車両の熱源制御装置
【課題】車両に搭載された複数の熱源において異常熱源が生じた場合であっても、熱を供給するために消費される燃料量を減少させる。
【解決手段】空調御装置54は、複数の熱源(効率可変及び冷却水、ヒートポンプシステム30)から熱交換部(ヒータコア23、室内熱交換器37)へ供給されるように要求される要求熱量を算出する。エネルギ制御装置51は、各熱源について供給する熱量と熱費との関係を算出するとともに、各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源を検出する。エネルギ制御装置51は、上記関係と異常熱源が供給する異常熱量とに基づいて、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。
【解決手段】空調御装置54は、複数の熱源(効率可変及び冷却水、ヒートポンプシステム30)から熱交換部(ヒータコア23、室内熱交換器37)へ供給されるように要求される要求熱量を算出する。エネルギ制御装置51は、各熱源について供給する熱量と熱費との関係を算出するとともに、各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源を検出する。エネルギ制御装置51は、上記関係と異常熱源が供給する異常熱量とに基づいて、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の熱源からの熱供給を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両で消費される燃料量を減少させる観点から、様々な技術が開発されている。例えば、車載主機として、エンジンに加えて電動機を備えるハイブリッド車や、車両の停止時にエンジンを自動停止するアイドルストップシステムが開発されている。
【0003】
一般に、車室内の暖房においては、エンジンから冷却水等に廃棄される熱を利用している。しかしながら、上記の例に挙げた省燃費車においては、アイドルストップや、エンジン自体の効率向上により、エンジンから廃棄される熱量が減少し、エンジンからの廃熱だけでは暖房に必要な熱量を確保できないおそれがある。
【0004】
そこで、エンジンからの廃熱を利用した暖房装置の他に、電動機で駆動されるヒートポンプ式の暖房装置を備える構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3704788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のものでは、車室内の暖房に使用される熱源が複数存在することとなり、エネルギの効率的利用の観点から、どちらの熱源をどれだけ使用するかという問題が生じる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、複数の熱源から熱を供給する指針が確立されておらず、未だ改善の余地を残すものとなっている。さらに、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源が生じた場合に、その異常熱源を含めてどのように複数の熱源から熱を供給するかが問題となる。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、車両に搭載された複数の熱源において異常熱源が生じた場合であっても、熱を供給するために消費される燃料量を減少させることを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、車両に搭載された複数の熱源から熱交換部への熱供給を制御する熱源制御装置であって、前記複数の熱源から前記熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量を算出する要求熱量算出手段と、各熱源について、供給する熱量と、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費との関係を算出する熱費算出手段と、各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源を検出する異常熱源検出手段と、前記異常熱源が供給する熱量である異常熱量を算出する異常熱量算出手段と、各熱源から供給する熱量と前記熱費との関係、及び前記異常熱量に基づいて、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する熱量配分決定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本願発明者らは、熱を供給するために熱源で消費される燃料量を少なくするために、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費を小さくすることを考案した。そして、熱を供給するために複数の熱源全体で消費される燃料量を少なくするためには、複数の熱源全体の熱費を小さくすればよいという結論に至った。
【0012】
この点、上記構成によれば、複数の熱源から熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量、すなわち複数の熱源から熱交換部へ供給すべき熱量が算出される。一方、各熱源について、供給する熱量と上記熱費との関係が算出される。また、各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源が検出され、異常熱源の供給する熱量である異常熱量が算出される。すなわち、正常な熱量と異なる熱量を異常熱源が供給する場合があるため、この異常熱源の供給する異常熱量を算出する。
【0013】
そして、各熱源から供給する熱量と熱費との関係、及び上記異常熱量に基づいて、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分が決定される。このため、異常熱源が生じた場合であっても、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量を供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0014】
異常熱源では、熱費を小さくするように熱量を制御することができず、消費される燃料量を抑制することができない。このため、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制するためには、異常熱源を除く熱源全体で消費される燃料量を最も少なくする必要がある。
【0015】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定するといった構成を採用することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明では、前記車両の車室内に供給される熱量に基づいて、前記複数の熱源から前記熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量を算出する実熱量算出手段を備え、前記異常熱量算出手段は、前記実熱量から、前記異常熱源を除く熱源から前記熱交換部へ供給される熱量の合計を引いて、前記異常熱量を算出する。
【0017】
上記構成によれば、車両の車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量が算出される。すなわち、異常熱源が生じた場合に、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計(実熱量)が算出される。
【0018】
ここで、異常熱源を除く熱源は配分された熱量を熱交換部へ供給するため、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を算出することができる。したがって、上記実熱量から、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を引くことにより、上記異常熱量を算出することができる。
【0019】
上記熱費算出手段と上記熱量配分決定手段との通信に異常が生じると、熱源から供給する熱量と上記熱費との関係を取得できなくなることがある。その場合には、熱源から供給する熱量と熱費との関係に基づいて、その熱源から供給する熱量を算出することができない。
【0020】
この点、請求項4に記載の発明では、前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量と前記熱費との関係を取得することのできない熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用している。したがって、熱源から供給する熱量と前記熱費との関係を取得することのできない熱源が生じた場合であっても、その熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0021】
熱源から供給する熱量を算出する処理負荷は、熱源の種類によって異なるとともに、車両の状態等によっても変化する。このため、特定の熱源では、車両の状態等によって供給する熱量を算出する処理負荷が過大となり、供給する熱量を適切に算出できないおそれがある。
【0022】
この点、請求項5に記載の発明では、前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用している。このため、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0023】
さらに、請求項5に記載の発明において、熱量配分決定手段は、前記異常熱源から供給する熱量を所定の一定値に決定し、前記異常熱量算出手段は、前記異常熱源が供給する異常熱量を前記一定値として算出するといった構成を採用することが有効である。上記構成によれば、異常熱源から供給する熱量が所定の一定値に決定されるため、異常熱源から供給する熱量を算出する処理負荷を軽減することができる。なお、上記一定値としては、例えば0又は、異常熱源が供給することのできる最大値もしくは要求熱量のうち小さい方を採用することができる。
【0024】
電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源では、電源から電力が正常に供給されることが、熱を正常に供給するための条件となる。しかしながら、電力を供給するバッテリでは、残量が少なくなったり、温度が適正範囲から外れたりすることにより、電力を正常に供給できなくなるおそれがある。
【0025】
この点、請求項6に記載の発明では、前記車両にはバッテリが搭載されており、前記複数の熱源は、電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源を含み、前記異常熱源検出手段は、前記バッテリから前記電動熱源へ電力を正常に供給できない場合に、前記電動熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用している。したがって、バッテリから電動熱源へ電力を正常に供給できない場合であっても、電動熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0026】
さらに、請求項6に記載の発明において、熱量配分決定手段は、前記異常熱源から供給する熱量を0に決定し、前記異常熱量算出手段は、前記異常熱源が供給する異常熱量を0として算出するといった構成を採用することが有効である。上記構成によれば、異常熱源(電動熱源)から供給する熱量が0に決定されるため、バッテリの残量を増加させたり、温度を適正範囲に近付けたりすることができる。
【0027】
また、請求項7に記載の発明のように、前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給される熱量の大きさが異常である熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用することもできる。すなわち、熱源から供給される熱量の大きさが、種々の原因により正常な範囲から外れた場合には、その熱源を異常熱源として検出する。こうした構成であっても、正常な熱量を供給できない熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0028】
請求項8に記載の発明では、各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として、前記熱量の関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量を算出する熱量増分燃料量算出手段を備え、前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く各熱源の前記熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。
【0029】
上記構成によれば、各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として、熱量の関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量が算出される。この熱量増分燃料量は、熱源から供給される熱量を微小量増加させた場合に、消費される燃料量がどれだけ増加するかを示すものである。
【0030】
複数の熱源により要求熱量を供給する場合に、各熱源から熱量を供給する配分(各熱源の供給負荷配分)を以下のように決定することにより、複数の熱源全体の熱費を最小とすることができる。その結果、複数の熱源全体で消費される燃料量を最も少なくすることができる。
【0031】
例えば、ある状態において、熱源1及び熱源2により熱交換部へ熱を供給する場合に、熱源1及び熱源2の熱量増分燃料量が、それぞれ200[g/kWh]及び210[g/kWh]であるとする。そして、熱源1から供給する熱量を1[kW]増加させ、熱源2から供給する熱量を1[kW]減少させたとする。その結果、熱源1及び熱源2により供給される熱量の合計は変わらないが、熱源1及び熱源2で消費される燃料量の合計は10[g/h]減少することとなる。
【0032】
すなわち、上記内容は、複数の熱源間で熱量増分燃料量に差がある場合には、供給する熱量の合計を変えずに、消費される燃料量を減少させることができることを意味する。換言すれば、各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致した状態は、消費される燃料量をそれ以上減少させることができない状態である。したがって、その状態を形成するように異常熱源を除く各熱源の供給負荷配分を決定することにより、異常熱源を除く複数の熱源全体で消費される燃料量を最も少なくすることができる。
【0033】
この点、上記構成によれば、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量に一致し、且つ異常熱源を除く各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源から熱を供給する配分が決定される。このため、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量を供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。さらに、各熱源の最適な供給負荷配分を決定する上で、その組み合わせを総当りで演算する必要がないため、演算負荷の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本システムにおける熱供給及び電力供給の制御概要を示すブロック図。
【図2】本システムの全体構成を示す模式図。
【図3】熱供給制御の処理手順を示すフローチャート。
【図4】異常熱源検出及び異常熱量算出の処理手順を示すフローチャート。
【図5】要求熱量を算出するための機能ブロック図。
【図6】エンジン動作点と燃料消費率との関係を示すマップ。
【図7】エンジン動作点と追加熱量との関係を示す図。
【図8】追加熱量発生による燃料増加量を示すグラフ。
【図9】供給熱量と熱費との関係を示す熱費特性図。
【図10】供給熱量と熱量増分燃料量との関係を示すグラフ。
【図11】供給熱量と熱量増分燃料量との関係を示すグラフ。
【図12】供給熱量と熱量増分燃料量との関係を示すグラフ。
【図13】総供給熱量と最適配分熱量との関係を示すグラフ。
【図14】ベース熱量配分の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
本実施形態は、車室内の暖房に際して、車両に搭載された複数の熱源から熱交換部への熱供給、及び複数の電源から複数の電気負荷への電力供給を制御するシステムとして具体化している。
【0037】
図1に、本システムにおける熱供給及び電力供給の制御概要を示す。同図に示すように、本システムでは、複数の暖房熱源から各熱交換部へ熱を供給するために消費される燃料を最も少なくすべく、各熱源から熱を供給する配分(各熱源の供給負荷配分)を決定する。
【0038】
複数の熱源としては、エンジンの冷却水の熱量及びヒートポンプを備えている。エンジンの冷却水には、エンジンから熱を供給し、その際にはエンジンの廃熱量調整手段(1),(2),(3)(エンジン熱源)を使用する。したがって、複数の熱源には、エンジンの廃熱量調整手段(1),(2),(3)が含まれる。
【0039】
このとき、廃熱量調整手段(1),(2),(3)を用いて熱を創出するために消費される燃料量が最も少なくなるように、廃熱量調整手段(1),(2),(3)を用いて熱を供給する組み合わせを決定する。具体的には、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費を考慮して、廃熱量調整手段(1),(2),(3)全体の熱費が最も小さくなるように熱管理を行う(熱創出制御)。そして、冷却水の熱管理において、廃熱量調整手段(1),(2),(3)を用いて指令熱量が供給されるようにエンジンを制御する。
【0040】
さらに、冷却水からヒータコア(熱交換部)を介して車室内の空気へ供給する熱量と、ヒートポンプシステム(電動熱源)の室内熱交換器(熱交換部)から車室内の空気へ供給する熱量とを考慮する。そして、冷却水及びヒートポンプシステムから車室内の空気へ熱を供給するために消費される燃料量が最も少なくなるように、冷却水及びヒートポンプシステムから熱を供給する配分を決定する。
【0041】
この際にも、冷却水及びヒートポンプシステム全体の熱費が最も小さくなるように熱管理を行う(最適配分アルゴリズム)。そして、車室内空気の熱管理において、冷却水へ供給されるように要求する要求熱量を冷却水の熱管理部へ送信するとともに、ヒートポンプシステムから指令熱量が供給されるように制御する。なお、ヒータコアから指令熱量が供給されるように制御する。
【0042】
また、車両は複数の電源を備えており、ヒートポンプシステム及びその他の電気負荷へ電力を供給する電源を切り替える。複数の電源としては、エンジンの発電機及びバッテリを備えている。電力管理部は、各電源から指令電力が供給されるように制御する。
【0043】
以上のように、車室内の暖房に際して、本システム全体で消費される燃料量が最も少なくなるように、各部における熱供給及び電力供給を制御する。
【0044】
図2に、本システムの全体構成を示す。同図に示すように、本システムは、エンジン10を備えている。エンジン10は、火花点火式の多気筒ガソリンエンジンであり、スロットルバルブ、吸気バルブ、排気バルブ、燃料噴射弁、点火装置、及び吸排気の各バルブの開閉タイミングをそれぞれ調整する吸気側バルブ駆動機構及び排気側バルブ駆動機構等を備えている。
【0045】
エンジン10の駆動力は、駆動軸11を介して変速機12に伝達され、さらにデファレンシャル13を介して車軸14及び車輪15に伝達される。一方、車両の減速時には、車輪15の回転力が、車軸14及びデファレンシャル13を介して変速機12に伝達され、さらに駆動軸11を介してエンジン10に伝達される。
【0046】
エンジン10のシリンダブロックやシリンダヘッドの内部にはウォータジャケットが形成されており、このウォータジャケットに冷却水が循環供給されることで、エンジン10の冷却が行われる。ウォータジャケットには冷却水配管等からなる冷却水循環経路21が接続されており、その循環経路21には、冷却水を循環させるための電動ポンプ22が設けられている。そして、電動ポンプ22の吐出量が変更されることにより、循環経路21を循環する冷却水の流量が調整される。
【0047】
循環経路21は、エンジン10の出口側においてヒータコア23(熱交換部)に向けて延び、ヒータコア23を経由して再びエンジン10に戻るようにして設けられている。ヒータコア23には、ブロアファン24から空調風が送り込まれるようになっており、空調風がヒータコア23又はその付近を通過することで、ヒータコア23からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。
【0048】
このような構成において、電動ポンプ22の吐出量及びブロアファン24の駆動状態が制御されることにより、冷却水からヒータコア23を介して車室内へ供給される熱量が制御される。
【0049】
また、本システムは、ヒートポンプシステム30(電動熱源)を備えている。このヒートポンプシステム30は、電動コンプレッサ31と、コンプレッサ用インバータ32と、室内熱交換器37(熱交換部)と、室外熱交換器34と、ファン35と、膨張弁36と、アキュムレータ33と、これらを接続する冷媒配管等からなる冷媒循環経路39と、ヒートポンプ制御装置38とを備えている。
【0050】
電動コンプレッサ31は冷媒を圧縮して加熱し、この加熱された冷媒が室内熱交換器37へ送出される。そして、上記ブロアファン24から空調風が送り込まれ、空調風が室内熱交換器37の付近を通過することで、室内熱交換器37からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。このとき、冷媒は放熱により冷却される。
【0051】
室内熱交換器37を流通した冷媒は膨張弁36により減圧され、室外熱交換器34へ送出される。そして、ファン35により室外熱交換器34へ外気が送り込まれ、この外気からの受熱により冷媒が加熱される。この加熱された冷媒は、アキュムレータ33を経由して電動コンプレッサ31に送出される。
【0052】
電動コンプレッサ31はコンプレッサ用インバータ32から供給される電力により駆動され、インバータ32はヒートポンプ制御装置38によって制御される。そして、ヒートポンプ制御装置38及びインバータ32を通じて、電動コンプレッサ31の駆動状態が制御されることにより、ヒートポンプシステム30から室内熱交換器37を介して車室内へ供給される熱量が制御される。
【0053】
本システムは、電源として、エンジン10の駆動力により駆動される発電機41(エンジン発電機)、及び充放電を行うバッテリ43を備えている。発電機41は、オルタネータやモータジェネレータである。上記の各電源は、電源回路40に接続されており、この電源回路40へ電力を供給する。また、バッテリ43は、電源回路40から供給される電力により適宜充電される。
【0054】
発電機41の駆動状態が制御されることにより、その発電量が調整される。なお、発電機41は、車両の減速時において、車輪15から変速機12等を介してエンジン10に伝達される回転力に基づいて回生発電を行う。
【0055】
また、この電源回路40には、電気負荷として、上記電動ポンプ22、上記コンプレッサ用インバータ32、負荷42、及び補機等を含む電気負荷が接続されている。そして、これらの電気負荷には、電源回路40を通じて電力が供給される。
【0056】
本システムは、エネルギ制御装置51、エンジン制御装置52、発電機制御装置53、及び空調制御装置54を備えている。これらの制御装置51〜54は、CPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで各種制御を実施する。
【0057】
エネルギ制御装置51は、空調制御装置54を通じて、上記電動ポンプ22、ブロアファン24、及びヒートポンプ制御装置38を制御する。また、エネルギ制御装置51は、発電機制御装置53を通じて、発電機41の駆動状態を制御する。さらに、エネルギ制御装置51は、エンジン制御装置52を通じて、エンジン10の運転状態を制御する。
【0058】
本システムでは、エアコンのオン/オフが切り替え操作されるA/Cスイッチ61、運転者が車室内温度の目標値(目標温度)を設定するための温度設定スイッチ62、車室内温度を検出する車室内温度センサ63、外気温を検出する外気温センサ64、ヒータコア23又は室内熱交換器37からエアコン吹き出し口を介して車室内へ送られる空調風の温度(吹出口温度)を検出する吹出口温度センサ65等を備えている。また、空調風の風量がセンサにより検出、又は制御値から算出される。これらの各センサ等の信号は、空調制御装置54に適宜入力される。
【0059】
エンジン制御装置52は、エンジン10の運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。本システムでは、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ67、吸入空気量や吸気管負圧といったエンジン10の負荷を検出するエンジン負荷センサ68、ウォータジャケット内の冷却水の温度を検出する水温センサ69、車両の速度を検出する車速センサ66等を備えている。これら各センサの検出信号は、エンジン制御装置52に適宜入力される。
【0060】
エンジン制御装置52は、上述した各種センサから検出信号を入力し、それらの検出信号に基づいて燃料噴射弁による燃料噴射制御、点火装置による点火時期制御、吸気側及び排気側のバルブ駆動機構によるバルブタイミング制御、スロットルバルブによる吸気量制御を実施する。
【0061】
上記の各種制御において基本的には、エンジン10の運転状態に応じてエンジン軸効率(燃料消費率)が異なる。この点に鑑み、その時々の運転状態において、エンジン軸効率が最高となるように、適合データ等に基づいて各種制御を実施する。
【0062】
ここで、本システムでは、エンジン10の熱エネルギである廃熱の発生量(発生熱量)を増加させる場合、その廃熱増加に伴う燃料増加量が最も少なくなるように、発生熱量を増加させるための制御(熱創出制御)を実施する。熱創出制御について具体的には、本制御システムは、発生熱量を増加させるためのエンジン10の廃熱量調整手段を複数備えている。そして、暖房要求等の熱利用要求が生じた場合、その複数の廃熱量調整手段全体の上記熱費が最も小さくなるように、廃熱量調整手段の組み合わせを決定する。
【0063】
熱創出制御について更に詳しく説明する。本システムでは、例えば、
・点火時期を遅角させると廃熱量が増加すること
・吸気バルブの開弁時期を進角側に変更すると(吸気早開きにすると)廃熱量が増加すること
・排気バルブの開弁時期を遅角側に変更すると(排気遅開きにすると)廃熱量が増加すること
等のうち1つ又は複数を利用することによりエンジン廃熱量の増加を図っている。また、エンジン10の廃熱量調整手段として本実施形態では、例えば、
(1)排気バルブの遅開きを実施する手段
(2)吸気バルブの早開きを実施する手段
(3)点火遅角を実施する手段
を備えている。
【0064】
図3に、本システムによる熱供給制御の処理手順を示す。この処理は、所定の周期をもって繰返し実行される。なお、この熱供給制御の各ステップにおける処理の詳細については後述する。
【0065】
まず、空調制御装置54は、運転者の暖房要求に応じて、複数の熱源から熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量、すなわち複数の熱源から熱交換部へ供給すべき熱量を算出する(S10)。そして、空調制御装置54は、この要求熱量をエネルギ制御装置51へ送信する。
【0066】
続いて、エネルギ制御装置51は、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源があるか否か判定する(S11)。そして、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源があると判定した場合には(S11:YES)、エネルギ制御装置51は、異常熱源が供給する熱量である異常熱量を算出する(S17)。その後、S12以降の処理を実行する。一方、上記判定において、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源がないと判定した場合には(S11:NO)、上記S17の処理を実行することなく、S12以降の処理を実行する。
【0067】
続いて、エネルギ制御装置51は、各熱源の熱費を算出する(S12)。このとき、ヒートポンプシステム30の熱費は、供給する熱量と、使用する電力を供給するために消費される燃料量とから算出する。この使用する電力を供給するために消費される熱量は、実験等により予め求めておくことができる。
【0068】
続いて、エネルギ制御装置51は、各熱源において熱費0の状態(熱を供給するために消費される燃料量が0の状態)で供給することのできる熱量であるベース熱量を算出する(S13)。エネルギ制御装置51は、各熱源の熱費に基づいて、各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として求める。そして、この関数に基づいて、供給する熱量と、この関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量との関係である熱量関係を算出する。さらに、この熱量関係に基づいて、熱を供給するために熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなるように最適化演算を行う(S14)。
【0069】
ここで、エネルギ制御装置51内の構成部品同士や他の装置との間で通信に異常が生じたり、エンジン10の回転速度が高くなることにより供給する熱量を算出する処理負荷が過大となったり、バッテリ43から電力を正常に供給できなくなったり、熱源から供給される熱量の大きさが正常な範囲から外れたりすることがある。このような場合には、熱源から供給する熱量を算出できなくなったり、熱源から正常な熱量を供給できなくなったりするため、この異常熱源では消費される燃料量を抑制することができない。
【0070】
このため、本実施形態では、上記異常熱源を含めて複数の熱源から供給される熱量の合計が上記要求熱量に一致し、且つ異常熱源を除く熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなるように上記最適化演算を行う。詳しくは、要求熱量から異常熱量を引いた熱量が、異常熱源を除く複数の熱源から熱交換部へ供給されるようにし、異常熱源を除く熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。
【0071】
続いて、この最適化演算の結果に基づいて、要求熱量に対して各熱源のベース熱量を配分し、要求熱量の残りである残要求熱量を追加要求熱量として各熱源に配分する(S15)。その後、各熱源について、配分されたベース熱量と配分された残要求熱量との和として、各熱源に対する指令熱量を算出する(S16)。
【0072】
そして、エネルギ制御装置51は、空調制御装置54及びエンジン制御装置へ各熱源に対する指令熱量を送信し、空調制御装置54及びエンジン制御装置は、この指令熱量が供給されるように各熱源を制御する。
【0073】
図4は、上記異常熱源検出(図3のS11)及び異常熱量算出(図3のS17)の処理手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、エネルギ制御装置51によって実行される。
【0074】
まず、エネルギ制御装置51や他の装置との間で通信に異常が発生しているか否か判定する(S101)。具体的には、エネルギ制御装置51と発電機制御装置53や空調制御装置54との間で通信異常が発生しているか否か判定する。通信異常としては、通信が所定時間よりも長く途絶している状態や、通信信号の値が異常である場合等がある。なお、この判定処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0075】
そして、上記判定において、エネルギ制御装置51や他の装置との間で通信に異常が発生していると判定した場合には(S101:YES)、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealと、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計とに基づいて、異常熱量を算出する(S17)。なお、この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。
【0076】
具体的には、車室内温度センサ63の検出値、車室内へ送られる空調風の温度を検出する吹出口温度センサ65の検出値、及び空調風を送るブロアファン24の風量に基づいて、車室内に供給される熱量を算出する。そして、車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealを算出する。さらに、この実熱量Qrealから、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計を引いて、異常熱量を算出する。異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量は、エネルギ制御装置51が空調制御装置54及びエンジン制御装置52へ送信する各熱源に対する指令熱量により算出することができる。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0077】
一方、上記判定において、エネルギ制御装置51内の構成部品同士や他の装置との間で通信に異常が発生していないと判定した場合には(S101:NO)、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる異常が発生しているか否か判定する(S102)。具体的には、回転速度センサ67の検出値に基づいて、エンジン10の回転速度が所定よりも高いことを検出した場合に、処理負荷が過大となる異常が発生していると判定する。すなわち、エンジン10の回転速度が所定よりも高い場合(高回転速度の場合)には、上述した廃熱量調整手段(1),(2),(3)から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる。なお、この処理負荷が過大となる異常が発生しているか否か判定する処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0078】
上記判定において、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる異常が発生していると判定した場合には(S102:YES)、エンジン10の水温が所定温度(例えば、暖機完了温度)よりも高ければエンジン10の冷却水の熱量のみを熱源として用い、エンジン10の水温が所定温度よりも高くなければヒートポンプシステム30のみを熱源として用いる(S17)。すなわち、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給する異常熱量、及び冷却水(異常熱源)から供給する異常熱量のいずれか一方を0とする。なお、この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0079】
一方、上記判定において、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる異常が発生していないと判定した場合には(S102:NO)、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生しているか否か判定する(S103)。具体的には、バッテリ43の残量が所定量よりも少ないか否か、バッテリ43の温度が所定範囲外であるか否か判定する。すなわち、バッテリ43の残量減少により、エンジン10のアイドリング停止中において、バッテリ43の充電のためにエンジン10を始動する必要が生じる又はそのおそれがある場合には、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していると判定する。また、バッテリ43の温度が、充放電の損失が大きくなる所定温度よりも低い場合、又はバッテリ43の温度が、バッテリ43を損傷するおそれのある所定温度よりも高い場合には、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していると判定する。なお、これらの処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0080】
上記判定において、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していると判定した場合には(S103:YES)、エンジン10の水温が所定温度(例えば、暖機完了温度)よりも高いことを条件として、エンジン10の冷却水のみを熱源として用いる(S17)。すなわち、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給する異常熱量を0とする。この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。また、エンジン10の水温が所定温度よりも高くない場合には、水温が所定温度よりも高くなるまでは冷却水を熱源として用いることを控える。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0081】
一方、上記判定において、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していないと判定した場合には(S103:NO)、熱源から供給される熱量の大きさが異常であるか否か判定する(S104)。具体的には、冷却水の温度に基づいて算出されるヒータコア23から車室内へ供給される熱量と、空調風の情報から算出される車室内へ供給される熱量との相違が所定度合よりも大きいか否か、ヒートポンプシステム30の駆動状態に基づいて算出される室内熱交換器37から車室内へ供給される熱量と、空調風の情報から算出される車室内へ供給される熱量との相違が所定度合よりも大きいか否か判定する。すなわち、冷却水の温度に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、冷却水(異常熱源)から供給される熱量の大きさが異常であると判定する。また、ヒートポンプシステム30の駆動状態に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給される熱量の大きさが異常であると判定する。なお、これらの処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0082】
上記判定において、熱源から供給される熱量の大きさが異常であると判定した場合には(S104:YES)、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealと、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計とに基づいて、異常熱量を算出する(S17)。なお、この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。
【0083】
具体的には、上述したように、車室内温度センサ63の検出値、車室内へ送られる空調風の温度を検出する吹出口温度センサ65の検出値、及び空調風を送るブロアファン24の風量に基づいて、車室内に供給される熱量を算出する。そして、車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealを算出する。さらに、この実熱量Qrealから、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計を引いて、異常熱量を算出する。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0084】
次に、上述した熱供給制御におけるS10,12〜16の各処理の詳細について説明する。
【0085】
図5は、図3のS10において、要求熱量Qreqを算出するための機能ブロック図である。空調制御装置54は、吹出口温度・風量算出部M1、及び要求熱量算出部M2を備えている。
【0086】
吹出口温度・風量算出部M1では、マップ等を用いることにより、車速センサ66で検出される車速Vcと、温度設定スイッチ62で設定されるエアコン設定温度Tsetと、車室内温度センサ63で検出される車室内温度Tinと、外気温センサ64で検出される外気温Toutとをパラメータとして、エアコン吹き出し口温度の要求値(要求吹出口温度Treq)及びエアコン吹き出し口風量の要求値(要求吹出風量Vreq)を算出する。
【0087】
要求熱量算出部M2では、マップ等を用いることにより、吹出口温度・風量算出部M1で算出した要求吹出口温度Treq及び要求吹出風量Vreqと、外気温Toutとをパラメータとして要求熱量Qreqを算出する。
【0088】
次に、図3のS12において、各熱源の熱費を算出する処理の詳細について説明する。
【0089】
図6に、エンジン10の運転状態と燃料消費率との関係を表すマップの一例を示す。同図では、エンジン10の運転状態として、エンジン回転速度及びエンジントルクについて示している。
【0090】
本システムでは、エンジン10において燃料の燃焼により生じるエネルギのうち、熱エネルギを、エンジン10の冷却水を媒体として回収し再利用することでシステム全体としての燃費改善を図るようにしている。
【0091】
エンジン10の熱創出制御は、例えばエンジン軸効率最良点でのエンジン運転中に熱利用要求があり、その熱利用要求に伴い要求熱量Qreqが増加した場合において、エンジン軸効率最良点での発生熱量では要求熱量Qreqを満足できないときに、その熱量不足分を補うべく実施される。
【0092】
この場合、要求熱量Qreqを満足させるには、例えば図7に示すように、エンジン10の動作点をエンジン軸効率最良点Aから、前記廃熱量調整手段を用いて、これとは異なる点A’に移行させることにより、エンジン廃熱量をエンジン軸効率最良点Aでの発生熱量(追加熱量=0)よりも熱量ΔQだけ増加させる必要がある。このA→A’のエンジン動作点の移行により、エンジン軸効率最良点よりも燃料増加側(燃費悪化側)にエンジン10の動作点が移行され、エンジン軸効率最良点Aでの発生熱量(ベース熱量)に対して増加分の熱量(追加熱量ΔQ)が生成されることとなる。
【0093】
図8は、熱利用要求に伴い追加熱量を発生させる場合の燃料消費量について説明するための図である。図中、(a)はエンジン軸効率最良点Aで運転している場合の燃料消費量[g/h]を示し、(b)はエンジン軸効率最良点Aから点A’に移行させた場合の燃料消費量[g/h]を示している。
【0094】
エンジン軸効率最良点Aでは、例えばエンジン10の燃料燃焼エネルギのうち約25%が運動エネルギとしてのエンジン10の軸出力に変換され、約25%が冷却損失となり、その残りが補機損失や排気損失などのその他の損失となる。冷却損失分の熱エネルギはエンジン冷却水を媒体として回収され、その回収熱が車室内の暖房やエンジン暖機等に利用される。
【0095】
そして、熱利用要求に伴い要求熱量Qreqが増加したときにエンジン軸効率最良点Aでの冷却損失のみでは要求熱量Qreqを満足できない場合には、エンジン熱創出制御によりその不足分の熱量を追加熱量として発生させる。このとき、追加熱量の発生に伴い燃料消費量が増加することとなるが、燃費悪化抑制の観点からすると、追加熱量発生に伴う燃料増加量は極力小さいことが望ましい。そこで、熱創出制御は、同量の追加熱量発生に際して、燃料増加量が最小になるような、前記廃熱量調整手段(1),(2),(3)の組み合わせを決定し、追加熱量の発生を制御する。
【0096】
さらに、本願発明者らの知見によれば、所望量のエンジン廃熱を発生させる場合、その熱発生のための燃料増加量が、熱量増加を開始する時のエンジン動作点(エンジン10の運転状態)に応じて変化する。例えば、エンジン10を軸効率最良点で制御しているときに要求熱量Qreqを満足できなくなった場合、要求熱量Qreqの不足分を補うべくエンジン10の発生熱量を増加させる必要がある。
【0097】
このとき、熱量増加を開始する時のエンジン動作点が、図6における動作点Xの場合と、動作点Xとは異なる動作点Yの場合とでは、同量のエンジン廃熱を増加させるのに必要な燃料増加量が相違する。すなわち、熱量増加開始時におけるエンジン動作点に応じて、エンジン発生熱量に対する燃料増加量(燃料増加率)が異なる。また、燃料増加率は、エンジン動作点の他に、外気温等によっても相違する。
【0098】
燃料増加率について更に説明する。燃料増加率は、熱源としてのエンジン10から冷却水に供給される熱量(廃熱量)を増加させる場合の燃料消費に関するパラメータである。具体的には、エンジン熱創出制御により創出される増加分の熱量(追加熱量ΔQ)と、その追加熱量ΔQを発生させた場合に、燃料増加量が最小となるように廃熱量調整手段を組み合わせて使用した時の燃料噴射量の増加分(燃料増加量ΔF)との比率である。例えば、燃料増加率の1つとして、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費を採用することができる。
【0099】
熱費Ct[g/kWh]=燃料増加量ΔF[g/h]/追加熱量ΔQ[kW]
図9は、エンジン動作点X(図6参照)における追加熱量ΔQ(供給熱量)に対する熱費Ctの関係を示す熱費特性図である。この熱費特性図は、予め実験等に基づいて算出してもよいし、モデル等に基づいてその都度算出してもよい。なお、この処理が、熱費算出手段としての処理に相当する。同図に示すように、熱費Ctは追加熱量ΔQに応じて異なり、例えばエンジン動作点Xの熱費特性では、追加熱量ΔQの設定範囲内において極小点を有している。
【0100】
追加熱量ΔQに対する熱費Ctの関係はエンジン動作点ごとに相違しており、例えば所定量の追加熱量Q1を発生させる場合には、動作点Xよりも動作点Yの方が熱費Ctが小さくなる。このため、エンジン10の発生熱量を追加熱量Q1だけ増加させる場合、その熱量増加開始時のエンジン動作点がYの場合には、動作点Xの場合に比べて燃料増加量が少なくて済む。すなわち、エンジン10の発生熱量を増加させる場合、エンジン10の熱エネルギを燃費の観点において効率よく発生できる場合とそうでない場合とがある。したがって、本システムでは、エンジン動作点(エンジン10の運転状態)に応じて、上記熱費特性図を算出している。
【0101】
また、本システムでは、熱源として、上記廃熱量調整手段(エンジン熱源)の他に、ヒートポンプシステム30(電動熱源)を備えている。このため、ヒートポンプシステム30についても、熱費特性図を算出している。
【0102】
次に、図3のS13において、各熱源のベース熱量を算出する処理の詳細について説明する。
【0103】
廃熱量調整手段等のエンジン熱源においては、図8に示すように、エンジン軸効率最良点でエンジン10を運転している場合に、冷却損失分となっている熱エネルギをベース熱量とする。エネルギ制御装置51は、エンジン制御装置52からエンジン運転状態等の情報を受信し、エンジン運転状態等に基づいてこのベース熱量を算出する。
【0104】
ヒートポンプシステム30等の電動熱源においては、車両減速中に発電機41の回生発電により供給される電力によって、創出することのできる最大熱量をベース熱量とする。その際に、エネルギ制御装置51は、エンジン制御装置52からエンジン運転状態等の情報を受信し、エンジン運転状態等に基づいてベース熱量を算出する。
【0105】
そして、エネルギ制御装置51は、各熱源のベース熱量を合計して、熱源全体の総ベース熱量Qbas_allを算出する。
【0106】
次に、図3のS14において、熱を供給するために熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなるように最適化演算する処理の詳細について説明する。
【0107】
エネルギ制御装置51は、上記各熱源の熱費特性図に基づいて、各熱源において供給する熱量Qの複数点について、それぞれ対応する燃料消費量Fを算出する。具体的には、下記の式により、それぞれの燃料消費量Fを算出する。
【0108】
燃料消費量F=熱費Ct×熱量Q
そして、熱量Q及び燃料消費量Fの複数のデータに基づいて、これを最小二乗法等により二次関数に近似する。すなわち、燃料消費量Fを、供給する熱量Qの二次関数で表す。各熱源において、熱量Qと燃料消費量Fとの関係はそれぞれ異なったものとなる。なお、一般に、燃料消費量Fは、供給する熱量Qの二次〜四次の関数で近似することができる。
【0109】
ここで、複数の熱源により要求熱量Qreqを供給するとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を最も少なくする各熱源の供給負荷配分は、以下の最適化問題を解くことにより求めることができる。すなわち、総要求熱量Qall、各熱源の供給熱量Q1,Q2,・・・,Qn、そのときに消費される燃料量F1,F2,・・・,Fnとして、
制約条件:Qall=Q1+Q2+・・・+Qn
目的関数:f=F1(Q1)+F2(Q2)+・・・+Fn(Qn)
において、総消費燃料量fを最も小さくする各熱源の供給負荷配分を求める問題となる。この問題の最適解は、以下のように、ラグランジュの未定乗数法によって求めることができる。
【0110】
目的関数:f(x1,x2,・・・,xn)
制約条件:g1(x1,x2,・・・,xn)=0
g2(x1,x2,・・・,xn)=0
g3(x1,x2,・・・,xn)=0
・
・
・
gm(x1,x2,・・・,xn)=0
決定変数:x1,x2,・・・,xn
という原問題を、新たな変数λ1,λ2,・・・,λm(ラグランジュ乗数)を導入し、下式のような制約条件のない問題に変換する。
【0111】
目的関数:L(x1,x2,・・・,xn,λ1,λ2,・・・,λm)
決定変数:x1,x2,・・・,xn,λ1,λ2,・・・,λm
ここで、Lはラグランジュ関数と呼ばれており、下式のように定義される。
【0112】
L(x1,x2,・・・,xn,λ1,λ2,・・・,λm)=f(x1,x2,・・・,xn)+λ1g1(x1,x2,・・・,xn)+・・・+λmg(x1,x2,・・・,xn)
一般に、x1,x2,・・・,xnが上記原問題の最適解であるための必要条件は、下式で表される。
【0113】
【数1】
この方式を、上述した各熱源の供給負荷配分の問題に適用すると、ラグランジュ関数は下式のように定義される。
【0114】
【数2】
最適解となるための必要条件は、各熱源の熱量Qiとラグランジュ乗数λとに対する上記数式2の1階微分が、それぞれ0になることである。すなわち、下記の数式3,4を満足するQ1,Q2,・・・Qnが、問題の最適解となる。
【0115】
【数3】
【0116】
【数4】
上記数式4は、制約条件そのものであることから、最適解は下式を満足する解として求めることができる。
【0117】
【数5】
ここで、dF/dQは、熱源から供給される熱量を微小量増加させた場合に、消費される燃料量がどれだけ増加するかを示すものであり、熱量増分燃料量と呼ぶこととする。上式は、この熱量増分燃料量が全ての熱源で等しいとき、すなわち各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致するときに、複数の熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなること意味している。この原理は、一般に等λ則と呼ばれている。
【0118】
図10は、供給熱量Qと熱量増分燃料量dF/dQとの関係を示すグラフである。ここでは、熱源1,2,3の熱量増分燃料量dF/dQが、それぞれλ1,λ2,λ3の特性を有するものとする。このとき、燃料消費量Fは熱量Qの二次関数(aQ2+bQ+c)で近似されているため、この関数を熱量Qで1階微分すると一次関数(2aQ+b)となる。なお、このような、供給熱量Qと熱量増分燃料量dF/dQとの関係を熱量関係と呼ぶこととする。そして、この熱量関係を算出する処理が、熱量関係算出手段としての処理に相当する。
【0119】
同図において、特定のλsを仮定して横軸に平行な直線を引くと、この直線と各熱源の熱量増分燃料量との交点が求められる。このとき、それぞれの交点では、熱量増分燃料量の値が等しくなっており、上記数式5が満たされている。したがって、各交点における供給熱量Q1,Q2,Q3の合計が総要求熱量Qallに等しくなっていれば、上記数式4も同時に満たされることとなる。換言すれば、λsの値を変更して直線を上下させ、各交点における供給熱量Q1,Q2,Q3の合計が、総要求熱量Qallに等しくなる位置を求めればよい。
【0120】
また、一般に、各熱源には供給可能な熱量の上限値Qmax及び下限値Qminが存在する。このため、熱量増分燃料量dF/dQを各熱源で互いに一致させて変更する際に、一部の熱源において熱量増分燃料量に対応する熱量が上限値Qmax又は下限値Qminに達する場合がある。
【0121】
この場合、供給する熱量が上限値Qmax及び下限値Qminに達していない複数の熱源では、各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致する場合に、それらの熱源で消費される燃料量が最も少なくなる。一方、供給する熱量が上限値Qmax又は下限値Qminに達している熱源では、その他の熱源との間で熱量増分燃料量が必ずしも一致しないこととなるが、その場合であっても複数の熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなる。
【0122】
したがって、このように供給可能な熱量の上限値Qmax及び下限値Qminによる制約を考慮した場合の最適解の条件は、下記の数式6〜8で表される。
【0123】
【数6】
【0124】
【数7】
【0125】
【数8】
ここで、上記の数式6〜8の条件は、模式的に図11のように表すことができる。
【0126】
すなわち、供給熱量が上限値Qmax又は下限値Qminに達した場合には、供給熱量はそれらの値によって制限される。したがって、各熱源の供給熱量が、各熱源の熱量増分燃料量と特定のλsとの交点における供給熱量となるようにするためには、各熱源の供給熱量の上限値Qmax及び下限値Qminにおいて、熱量増分燃料量を縦軸に並行にそれぞれ上下へ変化させればよい。このような図によれば、各熱源の熱量増分燃料量と特定のλsとの交点における供給熱量として、各熱源の供給熱量を求めることができる。
【0127】
例えば、同図において、各熱源1〜3の各供給熱量Q1〜Q3は、λsの直線との交点における供給熱量として求めることができる。すなわち、熱源1の供給熱量Q1は下限値Q1min(=0)と上限値Q1maxとの間の供給熱量Q1となり、熱源2の供給熱量Q2は下限値Q2min(=0)と上限値Q2maxとの間の供給熱量Q2となり、熱源3の供給熱量Q3は上限値Q3maxとなる。
【0128】
続いて、このようにして求めた熱量関係に基づいて、要求熱量Qreq(総供給熱量)と各熱源の供給負荷配分(最適配分熱量)との関係を算出する。ここでは、説明の簡便化のために、熱源が2つの場合について説明する。
【0129】
図12に示すように、供給熱量に対する熱源1,2の熱量増分燃料量が、それぞれλ1,λ2で表されるとする。このとき、各熱源1,2の供給熱量を最適に配分しつつ、その時々の供給熱量Q1,Q2の合計を求める。
【0130】
詳しくは、各熱源1,2の供給熱量が下限値となる場合の熱量増分燃料量のうち最小の熱量増分燃料量(λmin)から、特定のλsの値を増加させて直線を上へ移動させる。そして、その時々について、特定のλsの直線との交点における各熱源1,2の供給熱量Q1,Q2と、それらの合計Q1+Q2とを算出する。この処理を、各熱源1,2の供給熱量が上限値となる場合の熱量増分燃料量のうち、最大の熱量増分燃料量(λmax)まで行う。そして、各熱源1,2の供給熱量Q1,Q2の合計Q1+Q2(総供給熱量)と、各熱源の供給熱量Q1,Q2(最適配分熱量)との関係を算出する。
【0131】
この関係を図に表したものが図13である。
【0132】
同図に示すように、例えば、要求熱量QreqがQ1+Q2である場合には、横軸の総供給熱量がQ1+Q2となる点を探し、それ対応する各熱源1,2の最適配分熱量Q1,Q2を縦軸で読取ればよい。したがって、要求熱量Qreqが算出された場合に、各熱源1,2の最適な供給負荷配分(供給熱量Q1,Q2)を算出することができる。
【0133】
ここで、上述したように、要求熱量Qreqから異常熱量Qpecを引いた熱量が、異常熱源を除く複数の熱源から熱交換部へ供給されるようにし、異常熱源を除く熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。このため、以下の処理では、要求熱量Qreqを、要求熱量Qreqから異常熱量Qpecを引いた熱量に修正し(Qreq←Qreq−Qpec)、異常熱源を除く熱源に対して以下の各処理を実行する。なお、異常熱源が存在しない場合には、要求熱量Qreqはそのままで全ての熱源に対して以下の各処理を実行する。
【0134】
次に、図3のS15において、要求熱量Qreqに対して各熱源i(ここで、i=1の熱源をエンジンの冷却水熱量、i=2の熱源をヒートポンプとする。)のベース熱量Qbas(i)を配分し、要求熱量Qreqの残りである残要求熱量Qreq_lefを各熱源iに配分する処理の詳細について説明する。
【0135】
図14に、ベース熱量配分の処理手順を示す。
【0136】
各熱源iのベース熱量Qbas(i)の合計である総ベース熱量Qbas_allが、要求熱量Qreq以上であるか否か判定する(S21)。すなわち、要求熱量Qreqを総ベース熱量Qbas_allに全て配分することができるか否か、換言すれば、総ベース熱量Qbas_allによって要求熱量Qreqを供給することができるか否か判定する。
【0137】
総ベース熱量Qbas_allが要求熱量Qreq以上であると判定された場合には(S21:YES)、カウンタiをリセットする(S22)。そして、要求熱量Qreqを各熱源iのベース熱量Qbas(i)に配分した残りである残要求熱量Qreq_lefを、まずは要求熱量Qreqとし、全てのベース熱量Qbas(i)を一旦0とする(S23)。
【0138】
続いて、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)が、残要求熱量Qreq_lef以上であるか否か判定する(S24)。すなわち、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)によって、残要求熱量Qreq_lefを供給することができるか否か判定する。
【0139】
上記判定において、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)が、残要求熱量Qreq_lef以上でないと判定された場合には(S24:NO)、i番目の熱源のベース熱量に対して供給を要求する要求ベース熱量Qabas(i)を、ベース熱量Qbas(i)とする(S25)。すなわち、i番目の熱源に対して、ベース熱量Qbas(i)を全て供給するように要求する。
【0140】
続いて、残要求熱量Qreq_lefを、残要求熱量Qreq_lefからi番目の熱源のベース熱量Qbas(i)を引いた値に更新し(S26)、カウンタiを1つ進める(S27)。
【0141】
このようにS24〜S27の処理を繰返し、残要求熱量Qreq_lefを各熱源iのベース熱量Qbas(i)に順次配分する。そして、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)が、残要求熱量Qreq_lef以上であると判定された場合には(S24:YES)、i番目の熱源の要求ベース熱量Qabas(i)を残要求熱量Qreq_lefとする(S28)。すなわち、最後に残った残要求熱量Qreq_lefを、i番目の熱源のベース熱量に配分する。
【0142】
続いて、残要求熱量Qreq_lefを0にした後(S29)、この一連の処理を一旦終了する(END)。すなわち、最後に残った残要求熱量Qreq_lefが、i番目の熱源のベース熱量に配分されたため、残要求熱量Qreq_lefを0とする。
【0143】
一方、総ベース熱量Qbas_allが要求熱量Qreq以上でないと判定された場合には(S21:NO)、全て熱源iの要求ベース熱量Qabas(i)をベース熱量Qbas(i)とする(S31)。すなわち、総ベース熱量Qbas_allによって要求熱量Qreqを供給することができないため、全ての熱源iに対してベース熱量Qbas(i)を全て供給するように要求する。
【0144】
続いて、残要求熱量Qreq_lefを、残要求熱量Qreq_lefから総ベース熱量Qbas_allを引いた値に更新し(S32)、この一連の処理を一旦終了する(END)。
【0145】
次に、各熱源iについて、ベース熱量Qbas(i)以外に供給を要求する追加要求熱量Qapl(i)の配分を決定する。
【0146】
ここで、残要求熱量Qreq_lefが0である場合には、各熱源iの追加要求熱量Qapl(i)を全て0とする。すなわち、この場合には、各熱源iに対して、ベース熱量Qbas(i)以外に熱量の供給を要求する必要がない。
【0147】
一方、残要求熱量Qreq_lefが0でない場合には、上述した熱量関係に基づいて、残要求熱量Qreq_lefを供給する場合において、各熱源iの追加要求熱量Qapl(i)の配分を決定する。すなわち、図13の例では、総供給熱量(Q1+Q2)を残要求熱量Qreq_lefとして、これに対応する各熱源iの最適配分熱量(Q1,Q2)を決定し、これを追加要求熱量Qapl(i)とする。これにより、熱費が0でない状態で供給する熱量(ベース熱量以外の熱量)を、各熱源iに最適に配分することができる。なお、この一連の処理が、熱量配分決定手段としての処理に相当する。
【0148】
その後、図3のS16において、各熱源iについて、配分されたベース熱量(要求ベース熱量Qabas(i))と配分された追加要求熱量Qapl(i)との和として、各熱源iに対する指令熱量Qa(i)を算出する。
【0149】
エネルギ制御装置51は、空調制御装置54及びエンジン制御装置へ各熱源iに対する指令熱量Qa(i)を送信し、空調制御装置54及びエンジン制御装置は、この指令熱量Qa(i)が供給されるように各熱源iを制御する。このとき、空調制御装置54は、ヒータコア23から車室内へ供給される熱量が指令熱量Qa(1)となるように、上記電動ポンプ22及びブロアファン24の駆動状態を制御する。また、熱創出制御は、指令熱量Qa(1)を発生すべく、各エンジン廃熱量調整手段を利用してエンジンの発生熱量を制御する。
【0150】
また、空調制御装置54は、ヒートポンプ制御装置38に指令をだして、ヒートポンプシステムから車室内へ供給される熱量が指令熱量Qa(2)になるように制御する。同時に、空調制御装置54はヒートポンプシステムが指令熱量Qa(2)を発生するために必要な電力を算出する。
【0151】
以上詳述した本実施形態は以下の利点を有する。
【0152】
・複数の熱源(冷却水熱量、ヒートポンプシステム30)から熱交換部(ヒータコア23、室内熱交換器37)へ供給されるように要求される要求熱量Qreq、すなわち複数の熱源から熱交換部へ供給すべき熱量が算出される。一方、各熱源iについて、供給する熱量と上記熱費Ctとの関係が算出される。また、各熱源iのうち熱を正常に供給できない異常熱源が検出され、異常熱源の供給する熱量である異常熱量Qpecが算出される。すなわち、正常な熱量と異なる熱量を異常熱源が供給する場合があるため、この異常熱源の供給する異常熱量を算出する。
【0153】
そして、各熱源iから供給する熱量と熱費Ctとの関係、及び上記異常熱量Qpecに基づいて、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量Qreqに一致し、且つその熱を供給する熱源全体の熱費Ctが最小となるように、各熱源iから熱を供給する配分が決定される。このため、異常熱源が生じた場合であっても、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量Qreqを供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0154】
・車両の車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealが算出される。すなわち、異常熱源が生じた場合に、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計(実熱量Qreal)が算出される。ここで、異常熱源を除く熱源は配分された熱量を熱交換部へ供給するため、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を算出することができる。したがって、上記実熱量Qrealから、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を引くことにより、上記異常熱量Qpecを算出することができる。
【0155】
・熱源から供給する熱量と熱費Ctとの関係を取得することのできない熱源を異常熱源として検出している。したがって、熱源から供給する熱量と熱費Ctとの関係を取得することのできない熱源が生じた場合であっても、その熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0156】
・熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を異常熱源として検出している。このため、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。さらに、異常熱源から供給する熱量を所定の一定値(例えば0)に決定し、異常熱源が供給する異常熱量Qpecを0として算出するといった構成を採用している。すなわち、異常熱源から供給する熱量が所定の一定値に決定されるため、異常熱源から供給する熱量を算出する処理負荷を軽減することができる。
【0157】
・車両にはバッテリ43が搭載されており、複数の熱源は、電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源(ヒートポンプシステム30)を含み、バッテリ43からヒートポンプシステム30へ電力を正常に供給できない場合に、ヒートポンプシステム30を異常熱源として検出している。したがって、バッテリ43から電動熱源へ電力を正常に供給できない場合であっても、電動熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。さらに、ヒートポンプシステム30から供給する熱量を0に決定し、異常熱源が供給する異常熱量Qpecを0として算出している。これにより、ヒートポンプシステム30から供給する熱量が0にされるため、バッテリ43の残量を増加させたり、温度を適正範囲に近付けたりすることができる。
【0158】
・熱源から供給される熱量の大きさが異常である熱源を異常熱源として検出している。すなわち、熱源から供給される熱量の大きさが、種々の原因により正常な範囲から外れた場合には、その熱源を異常熱源として検出する。この場合であっても、正常な熱量を供給できない熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0159】
・各熱源iにおいて熱を供給するために消費される燃料量Fi(Qi)を熱量Qiの関数として、熱量Qiの関数を熱量Qiで微分した微分値である熱量増分燃料量dF/dQが算出される。各熱源iの熱量増分燃料量が互いに一致した状態は、消費される燃料量をそれ以上減少させることができない状態である。したがって、その状態を形成するように各熱源iの供給負荷配分を決定することにより、複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。
【0160】
そして、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量Qreqに一致し、且つ各熱源iの熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源iから熱を供給する配分が決定される。このため、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量Qreqを供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。さらに、各熱源iの最適な供給負荷配分を決定する上で、その組み合わせを総当りで演算する必要がないため、演算負荷の増加を抑制することができる。
【0161】
・各熱源iにおいて熱量Qiと熱量増分燃料量との関係である熱量関係が算出される。このため、熱量増分燃料量を各熱源iで互いに一致させて変更する場合に、各熱源iにおいて熱量関係に基づき熱量増分燃料量に対応する熱量Qiを算出することができる。そして、その各熱源iの熱量Qiの合計が要求熱量Qreqに一致するように、各熱源iから熱量を供給する配分が決定されるため、演算負荷の増加を更に抑制しつつ、複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。
【0162】
・各熱源iにおいて供給可能な熱量Qiの上限値Qimaxが設定され、熱量増分燃料量が各熱源iで互いに一致させられて増加されつつ、各熱源iにおいて熱量関係に基づき熱量増分燃料量に対応する熱量Qiが算出される。そして、その熱量Qiが上限値Qimaxに達した熱源iにおいては供給する熱量Qiが上限値Qimaxとされ、その他の熱源jで消費される燃料量Fj(Qj)が最も少なくなるように、各熱源jから熱量を供給する配分が決定される。
【0163】
すなわち、供給する熱量Qjが上限値に達していない熱源jにおいては、各熱源jの熱量増分燃料量が互いに一致させられて増加される。そして、それらの熱源jから供給される熱量Qjと、供給する熱量Qiが上限値Qimaxに達した熱源iの熱量Qiとの合計が要求熱量Qreqに一致するように、各熱源i,jから熱量Qi,Qjを供給する配分が決定される。したがって、供給する熱量Qjが上限値に達していない熱源jで消費される燃料量Fj(Qj)を最も少なくすることができ、ひいては複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。
【0164】
・車両に搭載されたエンジン10の運転状態に応じて、各熱源iにおける上記熱量関係が算出される。このため、その時々のエンジン10の運転状態に応じて、各熱源iから熱量Qiを供給する配分を適切に決定することができる。
【0165】
・複数の熱源は、車両に搭載されたエンジン10の冷却水を介してヒータコア23へ熱を供給するエンジン10の熱創出制御を含み、エンジン10には、冷却水を吐出する電動ポンプ22が搭載されている。そして、熱創出制御から供給される熱量に基づいて、電動ポンプ22による冷却水の吐出量が制御されるため、ヒータコア23へ供給される熱量を適切に制御することができる。
【0166】
上記実施形態に限定されず、例えば次のように実施することもできる。
【0167】
・上記実施形態では、冷却水の温度に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、冷却水から供給される熱量の大きさが異常であると判定した。また、ヒートポンプシステム30の駆動状態に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、ヒートポンプシステム30から供給される熱量の大きさが異常であると判定した。
【0168】
しかしながら、各熱源が供給している熱量を通知する機能を有する場合には、その通知される熱量に基づいて熱量の大きさが異常であるか否か判定してもよい。具体的には、通知される熱量の大きさが所定範囲外である場合、通知される熱量が急変した場合、通知される熱量と消費燃料量又は消費電力との比率が所定範囲外である場合等に、熱量の大きさが異常であると判定することができる。
【0169】
・上記実施形態では、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給する異常熱量、及び冷却水(異常熱源)から供給する異常熱量のいずれか一方を0としたが、冷却水及びヒートポンプシステム30のいずれか一方のみでは、要求熱量を供給できない場合には以下のようにするとよい。すなわち、バッテリ43の残量が所定量よりも少なくないことを条件として、冷却水からは供給することのできる最大の熱量を供給し、ヒートポンプシステム30から供給する熱量を、要求熱量から同最大の熱量を引いた熱量とする。この場合であっても、それらの熱源から供給する熱量を最適化する演算よりも処理負荷を軽減することができる。なお、要求熱量に対して、冷却水から供給することのできる最大の熱量が不足している場合には、上述した熱創出制御を実行するとよい。
【0170】
・異常熱源から供給する熱量を所定の一定値に決定し、異常熱源が供給する熱量である異常熱量を上記一定値として算出する際に、異常熱源が供給することのできる最大値や要求熱量を上記一定値として採用することもできる。その際、最大値及び要求熱量のうち小さい方の値を採用するとよい。
【0171】
・図4のS101〜S104の処理において、複数の処理に対して同時にS17の処理を実行してもよい。
【0172】
・ヒートポンプシステム30に代えて、PTCヒータを採用してもよい。この場合には、PTCヒータに供給する電力と、PTCヒータから供給される熱量とが等しいと考えることができるため、PTCヒータについて熱費等を求める演算が容易となる。また、複数の熱源の数は、任意に設定することができる。
【0173】
・点火時期の制御に代えて燃料噴射時期を制御することにより、ディーゼルエンジンに具体化することもできる。
【符号の説明】
【0174】
10…エンジン、23…ヒータコア、30…ヒートポンプシステム、37…室内熱交換器、41…発電機、43…バッテリ、51…エネルギ制御装置、52…エンジン制御装置、53…発電制御装置、54…空調制御装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の熱源からの熱供給を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両で消費される燃料量を減少させる観点から、様々な技術が開発されている。例えば、車載主機として、エンジンに加えて電動機を備えるハイブリッド車や、車両の停止時にエンジンを自動停止するアイドルストップシステムが開発されている。
【0003】
一般に、車室内の暖房においては、エンジンから冷却水等に廃棄される熱を利用している。しかしながら、上記の例に挙げた省燃費車においては、アイドルストップや、エンジン自体の効率向上により、エンジンから廃棄される熱量が減少し、エンジンからの廃熱だけでは暖房に必要な熱量を確保できないおそれがある。
【0004】
そこで、エンジンからの廃熱を利用した暖房装置の他に、電動機で駆動されるヒートポンプ式の暖房装置を備える構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3704788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のものでは、車室内の暖房に使用される熱源が複数存在することとなり、エネルギの効率的利用の観点から、どちらの熱源をどれだけ使用するかという問題が生じる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、複数の熱源から熱を供給する指針が確立されておらず、未だ改善の余地を残すものとなっている。さらに、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源が生じた場合に、その異常熱源を含めてどのように複数の熱源から熱を供給するかが問題となる。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、車両に搭載された複数の熱源において異常熱源が生じた場合であっても、熱を供給するために消費される燃料量を減少させることを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、車両に搭載された複数の熱源から熱交換部への熱供給を制御する熱源制御装置であって、前記複数の熱源から前記熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量を算出する要求熱量算出手段と、各熱源について、供給する熱量と、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費との関係を算出する熱費算出手段と、各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源を検出する異常熱源検出手段と、前記異常熱源が供給する熱量である異常熱量を算出する異常熱量算出手段と、各熱源から供給する熱量と前記熱費との関係、及び前記異常熱量に基づいて、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する熱量配分決定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本願発明者らは、熱を供給するために熱源で消費される燃料量を少なくするために、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費を小さくすることを考案した。そして、熱を供給するために複数の熱源全体で消費される燃料量を少なくするためには、複数の熱源全体の熱費を小さくすればよいという結論に至った。
【0012】
この点、上記構成によれば、複数の熱源から熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量、すなわち複数の熱源から熱交換部へ供給すべき熱量が算出される。一方、各熱源について、供給する熱量と上記熱費との関係が算出される。また、各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源が検出され、異常熱源の供給する熱量である異常熱量が算出される。すなわち、正常な熱量と異なる熱量を異常熱源が供給する場合があるため、この異常熱源の供給する異常熱量を算出する。
【0013】
そして、各熱源から供給する熱量と熱費との関係、及び上記異常熱量に基づいて、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分が決定される。このため、異常熱源が生じた場合であっても、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量を供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0014】
異常熱源では、熱費を小さくするように熱量を制御することができず、消費される燃料量を抑制することができない。このため、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制するためには、異常熱源を除く熱源全体で消費される燃料量を最も少なくする必要がある。
【0015】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定するといった構成を採用することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明では、前記車両の車室内に供給される熱量に基づいて、前記複数の熱源から前記熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量を算出する実熱量算出手段を備え、前記異常熱量算出手段は、前記実熱量から、前記異常熱源を除く熱源から前記熱交換部へ供給される熱量の合計を引いて、前記異常熱量を算出する。
【0017】
上記構成によれば、車両の車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量が算出される。すなわち、異常熱源が生じた場合に、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計(実熱量)が算出される。
【0018】
ここで、異常熱源を除く熱源は配分された熱量を熱交換部へ供給するため、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を算出することができる。したがって、上記実熱量から、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を引くことにより、上記異常熱量を算出することができる。
【0019】
上記熱費算出手段と上記熱量配分決定手段との通信に異常が生じると、熱源から供給する熱量と上記熱費との関係を取得できなくなることがある。その場合には、熱源から供給する熱量と熱費との関係に基づいて、その熱源から供給する熱量を算出することができない。
【0020】
この点、請求項4に記載の発明では、前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量と前記熱費との関係を取得することのできない熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用している。したがって、熱源から供給する熱量と前記熱費との関係を取得することのできない熱源が生じた場合であっても、その熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0021】
熱源から供給する熱量を算出する処理負荷は、熱源の種類によって異なるとともに、車両の状態等によっても変化する。このため、特定の熱源では、車両の状態等によって供給する熱量を算出する処理負荷が過大となり、供給する熱量を適切に算出できないおそれがある。
【0022】
この点、請求項5に記載の発明では、前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用している。このため、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0023】
さらに、請求項5に記載の発明において、熱量配分決定手段は、前記異常熱源から供給する熱量を所定の一定値に決定し、前記異常熱量算出手段は、前記異常熱源が供給する異常熱量を前記一定値として算出するといった構成を採用することが有効である。上記構成によれば、異常熱源から供給する熱量が所定の一定値に決定されるため、異常熱源から供給する熱量を算出する処理負荷を軽減することができる。なお、上記一定値としては、例えば0又は、異常熱源が供給することのできる最大値もしくは要求熱量のうち小さい方を採用することができる。
【0024】
電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源では、電源から電力が正常に供給されることが、熱を正常に供給するための条件となる。しかしながら、電力を供給するバッテリでは、残量が少なくなったり、温度が適正範囲から外れたりすることにより、電力を正常に供給できなくなるおそれがある。
【0025】
この点、請求項6に記載の発明では、前記車両にはバッテリが搭載されており、前記複数の熱源は、電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源を含み、前記異常熱源検出手段は、前記バッテリから前記電動熱源へ電力を正常に供給できない場合に、前記電動熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用している。したがって、バッテリから電動熱源へ電力を正常に供給できない場合であっても、電動熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0026】
さらに、請求項6に記載の発明において、熱量配分決定手段は、前記異常熱源から供給する熱量を0に決定し、前記異常熱量算出手段は、前記異常熱源が供給する異常熱量を0として算出するといった構成を採用することが有効である。上記構成によれば、異常熱源(電動熱源)から供給する熱量が0に決定されるため、バッテリの残量を増加させたり、温度を適正範囲に近付けたりすることができる。
【0027】
また、請求項7に記載の発明のように、前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給される熱量の大きさが異常である熱源を前記異常熱源として検出するといった構成を採用することもできる。すなわち、熱源から供給される熱量の大きさが、種々の原因により正常な範囲から外れた場合には、その熱源を異常熱源として検出する。こうした構成であっても、正常な熱量を供給できない熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0028】
請求項8に記載の発明では、各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として、前記熱量の関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量を算出する熱量増分燃料量算出手段を備え、前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く各熱源の前記熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。
【0029】
上記構成によれば、各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として、熱量の関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量が算出される。この熱量増分燃料量は、熱源から供給される熱量を微小量増加させた場合に、消費される燃料量がどれだけ増加するかを示すものである。
【0030】
複数の熱源により要求熱量を供給する場合に、各熱源から熱量を供給する配分(各熱源の供給負荷配分)を以下のように決定することにより、複数の熱源全体の熱費を最小とすることができる。その結果、複数の熱源全体で消費される燃料量を最も少なくすることができる。
【0031】
例えば、ある状態において、熱源1及び熱源2により熱交換部へ熱を供給する場合に、熱源1及び熱源2の熱量増分燃料量が、それぞれ200[g/kWh]及び210[g/kWh]であるとする。そして、熱源1から供給する熱量を1[kW]増加させ、熱源2から供給する熱量を1[kW]減少させたとする。その結果、熱源1及び熱源2により供給される熱量の合計は変わらないが、熱源1及び熱源2で消費される燃料量の合計は10[g/h]減少することとなる。
【0032】
すなわち、上記内容は、複数の熱源間で熱量増分燃料量に差がある場合には、供給する熱量の合計を変えずに、消費される燃料量を減少させることができることを意味する。換言すれば、各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致した状態は、消費される燃料量をそれ以上減少させることができない状態である。したがって、その状態を形成するように異常熱源を除く各熱源の供給負荷配分を決定することにより、異常熱源を除く複数の熱源全体で消費される燃料量を最も少なくすることができる。
【0033】
この点、上記構成によれば、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量に一致し、且つ異常熱源を除く各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源から熱を供給する配分が決定される。このため、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量を供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。さらに、各熱源の最適な供給負荷配分を決定する上で、その組み合わせを総当りで演算する必要がないため、演算負荷の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本システムにおける熱供給及び電力供給の制御概要を示すブロック図。
【図2】本システムの全体構成を示す模式図。
【図3】熱供給制御の処理手順を示すフローチャート。
【図4】異常熱源検出及び異常熱量算出の処理手順を示すフローチャート。
【図5】要求熱量を算出するための機能ブロック図。
【図6】エンジン動作点と燃料消費率との関係を示すマップ。
【図7】エンジン動作点と追加熱量との関係を示す図。
【図8】追加熱量発生による燃料増加量を示すグラフ。
【図9】供給熱量と熱費との関係を示す熱費特性図。
【図10】供給熱量と熱量増分燃料量との関係を示すグラフ。
【図11】供給熱量と熱量増分燃料量との関係を示すグラフ。
【図12】供給熱量と熱量増分燃料量との関係を示すグラフ。
【図13】総供給熱量と最適配分熱量との関係を示すグラフ。
【図14】ベース熱量配分の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
本実施形態は、車室内の暖房に際して、車両に搭載された複数の熱源から熱交換部への熱供給、及び複数の電源から複数の電気負荷への電力供給を制御するシステムとして具体化している。
【0037】
図1に、本システムにおける熱供給及び電力供給の制御概要を示す。同図に示すように、本システムでは、複数の暖房熱源から各熱交換部へ熱を供給するために消費される燃料を最も少なくすべく、各熱源から熱を供給する配分(各熱源の供給負荷配分)を決定する。
【0038】
複数の熱源としては、エンジンの冷却水の熱量及びヒートポンプを備えている。エンジンの冷却水には、エンジンから熱を供給し、その際にはエンジンの廃熱量調整手段(1),(2),(3)(エンジン熱源)を使用する。したがって、複数の熱源には、エンジンの廃熱量調整手段(1),(2),(3)が含まれる。
【0039】
このとき、廃熱量調整手段(1),(2),(3)を用いて熱を創出するために消費される燃料量が最も少なくなるように、廃熱量調整手段(1),(2),(3)を用いて熱を供給する組み合わせを決定する。具体的には、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費を考慮して、廃熱量調整手段(1),(2),(3)全体の熱費が最も小さくなるように熱管理を行う(熱創出制御)。そして、冷却水の熱管理において、廃熱量調整手段(1),(2),(3)を用いて指令熱量が供給されるようにエンジンを制御する。
【0040】
さらに、冷却水からヒータコア(熱交換部)を介して車室内の空気へ供給する熱量と、ヒートポンプシステム(電動熱源)の室内熱交換器(熱交換部)から車室内の空気へ供給する熱量とを考慮する。そして、冷却水及びヒートポンプシステムから車室内の空気へ熱を供給するために消費される燃料量が最も少なくなるように、冷却水及びヒートポンプシステムから熱を供給する配分を決定する。
【0041】
この際にも、冷却水及びヒートポンプシステム全体の熱費が最も小さくなるように熱管理を行う(最適配分アルゴリズム)。そして、車室内空気の熱管理において、冷却水へ供給されるように要求する要求熱量を冷却水の熱管理部へ送信するとともに、ヒートポンプシステムから指令熱量が供給されるように制御する。なお、ヒータコアから指令熱量が供給されるように制御する。
【0042】
また、車両は複数の電源を備えており、ヒートポンプシステム及びその他の電気負荷へ電力を供給する電源を切り替える。複数の電源としては、エンジンの発電機及びバッテリを備えている。電力管理部は、各電源から指令電力が供給されるように制御する。
【0043】
以上のように、車室内の暖房に際して、本システム全体で消費される燃料量が最も少なくなるように、各部における熱供給及び電力供給を制御する。
【0044】
図2に、本システムの全体構成を示す。同図に示すように、本システムは、エンジン10を備えている。エンジン10は、火花点火式の多気筒ガソリンエンジンであり、スロットルバルブ、吸気バルブ、排気バルブ、燃料噴射弁、点火装置、及び吸排気の各バルブの開閉タイミングをそれぞれ調整する吸気側バルブ駆動機構及び排気側バルブ駆動機構等を備えている。
【0045】
エンジン10の駆動力は、駆動軸11を介して変速機12に伝達され、さらにデファレンシャル13を介して車軸14及び車輪15に伝達される。一方、車両の減速時には、車輪15の回転力が、車軸14及びデファレンシャル13を介して変速機12に伝達され、さらに駆動軸11を介してエンジン10に伝達される。
【0046】
エンジン10のシリンダブロックやシリンダヘッドの内部にはウォータジャケットが形成されており、このウォータジャケットに冷却水が循環供給されることで、エンジン10の冷却が行われる。ウォータジャケットには冷却水配管等からなる冷却水循環経路21が接続されており、その循環経路21には、冷却水を循環させるための電動ポンプ22が設けられている。そして、電動ポンプ22の吐出量が変更されることにより、循環経路21を循環する冷却水の流量が調整される。
【0047】
循環経路21は、エンジン10の出口側においてヒータコア23(熱交換部)に向けて延び、ヒータコア23を経由して再びエンジン10に戻るようにして設けられている。ヒータコア23には、ブロアファン24から空調風が送り込まれるようになっており、空調風がヒータコア23又はその付近を通過することで、ヒータコア23からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。
【0048】
このような構成において、電動ポンプ22の吐出量及びブロアファン24の駆動状態が制御されることにより、冷却水からヒータコア23を介して車室内へ供給される熱量が制御される。
【0049】
また、本システムは、ヒートポンプシステム30(電動熱源)を備えている。このヒートポンプシステム30は、電動コンプレッサ31と、コンプレッサ用インバータ32と、室内熱交換器37(熱交換部)と、室外熱交換器34と、ファン35と、膨張弁36と、アキュムレータ33と、これらを接続する冷媒配管等からなる冷媒循環経路39と、ヒートポンプ制御装置38とを備えている。
【0050】
電動コンプレッサ31は冷媒を圧縮して加熱し、この加熱された冷媒が室内熱交換器37へ送出される。そして、上記ブロアファン24から空調風が送り込まれ、空調風が室内熱交換器37の付近を通過することで、室内熱交換器37からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。このとき、冷媒は放熱により冷却される。
【0051】
室内熱交換器37を流通した冷媒は膨張弁36により減圧され、室外熱交換器34へ送出される。そして、ファン35により室外熱交換器34へ外気が送り込まれ、この外気からの受熱により冷媒が加熱される。この加熱された冷媒は、アキュムレータ33を経由して電動コンプレッサ31に送出される。
【0052】
電動コンプレッサ31はコンプレッサ用インバータ32から供給される電力により駆動され、インバータ32はヒートポンプ制御装置38によって制御される。そして、ヒートポンプ制御装置38及びインバータ32を通じて、電動コンプレッサ31の駆動状態が制御されることにより、ヒートポンプシステム30から室内熱交換器37を介して車室内へ供給される熱量が制御される。
【0053】
本システムは、電源として、エンジン10の駆動力により駆動される発電機41(エンジン発電機)、及び充放電を行うバッテリ43を備えている。発電機41は、オルタネータやモータジェネレータである。上記の各電源は、電源回路40に接続されており、この電源回路40へ電力を供給する。また、バッテリ43は、電源回路40から供給される電力により適宜充電される。
【0054】
発電機41の駆動状態が制御されることにより、その発電量が調整される。なお、発電機41は、車両の減速時において、車輪15から変速機12等を介してエンジン10に伝達される回転力に基づいて回生発電を行う。
【0055】
また、この電源回路40には、電気負荷として、上記電動ポンプ22、上記コンプレッサ用インバータ32、負荷42、及び補機等を含む電気負荷が接続されている。そして、これらの電気負荷には、電源回路40を通じて電力が供給される。
【0056】
本システムは、エネルギ制御装置51、エンジン制御装置52、発電機制御装置53、及び空調制御装置54を備えている。これらの制御装置51〜54は、CPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで各種制御を実施する。
【0057】
エネルギ制御装置51は、空調制御装置54を通じて、上記電動ポンプ22、ブロアファン24、及びヒートポンプ制御装置38を制御する。また、エネルギ制御装置51は、発電機制御装置53を通じて、発電機41の駆動状態を制御する。さらに、エネルギ制御装置51は、エンジン制御装置52を通じて、エンジン10の運転状態を制御する。
【0058】
本システムでは、エアコンのオン/オフが切り替え操作されるA/Cスイッチ61、運転者が車室内温度の目標値(目標温度)を設定するための温度設定スイッチ62、車室内温度を検出する車室内温度センサ63、外気温を検出する外気温センサ64、ヒータコア23又は室内熱交換器37からエアコン吹き出し口を介して車室内へ送られる空調風の温度(吹出口温度)を検出する吹出口温度センサ65等を備えている。また、空調風の風量がセンサにより検出、又は制御値から算出される。これらの各センサ等の信号は、空調制御装置54に適宜入力される。
【0059】
エンジン制御装置52は、エンジン10の運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。本システムでは、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ67、吸入空気量や吸気管負圧といったエンジン10の負荷を検出するエンジン負荷センサ68、ウォータジャケット内の冷却水の温度を検出する水温センサ69、車両の速度を検出する車速センサ66等を備えている。これら各センサの検出信号は、エンジン制御装置52に適宜入力される。
【0060】
エンジン制御装置52は、上述した各種センサから検出信号を入力し、それらの検出信号に基づいて燃料噴射弁による燃料噴射制御、点火装置による点火時期制御、吸気側及び排気側のバルブ駆動機構によるバルブタイミング制御、スロットルバルブによる吸気量制御を実施する。
【0061】
上記の各種制御において基本的には、エンジン10の運転状態に応じてエンジン軸効率(燃料消費率)が異なる。この点に鑑み、その時々の運転状態において、エンジン軸効率が最高となるように、適合データ等に基づいて各種制御を実施する。
【0062】
ここで、本システムでは、エンジン10の熱エネルギである廃熱の発生量(発生熱量)を増加させる場合、その廃熱増加に伴う燃料増加量が最も少なくなるように、発生熱量を増加させるための制御(熱創出制御)を実施する。熱創出制御について具体的には、本制御システムは、発生熱量を増加させるためのエンジン10の廃熱量調整手段を複数備えている。そして、暖房要求等の熱利用要求が生じた場合、その複数の廃熱量調整手段全体の上記熱費が最も小さくなるように、廃熱量調整手段の組み合わせを決定する。
【0063】
熱創出制御について更に詳しく説明する。本システムでは、例えば、
・点火時期を遅角させると廃熱量が増加すること
・吸気バルブの開弁時期を進角側に変更すると(吸気早開きにすると)廃熱量が増加すること
・排気バルブの開弁時期を遅角側に変更すると(排気遅開きにすると)廃熱量が増加すること
等のうち1つ又は複数を利用することによりエンジン廃熱量の増加を図っている。また、エンジン10の廃熱量調整手段として本実施形態では、例えば、
(1)排気バルブの遅開きを実施する手段
(2)吸気バルブの早開きを実施する手段
(3)点火遅角を実施する手段
を備えている。
【0064】
図3に、本システムによる熱供給制御の処理手順を示す。この処理は、所定の周期をもって繰返し実行される。なお、この熱供給制御の各ステップにおける処理の詳細については後述する。
【0065】
まず、空調制御装置54は、運転者の暖房要求に応じて、複数の熱源から熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量、すなわち複数の熱源から熱交換部へ供給すべき熱量を算出する(S10)。そして、空調制御装置54は、この要求熱量をエネルギ制御装置51へ送信する。
【0066】
続いて、エネルギ制御装置51は、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源があるか否か判定する(S11)。そして、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源があると判定した場合には(S11:YES)、エネルギ制御装置51は、異常熱源が供給する熱量である異常熱量を算出する(S17)。その後、S12以降の処理を実行する。一方、上記判定において、複数の熱源において熱を正常に供給できない異常熱源がないと判定した場合には(S11:NO)、上記S17の処理を実行することなく、S12以降の処理を実行する。
【0067】
続いて、エネルギ制御装置51は、各熱源の熱費を算出する(S12)。このとき、ヒートポンプシステム30の熱費は、供給する熱量と、使用する電力を供給するために消費される燃料量とから算出する。この使用する電力を供給するために消費される熱量は、実験等により予め求めておくことができる。
【0068】
続いて、エネルギ制御装置51は、各熱源において熱費0の状態(熱を供給するために消費される燃料量が0の状態)で供給することのできる熱量であるベース熱量を算出する(S13)。エネルギ制御装置51は、各熱源の熱費に基づいて、各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として求める。そして、この関数に基づいて、供給する熱量と、この関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量との関係である熱量関係を算出する。さらに、この熱量関係に基づいて、熱を供給するために熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなるように最適化演算を行う(S14)。
【0069】
ここで、エネルギ制御装置51内の構成部品同士や他の装置との間で通信に異常が生じたり、エンジン10の回転速度が高くなることにより供給する熱量を算出する処理負荷が過大となったり、バッテリ43から電力を正常に供給できなくなったり、熱源から供給される熱量の大きさが正常な範囲から外れたりすることがある。このような場合には、熱源から供給する熱量を算出できなくなったり、熱源から正常な熱量を供給できなくなったりするため、この異常熱源では消費される燃料量を抑制することができない。
【0070】
このため、本実施形態では、上記異常熱源を含めて複数の熱源から供給される熱量の合計が上記要求熱量に一致し、且つ異常熱源を除く熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなるように上記最適化演算を行う。詳しくは、要求熱量から異常熱量を引いた熱量が、異常熱源を除く複数の熱源から熱交換部へ供給されるようにし、異常熱源を除く熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。
【0071】
続いて、この最適化演算の結果に基づいて、要求熱量に対して各熱源のベース熱量を配分し、要求熱量の残りである残要求熱量を追加要求熱量として各熱源に配分する(S15)。その後、各熱源について、配分されたベース熱量と配分された残要求熱量との和として、各熱源に対する指令熱量を算出する(S16)。
【0072】
そして、エネルギ制御装置51は、空調制御装置54及びエンジン制御装置へ各熱源に対する指令熱量を送信し、空調制御装置54及びエンジン制御装置は、この指令熱量が供給されるように各熱源を制御する。
【0073】
図4は、上記異常熱源検出(図3のS11)及び異常熱量算出(図3のS17)の処理手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、エネルギ制御装置51によって実行される。
【0074】
まず、エネルギ制御装置51や他の装置との間で通信に異常が発生しているか否か判定する(S101)。具体的には、エネルギ制御装置51と発電機制御装置53や空調制御装置54との間で通信異常が発生しているか否か判定する。通信異常としては、通信が所定時間よりも長く途絶している状態や、通信信号の値が異常である場合等がある。なお、この判定処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0075】
そして、上記判定において、エネルギ制御装置51や他の装置との間で通信に異常が発生していると判定した場合には(S101:YES)、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealと、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計とに基づいて、異常熱量を算出する(S17)。なお、この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。
【0076】
具体的には、車室内温度センサ63の検出値、車室内へ送られる空調風の温度を検出する吹出口温度センサ65の検出値、及び空調風を送るブロアファン24の風量に基づいて、車室内に供給される熱量を算出する。そして、車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealを算出する。さらに、この実熱量Qrealから、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計を引いて、異常熱量を算出する。異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量は、エネルギ制御装置51が空調制御装置54及びエンジン制御装置52へ送信する各熱源に対する指令熱量により算出することができる。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0077】
一方、上記判定において、エネルギ制御装置51内の構成部品同士や他の装置との間で通信に異常が発生していないと判定した場合には(S101:NO)、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる異常が発生しているか否か判定する(S102)。具体的には、回転速度センサ67の検出値に基づいて、エンジン10の回転速度が所定よりも高いことを検出した場合に、処理負荷が過大となる異常が発生していると判定する。すなわち、エンジン10の回転速度が所定よりも高い場合(高回転速度の場合)には、上述した廃熱量調整手段(1),(2),(3)から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる。なお、この処理負荷が過大となる異常が発生しているか否か判定する処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0078】
上記判定において、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる異常が発生していると判定した場合には(S102:YES)、エンジン10の水温が所定温度(例えば、暖機完了温度)よりも高ければエンジン10の冷却水の熱量のみを熱源として用い、エンジン10の水温が所定温度よりも高くなければヒートポンプシステム30のみを熱源として用いる(S17)。すなわち、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給する異常熱量、及び冷却水(異常熱源)から供給する異常熱量のいずれか一方を0とする。なお、この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0079】
一方、上記判定において、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が過大となる異常が発生していないと判定した場合には(S102:NO)、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生しているか否か判定する(S103)。具体的には、バッテリ43の残量が所定量よりも少ないか否か、バッテリ43の温度が所定範囲外であるか否か判定する。すなわち、バッテリ43の残量減少により、エンジン10のアイドリング停止中において、バッテリ43の充電のためにエンジン10を始動する必要が生じる又はそのおそれがある場合には、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していると判定する。また、バッテリ43の温度が、充放電の損失が大きくなる所定温度よりも低い場合、又はバッテリ43の温度が、バッテリ43を損傷するおそれのある所定温度よりも高い場合には、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していると判定する。なお、これらの処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0080】
上記判定において、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していると判定した場合には(S103:YES)、エンジン10の水温が所定温度(例えば、暖機完了温度)よりも高いことを条件として、エンジン10の冷却水のみを熱源として用いる(S17)。すなわち、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給する異常熱量を0とする。この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。また、エンジン10の水温が所定温度よりも高くない場合には、水温が所定温度よりも高くなるまでは冷却水を熱源として用いることを控える。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0081】
一方、上記判定において、バッテリ43から正常に電力を供給できない異常が発生していないと判定した場合には(S103:NO)、熱源から供給される熱量の大きさが異常であるか否か判定する(S104)。具体的には、冷却水の温度に基づいて算出されるヒータコア23から車室内へ供給される熱量と、空調風の情報から算出される車室内へ供給される熱量との相違が所定度合よりも大きいか否か、ヒートポンプシステム30の駆動状態に基づいて算出される室内熱交換器37から車室内へ供給される熱量と、空調風の情報から算出される車室内へ供給される熱量との相違が所定度合よりも大きいか否か判定する。すなわち、冷却水の温度に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、冷却水(異常熱源)から供給される熱量の大きさが異常であると判定する。また、ヒートポンプシステム30の駆動状態に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給される熱量の大きさが異常であると判定する。なお、これらの処理が、異常熱源検出手段としての処理に相当する。
【0082】
上記判定において、熱源から供給される熱量の大きさが異常であると判定した場合には(S104:YES)、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealと、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計とに基づいて、異常熱量を算出する(S17)。なお、この処理が、異常熱量算出手段としての処理に相当する。
【0083】
具体的には、上述したように、車室内温度センサ63の検出値、車室内へ送られる空調風の温度を検出する吹出口温度センサ65の検出値、及び空調風を送るブロアファン24の風量に基づいて、車室内に供給される熱量を算出する。そして、車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealを算出する。さらに、この実熱量Qrealから、異常熱源を除く熱源からヒータコア23及び室内熱交換器37へ供給される熱量の合計を引いて、異常熱量を算出する。その後、この一連の処理を一旦終了して、図3のS12の処理へ移行する。
【0084】
次に、上述した熱供給制御におけるS10,12〜16の各処理の詳細について説明する。
【0085】
図5は、図3のS10において、要求熱量Qreqを算出するための機能ブロック図である。空調制御装置54は、吹出口温度・風量算出部M1、及び要求熱量算出部M2を備えている。
【0086】
吹出口温度・風量算出部M1では、マップ等を用いることにより、車速センサ66で検出される車速Vcと、温度設定スイッチ62で設定されるエアコン設定温度Tsetと、車室内温度センサ63で検出される車室内温度Tinと、外気温センサ64で検出される外気温Toutとをパラメータとして、エアコン吹き出し口温度の要求値(要求吹出口温度Treq)及びエアコン吹き出し口風量の要求値(要求吹出風量Vreq)を算出する。
【0087】
要求熱量算出部M2では、マップ等を用いることにより、吹出口温度・風量算出部M1で算出した要求吹出口温度Treq及び要求吹出風量Vreqと、外気温Toutとをパラメータとして要求熱量Qreqを算出する。
【0088】
次に、図3のS12において、各熱源の熱費を算出する処理の詳細について説明する。
【0089】
図6に、エンジン10の運転状態と燃料消費率との関係を表すマップの一例を示す。同図では、エンジン10の運転状態として、エンジン回転速度及びエンジントルクについて示している。
【0090】
本システムでは、エンジン10において燃料の燃焼により生じるエネルギのうち、熱エネルギを、エンジン10の冷却水を媒体として回収し再利用することでシステム全体としての燃費改善を図るようにしている。
【0091】
エンジン10の熱創出制御は、例えばエンジン軸効率最良点でのエンジン運転中に熱利用要求があり、その熱利用要求に伴い要求熱量Qreqが増加した場合において、エンジン軸効率最良点での発生熱量では要求熱量Qreqを満足できないときに、その熱量不足分を補うべく実施される。
【0092】
この場合、要求熱量Qreqを満足させるには、例えば図7に示すように、エンジン10の動作点をエンジン軸効率最良点Aから、前記廃熱量調整手段を用いて、これとは異なる点A’に移行させることにより、エンジン廃熱量をエンジン軸効率最良点Aでの発生熱量(追加熱量=0)よりも熱量ΔQだけ増加させる必要がある。このA→A’のエンジン動作点の移行により、エンジン軸効率最良点よりも燃料増加側(燃費悪化側)にエンジン10の動作点が移行され、エンジン軸効率最良点Aでの発生熱量(ベース熱量)に対して増加分の熱量(追加熱量ΔQ)が生成されることとなる。
【0093】
図8は、熱利用要求に伴い追加熱量を発生させる場合の燃料消費量について説明するための図である。図中、(a)はエンジン軸効率最良点Aで運転している場合の燃料消費量[g/h]を示し、(b)はエンジン軸効率最良点Aから点A’に移行させた場合の燃料消費量[g/h]を示している。
【0094】
エンジン軸効率最良点Aでは、例えばエンジン10の燃料燃焼エネルギのうち約25%が運動エネルギとしてのエンジン10の軸出力に変換され、約25%が冷却損失となり、その残りが補機損失や排気損失などのその他の損失となる。冷却損失分の熱エネルギはエンジン冷却水を媒体として回収され、その回収熱が車室内の暖房やエンジン暖機等に利用される。
【0095】
そして、熱利用要求に伴い要求熱量Qreqが増加したときにエンジン軸効率最良点Aでの冷却損失のみでは要求熱量Qreqを満足できない場合には、エンジン熱創出制御によりその不足分の熱量を追加熱量として発生させる。このとき、追加熱量の発生に伴い燃料消費量が増加することとなるが、燃費悪化抑制の観点からすると、追加熱量発生に伴う燃料増加量は極力小さいことが望ましい。そこで、熱創出制御は、同量の追加熱量発生に際して、燃料増加量が最小になるような、前記廃熱量調整手段(1),(2),(3)の組み合わせを決定し、追加熱量の発生を制御する。
【0096】
さらに、本願発明者らの知見によれば、所望量のエンジン廃熱を発生させる場合、その熱発生のための燃料増加量が、熱量増加を開始する時のエンジン動作点(エンジン10の運転状態)に応じて変化する。例えば、エンジン10を軸効率最良点で制御しているときに要求熱量Qreqを満足できなくなった場合、要求熱量Qreqの不足分を補うべくエンジン10の発生熱量を増加させる必要がある。
【0097】
このとき、熱量増加を開始する時のエンジン動作点が、図6における動作点Xの場合と、動作点Xとは異なる動作点Yの場合とでは、同量のエンジン廃熱を増加させるのに必要な燃料増加量が相違する。すなわち、熱量増加開始時におけるエンジン動作点に応じて、エンジン発生熱量に対する燃料増加量(燃料増加率)が異なる。また、燃料増加率は、エンジン動作点の他に、外気温等によっても相違する。
【0098】
燃料増加率について更に説明する。燃料増加率は、熱源としてのエンジン10から冷却水に供給される熱量(廃熱量)を増加させる場合の燃料消費に関するパラメータである。具体的には、エンジン熱創出制御により創出される増加分の熱量(追加熱量ΔQ)と、その追加熱量ΔQを発生させた場合に、燃料増加量が最小となるように廃熱量調整手段を組み合わせて使用した時の燃料噴射量の増加分(燃料増加量ΔF)との比率である。例えば、燃料増加率の1つとして、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費を採用することができる。
【0099】
熱費Ct[g/kWh]=燃料増加量ΔF[g/h]/追加熱量ΔQ[kW]
図9は、エンジン動作点X(図6参照)における追加熱量ΔQ(供給熱量)に対する熱費Ctの関係を示す熱費特性図である。この熱費特性図は、予め実験等に基づいて算出してもよいし、モデル等に基づいてその都度算出してもよい。なお、この処理が、熱費算出手段としての処理に相当する。同図に示すように、熱費Ctは追加熱量ΔQに応じて異なり、例えばエンジン動作点Xの熱費特性では、追加熱量ΔQの設定範囲内において極小点を有している。
【0100】
追加熱量ΔQに対する熱費Ctの関係はエンジン動作点ごとに相違しており、例えば所定量の追加熱量Q1を発生させる場合には、動作点Xよりも動作点Yの方が熱費Ctが小さくなる。このため、エンジン10の発生熱量を追加熱量Q1だけ増加させる場合、その熱量増加開始時のエンジン動作点がYの場合には、動作点Xの場合に比べて燃料増加量が少なくて済む。すなわち、エンジン10の発生熱量を増加させる場合、エンジン10の熱エネルギを燃費の観点において効率よく発生できる場合とそうでない場合とがある。したがって、本システムでは、エンジン動作点(エンジン10の運転状態)に応じて、上記熱費特性図を算出している。
【0101】
また、本システムでは、熱源として、上記廃熱量調整手段(エンジン熱源)の他に、ヒートポンプシステム30(電動熱源)を備えている。このため、ヒートポンプシステム30についても、熱費特性図を算出している。
【0102】
次に、図3のS13において、各熱源のベース熱量を算出する処理の詳細について説明する。
【0103】
廃熱量調整手段等のエンジン熱源においては、図8に示すように、エンジン軸効率最良点でエンジン10を運転している場合に、冷却損失分となっている熱エネルギをベース熱量とする。エネルギ制御装置51は、エンジン制御装置52からエンジン運転状態等の情報を受信し、エンジン運転状態等に基づいてこのベース熱量を算出する。
【0104】
ヒートポンプシステム30等の電動熱源においては、車両減速中に発電機41の回生発電により供給される電力によって、創出することのできる最大熱量をベース熱量とする。その際に、エネルギ制御装置51は、エンジン制御装置52からエンジン運転状態等の情報を受信し、エンジン運転状態等に基づいてベース熱量を算出する。
【0105】
そして、エネルギ制御装置51は、各熱源のベース熱量を合計して、熱源全体の総ベース熱量Qbas_allを算出する。
【0106】
次に、図3のS14において、熱を供給するために熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなるように最適化演算する処理の詳細について説明する。
【0107】
エネルギ制御装置51は、上記各熱源の熱費特性図に基づいて、各熱源において供給する熱量Qの複数点について、それぞれ対応する燃料消費量Fを算出する。具体的には、下記の式により、それぞれの燃料消費量Fを算出する。
【0108】
燃料消費量F=熱費Ct×熱量Q
そして、熱量Q及び燃料消費量Fの複数のデータに基づいて、これを最小二乗法等により二次関数に近似する。すなわち、燃料消費量Fを、供給する熱量Qの二次関数で表す。各熱源において、熱量Qと燃料消費量Fとの関係はそれぞれ異なったものとなる。なお、一般に、燃料消費量Fは、供給する熱量Qの二次〜四次の関数で近似することができる。
【0109】
ここで、複数の熱源により要求熱量Qreqを供給するとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を最も少なくする各熱源の供給負荷配分は、以下の最適化問題を解くことにより求めることができる。すなわち、総要求熱量Qall、各熱源の供給熱量Q1,Q2,・・・,Qn、そのときに消費される燃料量F1,F2,・・・,Fnとして、
制約条件:Qall=Q1+Q2+・・・+Qn
目的関数:f=F1(Q1)+F2(Q2)+・・・+Fn(Qn)
において、総消費燃料量fを最も小さくする各熱源の供給負荷配分を求める問題となる。この問題の最適解は、以下のように、ラグランジュの未定乗数法によって求めることができる。
【0110】
目的関数:f(x1,x2,・・・,xn)
制約条件:g1(x1,x2,・・・,xn)=0
g2(x1,x2,・・・,xn)=0
g3(x1,x2,・・・,xn)=0
・
・
・
gm(x1,x2,・・・,xn)=0
決定変数:x1,x2,・・・,xn
という原問題を、新たな変数λ1,λ2,・・・,λm(ラグランジュ乗数)を導入し、下式のような制約条件のない問題に変換する。
【0111】
目的関数:L(x1,x2,・・・,xn,λ1,λ2,・・・,λm)
決定変数:x1,x2,・・・,xn,λ1,λ2,・・・,λm
ここで、Lはラグランジュ関数と呼ばれており、下式のように定義される。
【0112】
L(x1,x2,・・・,xn,λ1,λ2,・・・,λm)=f(x1,x2,・・・,xn)+λ1g1(x1,x2,・・・,xn)+・・・+λmg(x1,x2,・・・,xn)
一般に、x1,x2,・・・,xnが上記原問題の最適解であるための必要条件は、下式で表される。
【0113】
【数1】
この方式を、上述した各熱源の供給負荷配分の問題に適用すると、ラグランジュ関数は下式のように定義される。
【0114】
【数2】
最適解となるための必要条件は、各熱源の熱量Qiとラグランジュ乗数λとに対する上記数式2の1階微分が、それぞれ0になることである。すなわち、下記の数式3,4を満足するQ1,Q2,・・・Qnが、問題の最適解となる。
【0115】
【数3】
【0116】
【数4】
上記数式4は、制約条件そのものであることから、最適解は下式を満足する解として求めることができる。
【0117】
【数5】
ここで、dF/dQは、熱源から供給される熱量を微小量増加させた場合に、消費される燃料量がどれだけ増加するかを示すものであり、熱量増分燃料量と呼ぶこととする。上式は、この熱量増分燃料量が全ての熱源で等しいとき、すなわち各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致するときに、複数の熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなること意味している。この原理は、一般に等λ則と呼ばれている。
【0118】
図10は、供給熱量Qと熱量増分燃料量dF/dQとの関係を示すグラフである。ここでは、熱源1,2,3の熱量増分燃料量dF/dQが、それぞれλ1,λ2,λ3の特性を有するものとする。このとき、燃料消費量Fは熱量Qの二次関数(aQ2+bQ+c)で近似されているため、この関数を熱量Qで1階微分すると一次関数(2aQ+b)となる。なお、このような、供給熱量Qと熱量増分燃料量dF/dQとの関係を熱量関係と呼ぶこととする。そして、この熱量関係を算出する処理が、熱量関係算出手段としての処理に相当する。
【0119】
同図において、特定のλsを仮定して横軸に平行な直線を引くと、この直線と各熱源の熱量増分燃料量との交点が求められる。このとき、それぞれの交点では、熱量増分燃料量の値が等しくなっており、上記数式5が満たされている。したがって、各交点における供給熱量Q1,Q2,Q3の合計が総要求熱量Qallに等しくなっていれば、上記数式4も同時に満たされることとなる。換言すれば、λsの値を変更して直線を上下させ、各交点における供給熱量Q1,Q2,Q3の合計が、総要求熱量Qallに等しくなる位置を求めればよい。
【0120】
また、一般に、各熱源には供給可能な熱量の上限値Qmax及び下限値Qminが存在する。このため、熱量増分燃料量dF/dQを各熱源で互いに一致させて変更する際に、一部の熱源において熱量増分燃料量に対応する熱量が上限値Qmax又は下限値Qminに達する場合がある。
【0121】
この場合、供給する熱量が上限値Qmax及び下限値Qminに達していない複数の熱源では、各熱源の熱量増分燃料量が互いに一致する場合に、それらの熱源で消費される燃料量が最も少なくなる。一方、供給する熱量が上限値Qmax又は下限値Qminに達している熱源では、その他の熱源との間で熱量増分燃料量が必ずしも一致しないこととなるが、その場合であっても複数の熱源全体で消費される燃料量が最も少なくなる。
【0122】
したがって、このように供給可能な熱量の上限値Qmax及び下限値Qminによる制約を考慮した場合の最適解の条件は、下記の数式6〜8で表される。
【0123】
【数6】
【0124】
【数7】
【0125】
【数8】
ここで、上記の数式6〜8の条件は、模式的に図11のように表すことができる。
【0126】
すなわち、供給熱量が上限値Qmax又は下限値Qminに達した場合には、供給熱量はそれらの値によって制限される。したがって、各熱源の供給熱量が、各熱源の熱量増分燃料量と特定のλsとの交点における供給熱量となるようにするためには、各熱源の供給熱量の上限値Qmax及び下限値Qminにおいて、熱量増分燃料量を縦軸に並行にそれぞれ上下へ変化させればよい。このような図によれば、各熱源の熱量増分燃料量と特定のλsとの交点における供給熱量として、各熱源の供給熱量を求めることができる。
【0127】
例えば、同図において、各熱源1〜3の各供給熱量Q1〜Q3は、λsの直線との交点における供給熱量として求めることができる。すなわち、熱源1の供給熱量Q1は下限値Q1min(=0)と上限値Q1maxとの間の供給熱量Q1となり、熱源2の供給熱量Q2は下限値Q2min(=0)と上限値Q2maxとの間の供給熱量Q2となり、熱源3の供給熱量Q3は上限値Q3maxとなる。
【0128】
続いて、このようにして求めた熱量関係に基づいて、要求熱量Qreq(総供給熱量)と各熱源の供給負荷配分(最適配分熱量)との関係を算出する。ここでは、説明の簡便化のために、熱源が2つの場合について説明する。
【0129】
図12に示すように、供給熱量に対する熱源1,2の熱量増分燃料量が、それぞれλ1,λ2で表されるとする。このとき、各熱源1,2の供給熱量を最適に配分しつつ、その時々の供給熱量Q1,Q2の合計を求める。
【0130】
詳しくは、各熱源1,2の供給熱量が下限値となる場合の熱量増分燃料量のうち最小の熱量増分燃料量(λmin)から、特定のλsの値を増加させて直線を上へ移動させる。そして、その時々について、特定のλsの直線との交点における各熱源1,2の供給熱量Q1,Q2と、それらの合計Q1+Q2とを算出する。この処理を、各熱源1,2の供給熱量が上限値となる場合の熱量増分燃料量のうち、最大の熱量増分燃料量(λmax)まで行う。そして、各熱源1,2の供給熱量Q1,Q2の合計Q1+Q2(総供給熱量)と、各熱源の供給熱量Q1,Q2(最適配分熱量)との関係を算出する。
【0131】
この関係を図に表したものが図13である。
【0132】
同図に示すように、例えば、要求熱量QreqがQ1+Q2である場合には、横軸の総供給熱量がQ1+Q2となる点を探し、それ対応する各熱源1,2の最適配分熱量Q1,Q2を縦軸で読取ればよい。したがって、要求熱量Qreqが算出された場合に、各熱源1,2の最適な供給負荷配分(供給熱量Q1,Q2)を算出することができる。
【0133】
ここで、上述したように、要求熱量Qreqから異常熱量Qpecを引いた熱量が、異常熱源を除く複数の熱源から熱交換部へ供給されるようにし、異常熱源を除く熱源全体の熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する。このため、以下の処理では、要求熱量Qreqを、要求熱量Qreqから異常熱量Qpecを引いた熱量に修正し(Qreq←Qreq−Qpec)、異常熱源を除く熱源に対して以下の各処理を実行する。なお、異常熱源が存在しない場合には、要求熱量Qreqはそのままで全ての熱源に対して以下の各処理を実行する。
【0134】
次に、図3のS15において、要求熱量Qreqに対して各熱源i(ここで、i=1の熱源をエンジンの冷却水熱量、i=2の熱源をヒートポンプとする。)のベース熱量Qbas(i)を配分し、要求熱量Qreqの残りである残要求熱量Qreq_lefを各熱源iに配分する処理の詳細について説明する。
【0135】
図14に、ベース熱量配分の処理手順を示す。
【0136】
各熱源iのベース熱量Qbas(i)の合計である総ベース熱量Qbas_allが、要求熱量Qreq以上であるか否か判定する(S21)。すなわち、要求熱量Qreqを総ベース熱量Qbas_allに全て配分することができるか否か、換言すれば、総ベース熱量Qbas_allによって要求熱量Qreqを供給することができるか否か判定する。
【0137】
総ベース熱量Qbas_allが要求熱量Qreq以上であると判定された場合には(S21:YES)、カウンタiをリセットする(S22)。そして、要求熱量Qreqを各熱源iのベース熱量Qbas(i)に配分した残りである残要求熱量Qreq_lefを、まずは要求熱量Qreqとし、全てのベース熱量Qbas(i)を一旦0とする(S23)。
【0138】
続いて、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)が、残要求熱量Qreq_lef以上であるか否か判定する(S24)。すなわち、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)によって、残要求熱量Qreq_lefを供給することができるか否か判定する。
【0139】
上記判定において、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)が、残要求熱量Qreq_lef以上でないと判定された場合には(S24:NO)、i番目の熱源のベース熱量に対して供給を要求する要求ベース熱量Qabas(i)を、ベース熱量Qbas(i)とする(S25)。すなわち、i番目の熱源に対して、ベース熱量Qbas(i)を全て供給するように要求する。
【0140】
続いて、残要求熱量Qreq_lefを、残要求熱量Qreq_lefからi番目の熱源のベース熱量Qbas(i)を引いた値に更新し(S26)、カウンタiを1つ進める(S27)。
【0141】
このようにS24〜S27の処理を繰返し、残要求熱量Qreq_lefを各熱源iのベース熱量Qbas(i)に順次配分する。そして、i番目の熱源のベース熱量Qbas(i)が、残要求熱量Qreq_lef以上であると判定された場合には(S24:YES)、i番目の熱源の要求ベース熱量Qabas(i)を残要求熱量Qreq_lefとする(S28)。すなわち、最後に残った残要求熱量Qreq_lefを、i番目の熱源のベース熱量に配分する。
【0142】
続いて、残要求熱量Qreq_lefを0にした後(S29)、この一連の処理を一旦終了する(END)。すなわち、最後に残った残要求熱量Qreq_lefが、i番目の熱源のベース熱量に配分されたため、残要求熱量Qreq_lefを0とする。
【0143】
一方、総ベース熱量Qbas_allが要求熱量Qreq以上でないと判定された場合には(S21:NO)、全て熱源iの要求ベース熱量Qabas(i)をベース熱量Qbas(i)とする(S31)。すなわち、総ベース熱量Qbas_allによって要求熱量Qreqを供給することができないため、全ての熱源iに対してベース熱量Qbas(i)を全て供給するように要求する。
【0144】
続いて、残要求熱量Qreq_lefを、残要求熱量Qreq_lefから総ベース熱量Qbas_allを引いた値に更新し(S32)、この一連の処理を一旦終了する(END)。
【0145】
次に、各熱源iについて、ベース熱量Qbas(i)以外に供給を要求する追加要求熱量Qapl(i)の配分を決定する。
【0146】
ここで、残要求熱量Qreq_lefが0である場合には、各熱源iの追加要求熱量Qapl(i)を全て0とする。すなわち、この場合には、各熱源iに対して、ベース熱量Qbas(i)以外に熱量の供給を要求する必要がない。
【0147】
一方、残要求熱量Qreq_lefが0でない場合には、上述した熱量関係に基づいて、残要求熱量Qreq_lefを供給する場合において、各熱源iの追加要求熱量Qapl(i)の配分を決定する。すなわち、図13の例では、総供給熱量(Q1+Q2)を残要求熱量Qreq_lefとして、これに対応する各熱源iの最適配分熱量(Q1,Q2)を決定し、これを追加要求熱量Qapl(i)とする。これにより、熱費が0でない状態で供給する熱量(ベース熱量以外の熱量)を、各熱源iに最適に配分することができる。なお、この一連の処理が、熱量配分決定手段としての処理に相当する。
【0148】
その後、図3のS16において、各熱源iについて、配分されたベース熱量(要求ベース熱量Qabas(i))と配分された追加要求熱量Qapl(i)との和として、各熱源iに対する指令熱量Qa(i)を算出する。
【0149】
エネルギ制御装置51は、空調制御装置54及びエンジン制御装置へ各熱源iに対する指令熱量Qa(i)を送信し、空調制御装置54及びエンジン制御装置は、この指令熱量Qa(i)が供給されるように各熱源iを制御する。このとき、空調制御装置54は、ヒータコア23から車室内へ供給される熱量が指令熱量Qa(1)となるように、上記電動ポンプ22及びブロアファン24の駆動状態を制御する。また、熱創出制御は、指令熱量Qa(1)を発生すべく、各エンジン廃熱量調整手段を利用してエンジンの発生熱量を制御する。
【0150】
また、空調制御装置54は、ヒートポンプ制御装置38に指令をだして、ヒートポンプシステムから車室内へ供給される熱量が指令熱量Qa(2)になるように制御する。同時に、空調制御装置54はヒートポンプシステムが指令熱量Qa(2)を発生するために必要な電力を算出する。
【0151】
以上詳述した本実施形態は以下の利点を有する。
【0152】
・複数の熱源(冷却水熱量、ヒートポンプシステム30)から熱交換部(ヒータコア23、室内熱交換器37)へ供給されるように要求される要求熱量Qreq、すなわち複数の熱源から熱交換部へ供給すべき熱量が算出される。一方、各熱源iについて、供給する熱量と上記熱費Ctとの関係が算出される。また、各熱源iのうち熱を正常に供給できない異常熱源が検出され、異常熱源の供給する熱量である異常熱量Qpecが算出される。すなわち、正常な熱量と異なる熱量を異常熱源が供給する場合があるため、この異常熱源の供給する異常熱量を算出する。
【0153】
そして、各熱源iから供給する熱量と熱費Ctとの関係、及び上記異常熱量Qpecに基づいて、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量Qreqに一致し、且つその熱を供給する熱源全体の熱費Ctが最小となるように、各熱源iから熱を供給する配分が決定される。このため、異常熱源が生じた場合であっても、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量Qreqを供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0154】
・車両の車室内に供給される熱量に基づいて、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量Qrealが算出される。すなわち、異常熱源が生じた場合に、複数の熱源から熱交換部へ実際に供給される熱量の合計(実熱量Qreal)が算出される。ここで、異常熱源を除く熱源は配分された熱量を熱交換部へ供給するため、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を算出することができる。したがって、上記実熱量Qrealから、異常熱源を除く熱源から熱交換部へ供給される熱量の合計を引くことにより、上記異常熱量Qpecを算出することができる。
【0155】
・熱源から供給する熱量と熱費Ctとの関係を取得することのできない熱源を異常熱源として検出している。したがって、熱源から供給する熱量と熱費Ctとの関係を取得することのできない熱源が生じた場合であっても、その熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0156】
・熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を異常熱源として検出している。このため、熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。さらに、異常熱源から供給する熱量を所定の一定値(例えば0)に決定し、異常熱源が供給する異常熱量Qpecを0として算出するといった構成を採用している。すなわち、異常熱源から供給する熱量が所定の一定値に決定されるため、異常熱源から供給する熱量を算出する処理負荷を軽減することができる。
【0157】
・車両にはバッテリ43が搭載されており、複数の熱源は、電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源(ヒートポンプシステム30)を含み、バッテリ43からヒートポンプシステム30へ電力を正常に供給できない場合に、ヒートポンプシステム30を異常熱源として検出している。したがって、バッテリ43から電動熱源へ電力を正常に供給できない場合であっても、電動熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。さらに、ヒートポンプシステム30から供給する熱量を0に決定し、異常熱源が供給する異常熱量Qpecを0として算出している。これにより、ヒートポンプシステム30から供給する熱量が0にされるため、バッテリ43の残量を増加させたり、温度を適正範囲に近付けたりすることができる。
【0158】
・熱源から供給される熱量の大きさが異常である熱源を異常熱源として検出している。すなわち、熱源から供給される熱量の大きさが、種々の原因により正常な範囲から外れた場合には、その熱源を異常熱源として検出する。この場合であっても、正常な熱量を供給できない熱源を異常熱源として処理して、複数の熱源全体で消費される燃料量を抑制することができる。
【0159】
・各熱源iにおいて熱を供給するために消費される燃料量Fi(Qi)を熱量Qiの関数として、熱量Qiの関数を熱量Qiで微分した微分値である熱量増分燃料量dF/dQが算出される。各熱源iの熱量増分燃料量が互いに一致した状態は、消費される燃料量をそれ以上減少させることができない状態である。したがって、その状態を形成するように各熱源iの供給負荷配分を決定することにより、複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。
【0160】
そして、複数の熱源から供給される熱量の合計が要求熱量Qreqに一致し、且つ各熱源iの熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源iから熱を供給する配分が決定される。このため、複数の熱源から熱交換部へ要求熱量Qreqを供給することができるとともに、複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。さらに、各熱源iの最適な供給負荷配分を決定する上で、その組み合わせを総当りで演算する必要がないため、演算負荷の増加を抑制することができる。
【0161】
・各熱源iにおいて熱量Qiと熱量増分燃料量との関係である熱量関係が算出される。このため、熱量増分燃料量を各熱源iで互いに一致させて変更する場合に、各熱源iにおいて熱量関係に基づき熱量増分燃料量に対応する熱量Qiを算出することができる。そして、その各熱源iの熱量Qiの合計が要求熱量Qreqに一致するように、各熱源iから熱量を供給する配分が決定されるため、演算負荷の増加を更に抑制しつつ、複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。
【0162】
・各熱源iにおいて供給可能な熱量Qiの上限値Qimaxが設定され、熱量増分燃料量が各熱源iで互いに一致させられて増加されつつ、各熱源iにおいて熱量関係に基づき熱量増分燃料量に対応する熱量Qiが算出される。そして、その熱量Qiが上限値Qimaxに達した熱源iにおいては供給する熱量Qiが上限値Qimaxとされ、その他の熱源jで消費される燃料量Fj(Qj)が最も少なくなるように、各熱源jから熱量を供給する配分が決定される。
【0163】
すなわち、供給する熱量Qjが上限値に達していない熱源jにおいては、各熱源jの熱量増分燃料量が互いに一致させられて増加される。そして、それらの熱源jから供給される熱量Qjと、供給する熱量Qiが上限値Qimaxに達した熱源iの熱量Qiとの合計が要求熱量Qreqに一致するように、各熱源i,jから熱量Qi,Qjを供給する配分が決定される。したがって、供給する熱量Qjが上限値に達していない熱源jで消費される燃料量Fj(Qj)を最も少なくすることができ、ひいては複数の熱源全体で消費される総消費燃料量fを最も少なくすることができる。
【0164】
・車両に搭載されたエンジン10の運転状態に応じて、各熱源iにおける上記熱量関係が算出される。このため、その時々のエンジン10の運転状態に応じて、各熱源iから熱量Qiを供給する配分を適切に決定することができる。
【0165】
・複数の熱源は、車両に搭載されたエンジン10の冷却水を介してヒータコア23へ熱を供給するエンジン10の熱創出制御を含み、エンジン10には、冷却水を吐出する電動ポンプ22が搭載されている。そして、熱創出制御から供給される熱量に基づいて、電動ポンプ22による冷却水の吐出量が制御されるため、ヒータコア23へ供給される熱量を適切に制御することができる。
【0166】
上記実施形態に限定されず、例えば次のように実施することもできる。
【0167】
・上記実施形態では、冷却水の温度に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、冷却水から供給される熱量の大きさが異常であると判定した。また、ヒートポンプシステム30の駆動状態に基づいて算出される車室内への供給熱量と、空調風の情報から算出される車室内への供給熱量との相違(差や比率)が所定度合よりも大きい場合には、ヒートポンプシステム30から供給される熱量の大きさが異常であると判定した。
【0168】
しかしながら、各熱源が供給している熱量を通知する機能を有する場合には、その通知される熱量に基づいて熱量の大きさが異常であるか否か判定してもよい。具体的には、通知される熱量の大きさが所定範囲外である場合、通知される熱量が急変した場合、通知される熱量と消費燃料量又は消費電力との比率が所定範囲外である場合等に、熱量の大きさが異常であると判定することができる。
【0169】
・上記実施形態では、ヒートポンプシステム30(異常熱源)から供給する異常熱量、及び冷却水(異常熱源)から供給する異常熱量のいずれか一方を0としたが、冷却水及びヒートポンプシステム30のいずれか一方のみでは、要求熱量を供給できない場合には以下のようにするとよい。すなわち、バッテリ43の残量が所定量よりも少なくないことを条件として、冷却水からは供給することのできる最大の熱量を供給し、ヒートポンプシステム30から供給する熱量を、要求熱量から同最大の熱量を引いた熱量とする。この場合であっても、それらの熱源から供給する熱量を最適化する演算よりも処理負荷を軽減することができる。なお、要求熱量に対して、冷却水から供給することのできる最大の熱量が不足している場合には、上述した熱創出制御を実行するとよい。
【0170】
・異常熱源から供給する熱量を所定の一定値に決定し、異常熱源が供給する熱量である異常熱量を上記一定値として算出する際に、異常熱源が供給することのできる最大値や要求熱量を上記一定値として採用することもできる。その際、最大値及び要求熱量のうち小さい方の値を採用するとよい。
【0171】
・図4のS101〜S104の処理において、複数の処理に対して同時にS17の処理を実行してもよい。
【0172】
・ヒートポンプシステム30に代えて、PTCヒータを採用してもよい。この場合には、PTCヒータに供給する電力と、PTCヒータから供給される熱量とが等しいと考えることができるため、PTCヒータについて熱費等を求める演算が容易となる。また、複数の熱源の数は、任意に設定することができる。
【0173】
・点火時期の制御に代えて燃料噴射時期を制御することにより、ディーゼルエンジンに具体化することもできる。
【符号の説明】
【0174】
10…エンジン、23…ヒータコア、30…ヒートポンプシステム、37…室内熱交換器、41…発電機、43…バッテリ、51…エネルギ制御装置、52…エンジン制御装置、53…発電制御装置、54…空調制御装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された複数の熱源から熱交換部への熱供給を制御する熱源制御装置であって、
前記複数の熱源から前記熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量を算出する要求熱量算出手段と、
各熱源について、供給する熱量と、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費との関係を算出する熱費算出手段と、
各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源を検出する異常熱源検出手段と、
前記異常熱源が供給する熱量である異常熱量を算出する異常熱量算出手段と、
各熱源から供給する熱量と前記熱費との関係、及び前記異常熱量に基づいて、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する熱量配分決定手段と、
を備えることを特徴とする車両の熱源制御装置。
【請求項2】
前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定することを特徴とする請求項1に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項3】
前記車両の車室内に供給される熱量に基づいて、前記複数の熱源から前記熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量を算出する実熱量算出手段を備え、
前記異常熱量算出手段は、前記実熱量から、前記異常熱源を除く熱源から前記熱交換部へ供給される熱量の合計を引いて、前記異常熱量を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項4】
前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量と前記熱費との関係を取得することのできない熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項5】
前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項6】
前記車両にはバッテリが搭載されており、
前記複数の熱源は、電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源を含み、
前記異常熱源検出手段は、前記バッテリから前記電動熱源へ電力を正常に供給できない場合に、前記電動熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項7】
前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給される熱量の大きさが異常である熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項8】
各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として、前記熱量の関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量を算出する熱量増分燃料量算出手段を備え、
前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く各熱源の前記熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源から熱を供給する配分を決定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項1】
車両に搭載された複数の熱源から熱交換部への熱供給を制御する熱源制御装置であって、
前記複数の熱源から前記熱交換部へ供給されるように要求される要求熱量を算出する要求熱量算出手段と、
各熱源について、供給する熱量と、単位熱量を供給するために消費される燃料量である熱費との関係を算出する熱費算出手段と、
各熱源のうち熱を正常に供給できない異常熱源を検出する異常熱源検出手段と、
前記異常熱源が供給する熱量である異常熱量を算出する異常熱量算出手段と、
各熱源から供給する熱量と前記熱費との関係、及び前記異常熱量に基づいて、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つその熱を供給する熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定する熱量配分決定手段と、
を備えることを特徴とする車両の熱源制御装置。
【請求項2】
前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く熱源全体の前記熱費が最小となるように、各熱源から熱を供給する配分を決定することを特徴とする請求項1に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項3】
前記車両の車室内に供給される熱量に基づいて、前記複数の熱源から前記熱交換部へ実際に供給される熱量の合計である実熱量を算出する実熱量算出手段を備え、
前記異常熱量算出手段は、前記実熱量から、前記異常熱源を除く熱源から前記熱交換部へ供給される熱量の合計を引いて、前記異常熱量を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項4】
前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量と前記熱費との関係を取得することのできない熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項5】
前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給する熱量を算出する処理負荷が所定よりも大きい熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項6】
前記車両にはバッテリが搭載されており、
前記複数の熱源は、電力を熱に変換してその熱を供給する電動熱源を含み、
前記異常熱源検出手段は、前記バッテリから前記電動熱源へ電力を正常に供給できない場合に、前記電動熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項7】
前記異常熱源検出手段は、前記熱源から供給される熱量の大きさが異常である熱源を前記異常熱源として検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【請求項8】
各熱源において熱を供給するために消費される燃料量を熱量の関数として、前記熱量の関数を熱量で微分した微分値である熱量増分燃料量を算出する熱量増分燃料量算出手段を備え、
前記熱量配分決定手段は、前記複数の熱源から供給される熱量の合計が前記要求熱量に一致し、且つ前記異常熱源を除く各熱源の前記熱量増分燃料量が互いに一致するように、各熱源から熱を供給する配分を決定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両の熱源制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−140111(P2012−140111A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−944(P2011−944)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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