説明

超音波発生装置

【課題】液体中に気泡を効率よく発生させることができる超音波発生装置を提供すること。
【解決手段】超音波発生装置としての超音波洗浄装置10は、第1超音波振動子14、第2超音波振動子15、高周波発振器16、及び低周波発振器17を備える。高周波発振器16から出力される超音波発振信号によって第1超音波振動子14が連続的に振動され、周波数が75kHzである高周波数の超音波が洗浄液12中に照射される。低周波発振器17から出力される超音波発振信号によって第2超音波振動子15が連続的に振動され、周波数が28kHzである低周波数の超音波が洗浄液12中に照射される。各超音波振動子14,15から照射された超音波が重なるエリアで擬似沸騰現象を生じさせ、被洗浄物11を効率よく洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽内の液体中に超音波を照射して気泡を発生させる超音波発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体中に超音波を照射すると減圧と加圧とが交互に発生し、減圧時の圧力によって液体中に気泡(空洞)が生じる。この現象をキャビテーション(空洞現象)という。キャビテーションには蒸気性キャビテーションと気体性キャビテーションとがある。蒸気性キャビテーションは、気泡内部が主に液体蒸気からなり、気泡の圧壊を伴うキャビテーションである。一方、気体性キャビテーションは、気泡内部が主に溶在気体からなり、気泡の振動のみで圧壊を伴わないキャビテーションである。これらキャビテーションのうち、物理的・化学的に特異な現象を示し、工業利用上で有用な作用をするキャビテーションは、蒸気性キャビテーションである。具体的には、液体中において蒸気性キャビテーションを発生させると、気泡圧壊時に生じる衝撃波及びマイクロジェットによる物理的作用によって、洗浄、抽出、乳化、分散、混合、攪拌、破砕、霧化等の処理を効率よく行うことができる。また、気泡圧壊時の高温高圧場(ホットスポット)による熱分解によって、ヒドロキシラジカル(OHラジカル)等のラジカル種が生成される。そして、熱分解やラジカル反応によって、有害物質の分解無害化、殺菌、高分子重合などの処理を効率よく行うことができる。なお、キャビテーションの圧壊に伴う衝撃力は、崩壊前の状態の気泡半径に比例する。気泡半径は周波数が低くなるほど大きくなる。従って、キャビテーション強度(気泡圧壊時の衝撃力)は周波数が低いほど大きくなる。
【0003】
液体中にキャビテーションを発生させるために必要な最低音圧、すなわちキャビテーション閾値は、使用する超音波の周波数の増加とともに高くなる。低周波数の超音波を用いる場合は小さい音圧でキャビテーションが発生し、高い周波数の超音波を用いる場合には、キャビテーションを発生させるために大きな音圧を要する。
【0004】
超音波の周波数が50kHz以上となると、キャビテーション閾値が急増するため、キャビテーションを利用した一般的な超音波洗浄装置では、20kHz以上50kHz未満の周波数領域の超音波が使用されている。
【0005】
また、蒸気性キャビテーションのキャビテーション閾値は、気体性キャビテーションと比べて高く10倍以上の音圧となる。超音波洗浄装置において、低周波数の超音波を用いれば、キャビテーション閾値が低くなるため、蒸気性キャビテーションを比較的容易に発生させることができ、被洗浄物に付着した強力な汚れを除去することができる。また、周波数が低くなると超音波の指向性が少なくなり、被洗浄物の裏側など洗浄槽全体に超音波が伝達しやすくなるといったメリットがある。しかしながら、低周波数の超音波は波長が長いため、キャビテーションの発生位置にムラが生じる。この場合、気泡圧壊の衝撃波が局所的に作用することで、洗浄ムラができることに加え、被洗浄物の表面がダメージを受けて破損してしまうことがある。
【0006】
これに対して、高周波数の超音波を用いると、超音波の波長が短いため、1/2波長ごとに現れる音圧の強弱間隔が小さくなり、均一でムラがない音場を形成することができる。この結果、洗浄ムラのない均一な洗浄が可能となる。また、キャビテーションによるダメージや騒音が少ないといったメリットもある。しかしながら、高周波数の超音波では、キャビテーション閾値が高くなるため、蒸気性キャビテーションを発生させることが困難となる。従って、低周波数の超音波を用いる場合のような強力な洗浄力を得ることができない。さらに、周波数が高くなると超音波の指向性が鋭くなり、超音波振動子における振動面の直上に超音波が集中するため、超音波を有効利用できるエリアが狭くなるといった問題がある。
【0007】
そこで、本出願人は、洗浄槽に高周波超音波振動子と低周波超音波振動子とを装着し、高周波数の超音波と低周波数の超音波とを洗浄液中に照射することにより、洗浄効率を高めるようにした超音波洗浄装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。この超音波洗浄装置では、高周波超音波振動子から160kHz以上の超音波を連続的に照射して洗浄液中に気泡を発生させる。そして、低周波超音波振動子から20kHz〜100kHzの超音波を予め決められた時間間隔で照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3336323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、更なる洗浄効率の向上を目指し、上述した特許文献1の超音波洗浄装置における周波数とは異なる様々な周波数帯域の超音波を用いて、気泡の発生状態の確認実験を行った。その実験の結果、気泡の発生効率が格段に向上され、水の沸騰状態のように気泡が激しく発生する条件を見出した。さらに、高周波超音波振動子と低周波超音波振動子との配置によっては気泡の発生場所が偏ることがあるため、各超音波振動子の最適な配置を見出した。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体中に気泡を効率よく発生させ、処理効率を高めることができる超音波発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、処理槽内の液体中に超音波を照射して気泡を発生させる超音波発生装置であって、周波数が50kHz以上160kHz未満である高周波の超音波を前記液体中に照射するための第1超音波振動子と、前記第1超音波振動子を連続的に振動させる超音波発振信号を出力する高周波発振器と、周波数が10kHz以上50kHz未満である低周波の超音波を前記液体中に照射するための第2超音波振動子と、前記第2超音波振動子を連続的に振動させる超音波発振信号を出力する低周波発振器とを備え、前記第1超音波振動子と前記第2超音波振動子とを同時に振動させ、各超音波振動子から照射された超音波が重なるエリアで擬似沸騰現象を生じさせることを特徴とする超音波発生装置をその要旨とする。
【0012】
従って、手段1に記載の発明によると、第1超音波振動子が駆動されることにより、50kHz以上160kHz未満の高周波の超音波が液体中に照射される。この超音波の照射により、その液体中にて定在波が形成されるとともに微小サイズの気泡が発生される。そして、定在波の音響放射圧(音圧)により微小気泡が液体中で捕捉される。また、第2超音波振動子が駆動されることにより、10kHz以上50kHz未満の低周波の超音波が液体中に照射される。この超音波の照射により、高周波の定在波で捕捉した微小気泡が強制振動して、その気泡が圧壊する。このようにすると、低周波の超音波と高周波の超音波とが重なる照射エリアにおいて、気泡の圧壊を伴う蒸気性キャビテーションが効率よく発生する。この結果、水の沸騰時のように液体が激しく泡立つ擬似沸騰現象を生じさせることができ、洗浄、乳化、分散、拡散、霧化などの処理効率を高めることができる。
【0013】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子は、前記超音波の照射方向が直交するよう一方の振動子が前記処理槽の底面に配置されるとともに、他方の振動子が前記処理槽の側面に配置されることをその要旨とする。
【0014】
手段2に記載の発明によると、高周波数及び低周波数の超音波のうちの一方の超音波が、処理槽の底面から上方に向けて照射されるとともに、他方の超音波が処理槽の側面から水平方向に向けて照射される。このようにすると、高周波数の超音波と低周波数の超音波とが重なる照射エリアを処理槽のほぼ全域で確保することができる。この結果、処理槽において、蒸気性キャビテーションを効率よく均一に発生させることができ、処理効率を高めることができる。
【0015】
手段3に記載の発明は、手段1において、前記処理槽の底面において、中央部に複数の前記第1超音波振動子が配置されるとともに、それら第1超音波振動子が配置される中央部を取り囲むよう外周部に複数の前記第2超音波振動子が配置されることをその要旨とする。
【0016】
手段3に記載の発明によると、処理槽の底面において、中央部に配置された各第1超音波振動子から指向性の高い高周波数の超音波が照射されるとともに、外周部に配置された各第2超音波振動子から指向性の低い低周波数の超音波が照射される。このようにすると、低周波数の超音波と高周波数の超音波とが重なる照射エリアを十分に確保することができ、蒸気性キャビテーションを効率よく均一に発生させることができる。
【0017】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子は、軸方向の縦振動成分が1/2波長の整数倍の周波数で共振する振動モードを有するランジュバン振動子であり、前記第1超音波振動子を前記第2超音波振動子よりも高い周波数で共振させるようにしたことをその要旨とする。
【0018】
手段4に記載の発明によれば、第1超音波振動子及び第2超音波振動子が同じランジュバン振動子で構成される。このため、超音波振動子の部品共通化を図ることができ、異なる種類の超音波振動子を用いる場合と比較して、装置コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、手段1〜4に記載の発明によると、液体中に気泡を効率よく発生させることができる超音波発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【図2】超音波洗浄装置における気泡の発生状態を示す説明図。
【図3】超音波洗浄装置における気泡の発生状態を示す説明図。
【図4】第2の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【図5】第2の実施の形態における各超音波振動子の配置を示す説明図。
【図6】比較例における各超音波振動子の配置を示す説明図。
【図7】本実施の形態におけるアルミ箔表面のダメージの状態を示す説明図。
【図8】比較例におけるアルミ箔表面のダメージの状態を示す説明図。
【図9】別の実施の形態の各超音波振動子の配置を示す説明図。
【図10】別の実施の形態の各超音波振動子の配置を示す説明図。
【図11】別の実施の形態の各超音波振動子の配置を示す説明図。
【図12】別の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【図13】別の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【図14】別の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【図15】別の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【図16】別の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を超音波洗浄装置に具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態の超音波洗浄装置(超音波発生装置)を示す概略構成図である。
【0022】
図1に示されるように、超音波洗浄装置10は、被洗浄物11及び洗浄液12(液体)を入れる金属製の洗浄槽13(処理槽)と、洗浄槽13内の洗浄液12に超音波を照射する超音波振動子14,15と、各超音波振動子14,15を駆動するための発振器16,17とを備える。
【0023】
第1超音波振動子14は、高周波の超音波を照射するための振動子であり、洗浄槽13の底面に装着されている。また、第2超音波振動子15は、低周波の超音波を照射するための振動子であり、洗浄槽13において側面に装着されている。本実施の形態では、各超音波振動子14,15として、軸方向の縦振動成分が1/2波長の整数倍の周波数で共振する振動モードを有するボルト締めランジュバン振動子が用いられている。また、第1超音波振動子14は、3/2波長共振モードで駆動され、第2超音波振動子15は、1/2波長共振モードで駆動されるようになっている。なお、各超音波振動子14,15としては、ボルト締めランジュバン振動子以外に、圧電振動子、磁歪振動子やソリッドタイプの振動子などを用いてもよい。
【0024】
第1超音波振動子14にはスイッチ18を介して高周波発振器16が接続され、第2超音波振動子15にはスイッチ19を介して低周波発振器17が接続されている。高周波発振器16は、高周波数の超音波発振信号を生成して第1超音波振動子14に出力する。この超音波発振信号によって第1超音波振動子14が駆動され、その第1超音波振動子14により、高周波数(本実施の形態では、75kHzの周波数)の超音波が洗浄槽13内の洗浄液12に照射される。低周波発振器17は、低周波数の超音波発振信号を生成して第2超音波振動子15に出力する。この超音波発振信号によって第2超音波振動子15が駆動され、その第2超音波振動子15により、低周波数(本実施の形態では、28kHzの周波数)の超音波が洗浄槽13内の洗浄液12に照射される。なお、本実施の形態において、高周波数の超音波の出力は500ワットであり、低周波数の超音波の出力も500ワットである。
【0025】
次に、本実施の形態の超音波洗浄装置10の動作例について説明する。
【0026】
先ず、超音波洗浄装置10において、スイッチ18をオンすることにより、高周波発振器16から第1超音波振動子14に超音波発振信号を供給して第1超音波振動子14を連続的に振動させる。これにより、洗浄槽13の底面に設けられている第1超音波振動子14から洗浄液12中に高周波数の超音波S1が照射される(図2参照)。このとき、洗浄液12中を伝搬した超音波S1が液面で反射することで、定在波が形成される。また、この超音波S1の照射によって、洗浄液12中に微小サイズの気泡B1(マイクロバブル)が発生される。そして、その定在波の音圧によって、微小気泡B1が洗浄液12中で捕捉される。
【0027】
また、スイッチ19をオンすることにより、低周波発振器17から第2超音波振動子15に超音波発振信号を供給して第2超音波振動子15を連続的に振動させる。これにより、洗浄槽13の側面に設けられた第2超音波振動子15から洗浄液12中に低周波数の超音波S2が照射される(図3参照)。この結果、高周波数の定在波で捕捉された微小気泡B1が強制振動して、その気泡B1が圧壊する。また、気泡圧壊時には、多数個の微小気泡B1が分裂・生成され、それら微小気泡B1は高周波数の定在波の音圧で捕捉される。このように、高周波数の超音波S1及び低周波数の超音波S2を同時に照射することにより、洗浄液12中で蒸気性キャビテーションが効率よく発生され、被洗浄物11が洗浄される。
【0028】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0029】
(1)本実施の形態の超音波洗浄装置10では、第1超音波振動子14と第2超音波振動子15とを同時に振動させ、各超音波振動子14,15から高周波数及び低周波数の超音波S1,S2を照射することにより、強力な蒸気性キャビテーションを発生させることができる。超音波洗浄装置10では、高周波数の超音波として、特許文献1のように160kHz以上の超音波を用いるのではなく、75kHzの超音波S1を用いている。さらに、低周波数の超音波S2として28kHzの超音波を用いている。これら超音波S1,S2を用いることによって、従来よりも効率よく蒸気性キャビテーションを発生させることができ、水の沸騰時のように洗浄液12が激しく泡立つ擬似沸騰現象を生じさせることができる。この結果、超音波洗浄装置10の洗浄効率を十分に高めることができる。
【0030】
(2)本実施の形態の超音波洗浄装置10では、第1超音波振動子14が洗浄槽13の底面に装着され、第2超音波振動子15が洗浄槽13の側面に装着されている。この場合、高周波数の超音波S1が洗浄槽13の底面から上方に向けて照射されるとともに、低周波数の超音波S2が洗浄槽13の側面から水平方向に向けて照射される。このようにすると、高周波数の超音波S1と低周波数の超音波S2とが重なる照射エリアを洗浄槽13のほぼ全域で確保することができる。この結果、洗浄槽13において、蒸気性キャビテーションを均一かつ広範囲で発生させることができ、洗浄効率を高めることができる。また、超音波洗浄装置10を用いれば、被洗浄物11の洗浄を短時間で行うことができるので、その消費電力を抑えることができる。さらに、超音波洗浄装置10を用いれば、強力な洗浄効果を得ることができるため、洗浄液12に含まれる洗浄剤の使用量を削減することができる。特に、洗浄液12として洗浄剤を含まない洗浄水を使用した場合、洗浄剤の費用やその廃棄費用などのランニングコストを抑えることができ、環境負荷も低減させることができる。またこの場合、洗浄剤の使用が好ましくない食品や医療品などの洗浄に適用することができる。
【0031】
(3)本実施の形態の超音波洗浄装置10では、第1超音波振動子14及び第2超音波振動子15として、軸方向の縦振動成分が1/2波長の整数倍の周波数で共振する振動モードを有するランジュバン振動子が用いられている。そして、第1超音波振動子14を3/2波長の周波数で共振させ、第2超音波振動子15を1/2波長の周波数で共振させている。このようにすると、超音波振動子14,15の部品共通化を図ることができ、異なる種類の超音波振動子を用いる場合と比較して、装置コストを抑えることができる。
[第2の実施の形態]
【0032】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0033】
図4に示されるように、本実施の形態の超音波洗浄装置20では、第1超音波振動子21及び第2超音波振動子22が洗浄槽13の底面に装着されている点が上記第1の実施の形態と異なる。以下、超音波洗浄装置20の構成について詳述する。
【0034】
図4及び図5に示されるように、超音波洗浄装置20も金属製の洗浄槽13を備える。その洗浄槽13の底面において、中央部に複数(本実施の形態では、15個)の第1超音波振動子21が配置されるとともに、それら第1超音波振動子21が配置される中央部を取り囲むよう外周部に複数(本実施の形態では、15個)の第2超音波振動子22が配置されている。
【0035】
各第1超音波振動子21は、スイッチ18を介して高周波発振器16に接続され、各第2超音波振動子22は、スイッチ19を介して低周波発振器17に接続されている。各第1超音波振動子21は、高周波発振器16から出力される超音波発振信号によって駆動されることで、高周波数(75kHzの周波数)の超音波を洗浄槽13内の洗浄液12に照射する。また、各第2超音波振動子22は、低周波発振器17から出力される超音波発振信号によって駆動されることで、低周波数(28kHzの周波数)の超音波を洗浄槽13内の洗浄液12に照射する。なお、本実施の形態において、各第1超音波振動子21から照射される高周波数の超音波の出力は500ワットであり、各第1超音波振動子22から照射される低周波数の超音波の出力も500ワットである。
【0036】
本発明者らは、超音波洗浄装置20において、洗浄槽13におけるキャビテーションの発生位置を確認するため、アルミ箔のダメージ試験を行った。具体的には、洗浄槽13の洗浄液12中において、液面と水平な位置(低周波数の超音波の節となる位置及び腹となる位置)にアルミ箔24(図4では破線で示す)を配置する。そして、各超音波振動子21,22を駆動して各振動子21,22から低周波数及び高周波数の各超音波を同時に10秒間照射し、キャビテーションによるアルミ箔24のダメージ(エロージョン)を確認した。また、洗浄槽13の洗浄液12中において、液面と垂直な位置(洗浄槽13内を半分に分断する中央位置)にアルミ箔24(図5では破線で示す)を配置した場合についても、アルミ箔24のダメージを同様に確認した。なお、このダメージ試験は、洗浄液12として常温(19℃)の水道水を用い、周囲環境温度が22℃、洗浄槽13の液深が211mmの試験条件で行った。
【0037】
また比較例として、図6に示されるように、30個の第2超音波振動子22を洗浄槽13の底面に装着して超音波洗浄装置30を構成し、低周波数(28kHzの周波数)の超音波のみを照射した場合のアルミ箔24のダメージ試験も行った。なお、この超音波洗浄装置30において、各第2超音波振動子22から照射される超音波の出力は1000ワットである。
【0038】
上記ダメージ試験後におけるアルミ箔24の表面の状態について、その一例を図7及び図8に示している。なお、図7及び図8に示すアルミ箔24は、水平方向(超音波の節となる位置)に配置したアルミ箔である。また、図示しないが超音波の腹となる位置に配置したアルミ箔24や垂直方向に配置したアルミ箔24のダメージ状態も確認した。
【0039】
低周波数の超音波のみを照射した比較例の超音波洗浄装置30の場合、図8に示されるように、アルミ箔24表面のダメージが中央部に集中している。これに対して、高周波数及び低周波数の超音波を同時に照射する本実施の形態の超音波洗浄装置20の場合では、図7に示されるように、アルミ箔24表面のダメージが均一に散らばっている。また、超音波の腹に配置したアルミ箔24についても、比較例の場合では中央部にダメージが集中し、本実施の形態の場合ではダメージが均一に散らばっていた。さらに、垂直方向に配置したアルミ箔24について、比較例の場合には、縦方向の定在波の音圧によってダメージが集中する部分とダメージが少ない部分が交互に存在していた。これに対して、本実施の形態の場合では、縦方向の定在波による影響がなく、ダメージが均一に散らばっていた。以上の結果、本実施の形態の超音波洗浄装置20では、洗浄槽13の全体でキャビテーションが均一に発生することが確認された。
【0040】
さらに、本発明者らは、洗浄槽13の底面における第1超音波振動子21と第2超音波振動子22との配置を変更して超音波洗浄装置を構成し、それぞれの洗浄装置において、アルミ箔24のダメージ試験を同様に行いキャビテーションの発生位置を確認した。図9〜図11には、各超音波振動子21,22の配置を変更した超音波洗浄装置31〜33の具体例をそれぞれ示している。
【0041】
図9の超音波洗浄装置31では、洗浄槽13の底面において、中央部に15個の第2超音波振動子22が配置されるとともに、それら第2超音波振動子22が配置される中央部を取り囲むよう外周部に15個の第1超音波振動子21が配置されている。また、図10の超音波洗浄装置32では、洗浄槽13の底面において、15個の第1超音波振動子21と15個の第2超音波振動子22とが千鳥状に配置されている。さらに、図11の超音波洗浄装置33では、洗浄槽13の底面において、右側の領域に15個の第1超音波振動子21が配置され、左側の領域に15個の第2超音波振動子22が配置されている。図9〜図11の各超音波洗浄装置31〜33のように、洗浄槽13の底面に複数の第1超音波振動子21と第2超音波振動子22とを配置した場合でも、高周波数の超音波と低周波数の超音波とが重なる照射エリアで蒸気性キャビテーションによる擬似沸騰現象が生じることを確認した。図9及び図10の超音波洗浄装置31,32では、図5に示す超音波洗浄装置20と比べると、アルミ箔24にてダメージが集中する部分があったが、図6に示す比較例の超音波洗浄装置30と比べると、そのダメージが集中する部分は僅かな領域であった。また、図11の超音波洗浄装置33では、低周波数の第2超音波振動子22が配置される左側の領域でアルミ箔24のダメージが集中していた。
【0042】
上記実施の形態では、第1超音波振動子21から照射される高周波数の超音波は75kHzであり、第2超音波振動子22から照射される低周波数の超音波は28kHzであったが、本発明者らは、各超音波の周波数を変更した超音波洗浄装置を構成し、アルミ箔24のダメージ試験を同様に行った。具体的には、第1超音波振動子21から155kHzの高周波数の超音波を照射するとともに第2超音波振動子22から40kHzの低周波数の超音波を照射するように超音波洗浄装置を構成した。なお、各超音波振動子21,22の配置としては、図5、図9〜図11に示すような配置とした。このように周波数を変更した場合でも、上記実施の形態と同様な試験結果を得ることができた。
【0043】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0044】
(1)本実施の形態の超音波洗浄装置20,31〜33では、洗浄槽13の底面において、複数の第1超音波振動子21と複数の第2超音波振動子22とが設けられている。このように構成すると、低周波数の超音波と高周波数の超音波とが重なる照射エリアにて、蒸気性キャビテーションを効率よく発生させることができる。特に、図5に示すように、中央部に複数の第1超音波振動子21を配置するとともに外周部に複数の第2超音波振動子22を配置する場合、蒸気性キャビテーションを洗浄槽13全体で均一に発生させることができる。
【0045】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0046】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,20,31〜33では、洗浄槽13の底面は、平坦面であったが、これに限定されるものではない。例えば、図12に示される超音波洗浄装置41のように、底部において中央ほど深くなるよう傾斜した洗浄槽42を備え、洗浄槽42の底部における一対の傾斜面において、一方に第1超音波振動子14を設け、他方に第2超音波振動子15を設けるように構成してもよい。このようにしても、洗浄槽42の洗浄液12中において、低周波数の超音波と高周波数の超音波との照射エリアを確実に重ねることができ、蒸気性キャビテーションを効率よく発生させることができる。
【0047】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,20,31〜33,41では、洗浄槽13の底面または側面に超音波振動子14,15,21,22を装着して洗浄液12中に超音波を照射するよう構成したが、図13の超音波洗浄装置43のように、洗浄槽13の上方から超音波を照射するよう構成してもよい。具体的には、超音波洗浄装置43において、高周波数の超音波を照射するための第1超音波振動子14が洗浄槽13の底面に装着されている。また、低周波数の超音波を照射するための第2超音波振動子15が洗浄槽13の上面側に配置されており、その第2超音波振動子15に超音波ホーン44が装着されている。そして、超音波ホーン44の先端部を下方に向けた状態で、その超音波ホーン44の先端部が洗浄液12中に配置されている。この超音波洗浄装置43では、超音波ホーン44の先端部から低周波数の超音波が洗浄液12中に照射されるが、その低周波数の超音波は高周波の超音波と比較して指向性が低いため、比較的広範囲に亘って照射エリアを確保することができる。
【0048】
また、図14の超音波洗浄装置45のように、超音波ホーン46の振動面となる先端部を球形状に形成してもよい。このようにすると、超音波ホーン46の先端部において、全周方向に超音波を放射することが可能となり、洗浄槽13において高周波数の超音波と低周波数の超音波との照射エリアを確実に重ねることができる。この結果、蒸気性キャビテーションを確実に発生させることができ、洗浄効率を高めることができる。
【0049】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,20,31〜33,41では、各超音波振動子14,15,21,22として、洗浄槽13の底面または側面に装着される外付けタイプの超音波振動子を使用していたがこれに限定されものではない。図15に示される超音波洗浄装置51のように、洗浄槽13の洗浄液12中に投げ込んで使用する投げ込みタイプの超音波振動子52を用いて構成してもよい。この超音波洗浄装置51では、洗浄槽13の底面に高周波数の超音波を照射するための第1超音波振動子14が装着されており、低周波数の超音波を照射する超音波振動子52として投げ込みタイプの超音波振動子が使用されている。なお、図16に示される超音波洗浄装置53のように、高周波数の超音波を照射するための第1超音波振動子54と低周波数の超音波を照射するための第2超音波振動子52との両方について、投げ込みタイプの超音波振動子を使用してもよい。この投げ込みタイプの超音波振動子52,54は、気密性を有するケースの内面に振動子を接合した構造を有している。
【0050】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,20,31〜33,41,43,45,51,53において、低周波数の超音波を照射するための第2超音波振動子15,22,52について、周波数変調させた状態で駆動してもよい。具体的には、例えば、低周波数である28kHzの中心周波数に対して±1kHzで変動するよう変調させる。このようにすると、蒸気性キャビテーションの発生位置が分散され、洗浄処理をより均一に行うことが可能となる。
【0051】
・上記各実施の形態では、超音波を利用して洗浄する超音波洗浄装置10,20,31〜33,41,43,45,51,53に適用するものであったが、洗浄以外に、抽出、乳化、分散、混合、攪拌、破砕、霧化等の処理を行う超音波発生装置に適用してもよい。具体的には、例えば、超音波乳化装置に適用した場合、エマルジョンをナノ粒子まで高効率に微細化することができ、長期間安定化、界面活性剤の削減などの効果を期待することができる。また、超音波分散装置に適用した場合には、ナノ粒子(金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ、セラミックスナノ粒子、磁性ナノ粒子など)を高効率に分散化することができる。さらに、化学的作用を利用した超音波処理装置として具体化してもよい。この場合、蒸気性キャビテーションを均一かつ広範囲で効率よく発生させることができるため、気泡圧壊時の高温高圧場により生じるOHラジカル等のラジカル生成量を増大させることが可能となる。従って、ラジカル種に起因するソノケミカルの反応効率を高めることができ、有害物質の分解無害化、殺菌、高分子重合などの処理を効率よく行うことができる。
【0052】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,20,31〜33,41,43,45,51,53において、洗浄槽13の外部にバブル発生器を別途設け、そのバブル発生器からパイプなどを介して洗浄槽13の洗浄液12中に微小気泡を導入するように構成してもよい。このようにすれば、洗浄液12中においてより多くの微小気泡を捕捉することができ、その微小気泡を核として蒸気性キャビテーションを効率よく発生させることができる。
【0053】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0054】
(1)手段1において、前記処理槽の底面において、中央部に複数の前記第2超音波振動子が配置されるとともに、それら第2超音波振動子が配置される中央部を取り囲むよう外周部に複数の前記第1超音波振動子が配置されることを特徴とする超音波発生装置。
【0055】
(2)手段1において、前記処理槽の底面において、複数の前記第1超音波振動子及び複数の前記第2超音波振動子が千鳥状に配置されることを特徴とする超音波発生装置。
【0056】
(3)手段1において、前記第1超音波振動子が前記処理槽の底面側に配置されるとともに、前記第2超音波振動子が前記処理槽の上面側に配置され、その第2超音波振動子に装着された超音波ホーンの先端部が前記液体中に配置されることを特徴とする超音波発生装置。
【0057】
(4)技術的思想(3)において、前記超音波ホーンの先端部は、全周方向に超音波を放射可能な球形状に形成されていることを特徴とする超音波発生装置。
【0058】
(5)手段4において、前記第1超音波振動子を3/2波長の周波数で共振させ、前記第2超音波振動子を1/2波長の周波数で共振させることを特徴とする超音波発生装置。
【0059】
(6)手段1において、前記第2超音波振動子を周波数変調させた状態で振動させることを特徴とする超音波発生装置。
【0060】
(7)手段1において、前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子のいずれか一方は、前記処理槽内の液体中に投入して使用する投げ込みタイプの振動子であることを特徴とする超音波発生装置。
【0061】
(8)被洗浄物を含む洗浄液を導入可能な洗浄槽を有し、前記洗浄槽内の洗浄液中に超音波を照射して気泡を発生させて被洗浄物の表面を洗浄する超音波洗浄装置であって、周波数が50kHz以上160kHz未満である高周波の超音波を前記液体中に照射するための第1超音波振動子と、前記第1超音波振動子を連続的に振動させる超音波発振信号を出力する高周波発振器と、周波数が10kHz以上50kHz未満である低周波の超音波を前記液体中に照射するための第2超音波振動子と、前記第2超音波振動子を連続的に振動させる超音波発振信号を出力する低周波発振器とを備え、前記第1超音波振動子と前記第2超音波振動子とを同時に振動させ、各超音波振動子から照射された超音波が重なるエリアで擬似沸騰現象を生じさせることを特徴とする超音波洗浄装置。
【符号の説明】
【0062】
10,20,31〜33,41,43,45,51,53…超音波発生装置としての超音波洗浄装置
12…液体としての洗浄液
13,42…処理層としての洗浄槽
14,21,54…第1超音波振動子
15,22,52…第2超音波振動子
16…高周波発振器
17…低周波発振器
S1…高周波数の超音波
S2…低周波数の超音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内の液体中に超音波を照射して気泡を発生させる超音波発生装置であって、
周波数が50kHz以上160kHz未満である高周波の超音波を前記液体中に照射するための第1超音波振動子と、
前記第1超音波振動子を連続的に振動させる超音波発振信号を出力する高周波発振器と、
周波数が10kHz以上50kHz未満である低周波の超音波を前記液体中に照射するための第2超音波振動子と、
前記第2超音波振動子を連続的に振動させる超音波発振信号を出力する低周波発振器と
を備え、前記第1超音波振動子と前記第2超音波振動子とを同時に振動させ、各超音波振動子から照射された超音波が重なるエリアで擬似沸騰現象を生じさせることを特徴とする超音波発生装置。
【請求項2】
前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子は、前記超音波の照射方向が直交するよう一方の振動子が前記処理槽の底面に配置されるとともに、他方の振動子が前記処理槽の側面に配置されることを特徴とする請求項1に記載の超音波発生装置。
【請求項3】
前記処理槽の底面において、中央部に複数の前記第1超音波振動子が配置されるとともに、それら第1超音波振動子が配置される中央部を取り囲むよう外周部に複数の前記第2超音波振動子が配置されることを特徴とする請求項1に記載の超音波発生装置。
【請求項4】
前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子は、軸方向の縦振動成分が1/2波長の整数倍の周波数で共振する振動モードを有するランジュバン振動子であり、
前記第1超音波振動子を前記第2超音波振動子よりも高い周波数で共振させるようにした
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66218(P2012−66218A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215187(P2010−215187)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】