説明

超電導コイルの監視方法及び監視装置並びに監視センサを備えた超電導コイル

【課題】なるべく少数の監視センサで、超電導コイルの巻き線変位、巻き線変位の方向性、巻き線変位の変位量、樹脂割れの有無及び樹脂割れの発生位置を把握可能で、軸方向に積み重ねられた複数の超電導コイルにも設置可能な超電導コイルの監視方法を提供する。
【解決手段】監視対象である超電導コイル20のボビンの内側、又はバインド22の外側で、超電導コイル20の軸方向の中央位置からずらした位置に、音響波の受信によって高周波で振動しうる保持具24を介してサーチコイル1〜4を取り付ける。超電導コイルの中央に対して対称な周方向位置にある2つのサーチコイル(例えばサーチコイル1と3)の信号を減算及び加算することで径方向変位と軸方向変位を独立に検出する。また、サーチコイル出力信号を電気的フィルタに透過することで低周波側の磁束変化成分と高周波側の音響波成分を分離して検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルの監視方法及び監視装置並びに監視センサを備えた超電導コイルに係り、特に、少ないセンサ数で超電導コイルの巻き線の変位と超電導コイルで発生する音響波とを検出可能にする手段に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線を巻回してなる超電導コイルの励磁中に、熱的、電磁気的、あるいは機械的擾乱により、急激かつ制御不能な常電導遷移が発生してしまうことがあり、これをクエンチと呼んでいる。クエンチの発生を防止するためには、クエンチ原因を解明して次期超電導コイルの設計にその対策を反映させる方法や、超電導コイルの励磁中にクエンチ原因となりうる擾乱の発生状況を監視しながら励磁条件を適切にコントロールしていく方法がある。
【0003】
クエンチ原因は、
(1)超電導コイルの巻き線が変位するワイヤームーブメント、
(2)巻き線間に充填してある絶縁樹脂に微小な割れが発生する樹脂クラック、
(3)フラックスジャンプなどによる超電導線(巻き線)の不安定性、
の3種類に大別できる。このうち、(1),(2)は、機械的擾乱に分類され、(3)は機械的擾乱以外の擾乱という枠に分類される。
【0004】
本願発明者らは、先に、超電導コイルのクエンチ原因を監視する技術として、超電導コイルに、サーチコイル又はループコイルと呼ばれるワイヤームーブメント検出用の磁気センサと、ワイヤームーブメント及び樹脂クラック検出用のAE(Acoustic Emission:音響波)センサを備え、各センサの出力信号から、上記(1),(2),(3)のクエンチ原因を特定する技術を提案した(非特許文献1参照。)。
【0005】
即ち、磁気センサ及びAEセンサは、各クエンチ原因に対して、以下のように変化するので、磁気センサ及びAEセンサの出力を監視することにより、クエンチ原因を特定することができる。
【0006】
ワイヤームーブメント(巻き線変位)
…AEセンサ:変化有り、磁気センサ:変化有り、
樹脂クラック
…AEセンサ:変化有り、磁気センサ:変化無し
機械的擾乱以外(超電導線の不安定性など)
…AEセンサ:変化無し、磁気センサ:変化無し
また、本願発明者らは、先に、音響波の検出手段としてAEセンサを用いる代わりに、音響波を受信すると振動する振動板の上にサーチコイルを取り付けたものを使用する技術についても提案した(特許文献1参照。)。
【0007】
この例では、巻き線の変位と樹脂割れを識別する方法として、(イ)振動板上のサーチコイルの出力波形が片振れタイプか両触れタイプかを判定する、(ロ)音響波で振動する振動板上のサーチコイルの信号と音響波では振動しないように固定したサーチコイルの信号の変化パターンを比較する、という2つの方法が提案されている。
【非特許文献1】第76回2007年度春季 低温工学・超電導学会 講演概要集(2007年5月16日発行)pp46 1D−a01「複数のセンサを用いた超電導コイルモニタリング方法の実験的検討」
【特許文献1】特開2007−165384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
監視対象として、図9に示すような、ボビン21に巻き線23を巻き回して樹脂含浸し、その外周側にバインド22を配置した超電導コイル20を考える。
【0009】
この超電導コイル20の巻き線変位と樹脂割れの発生を非特許文献1に記載の技術を用いて検出する場合において、単に巻き線変位の有無と樹脂割れの発生の有無だけを把握する場合には、AEセンサと磁気センサを少なくとも1個ずつ備えるだけでよい。しかし、互いに直交する3方向(X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向)の変位量を独立で評価するためには、X軸方向の変位を検出するための第1のサーチコイル101、Y軸方向の変位を検出するための第2のサーチコイル102、及びZ軸方向の変位を検出するための第3のサーチコイル103が必要となる。また、巻き線変位や樹脂割れなどの機械的擾乱により発生する音響波の音源位置を検出するためには、少なくとも3個のAEセンサ104、105、106で受信した音響波の時刻差を求める必要がある。
【0010】
即ち、巻き線変位の有無だけではなく変位の方向性及び変位量まで把握し、樹脂割れの有無だけではなく樹脂割れの周方向概略位置まで把握する場合には、1つの超電導コイルを監視する場合でも、少なくとも3個のサーチコイルと少なくとも3個のAEセンサとを備える必要があり、センサ数が多くなる。また、AEセンサは、ノイズの影響を受けやすく、同軸ケーブルによる配線が必須であるので、超電導コイルを液体ヘリウムなどの低温冷媒を充填した恒温槽中で励磁する場合、同軸ケーブルを伝って外部から低温恒温槽内に持ち込まれる熱侵入量が大きく、低温冷媒の無駄が多くなる。さらには、図10に示すように、複数の超電導コイル110、120、130、140が軸方向に積み重ねられた状態で配置される場合、超電導コイル110と超電導コイル120との間、超電導コイル120と超電導コイル130との間、超電導コイル130と超電導コイル140の間にはZ軸方向の変位を評価するためのサーチコイルが設置できないので、従来法では超電導コイル120及び130のZ軸方向の巻き線変位を評価することができない。
【0011】
一方、特許文献1に記載の技術は、巻き線変位(特許文献1の中では摺動と表現)と樹脂割れ(特許文献1の中では音響波と表現)とを識別することができるが、巻き線変位が発生した場合、振動板上に設置したサーチコイルの出力信号には、大電流が流れている線材が動く際の磁束変化に基づく信号と、線材が動く際に発生する音響波信号の両方が重畳しているので、変位の方向性や変位量を検出することができない。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その第1の目的は、なるべく少数の監視センサで、超電導コイルの巻き線変位、巻き線変位の方向性、巻き線変位の変位量、樹脂割れの有無及び樹脂割れの発生位置を把握可能で、軸方向に積み重ねられた複数の超電導コイルにも設置可能な超電導コイルの監視方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、上述の監視方法を実施可能な超電導コイルの監視装置を提供することにある。さらに、本発明の第3の目的は、上述の監視方法及び監視装置の実施に適用可能な超電導コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記の課題を解決するため、超電導コイルの監視方法に関しては、第1に、監視対象である超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって保持したサーチコイルを用い、このサーチコイルから出力されるサーチコイル出力信号の低周波成分から超電導コイルの巻き線の変位を検出し、高周波成分から超電導コイルで発生する音響波信号を検出することを特徴とする。
【0014】
本発明は、超電導コイルの監視方法に関して第2に、前記第1の超電導コイルの監視方法において、前記検出された超電導コイルの巻き線の変位及び前記音響波信号を表示手段に表示することを特徴とする。
【0015】
本発明は、超電導コイルの監視方法に関して第3に、前記第1の超電導コイルの監視方法において、前記超電導コイルの周方向に90°ピッチで配置された4個のサーチコイルを用い、これら各サーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の低周波成分に基づいて、互いに直交する3方向に関する前記巻き線の変位を検出することを特徴とする。
【0016】
本発明は、超電導コイルの監視方法に関して第4に、前記第1の超電導コイルの監視方法において、前記超電導コイルの周方向に配置された少なくとも3個以上のサーチコイルを用い、これら各サーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の高周波成分から前記超電導コイルで発生する音響波信号をそれぞれ検出し、検出された各音響波信号の受信時刻の差から音響波の発生位置を特定することを特徴とする。
【0017】
本発明は、超電導コイルの監視方法に関して第5に、前記第1の超電導コイルの監視方法において、前記超電導コイルの周方向に90°ピッチで配置された4個のサーチコイルを用い、これら4個のサーチコイルのうち、前記超電導コイルの径方向に関して対称の位置に配置された2個のサーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の低周波成分の差分信号から前記超電導コイルの巻き線の径方向変位を検出すると共に、加算信号から前記超電導コイルの巻き線の軸方向変位を検出することを特徴とする。
【0018】
本発明は、超電導コイルの監視方法に関して第6に、前記第5の超電導コイルの監視方法において、前記差分信号に応じた前記超電導コイルの巻き線の径方向変位、及び前記加算信号に応じた前記超電導コイルの巻き線の軸方向変位を、表示手段に動画像で表示することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記の課題を解決するため、超電導コイルの監視装置に関しては、第1に、監視対象である超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって超電導コイルの近傍に設置されたサーチコイルと、このサーチコイルから出力されるサーチコイル出力信号の増幅手段と、この増幅手段により増幅されたサーチコイル出力信号から低周波成分を濾波するローパスフィルタと、前記増幅手段により増幅されたサーチコイル出力信号から高周波成分を濾波するハイパスフィルタと、前記ローパスフィルタにより濾波された前記サーチコイル出力信号の低周波成分の変化及び前記ハイパスフィルタにより濾波された前記サーチコイル出力信号の高周波成分の変化を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明は、超電導コイルの監視装置に関して第2に、前記第1の超電導コイルの監視装置において、前記超電導コイルに対する前記サーチコイルの設定位置が、前記超電導コイルの軸方向の中央位置から一端側又は他端側に偏倚した位置であることを特徴とする。
【0021】
本発明は、超電導コイルの監視装置に関して第3に、前記第1の超電導コイルの監視装置において、前記超電導コイルに対する前記サーチコイルの設定位置が、前記超電導コイルの周方向を、90°ピッチで分割する位置であることを特徴とする。
【0022】
本発明は、超電導コイルの監視装置に関して第4に、前記第1の超電導コイルの監視装置において、前記サーチコイルを、前記保持具を介して、前記超電導コイルの巻き線を巻回するボビンの内面に設定したことを特徴とする。
【0023】
本発明は、超電導コイルの監視装置に関して第5に、前記第1の超電導コイルの監視装置において、前記サーチコイルを、前記保持具を介して、前記超電導コイルの巻き線の外周を覆うバインドの外面に設定したことを特徴とする。
【0024】
本発明は、超電導コイルの監視装置に関して第6に、前記第3の超電導コイルの監視装置において、前記超電導コイルの周方向に90°ピッチで配置された4個のサーチコイルのうち、前記超電導コイルの径方向に関して対称の位置に配置された2個のサーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の差分信号を求める手段及び加算信号を求める手段と、これら差分信号及び加算信号を積分する手段とを備えたことを特徴とする。
【0025】
本発明は、超電導コイルの監視装置に関して第7に、前記第1の超電導コイルの監視装置において、前記表示手段は、前記サーチコイル出力信号の低周波成分の変化に基づく前記超電導コイルの3次元的な動画像を表示することを特徴とする。
【0026】
さらに、本発明は、前記の課題を解決するため、超電導コイルに関しては、第1に、超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって保持されたサーチコイルを、ボビンの内面又はバインドの外面に設定したことを特徴とする。
【0027】
本発明は、超電導コイルに関して第2に、前記第1の超電導コイルにおいて、前記サーチコイルを、前記超電導コイルの軸方向の中央位置から一端側又は他端側に偏倚した位置に設定したことを特徴とする。
【0028】
以下、本発明に係る超電導コイルの監視方法及び監視装置並びに監視センサを備えた超電導コイルの作用効果について説明する。
【0029】
まず、巻き線変位の変位方向及び変位量を把握する方法について説明すると、監視対象である超電導コイルは、図2(A)に実線51で示すように、径方向に対して勾配がほぼ一定な磁場分布を形成する。このような磁場勾配が形成されている中で、径方向変位によって超電導コイルの巻き線とサーチコイルとの相対距離が変化すると、サーチコイル内を鎖交する磁束が変化するため、サーチコイルの出力に電圧信号が発生する。一方、軸方向に対しては、図2(B)に実線53で示すように、中央位置で極小値を持ち、勾配が連続的に変化する磁場分布になる。したがって、図2(C)に示すように、サーチコイル1bを超電導コイルの中央位置(Z=Z0)に配置した場合には、この位置における磁場分布の接線55は傾きを持たず、超電導コイルがZ軸方向に変位してもサーチコイル1bの出力信号は変化しないが、図2(D)に示すように、サーチコイル1bを超電導コイルの中央位置から下方にずれた位置(Z=Z1)に配置した場合には、この位置における磁場分布の接線55は傾きを持つため、超電導コイルがZ軸方向に変位したとき、サーチコイル1bの出力に電圧信号を発生させることができる。つまり、サーチコイルを超電導コイルの中央位置からずれた位置に配置した場合、サーチコイルは、径方向の変位と軸方向の変位の両方に感度を持つようになる。
【0030】
なお、図9に示す従来法では、ボビンの鍔の位置にZ軸用(軸方向用)のサーチコイルを設置しているので、径方向用のサーチコイルについては、軸方向に感度を持たないように超電導コイル中央位置に配置されている。
【0031】
次に、超電導コイルの巻回中心を介してその対称位置に配置された2つのサーチコイル(例えば、図1に記載のサーチコイル1とサーチコイル3)について考える。超電導コイルの巻き線が径方向に変位する場合、巻き線が一方のサーチコイルに近づくような動きは、他方のサーチコイルから遠ざかる動きになるので、各サーチコイルから出力されるサーチコイル出力信号は、+,−が逆位相となる。したがって、これら2つのサーチコイル出力信号を減算することによって径方向変位を強調することができ、加算することによって径方向の変位を打ち消すことができる。一方、巻き線が軸方向に変位する場合には、巻き線に対する2つのサーチコイルの相対位置は同じように変化するので、各サーチコイルから出力される2つのサーチコイル出力信号は、+,−の符号が同じになる。したがって、2つのサーチコイル出力信号を加算することにより、軸方向変位を強調することができ、減算することにより、軸方向の変位を打ち消すことができる。
【0032】
このように、超電導コイルの軸方向の中央位置からずれた位置であって、超電導コイルの巻き線中心を介して超電導コイルの対称位置にある2つのサーチコイル信号を減算及び加算することで径方向変位と軸方向変位を独立に検出することができる。
【0033】
また、上述のように、サーチコイルを超電導コイルの軸方向の中央位置からずれた位置配置すると、非特許文献1に記載の技術のように、サーチコイルをボビン鍔に取り付ける必要は無いので、軸方向に積み重ねられた複数の超電導コイルの全てについて、径方向変位と軸方向変位を独立に検出することができる。
【0034】
次に、サーチコイルの出力信号から磁束変化に基づく信号成分と音響波の信号成分を分離する方法を説明する。超電導コイルの巻き線は、ある程度の大きさと重量を持っているので、巻き線変位の機械共振周波数は比較的低い。これに対して、超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもってサーチコイルを保持し、これを超電導コイルの近傍にしっかりと固定すると、音響波を受信した場合、サーチコイル出力信号は、元々の音響波の周波数より保持具の機械的共振周波数に大きな感度を持つことになる。したがって、超電導コイルに巻き線の変位と樹脂クラックとが同時に発生した場合、サーチコイル出力信号には巻き線の変位に基づく低周波の信号と巻き線の変位及び樹脂クラックに基づく高周波の信号とが重畳することになるので、サーチコイルの出力信号から算出した変位信号をローパスフィルタ(以下、LPFと表記する。)とハイパスフィルタ(以下、HPFと表記する。)を用いて低周波成分と高周波成分に分離することにより、磁束変化に基づく信号成分と音響波の信号成分とを容易に検出することができる。
【0035】
また、音響波の信号成分を容易に検出できることから、超電導コイルの周方向に少なくとも3個以上のサーチコイルを配置することにより、各サーチコイルへの音響波の受信時刻の差から、樹脂割れの周方向位置を算出することができる。
【0036】
なお、特許文献1に記載の技術は、音響波に対する感度を上げるために、機械共振周波数が低いL字型の振動板を保持具として使用するので、磁束変化に基づく信号成分と音響波の信号成分の周波数帯域が近くなり、各信号の分離が困難になりやすい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、監視対象である超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって保持したサーチコイルを用い、このサーチコイルから出力されるサーチコイル出力信号の低周波成分から超電導コイルの巻き線の変位を検出し、高周波成分から超電導コイルで発生する音響波信号を検出するので、超電導コイルの周囲に少なくとも4個のサーチコイルを配置することにより、巻き線変位の有無、巻き線変位の方向性及びその変位量、並びに樹脂割れの有無及び樹脂割れの位置まで検出することができ、センサ数の減少を図ることができる。また、本発明によれば、軸方向に積み重ねられた複数の超電導コイルの全てについて、サーチコイルの設置が可能で、巻き線変位及び樹脂割れを正確に検出することができる。さらに、本発明によれば、サーチコイルによって磁束変化と音響波の両方を検出できるので、AEセンサを用いて音響波を検出する場合とは異なり、同軸ケーブルの使用を不要とすることができて、低温恒温槽内に封入される低温冷媒の無駄を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明に係る超電導コイルの監視方法及び監視装置並びに監視センサを備えた超電導コイルの第1実施形態を、図1〜図6を参照しながら説明する。本発明の第1実施形態は、超電導コイルを構成するボビンの内周側に4個のサーチコイルを等分に配置し、アナログ演算を主とする監視信号変換装置でサーチコイルの出力信号を処理することを特徴とするものである。
【0039】
図1(A),(B)は第1実施形態に係る監視対象である超電導コイル20と監視センサであるサーチコイル1〜4の位置関係を図示したものである。超電導コイル20は、ボビン21に巻き線23を巻き回して樹脂含浸し、その外周側にバインド22を配置した構造をしている。サーチコイル1〜4は、図1(C)に示すような高周波音響波に対して振動しうる保持具24に保持され、ボビン21の内側に例えばボルトなどにより固着されている。本実施形態においては、巻き線23の変位の機械共振周波数は数十Hz〜数百Hzであるのに対し、サーチコイル1〜4の共振周波数が数KHzになるような保持具24を採用しており、巻き線変位による磁束変化の周波数帯域と音響波を受信した場合の周波数帯域が十分に離れたものになるようにしている。
【0040】
サーチコイル1〜4は、X軸(超電導コイル20の特定の径方向)の正方向を0°とした場合、0°、90°、180°、270°の位置に配置している。また、軸方向については、サーチコイル1〜4の全てが、超電導コイル20の中央位置から同一の方向に等距離ずらした位置(Z=Z1となる位置)に配置している。超電導コイル20がサーチコイル1の近傍において形成する径方向の磁場分布は図2(A)の実線51に示すように勾配がほぼ一定となるので、下記の数1に示すような直線52で近似できる。但し、数1において、▽Bhは径方向の磁場勾配、Chは近似直線52の切片を表す定数である。
【数1】

【0041】
また、軸方向の磁場分布は、図2(B)に実線53で示すように、中央位置で極小値を持ち、勾配が連続的に変化する磁場分布になる。サーチコイルをZ=Z1の位置に配置したときの磁場勾配は、下記の数2に示すような接線54で表される。但し、数2において、▽Bv1はZ=Z1位置における軸方向の磁場勾配、Cv1は近似直線52の切片を表す定数である。
【数2】

【0042】
このような磁場勾配が形成されている状態で、巻き線23のX軸方向の変位量をLx(t)、Y軸方向の変位量をLy(t)、Z軸方向の変位量をLz(t)とすると、サーチコイル1〜4の出力信号V1(t)〜V4(t)は以下の各数式で表される。但し、これらの各数式において、Nはサーチコイル巻き線のターン数、Sはサーチコイルの断面積を表している。
【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【0043】
これらの式同士を加減すると、下記の数7〜数9になる。
【数7】

【数8】

【数9】

【0044】
数7〜数9をさらに変形させると、下記の数10〜数12が導かれる。
【数10】

【数11】

【数12】

【0045】
これら数10〜数12で表される式は、サーチコイル1〜4の出力信号を演算処理することにより、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の変位を独立して検出できることを示している。
【0046】
実際の信号処理は、図1(D)に示す監視信号変換装置30が行う。監視信号変換装置30では、まず、サーチコイル1〜4の出力信号を、絶縁アンプ31〜34で増幅する。また、これら絶縁アンプ31の出力信号と絶縁アンプ33の出力信号を、差動アンプ35で差動増幅する。さらに、差動アンプ35の出力信号を、積分演算子38で積分する。差動アンプ35及び積分回路38は、数10に記載の信号処理を実行する役割を果たす。積分回路38の出力をLPF41に透過させると、X軸方向の巻き線変位信号が分離でき、HPF42を透過させると、音響波信号が分離できる。
【0047】
同様に、数11に記載の信号処理を実行するために、絶縁アンプ32と絶縁アンプ34の出力信号を差動アンプ36で差動増幅し、積分回路39で積分する。LPF43とHPF44を透過させると、Y軸方向の変位信号と音響波信号に分離できる。
【0048】
さらに、数12に記載の信号処理を実行するために、絶縁アンプ31〜絶縁アンプ34の信号を加算アンプ37で加算し、積分回路40で積分する。LPF45とHPF46を透過させると、Z軸方向の変位信号と音響波信号に分離できる。これらの信号は、表示部47で励磁操作中に実時間表示するとともに、収録部48に記録して励磁操作終了後に詳細解析が可能なようにしている。
【0049】
次に、表示部47に表示する監視画面について説明する。なお、以下の監視例は、図6に示すように、監視対象である超電導コイル20と監視対象ではない超電導コイル80を軸方向に配置し、超電導コイル20と超電導コイル80が引き合うような電磁力が働いている励磁状態で記録したものである。
【0050】
図3は巻き線23が突発的な変位を起こしたと推定される監視画面を示している。上から1段目の画面には、X軸方向の変位信号及びY軸方向の変位信号が表示され、上から2段目の画面には、Z軸方向の変位信号が表示されている。これらの各変位信号は、画面の中央付近で突発的に変化していて、その変化量はZ軸方向及びY軸方向で大きく、X軸方向で小さい様子まで観察できる。したがって、これらの画面を監視することにより、超電導コイル20は、ある時点でZ−Y方向に急激に変位しており、クエンチを発生するおそれがあることが判る。
【0051】
また、上から3段目の画面には、X軸方向とY軸方向の音響信号が表示されているが、本例においては2つの信号変化が重なりあって見えている。上から4段目の画面は、Z軸方向の音響信号を表示している。これらの図から明らかなように、音響信号はいずれも画面中央付近で振幅が急に大きくなり、徐々に減衰している。サーチコイル1〜4の出力信号は、磁束変化と音響波の両方を捉えていることから、図3の3段目と4段目の画面は、巻き線に変位が発生した状況をモニタリングしていると判定できる。
【0052】
図4は、樹脂割れが発生したと推定される監視画面を示している。上から1段目及び2段目の画面からは、突発的な変位信号の変化が観察できないが、上から3段目及び4段目の画面の右端に近いところでは、信号が変化している様子を観察できる。つまり、図4の画面は、巻き線の変位を伴わない機械的擾乱を捉えており、図4は樹脂割れが発生した状況をモニタリングしていると判定できる。
【0053】
図5は、巻き線23がX軸、Y軸、Z軸の3方向について異なる変位をしている様子を監視した画面を示している。左側上段は、X方向及びY方向の変位信号を表示しており、左側下段は、Z軸方向の変位信号を表示している。これらの画面を監視することにより、時間T1において、超電導コイル20の巻き線23が超電導コイル80に引き付けられる方向に突発的な変位を起こした様子をモニタリングできる。左側上段に示したY軸方向の変位信号は周期性のある変化を示しているが、X軸方向の変位信号では周期性は明確になっていない。時間T1においてZ軸方向に突発的な変位が発生した後も、Y軸方向の周期性のある変化は継続している。図5の右側上段には、X軸方向とY軸方向の巻き線変位のリサージュ図を示している。左側の線56で示すのは突発的な変位が起こる前のリサージュであり、右側の線57で示すのは突発的な変位が起こった後のリサージュである。巻き線23は、Y軸方向に長い楕円状の軌跡を描くような水平運動をしていて、Z軸方向に突発的な変位が発生したときに楕円運動の中心軸にずれは発生しているものの、楕円運動は継続したままである様子をモニタリングできている。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態を、図7を参照しながら説明する。本発明の第2実施形態は、4つのサーチコイル5〜8をバインド22の外周面に配置すると共に、これら各サーチコイル5〜8から出力されるサーチコイル出力信号の処理を、A/D変換ボード61を備えた監視信号変換PCで行うことを特徴とする。
【0055】
図7(A),(B)は、第2実施形態に係る監視対象である超電導コイル20と監視センサであるサーチコイル5〜8との位置関係を示す図である。サーチコイル5〜8は、第1実施形態と同様に、高周波音響波に対して振動しうる保持具24をもってバインド22の外側に保持される。
【0056】
本例においては、X軸の正方向を0°と表現した場合、45°、135°、225°、315°の各位置にサーチコイル5〜8を配置している。また、軸方向については、全てのサーチコイル5〜8を、超電導コイル20の中央位置から同一方向に等距離ずらした位置(Z=Z1となる位置)とした。巻き線23のX軸方向の変位量をLx(t)、Y軸方向の変位量をLy(t)、Z軸方向の変位量をLz(t)とすると、サーチコイル5〜8の出力信号V5(t)〜V8(t)は、以下の数13〜数16で表される。
【数13】

【数14】

【数15】

【数16】

【0057】
これらの各式どうしを加減すると、数17〜数19の各式になる。
【数17】

【数18】

【数19】

【0058】
数17〜数19をさらに変形すると、数20〜数22の各式になる。
【数20】

【数21】

【数22】

【0059】
数20〜数22は、サーチコイル5〜8の出力信号を演算処理することにより、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の変位を独立に検出できることを示している。
【0060】
実際の信号処理は、図7(C)に示す監視信号変換PC60が行う。サーチコイル5〜8の出力信号を、まず、絶縁入力タイプのA/D変換ボード61でデジタル信号に変換する。次に、信号変換演算部62は、予め記憶させておいた信号処理プログラムに基づいて、デジタル信号に対して数20〜数22の演算処理を行い、さらに、デジタルLPFとデジタルHPFの演算処理を行って、X軸、Y軸、Z軸方向の変位信号と音響波信号を分離する。これらの分離信号は、CRTや液晶ディスプレイなどからなる表示部65に、励磁操作中の実時間で表示する。また、これらの分離信号及びサーチコイル出力のデジタル信号は、半導体メモリやハードディスクからなる記録部63に記録して、励磁操作終了後に詳細解析が可能なようにしている。動画データ演算部64は、X軸、Y軸、Z軸の変位信号から巻き線23が3次元的に動く様子を動画表示するためのデータを算出し、表示部65でその動画を表示する機能も備えている。超電導コイル20の動きを表示部65に3次元動画表示することにより、励磁操作者はコイル巻き線の動きの状態を直感的に把握することが可能となる。
【0061】
次に、磁束変化と音響波を1つのセンサで検出する本発明のサーチコイルを用いた場合にも、音響波の検出に特化したAEセンサを用いた場合と同様に、機械的擾乱の発生位置を特定できることを明らかにする。
【0062】
図8(A)は、監視対象である超電導コイル20と監視センサであるサーチコイル9〜13、及び、比較対象センサであるAEセンサ13〜15の位置関係を示す図である。サーチコイル9〜12は、第1実施形態と同様に、図1(C)に示すような高周波音響波に対して振動しうる保持具24でボビン21の内側に保持されている。AEセンサ13〜15は、バインド22の外側に設置されている。X軸の正方向を0°とした場合、サーチコイル9〜12は、45°、135°、225°、315°の各位置に配置され、AEセンサ13〜15は、90°、210°、330°の各位置に配置している。図8(B)に各センサで収録した機械的擾乱の収録信号波形の一例を示す。この図から明らかなように、AEセンサ13〜15における音響波の受信時刻にも、サーチコイル9〜13における音響波の受信時刻にも差があり、図8(B)のデータからその時間差を算出することができる。このデータから超電導コイル20上の音響波の発生位置を定法にしたがって算出すると、AEセンサ13〜15を用いた場合にも、サーチコイル9〜13を用いた場合にも、図8(A)に符号71で示す位置が音響波の音源位置(=機械的擾乱の発生位置)となり、本発明のサーチコイルを用いて機械的擾乱の発生位置を評価できることを検証できた。
【0063】
なお、図8の例においては、4個のサーチコイル9〜13を用いたが、音響波の発生位置を算出するためには、少なくとも3個のサーチコイルを備えれば足りる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1実施形態に係る超電導コイル及びその監視装置の構成図である。
【図2】超電導コイルが形成する磁場分布の説明図である。
【図3】巻き線が突発的に変位した様子をモニタリングした画像を示す図である。
【図4】樹脂割れが発生した様子をモニタリングした画像を示す図である。
【図5】巻き線がX軸、Y軸、Z軸の3方向について異なる変位をしている様子をモニタリングした画像を示す図である。
【図6】監視対象である超電導コイルと監視対象外の超電導コイルの位置関係を示す説明図である。
【図7】第2実施形態に係る超電導コイル及びその監視装置の構成図である。
【図8】サーチコイルを用いて機械的擾乱の発生位置を特定できることを示す図である。
【図9】従来法による監視センサの配置例を示す図である。
【図10】従来法の問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1〜12…サーチコイル、13〜15…AEセンサ、20…超電導コイル、21…ボビン、22…バインド、23…巻き線、24…保持具、30…監視信号変換装置、31〜34…絶縁アンプ、35〜36…差動アンプ、37…加算アンプ、38〜40…積分回路、41、43、45…ローパスフィルタ、42、44、46…ハイパスフィルタ、47…表示部、48…収録部、60…監視信号変換PC、61…A/D変換ボード、62…信号変換演算部、63…記録部、64…動画データ演算部、65…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象である超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって保持したサーチコイルを用い、このサーチコイルから出力されるサーチコイル出力信号の低周波成分から超電導コイルの巻き線の変位を検出し、高周波成分から超電導コイルで発生する音響波信号を検出することを特徴とする超電導コイルの監視方法。
【請求項2】
前記検出された超電導コイルの巻き線の変位及び前記音響波信号を表示手段に表示することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイルの監視方法。
【請求項3】
前記超電導コイルの周方向に90°ピッチで配置された4個のサーチコイルを用い、これら各サーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の低周波成分に基づいて、互いに直交する3方向に関する前記巻き線の変位を検出することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイルの監視方法。
【請求項4】
前記超電導コイルの周方向に配置された少なくとも3個以上のサーチコイルを用い、これら各サーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の高周波成分から前記超電導コイルで発生する音響波信号をそれぞれ検出し、検出された各音響波信号の受信時刻の差から音響波の発生位置を特定することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイルの監視方法。
【請求項5】
前記超電導コイルの周方向に90°ピッチで配置された4個のサーチコイルを用い、これら4個のサーチコイルのうち、前記超電導コイルの径方向に関して対称の位置に配置された2個のサーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の低周波成分の差分信号から前記超電導コイルの巻き線の径方向変位を検出すると共に、加算信号から前記超電導コイルの巻き線の軸方向変位を検出することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイルの監視方法。
【請求項6】
前記差分信号に応じた前記超電導コイルの巻き線の径方向変位、及び前記加算信号に応じた前記超電導コイルの巻き線の軸方向変位を、表示手段に動画像で表示することを特徴とする請求項5に記載の超電導コイルの監視方法。
【請求項7】
監視対象である超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって超電導コイルの近傍に設置されたサーチコイルと、このサーチコイルから出力されるサーチコイル出力信号の増幅手段と、この増幅手段により増幅されたサーチコイル出力信号から低周波成分を濾波するローパスフィルタと、前記増幅手段により増幅されたサーチコイル出力信号から高周波成分を濾波するハイパスフィルタと、前記ローパスフィルタにより濾波された前記サーチコイル出力信号の低周波成分の変化及び前記ハイパスフィルタにより濾波された前記サーチコイル出力信号の高周波成分の変化を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする超電導コイルの監視装置。
【請求項8】
前記超電導コイルに対する前記サーチコイルの設定位置が、前記超電導コイルの軸方向の中央位置から一端側又は他端側に偏倚した位置であることを特徴とする請求項7に記載の超電導コイルの監視装置。
【請求項9】
前記超電導コイルに対する前記サーチコイルの設定位置が、前記超電導コイルの周方向を、90°ピッチで分割する位置であることを特徴とする請求項7に記載の超電導コイルの監視装置。
【請求項10】
前記サーチコイルを、前記保持具を介して、前記超電導コイルの巻き線を巻回するボビンの内面に設定したことを特徴とする請求項7に記載の超電導コイルの監視装置。
【請求項11】
前記サーチコイルを、前記保持具を介して、前記超電導コイルの巻き線の外周を覆うバインドの外面に設定したことを特徴とする請求項7に記載の超電導コイルの監視装置。
【請求項12】
前記超電導コイルの周方向に90°ピッチで配置された4個のサーチコイルのうち、前記超電導コイルの径方向に関して対称の位置に配置された2個のサーチコイルから出力される各サーチコイル出力信号の差分信号を求める手段及び加算信号を求める手段と、これら差分信号及び加算信号を積分する手段とを備えたことを特徴とする請求項9に記載の超電導コイルの監視装置。
【請求項13】
前記表示手段は、前記サーチコイル出力信号の低周波成分の変化に基づく前記超電導コイルの3次元的な動画像を表示することを特徴とする請求項7に記載の超電導コイルの監視装置。
【請求項14】
超電導コイルの機械共振周波数よりも十分に高い機械共振周波数を有する保持具をもって保持されたサーチコイルを、ボビンの内面又はバインドの外面に設定したことを特徴とする超電導コイル。
【請求項15】
前記サーチコイルを、前記超電導コイルの軸方向の中央位置から一端側又は他端側に偏倚した位置に設定したことを特徴とする請求項14に記載の超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−281880(P2009−281880A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134505(P2008−134505)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】