説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】Bモード画像生成用のデータと音速測定用のデータを効率よく取得してBモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】関心領域R内の格子点Eに送信焦点を形成して音速測定用の受信データを優先的に取得し、取得された音速測定用の受信データに基づいて関心領域R内の音速マップの生成を実行している間に、各音線S1〜S7上の所定の深度Lに位置する点Fに送信焦点を形成してBモード画像生成用の受信データを取得し、Bモード画像の生成と音速マップの生成の双方が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することによりBモード画像の生成と関心領域内の音速マップの生成の双方を行う超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、被検体内の診断部位をより精度よく診断するために、診断部位における音速を測定することが行われている。
例えば、特許文献1には、診断部位の周辺に複数の格子点を設定し、各格子点に対して超音波ビームを送受信することにより得られる受信データに基づいて、局所音速値の演算を行う超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送受信することで、診断部位における局所音速値を求めることができ、例えばBモード画像に局所音速値の情報を重畳させて表示することが可能となる。
ところで、被検体内の特定の領域に対して診断を行う場合には、Bモード画像に併せて、その領域内の各点における局所音速値の分布を示す音速マップを表示することが有効となる。
しかしながら、Bモード画像の生成と診断部位の音速マップの生成の双方を行おうとすると、多数回の超音波ビームの送受信を行わなければならず、Bモード画像生成用のためのデータと音速測定のためのデータの取得に多大の時間と手間を要するという問題を生じてしまう。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、Bモード画像生成用のデータと音速測定用のデータを効率よく取得してBモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る超音波診断装置は、送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、撮像領域内に関心領域を設定するための関心領域設定部と、関心領域設定部で設定された関心領域内に複数の格子点を設定し、複数の格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得すると共に各音線に対して所定の深度に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことによりBモード画像生成用の受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御する制御部と、音速測定用の受信データに基づいて関心領域内の音速マップを生成する音速マップ生成部と、Bモード画像生成用の受信データに基づいてBモード画像を生成する画像生成部とを備え、制御部は、音速測定用の受信データを取得した後、音速マップ生成部による音速マップの生成の実行中にBモード画像生成用の受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御するものである。
【0008】
制御部が、関心領域の外部を通る音線に対してのみBモード画像生成用の受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御し、画像生成部が、関心領域の内部を通る音線に対しては複数の格子点のうち所定の深度に最も近い深度を有する格子点に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音速測定用の受信データをBモード画像生成用の受信データとして用いてBモード画像を生成するように構成することもできる。
この場合、制御部は、所定の深度を複数の格子点のいずれかの深度に等しくなるように設定してもよい。さらに、制御部は、所定の深度を複数の格子点のうち関心領域の深さ方向の中心部に位置する格子点の深度に等しくなるように設定することもできる。
【0009】
この発明に係る超音波画像生成方法は、送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、撮像領域内に関心領域を設定すると共に関心領域内に複数の格子点を設定し、複数の格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得し、取得された音速測定用の受信データに基づいて前記関心領域内の音速マップの生成を開始し、音速マップの生成の実行中に複数の音線に対し1つの所定の深度に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことによりBモード画像生成用の受信データを取得し、取得されたBモード画像生成用の受信データに基づいてBモード画像を生成する方法である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、音速測定用の受信データを優先的に取得し、取得された音速測定用の受信データに基づいて関心領域内の音速マップの生成を実行中にBモード画像生成用の受信データを取得するので、Bモード画像生成用のデータと音速測定用のデータを効率よく取得してBモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における音速演算の原理を模式的に示す図である。
【図3】実施の形態1における送信焦点の位置と超音波ビーム送受信の順番を示す図である。
【図4】実施の形態2における送信焦点の位置と超音波ビーム送受信の順番を示す図である。
【図5】実施の形態2の変形例における送信焦点の位置と超音波ビーム送受信の順番を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、振動子アレイ1を備え、この振動子アレイ1に送信回路2および受信回路3が接続されている。受信回路3には、信号処理部4、DSC(Digital Scan Converter)5および画像処理部6が順次接続され、さらに、画像処理部6に表示制御部7を介して表示部8が接続されると共に画像メモリ9が接続されている。
また、受信回路3にシネメモリ10と音速マップ生成部11がそれぞれ接続され、送信回路2、受信回路3、信号処理部4、DSC5、表示制御部7、シネメモリ10および音速マップ生成部11に制御部12が接続されている。さらに、制御部12には、操作部13と格納部14がそれぞれ接続されている。
【0013】
振動子アレイ1は、1次元又は2次元に配列された複数の超音波トランスデューサを有している。これらの超音波トランスデューサは、それぞれ送信回路2から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0014】
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0015】
送信回路2は、例えば、複数のパルサを含んでおり、制御部12からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサに供給する。
【0016】
受信回路3は、振動子アレイ1の各超音波トランスデューサから送信される受信信号を増幅してA/D変換した後、制御部12からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた受信データ(音線信号)が生成される。
【0017】
信号処理部4は、受信回路3で生成された受信データに対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC5は、信号処理部4で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部6は、DSC5から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部7に出力する、あるいは画像メモリ9に格納する。
これら信号処理部4、DSC5、画像処理部6および画像メモリ9によりこの発明の画像生成部15が形成されている。
【0018】
表示制御部7は、画像処理部6によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部8に超音波診断画像を表示させる。
表示部8は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部7の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0019】
シネメモリ10は、受信回路3から出力される受信データを順次格納する。また、シネメモリ10は、制御部12から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記の受信データに関連付けて格納する。
音速マップ生成部11は、制御部12による制御の下で、シネメモリ10に格納されている受信データに基づいて、診断対象となる被検体内の組織における局所音速値を演算し、音速マップを生成する。
制御部12は、操作者により操作部13から入力された指令に基づいて超音波診断装置各部の制御を行う。
【0020】
操作部13は、操作者が入力操作を行うためのもので、この発明の関心領域設定部を構成し、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部14は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部4、DSC5、画像処理部6、表示制御部7および音速マップ生成部11は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0021】
操作者は操作部13から次の3つの表示モードのいずれかを選択することができる。すなわち、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に音速マップを重畳して表示するモード(例えば、局所音速値に応じて色分けまたは輝度を変化させる表示、あるいは局所音速値が等しい点を線で結ぶ表示)、Bモード画像と音速マップ画像とを並べて表示するモードのうち、所望のモードによる表示を行うことができる。
【0022】
Bモード画像を表示する際には、まず、送信回路2から供給される駆動信号に従って振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路3に出力され、受信回路3で受信データが生成される。さらに、この受信データを入力した信号処理部4でBモード画像信号が生成され、DSC5でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部6でBモード画像信号に各種の画像処理が施された後、このBモード画像信号に基づいて表示制御部7により超音波診断画像が表示部8に表示される。
【0023】
一方、局所音速値の演算は、例えば本願の出願人により出願された特開2010−99452号公報に記載の方法により行うことができる。
この方法は、図2(A)に示されるように、被検体内に超音波を送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから振動子アレイ1に到達する受信波Wxに着目したとき、図2(B)に示されるように、格子点Xよりも浅い位置、すなわち振動子アレイ1に近い位置に複数の格子点A1、A2、・・・を等間隔に配列し、格子点Xからの受信波を受けた複数の格子点A1、A2、・・・からのそれぞれの受信波W1、W2、・・・の合成波Wsumが、ホイヘンスの原理により、格子点Xからの受信波Wxに一致することを利用して、格子点Xにおける局所音速値を求める方法である。
【0024】
まず、すべての格子点X、A1、A2、・・・に対する最適音速値をそれぞれ求める。ここで、最適音速値とは、各格子点に対し、設定音速に基づきフォーカス計算をして撮影を行うことにより超音波画像を形成し、設定音速を種々変化させたときに画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、例えば特開平8−317926号公報に記載のように、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散等に基づいて最適音速値の判定を行うことができる。
【0025】
次に、格子点Xに対する最適音速値を用いて、格子点Xから発せられる仮想的な受信波Wxの波形を算出する。
さらに、格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて、それぞれ格子点A1、A2、・・・からの受信波W1、W2、・・・の仮想的な合成波Wsumを算出する。このとき、格子点Xと各格子点A1、A2、・・・との間の領域Rxaにおける音速は一様で、格子点Xにおける局所音速値Vに等しいものと仮定する。格子点Xから伝播した超音波が格子点A1、A2、・・・に到達するまでの時間はXA1/V、XA2/V、・・・となる。ここで、XA1、XA2、・・・は、それぞれ格子点A1、A2、・・・と格子点Xとの間の距離である。そこで、格子点A1、A2、・・・からそれぞれ時間XA1/V、XA2/V、・・・だけ遅延して発した反射波を合成することにより、仮想的な合成波Wsumを求めることができる。
【0026】
次に、このように格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて算出された複数の仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差をそれぞれ算出し、誤差が最小になる仮定的な局所音速値Vを格子点Xにおける局所音速値と判定する。ここで、仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差の算出方法としては、互いの相互相関をとる方法、受信波Wxに合成波Wsumから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、合成波Wsumに受信波Wxから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等を採用することができる。
以上のようにして、受信回路3で生成された受信データに基づき、被検体内の局所音速値を高精度に演算することができる。さらに、同様にして、設定された関心領域内の局所音速値の分布を示す音速マップを生成することができる。
【0027】
ここで、図3を参照して実施の形態1におけるBモード画像生成用の送信焦点と音速を測定するための送信焦点について説明する。図3では、簡略化のため、振動子アレイ1は、7個の超音波トランスデューサが配列されたものとして示されており、これら超音波トランスデューサの配列ピッチで音線S1〜S7が形成される様子が示されている。関心領域R内には、「●」で示される複数の格子点Eが、関心領域R内を通る音線上で且つ互いに深さ方向に間隔Hを隔てるように設定されている。図3では、関心領域R内を通る音線S3〜S5上に設定された9個の格子点Eが示されており、音速マップ生成のために、これら9個の格子点Eのすべてが送信焦点となる。
一方、Bモード画像生成用の送信焦点は、各音線S1〜S7上で且つ所定の深度に位置する点Fに設定される。図3では、点Fが「△」で示され、音線S1〜S7の上で所定の深度Lに位置する7個の点Fにそれぞれ送信焦点が形成される。
【0028】
このようにして設定された9個の格子点Eと7個の点Fにそれぞれ送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで受信データの取得を行うが、この実施の形態1においては、初めに、関心領域R内の9個の格子点Eにそれぞれ送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで音速測定用の受信データを取得し、取得された音速測定用の受信データに基づいて局所音速値の演算および音速マップの生成を行っている間に、7個の点Fにそれぞれ送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことでBモード画像生成用の受信データを取得する。
【0029】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
まず、送信回路2からの駆動信号に従って振動子アレイ1の複数の超音波トランスデューサから超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路3に出力されて受信データが生成され、さらに、画像生成部15で生成されたBモード画像信号に基づいて表示制御部7によりBモード画像が表示部8に表示される。
【0030】
ここで、操作者が操作部13を操作することにより、表示部8に表示されているBモード画像上に関心領域Rが設定されると、制御部12によって、関心領域Rの内部を通る音線、すなわち図3における音線S3〜S5上で且つ互いに深さ方向に間隔Hを隔てるように関心領域R内に9個の格子点Eが設定される。
次に、制御部12により、音線S1〜S7の上で所定の深度Lに位置する計7個の点Fが設定される。
【0031】
そして、関心領域R内の9個の格子点Eにそれぞれ送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで音速測定用の受信データを取得した後、7個の点Fにそれぞれ送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことでBモード画像生成用の受信データを取得するように、制御部12により送信回路2および受信回路3が制御される。
このとき、例えば図3に示されるように、関心領域R内の9個の格子点Eに対し、工程P1で音線S3上に設定された3個の格子点Eに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、次の工程P2で音線S4上に設定された3個の格子点Eに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、さらに次の工程P3で音線S5上に設定された3個の格子点Eに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行う。これにより、音速測定用の受信データが取得される。
【0032】
これらの音速測定用の受信データは、順次、受信回路3からシネメモリ10に出力されて格納される。9個の格子点Eに対する受信データがすべて取得されてシネメモリ10に格納されると、制御部12からの指令に基づき、音速マップ生成部11は、シネメモリ10に格納された音速測定用の受信データを用いて、各格子点Eにおける局所音速値の演算並びに関心領域R内の音速マップの生成を開始する。
【0033】
このようにして音速マップ生成部11により局所音速値の演算並びに音速マップの生成が実行されている間に、今度は、7個の点Fに対し、工程P4で音線S1上の点Fから音線S7上の点Fまで順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行う。これにより、Bモード画像用の受信データが取得される。
取得されたBモード画像用の受信データは、順次、受信回路3から画像生成部15の信号処理部4に出力されると共にシネメモリ10に格納される。信号処理部4では、受信回路3から順次入力されるBモード画像用の受信データを用いてBモード画像信号が生成され、このBモード画像信号は、DSC5でラスター変換され、画像処理部6で各種の画像処理が施された後、表示制御部7に送られる。
【0034】
一方、音速マップ生成部11により関心領域R内の音速マップが生成されると、この音速マップに関するデータは、DSC5でラスター変換され、画像処理部6で各種の画像処理が施された後、表示制御部7に送られる。そして、操作者により操作部13から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態で表示部8に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部8に表示される。
【0035】
このように、音速測定用の受信データを優先的に取得し、取得された音速測定用の受信データに基づいて音速マップ生成部11が関心領域R内の音速マップの生成を実行中に、Bモード画像生成用の受信データを取得するので、Bモード画像生成用のデータと音速測定用のデータを効率よく取得してBモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことが可能となる。
【0036】
なお、7個の点Fに送信焦点を形成して送信するBモード画像生成のための超音波ビームと、関心領域R内の9個の格子点Eに送信焦点を形成して送信する音速測定用の超音波ビームは、互いに中心周波数、振動子アレイ1の開口数等が異なるものを用いることができる。例えば、Bモード画像生成のための超音波ビームとして、開口数64チャンネルによる中心周波数3MHzの超音波ビームを使用し、音速測定用の超音波ビームとして、開口数96チャンネルによる中心周波数8MHzの超音波ビームを使用することができる。
音速測定用の超音波ビームは、Bモード画像生成のための超音波ビームよりも送信焦点を絞るために開口を広くし、サイドローブの影響を低減するために中心周波数をより高く設定することが好ましい。なお、肝臓を診断対象とする場合のように、腹壁等による屈折影響を受ける可能性が高い場合においては、音速測定用の超音波ビームの中心周波数を逆に低く、例えば2.5MHzに設定すると、屈折の影響を低減することができる。
【0037】
上記の実施の形態1では、関心領域R内に設定された9個の格子点Eに対し、工程P1で音線S3上に設定された3個の格子点Eに順次送信焦点を形成し、工程P2で音線S4上に設定された3個の格子点Eに順次送信焦点を形成し、工程P3で音線S5上に設定された3個の格子点Eに順次送信焦点を形成して、それぞれ超音波ビームの送受信を行ったが、これに限るものではなく、音線S3〜S5上の同一深度に位置する3個の格子点Eに順次送信焦点を形成した後、音線S3〜S5上の他の深度に位置する3個の格子点Eに順次送信焦点を形成するような順番で、超音波ビームの送受信を行ってもよい。
【0038】
実施の形態2
上記の実施の形態1では、Bモード画像生成のための送信焦点となる7個の点Fを関心領域R内の9個の格子点Eに関わりなく設定したが、制御部12が、関心領域Rの外部を通る音線に対してのみBモード画像生成専用の受信データを取得するように送信回路2および受信回路3を制御し、関心領域Rの内部を通る音線に対しては、関心領域R内の複数の格子点のうち、Bモード画像生成のための送信焦点を形成する所定の深度Lに最も近い深度を有する格子点に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音速測定用の受信データをBモード画像生成用の受信データとして利用して画像生成部15でBモード画像を生成するように構成することもできる。
この場合、さらに、関心領域R内に設定された複数の格子点のうちのいずれかの格子点の深度と等しくなるように、Bモード画像生成のための送信焦点を形成する所定の深度Lを設定してもよい。
【0039】
例えば、図4に示されるように、関心領域R内に9個の格子点が設定され、これら格子点のうち、最浅部と最深部に位置する計6個の格子点を音速測定専用に用いられる格子点E1とすると共に、関心領域Rの深さ方向の中心部に位置する3個の格子点をBモード画像の生成と音速測定の双方に利用される格子点E2とする。図4では、格子点E1が「●」で示され、格子点E2が「○」で示されている。
また、関心領域Rの外部を通る音線S1、S2、S6およびS7の上で且つ格子点E2の深度と等しい深度Lに計4個の点Fが設定される。
【0040】
そして、関心領域R内の9個の格子点E1およびE2に対し、工程P1で音線S3上に設定された3個の格子点に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、次の工程P2で音線S4上に設定された3個の格子点に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、さらに次の工程P3で音線S5上に設定された3個の格子点に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行う。これにより、実施の形態1と同様にして音速測定用の受信データが取得される。
これらの音速測定用の受信データは、順次、受信回路3から信号処理部4に出力されると共にシネメモリ10に出力されて格納され、音速マップ生成部11は、シネメモリ10に格納された音速測定用の受信データを用いて、各格子点E1およびE2における局所音速値の演算並びに関心領域R内の音速マップの生成を開始する。
【0041】
このようにして音速マップ生成部11により局所音速値の演算並びに音速マップの生成が実行されている間に、今度は、4個の点Fに対し、工程P4で音線S1およびS2上の点Fに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、続く工程P5で音線S6およびS7上の点Fに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行う。
【0042】
信号処理部4は、制御部12からの指令に基づき、受信回路3から順次入力される受信データのうち、関心領域R内の3個の格子点E2に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された受信データと関心領域R外の4個の点Fに送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された受信データを用いてBモード画像信号を生成する。すなわち、関心領域R内の3個の格子点E2に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音速測定用の受信データを音線S3〜S5に関するBモード画像生成用の受信データとして利用し、これらのBモード画像生成用の受信データと4個の点Fに送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音線S1、S2、S6およびS7に関するBモード画像生成用の受信データとに基づいてBモード画像信号が生成される。このBモード画像信号は、DSC5でラスター変換され、画像処理部6で各種の画像処理が施された後、表示制御部7に送られる。
【0043】
一方、音速マップ生成部11により関心領域R内の音速マップが生成されると、この音速マップに関するデータは、DSC5でラスター変換され、画像処理部6で各種の画像処理が施された後、表示制御部7に送られる。そして、操作者により操作部13から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態で表示部8に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部8に表示される。
【0044】
この実施の形態2では、関心領域R内の3個の格子点E2に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音速測定用の受信データをBモード画像生成用の受信データとしても利用することにより、Bモード画像生成用の受信データと音速測定用の受信データをさらに効率よく取得してBモード画像の生成と音速マップの生成の双方を行うことが可能となる。
【0045】
なお、図5に示されるように、関心領域R内の各格子点の局所音速値を算出する都合上、関心領域Rよりも外側に格子点を追加して、これら外側の格子点にも音速測定用の送信焦点を形成する場合がある。この場合にも、音速測定用の受信データを優先的に取得して、音速マップ生成部11により音速マップの生成を実行している間に、Bモード画像用の受信データを取得すればよい。
図5では、音線S1〜S13のうち、音線S6〜S8が関心領域R内を通り、音線S1〜S5およびS9〜S13が関心領域Rの外部を通るものとして示されており、音線S3〜S5およびS9〜S11の上にも格子点E1が設定されている。
また、関心領域Rの外部を通る音線S1〜S5およびS9〜S13の上で且つ格子点E2の深度と等しい深度Lに計10個の点Fが設定されている。
【0046】
工程P1で音線S3〜S5上の格子点E1に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、工程P2で音線S6上に設定された3個の格子点に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、工程P3で音線S7上に設定された3個の格子点に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、工程P4で音線S8上に設定された3個の格子点に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、さらに工程P5で音線S9〜S11上の格子点E1に順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行う。これにより、音速測定用の受信データが取得される。
【0047】
そして、音速マップ生成部11により局所音速値の演算並びに音速マップの生成が実行されている間に、工程P6で音線S1〜S5上の点Fに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行い、続く工程P7で音線S9〜S13上の点Fに順次送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行う。
関心領域R内の3個の格子点E2に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音速測定用の受信データを音線S6〜S8に関するBモード画像生成用の受信データとして利用し、これらのBモード画像生成用の受信データと10個の点Fに送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音線S1〜S5およびS9〜S13に関するBモード画像生成用の受信データとに基づいてBモード画像信号が生成される。
【0048】
なお、上記の実施の形態1および2では、受信回路3から出力される受信データを一旦シネメモリ10に格納し、音速マップ生成部11がシネメモリ10に格納された受信データを用いて関心領域R内の各格子点における局所音速値を演算し、関心領域R内の音速マップを生成したが、音速マップ生成部11が受信回路3から出力される受信データを直接入力して音速マップの生成を行うこともできる。
また、シネメモリ10には、音速測定用に用いられる受信データだけでなく、Bモード画像生成用の受信データも格納されているため、制御部12の制御により、必要に応じてシネメモリ10からBモード画像生成用の受信データを読み出し、画像生成部15でBモード画像を生成することもできる。
【0049】
上記の実施の形態1および2では、簡略化のため、図示された振動子アレイ1の開口数すなわち音線の本数、関心領域R内の格子点の個数等が小さな値で示されていたが、これに限るものではなく、Bモード画像による診断および音速の測定に適した開口数および格子点の個数とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1 振動子アレイ、2 送信回路、3 受信回路、4 信号処理部、5 DSC、6 画像処理部、7 表示制御部、8 表示部、9 画像メモリ、10 シネメモリ、11 音速マップ生成部、12 制御部、13 操作部、14 格納部、15 画像生成部、X,A1,A2 格子点、W1,W2,Wx 受信波、Wsum 合成波、R 関心領域、S1〜S13 音線、P1〜P7 工程、E 格子点、E1 音速測定専用の送信焦点が形成される格子点、E2 Bモード画像生成と音速測定の双方に利用される送信焦点が形成される格子点、F Bモード画像生成専用の送信焦点が形成される点、L 所定の深度、H 間隔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
撮像領域内に関心領域を設定するための関心領域設定部と、
前記関心領域設定部で設定された関心領域内に複数の格子点を設定し、前記複数の格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得すると共に各音線に対して所定の深度に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことによりBモード画像生成用の受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する制御部と、
音速測定用の前記受信データに基づいて前記関心領域内の音速マップを生成する音速マップ生成部と、
Bモード画像生成用の前記受信データに基づいてBモード画像を生成する画像生成部と
を備え、前記制御部は、音速測定用の前記受信データを取得した後、前記音速マップ生成部による音速マップの生成の実行中にBモード画像生成用の前記受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記関心領域の外部を通る音線に対してのみBモード画像生成用の前記受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
前記画像生成部は、前記関心領域の内部を通る音線に対しては前記複数の格子点のうち前記所定の深度に最も近い深度を有する格子点に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことで取得された音速測定用の前記受信データをBモード画像生成用の受信データとして用いてBモード画像を生成する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定の深度を前記複数の格子点のいずれかの深度に等しくなるように設定する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記所定の深度を前記複数の格子点のうち前記関心領域の深さ方向の中心部に位置する格子点の深度に等しくなるように設定する請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
送信回路から供給された駆動信号に基づいて超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、
撮像領域内に関心領域を設定すると共に前記関心領域内に複数の格子点を設定し、
前記複数の格子点に送信焦点を形成してそれぞれ超音波ビームの送受信を行うことにより音速測定用の受信データを取得し、
取得された音速測定用の前記受信データに基づいて前記関心領域内の音速マップの生成を開始し、
前記音速マップの生成の実行中に複数の音線に対し1つの所定の深度に送信焦点を形成して超音波ビームの送受信を行うことによりBモード画像生成用の受信データを取得し、
取得されたBモード画像生成用の前記受信データに基づいてBモード画像を生成する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161569(P2012−161569A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26163(P2011−26163)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】