説明

超音波モータの駆動装置

【課題】超音波モータの停止制御において、停止位置精度の高精度化及び良好な応答性を実現し、且つ回路の簡略化を実現した超音波モータの駆動装置を提供すること。
【解決手段】被駆動部材に当接する駆動子を備える超音波振動子4に、所定の位相差及び所定の駆動周波数の2相の駆動交番信号を印加することにより、前記超音波振動子4に縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記超音波駆動子4によって前記被駆動部材を駆動する超音波モータの駆動装置であって、前記被駆動部材の駆動が停止した後、前記被駆動部材における残存振動を抑制する為のバースト信号を前記超音波振動子4に印加してバースト駆動を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波モータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして、圧電素子などの振動子の振動を利用した超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータと比較して、ギア無しで低速高推力が得られる点、保持力が高い点、ストロークが長く、高分解能である点、静粛性に富む点、磁気的ノイズを発生せず磁気的ノイズの影響を受けない点等の利点を有している。
【0003】
そして超音波モータでは、超音波振動子を、摩擦部材である駆動子を介して、相対運動部材である被駆動部材に押し付けることで、前記駆動子と前記被駆動部材との間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によって前記被駆動部材を駆動する。
【0004】
ところで、超音波モータの実際の駆動時には、その停止時や反転時に当該超音波モータにおける振動を適切に減衰させる為の制御技術が要求される。このような事情から、例えば特許文献1には、次のような技術が開示されている。
【0005】
すなわち、特許文献1に開示されている振動型アクチュエータの制御装置では、駆動用交番信号を振動型アクチュエータの圧電素子に印加して駆動後、目標位置で停止させる場合、印加電圧と振動型アクチュエータの振動体の振動の位相差を検出し、振動体の振動の位相に対して例えばほぼ90°遅らせた位相で圧電素子に加振信号を所定時間印加し、停止動作を終了する。
【0006】
これにより、特許文献1に開示されている振動型アクチュエータの制御装置によれば、前記振動体における自由振動を打ち消す振動が励起され、減衰振動が抑制されて目標位置に位置決めされる。
【特許文献1】特開2002−369557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている振動型アクチュエータの制御装置では、駆動信号と振動体に形成される振動との位相差を変える(0〜180度)ことで、振動体自体の振動を打ち消し、アクチュエータを減速し、又は停止させることを特徴としている。そして、これらの制御を実現するためには、振動体の振動を検出する手段、検出した振動と駆動信号との位相を比較する手段、及びその比較結果に基づいて駆動信号の位相を遅らせる為の手段を必要とするため、駆動回路が複雑化してしまう。そして、このことは当該制御装置を小型化する上での技術的阻害要因であるとも言える。
【0008】
さらには、特許文献1に開示されている振動型アクチュエータの制御装置では、前記振動体における自由振動を打ち消す振動を励起させている。つまり、振動を抑制する対象が前記振動体である。従って、当該振動系の振動を抑制する技術に比べると、その応答性や精度は高いとは言いにくい。
【0009】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、超音波モータの停止制御において、停止位置精度の高精度化及び良好な応答性を実現し、且つ回路の簡略化を実現した超音波モータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様による超音波モータの駆動装置は、被駆動部材に当接する駆動子を備える振動子に、所定の位相差及び所定の駆動周波数の2相の駆動交番信号を印加することにより、前記振動子に縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子によって前記被駆動部材を駆動する超音波モータの駆動装置であって、前記駆動交番信号を生成して前記振動子に印加することで前記被駆動部材を駆動する駆動手段と、前記駆動手段による前記被駆動部材の駆動が停止した後、前記被駆動部材における残存振動を抑制する為のバースト信号を前記振動子に印加してバースト駆動を行うバースト駆動手段と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超音波モータの停止制御において、停止位置精度の高精度化及び良好な応答性を実現し、且つ回路の簡略化を実現した超音波モータの駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る超音波モータの駆動装置について、図面を参照して説明する。
【0013】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置が適用される超音波モータシステムの一例について、図1を参照して説明する。図1は、超音波モータシステムの概略一構成例を示すブロック図である。
【0014】
図1に示されるように超音波モータシステム1は、超音波モータ2と、超音波モータ2を駆動する駆動装置3とを具備する。超音波モータ2は、超音波振動子4と、超音波振動子4により駆動される被駆動体5とを有する。
【0015】
前記超音波振動子4は、図2乃至図4に示されるように、矩形板状の圧電セラミックスシート7の片側面にシート状の内部電極8を設けたものを複数枚積層してなる直方体状の圧電積層体9と、該圧電積層体9の一側面に接着された2個の摩擦接触子10とを備えている。
【0016】
図3及び図4に示される圧電セラミックスシート7はそれぞれ、その略全面に内部電極8を備えている。内部電極8は、圧電セラミックスシート7の中央部において、圧電セラミックスシート7の長さ方向に沿って設けられた一つの検出用内部電極、及びこの内部電極の周囲に配置されて、この内部電極との間に圧電セラミックスシート7の幅方向に絶縁距離を開け、且つ圧電セラミックスシート7の長さ方向に絶縁距離を開けて設けられた、略同じ大きさを有する2つの駆動用内部電極からなる。各内部電極8は、圧電セラミックスシート7の周縁から隙間を空けて配置されるとともに、その一部が圧電セラミックスシート7の周縁まで延びている。
【0017】
これら内部電極8を備えた圧電セラミックスシート7は、図3に示されるものと、図4に示されるものとが交互に複数枚積層されることにより、直方体状の圧電積層体9を構成している。
【0018】
圧電積層体9の長さ方向の一端面には4個、圧電積層体9の長さ方向の他端面には2個の合計6個の外部電極11が設けられている。各外部電極11には、同種の圧電セラミックスシート7の同一位置に配される全ての内部電極8が接続されている。これにより、同種の圧電セラミックスシート7の同一位置に配される内部電極8は、同一の電位とされるようになっている。
【0019】
なお、これら外部電極11はそれぞれ、配線(図示せず)を介して制御器(図示せず)に接続されている。配線は、リード線、フレキシブル基板等、可撓性を有する配線であれば任意のものでよい。
【0020】
次に、圧電積層体9の動作について説明する。圧電積層体9の長さ方向の一端に形成された4つの外部電極11を、圧電積層体9の他側面の側(図において上側)からC相(C+,C−)及びB相(B+,B−)、他端に形成された2つの外部電極11を、圧電積層体9の他側面の側(図において上側)からA相(A+,A−)とする。ここで、A相及びB相は駆動用の外部電極であり、C相は振動検出用の外部電極である。
【0021】
A相及びB相に同位相で共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数をもつ交番電圧を加えると、図5に示すような1次の縦振動が励起される。また、A相とB相とに逆位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図6に示されるような2次の屈曲振動が励起される。図5及び図6は、有限要素法によるコンピュータ解析結果を示す図である。
【0022】
圧電積層体9に1次の縦振動が発生したときには、摩擦接触子10が圧電積層体9の長さ方向(図5に示されるX方向)に変位させられる。一方、圧電積層体9に2次の屈曲振動が生じたときには、摩擦接触子10が、圧電積層体9の幅方向(図6に示されるZ方向)に変位させられる。
【0023】
したがって、超音波振動子のA相とB相とに、位相が90°ずれた共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数をもつ駆動交番電圧を加えることにより、1次の縦振動と2次の屈曲振動とが同時に発生して、図2に矢印Cで示されるように、摩擦接触子10の位置において時計回りまたは反時計回りの略楕円振動が発生する。
【0024】
また、超音波振動子に発生している縦振動に応じた電荷が検出用の内部電極8に励起されることにより、C相(C+,C−)の外部電極11を介して縦振動に比例した信号(以下、この信号を「振動検出信号」という。)が検出される。この振動検出信号は、駆動装置3(図1参照)に供給され、超音波振動子4の制御に用いられる。
【0025】
以下、前記駆動装置3について詳細に説明する。図7は、駆動装置3の内部概略構成を示す図である。図7に示すように、駆動装置3は、発振回路(基準信号生成手段)21と、制御CPU22と、信号制御回路23と、パラメータテーブル24と、信号生成回路25と、信号出力制御回路26と、位相差検出回路28と、ドライブ回路30と、エンコーダ33と、エンコーダ信号処理回路35とを具備する。
【0026】
前記発振回路21は、基準信号(クロック信号)を生成し、信号制御回路23、信号生成回路25、信号出力制御回路26、及び位相差検出回路28に出力する。詳細は後述するが、図8は基準信号の一例を示す図である。
【0027】
前記パラメータテーブル24は、超音波振動子4の駆動周波数、A相とB相との位相差(本第1実施形態においては90°)、後述する分割信号のパルス幅、超音波モータ2の初期位置および停止位置、及び後述するエラー検出値等、当該超音波モータ2を制御するために必要となる各種パラメータを格納している。
【0028】
前記制御CPU22は、パラメータテーブル24に各種パラメータ(周波数,位相差等)を設定して、超音波振動子4の駆動信号を制御する。また、パラメータテーブル24から各種パラメータ(位相差,エンコーダカウント値等)を読み出し、位置制御、速度制御処理等を行う。すなわち、制御CPU22は、パラメータテーブル24及び後述する位相差検出回路28からのフィードバック値等に基づいて、基準駆動信号の周波数指令値、分割信号のパルス幅指令値、分割信号のパルス幅指令値、及びA相B相の位相差指令値等を作成し、基準駆動信号の周波数指令値を信号制御回路23に、A相B相の位相差指令値を信号生成回路25にそれぞれ出力する。
【0029】
ここで、前記基準駆動信号の周波数指令値は、基準駆動信号の周波数を超音波振動子4の共振周波数に一致させるための指令値である。分割信号のパルス幅指令値は、超音波モータの速度に応じて決定される値であり、予め設定された所定の速度で定速制御を行う場合には、該所定の速度に対応して設定されているパルス幅をパラメータテーブルから読み出し、このパルス幅をパルス幅指令値とする。パルス幅は、速度が早いほど大きい値に設定されている。A相B相の位相差指令値は、A相とB相の位相差を予め設定されている最適な位相差(本実施形態では90°)に一致させるための指令値である。
【0030】
前記信号制御回路23は、前記発振回路21から入力される基準信号S1と制御CPU22から入力される周波数指令値とに基づいて、所定の周波数のパルス信号である基準駆動信号S2を生成し、これを信号生成回路25に出力する。ここで、制御CPU22は、信号制御回路23に対して、基準駆動信号の周波数を超音波振動子4の共振周波数またはその近傍の周波数に設定するための周波数指令値を与えるので、信号制御回路23からは超音波振動子4の共振周波数と略同じ周波数の基準駆動信号が出力される。図8において示す信号bは、基準駆動信号S2の一例である。基準駆動信号の周期は、基準信号の周期の整数倍とされる。
【0031】
また、信号制御回路23は、発振回路21から入力される基準信号S1と制御CPU22から入力されるパルス幅指令値とに基づいて、基準駆動信号S2よりも周波数が高く、超音波モータ2の速度に応じたパルス幅をもつ分割信号S3を生成し、これを信号生成回路25に出力する。図8に示す信号cは、分割信号S3の一例である。ここで、分割信号の周期は、必ずしも一定である必要はない。例えば、基準駆動信号のハイレベル期間内において分割信号の周期が変化してもかまわない。また、基準駆動信号の周期は、分割信号の周期の整数倍である必要はない。
【0032】
より詳細には、信号制御回路23は、周波数制御回路、位相差制御回路、分割信号制御回路、及びパルスエッジ遅れ制御回路から成る。すなわち、周波数制御回路としては、パラメータテーブル24における周波数の設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、駆動信号の周波数を決める基準駆動信号を出力する。また、位相差制御回路としては、パラメータテーブル24における位相差の設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、2つの駆動信号、A相信号とB相信号の位相差を制御する。さらに、分割信号制御回路としては、パラメータテーブル24における分割信号の設定値(周期,パルス幅)に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、周波数制御回路で生成された基準駆動信号のハイレベル期間を更に高い周波数で分割するための信号を出力する。そして、パルスエッジ遅れ制御回路としては、パラメータテーブル24におけるパルスエッジ遅れの設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、駆動信号の立ち上がり、又は立ち下がりを遅らせる。
【0033】
前記信号出力制御回路26は、制御CPU22から当該信号出力制御回路26を介して、直接信号生成回路25の出力のON/OFF、A相信号、B相信号の出力順を制御することができる。また、パラメータテーブル24に設定された設定値に基づき、信号生成回路25から出力する駆動信号のパルス数や間欠駆動を行うための出力休止時間を制御する。
【0034】
前記信号生成回路25は、基準駆動信号S2と制御CPU22からのA相B相の位相差指令値とに基づいて、位相差が90°であるA相の基準駆動信号とB相の基準駆動信号とを生成し、更に、A相の基準駆動信号のハイレベル期間において信号制御回路23から入力される分割信号をA相の駆動交番信号として出力し、B相の基準駆動信号のハイレベル期間において信号制御回路23から入力される分割信号をB相の駆動交番信号として出力する。
【0035】
これにより、A相の基準駆動信号のハイレベル期間が分割信号で構成されたA相の駆動交番信号と、B相の基準駆動信号のハイレベル期間が分割信号で構成されたB相の駆動交番信号とが生成される。すなわち、前記信号生成回路25は、基準駆動信号S2と制御CPU22からのA相B相の位相差指令値とに基づいて、位相差が90°であるA相の基準駆動信号とB相の基準駆動信号とを生成する。なお、出力のON/OFF制御は、信号出力制御回路26によって行われる。
【0036】
このとき、A相、B相の駆動交番信号は、プラス側とマイナス側とに分けて生成される。図8において示す信号dは、A相プラス側の駆動交番信号の一例であり、図8において示す信号eはB相プラス側の駆動交番信号の一例であり、図8において示す信号fはA相マイナス側の駆動交番信号の一例であり、図8において示す信号gはB相マイナス側の駆動交番信号の一例である。
【0037】
図8に示すように、本第1実施形態においては、A相とB相との位相差は90°であり、また、プラス側の駆動交番信号とマイナス側の駆動交番信号とは、正負が逆であり、且つ位相が180°ずれている。
【0038】
前記信号生成回路25は、A相プラス側の駆動交番信号、B相プラス側の駆動交番信号、A相マイナス側の駆動交番信号、B相マイナス側の駆動交番信号をそれぞれ生成すると、これらの駆動交番信号をドライブ回路30に出力する。
【0039】
前記ドライブ回路30は、図9に示すように、スイッチング素子で構成されたHブリッジ回路31とインピーダンスマッチング及び昇圧用のコイル32とを備えている。このドライブ回路30に、前記信号生成回路25から各種駆動交番信号が入力されると、図10に示す真理値表に従って、各駆動交番電圧OUTA+、OUTA−、OUTB+、OUTB−が出力される。
【0040】
このとき、ドライブ回路30はコイル32を有しているので、パルス信号である駆動交番信号は、コイル32の働きにより正弦波に近い波形に変換され、正弦波に近いA相、B相の駆動交番電圧が超音波振動子4が備えるA相(A+,A−)、B相(B+,B−)の外部電極11にそれぞれ印加される。
【0041】
図11には、信号生成回路25からドライブ回路30に供給されるA相(A+,A−)の駆動交番信号、及び、ドライブ回路30から超音波振動子4のA相(A+,A−)に印加される駆動交番電圧OUT(A+,A−)の一例が示されている。
【0042】
ここで、超音波振動子4に励起されている縦振動は、C相(C+,C−)の内部電極8により検出され、この縦振動に比例する電気信号がC相(C+,C−)の外部電極11を介して位相差検出回路28に入力される。
【0043】
また、位相差検出回路28には、信号生成回路25からいずれか一つの駆動交番信号、例えば、A相プラス側の駆動交番信号が入力される。位相差検出回路28は、超音波振動子4の外部電極11を介して入力された振動検出信号と信号生成回路25から入力される駆動交番信号との位相差を検出し、この位相差に比例する電気信号を制御CPU22に出力する。これにより、超音波振動子4の位相に関するフィードバックループが形成され、超音波振動子4の位相差を一定(例えば、90°)とするためのフィードバック制御が制御CPU22において行われる。
【0044】
次に、上述したような構成を備える駆動装置3により実現される超音波モータ2の駆動方法について説明する。まず、超音波モータ2の起動時において、発振回路21から信号制御回路23に基準信号が入力される。一方、制御CPU22は、パラメータテーブルに設定されている超音波モータ2の駆動周波数を読み出し、この共振周波数を周波数指令値として信号制御回路23に与える。
【0045】
また、制御CPU22は、初期値として設定されている分割信号の周波数およびパルス幅をパラメータテーブル24から読み出し、これらを信号制御回路23に与える。更に、制御CPU22は、パラメータテーブル24から初期値として設定されているA相とB相との位相差を読み出し、これを信号生成回路25に与える。これにより、信号制御回路23により超音波振動子4の共振周波数またはその近傍の周波数に設定された基準駆動信号S2が生成されて信号生成回路25に出力される。また、信号制御回路23において、制御CPU22により与えられた周波数およびパルス幅のパルス信号である分割信号S3が生成され、これが信号生成回路25に出力される。
【0046】
信号生成回路25では、基準駆動信号S2及び制御CPU22からの位相差に基づいて所定の位相差をもつA相(A+,A−)に対応する基準駆動信号とB相(B+,B−)に対応する基準駆動信号とが生成され、更に、これら各相のハイレベル期間において分割信号S3が駆動交番信号として出力される。この結果、図8に示す信号eから信号gに示されるように、A相,B相に対応する基準駆動信号のハイレベル期間が分割信号で構成された各駆動交番信号が生成されることとなる。
【0047】
A相、B相の駆動交番信号は、ドライブ回路30により正弦波の駆動交番電圧に変換されて、超音波振動子4の各外部電極11に印加される。これにより、超音波振動子には図5及び図6に示すような縦振動と屈曲振動とが同時に励起され、その摩擦接触子10に楕円振動が形成されることにより被駆動体が相対的に移動させられる。
【0048】
超音波振動子4に励起された縦振動は、C相の内部電極8及び外部電極11により検出され、振動検出信号が位相差検出回路28に入力される。位相差検出回路28では、超音波振動子4に励起されている縦振動と信号生成回路25から出力されるA相の駆動交番信号との位相差が検出され、この位相差に応じた電気信号が制御CPU22に出力される。
【0049】
制御CPU22は、位相差検出回路28により検出された位相差(以下「検出位相差」という。)と目標位相差とを比較し、検出位相差が目標位相差となるような周波数指令値を生成し、これを信号制御回路23に与える。
【0050】
また、制御CPU22は、エンコーダ信号処理回路35から入力されるカウント値から被駆動体5の移動量を求め、この移動量をサンプリング周期で割ることで超音波モータ2の駆動速度を計算する。そして、この駆動速度が目標速度よりも大きい場合には、分割信号のパルス幅を減少させるパルス幅指令値を作成し、また、駆動速度が目標速度よりも小さい場合には、分割信号のパルス幅を増加させるパルス幅指令値を作成し、これを信号制御回路23に与える。これにより、図12に示されるように、超音波モータ2の速度に応じてパルス幅が調整された分割信号が生成され、出力される。
【0051】
このようにして、駆動速度や位相差のフィードバック制御が行われながら安定したモータ駆動が行われ、エンコーダ信号処理回路35から通知されるカウント数が予め設定されているカウント数に達すると、制御CPU22は、被駆動体5が所望の位置まで移動したと判断し、信号生成回路25に駆動停止指令を出力する。これにより、信号生成回路25から駆動交番信号が出力されなくなることにより、超音波振動子4の振動が徐々に収束し、停止することとなる。
【0052】
以下、本第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置による速度制御について詳細に説明する。
【0053】
超音波モータ2の駆動速度は次のように検出される。まず、制御CPU22は、任意の周期毎にパラメータテーブル24からエンコーダ33のカウント値(以降、エンコーダカウント値と称する)を読み出し、このエンコーダカウント値から駆動位置を求める。そして、サンプリングの周期とサンプリング周期間の駆動位置の変化量とに基づいて、超音波モータ2の駆動速度を算出する。
【0054】
ここで、超音波モータ2を一定速度に制御する場合には、制御CPU22において、制御したい基準速度と検出した駆動速度とを比較して、検出した駆動速度が前記基準速度より大きい速度である場合は、信号制御回路23で分割信号のパルス幅が小さくなるように、制御CPU22は分割信号のパルス幅のパラメータテーブル24に設定値を与える。一方、検出した駆動速度が前記基準速度よりも小さい速度である場合には、信号制御回路23で分割信号のパルス幅が大きくなるように、制御CPU22はパラメータテーブル24に分割信号のパルス幅の設定値を与える。
【0055】
駆動速度を制御する為のパラメータとしては、信号制御回路23で設定する分割信号のパルス幅の他に、信号制御回路23で設定する駆動信号の周波数、信号制御回路23で設定するA相/B相駆動信号の位相差、信号制御回路23で設定する駆動信号のパルス幅があり、これらのパラメータを用いることによっても、分割信号のパルス幅による場合と同等の効果を得ることができる。
【0056】
以下、本第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置による位置制御について詳細に説明する。
【0057】
まず、当該超音波モータ2の駆動位置の検出は、次のように行う。すなわち、制御CPU22は、エンコーダカウント値をパラメータテーブル24から読み出し、このエンコーダカウント値と駆動位置との関係式から、超音波モータ2の現在の駆動位置を求める。
【0058】
そして、超音波モータ2を所定の位置で停止させるには、主として次の二通りの方法を挙げることができる。
【0059】
(方法1) 制御CPU22は、任意の周期でエンコーダカウント値をパラメータテーブル24から読み出し、このカウント値が、所定のカウント値又はカウント値から算出した所定の位置を超えたと判断したとき、制御CPU22は信号出力制御回路26に停止信号を出力して駆動信号の出力を停止させ、超音波モータ2の駆動を停止させる。
【0060】
(方法2) エンコーダカウント値がパラメータテーブル24に設定された所定のカウント値を超えた場合には、信号出力制御回路26から信号生成回路25に、超音波モータ2の駆動を停止させる信号が自動的に出力される機能により、超音波モータ2の駆動を停止させる。
【0061】
以下、本第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置による停止制御について詳細に説明する。
【0062】
図13は、信号制御回路23の出力を単純に停止させることで超音波モータ2を停止させたときの、当該超音波モータ2の駆動速度の変化の様子を示す図である。
【0063】
超音波モータ2の振動系は固有振動数を有している。従って、超音波モータ2を停止させる際、上述した駆動信号の印加を単純に終了して超音波モータ2を停止させた場合、図13に示すように、超音波モータ2の振動系の固有振動数に応じた残存振動が生じてしまう。この結果、残存振動の持続時間分だけ、停止に要する時間が長くなってしまう。また、当然ながら停止位置精度も悪化してしまう。
【0064】
そこで、本第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置では、超音波モータ2を駆動停止させる際に、信号制御回路23の出力を一旦停止させた後、所定のタイミングでバースト信号を超音波振動子4に印加することによりバースト駆動を行う。ここでバースト信号とは、例えば図14(b)に示すような、複数のパルス信号の一団である。
【0065】
すなわち、通常の連続駆動の際には、前記超音波振動子4に対して、図14(a)に示すようにパルス信号が連続して印加され続けるが、バースト駆動の際には、図14(b)に示すように、ひとまとまりとされた複数のパルス信号から成るバースト信号が前記超音波振動子4に印加される。
【0066】
図15に示すグラフは、超音波モータ2を停止させる際に、信号制御回路23の出力を一旦停止させた後、所定のタイミングで単発のバースト信号によりバースト駆動する場合の、当該超音波モータ2の駆動速度の変化の様子を示す図である。
【0067】
一方、図16は、超音波モータ2を停止させる際に、図15に示すようなバースト信号によるバースト駆動を行わない場合の、当該超音波モータ2の駆動速度の変化の様子を示す図である。
【0068】
図15及び図16を比較すると分かるように、超音波モータ2を停止させる際に、信号制御回路23の出力を一旦停止させた後、所定のタイミングで単発のバースト信号によりバースト駆動することで、超音波モータ2の振動系の固有振動数に応じた残存振動が生じてしまうことを大きく抑止することができる。
【0069】
つまり、超音波モータ2の停止時に、設定された所定の位置に超音波モータが到達したとき、駆動信号を連続駆動からバースト駆動に切り替えることで、前記残存振動は抑制されて、図15に示すように速度の変動を小さくして速やかに停止させることができる。
【0070】
ここで、前記残存振動の最初の振動の周期をTとすると、残存振動を効果的に抑制する為には、図13に示すT/2の期間(超音波モータ2がそれまで進行していた方向とは逆方向に動こうとする最初の振動の周期の1/2の期間)に、バースト信号を前記超音波振動子4に印加してバースト駆動を行うことが好ましい。
【0071】
なお、上述したようにバースト駆動を行う場合、残存振動の状態に合わせたより詳細な駆動制御を行っても良い。例えば、残存振動が比較的大きい振動の場合には、超音波振動子4の共振周波数により近い周波数でバースト駆動すると良い。一方、残存振動が比較的小さな振動の場合には、超音波振動子4の共振周波数から離れた周波数でバースト駆動してもよい。
【0072】
このように、バースト駆動の為のバースト信号の周波数を、残存振動の状態に応じて適宜変更してバースト駆動を行うことで、より効果的に残存振動を抑制することができる。
【0073】
以上説明したように、本第1実施形態によれば、超音波モータの停止制御において、停止位置精度の高精度化及び良好な応答性を実現し、且つ回路の簡略化を実現した超音波モータの駆動装置を提供することができる。
【0074】
すなわち、本第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置では、超音波モータを停止させる際に、連続駆動からバースト駆動に切り換えることで、当該超音波モータの振動系全体の振動を打ち消す。
【0075】
これにより、当該超音波モータを効率よく減速させて停止させることができ、且つ停止位置精度を向上させることができる。また、前記超音波振動子4の振動を検出する為の手段と、該振動を検出する手段による検出結果に基づいて駆動信号の位相を遅らせる為の手段とを必要としない為、駆動回路の簡略化も実現できる。
【0076】
さらに、バースト駆動を行う際に、上述したように残存振動の状態に合わせてバースト駆動の為のバースト信号の周波数を変更することで、より効率良く当該超音波モータの振動系全体の振動を打ち消すことができる。
【0077】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る超音波モータの駆動装置について説明する。なお、前記第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置との相違点のみを説明する。
【0078】
前記第1実施形態においては、図15及び図16を参照して説明したように、超音波モータ2を駆動停止させる際に、信号制御回路23の出力を一旦停止させた後、所定のタイミングで単発のバースト信号を超音波振動子4に印加することによってバースト駆動を行い、超音波モータ2の振動系の固有振動数に応じた残存振動が生じることを抑止していた。
【0079】
一方、本第2実施形態においては、図17に示すように、超音波モータ2を駆動停止させる際に、信号制御回路23の出力を一旦停止させた後、所定の期間に渡って複数のバースト信号を前記超音波振動子4に印加することによってバースト駆動を行う。これにより、超音波モータ2の振動系の固有振動数に応じた残存振動が生じることを抑止する。
【0080】
ここで、前記複数のバースト信号の印加周期は、少なくとも残存振動の周期Tよりも短い周期であるとする。また、前記複数回のバースト駆動のうち少なくとも一回のバースト駆動は、超音波モータ2がそれまで進行していた方向とは逆方向に動こうとする最初の振動の周期の1/2の期間(図13に示す2/Tの期間)中に行われることが好ましい。
【0081】
以上説明したように、本第2実施形態によれば、超音波モータ2の駆動停止時に上述したバースト駆動を行うことで、当該超音波モータ2の振動系全体の振動を打ち消して残存振動を抑制し、当該超音波モータ2を効率よく減速させて停止させることができ且つ停止位置精度を向上させることができるという前記第1実施形態に係る超音波モータの駆動装置と同様の効果を奏する超音波モータの駆動装置を提供することができる。
【0082】
以上、第1実施形態及び第2実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、種々の変形及び応用が可能なことは勿論である。
【0083】
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波モータシステムの概略一構成例を示すブロック図。
【図2】超音波振動子の一構成例を示す図。
【図3】内部電極を備えた圧電セラミックスシートの一構成例を示す図。
【図4】内部電極を備えた圧電セラミックスシートの一構成例を示す図。
【図5】圧電積層体の縦振動を示す図。
【図6】圧電積層体の屈曲振動を示す図。
【図7】駆動装置の内部概略構成を示す図。
【図8】基準信号の一例を示す図。
【図9】ドライブ回路の一構成例を示す図。
【図10】ドライブ回路に信号生成回路から各種駆動交番信号が入力された場合における入出力値の真理値表を示す図。
【図11】ドライブ回路に与えられる駆動交番信号及び超音波振動子に与えられる駆動交番電圧のグラフを示す図。
【図12】超音波モータの速度に応じてパルス幅が調整された分割信号が生成され、出力される様子のグラフを示す図。
【図13】信号制御回路の出力を単純に停止させることで超音波モータを停止させたときの、当該超音波モータの駆動速度の変化の様子を示す図。
【図14】(a)は、連続駆動の為のパルス信号を示す図。(b)は、バースト駆動の為のバースト信号を示す図。
【図15】超音波モータの停止時にバースト駆動に切り替えることで、残存振動を抑制した場合の当該超音波モータの駆動速度の変化の様子を示す図。
【図16】バースト信号によるバースト駆動を行わない場合の、当該超音波モータの駆動速度の変化の様子を示す図。
【図17】第2実施形態に係る超音波モータの駆動装置による停止制御の一例を示す図。
【符号の説明】
【0085】
1…超音波モータシステム、 2…超音波モータ、 3…駆動装置、 4…超音波振動子、 5…被駆動体、 7…圧電セラミックスシート、 8…内部電極、 9…圧電積層体、 10…摩擦接触子、 11…外部電極、 21…発振回路、 22…制御CPU、 23…信号制御回路、 24…パラメータテーブル、 25…信号生成回路、 26…信号出力制御回路、 28…位相差検出回路、 30…ドライブ回路、 31…Hブリッジ回路、 32…コイル、 33…エンコーダ、 35…エンコーダ信号処理回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動部材に当接する駆動子を備える振動子に、所定の位相差及び所定の駆動周波数の2相の駆動交番信号を印加することにより、前記振動子に縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子によって前記被駆動部材を駆動する超音波モータの駆動装置であって、
前記駆動交番信号を生成して前記振動子に印加することで前記被駆動部材を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段による前記被駆動部材の駆動が停止した後、前記被駆動部材における残存振動を抑制する為のバースト信号を前記振動子に印加してバースト駆動を行うバースト駆動手段と、
を具備することを特徴とする超音波モータの駆動装置。
【請求項2】
前記バースト駆動手段は、前記駆動手段による前記被駆動部材の駆動が停止した後、所定時間後に単発のバースト信号を前記振動子に印加してバースト駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータの駆動装置。
【請求項3】
前記バースト駆動手段は、前記駆動手段による前記被駆動部材の駆動が停止した後、所定期間に渡って複数回のバースト信号を前記振動子に印加してバースト駆動を行うことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータの駆動装置。
【請求項4】
前記バースト駆動手段は、少なくとも、前記残存振動における最初の振動の1/2周期の期間は前記バースト駆動を行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の超音波モータの駆動装置。
【請求項5】
前記バースト駆動手段により前記振動子に印加される前記バースト信号の周波数は、前記駆動手段による前記駆動交番信号の周波数と異なる周波数であることを特徴とする請求項4に記載の超音波モータの駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2009−89517(P2009−89517A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256151(P2007−256151)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】