説明

超電導電流リード

【課題】、安定した超電導特性を得ることができ製造工程が容易な超電導電流リードを提供すること。
【解決手段】極低温容器内に設置された超電導装置に対して、室温環境下に設置された電源から電力を供給する超電導電流リード100において、一端部151に電極端子131が接続されたリード本体152の一面152aに形成された溝部154内に、複数の超電導線材160がそれぞれ並行に配置されている。超電導線材160は、ReBaCu系超電材料からなる酸化物超電導層163を備え、酸化物超電導層163中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点として分散している。複数の超電導線材160は、電極端子131に対して、切り欠き部135内に、支持部材152とともに嵌合した状態で電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導を応用した低温機器、例えば、超電導マグネットに電源からの電流を供給するための酸化物超電導線材を有する超電導電流リードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導応用機器、例えば、超電導マグネットを運転する場合、マグネットを超電導状態とするために極低温に冷却する必要があり、この冷却方法として2つの方式が知られている。
【0003】
即ち、液体ヘリウムや液体窒素等の冷媒に浸漬する方式(浸漬冷却方式)と冷凍機や冷媒からの熱伝導を利用する方式(伝導冷却方式)である。冷却したマグネットを励磁するためには、超電導コイルに電流を流さなければならず、電源から電流を供給するための超電導電流リードが必要である。この場合、超電導電流リードは導電体であることが必要であるが、電気抵抗が小さくかつ熱伝導率の大きいCuやAlなどの金属を使用すると、超電導電流リード自体のジュール発熱に加え外部からの熱侵入により超電導マグネットの冷却効率が悪くなり、超電導状態を維持するためには冷却コストが膨大になるという問題があった。特に、冷凍機を用いた伝導冷却方式の場合にこの傾向は顕著であり、冷却が不可能となる場合も生ずる。
【0004】
この問題を解決するためには、超電導マグネットに用いる超電導電流リードとして、導電性と低熱伝導性を両立させる必要があり、超電導マグネットでは、超電導コイルに接続される超電導電流リードの一部分も液体窒素温度以下に冷却される。このため、電気抵抗及び熱伝導率の小さい酸化物超電導体を超電導電流リードとして使用することにより、電流を供給しつつ、熱侵入量を低く抑えることが可能となる。
【0005】
これに対応する超電導電流リードとして、例えば、特許文献1に示すように、金属基板上にイットリウム系(Y系)又はホルミウム系(Ho系)酸化物超電導層を備えるテープ状の酸化物超電導線材を複数備える超電導電流リードが知られている。
【0006】
この超電導電流リードでは、円柱或いは円筒状の支持部材の外周部にスリット状の溝部が、支持部材の外周部断面において放射方向に、かつ、軸方向に複数個形成されている。これら溝内には、テープ状の超電導線材がそれぞれ挿入され、且つ、接着剤により接着された状態で設けられている。これら溝内における多数個のテープ状の超電導線材は、支持部材の溝から延出した軸方向両端部において、図示しない電極端子に電気的に並列接続されている。電極端子は、円柱或いは円筒状をなし、支持部材と同様に形成された放射状の多数個のスリット状の溝を有する。電極端子の溝には、支持部材の軸方向両端部において、超電導線材が挿入され、この超電導線材にハンダ接合されている。
【0007】
このように構成された特許文献1の超電導電流リードでは、複数の超電導線材を用いることによって、超電導電流リードとしての大電流化、つまり、大容量化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−212028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の超電導電流リードでは、超電導線材と支持部材とが接着剤を介して接合されているため、極低温に冷却されると、超電導線材と支持部材の収縮率の違いにより接合された超電導線材と支持部材が剥離して、互いの接合に用いられた接着剤によって超電導線材の各層或いは支持部材が破損する問題がある。破損の際には、超電導製材は安定した特性を得ることができなくなるという虞がある。
【0010】
また、従来の超電導電流リードでは、超電導線材と電極端子との接続は、支持部材の軸方向両端部のそれぞれから延出した超電導線材の部位を、電極端子における多数個のスリット状の溝に挿入し、この溝内でハンダ接合することによって行われている。
【0011】
このため、超電導電流リードの製造過程において、超電導線材と電極端子とをハンダ接合する際に、支持部材の軸方向両端部の溝から延出した超電導線材毎に、電極端子の溝に挿入して接続する必要がある。よって、これらを挿入する手間がかかる。
【0012】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、安定した超電導特性を得ることができ製造が容易な超電導電流リードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の超電導電流リードの一つの態様は、極低温容器内に設置された超電導装置に対して、室温環境下に設置された電源から電力を供給し、低温側の少なくとも一部に、酸化物超電導材料からなるテープ状の超電導線材を用いた超電導電流リードにおいて、前記酸化物超電導材料は、ReBaCuO系(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示す)超電導材料であり、前記超電導材料中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点として分散されており、通電方向に延在するスリット状の複数の溝部を有し、前記溝部のそれぞれに、複数の前記超電導線材がそれぞれ配置される支持部材と、前記通電方向と同じ方向に形成された切り欠き部を有する電極端子と、を備え、前記切り欠き部に、前記超電導線材が配置された前記支持部材の端部が嵌合され、前記電極端子は、前記切り欠き部内で前記超電導線材に電気的に接続される構成を採る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定した超電導特性を得ることができ製造工程が容易な超電導電流リードを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る超電導電流リードを用いた超電導磁石装置の一例の模式的構成を示す図
【図2】同超電導電流リードにおける低温側超電導部を示す斜視図
【図3】図1のP−P線矢視断面図
【図4】超電導線材の構造を示す図
【図5】超電導層の構成を示す図
【図6】本発明の超電導電流リードで採用される超電導線材の一例である採用例及び不採用例により製造された超電導体の印加磁場に対する臨界電流値の説明に供する図
【図7】本発明の超電導電流リードで採用される超電導線材の一例である採用例及び不採用例により製造された超電導体の磁場印加角度依存性の説明に供する図
【図8】超電導線材を有するリード本体の端部を示す斜視図
【図9】リード本体の変形例を模式的に示す断面図
【図10】リード本体の変形例を模式的に示す断面図
【図11】超電導線材の変形例である超電導線材を模式的に示す図
【図12】リード本体の変形例を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1に示す超電導電流リード100は、極低温容器11内に配設された超電導マグネット12のマグネット端子12aに一端部の接続端子101で接続されている。また、超電導電流リード100は、極低温容器11の外部で他端部の接続端子102を介して、室温環境下に設置された電源に接続されている。これにより超電導電流リード100は、極低温容器11外部の電源から極低温容器11内の超電導マグネット12に電力を供給する。
【0018】
図1に示す超電導電流リード100は、極低温容器11外に位置する接続端子102に接続された高温側銅リード部110と、極低温容器11内に位置する接続端子101に接続された低温側超電導部120とを有する。
【0019】
低温側超電導部120は、図2に示すように、一対の電極(電極端子)131、133と、一対の電極131、133が両端部151、153に接合されたリード本体150とを有する。
【0020】
一対の電極端子131、133は銅或いは銅合金等の金属で作成されている。電極端子131では、一端面131aを切り欠くことによって、リード本体150の一端部151が挿入される凹部(切り欠き部)135が形成されている。一方、電極端子133では、一端面133aを切り欠くことによって、リード本体150の他端部153が挿入される凹部(切り欠き部)135が形成されている。
【0021】
凹部135は、電極端子131、133それぞれの一端面131a、133aを、通電方向(ここでは一端面131a、133aに対して直交する方向)に切り欠いて形成されている。凹部135は、電極端子131、133の一端面131a、133aにおいて、リード本体150の端部151、153の形状に対応した形状に形成されている。これにより、電極端子131における凹部135内には、リード本体150の一端部151が一端面131aに対して直交して挿入されている。また、電極端子133における凹部135内には、リード本体150の他端部153が一端面133aに対して直交して挿入されている。このように電極端子131、133の凹部135には、リード本体150の両端部151、153がそれぞれ内嵌している。
【0022】
リード本体150は、長尺の支持部材152と、支持部材152に、支持部材152の延在方向に沿って配設された複数のテープ状の高温超電導線材(以下、「超電導線材」という)160とを有する。
【0023】
図3に示すようにリード本体150では、テープ状の超電導線材160が、支持部材152の一面152aに形成された溝部154内に配置されている。
【0024】
支持部材152は、常温部からの熱侵入を低減するために低熱伝導性金属材料で製作され、低熱伝導性金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金、FRP等が使用される。支持部材152は、本実施の形態では、板状のものとして説明するがこれに限らず、円柱状、円筒状に形成してもよい。この場合、電極端子131の凹部135は、支持部材152の端部の断面形状に対応した形状である円筒状に形成される。
【0025】
溝部154は、支持部材152の一面152aに、支持部材152の長手方向(通電方向)に沿って互いに並行に延在するように複数形成されている。支持部材152の一面152aにおいて、延在方向に延びる側辺どうしの間の長さTを36mmとした場合、溝部154同士の間隔Dは、例えば、1mmとしている。ここで、溝部154同士の間隔Dについては、所望の電流値によって決定すればよい。例えば、大電流が必要であれば間隔Dを狭めて溝部154の数を増やして配置する超電導線材160を増やせばよい。また逆に、少電流で十分であれば間隔Dを広げて溝部154の数を減らして配置する超電導線材160を減らせばよい。
【0026】
溝部154は、各溝部154内に配置される複数の超電導線材160同士が、幅よりも長さの短い厚み方向で所定間隔をあけて互いが重なるように、支持部材152の一面152aに形成されることが望ましい。ここでは、各溝部154は、一面152aにおいて、深さを超電導線材160の幅に、幅を超電導線材160の厚みに対応するように形成されている。
【0027】
なお、溝部154の深さは、溝部154内に配置される超電導線材160の幅×1/2以上であることが好ましい。溝部154の幅は、収容する超電導線材160の厚さに対応する。例えば、溝部154内に、超電導線材160を複数重ねて配置する場合では、溝部154の幅は、複数枚の超電導線材160の合計の厚さと同等の長さとする。
【0028】
各溝部154内の各超電導線材160において、支持部材152の一端部152cにおける溝部154内の部位は、電極端子131に、凹部135内でハンダを介して電気的に接続されている。
【0029】
また、各溝部154内の各超電導線材160において、支持部材152の他端部152dにおける溝部154内の部位は、電極端子133の一端面133aに形成された凹部135内で、ハンダ等を介して電極端子133に電気的に接続されている。なお、ここでは、超電導線材160の安定化層164(図4参照)が、電極端子131、133の凹部135内において対向する内壁面にそれぞれハンダを介して電気的に接続されている。
【0030】
超電導線材160の長さは、その両端部が、それぞれ支持部材152において凹部135と嵌合する部分(両端部152c、152d)の溝部154内に位置する長さである。ここでは、超電導線材160の長さは、支持部材152と略同じ長さとしている。
【0031】
また、これら複数の超電導線材160は、電極端子131、133の凹部135内に挿入された端部でのみ支持部材152に固定されている。ここでは、複数の超電導線材160は、電極端子131、133の凹部135内でのみ支持部材152にハンダにより固定されたものとしたが、接着剤により固定されてもよい。
【0032】
図4に示すように超電導線材160は、テープ状の金属基板161に、中間層162、テープ状の酸化物超電導層(以下、「超電導層」と称する)163、安定化層164を順に積層されることによって形成される。
【0033】
テープ状の金属基板161は、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、ステンレス鋼又は銀(Ag)である。金属基板161は、ここでは、無配向金属基板であり、Ni−Cr系(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)等の材料に代表される立方晶系のHv=150以上の非磁性の合金である。金属基板161の厚さは、例えば、50〜200[μm]である。
【0034】
中間層162は、IBAD法によりテープ状の金属基板161上に、GdZr(GZO)或いはイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)等を成膜した第1中間層162−1と、第1中間層162−1上にRF−Sputtering法によりCeOを蒸着して成膜される第2中間層162−2とを有する。
【0035】
第1中間層162−1は、テープ状の金属基板161からの元素が上部に積層される超電導層163に拡散することにより超電導特性の劣化を引き起こすことを防止する拡散防止層として機能する。また、第1中間層162−1は、テープ状の金属基板161上に二軸配向してなるセラミック層として機能する。
【0036】
第2中間層162−2は、超電導層163との格子整合性を高め、第1中間層162−1を構成する元素(Zrなど)拡散を抑制する。第2中間層162−2は、CeO膜、CeOにGdを所定量添加したCe−Gd−O膜、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化膜等のような耐酸性の薄膜である。第2中間層162−2は、MOD法(Metal Organic Deposition Processes:金属有機酸塩堆積法)、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法またはCVD法のいずれかの方法により成膜することができる。なお、第2中間層162−2をCeO膜にGdを添加したCe−Gd−O膜とした場合、超電導層163としてYBCO超電導層を成膜した際に良好な配向性を得るために、膜中のGd添加量を50at%以下にすることが好ましい。
【0037】
なお、第2中間層162−2は、結晶粒配向性が、その上層である超電導層163の結晶配向性と臨界電流値(Ic)に大きく影響を及ぼす。第2中間層162−2は第1中間層162−1上に、RTR式のRF−magnetron sputtering法により成膜される。このRTR式のRF−magnetron sputtering法は、PLD法と同様に、ターゲットと作製した膜の組成ずれが少なく、精確な成膜が可能である一方、PLD法に比べ、メンテナンスコスト等が安価である。なお、中間層162の厚さは、例えば、1[μm]であり、この中間層162上には超電導層163が成膜されている。
【0038】
この超電導層163上には、銀、金、白金等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である安定化層(キャップ層ともいう)164が設けられている。超電導層163は他の金属と反応しやすい活性な材料により構成されるため、金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的に接触すると反応して性能低下を引き起こす。よって、安定化層164は、超電導層163の直上に形成することにより超電導層163の性能低下を防止する。また、安定化層164は、超電導層163に電流が流れているときに、常電導転移した場合のバイパス回路となる。
【0039】
なお、安定化層164の上に、銅等の抵抗の低い低抵抗金属テープ等で第2安定化層を形成してもよい。第2安定化層は、真鍮、Ni、Ni−Cu合金、ステンレス鋼等の高抵抗の金属テープであってもよい。第2安定化層がCuやNi或いはその合金であれば、ハンダ材料に溶け込みにくいため、高温超電導線材160としての性能劣化を防止できる。
【0040】
また、第2安定化層がNi−Cu合金等の高抵抗の金属テープである場合、高温超電導線材160自体を補強して強度を向上させることができるとともに、高温超電導線材160が交流に使用された際の損失を減少させることができる。このように第2安定化層は、安定化層164とともに、超電導層163、つまり、高温超電導線材160としての機械的、化学的、電磁気的および熱的な安定性を確保できる。なお、第2安定化層となるテープの厚さについて、超電導層163が常電導転移した場合のバイパス回路となるような厚さであれば特に限定されないが、50μmから200μm程度が好ましい。超電導線材160が第2安定化層を備える場合、超電導線材160の電極端子131、133への電気的な接続は、第2安定化層と電極端子131、133における凹部135の内壁面の一部とをハンダにより接合することで行われる。
【0041】
図5に示す超電導層163は、ReBaCu系(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7である。)の高温超電導薄膜である。ここでは、超電導層163は、イットリウム系酸化物超電導体(RE123)である。また、超電導層163中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点165として分散している。
【0042】
このような超電導層163を用いたRe系の高温超電導線材160は、基板上に、中間層162を介して原料溶液を塗布した後、仮焼熱処理を施し、次いで超電導体生成の熱処理を施すことによりReBaCu系超電導体を製造する。この方法において、原料溶液として、Re(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示す。)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液とBaと親和性の大きいZr、Ce、Sn又はTiから選択された少なくとも1種以上の金属を含む有機金属錯体溶液からなる混合溶液を用い、Baのモル比をy<2の範囲内とするとともに、超電導体中にZr、Ce、Sn又はTiを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させることにより製造することができる。
【0043】
また、基板上に中間層を介して形成したReBaCu系超電導体において、ReをRe=A1−xの組成とし、A及びBは、それぞれY、Nd、Sm、Gd又はEuから選択されたいずれか1種以上の異なる元素からなり、Baのモル比をy<2の範囲内とするとともに、超電導体中にZrを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させて形成してもよい。この場合、ReBaCu系超電導体を製造する方法において、原料溶液として、Re(Re=A1−xの組成を有し、A及びBは、それぞれY、Nd、Sm、Gd又はEuから選択されたいずれか1種以上の異なる元素を示す。)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液とBaと親和性の大きいZr、Ce、Sn又はTiから選択された少なくとも1種以上の金属を含む有機金属錯体溶液からなる混合溶液を用い、Baのモル比をy<2の範囲内とするとともに、前記超電導体中にZr、Ce、Sn又はTiを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させることにより製造できる。
【0044】
また、Re=A1−xの組成を有するRe系の超電導層では、Re=Y1−xSmの組成とすることが好適する。この場合には、超電導体中にSmを含む酸化物粒子及びZrを含む50nm以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点165として分散させることができる。
【0045】
このようなRe系の超電導層163及びその製造方法において、Baのモル比を1.3<y<1.8の範囲内とすることが好ましい。Baのモル比をその標準モル比より小さくすることにより、Baの偏析が抑制され、結晶粒界でのBaベースの不純物の析出が抑制される結果、クラックの発生が抑制されるとともに、結晶粒間の電気的結合性が向上して通電電流によって定義されるJcが向上する。Baのモル比を低減することにより、磁束ピンニング点165であるYCuやCuOが形成され、磁界特性が改善される。
【0046】
また、超電導層163中に人工的に導入される磁束ピンニング点165として分散するZr、Ce、Sn又はTiを含む酸化物粒子は、50nm以下とされるが、特に、5〜30nmのZrを含む酸化物粒子であることが好ましい。
【0047】
この場合、Y1−xSmの組成を用いた場合には、超電導層163中にlow−Tc相である粒子状のSmーrich相(Sm1+xBa2−xCu)が磁束ピンニング点165として形成される。超電導層163では、磁束ピンニング点165がSmを含む酸化物粒子及び5〜30nmのZrを含む酸化物粒子により形成される結果、著しくピンニング力が向上する。
【0048】
人工的に導入される磁束ピンニング点165を形成するために添加されるZrの添加量は、金属濃度で0.5〜10モル%であることが好ましく、Zrの添加量が0.5モル%未満の場合、酸化物粒子の密度が十分でないため、高磁場で十分なピンニング力が得られず、一方、10モル%を超えると析出物が粗大化して結晶性を低下させる。特に、金属濃度で0.5〜5モル%の範囲が好ましい。
【0049】
超電導線材160における超電導層163は、MOD法、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法またはCVD法のいずれかの方法で、中間層162上に成膜される。ここでは、超電導層163は、TFAーMOD法で成膜され、TFAーMOD法によるRe系超電導層に磁束ピンニング点165を導入する手法として、TFAを含む溶液中にBaと親和性の高いZr含有ナフテン酸塩等を混合する手法が採用されている。
【0050】
また、その導入量を制御することで、粒界偏析によるJc低下の要因の一つであるBaと結合してBaZrOを形成し、粒内に分散させることにより粒界特性が改善される。さらに、超電導体内に形成されたBaZrO、ZrOが膜面方向だけでなく、膜厚方向にもナノサイズ、ナノ間隔に存在しこれらが磁束を有効にピンニングし、磁場印加角度に対するJcの異方性を著しく改善することが可能となる。また、BaZrO、ZrOのサイズ、密度及び分散を制御するためには、Zr含有ナフテン酸塩等の導入量だけでなく、仮焼熱処理時及び結晶化熱処理時の酸素分圧、水蒸気分圧、焼成温度の制御により可能となり、これらの最適化を行うことにより有効な磁束ピンニング点165の導入が可能となる。
【0051】
Ba濃度を低減したRe系超電導層において、超電導体中に人工的にZr含有磁束ピンニング点165を微細分散させることができる。
【0052】
よって、Jcの磁場印加角度依存性が小さく、かつ、高磁場で高いJcを有する磁場特性を有するとともに、Jcの磁場印加角度依存性(Jc,min/Jc,max)も著しく向上する。このため、あらゆる磁場印加角度方向に対しても有効に磁束をピンニングして、Jc−B−θ特性(図6参照)を向上させることができ、等方的Jc特性が得られる。
【0053】
ここで超電導層163中に、磁束ピンニング点165、特に、Zr含有磁束ピンニング点を備える超電導線材の特性について説明する。
【0054】
<磁束ピンニング点を含む超電導層の特性>
<超電導電流リード100に採用する超電導線材の一例であって、磁束ピンニング点を含む超電導層を備える採用例>
採用例では、磁束ピンニング点を含む超電導層が設けられる基板として、ハステロイテープ上にIBAD法によりGdZrから成る第1中間層及びPLD法によりCeOからなる第2中間層を順次形成した複合基板を用いた。この場合の第1中間層及び第2中間層のΔφは、それぞれ14deg.及び4.5deg.であった。
【0055】
一方、Y―TFA塩、Sm−TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Sm:Ba:Cuのモル比が0.77:0.23:1.5:3となるように有機溶媒中に混合し、この混合溶液中にZr含有ナフテン酸塩を金属モル比で1%配合して原料溶液を作製した。
【0056】
上記の複合基板の第2中間層上に原料溶液を塗布し、次いで、仮焼熱処理を施した。仮焼熱処理は、水蒸気分圧16Torrの酸素ガス雰囲気中で最高加熱温度(Tmax)500℃まで加熱した後、炉冷することにより施した。
【0057】
以上の仮焼熱処理の後、超電導体生成の熱処理(結晶化熱処理)を施して複合基板上に超電導膜を形成した。この熱処理は、水蒸気分圧76Torr、酸素分圧0.23Torrのアルゴンガス雰囲気中で760°の温度で保持した後、炉冷することにより施した。
【0058】
以上の方法により製造したテープ状Re系超電導体(YSmBCO+BZO)の膜厚は0.8μmであった。
【0059】
このようにして得られた超電導膜について、その磁場印加角度依存性、即ち、c軸に平行な方向(ab面に垂直)に外部磁場を印加し、その値を変化させたときのJc(77K)を測定した。その結果を図6に示す。また、この超電導膜について、その磁場印加角度依存性、即ち、1Tの外部磁場を印加し、ab面に対する角度を変化させたときのJc(77K)を測定した。その結果を図7に示す。図7において、Jcの磁場印加角度依存性はJc,min/Jc,max=0.91であった。
【0060】
このときの磁束ピンニング点は、Sm1+xBay=2−xCu(low−Tc相)、BaZrO及びZrOであり、約20nm(5〜25nm)程度のBaZrO及びZrOが超電導膜の(c軸に平行な)断面内において、おおよそ50nmの間隔でその膜厚方向に均一に分散していることが確認された。
【0061】
<不採用例1>
採用例と同様の複合基板を用い、Y―TFA塩、Sm−TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Sm:Ba:Cuのモル比が0.77:0.23:1.5:3となるように有機溶媒中に混合して原料溶液を作製した。上記の複合基板の第2中間層上に原料溶液を塗布し、次いで、採用例と同様にして仮焼熱処理及び超電導体生成の熱処理(結晶化熱処理)を施して複合基板上に超電導膜を形成した。以上の方法により製造したテープ状Re系超電導体(YSmBCO)の膜厚は0.8μmであった。
【0062】
このようにして得られた超電導膜について、そのJcの磁場依存性を採用例と同様にして測定した。その結果を図7に示した。また、この超電導膜について、Jcの磁場印加角度依存性を採用例と同様にして測定した。Jcの磁場印加角度依存性はJc,min/Jc,max=0.6であった。このときの磁束ピンニング点は、Sm1+xBay=2−xCu(low−Tc相)であり、約100nm程度であった。
【0063】
<不採用例2>
採用例と同様の複合基板を用い、Y―TFA塩、Ba―TFA塩及びCuのナフテン酸塩をY:Ba:Cuのモル比が1:1.5:3となるように有機溶媒中に混合して原料溶液を作製した。
【0064】
上記の複合基板の第2中間層上に原料溶液を塗布し、次いで、採用例と同様にして仮焼熱処理及び超電導体生成の熱処理(結晶化熱処理)を施して複合基板上に超電導膜を形成した。以上の方法により製造したテープ状Re系超電導体(YBCO)の膜厚は0.8μmであった。
【0065】
このようにして得られた超電導膜について、そのJcの磁場依存性を採用例と同様にして測定した。その結果を図6に示した。また、この超電導膜について、Jcの磁場印加角度依存性を採用例と同様にして測定した。その結果を図7に示した。図7において、Jcの磁場印加角度依存性はJc,min/Jc,max=0.47であった。
【0066】
以上、図6及び図7に示す採用例及び不採用例の結果から明らかなように、磁束ピンニング点を含む超電導層であるテープ状Re系超電導体(YSmBCO+Zr含有酸化物粒)は、Yの一部をSmに置き換えた不採用例1のテープ状Re系超電導体(YSmBCO)及びBa濃度を標準組成よりも低減した不採用例2のテープ状Re系超電導体(YBCO)と比較してJcの磁場依存性が小さく、かつ、高磁場で高いJcを有する磁場特性を示している。
【0067】
また、c軸に平行な方向(ab面に垂直)に1Tの外部磁場を印加した場合(77K)、不採用例1の(YSmBCO)は不採用例2の(YBCO)と比較して1.3倍のJcを有するが、採用例の(YSmBCO+Zr含有酸化物粒)は不採用例2の(YBCO)と比較して2.2倍のJcを有する。更に、採用例の(YSmBCO+Zr含有酸化物粒)の磁場印加角度依存性(Jc,min/Jc,max)も、不採用例2のYBCO及び不採用例1のYSmBCOがそれぞれ0.47及び0.6と異方性を示すのに対して0.91と著しく向上する。
【0068】
よって、磁束ピンニング点165を含む超電導層163は、図5に示すように、超電導層163と平行な磁場IA(c軸に平行)の発生に加えて、超電導層163に対して垂直(ab面に垂直)な磁場IBが発生しても、磁束ピンニング点165によって影響を受けにくく安定した特性を得ることができる。なお、超電導層163においてZr添加を3wt%とすると好適である。
【0069】
図8は、超電導線材160を有するリード本体150の端部を示す斜視図である。
【0070】
図8に示すように超電導電流リード100は、支持部材152の表裏面のうち一方の面(図8では、表面152aを示す)の溝部154内に、作成した複数の超電導線材160をそれぞれ配置してリード本体150とする。
【0071】
溝部154に超電導線材160を配置したリード本体150の一端部151を電極端子131の凹部135内に挿入する。なお、リード本体150の一端部151を凹部135内に挿入する前に、支持部材152の一端部152cと、一端部152cの溝部154内に位置する超電導線材160の一端部とをハンダ或いは接着剤を介して接合しておいてもよい。
【0072】
次いで、リード本体150を挿入した凹部135内に、凹部135の内壁とリード本体150の一端部151との間にハンダを流す。このことによって、超電導線材160は電極端子131に電気的に接続されるとともに電極端子131が支持部材152に接合される。
【0073】
また、凹部135内では、超電導線材160の一端部は、電極端子131を介して支持部材152の一端部152cにハンダによって接合される。これにより、凹部135内に支持部材152の端部151が嵌合し、この凹部135内で、溝部154内の超電導線材160が、電極端子131の凹部135に電気的に接続される。なお、リード本体150の他端部153(図2参照)も同様に、電極端子133の凹部135内に挿入されて、凹部135の内壁に接合される。加えて、超電導線材160の他端部が電極端子133に電気的に接続されるとともに、電極端子133は支持部材152に接合される。
【0074】
このように支持部材152の一面152aの溝部154内に、支持部材152の延在方向に沿って、厚み方向で重なるように配置された超電導線材160は、凹部135内における超電導線材160の両端部でのみ支持部材152に対して接着される。さらに、超電導線材160は、電極端子131、133に対して、凹部135内でのみハンダを介して接続されている。すなわち、超電導電流リード100では、電極端子131、133、支持部材152及び超電導線材160とは、凹部135とリード本体150との嵌合部分152eでのみ接合されることとなる。
【0075】
これにより超電導電流リード100は、湾曲しても、電極端子131、133間に介設されるリード本体150では、支持部材152、超電導線材160が各々個別に独立して変形できる。よって、超電導電流リード100の低温側超電導部120を湾曲させて超電導装置に設置した場合でも、従来と異なり、湾曲することによって、支持部材152、超電導線材160の接続部分が剥離することがない。
【0076】
これに対して、従来の超電導電流リードでは、支持部材にハンダ付けにより超電導線材が接続されているため、従来の超電導電流リードを湾曲させると、支持部材と超電導線材とが剥がれ、その接合部分のハンダによって、支持部材或いは超電導線材の各層を損傷させてしまい、特性を損傷させてしまう可能性がある。
【0077】
特に、設置された超電導電流リードに冷却によって歪みが発生しても、従来と異なり、本実施の形態の超電導電流リード100では、電極端子131、133の凹部135でそれぞれ嵌合したリード本体150の両端部以外の部分で、支持部材152と超電導線材160とが剥離することがない。すなわち、リード本体150が支持部材152または電極端子131から外れない。
【0078】
このように超電導電流リード100では、超電導線材160と電極端子131、133とをハンダ接合する際に、複数の超電導線材160を支持部材152とともに、電極端子131の凹部135内に挿入して嵌合するだけで容易に接続できる。嵌合部分における各溝部154にハンダを流すだけで、容易に電気的接続が可能な状態となる。すなわち、従来と異なり、超電導線材160と電極端子131、133とをハンダ接合する際に、支持部材152の軸方向両端部の溝から延出した超電導線材毎に、電極端子131、133の溝に挿入する煩雑な手間がかからない。
【0079】
また、超電導線材160と電極端子131との電気的な接続も、リード本体150が嵌合した凹部135内にハンダを流すだけで容易に行うことができる。
【0080】
また、超電導電流リード100では、電極端子131、133の凹部135とリード本体150の端部151、153との嵌合部分だけに、ハンダを流し込むことで、電極端子131、133と、リード本体150における支持部材152及び高温超電導線材160との間の接合が行われている。
【0081】
よって、高温超電導線材160は、従来の高温超電導線材と比較して支持部材と高温超電導線材とを接合するハンダの量を減少させることができ、製造コストの低廉化を図ることが出来る。
【0082】
また、高温超電導線材160に歪みが生じても、ハンダを介して支持部材152と超電導線材160とが全面的に接合されていないため、接合された両者が剥離する可能性が小さく、超電導電流リード100自体は安定した特性を維持できる。
【0083】
また、超電導電流リード100は、従来と異なり、支持部材152に超電導線材160がハンダによって全面的に取り付けられていない。このため、ハンダ付けする際の熱の影響を受けにくく、熱による超電導線材160の性能(具体的には超電導層163の性能)の劣化が起こりにくい。
【0084】
さらに、超電導線材160は、超電導層163に磁束ピンニング点165(図5参照)を備えるため、磁場のあるところに磁場の影響を考慮されず、湾曲した状態で設置されても、磁場の影響を受けにくく安定した特性を得ることができる。
【0085】
さらに、支持部材152と超電導線材160とのハンダによる接合部分が、それぞれの両端部(凹部135内に配置される部分)のみであるため、全面的に接合される従来構成と比較して接続抵抗(ハンダ全体の厚み)を小さくできる。
【0086】
このように超電導電流リード100によれば、湾曲した状態で超電導装置に設置されても、磁場の影響を受けにくい優れた特性を有する超電導電流リード100を容易に製造できる。
【0087】
なお、超電導電流リード100において、複数の超電導線材160は、支持部材152の一面152a側に並べて配設される構成としたが、両面に設けてもよい。
【0088】
図9に示すリード本体150Aでは、支持部材152の両面152a、152bにそれぞれ複数の溝部154が、溝幅より溝深さを長くして、支持部材152の長手方向(通電方向)に互いに並行に延在して形成されている。これら溝部154内にそれぞれ超電導線材160が配設されている。なお、図9〜図12は、リード本体、超電導線材の変形例を模式的に示す図であり、リード本体、超電導線材において延在方向と直交する断面を示し、図3と同様に、図1のP−P線矢視断面に相当する。
【0089】
両面152a、152bの各溝部154内に配設された超電導線材160は、長手方向で離間する支持部材152の両端部(図2の152c、152dに相当)の溝部154内の部位でのみ支持部材152に固定される。また、両面152a、152bに配設された複数の超電導線材160は、支持部材152の両端部(図2の152c、152dに相当)とともに、電極端子131、133(図2参照)の凹部135にそれぞれ挿入するだけで、電極端子131、133に接続できる。また、凹部135内にハンダを流すだけで超電導線材160と電電極端子131、133とを電気的に容易に接続できる。
【0090】
また、超電導電流リード100のリード本体150の一面152aにおいて、複数の溝部154間の部位に、超電導線材160を配設する構成としても良い。この一例を図10に示す。図10に示すリード本体150Bでは、支持部材152の両面152a、152bに、支持部材の長手方向(通電方向)に延在するように、且つ、溝幅より溝深さを長くして互いに並行に複数の溝部154が形成され、各溝部154内に超電導線材160が配設されている。これら超電導線材160に加えて、両面152a、152bにおける溝部154間の部位に、複数の超電導線材160が、その金属基板161を一面152aに取り付けた状態で配設されている。
【0091】
なお、超電導線材160が配設される支持部材152に形成される溝部154は、支持部材152の少なくとも一面(ここでは一面152a)に、支持部材の長手方向(通電方向)に延在するように、且つ、互いに並行であれば、どのように形成されてもよい。
【0092】
また、超電導電流リード100において本体リード150、150A、150Bにおける超電導線材160は、図11に示す超電導線材組170に替えて配置してもよい。
【0093】
超電導線材組170は、2枚の超電導線材160の金属基板161同士を合わせて形成され、超電導線材組170の表裏面170a、170bのそれぞれに、導電性の安定化層164が配置されている。この超電導線材組170を備えるリード本体の変形例を図12A、図12Bに示す。
【0094】
図12A、図12Bのリード本体150C、150Dのように、複数の超電導線材組170は、支持部材152の溝部154内に配置される。ここでは、リード本体150C、150Dの支持部材152の一面152aに形成された溝部154内に配設された構成としたが、これに限らない。例えば、リード本体150C、150Dの他面152bにも一面152aと同様な形状の溝部154を形成し、形成した溝部154内に超電導線材160を配設する構成としても良い。この溝部154内に超電導線材160を配置する際に、支持部材152の両端部と、超電導線材160の両端部とを接着剤あるいはハンダにより接合してもよい。
【0095】
このように溝部154に超電導線材160を配置した後、リード本体150C、150Dの両端部(図2の端部151、153に相当)を、電極端子131、133の凹部135(図2参照)内に挿入することで、リード本体150C、150Dの両端部に電極端子131、133(図2参照)を取り付ける。なお、電極端子131、133の凹部135は、リード本体150C、150Dの端部形状に対応して形成される。次いで、溝部154内にハンダを流して接合することで、凹部135内の溝部154内において、超電導線材組170の2つの安定化層164と電極端子131、133とを効率よく電気的に接続できる。
【0096】
<実施例1>
本実施例1では、TFA−MOD法で作製した超電導線材160は、幅が4.5mm、厚さ1.0μmのYBCO超電導層163と、第1中間層162−1をGdZr(GZO)層、第2中間層162−2をCeO層とした厚さ1.5μmの中間層162と、100μm厚のハステロイ(登録商標)であるテープ形状の金属基板161とで構成した。そして、超電導層163の表面には、20μm厚さの銀層(第1安定化層)164が、熱的安定性、電気的接触の安定性、機械的強度などの向上を目的として蒸着されている。輸送電流は、この銀の第1安定化層164を介して供給される。
【0097】
支持部材152は、幅36mm、長さ220mm、板厚15.0mmの形状をしたオーステナイト系ステンレンスの板材とした。このステンレス製板材の片面には、通電方向(長手方向)に延在する12本のスリット状の溝部154が、幅方向に1mm間隔で形成されている。また、溝部154の深さ4.5mm、溝幅123μmである。これらの溝部154内のそれぞれに、YBCO超電導層163を有する超電導線材160(計12本の超電導線材160)を配置することでリード本体150を構成した。
【0098】
リード本体150の両端部は、銅で作製したキャップ状の電圧端子である電極端子131、133を被せた後、市販されているPb−Snハンダを用いて電極端子131、133と超電導線材(YBCO線材)160をハンダ接続した。電極端子131、133は、長さ105mm、幅46mm、板厚30mm、凹部深さ35mmとし、これら電極131,133を使用した超電導電流リードの全長360mmとした。
【0099】
ステンレス製の金属基板161は、過電流通電におけるシャントの役割を担い、且つ薄いテープ状のYBCO線材(超電導線材160)における熱収縮を緩和する役割を果たす。一対の電極端子131、133は、電極端子間距離を150mmとし、各YBCO線材(超電導線材160)毎に12組設置した。
【0100】
すなわち、実施例1の超電導電流リードは、図5に示す超電導層163を備える超電導線材160、つまり、磁束ピンニング点165を含む超電導層163を有する超電導線材160と、電極端子131、133及び支持部材152とを備える。これら超電導線材160、電極端子131、133及び支持部材152は、互いに凹部135内でのみ接合されている。
【0101】
<実施例2>
本実施例2は、上記実施例1において、片面に溝部154が形成されたステンレス製板材のもう一方の片面にも、同様に、溝部154を形成して超電導線材160を配置した超電導電流リードである。すなわち、実施の形態2の超電導電流リードは、幅36mm、長さ220mm、板厚15.0mmのステンレンス製板材の両面のそれぞれに、通電方向(長手方向)に延在する12本のスリット状の溝部154が、幅方向に1mm間隔で形成されている。これら溝部154は深さ4.5mm、溝幅123μmであって内部にそれぞれに、YBCO超電導層163を有する超電導線材160(計24本の超電導線材)が配置されている。リード本体の両端部には、実施例1と同様に構成された電極端子131、133が被せられ、電極端子131、133と超電導線材(YBCO線材)160とがハンダ接続されている。なお、一対の電極端子131、133は、電極端子間距離を120mmであり、各YBCO線材(超電導線材160)毎に24組設置した。電極端子131、133及び支持部材152は、互いに凹部135内でのみ接合されている。
【0102】
このように構成された超電導電流リードを試料として、クライオスタットの液体窒素を寒剤として、湾曲させた状態、具体的には、試料を半径R=10mmの円筒体の外周に沿って湾曲させた状態で浸漬冷却した。この結果を表1で実施例1、実施例2として示す。
【0103】
また、上記実施例1の超電導電流リードにおいて、ピンニング点を含まない超電導線材を有する超電導線材を参考例1とした。すなわち、参考例1は、実施例と同様の超電導電流リード100において、電極端子131、133、支持部材152及び磁束ピンニング点165を含まない超電導線材同士が凹部135内の部分以外、つまり嵌合部分以外では接着されていない超電導電流リードである。また、比較例1は、実施例1と同様の電極、支持部材と、実施例1の超電導線材において磁束ピンニング点を含まない超電導線材とを有し、支持部材と超電導線材とが全面的にハンダ付けされている超電導電流リードである。なお、線材の臨界電流値(I)は、通常の4端子抵抗法を用いて評価し、1μV/cmの電圧基準を用いて定義した。
【0104】
【表1】

表1に示すように電極端子、支持部材、超電導線材の接合部分でのみ、支持部材及び超電導線材同士がハンダ付けされている実施例1の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは2400Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れは見あたらなかった。また、実施例2の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは4800Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れは見あたらなかった。
【0105】
比較例1の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは600Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れが見つかった。
【0106】
このように、実施例1と比較例1との比較でみられるように、湾曲させた状態で超電導装置に設置したとしても、本実施の形態の超電導電流リードは、安定した超電導特性を得ることができる。
【0107】
また、参考例1の超電導電流リードでは、湾曲した状態における超電導特性Iは1200Aであり、支持部材と超電導線材との接合外れは見あたらなかった。
【0108】
なお、本実施の形態の超電導電流リードにおいて、複数の超電導線材における磁束ピンニング点を形成するZrの添加度合いは、それぞれの超電導線材で異なっていても良い。
【0109】
例えば、支持部材の表裏面のうち少なくとも一面に複数の超電導線材が長手方向に沿って並べて配置された構成において、支持部材の両端に近い超電導線材におけるZrの含有度合いを最も大きくするようにしてもよい。
【0110】
例えば、本実施の形態の超電導電流リード100では、12本の超電導線材のうち、支持部材において長手方向に延在する両端側に配置された線材における超電導層に含まれるZrを3wt%とし、これらに隣り合う線材の超電導層のZrを1wt%とする。さらに、1wt%のZrの内側で隣り合う線材の超電導層におけるZrを0wt%とするようにする構成が上げられる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係る超電導電流リードは、安定した超電導特性を得ることができ製造が容易である効果を有し、超電導装置に電流を供給するリードとして有用である。
【符号の説明】
【0112】
11 極低温容器
12 超電導マグネット
100 超電導電流リード
131、133 電極端子
135 凹部
150 リード本体
151 一端部
152 支持部材
152a 一面
152c 一端部
152d 他端部
152e 嵌合部分
154 溝部
160 超電導線材
161 金属基板
162 中間層
163 超電導層
164 安定化層
165 磁束ピンニング点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温容器内に設置された超電導装置に対して、室温環境下に設置された電源から電力を供給し、低温側の少なくとも一部に、酸化物超電導材料からなるテープ状の超電導線材を用いた超電導電流リードにおいて、
前記酸化物超電導材料は、ReBaCuO系(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示す)超電導材料であり、前記超電導材料中には、Y,Zr、Sn、Ti、Ceのうち少なくとも一つを含む50nm以下の酸化物粒子が磁束ピンニング点として分散されており、
通電方向に延在するスリット状の複数の溝部を有し、前記溝部のそれぞれに、複数の前記超電導線材がそれぞれ配置される支持部材と、
前記通電方向と同じ方向に形成された切り欠き部を有する電極端子と、
を備え、
前記切り欠き部に、前記超電導線材が配置された前記支持部材の端部が嵌合され、前記電極端子は、前記切り欠き部内で前記超電導線材に電気的に接続される、
超電導電流リード。
【請求項2】
前記超電導線材は、前記電極端子の切り欠き部と嵌合する一端部と、他端部でのみ、前記支持部材に固定されている、
請求項1記載の超電導電流リード。
【請求項3】
前記磁束ピンニング点は、Zrの酸化物粒子である請求項1又は2記載の超電導電流リード。
【請求項4】
前記酸化物超電導材料は、ReBaCu(Reは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7)系超電導材料である、
請求項1から3の何れか一項に記載の超電導電流リード。
【請求項5】
前記超電導線材は、前記酸化物超電導材料を用いてTFA―MOD法により形成されたYBCO系超電導体を有する、
請求項1から4の何れか一項に記載の超電導電流リード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−64323(P2012−64323A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205168(P2010−205168)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】