説明

超音波診断装置

【課題】高調波成分を利用してバブルを識別するにあたって識別の精度を高める。
【解決手段】プローブ14から互いに位相が反転関係にある超音波の組が送波され、超音波の組のうちの一方に対応した第1受信信号が受信信号1メモリ18に記憶され、他方に対応した第2受信信号が受信信号2メモリ20に記憶される。加算処理部22は、第1受信信号と第2受信信号を加算処理し、PI法の原理により偶数次の高調波成分が抽出され、さらに2次BPF26により第2次高調波成分が抽出される。差分処理部24は、第1受信信号と第2受信信号の差分を算出し、PI法の原理により基本波と奇数次の高調波成分が抽出され、さらに3次BPF28により第3次高調波成分が抽出される。バブル識別部40は、第2次高調波成分と第3次高調波成分とを比較することにより、バブルと他組織を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、受信信号に含まれる高調波成分を利用した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロバブル(またはナノバブル)は、液体などに注入された微細な気泡を意味している。このマイクロバブルは、様々な優れた特性を備えているため、多くの分野で利用されている。例えば、医療分野への応用として、マイクロバブルが超音波の好適な反射体となることから、超音波画像を形成する際の造影剤として利用されている。
【0003】
造影剤を利用した超音波画像の形成においては、バブルから得られる高調波成分に注目した技術が知られており、特に、フェイズインバージョン法(パルスインバージョン法)やパワーモジュレーション法などが有名である。これらの手法は、造影剤を利用したものに限定されず、生体内組織から得られる高調波成分にも適用される。例えば、特許文献1には、フェイズインバージョン法の原理を応用して、位相反転関係にある2つの送信信号を用いて高調波成分を画像化する旨の画期的な技術が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、受信信号の信号強度と時間変化量を周波数帯域ごとに検出し、造影剤に対応した信号と生体に対応した信号を判別する旨の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−271599号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/126684号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況のもと、本願の発明者は、受信信号に含まれる高調波成分を利用した画像化技術について研究を重ねてきた。特に、高調波成分を利用してバブルを識別する技術に注目して研究を重ねてきた。
【0007】
本発明は、その研究の過程において成されたものであり、その目的は、高調波成分を利用してバブルを識別するにあたって識別の精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である超音波診断装置は、バブルを含む診断領域に対して超音波を送受することにより診断領域から受信信号を得るプローブと、受信信号に含まれる基本波成分と高調波成分とからなる複数次数の信号成分の中から互いに異なる次数の複数の信号成分を抽出する受信処理部と、抽出された複数の信号成分同士を比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別するバブル識別部と、前記識別の結果に基づいてバブルに対応した画像部分に識別処理を施した超音波画像の画像データを形成する画像形成部と、を有することを特徴とする。
【0009】
望ましい態様において、前記バブル識別部は、前記次数が異なることに伴う信号成分の変化を評価することによりバブルを識別する、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい態様において、前記バブル識別部は、前記診断領域内の各位置で前記信号成分の変化を評価し、当該変化が所定値よりも小さい位置にバブルが存在すると判定する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい態様において、前記バブル識別部は、前記診断領域に対応した画像内の各画素ごとに前記信号成分の変化を評価し、当該変化が所定値よりも小さい画素をバブルに対応した画素と判定する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい態様において、前記バブル識別部は、2次以上の複数の信号成分同士を比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい態様において、前記バブル識別部は、2次の信号成分と3次の信号成分とを比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい態様において、前記バブル識別部は、互いに異なる時相におけるバブルの識別結果に基づいて、移動しているバブルと停留しているバブルとを識別し、前記画像形成部は、移動しているバブルに対応した画像部分と停留しているバブルに対応した画像部分とに対して互いに異なる表示処理を施した超音波画像の画像データを形成する、ことを特徴とする。
【0015】
望ましい態様において、前記超音波診断装置は、前記バブルの膨張倍率を基準として設定される送信音圧で超音波を送波するようにプローブを制御する送信制御部をさらに有する、ことを特徴とする。
【0016】
望ましい態様において、前記送信制御部は、互いに位相が反転関係にある超音波の組を送波するようにプローブを制御し、前記受信処理部は、前記超音波の組のうちの一方に対応した第1受信信号と他方に対応した第2受信信号を加算することにより偶数次の信号成分を抽出し、前記第1受信信号と第2受信信号の差分を算出することにより奇数次の信号成分を抽出する、ことを特徴とする。
【0017】
望ましい態様において、前記超音波診断装置は、前記偶数次の信号成分から2次の信号成分を抽出するフィルタと、前記奇数次の信号成分から3次の信号成分を抽出するフィルタと、をさらに有し、2次の信号成分と3次の信号成分とを比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、高調波成分を利用してバブルを識別するにあたって識別の精度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示す図である。
【図2】バブルの膜振動のシミュレーション結果を示す図である。
【図3】バブルの膜振動によって発生する超音波信号を示す図である。
【図4】送信周波数と信号量との対応関係を示す図である。
【図5】バブルの膨張倍率とバブルから得られる高調波成分の信号量との対応関係を示す図である。
【図6】組織から発生する高調波とバブルからの高調波をシミュレーションした結果を示す図である。
【図7】バブルの識別処理を説明するための図である。
【図8】バブルの識別結果を反映させた超音波画像を示す図である。
【図9】本実施形態に適した振動子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1は、その超音波診断装置の全体構成を示す機能ブロック図である。図1の超音波診断装置は、例えば、造影用のバブル(マイクロバブルやナノバブルなどの微小気泡)を含んだ造影剤を利用して画像を形成するのに適している。
【0021】
本実施形態においては、例えば、低中音圧の超音波による画像化に適した造影剤(「ソナゾイド」(登録商標)など)を利用することが望ましいものの、本発明における造影剤は特定のものに限定されない。造影剤は、例えば生体内の血管や腫瘍などの診断部位に投与される。そして、造影剤が投与されてから、例えば生体内におけるバブルの集積や取り込みが起こるまでの一定時間が経過した後に、図1に示す超音波診断装置によって診断が行われる。
【0022】
信号発生部10は、図示しない制御部などによって制御され、送信パルスを形成するための駆動信号を生成して送信回路12へ出力する。本実施形態では、互いに位相が反転関係にある(位相が180度だけ異なる)送信パルスの組が利用される。
【0023】
また、本実施形態では、生体内に投与されるバブルの共振周波数を基準として設定される送信周波数帯域で、さらに、当該バブルの膨張倍率を基準として設定される送信音圧で超音波を送波するように送信制御される。信号発生部10は、例えば、中心周波数が1.5MHz程度、送信音圧が200〜300kPa程度に対応した波形の送信パルスを出力する。
【0024】
送信回路12は、信号発生部10から出力された送信パルスに基づいて、プローブ14が備える複数の振動素子を制御して送信ビームを形成し、形成した送信ビームを電子的に走査することにより、走査領域の全域に亘って複数の送信ビームを形成する。
【0025】
本実施形態においては、複数の送信ビームの各ビーム方向ごとに2回の送信が行われる。つまり、一つのビーム方向に対して送信パルスに基づいて1回目の送信が行われて第1受信信号を取得した後に、続けてその同じビーム方向に対して、1回目の送信と同じ波形で位相だけを反転させた送信パルスに基づいて2回目の送信が行われ、第2受信信号が取得される。そして、一つのビーム方向に対して2回の送信が行われた後に、ビーム方向を変えて次のビーム方向に対して2回の送信が行われる。こうして、走査領域の全域に亘って各ビーム方向ごとに2回の送受信が実行される。
【0026】
プローブ14は、造影剤が投与された生体内の診断領域に対して超音波を送受する。プローブ14は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送信回路12によって送信制御されて送信ビームが走査される。また、複数の振動素子が生体から反射された超音波を受波し、これにより得られた信号が受信回路16へ出力される。なお、送信と受信を異なる振動子で行うようにしてもよい。
【0027】
受信回路16は、プローブ14の複数の振動素子から得られる信号を整相加算処理することにより、走査領域内の複数の送信ビームの各々に対応した受信信号を形成する。本実施形態においては、複数の送信ビームの各ビーム方向ごとに2回の送信が行われるため、受信回路16は、各ビーム方向ごとに、1回目の送信に対応した第1受信信号と2回目の送信に対応した第2受信信号を形成する。そして、各ビーム方向ごとに、第1受信信号が受信信号1メモリ18に記憶され、第2受信信号が受信信号2メモリ20に記憶される。
【0028】
加算処理部22は、各ビーム方向ごとに、受信信号1メモリ18と受信信号2メモリ20から第1受信信号と第2受信信号を読み出し、そして、第1受信信号と第2受信信号を加算処理する。第1受信信号と第2受信信号は、互いに位相が反転関係にある送信パルスから得られる信号であるため、フェイズインバージョン法(またはパルスインバージョン法)の原理により、第1受信信号と第2受信信号の加算処理の結果として、奇数次の信号がキャンセルされて偶数次の信号のみが残る。つまり、受信信号に含まれる基本波と高調波成分のうち、基本波と奇数次の高調波成分がキャンセルされて偶数次の高調波成分が抽出される。
【0029】
2次バンドパスフィルタ(2次BPF)26は、第2次高調波に対応した通過帯域を備えたフィルタであり、2次バンドパスフィルタ26により、加算処理部22から出力される偶数次の高調波成分のうちの第2次高調波成分が抽出される。抽出された第2次高調波成分は、2次画像メモリ30に記憶される。
【0030】
2次画像メモリ30には、走査領域の全域に亘って各ビーム方向ごとに抽出された第2次高調波成分が記憶される。つまり、2次画像メモリ30には、走査領域の全域に亘って抽出された第2次高調波成分からなる2次画像データが記憶される。
【0031】
差分処理部24は、各ビーム方向ごとに、受信信号1メモリ18と受信信号2メモリ20から第1受信信号と第2受信信号を読み出し、そして、第1受信信号と第2受信信号の差分を算出する(減算処理する)。フェイズインバージョン法(またはパルスインバージョン法)の原理により、第1受信信号と第2受信信号の差分処理の結果として、偶数次の信号がキャンセルされて奇数次の信号のみが残る。つまり、受信信号に含まれる基本波と高調波成分のうち、偶数次の高調波成分がキャンセルされて基本波と奇数次の高調波成分が抽出される。
【0032】
3次バンドパスフィルタ(3次BPF)28は、第3次高調波に対応した通過帯域を備えたフィルタであり、3次バンドパスフィルタ28により、差分処理部24から出力される基本波と奇数次の高調波成分のうちの第3次高調波成分が抽出される。抽出された第3次高調波成分は、3次画像メモリ32に記憶される。
【0033】
3次画像メモリ32には、走査領域の全域に亘って各ビーム方向ごとに抽出された第3次高調波成分が記憶される。つまり、3次画像メモリ32には、走査領域の全域に亘って抽出された第3次高調波成分からなる3次画像データが記憶される。
【0034】
バブル識別部40は、2次画像メモリ30に記憶された2次画像データと3次画像メモリ32に記憶された3次画像データとを比較することにより、走査領域に含まれるバブルを識別する。バブル識別部40により、走査領域内のどの位置にバブルが存在するのかが識別される。なお、バブル識別部40における識別処理については後にさらに詳述する。
【0035】
画像形成部50は、Bモード画像メモリ52に記憶されたBモード画像データと、バブル識別部40におけるバブルの識別結果に基づいて、バブルに対応した画像部分に識別処理を施した超音波画像の画像データを形成する。なお、Bモード画像メモリ52には、走査領域の全域に亘って各ビーム方向ごとに得られた受信信号(第1受信信号と第2受信信号のうちの少なくとも一方)がBモード画像データとして記憶されている。画像形成部50において形成された画像データに対応する超音波画像は表示部54に表示される。
【0036】
本実施形態では、生体内に投与されるバブルの共振周波数を基準として送信周波数が設定され、バブルの膨張倍率を基準として送信音圧が設定されるため、例えば、バブルから得られる比較的大きな高調波成分が得られると共に、バブル以外の実組織などから得られる高調波成分が抑制される。
【0037】
そこで、以下において、送信条件等とバブルの挙動との関係について説明する。図2から図6は、超音波造影剤(バブル)の挙動について、バブル膜の振動を数値解析で得るシミュレータを作成して解析した結果を示している。
【0038】
図2は、バブルの膜振動のシミュレーション結果を示す図である。図2(A)は、送信周波数(中心周波数)1.5MHz、波数6波、音圧300kPaの超音波振動を半径1.25μmのバブルに与えた場合の膜振動であり、図2(B)は、送信周波数(中心周波数)4.5MHz、波数18波、音圧300kPaの超音波振動を同バブルに与えた場合の膜振動を示している。図2(A)(B)は共に、横軸を時間軸として縦軸にバブル半径を示している。なお、バブルに与える超音波エネルギー(音圧×パルス長)を図2(A)と(B)で等しい条件として解析した。
【0039】
図2(A)に示すように低周波1.5MHzでは3倍以上にバブルは膨張するが、図2(B)に示すように高周波数の4.5MHzでは1.4倍以下の膨張に抑えられている。バブルの条件として、市販造影剤ソナゾイド(登録商標)を想定し、バブルの直径2.5μm、バブルの膜厚3nm、それ以外のバブルのパラメータは、文献“Experimental and Theoretical Evaluation of Microbubble Behavior:IEEE Transaction on Ultrasonics,Ferroelectrics,and Frequency Control,Vol 47,No6,Nov 2000”で示された条件を用いた。この条件でのバブルの共振周波数は、ほぼ2.5MHzである。
【0040】
図3は、図2のバブルの膜振動によって発生する超音波信号を周波数解析した結果を示す図である。図3(A)の解析結果は図2(A)の膜振動に対応しており、図3(B)の解析結果は図2(B)の膜振動に対応している。
【0041】
基本波の信号量は、図3(A)の1.5MHzと図3(B)の4.5MHzでほぼ同じである。これに対し、第3高調波量は、1.5MHzでは基本波の−2dB程度で殆ど変わらないが、4.5MHzでは基本波の−20dB以上と大きく減少する。
【0042】
図4は、送信周波数と信号量との対応関係を示す図であり、図4には、音圧300kPaで異なる周波数で一定信号量(=音圧×時間)の振動を与えた場合の、バブル振動最大半径と、その時発生する1次(基本波=送信周波数)、2次、3次の高調波の解析結果のグラフが示されている。
【0043】
バブルは、低い周波数で大きく振動し、その結果発生する超音波信号量は、その基本周波数(送信周波数)ではそれほど差は無いが、第2、第3高調波では、低い周波数で送信したほうが、強い信号が得られることとなる。
【0044】
図5は、バブルの膨張倍率とバブルから得られる高調波成分の信号量との対応関係を示す図であり、半径1.25μmのバブルに周波数1.5、2.5、3.5、4.5MHz、音圧100、200、300、400kPaの条件で加える超音波エネルギーを一定にしてバブルに振動を与えた場合の、バブルの膨張倍率を横軸に、3次高調波信号量を縦軸にしてプロットしたものである。
【0045】
図5に示すように、バブルの膨張倍率が0.5から1.5の小さな範囲では、3次高調波の信号量が比較的小さく且つ膨張倍率の変化に対する信号量の変化が比較的大きい。また、バブルの膨張倍率が1.5以上の大きな範囲では、3次高調波の信号量が比較的大きく且つ膨張倍率の変化に対する信号量の変化が比較的小さい。このように、バブルを1.5倍以上に膨張させることで、強い3次高調波信号が得られることが推察される。また、バブルを2.5倍以上に膨張させても、高調波信号量の増加はほぼ横ばいとなる。
【0046】
以上のことから、バブル(マイクロバブル)を1.5倍から2.0倍程度に膨張させることで、バブルから非常に強い高調波信号を発生させることができる。また、バブルの共振周波数よりも低い周波数の超音波を与えることで、より低音圧の超音波信号でバブルを大きく膨張させることが可能であることが分かる。
【0047】
そこで、バブルを高感度に検出する条件を考える。超音波は、ティシュハーモニックで知られるように伝搬中に高調波成分を発生する。その高調波信号量は、ほぼ音圧の二乗に比例する。従って、共振周波数以下の低い周波数の超音波で送信することで、小さい音圧でバブルを1.5倍以上大きく膨張させることが可能となり、バブルからの高調波信号を増加させ、組織からの高調波信号を低減することが可能となる。更に、バブルを1.5倍以上に膨張させることで、バブルからは第3次以上の高調波成分も強くなる。
【0048】
図6は、コンベックスプローブを用いて、組織から発生する高調波とバブルからの高調波をシミュレーションした結果を示す図である。シミュレーションでは、送信周波数1.5MHz、深さ9cmで組織中の音圧が200kPaの条件で、組織伝搬中とバブルからの高次高調波信号を求めた。
【0049】
図6(A)は、この時のバブル膜の振動結果である。バブルの半径は、1.25μm程度から2.4μm程度と、約2倍に膨張している。図6(B)は、組織およびバブルの高調波信号を比較したものである。バブルからの高調波信号の信号量は、バブルを1.5倍以上に膨張させることで、基本波、第2次高調波、第3次高調波と次数が高くなっても殆ど減少しない。一方、組織からの高調波信号の信号量は、基本波、第2次高調波、第3次高調波と次数が高くなるにつれて、約−28dBずつ減少する。
【0050】
以上のことから、バブル共振周波数以下の低周波で励振することで、低音圧送信でもバブルを1.5倍以上に膨張することが可能となり、強い高調波信号が発生するともに、組織中の高調波信号を抑制することができることが分かる。
【0051】
本実施形態では、上述したバブルと他組織との間における高調波成分の差を利用してバブルを識別している。そこで、その識別の処理について以下に説明する。
【0052】
図7は、バブルの識別処理を説明するための図であり、図7には、図1のバブル識別部40内部の機能ブロック図が示されている。
【0053】
バブル判定部41は、2次画像メモリ30(図1)に記憶された2次画像データと3次画像メモリ32(図1)に記憶された3次画像データとを比較することにより、走査領域に含まれるバブルを識別する。2次画像データと3次画像データは、同一の走査領域から得られたデータであり、次数のみが互いに異なっている。
【0054】
バブル判定部41は、走査領域に対応した画像内の各画素ごとに、次数が異なることに伴う信号成分の変化を評価する。つまり、バブル判定部41は、走査領域内の1つの位置に対応した画素について、2次画像データ内の当該画素に対応した第2次高調波成分と3次画像データ内の当該画素に対応した第3次高調波成分とを比較する。
【0055】
そして、ある画素についての第2次高調波成分と第3次高調波成分との差が所定の閾値よりも大きい場合には、つまり、第2次高調波成分に比べて第3次高調波成分が大幅に減っている場合には、当該画素が他組織に対応した画素とされる。一方、ある画素についての第2次高調波成分と第3次高調波成分との差が所定の閾値以下である場合には、つまり、第2次高調波成分に比べて第3次高調波成分が殆ど減少していない場合には、当該画素がバブルに対応した画素とされる。こうして、走査領域内の全域に亘って、つまり走査領域に対応した画像内の全ての画素について、バブルか他組織かの判定が成され、画像内におけるバブルが識別される。
【0056】
なお、バブル判定部41における判定には、2次以上の高調波成分を利用することが望ましい。例えば、上述のように、第2次高調波成分と第3次高調波成分を利用することが望ましい。もちろん、これら以外の高調波が利用されてもよい。また、基本波成分と高調波成分とを比較してバブルを識別することも可能である。但し、基本波成分は、部位によっては非常に強い(大きな)信号となるため、画像に適したダイナミックレンジの調整などにより、画像データに変換される過程で頭打ちされる可能性がある。そのため、バブル判定部41における判定には、頭打ちされる前の基本波成分を利用することが望ましい。ちなみに、2次以上の高調波成分であれば、信号の強さ(大きさ)が比較的小さく適度な範囲に収まるため、頭打ちされる可能性が極めて低く、バブル判定部41における判定に適している。
【0057】
また、画像データの値がある一定値以下の画素については、バブルか否かの識別を行わないようにしてもよい。例えば、血管内などからの反射信号は非常に小さく、振動子や電気回路系からの信号の影響が支配的となる。そのため、次数が異なることに伴う信号成分の変化も小さくなり、バブルではないにも関わらず誤ってバブルと判定されてしまう可能性がある。そこで、例えば、画像データの値がある一定値以下の画素については判定の対象外とし、画像データの値がある一定値よりも大きい画素についてバブルの識別を行うようにする。
【0058】
バブル判定部41は、各フレームごとに、そのフレーム内の全ての画素について、バブルかそれ以外の他組織かを識別する。そして、互いに異なる時相におけるバブルの識別結果が後段のメモリに記憶される。例えば、連続する2つのフレームのうちの前のフレームに関する識別結果がフレーム1メモリ42に記憶され、後のフレームに関する識別結果がフレーム2メモリ43に記憶される。
【0059】
停留移動判定部44は、互いに異なる時相におけるバブルの識別結果に基づいて、移動しているバブルと停留しているバブルとを識別する。停留移動判定部44は、フレーム1メモリ42に記憶された前のフレームに関する識別結果とフレーム2メモリ43に記憶された後のフレームに関する識別結果とを比較する。
【0060】
そして、後のフレーム内のバブルと判定された画素のうち、前のフレーム内においてもバブルと判定された画素については、同じ位置(画素)に停止している停留バブルであると判定する。一方、後のフレーム内のバブルと判定された画素のうち、前のフレーム内においてバブルと判定されていなかった画素については、他の位置(画素)から移動してきた移動バブルであると判定する。
【0061】
そして、停留バブルに対応する画素を示した画像データ、例えば、停留バブルに対応する画素を「1」として他の画素を「0」とした停留バブル画像データが、停留バブル画像メモリ45に記憶される。一方、移動バブルに対応する画素を示した画像データ、例えば、移動バブルに対応する画素を「1」として他の画素を「0」とした移動バブル画像データが、移動バブル画像メモリ46に記憶される。
【0062】
以上のように、バブル識別部40において、画像内の各画素がバブルか他組織かに識別され、さらに、バブルと判定された各画素が停留バブルか移動バブルかに分別される。
【0063】
バブル識別部40の後段に設けられた画像形成部50は、Bモード画像メモリ52に記憶されたBモード画像データとバブル識別部40における識別結果に基づいて、移動バブルに対応した画像部分と停留バブルに対応した画像部分とに対して互いに異なる表示処理を施した超音波画像の画像データを形成する。
【0064】
図8は、バブルの識別結果を反映させた超音波画像を示す図であり、図7(図1)の画像形成部50において形成される超音波画像の一例を示している。そこで、既に図7に示した部分(構成)については図7の符号を利用しつつ、図8に示す超音波画像について説明する。
【0065】
画像形成部50は、Bモード画像メモリ52に記憶されたBモード画像データに基づいて、図8に示す超音波画像のベースとなるBモード画像を形成する。例えば、血管などの組織を含んだ白黒のBモード画像が形成される。
【0066】
そして、画像形成部50は、停留バブル画像メモリ45に記憶された停留バブル画像データに基づいて、停留バブルの画像をBモード画像上に合成する。例えば、白黒のBモード画像内において、停留バブルに対応する画素を青色に着色する。さらに、画像形成部50は、移動バブル画像メモリ46に記憶された移動バブル画像データに基づいて、移動バブルの画像をBモード画像上に合成する。例えば、白黒のBモード画像内において、移動バブルに対応する画素を赤色に着色する。
【0067】
こうして、図8に示す超音波画像が形成される。つまり、血管などの組織を含んだBモード画像上に丸印で示したバブルの画像が合成される。図示の都合上、図8においては、停留バブルを黒丸で表現して移動バブルを白丸で表現している。
【0068】
このように、本実施形態によれば、高調波成分を利用してバブルを識別するにあたって、次数が異なることに伴う信号成分の変化を評価することにより、比較的高い精度でバブルと他組織を識別することが可能になる。さらに、停留バブルと移動バブルに識別されるため、例えば図8に示すように、停留バブルと移動バブルに対して異なる表示処理を施した画像を形成することなどが可能になる。
【0069】
なお、例えば超音波画像内に関心領域が設定され、その関心領域内において停留バブルが蓄積される様子を計測してもよい。例えば、図8に示すように、一点鎖線の方形状の関心領域が設定され、その関心領域内において、停留バブルの信号強度の積算値を算出し、横軸を時間軸として縦軸に積算値を示したグラフを形成してもよい。
【0070】
また、本実施形態においては、基本波に対応した周波数帯域の送信パルスで超音波を送波し、高調波に対応した周波数帯域の超音波を受波して受信信号の高調波成分を抽出している。そのため、送信と受信を異なる振動子で行うようにしてもよい。
【0071】
図9は、本実施形態に適した振動子を説明するための図である。図9には、プローブ14(図1)が備える振動子の一例が示されており、振動子が送信用振動子14Tと受信用振動子14Rによって構成されている。
【0072】
内側に設けられた受信用振動子14Rは、例えば、受信用の高周波振動素子が128チャンネル配置されたものである。各高周波振動素子は、受信信号の高調波成分の周波数帯域に対応しており、その中心周波数は例えば7.2MHz程度が望ましい。また、受信用振動子14Rを挟むように、外側に2列の送信用振動子14Tが設けられている。各列の送信用振動子14Tは、例えば、送信用振動素子が64チャンネル配置されたものである。各送信用振動素子は、送信信号(送信パルス)の周波数帯域に対応しており、その中心周波数は、例えば1.4MHz程度が望ましい。
【0073】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0074】
10 信号発生部、14 プローブ、22 加算処理部、24 差分処理部、26 2次バンドパスフィルタ、28 3次バンドパスフィルタ、30 2次画像メモリ、32 3次画像メモリ、40 バブル識別部、50 画像形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バブルを含む診断領域に対して超音波を送受することにより診断領域から受信信号を得るプローブと、
受信信号に含まれる基本波成分と高調波成分とからなる複数次数の信号成分の中から互いに異なる次数の複数の信号成分を抽出する受信処理部と、
抽出された複数の信号成分同士を比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別するバブル識別部と、
前記識別の結果に基づいてバブルに対応した画像部分に識別処理を施した超音波画像の画像データを形成する画像形成部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記バブル識別部は、前記次数が異なることに伴う信号成分の変化を評価することによりバブルを識別する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記バブル識別部は、前記診断領域内の各位置で前記信号成分の変化を評価し、当該変化が所定値よりも小さい位置にバブルが存在すると判定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記バブル識別部は、前記診断領域に対応した画像内の各画素ごとに前記信号成分の変化を評価し、当該変化が所定値よりも小さい画素をバブルに対応した画素と判定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記バブル識別部は、2次以上の複数の信号成分同士を比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波診断装置において、
前記バブル識別部は、2次の信号成分と3次の信号成分とを比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記バブル識別部は、互いに異なる時相におけるバブルの識別結果に基づいて、移動しているバブルと停留しているバブルとを識別し、
前記画像形成部は、移動しているバブルに対応した画像部分と停留しているバブルに対応した画像部分とに対して互いに異なる表示処理を施した超音波画像の画像データを形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記バブルの膨張倍率を基準として設定される送信音圧で超音波を送波するようにプローブを制御する送信制御部をさらに有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波診断装置において、
前記送信制御部は、互いに位相が反転関係にある超音波の組を送波するようにプローブを制御し、
前記受信処理部は、前記超音波の組のうちの一方に対応した第1受信信号と他方に対応した第2受信信号を加算することにより偶数次の信号成分を抽出し、前記第1受信信号と第2受信信号の差分を算出することにより奇数次の信号成分を抽出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波診断装置において、
前記偶数次の信号成分から2次の信号成分を抽出するフィルタと、
前記奇数次の信号成分から3次の信号成分を抽出するフィルタと、
をさらに有し、
2次の信号成分と3次の信号成分とを比較することにより診断領域に含まれるバブルを識別する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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