超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサアレイ
【課題】送信超音波の出力低下を招くことなく周波数特性を広帯域化することにより、実用的な広帯域超音波トランスデューサを提供する。
【解決手段】複数の電極層と交互に積層された複数の圧電体層であって、該複数の圧電体層のトータルの厚さが、第1の側から第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化している複数の圧電体層12及び13と、該複数の圧電体層上に、電極層を介して形成された音響整合層14とを有する。
【解決手段】複数の電極層と交互に積層された複数の圧電体層であって、該複数の圧電体層のトータルの厚さが、第1の側から第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化している複数の圧電体層12及び13と、該複数の圧電体層上に、電極層を介して形成された音響整合層14とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用や非破壊検査用の超音波撮像装置において用いられる超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波撮像装置(超音波診断装置、超音波検査装置等とも呼ばれる)において超音波の送受信に用いられる素子として、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電材料等の圧電体に電極を形成した超音波トランスデューサが知られている。このような超音波トランスデューサの電極に電圧を印加すると、圧電効果により圧電体が伸縮して超音波が発生する。そこで、このような複数の超音波トランスデューサを1次元又は2次元に配列し、それら超音波トランスデューサを順次駆動することにより、所望の方向に送信される超音波ビームを形成することができる。また、超音波トランスデューサは、被検体から伝播した超音波により伸縮して電気信号を発生する。この電気信号は、超音波の受信信号として用いられる。
【0003】
ところで、超音波診断においては、超音波の周波数帯域の広さが超音波画像の画質の良否に影響することが知られている。一般に、比較的高い周波数を有する超音波は、減衰され易いが、深さ分解能は高く、反対に、比較的低い周波数を有する超音波は、深部まで到達し易いが、深さ分解能が低下し易いという性質を有している。そのため、広い周波数帯域を有する超音波を用いることにより、被検体における微細な構造や組織を識別して、良質な超音波画像を得ることができる。
【0004】
ここで、振動子における周波数帯域は、圧電材料の組成や、グレインサイズや密度等の構造に依存しており、材料が同一である場合には、振動子の厚さによって既定される。そのため、圧電材料の組成等を変更することによって振動子の帯域を変化させることはできるが、帯域を広くすることは容易ではない。
【0005】
特許文献1には、各々が、互いに向かい合う第1の面及び第2の面に第1の電極及び第2の電極がそれぞれ形成された圧電材料層を含む複数の超音波トランスデューサであって、第1の面に対して第2の面が傾斜を有する複数の超音波トランスデューサと、該複数の超音波トランスデューサの間に配置された充填材とを含む超音波トランスデューサアレイが開示されている。即ち、特許文献1においては、振動子の厚さを場所により変化させることによって、周波数帯域を広げている。
【0006】
ところで、図12の(a)は、一般的な超音波トランスデューサの構造を示しており、図12の(b)は、そこから送受信される超音波の周波数特性を示している。図12の(a)に示すように、一般的な超音波トランスデューサにおいては、厚さが略均一な圧電体層91の両面に電極92及び93が形成されており、さらに、音響整合層94が配置されている。また、図13の(a)は、特許文献1に開示されている広帯域超音波トランスデューサの構造を示しており、図13の(b)は、そこから送受信される超音波の周波数特性を示している。図13の(a)に示すように、この広帯域超音波トランスデューサにおいては、傾斜を有する圧電体層95の両面に電極96及び97が形成されており、さらに、音響整合層98が配置されている。図12の(b)及び図13の(b)において、横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、超音波トランスデューサに所定の電圧を印加することにより超音波を送信し、その反射波を受信することによって超音波トランスデューサから出力される電圧(受信電圧、任意の単位)を示している。
【0007】
ここで、特許文献1にも記載されているように、超音波トランスデューサの振動の周波数は、圧電材料の厚さと反比例する関係にある。そのため、図13の(a)に示すように、圧電材料の厚さがZ1〜Z3の各部分に応する周波数特性を合成することにより、広帯域化された周波数特性が得られる。図13の(b)は、説明を簡単にするために、厚さがZ1及びZ3、並びに、その中間のZ2の3箇所における周波数特性を合成することにより得られたものである。
【0008】
図12の(b)と図13の(b)とを比較して明らかなように、一般的な超音波トランスデューサにおいては周波数帯域幅が約50%となっているのに対して、広帯域超音波トランスデューサにおいては周波数帯域幅が約63%となっており、広帯域化されていることがわかる。ここで、周波数帯域幅(%)とは、音圧がピーク値から6dB減衰する2つの周波数fHとfLとの幅Δf=fH−fLを、それらの中心値(中心周波数)fC=(fH+fL)/2で割ることによって得られる(Δf/fC)。
【0009】
しかしながら、一方で、広帯域超音波トランスデューサの受信電圧は全体的に低下しており、一般的な超音波トランスデューサを基準とすると、約46%となっている。これは、放出されるエネルギーが広帯域化によって分散するためと考えられる。
また、超音波トランスデューサアレイを超音波内視鏡に適用する場合には、アレイ全体を小型化する必要があるが、そのような場合に、超音波トランスデューサが接続される送信系回路(駆動システム)や、配線ケーブルとの電気的なマッチングを取ることが困難になる。
【特許文献1】特開2005−110116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、超音波の出力低下を招くことなく周波数特性を広帯域化することにより、実用的な広帯域超音波トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る超音波トランスデューサは、複数の電極層と交互に積層された複数の圧電体層であって、該複数の圧電体層のトータルの厚さが、第1の側から第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化している複数の圧電体層と、該複数の圧電体層上に、電極層を介して形成された音響整合層とを具備する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電体層の厚さを傾斜的に変化させることによって超音波トランスデューサを広帯域化すると共に、複数の圧電体層を積層することによって出力の低下を補うので、実用に適した広帯域超音波トランスデューサを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波トランスデューサを示す斜視図である。図1の(a)に示すように、本実施形態に係る超音波トランスデューサは、例えば、底面の幅が0.1mm〜15mm程度、高さが0.2mm〜1.0mm程度の微小な柱状の構造体であり、下部電極層11と、厚さが傾斜的に変化する圧電体層12と、厚さが略均一な2つの圧電体層13と、音響整合層14と、それらの間に配置されている複数の内部電極層15a〜15cとを有している。また、本実施形態に係る超音波トランスデューサは、内部電極層15a〜15cの端面(図1において超音波トランスデューサの左右の側面に露出している部分)に左右交互に形成された絶縁膜16を含んでも良く、図1の(b)に示すように、側面電極17a及び17bを含んでも良い。なお、図1の(a)には、2つの圧電体層13が示されているが、圧電体層13は少なくとも1層あれば良く、3つ以上あっても構わない。
【0014】
圧電体層12及び13は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電材料等によって形成されている。これらの圧電体層12及び13は、その両面に形成されている下部電極層11や内部電極層15a〜15cを介して電界を印加されることにより伸縮する。
【0015】
圧電体層12において、上面(内部電極15a側)は、下面(下部電極層11側)に対して傾斜している。また、圧電体層13は、圧電体層12の斜面上に配置されている。それにより、積層された圧電体層12及び13のトータルの厚さが、Z1からZ3に傾斜的に変化する。ここで、超音波トランスデューサの共振周波数f0は、圧電体層の厚さに対して反比例する関係にあるので、このように少なくとも1つの圧電体層に傾斜を設けることにより、超音波トランスデューサの共振周波数を広帯域化することができる。
【0016】
音響整合層14は、例えば、超音波を伝え易いパイレックス(登録商標)ガラスや金属粉入りエポキシ樹脂等によって形成されており、生体である被検体と超音波トランスデューサとの間の音響インピーダンスの不整合を解消することにより、超音波の伝播効率を高める。図1の(a)に示すように、音響整合層14の形状は、その下面(内部電極15c側)が圧電体層12および13の傾斜に沿っており、その上面が圧電体層12の下面に対して平行となるように設計されている。それにより、超音波トランスデューサ10が、全体として直方体形状となる。
【0017】
絶縁膜16は、超音波トランスデューサ10の向かい合う2つの面(図1においては、左側及び右側)に露出している下部電極層11及び内部電極15a〜15cの端面を、左右交互に覆うように形成されている。
【0018】
このような超音波トランスデューサを駆動する場合には、図1の(b)に示すように、超音波トランスデューサ10の1つの側面に、絶縁膜16の外側を通るように側面電極17aを形成すると共に、他の側面に、絶縁膜16の外側を通るように側面電極17bを形成する。それにより、内部電極層15aと内部電極層15cとが電気的に接続され、下部電極層11と内部電極層15bとが電気的に接続される。そして、側面電極17a及び17bを介して、所定の波形(例えば、パルス波)を有する駆動信号を超音波トランスデューサ10に供給する。
【0019】
なお、絶縁膜16及び側面電極17a及び17bが形成される面は、図1に示す2つの面に限られず、下部電極層11及び内部電極15a〜15cを1層おきに共通配線できれば超音波トランスデューサのどの領域でも構わない。例えば、図1の手前及び奥側の面(即ち、電極層が傾斜している面)に絶縁膜16及び側面電極17a及び17bを形成しても良い。或いは、側面電極を形成する替わりに、下部電極層11及び内部電極層15a〜15cにリード線を接続しても良い。
【0020】
図2は、図1に示す超音波トランスデューサ10から送受信される超音波の周波数特性のシミュレーション結果を示している。
このシミュレーションにおいては、圧電体層12及び13の音響インピーダンスを34Mraylとし、各部分(図の左端、中央、右端)の厚さを、それぞれ、Z1=342μm、Z2=273.6μm、Z3=228μmとした。そして、それらの3箇所における周波数特性を合成したものを、本実施形態に係る超音波トランスデューサの周波数特性とした。なお、各部分の厚さに対応する中心周波数は、それぞれ、Z1:6.0MHz、Z2:7.5MHz、Z3:9.0MHzである。
【0021】
また、音響整合層14については、音響インピーダンスを6Mraylとし、次のように形状を設計した。即ち、下面については、圧電体層12及び13の傾斜に合わせ、上面については、圧電体層12の下面に対して平行にすることにより、超音波トランスデューサ全体が直方体形状となるようにした。その際に、中央部分(圧電体層の厚さがZ2の部分の上部)の厚さを、厚さZ2の圧電体層から発生する超音波(中心周波数:7.5MHz)の音響整合層14における伝播波長の1/4となるように設定した。このときに、最も高い伝播効率が得られるからである。その結果、音響整合層14の各部分の厚さは、左端において14.93μmとなり、中央部分において83.3μmとなり、右端において128.93μmとなった。
さらに、音響インピーダンスが5.5Mraylのバッキング材を超音波トランスデューサの背面に配置するという条件でシミュレーションを行った。
【0022】
図2の(a)は、(i)本実施形態に係る超音波トランスデューサ(図1参照)の周波数特性(広帯域・3層)と、(ii)圧電体層の積層数を2層とした超音波トランスデューサ(図1において、圧電体層13を1つにしたもの)の周波数特性(広帯域・2層)と、比較のために、(iii)圧電体層が単層の広帯域超音波トランスデューサの周波数特性(広帯域・単層)と、(iv)圧電体層の厚さが均一で単層の一般的な超音波トランスデューサの周波数特性(通常)とを示している。また、Z1、Z2、Z3と記載されている3つの曲線は、圧電体層の厚さがそれぞれZ1、Z2、Z3である超音波トランスデューサ(単層)の周波数特性を示しており、広帯域・単層の超音波トランスデューサの周波数特性を求める際に用いたものである。図2の(a)において、横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、超音波トランスデューサ超音波を送信し、その反射波を受信することによって超音波トランスデューサから出力された電圧(受信電圧、任意の単位)を示している。即ち、縦軸は、送信効率×受信効率を意味する。また、図2の(b)は、図2の(a)に示された周波数特性の内で、(i)広帯域・3層の周波数特性と、(iv)通常の周波数特性とを規格化したものである。
【0023】
図2の(a)に示すように、圧電体層の厚さを傾斜的に変化させた超音波トランスデューサにおいては、いずれも、通常の超音波トランスデューサよりも広帯域化されている。例えば、図2の(b)示すように、通常の超音波トランスデューサの周波数帯域幅が約50%であるのに対して、広帯域の超音波トランスデューサの周波数帯域幅は約63%まで広がっている。また、広帯域の3つの超音波トランスデューサを比較すると、層数を増やすほど受信電圧が上昇していることが確認される。これは、全体の厚さを変えずに圧電体層の層数を増やすと(即ち、各圧電体層が薄くなる)、各圧電体層に印加される電界強度が大きくなるからである。
【0024】
なお、Z1、Z2、Z3の周波数特性を比較すると、Z2の受信電圧と比較して、Z1及びZ3の受信電圧は全体的に低下している。これは、音響整合層が、圧電体層の厚さがZ2の場合に適切な伝播効率が得られるように設計されているからである。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、圧電体層の厚さを傾斜的に変化させることにより、超音波トランスデューサの振動の周波数を広帯域化させることができる。また、その際に、複数の圧電体層を積層することにより、超音波の出力低下を抑制することができる。従って、超音波トランスデューサを小型化しても送信感度を維持できるようになるので、そのような超音波トランスデューサを適用した超音波用探触子や超音波内視鏡全体を、性能を維持したまま広帯域化及び小型化することが可能になる。さらに、圧電体層を積層することにより、送信系回路(駆動システム)や配線ケーブルとの電気的なマッチングを取り易くなるので、送信感度及び受信感度を向上させることが可能になる。
また、本実施形態においては、超音波トランスデューサ全体を直方体形状としているので、音響整合層14上に別の音響整合層や音響レンズを配置する場合には、設計や操作性が容易となる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図3を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図1に示す音響整合層14の替わりに、図3に示す音響整合層21を配置したものである。その他の構成については、図1に示すものと同様である。
【0027】
ここで、先に図2の(a)に示したように、圧電体層の特定の部分の厚さ(例えば、Z2)に合わせて音響整合層を設計すると、それ以外の部分の厚さ(例えば、Z1及びZ3)に対応する周波数成分の伝播効率が低下してしまう。そこで、本実施形態においては、圧電体層の各部分の厚さに対応する周波数成分について、適切な伝播効率が得られるように音響整合層を設計している。
【0028】
即ち、超音波が音響整合層を通過する場合に、音響整合層の厚さがそこを伝播する超音波の波長λの1/4倍となっているときに、最も伝播効率が良くなる(以下において、λ/4整合という)。そのため、音響整合層21の各部分は、その下部の圧電体層12及び13の厚さに対応する周波数成分についてλ/4整合が満たされるように、厚さを規定されている。ここで、音響整合層21における音速をcとし、超音波の周波数をfiとすると、波長λiは、λi=c/fiによって表される。従って、音響整合層21の左端の厚さd1は、厚さがZ1の圧電体層から発生する超音波の中心周波数をf1とすると、d1=(c/f1)/4となる。また、音響整合層21の右端の厚さd3は、厚さがZ3の圧電体層から発生する超音波の中心周波数をf3とすると、d3=(c/f3)/4となる。
【0029】
音響整合層21をこのように設計することにより、厚さが傾斜的に変化する圧電体層12及び13から発生する超音波の各帯域について、音響エネルギーのロスを低減できるようになる。その結果、帯域にかかわらず、超音波の送受信効率を向上させることが可能になる。
【0030】
図4は、図3に示す超音波トランスデューサから送受信される超音波の周波数特性のシミュレーション結果を示している。図4の(a)の横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、超音波トランスデューサ超音波を送信し、その反射波を受信した超音波トランスデューサから出力された電圧(受信電圧、任意の単位)を示している。また、図4の(b)は、図4の(a)を規格化したものである。
【0031】
このシミュレーションにおいては、圧電体層12及び13の音響インピーダンスを34Mraylとし、各部分(図の左端、中央、右端)の厚さを、それぞれ、Z1=342μm、Z2=273.6μm、Z3=228μmとした。なお、それらの部分における周波数特性の中心周波数は、それぞれ、Z1:6.0MHz、Z2:7.5MHz、Z3:9.0MHzである。また、音響整合層21の音響インピーダンスを8Mraylとし、各部分(左端、中央、右端)の厚さを、λ/4整合が取れるように、それぞれ、106.64μm、83.33μm、69.32μmとした。さらに、音響インピーダンスが5.5Mraylのバッキング材を超音波トランスデューサの背面に配置するという条件で計算を行った。
【0032】
図4の(b)に示すように、圧電体層の厚さがZ2の超音波トランスデューサの周波数特性と、圧電体層の厚さがZ1〜Z3の範囲で変化する広帯域超音波トランスデューサの周波数特性とを比較すると、前者の帯域幅が約56%であるのに対して、後者の帯域幅は約62%まで拡がっており、広帯域化されていることが確認できる。また、受信電圧のレベルは、中心付近だけでなく、低域側及び高域側を含めて全体的に上昇している。
【0033】
このように、本実施形態によれば、圧電体層の各部分の厚さに応じて音響整合層の形状を決定するので、低域から高域に渡る広い帯域について、超音波の伝播効率を向上させることが可能になる。
【0034】
次に、本発明の第3の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図5を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図3に示す2つの圧電体層13及び音響整合層21の替わりに、図5に示す2つの圧電体層31及び32並びに音響整合層33を配置したものである。その他の構成については、図3に示すものと同様である。
【0035】
本実施形態においては、圧電体層12だけでなく、その上に配置された圧電体層31及び32についても、厚さを傾斜的に変化させている。また、音響整合層33は、傾斜的に変化する圧電体層12、31、32の各部分に対してλ/4整合が満たされるように設計されている。
【0036】
このように、各圧電体層12、31、32の厚さを傾斜的に変化させることにより、低域〜高域を含む面内(図3においては紙面に平行な面内)における超音波の放射特性を均一にすることができる。それにより、送信パワーや、送信感度及び受信感度を、周波数帯域によらず均一にできるので、超音波を発生させるための駆動信号や超音波を受信することによって出力された受信信号に対する信号処理を簡単にすることができる。
【0037】
次に、本発明の第4の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図6を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図5に示す超音波トランスデューサに対して、ダミー層41を更に設けたものである。ここで、図5に示す超音波トランスデューサにおいては、圧電体層12、31及び32、並びに、音響整合層33の各々において、低域側(図の左側)を厚くしているので、超音波トランスデューサ全体として、低域側と高域側との厚さの差が大きくなる。ところが、音響整合層33の上に音響レンズを配置することや操作性等を考慮すると、超音波トランスデューサの上面(超音波送受信面)を下面に対して平行にする方が実用的であり好ましい。そこで、本実施形態においては、音響整合層33上にダミー層41を設けることにより、低域側と高域側との厚さのギャップを解消している。
【0038】
ダミー層41の材料としては、超音波の伝播効率を妨げないように、例えば、シリコーンゴムのように、音響インピーダンスが比較的生体に近い材料を用いることが望ましい。
なお、このようなダミー層を図3に示す超音波トランスデューサに設けても良い。
【0039】
次に、本発明の第5の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図7を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図5に示す超音波トランスデューサ10に対して、傾斜を有するバッキング層42をさらに設けたものである。ここで、先にも述べたように、超音波トランスデューサの超音波送信面は、超音波トランスデューサの背面に対して平行である方が望ましい。そこで、本実施形態においては、傾斜を有するバッキング層42を圧電体層12の背面に配置している。
【0040】
次に、本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイについて、図8を参照しながら説明する。
図8に示すように、この超音波トランスデューサアレイには、配線52及び53が形成されているバッキング層51と、その上に配列された複数の超音波トランスデューサ10とを含んでいる。図示されていないが、これらの超音波トランスデューサ10の間や周囲には、超音波トランスデューサ10の配置を固定すると共にそれらを保護する充填材が配置されている。
【0041】
複数の超音波トランスデューサ10は、例えば、アジマス方向(走査方向)に128行、エレベーション方向(アジマス方向に直交する方向)に7列となるように配列されている。各超音波トランスデューサ10は、圧電体層12(図1)がアジマス方向において傾斜するように配置されている。また、1行に含まれる7個の超音波トランスデューサ10は、側面電極17a及び17bを介して、共通配線52及び53にそれぞれ接続されている。さらに、これらの超音波トランスデューサ10の上部には、超音波を所定の深度に収束させる音響レンズが配置される。
【0042】
このような超音波トランスデューサアレイにおいて、共通配線された超音波トランスデューサ10を1行単位、又は、数行単位で駆動することにより、所定の深度に焦点を有する超音波ビームが送信される。このような動作を、アジマス方向について順次行うことにより、被検体が超音波ビームによって走査される。
なお、本実施形態においては、第1の実施形態に係る超音波トランスデューサによってアレイを形成しているが、その替わりに、第2〜第5の実施形態に係る超音波トランスデューサを適用しても良い。
【0043】
図9は、本実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの変形例を示している。図9に示すように、各超音波トランスデューサ10は、圧電体層12(図1)がエレベーション方向において傾斜するように配置しても良い。
【0044】
次に、本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの製造方法について、図10及び図11を参照しながら説明する。
まず、図10の(a)に示すように、厚さが傾斜的に変化している圧電体層61と、電極層62と、圧電体層63とを含むシート状の積層体を形成する。ここで、圧電体層63は、少なくとも1層形成すれば良い。或いは、電極層62と圧電体層63とを交互に3層以上形成しても良い。また、圧電体層63の厚さは均一であっても良いし、圧電体層61と同様に傾斜的に変化させても良い。このようなシート状の積層体は、厚さが均一な圧電体層と電極層とを交互に積層し、その後で、最下層の圧電体層を斜めに研磨することによって作製される。或いは、グリーンシート法を用い、圧電材料の層を形成する際に、スキージを傾けることによりその厚さを変化させても良い。後者は、2層目以上の圧電体層に傾斜を設ける場合にも適用できる。
【0045】
次に、図10の(a)に示す破線においてシート状の積層体を切断することにより、図10の(b)に示すように、バー状の積層体を順次作製する。そして、圧電体層61の底面を研磨することにより、複数のバー状の積層体の高さを揃える。
【0046】
次に、図10の(c)に示すように、圧電体層61の下面に電極層64を形成すると共に、圧電体層63の上面に電極層65を形成する。さらに、電極層65上に、音響整合層66を配置する。なお、図10の(c)には、上面が水平(圧電体層61の下面に対して平行)な音響整合層66が示されているが、図3に示すように、圧電体層61及び63の厚さに応じて上面が傾斜する音響整合層を形成しても良い。
【0047】
次に、図10の(d)に示すように、バー状の積層体の長手方向に平行な2つの側面に、電極層64、62、65を交互に覆うように絶縁膜67を形成する。絶縁膜67は、ディスペンサを用いて樹脂材料を塗布して硬化させることによって形成しても良いし、電着法やスパッタ法によりガラス等の絶縁材料を成膜することによって形成しても良い。
【0048】
次に、図11の(a)に示すように、絶縁膜67の外側に側面電極68を形成する。側面電極68は、2つの側面全体に形成しても良いし、後の工程における切断ピッチに合わせてパターン形成(図1参照)しても良い。それにより、バー状の超音波トランスデューサ69が作製される。
【0049】
次に、図11の(b)に示すように、バー状の超音波トランスデューサ69を、基板71上にアジマス方向のピッチに合わせて配置する。そして、図11の(c)に示すように、バー状の超音波トランスデューサ69を、エレベーション方向のピッチに合わせて切断する。それにより、超音波トランスデューサ10の配列が形成される。さらに、これらの超音波トランスデューサ10の間に充填材を流し込んで固化させることによって配列を固定する。そして、基板71を除去して、その替わりに予め配線が形成されたバッキング材を配置する。それにより、図8に示す超音波トランスデューサアレイが完成する。
【0050】
(実施例)
本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイを作製し、その特性を試験した。実験条件及び結果は次の通りである。なお、33モードにおける音速を3100m/sとし、スライバーモードにおける音速を4100m/sとした。ここで、33モードとは、1辺の長さがwである略正方形を底面とする超音波トランスデューサにおいて、厚さ(高さ)をtとするときに、w/tが約0.6以下の場合における振動モードのことを言う。また、スライバーモードとは、一方の辺の長さがW0(固定値)であり、他方の辺の長さがw(w<w0)である長方形を底面とする棒状の超音波トランスデューサにおいて、厚さ(高さ)をtとするときに、w/tが0.6近傍の場合における振動モードのことを言う。
(1)超音波トランスデューサA
サイズ:底面0.3mm×0.3mm、高さ0.478mm
圧電体層の積層数:3層
圧電体層の材料:PZT
誘電率4000(共振周波数付近における実効値)
〃 5800(1kHz付近)
共振周波数:3.00MHz
キャパシタンス:6.67pF
インピーダンス:7949Ω
振動モード:33モード
【0051】
この超音波トランスデューサAを3.00MHzの駆動周波数で駆動したところ、単層の超音波トランスデューサに対して感度(受信電圧/送信電圧)は約38.1dB向上した。この値は、通常の超音波トランスデューサ(広帯域・単層)の感度よりも非常に高いと言える。
このような超音波トランスデューサAは、例えば、32行32列に配置することにより、胎児観察用2次元電子スキャン探触子用の超音波トランスデューサアレイに適用できる。
(2)超音波トランスデューサB
サイズ:底面5mm×0.11mm、高さ0.25mm
圧電体層の積層数:3層
圧電体層の材料:上記(1)と同じ
共振周波数:7.59MHz
キャパシタンス:77.92pF
インピーダンス:269Ω
振動モード:スライバーモード
【0052】
この超音波トランスデューサBを、7.59MHzの駆動周波数で駆動したところ、単層の超音波トランスデューサに対して感度(受信電圧/送信電圧)は約10.1dB向上した。この値は、通常の超音波トランスデューサ(広帯域・単層)の感度よりも非常に高いと言える。
このような超音波トランスデューサBは、例えば、128列に配置することにより、消化管内視鏡用1次元アレイに適用できる。
(3)超音波トランスデューサC
サイズ:底面0.5mm×0.11mm、高さ0.2mm
圧電体層の積層数:3層
圧電体層の材料:上記(1)と同じ
共振周波数:9.49MHz
キャパシタンス:9.74pF
インピーダンス:1722Ω
振動モード:スライバーモード
【0053】
この超音波トランスデューサCを、10.25MHzの駆動周波数で駆動したところ、単層の超音波トランスデューサに対して感度(受信電圧/送信電圧)は約25.0dB向上した。この値は、通常の超音波トランスデューサ(広帯域・単層)の感度よりも非常に高いと言える。
このような超音波トランスデューサCは、例えば、10行128列に配置することにより、消化管内視鏡用1.5次元アレイに適用できる。ここで、1.5次元アレイとは、複数の超音波トランスデューサが2次元面上に配列されているアレイの内で、行方向の配列数及び配列ピッチに比較して、列方向の配列数が少なく配列ピッチが大きいアレイのことである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、医療用や非破壊検査用の超音波撮像装置において用いられる超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサアレイにおいて利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図2】図1に示す超音波トランスデューサから送受信される超音波の周波数特性を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図4】図3に示す超音波トランスデューサから送受信される超音波の周波数特性を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図7】本発明の第5の実施形態係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイを示す斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの変形例を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの製造方法を説明するための図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの製造方法を説明するための図である。
【図12】一般的な超音波トランスデューサの構造と、その周波数特性を示す図である。
【図13】従来の広帯域超音波トランスデューサの構造と、その周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10、69 超音波トランスデューサ
11 下部電極層
12、13、31、32、61、63 圧電体層
14、21、66 音響整合層
15a〜15c 内部電極層
16、67 絶縁膜
17a、17b、68 側面電極
41 ダミー層
42、51 バッキング層(バッキング材)
52、53 共通配線
62、64、65 電極層
71 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用や非破壊検査用の超音波撮像装置において用いられる超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波撮像装置(超音波診断装置、超音波検査装置等とも呼ばれる)において超音波の送受信に用いられる素子として、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電材料等の圧電体に電極を形成した超音波トランスデューサが知られている。このような超音波トランスデューサの電極に電圧を印加すると、圧電効果により圧電体が伸縮して超音波が発生する。そこで、このような複数の超音波トランスデューサを1次元又は2次元に配列し、それら超音波トランスデューサを順次駆動することにより、所望の方向に送信される超音波ビームを形成することができる。また、超音波トランスデューサは、被検体から伝播した超音波により伸縮して電気信号を発生する。この電気信号は、超音波の受信信号として用いられる。
【0003】
ところで、超音波診断においては、超音波の周波数帯域の広さが超音波画像の画質の良否に影響することが知られている。一般に、比較的高い周波数を有する超音波は、減衰され易いが、深さ分解能は高く、反対に、比較的低い周波数を有する超音波は、深部まで到達し易いが、深さ分解能が低下し易いという性質を有している。そのため、広い周波数帯域を有する超音波を用いることにより、被検体における微細な構造や組織を識別して、良質な超音波画像を得ることができる。
【0004】
ここで、振動子における周波数帯域は、圧電材料の組成や、グレインサイズや密度等の構造に依存しており、材料が同一である場合には、振動子の厚さによって既定される。そのため、圧電材料の組成等を変更することによって振動子の帯域を変化させることはできるが、帯域を広くすることは容易ではない。
【0005】
特許文献1には、各々が、互いに向かい合う第1の面及び第2の面に第1の電極及び第2の電極がそれぞれ形成された圧電材料層を含む複数の超音波トランスデューサであって、第1の面に対して第2の面が傾斜を有する複数の超音波トランスデューサと、該複数の超音波トランスデューサの間に配置された充填材とを含む超音波トランスデューサアレイが開示されている。即ち、特許文献1においては、振動子の厚さを場所により変化させることによって、周波数帯域を広げている。
【0006】
ところで、図12の(a)は、一般的な超音波トランスデューサの構造を示しており、図12の(b)は、そこから送受信される超音波の周波数特性を示している。図12の(a)に示すように、一般的な超音波トランスデューサにおいては、厚さが略均一な圧電体層91の両面に電極92及び93が形成されており、さらに、音響整合層94が配置されている。また、図13の(a)は、特許文献1に開示されている広帯域超音波トランスデューサの構造を示しており、図13の(b)は、そこから送受信される超音波の周波数特性を示している。図13の(a)に示すように、この広帯域超音波トランスデューサにおいては、傾斜を有する圧電体層95の両面に電極96及び97が形成されており、さらに、音響整合層98が配置されている。図12の(b)及び図13の(b)において、横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、超音波トランスデューサに所定の電圧を印加することにより超音波を送信し、その反射波を受信することによって超音波トランスデューサから出力される電圧(受信電圧、任意の単位)を示している。
【0007】
ここで、特許文献1にも記載されているように、超音波トランスデューサの振動の周波数は、圧電材料の厚さと反比例する関係にある。そのため、図13の(a)に示すように、圧電材料の厚さがZ1〜Z3の各部分に応する周波数特性を合成することにより、広帯域化された周波数特性が得られる。図13の(b)は、説明を簡単にするために、厚さがZ1及びZ3、並びに、その中間のZ2の3箇所における周波数特性を合成することにより得られたものである。
【0008】
図12の(b)と図13の(b)とを比較して明らかなように、一般的な超音波トランスデューサにおいては周波数帯域幅が約50%となっているのに対して、広帯域超音波トランスデューサにおいては周波数帯域幅が約63%となっており、広帯域化されていることがわかる。ここで、周波数帯域幅(%)とは、音圧がピーク値から6dB減衰する2つの周波数fHとfLとの幅Δf=fH−fLを、それらの中心値(中心周波数)fC=(fH+fL)/2で割ることによって得られる(Δf/fC)。
【0009】
しかしながら、一方で、広帯域超音波トランスデューサの受信電圧は全体的に低下しており、一般的な超音波トランスデューサを基準とすると、約46%となっている。これは、放出されるエネルギーが広帯域化によって分散するためと考えられる。
また、超音波トランスデューサアレイを超音波内視鏡に適用する場合には、アレイ全体を小型化する必要があるが、そのような場合に、超音波トランスデューサが接続される送信系回路(駆動システム)や、配線ケーブルとの電気的なマッチングを取ることが困難になる。
【特許文献1】特開2005−110116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、超音波の出力低下を招くことなく周波数特性を広帯域化することにより、実用的な広帯域超音波トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る超音波トランスデューサは、複数の電極層と交互に積層された複数の圧電体層であって、該複数の圧電体層のトータルの厚さが、第1の側から第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化している複数の圧電体層と、該複数の圧電体層上に、電極層を介して形成された音響整合層とを具備する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電体層の厚さを傾斜的に変化させることによって超音波トランスデューサを広帯域化すると共に、複数の圧電体層を積層することによって出力の低下を補うので、実用に適した広帯域超音波トランスデューサを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波トランスデューサを示す斜視図である。図1の(a)に示すように、本実施形態に係る超音波トランスデューサは、例えば、底面の幅が0.1mm〜15mm程度、高さが0.2mm〜1.0mm程度の微小な柱状の構造体であり、下部電極層11と、厚さが傾斜的に変化する圧電体層12と、厚さが略均一な2つの圧電体層13と、音響整合層14と、それらの間に配置されている複数の内部電極層15a〜15cとを有している。また、本実施形態に係る超音波トランスデューサは、内部電極層15a〜15cの端面(図1において超音波トランスデューサの左右の側面に露出している部分)に左右交互に形成された絶縁膜16を含んでも良く、図1の(b)に示すように、側面電極17a及び17bを含んでも良い。なお、図1の(a)には、2つの圧電体層13が示されているが、圧電体層13は少なくとも1層あれば良く、3つ以上あっても構わない。
【0014】
圧電体層12及び13は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電材料等によって形成されている。これらの圧電体層12及び13は、その両面に形成されている下部電極層11や内部電極層15a〜15cを介して電界を印加されることにより伸縮する。
【0015】
圧電体層12において、上面(内部電極15a側)は、下面(下部電極層11側)に対して傾斜している。また、圧電体層13は、圧電体層12の斜面上に配置されている。それにより、積層された圧電体層12及び13のトータルの厚さが、Z1からZ3に傾斜的に変化する。ここで、超音波トランスデューサの共振周波数f0は、圧電体層の厚さに対して反比例する関係にあるので、このように少なくとも1つの圧電体層に傾斜を設けることにより、超音波トランスデューサの共振周波数を広帯域化することができる。
【0016】
音響整合層14は、例えば、超音波を伝え易いパイレックス(登録商標)ガラスや金属粉入りエポキシ樹脂等によって形成されており、生体である被検体と超音波トランスデューサとの間の音響インピーダンスの不整合を解消することにより、超音波の伝播効率を高める。図1の(a)に示すように、音響整合層14の形状は、その下面(内部電極15c側)が圧電体層12および13の傾斜に沿っており、その上面が圧電体層12の下面に対して平行となるように設計されている。それにより、超音波トランスデューサ10が、全体として直方体形状となる。
【0017】
絶縁膜16は、超音波トランスデューサ10の向かい合う2つの面(図1においては、左側及び右側)に露出している下部電極層11及び内部電極15a〜15cの端面を、左右交互に覆うように形成されている。
【0018】
このような超音波トランスデューサを駆動する場合には、図1の(b)に示すように、超音波トランスデューサ10の1つの側面に、絶縁膜16の外側を通るように側面電極17aを形成すると共に、他の側面に、絶縁膜16の外側を通るように側面電極17bを形成する。それにより、内部電極層15aと内部電極層15cとが電気的に接続され、下部電極層11と内部電極層15bとが電気的に接続される。そして、側面電極17a及び17bを介して、所定の波形(例えば、パルス波)を有する駆動信号を超音波トランスデューサ10に供給する。
【0019】
なお、絶縁膜16及び側面電極17a及び17bが形成される面は、図1に示す2つの面に限られず、下部電極層11及び内部電極15a〜15cを1層おきに共通配線できれば超音波トランスデューサのどの領域でも構わない。例えば、図1の手前及び奥側の面(即ち、電極層が傾斜している面)に絶縁膜16及び側面電極17a及び17bを形成しても良い。或いは、側面電極を形成する替わりに、下部電極層11及び内部電極層15a〜15cにリード線を接続しても良い。
【0020】
図2は、図1に示す超音波トランスデューサ10から送受信される超音波の周波数特性のシミュレーション結果を示している。
このシミュレーションにおいては、圧電体層12及び13の音響インピーダンスを34Mraylとし、各部分(図の左端、中央、右端)の厚さを、それぞれ、Z1=342μm、Z2=273.6μm、Z3=228μmとした。そして、それらの3箇所における周波数特性を合成したものを、本実施形態に係る超音波トランスデューサの周波数特性とした。なお、各部分の厚さに対応する中心周波数は、それぞれ、Z1:6.0MHz、Z2:7.5MHz、Z3:9.0MHzである。
【0021】
また、音響整合層14については、音響インピーダンスを6Mraylとし、次のように形状を設計した。即ち、下面については、圧電体層12及び13の傾斜に合わせ、上面については、圧電体層12の下面に対して平行にすることにより、超音波トランスデューサ全体が直方体形状となるようにした。その際に、中央部分(圧電体層の厚さがZ2の部分の上部)の厚さを、厚さZ2の圧電体層から発生する超音波(中心周波数:7.5MHz)の音響整合層14における伝播波長の1/4となるように設定した。このときに、最も高い伝播効率が得られるからである。その結果、音響整合層14の各部分の厚さは、左端において14.93μmとなり、中央部分において83.3μmとなり、右端において128.93μmとなった。
さらに、音響インピーダンスが5.5Mraylのバッキング材を超音波トランスデューサの背面に配置するという条件でシミュレーションを行った。
【0022】
図2の(a)は、(i)本実施形態に係る超音波トランスデューサ(図1参照)の周波数特性(広帯域・3層)と、(ii)圧電体層の積層数を2層とした超音波トランスデューサ(図1において、圧電体層13を1つにしたもの)の周波数特性(広帯域・2層)と、比較のために、(iii)圧電体層が単層の広帯域超音波トランスデューサの周波数特性(広帯域・単層)と、(iv)圧電体層の厚さが均一で単層の一般的な超音波トランスデューサの周波数特性(通常)とを示している。また、Z1、Z2、Z3と記載されている3つの曲線は、圧電体層の厚さがそれぞれZ1、Z2、Z3である超音波トランスデューサ(単層)の周波数特性を示しており、広帯域・単層の超音波トランスデューサの周波数特性を求める際に用いたものである。図2の(a)において、横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、超音波トランスデューサ超音波を送信し、その反射波を受信することによって超音波トランスデューサから出力された電圧(受信電圧、任意の単位)を示している。即ち、縦軸は、送信効率×受信効率を意味する。また、図2の(b)は、図2の(a)に示された周波数特性の内で、(i)広帯域・3層の周波数特性と、(iv)通常の周波数特性とを規格化したものである。
【0023】
図2の(a)に示すように、圧電体層の厚さを傾斜的に変化させた超音波トランスデューサにおいては、いずれも、通常の超音波トランスデューサよりも広帯域化されている。例えば、図2の(b)示すように、通常の超音波トランスデューサの周波数帯域幅が約50%であるのに対して、広帯域の超音波トランスデューサの周波数帯域幅は約63%まで広がっている。また、広帯域の3つの超音波トランスデューサを比較すると、層数を増やすほど受信電圧が上昇していることが確認される。これは、全体の厚さを変えずに圧電体層の層数を増やすと(即ち、各圧電体層が薄くなる)、各圧電体層に印加される電界強度が大きくなるからである。
【0024】
なお、Z1、Z2、Z3の周波数特性を比較すると、Z2の受信電圧と比較して、Z1及びZ3の受信電圧は全体的に低下している。これは、音響整合層が、圧電体層の厚さがZ2の場合に適切な伝播効率が得られるように設計されているからである。
【0025】
以上説明したように、本実施形態によれば、圧電体層の厚さを傾斜的に変化させることにより、超音波トランスデューサの振動の周波数を広帯域化させることができる。また、その際に、複数の圧電体層を積層することにより、超音波の出力低下を抑制することができる。従って、超音波トランスデューサを小型化しても送信感度を維持できるようになるので、そのような超音波トランスデューサを適用した超音波用探触子や超音波内視鏡全体を、性能を維持したまま広帯域化及び小型化することが可能になる。さらに、圧電体層を積層することにより、送信系回路(駆動システム)や配線ケーブルとの電気的なマッチングを取り易くなるので、送信感度及び受信感度を向上させることが可能になる。
また、本実施形態においては、超音波トランスデューサ全体を直方体形状としているので、音響整合層14上に別の音響整合層や音響レンズを配置する場合には、設計や操作性が容易となる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図3を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図1に示す音響整合層14の替わりに、図3に示す音響整合層21を配置したものである。その他の構成については、図1に示すものと同様である。
【0027】
ここで、先に図2の(a)に示したように、圧電体層の特定の部分の厚さ(例えば、Z2)に合わせて音響整合層を設計すると、それ以外の部分の厚さ(例えば、Z1及びZ3)に対応する周波数成分の伝播効率が低下してしまう。そこで、本実施形態においては、圧電体層の各部分の厚さに対応する周波数成分について、適切な伝播効率が得られるように音響整合層を設計している。
【0028】
即ち、超音波が音響整合層を通過する場合に、音響整合層の厚さがそこを伝播する超音波の波長λの1/4倍となっているときに、最も伝播効率が良くなる(以下において、λ/4整合という)。そのため、音響整合層21の各部分は、その下部の圧電体層12及び13の厚さに対応する周波数成分についてλ/4整合が満たされるように、厚さを規定されている。ここで、音響整合層21における音速をcとし、超音波の周波数をfiとすると、波長λiは、λi=c/fiによって表される。従って、音響整合層21の左端の厚さd1は、厚さがZ1の圧電体層から発生する超音波の中心周波数をf1とすると、d1=(c/f1)/4となる。また、音響整合層21の右端の厚さd3は、厚さがZ3の圧電体層から発生する超音波の中心周波数をf3とすると、d3=(c/f3)/4となる。
【0029】
音響整合層21をこのように設計することにより、厚さが傾斜的に変化する圧電体層12及び13から発生する超音波の各帯域について、音響エネルギーのロスを低減できるようになる。その結果、帯域にかかわらず、超音波の送受信効率を向上させることが可能になる。
【0030】
図4は、図3に示す超音波トランスデューサから送受信される超音波の周波数特性のシミュレーション結果を示している。図4の(a)の横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、超音波トランスデューサ超音波を送信し、その反射波を受信した超音波トランスデューサから出力された電圧(受信電圧、任意の単位)を示している。また、図4の(b)は、図4の(a)を規格化したものである。
【0031】
このシミュレーションにおいては、圧電体層12及び13の音響インピーダンスを34Mraylとし、各部分(図の左端、中央、右端)の厚さを、それぞれ、Z1=342μm、Z2=273.6μm、Z3=228μmとした。なお、それらの部分における周波数特性の中心周波数は、それぞれ、Z1:6.0MHz、Z2:7.5MHz、Z3:9.0MHzである。また、音響整合層21の音響インピーダンスを8Mraylとし、各部分(左端、中央、右端)の厚さを、λ/4整合が取れるように、それぞれ、106.64μm、83.33μm、69.32μmとした。さらに、音響インピーダンスが5.5Mraylのバッキング材を超音波トランスデューサの背面に配置するという条件で計算を行った。
【0032】
図4の(b)に示すように、圧電体層の厚さがZ2の超音波トランスデューサの周波数特性と、圧電体層の厚さがZ1〜Z3の範囲で変化する広帯域超音波トランスデューサの周波数特性とを比較すると、前者の帯域幅が約56%であるのに対して、後者の帯域幅は約62%まで拡がっており、広帯域化されていることが確認できる。また、受信電圧のレベルは、中心付近だけでなく、低域側及び高域側を含めて全体的に上昇している。
【0033】
このように、本実施形態によれば、圧電体層の各部分の厚さに応じて音響整合層の形状を決定するので、低域から高域に渡る広い帯域について、超音波の伝播効率を向上させることが可能になる。
【0034】
次に、本発明の第3の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図5を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図3に示す2つの圧電体層13及び音響整合層21の替わりに、図5に示す2つの圧電体層31及び32並びに音響整合層33を配置したものである。その他の構成については、図3に示すものと同様である。
【0035】
本実施形態においては、圧電体層12だけでなく、その上に配置された圧電体層31及び32についても、厚さを傾斜的に変化させている。また、音響整合層33は、傾斜的に変化する圧電体層12、31、32の各部分に対してλ/4整合が満たされるように設計されている。
【0036】
このように、各圧電体層12、31、32の厚さを傾斜的に変化させることにより、低域〜高域を含む面内(図3においては紙面に平行な面内)における超音波の放射特性を均一にすることができる。それにより、送信パワーや、送信感度及び受信感度を、周波数帯域によらず均一にできるので、超音波を発生させるための駆動信号や超音波を受信することによって出力された受信信号に対する信号処理を簡単にすることができる。
【0037】
次に、本発明の第4の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図6を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図5に示す超音波トランスデューサに対して、ダミー層41を更に設けたものである。ここで、図5に示す超音波トランスデューサにおいては、圧電体層12、31及び32、並びに、音響整合層33の各々において、低域側(図の左側)を厚くしているので、超音波トランスデューサ全体として、低域側と高域側との厚さの差が大きくなる。ところが、音響整合層33の上に音響レンズを配置することや操作性等を考慮すると、超音波トランスデューサの上面(超音波送受信面)を下面に対して平行にする方が実用的であり好ましい。そこで、本実施形態においては、音響整合層33上にダミー層41を設けることにより、低域側と高域側との厚さのギャップを解消している。
【0038】
ダミー層41の材料としては、超音波の伝播効率を妨げないように、例えば、シリコーンゴムのように、音響インピーダンスが比較的生体に近い材料を用いることが望ましい。
なお、このようなダミー層を図3に示す超音波トランスデューサに設けても良い。
【0039】
次に、本発明の第5の実施形態に係る超音波トランスデューサについて、図7を参照しながら説明する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサは、図5に示す超音波トランスデューサ10に対して、傾斜を有するバッキング層42をさらに設けたものである。ここで、先にも述べたように、超音波トランスデューサの超音波送信面は、超音波トランスデューサの背面に対して平行である方が望ましい。そこで、本実施形態においては、傾斜を有するバッキング層42を圧電体層12の背面に配置している。
【0040】
次に、本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイについて、図8を参照しながら説明する。
図8に示すように、この超音波トランスデューサアレイには、配線52及び53が形成されているバッキング層51と、その上に配列された複数の超音波トランスデューサ10とを含んでいる。図示されていないが、これらの超音波トランスデューサ10の間や周囲には、超音波トランスデューサ10の配置を固定すると共にそれらを保護する充填材が配置されている。
【0041】
複数の超音波トランスデューサ10は、例えば、アジマス方向(走査方向)に128行、エレベーション方向(アジマス方向に直交する方向)に7列となるように配列されている。各超音波トランスデューサ10は、圧電体層12(図1)がアジマス方向において傾斜するように配置されている。また、1行に含まれる7個の超音波トランスデューサ10は、側面電極17a及び17bを介して、共通配線52及び53にそれぞれ接続されている。さらに、これらの超音波トランスデューサ10の上部には、超音波を所定の深度に収束させる音響レンズが配置される。
【0042】
このような超音波トランスデューサアレイにおいて、共通配線された超音波トランスデューサ10を1行単位、又は、数行単位で駆動することにより、所定の深度に焦点を有する超音波ビームが送信される。このような動作を、アジマス方向について順次行うことにより、被検体が超音波ビームによって走査される。
なお、本実施形態においては、第1の実施形態に係る超音波トランスデューサによってアレイを形成しているが、その替わりに、第2〜第5の実施形態に係る超音波トランスデューサを適用しても良い。
【0043】
図9は、本実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの変形例を示している。図9に示すように、各超音波トランスデューサ10は、圧電体層12(図1)がエレベーション方向において傾斜するように配置しても良い。
【0044】
次に、本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの製造方法について、図10及び図11を参照しながら説明する。
まず、図10の(a)に示すように、厚さが傾斜的に変化している圧電体層61と、電極層62と、圧電体層63とを含むシート状の積層体を形成する。ここで、圧電体層63は、少なくとも1層形成すれば良い。或いは、電極層62と圧電体層63とを交互に3層以上形成しても良い。また、圧電体層63の厚さは均一であっても良いし、圧電体層61と同様に傾斜的に変化させても良い。このようなシート状の積層体は、厚さが均一な圧電体層と電極層とを交互に積層し、その後で、最下層の圧電体層を斜めに研磨することによって作製される。或いは、グリーンシート法を用い、圧電材料の層を形成する際に、スキージを傾けることによりその厚さを変化させても良い。後者は、2層目以上の圧電体層に傾斜を設ける場合にも適用できる。
【0045】
次に、図10の(a)に示す破線においてシート状の積層体を切断することにより、図10の(b)に示すように、バー状の積層体を順次作製する。そして、圧電体層61の底面を研磨することにより、複数のバー状の積層体の高さを揃える。
【0046】
次に、図10の(c)に示すように、圧電体層61の下面に電極層64を形成すると共に、圧電体層63の上面に電極層65を形成する。さらに、電極層65上に、音響整合層66を配置する。なお、図10の(c)には、上面が水平(圧電体層61の下面に対して平行)な音響整合層66が示されているが、図3に示すように、圧電体層61及び63の厚さに応じて上面が傾斜する音響整合層を形成しても良い。
【0047】
次に、図10の(d)に示すように、バー状の積層体の長手方向に平行な2つの側面に、電極層64、62、65を交互に覆うように絶縁膜67を形成する。絶縁膜67は、ディスペンサを用いて樹脂材料を塗布して硬化させることによって形成しても良いし、電着法やスパッタ法によりガラス等の絶縁材料を成膜することによって形成しても良い。
【0048】
次に、図11の(a)に示すように、絶縁膜67の外側に側面電極68を形成する。側面電極68は、2つの側面全体に形成しても良いし、後の工程における切断ピッチに合わせてパターン形成(図1参照)しても良い。それにより、バー状の超音波トランスデューサ69が作製される。
【0049】
次に、図11の(b)に示すように、バー状の超音波トランスデューサ69を、基板71上にアジマス方向のピッチに合わせて配置する。そして、図11の(c)に示すように、バー状の超音波トランスデューサ69を、エレベーション方向のピッチに合わせて切断する。それにより、超音波トランスデューサ10の配列が形成される。さらに、これらの超音波トランスデューサ10の間に充填材を流し込んで固化させることによって配列を固定する。そして、基板71を除去して、その替わりに予め配線が形成されたバッキング材を配置する。それにより、図8に示す超音波トランスデューサアレイが完成する。
【0050】
(実施例)
本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイを作製し、その特性を試験した。実験条件及び結果は次の通りである。なお、33モードにおける音速を3100m/sとし、スライバーモードにおける音速を4100m/sとした。ここで、33モードとは、1辺の長さがwである略正方形を底面とする超音波トランスデューサにおいて、厚さ(高さ)をtとするときに、w/tが約0.6以下の場合における振動モードのことを言う。また、スライバーモードとは、一方の辺の長さがW0(固定値)であり、他方の辺の長さがw(w<w0)である長方形を底面とする棒状の超音波トランスデューサにおいて、厚さ(高さ)をtとするときに、w/tが0.6近傍の場合における振動モードのことを言う。
(1)超音波トランスデューサA
サイズ:底面0.3mm×0.3mm、高さ0.478mm
圧電体層の積層数:3層
圧電体層の材料:PZT
誘電率4000(共振周波数付近における実効値)
〃 5800(1kHz付近)
共振周波数:3.00MHz
キャパシタンス:6.67pF
インピーダンス:7949Ω
振動モード:33モード
【0051】
この超音波トランスデューサAを3.00MHzの駆動周波数で駆動したところ、単層の超音波トランスデューサに対して感度(受信電圧/送信電圧)は約38.1dB向上した。この値は、通常の超音波トランスデューサ(広帯域・単層)の感度よりも非常に高いと言える。
このような超音波トランスデューサAは、例えば、32行32列に配置することにより、胎児観察用2次元電子スキャン探触子用の超音波トランスデューサアレイに適用できる。
(2)超音波トランスデューサB
サイズ:底面5mm×0.11mm、高さ0.25mm
圧電体層の積層数:3層
圧電体層の材料:上記(1)と同じ
共振周波数:7.59MHz
キャパシタンス:77.92pF
インピーダンス:269Ω
振動モード:スライバーモード
【0052】
この超音波トランスデューサBを、7.59MHzの駆動周波数で駆動したところ、単層の超音波トランスデューサに対して感度(受信電圧/送信電圧)は約10.1dB向上した。この値は、通常の超音波トランスデューサ(広帯域・単層)の感度よりも非常に高いと言える。
このような超音波トランスデューサBは、例えば、128列に配置することにより、消化管内視鏡用1次元アレイに適用できる。
(3)超音波トランスデューサC
サイズ:底面0.5mm×0.11mm、高さ0.2mm
圧電体層の積層数:3層
圧電体層の材料:上記(1)と同じ
共振周波数:9.49MHz
キャパシタンス:9.74pF
インピーダンス:1722Ω
振動モード:スライバーモード
【0053】
この超音波トランスデューサCを、10.25MHzの駆動周波数で駆動したところ、単層の超音波トランスデューサに対して感度(受信電圧/送信電圧)は約25.0dB向上した。この値は、通常の超音波トランスデューサ(広帯域・単層)の感度よりも非常に高いと言える。
このような超音波トランスデューサCは、例えば、10行128列に配置することにより、消化管内視鏡用1.5次元アレイに適用できる。ここで、1.5次元アレイとは、複数の超音波トランスデューサが2次元面上に配列されているアレイの内で、行方向の配列数及び配列ピッチに比較して、列方向の配列数が少なく配列ピッチが大きいアレイのことである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、医療用や非破壊検査用の超音波撮像装置において用いられる超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサアレイにおいて利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図2】図1に示す超音波トランスデューサから送受信される超音波の周波数特性を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図4】図3に示す超音波トランスデューサから送受信される超音波の周波数特性を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図7】本発明の第5の実施形態係る超音波トランスデューサの構造を示す斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイを示す斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの変形例を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの製造方法を説明するための図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る超音波トランスデューサアレイの製造方法を説明するための図である。
【図12】一般的な超音波トランスデューサの構造と、その周波数特性を示す図である。
【図13】従来の広帯域超音波トランスデューサの構造と、その周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10、69 超音波トランスデューサ
11 下部電極層
12、13、31、32、61、63 圧電体層
14、21、66 音響整合層
15a〜15c 内部電極層
16、67 絶縁膜
17a、17b、68 側面電極
41 ダミー層
42、51 バッキング層(バッキング材)
52、53 共通配線
62、64、65 電極層
71 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極層と交互に積層された複数の圧電体層において、前記複数の圧電体層のトータルの厚さが、第1の側から第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化している前記複数の圧電体層と、
前記複数の圧電体層上に、電極層を介して形成された音響整合層と、
を具備する超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記複数の圧電体層の内の第1層の厚さが傾斜的に変化しており、
前記複数の圧電体層の内の第2層目以降の層の厚さが略均一である、
請求項1記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記複数の圧電体層の各々の厚さが、前記第1の側から前記第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化する、請求項1記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記音響整合層の厚さが、前記第1の側から前記第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化する、請求項1〜3のいずれか超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記音響整合層の各部分の厚さが、前記複数の圧電体層の対応する部分の厚さに基づいて決定されている、請求項4記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記音響整合層の上面が、前記複数の圧電体層の下面に対して平行である、請求項1〜3のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記音響整合層上に形成され、上面が前記複数の圧電体層の下面に対して平行であるダミー層をさらに具備する請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
前記複数の圧電体層の下面に形成され、下面が前記音響整合層の上面に対して平行であるバッキング層をさらに具備する請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の複数の超音波トランスデューサと、
前記複数の超音波トランスデューサの間に配置された充填材と、
を具備する超音波トランスデューサアレイ。
【請求項1】
複数の電極層と交互に積層された複数の圧電体層において、前記複数の圧電体層のトータルの厚さが、第1の側から第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化している前記複数の圧電体層と、
前記複数の圧電体層上に、電極層を介して形成された音響整合層と、
を具備する超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記複数の圧電体層の内の第1層の厚さが傾斜的に変化しており、
前記複数の圧電体層の内の第2層目以降の層の厚さが略均一である、
請求項1記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記複数の圧電体層の各々の厚さが、前記第1の側から前記第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化する、請求項1記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記音響整合層の厚さが、前記第1の側から前記第2の側に向かって厚くなるように傾斜的に変化する、請求項1〜3のいずれか超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記音響整合層の各部分の厚さが、前記複数の圧電体層の対応する部分の厚さに基づいて決定されている、請求項4記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記音響整合層の上面が、前記複数の圧電体層の下面に対して平行である、請求項1〜3のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記音響整合層上に形成され、上面が前記複数の圧電体層の下面に対して平行であるダミー層をさらに具備する請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
前記複数の圧電体層の下面に形成され、下面が前記音響整合層の上面に対して平行であるバッキング層をさらに具備する請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の複数の超音波トランスデューサと、
前記複数の超音波トランスデューサの間に配置された充填材と、
を具備する超音波トランスデューサアレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−48276(P2008−48276A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223333(P2006−223333)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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