説明

超音波撮像装置及びその媒質音速算出方法

【課題】
回路規模を大きくすることなく、短時間に、かつ確実に媒質音速を求めることができるようにした超音波撮像装置を提供する。
【解決手段】
送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部2と、前記超音波画像を表示する表示部3を備えた超音波撮像装置において、超音波ビーム走査角を指示するビーム角指示部5と、超音波ビーム走査角の異なる少なくとも2つの超音波画像に写る組織像の位置ずれベクトルを検出する組織像ずれベクトル検出部401と、前記検出した位置ずれベクトルと前記超音波ビーム走査角とから媒質音速を算出する媒質音速演算部402とを設け、前記表示部3は、前記算出された媒質音速を表示するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断に用いられる超音波診断装置や物体を非破壊検査する非破壊検査装置などの、超音波を用いて生体や物品などの内部構造を検査する超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像装置においては、受信信号の位相をそろえて受信ビームを構成する受信遅延部を備えているが、この受信遅延部に設定する媒質音速が被検体の現実の媒質音速と異なると、分解能が低下してしまう。そのため、空間分解能とコントラスト分解能とを向上させ、より精細な画像を得るために、装置が想定する媒質音速を現実の媒質音速に全自動で合わせる様々な方法が考案されている。従来の方法では、装置が想定する媒質音速を変更しながら最適な想定音速に収束させたり、何らかの方法で媒質音速を算出してから装置が想定する媒質音速を変更するように構成している。前者のうち、例えば特許文献1では、1度の送受信のたびに隣接超音波ビーム間相関を判定し、この動作を繰り返すことで最適な媒質音速に収束させている。後者のうち、例えば特許文献2では、一度送受信した各チャンネル信号を整相したあとの位相の乱れから媒質音速を算出し、装置が想定する媒質音速を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−224938号公報
【特許文献2】特開2001−252276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装置が想定する媒質音速(以下では、「想定音速」という。)を自動的に現実の媒質音速(以下では、「媒質音速」という。)に合わせる技術は、手動で変更したり半自動的に変更したりするものに比べて操作者の手間がかからず簡便で使いやすいものであるが、それぞれ次に述べる問題がある。すなわち、特許文献1にみられる媒質音速を収束させるものでは、現実の媒質音速になるまで繰り返し送受信する必要があり、収束までに時間がかかったり、場合によっては収束しない場合がある。また、位相差検出による音速補正では、整相直後の信号かつ加算前の各チャンネルの信号の間の位相差を検出する回路が整相部に必要であるため回路規模が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は、回路規模を大きくすることなく、短時間に、かつ確実に媒質音速を求めることができるようにした超音波撮像装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明の超音波撮像装置は、送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部と、前記超音波画像を表示する表示部を備えた超音波撮像装置において、超音波ビーム走査角を指示するビーム角指示部と、超音波ビーム走査角の異なる少なくとも2つの超音波画像に写る組織像の位置ずれベクトルを検出する組織像ずれベクトル検出部と、前記検出した位置ずれベクトルと前記超音波ビーム走査角とから媒質音速を算出する媒質音速演算部とを設け、前記表示部は、前記算出された媒質音速を表示するように構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の超音波撮像装置において、超音波画像内の複数個所の媒質音速を求めるように構成してもよい。
また、本発明の超音波撮像装置において、複数箇所の媒質音速を媒質音速分布に変換する音速分布変換部を設け、前記表示部は、求めた媒質音速分布を分布図として表示するように構成してもよい。
また、本発明の超音波撮像装置において、前記媒質音速分布から可視化像を作成する音速分布可視化部を設け、前記表示部は、作成した可視化像を表示するように構成してもよい。
また、本発明の超音波撮像装置において、前記表示部は、前記媒質音速分布の可視化像を、前記超音波画像に重ねて表示するように構成してもよい。
【0008】
本発明の超音波撮像装置は、送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部と、前記超音波画像を表示する表示部を備えた超音波撮像装置において、超音波ビーム走査角を指示するビーム角指示部と、超音波ビーム走査角の異なる少なくとも2つの超音波画像に写る組織像の位置ずれベクトルを検出する組織像ずれベクトル検出部と、前記検出した位置ずれベクトルと前記超音波ビーム走査角とから媒質音速を算出する媒質音速演算部とを設け、前記送受信部は、装置が想定する媒質音速として、前記算出された媒質音速に変更するように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明の超音波撮像装置において、前記送受信部は、設定音速に応じて受信した超音波信号の遅延量を変更できる遅延部を備え、設定音速として、前記算出された媒質音速を設定するように構成してもよい。
また、本発明の超音波撮像装置において、更に、屈折を考慮した組織像の位置とビーム走査角とを求めるビーム屈折算出部を設けてもよい。
また、本発明の超音波撮像装置において、超音波探触子の開口を少なくとも2つに分割してそれぞれの開口からビーム走査角の異なる方向に超音波ビームを送受信するように構成してもよい。
【0010】
本発明の媒質音速算出方法は、送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部と、前記超音波画像を表示する表示部を備えた超音波撮像装置における媒質音速算出方法であって、第1のビーム角で超音波を送信しエコー信号を受信して、第1の超音波画像を得るステップと、前記第1のビーム角とは異なる、第2のビーム角で超音波を送信しエコー信号を受信して、第2の超音波画像を得るステップと、第1の超音波画像と第2の超音波画像とに写る組織像の位置ずれベクトルを検出するステップと、前記検出した位置ずれベクトルと前記ビーム角とから媒質音速を算出するステップとを備えたことを特徴とする。
本発明の媒質音速算出方法において、更に、屈折を考慮した組織像の位置とビーム走査角とを求めるステップを備えてもよい。
【0011】
なお、本願で像または画像とは、RF受信ビームを平面か立体を構成するように該ビームの位置にあわせて並べたもの、あるいは、平面像か立体像として構成したものの意味で用いる。また、媒質とは、人体、動物などの生体、細胞や細菌、ウィルス、農作物や植物、動植物の試験片、金属、コンクリート、岩などの鉱物、飲料や海水などの液体をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ビーム角の異なる少なくとも2つの像から媒質音速を算出することにより、回路規模を大きくすることなく、短時間に、かつ確実に媒質音速を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1の超音波撮像装置の構成を示した説明図である。
【図2】本発明の実施例1の超音波撮像装置の処理手順を示した説明図である。
【図3】媒質音速算出部の詳細を示した説明図である。
【図4】本発明の媒質音速算出方法の根拠となる現象を説明する図である。
【図5】本発明の媒質音速算出方法の根拠となる現象を説明する図である。
【図6】本発明の媒質音速算出方法の根拠となる現象を説明する図である。
【図7】本発明の媒質音速算出方法の原理を説明する図である。
【図8】本発明の実施例2の超音波撮像装置の構成を示した説明図である。
【図9】本発明の実施例3の超音波撮像装置の構成を示した説明図である。
【図10】本発明の実施例3の超音波撮像装置の構成を示した説明図である。
【図11】本発明の実施例3の超音波撮像装置の表示例を示した説明図である。
【図12】本発明の実施例4の構成を説明する図である。
【図13】本発明の実施例5の超音波撮像装置の構成を示した説明図である。
【図14】第2ビーム屈折算出部の詳細を示した説明図である。
【図15】本発明の実施例5の超音波撮像装置の処理手順を示した説明図である。
【図16】屈折を考慮した媒質音速算出方法の根拠となる現象を説明する図である。
【図17】本発明の屈折を考慮した媒質音速算出方法の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図において、同一の構成部には、同じ番号を付している。
【実施例1】
【0015】
図1に、本発明の実施例1の超音波撮像装置を示す。
ビーム角指示部5は、超音波を送受信するビーム角を送受信部1に指示するとともに、該ビーム角を媒質音速算出部400にも供給する。送受信部1は、指示された該ビーム角の方向に送受信ビームを形成し、探触子から媒質に超音波を送受信するもので、例えば特許文献2の図3に示されるように、その内部に、超音波送受信部の通常の構成である送波回路、送波遅延回路、受波回路、受波遅延回路等を備えるものである。画像構成部2は、受信されたエコー信号を信号処理して超音波画像を形成するもので、作成した画像を表示部へ供給する。表示部3は、作成された画像を入力して、超音波画像として表示する。
本発明では、特徴構成として媒質音速算出部4を備えており、媒質音速算出部400は、画像構成部で作成された超音波画像、および、ビーム角指示部5からビーム角を入力し、該超音波画像と該ビーム角とから媒質音速を算出し、該算出した媒質音速を表示部3に与える。表示部3は、該算出した該媒質音速を表示する。
【0016】
図2に、図1に示した超音波撮像装置による処理手順を示す。送受信部1は、ビーム角指示部5から与えられた第1のビーム角の送受信ビームを形成し、画像構成部2は、該ビーム角による第1の像を形成し、媒質音速算出部400に該第1の像と第1のビーム角とを与える(ステップS101)。同様に、第2のビーム角による第2の像と第2のビーム角とを媒質音速算出部400に与える(ステップS102)。媒質音速算出部400では与えられた第1の像と第1のビーム角、第2の像と第2のビーム角から媒質音速を算出する(ステップS103)。算出した媒質音速は、表示部3によって表示される(ステップS104)。
【0017】
図3に、媒質音速算出部400の詳細な構成を示す。画像構成部2から与えられたビーム角の異なる少なくとも2つの像は組織像ずれベクトル検出部401に与えられる。組織像ずれベクトル検出部401は、該2つの像に写る組織像の位置ずれベクトルを検出し、該位置ずれベクトルを媒質音速演算部402に与える。該位置ずれベクトルを検出する方法は、ブロックマッチング法やオプティカルフロー法など局所像の位置ずれを求められる公知の方法のいずれを用いてもよい。ビーム角指示部5から与えられた該2つの像に対応するビーム角も媒質音速演算部402に与える。媒質音速演算部402は、組織像ずれベクトル検出部401から与えられた該ずれベクトルとビーム角指示部3から与えられた該ビーム角とから媒質音速を算出し、該算出した媒質音速を表示部3に与える。
【0018】
図4〜6を使って、本発明の媒質音速の算出方法の根拠となる現象を説明する。図4において、図4(a)に示すように、ビーム方向を探触子10の正面方向にして走査した場合を正面走査とし、その走査領域によって構成される像を実線枠で示し、また、図4(b)に示すように、ビーム走査によってできる像の成す面に沿って斜め方向にビームを傾けたときを斜め走査とし、その走査領域によって成す像を破線枠で示している。正面走査領域を表す実線枠の上辺と斜め走査領域を表す破線枠の上辺は同じ場所に位置し、探触子10表面に一致する。また、走査にかかる時間は数十分の一秒と短いため、正面走査が終わった直後に斜め走査をおこなえば、正面走査と斜め走査とで媒質に対する探触子位置はほとんど変わらない。このため、正面走査領域像の各位置と、該位置に対応する斜め操作領域の位置とは、想定音速と媒質音速の違いによる像のゆがみがなければ一致する。
【0019】
図中、破線の円で示したのは真の組織位置であり、探触子10の端から距離x、探触子表面から距離yの位置に組織があることを示している。該真の組織位置は正面走査でも斜め走査でも変わらない。黒く塗りつぶした円は媒質音速が想定音速よりも遅い場合に組織が現れた位置を示したもので、該真の組織位置からビームにそって深い位置に見えることを示している。このような位置に現れる理由は、想定音速よりも媒質音速が遅いために音波が想定していた速度よりもゆっくりと進むために真の組織位置に到達する送波波面は想定音速による所定の時間よりも遅く到達し、該組織からの反射波も所定の時間よりも遅く受信されるため、深い位置に組織があるように見えるためである。
【0020】
図4にある正面走査像と斜め走査像とを重ねると図5のようになり、該2つの像に現れた組織像は同じ位置で重ならずに、ずれる。該ずれの量は媒質音速と想定音速との違いが大きいほど大きくなる。また、図6に示したように、該ずれの方向は、想定音速よりも媒質音速が遅い場合と早い場合とでは方向が逆となる。
【0021】
図7を使って媒質音速の算出方法を説明する。図7では、座標原点を正面像に現れた組織像の鉛直上方で探触子表面と交わる点とし、探触子表面に沿って走査方向に伸びる軸をy軸、y軸に垂直に深度方向に伸びる軸をx軸とし、真の組織位置を破線の円で示し、像に見える組織位置を黒塗りの円で、正面像と斜め像のビーム方向を矢印で示している。図7(a)では正面像を第1の像、そのビーム角を第1のビーム角、第1の像に現れた組織を第1の組織像、斜め像を第2の像、そのビーム角を第2のビーム角、第2の像に現れた組織像を第2の組織像とし、該第1の組織像の位置を第1の位置、該第2の組織像の位置を第2の位置として示している。図示省略したが、第1の像を成すビーム角はx軸と同じ方向で0度である。ずれの量と方向を求めるには、たとえば正面走査像を該第1の像とし、斜め走査像を該第2の像とした場合、第1の像の任意位置にある局所の像と最もよく一致する部分の像がどの位置にあるかを第2の像から検出すればよい。実際には、特定の組織が写っている箇所にこだわらず第1の像の任意の位置から小さな検出域を指定して第2の像から該一致する位置を検出すればよい。該検出を行なうのが組織像ずれベクトル検出部401である。真の組織位置は正面像に現れた組織をつらぬく第1のビームと斜め像に現れた組織をつらぬく第2のビームとの交点にある。
【0022】
図7(b)に示したように、第1のビームと第2のビームとが交わる点(x、0)は第2の位置を通る第2のビームがx軸と交わる点であり、第2の位置を(x、y)、第2のビーム角をmとすれば点(x、y)を通る傾きmの直線の式(y−y)=m(x−x)に第1のビームを表す直線の式y=0を代入して整理した式1で求められる。
【0023】
【数1】

【0024】
次に媒質音速を求める。ビームが通過する経路はビーム角ごとにあるため、それぞれのビーム経路で媒質音速を求めることができる。ビーム経路ごとに媒質音速を求めるには、第1のビームの各距離を表す記号をプライムなしで、第2のビームの各距離を表す記号をプライムつきで表すと、探触子表面からビームにそった真の組織位置までの距離e及びe’と探触子表面からビームにそった組織位置までの距離f及びf’との比が想定音速vと媒質音速w及びw’の比に等しいことを利用する。すなわち、式2で示す関係がある。
【0025】
【数2】

【0026】
式2の該想定音速vは既知である。第1のビームから求められる媒質音速wは第1の位置を(x,0)とすると、式3で求められる。
【0027】
【数3】

【0028】
また、第2のビームから求められる媒質音速w’は、式4で求められる。
【0029】
【数4】

【0030】
上述した手段によって、ずれから媒質音速を求めることができ、現実の媒質音速に漸次収束させることなく、従来装置の回路規模を増大させずに装置を構成できる。
【0031】
なお、説明では想定音速よりも媒質音速が遅い場合で説明したが、想定音速よりも媒質音速が早い場合も同様である。さらに、探触子にある振動子が直線状に配置されたいわゆるリニア探触子について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、いわゆるコンベックス探触子やアーク探触子、アニュラアレイや面上に振動子を配置して3次元空間をビームで走査して像を得る探触子など、いずれの場合も同様に適用できる。3次元像の場合、通常の3次元走査によって得た正面像と斜め走査によって得た2次元ないしは3次元の斜め像によって上述の演算を行なえば媒質音速が求まる。また、第1の位置と第2の位置を第1の像の任意領域の中心としたが、これに限るものではなく、第1の像の任意領域の左上隅や該領域と対応した任意の位置でもよく、第1の像は正面像に限られるものではなく第1の像と第2の像ともに任意のビーム角であっても同様であり、ビーム角の異なる少なくとも2つの像であればよい。上述したように、少なくとも2つの像を使った場合、それぞれの像のビーム方向に沿って組織像までの媒質音速がそれぞれ求まるが、少なくとも2つの該媒質音速を平均して表示部2に与えて数値で表示してもよい。
【実施例2】
【0032】
図8は、本発明の実施例2を示すものであって、実施例1で算出した媒質音速を送受信部1に設定するように構成している。送受信部1は、例えば特許文献2の図3に示されるものと同様の、想定音速で送信信号の波面を1点に収束し送信ビームを構成するための送波遅延部と、想定音速で受信信号の位相をそろえて受信ビームを構成する受信遅延部を備えている。媒質音速算出部4で算出した媒質音速を新たな想定音速として送受信部1に与えると、該想定音速に応じた該送信ビームと該受信ビームとを構成するように該送信遅延部と該受信遅延部とが稼動し、該想定音速で送受信を行ない新たな像を得る。このように構成することで媒質音速と想定音速が一致し、分解能が向上し、より精細な像を得ることができる。
【実施例3】
【0033】
図9は、本発明の実施例3を示すものであって、音速分布を表示するための構成図である。媒質音速算出部400で算出した媒質音速を音速分布変換部6に与え、音速分布変換部6は変換した媒質音速分布を表示部3に与え、表示部3は与えられた媒質音速の分布を表示するよう構成している。該構成では媒質音速算出部400では像を覆い尽くすようにあらゆる場所で媒質音速を算出する。これは先述した第1の位置を変えながら第2の位置を図3の組織像ずれベクトル検出部401で検出し、媒質音速を媒質音速演算部402で算出する動作を繰り返して、あらゆる場所で媒質音速を算出すればよい。該媒質音速は該第1の位置がどこであったのかがわかるように音速分布変換部6に与える。該媒質音速は探触子から該第1の位置までのさまざまな媒質音速をもつ組織を音波が往復した結果得られる平均音速であるため、各組織の音速として該媒質音速をそのまま表示するのは好ましくない。そこで、有用な音速分布表示とするため該平均音速wからそれぞれの組織音速uに変換する。この変換は式5となる。
【0034】
【数5】

【0035】
ここで、実施例1で算出した該媒質音速wは時間tの関数として扱う。tは探触子表面から組織像まで想定音速vで音波が往復する時間で、探触子表面から組織像までの距離dを使って計算できる。Δtはビーム上で隣接する時間間隔である。
【0036】
式5は正面像だけでなく斜め像でも成り立つ。このため、少なくとも2つの像から組織音速を求めたとき、音速分布は少なくとも2つ求めることができる。それぞれを切り替えて表示したり、少なくとも2つの音速分布の互いに一致する場所の組織音速を平均して表示したりすることは有用である。分布する全ての組織音速値を平均して数値として表示してもよい。
【0037】
ここで、音速分布の可視化方法の例を図10と図11を使って説明する。図10の超音波撮像装置は音速分布を可視化する音速分布可視化部7を図9の超音波撮像装置に加えている。音速分布可視化部7は音速分布変換部6から与えられた少なくとも2つの音速分布から可視化像を作成し、表示部3に与える。音速分布可視化部7では、媒質音速分布を音速の値に応じて色づけし、超音波像に透かしたように重ねて表示し、音速と色の対応を取れるように色スケールを表示したりする。この様子を示したのが図11である。音速分布を画像として表示するのであれば、公知のスムーシング演算など画像処理を音速分布を画像化したものに施す処理を音速分布可視化部7に加え、ノイズを下げて見やすく表示するのも有用である。これら公知のいずれの方法を任意に組み合わせて表示してよい。
【実施例4】
【0038】
図12は、本発明の実施例4を示すものであって、実時間で媒質音速を算出する手段を説明するものである。該手段では、開口合成のように口径を複数に分割することで従来の送受信部の規模をふやさずに、いわゆるフレームレートを下げることなく媒質音速を算出できる。実施例1に示した方法では像を得るだけの場合に比べてフレームレートが下がる。たとえば、通常の像を得るだけの場合は正面像だけを得ればよいが、媒質音速を算出する場合は斜め像も得なければならないからである。正面像を得た直後に必ず斜め像を得るにせよ、少なくとも2つ以上の正面像を得てから、斜め像を得るにせよ、フレームレートは下がってしまう。そこで、開口合成技術のように口径を、例えば主開口と副開口のように、少なくとも2つに分割してそれぞれの開口から異なる方向に超音波ビームを送受信すれば正面像と斜め像とを同時に得られる。ただし口径が小さくなり精細さが犠牲になる。開口の口径を従来と同じだけとりたい場合は従来知られた開口合成技術を用いればよい。たとえば、送信整相を平面波にするか、少なくとも2方向に焦点をもつビームとして送波し、受信整相を時分割で少なくとも2方向のビームを構成するか、少なくとも2倍の整相回路を持たせて少なくとも2方向の受信ビームを構成するとよい。
【実施例5】
【0039】
図13は、本発明の実施例5を示すものであって、屈折を考慮した媒質音速を求めるための構成部であり、図3に示した媒質音速算出部400に第2ビーム屈折算出部800を加えている。組織像ずれベクトル検出部401は画像構成部2から与えられた該第1の像と該第2の像のそれぞれに写る組織像の位置を検出し、該第1の位置を媒質音速演算部402に与え、さらに、該第2の位置を第2ビーム屈折算出部800に与える。ビーム角指示部5は送受信するビーム角を第2ビーム屈折算出部800に与える。第2ビーム屈折算出部800は該第2の位置と該ビーム角とから屈折を考慮した第2のビーム角と屈折を考慮した第2の位置を求め、該屈折を考慮した第2のビーム角と該屈折を考慮した第2の位置とを媒質音速演算部402に与える。媒質音速演算部402は該第1の位置と該屈折を考慮した第2のビーム角と該屈折を考慮した第2の位置とから媒質音速を求め表示部3に与える。
【0040】
図14は、第2ビーム屈折算出部800の詳細な構成である。組織像ずれベクトル算出部401は該第1の位置を媒質音速演算部402に与え、該第2の位置を第2ビーム基点算出部801と第2屈折位置算出部802に与える。第2ビーム基点算出部801は第2ビームと探触子表面との交点である第2ビームの基点を算出し、該第2ビームの基点を第2屈折位置算出部802と第2ビーム屈折角算出部803に与える。第2屈折位置算出部802は該第2の位置と該第2ビームの基点から屈折を考慮した第2の位置を算出し、該屈折を考慮した第2の位置を媒質音速演算部402と第2ビーム屈折角算出部803に与える。第2ビーム屈折角算出部803は該屈折を考慮した第2の位置と該第2ビームの基点とから屈折を考慮した第2のビーム角を求め、該屈折を考慮した第2のビーム角を媒質演算部402に与える。
【0041】
図15に、図14に示した超音波撮像装置による処理手順を示す。第1のビーム角で第1を像を得る手順(ステップS201)と、第2のビーム角で第2の像を得る手順(ステップS202)と、媒質音速を算出する手順(ステップS206)と、算出した媒質音速を表示する手順(ステップS207)は、図2に示したものと同じである。第2ビーム基点算出部801で該第2の位置と該第2のビーム角とから第2のビームの基点を算出し(ステップS203)、第2屈折位置算出部802で該第2の位置と該第2のビームの基点とから屈折を考慮した第2の位置を算出し(ステップS204)、第2ビーム屈折角算出部803で該屈折を考慮した第2の位置と該第2のビームの基点とから屈折を考慮した第2のビーム角を算出する(ステップS205)。
【0042】
図16を使って、屈折を考慮した媒質音速の算出方法の根拠となる現象を説明する。音速の異なる媒質が隣接する場合にその境界では音波が屈折することはよく知られている。想定音速と異なる媒質音速に伝わる音波も同様で、所定のビーム位置から想定した方向へビームを形成しているつもりでも想定音速と媒質音速の違いに応じてビームが屈折する。図16では、媒質音速が想定音速よりも遅い場合を想定し、該第1のビームをx軸上の実線矢印で表し、屈折を考慮した第2のビームを斜め下方に延びる破線矢印で表し、該屈折を考慮した第2のビームが表示される位置を斜め下方に延びる実線矢印で表している。斜め下方に延びる実線矢印のx軸とのなす角は該想定した方向である。また、該第1の位置をx軸上の黒丸で、該真の組織位置をx軸上の破線白丸で、屈折した第2の位置を破線矢印線切っ先の破線白丸で、屈折した第2の位置が表示される位置を第2の位置として黒丸で表し、屈折した第2のビーム角と該想定した方向の第2のビーム角とを円弧矢印で示している。黒丸で表した該第1の位置と該第2の位置とは組織像として表示されるので観測できるが、破線白丸で表した該真の組織位置と該屈折した第2の位置とは観測できない。
【0043】
該真の組織位置が該第1の位置と該第2の位置に現れることを順をおって説明する。該第1のビーム角は0であるため、ビームは屈折せずに該真の組織位置の鉛直下方の該第1の位置に組織像として現れる。該真の組織位置よりも深い位置に組織像が現れることは上述した理由と同様である。該第2のビーム角で走査を行ったとき、媒質音速と想定音速の違いによりビームが屈折するため該屈折した第2のビーム角で該屈折した第2のビームが形成される。このとき、該真の組織位置にある組織を通過するのは該屈折した第2のビームであるから該屈折した第2の位置に組織像が現れる。該屈折した第2の位置は、直角三角形の相似条件により、該第1の位置の真横、すなわち、第1の位置と同じ深さでy軸に平行な位置にある。ただし、該屈折した第2の位置には組織像は現れない。なぜならこの時点では装置は媒質音速が未知であるので媒質音速と想定音速を同じと仮定し、通常の可視化手順で可視化するからである。すなわち、該第2のビーム角の直線上に組織像があると想定した表示を行なう。該想定した表示によって該屈折した第2の位置は第2のビーム角の直線上に該第2の位置として表れる。該第2の位置は、該第2のビームの基点を中心とした円周上にあり、その半径は該第2のビームの基点から該屈折した第2の位置までの距離である。
【0044】
図17を使って、該屈折を考慮した媒質音速の算出方法を説明する。図17は図16と同様のもので、説明を明確にするため、該第2のビーム角をm、該屈折した第2のビーム角をn、該第2のビームの基点から該第2の位置までの距離をf’、該真の組織位置を(x、0)、該第1の位置を(x,0)、該第2の位置を(x,y)、該第2のビームの基点を(0、y)、該屈折した第2の位置を(x、y)としている。なお、該第1の位置(x,0)と該第2の位置(x,y)は組織ずれベクトル検出部401から与えられる位置であり、該第2のビーム角mはビーム角指示部3から与えられる角度である。まず、該第2の位置(x、y)と該第2のビーム角mとから該第2のビームの基点(0、y)を求める。点(0、y)は傾きmで点(x、y)を通る直線y−y=m(x−x)がy軸と交わる点であるから式6によって求まる。
【0045】
【数6】

【0046】
つぎに、該第2の位置(x、y)と該第2のビームの基点(0、y)とから該屈折した第2の位置(x、y)を求める。このために、点(0、y)から点(x、y)までの距離f’を式7で、点(0、y)を中心とする半径f’の円を式8で、該第1の点を通るy軸に平行な直線を式9で表す。
【0047】
【数7】

【0048】
【数8】

【0049】
【数9】

【0050】
該円と該平行な直線との交点は式9のxと式7のf’とを式8に代入して整理すると点(x、y)は式10で表せる。
【0051】
【数10】

【0052】
式10のyは2つの解を持つが、求めたい解は(x、y)に近いほうである。そして、該第2のビームの基点(0、y)と該屈折した第2の位置(x、y)とから該屈折した第2のビーム角nは式11で求まる。
【0053】
【数11】

【0054】
最後に、第2ビーム屈折算出部800は上述で求めた該屈折した第2の位置(x、y)と該屈折した第2のビーム角nとを媒質音速演算部402に与える。媒質音速演算部402では実施例1で述べた該第2の位置(x、y)を該屈折した第2の位置(x、y)に変え、該第2のビーム角mを該屈折した第2のビーム角nに変えて媒質音速を算出する。上述した手段によって、屈折を考慮して媒質音速を求めることができる。
【0055】
なお、上述した媒質音速演算部402の動作は、想定音速と媒質音速の比の関係から媒質音速を求めるとして説明したが、該第2のビーム角mと該屈折した第2のビーム角nとを用いてスネルの法則を使った方法でも媒質音速を求められることを示す。スネルの法則は音波の屈折を表す法則として知られており、媒質aの音波方向と音速とをそれぞれθaとCaとし、同様に媒質bのそれぞれをθbとCbとすると、式12となる。
【0056】
【数12】

【0057】
スネルの法則は媒質音速と想定音速が異なる場合にも当てはまり、Cを想定音速v、θを想定音速でのビーム角m、Cを媒質音速w’、θを媒質音速でのビーム角nとし、媒質音速w’を求めると式13となる。
【0058】
【数13】

【0059】
また、説明では想定音速よりも媒質音速が遅く、振動子を直線状に配置したリニア探触子の場合で説明したが、想定音速よりも媒質音速が早い場合や、コンベックス探触子やアーク探触子、アニュラアレイや面上に振動子を配置して3次元空間をビームで走査して像を得る探触子でも同様であり、ビーム角の異なる少なくとも2つの像であればよい。また、ビーム方向ごとに媒質音速が求まる場合、求めた媒質音速を平均するのも有用である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、媒質音速を算出することにより、該媒質音速を新たな想定音速とすることでより精細な像を得ることができ、音速分布を可視化することができ、媒質音速と想定音速の違いによる像のゆがみを補正できる。本発明は、石油や鉱物や温泉などの資源探査、漁業や観光やレジャーで使用される魚探、建物検査や疲労検査や隠蔽物検査や農作物検査などに代表される非破壊検査、飲料など液状物質の手荷物検査、金テスターなどの貴金属検査、レールや配管や構造物や試験片の傷を調べる探傷などに応用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 送受信部
2 画像構成部
3 表示部
5 ビーム角指示部
6 音速分布変換部
7 音速分布可視化部
10 探触子
400 媒質音速算出部
401 組織像ずれベクトル検出部
402 媒質音速演算部
800 第2ビーム屈折算出部
801 第2ビーム基点算出部
802 第2屈折位置算出部
803 第2ビーム屈折角算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部と、前記超音波画像を表示する表示部を備えた超音波撮像装置において、
超音波ビーム走査角を指示するビーム角指示部と、
超音波ビーム走査角の異なる少なくとも2つの超音波画像に写る組織像の位置ずれベクトルを検出する組織像ずれベクトル検出部と、
前記検出した位置ずれベクトルと前記超音波ビーム走査角とから媒質音速を算出する媒質音速演算部とを設け、
前記表示部は、前記算出された媒質音速を表示するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波撮像装置において、更に、
屈折を考慮した組織像の位置とビーム走査角とを求めるビーム屈折算出部を設けたことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の超音波撮像装置において、
超音波画像内の複数個所の媒質音速を求めるように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項3記載の超音波撮像装置において、
複数箇所の媒質音速を媒質音速分布に変換する音速分布変換部を設け、
前記表示部は、求めた媒質音速分布を分布図として表示するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項4記載の超音波撮像装置において、
前記媒質音速分布から可視化像を作成する音速分布可視化部を設け、
前記表示部は、作成した可視化像を表示するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項5記載の超音波撮像装置において、
前記表示部は、前記媒質音速分布の可視化像を、前記超音波画像に重ねて表示するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部と、前記超音波画像を表示する表示部を備えた超音波撮像装置において、
超音波ビーム走査角を指示するビーム角指示部と、
超音波ビーム走査角の異なる少なくとも2つの超音波画像に写る組織像の位置ずれベクトルを検出する組織像ずれベクトル検出部と、
前記検出した位置ずれベクトルと前記超音波ビーム走査角とから媒質音速を算出する媒質音速演算部とを設け、
前記送受信部は、装置が想定する媒質音速として、前記算出された媒質音速に変更するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項8】
請求項7記載の超音波撮像装置において、更に、
屈折を考慮した組織像の位置とビーム走査角とを求めるビーム屈折算出部を設けたことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載の超音波撮像装置において、
前記送受信部は、設定音速に応じて受信した超音波信号の遅延量を変更できる遅延部を備え、設定音速として、前記算出された媒質音速を設定するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一つに記載の超音波撮像装置において、
超音波探触子の開口を少なくとも2つに分割してそれぞれの開口からビーム走査角の異なる方向に超音波ビームを送受信するように構成したことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項11】
送受信ビームを形成し超音波を送受信する送受信部と、受信したエコー信号を信号処理して超音波画像を形成する画像構成部と、前記超音波画像を表示する表示部を備えた超音波撮像装置における媒質音速算出方法であって、
第1のビーム角で超音波を送信しエコー信号を受信して、第1の超音波画像を得るステップと、
前記第1のビーム角とは異なる、第2のビーム角で超音波を送信しエコー信号を受信して、第2の超音波画像を得るステップと、
第1の超音波画像と第2の超音波画像とに写る組織像の位置ずれベクトルを検出するステップと、
前記検出した位置ずれベクトルと前記ビーム角とから媒質音速を算出するステップとを備えたことを特徴とする超音波撮像装置における媒質音速算出方法。
【請求項12】
請求項11記載の超音波撮像装置における媒質音速算出方法において、更に、
屈折を考慮した組織像の位置とビーム走査角とを求めるステップを備えたことを特徴とする超音波撮像装置における媒質音速算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−229708(P2011−229708A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103066(P2010−103066)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】