説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】AMTを搭載した車両において、バッテリ残量が低下した場合に変速作動に伴う電力の消費を抑制することができるものを提供すること。
【解決手段】この車両の動力伝達制御装置では、「車速」と「アクセル開度」との組み合わせが、変速マップ上におけるどの変速段の領域に対応するかによって、達成すべき1つの変速段(選択変速段)が選択され、変速機にて現在の選択変速段が実現(確立)される。車両のバッテリの残量が所定値以上の場合、図中の破線で示す変速マップが使用され、車両のバッテリの残量が所定値未満の場合、図中の実線で示す変速マップが使用される。バッテリ残量が低下した場合、6速(最も高速側の変速段)に対応する領域が拡大する。従って、6速が一度選択されると、その後において変速作動が行われる頻度が減少し、変速作動に伴うシフトアクチュエータ等の駆動に要する電力の消費を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてクラッチアクチュエータ及び変速アクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
AMTを搭載した車両では、変速作動(変速機の変速段を変更する作動)が行われる際、変速作動の開始前にクラッチアクチュエータの作動によりクラッチが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速アクチュエータの作動により変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチアクチュエータの作動によりクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【発明の概要】
【0005】
上述したように、AMTを搭載した車両では、変速作動が行われる際、変速アクチュエータ及びクラッチアクチュエータが駆動される。従って、これらのアクチュエータの駆動に要する電力が消費される。従って、車両に搭載されたバッテリの残量(蓄積されている(化学)エネルギの量)が低下した場合、変速作動が行われる頻度を減らしてアクチュエータの駆動に要する電力の消費を抑制する必要が生じ得る。
【0006】
本発明の目的は、AMTを搭載した車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、バッテリ残量が低下した場合に変速作動に伴う電力の消費を抑制することができるものを提供することにある。
【0007】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、上述した装置と同様、有段変速機(T/M)と、クラッチ(C/T)と、クラッチアクチュエータ(ACT1)と、変速アクチュエータ(ACT2)と、クラッチアクチュエータ及び変速アクチュエータを制御する制御手段(ECU)と、を備える。
【0008】
前記制御手段は、前記車両の走行状態に基づいて、前記複数の変速段のうち選択されるべき変速段を決定し、前記有段変速機の変速段を前記決定された変速段になるように前記変速アクチュエータを制御するよう構成される。
【0009】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置の特徴は、前記制御手段が、「前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、前記有段変速機の変速段が変更される頻度が少なくなるように前記選択されるべき変速段を決定するよう」構成されたことにある。
【0010】
これによれば、バッテリ残量が低下した場合、バッテリ残量が大きい場合と比べて、或る(同じ)パターンで車両が走行したときにおいて、変速作動が行われる頻度が減少する。従って、バッテリ残量が低下した場合、変速作動に伴う変速アクチュエータ及びクラッチアクチュエータの駆動に要する電力の消費を抑制することができる。
【0011】
具体的には、前記制御手段は、前記車両の運転者により操作される加速操作部材の操作量に相当する値と前記車両の車速との組み合わせに基づく前記車両の走行状態を示す領域であって前記各変速段に対応する領域にそれぞれ区分された領域を用いて、前記選択されるべき変速段を前記車両の走行状態が属する領域に対応する変速段に決定するように構成され得る。ここで、加速操作部材の操作量(アクセル開度)に相当する値としては、アクセル開度そのもの、車両に搭載された内燃機関の吸気通路の最小開口面積を調整するスロットル弁の開度等が挙げられる。
【0012】
この場合、前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、「前記複数の変速段のうち前記減速比が最も小さい(最も高速側の)変速段に対応する領域」と「前記複数の変速段のうち前記減速比が2番目に小さい(2番目に高速側の)変速段に対応する領域」との境界に対応する車速を小さくするように構成されることが好適である。或いは、前記複数の変速段のうち前記減速比が隣接する2つの変速段の組み合わせの全てについて、「一方の変速段に対応する領域」と「他方の変速段に対応する領域」との境界に対応する車速を小さくするように構成されてもよい。
【0013】
これによれば、バッテリ残量が低下した場合、「最も高速側の変速段に対応する領域」が拡大する。従って、「最も高速側の変速段」が一度選択されると、その他の変速段への変速段の変更が行われ難くなる。一般に、車両の通常の走行パターンでは(極端な渋滞が発生している場合を除けば)、複数の変速段のうちで「最も高速側の変速段」が選択されている時間が最も長い。以上のことから、上記構成によれば、バッテリ残量が低下した場合において変速作動が行われる頻度が減少し得る。
【0014】
或いは、前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、「前記有段変速機の現在の変速段に対応する領域」と「前記現在の変速段と前記減速比が隣接し且つ前記現在の変速段より減速比が大きい変速段に対応する領域」との境界に対応する車速を小さくする、及び/又は、「前記有段変速機の現在の変速段に対応する領域」と「前記現在の変速段と前記減速比が隣接し且つ前記現在の変速段より減速比が小さい変速段に対応する領域」との境界に対応する車速を大きくする、ように構成されることが好適である。
【0015】
これによれば、バッテリ残量が低下した場合、「有段変速機の現在の変速段に対応する領域」が拡大する。従って、現在の変速段以外の変速段への変速段の変更が行われ難くなる。従って、バッテリ残量が低下した場合において変速作動が行われる頻度が減少し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示した変速機についての「車速及びアクセル開度」と「選択されるべき変速段」との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図4】本発明の実施形態により実行される、変速マップの修正の概要を示したフローチャートである。
【図5】バッテリ残量低下時において実行される変速マップの修正の第1の例を示した図である。
【図6】バッテリ残量低下時において実行される変速マップの修正の第2の例を示した図である。
【図7】バッテリ残量低下時において実行される変速マップの修正の第3の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関を備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を搭載した車両である。
【0019】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Tと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、C/Tを介してT/Mの入力軸A2と接続されている。
【0020】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、6つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、図示しないプロペラシャフト、図示しないディファレンシャル等を介して車両の駆動輪と接続されている。T/Mの変速段の切り替えは、変速機アクチュエータACT2を制御することで実行される。変速段を切り替えることで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が変更される。
【0021】
クラッチC/Tは、周知の構成の1つを備えていて、E/Gの出力軸A1とT/Mの入力軸A2との間で、伝達し得るトルクの最大値(クラッチトルクTc)を調整可能に構成されている。具体的には、クラッチC/Tは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。クラッチディスクは、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールに対して互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールに対するクラッチディスクの軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/T(具体的には、クラッチディスク)の軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1により調整される。即ち、この車両には、クラッチペダルは備えられていない。
【0022】
以下、クラッチC/T(クラッチディスク)の「原位置」からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークと呼ぶ。「原位置」は、例えば、クラッチディスクの軸方向の可動範囲内における基準となる位置、前記可動範囲におけるフライホイールから遠い側の端位置(ストッパに当接する位置)である。クラッチC/Tが「原位置」にあるとき、クラッチストロークが「0」となる。
【0023】
図2に示すように、クラッチストロークを調整することにより、クラッチトルクTcが調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0024】
また、接合状態において、クラッチC/Tに滑りが発生していない状態(出力軸A1の回転速度Neと入力軸A2の回転速度Niとが一致している状態)を特に「完全接合状態」と呼び、クラッチC/Tに滑りが発生している状態(NeとNiとが一致していない状態)を特に「半接合状態」と呼ぶ。
【0025】
また、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、出力軸A1の回転速度Neを検出する回転速度センサS4と、入力軸A2の回転速度Niを検出する回転速度センサS5と、クラッチストロークStを検出するクラッチストロークセンサS6と、車輪の回転速度を検出する車輪速度センサS7と、を備えている。
【0026】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/Tのクラッチストローク(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御する。具体的には、アクセル開度が大きくなるに従ってE/Gの駆動トルクが大きくなるように燃料噴射量(スロットル弁の開度)が制御される。
【0027】
本装置は、ECU内のROM(図示せず)において、図3に示すような変速マップを記憶している。図3は、前進用の変速段として1速〜6速を備えられた場合の一例を示す。本装置では、変速マップに基づいて変速機T/Mの変速段が決定される。より具体的には、本装置では、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、車輪速度センサS7から得られる車輪速度に基づいて算出される車速と、アクセル開度センサS1から得られるアクセル開度との組み合わせが、変速マップ上におけるどの変速段の領域に対応するかによって、達成すべき1つの変速段(以下、「選択変速段」と呼ぶ。)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβである場合(図3に示す黒点を参照)、選択変速段として「3速」が選択される。
【0028】
このような変速マップは、車速とアクセル開度との組み合わせに対して最適な変速段を適合する実験を、前記組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことにより作製され得る。一方、シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が選択される。
【0029】
変速機T/Mでは、複数の変速段のうち現在の選択変速段が実現(確立)される。変速段が選択変速段に確立している(固定された)状態で車両が走行する場合、通常、クラッチC/Tは、完全接合状態に維持される。
【0030】
一方、車両走行中において、選択変速段が変化したとき、変速機T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。変速作動が行われる際、変速作動の開始前にクラッチC/Tが接合状態(完全接合状態、Tc>0)から分断状態(Tc=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態(完全接合状態)へと戻される。以上、この車両は、AMTを搭載した車両である。
【0031】
(バッテリ残量の低下時における変速マップの修正)
上述したように、図1に示す車両では、変速作動が行われる際、変速アクチュエータACT2及びクラッチアクチュエータACT1が駆動される。従って、これらのアクチュエータの駆動に要する電力が消費される。従って、車両に搭載されたバッテリBAT(図1を参照)の残量(蓄積されている(化学)エネルギの量、State
of Charge、以下、「バッテリ残量SOC」と呼ぶ)が低下した場合、変速作動が行われる頻度を減らして、アクチュエータの駆動に要する電力の消費を抑制する必要が生じ得る。
【0032】
係る観点に基づき、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合について、本装置では、バッテリ残量SOCの低下時において変速マップの修正がなされる。以下、このときの作動について、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0033】
ステップ405では、バッテリ残量SOCが所定値未満であるか否かが判定される。バッテリ残量SOCは、周知の手法の1つに従って検出され得る。
【0034】
バッテリ残量SOCが所定値以上である場合(ステップ405で「No」と判定)、ステップ410にて、変速マップの修正がなされない。即ち、上述した「最適な変速段を適合する実験」に基づいて作製された変速マップそのものを用いて選択変速段が選択され、変速機T/Mにて、現在の選択変速段が実現(確立)される。
【0035】
一方、バッテリ残量SOCが所定値未満である場合(ステップ405で「Yes」と判定)、ステップ415にて、変速マップの修正がなされる。即ち、(上述した「最適な変速段を適合する実験」に基づいて作製された変速マップを修正して得られる変速マップを用いて選択変速段が選択され、変速機T/Mにて、現在の選択変速段が実現(確立)される。以下、変速マップの具体的な修正内容について説明する。
【0036】
図5は、変速マップの修正の第1の例を示す。この例では、1速−2速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL1を参照)、2速−3速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL2を参照)、3速−4速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL3を参照)、4速−5速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL4を参照)、5速−6速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL5を参照)のそれぞれが、小さくされている。即ち、複数の変速段(1速〜6速)のうち減速比が隣接する2つの変速段の組み合わせの全てについて、「一方の変速段に対応する領域」と「他方の変速段に対応する領域」との境界に対応する車速が小さくされている。
【0037】
図5に示す変速マップの修正により、6速(最も高速側の変速段)に対応する領域が拡大する。従って、6速が一度選択されると、その他の変速段への変速段の変更が行われ難くなる。一般に、車両の通常の走行パターンでは(極端な渋滞が発生している場合を除けば)、複数の変速段のうちで「最も高速側の変速段」が選択されている時間が最も長い。以上のことから、図5に示す変速マップの修正を行うことによって、バッテリ残量SOCが低下した場合、バッテリ残量SOCが大きい場合と比べて、或る(同じ)パターンで車両が走行したときにおいて、変速作動が行われる頻度が減少し得る。この結果、変速作動に伴う変速アクチュエータACT2及びクラッチアクチュエータACT1の駆動に要する電力の消費を抑制することができる。
【0038】
図6は、変速マップの修正の第2の例を示す。この例では、5速−6速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL5を参照)のみが小さくされ、その他の領域間の境界に対応する車速は変更されていない。即ち、複数の変速段(1速〜6速)のうち減速比が最も小さい(最も高速側の)変速段に対応する領域」と「減速比が2番目に小さい(2番目に高速側の)変速段に対応する領域」との境界に対応する車速のみが小さくされている。
【0039】
図6に示す変速マップの修正によっても、図5に示す場合と同様、6速(最も高速側の変速段)に対応する領域が拡大する。従って、図5に示す場合と同じ作用・効果が奏され得る。
【0040】
図7は、変速マップの修正の第3の例を示す。この例では、現在の選択変速段が「3速」であり、2速−3速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL2を参照)が小さくされ、且つ、3速−4速領域間の境界に対応する車速(変速ラインL3を参照)が大きくされ、その他の領域間の境界に対応する車速は変更されていない。即ち、「現在の選択変速段に対応する領域」と「現在の選択変速段と減速比が隣接し且つ現在の選択変速段より減速比が大きい変速段に対応する領域」との境界に対応する車速が小さくされ、及び、「現在の選択変速段に対応する領域」と「現在の選択変速段と減速比が隣接し且つ現在の選択変速段より減速比が小さい変速段に対応する領域」との境界に対応する車速が大きくされている。
【0041】
図7に示す変速マップの修正により、T/Mにて現在実現されている変速段に対応する領域が拡大する。従って、現在実現されている変速段以外の変速段への変速段の変更が行われ難くなる。よって、バッテリ残量SOCが低下した場合、バッテリ残量SOCが大きい場合と比べて、或る(同じ)パターンで車両が走行したときにおいて、変速作動が行われる頻度が減少し得る。この結果、変速作動に伴う変速アクチュエータACT2及びクラッチアクチュエータACT1の駆動に要する電力の消費を抑制することができる。
【0042】
なお、図7に示す例では、T/Mにて現在実現されている変速段に対応する領域を拡大するため、「現在の選択変速段に対応する領域」と「現在の選択変速段と減速比が隣接し且つ現在の選択変速段より減速比が大きい変速段に対応する領域」との境界に対応する車速を小さくすること、及び、「現在の選択変速段に対応する領域」と「現在の選択変速段と減速比が隣接し且つ現在の選択変速段より減速比が小さい変速段に対応する領域」との境界に対応する車速を大きくすること、の両方が実行されているが、何れか一方のみが実行されてもよい。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態(図4〜図7)では、バッテリ残量SOCと所定値との大小関係に応じて変速マップを異ならせるため、SOCが所定値未満の場合の変速マップとして、SOCが所定値以上の場合の変速マップを「修正」したものが使用されている。これに対し、SOCが所定値未満の場合の変速マップと、SOCが所定値以上の場合の変速マップとを予め個別に準備しておき、バッテリ残量SOCと所定値との大小関係に応じて2種類の変速マップを使い分けるように構成されてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、1本の入力軸を備えた変速機と、その1本の入力軸に接続された1つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されているが、2本の入力軸を備えた変速機と、それら2本の入力軸のそれぞれと接続された2つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されてもよい。この装置は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)とも呼ばれる。
【符号の説明】
【0045】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する有段変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記クラッチのクラッチトルクを調整するクラッチアクチュエータと、
前記有段変速機の変速段を選択する変速アクチュエータと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記クラッチアクチュエータ及び前記変速アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記車両に搭載された前記車両に電気エネルギを供給するためのバッテリに蓄積されているエネルギの量であるバッテリ残量を検出する検出手段を備え、
前記制御手段は、
前記車両の走行状態に基づいて、前記複数の変速段のうち選択されるべき変速段を決定し、前記有段変速機の変速段を前記決定された変速段になるように前記変速アクチュエータを制御するよう構成され、
前記制御手段は、
前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、前記有段変速機の変速段が変更される頻度が少なくなるように前記選択されるべき変速段を決定するよう構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記車両の運転者により操作される加速操作部材の操作量に相当する値と前記車両の車速との組み合わせに基づく前記車両の走行状態を示す領域であって前記各変速段に対応する領域にそれぞれ区分された領域を用いて、前記選択されるべき変速段を前記車両の走行状態が属する領域に対応する変速段に決定するように構成され、
前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、前記複数の変速段のうち前記減速比が最も小さい変速段に対応する領域と前記複数の変速段のうち前記減速比が2番目に小さい変速段に対応する領域との境界に対応する車速を小さくするように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、前記複数の変速段のうち前記減速比が隣接する2つの変速段の組み合わせの全てについて、一方の変速段に対応する領域と他方の変速段に対応する領域との境界に対応する車速を小さくするように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記車両の運転者により操作される加速操作部材の操作量に相当する値と前記車両の車速との組み合わせに基づく前記車両の走行状態を示す領域であって前記各変速段に対応する領域にそれぞれ区分された領域を用いて、前記選択されるべき変速段を前記車両の走行状態が属する領域に対応する変速段に決定するように構成され、
前記バッテリ残量が所定値未満の場合、前記バッテリ残量が前記所定値以上の場合と比べて、前記有段変速機の現在の変速段に対応する領域と前記現在の変速段と前記減速比が隣接し且つ前記現在の変速段より減速比が大きい変速段に対応する領域との境界に対応する車速を小さくする、及び/又は、前記有段変速機の現在の変速段に対応する領域と前記現在の変速段と前記減速比が隣接し且つ前記現在の変速段より減速比が小さい変速段に対応する領域との境界に対応する車速を大きくする、ように構成された車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53726(P2013−53726A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193902(P2011−193902)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】