説明

車両の制御装置

【課題】フューエルカット制御から復帰する時点の前後における車両加速度の変化を低減すること。
【解決手段】内燃機関と駆動輪との間で伝達されるトルクによって駆動される発電機を備え、車両の減速時に前記発電機のトルクを変化させて前記駆動輪でのトルクを滑らかに変化させるように構成された車両の制御装置において、前記減速時における前記発電機のトルクの制限要因の有無を判断(ステップS1)し、その制限要因がある場合とない場合とでは、減速時における前記発電機によるトルクの制御内容を異ならせる(ステップS2、ステップS7,S8)ように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両が減速している際の減速度あるいはその制動力を制御する装置に関し、特にロックアップクラッチの解放やフューエルカット復帰制御の実行などのトルク変動要因が生じた場合であっても制動力が過度に変化しないように制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を発生する内燃機関は、所定の回転数以上の回転数で回転していれば、燃料を供給することにより自立回転する。そのため、その内燃機関を搭載した車両が減速している状態では、駆動輪と内燃機関とをトルク伝達可能な状態に連結して内燃機関を走行慣性力で強制的に回転させ、その回転数が予め定めた回転数以上の状態では、燃料の供給を断ち(フューエルカットし)、車速の低下に伴って内燃機関の回転数がいわゆる復帰回転数に到った場合に、燃料の供給を再開している。このような燃料の供給停止制御はフューエルカット制御と称されており、その燃料の停止期間を可及的に長くして燃費を向上させるために、車速の低下に伴って変速比を次第に増大させ、制動力が過度にならない範囲で内燃機関の回転数を上記の復帰回転数以上の回転数に維持するようにしている。
【0003】
一方、車両の発進制御や変速制御を容易にするためにトルクコンバータが多用されており、その多くは、ポンプインペラとタービンランナとの相対回転(滑り)による動力伝達効率の低下を抑制するために、これらポンプインペラとタービンランナとを機械的に直接連結するロックアップクラッチを備えている。このロックアップクラッチを係合させれば、駆動輪と内燃機関とを、より直接的に連結して内燃機関の回転数を維持しやすいので、上記のフューエルカット制御時には、ロックアップクラッチを係合させることが行われている。
【0004】
しかしながら、ロックアップクラッチを係合させると、トルク変動に伴う振動が車体に伝達されて振動が体感されたり、こもり音が大きくなったりして乗り心地が損なわれる可能性があるので、ロックアップクラッチを係合させるとしても予め定めた所定の車速以上の状態に限っている。したがって減速操作あるいは減速制御に伴って車速が低下し、所定の車速に達すると、ロックアップクラッチを解放させることになり、それに伴って内燃機関と駆動輪との間の伝達トルク容量が低下し、内燃機関による制動力が低下するので、その制動力の変化がショックとして現れることがある。このような減速時にロックアップクラッチを解放することに伴うショックを低減することを目的とした発明が特許文献1に記載されている。
【0005】
すなわち、特許文献1には、減速時にロックアップクラッチを係合状態とすることにより、エンジン回転数を相対的に高い回転数に維持し、それに伴ってエンジンに対する燃料の供給を停止するいわゆるフューエルカット制御の継続時間を長くするように構成された装置が記載されている。この制御は、エンジン回転数をいわゆるフューエルカット復帰回転数以上の回転数に維持するための制御であり、したがって特許文献1に記載された装置では、ロックアップを伴うフューエルカット状態では、エアコン負荷を低下させて、エンジン回転数の低下を抑制している。そして、特許文献1に記載された装置では、ロックアップクラッチを解放することに伴う減速加速度の増大が違和感とならないように、ロックアップ解除車速が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−234340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載された装置では、減速加速度が違和感とならないようにロックアップクラッチの解除車速が設定されている。そのため、ロックアップクラッチを解除する車速が相対的に高車速となり、それに伴ってフューエルカット制御の実行期間が短くなって燃費の向上効果が低下する可能性がある。また、エンジンに付設された補機を利用して制動力を制御する場合、補機のトルクあるいはその制御が制約を受けていると制動トルクの制御が所期どおりに実行されずにショックの要因となることがあり、従来ではこのような場合の制御について十分検討されておらず、新たな技術を開発する余地があった。
【0008】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、内燃機関と駆動輪との間で伝達されるトルクを変化させることのできる発電機を状況に応じて制御し、減速力もしくは減速度の変化を滑らかにすることのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関と駆動輪との間で伝達されるトルクによって駆動される発電機を備え、車両の減速時に前記発電機のトルクを変化させて前記駆動輪でのトルクを滑らかに変化させるように構成された車両の制御装置において、前記減速時における前記発電機のトルクの制限要因の有無を判断し、その制限要因がある場合とない場合とでは、減速時における前記発電機によるトルクの制御内容を異ならせるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制限要因の有無の判断は、前記発電機が発電を継続する必要があることの判断を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記発電機が発電を継続する必要があることの判断は、発電電流の積算値と前記発電機に接続された充電装置の充電量とのいずれかに基づく判断を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記内燃機関と駆動輪との間に、直結クラッチを備えた流体伝動装置が設けられ、前記発電機のトルクを変化させた前記駆動輪でのトルクを滑らかに変化させる制御は、前記直結クラッチを係合させた減速状態でその直結クラッチを解放させる際に実行するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、発電機のトルクを制御することにより車両を減速させるトルクが滑らかに変化させられる。その発電機のトルクは、発電量に応じて変化するので、この発明においては、発電量が制限されているなど発電機のトルクの制限要因がある場合に、その制限要因がない場合とは異なるトルク制御が行われる。その制限要因は、例えば発電を継続する必要があること、より具体的には、発電電流の積算値が小さいことや蓄電装置での充電量が不足していることなどであり、このような制限要因が存在すると、発電を継続することになるので、発電機を駆動するトルクが制動力として作用し、したがってそのような制動トルクが生じない場合とは異なって発電機の制御が実行され、その結果、駆動輪でのトルクの変化が滑らかになる。そして、このような制御を直結クラッチを係合させ、車速の低下によって直結クラッチを解放させる際に実行することにより、直結クラッチの係合・解放状態の変化に起因するショックを緩和もしくは防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】そのステップS6での制御内容を説明するためのサブルーチンである。
【図3】図1および図2に示す制御を実行した場合の減速度やオルタネータ発生トルクなどの変化を示すタイムチャートである。
【図4】この発明で対象とすることのできる車両の駆動系統を模式的に示す図である。
【図5】そのオルタネータの制御系統を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎにこの発明を具体例を参照して説明する。この発明で対象とする車両は、駆動力源として内燃機関(以下、エンジンと記す)1と、そのエンジン1と駆動輪2との間で伝達されるトルクによって駆動される発電機3とを備えている。その一例を図4に模式的に示しており、そのエンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンがその典型的な例であって、所定の回転数以上の回転数で回転している状態で燃料の供給を開始すれば、自立回転に移行させることのできる内燃機関であり、いわゆるフューエルカット制御の可能な内燃機関である。このエンジン1には、この発明における発電機3に相当するオルタネータ(ALT)や補機4が取り付けられ、エンジン1が出力した動力でこれらオルタネータ3や補機4を駆動するように構成されている。
【0016】
そのオルタネータ3は、鉛蓄電池やLi−ion電池などの蓄電装置5に電気的に接続されており、その蓄電装置5には更に各種の電気負荷6が接続されている。そして、この蓄電装置6に対する充電や蓄電装置5からの放電を電子制御装置(ECU)7によって制御するように構成されている。
【0017】
エンジン1の出力側に流体伝動装置が接続されている。この流体伝動装置は、流体を介して動力を伝達するように構成され、広く知られているトルクコンバータ8がその典型的な例であり、特に直結クラッチ(ロックアップクラッチ)9を備えたトルクコンバータ8を図4には示してある。そのトルクコンバータ8の出力側にクラッチ(C1クラッチ)10を介して変速機11が接続されている。そのクラッチ10は、いわゆる発進クラッチであって、例えば湿式多板クラッチによって構成され、車両が走行する場合に油圧によって係合させられる。
【0018】
また、変速機11は、エンジン1が出力したトルクを増幅し、あるいはエンジン1の回転数を燃費の良い回転数にするために、変速比を適宜に設定するものであり、広く知られている有段式の自動変速機や無段変速機によって構成されている。図4にはベルト式の無段変速機を採用した例を模式的に示してある。すなわち、駆動側(入力側)のプライマリプーリ12と従動側(出力側)のセカンダリプーリ13とが、それぞれの回転中心軸線を平行にして配置されるとともに、これらのプーリ12,13にベルト14が巻き掛けられている。各プーリ12,13は、固定シーブとその固定シーブに接近し、また離隔する可動シーブとによって構成され、プライマリプーリ12における可動シーブを移動させて溝幅を変化させることにより、ベルト14の巻き掛け半径すなわち変速比を変化させるように構成されている。そして、セカンダリプーリ13が終減速機(デファレンシャル)15に連結され、そのデファレンシャル15から左右の駆動輪2にトルクを伝達するように構成されている。
【0019】
図5は上記のオルタネータ3についての制御系統を模式的に示しており、オルタネータ3にはレギュレータ3Aが設けられており、オルタネータ3の動作状態を示す信号をこのレギュレータ3Aから前記電子制御装置7に伝送し、また電子制御装置7からの制御指示に基づいて励磁電流などの動作状態をこのレギュレータ3Aによって設定するように構成されている。さらに、オルタネータ3と蓄電装置5および電気負荷6とは電圧線16によって接続されており、蓄電装置5と電気負荷6とを接続している電圧線16には電流や温度さらには電圧を検出して信号を出力するセンサ17が取り付けられている。そのセンサ17の検出信号は前述した電子制御装置7に入力されており、さらに電子制御装置7には、車速やアクセル開度、変速比、エンジン回転数、ロックアップクラッチ9の係合・解放の信号、フューエルカット制御の実行を示す信号など走行状態を判定するための各種センサ18からの検出信号が入力されている。
【0020】
上記の車両を対象としたこの発明に係る制御装置は、基本的には、エンジン1に対する燃料の供給を停止(フューエルカット)するとともにロックアップクラッチ9を係合させた減速時に、オルタネータ3で発電することによるいわゆる発電トルクを制動トルクの一部として使用し、その発電トルクを変化させて減速度の変化(ジャーク)を可及的に少なくするように制御する。そして、車速の低下に伴ってロックアップクラッチ9を解放する時点では、発電トルクを最小限(実質的にゼロ)に低下させることにより、運転者が意図しない減速力もしくは減速感を生じないように制御する。しかしながら、オルタネータ3による発電の要求は、蓄電装置5における充電が十分に行われていなかったり、電気的な負荷が大きい場合には、減速時の制動トルクの制御の必要性に拘わらず生じるので、このような場合には、ロックアップクラッチ9を解放した後にも発電トルクによる制動力もしくは減速感が生じる可能性がある。そのような制動力もしくは減速感を回避もしくは抑制するために、この発明に係る制御装置は、以下に説明する制御を実行するように構成されている。
【0021】
図1はその制御の一例を説明するためのフローチャートであり、ここに示すルーチンは、所定の短時間の間隔で繰り返し実行される。図1において、先ず、電流積算量が予め定めた値Ip0を超えているか否かが判断される(ステップS1)。この電流積算量は、前記蓄電装置5を鉛蓄電池とした場合にその鉛蓄電池に蓄えられた電力であり、減速時にオルタネータ3によって発電して制動力を発生させ、それに伴って蓄電装置5に充電された電力を積算したものである。したがって所定以上の車速で走行している際にアクセルペダル(図示せず)が戻されるなどのことによって減速操作が検出され、それに伴ってオルタネータ3の発電量を増大させる減速制御が開始された時点からの電力を積算することにより得られる。また、電流積算値の判断を行う上記の値(しきい値)Ip0は、発電を継続しなくてもよい程度に電力量が増大していることを示す値であり、充電を止めてもよい最低充電量と言うことのできる値である。これは、車両が固有に持っている電気的な負荷から計算することができ、あるいはアイドリング時の電気負荷状態を学習して求めることができ、したがって一定値であってもよく、あるいは経時的に変化する値として定めたものであってもよい。
【0022】
このステップS1で否定的に判断された場合、すなわち電流積算量が上記のしきい値Ip0以下の場合には、従来一般に行われている発電(充電)制御(ステップS2)が指令され、その後、図1のルーチンを一旦終了する。この従来の発電制御は、蓄電装置5に対する充電要求や電気負荷6による電力要求に基づいて発電を行う制御であり、したがって減速時は、発電指示電圧に応じてオルタネータ3は制御され、蓄電装置5や電気負荷6の状態により成り行きで車両へトルクが発生する。これとは反対に電流積算量が上記のしきい値Ip0を超えたことによりステップS1で肯定的に判断された場合には、エンジン1に対する燃料の供給を停止するフューエルカット(F/C)制御を伴う減速中か否かが判断される(ステップS3)。なお、フューエルカット制御では、エンジン1の回転数をフューエルカット復帰回転数以上に可及的に維持するためにロックアップクラッチ9を係合させるのが通常であるから、ステップS3の判断に、ロックアップクラッチ9が係合していることを確認する判断を含めることもできる。
【0023】
加速中であったり、あるいはフューエルカット制御が実行されていないなどのことによりステップS3で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。これに対して、フューエルカット制御を伴う減速中であって、ロックアップクラッチ9が係合されていることによりステップS3で肯定的に判断された場合には、トルク制御(変速機11における変速比増大制御)が実施されているか否かが判断される(ステップS4)。このトルク制御は、エンジン回転数を維持するべく変速比を次第に増大させることに伴う減速力の増大を緩和もしくは低減するための制御であり、この発明ではオルタネータ3のトルクを変速比の変化に応じて変化させることにより実行される制御である。したがってステップS4の判断は、具体的には、現在の変速比γが、ロックアップクラッチ9を係合させた減速が開始された直後の任意の時点の変速比γs より大きくかつ推定される制御の終了時点の変速比γe 未満であるか否かを判断することにより行われる。なお、変速比γの検出は従来知られている各種の方法や手段で行うことができ、例えば各プーリ12,13の回転数を検出してそれらの回転数から求めればよい。また、制御終了時点の変速比γe については後述する。
【0024】
トルク制御が実施されていないことによりステップS4で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなく、一旦、このルーチンを終了する。これに対して、変速比γが増大していることによりステップS4で肯定的に判断された場合には、変速比γを増大させるトルク制御が開始された時点において、実際にオルタネータ3に出力された励磁電流値(初期励磁電流値;I)が読み取られる(ステップS5)。そして、ロックアップクラッチ9の解放時における変速比γe が推定される(ステップS6)。すなわち、フューエルカット制御の実行状態から復帰制御に切り替わる時点の目標変速比γe が推定される。
【0025】
その目標変速比γe の算出手順の例を図2にフローチャートで示してある。図2において、先ず、現在時点における車速が車輪速センサなどの車速を検出するセンサの検出信号から読み取られる(ステップS61)。そして、車両加速度が算出される(ステップS62)。この車両加速度は、具体的には、上記のステップS61で読み取られた車速を微分処理することにより算出される。また、加速度センサからの検出信号に基づいて車両加速度を求めてもよい。
【0026】
ついで、ロックアップクラッチ9を解放する時点の車速が算出される(ステップS63)。エンジン1に対して燃料の供給を再開するフューエルカット復帰は、エンジン1の回転数が復帰回転数になった時点に実行される。また、その時点では、変速比γが最低速側の変速比γmaxになるように制御されるから、その時点の車速は、燃料の供給を再開するエンジン1の復帰回転数を、最大変速比γmaxで割り算することにより得られる。こうして求められたいわゆるフューエルカット復帰車速に達するまでの時間は、現在時点の車速と上記の加速度とから求めることができる。一方、ロックアップクラッチ9の解放は、燃料の供給の再開に先立って実行され、そのいわゆる前出しの時間はロックアップクラッチ9の解放の遅れなどに基づいて予め定めておくことができる。したがって、その前出し時間と前記加速度ならびに現在時点の車速に基づいてロックアップクラッチ9の解放時点の車速を求めることができる。
【0027】
さらに、ロックアップクラッチ9を解放する時点におけるプライマリプーリ12の回転数が算出される(ステップS64)。これは、エンジン1の回転数として求めることができ、したがってエンジン回転数センサの検出値を採用すればよい。また、ロックアップクラッチ9を解放する時点のセカンダリプーリ13の回転数が演算される(ステップS65)。セカンダリプーリ13はデファレンシャル15などを介して駆動輪2に連結されているから、ステップS63で演算された車速を車輪回転数に置き換え、その車輪回転数と、セカンダリプーリ13から駆動輪2までの間の減速比とからセカンダリプーリ13の回転数を演算することができる。
【0028】
変速比はプライマリプーリ12の回転数とセカンダリプーリ13の回転数との比率であるから、上記のようにして求められたプライマリプーリ12の回転数とセカンダリプーリ13の回転数とに基づいて、ロックアップクラッチ9が解放される時点における変速比γe が推定される(ステップS66)。このいわゆる解除時変速比γe は、車両ごとの特性を反映するように補正される(ステップS67)。その補正は、車両に要求される特性や設計の意図、あるいはシミュレーションもしくは実際に行った運転のデータなどに基づいて適宜におこなえばよい。また、例えば予め定めた係数を用いておこなってもよい。図1におけるステップS6では、以上述べた図2に示す処理によって推定変速比γe が算出される。
【0029】
この発明に係る制御装置は、オルタネータ3のトルクによって減速の際の制動力を制御するものであるから、上述した変速比の変化に応じたトルク制御が実行される(ステップS7)。すなわち、エンジン回転数を維持するべく変速比が増大させられることに伴う車両加速度の負側への増大(減速力の増大)に対して、ジャーク(加加速度)の変化が小さくなるように(いわゆる等ジャークになるように)オルタネータ3のトルクを制御する制御指令値が算出される。上記のオルタネータ3のトルクは励磁電流に応じて変化するから、ステップS7では、具体的には、下記の式に基づいて励磁電流制御指令値ILIMITが算出される。この種のオルタネータ3の例を挙げると、例えば励磁電流値(I)および電圧指示値のいずれによっても制御可能なLINオルタネータが挙げることができる。
LIMIT=I×(γe −γ)/(γe −γs )
そして上記のステップS7で算出された励磁電流制御指令値ILIMITが電子制御装置7から制御指令信号としてオルタネータ3に出力される(ステップS8)。
【0030】
上記の図1および図2に示す制御を実行した場合の減速度やオルタネータ3のトルクなどの変化を図3にタイムチャートとして示してある。車両が所定の車速で走行している状態でアクセルペダルが戻されるなど、減速操作されると(t時点)、オルタネータ3で制動力を生じさせるようにその指示電圧が増大させられ、それに伴ってオルタネータ3で発生するトルクが次第に増大する。また、これと同時にオルタネータ3で発生する電流(言い換えれば充電量)の積算が開始される。なお、そのオルタネータ3のトルクは、発電に要するトルクであり、エンジン1に対して負荷となるから車両として制動力となる。発電に要するトルクが制動力となることにより減速度が大きくなって車速が次第に低下する。
【0031】
このような減速の過程でオルタネータ3が発電を継続するので、電流積算量が次第に増大し、その値が前述したしきい値Ip0を超えることにより、オルタネータ3によるトルク制御を行う条件が成立する。それに伴ってオルタネータ3を使用したトルク制御が開始され(t時点)、オルタネータ3の指示電圧を低下させ始める。また、その時点の変速比γs を読み込むとともに、制御終了時の変速比γe を推定し、これらの変速比γs ,γe および初期励磁電流値Iから前記励磁電流制御指令値ILIMIT が求められて出力される。その励磁電流制御指令値ILIMIT の値は、前述したようにエンジン回転数を維持するために増大させられる変速比に基づいて求められるから、オルタネータ3で発生するトルクが次第に低下する。そのため、変速比の増大による制動トルクの増大がオルタネータ3のトルクの低下によって相殺もしくは抑制され、その結果、減速度がほぼ一定に維持される。すなわち、等ジャーク状態となり、ドライバビリティが良好になる。
【0032】
そして、実際の変速比γが前述した解除時変速比γe にまで増大すると(t時点)、ロックアップ(L/U)フラグがOFFに切り換えられてロックアップクラッチ9を解放する指令信号が出力される。その時点では、オルタネータ3の指示電圧がゼロに低下してオルタネータ3の発生トルク(すなわちオルタネータ3で消費されるトルク)がゼロになる。前述したように電流積算量がしきい値Ip0を超えていて、蓄電装置5や電気負荷6による発電要求がないからである。このように、オルタネータ3の発生トルクがゼロにまで低下させられると、ロックアップクラッチ9を実際に解放する時点の減速度は特には大きくなっておらず、そのためロックアップクラッチ9を解放して駆動輪2に掛かるエンジン1側の負のトルクが低下しても、そのようなトルク変化がショックとなることが防止もしくは抑制され、ドライバビリティを向上させることができる。また、このようなトルク制御は、LINオルタネータに限らず、電圧仕様の一般的なオルタネータを使用しても実行できるので、各種車両のドライバビリティを向上させることができる。さらに、この発明に係る制御装置による上記の制御では、フューエルカット制御を伴う減速時におけるロックアップクラッチ9を解放する車速を高車速化する必要がないので、フューエルカット制御の継続時間を長くして燃費を向上させることができる。
【0033】
図3には、比較のために、変速比の増大に応じてオルタネータ3のトルクを低下させる制御を実行しない場合、すなわちこの発明に係る制御装置による制御を実行しない場合の例を破線で示してあり、ロックアップクラッチ9を解放する時点までオルタネータ3のトルクを維持すると、減速度が大きくなってしまい、ロックアップクラッチ9の解放に伴うトルクの変化が大きく、これがショックとして体感されてしまう。また、図3には特には示していないが、蓄電装置5や電気負荷6による発電要求があることにより電流積算量が上記のしきい値Ip0に達していない場合、従来の発電制御を実行するのと同様に制御され、ロックアップクラッチ9を解放する直前においてもオルタネータ3による負のトルクが発生していて、これが運転者の意図しない減速感の要因となることがある。また、ロックアップクラッチ9を解放した後にもオルタネータ3で発電することによる負のトルクがエンジン1に作用してエンジン回転数が低下する可能性がある。
【0034】
上述したようにフューエルカット制御を伴う減速時における発電機によるトルク制御の制限要因は、電流積算量が不足していること、すなわち発電を継続する必要があることであり、したがって図1に示すステップS1の判断は、蓄電装置5や電気負荷6による発電の要求の有無を判断できる他のパラメータによる判断に置き換えることができる。例えば鉛蓄電池に替えてLi−ion電池を使用している車両においては、図1に併記してあるように、現在の充電容量(SOC:State Of Charge)が予め定めた基準値W0 を超えたか否かを判断し(ステップS1)、その判断結果が否定的な場合には、前述したステップS2に進み、これとは反対に判断結果が肯定的な場合には、前述したステップS3に進むように構成すればよい。このように構成した場合のタイムチャートは、図3に併記してあるように、t時点からt時点までの間で充電容量が基準値W0 を超えた場合に、それ以降の制御が実行されて各種の変化が生じることになる。そして、充電容量が基準値を超えることを発電機によりトルク制御の許可条件とした場合であっても、前述した図1ないし図3に示す制御例によるのと同様の作用・効果を得ることができる。
【0035】
なお、上記の具体例では、発電機のトルクの制限要因がある場合、発電機のトルクによる減速度もしくは制動トルクの制御を実行しないこととしたが、この発明は上記の具体例に限定されないのであり、上記の制限要因がある場合には、制動トルクのうち発電機で受け持つトルクの割合を、制限要因がない場合に比較して少なくするように構成してもよく、あるいは発電機によるトルク制御をロックアップクラッチを解放する以前に終了するなどその実行時間を制限するように構成してもよい。要は、上記の制限要因がある場合とない場合とでは発電機によりトルク制御の内容を変更するように構成してあればよい。また、この発明における発電機は、エンジンに付設されたオルタネータに限られず、エンジンから駆動輪までの動力伝達系統に連結されているものであればよい。
【符号の説明】
【0036】
1…内燃機関(エンジン)、 2…駆動輪、 3…発電機(オルタネータ(ALT))、 5…蓄電装置、 6…電気負荷、 7…電子制御装置(ECU)、 8…トルクコンバータ、 9…直結クラッチ(ロックアップクラッチ)、 11…変速機、 12…プライマリプーリ、 13…セカンダリプーリ、 14…ベルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と駆動輪との間で伝達されるトルクによって駆動される発電機を備え、車両の減速時に前記発電機のトルクを変化させて前記駆動輪でのトルクを滑らかに変化させるように構成された車両の制御装置において、
前記減速時における前記発電機のトルクの制限要因の有無を判断し、その制限要因がある場合とない場合とでは、減速時における前記発電機によるトルクの制御内容を異ならせるように構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制限要因の有無の判断は、前記発電機が発電を継続する必要があることの判断を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記発電機が発電を継続する必要があることの判断は、発電電流の積算値と前記発電機に接続された充電装置の充電量とのいずれかに基づく判断を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関と駆動輪との間に、直結クラッチを備えた流体伝動装置が設けられ、
前記発電機のトルクを変化させた前記駆動輪でのトルクを滑らかに変化させる制御は、前記直結クラッチを係合させた減速状態でその直結クラッチを解放させる際に実行するように構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−92752(P2012−92752A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241125(P2010−241125)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】