説明

車両の制御装置

【課題】差動装置に発生した故障を早期に検出し、破損の進行を抑制することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置は、各車輪の回転数を表す信号を取得し(ステップS11)、
駆動輪と従動輪の回転数差から駆動輪回転数の振れ量を算出する(ステップS12)。次に、電子制御装置は、駆動輪回転数の振れ量が規定値より大きいか否かを判定し(ステップS13)、規定値を超えていると判定した場合には(ステップS13でYES)、規定値を超えているデータの時刻が周期性を有しているか否かを判定する(ステップS14)。電子制御装置は、駆動輪回転数の振れ量が周期性を有すると判定した場合には(ステップS14でYES)、差動装置が故障していると判断する(ステップS15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、差動装置の異常を検出する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関や回転電機などの駆動力発生装置を搭載した車両は、一般に、駆動力発生装置から出力された駆動力を左右の駆動輪に分配する差動装置を備えている。
【0003】
このような差動装置は、2つのデフピニオンギヤが取り付けられたデフケースと、2つのデフピニオンギヤの左右に噛み合わされ駆動輪に回転を伝達する左右のサイドギヤとを備えている。この差動装置は、車両の直進時にはデフピニオンギヤが公転のみを行い、この公転が左右のサイドギヤを等しく回転させ、左右の駆動輪の回転数が等しくなるようになっている。一方、車両の旋回時には、デフピニオンギヤが公転に加え自転も行うことにより、左右のサイドギヤの回転数を異ならしめ、左右の駆動輪の差動を許容するようになっている。
【0004】
また、左右の駆動輪のうちのいずれか一方が、凍結した低摩擦の路面に接地したり脱輪を起こすと、差動装置に入力された駆動力の大部分がこの駆動輪に伝達されることとなり、もう一方の駆動輪に伝達される駆動力が減少し、車両の前進が不可能となったり走行が不安定になるという問題が生じる。さらには、左右の駆動輪の差回転が増大すると、デフピニオンギヤやサイドギヤに過大な負荷がかかることとなる。
【0005】
そこで、一般に、差動装置は左右の駆動輪の差動を制限するためのLSD(Limited Slip Differential Gear)を備えており、駆動力が左右の駆動輪のいずれか一方のみに伝達することを防止して、車両の走行安定性を高めるとともに、差動装置に過大な負荷がかかることを防止するようになっている。
【0006】
このような差動装置を備える車両において、設置された差動装置の仕様が通常と異なることを検出した場合には、運転者に対し警告を行う制御装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この特許文献1に記載された従来の制御装置は、駆動力発生装置としての内燃機関から出力された駆動力を前輪と後輪とに分配するセンターディファレンシャル装置と、センターディファレンシャル装置の前輪側出力軸から出力された駆動力を左右の前輪に分配する前輪側差動装置と、センターディファレンシャル装置の後輪側出力軸から出力された駆動力を左右の後輪に分配する後輪側差動装置とを備えた4輪駆動車に設置されており、センターディファレンシャル装置は、前輪および後輪へ駆動力を等分分配する4輪駆動モードと後輪のみへ分配する後輪駆動モードとの間で切り替え可能となっている。
【0008】
このような車両に搭載された特許文献1に記載の制御装置は、センターディファレンシャル装置が後輪駆動モードに移行したことを条件に、前輪と後輪の回転数を検出して前後車輪速比を算出するとともに、前輪側出力軸および後輪側出力軸に基づいて前後出力軸速度比を算出する。そして、制御装置は、算出した前後車輪速比と前後出力軸速度比とに基づいて前輪側差動装置および後輪側差動装置のいずれか一方に仕様が異なる差動装置が設置されているか否かを判定し、仕様が異なると判定した場合には、運転者に対し音声信号などで警告を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−173055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような特許文献1に記載の従来の制御装置にあっては、前輪側の差動装置および後輪側の差動装置のうちいずれか一方に仕様が異なる差動装置が設置されているか否かを検出するようになっているものの、差動装置に発生した故障を検出するようなものではなかった。
【0011】
そのため、差動装置を構成するサイドギヤやピニオンギヤに歯欠けが発生したとしても、制御装置は差動装置の故障を検出できず、運転者は差動装置の故障を知ることなく車両の走行を継続してしまっていた。結果として、歯欠けが発生したギヤの破損が進行し、完全な破壊に至り、車両が走行不能に陥る可能性があった。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、差動装置の故障発生を早期に検出し、破損の進行を抑制することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)駆動力発生装置と、前記駆動力発生装置から出力される駆動力を左右の駆動輪に分配するとともに前記左右の駆動輪の差動を許容する差動装置とを備えた車両に搭載される車両の制御装置であって、前記左右の駆動輪の回転数を検出する第1の車輪速センサと、前記駆動力が伝達されない左右の従動輪の回転数を測定する第2の車輪速センサと、前記第1の車輪速センサと前記第2の車輪速センサにより検出された前記駆動輪の回転数と前記従動輪の回転数との回転数差を算出する回転数差算出手段と、前記回転数差算出手段により算出された回転数差が周期的に規定値を超えている場合に前記差動装置が故障していると判定する故障判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成により、駆動輪の回転数と従動輪の回転数とが周期的に乖離する原因となるギヤの歯欠けが差動装置において発生したことを検出できるので、差動装置が完全破損する前に差動装置の故障を検出し、故障の検出を運転者にアナウンスしたりエンジントルクの制限を実行することが可能となる。したがって、差動装置の故障発生を早期に検出し、破損の進行を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、差動装置に発生した故障を早期に検出し、破損の進行を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る差動装置を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る差動装置に故障が発生した場合における車輪の回転数の変化を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る差動装置に故障が発生していない場合における車輪の回転数の変化を表す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る故障判定処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は前輪駆動車に適用された本発明による車両の制御装置を示す概略構成図である。
【0019】
図1に示すように、車両1は、駆動力発生装置としてのエンジン10と、エンジン10の出力軸を構成するクランクシャフト11から入力した駆動力を増幅するトルクコンバータおよび入力回転を所望の変速比で変速して出力するトランスミッションを含む自動変速機12と、を備えている。エンジン10は、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の供給を受けて動力を出力する内燃機関により構成されており、後述する電子制御装置32により燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。なお、駆動力発生装置としては、エンジン10に限定されず、モータジェネレータや、モータジェネレータとエンジンとを組み合わせたハイブリッド機構などにより構成されていてもよい。
【0020】
自動変速機12の出力軸14の回転は、差動装置28を介して左右のドライブシャフト62FL及び62FRへ伝達され、これにより車両1の前輪を構成する左右の駆動輪29FL及び29FRが回転駆動される。
【0021】
左右の駆動輪29FL及び29FRは、操舵輪としての機能を有しており、運転者によるステアリングホイールの転舵に応じて操舵されるようになっている。また、車両1は、後輪を構成しエンジン10からの駆動力が伝達されない左右の従動輪29RL及び29RRを備えている。
【0022】
なお、以下の説明においては、左右の駆動輪29FL、29FRを互いに区別する必要がない場合には、駆動輪29Fとして説明し、左右の従動輪29RL、29RRを互いに区別する必要がない場合には、従動輪29Rとして説明する。また、駆動輪と従動輪とを区別する必要がない場合には、車輪29として説明する。
【0023】
車両1は、左右の駆動輪29FL、29FRおよび左右の従動輪29RL、29RRの回転数をそれぞれ検出する車輪速センサ30FL、30FR、30RL、30RRを備えている。車輪速センサ30FL、30FR、30RL、30RRは、例えば、磁界の変化を測定する半導体式センサと、磁性粉が充填されたゴムにより形成され円周方向にN極およびS極が均等に配置されている磁気ロータと、によって構成されている。車輪29の回転とともに磁気ロータが回転すると、車輪速に応じた磁界の変化が発生し、半導体式センサは、この磁界の変化に応じて、車輪速を表す信号を電子制御装置32に送信するようになっている。なお、以下の説明においては、車輪速センサ30FL、30FR、30RL、30RRを互いに区別する必要がない場合には、車輪速センサ30として説明する。
【0024】
また、車両1は、電子制御装置32を備えている。電子制御装置32は、運転者によるアクセルペダル34の操作やエンジン負荷等に応じてエンジン10の出力及び自動変速機12のギヤ段を制御すると共に、運転者によるブレーキペダル36の踏み込み操作に応じて油圧回路を制御し、これにより車両1の制駆動力を制御する。
【0025】
電子制御装置32は、エンジン10に対する制御を行うエンジンECU、自動変速機12に対する制御を行うトランスミッションECU、車輪29の制動力を制御するABS_ECUなど公知のECU(Electronic Control Unit)により構成されている。これらのECUは、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力インターフェースを有している。電子制御装置32は、アクセルペダル34の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ35からアクセル開度を表す信号やブレーキペダル36の踏込み量を検出する公知のブレーキスイッチからの信号を入力したり、車速信号、イグニッション信号、シフトポジション信号などの各種信号を公知の方法により入力するようになっている。
【0026】
エンジンECUは、クランクシャフト11の回転数や冷却水温などエンジン10の運転状態を検出する各種センサからの信号や、アクセル開度センサ35から入力される信号に基づいてエンジン10に供給される燃料の噴射量や点火時期を制御する。また、車両1はエンジン10に吸気を行うための吸気通路と、吸気通路に設置され吸入空気量を調節するための電子スロットル装置66とを備えており、エンジンECUは、アクセル開度センサ35から入力される信号に基づき電子スロットル装置66のスロットル弁の開度を制御し、吸入空気量を調節するようになっている。
【0027】
トランスミッションECUは、車速センサや電子スロットル装置66に設置されたスロットル開度センサなどから入力される信号に基づいて、トルクコンバータのロックアップクラッチを係合状態と非係合状態との間で切り替えたり、ROMに記憶されている変速マップに基づいてトランスミッションのギヤ段をシフトさせるようになっている。
【0028】
ABS_ECUは、後述するように、ABSユニット37を介して各車輪29の制動手段38を制御し、車両1を制御するようになっている。また、ABS_ECUは、各車輪速センサ30により検出される車輪速や、周知のセンサにより検出される車両前後方向および横方向の加速度、ヨーレート、操舵角などの各種パラメータに基づいて、ABS(Anti-lock Brake System)制御やTRC(Traction Control)制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御を実行するようになっている。
【0029】
ABS制御は、車輪速センサ30や図示しない加速度センサから入力される信号に基づき、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こる車輪29のロックを抑制するようになっている。
【0030】
VSC制御は、車両1の旋回時において、各車輪速センサ30や、操舵角センサおよびヨーレートセンサから入力される信号に基づき、運転者による急激なハンドル操作や滑りやすい路面における各車輪29の横滑りを検知して、各車輪29に加える制動力およびエンジン10の出力を制御し、車両1のスピンやコースアウトなどを抑制するようになっている。また、TRC制御は、車輪速センサ30などABS制御で使用されるセンサから入力される信号を利用して、車両1の発進時や加速時に駆動輪29Fの空転を抑制するための制御である。
【0031】
これらのECUは、CAN(Controller Area Network)通信により必要な信号を互いに送受するようになっている。なお、電子制御装置32は、上記のECUの組み合わせに限定されず、1以上のECUにより構成されていればよい。
【0032】
なお、電子制御装置32は、後述するように、本発明に係る車両の制御装置、回転数差算出手段および故障検出手段を構成する。
【0033】
また、車両1は、ABSユニット37を備えている。ABSユニット37は、車両1の速度が規定速度よりも高いときにブレーキペダル36が規定量以上踏み込まれると、いわゆるポンピングブレーキ操作を自動的に行うための装置である。このABSユニット37は、種々の公知のシステムにより構成されている。
【0034】
車両1は、さらに、音声信号を再生するスピーカ68と、車両1の走行状態や故障の発生を表示する表示装置67とを備えている。表示装置67は、例えば運転席の近傍に設置され速度メータや複数の警告灯を有するインストルメントパネルにより構成されている。スピーカ68および表示装置67は、電子制御装置32と接続されており、電子制御装置32は、各センサから入力した信号に基づいて、予めROMに記憶されている音声信号をスピーカ68に送信したり、表示装置67に対し警告灯を表示させるための信号を送信するようになっている。
【0035】
車両1は、さらに、各車輪29に設置された制動手段38と、各制動手段38に対してブレーキ液圧の供給を行う液圧配管39と、を備えている。ABSユニット37は、各液圧配管39のブレーキ液圧を個別に調節するようになっている。
【0036】
ABSユニット37は、運転者によるブレーキペダル36の踏み込み操作に応じて駆動されるブレーキマスタシリンダ41と、ブレーキペダル36の踏み込みによって生じる圧力を増圧し、ブレーキマスタシリンダ41に入力するブレーキブースタを備えている。
【0037】
制動手段38は、ディスクロータと、これら各ディスクロータを夫々に押圧して機械的な制動力を発生させるブレーキパッドやピストンが配備されたキャリパと、を備えたものであり、各液圧配管39から供給されたブレーキ液圧によってピストンが作動して、そのブレーキ液圧の大きさに応じた制動力を発生させるようになっている。
【0038】
また、ABSユニット37は、電子制御装置32のABS_ECUによって駆動制御されるようになっている。例えば、ABSユニット37は、各車輪29の増圧弁や減圧弁等の制御弁を備えており、ABS_ECUは、この制御弁を開閉させることによって、ブレーキマスタシリンダ41のブレーキ液圧を各液圧配管39に供給したり、そのブレーキ液圧を増減して各液圧配管39に供給したりするようになっている。したがって、ABS_ECUは、ABSユニット37を駆動制御することによって、運転者のブレーキ操作量、すなわちブレーキペダル36の操作量に応じた制動力を車両1に働かせたり、ABSユニット37によって増圧又は減圧されたブレーキ液圧による制動力を車両1に働かせるようになっている。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態に係る差動装置28を示す図である。
【0040】
差動装置28は、軸受56、57により回転自在に支持された中空のデフケース55を有し、このデフケース55の外周にはファイナルドライブピニオン54と噛み合うファイナルリングギヤ58が設けられている。これらのファイナルドライブピニオン54およびファイナルリングギヤ58は、ファイナルギヤ対65を構成している。
【0041】
また、デフケース55の内部には2つのピニオンギヤ60が取り付けられたピニオンシャフト59が配置されている。このピニオンギヤ60には2つのサイドギヤ61、69が噛み合わされている。サイドギヤ61、69は、左右のドライブシャフト62FL、62FRを介して左右の駆動輪29FL、29FRにそれぞれ連結されている。
【0042】
車両1が直進走行をしており、駆動輪29FLと駆動輪29FRとの回転数が等しい場合には、左右のドライブシャフト62FL、62FRは等しい回転数で回転するため、サイドギヤ61、69も互いに同じ回転数で回転する。したがって、差動装置28において、ファイナルギヤ対65の出力回転数と、ドライブシャフト62FL、62FRの回転数とは等しくなる。
【0043】
これに対し、車両1が左に旋回している場合には、駆動輪29FRの回転数は駆動輪29FLの回転数よりも増加する。この場合、ピニオンギヤ60が回転することにより、ドライブシャフト62FL、62FRの回転数に差、すなわち差回転が生じることが許容される。
【0044】
以下、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の特徴的な構成について、図1および図2を参照して説明する。
【0045】
車両1の制御装置を構成する電子制御装置32は、左右の駆動輪29FL、29FRおよび左右の従動輪29RL、29RRの回転数を車輪速センサ30FL、30FR、30RL、30RRからそれぞれ取得すると、左側の駆動輪29FLと左側の従動輪29RLとの回転数差および右側の駆動輪29FRと右側の従動輪29RRとの回転数差を算出し、算出した回転数差と測定時刻とを対応付けたデータとしてRAMに記憶するようになっている。したがって、本実施の形態に係る電子制御装置32は、本発明に係る回転数差算出手段を構成する。
【0046】
ここで、所定時間とは、差動装置28の故障を判定するのに十分なデータが蓄積される時間であり、例えば数秒などに設定されている。また、測定時刻とは、各データの相対的な時間差がわかるものであればよい。
【0047】
なお、電子制御装置32は、左側の駆動輪29FLと左側の従動輪29RLとの回転数差および右側の駆動輪29FRと右側の従動輪29RRとの回転数差をそれぞれ算出する代わりに、左右の駆動輪29FL、29FRの回転数の平均値および左右の従動輪29RL、29RRの回転数の平均値をそれぞれ算出し、これらの平均値の回転数差を算出するようにしてもよい。また、左右の駆動輪29Fおよび従動輪29Rのうち、左側あるいは右側のみの回転数を比較するようにしてもよい。
【0048】
また、電子制御装置32は、RAMに記憶された回転数差が規定値を超えている時間間隔を算出し、この時間間隔が周期性を有しているか否かを判定する。
【0049】
図3(a)は、ピニオンギヤ60やサイドギヤ61、69における歯欠けなど、差動装置28に故障が発生した場合における車輪29の回転数の変化を示すグラフであり、実線は駆動輪29Fの回転数を、破線は従動輪29Rの回転数をそれぞれ表している。また、図3(b)は、図3(a)の領域70の近傍を拡大したグラフである。
【0050】
図3(a)に示すように、長時間にわたる高差動状態の継続や旋回の過度な使用に起因して、ピニオンギヤ60やサイドギヤ61、69における歯欠けなど差動装置28に故障が発生している場合には、駆動輪29Fの回転数が従動輪29Rの回転数と周期的に乖離する。
【0051】
そこで、電子制御装置32は、駆動輪29Fと従動輪29Rとの回転数差が周期的に規定値を超えている場合、すなわち駆動輪29Fの回転数の振れ量が周期的に規定値を超えている場合には、差動装置28に故障が発生していると判定するようになっている。この場合、電子制御装置32は、例えば、差動装置28が故障した際に通常発生する回転数差の周期性よりも十分短い時間ごとに回転数差の平均値をとり、この平均値と規定値とを比較するようにする。また、電子制御装置32は、駆動輪29Fの振れ量が予め設定されてる時間間隔の範囲内で規定値を超えている場合に、駆動輪29Fの振れ量が周期性を有していると判断するようにする。
【0052】
ここで、規定値としては、車輪速センサ30の測定誤差により通常生じ得る回転数差より大きい値であり、かつ、差動装置28が故障した場合に通常発生する回転数差の最大値よりも小さい値に設定されると、故障の誤検出を防止できるとともに故障の検出精度を高めることができるので好適である。
【0053】
一方、図4(a)に示すように、差動装置28に故障が発生していない場合には、駆動輪29Fの回転数と従動輪29Rの回転数とがほぼ一致する。
【0054】
また、車輪29のいずれかが小石などの障害物の上を走行した場合には、図4(b)に示すように、駆動輪29Fと従動輪29Rとの回転数差が一時的に規定値を超える可能性が生じるものの、この回転数差の発生は周期性を有していない。
【0055】
したがって、本実施の形態に係る電子制御装置32は、回転数差算出手段により算出された回転数差が周期的に規定値を超えている場合に差動装置が故障していると判定する故障判定手段を構成する。
【0056】
また、電子制御装置32は、差動装置28に故障が発生していると判定した場合には、運転者に対する警告を表す信号を生成する。具体的には、電子制御装置32は、スピーカ68に故障発生を表す音声信号を再生させるとともに、警告灯などの表示装置67に故障の発生を表す警告を表示させるようにする。また、車両1がナビゲーションシステムを備えている場合には、ナビゲーションシステムを構成するディスプレイに警告を表示させるようにしてもよい。
【0057】
また、電子制御装置32は、差動装置28に故障が発生していると判定した場合には、トルク制限および変速制限を実行する。
【0058】
具体的には、電子制御装置32は、差動装置28が故障している場合には、エンジン10に吸入される空気量の制限やフューエルカットを実行することにより、エンジン10の機関回転数が所定値以下となるよう制御するようになっている。また、自動変速機12におけるギヤ段を固定し、差動装置28内部における損傷の進行を防止するようになっている。なお、電子制御装置32は、ギヤ段を固定する代わりに、所定のギヤ段内におけるシフトを許容するようにしてもよい。
【0059】
図4は、本発明の実施の形態に係る故障判定処理を説明するためのフローチャートである。
【0060】
なお、以下の処理は、電子制御装置32を構成するCPUによって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。
【0061】
まず、電子制御装置32は、車輪速センサ30から各車輪29の回転数を表す信号を取得する(ステップS11)。
【0062】
次に、電子制御装置32は、駆動輪29Fと従動輪29Rの回転数差から駆動輪回転数の振れ量を算出する(ステップS12)。具体的には、電子制御装置32は、車輪速センサ30から取得した各車輪29の回転数に基づいて、駆動輪29Fと従動輪29Rとの回転数差を算出し、駆動輪回転数の振れ量として、所定時間分のデータをRAMに記憶する。このとき、電子制御装置32は、車両1の左右の駆動輪29Fと従動輪29Rとの回転数差をそれぞれ算出してもよく、左右の駆動輪29Fの平均値と左右の従動輪29Rの平均値との回転数差を算出してもよい。
【0063】
次に、電子制御装置32は、ステップS12において算出した駆動輪回転数の振れ量が規定値より大きいか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、電子制御装置32は、RAMに記憶されているデータのうち、いずれかの時刻において駆動輪回転数の振れ量が規定値を超えているか否かを判定する。電子制御装置32は、駆動輪回転数の振れ量がいずれの時刻においても規定値を超えていないと判定した場合には(ステップS13でNO)、RETURNに移行する。一方、電子制御装置32は、駆動輪回転数の振れ量がいずれかの時刻において規定値を超えていると判定した場合には(ステップS13でYES)、規定値を超えているデータに対応する時刻をRAMに記憶する。
【0064】
次に、電子制御装置32は、RAMに記憶されているデータのうち規定値を超えている時刻が周期性を有しているか否か、すなわち回転数差が周期性を有しているか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、電子制御装置32は、RAMに記憶されているデータにおいて規定値を超えている時刻同士の差分、すなわち回転数差が規定値を超えている時間間隔を算出し、この時間間隔が予め定められた値の範囲内に含まれている場合には、駆動輪回転数の振れ量が周期性を有すると判定し(ステップS14でYES)、差動装置28に歯欠けなどの故障が発生していると判断する(ステップS15)。一方、電子制御装置32は、回転数差が規定値を超えている時間間隔が予め定められた値の範囲内に含まれていない場合には、回転数差が周期性を有していないと判定し(ステップS14でNO)、RETURNに移行する。
【0065】
次に、電子制御装置32は、ステップS16において、表示装置67における警告表示およびスピーカ68による音声信号の再生など、運転者に対し差動装置28が故障している旨のアナウンスを実行する。
【0066】
次に、電子制御装置32は、エンジントルクの制限およびギヤ段の固定を実行する(ステップS17)。電子制御装置32は、上述したように、エンジントルクの制限として電子スロットル装置66を構成するスロットル弁の開度を制限する制御あるいはフューエルカットを実行する。また、自動変速機12に対し、ギヤ段の固定あるいは特定ギヤ段間のみのシフトの許可などギヤ段の制限を実行する。
【0067】
以上のように、本発明の実施の形態に係る制御装置は、駆動輪29Fの回転数と従動輪29Rの回転数とが周期的に乖離する原因となるギヤの歯欠けが差動装置28において発生したことを検出できるので、差動装置28が完全破損する前に差動装置28の故障を検出し、故障の検出を運転者にアナウンスしたりエンジントルクの制限を実行することが可能となる。したがって、差動装置28の故障発生を早期に検出し、破損の進行を抑制することができる。
【0068】
なお、以上の説明においては、制御装置が前輪駆動の車両1に搭載される場合について説明したが、これに限定されず、制御装置が4輪駆動や後輪駆動などの車両に搭載されるようにしてもよい。制御装置が4輪駆動の車両に搭載される場合には、車両が前輪のみあるいは後輪のみに駆動力を伝達可能とするセンターディファレンシャル装置を備えるようにし、電子制御装置32は、前輪のみあるいは後輪のみに駆動力が伝達されている状態において上述した故障判定処理を実行するようにする。
【0069】
また、車両1が自動変速機12を備える場合について説明したが、これに限定されず、車両1が手動変速機を備えるようにしてもよい。
【0070】
以上のように、本発明に係る車両の制御装置は、差動装置に発生した故障を早期に検出し、破損の進行を抑制することができるという効果を奏するものであり、差動装置の異常を検出する車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 車両
10 エンジン
11 クランクシャフト
12 自動変速機
14 出力軸
28 差動装置
29 車輪
29FL、29FR、29F 駆動輪
29RL、29RR、29R 従動輪
30、30FL、30FR、30RL、30RR 車輪速センサ
32 電子制御装置
34 アクセルペダル
35 アクセル開度センサ
36 ブレーキペダル
37 ABSユニット
38 制動手段
39 液圧配管
41 ブレーキマスタシリンダ
54 ファイナルドライブピニオン
55 デフケース
56、57 軸受
58 ファイナルリングギヤ
59 ピニオンシャフト
60 ピニオンギヤ
61、69 サイドギヤ
62FL、62FR ドライブシャフト
65 ファイナルギヤ対
66 電子スロットル装置
67 表示装置
68 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力発生装置と、前記駆動力発生装置から出力される駆動力を左右の駆動輪に分配するとともに前記左右の駆動輪の差動を許容する差動装置とを備えた車両に搭載される車両の制御装置であって、
前記左右の駆動輪の回転数を検出する第1の車輪速センサと、
前記駆動力が伝達されない左右の従動輪の回転数を測定する第2の車輪速センサと、
前記第1の車輪速センサと前記第2の車輪速センサにより検出された前記駆動輪の回転数と前記従動輪の回転数との回転数差を算出する回転数差算出手段と、
前記回転数差算出手段により算出された回転数差が周期的に規定値を超えている場合に前記差動装置が故障していると判定する故障判定手段と、を備えたことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−149508(P2011−149508A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11984(P2010−11984)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】