説明

超電導フィルタ

【課題】コンパクトで、周波数特性の調整が容易で、高い耐電力特性を有する超電導フィルタを提供する。
【解決手段】給電部を有する誘電体材料からなる誘電体基板2と、誘電体基板2内に配置されたバルク状の超電導体1と、誘電体材料からなる誘電体ロッド4と、超電導体1と誘電体ロッド4との間の相対的位置を変化させるロッド上下用トリマー5とを有する超電導フィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信システムにおける周波数資源を有効利用するための超電導体を用いた高出力な送信フィルタ等の超電導フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の移動体通信システムの送受信フィルタには、誘電体フィルタが主として使われているが、今後、移動体通信量及び通信速度が増加することにより、限られた周波数領域をいかに有効に利用するかという課題がある。即ち、現状フィルタのスカート特性レベルでは、隣り合う帯域間同士の干渉を避けるためのガードバンド領域が広くなってしまい、限られた周波数領域の有効利用が十分できない。ここで、スカート特性とは、通過帯域内から外へどの程度急峻に減衰するかという特性のことであり、送受信フィルタの性能を評価する重要な指標の1つである。
【0003】
この問題を解決するために、損失が非常に小さいためスカート特性が優れている超電導体を利用したフィルタが提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)。送受信フィルタにおいては、設計通りの通過帯域中心周波数や帯域幅を実現させるために、素子の形状やサイズ、配置を精密に制御する必要があるので、リソグラフィー技術で精密なパターン形成が可能な超電導薄膜が一般に利用される。
【0004】
既に、比較的電力が小さい受信用フィルタにおいては、超電導薄膜を用いたフィルタが一部実用化されているものの、大きな電力が印加される送信用フィルタでは、薄膜では超電導体の臨界温度を超えてしまい、超電導状態を維持できなくなってしまうおそれがある。送信用フィルタも超電導化できれば、受信用フィルタと送信用フィルタとの両方に冷却設備を兼用でき、システム全体の効率改善が図れるので、耐電力性の優れた送信用フィルタの開発が期待されている。
【0005】
送受信フィルタの重要な特性として、前述したスカート特性以外に、チューニング特性とトリミング特性とがある。チューニングとは、フィルタの通過帯域の中心周波数をシフトさせることである。現実のフィルタでは、サイズや形状のずれ、あるいは基板の誘電率や温度の変動等の原因で、フィルタの通過帯域の中心周波数がずれることがあり、チューニング機構により所望の値に調整することが求められる。特許文献1には、超電導薄膜を用いたフィルタにおいて、超電導薄膜が形成された基板に平行に対向させた誘電体板を移動させることによりチューニングすることが提案されており、約20MHzのチューニング特性を示したことが記載されている。
【0006】
また、トリミングとは、フィルタの通過帯域内に発生するリップルを改善することである。超電導薄膜を用いたフィルタの場合、超電導薄膜は基板上に形成され、その上は自由空間である。その自由空間を利用して、前述したチューニング機構だけでなく、トリミング機構を設置してフィルタにトリミング特性を持たせ、通過帯域のリップルを抑制している。
【0007】
【特許文献1】特開2002−141706号公報
【非特許文献1】応用物理 第72巻 第2号 (2003) 210−213頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐電力性の優れた送信用フィルタを実現する手段の1つとして、超電導薄膜ではなく、超電導バルク体を用いることが考えられる。超電導バルク体は、超電導薄膜に比べて超電導体の厚さが非常に厚いので、仮に臨界電流密度特性が多少低くても、超電導体全体を流れる電流を大きくすることができ、大きな電力が印加されても超電導状態を維持できる。その結果、耐電力性の優れた送信用フィルタを実現することが期待できる。
【0009】
しかしながら、超電導バルク体は、薄膜に比べて厚さが非常に厚いので、超電導バルク体を用いてフィルタを製作した場合、超電導バルク体表面からの電力放射が大きくQ値が低くなり易いという問題点があった。ここでQ値とは、共振器に蓄積されているエネルギー/損失エネルギーで定義されており、放射の少ない共振器ほど高いQ値を実現できる。このQ値が大きいほどフィルタを多段化でき、スカート特性を急峻にすることが可能となる。さらに、超電導バルク体は、薄膜に比べて微細な加工が難しいので、超電導バルク体を用いてフィルタを製作した場合、周波数特性がずれ易いという問題点があった。また、超電導バルク体を用いて超電導フィルタを製作した場合、素子サイズが大きくなり易いという問題点もあった。
【0010】
また、特許文献1に記載されているように、超電導バルク体の上方の自由空間に、誘電体板を設置して移動させることによって、通過帯域のチューニングは可能になるが、そのままでは超電導バルク体表面からの電力放射が大きく、低いQ値しか得られず、スカート特性が低くなってしまうという問題点がある。
【0011】
そこで、超電導バルク体表面からの電力放射を抑制するためには、超電導バルク体を基板上に配置するのでなく、基板内に配置することが考えられる。即ち、超電導バルク体の上方にも誘電体基板を設けることになる。ところが、この場合、超電導バルク体の上方に自由空間がなくなり、チューニング特性を行う誘電体板を設置することができないという問題点がある。仮に誘電体基板上にチューニング用誘電体板を設置して、チューニング用誘電体板を移動させたとしても、超電導バルク体上方に誘電体基板があることにより、チューニングの効果は殆ど無い。さらに、同様に理由で、トリミング機構を設置することもできない。
【0012】
本発明は前述の問題点に鑑み、コンパクトで、周波数特性の調整が容易で、高い耐電力特性を有する超電導フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の超電導フィルタは、以下のとおりである。
(1)給電部を有する誘電体材料からなる誘電体基板と、前記誘電体基板内に配置されたバルク状超電導体と、誘電体材料からなる誘電体ロッド状部材と、前記バルク状超電導体と前記誘電体ロッド状部材との間の相対的位置を変化させる位置調整機構とを有することを特徴とする超電導フィルタ。
(2)前記バルク状超電導体が、リング形状であることを特徴とする(1)に記載の超電導フィルタ。
(3)前記誘電体ロッド状部材は、前記リング形状のバルク状超電導体のリング内に挿入可能な形状であることを特徴とする(2)に記載の超電導フィルタ。
(4)前記バルク状超電導体が、円板形状であることを特徴とする(1)に記載の超電導フィルタ。
(5)前記バルク状超電導体及び前記誘電体ロッド状部材の対が複数あり、前記対と同数の複数個の前記位置調整機構が独立に相対的位置を変化させることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の超電導フィルタ。
(6)前記バルク状超電導体の厚さが、0.01〜10mmであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の超電導フィルタ。
(7)前記バルク状超電導体が、単結晶状のREBa2Cu3x相(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5相が微細分散した酸化物超電導体であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の超電導フィルタ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超電導バルク体を用いても素子サイズを小さくすることができ、簡便な手段で超電導バルク体のサイズや配置のずれに伴うフィルタの周波数特性のずれが調整可能になるので、コンパクトで、周波数特性の調整が容易で、高い耐電力特性を有する超電導フィルタを提供することができる。さらに、複数対のリング形状の超電導体と誘電体ロッド状部材との相対的位置を独立に変化させることより、従来以上に中心周波数を変化させることができる。加えて、誘電体ロッド状部材の相対的位置を変化させるだけで、素子全体の周波数シフトさせるチューニングだけでなく、各共振器の中心周波数を微調整し通過帯域内での特性や帯域幅を調整するトリミングも可能な超電導フィルタを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明における超電導フィルタの構造の一例を示す断面図である。図1では、超電導バルク体から切り出された3個のリング形状の超電導体1が誘電体基板2内に配置されている。超電導体1の上方にも誘電体基板2が存在することで、超電導バルク体1の表面からの電力放射を抑制している。
【0016】
誘電体基板2の両端には、高周波の入出力を行う給電部である高周波同軸コネクタ(SMAコネクタ)3が付いている。誘電体基板2は、高周波同軸コネクタ3の導入面以外の上下面、側面を導電率の高い金属(例えばAu等)でコーティングし、グランド面としている。誘電体基板2内に超電導体1を配置するには、誘電体基板2を上下2分割したものを作製しておき、下側の誘電体基板上に超電導体1を配置してから、上側の誘電体基板を被せればよい。上側の誘電体基板には、予め超電導リング内径と同径の穴を開けている。
【0017】
それぞれのリング形状の超電導体1の上方に、超電導リングの内径に挿入可能な形状を有する誘電体材料からなるロッド状部材(誘電体ロッド)4があり、これらの誘電体ロッド4をそれぞれ独立に上下方向に移動させるロッド上下用トリマー(位置調整機構)5がついている。素子全体は、銅やアルミ等の金属製パッケージ中に収納されている。ロッド上下用トリマー5は、金属製パッケージ上部蓋面のロッドの位置に単にねじ穴を作製し、ねじ先端に誘電体ロッド4を取り付けることによっても容易に実現できる。図1では、リング形状の超電導体1と誘電体ロッド4の対として3対の例を示したが、2対以上の複数対であればよい。図2は、図1の斜視図であり、ロッド上下用トリマー5は省略して記載されている。
【0018】
1つの超電導体は1つの共振器となり、複数個の共振器を配列することでフィルタが構成される。超電導バルク体から所定の形状・サイズの超電導体を切り出してフィルタを構成する場合には、超電導バルク体の微細な加工が難しいので、個々の超電導体のサイズが数μmから数十μm程度ばらつくことがあり、個々の共振器の共振周波数が所望の値からずれてしまうことが考えられる。
【0019】
本発明の超電導フィルタであれば、個々の超電導体1対して上下方向に移動する誘電体ロッド4があり、誘電体ロッド4が上下方向に移動して超電導体1との相対的位置が変化することによって実効的な誘電率が変化する。その結果、個々の超電導体1のサイズのずれによる個々の共振器における共振周波数のずれを調整することができる。このように、各共振器の共振周波数を微調整し、フィルタの通過帯域内での特性や帯域幅を調整することをトリミング特性という。
【0020】
さらに、個々の共振器の共振周波数を調整した後に、各誘電体ロッドをお互いに相関を持たせながら全体的に上下方向に移動させることによって、フィルタの通過帯域の中心周波数を大きく変化させ、フィルタ特性全体を周波数シフトさせることもできる。このように、フィルタの中心周波数を大きく変化させ、フィルタ特性全体を周波数シフトさせることをチューニング特性という。本発明の超電導フィルタであれば、トリミング特性とチューニング特性との両方を行うことができる。
【0021】
また、図1では、超電導体1の形状はリング形状となっているが、円板形状でもよい。しかし、より大きなチューニング特性が得られる点や素子サイズを小型化できる点では、超電導体1の形状をリング形状とする方が好ましい。そして、誘電体ロッド4の直径をリング内径に入る大きさにすることにより、単に誘電体ロッド4の移動可能距離が大きくなるだけでなく、誘電体ロッド4がリング形状の超電導体1内に入ることになるため、共振器の実効的な誘電率の変化が非常に大きくなり、各共振器の共振周波数のシフト量が50MHz以上にすることができ、さらに形状やサイズを最適化することにより、従来の10倍以上である200MHz以上、さらには500MHz以上も可能になる。その結果、超電導フィルタとしての中心周波数のチューニングも50MHz以上、200MHz以上、500MHz以上になり、非常に大きなチューニング特性が得られる。ただし、チューニング周波数が大き過ぎても、誘電体ロッド4での損失が大きくなるので、1000MHz以下に設計することが好ましい。
【0022】
さらに、超電導バルク体を加工した超電導体1を用いて超電導フィルタを形成すると、超電導薄膜を用いた超電導フィルタに比べて、素子全体のサイズが大きくなるが、超電導体1の形状をリング形状にすることで、リング内部に誘電体が存在することによって同じ外形のディスク状(非リング)共振器と比べて管内波長が長くなるため、単純なディスク形状の超電導バルク体の場合に比べて、個々の共振器のサイズを小型化でき、その結果、フィルタサイズも小型化できるのでリング形状の超電導体1であることがより好ましい。
【0023】
本発明の超電導フィルタに用いる超電導材料としては、Bi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体、RE−Ba−Cu−O系(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)の酸化物超電導体、Mg−B2系の金属超電導体等の臨界温度が高い超電導体が、冷却の負担を小さくできるので好ましい。さらに、送信用フィルタのように大電力の高周波を取り扱うフィルタの場合には、超電導バルク体の中でも液体窒素温度(77K)での臨界電流密度が大きい、単結晶状のREBa2Cu3x相(123相)(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5相(211相)が微細分散した酸化物超電導体がより好ましい。
【0024】
また、本発明の誘電体基板に用いられる誘電体材料としては、サファイア、アルミナ、MgO、LaAlO3、等の誘電損失の小さい誘電体材料が好ましい。そして、誘電体基板の誘電損失は10-5以下が好ましい。基板材料の誘電損失が10-5超の場合、共振器のQ値は大きく低下し、その結果、通過特性が劣化してしまう。
【0025】
また、本発明の誘電体ロッドに用いられる誘電体材料としては、比誘電率20以上90以下の比誘電率が比較的大きい誘電体材料(例えば京セラ製セラミックスSB350、SV430等)が好ましい。誘電率が小さい場合、共振器の周波数シフト量が小さくなってしまう。また、誘電率が大きい場合は一般的に誘電損失も増加し、通過特性が劣化してしまう。トリミング用の誘電体ロッド4の誘電損失は、誘電体基板2の誘電損失よりも通過特性に対する影響が少ないが、10-4以下が好ましい。
【0026】
本発明の超電導フィルタに用いる超電導材料としては、バルク状の超電導体を電気炉等で作製し、超電導バルク体を所望の形状に加工する方が、超電導薄膜のように高価で煩雑な薄膜成膜装置を必要としないので好ましい。超電導体1の厚さが薄過ぎると超電導バルク体の加工が難しくなり、厚さも薄膜と違いがなくなるので、本発明の超電導体の厚さとしては0.01mm以上が好ましい。また、超電導体1の厚さが厚過ぎても、素子が大きくなり過ぎ、冷却効率も悪くなるので、10mm以下が好ましい。加工性や冷却効率を考慮すると、超電導体1の厚さが0.1〜1mmがより好ましい。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
溶融法で作製した直径46mm、厚さ15mmで、25mol%の211相が123相中に微細分散したDy−Ba−Cu−O系単結晶状酸化物超電導バルク体から外径8.2mm、内径5.0mm、厚さ0.5mmのリング形状の超電導体を切り出し、450℃で100時間酸素気流中において熱処理を実施した。誘電体ロッドは、比誘電率39のセラミックス(京セラ製誘電体セラミックスSG390)で直径4.8mm、高さ4.4mmの円柱形状とし、リング形状の超電導体1内に入る大きさにした。3個のリング形状の超電導体1を図1のように、アルミナ製の誘電体基板2内に配置し、両端に給電線を取り付け、全体を銅製のパッケージに収納した。
【0028】
図3に、この3段リング形状の超電導体1を用いたフィルタの周波数特性を示す。実線は電力の通過特性を示し、点線は反射特性を示している。設計仕様では、中心周波数5GHz、帯域幅100MHz、通過帯域リップル幅0.1dBであったが、図3に示すように、本実施例で作成した超電導フィルタは、中心周波数5.016GHz、帯域幅92.3MHz、通過帯域リップル幅0.004dB、であり、ほぼ設計仕様と同様であった。
【0029】
比較例として、図4に示すような、ヘアピン型の超電導薄膜フィルタを設計・作製した。設計仕様は、本実施例と同じく、中心周波数5GHz、帯域幅100MHz、通過帯域リップル幅0.1dBとした。また、薄膜フィルタのサイズは20mm角基板を想定し、フィルタ構造は3段共振器構造である。本実施例と比較例との最大電流密度を比較すると、本実施例の超電導フィルタの最大電流密度は薄膜フィルタの約14%であった。耐電力特性は最大電流密度の2乗に比例するので、本実施例では比較例に比べて耐電力特性が約50倍に改善した。この比較により、本実施例の超電導フィルタの耐電力特性は、薄膜フィルタの耐電力特性より優れていることが確認できた。
【0030】
(実施例2)
超電導体をリング形状にすることによる小型化の効果を調べるために、3次元電磁界シミュレータMW−STUDIO(AET社製)を用いて、共振周波数5GHz、誘電体基板2の厚さ5.9mm、誘電体基板2の誘電率9.9で、有限積分法及び完全境界近似の条件において、ディスク形状及びリング形状の共振器サイズについて検討した。その結果を図5に示す。
【0031】
図5において、横軸はリング形状の超電導体1の内径(2r)/外径(2R)比を示し、縦軸は共振周波数5.0GHzとなるリング形状の超電導体1の外径/2(R)を示している。内径/外径比が0である点が、ディスク形状の超電導体1に対応している。図5に示すように、同じ共振周波数に対して、内径/外径比を大きくするにつれて、超電導体サイズが小さくなることが分かる。したがって、超電導体をリング形状にし、かつ、リング内径を大きくすることにより、フィルタサイズを小型化することが可能になる。実用上、超電導リング外径と内径の差を1.0mm以下にすることは、超電導リングの強度上問題がある。よって、共振周波数5GHzの場合、内径/外径比が約70%程度までが実用上最小の共振器を実現可能である。
【0032】
さらに、ディスク形状超電導体を用いて中心周波数5GHz、帯域幅100MHzのトリミングロッドなしの3段フィルタを作製したところ、図6に示すように、両端の給電線間は39.24mmであった。一方、リング形状の超電導体1を用いた3段フィルタでの両端の給電線間は、図7に示すように、35.98mmであった。なお、図6及び図7のフィルタ内の詳細な部分のサイズについては、表1に示す。以上により、ディスク形状からリング形状とすることによってフィルタサイズが10%程度小型化できることが確認できた。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例3)
誘電体ロッドのチューニング特性の効果を調べるために、リング形状の超電導体を用いた単一共振器において、誘電体ロッドを上下方向に移動させて共振周波数の変化について調べた。モデルの周波数特性の解析には、3次元電磁界シミュレータMW−STUDIO(AET社製)を用いた。リング形状の超電導体1のサイズは、外径8.2mm、内径4.8mm、厚さ1.0mmであった。誘電体基板2はアルミナ基板で、その誘電率は8.1であった。また、誘電体ロッド4のサイズは超電導体1の内径と同径で、その誘電率は39であった。給電線の先端と共振器との距離は、疎結合となる条件で計算を行った。その結果を図8(b)に示す。実線は電力の通過特性を示し、点線は反射特性を示している。図8(a)に示すように、誘電体ロッド4を3mm下方に移動させ、リング形状の超電導体1の内径内に入れることにより、共振周波数は560MHzシフトした。以上により、本実施例においては500MHz以上のチューニング特性が得られることが確認できた。
【0035】
比較例として、超電導薄膜を用いた、本実施例と同じ構造の単一共振器を設計し、本実施例の超電導フィルタとチューニング特性について比較した。なお、薄膜リング形状超電導体のサイズは、外径8.8mm、内径4.8mm、厚さ1.0μmであり、誘電体基板は厚さ2.0mmのアルミナ基板で、その誘電率は8.1であり、誘電体ロッドのサイズは内径と同径で、その誘電率は39であった。
【0036】
図9は、誘電体ロッドと共振器との間の高さhに対する共振器の共振周波数の変化を示す図である。実線は、バルクリング形状共振器の結果を示し、点線は薄膜リング形状共振器の結果を示している。なお、給電線の先端と共振器との距離は、0.2mmで計算を行った。図9に示す結果から、バルクリング形状共振器の方が共振周波数の変化が大きいことが分かる。薄膜の場合でも、リング形状にすると、誘電体ロッドを薄膜表面に接する程度にまで近づけると、共振周波数は急激に変化し、シフト量を数百MHz程度にすることは理論上可能であるが、この領域では誘電体ロッドの僅かな変化で共振周波数が大きく変化するので、チューニングが難しい。以上の結果より、本実施例のバルクリング形状フィルタは、薄膜リング形状フィルタよりチューニングし易く、大きなチューニング特性は得られることが確認できた。
【0037】
(実施例4)
誘電体ロッドのトリミング特性の効果を調べるために、リング形状の超電導体を用いて、中心周波数が5GHz、帯域幅100MHzの3段フィルタを設計・作製した。リング形状の超電導体1のサイズは、外径8.2mm、内径5.0mm、厚さ0.5mmであり、誘電体基板2はアルミナ基板で、その誘電率は8.1であった。また、誘電体ロッド4のサイズは4.8mmで、その誘電率は39であった。
【0038】
まず、各共振器上の誘電体ロッド4の高さを、それぞれh1=h2=h3=2.25mmとした場合のフィルタモデルを図10に示す。また、図11は、図10のモデルの周波数特性を示している。中心周波数は5.041GHz、帯域幅は93.2MHzであり、ほぼ設計通りのものが作製できたが、帯域幅に0.994dB程度の比較的大きなリップルが見られた。この3段フィルタは超電導バルクフィルタのサイズが同じで、誘電体ロッドの高さも同じ高さを仮定している。本来の3段フィルタ設計においては中央の共振器サイズを数10μm大きく設計することにより良好な特性を得ることが判っている。しかしながら、実際の試作では、10μmの精度で外径及び内径を制御することが困難である。したがって、この外径のずれを補正することが必要となる。本実施例では、誘電体ロッド4を用いてこの調整を行う。
【0039】
図12は、周波数特性を調整するためにh1=h3=1.52mm、h2=0.96mmとした場合のフィルタモデルを示している。また、図13は、図12のモデルの周波数特性を示している。中心周波数は5.016GHz、帯域幅は92.3MHzと図10の場合とほぼ同じ特性であったが、帯域通過リップルが0.004dBと大幅に低減し、ほぼフラットな通過帯域特性が得られた。
【0040】
以上により、本実施例によってトリミングにより周波数特性が改善されることが確認できた。また、図9から、バルクリング形状の場合、hの変化に対してほぼ線形的に共振周波数が変化していることが分かる。このことは、本実施例のバルクリング形状フィルタは、薄膜リング形状フィルタよりも共振周波数をトリミングし易い優れた構造であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、コンパクトで、周波数特性の調整が容易で、高い耐電力特性を有する超電導フィルタを提供することができるので、酸化物超電導体の工業上の利用範囲が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態の超電導フィルタの一例を示す構造断面図である。
【図2】図1の超電導フィルタの斜視図である。
【図3】本発明の3段リング形状の超電導体を用いた超電導フィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図4】比較例の薄膜型3段ヘアピンフィルタの構造を示す図である。
【図5】本発明の超電導フィルタの単一共振器構造シミュレーションモデルと、内径/外径の比とリング共振器との大きさの関係のシミュレーション結果とを示す図である。
【図6】本発明の実施例の円板形状の超電導体を用いたフィルタ構造を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施例のリング形状の超電導体を用いたフィルタ構造を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施例の超電導フィルタの単一共振器構造における周波数チューニングシミュレーションモデルと単一共振器において誘電体ロッドを上下させた場合の周波数特性のシミュレーション結果とを示す図である。
【図9】本発明の実施例の超電導フィルタ、及び比較例の薄膜型共振器フィルタの単一共振器構造における誘電体ロッド高さと共振周波数との関係のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例において、共振器、誘電体ロッドの大きさが同じ場合の超電導フィルタのフィルタ構造のシミュレーションモデルを示す図である。
【図11】本発明の実施例の超電導フィルタのフィルタ構造で、共振器、誘電体ロッドの大きさが同じ場合の周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例において、共振器の大きさは同じで誘電体ロッドの位置を周波数特性が向上するように調整した場合の超電導フィルタのフィルタ構造のシミュレーションモデルを示す図である。
【図13】本発明の実施例の超電導フィルタのフィルタ構造で、共振器の大きさが同じで、誘電体ロッドの高さを調整した場合の周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 超電導体
2 誘電体基板
3 SMAコネクタ
4 誘電体ロッド
5 ロッド上下用トリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電部を有する誘電体材料からなる誘電体基板と、前記誘電体基板内に配置されたバルク状超電導体と、誘電体材料からなる誘電体ロッド状部材と、前記バルク状超電導体と前記誘電体ロッド状部材との間の相対的位置を変化させる位置調整機構とを有することを特徴とする超電導フィルタ。
【請求項2】
前記バルク状超電導体が、リング形状であることを特徴とする請求項1に記載の超電導フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体ロッド状部材は、前記リング形状のバルク状超電導体のリング内に挿入可能な形状であることを特徴とする請求項2に記載の超電導フィルタ。
【請求項4】
前記バルク状超電導体が、円板形状であることを特徴とする請求項1に記載の超電導フィルタ。
【請求項5】
前記バルク状超電導体及び前記誘電体ロッド状部材の対が複数あり、前記対と同数の複数個の前記位置調整機構が独立に相対的位置を変化させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導フィルタ。
【請求項6】
前記バルク状超電導体の厚さが、0.01〜10mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導フィルタ。
【請求項7】
前記バルク状超電導体が、単結晶状のREBa2Cu3x相(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5相が微細分散した酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−306526(P2008−306526A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152398(P2007−152398)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】