配置された三重軸構造となっているので、一対の車輪1,2の向きを同時に変える操舵機構、および一対の車輪1,2を個別に駆動する駆動機構を同軸上に配置する上で好適であり、コンパクトな構成とすることができる。
【0030】
また、この走行台車の移動装置24によれば、接地状態安定機構を更に備えており、この接地状態安定機構は、図3に示すように、一対の車輪1,2相互の高さを変えて車輪1,2の接地状態を安定させることができる。つまり、仮に床面に凹凸がある場合、第一の車輪1と第二の車輪2のどちらかが浮いてしまう可能性があるが、第一の車輪1に対して第二の車輪2の高さを可変にすることで、床面の凹凸に対する追従性を一層良好とすることができる。
【0031】
詳しくは、図3において、第一の車輪1が、床面の凸部に乗り上げた場合には、ベース10およびモータ取付フレーム11は第一の車輪1と共に上方に移動する。一方、第二の車輪2、軸側第二ベベルギア17、車輪側第二ベベルギア18、ギアブロック19および第二の駆動軸5は、円筒コイルばね20の力で下方に付勢されており、ギアブロック19は鉛直方向にスライド移動可能に支持されているため、第二の車輪2が、第一の車輪1に対してギアブロック19とともに鉛直方向に摺動して床面に押付けられる。したがって、床面の凹凸に対して追従し、床面から離れることなく走行することができる。
【0032】
また、第二の車輪2が床面の凸部に乗り上げた場合には、第二の車輪2、軸側第二ベベルギア17、車輪側第二ベベルギア18、ギアブロック19および第二の駆動軸5は、上方に移動するが、円筒コイルばね20の力は走行台車を持ち上げるほど強い力では無いように設定してあるため、第一の車輪1、ベース10およびモータ取付フレーム11は持ち上がらず、床面から第一の車輪1が離れることなく走行することができる。
【0033】
以上説明したように、この走行台車の移動装置24によれば、3つの移動装置24の各操舵軸6に対して2つの駆動軸4,5をそれぞれ別のモータ21,22で駆動して、一対の車輪1,2を個別に駆動することにより、位置ズレの発生を防止または抑制しつつ走行、操舵が可能であり、かつ第一の車輪1に対して第二の車輪2の高さを可変にすることで、床面の凹凸に対して追従することができる。さらに、スリップリングを使用しないで構成できるため、比較的安価でかつノイズが発生する心配がない。
【0034】
なお、本発明に係る走行台車の移動装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、一対の車輪相互の高さを変えて車輪の接地状態を安定させる接地状態安定機構を備える例で説明したが、これに限定されず、このような接地状態安定機構を有しない構成としてもよい。しかし、床面の凹凸に対しても良好に追従可能とする上では、接地状態安定機構を有することは好ましい。
【0035】
また、例えば上記実施形態では、本発明に係る移動装置を3つ備える走行台車を例に説明したが、これに限定されず、例えば本発明に係る移動装置を4つまたはそれ以上備える構成としてもよい。なお、1ないし2つ装備する構成とすることもできるが、この場合には、操舵機構により連結された2ないし1つの補助輪が必要となる。
なおまた、上記実施形態での、3つの移動装置相互間の駆動ないし操舵のための構成(もしくは、一または複数の移動装置の相互の駆動ないし操舵のための構成)についても、種々の構成とすることができる。
【0036】
例えば図4に、一または複数の移動装置の相互の駆動ないし操舵のための具体的な構成例を示す。
なお、同図(a)に示す第一の例は、n個の移動装置が、上記実施形態同様に、n=3のときの具体的な構成例を示している。ここで、同図において符号Kは移動装置の本体部のイメージを示し、符号Mはモータのイメージを示し、符号Eはエンコーダのイメージを示している。また、同図において破線は操舵連動チェーンのイメージを示し、一点鎖線は駆動ベルトのイメージを示している。なお、同図では、図の複雑を避けるために、一対の車輪を別個に正逆回転させる駆動機構のうち、一方のモータと駆動ベルトのイメージのみを図示し、他方については省略している(以下、同図(b)および(c)に示す他の例において同じ)。
【0037】
同図(a)に示すように、第一の例では、一台の走行台車について、3個以上n個の移動装置を有する場合において、n個の移動装置のn個の操舵軸に対し、1つの操舵連動チェーンを掛け回しそれに1つのエンコーダを装備する構成とし、さらに、各操舵軸に内嵌するn個の第一の駆動軸については、n個の第一の駆動プーリを設け、これらn個の第一の駆動プーリに1つの第一の駆動ベルトを掛け回し、その1つの第一の駆動ベルトを1つの第一のモータによって同時に駆動するとともに、同様に、各第一の駆動軸に内嵌するn個の第二の駆動軸については、n個の第二の駆動プーリを設け、これらn個の第二の駆動プーリに1つの第二の駆動ベルトを掛け回し、その1つの第二の駆動ベルトを1つの第二のモータによって同時に駆動する構成とすることができる。
【0038】
また、同図(b)に示すように、具体的な他の例(第二の例という)としては、一台の走行台車について、3個以上n個の移動装置を有する場合において、n個の移動装置のn個の操舵軸に対し、1つの操舵連動チェーンを掛け回しそれに1つのエンコーダを装備する構成とし、さらに、各操舵軸に内嵌するn個の第一の駆動軸については、n個の第一の駆動プーリを設け、これらn個の第一の駆動プーリ毎にn個の第一の駆動ベルトを掛け回し、そのn個の第一の駆動ベルトをn個の第一のモータによって個別に駆動するとともに、同様に、各第一の駆動軸に内嵌するn個の第二の駆動軸については、n個の第二の駆動プーリを設け、これらn個の第二の駆動プーリ毎にn個の第二の駆動ベルトを掛け回し、そのn個の第二の駆動ベルトをn個の第二のモータによって個別に駆動する構成とすることができる。
【0039】
さらに、他の例(第三の例という)としては、同図(c)に示すように、上記第一および第二の例を相互に組み合わせて構成してもよい。
つまり、例えば上記第一および第二の例において、n=3としたときに、移動装置の3個の操舵軸に対し、1つの操舵連動チェーンを掛け回しそれに1つのエンコーダを装備する構成とし、さらに、各操舵軸に内嵌する3個の第一の駆動軸については、3個の第一の駆動プーリを設け、これら3個の第一の駆動プーリのうちの2個の第一の駆動プーリについて、1個の第一の駆動ベルトを掛け回し、その1個の第一の駆動ベルトを1個の第一のモータによって同時に駆動し、且つ他の2個の第一の駆動プーリについて、他の1個の第一の駆動ベルトを掛け回し、その1個の第一の駆動ベルトを他の1個の第一のモータによって同時に駆動するとともに、各第一の駆動軸に内嵌する3個の第二の駆動軸については、3個の第二の駆動プーリを設け、これら3個の第二の駆動プーリのうちの2個の第二の駆動プーリについて、1個の第二の駆動ベルトを掛け回し、その1個の第二の駆動ベルトを1個の第二のモータによって同時に駆動し、且つ他の2個の第二の駆動プーリについて、他の1個の第二の駆動ベルトを掛け回し、その1個の第二の駆動ベルトを他の1個の第二のモータによって同時に駆動する構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る走行台車の移動装置の一実施形態の説明図であり、同図では、走行台車の3つの移動装置のうちの一つの移動装置を、その軸線を含む断面図にて示している。
【図2】本発明に係る走行台車の移動装置における操舵時の角速度計算の説明図であり、同図(a)は図1の要部に対応する図であり、同図(b)は同図(a)の要部平面図である。
【図3】本発明に係る走行台車の移動装置において、床面に凹凸がある場合の挙動を説明するための図1に対応する図である。
【図4】一または複数の移動装置の相互の駆動ないし操舵のための構成例の説明図である。
【図5】従来技術の一例を説明するための断面図である。
【図6】従来技術の一例を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 第一の車輪
2 第二の車輪
3 操舵ブロック
4 第一の駆動軸
5 第二の駆動軸
6 操舵軸
7 操舵スプロケット
8 第一の駆動プーリ
9 第二の駆動プーリ
10 ベース
11 モータ取付フレーム
12 操舵連動チェーン
13 第一の駆動ベルト
14 第二の駆動ベルト
15 車輪側第一ベベルギア
16 軸側第一ベベルギア
17 軸側第二ベベルギア
18 車輪側第二ベベルギア
19 ギアブロック
20 円筒コイルばね
21 第一のモータ
22 第二のモータ
23 エンコーダ
24 移動装置
25 操舵機構
26 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースに回動自在に支持される操舵軸と、その操舵軸の下部に設けられた操舵ブロックと、その操舵ブロックに進退方向に沿って並設された一対の車輪と、その一対の車輪を別個に正逆回転させる駆動機構と、前記一対の車輪の回転で前記操舵軸が回動されることで前記操舵ブロックとともに前記一対の車輪の向きを同時に変える操舵機構と、を有する移動装置を備えていることを特徴とする走行台車。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記操舵軸にこれと同軸に内嵌する筒状の第一の駆動軸と、その第一の駆動軸を駆動プーリおよび駆動ベルトを介して正逆回転させる第一のモータと、前記第一の駆動軸にこれと同軸に内嵌する第二の駆動軸と、その第二の駆動軸を駆動プーリおよび駆動ベルトを介して正逆回転させる第二のモータと、前記操舵ブロック内に設けられて鉛直方向にのみ摺動可能なギアブロックとを有し、
前記一対の車輪のうちの第一の車輪は、前記第一の駆動軸に、その下部に歯を下向きに固定される軸側第一ベベルギア、およびその軸側第一ベベルギアと噛合されて前記操舵ブロックで回転自在に支持された車輪側第一ベベルギアを介して、その車輪側第一ベベルギアに連結されるとともに前記操舵ブロックで回転自在に支持されており、
前記一対の車輪のうちの第二の車輪は、前記第二の駆動軸に、その下部に歯を上向きに固定される軸側第二ベベルギア、およびその軸側第二ベベルギアと噛合されて前記ギアブロックで回転自在に支持された車輪側第二ベベルギアを介して、その車輪側第二ベベルギアに連結されるとともに前記ギアブロックで回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の走行台車。
【請求項3】
前記一対の車輪相互の高さを変えて車輪の接地状態を安定させる接地状態安定機構を更に備え、
当該接地状態安定機構は、前記軸側第一ベベルギアと前記軸側第二ベベルギアとの間に、前記第二の駆動軸に外嵌するとともに第一および第二の駆動軸相互を軸方向にスライド移動させるように配置された円筒コイルばねを有し、当該円筒コイルばねと前記ギアブロックとの協働によって前記第二の車輪の高さを前記第一の車輪に対して変えて相互の車輪の接地状態を安定させることを特徴とする請求項2に記載の走行台車。
【請求項4】
前記ベースには、前記移動装置が少なくとも3つ以上配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の走行台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−83660(P2009−83660A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255981(P2007−255981)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(591247765)株式会社昭特製作所 (4)
【Fターム(参考)】