説明

車両のピラー部構造

【課題】ドアヒンジ取付部からピラーに入力した側突荷重を荷重伝達部材に効率良く伝達する。
【解決手段】フロントピラー14の閉断面26内に設けられたヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jは、ピラーアウタパネル20の車幅方向外側壁部20Cにおけるドアヒンジ取付部20Dのフロントサイドドア16側からピラーインナパネル22の車幅方向内側壁部22Cまで車幅内側方向に伸びている。また、ヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jの車幅方向内側にフロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eが対向配置されている。この結果、側突荷重F1は、ヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、30Jとフロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eとに沿って伝達されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両のピラー部構造に係り、特に、ドアヒンジが取り付けられた車両のピラー部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ドアヒンジが取り付けられた車両のピラー部構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、ドアヒンジがナットとボルトとによってフロントピラーのアウタサイドパネルに螺子止めされている。
【特許文献1】特開平8−20246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術では、車両側突時にドアに作用した側突荷重がドアヒンジを介してピラーに入力した場合に、ピラーのヒンジ取付部とピラーから車両内側部材への荷重伝達部との間で捩れが生じる可能性がある。この結果、側突荷重を、ピラーを介して車両内側部に設けた荷重伝達部材に効率良く伝達するためには、ピラーの板厚を厚くする等の対策が必要になり、大幅な重量増加となる。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、ドアヒンジ取付部からピラーに入力した側突荷重を荷重伝達部材に効率良く伝達できる車両のピラー部構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の車両のピラー部構造は、車室の車幅方向外側に長手方向を車両上下方向に沿って配置され、車幅方向外側部を構成するアウタパネルと、車幅方向内側部を構成するインナパネルとを備えたピラーと、前記ピラーのアウタパネルのドアヒンジ取付部に設けられ、前記ドアヒンジ取付部のドア側から前記ピラーのインナパネルまで車幅内側方向に伸びる稜線部が形成された補強部材と、前記補強部材の稜線部の車幅方向内側に対向配置された荷重伝達部材と、を有することを特徴とする。
【0006】
車両側突時にドアに作用した側突荷重は、ピラーのアウタパネルのドアヒンジ取付部に入力し、ドアヒンジ取付部に設けられた補強部材におけるドアヒンジ取付部のドア側からピラーのインナパネルまで車幅内側方向に伸びる稜線部に沿って伝達され、さらに、荷重は補強部材の稜線部の車幅方向内側に対向配置された荷重伝達部材に伝達される。この結果、ピラーの断面潰れを抑制できるため、ドアヒンジ取付部からピラーに入力した側突荷重が荷重伝達部材に効率良く伝達される。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の車両のピラー部構造において、前記荷重伝達部材は前記補強部材の稜線部の車幅方向内側に対向配置された稜線部を有すると共に、前記補強部材の稜線部の端部と前記荷重伝達部材の稜線部の端部とが対向する位置が前記ピラーの長手直角断面の図心よりドア側にあることを特徴とする。
【0008】
荷重が補強部材の稜線部から、荷重伝達部材に設けられ、補強部材の稜線部の車幅方向内側に対向配置された稜線部に伝達される。また、補強部材の稜線部の端部と荷重伝達部材の稜線部の端部とが対向する位置がピラーの長手直角断面の図心よりドア側にあるため、補強部材と荷重伝達部材とで荷重によりピラーのドアヒンジ取付部が長手直角断面の図心を中心に車幅方向内側へ捩れるのを抑制できる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の車両のピラー部構造において、前記補強部材と車両側面視において重なる位置にドアインパクトビームの取付部を設けたことを特徴とする。
【0010】
補強部材と車両側面視において重なる位置にドアインパクトビームの取付部が設けられている。このため、車両側突時にドアインパクトビームが車幅方向へ移動する場合に、ドアインパクトビームの取付部からの荷重が車両上下方向への伝達経路を介することなく補強部材に伝達される。このため、インパクトビームからの荷重が補強部材に効率良く伝達される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の本発明は、ドアヒンジ取付部からピラーに入力した側突荷重を荷重伝達部材に効率良く伝達できる。
【0012】
請求項2記載の本発明は、側突荷重によるピラーの長手直角断面図心を中心とする捩れを抑制できる。
【0013】
請求項3記載の本発明は、インパクトビームからの荷重を補強部材に効率良く伝達できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における車両のピラー部構造の一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0015】
なお、図中矢印UPは車両上方方向を示し、図中矢印FRは車両前方方向を示し、図中矢印INは車幅内側方向を示している。
【0016】
図5には、本発明の一実施形態に係る車両のピラー部構造を適用した車両が側面図で示されている。
【0017】
図5に示される如く、本実施形態の車両10における車室12の前端部の車幅方向両外側部には、左右一対のフロントピラー14が略車両上下方向に沿って配置されている。また、フロントピラー14には、フロントサイドドア16が上下2つのドアヒンジ18によって取り付けられている。
【0018】
図1には、図5の1−1断面線に沿った拡大断面図が示されている。
【0019】
図1に示される如く、フロントピラー14は、フロントピラー14の車両外側部を構成するピラーアウタとしてのピラーアウタパネル20と、フロントピラー14の車両内側部を構成するピラーインナとしてのピラーインナパネル22とを備えており、閉断面構造となっている。また、フロントピラー14の閉断面26の内部には、断面コ字状のピラーアウタリインフォースメント24が、ピラーアウタパネル20に沿って配置されている。
【0020】
なお、閉断面構造とは、対象とする断面の開口外周部が実質的に連続して高強度及び高剛性になっている断面構造であって、実質的にとは、対象とする断面が外周長に比べて小さな孔等が部分的に形成されていても、断面の直角方向の手前側又は奥側では孔等が無く、開口部周囲の部材が連続している構成も含むことを意味する。
【0021】
より具体的に説明すると、ピラーアウタパネル20は開口部を車幅方向内側に向けた断面ハット形状とされており、ピラーインナパネル22は開口部を車幅方向外側に向けた断面ハット形状とされている。また、ピラーアウタパネル20の車両前方側の開口縁部には、車両前方へ向かってフランジ20Aが形成されており、ピラーアウタパネル20の車両後方側の開口縁部には、車両後方へ向かってフランジ20Bが形成されている。一方、ピラーインナパネル22の車両前方側の開口縁部には、車両前方へ向かってフランジ22Aとフランジ22Aが形成されており、ピラーインナパネル22の車両後方側の開口縁部には、車両後方へ向かってフランジ22Bが形成されている。
【0022】
ピラーアウタパネル20のフランジ20Aとピラーインナパネル22のフランジ22Aとがスポット溶接等によって結合されており、フロントピラー14の車両前方側のフランジ14Aとなっている。また、ピラーアウタパネル20のフランジ20Bとピラーインナパネル22のフランジ22Bとが、ピラーアウタリインフォースメント24の車両後方側の開口縁部に形成されたフランジ24Aを挟んでスポット溶接等によって結合されており、フロントピラー14の車両後方側のフランジ14Bとなっている。
【0023】
また、フロントピラー14の閉断面26の内部における車両下方側のドアヒンジ18のピラー側取付部18Aと対向する部位(ドアヒンジ18のピラー側取付部18Aの車幅方向内側となる同一部位)には、補強部材としてのヒンジリインフォースメント30が配置されている。また、フロントピラー14の閉断面26の外部における車幅方向内側のヒンジリインフォースメント30と対向する部位(ヒンジリインフォースメント30の車幅方向内側となる同一部位)には、荷重伝達部材としてのフロントピラーガセット32が配置されている。
【0024】
図2には、ヒンジリインフォースメント30とフロントピラーガセット32とが車幅方向外側斜め後方から見た斜視図で示されており、図3には、ヒンジリインフォースメント30とフロントピラーガセット32とが車幅方向外側斜め後方から見た分解斜視図で示されている。
【0025】
図3に示される如く、ヒンジリインフォースメント30は車幅方向内側が開口部36となった箱形状となっており、車幅方向外側壁部30Aにはドアヒンジ18のピラー側取付部18Aを取り付けるためのヒンジ取付孔38が複数形成されている。また、ヒンジリインフォースメント30の車幅方向外側壁部30Aの前端からは、車幅方向外側に向って前壁部30Bが形成されており、車幅方向外側壁部30Aの上端からは、車幅方向内側に向って上壁部30Cが形成されている。さらに、ヒンジリインフォースメント30の車幅方向外側壁部30Aの下端からは、車幅方向内側に向って下壁部30Dが形成されており、車幅方向外側壁部30Aの後端からは、車幅方向内側に向って後壁部30Eが形成されている。
【0026】
ヒンジリインフォースメント30の後壁部30Eは、車両前方上側から車両後方下側へ向って傾斜していると共に、車幅方向外側前方から車幅方向内側後方へ傾斜した傾斜壁部となっており、車両上下方向に所定の間隔を開けて補強用のビード40、42が車幅方向に形成されている。なお、これらのビード40、42は、後壁部30Eに全幅に形成されており、車両後方へ向って台形状に突出している。
【0027】
ヒンジリインフォースメント30の前壁部30Bと上壁部30Cとの結合部は稜線部30Fとなっており、前壁部30Bと下壁部30Dとの結合部は稜線部30Gとなっている。また、ヒンジリインフォースメント30の後壁部30Eと上壁部30Cとの結合部は稜線部30Hとなっており、後壁部30Eと下壁部30Dとの結合部は稜線部30Jとなっている。
【0028】
ヒンジリインフォースメント30の上壁部30Cの車幅方向内側端からは車両上方へ向ってフランジ30Kが形成されており、後壁部30Eの車幅方向内側端からは車両後方へ向ってフランジ30Lが形成されている。また、ヒンジリインフォースメント30の下壁部30Dの車幅方向内側端からは車両下方へ向ってフランジ30Mが形成されている。
【0029】
ヒンジリインフォースメント30のフランジ30K、30L、30Mは互いに連結されており、車両側面視において略コ字状となっている。また、各フランジ30K、30L、30Mには所定の間隔を開けて取付孔46が形成されている。
【0030】
一方、フロントピラーガセット32は車幅方向から見た形状が、開口部を車両前方へ向けたコ字状となっており、後壁部32Aの車両上下方向両端には、車両前方へ向って上壁部32Bと下壁部32Cとがそれぞれ形成されている。また、フロントピラーガセット32の上壁部32Bと下壁部32Cの車両上下方向から見た形状は三角形となっている。
【0031】
フロントピラーガセット32の後壁部32Aと上壁部32Bとの結合部は稜線部32Dとなっており、後壁部32Aと下壁部32Cとの結合部は稜線部32Eとなっている。また、フロントピラーガセット32の上壁部32Bの前端からは車両上方へ向ってフランジ32Fが形成されており、上壁部32Bの車幅方向外側端からは車両上方へ向ってフランジ32Gが形成されている。また、フロントピラーガセット32の下壁部32Bの前端からは車両下方へ向ってフランジ32Hが形成されており、下壁部32Cの車幅方向外側端からは車両下方へ向ってフランジ32Jが形成されている。
【0032】
フロントピラーガセット32の後壁部32Aの車幅方向内側端からは車両後方内側に向ってフランジ32Kが形成されており、後壁部32Aの車幅方向外側端からは車両後方に向ってフランジ32Lが形成されている。なお、フロントピラーガセット32のフランジ32F、32G、32H、32J、32K、32Lはフロントピラーガセット32の周縁部に沿って互いに連結されている。また、フロントピラーガセット32のフランジ32F、32G、32H、32J、32K、32Lには所定の間隔を開けて取付孔50が形成されている。
【0033】
図1に示される如く、ダッシュパネル52には、車幅方向外側端から車両後方向に向ってフランジ52Aが形成されており、フランジ52Aは、フロントピラー14のフランジ14Aの車幅方向内側面にスポット溶接等によって結合されている。また、ダッシュパネル52には、フロントピラーガセット32のフランジ32Kが取付孔50を通るボルト等の締結部材54によって締結されている。なお、図示を省略したが、フロントピラーガセット32のフランジ30Fとフランジ30Hもダッシュパネル52に取付孔50を通るボルト等の締結部材54によって締結されている。
【0034】
フロントピラーガセット32のフランジ32Lは、ピラーインナパネル22の車幅方向内側壁部22Cの後部22Dを挟んでヒンジリインフォースメント30のフランジ30Lにボルト等の締結部材58によって結合されている。また、締結部材58はフロントピラーガセット32の取付孔50と、ヒンジリインフォースメント30の取付孔46と、ピラーインナパネル22の車幅方向内側壁部22Cの後部22Dに形成した取付孔60を通過している。
【0035】
なお、図示を省略したが、フロントピラーガセット32のフランジ32G、32Jも、ピラーインナパネル22の車幅方向内側壁部22Cを挟んでヒンジリインフォースメント30のフランジ30K、30Mにボルト等の締結部材58によって結合されている。
【0036】
ピラーアウタパネル20の車幅方向外側壁部20Cにおける前後方向中間部の車幅方向外側面はドアヒンジ取付部20Dとなっており、ドアヒンジ取付部20Dにはドアヒンジ18のピラー側取付部18Aがボルト等の締結部材64によって取り付けられている。なお、ピラーアウタパネル20の車幅方向外側壁部20Cにはピラーアウタリインフォースメント24の車幅方向外側壁部24Bが重合している。また、ヒンジリインフォースメント30の車幅方向外側壁部30Aに形成されたヒンジ取付孔38に挿入された締結部材64が、ピラーアウタリインフォースメント24の車幅方向外側壁部24Bとピラーアウタパネル20の車幅方向外側壁部20Cとを貫通している。
【0037】
従って、ヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jは、ピラーアウタパネル20の車幅方向外側壁部20Cにおけるドアヒンジ取付部20Dのフロントサイドドア16側(車両後方側)からピラーインナパネル22の車幅方向内側壁部22Cまで車幅内側方向へ荷重を伝達可能に直線状に伸びている。
【0038】
また、図2に示される如く、ヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jの車幅方向内側にフロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eが対向配置されている。即ち、ヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jと、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eとが、同一部位P1に向かって伸びている。
【0039】
この結果、車両側突時にフロントサイドドア16に作用した側突荷重(図1の矢印F1)は、ドアヒンジ18を介してフロントピラー14のピラーアウタパネル20のドアヒンジ取付部20Dに入力し、ドアヒンジ取付部20Dの車幅方向内側に対向配置されたヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、30Jに沿って伝達され、さらに、荷重はヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、30Jからフロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eに伝達されるようになっている。
【0040】
また、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eとヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jとが対向する部位P1が、フロントピラー14の長手直角断面の図心Z1よりフロントサイドドア16側(車両後方側)にある。
【0041】
なお、フロントピラー14の長手直角断面の図心Z1とは、フロントピラー14のピラーアウタパネル20とピラーインナパネル22とで囲まれた空間部の図心である。
【0042】
このため、側突荷重F1によりフロントピラー14におけるピラーアウタパネル20のドアヒンジ取付部20Dが、フロントピラー14の長手直角断面の図心Z1を中心に、車幅方向内側(図1の反時計回転方向となる矢印A方向)へ捩れるのを、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eとヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jとの反力(図1の矢印F2)で抑制できるようになっている。
【0043】
図4には、フロントサイドドア16の前部が車幅方向外側斜め後方から見た斜視図で示されている。
【0044】
図4に示される如く、フロントサイドドア16は、フロントサイドドア16の車外側を構成し車外に露出するドアアウタパネル66と、フロントサイドドア16の車内側を構成するドアインナパネル68とを周縁部で互いに結合した中空状のドア本体を有する構造となっている。また、ドア本体内には図示を省略したドアガラスやドアガラス昇降装置等が配置されており、ドアアウタパネル66の外周縁部66Aとドアインナパネル68の外周縁部68Aはヘミング加工によって結合されている。
【0045】
フロントサイドドア16の内部には、インパクトビーム70が長手方向を車両前後方向に沿って配置されており、インパクトビーム70はパイプ材で構成されている。また、インパクトビーム70の前端部70Aはインパクトビームエアクッション72を介してドアインナパネル68のインパクトビーム取付部68Bにスポット溶接等によって結合されている。
【0046】
より具体的に説明すると、インパクトビームエアクッション72の縦壁部72Aに形成された凹部72Bに、インパクトビーム70の前端部70Aが溶接等によって結合されている。また、インパクトビームエアクッション72の縦壁部72Aの前端部に形成したフランジ72Cがドアインナパネル68のインパクトビーム取付部68Bに溶接等によって結合されている。
【0047】
図1に示される如く、ドアインナパネル68の前壁部68Cには、ドアヒンジ18のドア側取付部18Bが、ドアインナパネル68の前壁部68Cの車両後方側に設けた補強板73を介してボルト等の締結部材74によって取り付けられている。
【0048】
また、ヒンジリインフォースメント30の車幅方向外側に、インパクトビームエアクッション72の前端縁部のフランジ72Cが結合されたドアインナパネル68のインパクトビーム取付部68Bが配置されており、ヒンジリインフォースメント30とドアインナパネル68のインパクトビーム取付部68Bとが車両側面視(車両を車幅方向から見た状態)において重なるようになっている。
【0049】
従って、車両側突時にインパクトビーム70が車幅内側方向へ移動する場合には、インパクトビーム70の先端部70Aからの荷重(図1の矢印F3)が、インパクトビームエアクッション72を介して車両上下方向への伝達経路を介することなく、ドアインナパネル68におけるインパクトビーム取付部68Bの車幅方向内側に配置されたヒンジリインフォースメント30へ伝達されるようになっている。
【0050】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0051】
本実施形態では、車両側突時にフロントサイドドア16に車幅方向外側から車幅方向内側へ向かって作用した側突荷重(図1の矢印F1)が、ドアヒンジ18を介してフロントピラー14のピラーアウタパネル20のドアヒンジ取付部20Dに入力する。
【0052】
この際、本実施形態では、フロントピラー14の閉断面26内に設けられたヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jが、ピラーアウタパネル20の車幅方向外側壁部20Cにおけるドアヒンジ取付部20Dのフロントサイドドア16側(車両後方側)からピラーインナパネル22の車幅方向内側壁部22Cまで車幅内側方向へ荷重を伝達可能に直線状に伸びている。また、ヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jの車幅方向内側に、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eが対向配置されている。
【0053】
この結果、車両側突時にフロントサイドドア16に作用した側突荷重F1の一部は、ドアヒンジ18を介してピラーアウタパネル20のドアヒンジ取付部20Dに設けられたヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、30Jに沿って伝達され、さらに、荷重はヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、30Jからフロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eに伝達され、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eに沿ってダッシュパネル52へ伝達される。
【0054】
また、図1に示される如く、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eとヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jとが対向する部位P1がフロントピラー14の長手直角断面の図心Z1よりフロントサイドドア16側(車両後方側)にある。
【0055】
このため、側突荷重F1によりピラーアウタパネル20のドアヒンジ取付部20Dが長手直角断面の図心Z1を中心に、車幅方向内側(図1の反時計回転方向となる矢印A方向)へ捩れるのを、フロントピラーガセット32の稜線部32D、32Eとヒンジリインフォースメント30の稜線部30H、稜線部30Jとの反力(図1の矢印F2)で抑制できる。即ち、矢印A方向のモーメントと逆方向のモーメントを発生させることができる。
【0056】
従って、本実施形態では、フロントピラー14の断面潰れとフロントピラー14の捩れを抑制できる。このため、ドアヒンジ18からフロントピラー14に入力した側突荷重をヒンジリインフォースメント30を介してフロントピラーガセット32に効率良く伝達できる。また、ヒンジリインフォースメント30を使用するため、フロントピラー14の閉断面26内に新たな補強部材を設ける必要がないので、部品点数の増加を抑え軽量化が可能となる。
【0057】
また、本実施形態では、ヒンジリインフォースメント30の車幅方向外側に、インパクトビームエアクッション72の前端縁部のフランジ72Cが結合されたドアインナパネル68のインパクトビーム取付部68Bが配置されており、ヒンジリインフォースメント30と、ドアインナパネル68のインパクトビーム取付部68Bとが車両側面視(車両を車幅方向から見た状態)において重なっている。
【0058】
このため、車両側突時にインパクトビーム70が車幅内側方向へ移動する場合には、インパクトビーム70の先端部70Aからの荷重(図1の矢印F3)が、インパクトビームエアクッション72を介して車両上下方向への伝達経路を介することなく、ヒンジリインフォースメント30とフロントピラーガセット32とへ効率良く伝達される。
【0059】
この結果、ヒンジリインフォースメント30とフロントピラーガセット32とにより高い反力が発生し、フロントピラー14に発生するモーメントをさらに低減できる。
【0060】
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、補強部材として箱形状のヒンジリインフォースメント30を配置したが、ヒンジリインフォースメント30の形状は箱形状以外の形状としてもよい。また、ヒンジリインフォースメント30以外の補強部材を配置してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、荷重伝達部材としてフロントピラーガセット32を使用したが、これに代えて、フロントピラーガセット32以外の荷重伝達部材によって、フロントピラー14とダッシュパネル52とを連結する構成としてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、ダッシュパネル52にフロントピラーガセット32を結合したが、ダッシュパネル52に代えて、ダッシュパネルリインホースメント等の他の剛性部材(ボデー)にフロントピラーガセット32を結合した構成としてもよい。
【0063】
また、本発明の車両のピラー部構造はフロントピラー14以外の他のピラーにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図5の1−1断面線に沿った拡大断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両のピラー部構造のヒンジリインフォースメントとフロントピラーガセットを示す車幅方向外側斜め後方から見た斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両のピラー部構造のヒンジリインフォースメントとフロントピラーガセットを示す車幅方向外側斜め後方から見た分解斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両のピラー部構造のドア内部を示す車幅方向外側斜め後方から見た斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る車両のピラー部構造が適用された車両を示す側面図である。
【符号の説明】
【0065】
10 車両
14 フロントピラー
16 フロントサイドドア
18 ドアヒンジ
20 ピラーアウタパネル
20D ピラーアウタパネルのドアヒンジ取付部
22 ピラーインナパネル
24 ピラーアウタリインフォースメント
26 閉断面
30 ヒンジリインフォースメント(補強部材)
30A ヒンジリインフォースメントの車幅方向外側壁部
30F ヒンジリインフォースメントの稜線部
30G ヒンジリインフォースメントの稜線部
30H ヒンジリインフォースメントの稜線部
30J ヒンジリインフォースメントの稜線部
32 フロントピラーガセット(荷重伝達部材)
32D フロントピラーガセットの稜線部
32E フロントピラーガセットの稜線部
38 ヒンジリインフォースメントのヒンジ取付孔
52 ダッシュパネル
68 ドアインナパネル
68B インパクトビーム取付部
70 インパクトビーム
72 インパクトビームエアクッション
Z1 フロントピラーの長手直角断面の図心
P1 フロントピラーガセットの稜線部とヒンジリインフォースメントの稜線部とが対向する部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の車幅方向外側に長手方向を車両上下方向に沿って配置され、車幅方向外側部を構成するアウタパネルと、車幅方向内側部を構成するインナパネルとを備えたピラーと、
前記ピラーのアウタパネルのドアヒンジ取付部に設けられ、前記ドアヒンジ取付部のドア側から前記ピラーのインナパネルまで車幅内側方向に伸びる稜線部が形成された補強部材と、
前記補強部材の稜線部の車幅方向内側に対向配置された荷重伝達部材と、
を有することを特徴とする車両のピラー部構造。
【請求項2】
前記荷重伝達部材は前記補強部材の稜線部の車幅方向内側に対向配置された稜線部を有すると共に、前記補強部材の稜線部の端部と前記荷重伝達部材の稜線部の端部とが対向する位置が前記ピラーの長手直角断面の図心よりドア側にあることを特徴とする請求項1に記載の車両のピラー部構造。
【請求項3】
前記補強部材と車両側面視において重なる位置にドアインパクトビームの取付部を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両のピラー部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−120221(P2008−120221A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305644(P2006−305644)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】