説明

超音波信号処理装置及び方法

【課題】被検体内での仮定音速の最適値を正確に得ること。
【解決手段】被検体に向けて超音波を送信するとともに、前記被検体内からの超音波エコーを受信して、該超音波エコーを示す受信信号を生成する超音波探触子と、前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、最適音速を取得する最適音速判定部32を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮定音速の最適値を正確に得ることができる超音波信号処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体に向けて超音波を送信するとともに、被検体からの超音波エコーを受信し、受信信号に基づいて生成した画像(例えばBモード断層像)を表示する超音波信号処理装置が知られている。
【0003】
例えば、超音波を送信してから超音波エコーを受信するまでの時間(伝搬時間)が被検体内の反射位置の深さにより異なるので、伝搬時間を被検体内の反射位置の深さに対応付けるとともに、受信信号の振幅の値を画素の濃度(または色)に対応付けることで、振幅画像が生成される。
【0004】
このとき被検体内での代表的な音速を仮定して、伝搬時間を反射位置の深さに対応付けている。ここで仮定した音速は、一般に、「仮定音速」(あるいは「設定音速」)と呼ばれている。しかし、被検体内での実音速は被検体内の組織性状によって異なるので、実音速と等しい音速を仮定することは容易でない。仮定音速が実音速とは異なると、伝搬時間と深さとを正確に対応付けできないので、画質が劣化してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、従来、最適音速を求める様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、超音波受信信号の振幅が最大となる場合の超音波音速値を求めることにより、あるいは超音波受信信号のビーム幅が最小となる場合の超音波音速値を求めることにより、さらには超音波受信信号の振幅について空間周波数の高周波成分又は分散が最大となる場合の超音波音速値を求めることによって、設定された超音波音速値を補正する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平8−317926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波エコーの無数の散乱によるスペックルノイズが発生するが、仮定音速に応じてスペックルノイズの発生パターンが異なる事、および、場所によってエコーレベルが異なる事から、従来の技術では、仮定音速の最適値を正確に得る事は困難であった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、仮定音速の最適値を正確に得ることができる超音波信号処理装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検体に向けて超音波を送信するとともに、前記被検体内からの超音波エコーを受信して、該超音波エコーを示す受信信号を生成する超音波送受信手段と、前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、最適音速を取得する最適音速取得手段と、を備えたことを特徴とする超音波信号処理装置を提供する。
【0009】
これによれば、超音波エコーの受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより最適音速が取得されるので、仮定音速に応じてスペックルノイズの発生パターンが異なっても、また、場所によってエコーレベルが異なっても、仮定音速の最適値を正確に得ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、前記最適音速として、前記超音波送受信手段の素子の配列方向および前記被検体の深さ方向のうち少なくともいずれかにおける前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、前記仮定音速を切り換えて、前記受信信号の位相差の大きさの総和が最大となる前記仮定音速を最適音速と判定することを特徴とする。
【0012】
これによれば、受信信号の位相差の大きさの総和が最大となる仮定音速を最適音速と判定することにより、最適音速を正確且つ容易に取得することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、前記仮定音速を切り換えて、前記受信信号の位相差の空間周波数が最大となる仮定音速を最適音速と判定することを特徴とする。
【0014】
これによれば、受信信号の位相差の空間周波数が最大となる仮定音速を最適音速と判定することにより、最適音速を正確且つ容易に取得することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、前記仮定音速を切り換えて、前記受信信号からスペックル成分を抽出し、前記スペックル成分の密度が最大となる仮定音速を最適音速と判定することを特徴とする。
【0016】
これによれば、スペックル成分の密度が最大となる仮定音速を最適音速と判定することにより、最適音速を正確且つ容易に取得することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記受信信号から位相差を取得する位相差取得手段を備え、前記最適音速取得手段は、前記位相差に基づいて前記スペックル成分を抽出することを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記受信信号から振幅を取得する振幅取得手段を備え、前記最適音速取得手段は、前記振幅に基づいて前記スペックル成分を抽出することを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項2、3、4および6のうちいずれか1項に記載の発明において、前記受信信号から振幅を取得する振幅取得手段を備え、前記最適音速取得手段は、前記振幅にも基づいて前記最適音速を判定することを特徴とする。
【0020】
これにより、受信信号の振幅にも基づいて最適音速を判定することで、最適音速の精度を向上させることができる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項2、3、4、6および8のうちいずれか1項に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、少なくとも2つ以上の方向における位相差に基づいて、前記最適音速を求めることを特徴とする。
【0022】
これにより、複数方向における位相差を用いることで、最適音速の精度を向上させることができる。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、前記超音波送受信手段の素子の配列方向における位相の分解能が前記素子の間隔以上である前記受信データを利用することを特徴とする。
【0024】
これにより、高SNの位相情報により更に正確に最適音速を判定することができる。
【0025】
請求項11に記載の発明は、請求項1ないし10のうちいずれか1項に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、1回の超音波送信で得られる前記受信データを用いて前記最適音速を求めることを特徴とする。
【0026】
請求項12に記載の発明は、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の発明において、前記超音波送受信手段は、1回の超音波送信で前記超音波送受信手段の素子の配列方向に2音線以上の前記受信データを生成可能であることを特徴とする。
【0027】
請求項13に記載の発明は、請求項1ないし12のうちいずれか1項に記載の発明において、前記最適音速により生成された画像を表示手段に表示させることを特徴とする。
【0028】
請求項14に記載の発明は、請求項1ないし13のうちいずれか1項に記載の発明において、前記最適音速取得手段は、被検体内に対応する空間内の関心領域について各関心領域ごとに、前記最適音速を求めることを特徴とする。
【0029】
これにより、空間内の場所(領域)よって最適音速が異なる場合でも、各関心領域ごとに最適音速を求めることができる。
【0030】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、複数の前記最適音速によりそれぞれ生成された複数の画像を、並べて、または、切り換えて単独で、表示手段に表示させることを特徴とする。
【0031】
これにより、複数の最適音速によりそれぞれ生成された複数の画像を容易に見ることができるので、適切な診断を行うことが可能となる。
【0032】
請求項16に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、複数の前記仮定音速によりそれぞれ生成された複数の画像を合成して、表示手段に表示させることを特徴とする。
【0033】
これにより、合成画像を見て適切な診断を行うことが可能となる。
【0034】
請求項17に記載の発明は、請求項1ないし16のうちいずれか1項に記載の発明において、前記最適音速取得手段により最適音速の判定を行って該最適音速により画像を生成する最適音速モードと、前記最適音速の判定を行わないで通常の仮定音速により画像を生成する通常仮定音速モードとを切り換えるモード切換手段を備えたことを特徴とする。
【0035】
請求項18に記載の発明は、被検体に向けて超音波を送信するとともに、前記被検体内からの超音波エコーを受信して、該超音波エコーを示す受信信号を生成し、前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、仮定音速の最適音速を取得することを特徴とする超音波信号処理方法を提供する。
【0036】
なお、本明細書にて、「空間的な位相差」は、隣接する画素間における位相の差分に特に限定されるものではなく、適宜間引いた画素間における位相の差分であってもよい。また、本発明にて、「空間的な位相差」は、前述のような単位画素間における位相の差分に特に限定されるものではなく、単位長さにおける位相差、単位面積における位相差、または、単位体積における位相差であれば、どのような単位における位相差であってもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、仮定音速の最適値(最適音速)を正確に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、添付図面に従って、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0039】
<本発明の原理>
まず、本発明の原理を説明する。
【0040】
図1にて、超音波探触子20は、被検体90に向けて超音波を送信するとともに、被検体90内からの反射波(以下「超音波エコー」という)を受信して、超音波エコーを示す受信信号を生成する複数の超音波送受信素子が配列されている。
【0041】
以下では、被検体90の深さ方向を、「距離方向」ということもある。また、超音波送受信素子が配列されている方向(素子配列方向)を、「方位方向」または「スキャン方向」ということもある。また、深さ方向および素子配列方向の両方向に対して直交する方向、すなわち断層面に直交する方向を、「スライス方向」または「フレーム方向」ということもある。
【0042】
なお、説明の便宜上、1次元配列された超音波送受信素子を有する超音波探触子20を例に説明するが、本発明は、超音波送受信素子が2次元配列されている場合にも適用できる。また、本発明は、超音波送受信素子が平面状に配置されている場合に限らず、任意の曲面状に配置されている場合にも適用できる。
【0043】
次に、スペックルノイズと受信信号の位相との関係について説明する。
【0044】
スペックルノイズは、被検体内での超音波エコーのランダムな干渉に因って発生する。干渉には、強め合う干渉と打ち消し合う干渉がある。強め合う干渉は波と波の位相差が小さい場合に生じ、弱め合う干渉は位相差がπに近い場合に生じる。
【0045】
図2に、強め合う干渉の例を示す。図2(a)は干渉前を表し、基準波に対して位相差0.2(rad)、位相差0.4(rad)及び位相差0.6(rad)という位相差の小さな3つの波を干渉させるようにしている。図2(b)は干渉後を表し、破線で表された基準波に対し干渉波が実線で表されている。このように位相差が小さい場合には、強め合う干渉波が得られる。また、図2(b)からわかるように、干渉波の山のピークは基準波の山のピークと近く、位相差が小さい干渉の波は、干渉後も基準波との位相差が小さくなる。
【0046】
また、図3に、弱め合う干渉の例を示す。図3(a)は干渉前を表し、この場合基準波に対して位相差0.2(rad)の他に位相差3.0(rad)及び位相差3.2(rad)という、位相差がπ(rad)に近く、大きい波を干渉させている。このとき図3(b)に示すように、破線で表された基準波に対して、実線で表されるように弱め合う干渉波が得られる。このように位相差が大きい波を干渉させると、弱め合う干渉波が得られる。また、図3(b)からわかるように、干渉波の山のピークは基準波の山のピークと離れており、位相差が大きい干渉の波は、干渉後も基準波との位相差が大きい。
【0047】
前にスペックルノイズは、被検体内での超音波エコーのランダムな干渉に因って発生すると言ったが、図3(b)に示したような位相差が大きい波同士の干渉が、スペックルノイズを発生させることになる。位相差が大きい波同士の干渉に因るスペックルノイズが発生しているか否かを判別するには、受信信号から得られる位相の連続的な変化を見ればよい。位相差が小さい波同士の干渉が連続すると、受信信号における位相変化は小さく且つ緩やかである。その一方で、位相差が大きい波同士の干渉が連続して、スペックルノイズが発生すると、受信信号における位相変化は大きく且つ激しくなる。
【0048】
したがって、スペックルノイズは、超音波探触子20の受信信号における位相差の大きさ、または、位相差の周波数に基づいて、判別可能である。
【0049】
次に、前述のスペックルノイズと受信信号の位相との関係を用いて、仮定音速の最適値を求める方法について説明する。
【0050】
仮定音速が最適音速に近い程、点拡がり関数は高周波になるため、無数の点拡がり関数の干渉として生ずるスペックルにおいて干渉による位相変化は、仮定音速が最適音速に近い程、大きくなる。
【0051】
ところで、最近のソフトウエアベースの超音波送受信手段は、超音波探触子20の超音波送受信素子により得られる受信信号をデータ(受信データ)としてメモリに記憶し、例えば同じ送信(1回の送信)により得られる受信データに対し受信フォーカスを施すことで、方位方向にて2音線以上の受信データを生成可能である。本例では、メモリに記憶した受信データに対し、仮定音速を用いて、位相整合が施されることで、受信フォーカスされた複数の音線データ(受信データ)が生成される。これにより、隣接する音線データまたはフレームの受信データ(「RFデータ」ともいう)を高速に得ることができる。
【0052】
このような受信データを直交検波することにより、振幅および位相が得られる。直交検波後、距離方向における時間的な振幅および位相は、仮定音速を用いて、被検体内の各反射位置に対応した空間的な振幅および位相差に変換される。方位方向(素子配列方向)における振幅および位相は、直交検波した段階で空間的な情報として得られる。空間的な振幅および位相差は、それぞれ振幅画像および位相差画像として表すことができる。
【0053】
仮定音速を切り換えて、位相差の大きさの総和または位相差の空間周波数が最大となる仮定音速を求めることにより、仮定音速の最適値を求めることができる。例えば、前述の位相差画像にて、空間的な位相差の大きさの総和または空間周波数を求め、仮定音速を求めることができる。比較する際のカーネル(注目領域)は、受信データに対して、同じ領域になるように設定する。
【0054】
位相差の大きさまたは空間周波数に基づいて直接的に最適音速を求める方法以外に、時間的または空間的なスペックルノイズ(スペックル成分)を画像から抽出し、このスペックル成分の密度が最大となる仮定音速を求めることにより、仮定音速の最適値を求めてもよい。例えば、前述の位相差画像および振幅画像のうち少なくとも一方を用いて、空間的なスペックル成分の密度に基づいて仮定音速を求めることができる。 本明細書にて、「時間的な位相変化」(または「時間領域の位相変化」)とは、単位時間あたりの位相変化である。また、「空間的な位相変化」(または「空間領域の位相変化」)とは、単位長さまたは単位面積または単位体積あたりの位相変化である。画素単位の位相変化を用いてもよい。また、「時間的なスペックル成分の密度」とは、単位時間あたりのスペックル成分の数である。「空間的なスペックル成分の密度」とは、単位長さまたは単位面積または単位体積あたりのスペックル成分の数である。画素単位のスペックル成分の数を用いてもよい。
【0055】
本発明では、要するに、超音波エコーの受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、最適音速を取得する。
【0056】
<超音波画像処理装置>
図4は、第1実施形態に係る超音波信号処理装置を含む超音波画像処理装置の構成例を示すブロック図である。
【0057】
図4において、超音波画像処理装置10は、主に、操作部12、表示部14、超音波探触子20、送受信部22、時間領域信号処理部24、振幅画像生成部26、位相差画像生成部28、仮定音速設定部30、最適音速判定部32、仮定音速記憶部34、画像処理部40、および、モード切換部44を含んで構成されている。
【0058】
操作部12は、ユーザの指示が入力される指示入力デバイスである。例えば、キーボード、マウスなどによって構成されている。
【0059】
表示部14は、画像を表示可能な表示デバイスである。例えば、LCD(液晶ディスプレイ)などによって構成されている。
【0060】
超音波探触子20は、被検体に向けて超音波を送信するとともに、被検体内で反射されてくる超音波エコーを受信するものである。超音波用探触子20は、例えば1次元の超音波トランスデューサアレイ(リニアアレイプローブ)を構成する複数の超音波トランスデューサを備えており、各超音波トランスデューサは、例えばPZT等の圧電素子の両端に電極を形成した振動子によって構成されている。
【0061】
なお、複数の超音波トランスデューサが1次元に配列されたリニアアレイプローブの他、被検者内を扇状に走査するセクタプローブ、複数の超音波トランスデューサが凸面上に配列されたコンベックスアレイプローブや、あるいは複数の超音波トランスデューサが2次元に配列された2次元アレイプローブを用いてもよい。あるいは超音波内視鏡においてラジアル走査を行うメカニカルラジアルプローブでもよい。
【0062】
送受信部22は、ガウシアンパルスなどの超音波送信信号を超音波探触子20に与え、超音波探触子20に超音波を発生させる。
【0063】
超音波用探触子20は、送受信部22の駆動により超音波ビームを被検者内に送信し、リニア走査や、セクタ走査や、コンベックス走査や、ラジアル走査等の走査方式で被検者を走査する。超音波用探触子20が発生した超音波は被検者体内に存在する反射体によって反射され、反射した超音波は超音波用探触子20で受信される。被検体内で反射されてくる超音波エコーが超音波探触子20によって受信されると、超音波エコーを示す受信信号を超音波探触子20が出力するので、送受信部22は、その受信信号を増幅及びA(アナログ)/D(デジタル)変換した後、受信フォーカスを施し、時間領域信号処理部24に入力する。受信フォーカスにより、1回の超音波送信で素子配列方向にて2音線以上の受信データ(音線データ)が生成される。受信フォーカスについては、例えば特開2008―167985号公報に記載されている。本例では、1回の超音波送信で得られた受信データをメモリに記憶した後、仮定音速を切り換えて、受信フォーカスされた複数の音線データ(受信フォーカス後の受信データ)を生成する。
【0064】
本例では、送受信部22にて生成される受信データの素子配列方向における解像度は、超音波探触子20の素子(例えば超音波トランスデューサ)の間隔以上である。これによって、方位方向の位相差の折返しが起きないため、スペックル指標の誤計算を防ぐ事ができる。
【0065】
時間領域信号処理部24は、超音波エコーの受信信号から、時間領域の振幅情報および時間領域の位相情報を取得する処理を行う。
【0066】
本例の信号処理部24は、直交検波部241、振幅情報演算部242および位相情報演算部243を含んで構成されている。
【0067】
直交検波部241は、超音波エコーを示す受信信号に対して直交検波を行う。
【0068】
受信信号s(t)は、次式で表される。
【0069】
[数1]
s(t)=u(t) ×cos(ωt+φ(t))
ここで、u(t)は振幅を示し、φ(t)は位相を示す。
【0070】
受信信号s(t)は、直交検波によって、次式に示すように、実数成分I(cos成分)と虚数成分Q(sin成分)とに分離される。
【0071】
[数2]
I=u(t)cos(φ(t))
Q=u(t)sin(φ(t))
実数成分はI成分、虚数成分はQ成分とも呼ばれる。
【0072】
振幅情報演算部242は、直交検波部241にて得られるI成分及びQ成分に基づいて、振幅u(t)を、次式により算出する。
【0073】
[数3]
u(t)=√(I+Q
位相情報演算部243は、直交検波部241にて得られるI成分及びQ成分に基づいて、位相φ(t)を、次式により算出する。
【0074】
[数4]
φ(t)=tan-1I/Q
直交検波部241および振幅情報演算部242によって、時間領域における振幅情報としてのu(t)を取得する時間的振幅取得手段が構成されている。また、直交検波部241および位相情報演算部243によって、時間領域における位相情報としてのφ(t)を取得する時間的位相取得手段が構成されている。
【0075】
振幅画像生成部26は、被検体内の各反射位置からの超音波エコーの振幅を示す振幅画像(Bモード断層像)を生成する。距離方向においては、時間領域における振幅情報を、仮定音速を用いて、空間領域における振幅情報に変換する。具体的には、超音波のパルスを送信してから超音波エコーのパルスを受信するまでの時間(伝搬時間)が反射位置の深さにより異なるので、仮定音速を用いて、伝搬時間を被検体内の反射位置の深さに対応付けるとともに、振幅の値を画素値(濃度または色を示す)に対応付けることで、振幅画像が生成される。
【0076】
位相差画像生成部28は、被検体内の各反射位置からの超音波エコーの位相差を示す位相差画像を生成する。距離方向においては、時間領域における位相情報を、仮定音速を用いて、空間領域における位相差情報に変換する。具体的には、超音波のパルスを送信してから超音波エコーのパルスを受信するまでの時間(伝搬時間)が反射位置の深さにより異なるので、仮定音速を用いて、伝搬時間を被検体内の反射位置の深さに対応付けるとともに、位相差の値を画素値(濃度または色を示す)に対応付けることで、位相差画像が生成される。
【0077】
なお、スペックルノイズが方位方向または距離方向のどちらかに平行に存在する場合、その方向では位相変化が小さいが、それと直交する方向では位相変化が大きくなるため、方位方向の位相差および距離方向の位相差の両方を求めることが、好ましい。二次元的な位相差情報を求めてもよい。
【0078】
振幅画像生成部26によって、空間領域における振幅情報を取得する空間的振幅取得手段が構成されている。また、位相差画像生成部28によって、空間領域における位相差情報を取得する空間的位相差取得手段が構成されている。
【0079】
仮定音速設定部30は、送受信部22および振幅画像生成部26および位相差画像生成部28に仮定音速を与えることにより、仮定音速を設定する。
【0080】
最適音速判定部32は、仮定音速設定部30を介して、送受信部22および振幅画像生成部26および位相差画像生成部28に与える仮定音速を切り換えて、位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、最適音速を取得する。
【0081】
なお、位相差のみに基づいて最適音速を判定することや、振幅のみに基づいて最適音速を判定することも可能であるが、位相および振幅の両方に基づいて最適音速を判定することが、好ましい。位相および振幅の両方を用いることで、より正確な判定が可能となる。
【0082】
仮定音速記憶部34は、仮定音速を記憶する不揮発性のメモリである。
【0083】
画像処理部40は、振幅画像および位相差画像に対して、各種の画像処理を施す。この画像処理部40は、振幅画像と位相差画像とを合成する機能を有する。例えば、位相差画像によって振幅画像の輝度または色を変調することにより、振幅画像と位相差画像とを重畳する。
【0084】
表示制御部42は、振幅画像、位相差画像、および、これらの合成画像のうちから、後述のモード切換部44の指示に従って任意の画像を選択し、拡縮処理やレイアウト処理を行って、表示部14に入力する。表示する画像の組み合わせは各種ある。例えば、振幅画像と位相差画像とを並べて、表示部14に表示させる。振幅画像とともに、振幅画像と位相差画像との合成画像を並べて、表示させてもよい。振幅画像のみ、または、合成画像のみを、表示させてもよい。
【0085】
モード切換部44は、表示モードを切り換える機能のほか、最適音速取得のモードを切り換える機能を有する。具体的には、最適音速判定部32による最適音速の判定を行って当該最適音速により位相差画像および振幅画像を生成する最適音速モードと、最適音速の判定を行わないで仮定音速記憶部34に予め記憶されている通常の仮定音速により位相差画像および振幅画像を生成する通常仮定音速モードとを切り換える。
【0086】
本例の最適音速モードでは、超音波探触子20による同じ超音波の送信(1回の送信)から得られる同じ受信信号を用いるとともに、複数の仮定音速のうちから順次仮定音速を切り換えて、複数の仮定音速の中から最適な音速を求める。具体的には、最適音速判定部32は、仮定音速設定部30を介して、送受信部22および位相差画像生成部28および振幅画像生成部26に与える仮定音速を切り換える。
【0087】
また、本例にて、超音波探触子20の素子の配列方向における位相の分解能は、超音波探触子20の素子の間隔以上である。すなわち、位相差画像生成部28にて生成される位相差画像の素子配列方向における解像度は、超音波探触子20の素子(例えば超音波トランスデューサ)の間隔以上である。
【0088】
時間領域信号処理部24、振幅画像生成部26、位相差画像生成部28、仮定音速設定部30、最適音速判定部32、画像処理部40、表示制御部42、および、モード切換部44は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。これらの一部が回路によって構成されていてもよい。
【0089】
なお、被検体内の各反射位置に対応する位相差を示す情報として、位相差画像生成部28にて位相差画像を生成した場合を例に説明したが、本発明は位相差画像を生成する場合には特に限定されず、視認可能な画像の代わりに視認不能な情報を生成してもよい。同様に、被検体内の各反射位置に対応する空間的な振幅を示す情報として、振幅画像生成部26にて振幅画像を生成した場合を例に説明したが、本発明は振幅画像を生成する場合には特に限定されず、視認可能な画像の代わりに視認不能な情報を生成してもよい。
【0090】
以下では、最適音速取得について、各種の実施形態に分けて説明する。
【0091】
<第1実施形態>
第1実施形態にて、図4の最適音速判定部32は、複数の仮定音速のうちで仮定音速を切り換えて、位相差の大きさの総和が最大となる仮定音速を、最適音速であると判定する。 図5は、第1実施形態における最適音速取得処理の一例の流れを示すフローチャートである。この処理は、主として、図4の最適音速判定部32を構成するCPUにより、プログラムに従って、実行される。
【0092】
ステップS10にて、仮定音速の初期値を設定する。例えば、仮定音速設定部30が仮定音速記憶部34から仮定音速の初期値を読み出して、送受信部22および振幅画像生成部26および位相差画像生成部28に仮定音速の初期値を設定する。
【0093】
ステップS11にて、送受信部22は受信フォーカスを行い、振幅画像生成部26は受信データから得られる振幅情報に基づいて振幅画像を生成する。また、位相差画像生成部28は、受信データから得られる位相差情報に基づいて位相差画像を生成する。距離方向については、時間的な振幅情報から空間的な振幅情報を生成するとともに、時間的な位相情報から空間的な位相差情報を生成する。
【0094】
ステップS12にて、時間的または空間的な位相差の大きさ(絶対値)の総和を算出する。ここで、位相差画像全体にて空間的位相差の大きさの総和を算出してもよいし、位相差画像中の関心領域にて空間的位相差の大きさの総和を算出してもよい。すなわち、空間領域全体について総和を求めてもよいし、空間領域全体のうち関心領域について総和を求めてもよい。
【0095】
ステップS14にて、全仮定音速が終了したか否かを判定する。例えば、仮定音速設定部30が仮定音速記憶部34から仮定音速の終了値を読み出して、現在の仮定音速と終了値とを比較する。未終了の場合には、ステップS15に進み、終了した場合には、ステップS16に進む。
【0096】
ステップS15にて、仮定音速を1ステップ変更し、ステップS11に戻る。
【0097】
全仮定音速が終了すると、ステップS16にて、仮定音速の切り換えによる位相差の大きさの総和の変化から、最適音速を判定する。具体的には、図6に示すように、位相差の大きさの総和が最大となる仮定音速が最適音速であると判定する。
【0098】
本例では、素子配列方向における空間的な位相差の絶対値の総和に基づいて、最適音速を判定する。なお、超音波探触子20や送受信部22の種類によっては、被権体の深さ方向における位相差の絶対値の総和に基づいて最適音速を判定してもよいし、深さ方向および素子配列方向の両方向における位相差の二乗和の平方根の総和に基づいて最適音速を判定してもよい。また、二次元的な位相差の絶対値の総和に基づいて最適音速を判定してもよい。
【0099】
<第2実施形態>
第2実施形態にて、図4の最適音速判定部32は、複数の仮定音速のうちで仮定音速を切り換えて、受信データの位相差の空間周波数が最大となる仮定音速を、最適音速であると判定する。 図7は、第2実施形態における最適音速取得処理の一例の流れを示すフローチャートである。この処理は、主として、図4の最適音速判定部32を構成するCPUにより、プログラムに従って、実行される。
【0100】
ステップS20およびS21は、図6に示した第1実施形態におけるステップS10およびS11とそれぞれ同じであり、説明を省略する。
【0101】
ステップS22にて、受信データの位相差の空間周波数を算出する。ここで、位相差画像全体にて空間周波数を求めてもよいし、位相差画像中の関心領域にて空間周波数を求めてもよい。すなわち、空間領域全体について空間周波数を求めてもよいし、空間領域全体のうち関心領域について空間周波数を求めてもよい。本例にて、位相差の空間周波数とは、単位面積(または単位長さ)あたりの位相差の変化の頻度(波の数)を示す。
【0102】
ステップS24にて、全仮定音速が終了したか否かを判定する。未終了の場合には、ステップS25に進み、終了した場合には、ステップS26に進む。
【0103】
ステップS25にて、仮定音速を1ステップ変更し、ステップS21に戻る。
【0104】
全仮定音速が終了すると、ステップS26にて、仮定音速の切り換えによる位相差の空間周波数の変化から、最適音速を判定する。具体的には、図8に示すように、位相差の空間周波数が最大となる仮定音速を最適音速と判定する。
【0105】
なお、被検体の深さ方向における位相差の空間周波数、および、超音波送受信手段の素子の配列方向における位相差の空間周波数うち、一方に基づいて、最適音速を判定してもよい。また、二次元的な位相差の空間周波数に基づいて最適音速を判定してもよい。
【0106】
<第3実施形態>
第3実施形態にて、図8の最適音速判定部32は、複数の仮定音速のうちで仮定音速を切り換えて、超音波エコーの受信データからスペックル成分を抽出し、そのスペックル成分の密度が最大となる仮定音速を、最適音速であると判定する。 超音波エコーの受信データからスペックル成分を抽出する態様には各種ある。
【0107】
第1に、受信データの空間的な位相差に基づいて、スペックルが発生している空間的な位置を判定する態様がある。本態様では、位相が空間的に急変化する位置を、スペックル位置と判定する。例えば、位相差画像にて、各画素に順次注目し、深さ方向(距離方向)に対応する縦方向の位相差Δφ(y)と、素子配列方向(方位方向)に対応する横方向の位相差Δφ(x)との二乗和の平方根(√(Δφ(y)+Δφ(x)))が閾値を超えている画素位置(x,y)を、スペックル位置と判定する。各画素の位相差をそのまま用いる代わりに、各画素を中心とした一定サイズの注目領域における位相差の代表値(例えば、平均値、または、頻度が最大である位相差)を用いて、判定してもよい。また、縦方向および横方向のうちいずれか一方の位相差に基づいて、スペックル位置を判定してもよいし、また、縦方向のおよび横方向のうちで大きい方の位相差に基づいて、スペックル位置を判定してもよい。
【0108】
第2に、受信データの空間的な振幅に基づいて、スペックルが発生している空間的な位置を判定する態様がある。例えば、振幅画像にて、各画素に順次注目し、周辺画素との間で振幅差がある画素位置であって且つ振幅差が閾値よりも小さい画素の位置を、スペックル位置と判定する。各画素の振幅をそのまま用いる代わりに、各画素を中心とした一定サイズの注目領域における振幅の代表値(例えば、平均値、または、頻度が最大である振幅)を用いて、判定してもよい。また、縦方向および横方向のうちいずれか一方の振幅に基づいて、スペックル位置を判定してもよいし、また、縦方向および横方向のうちで大きい方の振幅に基づいて、スペックル位置を判定してもよい。
【0109】
第3に、受信データの空間的な位相差および空間的な振幅の両方に基づいて抽出する態様がある。具体的には、例えば、位相差に、振幅差に応じた係数を掛けて、その結果に基づいてスペックル位置を判定する。
なお、スペックル判別として、スペックルノイズかどうかという2値的な判別や、どの程度スペックルノイズが含まれているかという多値的な判別を行い、その結果を出力してもよい。位相変化量そのものを、スペックルらしさを示すデータとして用いてもよい。
【0110】
また、スペックルノイズかどうかを判別するための判別関数を用いて、スペックル判別を行ってもよい。 図9は、第3実施形態における最適音速取得処理の一例の流れを示すフローチャートである。この処理は、主として、図4の最適音速判定部32を構成するCPUにより、プログラムに従って、実行される。
【0111】
ステップS30およびS31は、図6に示した第1実施形態におけるステップS10およびS11とそれぞれ同じであり、説明を省略する。
【0112】
ステップS32にて、スペックルノイズを抽出する。例えば、位相差画像にて各画素に順次注目し、注目画素の値(空間的な位相差)に、振幅差に応じた係数を掛けて、その結果が閾値よりも大きな注目画素の位置を、スペックル位置と判定する。この場合、空間的な位相差が大きいほどスペックル度が高く、且つ、振幅差が小さいほどスペックル度が高いと判定することになる。ここで、振幅差は、位相差画像中の注目画素の位置と対応する位置に在る振幅画像中の画素に注目したとき、当該振幅画像中の注目画素の値(空間的な振幅)と振幅画像中の周辺画素の値との差分である。
【0113】
ステップS33にて、所定サイズのカーネル内のスペックルノイズの密度を算出する。具体的には、位相差画像中の一定サイズの注目領域中における単位面積あたりのスペックルノイズの密度を算出する。例えば、スペックル位置と判定された画素(スペックル画素)の数をカウントする。スペックル度(スペックルらしさ)の総和をとる方法もある。比較する際のカーネルは、受信データに対して、同じ領域になるように設定する。
【0114】
ステップS34にて、全仮定音速が終了したか否かを判定する。未終了の場合には、ステップS35に進み、終了した場合には、ステップS36に進む。
【0115】
ステップS35にて、仮定音速を1ステップ変更し、ステップS31に戻る。
【0116】
全仮定音速が終了すると、ステップS36にて、仮定音速の切り換えによるスペックルノイズの密度の変化から、最適音速を判定する。具体的には、図10に示すように、スペックルノイズの密度が最大となる仮定音速を最適音速であると判定する。
なお、最適音速判定部32は、位相差のみに基づいて、スペックル成分を抽出してもよい。また、被検体の深さ方向における位相差、および、超音波送受信手段の素子の配列方向における位相差のうち、一方に基づいて、スペックル位置を判定してもよい。また、二次元的な位相差に基づいて最適音速を判定してもよい。
【0117】
また、最適音速判定部32は、振幅のみに基づいて、スペックル位置を判定してもよい。 なお、第1実施形態にて位相差の大きさの総和を用いて最適音速を取得する場合を説明し、第2実施形態にて位相差の高周波成分を用いて最適音速を取得する場合を説明し、第3実施形態にてスペックル成分の密度を用いて最適音速を取得する場合を説明したが、これら(「位相差の大きさの総和」、「位相差の高周波成分」、「スペックル成分の密度」)の組み合わせにより最適音速を取得してもよい。
【0118】
<第4実施形態>
第4実施形態では、被検体に対応する空間内の複数のROI(「関心領域」ともいう)について各ROIごとに最適音速を求めるとともに、複数の最適音速によりそれぞれ生成された複数の画像を合成し、合成画像を表示する。
【0119】
図11は、画像生成処理の一例の流れを示すフローチャートである。この処理は、主として図4の最適音速判定部32、振幅画像生成部26、位相差画像生成部28および画像処理部40を構成するCPUにより、プログラムに従って、実行される。
【0120】
ステップS41にて、主として最適音速判定部32により、各ROIにおける最適音速を取得する。
【0121】
例えば、図12(a)に示すように、被検体に対応する空間(以下「画像空間」という)内に複数のROI(401〜404)を設定したとする。そうすると、各ROI(401〜404)ごとに仮定音速を切り換えて、各ROI(401〜404)ごとの最適音速を取得する。なお、各ROIごとの最適音速を求める処理は、第1実施形態〜第3実施形態にて説明した処理のうちいずれかを用いればよいので、その説明を省略する。
【0122】
ステップS42にて、振幅画像生成部26により、各最適音速に対応する振幅画像を取得する。具体的には、各最適音速ごとに、時間的な振幅情報から空間的な振幅情報に変換し、振幅画像を生成する。
【0123】
例えば、図12(b)に示すように、各ROI(401〜404)の最適音速にそれぞれ対応する振幅画像411〜414(全体画像)を取得する。各ROIの部分画像421〜424のみを生成してもよい。
【0124】
ステップS43にて、画像処理部40により、各最適音速値に対応する振幅画像を、各ROI位置を中心として、合成する。
【0125】
例えば、図12(c)に示すように、各ROIの部分画像421〜424を結合することにより、合成画像430を生成する。あるいは、各ROIの部分画像421〜424の重みを大きくするとともに、全体画像411〜411のうちで非ROI部分431〜434の重みを小さくして、合成を行ってもよい。
【0126】
ステップS44にて、合成画像430に対して、各種の画像処理(例えば、対数圧縮、ゲイン、DR、STC、グレーマップ調整、スキャンコンバート等の各処理)を施す。
【0127】
なお、説明の便宜上、空間を等分して複数のROIに分けた場合を例に説明したが、図13に示すように、ROI(501〜504)は自在に設定できる。例えば、通常の仮定音速により生成した振幅画像を表示部14に表示し、ユーザが表示部14を見ながら操作部12により符号501〜503のROIを設定し、残りの領域を符号504の領域とする。
【0128】
表示制御部42による表示制御の態様には各種あり、複数の最適音速によりそれぞれ生成された複数の画像(例えば、振幅画像、位相差画像)を、並べて、または、切り換えて単独で表示させるようにしてもよい。例えば、図12(b)に示した各最適音速に生成した振幅画像411〜414を、表示部14の画面上に、並べて、あるいは、切り換えて単独で、表示させる。
【0129】
<スペックルの判別>
以下では、スペックル判別の具体例について説明する。
【0130】
判別関数は、例えば、スペックルまたは非スペックルの位置がわかっている空間的な位相情報を予め用意しておき、その位相変化量(位相差)から作成した特徴量を元に作成する。すなわち、スペックルであることがわかっている位相変化量データ及び非スペックルであることがわかっている位相変化量データとから、それぞれ所定の特徴量が算出され、これからスペックル判別関数が作成される。
【0131】
ここで、特徴量は、位相変化量のデータの単一画素でも良い。ただし、単一画素の場合、差分をとって位相変化量を求めた場合には画素の僅かなずれが生じる、縦横方向から位相変化量を求めた場合には十字に交差する部分の中心の位相変化は大きくならないなどの問題があるため、注目画素の近傍画素の値や近傍画素との演算結果等、複数のデータを使用するのが望ましい。このとき、複数のデータは多次元となるため、閾値を設計し易いようにPCA(主成分分析)などを行って次元を下げるようにしてもよい。
【0132】
図14に、スペックル判別関数の一例を示す。
【0133】
ここでは、縦方向位相変化量及び横方向位相変化量をそれぞれ特徴量(1)及び特徴量(2)とし、非スペックルノイズを〇で表し、スペックルノイズを×で表している。図14に示す例では、非スペックルノイズ〇とスペックルノイズ×の領域を分離する直線として判別関数が設定される。このように特徴量に変換した結果を基にしてスペックルノイズと非スペックルノイズを判別する関数(あるいは閾値)が設計される。なお、判別関数はこのような線形のものに限定されるものではない。
【0134】
また、判別関数の設定方法は特に限定されるものではなく、例えば、SVM(サポートベクターマシン)などの既知のデータ(学習データ)を利用した統計的手法(例えば、参考文献としてネロ・クリスティアニーニ、ジョン・テーラー著「サポートベクターマシン入門」共立出版などが挙げられる。)などの公知のクラス分類に使用される線形あるいは非線形の判別関数を用いることができる。もちろん、特徴量毎に閾値を与えるだけで判別可能であれば、閾値だけでスペックルを判別してもよい。また、位相変化量に変換することなく、連続的な位相データの画素といった位相変化がわかるデータを特徴量とした判別関数を設定してもよい。
【0135】
図15に、SVM(サポートベクターマシン)を使用したスペックル抽出の判別関数生成処理の一例を示す。
【0136】
図15に示すように、まずファントム画像から手作業でスペックル部分及び非スペックル部分をラベリングし、スペックル判別関数を作成するための既知データを作成する。なお、スペックル及び非スペックル部分をラベリングする際、曖昧な箇所についてはラベリングは行わないようにする。次に、この既知データのスペックル部分及び非スペックル部分からスペックルの判別に用いる特徴量を抽出する。
【0137】
ここでは特徴量として、図16に示すように、3×3画素の中央の画素cを注目画素とし、注目画素cとその上下左右の4つの近傍画素a、b、d、eに関し、それぞれ縦(距離)方向位相変化及び横(方位)方向位相変化の複数個の特徴量を使用する。
【0138】
次に、この縦方向及び横方向それぞれのラベリングされた画素(注目画素及びその近傍)の複数個の位相変化量を特徴量としてSVM(サポートベクターマシン)を適用し、判別関数(スペックル判別器)を生成する。もちろん、ラベリングに使用するデータや特徴量は、判別結果が最適となるように変更しても良い。
【0139】
このように、予めスペックルまたは非スペックルの位置がわかっている位相データから特徴量を抽出してスペックル判別関数を作成しておく。そして、空間的位相情報に基づいてスペックル抽出が行われる。
【0140】
最適音速判定部32では、例えば、方位(横)方向の位相差及び距離(縦)方向の位相差が入力されると、これをスペックル判別に用いる特徴量に変換し、予め作成されているスペックル判別関数を用いてスペックルであるかどうか判別し、スペックル抽出が行われる。
【0141】
判別結果は、2値的にスペックルであるかどうかを示すだけでなく、閾値との差を多値的にどの程度スペックルノイズが含まれているかを示すスペックルらしさとして出力してもよい。また、多値的に出力する場合には、LUT(ルックアップテーブル)などでさらに値を調整してもよい。
【0142】
なお、スペックル判別関数は、超音波の送受信の条件などによって変化するため、実際の装置の場合には条件毎に判別関数を設定するのが望ましい。
【0143】
以上説明した例では、振幅情報ではなく位相情報を用いてスペックル成分を抽出するようにしている。振幅ではスペックルの形状、エコーレベルによっては、スペックルの判別が困難な場合があるため正確にスペックル成分を抽出できない場合があるが、位相情報を用いることにより、スペックルの形状や周囲のエコーレベルに依存しないスペックル成分の抽出が可能となる。
【0144】
このように、位相情報のみでスペックル成分を抽出することができるが、振幅情報を特徴量に加えるなど、振幅情報(振幅成分あるいはその包絡線成分)と位相情報を組み合わせてスペックル成分を抽出するようにしてもよい。この場合、位相情報(方位方向の位相差、距離方向の位相差を用いるが、これらの空間的な位相差情報とともに空間的な振幅情報をも用い、振幅情報(画素値)も加えて特徴量の次元(図16に示す例では2次元)を増加して、スペックル抽出を行うようにしてもよい。
【0145】
このように、振幅情報と位相情報の両方を用いてスペックル抽出を行うことで、より正確なスペックル抽出が可能となる。
【0146】
図17(a)は仮定音速が最適音速よりも遅い場合の位相差画像の例を示し、図17(b)は仮定音速が最適音速である場合の位相差画像の例を示し、図17(c)は仮定音速が最適音速よりも速い場合の位相差画像の例を示す。前述した第1実施形態〜第3実施形態のうちいずれの実施形態でも、最適音速では図17(b)に示すような位相差画像が得られる。このような最適音速にて得られた位相差画像を、単独で表示したり、他の画像(例えば振幅画像)と合成または切り換え可能に表示することで、適切な診断が可能となる。 以上、説明の便宜上、1次元配列された超音波送受信素子を有する超音波探触子20を例に説明したが、本発明は、超音波送受信素子が2次元配列されている場合にも適用できる。
【0147】
本発明は、本明細書において説明した例や図面に図示された例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の設計変更や改良を行ってよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】超音波探触子と被検体との位置関係の説明に用いる説明図
【図2】強め合う干渉の例を示すグラフであり、(a)は干渉前を表すグラフ、(b)は干渉後を表すグラフ
【図3】弱め合う干渉の例を示すグラフであり、(a)は干渉前を表すグラフ、(b)は干渉後を表すグラフ
【図4】本発明に係る超音波信号処理装置を含む超音波画像処理装置の構成例を示すブロック図
【図5】第1実施形態における最適音速取得処理の一例の流れを示すフローチャート
【図6】第1実施形態における最適音速の判定の説明に用いる説明図
【図7】第2実施形態における最適音速取得処理の一例の流れを示すフローチャート
【図8】第2実施形態における最適音速の判定の説明に用いる説明図
【図9】第3実施形態における最適音速取得処理の一例の流れを示すフローチャート
【図10】第3実施形態における最適音速の判定の説明に用いる説明図
【図11】第4実施形態における画像生成処理の一例の流れを示すフローチャート
【図12】(a)はROIの例の説明に用いる示す説明図、(b)は各ROIごとの最適音速にてそれぞれ生成された複数の画像の説明に用いる説明図、(c)は合成画像の説明に用いる説明図
【図13】自在に設定したROIの説明に用いる説明図
【図14】スペックル判別関数の一例を示す説明図
【図15】スペックル判別関数の生成処理の一例を示す説明図
【図16】スペックル判別のための特徴量の説明に用いる説明図
【図17】図17(a)は仮定音速が最適音速よりも遅い場合の位相差画像の例を示す説明図、図17(b)は仮定音速が最適音速である場合の位相差画像の例を示す説明図、図17(c)は仮定音速が最適音速よりも速い場合の位相差画像の例を示す説明図を示す説明図
【符号の説明】
【0149】
10…超音波画像処理装置、12…操作部、14…表示部、20…超音波探触子、22…送受信部、24…時間領域信号処理部(時間的振幅取得部、時間的位相取得部)、26…振幅画像生成部(空間的振幅取得部)、28…位相差画像生成部(空間的位相差取得部)、30…仮定音速設定部、32…最適音速判定部、34…仮定音速記憶部、40…画像処理部、42…表示制御部、44…モード切換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に向けて超音波を送信するとともに、前記被検体内からの超音波エコーを受信して、該超音波エコーを示す受信信号を生成する超音波送受信手段と、
前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、最適音速を取得する最適音速取得手段と、
を備えたことを特徴とする超音波信号処理装置。
【請求項2】
前記最適音速取得手段は、前記最適音速として、前記超音波送受信手段の素子の配列方向および前記被検体の深さ方向のうち少なくともいずれかにおける前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることを特徴とする請求項1に記載の超音波信号処理装置。
【請求項3】
前記最適音速取得手段は、前記仮定音速を切り換えて、前記受信信号の位相差の大きさの総和が最大となる仮定音速を最適音速と判定することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波信号処理装置。
【請求項4】
前記最適音速取得手段は、前記仮定音速を切り換えて、前記受信信号の位相差の空間周波数が最大となる仮定音速を最適音速と判定することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波信号処理装置。
【請求項5】
前記最適音速取得手段は、前記仮定音速を切り換えて、前記受信信号からスペックル成分を抽出し、前記スペックル成分の密度が最大となる仮定音速を最適音速と判定することを特徴とする請求項1に記載の超音波信号処理装置。
【請求項6】
前記受信信号から位相差を取得する位相差取得手段を備え、
前記最適音速取得手段は、前記位相差に基づいて前記スペックル成分を抽出することを特徴とする請求項5に記載の超音波信号処理装置。
【請求項7】
前記受信信号から振幅を取得する振幅取得手段を備え、
前記最適音速取得手段は、前記振幅に基づいて前記スペックル成分を抽出することを特徴とする請求項5に記載の超音波信号処理装置。
【請求項8】
前記受信信号から振幅を取得する振幅取得手段を備え、
前記最適音速取得手段は、前記振幅にも基づいて前記最適音速を判定することを特徴とする請求項2、3、4および6のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項9】
前記最適音速取得手段は、少なくとも2つ以上の方向における位相差に基づいて、前記最適音速を求めることを特徴とする請求項2、3、4、6および8のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項10】
前記最適音速取得手段は、前記超音波送受信手段の素子の配列方向における位相の分解能が前記素子の間隔以上である前記受信データを利用することを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項11】
前記最適音速取得手段は、1回の超音波送信で得られる前記受信データを用いて前記最適音速を求めることを特徴とする請求項1ないし10のうちいずれか1項に記載の超音波処理装置。
【請求項12】
前記超音波送受信手段は、1回の超音波送信で前記超音波送受信手段の素子の配列方向に2音線以上の前記受信データを生成可能であることを特徴とする請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項13】
前記最適音速により生成された画像を表示手段に表示させることを特徴とする請求項1ないし12のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項14】
前記最適音速取得手段は、被検体内に対応する空間内の関心領域について各関心領域ごとに、前記最適音速を求めることを特徴とする請求項1ないし13のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項15】
複数の前記最適音速によりそれぞれ生成された複数の画像を、並べて、または、切り換えて単独で、表示手段に表示させることを特徴とする請求項14に記載の超音波信号処理装置。
【請求項16】
複数の前記仮定音速によりそれぞれ生成された複数の画像を合成して、表示手段に表示させることを特徴とする請求項14に記載の超音波信号処理装置。
【請求項17】
前記最適音速取得手段により最適音速の判定を行って該最適音速により画像を生成する最適音速モードと、前記最適音速の判定を行わないで通常の仮定音速により画像を生成する通常仮定音速モードとを切り換えるモード切換手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし16のうちいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項18】
被検体に向けて超音波を送信するとともに、前記被検体内からの超音波エコーを受信して、該超音波エコーを示す受信信号を生成し、
前記受信信号の位相変化の高周波成分が最大となる仮定音速を求めることにより、仮定音速の最適音速を取得することを特徴とする超音波信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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