説明

超電導送電システム

【課題】超電導ケーブルを大径化することなく、過大な異常時電流による超電導導体層の損傷を抑制でき、その結果として容易に構築することができる超電導送電システムを提供する。
【解決手段】常温絶縁型超電導ケーブル(超電導ケーブル)201と、冷却機構と、リターン管301と、を備える超電導送電システムである。この超電導送電システムのリターン管301は、冷却機構に戻る冷媒が流通されるリターン側断熱管33と、そのリターン側断熱管33の外周を取り囲むリターン側電気絶縁層43と、そのリターン側電気絶縁層43の内側に設けられ、異常時電流を分担する分流導体40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルを用いた超電導送電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルでは、一般にフォーマの外周上に超電導導体層を有する導体部を二重の金属管で構成される断熱管内に収納してなる構成を備える。このような超電導ケーブルにおいて、超電導ケーブルを外部から電気的に絶縁する構成には以下の二つが挙げられる。一つ目の構成は、導体部の外周に電気絶縁層を備えたケーブルコアが上記断熱管に収納され、ケーブルコアに備わる電気絶縁層も冷媒により冷却される低温絶縁型の構成である(例えば、特許文献1を参照)。二つ目の構成は、フォーマと超電導導体層を備える導体部が上記断熱管に収納され、かつその断熱管の上に電気絶縁層が形成されており、当該電気絶縁層が冷媒により冷却されない常温絶縁型の構成である(例えば、非特許文献1を参照)。特に、後者の常温絶縁型超電導ケーブルは、既存の常電導ケーブルの絶縁材料および構造が適用できるという利点がある。
【0003】
低温絶縁型、あるいは常温絶縁型の超電導ケーブルを用いて超電導送電システムを構築する場合、超電導送電システムは、超電導ケーブルの他、さらに冷却機構と、リターン管とを備える構成とすることがある。冷却機構は、超電導導体層を冷却する冷媒を所定温度に冷却し、その冷却した冷媒を断熱管内に送り出す機構である。また、リターン管は、超電導ケーブルの断熱管の内部に流通された冷媒を冷却機構に戻す管路である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−238427号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】『Experimental 35kV/121MVA Superconducting Cable System Installed at Puji Substation in Southern China Power Grid』 Transactions on Electrical and Electronic Engineering 1巻1号8−13ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した超電導送電システムでは、その構築作業に困難が伴う場合があった。
【0007】
従来の超電導ケーブルでは、超電導導体層の直下にあるフォーマをCuなどの導電性に優れる常電導導体としておき、短絡電流に代表される異常時電流が発生した際、フォーマを異常時電流の分流路とすることが一般的である。しかし、大電流での送電を行う超電導送電システムでは、異常時電流も膨大な値となるため、異常時電流による超電導導体層の劣化を抑制するためには、フォーマの断面積を非常に大きくせざるを得ない。そうすると、超電導ケーブルの大径化を招く。ここで、超電導ケーブルの布設は、既存の常電導ケーブルと同等の配置および布設状態とすることが求められているため、超電導ケーブルを大径化すると、ケーブル輸送長(単位長)が制約されたり、従来の常電導ケーブルと同様に管路への布設が難くなるという問題がある。また、超電導ケーブルの構成部材が個々に挙動するため、大径化するほど布設作業が難しくなる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、超電導ケーブルを大径化することなく、過大な異常時電流による超電導導体層の劣化を抑制でき、その結果として容易に構築することができる超電導送電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明超電導送電システムは、超電導ケーブルと、冷却機構と、リターン管とを備える。超電導ケーブルは、超電導導体層、およびこの超電導導体層を内部に収納するケーブル側断熱管を備える。冷却機構は、冷媒を所定温度に冷却し、その冷却した冷媒をケーブル側断熱管内に送り出す機構である。リターン管は、ケーブル側断熱管の内部に流通された冷媒を、冷却機構に戻す管路である。これらの構成を備える本発明超電導送電システムにおいて、当該システムに備わるリターン管は、冷却機構に戻る冷媒が流通されるリターン側断熱管と、そのリターン側断熱管の外周を取り囲むリターン側電気絶縁層と、そのリターン側電気絶縁層の内側に設けられ、異常時電流を分担する分流導体と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、異常時電流を分担する分流導体により、超電導ケーブルの超電導導体層に過剰な異常時電流が流れることを抑制することができる。しかも、その分流導体は、超電導ケーブルの側ではなくリターン管の側に設けられているため、超電導ケーブルの大径化を抑制することができる。超電導ケーブルの大径化を抑制できれば、大径化に伴う超電導ケーブルの輸送長の低減や機械的特性により超電導ケーブルの布設作業性が低下することを避けることができる。また、例えば、電力ケーブル用管路などの限られたスペースに本発明超電導送電システムを構築する場合でも、その管路内に超電導ケーブルを布設し易い。つまり、本発明超電導送電システムは、フォーマを大径化(ケーブルを大径化)することで異常時電流に対する対策を施した超電導送電システムよりも容易に構築することができる。なお、リターン管にリターン側電気絶縁層を設けたのは、分流導体が、超電導ケーブルの超電導導体層と接続され、超電導導体層と同電位となるため、リターン管にも超電導ケーブルと同じ絶縁性能が要求されるからである。
【0011】
さらに、リターン側電気絶縁層を備えるリターン管を適用する上記構成によれば、超電導ケーブルとして常温絶縁型超電導ケーブルを用いた超電導送電システムにおいて絶縁継手の据付位置を当該システムの冷却機構の近傍に集約することができる。通常、常温絶縁型超電導ケーブルを用いた超電導送電システムでは、超電導ケーブルの長手方向の一端側でケーブル側断熱管(電圧印加部)と冷却機構の冷媒管とを絶縁継手で接続すると共に、当該長手方向の他端側でケーブル側断熱管とリターン側断熱管(接地電位部)とを絶縁継手により接続しなければならない。それは、従来のリターン管は接地電位であるため防食目的の被覆を備えるのみであるため、常温絶縁型超電導ケーブルの断熱管と導通状態で接続すると、リターン管を介して超電導導体を接地させた地絡状態となるからである。これに対して、本発明超電導送電システムでは、リターン管にリターン側電気絶縁層が設けられているため、ケーブル側断熱管とリターン側断熱管とが導通されていても問題ない。一方、ケーブル側断熱管とリターン側断熱管との導通を許容すると、リターン側断熱管と、この断熱管を冷却機構に接続する断熱管との間に所定の電気絶縁を設ける必要がある。この電気絶縁に絶縁継手を用いればよい。つまり、本発明の構成によれば絶縁継手の位置を冷却機構の近傍、あるいは超電導ケーブルの片端に集約することができる。
【0012】
ここで、本発明超電導送電システムにおける超電導ケーブルとして、常温絶縁型超電導ケーブルと低温絶縁型超電導ケーブルのいずれを採用しても良い。常温絶縁型超電導ケーブルは、超電導導体層を内部に収納するケーブル側断熱管の外周を取り囲むケーブル側電気絶縁層を備える構成である。また、低温絶縁型超電導ケーブルは、超電導導体層の外周を取り囲み、ケーブル側断熱管の内部に配されるケーブル側電気絶縁層を備える構成である。以下、常温絶縁型超電導ケーブルを用いた超電導送電システムを例に、本発明超電導送電システムの構成を、図1を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブル200とリターン管300の横断面図である。但し、図1では、ケーブル側断熱管(以下、断熱管13)とリターン側断熱管(以下、断熱管33)として、二重の金属管で構成される断熱管を例示している。
【0014】
まず、本発明超電導送電システムにおける分流導体は、リターン管300におけるリターン側電気絶縁層43の内側に形成される。その位置としては、リターン側電気絶縁層43の内側で断熱管33の外側の位置(図中、αの位置)であっても良いし、断熱管33の内側の位置(図中、βの位置)であっても良い。もちろん、分流導体は、αの位置とβの位置の両方にあってもかまわない。特に、αの位置に分流導体を形成すると、分流導体に異常時電流が流れて、分流導体にジュール熱が発生しても、そのジュール熱により断熱管33内に流通する冷媒131が加熱されることがない。その結果、異常時電流の発生から通常の送電に復帰するまでの時間を短くすることができる。
【0015】
本発明超電導送電システムの一形態として、リターン管300に設ける分流導体に加えて、異常時電流の分流路となるケーブル側分流導体を、常温絶縁型超電導ケーブル200に設けても良い。そうすることで、異常時電流による超電導導体層12の破損をより確実に抑制することができる。常温絶縁型超電導ケーブル200における分流導体の代表的な構成には以下の構成を挙げることができる。
【0016】
第1に、常温絶縁型超電導ケーブル200において、超電導導体層12を内側から保形するフォーマ11を金属材料とすることで、フォーマ11を異常時電流の分流路であるケーブル側分流導体とする構成を挙げることができる。ここで、本発明においては、リターン管300側に分流導体を設けることが前提であるので、フォーマ11はリターン管300の分流導体に追加して設けられる分流路である。そのため、フォーマ11に異常時電流を分流させるからといって、フォーマ11の断面積を従来よりも大きくする必要はない。つまり、フォーマ11をケーブル側分流導体とするからといって、常温絶縁型超電導ケーブル200を大径化する必要はない。
【0017】
第2に、常温絶縁型超電導ケーブル200において、ケーブル側電気絶縁層23の内側で、断熱管13の外側の位置(図中、γの位置)に、ケーブル側分流導体を設ける構成を挙げることができる。この位置におけるケーブル側分流導体も、リターン管300の分流導体に追加して設けられる異常時電流の分流路であるため、徒に断面積を大きくする必要はない。そのため、この位置におけるケーブル側分流導体が、常温絶縁型超電導ケーブルの大径化を招くことはない。
【0018】
上記分流導体の構成の他、本発明超電導送電システムの一形態として、リターン管の内部にも、送電を行うための超電導導体層(リターン側超電導導体層)を形成しても良い(図中、βの位置)。その場合、リターン側超電導導体層を保形するリターン側フォーマを形成することが好ましく、そのリターン側フォーマを金属材料からなる分流導体としても良い。
【0019】
リターン側超電導導体層を形成し、このリターン側超電導導体層と、常温絶縁型超電導ケーブルの超電導導体層(ケーブル側超電導導体層)とで送電を行うことで、両超電導導体層の厚さを薄くすることができ、交流送電時の表皮効果による不具合を低減できる。また、両超電導導体層に要求される構成層数を低減できるので、各構成層に流れる電流を概ね均流化することができる。
【0020】
また、本発明超電導送電システムの一形態として、常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管とを同一構成としても良い。ここでいう同一構成とは、分流導体や超電導導体層を配置する位置や、厚さ等を含め、全く同じとすることである。
【0021】
上記構成によれば、異常時電流の発生時にその異常時電流を常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管とに均等に分配することができる。その結果、ケーブル側とリターン側の両方の超電導導体層が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0022】
なお、図1を参照した超電導送電システムは、構成に矛盾が生じない範囲で、常温絶縁型超電導ケーブルを低温絶縁型超電導ケーブルに置き換えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明超電導送電システムによれば、常温絶縁型超電導ケーブルを大径化することなく異常時電流による超電導導体層の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管の概略横断面図である。
【図2】実施形態1に示す超電導送電システムの概略図である。
【図3】実施形態1に示す超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管の概略横断面図である。
【図4】実施形態2に示す超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管の概略横断面図である。
【図5】実施形態3に示す超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管の概略横断面図である。
【図6】実施形態4に示す超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブルとリターン管の概略横断面図である。
【図7】実施形態5に示す超電導送電システムにおける低温絶縁型超電導ケーブルの概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、主として、超電導ケーブルとして常温絶縁型超電導ケーブルを採用した本発明超電導送電システムの実施形態を図面に基づいて説明する。図において同一符号は、同一名称物を示す。
【0026】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図2に示すように、本実施形態の超電導送電システム100は、常温絶縁型超電導ケーブル201と、リターン管301と、冷却機構400と、を備える。常温絶縁型超電導ケーブル201は、送電側端末から受電側端末に向かって伸び、送電側端末から受電側端末に電力を送電する。また、冷却機構400は、ケーブル201に備わるケーブル側超電導導体層(図2では図示せず)を冷却する冷媒を所定温度に冷却し、ケーブル201に備わるケーブル側断熱管(図2では図示せず)に送り出す機構である。そして、リターン管301は、ケーブル側断熱管の内部に流通された冷媒を冷却機構400に戻す管路である。この超電導送電システム100の最も特徴とするところは、異常時電流が発生したときに、その異常時電流を分担する分流導体と、その分流導体の絶縁を確保するためのリターン側電気絶縁層を、リターン管301に形成したことにある。以下、図3を参照し、本実施形態における常温絶縁型超電導ケーブル201とリターン管301の構成を説明する。
【0027】
≪常温絶縁型超電導ケーブル≫
常温絶縁型超電導ケーブル201は、低温導電部1と、その低温導電部1の外周を覆う常温被覆部2とに分けることができる。低温導電部1は、断熱管(ケーブル側断熱管)13の内部に、導体部10が収納されてなる長尺体であり、常温被覆部2は、断熱管13の外周に設けられる電気絶縁層(ケーブル側電気絶縁層)23を含む被覆層である。
【0028】
[導体部]
導体部10は、代表的には、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、保護層(図示せず)を備える。フォーマ11は、超電導導体層12の支持体に利用される部材であり、例えば、図1に示すようなパイプ状の中空体をフォーマ11として利用できる。中空体のフォーマ11は、その内部を冷媒131の流路として利用することができる。フォーマ11の形状としては、中空体の他、中実体を利用することもできる。一方、フォーマ11の材質も特に限定されない。単に超電導導体層12の支持体としてフォーマ11を利用するのであれば、フォーマ11は樹脂などの非導電性材料から構成しても良いし、フォーマ11に異常時電流の分流路としての機能も持たせるのであれば、銅やアルミニウムなどの常電導の金属材料から構成しても良い。これらのことを考慮してフォーマ11の具体的な構成を例示すると、中空体のフォーマ11としては例えば、金属材料からなるパイプを挙げることができるし、中実体のフォーマ11としては例えば、エナメルなどの絶縁被覆を備える複数の金属線を撚り合わせたものを挙げることができる。
【0029】
次に、超電導導体層12としては、例えば、酸化物超電導体を備えるテープ状線材が好適に利用できる。テープ状線材は、例えば、Bi2223系超電導テープ線(Ag−MnやAgなどの安定化金属中に酸化物超電導体からなるフィラメントが配されたシース線)、RE123系薄膜線材(RE:希土類元素、例えばY、Ho、Nd、Sm、Gdなど。金属基板に酸化物超電導相が成膜された積層線材)が挙げられる。超電導導体層12は、上記テープ状線材を螺旋状に巻回して形成した単層構造又は多層構造が挙げられる。
【0030】
図示しない保護層は、上記超電導導体層12を保護し、断熱管13と超電導導体層12との間を絶縁するためのものであり、クラフト紙などを巻回することで形成できる。
【0031】
[断熱管]
上記導体部10を収納する断熱管(ケーブル側断熱管)13は、導体部10を内部に収納する内管14と、内管14を内部に収納する外管15と、を備える。内管14は、その内部に、超電導導体層12を超電導状態に維持するための冷媒131(代表的には、液体窒素や液体ヘリウム、ヘリウムガスなど)が充填され、冷媒流路として機能する。この内管14と、内管14の外周に設けられる外管15とで断熱管13を構成することで、外部からの侵入熱などにより冷媒131の温度が上昇することを抑制する。内管14と外管15との間は真空引きされ、それによって真空断熱層が形成されている。その他、内管14と外管15との間にスーパーインシュレーションといった断熱材や、内管14と外管15とを離隔させるスペーサを配置すると、断熱管13の断熱性を高められる。なお、本実施形態では、断熱管として二重管構造の断熱管を利用しているが、三重管以上の断熱管を利用しても良い。
【0032】
内管14及び外管15の構成材料は、ステンレス鋼、アルミニウムやその合金などの金属が挙げられる。上記金属は、耐食性に優れることから、種々の流体の保持や輸送を行う断熱管13の構成材料に適する。両管14,15の材質を異ならせてもよい。また、両管14,15はいずれも、その全長に亘ってコルゲート加工が施されたコルゲート管としたり、アルミニウムやその合金などの比較的柔らかく可撓性を有する材質からなるストレート管としたりすることで屈曲可能となる。このように可撓性を有する断熱管13を採用することで、搬送時や布設時に超電導ケーブル201を曲げ易くすることができる。さらに、コルゲート管で断熱管13を形成することで、断熱管13が冷媒131に冷却されて熱収縮する際に変形することで熱応力を緩和できる。
【0033】
[電気絶縁層]
一方、常温被覆部2を構成する電気絶縁層(ケーブル側電気絶縁層)23は、超電導ケーブル201を外部環境から電気的に絶縁する層である。この電気絶縁層23には、常電導ケーブルで実績がある電気絶縁強度に優れる材料、代表的にはCVケーブルに利用される架橋ポリエチレン(XLPE)などを利用できる。架橋ポリエチレンなどの絶縁性樹脂であれば、断熱管13の外周に絶縁性樹脂を押し出すだけで電気絶縁層23を容易に形成できる。その他、電気絶縁層23には、OFケーブルにおける絶縁層と同様の構成を採用することができる。例えば、断熱管13の外周にテープ状のクラフト紙や半合成紙を多層に巻回し、その絶縁層に合成油などの絶縁油を含浸させることでケーブル側電気絶縁層23を形成することができる。
【0034】
[その他の構成]
電気絶縁層23の外周には、代表的には、銅やアルミニウムなどの常電導材料から構成された外側遮蔽層(図示せず)が設けられる。外側遮蔽層は、絶縁層23の外側の電位を与えるもので、従来の電力ケーブルと同様に常電導材料を利用できる。そのため、常温絶縁型超電導ケーブル201は製造性に優れる。また、外側遮蔽層の外周には、外側遮蔽層を保護すると共に、所定の絶縁特性を有する防食層(図示せず)が設けられている。
【0035】
≪リターン管≫
リターン管301は、冷媒が流通される断熱管(リターン側断熱管)33と、その外周に順次形成される分流導体40と、電気絶縁層(リターン側電気絶縁層)43とを備える。
【0036】
[断熱管]
断熱管(リターン側断熱管)33は、常温絶縁型超電導ケーブル201の断熱管13と同様に、内管34と、その外周を覆う外管35とを備える。これら内管34と外管35にはそれぞれ、断熱管13の内管14と外管15と同じ構成を採用できる。なお、リターン管301の断熱管として、三重管以上の多重構造の断熱管を利用しても良い。
【0037】
[分流導体]
分流導体40は、異常時電流が生じたときに、その異常時電流を分担する常電導導体である。分流導体40は、異常時電流を分担する役割を担う観点から、高導電性の金属材料、つまり電気抵抗値が低い銅やアルミニウム、銀などの金属材料から構成される。特に、銅は、銀に次ぐ高い導電率を有し、銀よりも格段に安価である点で、分流導体40として好適である。
【0038】
上記分流導体40は、銅撚り線で構成されるセグメント導体など既存の常電導ケーブルの導体に準じた部材を断熱管33上に巻回することで形成することができる。
【0039】
上記分流導体40の断面積は、超電導送電システム100の運用上、どの程度の異常時電流が発生し得るか、その発生した異常時電流を分流導体40にどの程度負担させるかによって適宜選択すれば良い。例えば、上述した常温絶縁型超電導ケーブル201のフォーマ11を非導電性材料で構成する場合、異常時電流の大部分をリターン管301の分流導体40に流せるように分流導体40の断面積を決定し、分流導体40と超電導導体層12とで異常時電流を分担させることで、超電導導体層12を保護する。また、当該フォーマ11を導電性材料とし、異常時電流をリターン管301の分流導体40とケーブル201超電導導体層12に分担させるだけでなく、ケーブル201のフォーマ11にも分担させる構成であれば、分流導体40に分担させる異常時電流を流せるように分流導体40の断面積を決定すれば良い。また、銅素線を素線絶縁線とすることで交流抵抗を低減した分流導体とすることも有効である。
【0040】
≪超電導送電システムの効果≫
実施形態1の超電導送電システム100の構成であれば、異常時電流が発生したときに、その異常時電流をリターン管301の分流導体40に分担させることができる。そのため、常温絶縁型超電導ケーブル201の超電導導体層12に過剰な電流が流れて超電導導体層12が劣化することを回避できる。また、異常時電流を分担する分流導体40が、冷媒131と隔絶された位置に設けられていることから、分流導体40で生じるジュール熱により冷媒131が熱せられることがない。そのため、冷媒131が熱せられてガス化することを抑制できるし、冷媒131を運用可能な温度まで冷却するための時間を短くすることもできるので、異常時電流の発生から短時間で超電導ケーブル線路を通常運転に復帰させることができる。
【0041】
また、実施形態1の超電導送電システム100では、異常時電流の分流路となる分流導体40をリターン管301に設けたことにより、常温絶縁型超電導ケーブル201を大径化しなくて済む。そのため、常温絶縁型超電導ケーブル201の機械的特性を損なうこともないので、当該ケーブル201を現場に布設し易く、超電導送電システム100を容易に構築することができる。また、常温絶縁型超電導ケーブル201の大径化を避けることで、常温絶縁型超電導ケーブル201の輸送長が低下することを抑制できる。
【0042】
<実施形態2>
実施形態2では、常温絶縁型超電導ケーブルの側にも分流導体を形成した超電導送電システムを説明する。以下、図4に基づいて実施形態1と相違点を中心に説明する。
【0043】
図4は、実施形態2の超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブル202とリターン管302の概略横断面図である。この実施形態2における常温絶縁型超電導ケーブル202は、断熱管(ケーブル側断熱管)13と電気絶縁層(ケーブル側電気絶縁層)23との間に分流導体(ケーブル側分流導体)20を備える。一方、リターン管302は、実施形態1のリターン管301と同一の構成を備える。
【0044】
本実施形態の構成によれば、異常時電流を常温絶縁型超電導ケーブル202の分流導体20とリターン管302の分流導体40とで分担することができる。そのため、常温絶縁型超電導ケーブル202の超電導導体層12に過大な異常時電流が流れることをより確実に抑制することができる。
【0045】
<実施形態3>
実施形態3では、実施形態2と同様に常温絶縁型超電導ケーブルの側に分流導体を形成し、さらにその分流導体を内周側から保持するパイプ状構造物を設けた超電導送電システムを説明する。以下、図5に基づいて実施形態2との相違点を中心に説明する。
【0046】
図5は、実施形態3の超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブル203とリターン管303の概略横断面図である。この実施形態3における常温絶縁型超電導ケーブル203は、断熱管13を内部に収納するパイプ状構造物20Pを備え、そのパイプ状構造物20Pの外周に、分流導体20と電気絶縁層23が形成されている。一方、リターン管303は、実施形態2のリターン管302と同一の構成を備える。
【0047】
上記パイプ状構造物20Pは、その外周面に形成される分流導体20やケーブル側電気絶縁層23を保形する部材であり、当該パイプ状構造物20Pに要求される最も重要な特性は強度である。また、超電導ケーブル203に所定の機械的特性を持たせるために、パイプ状構造物20Pも所定の可撓性を有することが求められる。これらの点を考慮して、パイプ状構造物20Pとしては、アルミニウムのストレートパイプや、SUSのコルゲートパイプなどを利用することができる。その他、パイプ状構造物20Pは、樹脂などの非導電材料でできていても良い。ここで、このパイプ状構造物20Pが導電材料であれば、それ自身も分流導体20の機能の一部を分担できる。
【0048】
上述したようにパイプ状構造物20Pと断熱管13との間には所定の隙間が形成されており、そうすることでパイプ状構造物20Pを含む常温被覆部2と、断熱管13と導体部10からなる低温導電部1とを個別に作製することができる。このような構成によれば、布設後の使用に伴い低温導電部1が劣化した場合、低温導電部1のみを交換することができる。
【0049】
<変形実施形態3−1>
図5を参照する実施形態3の変形実施形態として、常温絶縁型超電導ケーブル203における分流導体20の位置を断熱管13の外周面上に変更しても良い。その場合、パイプ状構造物20Pの外周面にケーブル側電気絶縁層23が形成されることになる。断熱管13に形成される分流導体20の外周面と、パイプ状構造物20Pの内周面との間には隙間が形成される。
【0050】
この変形実施形態3−1の構成によっても、実施形態3の構成と同様に、布設後の使用に伴い低温導電部1が劣化した場合、低温導電部1のみを交換することができる。
【0051】
<変形実施形態3−2>
図5を参照して説明した実施形態3および変形実施形態3−1において、常温絶縁型超電導ケーブル203における断熱管13よりも外側の構成(断熱管13を含む)と、リターン管303における断熱管33よりも外側の構成(断熱管33を含む)とを同一にしても良い。
【0052】
この変形実施形態3−2の構成によれば、超電導ケーブル203とリターン管303とで共通の断熱管を利用することができるので、製造性の点で優れる。
【0053】
<実施形態4>
実施形態4では、実施形態2と同様に常温絶縁型超電導ケーブルの側に分流導体を形成し、さらにリターン管にも超電導導体層を有する導体部を形成した超電導送電システムを説明する。以下、図6に基づいて実施形態2との相違点を中心に説明する。
【0054】
図6は、実施形態4の超電導送電システムにおける常温絶縁型超電導ケーブル204とリターン管304の概略横断面図である。この図6に示すように、この実施形態4の常温絶縁型超電導ケーブル204は、実施形態2における常温絶縁型超電導ケーブル202と同一の構成を有する。一方、リターン管304は、断熱管33の内部に導体部50を備える点で、実施形態2におけるリターン管302と異なる。この導体部50は、中空状のフォーマ(リターン側フォーマ)51と、そのフォーマ51の外周に形成される超電導導体層(リターン側超電導導体層)52とを備える。これらフォーマ51と超電導導体層52は、超電導ケーブル204側のフォーマ11と超電導導体層12と同一の構成となっている。
【0055】
本実施形態の構成によれば、常温絶縁型超電導ケーブル204とリターン管304の両方で送電を行うことができる。つまり、常温絶縁型超電導ケーブル204に形成する超電導導体層12とリターン管304に形成する超電導導体層52の構成層数を低減することができ、電流の均流化や、交流送電における交流損失の低減を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態の構成によれば、異常時電流の発生時にその異常時電流を常温絶縁型超電導ケーブル204とリターン管304とに均等に分配することができる。その結果、ケーブル側の超電導導体層12、およびリターン側の超電導導体層52の劣化を効果的に抑制することができる。
【0057】
<実施形態5>
以上説明した実施形態1〜4は、超電導ケーブルとして常温絶縁型超電導ケーブルを採用したが、超電導ケーブルとして低温絶縁型超電導ケーブルを採用しても良い。以下、図7を参照して、低温絶縁型超電導ケーブル209の構成のみを説明する。なお、リターン管については、上述した実施形態1〜4に例示するものを適宜選択できる。
【0058】
図7に示す低温絶縁型超電導ケーブル209は、ケーブルコア60と、そのケーブルコア60を内部に収納する断熱管13と、で形成される。
【0059】
[ケーブルコア]
ケーブルコア60は、フォーマ11の上に順次、超電導導体層12、電気絶縁層16、外側超電導導体層(または外側遮蔽層)17、保護層18を設けた構成を備える。これら構成部材11〜18のうち、電気絶縁層16は、実施形態1〜4に示す常温絶縁型超電導ケーブル201〜204に備わるケーブル側電気絶縁層23と同様の役割を担う層である。但し、ケーブル側電気絶縁層23と異なり、電気絶縁層16は、後述する断熱管13内で超電導導体層12と共に極低温に冷却される。
【0060】
ケーブルコア60に備わる外側超電導導体層(または外側遮蔽層)17を超電導導体から構成した場合、交流ケーブルでは電磁シールドとして機能し、直流ケーブルでは帰路電流用導体として機能する。また、保護層18は、所定の絶縁特性を有し、外側超電導導体層(または外側遮蔽層)17を機械的に保護する。
【0061】
[断熱管]
低温絶縁型超電導ケーブル209における断熱管13は、常温絶縁型超電導ケーブルにおける断熱管と同様に、内管14と外管15とを備える。外管15の外周には、所定の絶縁特性を有し、外管15を衝撃や腐食から防護する防食層(図示せず)を形成することが好ましい。
【0062】
なお、本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することが可能である。例えば、実施形態では説明を省略したが、常温側電気絶縁層23の内周部と外周部の各々に内部半導電層と外部半導電層を形成するのが一般的である。その他、上述した実施形態では交流送電用の超電導送電システムを説明したが、直流送電に利用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明超電導送電システムは、大電流送電網の形成に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
100 超電導送電システム
200〜204 常温絶縁型超電導ケーブル
209 低温絶縁型超電導ケーブル
1 低温導電部
10 導体部 11 フォーマ 12 超電導導体層
13 断熱管(ケーブル側断熱管)
14 内管 15 外管 131 冷媒
2 常温被覆部
20 分流導体 20P パイプ状構造物
23 電気絶縁層(ケーブル側電気絶縁層)
60 ケーブルコア
16 電気絶縁層(ケーブル側電気絶縁層) 17 外側超電導導体層
18 保護層
300〜304 リターン管
33 断熱管(リターン側断熱管)
34 内管 35 外管
40 分流導体
43 電気絶縁層(リターン側電気絶縁層)
50 導体部
51 フォーマ(リターン側フォーマ)
52 超電導導体層(リターン側超電導導体層)
400 冷却機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導導体層、およびこの超電導導体層を内部に収納するケーブル側断熱管を備える超電導ケーブルと、
冷媒を所定温度に冷却し、その冷却した冷媒を前記ケーブル側断熱管内に送り出す冷却機構と、
前記ケーブル側断熱管の内部に流通された冷媒を、前記冷却機構に戻すリターン管と、を備える超電導送電システムであって、
前記リターン管は、
前記冷却機構に戻る冷媒が流通されるリターン側断熱管と、
そのリターン側断熱管の外周を取り囲むリターン側電気絶縁層と、
前記リターン側電気絶縁層の内側に設けられ、異常時電流を分担する分流導体と、
を備えることを特徴とする超電導送電システム。
【請求項2】
前記超電導ケーブルは、ケーブル側断熱管の外周を取り囲むケーブル側電気絶縁層を備える常温絶縁型超電導ケーブルであることを特徴とする請求項1に記載の超電導送電システム。
【請求項3】
前記分流導体は、前記リターン側断熱管とリターン側電気絶縁層との間に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導送電システム。
【請求項4】
前記分流導体は、前記リターン側断熱管の内側に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超電導送電システム。
【請求項5】
前記常温絶縁型超電導ケーブルは、前記超電導導体層を内側から保形するフォーマを備え、
当該フォーマは金属材料で構成され、異常時電流を分担するケーブル側分流導体として用いられることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の超電導送電システム。
【請求項6】
前記ケーブル側電気絶縁層とケーブル側断熱管との間に配置され、異常時電流を分担するケーブル側分流導体を備えることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の超電導送電システム。
【請求項7】
前記リターン管の内部にも、送電を行うためのリターン側超電導導体層を形成したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の超電導送電システム。
【請求項8】
前記超電導ケーブルとリターン管とを同一構成としたことを特徴とする請求項7に記載の超電導送電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−174405(P2012−174405A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33152(P2011−33152)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】