説明

車両の無線通信システム

【課題】ユーザの違和感を払拭することのできる車両の無線通信システムを提供する。
【解決手段】この車両の無線通信システムでは、車両のドアガラスに近接した位置に配置される通信装置1と携帯電話機4との間の近距離無線通信を通じてレスポンス要求信号及びレスポンス信号が授受される。そして、これらの信号の授受を通じて携帯電話機4が認証されるとともに、該認証が成立した場合には、ドアロック装置25により車両ドアが解錠される。ここでは、窓開閉センサ22を通じて検出されるドアガラスの開閉状態に基づいてドアガラスが全閉状態であることが検出される場合に、ドアガラスが全閉状態でないことが検出される場合よりも、ループアンテナ10の送信出力を強く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた通信装置とその通信対象との間の無線通信を通じて車両の各種制御を実行する車両の無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の無線通信システムとしては、例えば特許文献1に記載のシステムが知られている。この特許文献1に記載のシステムでは、車両のドアハンドルに通信装置が設けられている。そしてこの通信装置からドアハンドルの周辺に設定された十数センチメートルの通信エリアにレスポンス要求信号が送信される。またこのシステムでは、レスポンス要求信号の受信に基づき識別コード(IDコード)を含むレスポンス信号を送信する携帯電話機をユーザが所持する。すなわち、ユーザが携帯電話機を車両のドアハンドルに近づけることによって携帯電話機からレスポンス信号が送信される。そしてこのレスポンス信号は上記通信装置によって受信されて、車両の各種制御を実行する車両制御部に伝達される。車両制御部は、受信されたレスポンス信号に含まれるIDコードと、内蔵されるメモリに予め記憶されているIDコードとの照合を行い、該照合の結果に基づいて車両ドアを解錠させる。このような無線通信システムによれば、ユーザは携帯電話機を所持するだけで車両ドアを解錠させることができるため、利便性が向上するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−264625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした無線通信システムでは、ドアハンドルに通信装置を設けるといった構造の他、例えば車両のドアガラスに近接した位置に通信装置を設けるといった構造を採用することもできる。図6に、このように配置された通信装置の斜視構造を示す。
【0005】
図6に示すように、この無線通信システムでは、後部座席のドアガラス2を囲繞する枠部3の上側の部分に通信装置1を固定して設けるようにしている。この通信装置1は、図7に図6のA−A線に沿った断面構造を示すように、自身を中心とする半径十数センチメートルの通信エリアAにレスポンス要求信号を送信する。これにより、ユーザが携帯電話機4をドアガラス2の外側から通信装置1に近づけたとすると、携帯電話機4と通信装置1との間で無線通信が行われて車両ドアが解錠される。
【0006】
ところで、このように通信装置1を配置した場合には、ドアガラス2の開閉状態に応じてユーザの体感的な通信距離が次のように変化する。まず、図7に示すように、ドアガラス2が全閉状態の場合、ユーザは携帯電話機4をドアガラス2までしか近づけることができない。このため、体感的な通信距離はドアガラス2の表面から通信エリアAの外縁までの距離d10となる。一方、図8に示すように、ドアガラス2が開いている場合、ユーザは携帯電話機4を通信装置1の近傍まで近づけることができるため、体感的な通信距離は通信装置1の表面から通信エリアAの外縁までの距離d11となる。
【0007】
このように、体感的な通信距離は、ドアガラス2の開閉状態に応じて距離d10から距離d11に、あるいは距離d10から距離d11に変化する。そしてこのことがユーザに違和感を与える一つの要因となっている。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ユーザの違和感を払拭することのできる車両の無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両のドアガラスに近接した位置に配置される通信装置とその通信対象との間の近距離無線通信を通じて無線信号の授受を行い、該無線信号の授受を通じて車両制御を実行する車両の無線通信システムにおいて、前記ドアガラスの開閉状態を検出する開閉状態検出手段と、該開閉状態検出手段を通じて検出される前記ドアガラスの開閉状態に基づき前記通信装置の送信出力を調整する送信出力調整手段とを備えることを要旨とする。
【0010】
同システムによるように、ドアガラスの開閉状態に応じて通信装置の送信出力を調整することとすれば、通信装置の最大通信距離がドアガラスの開閉状態に応じて変化する。これにより、ドアガラスの開閉状態に起因する体感的な通信距離の変化を抑制することができるため、ユーザの違和感を払拭することができるようになる。
【0011】
そしてこの場合、請求項2に記載の発明によるように、前記送信出力調整手段が、前記開閉状態検出手段を通じて検出される前記ドアガラスの開閉状態に基づいて前記ドアガラスが全閉状態であることが検出される場合に、前記ドアガラスが全閉状態でないことが検出される場合よりも、前記通信装置の送信出力を強く設定するものである、といった構成が有効であり、これにより、簡易な構成ながらも、ユーザの違和感を払拭することができるようになる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車両の無線通信システムにおいて、前記送信出力調整手段は、前記開閉状態検出手段を通じて検出される前記ドアガラスの開閉状態に基づいて同ドアガラスが前記通信装置に対向して位置していることが検出される場合に、前記ドアガラスが前記通信装置に対向して位置していないことが検出される場合よりも、前記通信装置の送信出力を強く設定するものであることを要旨とする。
【0013】
同システムによれば、ドアガラスが通信装置に対向している状況、すなわち体感的な通信距離が短くなり得る状況では、これが的確に検出されて通信装置の送信出力が強くなるため、通信装置の最大通信距離が伸びる。これにより、体感的な通信距離の変化をより確実に抑制することができるため、ユーザの違和感を的確に払拭することができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる車両の無線通信システムによれば、ユーザの違和感を払拭することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる車両の無線通信システムの一実施形態についてそのシステム構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態の無線通信システムによるループアンテナの送信出力を調整する処理についてその手順を示すフローチャート。
【図3】(a)は、同実施形態の無線通信システムの動作例を示す断面図。(b)は、通信装置により形成される磁界の強度について通信装置から車室外に向かう方向の変化傾向を示すグラフ。
【図4】(a)は、同実施形態の無線通信システムの動作例を示す断面図。(b)は、通信装置により形成される磁界の強度について通信装置から車室外に向かう方向の変化傾向を示すグラフ。
【図5】本発明にかかる車両の無線通信システムの他の例についてループアンテナの送信出力を調整する処理の手順を示すフローチャート。
【図6】携帯電話機と無線通信を行う通信装置を搭載した車両についてその一例を示す斜視図。
【図7】図6のA−A線に沿った断面構造を示す断面図。
【図8】図6のA−A線に沿った断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる車両の無線通信システムの一実施形態について図1〜図4を参照して説明する。はじめに図1を参照して無線通信システムの構成について説明する。なお、図1に示す通信装置1も先の図6に例示した通信装置1と同様に配置されるものである。すなわち、図1に示す通信装置1も後部座席のドアガラス2を囲繞する枠部3の上側の部分に固定して設けられるものである。また、この通信装置1も、自身を中心とする半径十数センチメートルの範囲を通信エリアAとして、同通信エリアA内で携帯電話機4と近距離無線通信を行う。本実施形態では、近距離無線通信として、HF帯(13.56MHz)の周波数の電波を用いるNFC(Near Field Communication)規格に基づく無線通信が採用されている。
【0017】
図1に示すように、通信装置1は、コマンドコードでHF帯の搬送波を変調することによりレスポンス要求信号を生成するとともに同レスポンス要求信号に応じた磁界をループアンテナ10により形成するリーダライタIC13を有している。このリーダライタIC13は、レスポンス信号に応じた磁界をループアンテナ10を介して検出したときに同レスポンス信号から識別コード(IDコード)を復調する処理も行う。また、通信装置1は、リーダライタIC13とループアンテナ10との間の整合を取るための整合回路12、及びループアンテナ10に電気的に直列に接続される可変抵抗11を有している。これにより、可変抵抗11の抵抗値が変化するとループアンテナ10を流れる電流の大きさが変化するため、ループアンテナ10により形成される磁界の強度、すなわちループアンテナ10の送信出力が変化する。さらに、通信装置1は、車両に搭載された通信制御部20とハーネス21などを介して接続されている。通信制御部20は、ハーネス21を介してリーダライタIC13と各種情報の授受を行うとともに、可変抵抗11の抵抗値を操作することによりループアンテナ10の送信出力を制御する。すなわち本実施形態では、可変抵抗11及び通信制御部20が、通信装置1の送信出力を調整する送信出力調整手段となっている。なお、通信制御部20は不揮発性のメモリ20aを有しており、同メモリ20a内にIDコードなどの情報が記憶されている。
【0018】
一方、車両は、車両状態を検出する各種センサや、ユーザによって操作される各種スイッチを有している。具体的には、先の図6に例示したドアガラス2の開閉状態を検出する窓開閉センサ22、車両ドアの施解錠状態を検出するドアロックセンサ23、及びエンジンを始動する際に操作されるイグニッションスイッチ24を有している。そして、ドアロックセンサ23及びイグニッションスイッチ24の出力は、車両に設けられた車両制御部26に取り込まれている。車両制御部26は、例えば車両ドアの施解錠を行うドアロック装置25などの制御対象を制御する部分である。また、車両制御部26は、例えばCAN(Controller Area Network)によって構築された車内LAN27を介して通信制御部20と各種情報の授受を行う。なお、窓開閉センサ22の出力は通信制御部20に取り込まれている。また本実施形態では、窓開閉センサ22が、ドアガラス2の開閉状態を検出する開閉状態検出手段となっている。
【0019】
また一方、携帯電話機4は、ループアンテナ10との磁界結合により通信装置1と近距離無線通信を行う通信モジュール40を有している。通信モジュール40は、制御回路やメモリなどを有するICチップやアンテナなどにより構成されている。なお、通信モジュール40は不揮発性メモリを有しており、同メモリ内に携帯電話機4固有のIDコードなどが記憶されている。
【0020】
次にこのような構成からなる無線通信システムの動作について説明する。
まず、車両制御部26は、例えばイグニッションスイッチ24がオフ状態であるときにドアロックセンサ23を通じて車両ドアが施錠されたことを検出すると、車両が駐車状態になったと判断する。このとき、車両制御部26はレスポンス要求信号の送信指令を車内LAN27を介して通信制御部20に送信する。通信制御部20は、レスポンス要求信号の送信指令を受信すると、レスポンス要求コードを生成するとともに、生成したレスポンス要求コードをリーダライタIC13に所定の周期で送信する。これにより、レスポンス要求信号に応じた磁界がループアンテナ10により所定の周期で形成されて、通信エリアAが形成される。
【0021】
そして、レスポンス要求信号に応じた磁界がループアンテナ10により形成されているときに、ユーザが携帯電話機4を通信装置1に近づけたとする。このとき携帯電話機4が通信エリアA内に進入すると、ループアンテナ10により形成された磁界が通信モジュール40に印加される。このとき、通信モジュール40は、電磁誘導作用によって電力を得て起動する。また、起動した通信モジュール40は、レスポンス要求信号に応じた磁界を検出すると、同レスポンス要求信号からレスポンス要求コードを復調して同コードに基づく処理を実行する。具体的には、自身のメモリ内に記憶されているIDコードでHF帯の搬送波を変調してレスポンス信号を生成するとともに、同レスポンス信号に応じた磁界を形成する。そしてこのレスポンス信号に応じた磁界は通信装置1のループアンテナ10によって検出される。これにより、リーダライタIC13は、レスポンス信号からIDコードを復調するとともに、復調したIDコードを通信制御部20に出力する。通信制御部20は、通信装置1からIDコードを受信すると、同IDコードと、メモリ20aに記憶されているIDコードとの照合を行い、該照合を通じて互いのIDコードが一致していると判断した場合には、携帯電話機4の認証が成立したと判断する。そして、携帯電話機4の認証が成立した場合には、ドア解錠指令を車内LAN27を介して車両制御部26に送信する。車両制御部26は、ドア解錠指令を受信すると、その指令内容に基づきドアロック装置25を駆動させて車両ドアを解錠させる。
【0022】
一方、本実施形態では、窓開閉センサ22を通じて検出されるドアガラス2の開閉状態に基づいてループアンテナ10の送信出力を調整するようにしている。
次に、図2を参照して、通信制御部20を通じて実行されるループアンテナ10の送信出力を調整する処理についてその手順を説明する。なお、図2に示す処理は、通信装置1からレスポンス要求信号を周期的に送信している期間に所定の演算周期をもって繰り返し実行される。
【0023】
同図2に示すように、この処理では、まず、窓開閉センサ22を通じて検出されるドアガラス2の開閉状態に基づいてドアガラス2が全閉状態であるか否かが判断される(ステップS1)。そして、ドアガラス2が全閉状態でないことが検出された場合(ステップS1:NO)、すなわちドアガラス2が開いている場合には、続くステップS2の処理として、可変抵抗11の抵抗値が操作されて、ループアンテナ10の送信出力Pが第1の送信出力P1に設定される。第1の送信出力P1の強さは、通信モジュール40が受信可能な磁界強度の上限値を最大許容値Hmaxとするとき、ループアンテナ10により形成される磁界の強度が通信装置1の位置で最大許容値Hmaxを示すように設定されている。なお、最大許容値Hmaxの値は、通信モジュール40の動作を保証するために例えばISOなどの規格により定められている。
【0024】
一方、ドアガラス2が全閉状態であることが検出された場合には(ステップS1:YES)、続くステップS3の処理として、可変抵抗11の抵抗値が操作されて、ループアンテナ10の送信出力Pが第1の送信出力P1よりも強い第2の送信出力P2に設定される。第2の送信出力P2の強さは、ループアンテナ10により形成される磁界の強度がドアガラス2の位置で最大許容値Hmaxを示すように設定されている。
【0025】
以下、図3及び図4を参照して、本実施形態の無線通信システムの動作例(作用)について説明する。なお、図3(b)及び図4(b)に示すグラフは、通信装置1により形成される磁界の強度を縦軸に、通信装置1から車室外に向かう方向の位置を横軸にとって、通信装置1により形成される磁界の強度の変化傾向を示したものである。また、図3(b)及び図4(b)において、閾値Hminは、通信モジュール40が動作可能な磁界強度の下限値(最小動作磁界強度)を示している。
【0026】
図3(a)に示すようにドアガラス2が開かれていたとする。この場合、通信装置1の送信出力は第1の送信出力P1に設定される。このため、図3(b)に示すように、通信装置1により形成される磁界の強度は、通信装置1の位置x0で最大許容値Hmaxを示すとともに、通信装置1から離れるほど弱くなる。そして、通信装置1の表面の位置x1から距離d1だけ離れた位置x2で閾値Hmin以下となるため、距離d1が通信装置1の最大通信距離となる。また、通信エリアAは図3(a)に二点鎖線で示される範囲となる。この場合、ユーザは携帯電話機4を通信装置1の近傍まで近づけることができるため、体感的な通信距離は距離d1となる。
【0027】
一方、図4(a)に示すようにドアガラス2が完全に閉じられていたとする。この場合、通信装置1の送信出力は第2の送信出力P2に設定される。このため、図4(b)に示すように、通信装置1により形成される磁界の強度は、通信装置1の位置x0で最大許容値Hmaxよりも強い強度H1を示すため、上記位置x1よりも遠い位置x4で閾値Hmin以下となる。したがって、通信装置1の最大通信距離は、通信装置1の表面の位置x1から位置x4までの距離、すなわち上記距離d1よりも長い距離d2となる。また、通信エリアAは図4(a)の二点鎖線で示される範囲から一点鎖線で示される範囲に拡大する。ただしこの場合、ユーザは携帯電話機4をドアガラス2までしか近づけることができないため、体感的な通信距離はドアガラス2の表面の位置x3から位置x4までの距離d3となる。ところで、ループアンテナ10により形成される磁界の強度は、図4(b)に示すように、ドアガラス2の位置x3で最大許容値Hmaxを示すように設定されているため、距離d3は先の図3(b)に示した距離d1とほぼ同じ長さとなる。すなわち、体感的な通信距離がほぼ一致する。したがって、ドアガラス2が全閉状態であっても、開いている状態であっても、ユーザの体感的な通信距離がほとんど変化しないため、ユーザの違和感を払拭することができる。
【0028】
一方、図4(a)に示すようにドアガラス2が完全に閉じられている場合には、ループアンテナ10により形成される磁界の強度が通信装置1の位置x0からドアガラス2の位置x3までの区間で最大許容値Hmaxよりも強くなる。このため、この区間は携帯電話機4の動作を保証することができない非保証区間となる。ただし、ドアガラス2が完全に閉じられている場合には携帯電話機4がこの区間に進入することはないため、非保証区間の存在が問題となることはない。したがって、通信装置1と携帯電話機4との間の安定した無線通信を確保することができる。また、ループアンテナ10により形成される磁界の強度をドアガラス2の位置x3で最大許容値Hmaxとなるように設定すれば、ドアガラス2の位置x3を基準とする体感的な通信距離を最大の長さに設定することができるため、ユーザが携帯電話機4を通信装置1に近づけたときに、それらの間で無線通信が行われやすくなる。このため、利便性が向上する。
【0029】
なお、図3(a)に示すようにドアガラス2が開いている場合には、非保証区間は存在しないため、携帯電話機4の動作が保証されることは言うまでもない。
以上説明したように、本実施形態にかかる車両の無線通信システムによれば、以下のような効果が得られるようになる。
【0030】
(1)ドアガラス2が全閉状態であることが検出される場合に、ドアガラス2が全閉状態でないことが検出される場合よりも、通信装置1の送信出力を強く設定することとした。これにより、ドアガラス2の開閉状態に起因する体感的な通信距離の変化を抑制することができるため、ユーザの違和感を払拭することができるようになる。
【0031】
(2)ドアガラス2が全閉状態であることが検出されるとき、通信装置1により形成される磁界の強度がドアガラスの位置で最大許容値Hmaxとなるように通信装置1の送信出力を設定することとした。これにより、通信装置1と携帯電話機4との間の安定した無線通信を確保しつつ、ドアガラス2の位置を基準とする体感的な通信距離を最大の長さに設定することができるため、利便性が向上するようになる。
【0032】
(3)通信装置1の通信対象として普及率の高い携帯電話機4を用いることとした。これにより利便性が向上するようになる。
(4)通信装置1と携帯電話機4との間の近距離無線通信としてNFC規格に基づく無線通信を用いることとした。これにより、携帯電話機4に搭載された通信機能をそのまま利用することができるため、利便性が向上するようになる。
【0033】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・通信装置1の位置を適宜変更してもよい。すなわち、枠部3の下側の部分に通信装置1を設けたり、あるいは運転席のドアガラスの近傍に通信装置1を設けてもよい。要は、車両のいずれかのドアガラスの近傍に通信装置1が設けられていればよい。
【0034】
・上記実施形態では、ドアガラス2が全閉状態であるか否かに基づいて通信装置1の送信出力を変更することとしたが、これに代えて、例えばドアガラス2が通信装置1に対向して位置しているか否かに基づいて通信装置1の送信出力を変更してもよい。具体的には、先の図1に破線で示すように、ドアガラス2側の反射率を検出する反射率センサ14を通信装置1に設ける。反射率センサ14としては、例えば赤外線センサなどを採用することができる。そして、通信制御部20は、反射率センサ14の出力に基づいて図5に示す処理を実行する。すなわち、反射率センサ14を通じて検出される反射率に基づいてドアガラス2が通信装置1に対向して位置しているか否かを判断して(ステップS4)、ドアガラス2が通信装置1に対向して位置していない場合には(ステップS4:NO)、ループアンテナ10の送信出力Pを第1の送信出力P1に設定する(ステップS2)。一方、ドアガラス2が通信装置1に対向して位置している場合には(ステップS4:YES)、ループアンテナ10の送信出力Pを第2の送信出力P2に設定する(ステップS3)。このような構成によれば、ドアガラス2が通信装置1に対向している状況、すなわち体感的な通信距離が短くなり得る状況では、これが的確に検出されて通信装置1の送信出力が強くなるため、通信装置1の最大通信距離が伸びる。したがって、体感的な通信距離の変化をより確実に抑制することができるため、ユーザの違和感を的確に払拭することができるようになる。
【0035】
・ドアガラス2が全閉状態であることが検出されるとき、「P1<P<P2」なる関係を満たすようにループアンテナ10の送信出力Pを設定してもよい。すなわち、通信装置1により形成される磁界の強度がドアガラス2の位置で最大許容値Hmaxよりも小さくなるようにループアンテナ10の送信出力を設定してもよい。このような構成であっても、ドアガラス2が全閉状態であるとき、通信装置1の最大通信距離が、ドアガラス2が開いている状況での最大通信距離d1よりも長くなるため、体感的な通信距離の変化を抑制することが可能である。
【0036】
・上記実施形態では、通信装置1の通信対象として携帯電話機4を用いることとしたが、これに代えて、例えばNFC通信モジュールが内蔵されたカードなど、適宜の電子機器を用いてもよい。
【0037】
・上記実施形態では、通信装置1と携帯電話機4との間の近距離無線通信をNFC規格に基づいて行うこととしたが、これに代えて、例えば一般的なRFID方式に基づいて行ってもよい。
【0038】
・上記実施形態では、本発明にかかる車両の無線通信システムを、車両ドアの解錠を行う無線通信システムに適用することとした。これに代えて、例えば携帯電話機4のIDコードに応じてシートポジションを変更する無線通信システムに適用することも可能である。また、携帯電話機4の認証が成立した際に、ユーザの名前を音声で伝えたり、あるいは車両のライトを点灯させるなど、いわゆるお出迎え機能を実行する無線通信システムに適用することも可能である。さらに、携帯電話機4の認証が成立することを条件に、車載エンジンの始動を許可する無線通信システムにも適用することができる。
【0039】
<付記>
次に、上記実施形態及びその変形例から把握できる技術的思想について追記する。
(イ)請求項2又は3に記載の車両の無線通信システムにおいて、前記近距離無線通信が、前記通信装置と前記通信対象との間の磁界結合を利用する無線通信であって、前記通信対象が受信可能な磁界強度の最大値を最大許容値とするとき、前記通信装置の送信出力を強くする設定が、前記通信装置により形成される磁界の強度が前記ドアガラスの位置で前記最大許容値となるように設定することで行われることを特徴とする車両の無線通信システム。ドアガラスが全閉状態である場合、ユーザは通信対象をドアガラスの近傍までしか近づけることができない。したがって、上記システムによるように、通信装置により形成される磁界の強度をドアガラスの位置で最大許容値となるように設定することとすれば、通信装置と通信対象との間の安定した無線通信を確保することができるようになる。また、ドアガラスの位置を基準とする体感的な通信距離を最大の長さに設定することができるため、ユーザが通信対象を通信装置に近づけたときに、それらの間で無線通信が行われやすくなる。このため、利便性が向上するようになる。
【0040】
(ロ)請求項1〜3及び付記イのいずれか一項に記載の車両の無線通信システムにおいて、前記通信対象が携帯電話機であることを特徴とする車両の無線通信システム。同システムによるように、通信対象として普及率の高い携帯電話機を用いることとすれば、利便性が向上するようになる。
【0041】
(ハ)請求項1〜3、付記イ、及び付記ロのいずれか一項に記載の車両の無線通信システムにおいて、前記近距離無線通信がNFC規格に基づく無線通信であることを特徴とする車両の無線通信システム。近年、携帯電話機には、NFC規格に基づく通信機能が搭載されている。したがって、上記システムによれば、携帯電話機に搭載された通信機能をそのまま利用することができるため、利便性が向上するようになる。
【符号の説明】
【0042】
A…通信エリア、1…通信装置、2…ドアガラス、3…枠部、4…携帯電話機、10…ループアンテナ、11…可変抵抗、12…整合回路、13…リーダライタIC、14…反射率センサ、20…通信制御部、20a…メモリ、21…ハーネス、22…窓開閉センサ、23…ドアロックセンサ、24…イグニッションスイッチ、25…ドアロック装置、26…車両制御部、27…車内LAN、40…通信モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアガラスに近接した位置に配置される通信装置とその通信対象との間の近距離無線通信を通じて無線信号の授受を行い、該無線信号の授受を通じて車両制御を実行する車両の無線通信システムにおいて、
前記ドアガラスの開閉状態を検出する開閉状態検出手段と、該開閉状態検出手段を通じて検出される前記ドアガラスの開閉状態に基づき前記通信装置の送信出力を調整する送信出力調整手段とを備える
ことを特徴とする車両の無線通信システム。
【請求項2】
前記送信出力調整手段は、前記開閉状態検出手段を通じて検出される前記ドアガラスの開閉状態に基づいて前記ドアガラスが全閉状態であることが検出される場合に、前記ドアガラスが全閉状態でないことが検出される場合よりも、前記通信装置の送信出力を強く設定するものである
請求項1に記載の車両の無線通信システム。
【請求項3】
前記送信出力調整手段は、前記開閉状態検出手段を通じて検出される前記ドアガラスの開閉状態に基づいて同ドアガラスが前記通信装置に対向して位置していることが検出される場合に、前記ドアガラスが前記通信装置に対向して位置していないことが検出される場合よりも、前記通信装置の送信出力を強く設定するものである
請求項1に記載の車両の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−167480(P2012−167480A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28885(P2011−28885)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】