説明

超電導限流器

【課題】ノン・インダクティブ構造にした2つのコイルを用いた限流器において、Y系テープ線材などの高温超電導体の線材を用い、局部的発熱による破断を防止しながら、装置寸法の大型化や高いコストを招かない、超電導限流器の提供が課題である。
【解決手段】電気抵抗の低い材料で構成された一のコイルと、この一のコイル材料よりも高い電気抵抗の材料で構成された他のコイルのそれぞれ表面に、超電導体を密接した2つの超電導コイル11、12をノン・インダクティブ構造とすると共に、両コイルを互いに半周毎に電気的に接続し、さらにこれら両コイルと磁気的に結合された制御コイル13を設け、高い電気抵抗の材料で構成された超電導体が半周毎に低い電気抵抗の材料に接続されることで、一定間隔毎に低い抵抗の分流抵抗を並列接続したのと等価として超電導体の局部加熱を防止し、制御コイル13への通電で限流動作点を自由に調節できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統における事故電流を、超電導体の超電導状態から常電導状態への転位で抑制するようにした超電導限流器に係り、特に高温超電導体で形成した2つのコイルをノン・インダクティブ(無誘導巻き)構造にした超電導限流器において、超電導体の超電導状態から常電導状態への転位の際に問題となる超電導体の局部加熱を防止しながら、制御電流により限流動作開始点を自由に制御できるようにした超電導限流器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力の自由化や分散電源の導入は世界的な傾向であり、消費者にとっては競争原理の導入で、電気料金の低価格化が可能となるので歓迎されている。また、電力の自由化で特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier)や個人的電源設備(IPP:Independent Power Producer)、の大容量化が、さらに、今後普及が予想される自立型の地域電力ネットワークでは、内部に風力や太陽光や燃料電池などの様々な分散電源が使われるものと予想される。
【0003】
しかしながら反面、こういった自立型の地域電力ネットワークが電力会社の送電網に接続されることで生じる種々の危険性が指摘されている。すなわち電力の自由化は、需要者が安い電力を利用できる利点があるが、誰もが電力会社の送電網を使って電力販売できるとなると、電力会社は品質や信頼性の低い電力を買わざるを得なくなる上に、所有する既存の送電網を前記したPPSやIPPに開放する必要があり、系統全体の不安定要因が増して大規模な停電に繋がる可能性がある。
【0004】
すなわち現在の送電設備は、現存する電力会社の送電網容量で故障電流の発生に対しても安定度を保つように設計されているが、こういった新電源設備や分散電源で構成される地域ネットワークの接続が増えると、場合によっては制御領域を越え、設計値以上の電力が流通して電力系統全体の危険性が増し、系統故障が生じた時に例え遮断器が故障系統を切り離しても、故障電流が系統全体を不安定にするからである。
【0005】
例えば、図10に示すように上位の系統110から遮断器111、遮断器(1)112、(2)113、(3)114、限流器(1)115、(2)116、(3)117、変圧器118、119、120を介して系統1、系統2、系統3に電力が供給されているものとし、系統2で故障が生じると、事故点の電圧は零に近くなって上位の系統110からその点へ通常より1桁以上大きい短絡電流、或いは地落電流が流れ込む。この電流によって系統機器が損傷を受けないよう、通常は上位制御系の指令を受けて遮断器113で事故点を系統から切り離すが、遮断器には定格電流があって定格以上の電流が流れる場合には使用することができないから、遮断器を使用する場合は事故電流がその容量を超えてしまわないように機器配置をしなければならない。
【0006】
また遮断器は、遮断完了までには数サイクルの時間が必要である。図9は、図10に示した遮断器112、113、114の動作遅れを説明するための図であり、(A)は系統電流(100)に時間Tで故障が発生し、通常の数倍の電流が流れたことを示している。(B)はこの時間Tの故障を検出した上位制御系が、時間Tで遮断器112、113、114に発した遮断命令で、(C)はさらに同期開閉制御装置から出力される遮断指令、(D)は系統の状態である。
【0007】
今、図9(B)の時間Tで故障が発生すると、それを上位制御系が検出するまでは101で示したT〜Tの時間を要し、それに対応して時間Tで上位制御系が遮断命令を発しても、同期開閉制御装置が実際に遮断器112、113、114に遮断指令を出すまでにさらに102で示したT〜Tの時間を必要とする。そのため、遮断器112、113、114がこの指令を受け、開極するまでには103で示したT〜Tの開極動作時間を要し、その上、遮断器が実際に開極しても、接点の間にアークが生じて完全に遮断が完了するまでに、更に104で示したT〜Tのアーク時間が必要となる。
【0008】
そのため、(D)に示した系統の状態は時間Tで遮断が完了してはいるが、(A)に示した系統の故障電流が完全に遮断されるまでは、時間T〜Tの数サイクル以上、すなわち略0.1秒の時間が必要であり、この間、故障電流が膨大だと電力系統全体に影響を及ぼす可能性がある。そしてそれをそのまま放置すると、図10に示した電力系統に繋がれた系統1、系統3にも影響が及ぶことになる。
【0009】
こういった問題を回避するため、遮断器技術を今以上に高信頼、高速にする必要があるが、この遮断器113が動作するまでの時間、故障電流を抑制する限流器115、116、117を設置し、他の系統に波及しないようにすることが電力自由化の推進には不可欠である。
【0010】
また、現存する遮断器の容量限界は63kAなので、限流器によって故障電流を63kA以下に抑制するということも望まれている。しかしながら、故障電流を63kA以下に抑制するという限流器には巨大な電流容量が必要となるため、現時点では経済性が成立せず、もっぱら遮断器113が動作するまでの時間、故障電流を抑制することが限流器開発の主な目的となっている。
【0011】
しかしながら限流器は、電力会社自体にとっては設置するメリットが小さい。また、直列機器であるため電圧降下が生じ、大電流を制御するため電力用半導体素子を用いると機器が高価となり、逆に安価な非半導体素子式の限流器では限流動作を自由に制御できない、などの問題がある。すなわち限流器には、常時の損失は限り無く小さく、また、どんなことがあっても故障領域を主系統から切り離す方向に動作することが望まれているわけである。
【0012】
また、限流器に電力用半導体素子を使う場合、素子が高価なので限流器だけの使用例は殆ど無く、通常は位相や周波数、電圧、電流等、あらゆるパラメータを制御する回路と共に用いられるのが一般的である。仮に限流器回路のみをSCR、IGBT、GTOなどの電力用半導体素子で構成する場合、バイパス抵抗を用いて限流動作時に故障電流がパイパス抵抗を流れるようにして抑制する方法になるが、万が一の事故対策にだけ高価な電力用半導体素子を用いるのでは経済性が全く成立しない。
【0013】
そのため、電力用半導体素子を用いない限流器が注目されていて、例えば半導体素子を使わない最も簡単な限流器としては、直列接続した数mH程度の値のリアクトルがある。このリアクトルは限流リアクトルとも呼ばれ、磁気飽和が生じないようにヨークにギャップを設けるのが普通である。しかしながら限流リアクトルは、常に電圧降下を生じるため、その分、電源の電圧を上げる必要がある。
【0014】
正常動作時には電圧降下が生じない限流器としては、アーク駆動式限流器と超電導限流器がある。アーク駆動式限流器は基本的にはバイパス抵抗を有する遮断器であり、故障電流を遮断器で遮断し、その時に発生するアークを消去しながら、電流をバイパス回路に流して故障電流を抑制する方法である。このアーク駆動方式限流器の場合、小型・軽量化が容易であり、しかも常温動作するので既に小規模のものは実用段階にある。しかし機械的な遮断動作があるために不安が残り、万一、遮断動作が不調でも、大事故に繋がらないような系統に利用されていることが多い。
【0015】
一方の超電導限流器は、臨界温度、臨界磁界、臨界電流の3つの超電導特性が満たされると電気抵抗がゼロとなる超電導体の臨界電流特性を利用し、臨界電流値以下の電流であればゼロ抵抗だが、臨界電流値以上の過大電流が流れると超電導体が常電導に転位することで発生した抵抗が故障電流を抑制する方法である。超電導限流器は、冷却系を含めた装置の何処に不調があっても必ず限流動作状態になるセルフセーフ機能を有しており、信頼性が高いので、これまでにも多種多様な超電導限流器が提案されている。その中で代表的なものは、超電導体に直接電流を流して動作させるSN(Super/Normal)転移抵抗型限流器と、変圧器の2次側の超電導体を常電導転位させる変圧器型超電導限流器である。
【0016】
SN転移抵抗型超電導限流器は、超電導体に大きな電流が流れ、上記の超電導条件が壊されることで発現する有限な抵抗を利用するもので、構造も原理も簡単だが、超電導体に高電圧が掛かるので低温電気絶縁の問題が常に最重要課題になる。そこで冷却材には密度が均一な液体窒素冷却が使われる。しかし限流動作時には超電導体の発熱で必ず気液混合状態になるため、セラミックスやFRPなどの固体絶縁体で電気絶縁を確保する必要があり、クライオスタット設計が難しい。
【0017】
変圧器型超電導限流器は、電力系統に接続される常電導体を含む1次コイルと、超電導体を含んで両端を短絡した2次コイルとから構成される。通常運転時は2次コイルが超電導状態を保つように設計され、その状態では、1次コイルが発生する磁束は2次コイルに流れる誘導電流による磁束により打ち消されている。短絡事故等で1次コイル側に過大な電流が流れると、2次コイルに流れる電流も大きくなるため2次コイルの超電導体がクエンチし、クエンチ抵抗が発生する。従って2次コイルに流れる誘導電流は小さくなり、1次コイルで発生する磁束を十分に打ち消すことができなくなって限流器のインピーダンスが大きくなり、この増大したインピーダンスで事故のときに発生した電流を限流する。
【0018】
超電導限流器は前記したようにセルフセーフ機能を有しており、信頼性が高いが、故障電流が流れ続けると超電導体が加熱して破断する危険性がある。また、超電導体特性が不均一だと、常電導転位が臨界電流値の小さな局部的な場所に集中して超電導体を破断する可能性もある。超電導限流器は優れたポテンシャルを有しているが、ヒューズのように自分自身が壊れてしまのでは実用機器としては失格であり、この問題を回避することが超電導限流器で最も重要な技術課題とされている。
【0019】
故障電流が流れ続けることで超電導体が加熱して破断する危険性の回避については、図8に示したように、超電導体90に保護抵抗としての分流抵抗92を接続し、電流を分流抵抗92に分流させて超電導体90を必要以上に加熱しないようにする方法が用いられている。なおこの図8において、91は接続線、93は電流端子、94はサファイア等で形成した熱基板、95は電流である。
【0020】
しかし保護抵抗を並列接続すると、限流器自身の抵抗が減少するので故障電流抑制効果も低下するというジレンマがある。そこで実際のSN転移抵抗型限流器では、遮断器が動作するまでの数サイクル(通常は5〜6サイクル)の間、正常時の5倍程度に抑制された故障電流が流れても超電導体温度を400℃以下にするよう、超電導体の量や保護抵抗の値を決めており、その細かい設計がこういったSN転移抵抗型限流器を開発している各社のノウハウとなっている。
【0021】
超電導体自身の特性不均一性は製造上の問題であり、近年、これは大幅に改善され、均一特性を売りにした超電導テープ線材が市販されるようになった。しかし過大な電流が超電導体を加熱・破壊する危険性に対しては、前記図8に示したように並列抵抗を超電導体に接続するしか解決策が無いのが現状である。
【0022】
また超電導限流器は、限流動作が超電導体の臨界電流値だけで決まるため、これまでの方式では限流動作設定条件を自由に調整・制御できない不便さがある。空心変圧器の場合、1次コイルと2次コイルの磁気結合を調整して限流動作条件を調製する方法も有り得るが、このような調整法では、相互インピーダンスの影響を完全にキャンセルできないから、正常動作時でも常に電圧降下が発生して超電導限流器の良さを失ってしまう。
【0023】
動作条件を調整できる超電導限流器の先行技術としては、例えば特許文献1に、超電導線材の巻線からなって電気的に互いに直列に接続され、電流が流れることにより互いに逆方向の磁界を発生させる第1および第2の超電導コイル1、2と、第2の超電導コイル2に電気的に並列に接続されている抵抗体またはインダクタンスR2と、第1および第2の超電導コイル1、2を囲むように配置され、第1または第2の超電導コイル1、2の少なくともいずれか一方と並列に電気的に接続された外部コイル5とからなり、限流器が動作した際に外部コイルで磁界を発生させ、この発生した磁界を第1および第2の超電導コイルの超電導体へと印可することで、限流器が動作している際に第1および第2の超電導コイルの超電導体に印加される磁界の強度が小さくなることを防止でき、第1および第2の超電導コイルが常電導状態から超電導状態へと復帰(再転移)することを防止して、限流器を安定して動作させるようにした限流器が開示されている。
【0024】
また特許文献2には、単結晶状のYBaCu7−x超電導バルク材料を厚さ1mmにスライスして切れ込み加工を行い、電流路断面積が1mmの有効長さが約600mmのミアンダ形状を有する限流素子を作製し、外部制御マグネットで最大0.4Tの磁力を限流素子に印加できるようにして、通電電流以外にクエンチを助長または発生させる機構を設けて応答速度の高速化を達成するようにした、酸化物超電導体を用いた限流素子および限流装置が示されている。
【0025】
【特許文献1】特開2001−69665号公報
【特許文献2】特開2000−32654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
この特許文献1のように、2つのコイルをノン・インダクティブ(無誘導巻き)構造にした超電導限流器は種々提案されており、液体ヘリウム冷却の金属超電導線を使ったもの、高温超電導線を使って十分な安定化保護抵抗を付けた長尺の超電導線を使ったものなどが提案されている。
【0027】
金属超電導線が限流器用超電導線として向いている理由は、動作温度が低いために比熱が小さく、超電導が崩壊する常電導伝播速度が非常に高速であり、数10ミリ秒の間で超電導巻線全体を常電導に転位でき、巻線全体が発熱して局部的な発熱が少ないからである。しかし金属超電導線は液体ヘリウム冷却が必要であり、冷却技術が煩雑であることや、ヘリウムガスの電気絶縁耐力が低く、高電圧限流器を開発し難い等の理由で実用化されていない。
【0028】
一方、YBaCuのような高温超電導体の線材を使う場合は、液体窒素温度で動作するため比熱が大きく、常電導部の伝播が遅くて最初に発生した常電導転位部が巻線全体に広がらず、超電導体が局部的に発熱するという問題がある。この局部発熱を防ぐには分流抵抗の接続が不可欠であるが、これは単位長当りの抵抗を低くするため、限流器が必要とする抵抗を確保するには膨大な長さの線材が必要となる。
【0029】
このため、従来式の無誘導式超電導限流器では装置寸法を大きくせざるを得ず、また大量の超電導線を使うので、コスト低減が難しい等の問題を抱えている。さらに従来の無誘導巻き超電導限流器では、限流器の動作点調整が極めて難しいことも大きな課題であり、自由な動作点調整を実現するには、強力で大型の超電導マグネットを用いて超電導線全体に均一な磁場を掛ける必要があり、装置が大掛かりになって経済性を成立させることが難しい。
【0030】
前記した特許文献1に示された技術は、2つのコイルをノン・インダクティブ(無誘導巻き)構造にしているが、外部コイルは限流動作を始動調整するものではなく、一度クエンチした超電導線を確実に常電導状態に保つために磁場を発生させるマグネットである。しかし、実際には、一度クエンチした超電導線は発熱により超電導状態に復帰することはなく、外部コイルは無意味と考えられる。
【0031】
また特許文献2に示された技術は、強力で大型の外部コイルで限流動作開始点を調整することが可能であるが、ノンインダクティブなコイル巻きの超電導限流器ではなく、強力で大型のマグネットを使ってバルク超電導体の限流素子をクエンチさせる方法であり、限流動作調整は可能であるが、制御装置が大掛かりになる。
【0032】
そのため本発明においては、2つのコイルをノン・インダクティブ(無誘導巻き)構造にして電力系統に生じた故障電流により、2つのコイルを常電導状態に転移させることで限流動作を行い、液体ヘリウム冷却などの電気絶縁耐力が低くて煩雑な冷却技術を用いず、超電導線にはYBaCuのような高温超電導体の線材を用い、その場合に問題となる局部的発熱による線材の破断を防止するため、膨大な長さの線材を用いたり、装置寸法の大型化や高いコストを招かないように、簡単、安価な構成の超電導限流器を提供することが課題である。また本発明においては、超電導限流器の動作点の調整も簡単な構成で自由に行えるようにすると共に、限流動作によって常電導状態となった超電導体を超電導状態に短時間で復帰させることもできる超電導限流器を、簡単、安価な構成で提供することも課題のひとつである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記課題を解決するため本発明になる超電導限流器は、
電力系統に接続されて超電導環境に置かれ、流れる電流により互いに逆向きの磁界を発生する2つの超電導コイルを有し、該2つの超電導コイルが常電導状態に転移することで限流動作を行う超電導限流器において、
前記2つの超電導コイルは、電気抵抗の異なる2つのコイル材料表面のそれぞれに超電導体が密接されて半周毎に電気的に接続されて構成され、前記2つの超電導体の超電導状態から常電導状態への転移に伴って生じる相対的に電気抵抗が小さいコイル材料のコイルによるインダクタンスで限流を可能とすると共に、前記2つの超電導コイルの半周毎の電気的接続により、超電導体の超電導状態から常電導状態への転移に伴う局部過熱防止を可能としたことを特徴とする。
【0034】
このように超電導限流器を構成することで、2つの超電導コイルにおける超電導体が超電導状態であれば両コイルは共に電気抵抗がゼロであり、2つのコイルには均等な電流が流れる。しかし、2つの超電導コイルは巻方向が互いに逆なので、それぞれのコイルで発生する磁束はキャンセルされてインダクタンスとしては機能しない。言い換えると、この2つの超電導コイルは互いに半周毎に電気的に接続されているから、両コイルが超電導状態の時には超電導のワンターンリングとなるが、このワンターンリングは半周毎に接続されていることからミアンダ構造でシリーズ接続されたことになり、両コイルに電流を流すと電流は両コイルの接続点から二股に分かれて流れることになって、リングを一周する環状電流が発生しないのでインダクタンスが発生しないとも言える。すなわち流れる電流は、何らの抵抗も受けずに流れるわけである。
【0035】
そしてこの2つの超電導コイルに故障電流が流れ、一部の超電導体が常伝導状態に転位すると、この2つの超電導コイルは互いに半周毎に電気的に接続されているため、高い電気抵抗の材料で構成された超電導コイル表面に密接した超電導体は、半周毎に低い電気抵抗の材料に接続されることになって一定間隔毎に低い抵抗の分流抵抗を並列接続したのと等価になり、超電導体の局部加熱を防止することができる。また、2つの超電導コイルが常伝導状態に転位すると、電流は当然のことながら電気抵抗の低い材料で構成されたコイルを流れ、それによって磁束のキャンセル状態がなくなり、電気抵抗の低い材料で構成されたコイルのインダクタンスが発生して限流動作が開始される。
【0036】
すなわち提案超電導限流器では、電気抵抗の異なるコイル材料表面に超電導体が密接されて半周毎に電気的に接続された2つの超電導コイルを、流れる電流により互いに逆向きの磁界を発生するようにすることで、超電導体が超電導状態では電力系統に流れる電流に対して抵抗とならず、かつ、超電導体が常伝導に転位した際に生じる局部的発熱を生じ難くしているので、膨大な長さの線材を用いたり装置寸法の大型化や高いコストを招かず、非常に簡単、安価な構成の超電導限流器を提供することができるわけである。
【0037】
そして、前記2つの超電導コイルと磁気的に結合され、流す電流により前記2つの超電導体を常電導状態に転位させる制御コイルが設けられていることで、この制御コイルに電流を流すと誘導電流が超電導ワンターンリングに発生し、超電導体を常電導状態に転位させるから、自由な点で限流動作を開始できると共に、超電導線の臨界電流以下で限流動作させると制御に必要な投入エネルギーが小さくなり、また超電導線からの発熱も小さくなるので、限流動作によって常電導状態となった超電導体を超電導状態に短時間で復帰させることもできる。
【0038】
すなわち、本発明の超電導限流器が接続された電力系統に流れる電流をIsとした場合、前記したように2つの超電導コイルは互いに半周毎に電気的に接続されていて、ワンターンリングがミアンダ構造でシリーズ接続されたことになるから、両コイルに電流を流すと、電流は両コイルの接続点から(Is/2)ずつ均等に二股に分かれて流れる。ここで制御コイルに電流を流すことで、超電導ワンターンリングに誘導される電流をIindとすると、誘導電流は環状電流なので超電導ワンターンリングを二股に分かれて流れる一方の電流は{Iind+(Is/2)}となり、他方は{Iind−(Is/2)}となる。そのため、超電導体の臨界電流をIcとした場合、
{Iind+(Is/2)}>Ic
になると{Iind+(Is/2)}の電流が流れる方は常電導に転位する。すると{Iind−(Is/2)}の電流が流れる方に全系統電流Isが流れるので、こちらも常電導に転位する。すなわち、系統電流Isが、
Is=2(Ic−Iind)
となる時点で2つの超電導コイルは同時に常電導に転位することができ、これは制御コイルに流す電流で限流器の限流動作点を自由に、しかも簡単に設定できることを意味している。
【0039】
そして、前記2つの超電導コイルは半周毎の電気的接続点で、相対的に電気抵抗が高いコイル材料表面に密接された超電導体が、相対的に電気抵抗が低いコイル材料に接触して接続されていることで、前記したように相対的に電気抵抗が高いコイル材料表面に密接された超電導体は、そのままでは局部過熱によって破断する可能性があるが、接続点で相対的に電気抵抗が低いコイル材料に接触させることで、確実に分流抵抗を挿入したのと同じ効果が得られ、効果的に局部過熱による破断を防止することができる。
【0040】
さらに、前記超電導体は、酸化物高温超電導体であり、YBaCuまたはBiSrCuであることで、前記したように液体ヘリウム冷却のように冷却技術が煩雑とならず、電気絶縁耐力も低くならないから、装置寸法の大型化や高いコストを招かずに超電導限流器を構成することができる。
【0041】
また、前記電気抵抗の異なるコイル材料のうち、相対的に電気抵抗が低いコイル材料は銅または銀、若しくはアルミニウムであり、前記電気抵抗の異なるコイル材料のうち、相対的に電気抵抗が高いコイル材料はニクロム(Ni−Cr)またはステンレス(SUS)を含む高抵抗金属、もしくはサファイア、窒化アルミニウムを含む高い熱伝導性を示す電気絶縁材料であることで、一般的に用いられる材料で超電導限流器を安価に構成することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上記載のごとく本発明になる超電導限流器は、YBaCuのような高温超電導体の線材を用いたことで、液体ヘリウム冷却などの電気絶縁耐力が低くて煩雑な冷却技術を必要とせず、高温超電導線材の局部的発熱による破断を、相対的に電気抵抗が低いコイル材料を半周期毎に接続することで防ぎ、分流抵抗を並列に接続して単位長当りの抵抗を低くすることで膨大な長さの線材を必要としたり、装置寸法の大型化やコストの高騰を招くことがなく、また、限流動作点の調整も簡単な構成で自由に行えるから、電力の自由化によって品質や信頼性の低い電力を買わざるを得なくなった場合も、系統全体の不安定要因を安価に、確実に、取り除くことができ、大規模な停電などを防いで電力自由化の推進に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0044】
図1は本発明になる超電導限流器10の構成概略を説明するための図である。本発明の限流器10は、液体窒素冷却により超電導環境に置かれて図1(A)に示すように、互いに逆巻きとされて電気的に絶縁すると共に図1(B)に示すように、半周毎に接続点15で電気的に接続し、系統電流の入出力端14a、14bで電力系統に接続した超電導コイル11、12と、これら2つの超電導コイル11、12とに磁気的に結合させた制御コイル13とが組み合わされて構成されている。このうち超電導コイル11、12は、図1(D)に示したように、電気抵抗の異なるコイル材料11b、12bの表面に、YBaCuまたはBiSrCuなどの酸化物高温超電導体からなるテープ線材11a、12aが密接され、巻回されて、図1(B)に示したように半周毎に接続点15で電気的に接続されている。
【0045】
2つの超電導コイル11、12における、一のコイルの基盤材料は銀や銅、あるいはアルミニウムのように低い電気抵抗の材料が用いられ、他のコイルの基盤材料はNi−Cr(ニクロム)やSUS(ステンレス)を含む高い電気抵抗の材料、もしくはサファイア、窒化アルミニウムを含む高い熱伝導性を示す電気絶縁材料が用いられて、制御コイル13は通常の導線が用いられている。そして2つの超電導コイル11、12は、超電導体が超電導状態であれば共に電気抵抗がゼロとなり、2つのコイルには均等な電流が流れる。しかし巻方向が互いに逆巻きであるため、それぞれのコイルで発生する磁束はキャンセルされてインダクタンスとしては機能しない。
【0046】
また、2つの逆巻き超電導コイル11、12を図1(B)に示したように半周毎に接続したことで、両超電導コイル11、12が超電導状態の時には図1(C)に示すように超電導のワンターンリングが形成される。しかもこのワンターンリングが互いに接続される点は、それぞれのワンターンリングの図上、手前・奥・手前・奥・・の位置となるため、ミアンダ構造でシリーズに接続された構造となる。
【0047】
そのため、系統電流入出力端14a、14bで接続された電力系統から両超電導コイル11、12に流れる電流は、超電導ワンターンリングにおける接続点15から均等に二股に分かれて矢印16a、16bで示したように流れる、または図1(B)に矢印16c、16dで示したように接続点15に均等な電流が流れ込み、リングを一周する環状電流が発生しない。すなわち流れる電流は、何らの抵抗も受けずに流れるわけである。
【0048】
そしてこの2つの超電導コイル11、12に故障電流が流れ、一部の超電導体が常伝導状態に転位すると、この2つの超電導コイル11、12は互いに半周毎に電気的に接続されているため、高い電気抵抗の材料で構成された超電導コイル表面に密接した超電導体は、半周毎に低い電気抵抗の材料に接続されることになって一定間隔毎に低い抵抗の分流抵抗を並列接続したのと等価になり、超電導体の局部加熱を防止することができる。そのため、図1(D)に示した2つの超電導コイル11、12における超電導体11a、12aは、相対的に電気抵抗が高いコイル材料表面に密接された超電導体が、半周毎の電気的接続点で相対的に電気抵抗が低いコイル材料に直接接触するように接続することが好ましい。
【0049】
また、2つの超電導コイル11、12が常伝導状態に転位すると、電流は当然のことながら電気抵抗の低い材料で構成されたコイルを流れて電気抵抗の高い材料のコイルには流れ難くなる。これにより、磁束のキャンセル状態がなくなり、電気抵抗の低い材料で構成されたコイルのインダクタンスが発生して限流動作が開始される。
【0050】
また、それぞれの超電導ワンターンリングは、通常の導線で巻かれた制御コイル13と磁気的に結合されて、制御コイル13に電流を流すと誘導電流が超電導ワンターンリングに発生する。この誘導電流は環状電流なので、超電導ワンターンリングを二股に分かれて流れる16a、16bの電流のうち、一方の電流にこの誘導電流が加えられ、他方の電流からはこの誘導電流が減じられることになる。そのため、誘導電流が加えられた方の超電導体に流れる電流値が超電導体の臨界電流値を超すと、その超電導体は常電導に転位し、抵抗が発生するから今度は誘導電流が減じられた方に全系統電流が流れてこちらも常電導に転位する。従って、2つの超電導コイル11、12は同時に常電導に転位することになり、これは制御コイル13に流す電流で超電導限流器10の限流動作点を自由に、しかも簡単に設定できることを意味している。
【0051】
図2(A)は本発明の超電導限流器10の等価回路である。図中、20は電力系統、Lの符号を付した21は2つの超電導コイルの半周期のインピーダンス、Rの符号を付した22は電気抵抗の高い材料で構成した超電導コイルにおける、超電導体が常電導転移したときの半周期の抵抗値、Rの符号を付した23は系統の負荷抵抗である。
【0052】
この図2(A)の回路において、各L21、R22が全く同じであれば、この図2(A)の回路は図2(B)の等価回路で表される。ただし仮定として、2つの超電導コイル11、12の全体インダクタンスLが共に、
L(H)=N×L (N:コイルのターン数)
相互インダクタンスMが、
M=k(L*L)1/2 (k:磁気結合係数、磁束漏れが無いとしてk=1)
であり、また、系統に過大な故障電流が流れ、超電導体が常電導に転位した時の各コイルの全体の抵抗を25、26の符号を付したR及びRとする。
【0053】
すると、例えば第1の超電導コイルの基盤材料の抵抗値をRとして十分小さな抵抗の金属で構成されているとし、便宜上R≒0とおいて、他方の第2の超電導コイルの基盤材料の抵抗値をRとして高抵抗であるとすると、
≫|jωL| (ω:電源の角周波数)
となる。さらに、系統電源の電圧をE、系統の負荷抵抗をR(23)とすると、限流器の特性は下記(1)式で記述できる。
【数1】

【0054】
この(1)式をフーリエ変換し、2つの超電導コイル11、12に流れる電流I、Iを求めると、下記(2)式になる。
【数2】

【0055】
超電導体が超電導状態のときは、R=R=0なので、(2)式は以下の(3)式のように簡単になる。
【数3】

【0056】
この(3)式より、電力系統が正常であれば、電流は系統の負荷抵抗R(23)だけで決まり、限流器の影響を受けずに2つの超電導コイル11、12には前記したように、電力系統に流れる電流をIsとした場合、(Is/2)の均等な電流(すなわちI=I)がそれぞれ流れる。
【0057】
一方、過大電流が流れて超電導体が常電導転位し、第1の超電導コイル11の低い電気抵抗の基盤材料の抵抗R、第2の超電導コイル12の高い電気抵抗の基盤材料の抵抗Rがそれぞれ
≒0
≫|jωL|
になると仮定すると、
【数4】

となり、故障電流は低抵抗材料で構成した第1の超電導コイル11を流れ、高抵抗材料で構成した第2の超電導コイル12には殆ど流れない、すなわち、過大な故障電流は低抵抗の金属コイルで構成した第1の超電導コイル11のみを流れるようになる。
【0058】
すなわち前記図1(C)で説明したように、2つの超電導コイル11、12が超電導状態にあるとき、系統電流入出力端14a、14bから入力した系統電流は矢印16a、16bのように二股に分かれて流れ、ワンターンリングを一周する環状電流が発生しないためにインダクタンスが発生しなかったが、このように故障電流により超電導体が常伝導に転位すると、故障電流の大部分が低抵抗材料で構成した第1の超電導コイル11を流れることで、低い抵抗の第1の超電導コイル11がインダクタンスとして働くことになり、そのインダクタンスLによって故障電流が限流され、限流器としての動作が開始されるわけである。
【0059】
しかもこの限流器は、2つの超電導コイル11、12における超電導体が超電導状態であれば両コイルは共に電気抵抗がゼロであると共に、巻方向が互いに逆向きであること、また、半周毎に電気的に接続されていることでミアンダ構造でシリーズ接続されたワンターンリングを構成しているにもかかわらず、リングを一周する環状電流が発生しないこと、などからインダクタンスが発生しないにもかかわらず、大きな故障電流が流れて超電導体が常伝導に転位すると、故障電流が低い抵抗材料を用いたコイルのみに流れることでインダクタンスが発生して限流動作を行う。しかも、2つの超電導コイル11、12が半周毎に電気的に接続されていることで、高抵抗材料で構成したコイルに密接した超電導体は半周毎に低い抵抗材料の超電導コイル11に接続され、一定間隔毎に低い抵抗の分流抵抗と並列接続したと等価になるから、超電導体の局部加熱を生じない構造を有した限流器とすることもできる。
【0060】
従って本発明によれば、液体ヘリウム冷却などの電気絶縁耐力が低くて煩雑な冷却技術を用いる必要のない、YBaCuのような高温超電導体の線材を用い、2つのコイルをノン・インダクティブ(無誘導巻き)構造にして限流器による損失を防ぎ、電力系統に生じた故障電流により2つのコイルを常電導状態に転移させることで限流動作を行う場合に問題となった、局部的発熱による破断を、膨大な長さの線材を用いたり、装置寸法の大型化や高いコストを招く方法を用いず、簡単、安価な構成の超電導限流器を提供することができる。
【0061】
このように過大な故障電流が電力系統に流れることで、超電導体の臨界電流値を超せば本発明の限流器は動作を開始するが、場合によっては電力系統の故障電流が臨界電流を越さない状態でも限流器を動作させたい場合がある。それを実現するのが前記したように図1に13で示した制御コイルである。
【0062】
前記したように系統電流入出力端14a、14bで接続された電力系統に流れる電流をIsとした場合、両超電導コイル11、12に流れる電流は、超電導ワンターンリングにおける接続点15から均等に(Is/2)ずつ二股に分かれ、矢印16a、16bで示したように流れる、または図1(B)に矢印16c、16dで示したように接続点15に均等に二股に分かれて流れ込み、リングを一周する環状電流が発生しないのでインダクタンスが発生しない。
【0063】
ところが、制御コイル13に電流を流すと誘導電流が超電導ワンターンリングに発生するが、超電導ワンターンリングに誘導される電流をIindとすると、この電流は環状電流であるから超電導ワンターンリングを二股に分かれて流れ、一方の電流は、
{Iind+(Is/2)}
となり、他方の電流は、
{Iind−(Is/2)}
となる。そのため、用いる超電導体の臨界電流をIcとした場合、
{Iind+(Is/2)}>Ic
になると{Iind+(Is/2)}の電流が流れる方は常電導に転位する。すると、他方の{Iind−(Is/2)}の電流が流れる方に全系統電流Isが流れるので、こちらも常電導に転位する。すなわち、系統電流Isが、
Is=2(Ic−Iind)
となる時点で2つの超電導コイル11、12は同時に常電導に転位することになるから、制御コイル13に流す電流で超電導限流器10の限流動作点を自由に、しかも簡単に設定できることになる。
【0064】
ちなみに、制御コイル13の巻数を前記したようにNc(ターン)、超電導ワンターンリングの数をNo(ターン)とすると、超電導ワンターンリングを常電導転位させるに必要な制御電流ICNTは、
CNT=(No/Nc)×(Ic−Is/2)
となる。仮に、Ncを100(ターン)、Noを500(ターン)とし、制御コイル電流ICNTを0.25×Icとすると、系統電流がIs=0.95×2×Icの時に限流器は動作を開始することになる。
【0065】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。本発明では、前記したように超電導体として現在市販されているYBaCuまたはBiSrCuのうち、YBaCuテープ線材(以降、Y系テープ線材)を使った場合を想定する。現在市販されているY系テープ線材のうち、最も性能の優れているテープ線材の臨界電流は4mm幅のテープ線材で80A程度であり、これを2本使って160Aとし、電流は2つのコイルを流れるので限流器の電流容量を320Aとする。
【0066】
また、2つの超電導コイル11、12とを、それぞれ第1の超電導コイル11を銅や銀などの低電気抵抗材料で、第2の超電導コイル12をNi−Cr合金のような高電気抵抗材料で構成し、これら2つのコイル表面に前記したYBaCuからなる高温超電導体を密接させ、液体窒素で冷却する。前記したように市販の限流器用のY系テープ線材は臨界電流80Aであり、この臨界電流値上で1.6V/cmの電流−電圧特性を示すので、抵抗は0.02Ω/cm程度となり、このY系テープ線材を2本並行して使用すると、臨界電流値上の抵抗は0.01Ω/cmとなる。
【0067】
今、例えば限流器における2つの超電導コイル11、12の直径を50cm、長さを4.5mとし、巻線間の電気絶縁に1mmのFRPを設けると、巻線全体の幅は9mm幅(2本の4mm幅テープ線材と1mm幅の絶縁体)となり、2つの超電導コイル11、12の巻数はそれぞれ500(ターン)となる。そのため2つの超電導コイル11、12は、単独で機能すれば262mHのインダクタンスになる。また、臨界電流値直上の抵抗は0.01Ω/cmであるから、コイル直径が50cmなので1.57Ω/ターンとなる。しかし、超電導体が超電導状態の時は、2つのコイルのインダクタンスは互いにキャンセルし合うので、全体としてはインダクタンスの発現はない。
【0068】
また実際には超電導体は、2つの超電導コイル11、12のコイル材料と密接接続されているから高抵抗コイルの1ターンが1Ω程度、コイル巻数が500ターンなので全体で500Ωになると仮定する。ただし、この値はコイル全体の超電導体が常電導に転位した時の瞬時値であり、コイルに電流が流れ続けると発熱が生じて抵抗値も増加するが、この点については後で説明する。
【0069】
一方、低抵抗コイル材料は銅であると仮定すると、超電導体が常電導転位しても液体窒素で冷却されているためコイル抵抗は十分小さいから、常伝導に転位しても低抵抗コイルは常に0.2Ω程度にできるとする。また制御コイルに関しては、2つの超電導コイル11、12と電磁結合する必要があるので、2つの超電導コイル11、12の外側か内側に設ける空心変圧器構造にする必要があり、計算では、装置をコンパクトにするために、図1に示すように2つの超電導コイル11、12の内側に厚み10mmの絶縁材料を介し、通常銅線を用いた10ターンコイルを設けると仮定した。
【0070】
ちなみに、この限流器を横置きすると、1相あたり冷凍機を含めて1×6mの土台の上に収まる。実際には3相分が必要なので、3×6mの占有面積になる。これは、既存の66kV級タップ切り替え付き電力用変圧器と同程度の占有面積なので、本限流器は電力機器として許容できる寸法となる。
【0071】
図3は、本発明になる超電導限流器の限流特性のシミュレーションための回路構成を示した図である。ここでは一例として、電圧階級が66kVの電力系統30に対して限流器31により流れる電流32の限流動作を行わせるものとし、負荷は抵抗として正常時の負荷抵抗が37を付した350Ωであるとする。そして、系統電流が許容限界に近づいた場合の例として、負荷抵抗が38を付した300Ωとなって制御コイル(図1で13)に電流33を流して限流動作を開始させた場合と、抵抗が急激に39を付した50Ωに低下した場合とを想定してシミュレーション計算した。なお、34、35、36は、それぞれの抵抗に電流を流すためのスイッチである。
【0072】
系統の正常負荷は37を付した350Ωであるが、まず、何らかの理由で負荷側が大きなパワーを必要とし、超えてはいけない300Aを少々超してしまった場合を、負荷抵抗が38を付した300Ωになった場合で近似してみる。この場合、設計した限流器31の超電導体臨界電流値が320Aなので、常電導転位は生じない。すなわち、このままでは限流器31は動作しない。しかし、この状況は放置できない場合であるとし、強制的に限流器31を動作させる状況を想定してみる。
【0073】
限流器を強制的に動作させるため、制御コイルに電流33を流した時の動特性例が図4のグラフである。この図4において、横軸は時間、縦軸は電流(単位:A)であり、電流増大が時間tの0.09秒後に発生して検出器が時間tの0.096秒後に系統電流の300A超を検出し、直ちにピーク値100Aの電流を制御コイルに流して限流動作を開始した様子を示している。この図4のグラフにおいて、40は図3で37を付した350Ωの正常負荷を流れる故障前系統電流で約270Aであり、それが時間tの0.09秒で電流が300A超に増大している。
【0074】
41は故障前の限流器における第1と第2の超電導体コイル11、12を流れる電流で、故障が生じる0.09秒までは第1と第2の超電導体コイル11、12を流れる電流は同じ値のため、故障前系統電流40の半分の約135Aとなって1つの線として描かれているが、限流動作が開始されると、高い抵抗の材料で構成された第2の超電導体コイル12の電流は前記したように低下して45を付したようになり、低い抵抗の材料で構成された第1の超電導体コイル11の電流は前記したように増大して46を付したようになる。
【0075】
42は限流動作開始用に制御コイル13に流す制御電流で、前記したように故障により電流増大が時間tの0.09秒後に発生すると、系統電流の300A超が検出器により時間tの0.096秒後に検出され、直ちにピーク値100Aとした制御電流42が流されるが、第1と第2の超電導体コイル11、12が常電導転位すると抵抗が発生するため、制御電流42は急激に流れ難くなってパルス状の電流となる。43の破線は故障後に限流器が設けられていない場合の系統電流であり、例えば311A(ピーク値)の電流が流れている。また44の実線は、故障後の限流器有りの系統電流で、これはピーク値にして略270Aに抑えられている。
【0076】
なお、第1と第2の超電導体コイル11、12に流れる電流は、前記したように45で示した高抵抗の第2の超電導体コイル12における超電導体が常電導に転位すると、電流が急速に低下してピーク値で50A以下の電流になる。一方、46で示した低抵抗の第1の超電導体コイル11の電流は、ピーク値で230Aの電流となって大半の電流が低抵抗の第1の超電導体コイル11を流れている。
【0077】
一方、図5は時間tの0.09秒後に負荷抵抗が300Ωから50Ωに急激に低下し、大きな故障電流が流れた場合のシミュレーション結果である。この図5において横軸は時間、縦軸は電流(単位:A)であり、電流増大が時間tの0.09秒後に発生している。そしてこの場合、電流検出器が300A超の制御信号を出す前に超電導体は臨界電流値を超したので、制御電流は流れていない。
【0078】
図中、50は図3で37を付した350Ωの正常負荷を流れる故障前系統電流で前記と同様約270Aであり、それが時間tの0.09秒で故障によりピーク値が2000A近い大電流が流れると、限流器がない場合は53の破線で示したようにこの大電流が系統に流れる。51は故障前の限流器における第1と第2の超電導体コイル11、12を流れる電流で、故障が生じる0.09秒まではこれらの電流は同じ値のため、故障前系統電流50の半分の約135Aとなって1つの線として描かれているが、限流動作が開始されると、高い抵抗の材料で構成された第2の超電導体コイル12の電流はあまり変わらずに55で示したようになり、低い抵抗の材料で構成された第1の超電導体コイル11の電流は、56で示したようにピーク値900Aの電流となって、系統電流が54で示したようにピーク値900A以下に押さえられる。
【0079】
このようにして限流動作が行われるわけであるが、Y系テープ線材からなる超電導体が常電導に転位した後も電流が流れ続けると、超電導体に温度上昇が発生する。図5で説明した例では、常電導に転位した後でも第2の超電導体コイル12にピーク値で約150A近い電流が流れる。このため超電導体の温度は急激に上昇する。この温度上昇が700〜800℃に達すると超電導体の溶断が起きる。従って、温度上昇がどのように変化するかの確認が必要である。
【0080】
今、超電導体が大気圧下の77kの液体窒素で冷却されていると仮定する。また、超電導体表面温度と液体窒素温度の差をΔTと定義すると、加熱面との温度差ΔTが15k以内であれば核沸騰冷却が生じ、
q(W/cm)=0.1×ΔT
と近似できる。また熱伝達係数は、
α(W/cm*k)≒0.2×ΔT
となる。ΔTが30k以上になると膜沸騰が生じ、熱伝達係数は、
α=0.03×ΔT の特性になる。
【0081】
また、ΔTをゼロから徐々に増加すると、ΔT>15kの点で沸騰は核沸騰から膜沸騰に飛び移る。しかし、ここでは冷却は膜沸騰冷却のみであるとし、超電導体表面は熱伝達係数α=0.03×ΔTで冷却されるものとする。第1と第2の超電導体コイル11、12は、前記したように共に超電導体幅が8mmであり、コイル直径が50cm、巻数が500ターンなので、全冷却面積はS=0.8×3.14×50×500=62800(cm)である。冷却は膜沸騰のみとすると、各コイルの全熱伝達量は、
β=1884(W/k)
となる。
【0082】
第1の超電導体コイル11に肉厚5mmの銅を使うと、銅比熱は〜0.1(J/g*k)であり、密度が〜8なので、コイルの全熱容量は、
=(導体幅)×(導体厚み)×(円周)×(導体密度)×(導体比熱)
=0.8×0.5×3.14×50×500×8×0.1
=25120(J/k)
となる。また、第2の超電導体コイル12にNi−Cr合金を使う場合、電気抵抗は大きく異なるが熱容量的には同程度になるから、基盤材料として銅を使って表面を熱伝導度に優れた電気絶縁材料、例えば半導体素子の電気絶縁材料で、レーザー用素子、光アイソレータ基板、磁気冷凍などに用いる薄膜状GGG(ガドリウム・ガリウム・ガーネット:GdGa12)とか、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)とか、サファイア等の薄膜でコーティングすれば第1の超電導体コイル11と全く同じ熱容量になる。そこで、ここでは高抵抗コイルの熱容量も低抵抗コイルと同じであると仮定する。
【0083】
超電導体(Y系テープ線材)は臨界温度以下であれば抵抗がゼロなので、その温度は冷却温度に一致する。しかし常電導になると超電導体が温度上昇し、超電導体の電気抵抗も急激に変化する。超電導テープ線材の温度上昇は電流が分流するコイル材料に大きく依存するので、ここでは前記した超電導体YBaCu単体の温度−抵抗変化を利用する。YBaCuの代表的な抵抗−温度の測定例を図6に示した。
【0084】
この図6において横軸は温度(単位:k)、縦軸は電気抵抗率(単位:10Ωm)であり、60で示した線がYBaCuの温度に対する電気抵抗率の曲線である。このグラフから、Rを超電導体の臨界電流を超した瞬間の電気抵抗率、Rを温度に対する電気抵抗率とすると、その抵抗・温度変化は、
/R=0.03×ΔT
で近似できる。前記した臨界電流が80A程度の最も性能の優れているY系テープ線材の場合、Rは約0.02Ω/cmとなる。
【0085】
この超電導線材抵抗特性の近似式を使い、この超電導線に密着接続された高抵抗コイルの抵抗とを合成して、図5に示した重故障状態における、温度上昇の大きな高抵抗超電導コイルの温度変化を算出して図示したのが図7のグラフである。この図7において横軸は時間、縦軸は温度差(単位:k)と電流(単位:kA)であり、70は故障前の系統電流で、前記図5の場合に説明したように時間0.09秒のtで故障による電流増大が生じたとしてそれを73として示している。77は発熱の多い第2の超電導体コイル12の表面温度である。
【0086】
この図7からわかるように、故障電流が3波通過すると第2の超電導体コイル12の表面温度ΔTは25k(絶対温度で約100k)に達する。この算出結果より、超電導体が常温に達するまでの時間は約0.4秒である。通常のSN転位抵抗型限流器が0.1秒以下で常温に達してしまうことを考えると、温度上昇はかなり緩やかであり、遮断器が動作開始するまでの時間に十分な余裕ができる。ただし、このシミュレーション結果は冷却特性の優れた核沸騰冷却領域を無視しているし、線材基盤に用いられているハステロイの熱容量や電気抵抗を無視しているので、実際の温度上昇はもっと緩やかと考えられる。
【0087】
ちなみに、本発明の限流器を液体ヘリウムで冷却すると、Y系テープ線材の臨界電流は液体窒素冷却のそれに比べておよそ1桁向上するので、単純な計算をすれば、66kV−3kAの限流器となり、66kV基幹系の限流器としても利用することが可能な電流容量を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、自立型の地域電力ネットワークなどで万一の事故により、系統全体が不安定となって大規模な停電に繋がる、といったことを未然に防止する限流器を、高温超電導体を用い、高い耐圧と限流動作設定条件の自由な調整・制御を実現しながら、簡単、安価な構成で提供できるから、電力の自由化によって品質や信頼性の低い電力を買わざるを得なくなった場合も、系統全体の不安定要因を安価に、確実に、取り除くことができ、大規模な停電などを防いで電力自由化の推進に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明になる超電導限流器の構成概略を説明するための図である。
【図2】本発明になる超電導限流器の等価回路を示した図である。
【図3】本発明になる超電導限流器の限流特性のシミュレーションための回路構成を示した図である。
【図4】本発明になる超電導限流器で強制限流動作を行った場合の特性結果の一例を示したグラフである。
【図5】本発明になる超電導限流器で、大きな故障電流が生じた場合の動作の一例を示したグラフである。
【図6】Y系高温超電導体の抵抗−温度特性の一例を示したグラフである。
【図7】本発明になる超電導限流器に用いるコイルの、故障時における温度上昇特性の一例を示したグラフである。
【図8】従来の超電導限流器における超電導体と分流抵抗のイメージ図である。
【図9】系統に故障が生じて遮断器が動作するまでの時間を説明するための図である。
【図10】電力系統における限流器の必要性を説明するためのイメージを示す図である。
【符号の説明】
【0090】
10 超電導限流器
11、12 超電導コイル
13 制御コイル
14 系統電流入出力端
15 コイルA・Bの接続点
16 電流方向矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に接続されて超電導環境に置かれ、流れる電流により互いに逆向きの磁界を発生する2つの超電導コイルを有し、該2つの超電導コイルが常電導状態に転移することで限流動作を行う超電導限流器において、
前記2つの超電導コイルは、電気抵抗の異なる2つのコイル材料表面のそれぞれに超電導体が密接されて半周毎に電気的に接続されて構成され、前記2つの超電導体の超電導状態から常電導状態への転移に伴って生じる相対的に電気抵抗が小さいコイル材料のコイルによるインダクタンスで限流を可能とすると共に、前記2つの超電導コイルの半周毎の電気的接続により、超電導体の超電導状態から常電導状態への転移に伴う局部過熱防止を可能としたことを特徴とする超電導限流器。
【請求項2】
前記2つの超電導コイルと磁気的に結合され、流す電流により前記2つの超電導体を常電導状態に転位させる制御コイルが設けられていることを特徴とする請求項1に記載した超電導限流器。
【請求項3】
前記2つの超電導コイルは半周毎の電気的接続点で、相対的に電気抵抗が高いコイル材料表面に密接された超電導体が、相対的に電気抵抗が低いコイル材料に接触して接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載した超電導限流器。
【請求項4】
前記超電導体は、酸化物高温超電導体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載した超電導限流器。
【請求項5】
前記超電導体は、YBaCuまたはBiSrCuであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載した超電導限流器。
【請求項6】
前記電気抵抗の異なるコイル材料のうち、相対的に電気抵抗が低いコイル材料は銅または銀、若しくはアルミニウムであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載した超電導限流器。
【請求項7】
前記電気抵抗の異なるコイル材料のうち、相対的に電気抵抗が高いコイル材料はニクロム(Ni−Cr)またはステンレス(SUS)を含む高抵抗金属、もしくはサファイア、窒化アルミニウムを含む高い熱伝導性を示す電気絶縁材料であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載した超電導限流器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−267298(P2009−267298A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118421(P2008−118421)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】