説明

超音波発振子およびこれを用いた超音波発生装置

【課題】耐腐食性に優れ、圧電素子からの超音波の反射を極力抑制し、超音波のエネルギーを効率よく被処理水中に伝播させることができる超音波発振子を提供する。
【解決手段】圧電素子と、圧電素子の少なくとも一部を覆いかつガラスで構成された反射防止膜と、で超音波発振子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波発振子および超音波発生装置、特に活性汚泥の超音波処理に好適に用いることのできる超音波発振子および超音波発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下水廃水などの有機廃水を処理するための活性汚泥処理方法においては、活性汚泥の生物処理や可溶化処理を促進するために、超音波発生装置を用いた超音波処理ないし水処理が行われている。この超音波発生装置には、圧電素子(トランスデューサ)で構成された超音波発振子が設けられており、当該超音波発振子を処理槽中の汚泥に接触させ、超音波を汚泥中に伝搬させることによって超音波処理を行う。
【0003】
ここで、従来の超音波発振子の構造について簡単に説明する。図5は、従来の超音波発振子を備え付けた超音波発生装置の構造を概念的に示す断面図である。この超音波発生装置100の超音波処理槽110には、活性汚泥112が貯えられており、活性汚泥112に接触するように超音波発振子114が取り付けられている。
【0004】
超音波発振子114は、圧電素子116とチタンで構成された超音波伝導部材118とを有し、超音波伝導部材118の部分が活性汚泥112と接触するように取り付けられている。これは、圧電素子116が直接活性汚泥112に接触すると、活性汚泥112との接触およびキャビテーションに起因する腐食によって破壊されてしまうからであり、また、超音波伝導部材118を構成するチタンは堅固で振動に強く、耐腐食性に優れ、活性汚泥112との接触およびキャビテーションによっても腐食しにくいからである。さらに、圧電素子の音響インピーダンスの値とチタンの音響インピーダンスの値は近く、後述する式(3)からもわかるように、圧電素子からチタンへのエネルギー透過率が約99%と優れているためである。
【0005】
また、例えば特許文献1に記載されているように、超音波振動子(圧電素子)の表面粗さを低減させるとともに表面硬度を上げ、さらに耐腐食性を向上させるために、圧電素子が液体と接触する面にメッキ層やチタン層などからなる複数の層を形成することも提案されている。
【0006】
しかしながら、複数の層を形成すると、コストが高くなり、また、各層の厚さが数十μmと非常に薄いため、表面層にキズができると、耐腐食性を保持することができなくなる。また、音響インピーダンスなどは考慮されておらず、固体内でのエネルギー効率は高く維持できたとしても、一般的に超音波は固体と液体との間の界面において反射するため、固体から液体への超音波の透過率は低くなる。そのため、超音波のエネルギーは次第に減衰し、効率的に被処理水中に伝播させることができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−264065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、特に活性汚泥処理法において好適に用いることができる超音波発振子であって、耐腐食性に優れるとともに、圧電素子からの超音波の反射を極力抑制し、それによって超音波のエネルギーを効率よく被処理水中に伝播させることができる超音波発振子、およびこれを用いた超音波発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、圧電素子からの超音波の反射を極力抑制することができれば、超音波の透過率を低減させることなくそのエネルギーを効率的に被処理水中に伝播させることができることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、被処理水を超音波処理に用いられる超音波発振子であって、圧電素子と、前記圧電素子の少なくとも一部を覆いかつガラスで構成された反射防止膜と、を具備することを特徴とする超音波発振子に関する。
【0010】
ここで、上記圧電素子の少なくとも一部とは、少なくとも圧電素子から被処理水中に向かって超音波を発振する部分を含む。したがって、上記圧電素子の少なくとも超音波発振面が反射防止膜で覆われていればよい。また、圧電素子の全面が上記反射防止膜で覆われていてもよく、圧電素子において電極が接続されている部分を除く他の全ての面が上記反射防止膜で覆われていてもよい。
【0011】
本発明の超音波発振子が使用される際には、圧電素子は被処理水には接触させず、反射防止膜のみを被処理水に接触させ、圧電素子から発振された超音波を当該反射防止膜を介して被処理水中に伝播させる。また、本発明における「被処理水」とは、例えば下水処理場や屎尿処理場などの下水処理プロセス、食品工場や化学工場などの排水処理プロセスなどから排出される「有機廃水」、有機廃水に本来的に含まれる微生物および有機排水を好気性生物処理する過程で発生した微生物を含み、排水処理の目的上必要とされる微生物量(好気性生物処理に必要とされる微生物量)を上まわる量の微生物を含む「汚泥」、半導体洗浄液など、従来から超音波処理に供されるすべての被処理水を含む概念である。
【0012】
前記反射防止膜の厚さdは、下記式(1)で表される透過率T≧50(%)を満たす値であるのが好ましい。
【数1】

【0013】
ただし、Z1は圧電素子の音響インピーダンス(N・s・m-3)、Z2は反射防止膜の音響インピーダンス(N・s・m-3)、Z3は被処理水の音響インピーダンス(N・s・m-3)、λは反射防止膜中における超音波の波長(m)である。なお、本発明において透過率Tを求める際には、Z1、Z2およびZ3の値、ならびにdおよびλの値は、それぞれの単位が同一となるようにそろえた値を使用する。
したがって、前記反射防止膜の厚さdは、音響インピーダンスZ1、Z2、Z3およびλ、すなわち圧電素子および反射防止膜を構成する材料の種類や、被処理水の状態など)によって決定される。
【0014】
また、本発明における前記反射防止膜の音響インピーダンスZ2は9.0×106〜20.0×106N・s・m-3であるのが好ましく、前記反射防止膜の厚さdは前記波長λの1/4であるのが好ましい。
また、前記反射防止膜と前記反射防止膜との間には、例えばチタンで構成された中間層を設けてもよい。
【0015】
さらに本発明は、超音波処理槽と上記超音波発振子とを具備し、
前記反射防止膜の少なくとも一部が前記超音波処理槽の内部に位置し、前記圧電素子が前記超音波処理槽の外部に位置すること、を特徴とする超音波発生装置をも提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の超音波発振子および超音波発生装置によれば、反射防止膜を具備することにより、また、圧電素子および反射防止膜を構成する材料や反射防止膜の厚さを適宜調整することにより、圧電素子から発振された超音波の反射を極力抑制し、圧電素子から被処理水までの超音波の透過率を低減させることなく、そのエネルギーを効率よく被処理水中に伝播させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
[第一の実施形態]
図1は、本発明の超音波発振子を具備する超音波発生装置の第一の実施形態を概略的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の超音波発生装置1の超音波処理槽10には、被処理水である活性汚泥12が貯えられており、活性汚泥12に接触するように超音波発振子14が取り付けられている。
【0018】
超音波発振子14は、圧電素子16とガラスで構成された反射防止膜18とを有し、圧電素子16は超音波処理層10の外部に位置し、反射防止膜18の部分が活性汚泥12と接触して超音波処理槽10内に位置するように取り付けられている。すなわち、超音波発振子14のうち、反射防止膜18側の面が超音波発振面となる。これは、圧電素子16が直接活性汚泥12に接触すると、活性汚泥12との接触およびキャビテーションに起因する腐食によって圧電素子16破壊されてしまうからである。
【0019】
反射防止膜18の厚さdは、上記式(1)で表される透過率T≧50(%)を満たす値であるのが好ましい。これは、後述するように、従来の超音波発振子による超音波の透過率は20%未満であったのに対し、本発明の超音波発振子においては当該透過率50%以上を達成することができるためである。さらには75%以上であるのが好ましい。
【0020】
ここで、ある媒質中における音速(超音波の速度)をC、当該媒質の密度をρとした場合、音響インピーダンスZは、下記式(2)で表される。また、下記の表1に、本発明の超音波発振子14を構成する圧電素子16および反射防止膜18を構成する材料、ならびに従来の超音波発振子に用いられていた材料の音響インピーダンスを示す。
【数2】

【表1】

【0021】
つぎに、圧電素子16と反射防止膜18とで構成されている本発明の超音波発振子14において、超音波の反射が抑制され、圧電素子から活性汚泥12までの超音波の透過率が従来に比べて飛躍的に向上することについて、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図2の(a)は、圧電素子が直接被処理水に接している場合を想定した図である。すなわち、音響インピーダンスの異なる2種の媒質Aおよび媒質Bが直接接触しており、媒質Aから媒質Bに超音波が伝播していく様子を概略的に示している。圧電素子にはチタンからなる超音波伝導部材もメッキ層やチタン層も設けられておらず、圧電素子から直接超音波が被処理水に入射される。
【0023】
図2の(a)において、媒質Aから媒質Bに対して垂直に超音波が入射した場合を想定すると、超音波の透過率tは、下記式(3)で表される。ただし、Z1は媒質Aの音響インピーダンスであり、Z2は媒質Bの音響インピーダンスである。
【数3】

【0024】
いま、媒質Bを水(被処理水)、媒質Aを圧電素子の材料であるSiO2と想定した場合、SiO2の音響インピーダンスZ1が15.2×106N・s・m-3であり、媒質Bの音響インピーダンスZ2が1.5×106N・s・m-3であるから、透過率tは、式(3)から{(4×1.5×106×15.2×106)/(15.2×106+1.5×1062}×100となり、約33%となる。これは、圧電素子を直接被処理水に接触させた場合の、超音波の透過率を表している。
【0025】
実際には、高エネルギーの超音波を発生させるためにPZTを使用する必要があり、なかでもPZT−5を用いた場合には、上記式から透過率tは約17.8%となってしまう。しかし、図2の(a)のような構成では、圧電素子が被処理水と直接接触するため、キャビテーションなどによって圧電素子が腐食し、破壊するという問題がある。
【0026】
これに対し、従来の超音波発振子は、図2の(b)に示すような構造を有している。すなわち、図2の(b)は、音響インピーダンスの異なる3種の媒質A、媒質Bおよび媒質Cが接触しており、媒質Aから媒質Bを経て媒質Cに超音波が伝播していく様子を概略的に示す図である。これは、圧電素子(媒質A)にチタンからなる超音波伝導部材(媒質B)が設けられた従来の超音波発振子を用いて、超音波を被処理水(媒質C)に入射させる場合を想定した図である。
なお、従来の超音波発振子においては、チタンからなる超音波伝導部材は、通常、表面積を大きくするために、超音波電導部材自体の大きさは電圧素子に比べ大きなものとなっている。このような場合、チタンからなる超音波電導部材は、膜というよりもむしろバルクに近いため、バルクとみなして上記式を利用して超音波のエネルギー透過率を求める。
【0027】
図2の(b)において、媒質A(圧電素子)から媒質B(チタン)を介して媒質C(被処理水)に対して垂直に超音波が入射した場合を想定する。具体的には、媒質Aを圧電素子の材料であるPZT−5、中間層である媒質Bをチタン、媒質Cを水と想定する。このとき、(1)圧電素子からチタンへの透過率tA-Bと、(2)チタンから水への透過率tB-Cと、を考慮する必要があり、表1の値を上記式(3)に代入すると、圧電素子からチタンへの透過率tA-Bは約99%となるが、チタンから水への透過率tB-Cは約19.7%となってしまう。したがって、全体としての透過率は約19.5%(=0.99×19.7)となってしまう。実際には、チタン中における超音波の減衰も考慮しなければならず、圧電素子からの超音波のエネルギーはほとんどチタン中において消費されてしまうことになる。
【0028】
そこで、本発明においては、上記チタンの代わりに、超音波の反射を抑制してその透過率を向上させるべく、チタンに比べて小さい音響インピーダンスを有するガラスで構成された反射防止膜を用い、上記のような従来の技術が有する問題点を解消するのである。
【0029】
すなわち、図2の(b)において、媒質B(ガラス)からなる中間層の厚さをdとすると、異種媒質境界における反射透過の考え方から、媒質A(圧電素子)、媒質B(ガラス)および媒質C(被処理水)を透過する超音波のエネルギー透過率Tは、下記式(1)で表される。ただし、Z1は圧電素子の音響インピーダンス、Z2は媒質Bの音響インピーダンス、Z3は媒質Cの音響インピーダンス、dは媒質Bの厚さ、λは媒質B中における超音波の波長である。
【数4】

【0030】
この場合において、理論的には、dがλ/4で、Z2が(Z13)1/2のときに、Tが1となり、入射した超音波(入射波)がすべて透過することになる。そこで、dをλ/4に固定して、圧電素子の材料としてPZT−4(音響インピーダンス:32.3×106N・s・m-3)、媒質B(すなわち反射防止膜)としてクラウンガラス(音響インピーダンス:11.4×106N・s・m-3)を用いた場合を想定すると、超音波の透過率が約79%となり、上述のように圧電素子のみからなる超音波発振子やチタンで構成された超音波伝導部材を有する超音波発振子を同一の電圧で振動させた場合に比べて、4倍以上のエネルギーを被処理水に入射し得ることがわかる。
【0031】
以上のように、本発明の超音波発振子14によれば、従来の超音波発振子に比して顕著な効果が得られることがわかる。従来の超音波発振子は、耐食性を持たせ、さらに、電圧素子から媒質Bへの超音波のエネルギー透過率を高くするという観点から、超音波伝導部材にチタンが利用され、また、表面積を大きくするために超音波伝導部材の寸法が大きくされており、超音波発振子ならびにこれを用いた超音波発生装置の規模が大きくなってしまうという問題がある。これに対し、本発明の超音波発振子においては、反射防止膜の厚さdを、最適には上述のようにλ/4とすることによって最大の効果を発揮することができるため、超音波発振子および超音波発生装置のダウンサイジングに寄与し得るという効果を奏する。
なお、本発明のガラス製の反射防止膜に変えて、チタンを利用したとしても、上記式(1)から計算されるように、20数%のエネルギー透過率しか得られないことが分かる。
【0032】
反射防止膜18の厚さdは、上記式(1)で表される透過率Tが50%以上となるように、超音波発振子14から発振されて反射防止膜18内を伝播する超音波の波長λ(周波数f)、圧電素子16の音響インピーダンスZ1、反射防止膜18の音響インピーダンスZ2および被処理水の音響インピーダンスZ3(すなわち、圧電素子16、反射防止膜18および被処理水の種類)に応じて、当業者であれば適宜選択することが可能である。また、超音波発振子およびこれを用いた超音波発生装置の用途に対応させて最適化することもできる。
【0033】
なかでも、反射防止膜18(すなわち反射防止膜18を構成するガラス)の音響インピーダンスZ2は、入手し易いガラスの種類等に鑑み、9.0×106〜20.0×106N・s・m-3であるのが好ましく、更には11.0×106〜15.5×106N・s・m-3であるのが好ましく、また、反射防止膜18の厚さdは前記波長λの1/4であるのが好ましい。
音響インピーダンスZ2が上記範囲にあって、反射防止膜18の厚さdが波長λの1/4であると、表1に示した汎用ガラスを用いつつ、反射を確実に抑制して超音波のエネルギーを被処理水に効率よく供給することができるとともに、超音波発振子14の寸法を最も縮小することが可能である。
【0034】
ここで、さらに反射防止膜の厚さdについて検討する。上記のようにdをλ/4に固定して、圧電素子の材料としてPZT−4(音響インピーダンス:32.3×106N・s・m-3)、媒質B(すなわち反射防止膜)としてクラウンガラス(音響インピーダンス:11.4×106N・s・m-3)を用いた場合、上記式(1)は下記式(4)のように変形することができ、上記式(4)は図3に示すグラフで表すことができる。図3において、縦軸は超音波の透過率Tを表し、横軸はd/λを表している。
【数5】

【0035】
上記媒質Bを構成する本発明の反射防止膜は、超音波によるキャビテーションによって、腐食することが考えられる。そのため、かかる腐食をあらかじめ予測し、最初は当該反射防止膜の厚さをλ/4よりもわずかに厚くしておくのが好ましい。
そうすると、図3からわかるように、超音波の透過率Tはd=λ/4をピークにして急激に減少するが、0.237≦(d/λ)≦0.267となるように設定しておけば、超音波の透過率Tは最初50%となり、腐食の進行に伴って超音波の透過率が増加する。そして、d/λ=0.25において、約80%と最大になる。その後、超音波の透過率Tは再び減少し、d/λ=0.237となったときに再び50%となる。
【0036】
以上のように、あらかじめ反射防止膜の厚さ(初期厚さ)を、超音波の透過率Tが最も高くなるときの厚さよりもわずか厚くしておくことで、反射防止膜の寿命をより長くすることが可能である。
なお、0.237≦(d/λ)≦0.267の関係から、用いる超音波の周波数、反射防止膜の初期厚さ、および交換すべき時(即ち、透過率Tが約50%にまで減少したときの)の厚さを表2に示す。
【表2】

【0037】
なお、圧電素子16としては、同じ電圧をかけた際に発生する超音波の振幅が大きい点から、PZT素子を利用するのが好ましい。また、反射防止膜18としては、水の音響インピーダンスの値に近い音響インピーダンスを有するものを利用するのが好ましい。具体的には音響インピーダンスが13.1×106N・s・m-3以下のガラスを利用するのが好ましい。
【0038】
また、反射防止膜18内を伝搬させる超音波の波長λは、15〜50kHzであることが好ましい。これは、15kHz以上であると、被処理水として汚泥の超音波処理をする場合に、汚泥に与える影響が小さくなり過ぎず、汚泥中のフロックを分離・破壊し易いためであり、また、50kHz以下であると反射防止膜18にかかる負担が大きくなり過ぎず、また、交換頻度を少なくできるためである。
【0039】
以上のように、本実施形態の超音波発振子によれば、反射防止膜を具備することにより、また、圧電素子および反射防止膜を構成する材料や反射防止膜の厚さを適宜調整することにより、圧電素子から発振された超音波の反射を極力抑制し、圧電素子から被処理水までの超音波の透過率を低減させることなく、そのエネルギーを効率よく被処理水中に伝播させることができる超音波発振子ならびに超音波発生装置を確実に実現することができる。
【0040】
加えて、本実施形態の超音波発振子によれば、キャビテーションによって圧電素子が破損することや、超音波の反射によるエネルギーロスを同時に防止することができ、また、ガラスで構成された反射防止膜がキャビテーションで侵されても、当該反射防止膜の部分だけを交換すればよく、ガラスで構成された反射防止膜は加熱により除去および形成が容易であるため、コスト的にも非常に有利である。
【0041】
[第二の実施形態]
次に、本発明の超音波発振子を用いた超音波発生装置の第二の実施形態について説明する。この第二の実施形態の超音波発生装置は、図1に示した第一の実施形態の超音波発生装置1における超音波発振子14に中間層20を設けたものであり、中間層20以外の構成は第一の実施形態の超音波発生装置1と同様である。
以下、第二の実施形態の超音波発生装置に備えられる超音波発振子(本発明の貯凹音波発振子)について説明する。
【0042】
図4は、本発明の超音波発振子を具備する超音波発生装置の第二の実施形態を概略的に示す断面図である。図4に示すように、本実施形態の超音波発振子14は、圧電素子16とガラスで構成された反射防止膜18とを有し、圧電素子16と反射防止膜18との間に中間層20が設けられている。
【0043】
この中間層20は、超音波の反射を抑制してそのエネルギーを確実に被処理水に伝播させるという本発明の効果を損なわず、反射防止膜18と圧電素子16の接着層としての役割を果たすものである。特に圧電素子16の形状はその製造工程および機能的側面から制限されるため、所望する形状を有する中間層20を、規定の形状を有する圧電素子16に設け、超音波処理層10の形状や寸法に合わせて超音波発振子14の先端部を適宜設計(表面加工)することができる。
【0044】
また、圧電素子16に直接ガラスを接着させて反射防止膜18を形成する場合、ガラスが圧電素子16に入り込んで圧電素子16を破損してしまうおそれがある。したがって、上記のようにガラスを中間層20の上にコーティングし、中間層20を圧電素子16に接着するのが好ましい。
【0045】
ここで、中間層20を構成する材料としては、上記式(1)および(3)に準じて、極力超音波を反射せずにその透過率を低減させないものを用いることが肝要である。このような材料としては、圧電素子16の音響インピーダンスの値よりも低い音響インピーダンスを有し、ガラスの音響インピーダンスの値よりも高い音響インピーダンスを有するもの選ぶ必要があり、例えばチタン、アルミニウム、ジルコニウムなどが挙げられる。
なかでも、圧電素子16の材料としてPZT−5を用い、中間層20としてチタンを用いた場合、上記式(3)から、圧電素子16から中間層20への透過率は約99%となり、さらにコスト、耐熱性の点からも、チタンを用いることが特に好ましい。
【0046】
また、チタンで構成された中間層20から、ガラスで構成された反射防止膜18を経て被処理水(水)に及ぶ超音波の透過率は、上記式(1)および(3)を利用して求めると、約73%となり、圧電素子とチタンで構成された超音波伝導部材とからなる従来の超音波発振子に比しても十分に優れた透過率を発揮する。また、中間層20が十分薄い場合は、中間層20によるエネルギーの反射をほとんど考えなくてよいため、同様に十分に優れた透過率を実現することができる。
【0047】
以上のように、本実施形態の超音波発振子によっても、反射防止膜を具備することにより、また、圧電素子および反射防止膜を構成する材料や反射防止膜の厚さを適宜調整することにより、圧電素子から発振された超音波の反射を極力抑制し、圧電素子から被処理水までの超音波の透過率を低減させることなく、そのエネルギーを効率よく被処理水中に伝播させることができる超音波発振子ならびに超音波発生装置を確実に実現することができる。
【0048】
加えて、本実施形態の超音波発振子によれば、キャビテーションによって圧電素子が破損することや、超音波の反射によるエネルギーロスを同時に防止することができ、また、ガラスで構成された反射防止膜がキャビテーションで侵されても、当該反射防止膜の部分だけを交換すればよく、ガラスで構成された反射防止膜は加熱により除去および形成が容易であるため、コスト的にも非常に有利である。
【0049】
さらに、圧電素子と反射防止膜との間に中間層を設ける構成を採ることにより、超音波発振子全体としての形状や寸法の設計自由度が向上し、また、中間層に確実にガラスを接着して反射防止膜を形成し、当該中間層を圧電素子に接着することにより、圧電素子を損傷することなく超音波発振子を作製することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。特に活性汚泥の超音波処理に用いる超音波発生装置について詳細に説明したが、本発明はその他の被処理水の超音波処理にも好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の超音波発振子および超音波発生装置は、例えば下水処理場や屎尿処理場などの下水処理プロセス、食品工場や化学工場などの排水処理プロセスなどから排出される「有機廃水」、有機廃水に本来的に含まれる微生物および有機排水を好気性生物処理する過程で発生した微生物を含み、排水処理の目的上必要とされる微生物量(好気性生物処理に必要とされる微生物量)を上まわる量の微生物を含む「汚泥」、ならびに半導体洗浄液などの超音波処理に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の超音波発生装置の第一の実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】複数の媒質を伝播する超音波の透過率を説明するための図である。
【図3】本発明の超音波発振子における、超音波の透過率T(%)とd/λとの関係を表すグラフである。
【図4】本発明の超音波発生装置の第二の実施形態の構成を示す概略図である。
【図5】従来の超音波発生装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1、100・・・超音波発生装置
10、110・・・超音波処理槽
12、112・・・活性汚泥
14、114・・・超音波発振子
16、116・・・圧電素子
18・・・反射防止膜
20・・・中間層
118・・・超音波伝導部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水の超音波処理に用いるための超音波発振子であって、
圧電素子と、前記圧電素子の少なくとも一部を覆いかつガラスで構成された反射防止膜と、を具備することを特徴とする超音波発振子。
【請求項2】
前記反射防止膜の厚さdが、下記式(1)で表される透過率T≧50(%)を満たす値であること、を特徴とする請求項1記載の超音波発振子。
【数1】

[ただし、Z1は圧電素子の音響インピーダンス(N・s・m-3)、Z2は反射防止膜の音響インピーダンス(N・s・m-3)、Z3は被処理水の音響インピーダンス(N・s・m-3)、λは反射防止膜中における超音波の波長(m)]
【請求項3】
前記反射防止膜の厚さdが、上記式(1)で表される透過率T≧75(%)を満たす値であること、を特徴とする請求項2記載の超音波発振子。
【請求項4】
前記反射防止膜の音響インピーダンスZ2が9.0×106〜20.0×106N・s・m-3であること、を特徴とする請求項2または3記載の超音波発振子。
【請求項5】
前記反射防止膜の厚さdが前記波長λの1/4であること、を特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の超音波発振子。
【請求項6】
前記反射防止膜と前記反射防止膜との間に中間層を具備すること、を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超音波発振子。
【請求項7】
前記中間層がチタンで構成されていること、を特徴とする請求項6記載の超音波発振子。
【請求項8】
超音波処理槽と請求項1〜7のいずれかに記載の超音波発振子とを具備し、
前記反射防止膜の少なくとも一部が前記超音波処理槽の内部に位置し、前記圧電素子が前記超音波処理槽の外部に位置すること、を特徴とする超音波発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−223993(P2006−223993A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40866(P2005−40866)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】