説明

超音波探傷結果表示方法及び超音波探傷装置

【課題】高精度の超音波探傷結果が高速で表示できるようにした超音波探傷結果表示方法と装置を提供すること。
【解決手段】被検査体100内にアレイセンサ101を用いて超音波102を送信し、戻ってきた反射波により超音波探傷を行なう装置において、アレイセンサ101により電子走査を行ない、受信波の伝播時間からホログラム108を作成して欠陥を映像化するようにしたもの。
【効果】電子走査による高速な探触子走査と、集束超音波による正確なホログラムにより、高速で高精度の欠陥の映像化が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波探傷結果の表示技術に係り、特に超音波ホログラフィ法により探傷結果を表示する方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波探傷結果の表示には、従来からAスコープ法(Aスキャン図形)とBスコープ法(Bスキャン図形)、それにCスコープ法(Cスキャン図形)が用いられている。
【0003】
そして、まず、Aスコープ法は、横軸に時間をとり、縦軸に反射波(エコー)の強度をとって図形表示する方法で、Bスコープ法は、Aスコープ図形を輝度変調して線で表し、検査対象上における位置と音波伝播時間を直角座標(X、Z軸)に表示するもので、探傷結果を被検査体の断面図として表現することができる。
【0004】
一方、Cスコープ法は、探傷結果を被検査体の上から見た平面図(X、Y軸)の形式で表現するものであり、従って、これらA、B、Cの各スコープ法による探傷結果の表示技法では、超音波探傷で得られた信号の時間と強度をそのまま用いて表示している。
【0005】
しかし、超音波探傷においては、以下の2種の要因により、得られた信号が欠陥によるものかの識別が難しく、探傷が困難となる場合がある。
【0006】
第一の要因は、超音波が距離とともに拡散することによるもので、送信した超音波が拡散され、広い範囲からの反射波が受信されるため、反射源の位置や数が特定できない。
【0007】
第二の要因は、被検査体の内部状況(溶接部や形状)により、本来、検査したい欠陥などによる反射源以外に起因する超音波が受信されることである。
【0008】
これらの要因により、超音波探傷では、被検査体内の欠陥などの反射源からから離れた位置において、或いは検査したい対象である欠陥などの反射源が存在しない位置においても、超音波探触子で何らかの信号が受信されてしまう場合が生じる。
【0009】
そこで、反射源の数や位置が明確に捉えられる探傷結果表示を実現するためには、受信された超音波の伝播時間や強度だけでなく、超音波の波形や位相情報に注目した探傷方法及び表示方法が必要であるが、このような手法の一つに光ホログラフィの原理を応用した、超音波ホログラフィ法がある。
【0010】
ここで、光ホログラフィ法とは、レーザ光のような位相の揃った光を物体に入射し、物体から散乱される光の位相情報を、入射光と散乱光の干渉模様としてフィルムに記録し、その後、そのフィルムに光を当てることで、再び散乱光の位相情報を再現するというものである。
【0011】
このとき、一般に、物体による散乱光と入射光の干渉模様(物体の3次元幾何情報である)をフィルムに記録したものをホログラム、物体からの反射波と干渉させる光(この例では入射波)を参照波と呼び、ホログラムに光を当てて干渉情報を再現することをホログラムの再生、ホログラム再生のためにホログラムに当てた光を再生参照波と呼んでいる。
【0012】
ところで、初期の超音波ホログラフィ法は、光学ホログラフィと同様、受信波と参照波を干渉させてホログラムを作成していた。そして、この方法を用いて探傷結果を表示することにより、3次元的な映像を得ることができる。
【0013】
ここで、超音波は、光と比較してかなり波長が長く、且つフィルムなどの記録媒体も存在しないが、しかし、この原理による方法を実現するためのいくつかの方法が提案されており、その一つにディジタル方式超音波ホログラフィ探傷方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
このディジタル方式超音波ホログラフィ探傷方法は、スパイク状の送信波によるパルスエコーを用い、且つ、参照波と干渉させる代わりに、受信波とクロックパルスとのコインシデンスによってホログラムを作成するもので、装置の小型化と、受信波の時間分解能が高められ、探傷結果について測定精度の向上が可能になる。
【0015】
【特許文献1】
特開昭54−8584号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術は、超音波の走査に超音波探触子の2次元的な移動を要する点に配慮がされておらず、以下の問題があった。
【0017】
ディジタル方式超音波ホログラフィ探傷方法を始め、従来の超音波ホログラフィ法では、被検査体からの超音波を受信するため、超音波探触子を2次元的に細かい間隔で精密に移動させ、走査する方法を採用している。
【0018】
しかし、この従来技術で採用されている走査方法では、走査に膨大な時間が必要であるという問題があった。
【0019】
また、溶接部の探傷など、十分なSN比が得られない場合には、集束型探触子が必要になるが、この場合には、超音波の入射角度を調整するための媒質(シュー材)も必要になり、このとき、この媒質が存在したことにより波面が乱れ、正確なホログラムが作成できなくなる可能性があった。
【0020】
本発明の目的は、高精度の超音波探傷結果が高速で表示できるようにした超音波探傷結果表示方法と装置を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、探触子から被検査体に所定モードの超音波を送信し、内部の傷等による反射源から反射されたエコーを受信し、前記エコーの受信時間から前記反射源の位置を求めて反射源図形を表示するため、前記探触子の送受信位置毎に前記エコーの受信時間を含む探傷データを収集し、1ライン分の探傷データからBスコープ図形データを作成し、前記Bスコープ図形データを含む領域を再生領域として、前記探傷データに対し波数kの参照波を数値的に干渉させてホログラムを作成し、前記再生領域に指定モードの超音波の音速を用いてホログラム再生を行い、再生像を画面表示する方式の超音波探傷結果表示方法において、前記探触子として、M(M=複数)個の超音波送受信素子が一列に配列されたラインセンサを用い、前記超音波送受信素子の各々による超音波の送受信時間を前記配列された方向の一方から他方に順次個別に選択し、前記被検査体に対する超音波送受信位置が、前記超音波送受信素子の配列方向に走査されるようにして達成される。このとき、前記超音波送受信素子を、隣接しているN(N=複数<M)個の素子からなる素子群に分け、前記素子群の中の各素子に供給すべき駆動パルスの遅延時間を所定のパターンにすることにより、集束超音波による超音波探傷が得られるようにしても、上記目的が達成される。
【0022】
同じく、このとき、前記エコーの受信時間が、前記集束超音波の焦点位置を基準にして測定されるようにしても良く、前記素子群として選択される複数の素子を、前記配列された方向の一方から他方に順次変化させ、各素子で受信された信号の最短時間により前記反射源までの距離が測定されるようにしても良い。
【0023】
更に、このとき、前記所定のパターンによる駆動パルスの遅延時間が、前記最短時間により測定した前記反射源までの距離に基づいて再設定されるようにしても良い。
【0024】
また、上記目的は、被検査体に所定モードの超音波を送信し、内部の傷などによる反射源から反射されたエコーを受信する超音波探触部と、前記エコーの受信時間から前記反射源の位置を求めて反射源の図形データを作成する多チャンネル探傷部と、作成された図形データを画面表示する映像化処理部を備えた超音波探傷装置において、前記超音波探触部が、複数個の超音波送受信素子を一列に配列したラインセンサで構成され、前記多チャンネル探傷部が、前記超音波送受信素子の各々による超音波の送受信時間を前記配列された方向の一方から他方に順次個別に制御し、前記被検査体に対する超音波送受信位置を前記超音波送受信素子の配列方向に走査させる素子選択手段を備え、前記映像化処理部が、前記超音波送受信位置毎に前記エコーの受信時間を含む探傷データを収集する手段と、1ライン走査の探傷データからBスコープ図形データを作成する手段と、前記Bスコープ図形が含まれた領域を再生領域とし、指定モードの超音波の音速を用いて超音波ホログラフィ法によるホログラム像を再生する手段と、再生像を2次元又は3次元で画面表示する手段を備えていることによって達成される。
【0025】
このとき、前記ラインセンサの超音波送受信素子を、隣接しているN(N=複数<M)個の素子からなる素子群に分け、前記素子群の中の各素子に供給すべき駆動パルスの遅延時間を所定のパターンにすることにより、集束超音波による超音波探傷が得られるようにしても、上記目的が達成できる。
【0026】
また、このとき、前記エコーの受信時間を、前記集束超音波の焦点位置を基準にして測定する手段が設けられているようにしても良く、前記素子群として選択される複数の素子を、前記配列された方向の一方から他方に順次変化させる手段と、各素子で受信された信号の最短時間により前記反射源までの距離を測定する手段が設けられているようにしても良い。
【0027】
更に、このとき、前記所定のパターンによる駆動パルスの遅延時間を、前記最短時間により測定した前記反射源までの距離に基づいて再設定するようにしても良い。
【0028】
これにより、反射源までの距離に対し、自動的に焦点距離を設定することができ、反射源の位置が分からない対象の検査においても、反射源の位置付近で焦点を持った超音波信号を送信することができ、広い範囲の超音波送受信位置においてSN比の高い信号が得られるため、より正確なホログラムを作成することができ、高精度に欠陥映像化することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による超音波探傷装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0030】
始めに本発明の超音波ホログラフィ法による探傷結果の映像化手順について、図1により概略説明する。
【0031】
まず、図1(a)は、超音波探傷装置の模式図で、アレイセンサ101から被検査体100の中に超音波102を入射し、傷などの反射源103によるエコー信号102をアレイセンサ101で受信して、反射源103の位置や形状が表示できるように処理するのである。
【0032】
ここで、アレイセンサ101は、複数個の超音波送受信素子を直線的に配置し、超音波の送受信位置が電気的に移動できるようにて、いわゆる電子走査が行なえるようにした探触子で、このため、図示のX方向では、従来の機械的な走査のときよりも高速で送受信位置を変化させることができ、各送受信位置で後述する受信波形を収録することができる。
【0033】
次に、図1(b)は探傷結果の受信波形(探傷波形)で、横軸は時間tで、縦軸は信号強度の振幅Aであり、ここには超音波の送信パルスに遅れて反射源103からのエコー(反射波)104が現われ、この後、底面からのエコー105が現われていることが示されている。そして、この探傷波形は、図示のように、送受信位置の走査に応じて、各送受信位置x、x、……、x 毎に順次、その都度、収録される。
【0034】
次に、図1(c)は探傷結果のBスコープ像107で、これは、横軸を超音波探傷位置方向X、縦軸を被検査体の深さ方向Zとして、受信信号の振幅強度を色の濃淡で示したものである。
【0035】
そして、このBスコープ画像107と反射源103を比べてみると、超音波の拡散の影響で、Bスコープ画像107による欠陥映像が実際より左右に広がって湾曲した映像になって表示されていることが判る。
【0036】
次に、図1(d)はホログラムの作成状況を示したもので、図示のように、エコー信号の各点のデータに参照波110(例えば、cos 関数)を数値的に干渉させることにより、ホログラム108が作成される。
【0037】
ここで図14を用い、ホログラムの値を「+1」と「−1」の2値で記録する2値化ホログラムを例にとって、ホログラムの作成方法を簡単に説明する。
【0038】
まず、ある超音波送受信位置で収録された受信波形、例えば図1(b)の受信波形x において、送信パルスとエコーの時間差から、図示のように伝播時間Δtを求め、この伝播時間Δtにおいて参照波110がどのような値をとっているかによって、ホログラムを作成する。
【0039】
例えば、図の場合、▲1▼に示すように、伝播時間がΔtの場合は、この時間Δtにおいて、参照波は値+1を取っている。そこで、このように、参照波が0以上の値を取るときには、ホログラムの値を+1と定める。
【0040】
また、場合▲2▼の伝播時間Δt’のときは、参照波は値−1を取っている。そこで、このように、参照波が0未満の値を取る場合は、ホログラムの値を−1と定める。
【0041】
そこで、このように、エコー信号の伝播時間Δtと参照波を比較し、数値的な干渉により得られたホログラムを各送受信位置について集積すると、ホログラム108が得られる。
【0042】
次に図1(e)は再生像の作成処理を示したもので、ホログラム108から、指定モードの音速により、再生領域112に反射源103の像が再生できる。このときのホログラム再生のための主な演算は、111で示す径路差rによって記述される球面波を、ホログラム108の持つ位相差の重みを付けて加算する処理である。
【0043】
そして、図1(f)は再生像の表示で、本来、非焦点位置に存在した反射源103が、ホログラム108の位相を持った球面波の重ね合わせである再生波113により、反射源103と同位置に、再生像114として映像化されている状況が示されている。
【0044】
このホログラフィ処理によれば、超音波の拡散による影響が低減されるので、Bスコープ像による表示と比較して、高精度の映像を得ることができる。
【0045】
そこで、以下、本発明について、図示の複数の実施の形態により、更に具体的に説明する。
【0046】
まず、図2は、本発明の実施形態1(第1の実施形態)で、図において、200が超音波探傷システムの全体(システム全体)を表わすが、このシステム全体200は、アレイセンサ101と多チャンネル探傷部211、それに映像処理部201に大別される。
【0047】
まず、アレイセンサ101は、超音波を発生し、且つ受信する働きをするもので、複数(M)個の素子(超音波送受信素子)を並べて直線状に並べて配列した、いわゆる一次元センサ(ラインセンサ)で、このときの素子としては、通常、電歪形の素子が用いられるが、勿論、磁歪形の素子でも実施可能である。
【0048】
次に、多チャンネル探傷部211は、アレイセンサ101に接続された送受信器216、この送受信器216に接続された遅延器214、この遅延器216に接続された加算器217、この加算器217に接続されたA/D変換器215、遅延器214に接続された素子遅延時間設定部212、受信信号の表示処理を行う表示処理部218、表示部219、遅延時間と受信信号を記録する記憶装置213で構成されている。
【0049】
また、映像化処理部201は、超音波ホログラフィ法による図形表示を行うもので、このため、表示部204と演算処理部203、記憶装置205で構成されている。
【0050】
ここで、多チャンネル探傷部211について更に詳しく説明すると、まず送受信器216は、アレイセンサ101の各素子に超音波発生用駆動信号を供給すると共に、当該各素子で検出された超音波受信信号を取り込む働きをし、次に、遅延器214は、アレイセンサ101の各素子に供給すべき超音波発生用の駆動信号を、各素子毎にシフト(移相)させる働きをする。
【0051】
また、加算器217は、アレイセンサ101の各素子で検出され、送受信器216で受信された超音波受信信号を加算する働きをし、A/D変換器215は、加算器217で加算された超音波受信信号をディジタルデータに変換する働きをする。
【0052】
そして、素子遅延時間設定部212は、アレイセンサ101の各素子に供給すべき超音波発生用駆動信号の各素子ごとの遅延時間を設定する働きをし、この結果、アレイセンサ101は、この素子遅延時間設定部212で決定された遅延時間により、被検査体に対する送受信位置を電気的に変化させてゆくこと、つまり電子走査することができるようになる。
【0053】
従って、この多チャンネル探傷部211は、アレイセンサ101の各素子の各々による超音波の送受信時間を、それらが配列された方向の一方から他方に順次個別に制御する素子選択手段を構成していることになる。
【0054】
次に、図3は、実施形態1による探傷システムの構成例を示したもので、システム全体200は、多チャンネルのパルサー及びレシーバと、少なくとも1個のA/D変換器を備えた多チャンネル探傷部211、それに計算機301及びディスプレイ装置204を備えたマイコンからなる映像処理部で構成されているが、ここで、図示のように、更にデータ入力用のキーボード302とポインタデバイス303の一方又は双方が付属していてもよい。
【0055】
一方、アレイセンサ101は、治具306によって保持され、被検査体100の表面に接触した状態で位置決めされるが、このとき、治具306が機械的な移動機構を備え、アレイセンサ101を単に被検査体100の表面に載置させるだけではなく、図のY軸方向に移動させ、被検査体100の表面をY軸方向に走査する機能を持たせるようにしてもよい。
【0056】
このアレイセンサ101は、例えば周波数が5MHzの縦波の超音波に対応したもので、ここでは、例えば幅が0.5mmの圧電素子を72個(M=72)、配列したものが使用されていて、システム全体200とデータ線304、305により接続されている。
【0057】
次に、この実施形態1の動作について説明すると、図4は、多チャンネル探傷部211の遅延器214と送受信器216、それにアレイセンサ101の動作を示したもので、ここでは、一例として深さの異なる2個の反射源A、Bを、一方の反射源Aの近傍の深さに焦点を持つ集束超音波で探傷する場合について説明する。
【0058】
ここで、集束超音波の発生と受信について説明すると、まず、このような超音波探傷システムでは、所定の周期で順次、パルス状の超音波を発生させ、その都度、エコーを受信して1回分の探傷動作を行なうようになっていて、このときの1回分の期間が探傷期間となる。
【0059】
このとき、この実施形態1では、アレイセンサ101が備えている複数個(ここでは72個)の素子を夫々単独で使用するのではなく、隣接している複数個、例えばN(N<M)個の素子を、素子群として同時に使用し、素子群の中の各素子に供給すべき駆動パルスの遅延時間を、集束超音波が発生されるように、所定のパターンに従って設定することができるように、多チャンネル探傷部211が構成してある。
【0060】
ここで、この実施形態1では、上記したように、アレイセンサ101が72個の素子を備えているが、このとき、上記した素子群の素子数を5個(N=5)に限定して説明する。しかし、本発明の実施にあたっては、同時に使用する素子数Nを5に限定する必要はない。
【0061】
そして、このとき、更に、その素子群をアレイセンサ101の一方の端部から他方の端部に向かって順次、素子を切換え、素子群を選択してゆくことにより、上記した電子走査が得られるように、同じく多チャンネル探傷部211が構成してある。
【0062】
具体例で説明すると、アレイセンサ101の一列に並んだ72個の素子の1番目から5番目までを最初の素子群とした場合、次の素子群は2番目から6番目の素子にするのである。但し、このとき素子を1個づつずらす代わりに、2個毎、或いは3個毎にずらして行くようにしても良い。例えは1番目から5番目までを最初の素子群とした場合、次の素子群を3番目から7番目としたり、次を4番目から8番目としたりしても良い。
【0063】
図4に戻り、素子遅延時間設定部212で決定された遅延時間パターン(波形4a〜4e)により、アレイセンサ101の5個の素子からなる素子群から被検査体100の中に集束超音波が送り込まれる。
【0064】
ここで、この遅延時間パターンは、上記した探傷期間を1周期とするもので、送受信器に対するトリガ信号の役割を果している。そして、このときの遅延時間パターンの中の波形4aと波形4eは、中央の波形4cと比較して、早い時間に送信が行われることを意味している。
【0065】
従って、このときの素子群の5個の素子をa、b、c、d、eとすると、上記した探傷期間において、まず5個の両端の2個の素子a、eが最初に超音波を発生し、次に、両端から2番目の2個の素子b、dが超音波を発生し、最後に中央の素子cが超音波を発生することになる。
【0066】
この結果、被検査体100の内部に伝播する超音波の波面は、両端が早く進行し、中央が遅れた波面となるため、集束超音波が形成される。また、反対に、受信の場合は、両端の素子で得られた信号に比較して、中央で受信された信号が少し遅れて受信され、これが加算器217で加算されるので、エコーも集束超音波として受信されることになる。
【0067】
そして、この状態で電子走査し、高速で超音波送受信位置を走査した場合、遅延時間パターンは一定であるが、パターンが印加される素子の組み合わせが順次変化されてゆき、同じ焦点位置を持った集束超音波が、図中で右方向に、反射源A近傍から反射源B近傍まで移動しながら探傷が行われる。
【0068】
ところで、従来の超音波ホログラフィ法では、超音波送受信位置の走査を実現するため、超音波探触子を機械的に動かす方法を採用していた。ここで、このような機械的な走査の場合、探触子の移動速度は、数10mm/秒から100mm/秒程度である。
【0069】
一方、電子走査の場合は信号を切り替えるだけでよいので、機械的な走査に比べて10倍以上の移動速度も容易であり、従って、この実施形態によれば、探傷時間の短縮を充分に得ることができる。
【0070】
次に、この実施形態による探傷結果の例として、図5に示す超音波送受信位置A(501)と超音波送受信位置B(502)におけるBスコープ像を図6と図7に示す。また、図8R>8は、図7の場合のエコー波形の一例である。
【0071】
ここで、まず図6の送信位置Aにおける反射源AのBスコープ画像の場合は、図5から明らかなように、超音波の焦点位置に反射源Aが位置しているため、超音波の拡散の影響をほとんど受けていないシャープなBスコープ映像が得られている。
【0072】
一方、図7の送信位置Bにおける反射源BのBスコープ画像の場合は、超音波の焦点位置から離れた位置に反射源Bが位置しているため、超音波の拡散の影響を大きく受け、横に大きく広がってしまったBスコープ映像しか得られていないことが判る。
【0073】
これら図6と図7から容易に理解されるように、アレイセンサを用いた従来の超音波探傷法による欠陥映像化方法では、反射源位置が入射超音波の焦点位置と近い場合は実際の反射源とほぼ同等の形状で映像化されるが、焦点位置からずれるほど、拡散の影響を受け、広がった映像しか得られなくなって、実際の反射源の形状、位置からの誤差が大きくなる。
【0074】
しかして、本発明によれば、このような拡散の影響が低減でき、反射源の形状と位置が精度良く得られるものであり、このため、上記実施形態では、図15のフローチャートに示す処理が実行されるように構成し、これにより、アレイセンサによる集束超音波の焦点が、欠陥などの反射源の深さに自動的に結ばれるようにしてある。
【0075】
ここで、この図15のフローチャートによる処理は、システム全体200の中にある計算機301により実行されるもので、この処理が開始されると、まず始めに、初期設定として、素子遅延時間設定部212により、図9(a)に示すように、各素子に対して同一の遅延時間を持つ遅延時間パターン(波形8a〜8e)が設定され(S10)、次いで探傷を開始する(S20)。
【0076】
このS20の処理では、素子遅延時間設定部212で設定された遅延時間に基づいて、遅延器214から送受信器216に信号が送られ、この結果、アレイセンサ101からは、このときの遅延時間パターン(波形8a〜8e)に従って、フラットな波面を持つ超音波801が被検査体100の内部に送信される。
【0077】
そして、この被検査体100の中に送信された超音波801は、被検査体100の底面で反射され、被検査体に欠陥などの反射源がある場合には、この反射源でも反射され、夫々によるエコー(反射波)がアレイセンサ101に戻ってきて検出される。
【0078】
こうして、アレイセンサ101で受信されたこれらのエコーは、送受信器216で受信され、遅延器214で再び素子毎に時間的な遅延が与えれ、加算器217で加算される。そして、加算された波形は、A/D変換器215でディジタル信号に変換され、記憶装置213に収録される(S30)。
【0079】
このとき、被検査体内部の欠陥は、表面と底面の間に存在するため、もしもエコーの中に、伝播時間が被検査体底面からのエコーよりも短い時間の反射波が含まれていた場合には、欠陥と思われる反射源が存在するものと見なすことができる。
【0080】
そこで、この処理S30の次に実行される処理S40を画像データ演算(1)とし、図16R>6に、その処理手順をフローチャートで示す。
【0081】
この図16の処理は、受信された信号の伝播時間が被検査体100の表面と底面の間にあるか否かを判定するための処理で、このため、まず記憶装置213から被検査体100のZ軸方向の寸法(被検査体100が板状の物体の場合は板厚となる)を演算処理部203に読み込む(S401)。
【0082】
そして、この後、演算処理部203において、伝播時間が底面エコーより短い時間であるかを比較する処理(S402)を実行し、次に、伝播時間の中で最も伝播時間の短い値か否かを判定し(S403)、伝播時間の最小値は記憶装置205に格納する(S404)。
【0083】
一方、伝播時間が最小値でないときは、演算処理部203により、Bスコープ表示のためのデータを作成する(S405)。このときのデータは、少なくとも超音波送受信位置と伝播時間、受信強度を含んだもので、図17は、このときのBスコープ表示用データの一例である。
【0084】
こうして作成されたBスコープデータは表示処理部218に供給され、2次元のBスコープ画像に加工された上で表示部219に供給され、Bスコープ画像が表示されることになる。
【0085】
ところで、実際の探傷においては、例外的な場合を除いて、被検査体内のどの深さに反射源となる欠陥が存在するのか不明である。そして、図9(a)に示すように、受信時間のうち、最も短い伝播時間とは、反射源までの距離810に相当する伝播時間に対応する。
【0086】
従って、もしも被検査体内部に反射体が存在した場合、被検査体表面から反射源までの距離は、この距離810に相当するから、上記最短距離に相当する伝播時間を、反射源までの距離と仮定して、最短距離810に相当する焦点距離を持った集束超音波を送信してやれば、強度が高いエコーを反射源から受信することができる。
【0087】
そこで、図9(a)に示すように、各素子に対して同一の遅延時間を持つ遅延時間パターン(波形8a〜8e)により一度探傷した後、集束超音波を送信して再び探傷を実施する。このとき、素子遅延時間設定部212により、今度は集束超音波に対応した遅延時間パターン(波形8f〜8j)に変更する。
【0088】
このときの集束超音波の焦点距離は、素子遅延時間計算部202において、1回目の遅延時間パターン(波形8a〜8e)で探傷した際に得られた最も短い伝播時間に、被検査体内部の超音波伝播音速を掛け合わせて算出される(S25)。
【0089】
そして、1回目の遅延時間パターンによる探傷のときと同様、2回目においても、探傷データを収集し(S30)、Bスコープデータを作成して(S40)、Bスコープを表示する(S50)。
【0090】
こうして2回目の遅延時間で探傷が終了したら(S60)、ホログラム処理を含む画像データ演算(2)の処理に進む(S70)。ここで、この処理S70による画像データ演算(2)の処理手順を、図18にフローチャートで示す。
【0091】
この図18の処理では、最初にホログラフィ処理に必要なパラメータを演算処理部203に読み込む(S701)。このとき読み込む初期パラメータは、図21に一例として示すように、探傷に使用した超音波の周波数と音速、それに屈折角に加え、ホログラム作成のための角振動数ωを含むが、このとき、ホログラム作成用のパラメータとして、角振動数ωの代りに、角振動数ωに比例する量である周波数や波数を用いてもよい。
【0092】
図18の処理の第1段階はホログラム作成処理で、読み込まれた初期パラメータを用い、受信波形の伝播時間と参照波からホログラムを作成する(S703)。このとき、アレイセンサ101からの送信超音波は、図9(b)に示すように、集束超音波802となり、反射源近傍で焦点を持つものになっている筈である。
【0093】
このように欠陥近傍に焦点が集まることから、通常の送信波よりも欠陥近傍に超音波が集中するので、ノイズが少なくSN比が高くいエコーが得られ、この結果、得られたホログラムではノイズの影響が低減されている。
【0094】
上記したホログラムの作成(S703)にあたって、2回目の探傷における集束超音波の焦点位置、すなわち1回目の探傷で得られた伝播時間の最小値を、焦点位置の情報として、演算処理部203に読み込む(S702)。ここで、上記した処理(S703)でのホログラム作成方法の例を数1に示す。
【0095】
【数1】



この数1に示すように、処理(S703)では、受信波の伝播時間Δtと参照波からホログラムを作成する。ここで、注意すべき点は、参照波の引数として用いる伝播時間Δtに対しては補正が必要な点である。何故なら、平面波の場合と異なり、集束超音波は、焦点位置を中心として、放射状に超音波が拡がる波面を持つからである。
【0096】
このため、伝播時間を求める際の伝播時間の基準として、平面波の場合はアレイセンサ101上に位置する超音波送信位置を時間0とおくのに対して、集束超音波の場合は、放射状に拡がる波面の原点である焦点位置を伝播時間の基準とするため、通常の伝播時間から焦点位置までの伝播時間を減算し、焦点位置からの伝播時間を、補正された伝播時間Δt’として採用する。
【0097】
また、数1では、参照波の値そのものをホログラムとして採用しているため、ホログラムが−1から+1までを連続的に変化する値を取る。しかし、連続値のホログラムに代えて、図14に示した2値化ホログラムを用いてもよい。
【0098】
次に、図18の処理における第2段階として、ホログラム再生処理に移る。このときのホログラム再生方法の例を数2に示す。
【0099】
【数2】



そして、ホログラム作成のための角振動数ωによって定められる波数kを持った球面波を加算することで、ホログラム再生処理を行う(S704)。ここで、角振動数ωと波数kは、被検査体100を伝播する超音波音速Vを用いて、k=ω/Vと書き表すことができる。
【0100】
次に、このホログラムの再生値に対して、或るしきい値(閾値)を定め、その値以上のものを反射源の映像として使用する)。このときのしきい値による処理の流れの具体例は、図20のフローチャートに示すように、S7051による判定処理の結果でS7052を実行する処理になっている。
【0101】
この後、全てのデータに対する再生処理の終了を確認し(S706)、再生値を含む再生用データを、表示処理部218により2次元又は3次元的の映像に処理し、表示部219に表示(S80)させ、処理を終了する。
【0102】
従って、この実施形態1によれば、欠陥などの反射源の近傍に焦点を合わせた集束超音波を作り出し、これを用いてエコーを検出しているので、ノイズが少なくSN比が高くいエコーが得られ、この結果、得られたホログラムにおけるノイズの影響を最小限に抑えることができる。
【0103】
このとき、一旦、フラットな超音波を送信し、エコーの最短時間に着目して反射源位置を検出し、その近傍に焦点を持つ集束超音波の発生に必要な焦点位置の設定が自動的に与えられるようにしているので、操作が簡単で容易に高精度を保つことができる。
【0104】
また、この実施形態1では、アレイセンサを用い、電子走査による探傷が得られるようにしているので、探傷処理に要する時間が短くでき、且つ、SN比の高いエコーから作成されるノイズの少ないホログラムにより、最終的に、ノイズの影響の少ないホログラム再生像による欠陥映像を得ることができる。
【0105】
次に、本発明の実施形態2(第2の実施形態)について説明する。なお、この実施形態2も、被検査体の中に複数個の反射源が存在し、しかも、それらが異なった深さを持っている場合を想定し、この場合に好適な超音波探傷装置を提供するものである。
【0106】
従って、この実施形態2でも、アレイセンサ101とシステム全体200は図2と図3で説明した実施形態1と同じで、その他、ホログラムの再生までの基本的な動作も、実施形態1と同じであり、従って、以下、図10〜図13により、実施形態1と異なっている点に重点をおいて説明する。
【0107】
まず、ここでも、図10に示すように、被検査体100の内部に深さ位置の異なる反射源が複数(ここでは反射源A、Bの2個)存在する場合の探傷に、この実施形態2が適用されたとする。
【0108】
ところで、この場合も、実施形態1と同じく、図15に示したフローチャートに従って動作させ、被検査体100の各位置において、フラットな波面を持つ超音波を入射し、反射源A、反射源Bまでの深さを推定た後、集束超音波を入射して欠陥を映像化することは可能である。
【0109】
この場合は、まず、図10に示すように、被検査体内部の浅い位置に存在する反射源Aを探傷するには、遅延時間パターンP1(波形9a〜9e)をアレイセンサ101に供給し、反射源Aの深さと焦点位置を合わせて探傷する。
【0110】
このように反射源位置と焦点位置が比較的近い場合には、実施形態1においても説明したように、超音波の強度が十分に強いため、小さな反射源からのエコーを逃すことも少なく、また焦点位置では超音波の拡がりが少ないため、反射源の大きさを過大に評価することもない。
【0111】
しかし、やや深い場所に位置する反射源Bを探傷する場合には、同じ遅延時間パターンP1では、反射源位置と焦点位置がずれてしまうため、これも実施形態1において説明したように、信号強度が弱く、しかも超音波の拡がりの影響を受けた不明瞭なエコーしか得られないため、正確な探傷が困難である。
【0112】
ここで、このような焦点位置からずれた反射源によるBスコープ(超音波送受信位置と伝播時間の関係を示した図)の例は、図7に示した通りである。
【0113】
そこで、深さの異なる複数個の反射源を適切に検査するためには、それぞれの反射源毎に集束超音波の焦点を変え、例えば図10の反射源Bに対しても集束超音波の焦点を合わせるためには、例えば遅延時間パターンを多数用意し、焦点の異なる集束超音波を繰り返し被検査体内部に送信し、最も信号強度の強いエコーの得られる遅延時間、すなわち、遅延パターンP2(波形9f〜9j)による反射源Bのエコーが得られるまで、深さ方向に少しずつ焦点位置を変化させながら、遅延時間を変更して探傷を繰り返えす必要がある。
【0114】
しかし、このように、遅延時間パターンを多数用意し、それらを順次使い分けして超音波探傷を行うようにしたのでは、探傷に多大の時間が必要になり、被検査体内に多数の欠陥が存在した場合には、実用的とはいえない。
【0115】
そこで、この実施形態2では、焦点位置から大きくずれた欠陥でも、1回の集束超音波による探傷だけで高精度の映像が得られるようにしたもので、このために図11に示す探傷方法を採用し、図22のフローチャートに示す処理が実行されるようにしたものである。
【0116】
これら図11と図22において、まず、始めに初期設定として、焦点距離1100に対応した遅延時間の遅延時間パターン(波形10a〜10e)を素子遅延時間設定部212に設定する(S100)。このときの焦点距離1100としては、上記した板厚の半分程度の距離とする。
【0117】
次に、探傷を開始する(S200)。そうすると、素子遅延時間設定部212で設定された遅延時間に基づいて、遅延器214から送受信器216に信号が送られ、これにより、このときの遅延時間パターン(波形10a〜10e)に従って焦点距離1100に集束する波面を持つ超音波1101が、アレイセンサ101から被検査体100の内に送信される。
【0118】
そして、反射源によるエコーが現われると、これがアレイセンサ101により捉えられ、送受信器216で受信された後、遅延器214により再び素子毎に時間的な遅延が与えれてから加算器217で加算され、加算された波形がA/D変換器215でディジタル信号に変換され、記憶装置213に収録されることになる(S300)。
【0119】
この後、画像データ演算(1)が施され(S400)、送信位置と受信信号の伝播時間又は伝播距離から、Bスコープ画像データを加工する。なお、ここでの処理は、基本的には実施形態1とほぼ同様である。
【0120】
但し、実施形態1では、図16で説明したように、処理S403を備え、最も伝播時間が短い値を2回目の焦点距離と設定し、ホログラム作成に際して伝播時間Δtを補正している。
【0121】
しかし、この実施形態2では、図23に示すように、最初に与えた焦点距離によって、伝播時間Δtを補正する点が異なっている。つまり、この場合は、上記した処理S403を備えていない点が異なっており、ホログラムの作成にあたって、最初に与えた焦点距離の基準の位置として、ホログラムを作成し、その位置を基準にホログラム再生処理を行う。
【0122】
ここで、この実施形態2で表示されるBスコープ画像においては、被検査体に送信される集束超音波の焦点距離は、この被検査体内部に想定される反射源の深さとは必ずしも一致していないことに留意を要する。
【0123】
つまり、この場合、反射源から離れた位置に焦点を持つ集束超音波を用いて探傷を行い、その焦点位置を基準としてホログラムを作成、再生することで、実際の反射源位置近傍に反射源の再生像が映像化されることになる。
【0124】
このため、被検査体内部に傷などの反射源が存在した場合、この反射源からの信号は、焦点からずれて拡散した超音波1101(図11)により、図7で説明したように、水平方向に広がって受信される。ここで、この図7は、被検査体が内部に加工された横穴を有する場合の受信波の例である。
【0125】
この場合、反射源は、ある深さ(Z軸)位置に局所的に存在しているにもかかわらず、送信位置(X軸)が移動したとき拡散した超音波が反射源に当たってしまうため、反射信号が左右に円弧状に広がった形で受信されてしまうことが判る。
【0126】
次のBスコープ表示処理(S500)では、受信信号を送信位置(横軸)と伝播時間又は伝播距離(縦軸)の関係を2次元のグラフとして表示する。そして、以上の探傷処理を1回実行したら、次の画像データ演算(2)処理(S700)に進む。
【0127】
なお、このとき被検査体の板厚及び超音波の音速から、反射源による受信信号が得られるまでの時間を予測し、その予測時間で決まる時刻の前後に時間幅(ウィンドウ)を設定して時間ゲートとし、ゲート時間内での受信信号の有無を2値化して表示しても良い。
【0128】
また、時間ゲートによらず、受信信号の強度に応じた白黒濃淡や色分けを用いて受信波形を表示するようにしてもよい。
【0129】
ここで、この実施形態2では、上記したように、反射源の実際の位置或いは形状よりも広がってしまう画像から、本来の反射源の状態(位置或いは形状)を復元するための信号処理が、次の画像データ演算(2)処理(S700)で施されるようになっている。
【0130】
このS700による処理は、焦点位置がずれた超音波で得られてしまう、横に広がったBスコープ画像データからホログラムを作成し、本来の反射源の正確な画像を再生する処理となるが、ここで、この画像データ演算(2)の処理手順も、基本的には、図18に示した実施形態1と同じである。
【0131】
しかして、この実施形態2では、この処理S700の内容が、図24に示すようになっている。そして、この図24による処理手順が、図18に示した実施形態1の処理手順と異なっている点は、ホログラムを作成する際の焦点距離設定処理(S7020)にあり、その他の点はおなじである。
【0132】
つまり、図18の処理(S702)では、フラットな波面をもつ超音波の伝播時間の最小値を焦点距離として設定しているが、図24の処理(S7020)では、超音波探傷を実行する際、予め設定しておいた集束超音波の焦点距離がそのまま設定されるようになっている点で異なっているだけである。
【0133】
従って、この図24による処理手順では、この予め設定しておいた集束超音波の焦点距離を基準にしてホログラムが作成され、その位置を基準にしてホログラム再生処理が実行されることになるが、ここで、この図24による処理も、基本的な点では、図18で説明した処理と同じなので、詳しい説明は割愛する。
【0134】
そして、以下では、この実施形態2の場合、焦点距離と反射源の位置がずれていた場合でもホログラムを用いることで、傷や欠陥などの反射源の映像が正確に復元できる理由についてだけ詳細に説明する。
【0135】
まず、図11の(a)に示すように、予め設定した焦点距離とは異なる深さに反射源が存在していた場合においても、超音波探傷を実行すればBスコープ画像データが得られる。
【0136】
このとき、焦点距離1100に設定して、アレイセンサ101から送信された集束超音波の波面を見てみると、集束点1102を仮想音源として、ここから拡散されてゆく集束超音波1101と見做すことができる。
【0137】
このことから、アレイセンサ101から送信された集束超音波による探傷結果は、集束点1102を仮想音源とし、ここから送信され拡散してきた超音波による探傷結果として取り扱えることが判る。
【0138】
具体的には、アレイセンサ101による探傷で求めた伝播時間から、焦点距離1100までの伝播時間を減算することにより、仮想の探傷面1103上にある仮想音源1102からの伝播時間に換算できるのである。
【0139】
そこで、この仮想音源1102による伝播時間と参照波を比較して、図11の(b)に示すように、仮想探傷面に移動したホログラム1104を作成し、ホログラムを再生する。このときのホログラムの再生は、既に説明したように、数2式が用いられる。
【0140】
ここで、この数2式は、ホログラムの強度をもった球面波(exp(ikr)/r)を加算(積分)した数式になっている。従って、これを模式的に表せば、図11(b)に白黒の2値で表現してあるホログラムの強度をもった球面波が、図示のように、ホログラムの各点から送信され、これらの球面波が重ね合わされ、再生波になることを意味する。
【0141】
このホログラム108の再生にあたっては、仮想音源1102が水平に移動して作られる仮想探傷面1103に正しくホログラムを位置させることが肝要である。この仮想探傷面に移動したホログラム1104からホログラムの強度を持った球面波が重ね合わされてこそ、実際に反射源が存在した位置、又は大きさの再生像114が得られるからである。
【0142】
以上のように、この実施形態2では、反射源から離れた位置に焦点をもった集束超音波を用い、その焦点位置を基準にしてホログラムを作成し再生することにより、実際の反射源の位置の近傍に、反射源の再生像が得られるようにしたものである。
【0143】
ここで、図12は、このときのホログラムの一例で、図13は、再生像の一例であるが、これら図12と図13のホログラム処理のもとになったBスコープ画像は図7に示した画像である。
【0144】
従って、この実施形態2によれば、水平方向に広がったBスコープ画像から仮想的な探傷面を設定し、この仮想の探傷面においてホログラムを作成し、このホログラムから反射源の映像が再構成させるようにしたので、反射像の拡がりによる影響が低減でき、本来の反射源の形状、位置、大きさに良く類似した欠陥の画像を容易に得ることができる。
【0145】
また、この実施形態2によれば、予め焦点距離1100を1パターンにしているため、被検査体に深さの異なる複数個の欠陥が存在していた場合でも、仮想探傷面によるホログラフィ処理による映像化により、反射源が存在する本来の位置に、当該反射源を映像化することができる。
【0146】
以上説明したように、上記実施形態によれば、アレイセンサによる高速走査を実現する効果に加えて、被検査体内部に深さの異なる複数個の反射源が存在していても、最初に設定した焦点位置を基準とした伝播時間からホログラムを作成、再生することで、焦点位置のずれの内場合の映像と同等の高精度な欠陥映像を得ることができる。
【0147】
【発明の効果】
本発明によれば、アレイセンサを用いた電子走査により反射源からの反射波を用いてホログラムを作成することで、従来のセンサを機械走査による2次元走査を用いる場合に比べて、高速なデータ収録が可能になる。
【0148】
また、アレイセンサの遅延時間を変更することで、焦点位置が可変で、且つ、波面の乱れのなくい集束超音波で得られた波形から正確なホログラムを作成することができ、高精度な欠陥映像化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の超音波探傷装置における超音波ホログラフィ法の動作原理の概略を示す説明図である。
【図2】本発明による超音波探傷装置の実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明による超音波探傷装置の実施形態におけるシステム構成の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるアレイセンサの動作説明図である。
【図5】本発明の一実施形態における超音波探傷動作の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるBスコープ像の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態におけるBスコープ像の他の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態における探傷波形の一例を示す説明図である。
【図9】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態による動作の一例を示す説明図である。
【図10】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態による動作の他の一例を示す説明図である。
【図11】本発明による超音波探傷装置の第2の実施形態による動作の一例を示す説明図である。
【図12】本発明による超音波探傷装置の第2の実施形態におけるホログラムの一例を示す波形図である。
【図13】本発明による超音波探傷装置の第2の実施形態におけるホログラム再生像の一例を示す説明図である。
【図14】本発明の超音波探傷装置におけるホログラムの作成方法の説明図である。
【図15】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図16】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態における画像データ演算(1)の処理手順を示すフローチャートである。
【図17】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態におけるBスコープデータの説明図である。
【図18】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態における画像データ演算(2)の処理手順を示すフローチャートである。
【図19】本発明による超音波探傷装置の一実施形態におけるホログラム再生結果データの一例を示す説明図である。
【図20】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態におけるホログラム再生値のしきい値処理を示すフローチャートである。
【図21】本発明による超音波探傷装置の第1の実施形態におけるホグラム処理のための初期データの説明図である。
【図22】本発明による超音波探傷装置の第2の実施形態における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図23】本発明による超音波探傷装置の第2の実施形態における画像データ演算(1)の処理手順を示すフローチャートである。
【図24】本発明による超音波探傷装置の第2の実施形態における画像データ演算(2)の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
100 被検査体
101 アレイセンサ(一次元探触子)
103 反射源
104 反射源からのエコー
105 底面エコー
108 ホログラム
110 参照波
111 径路差
112 再生領域
114 再生像
200 本発明による超音波探傷システム
201 映像処理部
202 素子遅延時間計算部
203 演算処理部
204 表示部
205 記憶装置
211 多チャンネル探傷部
212 素子遅延時間設定部
213 記憶装置
214 遅延器
215 A/D変換器
216 送受信器
217 加算器
218 表示処理部
218 表示部
301 計算機
302 キーボード
303 ポインタデバイス
306 アレイセンサ固定用治具
1100 焦点距離
1101 集束超音波
1102 仮想音源
1103 仮想探傷面
1104 仮想探傷面に移動したホログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探触子から被検査体に所定モードの超音波を送信し、内部の傷等による反射源から反射されたエコーを受信し、前記エコーの受信時間から前記反射源の位置を求めて反射源図形を表示するため、前記探触子の送受信位置毎に前記エコーの受信時間を含む探傷データを収集し、1ライン分の探傷データからBスコープ図形データを作成し、前記Bスコープ図形データを含む領域を再生領域として、前記探傷データに対し波数kの参照波を数値的に干渉させてホログラムを作成し、前記再生領域に指定モードの超音波の音速を用いてホログラム再生を行い、再生像を画面表示する方式の超音波探傷結果表示方法において、
前記探触子として、M(M=複数)個の超音波送受信素子が一列に配列されたラインセンサを用い、
前記超音波送受信素子の各々による超音波の送受信時間を前記配列された方向の一方から他方に順次個別に選択し、
前記被検査体に対する超音波送受信位置が、前記超音波送受信素子の配列方向に走査されることを特徴とする超音波探傷結果表示方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷結果表示方法において、
前記超音波送受信素子を、隣接しているN(N=複数<M)個の素子からなる素子群に分け、
前記素子群の中の各素子に供給すべき駆動パルスの遅延時間を所定のパターンにすることにより、
集束超音波による超音波探傷が得られるようにしたことを特徴とする超音波探傷結果表示方法。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波探傷結果表示方法において、
前記エコーの受信時間が、前記集束超音波の焦点位置を基準にして測定されることを特徴とする超音波探傷結果表示方法。
【請求項4】
請求項2に記載の超音波探傷結果表示方法において、
前記素子群として選択される複数の素子を、前記配列された方向の一方から他方に順次変化させ、
各素子で受信された信号の最短時間により前記反射源までの距離が測定されるようにしたことを特徴とする超音波探傷結果表示方法。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探傷結果表示方法において、
前記所定のパターンによる駆動パルスの遅延時間が、前記最短時間により測定した前記反射源までの距離に基づいて再設定されることを特徴とする超音波探傷結果表示方法。
【請求項6】
被検査体に所定モードの超音波を送信し、内部の傷などによる反射源から反射されたエコーを受信する超音波探触部と、前記エコーの受信時間から前記反射源の位置を求めて反射源の図形データを作成する多チャンネル探傷部と、作成された図形データを画面表示する映像化処理部を備えた超音波探傷装置において、
前記超音波探触部が、
複数個の超音波送受信素子を一列に配列したラインセンサで構成され、
前記多チャンネル探傷部が、
前記超音波送受信素子の各々による超音波の送受信時間を前記配列された方向の一方から他方に順次個別に制御し、前記被検査体に対する超音波送受信位置を前記超音波送受信素子の配列方向に走査させる素子選択手段を備え、
前記映像化処理部が、
前記超音波送受信位置毎に前記エコーの受信時間を含む探傷データを収集する手段と、
1ライン走査の探傷データからBスコープ図形データを作成する手段と、
前記Bスコープ図形が含まれた領域を再生領域とし、指定モードの超音波の音速を用いて超音波ホログラフィ法によるホログラム像を再生する手段と、
再生像を2次元又は3次元で画面表示する手段を
備えていることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波探傷装置において、
前記ラインセンサの超音波送受信素子を、隣接しているN(N=複数<M)個の素子からなる素子群に分け、
前記素子群の中の各素子に供給すべき駆動パルスの遅延時間を所定のパターンにすることにより、
集束超音波による超音波探傷が得られるように構成したことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波探傷装置において、
前記エコーの受信時間を、前記集束超音波の焦点位置を基準にして測定する手段が設けられていることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項9】
請求項7に記載の超音波探傷装置において、
前記素子群として選択される複数の素子を、前記配列された方向の一方から他方に順次変化させる手段と、
各素子で受信された信号の最短時間により前記反射源までの距離を測定する手段とが設けられていることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項10】
請求項7に記載の超音波探傷装置において、
前記所定のパターンによる駆動パルスの遅延時間を、前記最短時間により測定した前記反射源までの距離に基づいて再設定する手段が設けられていることを特徴とする超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2004−117275(P2004−117275A)
【公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−283455(P2002−283455)
【出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】