説明

超電導電流リード

【課題】 高温超電導薄膜線材を用いた超電導電流リードの熱侵入量を低減させる。
【解決手段】本発明に係る超電導電流リードは、金属基板1上に中間層2を介して形成される高温超電導体からなる高温超電導層3と、この高温超電導層上に形成される金属からなる保護層4と、この保護層の上に形成され銀を含む半田接続層6とを有する高温超電導薄膜線材104と、この高温超電導薄膜線材を囲繞して設けられる補強材10と、この補強材に設けられ前記高温超電導線材の前記半田接続層と半田9により接続して配置される電極8と、を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温に冷却される超電導機器に用いられる超電導電流リードに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導現象の最大の特徴は、臨界温度で導体の電気抵抗がゼロになるため通電しても熱が発生せず、そのため無損失で大電流を流すことができるということである。超電導電力貯蔵システムに使用される超電導マグネット装置は、この超電導現象を応用したその代表的な装置である。
【0003】
この超電導マグネット装置は、下記の超電導コイルをクライオスタット(真空断熱容器)の中間温度シールド内に液体ヘリウムとともに収容して外部環境から熱遮蔽した状態で極低温(液体ヘリウム温度の場合は約−269K)に保持するように構成されており、外部の電源装置より超電導電流リードを介して電流を供給する必要がある。
【0004】
超電導電流リードに求められる機能を簡潔にいえば、「電気を伝えて熱を伝えない」ことである。超電導体は、電気抵抗がほぼゼロであり熱伝導率が悪いためこうした超電導電流リードの材質として最適であり、特に高温超電導体は、80Kレベルから4Kレベルを結ぶ超電導電流リードの材質として用いられている。従来の超電導電流リードには、YBCOや、Bi2223等のバルク材を用いたものもあるが、特にバルク材は脆く破損しやすいため、取り扱いに注意が必要であった。よって、超電導電流リードの材料としてある程度の変形が許容される高温超電導線材を用いることにより、比較的取り扱いを容易とする工夫が考慮されている。
【0005】
こうした高温超電導線材の製造にあたっては、まず、酸化物金属基板上に中間層を形成し、その上にYBCO(YBa2Cu3O7−x)等のRE123系の高温超電導薄膜を形成する。中間層は金属基板と高温超電導層の中間に位置し、結晶成長を促進させる例えば酸化セリウム、酸化マグネシウム等からなる薄膜である。
【0006】
この高温超電導薄膜の端部等において、電気的接続を形成する必要があるが、その方法としては、蒸着やスパッタリングなどの方法で金属層を形成し、インジウムなどで半田付けする方法(例えば特許文献1および2参照)や、インジウムを圧着する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。また、電極の材質としては、高温超電導体との化学反応を避ける、および酸素雰囲気中の熱処理が可能などの理由で、通常は金もしくは銀が用いられる。
【0007】
一方、金属基盤上に中間層を形成し、その上にYBCO等のRE123系の高温超電導薄膜を形成したいわゆる第2世代線材と呼ばれる高温超電導薄膜線材(coated conductor)では、高温超電導層が、水等と反応させないための保護や、常伝導転移時のバイパス回路を形成するための安定化、また端部における電気的接続の形成するため、高温超電導層の表面に数μm程度の金属保護層が線材の全長にわたって形成されることが多い。金属保護層の材質としては、上述金属電極と同様の理由で金もしくは銀が用いられる。高温超電導薄膜線材は、高温超電導バルク材と比較してひずみや応力に強いため、高温超電導薄膜線材を用いて超電導電流リードを製作することにより、機械的に堅牢な超電導電流リードを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−251761号公報
【特許文献2】特開2003−298129号公報
【特許文献3】特開平11−204845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高温超電導薄膜線材を用いて超電導電流リードを作製する際、その端部において電気的接続を形成する必要があるが、この接続部は電気的抵抗が低く、かつ経時的に安定であることが望まれる。しかしながら、例えば特許文献3に記載されているインジウムを圧着する方法では、一般的に低い電気抵抗を得にくいことが知られている。また、特許文献1や特許文献2に記載されている、金もしくは銀で形成された保護層に半田付けする方法では、十分に金もしくは銀層を厚くしないと電気抵抗が低く、安定な接続を得ることは難しいことが知られている。これは、金や銀は、鉛、錫、インジウム等の金属や、それらの合金から構成される半田材料に溶け込みやすいため、半田付け工程の際に保護層が消失してしまう可能性があるためである。
【0010】
一方、半田付け工程での溶け込みをある程度想定して熱伝導が良好な金、銀からなる保護層を厚く形成すると、この保護層を介して高温端から低温端へ熱が流れ超電導電流リード内部での熱移動が起こる、すなわち超電導電流リードの熱侵入量が増大する原因になってしまうという課題があった。
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、製造における半田付け工程を含む電気的接続を容易に実現するとともに、超電導電流リード装置としての外部からの熱侵入量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、金属基板と、この金属基板上に中間層を介して形成される高温超電導体からなる高温超電導層と、この高温超電導層上に形成される金属からなる保護層と、この保護層の上に形成され銀を含む半田接続層とを有する高温超電導薄膜線材と、この高温超電導薄膜線材を囲繞して設けられる補強材と、この補強材に設けられ前記高温超電導線材の前記半田接続層と半田により接続して配置される電極と、を具備することを特徴とする超電導電流リードを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接続抵抗が低く経時的にも安定でありさらに熱侵入量が少ない超電導電流リードを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1の高温超電導薄膜線材の斜視図。
【図2】本発明の実施例1の変形例の高温超電導薄膜線材の斜視図。
【図3】本発明の実施例2の超電導電流リードの断面図。
【図4】本発明の実施例2の変形例の超電導電流リードの断面図。
【図5】本発明の実施例3の超電導電流リードの断面図。
【図6】本発明の実施例4の超電導電流リードの断面図。
【図7】本発明の実施例5の超電導電流リードの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る超電導電流リードについて、複数の実施例を図面を参照して説明する。
【0016】
[実施例1]
本発明の実施例1について、図1を参照して説明する。図1は、本実施例の高温超電導薄膜線材100の構成を示した斜視図であり、各層の構成を説明するため断面を併せて示している。
【0017】
高温超電導薄膜線材100は、金属基板1の上に、上述した酸化セリウム、酸化マグネシウム等からなり結晶成長を促進させる中間層2を介して、高温超電導層3が形成される。さらに高温超電導層3の上に、金もしくは銀あるいはその合金からなる保護層4、さらにその上に銅やニッケル等からなる拡散防止層5が形成されている。
【0018】
高温超電導層3の上に保護層4を形成する理由は、高温超電導材料が他の金属と反応しやすい活性な材料であり、金、銀以外の材料と直接的に接触させると反応して性能低下を引き起こすため、こうした性能低下を防止するためである。また、保護層4は、高温超電導層3に電流が流れているときに、常電導転移した場合のバイパス回路としても機能する。こうした目的のためには、保護層4は、できるだけ厚く形成することが望ましい。
【0019】
一方、保護層4を構成する金または銀は高価な材料であるので、できるだけ薄く形成したいとの要請もある。しかし、保護層4の材質である金または銀は、鉛、錫、インジウム等の金属やそれらの合金から構成される半田材料に溶け込みやすい性質があり、過度に多くの保護層が溶け込むと高温超電導薄膜線材の性能が劣化する可能性がある。このため、電気的接続を目的として保護層4に直接半田付けする場合には、保護層4を薄く形成することはできずある程度の厚みを確保する必要がある。
【0020】
また、保護層4の上に積層される拡散防止層5は、高温超電導薄膜線材を組み込んで製造時の電気的接続の容易性を考慮し、特に半田付け工程において保護層4が半田に溶け込んで半田接続が不能となることを防ぐため、すなわち製造時における保護層4の拡散を抑止するために設けられている。このため、拡散防止層5の材質としては、半田材料に溶け込みにくい銅やニッケル、あるいはその合金が好適である。
【0021】
本実施例によれば、保護層4の上にこうした拡散防止層5を形成し保護層4の拡散を抑止する構造としたため、保護層4を薄くする形成しても電気的接続による性能劣化を防止することができる高温超電導薄膜線材を実現することができる。
【0022】
本実施例の変形例として、図2に示す高温超電導薄膜線材101を構成することもできる。この変形例は、図1における拡散防止層5の上にさらに銀からなる半田接続層6を形成させたものである。これにより、上述した本実施例と同様の作用効果が得られるのに加えて、拡散防止層5の材質である銅やニッケルに比べて銀は半田付けがしやすく、かつ電気抵抗が小さいことから、高温超電導薄膜線材としてさらに良好な電気的接続を得ることができる。
【0023】
[実施例2]
本発明の実施例2について、図3を参照して説明する。図3は、本実施例に係る超電導電流リードの構成を示した断面図である。なお、以後の説明においては、上述した実施例と同様の構成については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
本実施例2は、実施例1において説明した高温超電導薄膜線材を用いた超電導電流リード200に関するものである。ここでは代表的に図2に示した高温超電導薄膜線材101を用いた場合を説明するが、図1の高温超電導薄膜線材100についても同様に適用可能である。
【0025】
金属基板1に中間層2を介して高温超電導層3が積層され、さらに保護層4、拡散防止層5を順次積層されてなる高温超電導薄膜線材101は、電極8に半田9で電気的に接続される。また、超電導電流リード200の外郭を構成する補強材10は、電極8を挟み込むように配置され、またこの内部は含浸材7により含浸されている。なお、含浸材7には例えば樹脂を用いることとし、特に、エポキシ系材料、シリコン系材料、ウレタン系材料等から適切に選択することが考えられる。
【0026】
上述したように、従来の超電導電流リードでは、半田付け工程における溶け込みを考慮し、熱伝導が良好な金、銀からなる保護層4を比較的厚く形成する必要があり、このことが超電導電流リードの熱侵入量増大の原因になっていた。しかしながら、本実施例によれば、上述した実施例1において説明したように、保護層4を薄く形成しかつ電気的接続による性能劣化がない高温超電導薄膜線材101を用いているため、電気抵抗が少なく、さらに機械的に堅牢であり、熱侵入量が少ない超電導電流リードを実現することができる。
【0027】
[実施例3]
本発明の実施例3を図4を参照して説明する。図4は、本実施例に係る超電導電流リードの構成を示した断面図である。なお、以後の説明においては、上述した実施例と同様の構成については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
図4に示した超電導電流リード201に用いられた高温超電導薄膜線材102は、金属基板1の上に、中間層2、高温超電導層3、保護層4、拡散防止層5を順次積層してなり、さらに、拡散防止層5上のうち電極8に半田9で電気的に接続され部位にのみ、半田接続層6を形成させている。半田接続層6を構成する材質、例えば銀は、熱伝導率が高いため、電極8との接続に寄与しない部位についてはこの層を無くして、図3に示した場合に比べて半田接続層6を構成する材料の量自体を減ずることで、超電導電流リードとしての熱侵入量をより減らすことができる。
【0029】
本実施例の構成によれば、第2の実施例と同様の作用効果が得られるとともに、高温超電導薄膜線材に半田接続層を限定的に配置することで、熱侵入量をさらに低減させた超電導電流リードを実現することができる。
【0030】
さらに、本実施例の変形例として、図5に示すように、超電導電流リード202に用いられた高温超電導薄膜線材103について、半田接続層6のみでなく、この下層に位置する拡散防止層5についても、電極8に接続する部位のみに局所的に配置する構造をとることも考えられる。こうして構成される超電導電流リード202において、拡散防止層5を構成する材質、例えば銅は、半田接続層6を構成する銀と同様に、熱伝導率が高く、電極8との接続に寄与しない部位についてはこの層を無くすことによって、超電導電流リードとしての熱侵入量を減らすことができる。
【0031】
[実施例4]
本発明の実施例4を図6を参照して説明する。図6は、本実施例に係る超電導電流リードの構成を示した断面図である。なお、以後の説明においては、上述した実施例と同様の構成については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0032】
図6に示した超電導電流リード203に用いられた高温超電導薄膜線材104は、金属基板1の上に、中間層2、高温超電導層3、保護層4を順次積層してなり、さらに、保護層4上のうち電極8に半田9で電気的に接続された部位にのみ、半田接続層6を形成させている。半田接続層6を構成する材質、例えば銀は、熱伝導率が高く、電極8との接続に寄与しない部位に関してはこの層を無くすことで、超電導電流リードとしての熱侵入量を減らすことができる。さらにこの場合、半田接続層6を構成する銀は、半田9の材質である鉛、錫、インジウム等の金属や、それらの合金に溶け込みやすいため、この局所的に形成される半田接続層6としては、例えば1μm程度あるいはそれ以上の、十分な厚さを確保する必要がある。
【0033】
本実施例によれば、半田9に銀が溶け込んだとしても、十分な厚さ量からなる半田接続層6を配置した高温超電導薄膜線材104を用いているため、電気的接続による性能劣化がなく、電気抵抗が少なく、さらに機械的に堅牢であり、熱侵入量が少ない超電導電流リードを実現することができる。
【0034】
[実施例5]
本発明の実施例5を図7を参照して説明する。図7は、本実施例に係る超電導電流リードの構成を示した断面図である。なお、以後の説明においては、上述した実施例と同様の構成については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
図7に示した超電導電流リード204に用いられた高温超電導薄膜線材104は、直接電極8に半田で接続するのではなく、高温超電導線であるBi2223銀シース線11を介して接続して構成する。すなわち、電極8とBi2223銀シース線12とを半田9Aで接続し、またこのBi2223銀シース線11と高温超電導薄膜線材1Dの半田接続層6とを半田9Bで接続したものである。ここで、Bi2223(Bi2Sr2Ca2Cu3O10+z)は、超電導転移温度が100Kを超える有用な高温超電導材料として知られている。
【0036】
以下、半田接続層6に銀を用いた場合を説明する。半田付け工程における銀が溶け込む量は、半田付け時の温度と時間が短いほど少なくなる。また、接続する相手の熱容量が小さいほど、短い時間で接続することが可能である。したがって、こうして構成される超電導電流リード105によれば、上述の本実施例の作用効果に加えて、半田に銀が溶け込む量を少なくすることができる。
【0037】
以上、本発明の好適な実施の形態として複数の実施例を説明してきたが、本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変形を採ることができる。また、複数の実施例における技術的特徴を任意に組み合わせて超電導電流リードを構成することも考えられる。例えば、図3に示した実施例2における半田接続層6は拡散防止層5の上に一様に積層されており、また図4に示した実施例3における半田接続層6は拡散防止層5の一部として電極8との接続部近傍のみに設けられているが、こうした構成の変形として、半田接続層6を、電極8との接続部近傍で相対的に厚く、他の位置で相対的に薄く形成することによっても、ほぼ同様の作用効果が得られる。こうした厚さを変更する構成は、図5における拡散防止層5においても同様に考えられる。
【符号の説明】
【0038】
1…金属基板、2…中間層、3…高温超電導層、4…保護層、5…拡散防止層、6…半田接続層、7…含浸材、8…電極、9…半田、10…補強材、11…Bi2223銀シース線、100,101,102,103,104…高温超電導薄膜線材、200,201,202,203,204…超電導電流リード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、この金属基板上に中間層を介して形成される高温超電導体からなる高温超電導層と、この高温超電導層上に形成される金属からなる保護層と、この保護層の上に形成され銀を含む半田接続層とを有する高温超電導薄膜線材と、この高温超電導薄膜線材を囲繞して設けられる補強材と、この補強材に設けられ前記高温超電導線材の前記半田接続層と半田により接続して配置される電極と、を具備することを特徴とする超電導電流リード。
【請求項2】
前記半田接続層は前記拡散防止層の一部に積層して設けられていることを特徴とする請求項1記載の超電導電流リード。
【請求項3】
前記拡散防止層は前記金属保護層の一部に積層して設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の超電導電流リード。
【請求項4】
前記半田接続層および前記電極のそれぞれと半田により接続されるBi2223銀シース線をさらに有し、このシース線を介して前記半田接続層と前記電極とが接続して配置されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の超電導電流リード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−109254(P2012−109254A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−287011(P2011−287011)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【分割の表示】特願2006−302547(P2006−302547)の分割
【原出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】