説明

超電導磁石装置及び核磁気共鳴イメージング装置

【課題】超電導磁石装置及びこれを適用する核磁気共鳴イメージング装置に関し、超電導コイル中の電流が時間的に変動しても、内部に作用する過負荷を軽減させる構成を得る。
【解決手段】 超電導コイルの中心軸(Z)と同軸状に配置され永久電流により誘導される静磁場により磁化する磁化部材(21,22)は、反対面(21b,22b)から側周面(21a,22a)に亘る開口を有するスリット(21f,22f)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルに永久電流を循環させて静磁場を発生させる超電導磁石装置に関し、さらにこの超電導磁石装置を静磁場の発生源として適用する核磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴イメージング装置(Magnetic Resonance Imaging;以下、MRI装置という)とは、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;以下、NMRという)現象により水素原子核のスピンの状態が変化する際に放出する電磁波を計測し、その信号を演算処理することによって、被検体の断層を水素原子核の密度分布に依存する画像として撮像するものである。
このMRI装置による計測を実行する際は、静磁場の発生源である超電導磁石装置が、磁場強度が高く(0.2T以上)、磁場密度の均一性の高い静磁場(10ppm程度)を撮像領域に形成する必要がある。
【0003】
このような、高強度でかつ均一性の高い静磁場の発生源として用いられる超電導磁石装置は、永久電流を循環させて静磁場を誘導する一対の対向する超電導コイル、この誘導された静磁場を増幅したり均一性を改善したりする一対の対向する磁化部材、及び超電導コイルを冷却する冷媒を保持する冷媒容器を、構成要素として少なくとも含むものである。さらに、これら構成要素は、MRI装置の外部からの熱を断熱する真空容器の内部に、保持されている(特許文献1,2参照)。
そして、MRI装置は、断層像を鮮明にしたり診断に必要な情報量を増やしたりすることを目的として、撮像領域に形成される静磁場の強度をさらに向上させることが求められている。
【特許文献1】特開平9−153408号公報(第3頁から第5頁、図1)
【特許文献2】特表2003−513436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、MRI装置の静磁場の強度をさらに向上させるとなると、前記した構成要素の大型化を招来し、これら構成要素を相互に支持する支持部材の剛性を向上させる必要が必然的に生じる。
しかし、そのような支持部材の剛性を向上させることは、同時にMRI装置の外部の常温部から内部の冷却部へ熱侵入が容易になり、冷媒(液体ヘリウム)の液化維持に要する冷凍機の容量と負荷(運転電力など)が大きくなる。その結果、MRI装置の運転の維持に掛かる費用も増大することになる。
このため、支持部材の剛性は、MRI装置の定常の静磁場を発生するに伴う負荷に対し必要十分な耐力を有するのみとして、余裕分を極力省き低剛性にて構成したいところである。
【0005】
ところが、MRI装置において、静磁場を立上げる最中や、超電導状態の破壊が伝播する現象(所謂、クエンチ)に見舞われた場合は、超電導コイルに時間的変動を伴う電流が流れることになる。すると、磁化部材の周回方向に渦電流が誘導され、さらにこの渦電流と磁場との相互作用によるローレンツ力が発生する。そして、このローレンツ力が新たに加わり強化された電磁力が支持部材に作用することがある。
このように支持部材は、MRI装置が定常の静磁場を発生しているときよりも大きな過負荷が作用する場合があり、それに耐えるだけの剛性を余分に備える必要がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決することを課題とし、超電導コイル中の電流が時間的に変動しても、支持部材に作用する過負荷を軽減させる構成を実現する。これにより、支持部材の剛性を小さく構成することが許容され、外部の常温部から内部の冷却部へ熱侵入が抑制される超電導磁石及び核磁気共鳴イメージング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明は、対向して配置する一対の超電導コイルと、その中心軸と同軸状に配置された一対の対向する磁化部材と、を備える超電導磁石装置において、一対の前記磁化部材には、反対面から側周面に亘る開口を有するスリットが設けられていることを特徴とする。
このように発明が構成されることにより、超電導コイル中の電流が時間的に変動しても、磁化部材の周回方向に流れる渦電流は、前記スリットが設けられている部分において遮断される。つまり、磁化部材を断面視した場合、スリットは反対面側に開口を有しているので、この反対面側のほうが対向面側よりも渦電流の電流密度が相対的に低くなる。これにより、この渦電流と静磁場との相互作用により発生した電磁力のうち、一対の磁化部材が互いに引き合う成分は、減少する。
さらに、スリットが対向面側にも開口するように構成されていれば、磁化部材の周回方向に流れる渦電流の電流密度を全体的にさらに低下させることができるので、電磁力のうち前記引き合う成分をさらに減少させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えばクエンチ時のように超電導コイル中の電流が時間的に変動しても、各構成要素を支持する支持部材に作用する過負荷を軽減させることができる。これにより、支持部材の剛性を小さく構成することが許容され、外部の常温部から内部の冷却部へ熱侵入が抑制される超電導磁石及び核磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態に係る核磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)を説明する。
図1に全体の側面図が示されているように、MRI装置10は、垂直方向を向く中心軸Zが回転対称軸となるように第1静磁場発生部30及び第2静磁場発生部40を対向させて支柱12に固定してなる超電導磁石装置11(図2参照)に、撮像領域Rを挟むようにして配置される傾斜磁場発生部13,13と、被検体Pを載置して撮像領域Rに位置させるベッド台Dと、を備えている。
この超電導磁石装置11(図2参照)は、撮像領域Rに、磁場強度が高く磁場密度の均一性の高い静磁場を中心軸Zと同じ方向に形成するものである。
【0010】
さらに、MRI装置10は、図示されない構成要素として、撮像領域Rに向けてNMR現象を発現せる共鳴周波数の電磁波を照射するRF(Radio Frequency)コイルと、撮像領域Rからの応答信号を受信する受信コイルと、これら構成要素を制御する制御装置、受信した信号を処理して解析を行う解析装置とを備えている。
このように構成されることによりMRI装置10は、撮像領域Rの関心領域(通常1mm厚のスライス面)だけにNMR現象を発現させて、水素原子核スピンから放出される電磁波に基づいて被検体Pの断層を画像化するものである。
【0011】
傾斜磁場発生部13,13は、第1静磁場発生部30及び第2静磁場発生部40が対向する面にそれぞれ設けられた一対の窪みU,U(図2参照)に配置されている。そして、傾斜磁場発生部13,13は、撮像領域Rにおいて、超電導磁石装置11により形成された静磁場に勾配磁場を印加し、NMR現象の位置情報を与えるものである。
【0012】
第1静磁場発生部30は、図2に示されるように、メインコイル31と、シールドコイル32と、コイルボビン33と、冷媒容器35と、輻射板36と、真空容器37と、第1磁化部材21と、第2磁化部材22と、支持部材23,24とを少なくとも構成要素として備えるものである。
第2静磁場発生部40は、第1静磁場発生部30に対して中心軸Zを共有しかつ撮像領域Rを挟んで鏡面対称となるようにその内部が構成されている。
【0013】
支柱12は、一対の第1静磁場発生部30と第2静磁場発生部40とを天地方向に対向させて支持するものである。そして、図2の断面部に示されるように支柱12の内部は、冷媒容器35が、第1静磁場発生部30と第2静磁場発生部40とを連通するように構成されている。また真空容器37も同様に、支柱12の内部において、第1静磁場発生部30と第2静磁場発生部40とを連通している。
【0014】
メインコイル31は、永久電流が所定の方向(順方向)に循環して撮像領域Rに計測用の静磁場を生成させる超電導コイルであって、中心軸Zを中心として配置されるコイルボビン33の周りに超電導線材が巻回して形成される。
ここで、超電導コイルとは、冷媒容器35に充填されている冷媒L(例えば、液体ヘリウム)により臨界温度より低温に冷却されると常電導状態から超電導状態に転移して電気抵抗がゼロとなるものであって、環状の電流が減衰することなく永久に循環するものである。
【0015】
シールドコイル32は、メインコイル31と中心軸Zを共有するようにかつ直径が大きくなるようにコイルボビン33に巻回されている。そして、シールドコイル32には、メインコイル31に流れる順方向とは逆方向に環状の永久電流が流れている。
さらにシールドコイル32は、撮像領域Rからの距離がメインコイル31よりも遠い位置に配置され、超電導磁石装置11の外部に漏洩する計測用の磁場を打ち消すように作用するものである。
【0016】
真空容器37は、真空状態に保たれている内部において図示しない部材を介して冷媒容器35を保持するものであって、伝導および対流による冷媒容器35への熱侵入を防止するものである。
冷媒容器35は、メインコイル31及びシールドコイル32を超電導現象が発現する臨界温度以下の温度に保つ冷媒L(液体ヘリウム)を収容するものである。
輻射板36は、真空容器37と冷媒容器35との間に設けられ、真空容器37から冷媒容器35に向かう熱輻射を遮蔽するものである。
【0017】
このように、冷媒容器35、輻射板36、真空容器37が層構造に配置されて断熱効果を発揮することにより、大気に晒され常温を示す超電導磁石装置11の外表面から冷媒Lに浸漬して極低温に維持される超電導コイル31,32に至るまでの温度勾配が定常的に維持されることになる。
【0018】
第1磁化部材21及び第2磁化部材22(以下、磁化部材21,22と記す場合がある)は、中心軸Zを共有して同軸状に、冷媒容器35の外部でかつ真空容器37の内部に、固定されている。典型的には、図示するように磁化部材21,22は冷媒容器35の内半径側に配置される。
この磁化部材21,22は、例えば純鉄等の強磁性体から構成され、メインコイル31に永久電流が環状に流れて閉ループ状に形成する磁気回路中に、撮像領域Rを挟むように対に配置される。このようにして磁化部材21,22は、磁気回路の磁気抵抗を引き下げて、撮像領域Rに多数の磁力線を誘導し静磁場の強度を増加させるものである。
【0019】
図3に示されるように、第1磁化部材21には、その側周面21aから鍔状に延出し反対面21bの外周をさらに拡張させる鍔部位21eが設けられている。このような鍔部位21eが設けられていることにより、図4に示されるように、第1磁化部材21を貫く磁場Bbの曲率が大きくなり、磁気回路のループを小さくする。これにより、撮像領域Rにおける静磁場の高強度化と外部への漏洩磁場の削減を図ることができる。
【0020】
図2に戻って説明を続ける。
この磁化部材21,22は、図示するように第1磁化部材21と、この第1磁化部材21から分離して環状に構成される第2磁化部材22とから構成されることにより、撮像領域Rにおける磁場の均一性の改善並びに撮像領域Rを拡張する効果が得られる。
なおこのような効果をさらに向上させることを目的として、この第1磁化部材21は、図示するように平板である場合以外に、中空の環状であったり、そのような環状の内側に、さらに複数の環状の磁化部材が同軸状に多段に配置されたりする場合もある。
なおこの磁化部材21,22については、後段で図3から図5を参照してその形状、作用につき説明を行う。
【0021】
支持部材23は、複数の棒状体が中心軸Zの軸廻りに間隔をおいて、かつ中心軸Zの軸方向にその長手方向を揃えて配置してなるものである。そして支持部材23は、その一端が第1磁化部材21に固定され、その他端が真空容器37の内周面に固定されている。
この支持部材23は、高剛性でかつ熱伝達率の小さな材料で構成されることが好ましく、具体的には繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)で構成される。なおこの支持部材23の他端の固定位置は特に限定されるものではなく、例えば冷媒容器35に固定される場合もある。
このように支持部材23が構成されることにより、超電導磁石装置11の外表面の常温部から第1磁化部材21へ向かう熱侵入を妨害することができる。
なお、第2磁化部材22を冷媒容器35の外部でかつ真空容器37の内部で支持する支持部材24も支持部材23に同じであるので説明を省略する。
【0022】
ところで、これら支持部材23,24は、温度の極端に異なる部材同士(図2では磁化部材21,22と真空容器37)を支持・固定するものであるので、熱伝達を阻害するために熱抵抗を大きく構成する必要がある。このように、熱抵抗の大きな部材にするには、熱伝達率の低い材料から構成するとともに、熱流入路の断面を小さく全長を長く構成する必要がある。しかし、このように支持部材23,24を構成するとなると、一般にその機械的な剛性が低下し、〔発明が解決しようとする課題〕の欄で述べた機械的な過負荷がかかると磁化部材21,22の位置精度に狂いが生じることが懸念される。この磁化部材21,22の位置精度は、磁場の均一性と密接な関係を有しているため、この均一性が狂えば再調整の必要が生じ、装置の調整作業の効率低下を招くこととなる。
【0023】
しかし、本発明においては、支持部材23,24が後記するような特徴的な構造を有することにより、支持部材23,24にかかる過負荷を低く抑えることができる。よって、支持部材23,24は、剛性を低く構成しても、クエンチ等の不慮の事故に遭遇して悪影響がおよぶことは無い。また支持部材23,24の熱抵抗が大きくなることで超電導磁石装置11の構成要素(ここでは磁化部材21,22)をより断熱的に保持しすることが可能になる。
【0024】
さらに、支持部材23,24は、冷媒容器35の外部に磁化部材21,22を配置するものである。このため、磁化部材21,22は極温度に保持される訳でなく、常温あるいは、常温から冷媒Lの温度に至る中間温度に、温度変動なく保持されることになる。
磁化部材21,22は、熱容量が大きく、かつ構成材料である鉄は温度変化に対する磁化変化が大きい性質を有する為、常温に近い温度で温度変動なく保持されることは、MRI装置10にとってさまざまな点で好都合である(例えば、静磁場の強度変動を抑制することができる点、冷媒Lの消費が抑制される点、冷媒Lの気化を抑制する冷却装置を小規模化できる点等)。
【0025】
次に、図3を参照して、磁化部材21,22の形状について説明する。
図3(a)は、第1磁化部材21及び第2磁化部材22の斜視図であり、説明上、両者の位置を中心軸Zに沿って所定量だけ変位させたものである。図3(b)は(a)のX−Y方向の直交断面図である。
第1磁化部材21は、中心軸Zに対して回転対称形を有し、前記したように側周面21aの一部が鍔状に延出した鍔部位21eを有している。この鍔部位21eは、図示されない撮像領域側を向く対向面21dよろも反対面21bの外周が拡張されるように構成される。
【0026】
そして、スリット21fが、磁化部材21の反対面21bから側周面21aに亘って開口するように設けられている。また、図中、スリット21fは、直線的に中心軸Zに交差するとともに、その始端と終端が共に側周面21aに達し側周面21aに開口するように設けられている。
この複数のスリット21fは、中心軸Zに対して回転対称性を有するよう均等に配置されることが、撮像領域R(図1参照)における磁場の均一性の観点から好ましい。
【0027】
しかし、スリット21fは、側周面21aに始端が開口していれば、その終端は反対面21b内の任意位置でかまわない。またスリット21fの溝状の方向は、その延長線が中心軸Zに交わる方向に完全一致している必要はなく、略一致していればよい。またスリット21fの溝状は、直線的・平面的である必要はなく、後記するように、第1磁化部材21の周回方向に発生する渦電流Ja(図4(a)参照)の進行を遮断するものであれば曲線的・曲面的な形状であってもよい。さらに、第1実施形態において第1磁化部材21は、鍔部位21eを必須の構成要素として含むものでなく、中心軸Zに対して回転対称形を有していれば好ましく適用することができ、例えば単純な円筒形状である場合も含まれる。
【0028】
スリット21fは、図3(b)に示すような断面視において、その深さが第1磁化部材21の厚み方向三分の一から三分の二の範囲に含まれることが好ましい。
スリット21fの深さが厚み方向三分の一よりも小さい場合は、後記するような、第1磁化部材21の周回方向に発生する渦電流Ja,Jb(図4(a)参照)の電流密度を対向面21d側に偏重させる効果が得られない。
またスリット21fの深さが厚み方向三分の二よりも大きい場合は、第1磁化部材21の剛性が低下し、図2に示されるように、吊り下げられた状態で弾性変形することが懸念される。しかし、このような変形が生じない処置が施されているのであれば、スリット21fの深さの上限の規定は不要であって、対向面21d側に貫通していてもよい。
むしろ、スリット21fの深さが大きいことは、周回方向に発生する渦電流を効果的に遮断させる観点からすれば、渦電流の遮断面の面積が広くなる点で好適である。
【0029】
またスリット21fは、その幅が0.5mmから10mmの範囲に形成されていることが好ましい。
スリット21f幅の下限が0.5mmであることは、それよりも狭く形成することがコスト対効果の観点から適切でないことによる。
またスリット21f幅が10mmよりも大きい場合は、撮像領域R(図2参照)における磁場の均一性に影響を与えてしまう観点から好ましくないことによる。
【0030】
図3に戻って説明を続ける。
第2磁化部材22は、中心軸Zに対して回転対称形を有し、第2磁化部材22の外周よりも半径方向に大きく環状に構成されている。
この第2磁化部材22に設けられているスリット22fは、その始端が、第2磁化部材22の側周面22aの一の開口をなし、直線的に中心軸Zに交差する方向に延びて、その終端が内周面22cに開口をなすように設けられている。しかし、スリット22fは、内周面22c側に貫通していなくても反対面22bから側周面22aに亘る開口が設けられていればよい。
なお、第2磁化部材22に設けられるスリット22fが具備すべき好ましい要件、変形可能な範囲等は、第1磁化部材21に設けられるスリット21fと同じであるので、その説明の該当部分を引用することとして、記載を省略する。
【0031】
次に図4、図5を参照して、磁化部材21,22の作用について説明を行う。
図4(a)は、超電導磁石装置11の第1実施形態におけるX(Y)−Z断面の座標上の第1象限部分を示す図であって、第1磁化部材21の実施例を示す模式図である。
図4(b)は、磁化部材21´にスリット21fが設けられていない場合の比較例を示す模式図である。
【0032】
ここで、メインコイル31には、断面視において図の表面から裏面に向く方向に永久電流Jcが環状に流れていることとする。そして、この環状の永久電流Jcに誘導されて、磁場Bbが図示するように第1磁化部材21,21´を貫いていることとする。
【0033】
次に、永久電流Jcが急激に減衰する現象(例えば、クエンチ現象)が発生したとする。すると、この永久電流Jcの減衰に伴う磁場Bbの減少を補うように、電気伝導体でもある第1磁化部材21には、図示するように渦電流Ja,Jb,Ja´,Jb´がメインコイル31と同じ周回方向に発生する。
【0034】
ここで、図4(a)に示す実施例では、反対面21b側に発生する渦電流Jaは、スリット21fによって遮断されるのでその値は極めて小さく、Ja≪Jbの関係が成り立つといえる。つまり、第1磁化部材21において、反対面21b側の渦電流Jaほうが対向面21d側の渦電流Jbよりも電流密度が相対的に低くなるといえる。
一方、図4(b)に示す実施例では、反対面21b側に発生する渦電流Ja´は、流れを阻害するものが無いので、ほぼ、Ja´=Jb´の関係が成り立つといえる。つまり、比較例の磁化部材21´において、反対面21b´側の渦電流Jaと´、対向面21d´側の渦電流Jb´とでは電流密度に差異がないといえる。
【0035】
ところで、任意の点における渦電流Ja,Jbの接線方向のベクトルをJとし、磁場Bbの接線方向のベクトルをBとすれば、この任意点において発生する電磁力FはJとBとの外積、F=J×Bで表されることが知られている。
【0036】
ここで、図4(a)に示す実施例において、反対面21b側の渦電流Jaにより発生する電磁力Faは、図示するように、メインコイル31に向かう方向斜め下向きである。一方、対向面21d側の渦電流Jbにより発生する電磁力Fbは、図示するように、メインコイル31に向かう方向斜め上向きであり、かつその量はJa≪Jbの関係から|Fa|<|Fb|である。
【0037】
そして、第1磁化部材21の全体に作用する力は、電磁力Faと電磁力Fbとの合力としてあらわされる。これらの合力の内、半径方向の成分は、中心軸Zに対して反対側の成分と打ち消され外力としては現れてこない。
一方、第1磁化部材21にかかる合力の垂直方向の成分Fgは、電磁力Faの垂直成分と電磁力Fbの垂直成分との差分である。この合力の垂直方向の成分Fgは、第1磁化部材21及びメインコイル31の形状や高さ方向の位置関係によって決まるが、典型的には、図示されるように撮像領域R側を向く小負荷か、もしくは逆転方向の荷重となる。
【0038】
次に、図4(b)に示す比較例において、同様の検討を行うと、反対面21b´側の渦電流Ja´により発生する電磁力Fa´と、対向面21d´側の渦電流Jb´により発生する電磁力Fb´との合力の垂直成分Fg´は、Ja´=Jb´の関係及び磁束密度の大小関係から|Fa´|>|Fb´|である。
従って、この合力の垂直方向の成分Fg´は、典型的には、図示されるように撮像領域R側を向く大負荷になる。
【0039】
通常、メインコイル31に流れる永久電流Jcが定常状態である場合は、磁化部材21´に作用している力はそもそも撮像領域R側に向いている。
そして、メインコイル31に流れる永久電流Jcが減衰すると、比較例においては渦電流Fa´,Fb´の発生により電磁力Fg´がさらに重畳して磁化部材21´に作用し、支持部材23(図2)に過負荷がかかる。
一方、実施例においては、第1磁化部材21に発生する渦電流Ja,Jbは、対向面21d側よりも反対面21b側の電流密度が相対的に低いため、重畳する電磁力Fgは小負荷か逆転方向であるため、支持部材23(図2)に過負荷がかからない。
【0040】
図5(a)は、超電導磁石装置11の第1実施形態におけるX(Y)−Z断面の座標上の第1象限部分を示す図であって、第2磁化部材22の実施例を示す模式図である。
図5(b)は、磁化部材22´にスリット22fが設けられていない場合の比較例を示す模式図である。
図5において、第2磁化部材22に設けられるスリット22fの有無による作用・効果の相違点は、第1磁化部材21(図4参照)におけるスリット21fの有無の場合と同じであるので、図4を参照した説明文中、対応する構成の記載を置き換えて、図5の説明として援用し、記載を省略する。
【0041】
(第2実施形態)
次に、図6を参照して、本発明の第2実施形態に適用される磁化部材26の形状について説明を行う。
図6(a)は、磁化部材26の斜視図であり、図6(b)は(a)のX−Y方向の直交断面図である。
磁化部材26は、中心軸Zに対して回転対称形を有し、前記したように側周面26aの一部が鍔状に延出した鍔部位26eを有している。この鍔部位26eは、図示されない撮像領域側を向く対向面26dよりも反対面26bの外周が拡張されるように構成される。
【0042】
そして、スリット26fの複数が溝状にこの鍔部位26eに設けられている。この複数のスリット26fは、中心軸Zに対して回転対称性を有するよう均等に配置されることが、撮像領域R(図1参照)における磁場の均一性の観点から好ましい。
【0043】
スリット26fは、図6(b)に示すような断面視において、その深さが鍔部位26eの厚み方向の全範囲におよぶことが好ましい。しかし、磁化部材26に発生する渦電流が鍔部位26eにおいて周回しない効果が得られれば、スリット26fの形状に特に制限はない。
またスリット26fは、その幅が0.5mmから10mmの範囲に形成されていることが好ましい。
【0044】
また第2実施形態に適用される磁化部材26は、単独で配置される場合もあるし、図3(a)に示されるような第2磁化部材22と併用される場合もあるし、また図示されるような平板である場合以外に、中空の環状であったり、そのような環状の内側に、さらに複数の環状の磁化部材が同軸状に多段に配置されたりする場合もある。
【0045】
次に図7を参照して、磁化部材26の作用について説明を行う。
図7は、超電導磁石装置11(図2参照)の第2実施形態におけるX(Y)−Z断面の座標上の第1象限部分を示す図であって、磁化部材26の実施例を示す模式図である。
以下、図4(b)に示す比較例と対比して説明を続ける。
【0046】
永久電流Jcが急激に減衰する現象(例えば、クエンチ現象)が発生したとする。すると、この永久電流Jcの減衰に伴う磁場Bbの減少を補うように、電気伝導体でもある磁化部材26には、図示するように渦電流Ja,Jbがメインコイル31と同じ周回方向に発生する。
【0047】
ここで、図7に示す実施例では、鍔部位26eに渦電流は、スリット26fによって遮断されるので流れないといえる。そのかわり、スリット26fが設けられていない磁化部材26の部分においては、反対面26b側も対向面26d側も渦電流の電流密度に差異がないといえる(Ja=Jb)。
【0048】
ここで、図7に示す実施例における反対面26b側の渦電流Jaにより発生する電磁力Faと、図4(b)に示す比較例における反対面21b´側の渦電流Ja´により発生する電磁力Fa´とを対比する。すると、図7の実施例の電磁力Faの垂直成分のほうが、図4(b)の比較例の電磁力Fa´の垂直成分よりも小さいといえる。
このため、実施例の電磁力Fa,Fbの合力の垂直成分Fgは、比較例の電磁力Fa´,Fb´の合力の垂直成分Fg´よりも小さいといえる。
このように、第2実施形態の実施例においては、永久電流Jcが減衰することにより磁化部材26に重畳される電磁力Fgが小さいので、支持部材23(図2)に過負荷を与えない。
【0049】
以上の説明において、核磁気共鳴イメージング装置を構成する超電導磁石装置は、被検体が前記撮像領域に挿入される方向に対して、垂直方向に静磁場が向くよう位置していることを前提として説明を行った。しかし、これに限定されることなく、核磁気共鳴イメージング装置において、被検体が撮像領域に挿入される方向に対し、静磁場が平行方向を向くように超電導磁石装置が位置する構成も取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の核磁気共鳴イメージング装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の超電導磁石装置の第1実施形態を示す部分断面図である。
【図3】(a)は本発明の超電導磁石装置の第1実施形態に適用される第1磁化部材及び第2磁化部材の斜視図であり、(b)はX−Y直交断面図である。
【図4】(a)は本発明の超電導磁石装置の第1実施形態に適用される第1磁化部材の実施例を説明する図であり、(b)は比較例を説明する図である。
【図5】(a)は本発明の超電導磁石装置の第1実施形態に適用される第2磁化部材の実施例を説明する図であり、(b)は比較例を説明する図である。
【図6】(a)は本発明の超電導磁石装置の第2実施形態に適用される磁化部材の斜視図であり、(b)はX−Y直交断面図である。
【図7】本発明の超電導磁石装置の第2実施形態に適用される磁化部材の実施例を説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
10 MRI装置(核磁気共鳴イメージング装置)
11 超電導磁石装置
21,26 第1磁化部材(磁化部材)
21a,22a,26a 側周面
21b,22b,26b 反対面
21d,26d 対向面
21e,26e 鍔部位
21f,22f,26f スリット
22 第2磁化部材(磁化部材)
23,24 支持部材
31 メインコイル(超電導コイル)
35 冷媒容器
37 真空容器
L 冷媒
P 被検体
R 撮像領域
Z 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久電流を循環させて静磁場を誘導する一対の対向する超電導コイルと、
前記超電導コイルの中心軸と同軸に配置され前記永久電流により誘導される静磁場により磁化する一対の対向する磁化部材と、を備え、
一対の前記磁化部材には、互いに対向する側とは反対側の反対面から側周面に亘る開口を有するスリットが設けられていることを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項2】
前記磁化部材の側周面から鍔状に延出し前記反対面の外周をさらに拡張させる鍔部位が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の超電導磁石装置。
【請求項3】
スリットは、その始端と終端が共に前記側周面に開口するように設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超電導磁石装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記鍔部位にのみ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の超電導磁石装置。
【請求項5】
前記スリットは、
深さが前記磁化部材の厚み方向三分の一から三分の二の範囲に含まれ、
幅が0.5mmから10mmの範囲に含まれることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項6】
前記磁化部材は、第1磁化部材と、この第1磁化部材から分離して環状に構成される第2磁化部材と、を含んで構成され、
前記第1磁化部材及び第2磁化部材のうち少なくもとも一方に前記スリットが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項7】
前記超電導コイル及びこの超電導コイルを冷却する冷媒を内部に保持する冷媒容器と、
前記冷媒容器を断熱して内部に保持する真空容器と、
前記冷媒容器の外部でかつ前記真空容器の内部で前記磁化部材を支持する支持部材と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の超電導磁石装置を静磁場の発生源として適用し、磁気共鳴現象を利用した被検体の画像を撮像する核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記被検体が前記撮像領域に挿入される方向に対して、前記静磁場が垂直方向を向くように前記超電導磁石装置が位置されていることを特徴とする請求項8に記載の核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記被検体が前記撮像領域に挿入される方向に対して、前記静磁場が平行方向を向くように前記超電導磁石装置が位置されていることを特徴とする請求項8に記載の核磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−125841(P2008−125841A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314698(P2006−314698)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】