説明

身体領域ネットワークにおける同期および非同期動作モードの間の動的切り換え技法

身体領域ネットワーク(BAN)において同期動作モードと非同期動作モードとの間で動的にスイッチングするための技法。ある実施形態は、BANの媒体アクセス制御(MAC)において非同期モードから同期モードに遷移する方法(400)を含む。スイッチ・モード・コマンドを受信した(S410)デバイスは:タイマーをスイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定する段階(S430)と;受信されたスイッチ・モード・コマンドをBAN内の他のデバイスに伝搬させる段階(S440)と;前記時間期間の満了に際して、同期モードのためにリザーブされているチャネルの組から選択されるチャネルに同調する段階(S460)と;デバイスを、同期モード動作におけるマスター・デバイスまたはスレーブ・デバイスとして動作するよう初期化する段階(S470)とを含む。もう一つの実施形態は、身体領域ネットワーク(BAN)のMACにおいて同期モードから非同期モードに遷移する方法(300)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年8月11日に出願された米国仮出願第61/087,751号の利益を主張する。
【0002】
本発明は概括的には、身体領域ネットワーク(BAN: body area network)における動作モードを切り換える技法に関する。
【背景技術】
【0003】
身体領域ネットワーク(BAN)は、主として、生命徴候〔バイタルサイン〕(vital signs)の恒久的な監視およびログ記録のために設計されている。図1に示される例示的なBANは、典型的には身につけることができる〔ウェアラブルである〕または人体中に埋め込まれることのできるセンサーである複数のスレーブ・デバイス120を含む。スレーブ・デバイス120は、生命に関する身体パラメータおよび動きをモニタリングし、無線媒体を通じて互いに通信する。スレーブ・デバイス120は、身体からのデータを一つまたは複数のマスター・デバイス130に送信できる。マスター・デバイス130から、そのデータはリアルタイムで病院、診療所または他所に、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、セルラー・ネットワークなどを通じて転送されることができる。
【0004】
BANの設計における重要な要因の一つは、スレーブ・デバイス120および/またはマスター・デバイス130のエネルギー効率である。効率的なエネルギー消費は、受信者デバイス(すなわちデータを受信するデバイス)を傾聴状態とスリープ状態との間で最適にデューティー・サイクリング〔稼働切り換え〕することによって達成できる。あるデバイスのラジオ〔無線機〕は、そのデバイスがデータを送信も受信もしないときはオフにされ、それによりエネルギーが節約される。デューティー・サイクリング(duty cycling)は、アイドルな傾聴(listening)、傍受(overhearing)時間、データ送信の衝突および制御のオーバーヘッドを最小限にするねらいで、媒体アクセス制御(MAC: medium access control)プロトコルによって実行され、これは最終的には電力節約につながる。
【0005】
関連技術では、いくつかの同期的および非同期的なMACデューティー・サイクリング技法が開示されている。同期的なデューティー・サイクリングは、定期的にスリープおよび覚醒スケジュールを広告し、諸受信者デバイスの覚醒時間を同期させることを含む。これは、クロックを同期させ、スケジュールを広告するために、ビーコンのような明示的な同期機構を必要とする。MACプロトコル、たとえばSMAC、TMACおよびDSMACなどは、アクティブな時間を同期させるために明示的な同期機構を使う。SMACプロトコルは非特許文献4に開示されている。TMACプロトコルは非特許文献5に記述されている。DSMACは非特許文献6で論じられている。
【0006】
同期デューティー・サイクリングMACプロトコルでは、デバイスのアクティブ時間は同期され、それによりデータのブロードキャストおよびマルチキャストが簡単かつ効率的になる。この技法は媒体予約、移動性サポートおよび共存サポートにも好適である。したがって、同期機構は本来的にサービス品質(QoS)サポートを保証するのに好適である。しかしながら、定期的な同期は高いオーバーヘッドを伴い、それはエネルギー消費を増大させる。さらに、送信者デバイス(すなわちデータを送るデバイス)は典型的にはグローバルに同期されたアクティブ時間の間に自分のパケットを送ろうとし、そのため衝突の可能性が高まる。潜在的な送信者デバイスが競合に負ける場合、次の機会は次のアクティブ時間の際にやってくる。さらに、マルチホップ通信では、転送デバイス(発信元デバイスと宛先デバイスとの間の経路上のデバイス)がデータ・パケットを受信したのち、そのパケットの送信を試みる前に次のアクティブ時間になるのまで待たねばならない。このように、ホップごとに、同期デューティー・サイクリング技法におけるレイテンシは比較的高い。
【0007】
非同期デューティー・サイクリングでは、送信者デバイスおよび傾聴者デバイス(すなわち、媒体を傾聴するデバイス)は独立したスリープおよび覚醒時間をもち、よって明示的な同期機構は必要とされない。プリアンブル・サンプリング技法が、WiseMAC、B-MACおよびX-MACのような非同期デューティー・サイクリングMACプロトコルにおいて広く使われている。WiseMACは非特許文献1においてさらに記述されている。B-MACは非特許文献2において記述されている。X-MACプロトコルは非特許文献3において発表されている。
【0008】
図2に示されるように、プリアンブル・サンプリング技法では、すべてのデバイスが定期的に媒体を短期間「TL」だけ傾聴し(listen)、次いで媒体がアイドルであれば時間「TCI」の期間にわたってスリープ状態に戻る。二つの相続く傾聴時間TLの間の時間TCIはチェック期間(check interval)である。時間期間の組み合わせTCI+TLが覚醒時間期間である。送信者デバイスが送達すべきデータをもつとき、送信者デバイスは、受信者デバイスのチェック時間期間TCIよりも長い覚醒(WUP: wake-up)メッセージ210を送信する。プリアンブル・サンプリング技法では、WUPメッセージ210はプリアンブルのみを担持し、他のいかなる情報も担持しない。受信者デバイスが覚醒するとき、受信者デバイスは媒体を感知し、WUPメッセージ210を検出する。これは、受信者デバイスに、データが完全に受信されるおよび/または媒体が再びアイドルになるまで覚醒状態に留まることを強制する。
【0009】
WUPメッセージ210の長さは、実際のデータが送信されるときに受信者デバイスが覚醒していることを保証するために、チェック期間TCIよりも長いことが必要である。受信者デバイスのチェック期間TCIが非常に長い場合、WUPメッセージ送信は非常に長い時間にわたって媒体を占有し、それにより他のデバイスが媒体にアクセスすることを妨げることがある。
【0010】
非同期デューティー・サイクリングの主たる利点は、その単純さである。同期オーバーヘッドがないので、エネルギー効率の改善につながりうる。デバイスは独立して覚醒スケジュールを更新できる。低デューティー・サイクルのネットワークでは、諸デバイスのスヌープ〔のぞき見〕(snoop)時間期間は時間的に分散しており、このことは衝突の確率とレイテンシを下げる。スヌープ時間期間は、すべてのデバイスが覚醒後、媒体を傾聴しなければならない最小期間である。しかしながら、非同期モードでのブロードキャスト/マルチキャストは非効率的である。さらに、媒体予約はサポートできない。結果として、そのような動作モードで提供および保証されることのできるQoSは限定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】El-Hoiydi, at el.、"WiseMAC: An Ultra Low Power MAC Protocol for the Downlink of Infrastructure Wireless Sensor Networks"、Proceedings of the Ninth IEEE Symposium on Computers and Communication, ISCC’04、pp.244-251, Alexandria, Egypt, June 2004
【非特許文献2】Polastre, at el.、"Versatile Low Power Media Access for Wireless Sensor Networks"、 ACM SenSys Nov. 2004
【非特許文献3】Buettner at el.、"X-MAC: A Short Preamble MAC Protocol for Duty-Cycled Wireless Sensor Networks" ACM SenSys 2006
【非特許文献4】Wei Ye, John Heidemann and Deborah Estrin, "Medium Access Control with Coordinated Adaptive Sleeping for Wireless Sensor Networks", IEEE/ACM Transactions on Networking, Vol. 12, No. 3, June 2004, pp 493-506
【非特許文献5】Tijs van Dam and Koen Langendoen, "An Adaptive Energy Efficient MAC Protocol for Wireless Sensor Networks", Proceedings of ACM SenSys, Nov. 2003, Los Angeles
【非特許文献6】Peng Lin, Chunming Qiao and Xin Wang, "Medium Access Control With A Dynamic Duty Cycle For Sensor Networks", Proceedings of the IEEE WCNC 2004, pp. 1534-1539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の議論から実感できるように、非同期的および同期的なデューティー・サイクリング技法は独立してある種のシナリオにおいて最適の性能を達成する。したがって、用途によって好適と見なされるようにしてこれらの異なる技法の間で動的に切り換えることによってBANのパフォーマンスを改善できるソリューションを提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある種の実施形態は、身体領域ネットワーク(BAN)の媒体アクセス制御(MAC)において同期モードから非同期モードに遷移する方法を含む。本方法は、各デバイスによって、スイッチ・モード・コマンドを受信する段階であって、前記スイッチ・モード・コマンドは、タイマーを該スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定することを引き起こす、段階と;前記時間期間の満了に際して、前記デバイスを非同期モードのためにリザーブされているチャネルの組のうちから選択されるあるチャネルに同調させる段階と;前記デバイスに前記リザーブされているチャネル上で非同期モードで動作させる段階とを含む。
【0014】
本発明のある種の実施形態は、身体領域ネットワーク(BAN)の媒体アクセス制御(MAC)において非同期モードから同期モードに遷移する方法をも含む。本方法は、各デバイスによって、スイッチ・モード・コマンドを受信する段階であって、前記スイッチ・モード・コマンドは、タイマーを該スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定することを引き起こす、段階と;受信された前記スイッチ・モード・コマンドをBAN内の他のデバイスに伝搬させる段階と;前記時間期間の満了に際して、同期モードのためにリザーブされているチャネルの組のうちから選択されるあるチャネルに同調する段階と;デバイスを、同期モード動作におけるマスター・デバイスまたはスレーブ・デバイスとして動作するよう初期化する段階とを含む。
【0015】
発明と見なされる主題は、付属の請求項において具体的に特定され、明確に記載される。本発明の以上のおよびその他の特徴および利点は、付属の図面とともに参照される以下の詳細な記述から明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】身体領域無線ネットワークの概略図である。
【図2】非同期的なデューティー・サイクリング技法の動作を示す図である。
【図3】本発明のある種の実施形態に基づいて実装される、同期モードから非同期モードに遷移する方法を記述するフローチャートである。
【図4】本発明のある実施形態に基づいて実装される、非同期モードから同期モードに遷移する方法を記述するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によって開示される実施形態が、本稿の革新的な教示の数多くの有利な使用の例でしかないことを注意しておくことは重要である。一般に、本願の明細書においてなされる陳述は、必ずしもさまざまな特許請求される発明のいずれかを限定するものではない。さらに、いくつかの陳述は、いくつかの発明的な特徴に当てはまるが他の発明的な特徴には当てはまらないこともある。一般に、特に示されるのでない限り、一般性を失うことなく、単数形の要素は複数であってもよく、複数形の要素は単数であってもよい。図面において、いくつかの図面を通じて、同様の参照符号は同様の部分を指す。
【0018】
MACプロトコルによって利用される非同期および同期デューティー・サイクリング技法はBANの動作モードとも称される。よって、同期および非同期MACデューティー・サイクリング技法はそれぞれ同期モードおよび非同期モードと称される。
【0019】
BANにおいて実行されるアプリケーションは、そのアプリケーションの要求に従って各モードの利点から裨益するよう同期モードと非同期モードとの間でスイッチングできる。これは、BANにおいては重要である。というのも、そのようなネットワークは多様な要求の集合をもつ幅広い範囲のアプリケーションをサポートするよう意図されているからである。たとえば、保証されるQoSがアプリケーションの要求であるときはデバイスは同期モードに切り換わってもよく、その後、超低電力動作のために非同期モードに戻ってもよい。ウェアラブルなマスター・デバイスが若干の埋め込まれたスレーブ・デバイスを管理する典型的なBANシナリオを考えてみる。患者がシャワーを浴びるとき、マスター・デバイスはインプラントされたスレーブ・デバイスとは直接的な通信レンジ内にないことがありうる。このシナリオでは、インプラントされたデバイスどうしの間の基本的な通信機能を提供するために、非同期モードを使うことができる。
【0020】
非同期モードはまた、覚醒またはスタートアップ機構として使うこともできる。ひとたびデバイスが覚醒し、ネットワークが形成されると、それらのデバイスは同期モードに切り換わりうる。もう一つの例として、デバイスは、マスター・デバイス・バッテリーが危機的に低いまたはマスター・デバイスが消失して他のどのデバイスもマスターの役割を果たせないときに、非同期モードに切り換わってもよい。
【0021】
本発明のある種の実施形態に基づいて開示されるように、モード間で動的にスイッチングする技法は、モード遷移をスケジューリングおよび調整するためのフックを提供するMACプロトコルによって実行される。ここで、モード切り換えをトリガーする決定は通信プロトコルのより上の層(たとえばアプリケーション層)によって実行される。以下で開示されるように、あるモードから別のモードへの切り換えはしばしば、同期モードと非同期モードで動作しているデバイスが同じチャネル上で共存することを防ぐために、異なるチャネル(単数または複数)にラジオ〔無線機〕を同調することを要求する。この目的で、周波数帯域またはチャネルは二つの組にグループ化される:一つの組は同期モードで動作するデバイスに制限され、他方の組は非同期モードで動作するデバイスに制限される。これら二つの組は互いに分離している(disjoint)。
【0022】
図3は、本発明のある実施形態に基づいて実装される、同期モードから非同期モードに遷移する方法を記述する、例示的であり限定しないフローチャート300を示している。BANは典型的には二つの型のデバイスを含む:マスターおよびスレーブである。ある好ましい実施形態では、マスター・デバイスはその一組のスレーブ・デバイスとローカル・ビーコンを使って通信し、一方、マスター・デバイスどうしはグローバル・ビーコンを使って互いに通信できる。
【0023】
S310では、デバイスはピア・デバイスからまたはより上位層からスイッチ・モード・コマンドを受信する。スイッチ・モード・コマンドは、たとえば、新しいモードが有効になる時間、非同期動作モードのために使われるべきチャネル(周波数帯)およびモードを切り換えるべきデバイスのグループ/サブグループの識別情報〔アイデンティティ〕を含んでいてもよい。ある実施形態では、時間の値は、モード切り換えが実行されるべきときの、現在時刻からの時間のオフセットとして指定されることができる。
【0024】
S320では、コマンドを受信したデバイスが、スイッチ・モード・コマンドにおいて同定されているグループに自分が属しているかどうかを検査し、もしそうであれば、実行はS330に続く。もしそうでなければ、そのデバイスはモードを変えることが要求されていないので、実行は終了する。すなわち、スイッチ・モード・コマンドにおいて同定されているグループに属さないデバイスは、同じチャネル上で同期モード動作を続ける。
【0025】
S330では、スイッチ・モード・コマンドを受信し、非同期モードに切り換えることを意図する各デバイスは、スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間の長さにタイマーを設定する。モード切り換えを遅らせる目的は、スイッチ・モード・コマンドがネットワーク全体を通じて伝搬してモード切り換えの準備をするための十分な時間を許容するためである。スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間のオフセットの値は、コマンドが伝搬するにつれ、新しいモードが有効になる正確な時間を反映するよう更新される。指定された時間が経過すると、コマンドを受信して非同期モードに切り換わることを意図するデバイスが同時に非同期モードの動作に切り換わり、これによりサービス中断を最小限にする。
【0026】
任意的に、S340において、マスター・デバイスがスイッチ・モード・コマンドをグローバル・ビーコンにおいてブロードキャストまたはマルチキャストする。動作モードの変更をピア・マスター・デバイス、すなわちピアツーピア接続で相互接続されているマスター・デバイスと調整するためである。ピア・デバイスまたはより上位の層からスイッチ・モード・コマンドを受信し、非同期モードに切り換わることを意図する各マスター・デバイスは、そのスレーブ・デバイスに、そのローカル・ビーコン内のスイッチ・モード・コマンドを介して、迫っているモード変更について通知してもよい。
【0027】
S350では、タイマーによって測定される時間期間が満了しているかどうかが検査され、もしそうであれば実行はS360に続き、そうでなければ実行はS350で待つ。S360では、各デバイスはスイッチ・モード・コマンドにおいて同定されたチャネル(すなわち、非同期チャネルの組の中のチャネルの一つ)に同調させられ、その後、S370において、デバイスは非同期モードにおいてルーチン〔通常〕・タスクの実行を開始する。
【0028】
本発明のある実施形態によれば、これらのタスクは、BANの媒体が空いているときに送信者デバイスから一つまたは複数のターゲット受信者デバイスに覚醒(WUP)メッセージを送り、送信者デバイスのスニッフ〔吸入〕(sniff)時間期間の間に少なくとも一つのターゲット受信者デバイスがREADY〔レディ/準備完了〕メッセージをもって応答するかどうかを判別し、READYメッセージが受信されなかった場合には送信者デバイスによって送信されたWUPメッセージの数が所定の閾値を超えているかどうかを判定し、WUPメッセージの数が所定の閾値を超えている場合には送信者デバイスをTURN〔交代〕モードで動作するよう設定することを含む。この動作モードは、「身体領域ネットワーク用の媒体アクセス制御(MAC)プロトコルにおけるデューティー・サイクリング技法」と題する同時係属中の出願においてより詳細に記述されている。スニッフ時間期間は、WUPメッセージ送信後の固定した時間期間であり、スニッフ期間の間、送信者装置は媒体を傾聴する。
【0029】
BANの動作の間、一つまたは複数のスレーブ・デバイスはマスター(単数または複数)からスイッチ・モード・コマンドを受信しないことがあり、および/または一つまたは複数のマスター・デバイスが黙って消えてしまうことがありうることを注意しておくべきである。これは、たとえば、チャネル上の干渉/衝突またはマスター・デバイスの故障のためでありうる。そのような状況に対処するため、マスター・デバイスから所定の時間期間にわたってビーコンを受信しなかったスレーブ・デバイスはチャネルをスキャンして、自分が加入できる別のマスター・デバイスからのビーコンを検出しようとする。スレーブ・デバイスが所定の時間期間内に加入できるマスター・デバイスを見出さない場合には、スレーブ・デバイスはマスター・デバイスが消失したと結論し、非同期動作モードに遷移する。この場合、すべてのスレーブ・デバイスは、曖昧さを避けるためにデフォルトの(あらかじめ設定された)チャネルに遷移する。
【0030】
図4は、本発明のある実施形態に基づいて実装される、非同期モードから同期モードに遷移する方法を記述する例示的であり限定しないフローチャート400を示している。
【0031】
S410では、デバイスがピア・デバイスまたはより上位の層(たとえばアプリケーション層)からスイッチ・モード・コマンドを受信する。コマンドはたとえば、新しいモードが有効になる将来の時間、(同期動作モードのためのリザーブされているチャネルのうちで)同期動作モードのために同定されるチャネルおよびそのスイッチ・モード・コマンドが意図されている対象となるデバイスのグループ識別情報〔アイデンティティ〕を含んでいてもよい。本発明のある実施形態では、時間の値は、モード切り換えが実行されるべきときの、現在時刻からの時間のオフセットとして指定されることができる。
【0032】
S420では、コマンドを受信したデバイスが、スイッチ・モード・コマンドにおいて同定されているグループに自分が属しているかどうかを検査し、もしそうであれば、実行はS430に続く。もしそうでなければ、そのデバイスは動作モードを変えることを要求されていないので、実行は終了する。すなわち、スイッチ・モード・コマンドにおいて同定されているグループに属さないデバイスは、同じチャネル上で非同期モード動作を続ける。
【0033】
S430では、同期モードに切り換えることを意図する各デバイスは、受信されたスイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間の長さにタイマーを設定する。モード切り換えを遅らせる目的は、スイッチ・モード・コマンドがネットワーク全体を通じて伝搬してモード切り換えの準備をするための十分な時間を許容するためである。出て行くスイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間のオフセットの値は、モード切り換えが実行されるべき正確な時間を反映するよう更新される。指定された時間が経過すると、モードを切り換えることを意図するデバイスが同時に同期モードの動作に切り換わり、これによりサービス中断を最小限にする。
【0034】
S440において、スイッチ・モード・コマンドを受信したデバイスがそのスイッチ・モード・コマンドをブロードキャストまたはマルチキャストしてもよい。動作モードの変更をピア・デバイス、すなわちピアツーピア接続で相互接続されているデバイスと調整するためである。S450では、タイマーによって測定される時間が満了しているかどうかが検査され、もしそうであれば実行はS460に続き、そうでなければ実行はS450で待つ。
【0035】
S460では、モードを切り換える準備のできた各デバイスはスイッチ・モード・コマンドにおいて同定されたチャネル、すなわち、同期モード・チャネルの組の中のチャネルの一つに同調させられる。S470において、デバイスはMACプロトコルの同期動作モードにおいて実装される所定の役割(たとえばマスターまたはスレーブ)に初期化される。S480では、各マスター・デバイスは新しいチャネルをスキャンして、そのチャネルが他のマスター・デバイスによって占有されているかどうかを判定する。すなわち、遷移する各マスター・デバイスは、現在同調しているチャネルにおいて他のグローバル・ビーコンがあるかどうか検査する。S490において、そのチャネルが他のマスター・デバイスによって占有されているかどうかが検査され、もしそうであればS492において、その遷移するマスター・デバイスはその既存のビーコン・グループに加入し、そのグローバルおよびローカル・ビーコンの送信を開始する。もしそうでなければ、チャネルは空きであり、S494において、その遷移するマスター・デバイスは新しい時間ラウンドを開始し、そのグローバル・ビーコンを送信する。その後遷移するマスター・デバイスはそのチャネルが占有されていることを見出し、S492で最初のマスターに加わることになる。
【0036】
本発明のある好ましい実施形態によれば、媒体へのアクセスは固定した反復される継続期間の時間ラウンドに分割される。ここで、時間ラウンドは、所定数のスーパーフレームを含むよう設計されたデータ構造であり、各スーパーフレームは固定数の時間スロットを含む。
【0037】
スレーブ・デバイスがモードを切り換えるとき、そのスレーブ・デバイスはチャネルをスキャンして、そのスレーブ・デバイスが加入できるマスター・デバイスのローカル・ビーコンを検出しようとすることを注意しておく。ひとたびそのようなマスター・デバイスが検出されたら、スレーブ・デバイスはこのマスター・デバイスに加わり、そのローカル・ビーコンの追跡を続ける。
【0038】
上述したように、BANの動作の間、一つまたは複数のデバイスがメッセージ衝突またはチャネル上の干渉のためにスイッチ・モード・コマンドを受信しないことがありうる。そのためそれらのデバイスは同期モードにスイッチしないことになってしまう。この障害を防止するために、マスター・デバイスは、その近隣者(neighbor)デバイスのすべてが同期モードに切り換わったかどうかを検証する。一つまたは複数の近隣者デバイスが遷移していなければ、そのアイドル時間の間に、マスター・デバイスは非同期モードに戻って(そのアイドル時間の期間にわたって)スイッチ・モード・コマンドを再ブロードキャストまたは再マルチキャストする。
【0039】
本発明の原理はハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアまたはそれらの任意の組み合わせとして実装されうる。さらに、ソフトウェアはプログラム好ましくは、プログラム記憶ユニットまたはコンピュータ可読媒体上に有形的に具現されたアプリケーション・プログラムとして実装される。アプリケーション・プログラムは、任意の好適なアーキテクチャをもつ機械にアップロードされ、これによって実行されてもよい。好ましくは、該機械は、一つまたは複数の中央処理ユニット(「CPU」)、メモリおよび入出力インターフェースのようなハードウェアを有するコンピュータ・プラットフォーム上で実装される。コンピュータ・プラットフォームはまた、オペレーティング・システムおよびマイクロ命令コードを含んでいてもよい。本稿で記載されているさまざまなプロセスおよび機能は、マイクロ命令コードの一部であっても、アプリケーション・プログラムの一部であっても、それらの任意の組み合わせであってもよく、CPUによって実行されてもよい。これは、そのようなコンピュータまたはプロセッサが明示的に示されているか否かにはよらない。さらに、追加的なデータ記憶ユニットおよび印刷ユニットのようなさまざまな他の周辺ユニットがコンピュータ・プラットフォームに接続されていてもよい。
【0040】
本稿で記載されるあらゆる例および条件付きの言辞は、読者が、本願の原理および当該技術を進歩させる発明者によって寄与される概念を理解するのを支援するという教育目的のために意図されているのであって、そのような個別的に記載されている例および条件に限定することなく解釈されるものである。さらに、本発明の原理、側面および実施形態ならびにその個別的な例を記載する本稿におけるあらゆる陳述は、その構造的および機能的な等価物の両方を包含することが意図されている。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物および将来開発される等価物、すなわち構造にかかわりなく同じ機能を実行する任意の開発された要素の両方を含むことが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチ・モード・コマンドの受信に際して身体領域ネットワーク(BAN)の媒体アクセス制御(MAC)において同期モードから非同期モードに遷移する方法であって、
タイマーを前記スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定する段階と;
前記時間期間の満了に際して、デバイスを非同期モードのためにリザーブされているチャネルの組から選択されるチャネルに同調させる段階と;
前記デバイスに前記リザーブされているチャネル上で非同期モードで動作させる段階とを含む、
方法。
【請求項2】
前記デバイスにおいて前記スイッチ・モード・コマンドを受信する段階と、受信したスイッチ・モード・コマンドをBAN内の他のデバイスに伝搬させる段階とをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スイッチ・モード・コマンドが少なくとも、モード切り換えが実行されるべき時、非同期モード動作のためのチャネルおよびモードを切り換えるべきデバイスのグループの識別情報を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記スイッチ・モード・コマンドがピア・デバイスまたはアプリケーション層から送られる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記スイッチ・モード・コマンドを受信した前記デバイスによって、前記デバイスが前記スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されているデバイスのグループに属するかどうかを調べる段階をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
非同期モードで動作している各スレーブ・デバイスを、該スレーブ・デバイスが所定の時間期間にわたってマスター・デバイスと通信できないとき、前記非同期モード・チャネルの組から選択されるあらかじめ設定されたチャネルに同調させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
コンピュータ実行可能なコードを記憶したコンピュータ記憶媒体であって、前記コンピュータ実行可能なコードは、実行されると、コンピュータまたはプロセッサに、身体領域ネットワーク(BAN)の媒体アクセス制御(MAC)において同期モードから非同期モードに遷移するプロセスであって:
デバイスにおけるスイッチ・モード・コマンドの受信に際して、タイマーをスイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定する段階と;
前記時間期間の満了に際して、前記デバイスを非同期モードのためにリザーブされているチャネルの組から選択されるチャネルに同調させる段階と;
前記デバイスに前記リザーブされているチャネル上で非同期モードで動作させる段階とを含む、
プロセスを実行させる、コンピュータ記憶媒体。
【請求項8】
スイッチ・モード・コマンドの受信に際して、身体領域ネットワーク(BAN)の媒体アクセス制御(MAC)において非同期モードから同期モードに遷移する方法であって:
タイマーを前記スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定する段階と;
受信された前記スイッチ・モード・コマンドをBAN内の他のデバイスに伝搬させる段階と;
前記時間期間の満了に際して、同期モードのためにリザーブされているチャネルの組から選択されるチャネルに同調する段階と;
デバイスを、同期モード動作におけるマスター・デバイスまたはスレーブ・デバイスとして動作するよう初期化する段階とを含む、
方法。
【請求項9】
前記スイッチ・モード・コマンドが少なくとも、モード切り換えが実行されるべき時、同期モード動作のためのチャネルおよびモードを切り換えるべきデバイスのグループの識別情報を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記スイッチ・モード・コマンドがピア・デバイスまたはアプリケーション層から送られる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記スイッチ・モード・コマンドを受信した前記デバイスによって、前記デバイスが前記スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されているデバイスのグループに属するかどうかを調べる段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
マスター・デバイスとして初期化された各デバイスがさらに:
同期モードのためにリザーブされたチャネルをスキャンして、前記少なくとも一つの他のマスター・デバイスによって送信される少なくとも一つのグローバル・ビーコンを検出しようとする段階と;
前記チャネルが少なくとも一つの他のマスター・デバイスによって占有されている場合に、前記少なくとも一つの他のマスター・デバイスの既存のビーコン・グループに加わる段階と;
前記チャネルが前記少なくとも一つの他のマスター・デバイスによって占有されていない場合に、同期モードに切り換わったマスター・デバイスによって、前記チャネル上でグローバル・ビーコンを送信する段階とを実行する、
請求項8記載の方法。
【請求項13】
各デバイスがスレーブ・デバイスとして初期化されるとき、
同期モードのためにリザーブされたチャネルをスキャンして、少なくとも一つのマスター・デバイスによって送信される少なくとも一つのローカル・ビーコンを検出しようとする段階と;
前記チャネル上でローカル・ビーコンが検出される場合に前記少なくとも一つのマスター・デバイスに加わる段階とをさらに含む、
請求項8記載の方法。
【請求項14】
マスター・デバイスによって、そのすべての近隣デバイスが同期モードに切り換わったかどうかを検査する段階と、
少なくとも一つの近隣デバイスが同期モードに切り換わっていなかった場合、アイドルタイムの間非同期モードに戻って前記スイッチ・モード・コマンドを前記マスター・デバイスからそのそれぞれの近隣デバイスに送信する段階とをさらに含む、
請求項13記載の方法。
【請求項15】
コンピュータ実行可能なコードを記憶したコンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータ実行可能なコードは、実行されると、コンピュータまたはプロセッサに、身体領域ネットワーク(BAN)の媒体アクセス制御(MAC)において非同期モードから同期モードに遷移するプロセスであって:
デバイスにおけるスイッチ・モード・コマンドの受信に際して、タイマーを前記スイッチ・モード・コマンドにおいて指定されている時間期間に設定する段階と;
受信された前記スイッチ・モード・コマンドをBAN内の他のデバイスに伝搬させる段階と;
前記時間期間の満了に際して、同期モードのためにリザーブされているチャネルの組から選択されるチャネルに同調する段階と;
デバイスを、同期モード動作におけるマスター・デバイスまたはスレーブ・デバイスとして動作するよう初期化する段階とを含む、
プロセスを実行させる、コンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−530368(P2011−530368A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522595(P2011−522595)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/IB2009/053494
【国際公開番号】WO2010/018518
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】