説明

超音波材料診断方法及び装置

【課題】 水浸共振法を用いて、薄板状被測定物内部に存在する異常部、微細欠陥、転位などを非破壊的に検出し画像化する超音波診断方法及び装置を提供する。
【解決手段】 水槽内に水平に設置した薄板状被測定物13に焦点型著音波探触子12により繰返数の多い一定周波数fの大振幅バースト波を送信し厚さ方向共振を励起する。ハイパスフィルタ4を介して共振により水中に漏洩した高次高調波を抽出し、その最大振幅及び共振開始時間から閾値に達するまでの時間差をマッピングすることにより、薄板状被測定物内部の介在物、マイクロボイド、マイクロクラック、転位などの異常組織を検出し画像化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水浸あるいは局部水浸超音波法等を用いて、薄板状材料内の異質部及び不健全部を非破壊的に検出し画像化する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異種材料接合が用いられている多層積層基盤やクラッド鋼板などでは、接合部に不完全結合部がないことを非破壊的に評価・検査する必要がある。また、SiCあるいはGaNなどのパワーIC用基板中に含まれる高転位密度部分の非破壊的評価も求められている。さらに、原子力発電所圧力容器の照射脆化監視用小型衝撃試験片の劣化・損傷を非破壊的に評価することが望まれている。
【0003】
非特許文献1に記載されるように、通常のパルス反射法(超音波探傷試験)を用いるとき、異種材料接合界面の音響インピーダンス差により健全接合部でも反射波が発生するため、接合界面に存在する微細な不完全接合部(不健全部)を検出することができない。また、隙間を持たない金属中の転位集積部・析出物・偏析等の異常組織部(異質部)の検出は不可能である。
【0004】
上記問題を解決するため、大振幅バースト超音波を材料に入射し、それにより励起される変動応力を用いて不完全接合部あるいは異常組織部を揺り動かしたときに励起される、入射周波数の整数倍周波数を持つ高調波を検出しその振幅を画像化する技術が存在する(特許文献1)。
【0005】
しかし、上記技術を用いて薄板状材料・部品の不完全接合部及び異常組織部を非破壊的に検出しようとするとき、高増幅では表面多重反射波により不感帯が生じ、その検出・画像化が困難になるという問題が発生する。
【0006】
この問題を解決するため、電磁超音波探触子を用いる共鳴法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法で使用される探触子寸法は最小でも1cm程度であるので、微細な不完全接合部の検出は不可能である。また、この方法は半導体基板のような非金属材料には適用できない。
【0007】
また、送信及び受信に別個の探触子を用い水浸透過法により2次共鳴周波数振幅を測定する微細欠陥検出法が提案されている(特許文献3)。しかし、この方法では、測定試験片の両側に送信及び受信超音波探触子を試験片表面に対し垂直に配置する必要があり、また、周波数を掃引して予め整数倍の比を持つ共振周波数の組を選択し入射周波数を決定する必要がある。さらに、検査において重要な不完全接合部を画像化する手段を欠いている。このため、産業上の応用が困難であると考えられる。
【0008】
一個の探触子を用いて水浸共振法により2次共振振幅を測定し、塑性変形を受けた鋼板および配管の塑性ひずみを検出する方法が提案されている(特許文献4)。しかし、この方法では、入射共振周波数の2倍の周波数における振幅だけを用いている。
【0009】
これに対し、非特許文献2に記載されるように、密着き裂や微細損傷あるいは介在物の法線が入射超音波ビームに対し斜めに交差する場合は、3次や5次のような奇数次の高次高調波が励起されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4244334号
【特許文献2】特開平9−257760号公報
【特許文献3】特開2005−114376号公報
【特許文献4】特開2008−107101号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】JISハンドブック43 非破壊検査、日本規格協会、2005
【非特許文献2】I. Solodov、 第11回新素材及びその製品の非破壊評価シンポジウム論文集、67、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
水浸共振法についても、2次だけでなく3次以上の高次共振周波数を検出することで、薄板状材料内部の異常組織部・異質材料接合部の微細な不完全接合部を検出・画像化できると考えられる。しかし、高次共振周波数を利用してそれらを検出し画像化する技術は存在しない。
【0013】
また、繰返数の多いバースト波入射では共振状態に達するまでの時間が材料特性に依存して変化すると考えられるが、高次共振状態に至る時間を画像化する技術は存在しない。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑み、おもに水浸あるいは局部水浸超音波法等を用いて、薄板状測定物の片側から1個の焦点型超音波探触子により大振幅バースト波を送信しそれにより励起された高次共振波形を同一探触子により受信し、高次共振振幅及び高次共振受信時間差を画像化することにより、薄板状測定物内部に存在する異常部や介在物や異種材料接合界面に存在する微小欠陥などを非破壊的に検出する超音波診断方法と装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
パーソナルコンピュータからのトリガ信号を受けて周波数可変のバースト波超音波励起用電気信号を発生させる超音波信号発生部、該超音波信号発生部で発生させた超音波信号を電気的に増幅して送信する超音波信号増幅部、該超音波信号増幅部から送信された超音波信号を超音波振動に変換すると共に水中に置かれた薄板状被測定物に超音波振動を入射し該薄板状被測定物を共振させたとき水中に漏洩した超音波信号を受信する超音波探触子、該超音波探触子で検出した信号から3次以上の高次高調波アナログ信号を抽出するアナログフィルタ、該アナログフィルタで抽出した高次高調波アナログ信号を増幅する受信信号増幅部、該受信信号増幅部で増幅された高次高調波アナログ信号を高速A/D変換しそのデジタル信号の波形をデジタル収録する波形記憶部、該波形記憶部に記憶された波形にデジタル波形処理を施し設定した表面反射波形に対する受信波到着時間差及び最大振幅などを算出する波形処理部、被測定物の任意の位置で前記波形処理部で算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅をコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して表示する画像表示部、及び前記超音波探触子の前記薄板状被測定物に対する距離を可変とする機構を搭載し前記薄板状被測定物表面に沿って移動できる走査機構、を備えた超音波診断装置、又は該超音波診断装置を用いた超音波診断方法であって、前記パーソナルコンピュータからの指令に基づいて前記超音波信号発生部で発生させた前記薄板状被測定物の厚み共振周波数に対応するバースト波超音波励起用電気信号を、前記超音波信号増幅部により増幅し、前記超音波探触子から水を介して前記薄板状被測定物に超音波振動を入射し、被測定物を共振させ、そのとき水中に漏洩した超音波信号を前記超音波探触子により受信し、前記アナログフィルタを介して受信した前記超音波信号から高次共振受信信号を抽出して前記受信信号増幅部で増幅した後、その増幅したアナログ信号をデジタル信号の波形に高速A/D変換し、そのデジタル波形を前記波形記憶部に収録し、前記薄板状被測定物の任意の位置で、前記波形処理部によって高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅を算出し、その算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅を前記画像表示部によってコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して画像化することにより被測定物内部の微小欠陥あるいは異常部を画像化することを特徴とする。
【0016】
前記超音波診断装置において、送受信超音波探触子が焦点型でとすることにより、微細な異常部を検出・画像化できる。
【0017】
前記超音波診断装置において、被測定物全体を水中に置くこと、あるいは被測定物の一部を局部水浸することあるいは水柱を介して超音波を送受信することにより微小な被測定物から大型プラントまで適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、従来の非破壊検査法で検出できない薄板状被測定物内部に存在する微小欠陥あるいは異常部や塑性変形度などを検出する手段が確立された。
【0019】
また、送信及び受信超音波探触子を被測定物表面に沿って走査しその位置における表面反射信号からの高次共振受信信号の時間差及び高次共振振幅を濃淡あるいは色調に変換して表示することにより、被測定物内部の欠陥あるいは異常部を非破壊的に画像化する手段が確立された。
【0020】
従来の接触式共振超音波測定では、被測定物、超音波探触子及びその間のグリース状の触媒質が連成した共振しか励起できないが、本共振測定では水を介した測定であるので、被測定物厚さと縦波伝搬速度により計算される共振周波数に近い共振周波数を初期値として設定することができる。
【0021】
従来の多くの共振超音波測定では、入射共振周波数と同一周波数の超音波振幅を受信したので、空間分解能は入力周波数の波長で決められる。これに対し、本発明でアナログハイパスあるいはバンドパスフィルタを用いて抽出した高次共振周波数を検出するので、高次高調波波長を用いることで空間分解能が著しく向上する。
【0022】
水浸高調波測定では超音波が水中経路を伝搬するときに高調波が励起されるが、水中伝搬距離が一定である測定形態を用いることにより、その高調波は測定位置に依存しない定常ノイズとみなすことができる。
【0023】
半導体に使用されるシリコン、SiC、
GaN などの単結晶成長過程、及びウエハーへの切断研磨過程において発生する転位などの欠陥部の非破壊検出に適用できる。
【0024】
大地震時に薄板あるいは薄肉円筒状鋼構造物に生じた極低サイクル疲れにより生じた局部的塑性変形度を非破壊的に評価することにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る水浸超音波共振診断装置の全体構成説明図である。
【図2】塑性変形した円孔付帯板の高次高調波振幅を画像化した図である。
【図3】塑性変形度の異なる位置の高次高調波受信波形を示す図である。
【図4】塑性変形した円孔付帯板の高次高調波振幅を画像化した図である。
【図5】塑性変形度の異なる位置の高次高調波受信波形を示す図である。
【図6】塑性変形度の異なる位置の高次高調波受信波形時間差画像である。
【図7】V溝から成長した疲労き裂先端塑性域の高次高調波振幅を画像化した図である。
【図8】薄鋼板中の非金属介在物周辺塑性域の高次高調波振幅を画像化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る超音波診断装置を用いて薄板状被測定物内に存在する微小欠陥や異常部や塑性変形度などを非破壊的に検出するための最良の形態を実施例に基づき、図面を参照して以下に説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る水浸高次共振を利用する超音波診断装置を説明する図である。超音波診断装置1は、パーソナルコンピュータ15内に内蔵された同期走査制御部10と同期し且つパーソナルコンピュータ15からのトリガ信号を受けて周波数可変のバースト波電気信号(超音波信号)を発生させる超音波信号発生部2、該超音波信号発生部2で発生させた超音波信号を電気的に増幅して送信する超音波信号増幅部3、該超音波信号増幅部3から送信された超音波信号を超音波振動に変換すると共に水槽9の水中に置かれた薄板状被測定物8に超音波振動を入射し該薄板状被測定物8を共振させたとき水中に漏洩した超音波信号を受信する超音波探触子4、該超音波探触子4で受信した超音波信号から3次以上の高次高調波アナログ信号を抽出するアナログフィルタ5、該アナログフィルタ5で抽出した高次高調波アナログ信号を増幅する受信信号増幅部6、該受信信号増幅部6で増幅された高次高調波アナログ信号を高速A/D変換しそのデジタル信号の波形をデジタル収録する波形記憶部11、該波形記憶部11に記憶された波形にデジタル波形処理を施し設定した表面反射波形に対する受信波到着時間差及び最大振幅などを算出する波形処理部12、前記薄板状被測定物8の任意の位置で前記波形処理部12で算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅をコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して表示する画像表示部13、及び前記超音波探触子4の前記薄板状被測定物8に対する距離を可変とする機構を搭載し前記薄板状被測定物8の表面に沿って移動できる走査機構7で構成されている。なお、超音波探触子4及び薄板状被測定物8は、水を張った水槽9中に浸漬されている。また、同期走査部10、波形記憶部11、波形処理部12、及び画像表示部13は、パーソナルコンピュータ15に内蔵され、超音波信号発生部2、受信信号増幅部6、及び走査機構7は、パーソナルコンピュータ15に接続されている。また、受信信号増幅部6で増幅された高次高調波アナログ信号を高速A/D変換するために、波形記憶部11には、高速A/D変換ボードが含まれている。
【0028】
薄板状被測定物8の厚さ、その材料の縦波音速に基づき、厚み共振周波数を次式により計算する。
fn=2V/(h・n)・・[式1]
ここで、fn:n次共振周波数、V:縦波音速、h:被測定物厚さ、n;整数(1、2、…)である。
薄板状被測定物8に接触する水の存在により、実際の共振周波数は[式1]で計算される値よりいくらか変化する。
【0029】
式2で与えられる波長に比例する空間分解能を考慮して、入射する共振周波数の候補を選択する。
λn=V/fn・・[式2]
ここでλnは n次共振周波数に対応する縦波波長である。
【0030】
選択した入射共振周波数fnに近い中心周波数を持ち所望の焦点距離を持つ超音波探触子4を選択する。
【0031】
選択した入射共振周波数fnの近辺で入射周波数を変動させ、受信振幅が最大となる周波数を選択する。
【0032】
高調波振幅あるいは最大振幅に達するまでの時間差を画像化するためには、材料の欠陥あるいは異常部に最も敏感な受信波形の部分に画像化ゲートを設定する。多くの場合、画像化ゲート位置を図3の四角点線枠で示すように受信バースト波の最後部付近に設定し、超音波探触子4を走査しながら薄板状被測定物8にバースト波を送信し、アナログフィルタ5を介して薄板状被測定物8から水中に漏洩した超音波の高次高調波成分を抽出し、その振幅のマッピングを行い、異常部を画像化する。画像化には市販の超音波画像化ソフトウエアを使用する。この超音波画像化ソフトウエアにおいては、設定した画像化ゲート範囲内の最大振幅を検出し、その振幅値を白黒濃度あるいは擬似カラーに変換して超音波探触子の位置に対してプロットする。
【0033】
最大振幅に達するまでの時間差を画像化するためには、図3の矢印で示す受信バースト波立上がり部に時間測定の原点を設定し、画像化ゲートを図3の破線のように設定し、超音波探触子4を走査して薄板状被測定物8にバースト波を送信し、アナログフィルタ5を介して薄板状被測定物8から水中に漏洩した超音波の高次高調波成分を抽出し、バースト波立上り部からの画像化ゲートの閾値を超え最大振幅値に達するまでの時間差のマッピングを行い、異常部を画像化する。ここで、閾値は電気ノイズ信号より大きく、検出すべき高調波振幅よりできるだけ小さい値に設定する。画像化には市販の超音波画像化ソフトウエアを使用する。この超音波画像化ソフトウエアでは、受信バースト波の立上がり部から画像化ゲート範囲内の最大振幅までの時間を検出し、その時間を白黒濃度あるいは擬似カラーに変換して超音波探触子の位置に対してプロットする。
【0034】
第一の実施形態として、塑性変形度の異なる円孔付ステンレス鋼帯板の高次高調波振幅画像を図2に示す。帯板中央に円孔を加工した後、長手方向に約30%の塑性ひずみを与えた後、板厚を5.05mmに加工した試験片を用いた。RITEC社RPR-4000 により周波数7.97MHz、80サイクルのバースト波を公称中心周波数10MHz、
直径12mm、水中焦点距離76mmの焦点超音波探触子に送信し、アナログフィルタとしてのハイパスフィルタ18MHz(-60dB)を用いて高次高調波を抽出しその振幅を画像化した。
【0035】
図2において、最も塑性変形の著しい孔に隣接する上部及び下部の振幅が最大であり、ほとんど塑性変形していない孔の左右部分の振幅が最小である。孔の上下部から帯板の端に向かって振幅が低下しており、物理的には塑性変形をもたらした転位の密度を表す。
【0036】
図2における塑性変形度の弱い領域aから最も変形度の強い領域dまでの受信波形を図3に示す。破線で示す画像化ゲート位置の振幅はaからdの順に増大している。
【0037】
塑性変形の少ない領域での共振高次高調波振幅が最大となる、入射周波数を6.91MHzとしたときに得られた振幅画像を図4に示す。孔の左右の領域AとBの高次高調波振幅が最大で、領域CとDの振幅が最小である。ただし、図2の方が、最も塑性変形度の強い領域を的確に表現している。しかし、図2の画像化を行うためには、未知である最も塑性変形度の高い領域を試行錯誤により探して、各点で高次高調波振幅が最大となる共振周波数を求める必要がある。この前段階として、共振周波数がほぼ一定の塑性変形の少ない領域で高次高調波振幅を画像化し、図4に示す領域CとDに示す最小位置を求めれば、上記の試行錯誤の回数を大幅に削減できる。
【0038】
図4の領域A〜Dにおける高次高調波受信波形を図5に示す。領域AとBでは共振開始から終了まで最大振幅状態が継続するが、領域CとDでは共振継続時間の途中で振幅が大幅に低下する。そこで、図4に対する画像化ゲート位置を図5の破線部に設定した。このゲート設定により、塑性変形域と非塑性変形域を明瞭に区別できる。なお、領域CとDにおいて、共振継続時間の途中で振幅が大幅に低下する原因として、物理的には、塑性変形域における転位による超音波減衰及び伝搬時間の遅れのため、超音波の干渉が生じたためと考えられる。
【0039】
図2に示した高調波振幅画像に対応する、共振波形立上部からゲート位置内での最大振幅に達するまでの時間差画像を図6に示す。材料内部に転位あるいはボイドなどの損傷が発生すると被測定物厚さ方向の超音波伝搬速度が健全材料に比べて遅くなるので、時間差画像を用いることにより、材料内減衰に対応する振幅画像とは異なる物理量を表示できる。このように、図2に示す高調波振幅画像と図6に示す時間差画像との両方を画像化して併用することにより、薄板状被測定物のわずかな材料特性の違いを画像化できると共に、塑性変形度を非破壊的に正確に評価することができる。
【0040】
第二の実施形態として、厚さ10mm厚さのアルミニウム合金板のV溝切欠きから成長させた疲労き裂前方の塑性域の高次高調波振幅画像と高次共振時間差画像を図7に示す。最上段がV溝切欠きと疲労き裂のスケッチ、中段が高次高調波振幅画像、下段が高次高調波時間差画像である。振幅画像では、き裂先端塑性域のコントラストは低いが時間差画像では、き裂先端塑性域画像化が明瞭に表示される。このように時間差画像を振幅画像と併用することで、わずかな材料特性の違いを画像化できる。
【0041】
第三の実施形態として、厚さ5mmの薄鋼板中の介在物周辺塑性域の共振高次高調波振幅画像を図8に示す。振幅の大きな円環部が塑性変形域であり、それにより囲まれた低振幅の四角形状領域の内部にさらに低振幅の2本の黒線で介在物が表示されている。従来の特許文献1に記載の背面散乱波を用いる高調波測定では黒線分だけしか画像できない。共振高次高調波画像を用いることで、介在物周りの塑性変形域を識別できる。また、図面では示さないが、この第三の実施形態にかかる時間差画像を画像化したところ、第一の実施形態及び第二の実施形態と同様にわずかな材料特性の違いを画像化できることがわかった。
【0042】
なお、図1に示した測定形態では焦点型探触子を用いたが、これに代えて平面探触子を使用することもできる。また、図1に示す非測定物全体を水没させる方式に代えて、被測定物の一部を水で覆う方式あるいは水柱方式により超音波を送受信することもできる。さらに、高次高調波を抽出するアナログフィルタとして、ハイパスフィルタあるいはバンドパスフィルタを選択することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 超音波診断装置
2 超音波信号発生部
3 超音波信号増幅部
4 超音波探触子
5 アナログフィルタ
6 受信信号増幅部
7 走査機構
8 薄板状被測定物
9 水槽
10 同期走査部
11 波形記憶部
12 波形処理部
13 画像表示部
15 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーソナルコンピュータからのトリガ信号を受けて周波数可変のバースト波超音波励起用電気信号を発生させる超音波信号発生部、該超音波信号発生部で発生させた超音波信号を電気的に増幅して送信する超音波信号増幅部、該超音波信号増幅部から送信された超音波信号を超音波振動に変換すると共に水中に置かれた薄板状被測定物に超音波振動を入射し該薄板状被測定物を共振させたとき水中に漏洩した超音波信号を受信する超音波探触子、該超音波探触子で検出した信号から3次以上の高次高調波アナログ信号を抽出するアナログフィルタ、該アナログフィルタで抽出した高次高調波アナログ信号を増幅する受信信号増幅部、該受信信号増幅部で増幅された高次高調波アナログ信号を高速A/D変換しそのデジタル信号の波形をデジタル収録する波形記憶部、該波形記憶部に記憶された波形にデジタル波形処理を施し設定した表面反射波形に対する受信波到着時間差及び最大振幅などを算出する波形処理部、被測定物の任意の位置で前記波形処理部で算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅をコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して表示する画像表示部、及び前記超音波探触子の前記薄板状被測定物に対する距離を可変とする機構を搭載し前記薄板状被測定物表面に沿って移動できる走査機構、を備えた超音波診断装置を用いた超音波診断方法であって、
前記パーソナルコンピュータからの指令に基づいて前記超音波信号発生部で発生させた前記薄板状被測定物の厚み共振周波数に対応するバースト波超音波励起用電気信号を、前記超音波信号増幅部により増幅し、前記超音波探触子から水を介して前記薄板状被測定物に超音波振動を入射し、被測定物を共振させ、そのとき水中に漏洩した超音波信号を前記超音波探触子により受信し、前記アナログフィルタを介して受信した前記超音波信号から高次共振受信信号を抽出して前記受信信号増幅部で増幅した後、その増幅したアナログ信号をデジタル信号の波形に高速A/D変換し、そのデジタル波形を前記波形記憶部に収録し、前記薄板状被測定物の任意の位置で、前記波形処理部によって高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅を算出し、その算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅を前記画像表示部によってコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して画像化することにより被測定物内部の微小欠陥あるいは異常部を画像化することを特徴とする超音波診断方法。
【請求項2】
パーソナルコンピュータからのトリガ信号を受けて周波数可変のバースト波超音波励起用電気信号を発生させる超音波信号発生部、該超音波信号発生部で発生させた超音波信号を電気的に増幅して送信する超音波信号増幅部、該超音波信号増幅部から送信された超音波信号を超音波振動に変換すると共に水中に置かれた薄板状被測定物に超音波振動を入射し該薄板状被測定物を共振させたとき水中に漏洩した超音波信号を受信する超音波探触子、該超音波探触子で検出した信号から3次以上の高次高調波アナログ信号を抽出するアナログフィルタ、該アナログフィルタで抽出した高次高調波アナログ信号を増幅する受信信号増幅部、該受信信号増幅部で増幅された高次高調波アナログ信号を高速A/D変換しそのデジタル信号の波形をデジタル収録する波形記憶部、該波形記憶部に記憶された波形にデジタル波形処理を施し設定した表面反射波形に対する受信波到着時間差及び最大振幅などを算出する波形処理部、被測定物の任意の位置で前記波形処理部で算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅をコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して表示する画像表示部、及び前記超音波探触子の前記薄板状被測定物に対する距離を可変とする機構を搭載し前記薄板状被測定物表面に沿って移動できる走査機構、を備え、
前記パーソナルコンピュータからの指令に基づいて前記超音波信号発生部で発生させた前記薄板状被測定物の厚み共振周波数に対応するバースト波超音波励起用電気信号を、前記超音波信号増幅部により増幅し、前記超音波探触子から水を介して前記薄板状被測定物に超音波振動を入射し、被測定物を共振させ、そのとき水中に漏洩した超音波信号を前記超音波探触子により受信し、前記アナログフィルタを介して受信した前記超音波信号から高次共振受信信号を抽出して前記受信信号増幅部で増幅した後、その増幅したアナログ信号をデジタル信号の波形に高速A/D変換し、そのデジタル波形を前記波形記憶部に収録し、前記薄板状被測定物の任意の位置で、前記波形処理部によって高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅を算出し、その算出された高次共振波形の受信波到着時間差及び共振波形振幅を前記画像表示部によってコンピュータ画面上に白黒の濃淡あるいは色調に変換して画像化することにより被測定物内部の微小欠陥あるいは異常部を画像化することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
前記超音波探触子が焦点型又は平面型のいずれかであることを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記被測定物の全体又は一部を、水を張った水槽に水浸させた状態又は水柱を介した状態で前記超音波探触子によって超音波を送受信することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記アナログフィルタは、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタであることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−68209(P2012−68209A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215474(P2010−215474)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(504327306)有限会社超音波材料診断研究所 (12)
【Fターム(参考)】