説明

車両のバックプレート取付フランジ

【課題】バックプレートが取り付けられる合わせ面へのシール剤の塗布を生産性良く正確に行うことができる車両のバックプレート取付フランジを提供すること。
【解決手段】車幅方向に沿って配置されるアクスルの左右両端に取り付けられる部材であって、ドラムブレーキのバックプレートが取り付けられ、該バックプレートが取り付けられる合わせ面にシール剤4が塗布される車両のバックプレート取付フランジ2において、該バックプレート取付フランジ2の前記バックプレートが取り付けられる合わせ面に、バックプレートに形成された貫通孔の位置を示す凹部12を形成する。又、前記凹部12を鍛造と同時に形成し、該凹部12の深さをバックプレートが取り付けられる合わせ面の切削加工によって該凹部12が除去されない大きさとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に沿って配置されるアクスルの左右両端に取り付けられる車両のバックプレート取付フランジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
四輪車両にはアクスルが車幅方向に沿って配置されており、このアクスルの左右両端にはバックプレート取付フランジがそれぞれ取り付けられており、各バックプレート取付フランジにはドラムブレーキを車両の内側(車両の中央側)から覆うとともに、ドラムブレーキのブレーキシュー等のブレーキ機構が取り付けられるバックプレート(ダストカバー)が取り付けられている。
【0003】
ところで、車両において急ブレーキによって車輪が完全に停止状態にロックされてしまうと制動作用と操舵作用が著しく低下するため、これを防ぐためのアンチロックブレーキ装置(以下、「ABS装置」と称する)が設けられる場合がある。このABS装置は、車輪の回転速度を検出する車輪速センサと、ブレーキ時に車輪速センサによって検出される車輪の速度に応じてブレーキに供給する油圧を制御するコントローラを含んで構成されており、車輪がロックする直前に若干の制動解除を行って制動作用と操舵作用の低下を防ぐ機能を果たす。
【0004】
斯かるABS装置が備える車輪速センサは、アクスルシャフト(駆動輪)又はアクスルハブ(従動輪)に同軸に取り付けられたセンサリングの回転を磁気的に検出するものであって、各バックプレート取付フランジに取り付けられ、その先端のセンサ部は、バックプレート取付フランジとこれに取り付けられたバックプレートにそれぞれ形成された孔を貫通してセンサリングに対向している。
【0005】
ところで、車両にはABS装置を備える仕様と備えない仕様が設定される場合があるが、部品の共通化のためにバックプレートには車輪速センサのセンサ部が貫通するための貫通孔が仕様の如何を問わず形成されている。これに対して、バックプレート取付フランジには仕様によって貫通孔が形成されているものと、形成されていないものが使い分けられる。即ち、ABS装置を備える仕様の車両のバックプレート取付フランジには貫通孔が形成され、ABS装置を備えない仕様の車両のバックプレート取付フランジには貫通孔が形成されていない。
【0006】
他方、一般的にバックプレート取付フランジは鍛造品であって、そのバックプレートが取り付けられる合わせ面には粗い切削加工が施される程度であるため、この合わせ面とこれに取り付けられるバックプレートとの間に隙間があると、その隙間からダストや水が侵入するという問題が発生する。
【0007】
そこで、バックプレート取付フランジとバックプレートの合わせ面にシール剤を塗布して隙間をシールすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第2557842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、通常、シール剤はバックプレート取付フランジの合わせ面に塗布されるが、前述のようにバックプレート取付フランジには車両の仕様によって貫通孔が形成されているものといないものがある反面、バックプレートには部品の共通化のために仕様に関わらず全て貫通孔が形成されているため、貫通孔が形成されていないアクスルハブにシール剤を塗布する場合には、相手方のバックプレートの貫通孔の位置が分からないため、その貫通孔の周縁位置に合わせて正確にシール剤を塗布することは困難である。
【0010】
バックプレート取付フランジの合わせ面にバックプレートの貫通孔の周縁位置に合わせ正確にシール剤が塗布されない場合には、バックプレートをバックプレート取付フランジに取り付けた際にシール剤の塗布位置がバックプレートの貫通孔の位置となり、シール不良が発生するため、シール剤の塗布には注意が必要であり、このことが生産性を悪くする原因となっていた。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、バックプレートが取り付けられる合わせ面へのシール剤の塗布を生産性良く正確に行うことができる車両のバックプレート取付フランジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車幅方向に沿って配置されるアクスルの左右両端に取り付けられる部材であって、ドラムブレーキのバックプレートが取り付けられ、該バックプレートが取り付けられる合わせ面にシール剤が塗布される車両のバックプレート取付フランジにおいて、前記バックプレートが取り付けられる合わせ面に、バックプレートに形成された貫通孔の位置を示す凹部を形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記凹部を鍛造と同時に形成し、該凹部の深さをバックプレートが取り付けられる合わせ面の切削加工によって該凹部が除去されない大きさとしたことを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記バックプレートを取り付けた状態で、該バックプレートの貫通孔から見える位置に前記凹部を形成したことを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の発明において、前記バックプレートが取り付けられる合わせ面の前記凹部の外側にシール剤を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、貫通孔が形成されていないバックプレート取付フランジであっても、その合わせ面に形成された凹部を目印としてシール剤を相手方のバックプレートの貫通孔の周縁に合わせて生産性良く正確に塗布することができ、バックプレートをバックプレート取付フランジに取り付けた際にシール剤の塗布位置がバックプレートの貫通孔の位置とならず、シール不良が発生する等の不具合の発生が防がれる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、凹部を鍛造と同時に形成するようにしたために生産性が高められる。又、凹部の深さをアクスルハブの合わせ面の切削加工によって該凹部が完全に除去されないで残る大きさ(深さ)としたため、切削加工によって凹部が消えて無くなることがなく、この凹部を目印としてバックプレート取付フランジの合わせ面にシール剤を生産性良く正確に塗布することができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、バックプレートをバックプレート取付フランジに取り付けた状態で、該バックプレートの貫通孔から見える位置に凹部を形成したため、貫通孔が形成されるバックプレート取付フランジにあっては、凹部が貫通孔の加工によって切除され、この凹部がバックプレート取付フランジとバックプレートとの間のシール性を害することがない。尚、貫通孔が形成される仕様のバックプレート取付フランジの合わせ面へのシール剤の塗布は貫通孔の周縁に沿って生産性良く正確になされるため、凹部が貫通孔によって切除されても問題はない。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、バックプレート取付フランジの合わせ面の凹部の外側にシール剤を塗布するようにしたため、シール剤で凹部を埋める必要がなく、シール剤の塗布量を節約することができる。又、バックプレートをバックプレート取付フランジに取り付けた際にシール剤がバックプレートの貫通孔の位置にはみ出てきても凹部にてシール剤を受けることができて漏れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ABS装置を備える仕様の車両のアクスル部分を車両の内側から見た斜視図である。
【図2】ABS装置を備える仕様の車両のバックプレート取付フランジとバックプレートとの分解斜視図である。
【図3】ABS装置を備えない仕様の車両のバックプレート取付フランジとバックプレートとの分解斜視図である。
【図4】貫通孔が形成されないバックプレート取付フランジの合わせ面の正面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】バックプレートの合わせ面の部分正面図である。
【図7】バックプレートをバックプレート取付フランジに取り付けた状態の貫通孔部分をバックプレート側から見た部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1はABS装置を備える仕様の車両のアクスル部分を車両の内側から見た斜視図、図2は同車両のバックプレート取付フランジとバックプレートとの分解斜視図、図3はABS装置を備えない仕様の車両のバックプレート取付フランジとバックプレートとの分解斜視図、図4は貫通孔が形成されないバックプレート取付フランジの合わせ面の正面図、図5は図4のA−A線断面図、図6はバックプレートの合わせ面の部分正面図、図7はバックプレートをバックプレート取付フランジに取り付けた状態の貫通孔部分をバックプレート側から見た部分正面図である。
【0023】
図1に示すように、四輪車両の後部には円筒状のアクスル1が車幅方向に沿って配置されており、該アクスル1の左右両端(図1には右端のみ示す)には本発明に係るフランジ状のバックプレート取付フランジ2がそれぞれ配置されている。そして、各バックプレート取付フランジ2の車両の外側となる合わせ面には不図示のドラムブレーキの車両の内側を覆う円板状のバックプレート(ダストカバー)3が取り付けられ、両者の合わせ面はシール剤4(図4参照)によってシールされている。
【0024】
ここで、アクスル1の左右両端には図2に示すスピンドル5(図2には一方のみ示す)が結着され、該スピンドル5に前記バックプレート取付フランジ2が溶接されているとともに、該スピンドル5にはアクスルハブを介して不図示の後輪が回転可能に取り付けられる。又、図1に示すように、アクスル1の左右両端部はリヤサスペンションを構成する左右一対のトレーリングアーム6(図1には一方のみ図示)にブラケット7とゴムブッシュ8を介してそれぞれ支持されている。尚、図1において、9はバックプレート3を貫通して不図示のドラムブレーキに接続されたパーキングケーブルである。
【0025】
ところで、車両にはABS装置を備える仕様と備えない仕様とがあり、ABS装置を備える仕様の車両においては、図1及び図2に示すように車輪速センサ10がバックプレート取付フランジ2に車両の内側から取り付けられており、該車輪速センサ10の先端のセンサ部10aは、バックプレート取付フランジ2に形成された円形の貫通孔2aとバックプレート3に形成された円形の貫通孔3aを貫通してバックプレート3の内面側に露出している。ここで、バックプレート取付フランジ2とバックプレート3にそれぞれ形成された貫通孔2a,3aは同径であって、バックプレート3をバックプレート取付フランジ2に取り付けた状態では両貫通孔2a,3a同士は連通して1つの円孔を形成する。尚、図1に示すように車輪速センサ10からはケーブル11が延びており、このケーブル11は不図示のコントローラに接続されている。又、図4及び図6に示すように、バックプレート取付フランジ2とバックプレート3には、スピンドル5が貫通するための大径の円孔2b,3bがそれぞれ形成されており、バックプレート取付フランジ2の大径の円孔2bの周囲にボルトが締め込まれるネジ孔が4箇所形成され、該ネジ孔に対応するバックプレート3の大径の円孔3bの周囲にはボルト挿通用の孔が4箇所形成されている。これらのボルト挿通用の孔に不図示のボルトを挿入し、該ボルトをバックプレート取付フランジのネジ孔にねじ込むことによってバックプレート3がバックプレート取付フランジ2に固定されている。
【0026】
他方、ABS装置を備えない仕様の車両においては、図3に示すようにバックプレート取付フランジ2には図1及び図2に示す車輪速センサ10は取り付けられず、従って、バックプレート取付フランジ2には図2に示す貫通孔2aは形成されていない。これに対して、バックプレート3には、部品共通化のために、ABS装置を備えない仕様の車両に設けられるものであっても、図3及び図6に示すように貫通孔3aが形成されているバックプレート3を使用する。
【0027】
而して、バックプレート取付フランジ2の外面の合わせ面にバックプレート3が取り付けられるが、前述のように両者間はシール剤4によってシールされる。ここで、シール剤4はバックプレート取付フランジ2の合わせ面に塗布され、詳細には、大径の円孔2b及び貫通孔2aの外側で4箇所のネジ孔よりも内側に塗布される。このとき、貫通孔2aが形成された図2に示すバックプレート取付フランジ2へのシール剤4の塗布は貫通孔2aと円孔2bの周縁に沿って正確になされるが、貫通孔2aが形成されていない図3及び図4に示すバックプレート取付フランジ2に対しては目印となる貫通孔2aが存在しないため、該バックプレート取付フランジ2の合わせ面にシール剤4をバックプレート3の貫通孔3aの周縁に沿って塗布することは困難であったことは前述の通りである。
【0028】
そこで、本実施の形態では、図4に示すように、バックプレート取付フランジ2の合わせ面に、バックプレート3に形成された貫通孔3aの位置を示す円穴状の3つの凹部12を形成している。ここで、バックプレート取付フランジ2は鍛造品であって、凹部12はバックプレート取付フランジ2の鍛造と同時に形成される。又、鍛造によって成形されたバックプレート取付フランジ2の合わせ面は粗く切削加工されるが、図5に示すように、切削加工される前の凹部12の深さhは合わせ面の切削加工によって厚さtだけ削り取られた後においても凹部12の一部が合わせ面に残るよう、切削加工代tよりも大きく設定されている(h>t)。
【0029】
更に、凹部12は、図7に示すように、バックプレート取付フランジ2にバックプレート3を取り付けた状態で、該バックプレート3の貫通孔3aから見える位置(つまり、貫通孔3aの範囲内)に形成され、図4に示すように、シール剤4はバックプレート取付フランジ2に形成された凹部12の外側に塗布される。
【0030】
以上のように、本実施の形態では、貫通孔2aが形成されていない図4に示すバックプレート取付フランジ2であっても、その合わせ面に形成された凹部12を目印として相手方のバックプレート3の貫通孔3aの周縁に沿い貫通孔3a内に入り込まないようにシール剤4を生産性良く正確に塗布することができ、バックプレート3をアクスルハブ2に取り付けた際にシール剤4がバックプレート3の貫通孔3aの位置とならず、シール不良が発生する等の不具合の発生が防がれる。
【0031】
又、本実施の形態では、凹部12をバックプレート取付フランジ2の鍛造と同時に形成するようにしたために生産性が高められる。そして、凹部12の深さhをバックプレート取付フランジ2の合わせ面の切削加工代tよりも大きく設定したため(h>t)、切削加工によって凹部12が消えて無くなることがなく、この凹部12を目印としてバックプレート取付フランジ2の合わせ面にシール剤4を生産性良く正確に塗布するこことができる。
【0032】
更に、。本実施の形態では、バックプレート3をバックプレート取付フランジ2に取り付けた状態で、該バックプレート3の貫通孔3aから見える位置に凹部12を形成したため、貫通孔2aが形成されるバックプレート取付フランジ2にあっては、凹部12がバックプレート3の貫通孔3aと略同径に形成される貫通孔2aの切削加工によって切除され、この凹部12がバックプレート取付フランジ2とバックプレート3との接合面のシール性を害することがない。尚、貫通孔2aが形成される仕様のバックプレート取付フランジ2の合わせ面へのシール剤4の塗布は貫通孔2aの周縁に沿って生産性良く正確になされるため、凹部12が貫通孔2aによって切除されても問題はない。
【0033】
又、本実施の形態では、バックプレート取付フランジ2の合わせ面の凹部12の外側にシール剤4を塗布するようにしたため、シール剤4が凹部12に入り込むことがなく、シール剤4の塗布量を節約することができる。そして、バックプレート3をバックプレート取付フランジ2に取り付けた際にシール剤4がバックプレート3の貫通孔3aの位置にはみ出てきても凹部12にてシール剤4を受けることができて漏れることがない。
【0034】
尚、以上の実施の形態ではバックプレート取付フランジ2の合わせ面に円穴状の3つの凹部12を形成したが、凹部12の数と形状は任意に設定可能である。又、本実施の形態では、バックプレート取付フランジ2はアクスルハブを介して不図示の後輪が回転可能に取り付けられるスピンドル5に溶接されており、所謂従動輪用の構造としているが、これに対して、所謂駆動輪用であってアクスルシャフトを使用するアクスルでは、アクスルの左右両端に配置されてアクスルシャフトを回転可能に支持するアクスルハブに一体にバックプレート取付フランジを形成することができ、このような構成としても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 アクスル
2 バックプレート取付フランジ
2a バックプレート取付フランジの貫通孔
3 バックプレート
3a バックプレートの貫通孔
4 シール剤
10 車輪速センサ
12 凹部
h 凹部の切削加工前の深さ
t アクスルハブに切削加工代


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に沿って配置されるアクスルの左右両端に取り付けられる部材であって、ドラムブレーキのバックプレートが取り付けられ、該バックプレートが取り付けられる合わせ面にシール剤が塗布される車両のバックプレート取付フランジにおいて、
前記バックプレートが取り付けられる合わせ面に、バックプレートに形成された貫通孔の位置を示す凹部を形成したことを特徴とする車両のバックプレート取付フランジ。
【請求項2】
前記凹部を鍛造と同時に形成し、該凹部の深さをバックプレートが取り付けられる合わせ面の切削加工によって該凹部が除去されない大きさとしたことを特徴とする請求項1記載の車両のバックプレート取付フランジ。
【請求項3】
前記バックプレートを取り付けた状態で、該バックプレートの貫通孔から見える位置に前記凹部を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の車両のバックプレート取付フランジ。
【請求項4】
前記バックプレートが取り付けられる合わせ面の前記凹部の外側にシール剤を塗布することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両のバックプレート取付フランジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17816(P2012−17816A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156388(P2010−156388)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】