説明

超音波検査システム

【課題】超音波検査システムにおいて、表板部材と裏板部材とこれらの間に配置される接合部とを含む複合部材について、表板部材側からのみしか超音波探触子を取り付けられなくても検査を行うことを可能とすることである。
【解決手段】超音波検査システム10は、レーザ駆動装置12、表板部材62の表面にレーザ光を走査させるガルバノミラー14、表板部材62から見て裏板部材64が露出している箇所に配置される超音波探触子16,18、制御装置30等を含んで構成される。制御装置30は、レーザ光走査タイミングと各超音波探触子16,18が受信した検出信号とを対応付け、被試験部材60における超音波振動分布を2次元面に画像化する個別画像化処理部36と、同一位置における複数の画像データを和演算または積演算してその位置の強調処理データとする強調画像化処理部38を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査システムに係り、特に表板部材と、裏板部材と、表板部材と裏板部材の間に配置される接合部とを含む複合部材を被試験部材として、接合性検査を行う超音波検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、接着層を介して2枚の板材が接合されているものあり、そのような場合、接着層の性能等を検査したい。例えば、特許文献1には、ドア外板とドア内板とをモナカ状に組み立て、その間に柔軟剤層と硬化剤層を塗布する自動車用ドアにおける塗布状態検査方法が述べられている。ここでは、上下二層に塗布された塗布剤のそれぞれの色の差と、それぞれの塗布領域の差をカメラで検査することが開示されている。
【0003】
この場合には、2枚の板材を接着する前の接着材層の評価についてカメラを用いて行っているが、2枚の板材が接着材によって接合された後では、接着材層が表側からは見えないので接合状態を目視で確認することができない。そこで、例えば、超音波等を用いる検査を行うことが考えられる。
【0004】
非特許文献1には、ガルバノミラーを利用してレーザを遠隔から高速で対象物表面上を走査し、そのレーザによって励振された超音波を用いて、平板や配管の損傷の有無やその位置のみならず、損傷深さを測定できることが述べられている。ここでは、レーザ励振されたガイド波としてのラム波を用い、レーザ入射位置に対応付けた振幅分布を求め、その変化が損傷深さと対応付けられることが示されている。
【0005】
なお、超音波検査に関連する技術として、非特許文献2には、平板や配管中を伝搬する超音波振動形態の位相速度と群速度について述べられている。ここでは、平板や配管中を伝搬する超音波振動形態としてのラム波やレイリー波等は、音速の異なる多数のモードが発生し、それぞれのモードが周波数によって音速の異なる分散性を有し、その分散性が大きいので、位相の移動する位相速度とエネルギの移動する速度である群速度を区別することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−76056号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】林高弘等,発振レーザー走査法によって励振されたガイド波を用いた高速厚み測定,第16回超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文集8−1,社団法人日本非破壊検査協会超音波分科会,2009年1月,p107−111
【非特許文献2】林高弘,配管検査のためのガイド波理論と将来技術,非破壊検査,54巻,11号,社団法人日本非破壊検査協会,2005年11月,p59−594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表側部材と裏側部材を例えば接着材等で接合している構造に対し、その接合部の密着性を超音波技術によって評価することを考えると、接合部を挟む表側固体の表面、裏側固体の表面にそれぞれセンサが設置できる場合には、超音波の透過波の有無によって接着材の接合状態を判断することができる。つまり、表面側に設けられる送信センサから出力された超音波は、表面側の固体、接着材等の接合部、裏面側の固体の順に進行し、裏面側の受信センサで検出される。この場合、固体の音響インピーダンスと接着材等の接合部の音響インピーダンスの差が大きい場合には、透過波と共に多重反射波が検出される。仮に固体と接着材等との間の接合状態が不十分で空気層が存在する場合には、透過波も多重反射波も検出されない。この相違によって、接合状態の評価を容易に行うことができる。
【0009】
ところで、2枚の固体の薄板を接着材等で接合している構造に対し、1枚の固体の薄板の一方側からしか、センサを設けることができない場合もある。この場合、1つのセンサで送信と受信を行わせて、いわゆる超音波エコー波形を観察することになる。このような超音波エコー波形は、接着材等の有無や、接合性の相違による変化がほとんど見られないので、この方法によって接合状態の評価を行うのは困難である。
【0010】
本発明の目的は、表板部材と、裏板部材と、表板部材と裏板部材の間に配置される接合部とを含む複合部材について、表板部材側からのみしか超音波センサを取り付けられなくても、効果的に接合性評価を行うことを可能とする超音波検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波検査システムは、表板部材と、裏板部材と、表板部材と裏板部材の間に配置される接合部とを含む複合部材を被試験部材として、接合性検査を行う検査システムであって、表板部材に対し、超音波振動を与える照射位置を2次元的に移動走査する走査手段と、表板部材の超音波振動の照射位置から接合部を経由して裏板部材に伝搬する超音波振動信号を検出信号として受信するために、表板部材側から見て裏板部材が露出する箇所を複数設定してその箇所を複数の受信位置として設けられる複数の受信手段と、各受信手段が受信した検出信号を走査手段の移動走査の各位置に対応付けて2次元面に画像化する個別画像化手段と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調画像データとする強調画像化処理を行い、各位置における強調画像データを2次元面に画像化し、これを被試験部材の接合性検査用画像として出力する強調画像化手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、各受信手段は、移動走査によって1つの照射位置について表板部材に与えられた超音波振動が、当該照射位置から表板部材内を四方八方に伝搬し、接合部を経由して裏板部材内を四方八方に伝搬しながら様々な経路を通って各受信位置に伝搬する様々な超音波振動の波形のうち、最初に現われる波形である初動波について、当該照射位置から表板部材を伝搬し接合部を経由して裏板部材を伝搬して各受信位置に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定するゲート手段を有し、個別画像化手段は、各受信手段のゲート手段によって特定されて受信した検出信号を走査手段の移動走査の各位置に対応付けて2次元面に画像化することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、ゲート手段は、被試験部材を伝搬する超音波振動の群速度の最小値と最大値とに基いて、各受信位置に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定するためのゲート期間を設定することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、被試験部材を伝搬する超音波振動の位相速度に基いて、移動走査の各照射位置に応じた時間遅れを算出し、ゲート手段のゲート期間内に検出される全ての波形について、それぞれの照射位置に対応する時間遅れを加えた遅延波形を求め、全ての遅延波形の和を算出して、照射位置から受信手段の方へ直接向かう振動波形である進行波波形のみを強調して、ゲート期間内に入り込む反射波波形を抑制する進行波強調処理手段を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、強調画像化手段は、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調画像データとすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る超音波検査システムにおいて、走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、超音波検査システムは、表板部材に対し、超音波振動を与える照射位置を2次元的に移動走査し、表板部材の超音波振動の照射位置から接合部を経由して裏板部材に伝搬する超音波振動信号を検出信号として受信するために、表板部材側から見て裏板部材が露出する箇所を複数設定してその箇所を複数の受信位置として複数の受信手段が設けられる。そして、各受信手段が受信した検出信号を走査手段の移動走査の各位置に対応付けて2次元面に画像化し、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調画像データとする強調画像化処理を行い、各位置における強調画像データを2次元面に画像化し、これを被試験部材の接合性検査用画像として出力する。
【0018】
なお、2次元面に画像化するとは、2次元面を構成する各点における超音波振動の程度を濃淡差、色の相違等で表示できるようにすることで、超音波振動に関する振幅分布を表示できるようにすることである。このような画像化による表示は、超音波探傷技術において、いわゆるCスコープ法と呼ばれるものに似ている。
【0019】
また、強調画像化処理は、一例をあげると、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調画像データとすることである。例えば、2つの受信装置を用いることを考えると、同一位置における2つの画像データを相互に和演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、1つの画像データに基づく場合のSN比に対し、計算上、2倍に向上する。同一位置における4つの画像データを相互に積演算処理することで、物体に存在する損傷等からの検出信号のSN比は、計算上、1つの画像データに基づく場合のSN比の2乗に向上する。なお、複数の画像データの間で重み付けを行ってもよい。
【0020】
このようにして、表板側からのみしか超音波センサを取り付けられなくても、その超音波センサからの受信信号を処理することで、効果的に接合性評価を行うことが可能となる。
【0021】
また、超音波検査システムにおいて、各受信手段は、移動走査によって1つの照射位置について表板部材に与えられた超音波振動が、当該照射位置から表板部材内を四方八方に伝搬し、接合部を経由して裏板部材内を四方八方に伝搬しながら様々な経路を通って各受信位置に伝搬する様々な超音波振動の波形のうち、最初に現われる波形である初動波について、当該照射位置から表板部材を伝搬し接合部を経由して裏板部材を伝搬して各受信位置に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定し、各受信手段のゲート手段によって特定されて受信した検出信号を走査手段の移動走査の各位置に対応付けて2次元面に画像化する。これによって、四方八方に伝搬する超音波振動の初動波のうち、直線的に最短経路で伝搬する初動波を特定できるので、その特定された直線的最短経路伝搬初動波を用いて、接合性評価を行うことができる。
【0022】
また、超音波検査システムにおいて、被試験部材を伝搬する超音波振動の群速度の最小値と最大値とに基いて、各受信位置に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定するためのゲート期間を設定する。予め群速度の最小値と最大値を求めておくことが可能なので、これにより初動波のうち、直線的に最短経路で伝搬する直線的最短経路伝搬初動波を特定することができる。
【0023】
また、超音波検査システムにおいて、被試験部材を伝搬する超音波振動の位相速度に基いて、移動走査の各照射位置に応じた時間遅れを算出し、ゲート手段のゲート期間内に検出される全ての波形について、それぞれの照射位置に対応する時間遅れを加えた遅延波形を求め、全ての遅延波形の和を算出して、照射位置から受信手段の方へ直接向かう振動波形である進行波波形のみを強調して、ゲート期間内に入り込む反射波波形を抑制する。移動走査の照射位置が被試験部材の端部に近いと、直線的に最短経路で伝搬する初動波を特定するためのゲート期間内に反射波が入り込むことが生じる。位相速度に基いて各波について時間遅れを与えることで、進行波を強調して反射波を抑制することができるので、さらに効果的に接合性評価を行うことができる。
【0024】
また、超音波検査システムにおいて、同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調画像データとする。これによって、より効果的に接合性評価を行うことができる。
【0025】
また、超音波検査システムにおいて、走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有するので、高速で超音波励振の走査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る実施の形態の超音波検査システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、表板部材と、裏板部材と、表板部材と裏板部材の間に配置される接合部とを含む複合部材の表板部材側から裏側部材の表面に超音波探触子が設けられる様子を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、表板部材の表面に励起された超音波振動が四方八方に伝搬して超音波探触子に伝搬する様子を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、伝搬経路によって初動波の現れるタイミングが異なることを説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、照射位置が異なれば初動波を受信する伝搬経路が異なる様子を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、2つの超音波探触子による2次元の個別画像化データと、この2つの個別画像化データに対応する強調画像化データの様子を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、進行波強調処理の様子を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、ゲート期間内の波形のそれぞれに進行波強調処理のための時間遅れの設定の様子を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、進行波強調処理を行ったときの2つの超音波探触子による2次元の個別画像化データと、この2つの個別画像化データに対応する強調画像化データの様子を示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、接合性評価の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、走査手段として、被試験部材である物体の表面に集光してレーザを照射し、物体の内部に超音波を励起するものを説明するが、超音波振動を被試験部材の表面を走査しながら供給できるこれ以外の超音波供給装置を用いてもよい。例えば、レーザ照射についてその焦点を物体の表面から離れたところに設定し、レーザによってプラズマを構造物の表面から離れたところを起点として発生させ、そのプラズマによって超音波を物体表面に励起させてもよい。その際に、物体の表面に平行にレーザ光を放射し、焦点を物体の表面から離れたところに設定するものとしてもよい。また、超音波励起を、放電、マイクロ波照射等によって行うものとしてもよい。また、圧電素子等を用いた超音波送信装置を物体に接触させる構成としてもよい。また、物体を水中、油中等の媒体中に配置するものとしてもよい。
【0028】
以下では、受信手段として、圧電素子を用いた接触式の超音波探触子を説明するが、これ以外の超音波振動検出装置を用いてもよい。例えば、非接触式のレーザ干渉計を用いた振動検出装置、非接触式の圧電素子を用いるいわゆる空中超音波センサ、光電式振動検出装置、静電容量型振動検出装置、磁気式振動検出装置等を用いるものとしてもよい。
以下では、受信手段を2つ用いる場合を説明するが、これは説明のための例示であって、受信手段の数は複数であればよい。また、個別画像化の方法として、1回の走査で、同時に複数の受信手段の画像化を行うものとして述べるが、これは例示であって、これ以外に、各受信手段ごとに同等のレーザ走査を行い、その後画像化を行うものとしてもよい。
【0029】
以下では、被試験部材として、表板部材と裏板部材を平板として説明するが、勿論、これは説明のための一例であって、様々な形状の物体、例えば曲面を有する物体、凹凸を有する物体、部分的に貫通穴等を有する物体等を表板部材あるいは裏板部材とすることができる。また、接合部として、両面接着テープを説明するが、これ以外の接合部材であってもよい。例えば、接着材層として樹脂接着材層、シリコン接着材層等であってもよく、また、弾性体層と接着材層の複合層あるいは多層構造材であってもよい。また、場合によっては、溶接部、カシメ部等であってもよい。
【0030】
また、以下で説明する材質、寸法、物質の表面形状、損傷の形状等は、説明のための一例であって、超音波検査の対象である物質の特徴、検査の仕様に応じて適宜変更することができる。
【0031】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0032】
図1は、超音波検査システム10の構成を説明する図である。図1には、超音波検査システム10の構成要素ではないが、被試験部材60が図示されている。被試験部材60は、表板部材62と、裏板部材64と、表板部材62と裏板部材64の間に配置される接合部66を含む複合部材である。ここで、表板部材62、裏板部材64は、SPC270を材質とする厚さ0.8mmの軟鋼薄板である。接合部66は、ニチバン製の商品型式名アニスダックNW−U15の両面接着テープで、その厚さは0.6mm、幅15mmである。
【0033】
したがって、通常では、接合部66は表板部材62の側から目視観察できず、または裏板部材64の側からも目視観察ができない。このような積層型の複合部材では、表板部材62の表面側から超音波振動を供給し、裏板部材64の裏面側で超音波信号を受信することが難しい状況の場合がある。
【0034】
その場合でも、構造によっては、裏板部材64の一部が表板部材62側から見て露出し、あるいは、表板部材62に穴が開いている箇所が存在することがある。そこで、このように表板部材62から見て、裏板部材64の表面が露出している箇所に、超音波振動を受信する手段としての超音波探触子16,18を設けることとすれば、積層型の複合部材である被試験部材60についての超音波検査が可能となる。図1には、表板部材62の外形が裏板部材64の外形より一回り小さく、裏板部材64の周辺部が表板部材62の側から見て露出している構造の被試験部材60が示されている。これは例示であって、これ以外にも、裏板部材64の外形よりも表板部材62の外形が大きく、裏板部材64を表板部材62で完全に覆う構造であっても、表板部材62に適当な穴があって、その穴において裏板部材64の一部が露出している構造の被試験部材であってもよい。
【0035】
超音波検査システム10は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるためのレーザ駆動装置12、レーザ駆動装置12からのレーザ光の進路を変更し予め定めた入射角度で被試験部材60の表板部材62の表面にレーザ光を走査させるためのガルバノミラー14、被試験部材60において表板部材62の側から見て裏板部材64が露出している箇所に予め定めた所定位置関係として配置される2つの超音波探触子16,18、超音波探触子16,18からの検出信号を増幅するアンプ20,22、アンプ20,22のアナログ信号をディジタル信号に変換するADボード24,26、ADボード24,26の出力データの処理等を行う制御装置30、制御装置30によって行われたデータ処理の結果を表示する表示装置40を含んで構成される。制御装置30と表示装置40とは、データ処理に適した適当なコンピュータで構成することができる。
【0036】
レーザ駆動装置12は、所定の間隔でパルスレーザ光を出力する装置で、例えばNd/YAGレーザ等を用いることができる。所定の間隔は、期待される検査速度によるが、例えば、20Hzから1kHz程度の周期でパルスレーザ光を出力するものとできる。レーザ駆動装置12がパルスレーザ光を出力するタイミングを示す信号は、トリガ信号として、適当な信号線を用いて制御装置30に伝送される。
【0037】
ガルバノミラー14は、複数の可動反射鏡で構成される光学的装置であり、複数の反射鏡の反射方向を適当に変更することで、レーザ駆動装置12から出力されるパルスレーザ光を被試験部材60の表板部材62の表面に予め定めた照射順序の軌跡に従って走査させる機能を有する。また、ガルバノミラー14は、複数の反射鏡の反射方向を適当に変更することで、例えば表板部材62が曲面を有する場合に、その曲面に対し予め定めた入射角度でパルスレーザ光を照射させる機能を有する。図1の例では、走査領域50の中をジグザグ状の移動軌跡でパルスレーザ光が走査されている様子が示される。
【0038】
複数の反射鏡は、平面鏡、曲面鏡等を用いることができ、各反射鏡の反射方向の変更には小型モータあるいは電気駆動プランジャ等のアクチュエータを用いることができる。ガルバノミラー14の駆動制御は、レーザ駆動装置12のトリガ信号等に基き、制御装置30によって実行される。
【0039】
このようにパルスレーザ光が表板部材62の表面に照射されることによって、表板部材62において熱励起された超音波振動が発生する。発生した超音波振動はラム波として、走査点であるレーザ照射位置が発振源となって表板部材62の周辺に向かって伝搬する。したがって、ガルバノミラー14は、レーザ駆動装置12によって超音波振動が与えられる位置を表板部材62に対し2次元的に移動走査する走査手段である。
【0040】
超音波探触子16,18は、圧電素子で構成される超音波センサで、レーザ駆動装置12とガルバノミラー14によって被試験部材60にパルスレーザ光が照射され、それによって走査点において発生する超音波振動が被試験部材60を伝搬する超音波振動信号を検出信号として受信する機能を有する超音波振動の受信手段である。かかる超音波探触子16,18としては、Valpey Fisher社製のピン状トランスデューサで型式名VP−1093を用いることができる。なお、VP−1093の直径は約1.3mm、公称周波数帯域は、DCから1.2MHzである。
【0041】
超音波探触子16,18は、裏板部材64の表面に予め定めた所定位置関係で配置される。実際には、上記のように、表板部材62から見て裏板部材64が露出している適当な箇所が所定位置関係として設定される。図1では、以下の説明の便宜のために、表板部材62の両端に対称的に超音波探触子16,18が配置されているが、これに限られるものではない。なお、超音波探触子16,18は、表板部材62の表面におけるパルスレーザ光の走査領域50の外側に、裏板部材64の表面に接触して固定される。つまり、超音波探触子16,18は、固定位置において超音波振動の検出を行い、パルスレーザ光のように走査して受信するものではない。
【0042】
アンプ20,22は、超音波探触子16,18からのアナログ検出信号を増幅する増幅器である。ここでは、例えば、200kHzから300kHzのバンドパスフィルタを用いて、適当なフィルタ処理を行うことがよい。また、ADボード24,26は、アンプ20,22によって適当な大きさに増幅されたアナログ信号をディジタル信号に変換する回路である。アンプとADボードは、検出信号を検出する超音波探触子ごとにそれぞれ独立して設けることが好ましい。図1の例では、2箇所の受信位置に対し2個の超音波探触子16,18を設けるものであるので、各超音波探触子16,18に対応してアンプ20,22とADボード24,26が設けられる。
【0043】
制御装置30は、上記のようにガルバノミラー14の走査駆動を行う機能を有する他に、ADボード24,26の出力データの処理を行い、その結果を表示装置40に2次元面の画像42として表示させる機能を有する。
【0044】
ADボード24,26の出力データの処理として、制御装置30は、移動走査のタイミングに対応して各超音波探触子16,18が受信した検出信号について、後述するように四方八方に伝搬する振動のうちの初動波について、レーザ照射位置から各超音波探触子16,18に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定するためのゲート期間を設定する初動波ゲート処理部32と、レーザの走査領域の端部における反射波が初動波特定のためのゲート期間に入り込むことについて進行波を強調して反射波を抑制する進行波強調処理部34と、このようにして得られるゲート期間内の初動波に基いて、被試験部材60における超音波振動分布を各受信手段ごとに走査領域50の各照射位置に関連付けて2次元面に画像化する個別画像化処理部36と、各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調処理データとする強調処理を行い、各位置における強調処理データを2次元面に画像化し、これを被試験部材60の接合性検査用画像として出力する強調画像化処理部38とを含んで構成される。
【0045】
かかる機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、対応する超音波検査ソフトウェアを実行することで実現できる。なお、必要に応じ、これらの機能の一部をハードウェアで実現することもできる。
【0046】
上記構成の作用の内容、特に制御装置30の各機能について、図2以下を用いて詳細に説明する。最初に被試験部材60を伝搬する超音波振動の様子を説明し、次に、接合部66の評価に適した処理について説明する。
【0047】
図2は、被試験部材60を構成する各要素と、超音波探触子16,18と、走査領域50の関係を説明する図である。図2は、超音波探触子16,18が取り付けられた状態の被試験部材60の平面図と正面側面図である。被試験部材60は、上記のように、表板部材62と、裏板部材64と、その間に設けられる接合部66を含んで構成され、パルスレーザ光は表板部材62の表面の中央部の走査領域50の範囲で照射走査され、超音波探触子16,18は、走査領域50の外側で、裏板部材64の表面に取り付けられる。
【0048】
具体的寸法で説明すると、表板部材62は80mm角、厚さ0.8mm、裏板部材64は100mm角、厚さ0.8mmで、表板部材62は、裏板部材64の100mm角の中央部に配置される。接合部66は、表板部材62と裏板部材64の重なり合いの中央部において、表板部材62の外形寸法である80mmに渡って幅15mmで設けられる。走査領域50は、表板部材62の中央部の70mm×20mmの矩形領域である。上記のように、表板部材62と裏板部材64の中心位置は合わせられているので、この位置の座標を(0,0)とすると、超音波探触子16,18の配置位置は、それぞれ(−45,0)と(45,0)で、走査領域50の4隅の位置は、それぞれ(−35,−10),(35,10),(35,10),(−35,10)である。なお、単位のmmは省略した。
【0049】
図3は、パルスレーザ光によって表板部材62に励起される超音波振動がどのようにして超音波探触子16,18に伝搬するかを模式的に説明する図である。 パルスレーザ光は、ガルバノミラー14の傾き制御によって、走査領域50の中を、1mmステップで走査される。図3では、パルスレーザ光の1つの照射位置52が示されている。この照射位置52を発信源として、超音波振動のラム波が四方八方の伝搬経路54に沿って、まず表板部材62の中を伝搬する。表板部材62の中を四方八方に伝搬した超音波振動は、接合部66を経由すると、今度は裏板部材64の中を四方八方に伝搬し、その一部が超音波探触子16,18に伝搬することになる。
【0050】
したがって、超音波探触子16,18が受信した超音波振動の波形は、様々な伝搬経路を経た様々な波形が含まれている。そのため、1つの照射位置52にパルスレーザ光が照射された時刻から遅い時刻に受信される波形は複雑に重畳し、非特許文献1に示されるように、これをパルスレーザ光の照射位置52に対応付けてその振動振幅分布を2次元的に表示しても、ほとんどが平均化された振幅分布となり、接合部66の評価にほとんど役立たない。各超音波探触子16,18のそれぞれについて得られる振幅分布を同じ照射位置52について和演算または積演算によって強調処理してもあまり有効な結果が得られない。
【0051】
ここで、図3には、1つの例として、超音波探触子16の配置位置と接合部66の位置の間に照射位置52がある場合について、超音波探触子16に最短経路で伝搬する経路Laと、超音波探触子18に最短経路で伝搬する経路Lbが示されている。ここに示されるように、照射位置52から超音波探触子16に最短経路で伝搬する経路Laは、照射位置52から表板部材62の端部まで一旦伝搬し、その端部で折り返し反射されて、そこからは直線的に最短経路で、表板部材62から接合部66を介し裏板部材64を伝搬する反射付き最短経路となる。これに対し、照射位置52から超音波探触子18に最短経路で伝搬する経路Lbは、照射位置52から直線的に最短経路で、表板部材62から接合部66を介し裏板部材64を伝搬する直線的最短経路となる。このように、照射位置52から各超音波探触子16,18に振動が最短経路で伝搬する経路の長さは、照射位置52と接合部66と受信する超音波探触子16,18とがその順序で直線的に配置されているかどうかによって異なってくる。
【0052】
図4は、図3における状況の下で、超音波探触子16をセンサ1とし、超音波探触子18をセンサ2として、センサ1受信信号とセンサ1受信信号とを、横軸に時間軸をとり、時間軸の原点を揃えて、比較して示した図である。各受信信号の波形で、時間的に最初に現われる波形を初動波と呼ぶことにすると、センサ1受信信号における初動波は、図3で説明したように経路Laを経由して超音波探触子16に伝搬し、センサ2受信信号における初動波は、図3で説明したように経路Lbを経由して超音波探触子18に伝搬したものである。ここで、LaはLbより長いので、センサ1受信信号における初動波が現われる時刻は、センサ2受信信号における初動波が現われる時刻よりも遅くなっている。
【0053】
実測してみると、照射位置52の照射時刻を時間軸の原点として、センサ1受信信号における初動波が現われる時刻は、約60μs後であり、センサ2受信信号における初動波が現われる時刻は、約30μs後である。ここで、板厚0.8mmの軟鋼板の平板中では、ラム波A0モードと呼ばれる板厚方向に振動するモードが支配的であり、鋼板の縦波音速5.9m/μs、横波音速3.2m/μsから計算されるこのモードの群速度は、2.1mm/μsから2.5mm/μsである。この群速度を用いると、600μsに対応する伝搬距離は、(2.1mm/μs〜2.5mm/μs)×600μs=126〜150mmである。この長さは、表板部材62の大きさが80mm角等であることから推定される図3の経路Laとほぼ一致する。同様に、30μsに対応する伝搬距離は、その半分の63〜75mmであり、この長さは、図3の経路Lbとほぼ一致する。
【0054】
図5は、超音波探触子16について、照射位置が変わることで、その照射位置から超音波探触子16に初動波が伝搬する経路が変わる様子を説明する図である。図5(a)は、照射位置が超音波探触子16と接合部66との間にある場合で、このとき、超音波探触子16における初動波は、経路Lcを通るものとなる。超音波探触子16と照射位置との間の距離をL1とすれば、L1は経路Lcの長さより短い。なお、その初動波が現われる時間的タイミングは、照射タイミングから数えて、図4で説明したように、例えば約60μsである。図5(b)は、照射位置が接合部66を越えて超音波探触子16の反対側にある場合で、このとき、超音波探触子16における初動波は、経路Ldを通るものとなる。超音波探触子16と照射位置との間の距離をL2とすれば、L2は経路Ldの長さとほぼ同じである。なお、その初動波が現われる時間的タイミングは、図3、図4で説明したことから考えて、照射タイミングから数えて、約30μsとなる。
【0055】
上記のように、照射位置52から超音波探触子16,18に伝搬する信号には、様々な経路の波形が重畳している。その中で、初動波は、照射位置から超音波探触子16,18まで最短経路で伝搬した波形である。そして、図3から図5で説明したように、この初動波の中で、照射位置52から超音波探触子16,18に向かって、直線的に最短経路で伝搬した初動波は、端部における反射を含まない。このような初動波を直線的最短経路伝搬初動波と呼ぶことにすると、この直線的最短経路伝搬初動波は、端部における反射等を含まないので、接合部66の特性の評価に利用できると考えられる。図3の経路Lb、図5の経路Ldは、このような直線的最短経路伝搬初動波の経路に相当する。
【0056】
直線的最短経路伝搬初動波が現れる時刻は、パルスレーザ光の照射位置52と超音波探触子16,18との間の距離によって異なる。そのため、超音波探触子16,18の位置およびパルスレーザ光の照射位置52から、この直線的最短距離伝播初動波を特定するための時間または期間であるゲート期間を計算して設定する必要がある。
【0057】
いま、超音波探触子16についての直線的最短距離伝播初動波を特定するためのゲート期間を考えると、i番目の照射位置52を示す位置ベクトルをXSiとし、超音波探触子16の配置位置を示すベクトルをXRとすると、その間の距離Liは、(XR−XSi)の絶対値で示される。ここで、伝搬する超音波振動であるラム波モードの群速度をcgとすると、i番目の照射位置に対するラム波の超音波探触子16への到着時間は、Li/cgとして得られる。したがって、この時刻の近傍の時間帯にゲートをかけることで、照射位置52から超音波探触子16に向かって最短経路を伝搬した初動波のうち、端部の反射等を含まない直線的最短経路伝搬初動波のみを特定できるので、特定された波形を用いて、接合部66の評価のためのその後の信号処理を行うことができる。
【0058】
ラム波の群速度には幅があるので、実際には事前実験で、ある特定の照射位置にパルスレーザ光を照射し、その照射によって励起された超音波振動が直線的な最短経路を伝搬した初動波と考えられる時間範囲にゲートを掛けておく。いま、j番目のレーザ照射位置についてゲートを掛けて、そのゲート開始時刻GSjとゲート終了時刻GEjを求め、最小群速度をcgmin=Lj/GEj、最大群速度をcgmax=Lj/GSjとして求める。そして、この最小群速度と最大群速度に基いて、全ての照射位置におけるゲート開始時刻をGSi=Li/cgmax、ゲート終了時刻をGEi=Li/cgminとして求めた。ここで、ゲート開始時刻からゲート終了時刻までの期間が、直線的に最短経路を経て伝搬した初動波を特定するためのゲート期間である。
【0059】
このようにして、各超音波探触子16,18ごと、各照射位置ごとについて、初動波を特定するためのゲート設定処理が行われる。上記のように、照射位置はパルスレーザ光の走査領域内の走査によって時々刻々移動するので、これらのゲート設定処理も、照射位置の移動に従って、時間軸上を移動する。その意味で、この直線的最短経路伝搬初動波の特定のためのゲートは、移動ゲートである。初動波の中で直線的最短経路伝搬初動波を特定するためのゲート設定処理は、制御装置30の初動波ゲート処理部32の機能によって実行される。
【0060】
図6は、超音波探触子16,18が受信した検出信号をパルスレーザ光の移動走査の各照射位置に対応付けて2次元面に画像化した様子を示す図である。図6(a)は、超音波探触子16がゲート期間内で受信した初動波の最大振幅をその受信した初動波に対応する照射位置に対応付けて示す個別画像化データである。図6(b)は、超音波探触子18がゲート期間内で受信した初動波の最大振幅をその初動波に対応する照射位置に対応付けて示す個別画像化データである。枠は、走査領域50を示し、参考のために接合部66の位置が示されている。最大振幅の大きさは、斜線の密度で示し、斜線密度が細かいほど初動波の最大振幅が大きい。個別画像化データを生成する処理は、制御装置30の個別画像化処理部36の機能によって実行される。
【0061】
図6(a)においては、超音波探触子16と接合部66との間の照射位置においては最大振幅が小さく、接合部66を越えて超音波探触子16の反対側へ行くと最大振幅が大きくなる。その理由は、図5(a),(b)を用いて説明できる。すなわち、超音波探触子16と接合部66との間の照射位置に対応する初動波は、反射付き最短経路で伝搬した初動波であり、接合部66を越えて超音波探触子16の反対側へ行く照射位置に対応する初動波は、反射を含まない直線的に最短経路で伝搬した初動波である。ゲート期間は、この直線的最短経路伝搬初動波を特定するように設定されるので、反射付き最短経路で伝搬した初動波はこのゲート期間の外となり、ゲート期間内とならず、その最大振幅が評価されない。
【0062】
したがって、超音波探触子16と接合部66との間の照射位置においては、初動波がゲート期間内に入らず、ゲート期間内における波形の最大振幅が小さくなる、一方で、接合部66を越えて超音波探触子16の反対側へ行くと、ゲート期間内に初動波が入ってきて、その最大振幅が大きくなる。図6(b)についても、同様に、超音波探触子18と接合部66との間の照射位置においては、初動波がゲート期間内に入らないので、最大振幅が小さく、接合部66を越えて超音波探触子18の反対側へ行くと、ゲート期間内に初動波が入ってきて、その最大振幅が大きくなる。
【0063】
図6(a),(b)においては、2次元面の画像データから接合部66の位置等が識別できない。つまり、超音波探触子16,18の個別画像化データのみでは、接合部66の評価ができない。図6(c)は、2つの超音波探触子16,18について得られる受信信号について、同一照射位置における超音波探触子16の画像データと超音波探触子18の画像データを和演算処理してその位置の強調画像データとしたものである。図6(d)は、同一照射位置における超音波探触子16の画像データと超音波探触子18の画像データを積演算処理してその位置の強調画像データとしたものである。
【0064】
和演算処理でも接合部66の領域が明確化されるが、特に積演算処理することで、共通して最大振幅が大きい領域を際立たせて、接合部66の領域を非常に明確化できることがわかる。したがって、このような強調画像化処理した2次元面を被試験部材60の接合性検査用画像として出力して利用することができる。このような強調画像化処理は、制御装置30の強調画像化処理部38の機能によって実行される。
【0065】
ところで、図6(a)の右端や図6(b)の左端に、縞模様が見られるが、これは、端面反射波が初動波特定のためのゲート期間内に取り込まれた結果と考えられる。すなわち、図4で説明した移動ゲートを用いても、直線的な最短経路を伝搬する経路の長さとあまり変わらない距離だけ伝搬した反射波がゲート期間内に取り込まれることが生じえる。
【0066】
つまり、図5(b)を用いて説明すると、照射位置が表板部材62の端部近くまで来ると、照射位置からそのまま超音波探触子16の側に直線的に進行する進行波が伝搬する経路の長さと、照射位置から一旦表板部材62の端部へ向かって進み、そこで反射して超音波探触子16の側に直線的に進行する進行波が伝搬する経路の長さとがあまり変わらないことが生じる。このような場合に、進行波と共に反射波が初動波のゲート期間の中に取り込まれることが生じえる。
【0067】
進行波と反射波とが混在しえるときに進行波のみを強調し、反射波を抑制する方法を図7、図8を用いて説明する。図7は、照射位置をxi+2,xi+1,xi,xi-1,xi2と並べた様子を示す図である。これら各照射位置から、超音波探触子16に向かってそれぞれまっすぐ進んでくる進行波と、端部で一旦反射してから超音波探触子16に向かう反射波があることになる。
【0068】
図7の最上段の図は、これら各照射位置からの進行波と反射波の受信タイミングを示す図である。早い時刻の波が進行波で、遅い時刻の波が反射波である。例えば、xi+1の進行波が受信されるタイミングは、xi+2の進行波が受信されるタイミングよりも遅いが、xi+1の反射波が受信されるタイミングは、xi+2の反射波が受信されるタイミングよりも早い。進行波が受信されるタイミングと反射波が受信されるタイミングの差は、照射位置が端部に近くなるほど小さくなる。このようにして、例えば、xi2等の端部に近い照射位置については、進行波と反射波とが近接した受信タイミングとなる。
【0069】
図7の中段の図は、各照射位置の進行波にそれぞれ時間遅れを持たせ、各照射位置の進行波の受信タイミングを揃える処理を行ったものである。受信タイミングを揃えるための時間遅れは、ラム波の位相速度cpを用い、例えば照射位置xi+jと照射位置xiとの間の時間遅れは、Δtj=(xi+j−xi)/cpとすることができる。ラム波の位相速度cpは、表板部材62、裏板部材64について予め実験等で求めておくことができる。
【0070】
図7の中段の図から分かるように、このように各照射位置の進行波の受信タイミングを揃える処理を行った各遅延波形について、和をとると、進行波成分はそのまま加算されて強調される一方で、反射波成分は加算されることがなく平均化する。図7の下段の波形は、図7の中段の5つの波形について和演算を行った和信号の様子を示す図である。このようにして、位相速度に基く遅延処理を行うことで、進行波のみを強調し、反射波を抑制することができる。この処理を進行波強調処理と呼ぶことにすると、この処理は、制御装置30の進行波強調処理部34の機能によって実行される。
【0071】
図9は、図6に対応する図で、相違するのは、ラム波A0モードの位相速度cp=1300m/sを用いて進行波強調処理を行ったことである。図9(a),(b)はそれぞれ超音波探触子16,18についての個別画像化データ、図9(d)、(e)は、それぞれ和演算、積演算による強調画像化データである。図6の各図と比較して、端面における反射波による縞模様が減少し、全体に平滑化された振幅分布図となっている。積演算による強調画像化処理の結果は、接合部66の様子をはっきりと表示していることが分かる。
【0072】
図10は、超音波検査システム10による被試験部材60の接合部66の検査の手順を示すフローチャートである。最初に、裏板部材64に固定する超音波探触子16,18の受信位置を決定する(S10)。具体的には、表板部材62側から見て、裏板部材64が露出している箇所で適当な位置を受信位置と決定することができる。次に、表板部材上を走査する超音波照射位置を決定する(S12)。上記の例では、走査領域50を決定し、その中で1mmステップで照射位置を決定する。実際には、ガルバノミラーの作動角度等を算出することになる。そして、決定された照射位置に従って、パルスレーザ光を表板部材62に照射するレーザ走査を行う(S14)。これにより、各照射位置を超音波振動の発信源として、ラム波が表板部材62、接合部66、裏板部材64と伝搬し、超音波探触子16,18において受信される。
【0073】
そこで、各照射位置に対応するトリガ信号を受信し、全ての超音波送信位置、すなわちパルスレーザ光の照射位置に対する受信波形を収録する(S16)。収録は、データ処理のためである。次に、各送信位置である照射位置からの受信波形に対し、群速度に基いて、初動波の中で直線的最短経路伝播初動波を特定するためのゲート期間を決定する(S18)。S18の手順は制御装置30の初動波ゲート処理部32の機能によって実行される。
【0074】
次に、進行波強調処理を行うか否かが判断される(S20)。これは、進行波強調処理が必要でない場合にはそのままS22に進み、端部の様子を評価したい等の必要な場合にS28に進み、進行波強調処理を行う選択ができるようにしたものである。
進行波強調処理を行う場合には、ラム波の位相速度を実験等で予め求めておき(S28)、初動波特定のためのゲート内の波形に対し、位相速度に基いて遅延処理と和演算処理を行って進行波強調処理を行う(S30)。S28、S30の処理は、制御装置30の進行波強調処理部34の機能によって実行される。
【0075】
S20の判断が否定の場合、あるいはS20の判断が肯定のときはS30の後で、個別画像化処理が行われ、各超音波探触子16,18について、レーザ走査の各照射位置に対応付けた2次元面の振幅分布画像が生成される(S22)。この処理は、制御装置30の個別画像化処理部36の機能によって実行される。
【0076】
次に、強調画像化処理が行われ、同一照射位置についての各超音波探触子16,18のそれぞれの受信信号の和演算、または積演算によって、共通に振幅の大きい箇所が強調された2次元面の分布画像が生成され(S24)、これが接合部評価用画像として出力される(S26)。強調画像化処理は、制御装置30の強調画像化処理部38の機能によって実行される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る超音波検査システムは、2枚の板材が接合部によって一体化されている複合部材の接合部検査等に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
10 超音波検査システム、12 レーザ駆動装置、14 ガルバノミラー、16,18 超音波探触子、20,22 アンプ、24,26 ADボード、30 制御装置、32 初動波ゲート処理部、34 進行波強調処理部、36 個別画像化処理部、38 強調画像化処理部、40 表示装置、42 2次元面の画像、50 走査領域、52 照射位置、54 伝搬経路、60 被試験部材、62 表板部材、64 裏板部材、66 接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表板部材と、裏板部材と、表板部材と裏板部材の間に配置される接合部とを含む複合部材を被試験部材として、接合性検査を行う検査システムであって、
表板部材に対し、超音波振動を与える照射位置を2次元的に移動走査する走査手段と、
表板部材の超音波振動の照射位置から接合部を経由して裏板部材に伝搬する超音波振動信号を検出信号として受信するために、表板部材側から見て裏板部材が露出する箇所を複数設定してその箇所を複数の受信位置として設けられる複数の受信手段と、
各受信手段が受信した検出信号を走査手段の移動走査の各位置に対応付けて2次元面に画像化する個別画像化手段と、
各受信手段について得られる複数の2次元面の画像化データについて、同一位置における複数の画像データを処理してその位置の強調画像データとする強調画像化処理を行い、各位置における強調画像データを2次元面に画像化し、これを被試験部材の接合性検査用画像として出力する強調画像化手段と、
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
各受信手段は、
移動走査によって1つの照射位置について表板部材に与えられた超音波振動が、当該照射位置から表板部材内を四方八方に伝搬し、接合部を経由して裏板部材内を四方八方に伝搬しながら様々な経路を通って各受信位置に伝搬する様々な超音波振動の波形のうち、最初に現われる波形である初動波について、当該照射位置から表板部材を伝搬し接合部を経由して裏板部材を伝搬して各受信位置に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定するゲート手段を有し、
個別画像化手段は、各受信手段のゲート手段によって特定されて受信した検出信号を走査手段の移動走査の各位置に対応付けて2次元面に画像化することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波検査システムにおいて、
ゲート手段は、
被試験部材を伝搬する超音波振動の群速度の最小値と最大値とに基いて、各受信位置に直線的に最短経路で伝搬する波形を特定するためのゲート期間を設定することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波検査システムにおいて、
被試験部材を伝搬する超音波振動の位相速度に基いて、移動走査の各照射位置に応じた時間遅れを算出し、ゲート手段のゲート期間内に検出される全ての波形について、それぞれの照射位置に対応する時間遅れを加えた遅延波形を求め、全ての遅延波形の和を算出して、照射位置から受信手段の方へ直接向かう振動波形である進行波波形のみを強調して、ゲート期間内に入り込む反射波波形を抑制する進行波強調処理手段を有することを特徴とする超音波検査システム。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
強調画像化手段は、
同一位置における複数の画像データを相互に和演算処理または積演算処理してその位置の強調画像データとすることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波検査システムにおいて、
走査手段は、レーザを物体に照射して超音波振動を物体に励起させるレーザ照射手段を有することを特徴とする超音波検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−37307(P2012−37307A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176015(P2010−176015)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】