説明

超電導電流リード

【課題】先に提案した垂直磁界の低減化構造を改良して臨界電流特性のさらなる向上化が図れるようにした安全性,信頼性の高い超電導電流リードを提供する。
【解決手段】円筒状支持部材10の周上に電流経路となるテープ状の酸化物超電導線材からなる複数のユニット導体6を分散配列し、かつ該ユニット導体6はその超電導線材のテープ面が円筒座標系の周方向と平行になるよう配置した超電導電流リード4において、前記の円筒状支持部材10を磁性材製とし、ユニット導体6の外周側,および周上に並ぶユニット導体の間にそれぞれ磁性材で作られた円筒状磁性部材11,および磁性接続片12を配置し、これら各部材の間を相互連結して各ユニット導体6の周囲に閉磁路を形成し、通電によりユニット導体6に発生する自己磁界を該導体から周囲の磁性部材に引き寄せてユニット導体を通る垂直磁界の低減化、臨界電流特性の向上化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極低温に冷却した状態で運転する超電導マグネット等の超電導機器へ外部電源より電流を供給する超電導電流リードに関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、超電導マグネットは物性研究用や磁気共鳴装置などに適用され、将来的には磁気浮上列車,核融合用炉などへの応用が期待されている。
【0003】
ところで、極低温中に置かれた超電導機器に室温側の外部電源から電流リードを介して電流を供給するには、電流リードを伝熱経路として極低温領域に侵入する熱量をできるだけ小さく抑えることが必須の条件となる。例えば、クライオスタットの冷媒に用いる液体ヘリウムは非常に高価であり、また、1Wの熱侵入により蒸発した液体ヘリウムを再液化するために要する冷凍機の入力は理想的な状態でも400W程度で、実用的には冷凍機の入力が1000Wにも達する。
【0004】
このために、電流リードを伝熱経路として室温側からクライオスタット内の極低温側に侵入する熱量が多くなると液体ヘリウムの使用量が多くなってランニングコストが嵩むほか、冷凍機が大型,大容量化する。したがって、超電導機器用の電流リードには室温側からの熱侵入量を極力低く抑える機能が要求される。
【0005】
一方、現在開発が進んでいるビスマス系,イットリウム系の酸化物超電導材は、液体窒素温度(〜77K)温度まで超電導状態を保持できてジュール発熱がなく、かつこの温度領域での熱伝導率は銅の1/100以下と極めて小さいことから、この酸化物超電導材を採用した超電導電流リードの開発が進められている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
図3は前記の酸化物超電導材を採用した超電導電流リードを超電導マグネットに適用した設置例を表す図であり、1は超電導マグネット(超電導機器)、2は室温側の外部電源に接続する常温側端子であり、この常温側端子2と超電導マグネット1から引き出したフィーダ1aとの間には、銅などの良導電性金属を材料とする常温側の電流リード3と、超電導材で作られた低温側の電流リード4が直列に接続されている。なお、超電導マグネット1はクライオスタット5に収容して極低温冷媒(例えば液体ヘリウム)に浸漬されており、図示例ではクライオスタット5の内部で蒸発したヘリウムガスを低温側の超電導電流リード4,および低温側の電流リード3の内部に流して各電流リードを低温状態に冷却するようにしている。
【0007】
また、前記した低温側の超電導電流リード4について、ビスマス系,イットリウム系などの酸化物超電導体を安定化材の銀シースで被覆したテープ状の超電導線材を複数積層してなる導体ユニットを、円筒状の支持部材の外周面上に分散配列して一体化した構成の電流リードが知られており(特許文献1参照)、その模式構成(横断面図)を図4に示す。図4(a),(b)において、6は電流経路となるテープ状超電導線材6aを複数積層してなるユニット導体、7はFRP,ステンレス鋼などで作られた円筒状の支持部材であり、該円筒状支持部材7の周面上には前記ユニット導体6の素線である酸化物超電導線材6aのテープ面が円筒座標系の周方向と平行になるように配列して固着されている。
【0008】
ところで、前記した酸化物超電導線の臨界電流特性には磁場の依存性があり、小電流の範囲では殆ど問題となることはないが、通電電流が高くなると超電導線に生じる自己磁界のうちテープ面と垂直な磁界成分の影響を受けて臨界電流値密度(Jc)が著しく低下することが知られている。そこで、図4に示した構成の超電導電流リードについて、自己磁界による臨界電流値の劣化を低減するよう改良した超電導リードがこの発明の出願人から先に提案されており(特許文献2,特許文献3参照)、次にその模式構成(横断面図)を図5,図6に示す。
(1)まず、特許文献2に開示されている超電導リードを図5に示す。FRP,ステンレス鋼,ニッケル合金,チタン合金などの金属材料で作られた円筒状の支持部材7の周面上には、図4と同様に複数のテープ状超電導線材を積層したユニット導体6を、その超電導線材のテープ面が円筒座標系における周方向と平行に並ぶように分散配置した上で、さらにユニット導体6の外周側に例えば鉄で作られた円筒状の磁性部材8を配置している。
【0009】
上記のようにユニット導体6の外周側に円筒状の磁性部材8を配置することで、ユニット導体6の通電電流により生じる自己磁界の磁力線が透磁率の高い外周側の円筒状磁性部材8に引き寄せられる。これにより、ユニット導体6の外周側に磁性部材8を設けてない図4の構成と比べて、ユニット導体6を通る自己磁界の垂直成分を低減する効果が得られる。
(2)また、図6は前記の特許文献3に開示されている超電導リードの模式構成図である。この超電導リードでは、図4と同様に円筒状支持部材7の周面上に複数枚のテープ状の超電導線材を積層したユニット導体6を、その超電導線材のテープ面が円筒座標系における周方向と平行に並ぶように配置した上で、さらに周上に並ぶユニット導体6の相互間に導体の長手方向に沿って断面矩形状の磁性片(例えば、鉄材)9を介在配置している。
【0010】
この構成により、ユニット導体6の通電電流により生じる自己磁界の磁力線がユニット導体6を左右から挟んでその側方に配した磁性片9に引き寄せられる。これにより、ユニット導体6を通る垂直磁界成分の低減効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−218215号公報(図1)
【特許文献2】特開平10−188691号公報(図6)
【特許文献3】特開平11−260162号公報(図2)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】保川 幸雄、外2名、"超電導電流リード技術"、[on line]、富士時報、vol.72 No.10 1999、[平成22年1月30日検索]、インターネット<URL:http://www.fujielectric.co.jp/company/jihou_archives/pdf/72-10/FEJ-72-10-566-1999.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先記のように円筒状支持部材の周面にテープ状の超電導線材からなるユニット導体を分散配列した図4の超電導電流リードに対して、特許文献2,あるいは特許文献3に開示されている垂直磁界の低減構造を採用することにより、ユニット導体の通電により発生する自己磁界の垂直成分に起因する臨界電流値の低下をある程度抑えることが期待されるものの、大容量の超電導機器に適用する超電導電流リードでは、超電導状態で大電流の通電を確保するために、自己磁界の影響による臨界電流値の劣化をさらに低減してより安定した通電性能を確保することが要求される。
【0014】
そこで、発明者等は図4の超電導電流リードを比較例として、図5,図6に示した超電導電流リードによる垂直磁界の低減効果を評価,確認するために磁界解析を行ったところ次記のような結果を得た。すなわち、図7,図8,図9は、それぞれ図4,図5,図6の超電導電流リードについて、通電電流が同一の条件でユニット導体6に生じる自己磁界の等磁気ポテンシャルをコンター図として表したものである。なお、各図の右側に表示した数値はコンター図中の各パターンに対応した磁界強度(単位:T(テスラ))で、その磁界の向きを正,負の値で表している。
【0015】
ここで、図4の電流リード(磁性部材無し)に対する解析結果では、図7で示すようにテープ状のユニット導体6のテープ面と垂直な磁界の最大値は0.039Tを超えており、その高磁界域がユニット導体6の左右両側縁部位に集中していることが判る。
【0016】
また、図5の電流リードに対する図8の解析結果では、ユニット導体6のテープ面に垂直な磁界ポテンシャルの最大値は0.039Tよりも若干低く、図7の解析結果と比べてユニット導体6を通る垂直磁界成分の分布が多少改善されているものの、ユニット導体6の外周側に配した円筒状の磁性部材8からの漏れ磁界が大きいために、ユニット導体6を通る垂直磁界の低減効果は低いことが判明した。
【0017】
一方、図6の電流リードに対する図9の解析結果によれば、ユニット導体6のテープ面に垂直な磁界ポテンシャルは最大で0.034Tに低減しており、図5の構成に対応する図7の解析結果と比べて、各ユニット導体6の相互間に配置した磁性片9がユニット導体6の左右側縁部位に集中する垂直磁界の低減化に有効に寄与していることが認められる。
【0018】
ところで、大容量の超電導機器に適用する通電容量の大きな超電導電流リードには、安全性と信頼性の面から高い臨界電流値の確保が要求されることから、図5,図6で述べた自己磁界の垂直磁界低減機能についてもさらなる改善が望まれる。
【0019】
この発明は上記の点に鑑みなされたものであり、その目的は先に提案した特許文献2,特許文献3による垂直磁界の低減化構造を改良して臨界電流特性のさらなる向上化が図れるようにした安全性,信頼性の高い超電導電流リードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の目的を達成するために、この発明によれば、円筒状支持部材の周上に電流経路となるテープ状の酸化物超電導線材からなる複数のユニット導体を分散配列し、かつ該ユニット導体はその超電導線材のテープ面が円筒座標系の周方向と平行になるよう配置した超電導電流リードにおいて、
前記の円筒状支持部材を磁性材製とし、ユニット導体の外周側,および周上に並ぶユニット導体の間にそれぞれ磁性材で作られた円筒状磁性部材,および磁性接続片を配置し、これら各部材を組み合わせて各ユニット導体の周囲に閉磁路を形成する(請求項1)。
【0021】
また、前記構成においては、
(1)ユニット導体の内周側に配した磁性材製の円筒状支持部材,外周側に配した円筒状磁性部材,およびユニット導体の間に配した磁性接続片の相互間を結合して一体に組み立てるものとする(請求項2)。
(2)前記閉磁路を構成する各磁性部材の材質は、鉄,ニッケル,コバルト,マンガン等の強磁性体,またはその合金である(請求項3)。
【発明の効果】
【0022】
上記したこの発明の超電導電流リードによれば、周上に配列したユニット導体に対して、その内周側,外周側,および隣り合うユニット導体の間に配して相互結合した磁性部材で各ユニット導体を包囲する閉磁路を形成している。これにより、周囲への漏れ磁界の発生無しにユニット導体の通電により発生する自己磁界を、該ユニット導体からその導体を包囲する前記磁性部材側に引き寄せてユニット導体の内部を通る垂直磁界成分を大幅に低減することができ、その結果としてユニット導体の臨界電流値に関与する自己磁界の影響が大幅に低減されて超電導電流リードの臨界電流特性が向上する。
【0023】
また、従来構造と比べてユニット導体の本数,あるいはユニット導体を構成するテープ状超電導線材の層数を減らすことが可能となるので、安全性,信頼性の高い大容量の超電導電流リードを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例による超電導電流リードの模式断面図である。
【図2】図1の実施例に対する磁界解析結果を表す等磁気ポテンシャルのコンター図である。
【図3】超電導マグネットに適用した超電導電流リードの設置例を表す図である。
【図4】超電導電流リードの従来構造を表す模式断面図である。
【図5】特許文献2に開示されている超電導電流リードを表す模式断面図である。
【図6】特許文献3に開示されている超電導電流リードを表す模式断面図である。
【図7】図4の超電導電流リードに対応した磁界解析結果を表す等磁気ポテンシャルのコンター図である。
【図8】図5の超電導電流リードに対する磁界解析結果を表す等磁気ポテンシャルのコンター図である。
【図9】図6の超電導電流リードに対する磁界解析結果を表す等磁気ポテンシャルのコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明に実施の形態を図1,図2に示す実施例に基づいて説明する。
【0026】
すなわち、図示実施例の超電導電流リード4は、図4〜図6に示した従来構造と基本的に同様に、通電経路となる複数のユニット導体6が円筒状支持部材の周上に分散配列されているが、図示実施例ではユニット導体6を支持する内周側の円筒状支持部材10が磁性材で作られている。また、ユニット導体6の外周側には磁気ヨークとして機能する円筒状の磁性部材11を配置し、さらに周上に並ぶ各ユニット導体6の相互間に磁性接続片12を配置した上で、前記の磁性部材同士の間を相互連結して各ユニット導体6の周囲に閉磁路を構成している。なお、内周側の円筒状支持部材10,外周側の円筒状磁性部材11,および磁性接続片12の材質は、鉄,ニッケル,コバルト,マンガン等の強磁性体,またはその合金とする。
【0027】
上記の構成により、通電によりユニット導体6に発生した自己磁界の磁力線が、該ユニット導体6を取り巻いて閉磁路を形成するように構築した高透磁率の磁性部材に引き寄せられので、ユニット導体6の内部の自己磁界が大幅に低減される。
【0028】
次に、図1の構造に対する磁界解析結果(通電条件は先記の図7〜図9と同じ)を、図2の等磁気ポテンシャル線図(コンター図)に示す。図2の磁界解析結果から明らかなように、自己磁界の高磁界領域はユニット導体6から周囲の磁性部材(閉磁路)に移行し、特にユニット導体6を挟んでその左右側方に配した磁性接続片12には、ハッチングを付して表した領域に高磁界が集中するようになる。
【0029】
これにより、ユニット導体6の内部を通るテープ面と垂直な磁界は最大で約0.029Tとなり、図8,図9に示した従来構造の解析結果と比べて、自己磁界の垂直成分は図8との比で約25%、図9との比で約15%低減していることが判る。
【0030】
その結果、ユニット導体6の臨界電流値に関与する自己磁界の影響が大幅に低減されて臨界電流特性が大幅に向上する。また、臨界電流特性の改善により、従来構造と比べてユニット導体6の本数,あるいはユニット導体6を構成するテープ状超電導線材の層数を減らすことが可能となるので、安全性,信頼性の高い大容量の超電導電流リード4を安価に製作することができる。
【符号の説明】
【0031】
1:超電導マグネット(超電導機器)
4:超電導電流リード
6:ユニット導体
6a:テープ状の酸化物超電導線材
10:磁性材の円筒状支持部材
11:外周側の円筒状磁性部材
12:磁性接続片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状支持部材の周上に電流経路となるテープ状の酸化物超電導線材からなる複数のユニット導体を分散配列し、かつ該ユニット導体はその超電導線材のテープ面が円筒座標系の周方向と平行になるよう配置した超電導電流リードにおいて、
前記の円筒状支持部材を磁性材製とし、ユニット導体の外周側,および周上に並ぶユニット導体の間にそれぞれ磁性材で作られた円筒状磁性部材,および磁性接続片を配置し、これら各部材を組み合わせて各ユニット導体の周囲に閉磁路を形成したことを特徴とする超電導電流リード。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導電流リードにおいて、ユニット導体の内周側に配した磁性材製の円筒状支持部材,外周側に配した円筒状磁性部材,および周上に並ぶユニット導体の間に配した磁性接続片の相互間を結合して一体に組み立てたことを特徴とする超電導電流リード。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超電導電流リードにおいて、閉磁路を構成する各部材の材質が鉄,ニッケル,コバルト,マンガン等の強磁性材,またはその合金であることを特徴とする超電導電流リード。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−176018(P2011−176018A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37483(P2010−37483)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】