説明

車両の作動部品用の電動駆動機構および車両の作動部品の駆動方法

本発明は、少なくとも1つの定義された目標位置へ運動可能な作動部品と、この作動部品がトレランス領域にあるか否かを検出する検出装置とが設けられている、車両の作動部品用の電動駆動機構に関する。本発明によれば、作動部品の停止位置に応じてトレランス領域が定められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念記載の車両の作動部品用の電動駆動機構、ならびに、請求項11の上位概念記載の車両の作動部品の駆動方法に関する。
【0002】
従来技術
欧州特許第0878338号明細書から、電動駆動機構によって定義された目標位置へ向かって運動ないし移動する車両の作動部品が公知である。ここで目標位置の周囲にはトレランス領域が定義されており、目標位置のほか、トレランス領域の上方限界値および下方限界値が固定の絶対値として電動駆動機構の信号処理装置のメモリに格納されている。作動部品が定義されたトレランス領域内にある場合には、目標位置に達するまで作動部品が自動的に駆動される。作動部品が車両のスライディングルーフである場合、定義された目標位置へ向かう運動には外部の機械的影響による強い製造差がともなうので、実際には目標位置での停止は確実には行われない。むしろ、作動部品は定義された目標位置からずれた停止位置で停止することのほうがふつうである。
【0003】
前述した電動駆動機構を用いて、作動部品がトレランス領域の内部にないことをもってトリガ条件とする制御を行う場合、幾つかのケースでは当該のトリガ条件が他のケースよりも早く満足されてしまう。なぜなら、作動部品の実際の停止位置にばらつきがあり、定められた目標位置からトレランス領域の境界付近までずれることがしばしばあるからである。停止位置が、境界付近、すなわち、トレランス領域の上方限界値ないし下方限界値の近傍に来ると、短時間の弱い機械的影響であっても作動部品が運動してトレランス領域から外れてしまい、その結果、停止位置が目標位置の直接近傍にあるときよりも早くトリガ条件が満足されてしまうことになる。
【0004】
発明の開示
発明の解決しようとする課題
したがって、本発明の課題は、実際の停止位置が目標位置からどれだけ離れているかに関係なく、満足すべきトリガ前提条件がつねに等しくなることが保証される電動駆動機構ないしモータの駆動方法を提供することである。
【0005】
課題を解決するための手段
この課題は、請求項1の特徴を有する車両の作動部品用の電動駆動機構、ならびに、請求項11の特徴を有する車両の作動部品の駆動方法によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】車両ルーフとして構成された作動部品を運動させるための電動駆動機構の全体図である。
【図2】2つの目標位置への運動の実施例を示す図である。
【0007】
本発明の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。本発明の各特徴は発明の詳細な説明、特許請求の範囲および図に示されており、それぞれ単独でも任意に組み合わせても本発明の対象となりうる。
【0008】
本発明は、トレランス領域を定める固定の絶対的な限界値を設けたりこの絶対的な限界値を電動駆動機構のメモリに格納したりせず、実際の停止位置、すなわち、作動部品の運動後の実際位置に応じてトレランス領域を設定するという着想を基礎としている。有利には、検出装置を用いて求められた停止位置に基づいて、運動過程の後にトレランス領域が計算される。このようにすれば、停止位置がメモリに格納された目標位置からどれだけずれているかに関係なく、作動部品の実際位置から上方限界値ないし下方限界値までの距離がつねに等しくなることが保証される。
【0009】
本発明の有利な実施形態では、ユーザが制御スイッチによって相応の設定を行ったとしても、作動部品がトレランス領域内にあることを検出装置が検出しているかぎり、電動駆動機構、特にその信号処理装置により、作動部品のさらなる運動が阻止される。こうした制御に対しては、本発明の電動駆動機構が特に有利である。なぜなら、トレランス領域の絶対値が実際の停止位置に基づいて定められることにより、ユーザにとって障害的な、トレランス領域内での作動部品の短時間の運動が回避されるからである。
【0010】
本発明の別の有利な実施形態によれば、作動部品が振動などの外部影響のためにトレランス領域を出てしまった場合にのみ、目標位置へ向かう運動が自動的に再び可能となる。トレランス領域を外れた後の作動部品のさらなる運動は、第1のケースでは自動的に、つまりトレランス領域を外れたことが識別された直後に行われ、第2のケースではユーザによる相応の設定がなされてから行われる。作動部品、特に車両ルーフが運動してトレランス領域を外れた場合、第2のケースでは、定義された目標位置に対してあらためて移動命令が定められ、新たに目標位置へ向かう運動が行われる。これに対して、作動部品がトレランス領域内にあるあいだは移動命令が維持され、新たな目標位置への運動は生じない。これは、ルーフが目標位置の充分近傍まで来ているときにユーザにとって障害的な短時間の運動を阻止するためである。
【0011】
特に有利には、トレランス領域はパラメータ化可能である。つまり、種々の目標位置または種々の適用事例に対して、それぞれ異なるトレランス領域を設定し、電動駆動機構のメモリに格納することができる。
【0012】
本発明の別の有利な実施形態によれば、検出装置はモータの電機子軸と共働する回転センサを有している。検出装置は有利には信号処理装置の一部である。有利には、少なくとも1つの磁界センサが設けられており、これは特にはホールセンサと、相互に相対的に回転可能な磁気部分を有する少なくとも1つのリング状磁石とを有する。有利には、リング状磁石はモータの電機子軸に回転可能に固定に取り付けられており、2つのホールセンサが共働して実際位置ないし移動方向を識別する。検出装置によって求められた実際の停止位置に基づいて、トレランス領域の絶対的な限界値が導出される。
【0013】
特に、車両ルーフが制御される場合、通常、当該のルーフがどちら側から目標位置に近づくに応じて(つまりルーフが閉鎖方向へ動くか開放方向へ動くかに応じて)、目標位置として2つの位置が設定される。この互いに離れた2つの位置に基づいてトレランス領域が導出されるとすると、トレランス領域が必然的にこれら2つの位置を含み、目標位置を中心とした当該のトレランス領域は大きくなる。ここで、トレランス領域を求めるための基礎として目標位置ではなく実際の停止位置を用いることにより、目標位置が二義的に定義されていても、トレランス領域が最適な大きさを有することが保証される。
【0014】
本発明の別の有利な実施形態では、作動部品は2つの終端位置のあいだを運動するユニットである。有利には、少なくとも1つの目標位置は当該の終端位置である。
【0015】
本発明の電動駆動機構は車両ルーフ、特にスライディングルーフ、リフティングルーフ、ルーフブラインド、日除け幌などの作動部品を運動させるのに適している。車両ルーフには振動などの大きな機械的影響が作用する。こうした振動により、運動しているルーフがいったん到達した位置あるいはトレランス領域からさらに運動してしまうこともきわめて多い。
【0016】
本発明の対象となるのは、車両の作動部品用の電動駆動機構、特に車両ルーフ用の電動駆動機構において、作動部品の運動過程後の実際の停止位置に応じてトレランス領域が計算される構成である。当該の実際の停止位置がトレランス領域の絶対的な限界値を求める際の計算の基礎となる。
【0017】
本発明の電動駆動機構に当てはまる特徴はすべて本発明のモータの駆動方法にも当てはまる。
【0018】
本発明のその他の特徴および利点を図示の実施例に則して以下に説明する。
【0019】
本発明の実施例
図中、同一の要素および同様の機能を有する要素には同じ参照番号を付してある。
【0020】
図1には、スライディングルーフとして構成された作動部品2に対する電動駆動機構1が示されている。白抜き矢印3はモータ4と作動部品2との機械的結合、特に図示されていない伝達機構の中間回路を介した結合を表している。
【0021】
モータ4によって車両の作動部品2は2つの終端位置5,6のあいだを運動可能であり、その最大の移動可能範囲が両方向矢印7によって表されている。電動駆動機構1は信号処理装置8を有しており、この信号処理装置8はモータドライバ回路9を介して電動駆動機構1を制御する。また、トグルスイッチ11の形態の操作装置10が設けられており、ニュートラルな位置を中心として2つの方向へ運動を切り換えることができる。ユーザの制御命令は信号処理装置8へ送信される。トグルスイッチ11の切換方向により、作動部品2の運動が2つの方向、すなわち、第1の終端位置5の方向12またはその反対の第2の終端位置6の方向のいずれかへトリガされる。信号処理装置8の一部はホールセンサとして構成された2つの磁界センサ13を有する検出装置14であり、モータ4として構成された電動駆動機構1の内部に配置されている。磁界センサ13は電機子軸上のリング状磁石とともに回転センサとして動作する。センサ信号はインタフェース15を介して検出装置14を含む信号処理装置8へ供給され、回転数、回転方向およびその他の運動パラメータが評価される。これらのデータから検出装置14は作動部品2の現在位置、特に作動部品2が運動した後の停止位置18を求める。
【0022】
電動駆動機構1は次のように動作する。すなわち、ユーザがトグルスイッチ11の操作によって作動部品2の運動を要求し、信号処理装置8が、モータドライバ回路9を介して、例えば図の右方の終端位置6から第1の目標位置16(中間位置)の方向への運動をモータ4に命令する。作動部品2の運動中、検出装置14はインタフェース15を介してモータ4内で形成されたホールセンサ信号を読み込み、ホールセンサ信号としてのインクリメント値から作動部品2の現在位置を求める。第1の目標位置16は作動部品2に対する目標位置の1つであり、信号処理装置8のメモリ17にテーブルの形態で格納されている。信号処理装置8によって第1の目標位置16への到達が識別されると、モータ4ひいては作動部品2が停止されるが、製造差のために実際の停止位置18は第1の目標位置16からずれる。こうしたずれは振動によって起こることが多い。ホールセンサ13を用いて検出装置14が求めた実際の停止位置18に基づいて、信号処理装置8はトレランス領域19を定める。つまり、信号処理装置8によって、実際の停止位置18から所定の値が減算または加算され、絶対的な下方限界値20および絶対的な上方限界値21が求められるのである。作動部品2の基準点22、この実施例では作動部品2の前縁の所定点がトレランス領域19(2つの限界値20,21)の内部にある場合には、信号処理装置8によって、ユーザが操作装置10を介して第1の目標位置16を新たに選択したとしても、モータ4の駆動が阻止される。振動のために基準点22が運動してトレランス領域19から出た場合にのみ、ユーザが操作装置10を操作し、作動部品16が第1の目標位置16の方向へ運動するようにモータ4を駆動することによって、さらなる駆動が可能となる。運動過程が有効に終了した後、最新の停止位置があらためて検出され、これに基づいて絶対的な限界値を含むトレランス領域が計算される。
【0023】
第1の目標位置16のほか、作動部品2につき、第2の目標位置23または第3の目標位置24(いわゆる騒音防止位置)を設定することもできる。終端位置5,6を硬いストッパによって実現することもできるが、車両ルーフではこれはあまり頻繁には行われない。
【0024】
図2では、見やすくするために、信号処理装置8,操作装置10,モータドライバ回路9およびモータ4を省略してある。これらの要素は例えば図1に即して説明したのと同様に構成することができる。
【0025】
図2の実施例では、第1の目標位置16および第2の目標位置23が図1の実施例の目標位置に対応する。メモリに格納された2つの目標位置16,23は、作動部品2がどちらの方向から所望の目標位置に近づくかに応じてもっぱら交番的に有効となる。作動部品2が第1の方向12へ移動する場合、第1の目標位置16が有効となる。検出装置14によって第1の目標位置16への到達が検出されると、作動部品2は停止される。ここで実際の停止位置18が求められ、これに基づいて、トレランス領域19の下方限界値20および上方限界値21が定められる。作動部品2がトレランス領域19から再び外へ出た場合にのみ、第1の目標位置16への運動または第2の目標位置23への運動があらためてアクティブとなる。図2の実施例では特に、実際の停止位置18を中心としてトレランス領域19を形成するのが有利であることがわかる。目標位置を中心としてトレランス領域を設定したとすると、トレランス領域が格段に大きくなり、第1の目標位置および第2の目標位置への新たな運動が不能となって、ユーザにとって障害的である。
【0026】
作動部品2が第2の方向26へ移動する場合、第1の目標位置16に代わって第2の目標位置23がアクティブとなる。
【0027】
第1の目標位置16および第2の目標位置23のほか、第3の目標位置(騒音防止位置)24または第4の目標位置27を設けることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの定義された目標位置(16)へ運動可能な作動部品(2)と、該作動部品がトレランス領域(19)にあるか否かを検出する検出装置(14)とが設けられている、
車両の作動部品用の電動駆動機構において、
前記作動部品の停止位置(18)に応じて前記トレランス領域が定められる
ことを特徴とする車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項2】
前記作動部品が前記トレランス領域にあるかぎり、ユーザの設定があったとしても、前記目標位置への新たな運動が不能とされる、請求項1記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項3】
前記作動部品が外部影響のために前記トレランス領域を出た場合、前記目標位置への運動が自動的に可能となる、請求項1または2記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項4】
前記作動部品が前記トレランス領域を出た場合、ユーザの相応の設定にしたがって前記目標位置への運動が可能となる、請求項1または2記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項5】
前記トレランス領域はパラメータ化可能である、請求項1から4までのいずれか1項記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項6】
前記検出装置は少なくとも1つの磁界センサ(13)、例えばホールセンサと、該磁界センサに対して回転可能に配置されたリング状磁石とを有しており、該リング状磁石は磁気部分を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項7】
前記運動の方向に応じて、有利には相互に僅かに異なる複数の目標位置が設定される、請求項1から6までのいずれか1項記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項8】
前記作動部品は2つの終端位置(5,6)のあいだで運動する、請求項1から7までのいずれか1項記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項9】
前記目標位置は一方の終端位置であるかまたは各終端位置のあいだの位置である、請求項8記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項10】
前記作動部品は車両ルーフ、例えばスライディングルーフである、請求項1から9までのいずれか1項記載の車両の作動部品用の電動駆動機構。
【請求項11】
作動部品(2)を少なくとも1つの定義された目標位置(16)へ運動させ、該作動部品がトレランス領域(19)にあるか否かを検出する、
車両の作動部品の駆動方法において、
前記作動部品の停止位置(18)に応じて前記トレランス領域を定める
ことを特徴とする車両の作動部品の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−519112(P2010−519112A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550251(P2009−550251)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050125
【国際公開番号】WO2008/101744
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】